そぞろ歩きのゆうべ

 仕事に忙殺されてるうちに1週間経っちゃいましたね~。
 今回の現場は色々あって、頭の痛いことも多いですけど、ブログは楽しくやりたいです。


 というわけで(わたしが)嬉しい話。

 法十のカウンターが先日10万を超えました♪
 通ってくださる方々、一見さんも含め、みなさまのおかげです。どうもありがとうございます(*^^*)
 これからも、訪問者さんに笑顔になっていただけるブログを心掛けていきたいと思います。よろしくお願いします。←ドSが何を言うかというツッコミは無しでお願いします。 


 10万ヒット記念SS、書きたかったんですけど、今はリアルがちょっと(^^;
 お古で申し訳ないのですが、昔書いた雑文をひとつ、公開します。

 時期は、薪さんと青木さんが一緒に暮らし始めて間もない頃。
 季節は初夏です。(いつもいつも季節外れですみません)







そぞろ歩きのゆうべ





 そぞろ歩きのゆうべ。
 あてどなく、理由もなく、一緒に歩く相手もいない。僕は今、限りなく自由な時を過ごしている。

 勤め先がある以上、仕事中は一人になることはないし、プライベートも接待やら付き合いで他人に囲まれる時間が多い。家に帰れば、最近一緒に暮らし始めたボディガードが待っている。
 ボディガードが家で待っている、というのは明らかに職務怠慢だな、と思いながら、右手のショーウィンドウの中の「2068年夏のトレンド」と銘打たれた何着かのスーツを眺める。パープルがかった生地のスーツは心惹かれるものもあったが、高価そうだし、この色は職場ではNGだな、と諦めた。
 以前だったら気に入った商品は、服でも靴でも値段など気にせずに購入していたのだが、一緒に暮らし始めたボディガードが経済観念の発達した男で、こちらの財布の事情にまで何のかんのと文句をつけてくるものだから、商品の値札を確認して購入を諦める、という習慣が付きつつある。
 ボディガードが主人の財布の中身をチェックするというのも越権行為だと、そう思いながら、2軒隣の本屋に入る。お気に入りの作家の新作を何冊かと、定期購読している肉体改造のテキスト(これを単なる雑誌なんて言わせない)及び、息抜きの為のPC雑誌、それからボディガードに頼まれたCar雑誌を1冊。ボディガードが主人に買い物を頼むって、これもまたヘンだ。

 けっこう量がかさばってしまったので、書店のレジが気を利かせて手提げ袋に本を入れてくれた。受け取る際に何気なく腕時計を見ると、7時半。家を出てから1時間半も経っている。
 そろそろかな、と予感がして、パーカーのポケットから携帯電話を取り出してみる。
 1時間だけ、という約束で出てきたのだ。家にいる彼から電話が入る頃だろう。でもこれからコンビニにも寄りたいし、何よりもボディガードの説教を聞くのはうんざりだ。

 ……いいや、携帯切っちゃえ。

 電波が悪かった、という姑息な言い訳を使おうと決心して、電源ボタンを押そうとした瞬間。Callingの文字と共に、ボディガードの氏名が画面に表示された。
「ちっ」
 シカトを決め込んだら、あとで何を言われるか、もとい、何をされるかわかったものではない。以前、これと同じ状況で掛かってきた電話を面倒だから放っておいたら、帰ってから酷い目に遭わされた。帰ってすぐではなくて、夜中、ああいうことで逆襲してくるって、ボディガードとしてというより人間としてどうなんだろう。その上その時の言い草が、「薪さんだって、電話の着信音が聞こえないくらい本に夢中になってたんでしょ?オレだって今は夢中ですから、何にも聞こえません」って、あんなにやめてくれって叫んだのに、聞こえないわけないだろう。結局、この次からは必ず電話に出ること、って約束させられてしまった。ボディガードが主人を脅すって、しかもあんな非人道的な方法で、ぜったい間違ってる。

『薪さん。今、どちらにいらっしゃるんですか?』
「電車の事故で動けなかったんだ。買い物を済ませたらすぐに帰る。あと30分くらいだから家で待ってろ」
 調べれば簡単に分かる嘘でも、こいつは調べない。何故なら、聞いた瞬間にウソだと分かっているからだ。
『わかりました。コンビニはやめて、まっすぐ帰ってきてくださいね』
 ほら、見抜かれてる。
 僕の最近のブームは、コンビニで変わった味のジュースを買うこと。季節限定とか新商品のブースに、飲むのが怖いような味のジュースが置いてあることがあって、それを彼に無理矢理飲ませるのが面白い。(僕的に一番面白かったのは、モンブランペ○シだった)3回くらい連続でありえない味のジュースを飲ませてやったから、あいつも警戒心を持つようになったらしい。

 コンビニは諦めて、家に帰ることにした。
 電車に揺られて一駅、電話を受けてから15分くらいで吉祥寺の駅に着くと、ボディガードが迎えに来ていた。30分、と言ったのに、まだその半分も過ぎていない。せっかちな男だ。
「お帰りなさい」
 約束の時間を超過したことと、見え透いたウソで自分を騙そうとしたこと、どちらの怒りも見せずに、彼はにっこりと僕に笑いかけた。僕は当たり前のように彼に荷物を預けると、迎えに来てくれた礼どころか「ただいま」も言わずに、駅の出口に向かって歩き始めた。後ろから彼の長身が自分を追いかけてくるのに、
「家で待ってろって言っただろ」
 素っ気無い言葉に怯む様子も見せず、彼は僕の隣に並ぶと、すみません、と素直に謝った。謝罪する謙虚さがあるのなら、それを主人の言いつけを守る方へ向けて欲しい。

 階段を下りて、いつも使っている公園側の出口に向かう。出口の近くには売店があって、売り物の新聞を整理していた年配の女性が、彼に声を掛けてきた。
「あら。すれ違いにならなくてよかったわね」
「あ、はい。ありがとうございました」
 毎日通勤に使っている駅の売店の女性の顔くらい、僕も覚えている。詳細は不明だが、連れが世話になったらしいことも察しが着いたから、軽く会釈しておいた。

「すれ違いって何のことだ」
 南口の階段を下りて、賑やかな駅前通りを歩きながら、雑踏のざわめきにまぶすようにして尋ねる。気付かれなくても仕方ないくらいの音量で、それでも彼は僕の声を決して聞き逃さない。
「最初に駅まで来たとき、財布を忘れちゃいまして。何かあったら困るので、一度家に帰ったんです。そのとき行き違いなったら困るから、彼女に薪さんが通るかどうか見ていて欲しいって頼んでおいて」
「一度帰った? おまえ、何時からあそこで待ってたんだ」
「7時です」
 それは当初の約束の時間で、でも今まで一度も守られたことがない。10回近くも経験しているのに全然学習しないなんて、こいつやっぱりバカだ。

 これまでもずっとそうだったのだろうと思って、僕は困惑する。駅なんて人目につくところで1時間以上も自分を待っている彼の姿は、周囲にどう映っただろう。
 本当に、迎えになんか来て欲しくない。彼はきっと僕の気持ちに気付いていない。

 公園口から出て、家路を辿る人々に混じり、彼らと同じ目的で僕たちは歩く。程なく井の頭公園が左手に見えて、ここは吉祥寺通り。
「今日は、どちらに行ってらしたんですか?」
「その辺」
「夕飯、お刺身と蕗の煮物でよかったですか? 美味しそうな蕗が売ってたから、おかか煮にしたんですけど」
「うん」
 自分の気持ちを分かってくれない同居人に感じるほんの僅かな腹立ちも手伝って、僕の態度はますます素っ気無くなる。何を話しかけても僕が生返事しかしないので、相手もようやくこちらの気分を察したらしい。
「すみません……迷惑、なんですよね?」
「ああ」
 肯定すると、彼は見るも無残なくらいにしょぼくれて、僕はそれでやっと気分が上向きになる。自然と足取りも軽くなるが、それを相手に悟らせるほど可愛い性格はしていないし、怒りも治まっていない。

「あのっ」
 一つ目の大きな交差点に差し掛かり、信号待ちをしていると、彼は思いつめたような口調で言った。
「本当はオレ、わかってるんです。薪さんが一人になりたいんだってこと」
 信号が青に変わり、流れ出す人の波に乗りながら、夜の空気に混じる夏の匂いを嗅ぎ取る。力強い、緑の匂い。春の爽やかな新緑の香りも好きだが、この匂いも捨てがたい。男という生き物は、強いものに惹かれる傾向があるのだ。
「薪さんはずっとお一人で暮らして来られて、今まではお一人の自由な時間を満喫されてきたわけですよね。でも、この春からオレが同居させていただくことになったから。生活スタイルが崩れて、だから時々、お一人になりたいんだなって。オレについてくるなって、そういうことでしょう?」
 二つ目の信号にも見事に引っかかって、僕らはまた立ち止まる。隣に立つ長身が、後ろから来た男からさりげなく僕を隠すように動いた。一応、ボディガードとしての仕事もしているのだ。
「でもオレ……仕事中は我慢しますけど、プライベートのときはできるだけ薪さんの傍にいたくて」
 三つ目の信号を左に折れると、森林公園がある。都会にしては緑が多いこの通勤路を、僕はかなり気に入っている。この辺までくると、通りの人影は少なくなる。店もないし、夜の森林公園は照明も少ない。けど、その分静かだ。
「だってオレ、薪さんのこと大好きだから」
 抜け目なく、近くに誰もいないのを確認してから、ぼそっと洩らした彼の言葉に、僕は心の中でほくそ笑む。
「だったら尚更だ。家で待ってろ」
「……はあい」
 がっくりと肩を落として、大きな背中を情けなく丸めて、彼はため息混じりに返事をする。

 やっぱり分かってない。かすりもしない。
 まあ、そこがこいつの可愛いところなんだけど。

 一緒に暮らし始めて僕の生活スタイルが変わった、という彼の見解は合っている。だから一人になりたい、という理由も。だけど、その理由は彼の言う個人的な自由時間とは関係ない。
 僕は、実感したいだけだ。
 彼とふたりで同じ家に住むって、自分でも未だに信じられない幸福を、心行くまで感じたいだけだ。

 ひとりになって街を歩くと、彼のことがもっと好きになる。
 ウソだと思ったら試してみるといい。恋をしている人なら絶対に僕と同じ心情になるはずだ。
 連れ立って歩く人々を見ると、自然に彼のことが浮かぶ。コーヒーショップの窓際の席に、横断歩道の人ごみの中に、彼の幻が見えるようになる。
 ショーウィンドウを眺めがなら、本を選びながら、だんだんに彼のことしか考えられなくなっていく。それは僕の身体中が彼への恋心で満たされていく、そんな感覚。
 僕にとって、それはとても大切な時間で、家に飛んで帰りたくなる心を抑えて駅に向かうときの気分はものすごく弾んでて、そんな気分でマンションのドアを開ければ、そこには愛するおまえが待ってる。そうしたら顔を見た瞬間、抱きついてキスしてやろうと思うのに。駅に迎えに来られたら手も握れないじゃないか。

 どうだ、僕の不機嫌の理由が分かったか?
 て、心の中で言ってるだけじゃ相手には伝わらないんだけど。でも、こんなこと恥ずかしくて言えないし。
 だから僕は、無言の抗議を繰り返す。そして彼は、いつまでも僕の気持ちに気付かない。

「でも、オレたち一緒に暮らしてるのに。薪さんも、もうちょっとくらいオレのこと好きになってくれても」
 冗談じゃない。これ以上、どうやって好きになったらいいのか分からないくらいなのに。ていうか、これ以上好きになったらマトモな日常生活を営める自信ないぞ。今だってギリギリの線なんだ。
「だったら僕の言いつけを守れ。大人しく、家で待ってろ」
「………………………はい」
 なんだ、その長い間は。
 うなだれて、トボトボと僕の後ろを着いてくる彼は、すっかり落ち込みムードだ。仕方なく立ち止まり、そっと彼の顔を覗きこむと、信じがたいことに半べそをかいている。
 これくらいのことで大の大人が涙なんて、こいつどこまでかわいいんだ。抱きしめたくなっちゃうだろ。
「なにも泣くことないだろ」
「だって、ずっと一緒にいようって言ってくれたのに。結局、オレばっかり薪さんのことが好きで」
 だから、そんな拗ねた顔するなって。年下の愛らしさをフルに使いやがって、この場に押し倒してやろうか。
 
 歩みを止めてしまった彼の、だらしなく開かれた左手に、僕は自分の右手を絡ませた。指と指を組み合わせるように、ちょうどベッドの上で彼と結ばれるときみたいに、組ませてぎゅっと力を入れた。
 女の子ならそこの森林公園に連れ込んじゃうところだけど、こいつ相手にはそういうわけにも行かなくて。今の僕にできる最大の愛情表現といったら、せいぜいこれくらい。
「帰るぞ」
 彼はたちまち笑顔になって、手を握り返してきた。単純なところがこいつの長所だ。
 つないだ手はそのままに、公園の道を再び歩き始める。誰かに見られたらコトだけど、この時間にこんなところを通るひとは滅多にいないし。いたとしても、暗い照明が僕たちを助けてくれるだろう。

「腹へった。夕飯、何の刺身だっけ」
「今日はカツオです」
「初ガツオか。美味そうだな。なら、ビールだな」
「はいっ、2リッター缶が冷えてます」
「2リッター? どんだけ飲む気だ」
「オレ、ビールなら中ジョッキ10杯はいけますよ」
「中ジョッキ10杯っていうと、5リットルくらいか。恐ろしいな」
 軽いイタズラを考え付いて、僕は上目遣いに彼を見上げた。眼にある種の情感を込めて、
「今夜はそんなに飲むなよ。期待してるからな」
「あはは、家ではそこまでは……期待って、何をですか?」
 組み合わせた指を解き、指先で彼の手のひらをくすぐる。それからもう一度、今度は深く指を組み合わせて、ふふ、と笑ってみせた。
「薪さん、早く帰りましょ! ねっ」
 単細胞で分かりやすくて、僕のことしか頭にない彼は、その行動のすべてで僕を癒してくれる。素直で正直で、いじましいほどに自分の感情を隠せない彼を、その発露を導き出す健やかな精神を、僕はこの上なく美しいと思う。
 
 彼に強く手を引かれて、殆ど駆け出しそうになりながら僕は、きっと次も彼は駅まで僕を迎えに来るだろうと思った。





(おしまい)




(2011.2)←3年前……古い話ですみませんでしたー。



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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