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はじめまして

 はじめまして。

 しづ と申します。
 薪さんに幸せになって欲しいと、こころから願う腐女子です。


 以下、このブログについての説明、注意事項等を記載しますので、初めての方は必ずお読みになってください。

 
 なお、当ブログは秘密二次創作(腐向けギャグ小説)専門サイトです。 
 原作に関する感想・レビュー等はございません。
 二次創作に不快感のある方、原作の世界観を大切になさりたい方は、ご遠慮いただいた方が無難かと思われます。

 管理人の原作に対する意見は、時折コメント欄で語っております。
 図らずもネタバレになっておりますので、ご了承ください。

 



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九つの魔法(5)

 こんにちは。

 一部の方々に多大なご心配を掛けてしまったみたいで、なんかすみません。
 しづは元気です。ご安心ください。

 言われてみれば、
 春に更新止まったのって、初めてかも。
 仕事は忙しくないのだけど、実は4月から現場が遠くて、毎朝5時起きなのよ~。
 帰りも遅いから、台所片づけると10時過ぎちゃう。
 今日みたいな雨の日も、土曜日も仕事なので、日曜日はぐったりしてしまって…年だねえ。

 コメントくださった方、ありがとうございました。
 お気持ち、とっても嬉しかったです。

 後ほど、お返事いたしますが、先にご挨拶だけ、ていうか、あれっ!? 以前のコメント、そのままじゃない?!
 どひゃー、返したつもりになってたよー。ごめんね! 

 ちゃんとします、ごめんなさい。
 とりあえず、お話のつづきです。(更新するんかい) 





九つの魔法(5)
 



 魔法その5  酒 (定例会)




「仙台支局に杜氏の息子がいましてね。その父親のお勧めだそうです」

 剛腕に抱かれた4合瓶に、薪の眼が吸い寄せられた。白い不織布に包まれた透明度の高い緑色の瓶には純米吟醸と書かれたラベルがあり、「伯楽星」という文字が行書体で書いてある。いかにも名酒っぽい。
「食事をしながら飲むならこれだって」
「どれどれ。――うん、本当だ。美味い」
 キャップを開けてぐい呑みに注ぎ、まずは一口。途端にほころぶ薪の顔に、岡部も釣られて笑顔になる。
「そうですか。よかったです」

「いつも悪いな、岡部」
「いいえ。その分、夕飯をごちそうになってますから」
「そんなの気にしなくていいのに」
 美味そうに杯を傾け、くいと飲み干して、薪はふいに青木の方を見た。
「おまえは働けよ? タダ飯食っていくんだから」
 差がありすぎる。なんか切ない。

 いや、理由は分かっている。岡部は第九の副室長。普段から薪のサポート役として業務全般を支えている。もちろん捜査官としての経験も実力も、青木はてんで敵わない。しかも薪との付き合いは青木よりも長いのだ。
 一昨日解決した事件も、決め手となった画を見付けたのは岡部だった。犯人の衣服に、犯行時の飛沫血痕を見つけたのだ。
 画面上では2ミリほどの大きさの、普通ならば見逃してしまうシミを、現場経験の長い岡部だからこそ見付けられたのだと思う。凶器を見ればどの辺りに血が飛ぶのか、あるいは犯行の痕跡を消そうとする犯人が見落としやすい場所はどこか、岡部には一目で分かるのだ。さすが元捜査一課のエースだ。

 薪を一番喜ばせること、それは質の良い仕事だ。事件を早期解決し、次なる被害者を生まないこと。どんな魔法も、それを超えることはできない。
 一番の魔法は、青木にはまだ使えない。口惜しいが仕方ない。

 そんなことを考えながら飲んでいたせいか、その日は少しだけ、岡部に絡んでしまった。
「ズルいですよ、岡部さんは。オレだってあと十年早く生まれてたら、もっと薪さんと」
 いつものように眠ってしまった薪をベッドに運び、リビングに戻ってきた岡部に、青木は訴えた。「なんだなんだ」と頭を小突かれ、子ども扱いにムッとする。むくれた側から気付いた、こういうところがダメなんだ、きっと。
「最近は上手く行ってるんだろ? こないだ青木と一緒に水族館に行ってきた、って楽しそうに話してたぞ」
 なにが不満なんだ、と訊かれれば、青木は言葉を持たない。秘密だけど、薪と付き合っている。彼のプライベートを独占している。彼の身体の隅々まで、知らない場所は無いくらい。でもそういうことではないのだ。

「岡部さんみたいに、薪さんに信頼して欲しいんです」
「信頼してるさ。ていうか、あの人は自分の部下や同僚を無条件で信じるタイプだぞ」
「知ってます。だけど、岡部さんは特別ですよね」
「何言ってんだ。おまえこそ」
 その先は言わずに、岡部は冷酒のコップを傾けた。酒豪の岡部はぐい呑みや猪口は面倒だからと使わない。家飲みではいつもコップ酒だ。

「岡部さんの魔法は確かに強力ですけど、オレにだって魔法は使えます」
「あ?」
「薪さんが喜んでくれる魔法……オレだって」
「青木? おい、青…寝たよ。俺一人で片付けるのかよ、これ」
 しょうがねえなあ、とブツブツ言いながら、岡部が立ち上がる気配がした。カチャンカチャンと食器が触れ合う音がして、ああ、手伝わなきゃ、と思ったが、手足が重くて動かせなかった。

 そのうち、ふわりと背中に毛布が掛けられた。あんなに仕事ができて、周りの人にもやさしいなんて。やっぱり岡部さんはズルい、と青木は思った。


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

九つの魔法(4)

 こんにちは。
 昨日からやっと現場始まりまして、今日は不断水工事がありまして、(二日とも雨だよ、誰だよ雨男!)
 現場に詰めております、しづです。

 お話の続きです。
 あと、
 AさんとSさん、遅くなりまして申し訳ございませんっ。
 お約束のもの、公開にしてありますので、一読されたら連絡ください。
 ご挨拶が当時のままですがお気になさらず、内容もあまりお気になさらず、
 さらっと読み流してくださいねっ。くれぐれも、スクショとかしないでくださいねっ。
 よろしくです。

 



九つの魔法(4)



魔法その4 ホテル


 泡まみれの恋人が、青木の腕の中でまどろんでいる。

 口当たりの良い酒だったから、するする飲めてしまった。家に帰るのが面倒になったから泊って行こう、とそこまでは計画通り、しかしこの眠気は計算外だ。まだ10時前なのに、ふろ、と青木に命じた側から薪は船を漕いでいた。
 ホテルのバスはデコラティブな泡風呂で、備え付けの泡入浴剤を使うとバスタブ一杯のモコモコ泡に青や緑の花びらが浮く。シャワーで撹拌すれば、部屋中に広がるスイートジャスミンの香り。
 二人で戯れたら楽しそうだと思ったが、当の薪が眠ってしまっては仕方ない。くたりとした薪の身体を泡の中で洗ってやって、バスタブでしばらく温まって、シャワーで流して外に出た。着替えを持っていなかったからバスローブを着て、そのまま眠った。ツインの部屋を取ったからベッドも別々だったが、その方が薪は安眠できるはずだ。
 青木はそれでも十分楽しかった。でも、翌朝の薪は不機嫌だった。

 低血圧の薪は、起き抜けはいつも機嫌が悪いが、コーヒーを飲んで半時間もすれば、眉間の皺は消えるはずだった。それが1時間経ってもむっつりと黙り込んだまま。沈黙に耐え切れなくなって、青木は恐る恐る聞いた。
「あの。なんで怒ってるんですか」
 青木の問いに、薪は亜麻色の眼をいっそう吊り上げて、
「どうして起こさなかった。せっかくの泡風呂だったのに、記憶にないなんて」
 それが悔しいんですね。
「すみませんでした。でも、起こしたら薪さん怒るでしょう?」
「当たり前だ」
 そこは否定しないんですね。
 蓋を開けてみたらなんてことはない。余裕でフォローできる範疇だ。

「じゃあフロントに頼んで、泡風呂のセットをもう一つ、譲ってもらいましょう。朝ごはんの後で使ってください」
「もう9時だぞ?」
「このホテル、レイトチェックアウトのサービスがあって。フロントに言えば、部屋は12時まで使えます」
「……おまえは本当に用意周到だな」
「お褒めにあずかり光栄です」
 フロントには朝食の帰りに寄ることにして、レストランのある1階に下りた。

 朝食は、薪の好きな和食にした。朝が早いと米粒が喉を通らない薪だが、これくらいの時間なら大丈夫だ。それにホテルの洋食は、バターやミルクをたっぷり使ったメニューが多い。乳製品の苦手な薪には鬼門だ。だから青木は必ず、和食メニューのあるホテルを探すことにしている。
 かように、計画に不備は無いと思われたが、薪の箸の進みは良くなかった。昨夜の酒が残っているのかもしれない。
「薪さん、大丈夫ですか? ごはん、お粥に替えることもできますよ。梅干しと、あ、お味噌汁も二日酔いに効くって」
「二日酔いなんかしてない。ただ朝だから」
 お腹が空いて目が覚める青木と違って、薪は朝食を抜いても寝ていたいタイプ。それどころか、夕飯があまりにも遅くなると何も食べずに寝てしまう。青木には絶対に真似できない。
 結局薪は、朝食膳の半分も食べなかった。献立内容も味も悪くなかったと思うが、残念だ。勿体ないので、残りは青木が引き受けた。

「よく朝からそんなに食えるな」
「この牛そぼろが美味しくって。ごはんもう一杯だけお代わりしてもいいですか」
 毎朝これだけは欠かせない食後のコーヒーを、さして美味くもなさそうに飲みながら、薪がこちらを見ている。青木の食欲に呆れている様子だ。
 薪とは食べる量が違うから、大抵は薪の方が早く食べ終わる。その後はこうして、青木を見ていることが多い。その眼差しは、今日のように微かな侮蔑を含んでいたり、自分とは違う生き物を見るかのように不思議そうだったり、あるいは逆に羨ましそうだったりと、その日の気分によってまちまちだが、薪はいつも青木を見ている。
 その理由は多分あれだ、テレビでたまにやってる大食いの人がひたすら食べる番組。面白くはないけどついつい見ちゃう、あの心理だ。
「はー、美味しかった。ごちそうさまでした」
 二人前の朝食を完食し、青木はきちんと手を合わせた。向かいで薪もカップを下ろす。カップの中にはコーヒーが3分の1くらい残っていた。

 朝食の後、フロントへ向かった。泡風呂のセットを購入するためだ。薪が気に入ったら自宅用にいくつか買って行ってもいいな、そうしたら家でも泡プレイが、などとウキウキしながら歩く青木を、薪の声が止めた。
「やっぱりいい」
「え」
「少し疲れた。家に帰りたい」
 着の身着のままで来たから部屋には何も置いてない。このままチェックアウトしても構わないが。
 薪と泡風呂を楽しめると、青木自身期待していたのだ。キャンセルは悲しい。ていうか、シタゴゴロを見抜かれましたか?

「薪さん。オレ、なにか気に障ることしましたか」
「いや」と薪は即座に首を振った。何の説明もないまま、ホテルを出ていってしまう。青木は急いで部屋のカードキーをフロントに返し、薪の後を追いかけた。
 ホテルの玄関で、薪に置いてきぼりにされたかも、と不安でいっぱいになりながら周りを見渡した。それは杞憂で、薪はすぐに見つかった。彼は玄関の支柱の横で、空を流れる雲を見ていた。

 帰りましょうか、と声を掛けると、薪は無言で駅の方へ歩き出した。
 青木は周囲に気を配りながら、薪に並んで歩く。青木は薪のボディガード。プライベートでも気は抜けない。
 日曜日の朝10時、デパートの入口に列を作る人々を追い越し、賑やかに話をしながら歩道いっぱいに広がって歩いてくる3人組のお嬢さん方をやり過ごす。

 再び歩き出しながら、薪が言った。唐突な言葉だった。
「失敗してもいい」
 え。オレ、なにかやっちゃいました?
 心当たりがまるで無くて、おどおどと視線を返した青木に、薪は深く頷いた。
「おまえと一緒に入ったレストランが僕の嫌いなものばかりで、僕は何も食べるものが無くて、お腹が空いた僕はおまえに当たり散らす。僕はそれでもいいんだ」
 オレは嫌です。

 怒った薪は怖い。一日中皮肉を言われるとか仕事で苛められるとか、もっとひどい時は口を利いてくれなくなるとか、次の休みに会ってくれないとか、うん、最後のが青木的には一番きつい。
 そんなことにならないために、青木は一生懸命なのだ。なにより、薪に不快な思いをさせたくない。普段から多大なストレスに晒されている彼に、休みの日くらいはただの一つもストレスを与えたくないのだ。

「おまえが予約したホテルがまさかのダブルブッキングで、僕たちは泊るところを探して夜の街を彷徨って、でも見つからなくて漫喫で夜を明かしたりとか」
「そんなことになったら1週間は口利いてくれなくなりますよね? オレのケータイ、着信拒否にするでしょう?」
「うん。する」
 即答ですか。
「でも、いいんだ」
 ちっともよくありません。

 青木がすごく困った顔をすると、薪はいくらか頬を緩めて、
「まあ、そういうわけだから。おまえも肩の力を抜け」
 そう言って笑った。
 なんだかよく分からないが、とりあえず機嫌は直ったらしい。本当に難しい人だ。

「家に帰ったらコーヒー淹れてくれ。それから」
 ちらっと青木を見上げる。少し意地悪そうな顔つき。
「昨夜の分。な?」
「はいっ」
 これ多分アレだ、そっちのことだと喜んだら風呂の話だったとかそんなんだ、きっと。青木だってバカじゃない、何度も何度も引っ掛けられればさすがに学習する。

 だけどいいんだ。
 そう思ったら少しだけ、薪の気持ちが分かったような気がした。



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

九つの魔法(3)

 こんにちは~。
 竣工書類を作り終えてから更新するつもりでしたが、変更設計書が来なくて書類が作れません…現在、お仕事、手待ち状態です。
 なので、先に更新します。よろしくです。(*‘∀‘)


 
九つの魔法(3)




魔法その3 水族館


 どこからか、ハーブの良い香りがする。
 そう思いながら青木は紙箱の蓋を開け、念願のカツサンドを頬張った。ソースの匂いにハーブの香りは消え失せたが、むしろ満足だ。何ならハーブよりもソースの方がいい匂いだと、個人的には思うけど他人には言わないでおこう。
 M泉のヒレカツサンドは青木の大好物だ。M泉の本店は青山だが、ソラマチに支店がある。スカイツリー様様だ。

「これも食うか」
 そう言って薪が、サンドイッチの箱を青木の方へ寄越した。
「食べないんですか?」
 こくんと頷いた薪のサンドイッチは未開封のままで、もしかしたら先刻のシュークリームがまだ消化しきれていないのかもしれない。薪は小食で、普段から少ししか食べられないのに、消化まで遅いなんて。可哀想に。

 青木は薪の軟弱な胃に同情したが、本人はまったく気にならないようで、その瞳は青木の手に渡ったサンドイッチに向けられることはなく、ひたすら、水槽の中を泳ぐ海洋生物たちに向けられている。
 柔らかなカツを堪能しながら、青木もまた前方の水槽を眺めた。巨大なシャーレ型の水槽に満たされた水は青白く光っている。その中に、半透明のクラゲの群れがふわりふわりと浮いていた。水槽の下にはライトがあり、所々で赤や緑にドレスアップしたクラゲたちが、こちらは優雅に舞っている。実に幻想的な眺めだ。
「見事ですね」
「…ああ。見事な食欲だな」
 皮肉られた。

 ここに落ち着くまでに、ペンギンやらオットセイやらのエリアで散々足止め、いや、観覧に時間を掛けた。だから青木は飢え死に寸前でサンドイッチにありついたわけだが、薪は付け合わせにと買ったパプリカのピクルスをちょっと齧っただけで、それもこちらに寄越してしまった。
「薪さんが小食すぎるんですよ」
 とても人間とは思えない。仙人のように霞でも食べて生きているのだろうか。それともどこぞのロボットみたいに、空気中の水素を取り入れて水素エネルギーで動いてるとか。
「だれがロボだ」
 うん。やっぱり仙人だな。

 薪は時々こうやって、青木の心を読むから怖い。だから浮気なんか絶対にできない。する気もないけど。
 だって薪は誰よりもきれいで可愛くて、いっそ人間と言うよりは幻想世界の生き物に近い気がするのだ。
 その証拠にほら、みんな見惚れてる。
 青木に呆れて席を離れた薪は、シャーレ型水槽の上に張り出した観覧台に上り、手すりにもたれて下方を見下ろしている。クラゲたちの織り成す夢幻をやさしく見守る姿は、まるで幻想世界の神のよう。

 と、その神に気安く話しかける男が現れ、青木のテンションは一気に落ちた。
「この水族館には、バーがあるんですってね。行ってみませんか」
 明らかにナンパ目的の言葉に、青木は慌てて席を立つ。
 一人にするとすぐこれだ。おちおち食事もできない。
「すみません、僕もここは初めてで。バーの場所は分からないんです」
 この人は道を訊かれてると思ってるし。
「ボク? あ、失礼。男の人だったんですね」
「は?」
「いや、あんまりきれいだから、てっきり」

「バーならあの階段を上がって右側にありますよ」
 男の言葉を遮り、青木は二人の間に割って入った。男は会話に割り込まれたのが面白くないような顔をしたが、むしろ感謝してほしい。あのまま会話が進んでいたら、今頃この男はクラゲたちと一緒に水槽に浮かんでいたに違いない。
「ちなみに、バーじゃなくてカフェですけど」
 青木が自分の身体の後ろに薪を匿うようにすると、関係を察したらしい男は、少々複雑な顔をしつつも教えられた方向へ歩いて行った。
「助かった」と薪が笑った。自分の代わりに道を教えてくれたと思っているのだ。

 観覧台に上がってきたカップルに場所を譲り、階段を下りながら薪は呟いた。
「やっぱり、パンフレットは見ておいた方がいいのかな」
 先入観を持つのが嫌だから、と薪はパンフレットの類をほとんど見ない。映画でも、レジャーランドでもそうだ。情報を仕入れるのは専ら青木の役目で、例えばこの水槽には約500匹のクラゲがいるとか、カフェのお勧めカクテルはLED入りの氷を浮かべた光るオレンジリキュールだとか、パンフレットに明記されていることプラスアルファの勉強はしてきている。が、その努力は必ずしも役に立つわけではない。訊かれれば答えるが、青木は相手が興味を示さないことを長々と語ったりはしないからだ。
 自分の努力が日の目を見ることを、青木は望まない。なぜなら青木は警察官だからだ。警察の仕事はそんなことばっかりだ。常日頃から準備は怠らず、けれども役に立たないに越したことはない。何も起こらないことが一番良いのだ。

「大丈夫ですよ。パンフレットはオレが持ってますから」
「でも、道を訊かれて答えられないのは、警察官としてちょっと」
 だから道を訊かれたわけじゃないんですってば、明らかにナンパじゃないですか、なんで分かんないんですか、バカなんですか。
 思ったことを口に出すわけにもいかず、青木は薪の隣を歩きながら、できるだけ婉曲な言い方を探す。
「あの人は、薪さんを警官だと思ってカフェの場所を尋ねたんじゃないと思いますよ。制服を着てれば分かったでしょうけど、私服ですし」
 制服を着ていてさえ一般人にはコスプレだと思われていることは本人だけが知らない事実だが、それは置いといて。ていうか、カフェの場所なら店員に訊くよね、普通。

「ですから、お休みの時まで公僕の精神を発揮されなくても」
 気を使って青木は言ったのだ。それなのに薪ときたら。
「ふ。バカだな、おまえは」
 青白い光に照らされて、いっそ妖艶に微笑むと、
「制服なんか必要ない。僕くらいになると、どんな服装をしていても警察官だと分かるんだ。つまり、オーラってやつだな」
「……へー」

「僕も意識してるわけじゃないんだけど、ついつい滲み出しちゃうんだ。警察官は僕の天職だからな」
 そうなんですかー。それでよく囮捜査ができますねー。
「見抜けないのはよっぽどの間抜けか、子供くらいのものだ」
 そうですかー。世の中、間抜けと子供しかいないんですねー。
「本当だぞ。着ぐるみ着てたって分かる人には分かるぞ」
「三船千鶴子とか、サイキクスオとかですか」
「三船千鶴子は知ってるけど、もう一人は知らん。だれだ?」
「オレもよくは知らないんですけど」

 くだらない会話を楽しみながら隈なく館内を回り、閉館まで後20分という頃合いを見計らって、青木は切り出した。
「たくさん歩いたら疲れましたね。喉も乾いたし。近くに夜景のきれいなホテルがあるんですけど、そこのラウンジで一杯どうですか」
 大水槽にへばりついて、イワシの群れが一斉に方向転換を繰り返す様を熱心に見ていた薪は、胡乱そうな眼で青木を見上げた。それはイワシたちに向けていたキラキラ眼とは雲泥の差があって、青木は計画の頓挫を覚悟したが。
「ホテルのラウンジ…」
「あ、や、違いますよ。部屋とか取ってませんから」
 本当は押さえてある。でもこれは一応、念のためだ。最初からそんなつもりでは、うんでもまあ連休だしちょっとは期待してたけど薪さんが嫌ならそれはそれで、……はあ。

「さっきの男と変わらんな」
「はい?」
「いや。――そこ、日本酒あるんだろうな」
「はい、もちろんです」
 薪の好みは承知している。この人は見た目より中身、オシャレな店より旨い店、どちらかと言えば和食党、よってカクテルより日本酒だ。
「新潟の酒蔵から直接仕入れてて、お勧めは久保田の純米大吟醸です」
「! よし、行くぞ」
 振り返った薪の眼はキラキラしていた。イワシを見てた時より2割増しで。
 苦笑しつつも後に従う。薪が笑ってくれるなら、なんでもいいのだ。

 思い出したように薪が立ち止まった。肩越しに青木を見て、ふわっと笑う。
「面白かった。また来ような」
「はい」
 出口へ向かう2人の後ろで、イワシの群れが一斉に翻った。


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

九つの魔法(2)

 冒頭のご挨拶が、またもや「ご無沙汰しております」になってしまいました。
 今年はなんだかね~、入札ラッシュなんです。先月も1件落札して、今月も1件決まったの~。おかげでずーっと、積算→入札→契約→着工書類→積算に戻る のルーティン。4月~8月までで元請工事3件。事務員、わたししかいないのに、(しかもうち1件は自分が現場代理人)完全にキャパを振り切ってます(@@;) 今朝も朝の6時から雨天時現場パトロールですよ。(工事中は道路に穴を開けてるので、悪天候時はパトロールを行います。日曜でも夜間でも、雨が降れば行くしかない) 疲れました~。
 去年がすごく悪かったので、今年はその分、来てるのかな、とも思いましたが、
 現場があまりよくない。正直、利益率の悪そうな現場ばかり。来年も憂鬱な決算書になりそうです。( ノД`)シクシク…

 それとは別に、わたしの近況ですが(あ、いらねーですか? でも楽しかったの、ちょっと喋らせて)
 8月11日に松戸市民会館で行われた、梨ミーティングに行ってまいりました!
 8月15日の朝、「スッキリ」という番組でも紹介されたんですよ~。ふなっしーさん、活動(降臨)10周年なんです。
 帰りに、船橋の東武百貨店の展示会も観てきました。こちらは津田沼パルコと違って無料イベントなので、あまり期待していなかったのですが、とても良かったです。かなり力入ってました。ふなっしーさんの「10年前の自分へ」のビデオレター、2回も観ちゃいました。(#^.^#)

 そんなわけで、梨三昧の日々を送っております。(^^♪
 ……あれ? 仕事は?
 




九つの魔法(2)




魔法その2 コーヒー



 青木がゆっくりとハンドルを回すと、ゴリゴリといういささか無粋な音と共に、コーヒーの馨しい香りが漂い始めた。
 その香りに釣られてか、薪がキッチンに顔を出した。シュークリームを載せる皿を用意して、しかしリビングには戻らずに、青木の向かいに腰を下ろす。ダイニングテーブルの上に頬杖をついて、まるで眠るように目を閉じた。

「いい匂いだな」
「焙煎したての豆ですから」
 コーヒーの香りが一番強くなるのは、お湯を注ぐ抽出時ではなく、豆を挽く時だ。急ぎの時にはコーヒーメーカー付属の電動ミルを使うが、今日のような日は手動のミルを選びたい。時間も手間も掛かるが、その過程を楽しむことができる。コーヒー好きにはたまらない時間だ。
 挽き終えた豆をフィルターにセットする頃には、部屋中がコーヒーの香りに満たされている。そっとフィルターに湯を垂らせば、甘い香りの湯気が立ち昇る。香りの癒し効果は絶大で、息を吸い込むたびに薪の顔つきがやさしくなっていく。薪にとってはアロマテラピーのようなものなのだろう。

 青木がまだ彼に片思いをしていた頃、とにかく彼の喜ぶ顔が見たくて、彼の好みを必死に調べた。薪が一番喜ぶのは青木が立派な捜査官になることなのだが、その頃の青木は嘴に殻の付いたヒヨコ状態で、岡部からは「おまえなら10年も頑張れば一人前になれるさ」と言われたが、とても待てなかった。一人前になって薪にまともな口を利いてもらえる頃には、薪に小学生の子供がいるかもしれない。年齢的にも世間的にも普通のことだが、その頃の青木には、それはとても悲しいことに思えた。
 岡部に教えてもらった正攻法はきっちり抑えるとして、裏技攻略法も必要だと考えた。そこで薪の旧友の女性から、リベート(主に食事)と引き換えに薪の情報を仕入れたのだ。薪がコーヒー好きだと言うのも、彼女からのリークだ。
 それまでコーヒーメーカーでしかコーヒーを淹れたことがなかった青木は、必死でコーヒーの勉強をした。豆の選び方から挽き方、ドリップ技術。ブレンドも研究に研究を重ねて、やっと薪好みの味を出せた時には、人生史上最高に嬉しかった。その少し前に青木が大金星を上げた事件解決の感動が薄れたくらいだ。
 今ではすっかり第九のバリスタに収まった青木だが、本音ではこうして薪専属のバリスタで居られる時が一番幸せなのだ。

 白と水色、色違いのペアカップにコーヒーを注ぎ、青木がリビングに運ぶ。薪がシュークリームを冷蔵庫から取り出して、楽しいティータイムの始まりだ。

「やっぱりシュークリームはPPですね」
 しばらく前から食べたかったお目当てのお菓子に、青木は大満足だ。1つ目を3口で食べて、間髪入れず2つ目に手を伸ばす様子を、薪が呆れた顔で見ている。箱を開けた薪に「どうして4つもあるんだ」と真顔で訊かれたけれど、青木の皿に3つ載ってくるとは思わなかった。2つずつの計算だったのに、譲ってくれたのだ。視線は冷たいけれど、薪はやさしい。

「こんなに甘いものを、飲み物なしでよく食べられるな」
 コーヒーを飲んでしまったら、せっかくのクリームが洗い流されてしまう。逆に、もったいないと思う。
 そう言うと、薪は一層呆れた顔になって、
「いいから口の周りを、……顔、洗ってこい」
 頭を抱え込む勢いで言われた。
「そんなにあちこち付いてます?」
 青木が尋ねると、薪は無言で手鏡を掲げた。用意のいい人だ。
「どんな食べ方したら鼻の頭にクリームが付くんだ。おまえは犬か」
 すごくすごく食べたかったから、つい焦ってしまった。いい大人なのに、これはちょっと恥ずかしい。
「子供だってもう少しきれいに食べるぞ」
 いや、そんなことはない。青木には4つになる姪がいるが、口の小さな子供にはシュークリームは食べるのが難しいらしく、顔や手はもちろん、テーブルから洋服からクリームだらけだ。青木がそう主張すると、「幼稚園児と比べるな」と怒られた。…ごもっとも。

 全面的に非を認めて、青木は洗面所に顔を洗いに行った。
 洗面所に来ると、青木はいつも、少しだけ嬉しくなる。歯ブラシとコップのセットが2組置いてあるからだ。泊めてもらうことが多いから置かせてもらっているのだが、それを見るとまるで一緒に住んでいるような気分になれる。きっと薪は許してくれないと思うが、青木は、いつかは、と夢見る気持ちを捨てきれないでいる。

 リビングに戻ると、薪が穏やかな表情でコーヒーカップを傾けていた。
 ダイニングで香りを楽しんでいた時のように目を閉じて、味を堪能しているように見えた。食べにくいシュークリームを実にきれいに食べている。王侯貴族の食事風景みたい、何をしても絵になる人だ。
「やらんぞ」
 見惚れていたら、シュークリームを狙っていると思われた。さすがに4つは無理です。
「食べ過ぎだ。夕飯が食べられなくなる」
 甘いものは別腹だから無用な心配なのだが、気遣いは嬉しかった。これは夕飯のお誘いと取っていいはずだ。次の魔法を発動させるチャンスだ。

「そのことなんですけど、ちょっと出掛けませんか」
「うん、たまには外食もいいな。久々の連休だし。ウナギとかフルコース料理とか、時間のかかるものでもいいぞ」
「それもいいですけど、薪さんが見たがってた鳥みたいなペンギン。これから見に行ってみませんか」
 きらん、と薪の眼が輝いた。それこそ深海の生物みたいに。
「だけど急だな。今から支度して、移動時間も考えると、せいぜい1時間くらいしか観られないんじゃないか」
「S水族館なら21時まで開いてます」
「…夕食は」
「S水族館は飲食OKなんですよ。持ち込みも可能ですから、ペンギンを眺めながらカツサンドが食べられますよ」
 ちなみに、カツサンドは青木が食べたいメニューだ。

「面倒だが仕方ない。おまえがそこまで行きたいなら」
 言葉と行動が一致しないのは、もはや薪のスタンダード。「せいぜい1時間くらい」の時点でディバックを背負い、「夕食は」でキャップを被った薪は、玄関でスニーカーを履いて振り返り、
「付き合ってやらないでもなくなくないない」
 ワクワクし過ぎて日本語崩壊しちゃってますけど、そこはそっとしておきますね。

 熟練の家政婦のように手早くティーセットを片付け、青木は急ぎ足で薪の後を追った。


***


 9月から現場に出ますので、工期の1月20日まで、ちょっと忙しくなります。経理事務と2足の草鞋、久しぶりです。体力、持つかしら。(。´・(ェ)・)
 2月11日の梨ミーティングを楽しみに(また行くんかい)、頑張りますー。


 

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
13歳になりました。
みなさんのおかげです。('ω')ノ
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