天国と地獄9 (1)

『あおまきさんおめでとう記念作品 エピローグがなかったらお蔵入りになってたSS 第2弾』 

 てかこれ、エピローグ関係なしに、あまりにもバカバカしくて公開するの迷ったんでした。
 こんなんばっかり公開してると、しづ、バカだと思われちゃうー。 ←手遅れ。

 5歳児の日記を読むつもりで読んでください。(なんて腐った5歳児……)
 よろしくお願いします。







天国と地獄9 (1)










 例えば休日の昼下がり。
 薪はソファの座面に片足を抱えるようにして、異国の言葉で書かれた本を読んでいる。それは青木には馴染みのない文字の羅列で、地球のどの辺りで交わされているものなのか見当もつかないのだけれど、ページをめくる細い指先の軽やかさで、彼の興味を惹くことが書かれているのだと解る。
 頁の角から離れ、艶めかしいくちびるに当てられる人差し指は、彼が何事かを考えている証。すっと横にずらされて、耳上の頭髪に差し込まれる手指は、彼の少しだけ伸びすぎた前髪を退けて真っ白な額を露わにする。
 何気ない動作。それがどうしてこんなに美しいのだろう。
 見ているだけでため息が漏れる。時折またたく長い睫毛も、控えめに持ち上げられる口角も、青木の眼を捉えて離さない。

「盗聴モノに興味があるなら、脇田課長に相談してみるが」
 唐突に問われて青木は首を傾げる。薪の口から何の脈絡もなく出てきたのは組対5課の課長の名前だが、どういった思考ルーチンが彼を導き出したのだろう?
「もう5分くらい、そのページを見てるから」
 気が付くと、眺めていたはずの車雑誌はいつの間にか購入目的の新車特集ページを遥かに離れて、若い男子をターゲットにしたDVDの広告ページになっている。青木は慌てて雑誌を閉じると、夢中で自己弁護をした。
「違いますっ、オレは別に」
「若いってのはいいな。色んなことに興味を持てて」
「だから違いますってば」
「隠す必要はない。おまえも若い男なんだし、自然なことだろ。僕だっておまえの年には30人も彼女がいて毎晩違う娘と」
 薪の冷静が表面だけなのも、華やかな武勇伝がハッタリなのも、青木には分かり過ぎるほど分かっていたけれど。突き放されると面白くないのがオトコゴコロ。青木が他の女性に興味を持つ素振りを見せたら、嫉妬する真似だけでもして欲しい。

「そうですか。じゃあ、大○優ちゃんの写真集、買ってもいいですか?」
「ああ、あの娘、可愛いよな。まあ僕のフカキョンほどじゃないけど」
 写真集くらいじゃ動じないか。かくなる上は一晩くらい、友だちの家に泊めてもらって携帯の電源切って、と半ば意地になった青木が愚策を企てるのに、薪は突然話題を転じ、
「この本に書いてあるんだけど。イスラム教徒って、不義密通は死罪なんだな」
「えっ」
 物騒な言葉に、思わず雑誌を取り落とす。大型のホッチキスで留められた雑誌は自然に真ん中のページが開いて、薪の誤解を招いた広告が再び顔を出した。薪はそれを冷たい瞳で見据え、尋ねられもしない雑学の補足説明にかかる。
「死刑方法もすごいぞ。不貞を働いた男女は首まで土に埋められて、何十人もの同胞から石をぶつけられるんだ。死ぬまで」
 喋りながら薪はソファを降り、青木の方へと歩いてきた。床に落ちた雑誌を拾い、問題のページを青木に突きつけるように差し出すと、青木と眼を合わせてニヤリと笑った。
「日本に生まれてよかったなあ、青木?」
 他人に殺されるか薪に殺されるかの違いで、結果は同じなのでは?

 青くなって黙り込んだ青木に、薪は薄ら笑いで踵を返す。表面には出さないだけで、薪はものすごいヤキモチ妬きなのかもしれない。
 今となれば思い当たることもある、例えばマラソン大会のとき。顔も知らない女子職員たちが青木の周りに寄ってきて、それを薪が不愉快に思っていたことを岡部から聞いた。だから、これまで青木はできるだけ女性を遠ざけるようにしてきた。身に覚えのない誤解は受けたくない。
「写真集は止めておきます。車の資金に回します」
 もとより、青木には必要ない。どんな美麗画集よりも魅力的な動画が目の前に展開されているのだ。実際、写真集より断然ヌケるし。

「……僕のフカキョンを貸してやってもいいが」
 自分の脅しに萎縮して欲しいものを諦めた恋人を哀れとでも思ったか、薪は秘蔵の写真集を青木に貸してくれると言い出した。薪の好意は青木にはかなり微妙だ。薪にとっては宝物でも青木にしてみればただの紙切れ、否、恋敵のアルバム。うれしくも何ともない。
「けっこうです」
「遠慮するなって」
 ひょいとソファから尻を浮かすと、薪は壁際に置いてある仕事机から『僕のフカキョン』を持ってきた。
 青木には女優の写真集も買わせてくれないくせに、自分はお気に入りのアイドルの水着写真集を自作している。身勝手な人だ。色んな意味であり得ないと思う。
 ほら、と手渡されたスクラップブックは、百人もの人間に読み回された雑誌のように青木の手に馴染む。この冊子が誰かの手で、しょっちゅうめくられている証拠だ。
 破り捨ててやろうか。

「大事に使えよ」
 どういう使用目的で貸してくれる気でいるのか、怖くて聞けない。
「汚すなよ?」
 汚物の詳細に関しては絶対に聞きたくない。
「じゃあ僕は席を外すから、おまえはゆっくり」
「あのですねっ!」
 たまりかねて青木は叫んだ。薪の自分勝手は心得ているし、それは彼の魅力の一つとさえ思えるほど薪にメロメロの青木だが、どうしても許せないことがある。己の貞節を疑われることだ。

「オレは、薪さん以外の人に性的魅力を感じません」
「無理するな。ほらほら、これなんか胸の谷間がスゴイことになってて」
 手ずからお勧めのショットを紹介してくれるが、完全に有難迷惑だ。どんな男もノックアウト間違いなしと、薪は自分の審美眼に絶対の自信を持っているらしいが、青木の眼には『そういうカタチのモノ』にしか見えない。青木の情動を呼び覚ますのは彼女の唇やお尻のラインではなく、それを辿る指先だ。短く切られた桜貝みたいな爪、白くてやさしい指。あのほっそりとした手が自分の肌を辿り、深い場所に触れることを思うとゾクゾクする。

「じゃあ、これでどうだ!」
 眼を輝かせるどころか写真に見向きもしない青木に苛立ちを募らせた薪が突き付けたのは、どうやって手に入れたのか、というかこの写真にいくら払ったのか尋ねたくなるようなヌード写真。いやちょっと待った、これって。
「これ、合成ですよね? 本物と臍の形が違いますし、ほら、内股の黒子も水着の方には映ってない」
「青木」
 はい、と写真を返しながら顔を上げると、薪はえらく真面目な顔になっていた。
「身体の具合でも悪いのか」
「いえ、元気ですよ」
「嘘を吐け。僕とくっついて座ってるだけで直ぐに反応しちゃうおまえが、彼女のヌードを見ても無反応なんて。本当は、おなか痛いんだろう?」
 オレの病気って、腹痛以外バリエーション無いんですね……。

 薪の心配は見当違い、青木は元気だ。恋人の杞憂を払うためには、それを証明する必要がある。かような論法で青木は、自分に都合の良い行動理由を捻り出した。
 とん、と軽く薪の肩を突いて、バランスを失った彼に口づける。不意打ちを食らって慌てる薪の身体をソファに押し倒して、ぎゅっと抱きしめる。シャツのボタンを外して肩から胸を露出させ、細い首筋に舌を這わせれば、青木の分身は即座に熱を持つ。それを自覚して薪の手を導くと、薪は眼を丸くして青木の顔を不思議そうに見上げた。
「ほら。元気でしょう?」
「青木……」
 突然の行為にショックを受けたのか、薪は困惑の表情を浮かべていた。しまった、驚かせてしまったか。
 薪はまだ自分が欲望の対象にされることに慣れていなくて、だからいつも緊張感でいっぱいの彼を宥めすかしてベッドに連れ込んで、それでもゴールは遠いのに。今の青木は彼の誤解を解きたかっただけで何もする気はなかった、でも薪にはそんなことは分からなかっただろう。いきなりオオカミになった恋人が恐ろしかったに違いない。

 驚かせてごめんなさい、と謝罪する青木に、しかし薪は深刻そうに眉根を寄せて、
「僕と一緒にお医者さんに行こう」
 なんでっ!?
「どう考えても異常だ。女性の裸を見ても何にも感じないのに、オヤジの胸見て欲情するなんて」
「いや、オレだって別にオヤジなら誰でもいいってわけじゃ、ってなんて言い訳させるんですか!?」
 どんだけヘンタイだよ、オレ!!

「だって今の現象を客観的に説明するなら、彼女の胸より僕の胸のほうがムラムラくるってことだろ?」
「はい」
 薪の論旨を、青木は頷きと言葉で肯定する。
 だって仕方ない。昔からそうだった、青木は好きになった相手以外には欲情しない。青木にとってはこれが普通のことなのだ。現在、青木が愛しているのは薪一人。だから彼以外の裸には反応しない。当然の帰結だ。
 が、薪には青木の常識は理解できないようだった。
「まさかおまえ、真性のゲイになりかけてるんじゃ……早く病院へ行って治療しないと」
 違います、てか、ゲイって病気じゃないしっ!

「これは恋の病ですから。医者じゃ治せません」
 プライベートの薪はおとぼけ魔人。ツッコミどころは山ほどあるが、此処は力づくでもロマンチックムードに持って行く。だって大事なことだ。
「オレが欲情するのはあなただけです」
 この世で一番愛してます、あなただけが好きなんです。
 青木はそう言ったつもりだったのに、薪は何故だかものすごく困った顔をした。あまつさえ、口中では小さく「ええー……」とドン引く声が。

 欲情なんて言葉を使ったのが拙かったか。あからさま過ぎた。
 薪はオヤジでエロトークも好きだけど、経験自体はびっくりするくらい少なくて、だから自分のことになると異様に純情だったりもする。男同士がどうやって愛し合うのか、具体的な方法を知ったのもついこの間だし、そのことで気を失うほどショックを受けていた。
 あれを自分がやるのかと思ったら気が遠くなった、と後で告白されたが、それでも自分には無理だとか他を当たってくれなんて後ろ向きなことは言わず、「頑張ってみる」と呟いた彼の健気さが愛おしくて、青木はますます彼が好きになった。

「あ、いや、四六時中そんな眼で見てるわけじゃないですよ? 上司として尊敬してますし、仕事のときはカッコイイと思ってます。だから職場ではそんな気は起きませんし、こうして家にいる時だって、一緒にいられればそれだけで幸せだと」
 青木が懸命に薪の気持ちを引き戻そうと言葉を重ねるのに、薪は何やら深刻に悩み始めてしまった。青木が薪の上から退き、彼に身体の自由を返しても、ソファの上に仰向けに寝転がったまま。シャツのボタンも留めないで、いっそ青木に働かれた狼藉を見せ付けるように指一本動かさず、天井を睨んでいる。
「あの、薪さん、すみませんでした。もうヘンなこと言いませんから」
 仕方なく、自分が外したシャツのボタンを元通りに掛け、青木は薪の背中を抱くようにしてソファに座らせた。今夜のレッスンは延期したほうが良さそうだ。

「青木。今日は帰ってくれ」
 泊まりも拒否されてしまった。警戒されたらしい。せっかくいいところまで行きかけてたのに、これでまた薪が昔みたいに「やっぱり男同士なんてあり得ない」とか言い出したらどうしよう。
「あ、青木」
 不吉な予感に足元がおぼつかない青木に、薪の声が掛かる。
 なんてヒドイ、この上追い討ちを掛けようと言うのか。「しばらく距離を置こう」なんて言われたら泣きますからね。20歳超えた男だって泣くときは泣くんです。

 身構えた青木の頬を小さな両手が包み、唇に薪の唇が触れた。あれっ? と混乱したのは束の間、いつもの別れ際のキスだと分かる。
「明日、研究室でな」
 ひらひらと手を振られて、青木はマンションから追い出された。夕飯どころか午後のお茶の時間にも到らなかった。こんな休日は初めてだ。
 マンションから出て、恨みがましい気持ちで薪の部屋の窓を見上げると、薪が窓際に立ってこちらを見下ろしていた。青木に気付くと、彼は軽く頷きながら拳を胸の前で握り、その仕草はガッツポーズにも見えたが、ひとりで何を頑張るというのか。

 彼の真意がさっぱり掴めず、青木は怪訝な顔で薪を見上げる。その視線を拒絶するように勢いよくカーテンが引かれ、道端で青木は途方に暮れたのだった。





テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

天国と地獄9 (2)

 更新、空いてしまってすみませんでした。
 わたしの場合、間が空くときは、仕事が忙しいか新しいSS書いてるかサボってるかのどれかなんですけど、大抵は3番目の理由なんですけど(すみません)、今回は2番目の理由です。 単細胞なので、区切りの良い所まで書かないと他の話が読めないんです。 気持ちが混ざっちゃうの。
 だから頑張って書いてたんですけど、でも何か進みが悪くて~、あれっぽっち書くのに5日も掛かったー、だって暑いんだもん。 ←結局3番目。



 お話の続きです。
 今度の話は、うちのバカ話の中でもダントツバカな自信あります。
 海より広いお心でお願いします。
 怒っちゃいや。







天国と地獄9 (2)







 翌日から1週間、青木は一度も薪の家に誘われなかった。恋人として付き合い始めて半年、こんなことは初めてだった。これまでは仕事が早く退ければ、平日でも夕食に呼んでくれたのに。
 日曜日の失態が響いているのか、と青木は不安になったが、それは違った。その週の薪は体調が優れず、終日青白い顔をして、時々気持ち悪そうに口元を押さえていたからだ。
 病かと案じればそれも違った。「胃腸に来る風邪でも引きましたか」と岡部が心配するのに、「この吐き気は頭に残った映像がフラッシュバックするせいだ」と答えていたからだ。要は、SクラスのMRI画像を見てしまって、それが薪の不快につながっているらしい。豪胆な薪が1週間も引き摺るほどだ。さぞかし凄い画だったのだろう。青木が見たら、失神してしまうかもしれない。

 そんなわけで平日は我慢した青木だが、休日になれば話は別だ。恋人の立場から彼に会いに行くのは許されるはずだと、青木が薪の家を訪れたのは土曜日。薪は笑顔で迎えてくれたが、何処となく疲れているようだった。
 未だ精神的に回復しきっていない恋人を気遣って、青木はコメディ映画のDVDを用意してきた。テレビ放映された旧作をダビングしたものだが、何も考えずに笑える映画だ。心の栄養剤には持ってこいだ。

 青木が持参したDVDを鞄から取り出すと、薪はハッと息を飲んだ。DVDを掴んだ青木の手を自分の両手で押さえ、いやいやと首を振る。サラサラした亜麻色の髪が跳ねるように揺れて、その美しさに青木は言葉を失くした。薪は自分の手の甲に顔を伏せ、何かあったのかと尋ねることもできない恋人に向かって、苦しげに吐き出した。
「もう、自信がない」
 一瞬、それは別れたいと言う意味かと度肝を抜かれたが、すぐに違うと思い直した。薪がそうっと、青木の腕に自分の頭を持たせてきたからだ。
「薪さんにも、自信が持てないことなんてあるんですか?」
「これ以上はとても無理だ。見られない」
 青木は心底驚いた。あの薪が、MRI画像に音を上げるなんて。
 薪は見かけに因らず剛健な男だ。精神力の勝負なら、岡部にも圧勝だ。第九の室長を立派に務め上げていることからも分かる、彼は鉄の心臓を持っている。その彼が。

「いったい、どんな画なんですか?」
「何言ってるんだ。おまえが僕に見せたんじゃないか」
 亜麻色の瞳に責められて、青木は記憶を探る。薪をここまで憔悴させた原因は、過去、自分が薪の家に持ち込んだDVDだと彼は言う。しかし青木には、薪を不快にさせるものを用意した記憶はない。青木はいつだって薪の好みに合わせたものを厳選している。特に女優の胸の大きさには配慮して、その証拠に青木がセットしたDVDを観て薪が引いたことなど一度も…………あった。どん引くどころか、気絶した映像が。

 ああ、と青木が腑に落ちた声を上げると、薪は弱り切った口調で、
「初めはどうにかなると思ったんだ。人がやってることなんだから、僕にもできるはずだと思った。でも」
 薪の考え方は間違っていない。できればもう少し、その理由付けに恋情や欲望などを加味して欲しいところだが、これがこの人の限界だと青木にはよく分かっている。
「ちゃんとやり方を覚えようとDVDを見たら……胃が引っくり返って」
 それも想像が付く。最初に見た時も気を失わなきゃ吐いてましたよね、と青木は思い、腹の底から力が抜けていくのを感じた。

「洗面器抱えて続きを見たんだけど、そのうち意識が朦朧としてきて。蝶ちょやらテントウムシやらが部屋を飛び回って、床に花が咲いて、犬とサルとアルパカとゾウが僕の周りで手をつないで踊り出して」
 見事な現実逃避ですね。一種の才能ですね。
「さすがにマズイと思って、それ以上は見るのを止めたんだ。ギリギリのラインだった」
 あと5秒、判断が遅れていたらオフェーリアしてたかもしれないって言いたいわけですね。賢明な判断でしたね。
「僕みたいな気の弱い人間には、この教本は苛酷過ぎる」
 薪さんが気弱だったらこの世に気の強い人間は存在しないと思いますけど、相対的に。
 皮肉が口をついて出そうになったが、青木は思い留まった。以前、薪と一緒に観たDVDの映像を思い出したからだ。あれは確かにキツかった。脇田から借りた『ホンバンモノ』は画像処理を施す前の違法ビデオ、しかも通好みの逸品だとかで男優が毛むくじゃらのゴツイ中年親父だったのだ。普通の男には正視できなくて当たり前だ。自分にできないことを相手に強要するのは間違っている。

「DVDを見なくても、何をどうするかは、もうご存知ですよね?」
 青木は薪を怯えさせないように、できるだけやさしい口調を心掛けた。「まあ、だいだいは」と歯切れ悪く返って来た薪の答えに、殊更明るく、
「だったらそれでいいじゃないですか」
「ちゃんと勉強しておかないと、実践でどう動いていいか分からないから。別の教材を探そうと思う」
 青木が認めたリタイアを薪は了承せず、初心者向けのものを探そうと主張した。青木の手を引いてパソコンの前に座らせ、インターネットブラウザを起動させる。

「男女のハウツー本はけっこうあるんだけど、男同士のってなかなか無い」
 その通り、男同士に拘ると適切な参考書はまず見つからない。青木が参考にしているのは、男女のアナルセックスについて書かれた本だ。相手に苦痛を与えないようにするにはどうしたらいいか、かなり具体的に書かれているし、気を付けなければいけない病気や感染症についても言及されている。こんな本が世間に出回ると言うことは、こちらの快楽を楽しむカップルもたくさんいるということだ。

「あと、この教本は菅井さんにもらったんだけど」
 困惑顔で薪が机から取り出したのは、ピンク色の表紙に男二人が抱き合っている漫画絵が描かれた文庫本だった。余計なことをしないように注意しておいてくれと雪子に言っておいたのに、あの腐助手。
「特殊な比喩が多すぎて、僕には理解できない」
 BL小説は実践では役に立ちませんから、てか、読まないで! いっそ障壁になるから!
「辞書にも載ってない言葉がたくさん出てくるし。この手の本の読者層は、10代から20代の女の子だって聞いたけど。最近の若い女の子は勉強家だな」
 辞書を片手にBL読んでる読者が果たして何人いますかね……。

 脱力感に支配されて動けない青木の代わりに、薪がマウスを操作する。検索エンジンによってリストアップされたサイトから適当なものを選び出すと、突然、画面が赤くなってセキュリティ警告が発信された。怪しいサイトらしい。
「このサイトもダメか」
 チッ、と舌打ちするきれいな横顔を見て、今更ながら青木は疑問に思う。この半年、拒絶反応の著しい薪を騙し騙し、徐々に大人の関係へと、亀よりのろいカタツムリの速度で進んできて、彼はそれを焦る様子もなかったのに。

「積極的になってくれたのは嬉しいですけど。どうして急に」
「だって青木、僕にしか反応しないんだろ。なのに僕が頑張らなかったら、青木が可哀相だ」
 薪は画面を見たまま、まるで数学の解でも証明するように答えた。淡々と、当然のことだと言わんばかりに、彼の愛情表現はいつだって飾り気がない。海より深く愛してるとか君は僕の太陽だとか、芝居がかったセリフを彼の口から聞きたいわけではないが、あまりにもさっくりと告げられるから、「本当に?」と聞き返したくなる。
 でも分かった。
 悪心が日常化するほど青木のために頑張ってくれたのだ。彼の愛は本物で、青木が想像するよりずっと熱いのだ。
 思うに、彼にとって恋人を心から愛し、相手のために最大限の努力をすることは、極々普通のことなのだ。自分は当たり前のことをしているだけ、だから大仰に飾る必要はないし、それが相手に伝わるようにくどくど説明する必要もないと考えているのだろう。
 潔くて男らしい。そんな風に愛されたら、ますます好きになってしまう。

 薪が次にクリックしたサイトは警告なしに開いたが、いきなり肌色の写真が出てきた。顔を歪めて口元を押さえたネットサーファーからマウスを譲り受け、青木は苦笑交じりにタブを閉じる。こんなことを毎晩していたら、体調を崩して当たり前だ。
「アルパカ、カワウソ、ゾウ、ウマ、マングース、スカンク、クジラ、ラッコ」
 優秀すぎる動体視力が捉えた鮮明な画像を消去するため、大好きな動物で頭の中をいっぱいにしようと言う目論見らしいが、動物の名前がしりとりになってるのはなんか意味があるんですか?
「コアラ、ラクダ、タスマニアデビル、ル、ル、ル……」
 ルの付く動物はなかなかいないでしょう。
「ルパン三世」
 一応、哺乳類ですね。

 夢中で現実から遠ざかろうとしている薪を尻目に、青木はパソコンの電源を落とした。未経験のことに挑戦するときは、事前にできるだけの知識を入手しようとする。予習が習慣付いている優等生にはありがちなことだが、こういうことは案ずるより産むが易しだ。
「青木、僕は大丈夫だぞ。今のところインパラの大群が頭の中に」
「習うより慣れろって言うでしょ。ビデオ講義より、実地研修の方が有効だと思います」
 回転椅子を回して、隣の美貌を自分の膝に抱え上げる。青木の片腿にちょこんと乗ってしまう小さな身体が、驚きで硬くなった。
「オレ、優秀な講師になれると思いますよ」
 青木が気持ちを仄めかすと、薪は慌てて首を振り、
「そ、それはダメだ!」
「なんでですか」
「僕の方が年上なのに、おまえが講師なんておかしい」
「え。だってそれは」
 経験も実力も青木の方が明らかに上で、だから主導権を握るのは当然だと思ったが、それを言ったら薪は機嫌を悪くする。青木は口を噤んだ。

「僕だってこの1週間、勉強したんだ。僕が講師になる」
 宣言して薪は、青木の膝から降りた。それから代わり番こにシャワーを浴びて、青木は薪の後に寝室へ入った。ベッドの縁に腰かけていた薪の隣に座り、軽く抱き寄せて髪にキスをする。そこまでは順調だった。異変が訪れたのは、次のターンだ。
 薪は自分の言に責任を取るべく、青木のバスローブの紐を解いた。前をはだけ、その形状を視認し、そこで固まってしまった。ざあっと顔が青ざめたかと思うと、吐き気を堪えるように両手で口元を押さえ――――。

「あの?」
「いまちょっと……頭にお花畑の映像が……」
 青木のハダカを見て、フラッシュバックされたらしい。
「モンシロチョウ、ウラナミシジミ、ミヤマカラスアゲハ、ハナムグリ、リスアカネ、ネ、ネ、…………」
 すぐ詰まっちゃいましたね。昆虫は難しいみたいですね。
「ミネフジコ」
 昆虫じゃないし、合ってません。

「ホモのAV見た後だから、男のハダカが見られないんですか? 人間の身体を切り刻む画を見た直後に焼肉は食べられるのに?」
「普通だろ。みんな、殺人事件のニュース見ながらメシ食ってるじゃないか」
 正しいようなそうでないような。薪の切り口は変わっているけど鋭くて、頭ごなしに違うと言えない。
「でも、オレのハダカは何度も見てますよね。一緒に風呂も入ってたでしょう?」
「そうなんだけど……肌色が目に入ると条件反射って言うか」
 どうやら退化してしまったらしい。薪がこちらの方面に積極的になると、本当にロクなことが無い。

「薪さん、顔上げて。オレの顔、ちゃんと見てください」
 俯いてしまった薪の頬を両手で包み、そっと上向けさせる。顎が上がるのと同時に長い睫毛が上方へと開かれ、それと一緒に大きな瞳が上目蓋に吸い付くように持ち上がった。色素の薄い薪の瞳はキラキラと輝いて、まるで宝石を美しく見せるための特殊な照明を照射されているみたいだ。この光源が単なる蛍光灯の明かりだなんて、信じられない。
「おまえ、スケベな顔になってる」
「……すいません」
 責めるような薪の呟きに青木は素直に謝って、でも自分の気持ちを抑える気はなかった。
「薪さんは? オレと二人きりで、ベッドの上に座って、これからどうしたいですか?」

 もっと迷うかと思ったけれど、薪の判断は早かった。青木の首に両腕で抱きつくと、そこを支えにして腰を浮かせ、青木の唇にキスをした。
 くちびるを啄ばみ合いながら、薪は青木のバスローブを広げる。目を閉じたまま、さっきは果たせなかったことを手探りで成し遂げようとする。不器用な薪の手に応じつつ、青木は素早く手を動かす。
 互いのバスローブを取り去って、二人一緒に生まれたままの姿でベッドに横になった。この際、視覚は塞いでしまった方がいいと青木は考え、彼をしっかりと抱きしめた。見るから連想されるのだ。こうしてぴったりと密着してしまえば、見えるのはお互いの顔だけだ。これなら悪心も起きるまい。

 前の部分を擦り合わせ、安心させるように薪の背中を幾度か撫ぜ、近頃ようやく快楽を覚え始めた双丘の間に手を忍ばせると、いきなり、
「ぱ、ぱおーんっ!」
「!?」
「いや、なんか……こういう局面ではゾウの鳴き声が聞こえた気が……」
 薪の特殊な思考回路の産物か、自己防衛本能の為せる技か。いずれにせよ、映像が脳にもたらすダメージを最小限に留めるため自動的に無害なものに脳内変換されたのだろう。彼がどれほどの精神的苦痛を味わったのか、察せられようと言うものだ。
 しかし困った。愛撫の反応をイヌやネコの鳴き声で返されたら、さすがの青木も先に進めない。薪の心の傷が癒えるまで、実地研修は延期するしかないだろう。

「わかりました。今日はやめておきます」
 青木は2枚のバスローブを拾い、一枚を薪の背中に着せ掛けた。残る一枚に自分も袖を通しながら、
「よっぽどショックだったんですねえ。可哀想に」
 世間一般に言って可哀想なのは青木のほうだと思うが、それはあくまで第三者の目線であって青木の自意識とは一致しない。
「薪さんがまたオレの身体に触れたくなるまで、待ちますから」
 青木は待つのは得意だ。もともとが犬体質の彼は、ご主人様が待てと言えば何時間でも待つ。
 引き換え、薪は気短かだ。自分の気持ちに気付くのこそ時間が掛かったが、分かってからの行動は実に早かった。好きだと告白して、その場でキスをして、その夜には裸でベッドインしたのだ。途中で逃げられたが。

「待たなくていい。僕は青木の身体に触れたい、今だって」
「でも、視界に肌色が入っただけでその状態じゃ……なんですか?」
 しゅっとバスローブの紐を引き抜くと、薪はそれを自分の目に当てた。後頭部で端部を縛り、「これで大丈夫だ」と青木に顔を向ける。
 薪は夜目が効くから部屋を真っ暗にしても相手の身体が見えてしまう、でも目隠しをすればそれは防げる。そういう理屈らしいが、青木は困惑するばかりだ。

 だって、エロイ! 半端なくエロイ!!
 小作りな美貌の上半分がタオル地の白布に覆われて、見えるのは小さな鼻と艶っぽいくちびる、それと細い顎だけ。強気な眉が隠れてしまっているから、あどけなさは最高潮だ。そのくせバスローブの合わせから覗くのは、大人の快楽を知っている身体。こんなものを見せられたら理性が保たない。

「すいません、オレが大丈夫じゃないです」
「僕だって、こんな変態チックなプレイは好みじゃないけど。こうでもしないと先に進めそうにないから」
「そんな無理をなさらなくても。薪さんの記憶が薄れるまで待ちます」
「生憎だが、僕の記憶は新生児から残ってる。僕を取り上げてくれた看護師さんの顔まで憶えてるぞ。鼻の横にホクロがあった」
「マジですか」
 新生児の視力は0.02程度、普通に考えれば見えるわけがないのだが、薪の場合、この人ならそれくらいのことはやりそうだと思わせるところがすごい。

 自分の視界が暗闇に包まれているからか、薪はいつもより積極的だった。屁理屈を重ねる間にも、青木のバスローブの隙間から手を入れてくる。
「触るのは平気ですか?」
「うん、平気だ。青木の筋肉は手が覚えてる」
 薪は形を確かめるように、両の手のひらを青木の胸に置き、その間に顔を伏せた。広い胸に額が押し付けられ、次に鼻先、そしてくちびる。左胸の乳首のすぐ横を、ちろりと濡らす感触。
「肌の味も」
 赤くて小さな舌先が、ふっくらした下唇から悪戯っぽく吊り上がった口角までを舐め上げる。唾液で光ったくちびるの強烈な誘惑に、青木は眩暈を覚える。
 これを無意識でやってのけるのだから恐れ入る。この人は天性のマノンレスコー、自覚がない分タチが悪い。

「おまえの手の感触も。僕の身体が、ちゃんと覚えてるから」
 手探りで取られた青木の右手が、やわらかな内腿に導かれる。さらっとしてすべすべした手触り。薪の身体は全部好ましいけれど、中でも一番好きなのがここの皮膚の感触だ。撫でさすると薪の脚はひくんと震えて、青木は紳士ではいられなくなる。
「だから青木、んっ」
 強いくちづけで言葉を奪うと、青木は強引に彼をシーツに押し付けた。青木の身体の下で薪の身体が強張ったのが分かったが、やさしい言葉を掛けてやる余裕がなかった。青木の唇が為したのは彼を安心させるための言葉を紡ぐことではなく、彼の首筋に彼には見えない徴を刻み付けることだった。
 うっ、と低く呻く薪の声が聞こえた。彼の胸を擦った指先に、必要以上に力が入っていると自分でも思った。でも止められなかった。
 薪が悪い。目隠しなんかで誘惑する方が悪いのだ。

 痛みを堪えるような薪の声は、青木の行動の抑止力にはならなかった。それどころか視界の不自由さとの相乗効果で、彼をいっそう扇情的に飾り立てた。
「あ、青木」
 しかめられた眉の形が分かりそうな声で、薪に名前を呼ばれた。力任せの愛撫が彼に快楽を与えていないことは察しがついたが、もう戻れないところまで来ていた。
 もしかしたら、今日は薪を泣かせてしまうかもしれないと心の隅で案じた。しかしその涙は目隠しの布に吸い取られて、頬を伝うことはない。だから彼の涙を見ずに済むと、そんな姑息な考えが浮かぶほど、どうしようもなく彼が欲しかった。
 ただただ、彼が欲しかった。




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

天国と地獄9 (3)

 お暑い中、お越しくださいましてありがとうございますー。
 連日の拍手、ありがとうございます。 いっぱい励ましてもらってます。(〃▽〃)
  

 男爵の目隠しプレイ、こちらでおしまいです。
 暑さが倍増しそうなくだらなさですみませんっしたー!


 



天国と地獄9 (3)








 はあ、とため息を吐き、薪はうつ伏せに寝そべった。すかさず、青木は白い背中を毛布で覆う。汗をかいた後に裸で寝ていたら、風邪を引いてしまう。
 薪は毛布の肌触りに相好を崩し、長い睫毛を快楽の余韻を楽しむ形に閉じた。そうしてしばらくの間まどろむ風だったが、やがて眼を開け、先刻まで自身の視界を覆っていたバスローブの紐を摘み上げて、
「なんか、今日はすごくよかった。こいつのせいかな。クセになるかも」
「カンベンしてください。オレの指が保ちません」
 ヒリヒリと痛む小指を自分の手で擦りながら、青木は土下座せんばかりに頼む。自分の指を噛んで、ようやくの思いで留まったのだ。もう一度仕掛けられたら、この次は指を噛み切ってしまいそうだ。

「バカだな。歯形が残るほど噛みやがって」
 呆れた声で薪は青木の手を取り、口調とは正反対の優しさで彼の傷ついた指を慰撫した。傷口にそうっとキスをして、舌先で舐める。原始的な治療を施したつもりかもしれないが、この状況下にあってはやけに艶めかしく感じた。
「我慢しなくてもよかったのに」
「イヤですよ。初めてなのに、目隠しなんて」
 嘘だ。本当はその気だったのだ。あんな誘惑を受けて堪えろと言う方が無理だと、開き直って奪ってしまうつもりだった。多少嫌がっても、決定的な亀裂には到らないはずだ。肌を重ねるようになって半年にもなるのだ、遅いくらいだ。

 最初に来る彼の痛みを、哀れに思ったわけではない。青木を止めたのは、理性でも同情心でもなかった。薪の協力的な行動が、青木の情動に歯止めを掛けたのだ。
 誘導されて触らされて押し付けられて、彼の身体の一部分でありながら本体を簡単に支配下に置くことができる中枢を、無防備に委ねられた。そこに、不安はなかった。恐れも猜疑も、目隠しによる単純な惑いすらなかった。
 何をされてもいい、青木が自分を傷つけたりするはずがない。視界を奪われて尚、彼は母親を信じる赤子のように無垢だった。
 愛されてると思った。
 そもそも人は、信頼できない人間の前で自ら視界を塞いだりしない。そう思うと、彼の信頼を裏切るような真似はできなかった。

 一緒の毛布に入って、薪と同じ姿勢を取って、青木は薪に微笑みかけた。施術のお礼に、彼の可愛い肩にキスをしながら、
「初めて薪さんの中に入る時には、薪さんの顔を見ながら入りたいんです」
 ちょっとロコツだけど、これは青木の本心だ。だって、一生の思い出になる瞬間だから。互いの顔を見て、互いの愛情を確認し合いながら、彼と結ばれたい。
「悪趣味なやつ」
「あ、いえ。別に薪さんの痛がる顔を見たいわけじゃ」
「そうじゃなくて。ああいうのは、暗い所で眼を閉じてするのが一般的だろ」
「オレは明るいとこで、眼を開けてするのが好きなんです」
 悪趣味、と薪はもう一度青木の理想にケチを付けた後、顔の前で交差させた自分の両腕に鼻先を埋めて、
「正直言うと、少し怖いんだ。いざとなったら、また逃げだしちゃうかも」
「やさしくします。初めてですから無痛と言うわけにはいかないかもしれませんけど、できるだけ痛くないようにしますから」
 そのために何ヶ月も掛けて薪の身体を慣らしているのだ。青木も後ろを使うのは初めてだから確信は持てないが、モノの本によれば2ヶ月程度のレッスンで快感を得られるようになるそうだ。細いものから始めて、徐々に大きくしていく。初めての夜から受け手に悦びを与えようと思ったら、それしか方法がない。青木が我慢するしかないのだ。
 一日おきくらいに訓練するのが理想的なのだが、仕事が忙しくてそうもいかない。結局、半年経ってもこの有様だ。それでも初めの頃に比べたら、指を入れるときの反発力も減ってきたし、感度も上がってきた。あと一息だ。

「痛かったら止めます。指を噛みちぎっても止めますから」
 そうじゃなくて、と薪は先刻と同じ言葉で青木の言を遮り、自分の怯懦を恥じるように、小さな声で弱音を吐いた。
「おまえのことは好きだし、多少の痛みは覚悟してる。でも、男に犯されるんだぞ。自分がどう変わってしまうか分からない。怖くて当たり前だろ。おまえだって同じだ。このまま女が抱けなくなったらどうしようとか、不安じゃないのか?」
「オレはもともと薪さん以外には欲情しませんから」
「そうか。おまえはとっくにヘンタイになってたんだな」
 身も蓋もない言葉で、薪は青木の純情を切り捨てる。相談した自分がバカだった、と言いたげに頬杖を付き、ふん、と高慢に眼を閉じた。
 そんな薪の様子に、青木は思わず笑ってしまう。つんつんしてる薪はかわいい。誰が何と言おうと、可愛いものは可愛いのだ。

「オレには不安はないです。自分がどう変わるか、分かってますから」
 未来が分かる、と断言した青木に驚いて、薪は弾かれたように頬杖を外した。分かるのか? と身を乗り出してくる彼の素直さに、溢れ出すような愛しさを感じながら、青木は自信たっぷりに予言した。
「薪さんと結ばれたら、もっと薪さんを好きになるに決まってます」
 青木は心から言ったのに、薪の反応は微妙だった。驚くでもなく、嬉しがるではもっとなく、眉を顰めて前を向くと、ベッドの上に無言で突っ伏した。

「そんなの、僕だって同じだ。だから怖いんじゃないか」
「え? いま、なにか言いました?」
 薪の腕とシーツに閉じ込められた彼の言葉は、青木の耳には届かなかった。聞き直せば、返って来たのはいつもの憎まれ口。
「おまえがこれ以上ヘンタイになったら、僕の手に負えないって言ったんだ」
「もう。人のこと変態呼ばわりしないでくださいよ」
「だってヘンタイじゃないか。女の子のハダカを見ても反応しないくせに、僕みたいなオヤジに添い寝してるだけで、ほら」
「ちょ、触らないで、あっ、握っちゃダメ、ダメですってば!」
「さっきのお返しだ。今度は僕が」
 薪が悪戯っぽく笑うと、ものすごくコケティッシュだ。青木の大好きなたおやかな手が、真っ白い指が、青木の深部をまさぐる。応じて青木が脚を開くと、薪は毛布の中にごそごそと潜り込む。
「ぼく、が……」
 ぎゅ、と薪の手に力が入った。気持ちいい、でもちょっと痛いかも、いや、痛い、痛いです、てか潰れるっ!

「薪さん、痛いですっ、緩めてくださ」
「コケコッコーッ!!」
 けたたましく叫んで手を離すと、薪はベッドから飛び出した。投げつけられた毛布から青木が顔を出したときには、彼の姿はバスローブと共に消えていた。残っていたのは彼が乱したシーツと、今宵のアイテムになったバスローブの紐だけだった。
 薪が忘れて行ったバスローブの紐を取り上げ、青木はそれを自分の両目にあてがった。後頭部で二重に縛り、無感動な声で低く呟く。
「もう、何も見たくない」

 薪と一緒に一生の思い出を作れる夜は、まだまだ先のようだった。




(おしまい)





(2012.4)



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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