天国と地獄7 (1)

 こんにちは!

 お話の途中ですが、毎年恒例の鈴木さんフェアの時期なので、こちらのお話を挟ませていただきます。

 去年、あずきさんのブログ 『竜の果実』 に公開された『帰ってきた男』というお話を拝読しまして、これがめちゃめちゃ笑えるお話で~~、だって鈴木さんが~~~!! 
(こちらから飛べますので、未読の方はどうぞ) 

 『帰ってきた男』

 他の記事やSSから推察するに、あずきさんはとても真面目で心優しい方だと思うのですけど、ギャグを書かれるときにはすみません、お人柄変わりますよね!(←褒めてます!) 
 もしもまだチェックがお済みでない方は、ぜひ!! 半端ないっていうか容赦ないっていうか、台風みたいなギャグです。 とにかく強烈です。 ギャグ好きのわたしには堪りません☆ 

 で、去年、『帰ってきた男』のコメ欄でですね、あずきさんに『じゃあわたしが鈴木さんのリベンジ話を書きましょう』とお約束してできたのがこの話です。 だから書いたのは去年の9月なんですけど、公開はお盆に合わせて、ということで、やっと約束を果たすことができました。
 みんなに笑ってもらえるといいなっ。

 鈴木さんが幽霊になって出てくる話なので、カテゴリは男爵でお願いします。
 ストーリー的には『天国と地獄6』の続きになってます。 「グロッ、キショッ、やっぱムリ!」の数日後です。
 あ、それと、うちの鈴木さんは黒いです。 お含みおきください。

 よろしくお願いします。

 



天国と地獄7 (1)





 家に帰ると、鈴木さんがいた。

「おかえり」
「ただいま戻りました」
「薪は?」
「あ、直ぐに来ると思います。今そこで、管理人さんと立ち話を……………はいいっ!?」

 鈴木さんはソファでくつろいでいた。
 雑誌やら小説やらがローテーブルの上に置かれていて、勝手に冷蔵庫を物色したのか、ビールの空き缶と数枚の小皿がテーブルの片隅に寄せられていた。

 この怪異現象に、どんな説明をつけたら良いのだろう。

 薪さんは毎日鈴木さんの写真を見て、話しかけたりキスしたり、そんなに彼のことを思っているのなら、いつか彼が見る幻は実体を持つかもしれないと考えたりもした。だけど、それが現実になるなんてバカなことが?
 そうか、これは幻だ。この頃仕事が忙しかったから。こんな時間に帰れたのも3週間ぶりくらいだし。疲れて幻覚を見ているんだ、きっと。
 例え幻覚でも、鈴木さんは第九の大先輩だ。ちゃんと挨拶をしておこう。

「鈴木さん、ですよね? 初めまして。オレ、薪さんの部下で青木一行と」
 オレが礼儀正しく挨拶をしようとすると、鈴木さんはいかにも『堅苦しい挨拶は抜きにして、一緒に飲もうぜ』とでも言うように、心安い笑顔で飲みかけの缶ビールを顔の高さに持ち上げ、
「知ってる。薪に惚れてる変態だろ」
 それが初対面の相手に言う言葉!?

 あまりの無礼に開いた口が塞がらないオレに向かって、鈴木さんはにっこり笑いかけると、
「茫然自失時間約3分。状況対応遅いな、おまえ。よくそんなんで第九の捜査官やってられるな? 薪の足を引っ張るのもいい加減にしろよ、トンチキヤロー」
 なんだこのひと! 言葉と表情が合ってないっ! さわやかな5月の風のような笑顔なのに、この容赦ない言葉選びは何事!?

 オレが絶句しながらも相手の非常識な態度を咎めるような顔をすると、鈴木さんは改まって床に正座をし、オレを見上げた。彼は慈愛に満ちた表情をしていた。彼ほどやさしい瞳を持った人物を、オレは今まで見たことがなかった。
 どうやら、今のはオレの聞き間違いだったようだ。こんな聖職者のように穏やかな顔つきのひとが、他人と諍いを起こすようなことを言うはずが―――。
「自宅の出入りを許されてるからって、良い気になるなよ。あくまでおまえは薪の部下兼ボディガードなんだからな。オレの薪に手ェ出したら、トリコロスぞ?」
 敵意むき出しだよ! 『オレの薪』とか言ってるし!!

 言葉どころか意識まで失いそうな酩酊感に襲われ、玄関口に立ち尽くしたオレの後ろでドアが勢いよく開き、オレの背中にヒットした。前のめりに突っ込んで床の感触を頬で味わっていたオレの耳に、薪さんの「あっ」と言う可愛い声が響いた。

「鈴木!!」
 ザッツ、アウトオブ眼中オレ! (予想はしてたけどねっ!)

 リビングの奥に置かれたソファセットに座っている鈴木さんより、上がり口に倒れているオレのほうが薪さんの目には入りやすいはずだとか、そんな理屈が通用しないことは百も承知だ。
 だって、鈴木さんだもの。薪さんが一日千秋の思いで待ち続けている人だもの。

 床に倒れたオレの背中をぴょんと飛び越えて、薪さんは鈴木さんに飛びついた。まるで犬が大好きなご主人様にじゃれつくような勢いだった。
「今年も来てくれたんだねっ、うれしい!」
「当たり前だろ」
「15日までは、ここにいられるの?」
「ああ、その日が限界だ。本音ではずっと薪の傍にいたいんだけどな」
 なに? この会話。常識が崩れそうなんですけど。

 今年もってことは、鈴木さんはお盆になると毎年薪さんのところに化けて出る、もとい帰ってくるのか。
しかし、化けて出るのか帰ってくるのかは、実際微妙なところだと思う。
 あれは確かに正当防衛、というか事故に近いものだったとオレは思っているけど、薪さんが鈴木さんの命を奪ってしまったことは事実なのだから、そこにはやっぱりわだかまりがあって当然だと―――――。

「も~、なんで鈴木ってば、幽霊なんかになっちゃったんだよ~。僕が淋しいじゃん」
「何言ってんだよ、こいつう。おまえが殺ったくせに~」
「てへっ、そうでした~」
 30過ぎのいい大人が、高校生カップルみたいな語尾を伸ばした喋り方やめてもらえます?
 てか、口調と話の内容に凄まじい違和感を感じるんですけど、オレの感性がおかしいんですか?

「ごめんね、あのとき撃っちゃって」
「いいっていいって。オレが頼んだんだし。気にすんなよ」
 軽っ! このふたりの会話、軽っ!!
「ありがと。やっぱり鈴木はやさしいね」
「惚れ直した?」
「も~、やだ、鈴木ったらあ」
 なに、このバカップル丸出しの会話!!
 夜中に夢で魘されてボロボロになってるどっかの誰かさんがバカに見えてきたよ!

「ところで薪。今夜のごはんは?」
「鈴木が来るかもしれないと思ったから、ちゃんと買い物してきたよ」
 そこで薪さんは、初めてオレのことを見た。
「青木。夕飯作るから手伝え」
 態度違いすぎません? 声のトーンが1オクターブくらい低いんですけど、しかも、なんでいきなり命令口調なんですか? 薪さんは今まで、職務時間外に上司風吹かせたこと無かったのに。鈴木さんの前だから?

「鈴木の好きなチラシ寿司つくるからね。ウナギの載ったやつ」
「そりゃ楽しみだな」
 薪さんは当たり前みたいに鈴木さんの頬にキスをすると、スキップでも踏みそうな軽い足取りでクローゼットに入っていった。普段着に着替えてくるのだろう。
 頬にキスなんて、オレはしてもらったことがない。
 薪さんにとってハグとキスまでは友だちの範囲内で、そこに特別な感情はないと知っているけれど。以前薪さんはオレに、鈴木さんに対する恋愛感情はなかった、とはっきり言ったけど、本当のところはどうなんだろう。

「そんなん決まってんじゃん。薪はオレに惚れてんの」
「でも、薪さんは」
 反論しようとして気付く。
 口に出さない疑惑に、どうして鈴木さんが答えを返してきたのだろう。もしかして鈴木さんは、オレの心が読める? いや、まさかそんな。
「オレは第九の神さまだぜ? おまえの考えてることなんかお見通しだよ」
 第九の神さまって……さすが親友。薪さんと考えることが一緒だ。

「オレが早くいなくなればいいと思ってんだろ。お生憎さま。オレは3日後にはいなくなるけど、これからも薪の心の中にずーっと」
「なんだ、ウソだったんですね? 本当に心が読めるのかと思っちゃいました」
「ん?」
 全く、性質の悪い冗談を言う人だ。心の中で薪さんに邪な願望を抱いたりしたら、その場で薪さんにバラされて、半殺しの目に遭わされるかも、なんて心配して損した。

「鈴木さんには、できればずっとここにいて欲しいです。薪さんのあんな幸せそうな顔、初めて見ました」
 あのひとのあんな顔が見られるなら、オレは何にもいらない。
 オレはずっとずっと、あの写真にあるような笑顔で薪さんが笑ってくれることを願っていた。それが今、叶えられたのだ。これ以上の喜びはない。

「……ヤなやつだなー、おまえ」
「え? なんか気に障りました?」
「オレ、天使くん苦手なんだよな」
 鈴木さんは意味の分からない言葉をブツブツ呟くと、身軽に立ち上がって台所へと歩いていった。オレも慌てて後を追う。夕食の手伝いをしないと、ごはんを食べさせてもらえなくなる。
 買ってきた肉や魚を冷蔵庫にしまい、葉物野菜は濡らした新聞紙に包んで、ビニル袋に入れて収納。毎日帰りが遅くて自炊ができないときのことを考えると、ひと手間掛けてもこうして長持ちするようにしてあげないと。

「おまえ、そんなことまでやらされてんの?」
「この食材の殆どは、オレの胃袋に入るものですから」
「ふうん。薪が他人にここまで踏み込ませるとはな」
「はい? 何か仰いました?」
 よく聞こえなかったから聞き返したけど、鈴木さんは答えてくれなかった。きっと大したことではなかったのだろう。

「手伝ってやるよ」
「あ、すみません。ありがとうございます」
 礼は言ったものの、あれだけ飲み食いしたのだから当然だとも思った。オレが毎回楽しみに、少しずつ食べていた薪さんお手製の牛肉そぼろを一気食いしちゃって、それはちょっと頭に来たけど、鈴木さんが相手じゃ仕方がない。きっと薪さんは、鈴木さんにこそ食べて欲しくて料理の腕を磨いたのだろうから。



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ジャンル : 小説・文学

天国と地獄7 (2)

 お話の途中ですが、 
 今年は実家が初盆なので、3日ほどお休みをいただきます。
 15日には再開できると思いますので、よろしくお願いします。




天国と地獄7 (2)




「鈴木。何してるの?」
 いつもより幾分高い薪さんの声がして、オレと鈴木さんはそちらを振り向いた。振り向いて、うわあ、とオレは思わず小さな声を上げた。
 薪さんのエプロン姿はいつも魅力的だけど、今日はめちゃくちゃかわいい。喫茶店のボーイがしてるみたいな、腰から下の黒いエプロン。着ている服も普段のTシャツにジーパンじゃなくて、襟の立った半袖のプリーツシャツに蝶ネクタイをして、黒いスリムなスラックスを穿いている。レストランのホールスタッフみたいだ。

「相変わらずかわいいなあ、薪は」
「え~、やめてよ~、恥ずかしいよ~」
 なんすか、その嬉しそうな態度。前にオレがそのセリフ言ったら、薪さん怒りましたよね? バカにするな、とかってソッコー蹴り飛ばしましたよね?

「鈴木、そんなことしなくていいんだよ。こいつがやるから」
「でも青木が『あれだけ飲み食いしたんだから、少しは働いてください』って」
 言ってない!! いや、ちょっとは思ったけど、口には出してません!
「青木。鈴木はおまえの大先輩だぞ。もっと敬意を払え」
「オレはそんなこと一言も……っ!?」
 何かに首を絞められたような具合に息が止まって、オレは目を瞠った。嫌な予感がして鈴木さんを見ると、にっこりと天使の笑いを浮かべつつ、両手をスリーパーホールドの型に決めて、ってマジだよ! このひと、オレの息の根止める気だよ!

「鈴木。青木の言うことなんか気にしないで。鈴木は幽霊なんだから、働きすぎは身体に良くないよ」
 幽霊の健康に気を使う前に、オレの命の心配してくださいっ!
「薪、青木も悪気があったわけじゃないんだ。オレが飲み食いしたのは本当だし」
「もう、鈴木は本当にお人好しなんだから。そんなとこが好きなんだけど、あ、言っちゃった。(テレッ)」
「おいおい、部下の前でそんなこと言っていいのか? 明日、職場で噂になっちゃうぞ」
 オレに明日が来ればねっ!!

 窒息一歩手前で、鈴木さんは手を緩めてくれた。というか、自分のセリフに照れる薪さんが鈴木さんの胸に抱きついたせいで、ホールドが解けただけみたいだけど。
 薪さんはしばし鈴木さんの身体の感触を味わい、それに満足すると、右手の人差し指を立たせ、指の先で鈴木さんの胸をつんつんと突いた。嬉し恥ずかしといった表情で、
「噂になってもいいよ。鈴木となら」
「オレも」
 ……デキてるよね、これ。絶対にデキてるよね、このふたり。

 鈴木さんに対する気持ちは純粋な友情だったとか、普通の男同士に恋愛感情は生まれないとか、薪さんが今までさんざん言ってきたことは、オレの好意を受け入れられない彼の、単なる言い訳に過ぎなかったと知って、オレは泣きたくなった。
 でも、幸せそうに鈴木さんの胸に額を預ける薪さんを見ていると、それに水を差すような真似はできなくて。オレは仕方なく料理に専念する振りで、二人の姿を見ないようにした。

 その夜、食卓に並んだ薪さんの手料理は、いつにも増して見事なものだった。鰻ちらしにハマグリの吸い物、茄子のおろし煮に春雨のサラダ。仕事から帰ってきて後は寝るだけのいつもなら、ちらし寿司とインスタントの吸い物だけなのに、てか、オレはそれで充分だし不満に思ったことなんか一度もないけど、こうも差がつくと何かフクザツ。
 しかも、ダイニングテーブルで鈴木さんの隣に腰を下ろした薪さんは、
「はい、鈴木。あーん」
 やると思った、絶対にやると思った。
 なんてコテコテな人たちだろう。今時新婚二日目の夫婦だってやらないぞ。

「うん、美味い。相変わらず、薪の料理は絶品だな」
「本当? うれしい」
「ほんとほんと。ほら、お返し。あーん」
 ちょっと、やめてもらえます? テーブルひっくり返したくなっちゃうんですけど。
 オレはとりあえず頭の中で、鈴木さんがテーブルの下敷きになっているところを想像して苛立ちを解消しようとした。でも次の瞬間、鈴木さんは薪さんに助け出されて、何故かオレがテーブルの下敷きになり、さらには二人がオレの上に座って仲良く食事を始め……ああ、オレって自分の想像の中ですらピエロなんだ。

「はあ、この料理が毎日食べられたら幸せだろうなあ。そうだ、薪。オレのところに嫁にこない?」
「っ、げほっ、ごほっ!!」
 鈴木さんの言葉に、思い切りむせる。
 オレのところって何処ですか!?
 プロポーズは生きてるうちにっ! この世にいるうちにお願いします!
「うん、行く」
 即答だよ!
 行ったら帰って来れませんよ!! てか、関係ないんですよねっ、分かってますとも!

「でも僕、結婚しても仕事は辞めないからね。鈴木の所から、第九に通える?」
 世界一の遠距離通勤でしょうね……。
「それは無理だな。仕方ない、しばらくの間は単身赴任てことで」
 ふたりはチラッと目線を交わし、くすくすと笑い出した。
 なんだろう、よくわからない。この二人の間では、今のやり取りが笑えることなのだろうか。年が離れているせいか、笑いのツボがつかめない。

 その後も、薪さんと鈴木さんはオレにわからない昔の話をしていて、オレはずっと蚊帳の外だった。でもそれは仕方がない。鈴木さんには、現在の話は分からないのだから。
 そんな扱いを受けて、オレが悲しかったかというとそうでもない。何故かというと。

「そうだよ、あの時の鈴木ったら」
 鈴木さんの肩を軽く小突きながら、あはは、と子供みたいに無邪気に笑う薪さんの姿がそこにある。
 ずっと、こんな風に笑う彼が見たかった。鈴木さんのおかげだ。ああ、本当に鈴木さんがここに来てくれて良かった。
 食事の間中、オレは幸せそうな薪さんを満喫して、今日は人生最良の日だと思った。




*****




「あー、美味かった~。お腹いっぱいだ」
 満足そうに自分のお腹を撫でる鈴木さんの横で、オレは空になった皿を片付けた。重ねてシンクに運び、後片付けを始める。
 テーブルの上を拭いていた薪さんが、見事に盛り上がった鈴木さんのお腹に耳を当て、
「あ、今動いた」
「わかりますか~、パパでしゅよ~」
 それから顔を見合わせて、ケラケラ笑う。
 何がそんなにおかしいのかオレにはさっぱり分からないが、薪さんの笑い声がこんなにたくさん聞ける日は滅多とないので、なるべく二人の邪魔をしないように、こっそり手早く皿を洗った。

「青木、コーヒー淹れてくれ」
 寿司桶と汁椀を運んできた薪さんが、業務連絡みたいに素っ気無く命令だけを残して鈴木さんのところへ帰って行く。はい、と返事をしながら、ちょっとだけ寂しいな、と思い、それでも薪さんの瞳がキラキラ輝いているのを見ると、やっぱり嬉しい。

 眠りながら涙を浮かべていたあの人が。明かりの消えたモニタールームで頭を抱えていたあの人が、今宵はこんなに楽しげに。
 オレが薪さんに望んだのは、おこがましくも与えたいと思ったのは、正にこんな時間。第九の室長という重責を担い、心休まるときのない彼を癒したいと、たとえひと時でもいいから心から安らげる時間を持って欲しいと、だから彼の恋人になりたいと、この手で彼を幸せと安寧に包み込みたいと。
 だけど、それを彼にもたらすのはオレじゃなくてもいい。誰が為すかは重要ではなく、彼がそれを享受することが大切なのだ。

「鈴木。こいつ、コーヒー淹れるのだけは上手いんだ。飲んでみて」
「本当だ、美味い」
「でしょ?」
 オレが風呂の支度をしてリビングに戻ると、ふたりはソファに並んで座っていた。大学時代に通った喫茶店の話が一区切り付くのを待って、オレは風呂の用意ができたと告げた。

「鈴木、お風呂に入ったら?」
「薪も一緒に入る?」
「うん!」
 ……一緒に入るんだ。ふーん……。

「背中、流しっこしようね」
「背中だけじゃなくて、身体中洗いっこしようぜ」
「やだ、鈴木ってば~、えっちー」
 あんたたち、オレの存在忘れてるだろ。

 薪さんと鈴木さんは仲良く風呂に入っていき、さすがに心穏やかではいられないオレの耳に、やがて浴室から聞こえてきたのはふたりの笑い声。
『うひゃひゃひゃ! 鈴木、くすぐったい!!』
『遠慮なさらないで~、サービスいたしますわよ~~』
『よしよし、チップは弾むからよろしく頼むよ、って、きゃはははっ!!』
 ……なにやってんだか。

 サービスやチップなんて言葉が出るところをみると、これはあれだ。薪さんの大好きな歌舞伎町のお風呂屋さんの真似事だ。ホントにきわどい冗談が好きなんだ、このひとたち。
 
 きゃらきゃらという薪さんの明るい笑い声と、あははは、という鈴木さんのやさしそうな笑い声が止むと、ふたりは浴室から出てきた。夏だからドライヤーで髪を乾かすのが辛いらしく、濡れた髪をタオルで拭きながらエアコンの吹き出し口の前に並んで立っている。
 オレが心配した、というか下劣にも想像したような展開にはならなかったみたいで、ひとまずホッとした。
 もしかしたらオレの思いすごしで、今までのも全部彼らの冗談で、このふたりは本当にただの友だちだったのかもしれない。薪さんは決してオレに嘘を吐いていたわけではなくて、オレと知り合う前は本気で同性間の恋愛は成り立たない、と信じていたのかも。

「鈴木、そろそろ休もうか」
「ああ」
「ベッド、一緒でいいよね?」
「オレはいいけど。でも、薪の身体のこと考えるとな。今夜はよした方がいいんじゃないのか?」
 …………やっぱデキてんじゃん!!!

 先日、ついほんの数日前、「おまえと恋人のキスがしたい」とか自分から言い出しておきながら、キスまではいいけどその先はいやだ、と勝手きわまりない言い分で最後の一線を拒否している薪さんは、相手が鈴木さんなら地の果てまで許せるらしい。
 グロイだのキショイだの、さんざん言ってくれたけど、あれは結局ただの言い訳に過ぎなくて。そこまで許すほどオレのことを好きにはなれない薪さんの、拒否する理由のひとつに過ぎなかったと知った。

「明日の仕事に差し支えるかもしれないし」
 仕事に差し支えるって、どんだけやる気なんですか!?
 まあ、一年ぶりで楽しみなのはわかりますけど。

 それはきっとものすごく悲しいことで、だからオレはこの場合嘆くべきなのだと思ったけれど、悲しくも腹立たしくもならなかった。恋人として当たり前の反応をするには、オレはもう、薪さんを愛しすぎていた。あまりにも長い期間、夢中で彼の幸せを望んでいたせいか、それ以外のことはどうでもいいと思うようになってしまっていたらしい。
 薪さんがそれを望むなら。それはオレの望みでもあるんだ。

「オレ、今日は帰りますから。明日の朝、お迎えに上がります」
 ふたりが気兼ねしなくて済むように、オレは潔く鞄を持って立ち上がった。
「そうか? じゃ、気をつけてな」
 薪さんはあっさりと頷いて、鈴木さんはひらひらと手を振った。
 オレにとっても3週間ぶりの薪さんとの夜だったけど、このふたりにとっては一年ぶりの夜。もっと早くに、ふたりきりにしてやればよかった。

「あ、青木」
 玄関口で靴を履いているオレを、薪さんは呼び止めた。明日の迎えの時間を聞いてなかったことに気付いて、はい、と振り返る。
 ネクタイを掴まれて、ぐいっと下方に引かれ、視界がぶれると同時に唇をふさがれた。



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ジャンル : 小説・文学

天国と地獄7 (3)

 こんにちはっ!

 おかげさまで、実家の初盆が終わりました~。
 田舎の初盆は地区中の人が集まるので、100人を軽く超えるお客さまで~。 強制的なスクワット運動のせいで、太ももの筋肉痛が半端ないデス☆

 足を引き摺りながら今朝、3日ぶりに管理画面に入りましたら『緋色の月(9)』 のコメント欄がとんでもなく面白いことになってるっ(≧∇≦)
 た~の~し~い~♪♪♪
 コメントに対するコメントも入ってて、こういうの楽しいですよねっ。 掲示板みたいで。
 うちはコメントはもちろん、楽しいツッコミも明るいフォローも大歓迎です♪ (すみません、コメントくださった方のご意見も伺わず。でもわたしはみんなでワイワイやるの、大好きなの~)
 このささやかなブログが、『秘密』を愛するみなさんの交差点になれたら幸せです。

 ご自分のブログを持ってらっしゃらない方でも、原作に関してのご意見はたくさんあると思います。 それをご自分の胸だけにしまっておくのが辛く感じたら、遠慮なさらずに当ブログのコメント欄へどうぞ。(^^



 で、お話のほうは、この章でおしまいです。 
「鈴木さんフェア」にしては内容が薄いですか? それでは、次の機会には 『言えない理由sideB』 を! (←非道 ←薪さんが鈴木さんに振られる話の鈴木さんバージョンなんか誰が読みたがるというのか)

 それでですね、
 このお話の翌朝の薪さんそのものだわっ、というイラストが、えあこさんのブログ 『擒』 にアップされてまして、(えあこさん、勝手に思い込んでごめんなさい(^^;))
 えあこさんにお許しいただいたので、こちら、URLでございます。
 読後、ぜひ ぽちっとな してください♪

 URLは、こちら 。
 ギャラリー 落書き3 の中の上から5番目、薪さんが鈴木さんのシャツを着て、青木さんの眼鏡を掛けているイラストでございます。

 ↑ 拝見した後のしづの感想。
 本当にねえ。
 もう二人に愛されちゃえばいいよ☆


 えあこさんは熱心なすずまきすとさんで、こちらのお二人のいちゃつきっぷりには思わず顔がにやけてしまいます。 
 あー、本当に、こんなに愛し合ってたのにどうしてあんなことに~~~~! (←えあこさんのイラストに洗脳されている)

 鈴木さんに愛されて幸せいっぱいの薪さんがご覧になりたい方は、ぜひぜひリンクから飛んでくださいね~。





天国と地獄7 (3)




 何が起きたのかわからなかった。いや、キスされたのは分かった。恋人同士になってから、薪さんは別れ間際と寝る前には必ずキスをしてくれる、いつものそれなのだと分かっていた。
 でも、なんで鈴木さんの前で!?

「どうしたんだ、青木。眼が出目金みたいになってるぞ」
「だ、だって。鈴木さんがいるのに、こんな」
「そうか、人前は嫌か。わかった、これから気をつける」
「いや、そうじゃなくて!」
 思わず出したオレの大声に、ふたりはびっくりしていたけれど、オレの驚きの方が何倍も大きいはずだ。

「薪さんは、鈴木さんのこと好きなんでしょう? だったらその人の前で、他の人間とキスなんかしたら誤解されちゃうじゃないですか」
「誤解? 何の誤解だ?」
 薪さんは不思議そうにオレを見上げた。本当に、オレの言葉の意味が分からないらしかった。

「おまえは僕の恋人だろ」
 薪さんの気持ちが理解できず、困惑するばかりのオレに、薪さんはハッキリと言った。
「ちゃんと言っただろ。鈴木はそういうのとは違うって」
 いや、信じられないです。この二時間の目撃情報がそれを激しく否定してます。
「でも……どう見ても、ラブラブカップルって感じで」
 本当はバカップル丸出しって言ってやりたかったけど、そこは我慢した。オレは薪さんが幸せならそれでいいから。

「僕と鈴木がおまえの目にどう映ったか知らないけど、僕は鈴木に、いま青木に対して感じてるような気持ちを持ったことはない」
 薪さんの言葉の真意を測りかねて、オレはますます困惑の度合いを深める。

 もしかしたら、こういうことか?
 鈴木さんは3日でいなくなる。その間は彼との生活を楽しみたいけど、その後は今までどおり、オレと付き合いたい。だから待ってろ、って、そういう意味のケアなのか?
 いやいや、そんな二股掛けた男を両方逃がしたくない女の子みたいな姑息な真似を、薪さんがするとは思えない。薪さんはとっても潔い人だし、第一、彼の人生の中で恋愛が占める割合なんか、せいぜい10%くらいのものだ。その上、探す気になれば、オレの代わりは掃いて捨てるほどいる。大して重要でもないオレとの付き合いのために、薪さんが気を使ってくれるとも思えない。
 でも薪さんは、オレのヒネた思い込みを払うように、
「おまえが他の女の子といると悲しくなるけど、鈴木が女の子と遊んでても気にならない。おまえには今みたいに、恋人のキスをしたいと思うけど、鈴木にはしたいと思わない」

 オレが大好きな薪さんの亜麻色の瞳は賢そうに輝いて、決して彼が当座の恋人に対する言い逃れでそれを口にしているわけではないことを悟らせる。
 それでも。
「でも、一緒のベッドで寝るんですよね? こないだオレとしかけたことの、あの先のこととか、するおつもりなんでしょう?」 
 それも仕事に差し障るほど。
「するわけないだろ! あんなキショイこと!」
 キショイって……鈴木さん、泣いちゃいますよ。

 薪さんはその気がないと言うけれど、じゃあ、さっきの鈴木さんの言葉は?
 どうしても薪さんの言葉が信じられなくて、オレはその確証を鈴木さんに求めて彼の様子を伺った。
 鈴木さんは、クスッと笑って伸びやかな肩を竦めると、つかつかとこちらへ歩いてきた。長い腕を伸ばして、オレにがばっと抱きつき、頬ずりをする。

「ひいいっ!」
 オレはゲイじゃない、薪さん以外の男なんか気持ち悪い。でも、このカエルが踏み潰されたような悲鳴は、そういう理由からではなかった。

 鈴木さんの身体は、ものすごく冷たかった。
 それは生者の感触ではなかった。はっきり言ってしまえば、死人の肌触り。よくよく考えればおかしくはない、鈴木さんは幽霊なのだ。

「こういうこと。一緒に寝たら身体が冷えて、薪が風邪を引くかもしれないだろ」
 鈴木さんは腕を緩めてオレを解放し、屈託なく笑った。
 そこで初めてオレは、目の前でいちゃついていたふたりの様子の不自然さに気付いた。
 相手の身体に触れるのは、いつも薪さんから。鈴木さんから薪さんに向けられたのは、笑顔と甘い言葉だけ。

 きっと鈴木さんは薪さんと同じくらい、いや、薪さんよりも強く、彼に触れたいと思っていたはずだ。だけど、できなかった。自分が人ならざるものであることを知っている彼は、そうするしかなかった。
 鈴木さんは薪さんのことを、深く深く、愛していた。彼に命を奪われても、彼のところにその魂を返らせるほどに。そして薪さんも。だから彼らにとって、最初のあの会話は悪ふざけでも何でもない、本気でそう思っているのだ。あれだけの出来事を、当人の生死すらも乗り越えられるほどに、彼らの絆は強いということだ。

 勝てる気がしなかった。鈴木さんは死んでも、薪さんの最愛のひとに変わりない。オレは一生、鈴木さんを超えられない。

「今夜は蒸し暑いから、冷房を切って寝れば丁度いいと思います」
 オレは何もできない。薪さんが一番望んでいることが分かっているのに、それを叶えてあげられない。鈴木さんを生き返らせることも、オレが鈴木さんになることもできない。だったらせめて、この3日の間だけでも。薪さんの望むことを全部叶えてあげたい。

「じゃあ、3人で寝よう」
 ええ、薪さんの望みなら何でも……はい!?
「たしかに僕一人じゃ冷えちゃうけど、青木が僕を暖めてくれればいい」
 さすが薪さん、それは名案、じゃない!どう考えてもおかしいでしょ、その構図。昔の恋人(薪さんは否定してるけど)と今の恋人に挟まれて寝るなんて。
「あ、いいな、それ。楽しそう」
 鶴の一声、鈴木さんが賛同した時点で、薪さんの無謀な提案は可決された。
 オレと鈴木さんで薪さんを挟んで……なんか不特定多数の人間に、ものすごく恐ろしいことを期待されているような気がするのは何故だろう。

 男3人が横になれるベッドなんかないから、床に来客用の布団を2組敷いた。真ん中に薪さんが寝て、左に鈴木さん、右にオレ。色っぽい雰囲気は全くなくて、飲み仲間の悪友たちと雑魚寝するのと変わりなかった。
 軽くアルコールも入っていた薪さんは直ぐに眠りに落ちて、安らかな寝息を立て始めた。薪さんの顔は鈴木さんの方を向いて、でもその手はオレの手をしっかりと握っていた。
 鈴木さんは慈しむような眼で薪さんの寝顔を見ていたが、やがて顔を上げてオレを見た。亜麻色の小さな頭越しに、囁く声が聞こえる。

「薪は、おまえのこと好きだぞ」

 鈴木さんの言葉を、オレは怪訝に思う。鈴木さんは、薪さんとオレの関係を否定したいはずなのに、手を出したらトリコロスとまで言われたのに、どうしてそんなことを言うのだろう。
「おまえが思ってるよりずっと、おまえのことが好きなんだ。親友のオレが言うんだから間違いない」
「そんなことないです。薪さんは、いつも鈴木さんのことを想ってます。毎日鈴木さんの写真に語りかけてるし、キスはしてるし。きっと今でも鈴木さんのこと」
「なんで薪の言うことを信じてやらないんだ。おまえ、薪の恋人なんだろ」
 鈴木さんの口から出た言葉に、オレは息を呑む。
「認めてくれるんですか? オレのこと」
「認めるも認めないも、薪がそう言ったんだから。オレにとってはそれが真実だ」

 鈴木さんはそれを当然のことのように宣言し、誇らしげに頷いた。最初に会ったときには敵意むき出しだった鈴木さんの、気持ちの変遷がオレには良く分からない。
「鈴木さんは薪さんのこと、愛してるんじゃないんですか? 友人としてじゃなく、つまりその、性愛の対象として」
 鈴木さんは静かに微笑んだ。とても魅力的な笑みだった。
「さあなあ。昔は悩んだこともあった気がするけど、今はどうでもよくなっちまった。オレは薪が幸せなら、それでいいよ」
 その気持ちは、すごく良く分かった。鈴木さんとオレは、立場も性格もまるで違うけれど、まるで双子みたいに似ていると思った。
「オレもです」

 オレは薪さんとつながった手に、ぐっと力を入れる。
 鈴木さんはありったけの愛情を込めて、彼を見つめる。

 その夜の薪さんは、朝まで穏やかに眠り続けた。



(おしまい)



(2010.9) 



 

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プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

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毎日たくさんの拍手をありがとうございます。励まされてます。
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