ミッション(1)

 予告のお話の前に雑文をひとつ。

 これ書いたの2年以上前なんですけど、あまりにもくだらない内容なのでお蔵入りにしておいたら、次の東照宮SSの中にこの話がないと何のことやらな部分があって、仕方ないので引っ張り出してきました。
 そんな経緯なのであんまりデキのいい話じゃないです、すみません。 しかもRなので、苦手な方には二重にすみませんです。 どうか広いお心で。




 
ミッション(1)






 
 薪が、またおかしなことを始めた。
 
 牛ヒレのカットステーキを口に運びながら、青木は疑問が顔に出ないように注意して向かいの席を見た。
 青木の恋人はダイニングテーブルの下で優雅に足を組み、シャンパングラスを傾けている。こくりと白い喉を鳴らし、取り澄ました顔でグラスをテーブルに置くと、青木の視線に気づいてにっこりと笑った。
 ……悪寒がする。
 いや、視覚的に気持ち悪いわけじゃなくて。

 自分の恋人の自慢になってしまうから出来る限り控え目に言うと、薪はこの世で一番可愛くて美しい。断っておくが、これはふざけている訳ではなくて、本気で控え目に表現しているのだ。
 遠慮なしに言わせてもらうなら、疑うべくもなく宇宙一。さらに本音を言わせてもらえば、この世が始まってから滅亡するまでの間に、彼以上の美しい生物は生まれ得ないと断言できる。彼を見た後では、世界三大美女ですらただのおばさんに見える。
 勿論これは青木の主観であって、一般論とは大きく隔たりがあるが、青木の中では紛れもない真実だ。そうでなければ、このややこしい性格の男を恋人にしたいなんて思わないだろう。

「美味いか?」
「あ、はい。とっても美味しいです」
 これは青木の主観ではない。薪の料理の腕前はプロ級だ。彼の料理が舌に合わなかったと言う人間には、未だお目にかかったことがない。
「良かったら、僕の分も食べるか?」
 やさしそうに微笑んで、薪は自分の皿を青木の方へ差し出した。
 ――気持ち悪い!

 薪は意外とやさしい、でもそれは表面に現れることは滅多となく、ましてや言葉に表れることは絶対に無い。態度はぶっきらぼうだし言葉は乱暴だし、何か余計なことを言わないと気が済まない性格だし。こういう場合は「そんなに意地汚くしてると、そのうち餓鬼に取り付かれるぞ」なんて嫌味の一つも添えるのが普通だ。
 あまりにも普段と違う薪の態度に、青木は薄ら寒さを覚える。これまでの経験が教えてくれる、このひとが自分にやさしくしてくれるときは、必ず裏に何かあるのだ。

「どうした?」
「いえ。なんか、胸がいっぱいで」
 遠まわしに薪の好意を断ると、薪はこの上なく美しく微笑んで、
「遠慮しないで。君のために作ったんだ。たくさん食べなさい」
『君』? 『食べなさい』……?
 言葉遣いまでヘンなんですけど!! 絶対になんか企んでるよ、このひと!

 薪は、こんな喋り方はしない。青木のことは『おまえ』もしくは『バカ』と呼ぶ。職場でも家でも丁寧語なんか使われたことがない。青木は部下だし、それが普通だと思っていたが、こうしてデスマス調で話されると想像を絶する気持ち悪さだ。どうしてだか夢中で謝りたくなってきた。
 だいたい薪が自宅でシャンパンなんて、何かの記念日でもなければありえない。床に胡坐で日本酒がこのひとの飲酒スタイルだ。それは確かに薪の見た目を甚だしく裏切って、でも見慣れるとこの上なく可愛くて、青木は薪のそんな姿を見るのがとても楽しみだった。
 今、目の前にいる薪は優雅で穏やかで、その麗しい外見からもたらされるイメージを髪の毛一筋も損ねることなく完璧に振舞っている。それは神が造りたもうた奇蹟のような彼の造形にはとても相応しい所作だと思うし、政界の重鎮とも会合を持つ立場にある彼には、必要欠くべからざる技能のひとつだ。

 でも、今はプライベイト。
 堅苦しい職務の反動か、家にいるときは自堕落一歩手前までリラックスする、そんな薪を知っている青木に迫ってくるのは、圧倒的な違和感。吐き気がするくらい気味が悪い。何だか肉の味が分からなくなってきた。

 居心地の悪い食卓を早く離れたくて、青木は薪にもらった肉を急いで頬張る。その様子を薪は、穏やかな瞳でじっと見守っていた。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

ミッション(2)

 3連休ですね。
 みなさん、いかが過ごされますか?

 わたしはお義母さんのお伴で温泉行ってきます。
 帰りは月曜日になるので、次の更新は来週の火曜日です。 よろしくですー。






ミッション(2)






 始まりは、一本のメールだった。

『今夜は忘れられない夜にしたい。18:00に家で待っている』

 スペシャルな夜を予感させる文面に、青木は背筋が震えるような感覚を味わった。薪からこんなロマンチックなメールが届いたのは初めてだったからだ。
 薪からのお誘いメールは実にシンプルで、その書式は『帰宅(又は在宅)予定 ○○:○○』というものだ。丸の中の数字が変わるだけで手紙といえるものではない。たまに買ってきて欲しいもののリストが追記されていることはあるが、それだって「米」「味噌」「ミネラルウォーター」という具合に品名が連なっているだけだ。業務連絡だってここまで味気なくはない。
 そんな薪が、『忘れられない夜にしたい』なんて。
 彼にどんな心境の変化があったのかは不明だが、きっと今夜はとびきりのサプライズが待っているに違いない。逸る心を抱えて、青木は彼のマンションへと急いだ。
 天にも昇る心地で彼の部屋のチャイムを押すと、薪は直ぐに出てきて青木を中に招き入れ、ニッコリと笑って青木を地獄に突き落とした。

「これまでのことは無かったことにしてくれ」
 あまりにも突然で、咄嗟には言葉が出なかった。『忘れられない夜』ってこういう意味?
 薪が自分にサプライズを用意しているとは思っていたが、それが別れ話だなんて。予想もしなかった。別離を言い渡された理由に、心当たりはまるでなかった。

「どうしてですか」
 声が震えないように気を付けたつもりだったが、やっぱり語尾が揺れてしまった。青木の視界は薄暗く曇り、立っているのが精一杯だった。
 実際に貧血を起こしそうな青木に畳み掛けるように、薪は非情に言葉を継いだ。
「ずっと後悔してた。だから全部忘れて欲しい」
 後悔――。
 薪は、自分とこういう関係になったことを後悔していたのか。
 たしかに今まで良いことばかりじゃなかった、ケンカもすれ違いもたくさんあった。でも青木はそれで薪と別れようなんて思ったことは一度も無いし、こうして彼との関係が続いている限りすべてが大切な思い出で、忘れるなんてできるはずがない。

「そんなの、無理です」
 青木が辛そうに首を振ると、薪は上目遣いに青木を見上げて、
「おまえの気持ちも分かるけど。僕だって考えに考えた上での提案なんだ。聞き分けて欲しい」
 直情型の青木と違って、薪は物事を広い視野で考えるタイプだ。恋人関係においては相手と自分の気持ちが一番大事だと青木は思うが、薪は周囲の人間に与える影響や仕事のこと将来のこと、とにかく色々なことを考えてしまう。その結果、別の道を歩んだ方がお互いのためになると判断したのだろう。

「どうしてもダメか?」
 困惑した薪の表情に、青木は心が張り裂けそうになる。
 恋人に別れを切り出されて、嫌だとダダを捏ねられるほど青木も子供ではない。同性の恋人を持つことの危険性もデメリットも、嫌と言うほど分かっている。薪が尊敬している上司に自分たちの関係を否定されてさんざん悩んでいることも知っているし、もっと現実的なことを挙げれば、薪ほどの天才が自分の遺伝子をこの世に残さないなんて世界的な損失だと思う。
 何よりも、薪がそう決心したのなら。
 自分の想いは二の次だ。彼の意向に副うよう、彼の憂いを増やさぬよう。薪が新しい幸せを見つけてくれるならそれは自分の幸せでもあると、泣き叫ぶ心を必死になだめ、青木は小さく頷いた。

「……わかりました。薪さんが、そう望むなら」
「そうか!」
 薪はパッと明るい笑顔になって、青木の手を取った。
「良かった。これは僕一人じゃできないミッションだからな」
 相変わらず勝手なひとだ。一方的に別れを切り出しておいて、自分一人じゃできないって、意味が分からない。
 それになんなんだ、この異様に明るい笑顔は。
 思ったよりすんなり別れられて、薪は嬉しいのかもしれない。でもここは嘘でもいいから寂しそうな顔をするとか、苦渋の決断だったと辛そうな顔をして見せるのが3年も付き合った恋人に対する思いやりってもんじゃないのか。
 くそ、あんなに簡単に頷いてやるんじゃなかった、などと遅すぎる反発心を抱えながらも薪の笑った顔はやっぱりかわいいと彼に見惚れている自分がいて、本当にどうしようもないのは自分自身だと青木は悟る。
 恨むだけ無駄だ。自分は、骨の髄までこのひとに溶かされてしまっているのだから。

「じゃあ今から始めるぞ」
 明らかに浮き浮きした口調で、薪は青木に笑いかけた。まるで水族館のイルカショーを見ているときのようなはしゃいだ表情で、青木の首に両腕を回してくる。
 始めるって何を、と訊こうとした青木の唇に、薪の細い指が当てられた。人差し指1本で青木の唇を封じた薪は、いつになく大人っぽく微笑んで、
「そんなに緊張しなくていい。僕に任せておけば大丈夫だから」
 ……なにを?
「食事の用意ができてる」
 ……お別れ会ですか?
「おまえの気持ちも分かるけど、何か腹に入れておいたほうがリラックスできるぞ」
 振られ男にリラックスもクソもあったもんじゃないんですけど。
 って、なんか違う。これは違う、別れ話じゃない。きっと自分はとんでもない勘違いをしている。そして多分薪は突拍子もないことを考えている。

 青木のその予感は、食事とシャワーを終え、薪に手を引かれて寝室のドアをくぐったとき確信に変わった。
 暖かな色合いの間接照明に浮かんだベッドの上に、チューリップの花束が置いてあった。薪から差し出されたそれを受け取って、青木はその可愛らしい花の中に隠された危険物を見つけ出す。小さい正方形の、周囲がギザギザになったカラフルなアルミの袋に密閉された、これはそのいわゆる大人のアイテム。
 絶対に最後の思い出とかじゃない。別れのエッチでこんな茶目っ気のあることができるほど、薪は恋愛慣れしていない。

 取り上げた花束の代わりに青木をベッドに座らせると、薪は青木のパジャマのボタンを外し始めた。いまひとつ真意はつかめないが、それでも薪が何をしようとしているのかは分かったので、いつもするように青木も彼のボタンを外そうと手を伸ばした。
 しかしその手は薪の右手に制された。
「焦らなくていいから」
 いや、別に焦ってませんけど。
「大丈夫。僕に任せろ」
 任せるも何も、薪さんいつも『好きにして』状態じゃ。
「誰だって初めてのときは緊張するだろうけど。僕を信じて」
「初めてって、何がですか?」
 その一言が、今宵の魔法を一瞬で消し去る反魂の呪文だった。

「せっかくここまで運んだのにっ! 台無しだ!」
 薪はピタリと手を止め、それまでの穏やかな微笑を消し去って、
「おまえのせいだぞ、青木!」
 あ、元に戻った。
「すみません、ちょっと詳しく説明してもらえないですか? 薪さんが何をしようとしているのか、オレにはさっぱり」
 何時間もの苦労を水泡に帰された腹立ちから、薪は投げやりな動作で床に胡坐をかき、身体を斜めにして、右ひざの上に肘を当てて頬杖をついた。
 うん、完全にいつもの薪さんだな。

「さっき説明しただろ。おまえ、納得してたじゃないか」
「何をですか?」
「これまでのことは忘れてくれって言ったら、分かりましたって頷いただろ」
 推理ドラマで名探偵が犯人を言い当てるときのように鋭く指差されて、青木は薪の言葉をしっかり理解しようと努める。
『これまでのことは忘れてくれ』、それは確かに聞いた、聞いて頷いた。それで?

「だから、今おまえは僕と付き合い始める前ってことだ」
 …………はい?
「要するに、今夜が初めてなんだ」
 そうなるのか!? 
 わからない、やっぱり薪の考えることは全然わからない!!

 ぐるぐると渦巻く疑問符が、青木の身体中を埋め尽くしている。頭の中だけじゃなくて文字通り身体中、耳の穴どころか爪の間からさえクエスチョンマークがぽわわんと浮かび上がりそうだ。
 しかし、青木は腐っても第九の捜査官。考えろ、推理しろ、薪の言動のどこかに謎を解く鍵は隠されているはず……いや、聞いたほうが早い。薪の思考経路は常人には理解できないし、青木の推測など一度も当たった試しがない。逆に思い違いをして余計なことになるのがオチだ。

「どうして今更こんな」
「どうしてって」
 怠慢にも考えるという捜査官にとって不可欠の作業を放り出して青木が疑問を口にすると、薪はそれを咎めるでもなく、頬杖を外して口を開いた。
「ずっと後悔してたって言っただろ。おまえに悪いことしたって」
 胡坐の形に広げていた両膝を立てて細い腕を回し、小学生が体育の授業のときに体育館の床に座るような体勢になると、小さな顎を膝頭につけて、薪はベッドに座ったままの青木を見上げた。

「あの時おまえ、すっごく期待してただろ」
 3年も前の、でも決して忘れられないあの夜のことを薪が口端に上らせれば、その時の自分の切羽詰った心理状態が消しようのない罪の意識と共に浮き彫りになってくる。あの件については100%青木が悪いのだから薪に恨まれていても仕方ないと思っていたのに、申し訳なさそうにしているのは何故か薪のほうだ。
「僕が年上だから、上手に導いてくれるって信じてただろ。それがあんなことになっちゃって……ずっと悪いことしたと思ってたんだ」
「悪いことしたのはオレのほうで」
 青木が謝罪しようとすると、薪は細い首を左右に振って、青木の言葉を遮った。
「僕が正直に言えばよかったんだ。年は上だけど経験は少ないって。スムーズにできる自信はないって。だけどそんなこと言うの照れ臭かったし。見栄もあって」
 そう言えば、と青木は当時の彼の矛盾を思い出す。
 薪は『僕がリードするから』とか言ってたけど、あれはリードとは言わない。青木は年上の女性とばかり付き合ってきたからよく分かっているが、彼女たちは青木の手を取って自分の身体に触れさせたり、自らの局部を押し付ける仕草によって、時には具体的な言葉まで用いて、青木に自分の身体が青木を受け入れる準備をさせる。だけどあの時の薪にはそういった行為が一切なくて、ちゃんとほぐさなきゃいけないとか慣らしてからじゃないと怪我をするとか、そういう大事なことをぜんぜん教えてくれなかった。勿論、勉強していかなかった青木が一番悪いのだが、薪のリードと言う言葉に青木が誤解させられたのも事実だ。

「だから、初夜のやり直しをしてやろうかと」

 ……何を考えているんだろう、この人は。
 そんなことをしても過去が変わるわけじゃない。自分が薪を傷つけた罪は消えない。青木はそう思ったが、すぐに考え直した。
 薪が年上らしくリードしてくれる、そんなベッドも楽しいかもしれない、てか絶対に楽しい。薪は恥ずかしがり屋で、なかなか自分から積極的に動いてくれないのだが、こういうシチュなら攻めの彼が見られるはず。

「ぜひっ! 是非お願いしますっ!!」
 青木はパッと床に膝をつき、薪の方へ身を乗り出して叫んだ。
「最初から素直にそう言えばいいんだ」
 最初からそう説明してくれれば良かったんです、などと思ったことを口に出すような愚行は犯さない。青木は黙って薪の肩に手を伸ばした。

「じゃあ仕切り直すぞ。まずはメールを」
 ……そこからですか。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

ミッション(3)

 ただいまですー。
 無事に帰って参りました。
 旅行先の海は濃霧がすごくって、せっかくのオーシャンビューが真っ白でした。 悔しかったので青薪さんのプールネタを考えました。 今度書くー。


 で、こちらの続きですね~。
 今さらですが、なんでこんな頓狂な話を書いたのかようやく思い出しました。
「消せない罪」で青木さんが薪さんをレイプしたって思ってたことを薪さんが知って、じゃあ何とかしたろってんで男爵脳が動いたんでした。 2年も経つと忘れちゃうねえ。


 ここからRなので追記からお願いします。




ミッション(3)


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ミッション(4)

 辻褄合わせの雑文、これでおしまいです。 つまんないもの読ませちゃってゴメンナサイ。 
 次の本編はこれよか幾らかマシだと思います。 よろしくです。






ミッション(4)





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プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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