Do you believe in god ?

 あけましておめでとうございます!

 おかげさまで、昨年も楽しいブログ生活でした。面白かったこと、感動したこと、たくさんありました。
 私生活では公私共に多忙になり、更新やコメントのお返事が滞ることが多くなりましたが、みなさまの暖かい励ましとやさしさに支えられ、ブログだけでなく、リアルの生活も頑張ることができました。どうもありがとうございました。
 コメントのお返事、20通以上溜めたまま年越しちゃったダメな管理人ですが、今年もよろしく、てか見捨てないで、どうか見捨てないでください!!(←もう必死)

 みなさまへの感謝を込めまして、
 こちら、管理人からのお年玉です。
 どうぞお納めください(^^)





Do you believe in god ?






 初詣なんか意味がない。

 そう言うと大抵の人は「無神論者ですか」とか「さすが第九の室長。リアリストですね」などと、見当違いの言葉を返してくる。薪は別に、神の存在を否定するつもりはない。存在を肯定する科学的根拠はないかもしれないが、それを否定する証拠もないのだ。目撃証言も世界中に残っていることだし、存在しても一向に構わないと思っている。
 神を信じることは愚かしいことではない。時には心の拠り所となり、時には正しい方角への道標になる。一般的に、プラスになることの方が多いだろう。
 だが、神さまは決して人間にとって都合のよい存在ではない。お賽銭を供えて願い事を言えばそれを叶えてくれる、そんな稼業はやってないのだ。
 普段から足繁く神社に通って祈りを捧げる、毎朝神棚に手を合わせる。大切なのは日常のそういった精神だ。それを1年の始まりだからと俄か信者に団体で押し掛けて来られても、神さまだって困るだろう。だから初詣なんか意味がない。
 順序立てて説明すればそんなところだが、最近はいちいち説明するのも面倒で、その手の話題は適当に聞き流していた。だからこんな羽目になった。
 手抜きはよくない。いつか自分に返ってくるのだと思い知らされた、現在時刻は23時30分。日付は2066年最後の日。場所は野外。激烈に寒い。

「薪さん。あっちで甘酒配ってますよ」
 薪を拉致し、この寒空の下に放り出した極悪人が罪の意識もなく話しかけてくる。人垣に阻まれて薪には全く見えないが、青木は日本人の平均より20センチばかり背が高い。火の見やぐらみたいな男で、斥候にはもってこいだ。
「いらん。甘酒は酒じゃない」
 熱燗はないのか、と尋ねると、青木は苦笑して、
「この寒さの中でアルコールなんか飲んだら、血管が拡張して凍死しちゃいますよ」
 そんな寒さの中に人を連れ出したのはどこのどいつだ。ていうか、この人数は何事だ。息の、吐きだす傍から結晶化するような寒さの中、楽しげにたむろっている。こいつらみんな正気じゃない。

「薪さんの分もオレが飲みますから。行きましょ」
 それ、僕が行って何の意味があるんだよ。
「こういうのは1人1杯なんですよ。頭数が大事なんです」
「誰が行くか。僕を数合わせに使おうなんて――さむっ」
 青木の身体が離れたらものすごく寒くて、思わず彼の腕に抱きついてしまった。ここは家の近くの神社で近所の人に見られたら拙いと出かけるときは警戒していたのだが、生命の危機とあっては止むを得ない。辺りは暗いし、この人ごみだ。そう自分に言い聞かせたが、よくよく周りを見れば、誰もかれもが暖を取るために誰かしらと身を寄せ合っていて、その相手は必ずしも男女の組み合わせではないことに気付いた。
 町内会だか神社の氏子会だかが無料で甘酒を配っているテントまで、人溜まりを抜けて歩く。他人にぶつからないように、できるだけ身を寄せ合って。人の群れが寄せれば、彼の大きな身体に隠れるようにしてやり過ごす。それが特別視されない特別な夜。寒さでどん底まで落ちていた薪の気分が、少しだけ上向きになった。

「はい、どうぞ」
 青木の手から渡された白い紙コップに入った白い飲み物は、口に含むと火傷しそうなほど熱かった。思ったよりも旨い。昔はこの粒々が苦手で飲めなかったのに、年を取ると味覚って変わるものだ。
 テントから少し離れた場所では、盛大に焚き火をしていた。周りには人がいっぱいで、とても入り込めそうもなかったのだが、フラフラしていたら自然に火の前に出た。火力が強いから最前列は流動的に入れ替わっている。そのせいで人ごみに流れができるわけだ。リトルの法則を使って、最前列の人数と大凡の交替時間から待ち時間を割り出そうとしたが、隣から「暖かいですねえ」と間の抜けた声が聞こえてきて、数式を考えるのが面倒になってしまった。人間、こうやってバカになっていくんだ、きっと。

「この焚き火、氏子会の大工さんのご厚意なんですって」
「焚き火って条例違反じゃなかったか」
「神社とかお寺はいいんですよ」
 それは宗教的理由による護摩焚き等の場合だ。
「これ、どう見ても廃材木だろ。カンナ屑も混じってるみたいだし」
「まあいいじゃないですか。年越しなんですから」
 年越しだから法律が緩和されるなんて、聞いたことがない。一般人ならともかく、自分たちは警察官だ。法の番人であるべき我々がそんなことでは――。

「あんまり近付くと、火の粉が付きますよ」
 心情とは裏腹に、寒さに弱い薪の体は自然と熱源に引き寄せられていた。それを青木が引き戻す。炭化した木材がバランスを失って倒れた瞬間、激しく舞い上がった火の粉から薪を庇うように、細い身体を胸に抱いた。白いカシミアのコートが揺れる。
「おい。あんまりくっつくな」
「大丈夫ですよ。年越しなんですから」
 なんだ、その理由は。

 咄嗟に浮かんだ反論があまりにも多すぎて、どれから言うべきか優先順位を付けるのに少し手間取った。舌鋒を繰り出す準備を整えて薪が口を開いたとき、除夜の鐘が聞こえてきた。
 青木も周りの人間も、ポケットから手を出して胸の前で合わせた。目を閉じて聞く、深く沁み入るような鐘の音。薪はぼんやりとその光景を眺めていた。

 鐘が払うのは人間の煩悩。その数は百八つ。
 多すぎる、と昔は思っていた。煩悩とは人間の精神的成長を阻害する邪心のことで、つまりは手前勝手な欲望だ。それが100オーバーって、我が儘すぎるだろう。人間全体の数なのだろうが、自分の煩悩の数だけ聞けばいいのなら最初の10回ほどで充分じゃないのか。
 その頃薪が持っていた捨てなければいけない煩悩はひとつだけ。失くした恋への未練だけだった。それに比べたら今の自分は。
 省みて自嘲する。年を重ねたからって、人間成長するとは限らない。
 今の薪は、昔とは比べ物にならないくらいの慾を持っている。煩悩まみれと言っていい。

 青木と。
 一緒に過ごしたい。彼の笑顔が見たい。
 声が聞きたい。話がしたい。笑い合いたい。髪にキスをしたい。頬ずりしたい。抱きしめたい。きれいな風景を一緒に見たい。手をつないで歩きたい。穏やかな夜を共に過ごしたい。抱き合って眠りたい。目覚めて一番に彼の顔が見たい。
 これまでに願って、叶ったこと、見送られたこと、口に出せなかったこと、そのすべてを積み重ねてみれば百八つのリミッターなんかとっくに振り切れてる。
 心から愛している恋人がいて、その恋人からは過ぎるほどに愛されて。何ひとつ不満なんかない、でも後から後から湧いてくる、数えきれないほどの欲求。幸せな人間ほど欲深いって本当なんだ。
 だけど、源はひとつ。そこから派生するものは多種多様だが、突き詰めればたった一つの煩悩なのだ。それさえ払ってもらえれば、自動的に全てが消滅する。

 彼と一緒にいたい。

 ――百八回、ちゃんと聞いても消えなかった。
 結論。除夜の鐘に煩悩を払う力はない。

 分かってたことだけど、と肩を竦める薪の周りで人混みが動き出す。隣の人と新年の挨拶を交わし合う者、携帯電話でメールを送る者。ふと横を見ると、こちらを見ていた青木と目が合った。
「あけましておめでとうございます」
 何がめでたいのかよく分からないと思いながら、「うん」と答えた。
「今年もよろしくお願いします」
 4月までな、と思いながら「うん」と答えた。

 その場から境内に向かって、元朝参りの列が自然にできていた。年が明けたらお参りをして、神さまにお願い事をする。これこそ除夜の鐘に煩悩を払う効果が無いことの証明だ。もし煩悩が払われていたなら、願い事なんてないはずだ。それともみんな、世界平和とか願ってるんだろうか。
 参拝客に混じって、海を漂流するクラゲみたいに前進する。歩かされている感覚。これは良くない兆候だ。
 流されるのは楽だけど、今年は大事な年だ。自分の意思で歩かなければ。
 石畳の上を、古びた石造りの階段を、一歩一歩踏みしめる。今まで歩いてきた道も、これから歩む道も、自分が選んだ道だ。周りのせいにするのは卑怯だ。

 やがて社の前に出た。鈴を鳴らそうとすると、お賽銭が先です、と青木に止められた。
「前金制か」
「そういうわけじゃ」
 財布はジャケットの内ポケットに入れてあって、厚着しているからなかなか出てこない。「お賽銭はあらかじめコートのポケットに入れておくんですよ」て、それ先に言ってくれ。

 コートのボタンを外してジャケットの内側に手を入れた。探るが財布がない。忘れてきたかと思いきや、ポケットの底が破れていた。ジャケットの内側は袋状になっているから地面に落としてはいない。ジャケットの裾にあるはずだ。もう少し下、もうちょい。
 近所で用が足りる時や遊びに出るときは、いつもの長財布ではなく携帯に便利な二つ折りの財布を持ってくるのだが、失敗した。長財布ならポケットが破れても上部に端が残っていたはずだ。
 心の中で舌打ちする薪の隣で、青木は鈴を鳴らし、社に向かって手を合わせた。本来なら二礼二拍手なんだろうけど、今日のように混んでいる時は簡略化した方が神さまも早く仕事が終わっていいだろう。

「今年は薪さんが暴走しませんように」
「ンだと、こら」
「病気になりませんように。危険な目に遭いませんように。辛い思いをしませんように」
 ようやく探り当てた財布を、思わず握り締めた。亜麻色の瞳に映った青木の横顔は、幸せそうに微笑んでいた。
「願い事は自分のことを言え」
 僕なんかのことじゃなく。期間限定の薄情な恋人のことなんかどうでもいいから、自分が幸せになれるように。いい縁があるように、僕の穴を埋めてくれる素敵な女性と出会えるように、その意味の5円玉になるように。
「今年も薪さんと二人で楽しく過ごせますように」
 ……そう来るか。
 思わず苦笑した。

 初詣に意味はないけれど。
 この日、この場所に、彼と。
 共に立つことには意味があると、素直に思えた。

「ほら。薪さんも早く」
 急かされて、ジャケットの裾から胸元まで、二つ折りの財布を引き上げた。折られた部分が出口のところで引っ掛かり、無理に引っ張ったらスポンと抜けた。
「あっ」
 賽銭箱の、縦に並んだ板の隙間にうまい具合に入ってしまった。これって当たりなんだろうか。

 後ろに大勢の人が並んでいたし、とりあえずは鈴を鳴らして手を合わせた。右側の帰りの列に並び、登ってきた階段を一段一段下りていく。
「くそ、ぼったくられた」
「ぼったくりって」
 可笑しそうに笑う青木のスネを蹴らなかったのは、此処が神さまのホームベースだからではなく、石段の途中で彼が転んだら人間ドミノ倒しが起きるからにすぎない。聞くところによると神さまは何処にでもいて、しかも人間の心の中が見えるとか。今更いい子ぶったって無駄だ。

「財布ごと落としたわけだから、神社に訳を言えば返してもらえますよ。中にクレジットカードも入ってるんでしょう?」
「いや、あの財布は遊びに行く時のだから。現金しか入ってなかった」
「名前が無くても、財布の特徴とか中身の内訳を言えば」
「もういい」
 けっこう無茶な願い事だったからな、と呟いた、薪の声は周囲のざわめきに紛れた。社を離れても人は多く、砂利を踏む音や話し声など、辺りは様々な音に満ちていた。
 鳥居を潜って表通りに出た。お参りに来た者、帰る者、待ち合わせる者。鳥居付近は特にごった返していて、やっと息が吐けたのは横断歩道を渡って神社とは反対側の歩道に抜けた時だった。
 立ち止まって、後にしてきた神社を振り返った。寒さに身を縮こめる人の群れ。境内は臨時照明で殊更明るく、鳥居から社までの道の両側には赤い提灯まで灯されている。普段は誰の目にも留まらないような小さな神社が、今夜ばかりはお祭りのようだ。
 それを薪は、切ない目で見つめていた。
 青木と二人で来た、最初で最後の元朝参り。





*****




「はっくしゅ!」
 隣で薪がくしゃみをした。
 2070年、最後の夜。場所は自宅近くの神社。除夜の鐘が鳴り出すまで後2分ほどだ。

「さむい! 寒い寒い寒いっ」
 家を出た瞬間から発していた言葉を、またもや繰り返す。薪が文句を言わなかったのは甘酒を飲んでいた時だけだ。
「僕は寒いのは苦手なんだよ!」
「すみません」
 とりあえず謝ったけれど、寒いのは青木のせいじゃない。神社に行こうと言いだしたのも薪の方だ。薪は何でも青木のせいにしたがるから困る。

 人混みの中をゆるゆる歩いて、燃え盛る焚き火の前に出る。耳にくっつきそうなほど引き上げられていた薪の肩が、ほうっと開かれた。
「もう僕はここから離れないぞー」
「何しに来たんですか」
 除夜の鐘が鳴り終えても火の傍から動こうとしない薪に、青木はため息を吐いた。焚き火に当たりにきたわけではあるまいに。

「青木、僕の分も拝んでこい」
「ダメですよ。お賽銭も自分のお金じゃないと願い事は叶わないって言いますよ。ましてや、お参りの代理なんて」
「いいんだよ。何年か前に財布ごと奉納したんだから。100年分はあったはずだ」
「お賽銭は拝む度に必要なんです」
「なんだと、あれで1回分なのか? どこまでぼったくる気なんだ。僕みたいに慎ましく生きてる人間に」
「慎ましく生きてれば、預金残高が254円にはならないと思いますけど」
「うるさい。命令だ、行ってこい」
 薪は年々我が儘になる。人使いも荒くなったし、寒さに対してもそうだ。昔はもっと我慢強かった気がする。

「青木」
 マフラーを巻き直して火の傍を離れる青木に、薪が火を見据えたままで言った。
「願い事は自分のことにしろよ」
 毎年同じ注意をされる。青木の願いは何年も前からたった一つで、それ以外のことなんか意味を持たないのに。何度も説明したのに、どうして繰り返すんだろう。やっぱり年のせいなんだろうか。焚き火にくべられちゃうから言わないけど。

「分かりました。――薪さんのお願い事は?」
「僕はいい」
 神さまなんか信じないタイプの薪には、初詣のような行事は無駄に思えるのだろう。本音を言えば青木も、さほど信心深い人間ではない。今日だって薪が気まぐれを起こさなければ此処には来なかった。薪と一緒に年を越すことが重要なのだ。場所はどこでもいい。
 それはともかく、薪が望むことがあるなら聞いておきたい。誕生日は過ぎてしまったけれど、真冬の一大イベントが近付いていることだし。
「教えてくださいよ。ちゃんと薪さんの分もお願いしてきますから」
「『雪子さんが竹内と別れますように』」
 聞かなきゃよかった。

 青木は聞こえなかった振りで、そそくさとその場を離れた。行列に並ぶと頭一つ分突き抜けている、彼の後姿を見送りながら薪は微笑む。
 その姿が遠ざかり、人の波に完全に飲まれたのを確認してから、薪は前方の焚き火に目を戻した。ゆらゆらと揺れる朱色の炎にくべるように、そっと言葉を洩らす。
「僕はいいんだよ」
 だって、願いは叶ったんだから。後にも先にも、あれ以上の願いなんて僕には無いんだから。

 今年も二人で楽しく過ごせますように。



(おしまい)



(2015.1)


 今年もよい年でありますように。
 こちらを読んでくださったみなさまに、たくさんの幸福が訪れますように。

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
メロディ6月号、読みました。
一言感想 「どひゃー……」
文字サイズをお選びください
最新記事
最新コメント
拍手のお返事
いつもありがとうございます!

最新拍手コメのお返事はこちらです。

過去の拍手レスの確認は、該当記事の拍手欄を押してください。
鍵拍手コメのレスは、記事のコメント欄にお返しします。
月別アーカイブ
カテゴリ
詩 (1)
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
QRコード
QRコード
FC2カウンター
こんにちは(^^
現在の閲覧者数: