マジック

 たくさんのお祝いコメント、ありがとうございました。
 特に秘密コミュのみなさん。わたし、ずっとみなさんのところご無沙汰してて、たまにお邪魔してもロクなコメントも入れないでいたのに、みんな我がことのように喜んでくれて。思わずうるっときちゃいました。
 ひとつずつ、大切にお返事させていただきます。

 あのね。
 めっちゃプライベートの暗い話で、こういう話は、このブログのコンセプトに反するのですけど。なんで最近、コメント入れられなかったのかと言うと、仕事のせいではなく、わたしの気持ちが乱れていたから。
 お義母さんが、肝硬変&認知症になりまして。仕事と介護の両立で少々荒んでおりました。
 長男の嫁なんでね、覚悟はしてたんですけど、その時に現場代理人になってたのは想定外。わたし、お義母さんの世話だけすればいいんだと思ってたよ。両方は無理だよー。認知症舐めんなよー。

 気分的にも落ちてしまって、自分のことをするのがやっとでした。それもままならない日が多かったです。テンション上がらなくて。

 でも今回、みんなに「当選してよかったね」って言ってもらえて、わたし、独りじゃなかったんだなあって。
 現実も同じこと。もっと周りの人に頼ろうと思いました。
 気付かせてくれてありがとう。
 感謝を込めて、わたしからみなさんへ、クリスマスプレゼントです。
 プレゼントに相応しい内容かどうかは甚だビミョーですが、どうぞお納めください。






マジック






 まるで魔法のようだと青木は思う。
 難解なことも煩雑なことも、薪の手に掛ると見る見る間に片付いていく。仕事も雑事も大切なこともそうでないことも、薪と言う人間の前を通るだけですべてがパーフェクトになる。彼の仕事に失敗はない。オールマイティなコンピューターのようだ。

「薪さんて本当に。できないことないんですね」
 いいなあ、と羨望を込めた瞳で薪を見る、青木は少ししょぼくれた顔をしている。自分がどんなアプローチを重ねても通らなかった稟議書を、薪がほんの1、2行書き替えただけで決済が下りた。薪の名前はどこにも出ていないのに、これが実力の差というものか。

 稟議書のお礼にと青木が自腹を切った瑞樹の特上御膳は、その半分が薪の胃に納まり、残りが青木の口に運ばれようとしている。左手の頬杖の上からその様子を眺めつつ、薪は素っ気なく応えを返した。
「そんなことはない。100mを9秒台で走るのは無理だ」
「いや、超人の話じゃなくてですね」
「2人前の夕食を平らげるのも無理だ」
「……もういいです」
 小判型のヒレカツを口の中に放り込み、やや自棄ぎみに噛み砕いた青木を見て、薪がクスッと笑った。少し意地悪なその笑顔が青木にはたまらなく魅力的に映る。だから青木は意地悪をされてもされても、彼の周りを跳ね回るのだ。

「なんでもできるあなたはオレの憧れです」
 手放しの称賛を受けて、薪はそれを否定するでも謙遜するでもなく、考え事をするときのように視線を左下のテーブルに彷徨わせた。僅かばかりの沈黙のあと青木の顔を見上げて、新しい悪戯を思いついた子供のように無邪気に笑う。
「昔、魔法使いに魔法をかけてもらったんだ」
 美濃部焼のぐい飲みを持ち上げながら、薪はそんなことを言い出した。




*****




 自分の両親が死んだ日のことを、彼は鮮明に覚えている。
 その日は彼が自分の人生を定めた日であり、一生を捧げる仕事を選択した日でもあった。おかげで警察を辞めない限り、嫌でも付いて回る記憶になってしまった。
 自分にその日が訪れたことを、悔やまないのは非情だろうか。両親を喪ったことは悲しい、でもその日、彼の一生を左右する出会いがあった。あの日があったから今の自分がいる。あの日あの人に出会えたから。警察官になるという目標に向かって、迷わず生きてくることができた。両親の死が彼と自分を引き合わせたとも言える。それは亡くなった両親からこの世にたった一人残していく年端も行かない息子への、せめてもの贈り物だったのかもしれない。

 電話が鳴ったのは午後4時。母親が用意したおやつを食べ終えて、お絵描きの続きをしようとダイニングテーブルを離れた、その時だった。
 虫の知らせのようなものは何もなかった。さっき食べたのが母親が焼いた最後のホットケーキになったわけだが、特別に美味しいことも不味いこともなかった。強いて言うならいつも通り、普通の真ん中を行く味だった。
 母親からだと思って電話に出た。ちゃんとお留守番してるよ、おやつも全部食べたよ、そう言えば母親に褒めてもらえると、小さな手は勇んで受話器を取り上げた。

『剛君ですか? 落ち着いて聞いてくださいね。お母さんとお父さんが』
 あどけない声で電話に出た子供に、優しそうな女性の声で、残酷な事実が告げられた。「他におうちの人はいないの?」と訊かれ、「ぼく以外は誰もいません」と正直に答えた。知らない人からの電話を受けたときにはお留守番の人と一緒ですと答えなさい、と教えられていたことを忘れてしまったことに気付いたが、遅かった。
『では、交番のお巡りさんが今から剛君を迎えに行きます。一緒に病院に来てください』
 彼は利発な子供だった。父母が事故に遭ったこと、二人が亡くなったことを理解し、その事実を確認するために息子の自分が呼ばれたのだということを理解した。

 しかしそれはあくまでも、脳が言葉を理解したに過ぎなかった。幼かった彼に、死は身近なものではなかった。
 彼にとっての死とは、例えば、母親に手を引かれての散歩の途中、道端で見かけたセミの死骸。車に轢かれて痩せた腹から臓物をはみ出させたノラ猫。日常に溢れたそれらは、自分や自分の近しい人間からは遠く離れたものだった。子供の彼にとって父母は物知りでやさしくて力持ち、謂わば身近なスーパーマンで、その彼らがあのような姿になるなど想像もつかなかったのだ。

 何か持って行った方がよいのだろうとかと幼心にも考えて、幼稚園の黄色いショルダーバックを肩にかけた。中にはハンカチとティッシュ、連絡帳と筆記用具が入っていた。
 近所の交番の巡査の顔を、少年は覚えていた。いつものように「こんにちは」と挨拶をすると、巡査は何故か俯いて、小さな声で「こんにちは」と答えた。彼は一人ではなかった。相手が子供だからとの気配りか、電話口の女性を同伴していた。

 家の鍵をしっかりと掛け、促されるままにパトカーに乗り込んだ。初めて乗るパトカーの後部座席で、知らない女性の隣で、彼は身を固くしていた。
「剛君はいくつ?」
 5歳だと答えると、女性警官の表情が曇った。
「そんなに小さい子だとは」
 電話の受け答えの印象から、もっと年長の子供を想像していたらしい彼女に、彼はしっかりした声で、
「小さい子じゃありません。来年は小学生になるんです」
 そう言うと、女性警官は一瞬泣き笑いのような表情になって、でも微笑んでみせた。
「そうね。小学生なら小さい子じゃないわね」
 彼の言い分を認めて、女性警官は頷いた。母親に会ったらこのことを報告しようと彼は思った。きっと褒めてもらえる。お母さんはぼくが小学生になることをとても楽しみにしていたんだから。

 その思いつきが浅はかであったこと、もう二度と母親が自分を褒めてくれることはないのだと、彼が本当の意味で両親の死を理解したのは、救急病院の霊安室で冷たい躯となって横たわる2人の姿を見た時だった。
 霊安室のドアを開ける前、子供に見せるものではないと案内の看護師が付き添いの女性警官に言った。だが、彼らの身内は息子だけだった。「可哀想に」と肩を抱かれた、その時の彼女の顔を少年はもう思い出せない。次に訪れたあまりにも強烈なショックのせいで、前後の記憶は混沌としていた。

 正面衝突だったと、意味も分からず聞いた。強い力で破壊された二人の体は、見るも無残な有様だった。とりわけ、顔の部分の損傷がひどかった。
 それらと自分の両親の記憶とを擦り合わせるには多少の時間が必要だった。特に母親は飛び抜けて美しかった分、その変わり果てた容貌とのギャップを埋めるのが困難だった。

 でも、心はそれらを飛び越した。
 瞬時に理解した。彼らが自分の親であること。
 赤黒く汚れているけれど、あれは自分と同じ色、お母さんの髪の毛だ。皮膚を突き破った骨が覗いているけれど、あれは自分を抱き上げてくれたお父さんの手だ。

 心の速度に脳が追いついたとき、彼を衝撃が襲った。ものも言わず、彼はその場に昏倒した。



*****




 気が付いたときは布団の上だった。
 夢だった、という希望は一瞬で砕けた。初めて見る天井だったから。
 天井だけではなく、その部屋の何一つとして彼が知っているものはなかった。小狭い6畳間、少年の家には無い畳に障子。古ぼけた茶箪笥がひとつ。枕元に黄色い園児袋が置いてあった。

 彼に付き添っていてくれた女性警官はいなくなっていた。代わりにそこにいたのは、知らない男だった。
「おう。起きたか、坊主」
「来るな!」
 その可能性を考えなかったわけではなかった。一連の出来事、あれは全部嘘で、その目的は。
「知ってるぞ。おじさん、人さらいだろ!」
「うん、気持ちは分かるけどね。この人はお巡りさんと同じ警察官だからね」
 奥から知り合いの巡査が顔を出した。それでここが交番の奥にある休憩室だと分かった。だからと言って、男の潔白が証明されたわけではない。少年は勢い込んで、自分の推理の根拠を述べた。

「ウソだ。テレビで見たもん。子供を攫って外国に売るんだよ、この顔だったよ」
「どこのテレビ局だこら。プロデューサー締め上げて」
「カメさん、大人げないですよ」
 男は巡査の先輩だと紹介されたが、少年には信じられなかった。カメなんて変わった名前だ、ゴジラの方が似合ってる。そう言ったら怒られた。ウソを吐いちゃいけないって大人は言うくせに、それで怒られたら割に合わない。
「カメじゃなくてカベだ」
「カベ? ……妖怪のぬりかべ?」
「泣かしてやろうか、クソ坊主」
「カベさん」
 ――やさしくしてあげてくださいよ。可哀想な子なんですから。
 巡査が男に耳打ちした。それを聞き取るのは容易かった。少年は地獄耳だった。

 寝具の上に正座した少年の小さな肩を、巡査の両手が覆った。それは子供に大事なことを言い聞かせるときの大人の行動だと、彼には分かっていた。
「剛くん。明日、叔母さんが君を迎えに来るから。それまではここにいなさい」
 具体的な言葉は何もなかったが、彼は状況を理解した。
「お腹空いてない?」
 首を振った。
「今夜はここに泊るんだよ」
 頷いた。
「お巡りさんはパトロールに行かなきゃいけないんだ。このおじさんと留守番しててね」
「えっ」
 ゴジラと二人で留守番? ゴジラが暴れ出したらどうすれば?
「なんだ、そのツラ。取って食いやしねえよ」
 食べられるとは思わなかったけれど、踏み潰されることはあるかもしれないと思った。
 本当は怖かったけれど、黙って巡査を見送った。男の子は勇気を持たなくちゃいけない、と父親に教わっていたからだ。

 二人きりになるとゴジラはのっそりと立ち上がり、茶箪笥の中を物色し始めた。インスタントココアの缶を取り出し、2人分のカップに電気ポットのお湯を注いだ。これはあのお巡りさんのものだろうに、勝手に飲んでいいのだろうか。
「ほら坊主。飲め」
 しかもぼくを共犯にしようとしてる。
 少年がカップを持ったまま固まっていると、男は少年の後ろに回って胡坐を組んだ。それから少年の尻を膝の上にひょいと乗せ、自分のココアを口に含んだ。
「うお、甘えな。ガキの味覚ってのはまったく」
 自分が飲みたかったわけじゃない。飲ませたかったのだと知った。

 男の膝で、少年はカップに口を付けた。熱くて甘い、チョコレートの匂い。一口飲んで、ほっと息を吐いた。ココアと男の体温で気が緩んだのか、泣きたい気持ちになった。必死で押し留める。
「なんてツラしてんだ」
 視線を巡らすと、男がカップを持て余していた。
「泣きたきゃ泣け。ガキが泣いたところで誰も笑わねえよ」
 泣くもんか、と彼は思った。
 泣かない。泣いたらあれが本当になっちゃう。
 お父さんとお母さんが死んだって、認めることになっちゃう。

「我慢してもしなくても一緒だぞ。父ちゃんと母ちゃんは生き返らねえ」
 ひどい大人だと思った。みんなぼくを可哀想な子だって、お巡りさんも警官のお姉さんも看護師さんも、そう言ってくれたのに。
 ――言われてぼくがものすごく嫌な気持ちになったこと、この人は気付いていたのかな。

「泣き虫はガキの特権だ。使えるうちに使っとけ」
 この人の前なら泣いても大丈夫だと思った。泣いても、可哀想な子って思われなくて済む。

 少年は泣きながらココアを飲んだ。途中からココアが塩辛くなって、それはけっこう微妙な味だったけれど、全部飲み干した。
 男が寄越したティッシュで涙を拭いて洟をかんで、充血した亜麻色の瞳に映った男の姿は、最初に会った時とはまるで違って見えた。
 よく見ると、ゴジラじゃなくてゴリラに似ている。見れば見るほどそっくりだ。お祖父さんかお祖母さんあたりがゴリラだったんじゃなかろうか。
 母親とよく行った動物園で、ゴリラは身体は大きいけれど果物や草を食べる草食で、とてもやさしい動物なのよ、と教わったことを思い出す。もう二度とお母さんと一緒に動物園に行くことはできないんだ、そう思ったらさらに悲しくなった。

 動物園だけじゃない。一人じゃ幼稚園にだって行けない。小学生にもなれない。
 ぼくには何もできない。

「馬鹿言え。そんなわけがあるか」
「だってぼく、幼稚園でも一番小さいし。友だちにもよく苛められるし」
 少年の抜けるように白い肌と明るい亜麻色の髪は、幼少の頃から人目を引いた。加えて、幼い彼はまだ自分の能力を隠す処世術を持たなかった。出る杭はなんとやらで、少年はしばしば理不尽で無邪気ないじめっ子たちのターゲットになっていた。
 その状況は、彼に自分の無力を悟らせた。当時の彼は、自分に自信のない軟弱な子供だったのだ。
 そんな少年の弱気を吹き飛ばすように、男は強く言い切った。
「そんなこたあ関係ねえんだよ。おれは息子にもよく言うんだけどよ」

 この世におまえができないことなんか何もない。だっておまえはここに生まれてきたんだから。生まれてきたのは神さまに選ばれたからだ。おまえがこの世界に必要だから、おまえならできると思ったから、だから神さまはおまえという人間をこの世に送り出した。
 人は、生まれてきただけで神さまのお墨付きをもらってんだ。才能も力もあるはずだ。それを掘り起こすのはてめえの仕事だ。

「何も見つからなかったら?」
「そいつはおめえの探し方が足らねえんだよ。見つかるまで探せ」
 探し物の形もはっきりしないのに、それを見つかるまで探せなんて無茶なことを言う大人だと思った。そのような作業が自分にできるとも、また自分の中にそれを成し遂げる力が隠れているとも思えない。事実、その時の彼はまだ非力な子供でしかなかった。
「おめえはまだガキだ。ガキが何もできねえのは当たり前だ。そのためにおれたち大人がいるんだ」
 少年の頭の上から、男の野太い声は何故か心地よく響いた。初めて聞くような乱暴な言葉使いなのに、ちっとも怖くなかった。
 男の胸に匿われた背中が、とても暖かかった。突き刺すようだった悲しみは少年の傍に穏やかにうずくまり、真綿のようにゆるりと彼を取り囲んでいた。

「世の中にはよ、おめえみてえに小せえ頃から親と暮らせなくなっちまう子供もいてよ。だからってそいつらが駄目かってえと必ずしもそうじゃねえ。二親立派に揃ってても、駄目になる奴あ駄目よ」
 まるで苦行のようにココアを飲み干した男は、ゴリラそっくりのいかつい顔に笑みを浮かべて、ぐっと拳を突き出した。
「だからよ。おめえも負けんな」
 こうするんだよ、と少年の小さな手を拳の形にして自分の大きな拳と軽く合わせる。それになんの意味があるのか、その時は分からなかったけれど。少年は、自分が大人の男に一歩近づいた気がした。

「強い子になりな。親が遺してくれた名前に恥ずかしくねえようにな」
 はい、と彼は答えた。本当の悲しみが襲ってくるのはこれからだと、少年も男も知っていたけれど。その夜、彼らは心穏やかに時を過ごしたのだった。



*****




 ――魔法使いに魔法をかけてもらったんだ。

 薪がそう言うと、青木は眼鏡の奥の瞳を2、3度瞬き、深く考え込んだ。過ぎた能力を与えられた人間はやはり何処かに歪みが現れるものなのか。常人の青木には想像もつかないが、紙一重と言われるその境界線は、限りなく薄いものなのかもしれない。
「おまえ、今ものすごく失礼なこと考えてないか」
 薄いって言うか超えちゃってますよね。人の心読めるんだもん。

「両親が死んだとき、世話になった巡査がな」
 雪子に聞いたことがある。薪がまだ小さい頃に、彼の両親は交通事故で亡くなった。いっぺんに二親を亡くして、叔母の家に引き取られたそうだ。わがままで自己中なのにヘンに気が利くのはきっとそのせいよ、と雪子は薪の複雑な性格を分析していた。
「名前も覚えてないし、顔もうろ覚えだけど。言われたことは憶えてる」

 ――生まれてきたのは神さまに選ばれたからだ。だからこの世におまえができないことなんか何もない。

「よっぽど頼りなく見られたんだろうな」
 青木の酌を受けながら、薪は舌打ちした。親を亡くした子供が頼りなく見えなかったら返って怖いと思うが。幼少の頃から薪のプライドは高かったらしい。
「素敵な警察官ですね」
 ああ、と薪は頷き、ぐい飲みの酒を傾けた。



*****



 浮かない顔ね、と妻に言われ、靖男は我に返った。向かいでは、非番の日の約束を途中で反故にされた一人息子が、自分の小さい頃にそっくりのギョロッとした三白眼で父親を見つめていた。
「寄せ鍋よりすき焼きの方がよかった? でも今月はクリスマスもあるし」
「ちがうちがう」
 母さんは早とちりでいけねえ、と零しつつ、靖男はまた意識を浮遊させる。妻が発した「クリスマス」という単語が心に引っ掛かった。
 あの子は、今年のクリスマスを何処で誰と過ごすのだろう。

「そんなに食べたいなら、ここにお肉入れましょうか?」
「だから違うって」
 仕事の話を家庭でするのは靖男の流儀ではない。だから自然と家では口が重くなる。しかし、今回のことは事件絡みではないし。話しても良かろうと思った。

「昨日、後輩の交番に差し入れして、そのままおれだけ残っただろ」
 非番の日に、息子と遊園地に行って帰りに子供が大好きなハンバーガーを買って、家で家族3人で食べる、その約束を靖男は半分しか果たせなかった。遊園地の帰り道、ハンバーガー屋に寄った際、仲の良かった後輩に差し入れてやろうと思ったせいだ。
 そこに、あの少年がいた。

「ちょうどおまえと同じくらいの年だったぞ。身体はだいぶ小さかったがな」
 自分と同い年くらいの子供と聞いて、息子は相手に興味を持ったようだった。食べかけの鶏肉を器に戻して、話の続きを促すように「ふうん」と頷いた。
「両親とも事故でなあ」
 まあ、と気の毒そうに眉を寄せる、お人好しが滲み出た妻の丸い顔に癒される。お世辞にも美人じゃないが気が安まる。おれには似合いの母ちゃんだ、と靖男はいつも思っている。口に出したことは一度もないが。
「親戚も近くにはいないらしくて。顔を出すって言ってた親戚も、自分の会社が大変な時だとかで、子供の世話を見られるかどうかは分からないって話でな」
「だれも引き取ってくれなかったら、その子はどうなるの」
 一人息子の質問は鋭かった。引き取り手がなかったら施設に行くしかない。小学校1年生の子供にその現実を突き付けるのもどうかと思われたが、靖男は子供相手にも嘘は吐かないことにしていた。

「おまえとは違った意味で目立つ子でな。友だちに苛められてるって言ってたなあ」
 人形のように整った子だった。ああいう子は、施設に行ったらますます苛められるだろう。負けるなよ、と励ましたものの、あんな小さな子供には荷が重かったかもしれない。
 自分が面倒を見られるわけでもないのに無責任なことを言ったかと、昨夜のことを後悔し始めた靖男を救ってくれたのは、一人息子の力強い一言だった。

「おれ、その子と友だちになってやるよ」
 これは頼もしい。靖男の息子はガキ大将だ。身体も大きく、力も強い。そしてさすがは警察官の息子と言うべきか、弱い者いじめは決して許さない。
「家に連れてきてよ。その子がいじめられそうになったら、おれが守ってやる」
 彼が地区の施設に行くことになれば、家からはそれほど遠くない。遊びに来ることも可能だろう。あの子は来年から小学生になると言っていた。ならば、息子と同じ小学校に通うかもしれない。
 少年の未来に明るいものを感じて、靖男はゴリラそっくりの顔をほころばせた。

「ああ。頼んだぞ、靖文」



(おしまい)


(2014.12)



 どちらさまも、素敵な聖夜になりますように。
 メリークリスマス(^^)/

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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