若いってこわい(1)

 メロディ8月号、読みました。

 …………すずまき小説、UPします。



 このお話は、「聖夜」に出てくる14年前の話です。
 薪さんが20歳の頃の忘れられない思い出です。





若いってこわい(1)






 今朝の夢見は最悪だった。

 3日と空けずに悪夢で飛び起きる薪だが、そんなことはもう慣れっこになってしまって、今更こんなに落ち込んだりはしない。もちろん、起きてから二度寝ができるほど平気なわけではないが、今朝のものとは種類が違う。

 今日の夢は、大学時代の夢だった。
 しかも、鈴木との蜜月だった1年余りの出来事を夢に見てしまった。
  あの頃のことを思い出すと、地面に穴を掘って一生そこで暮らしたいと思うくらい、へこむ。その時だけは、引きこもりの気持ちがよくわかる。

 ……落ち込みそうだ。

 顔に手を当てると、やはり涙で濡れている。ティッシュで拭いて屑籠に放り投げる。
 時刻は午前4時。
 いつもならシャワーを浴びてジョギングに出かけるところだが、今日はそんな気分にならない。

 鈴木との思い出は、よろこびと切なさと、涙の色に彩られている。
 たしかに、薪にとっては今までで一番幸せな日々だった。が、あの頃の自分を省みると、激しい自己嫌悪に取りつかれてしまう。
 彼のことが好きで好きで、周りが何も見えなくなっていた。
 終いには相手の気持ちまで分かろうとしなくなって、さんざんに鈴木を傷つけて、結局ふられた。そのあと彼とまた親友に戻れたのは、実は雪子のおかげだった。あの頃から、薪は雪子に頭が上がらないのだ。

「鈴木。あのときはごめんな」
 枕もとの写真立てを手に取って、親友に話しかける。
 ガラスフィルムの中から、永遠に時を止めたかつての親友が、薪に笑いかけていた。






******



 いや、そんなに怒ってるわけじゃないんです。

 ただね。

 お姑さんに頼まれた買い物のついでに本屋に回って、購入したが最後クソ暑い車の中で夢中で読みふけって。顔中汗だか涙だかわかんないような状況になって。
 現実と夢幻の狭間で危なっかしい運転で(何回か信号見ないで交差点突っ切った)自宅付近まで帰ってきて。
 お姑さんのお使いを思い出して(イスの脚につけるカバーを100円ショップで買ってきて、と言われてた)お店の駐車場に車を止めて。深呼吸をしてタオルで顔を拭いて、現実世界に戻ってきて。
 赤い眼はサングラスで隠して、キャップを深く被って、不審者みたいに俯いてお店に入って。
 目的のものを買って、3つあるレジの中央に進んだら。

 レジの店員の名前が青木!!!

 車に戻って、再び号泣。

 ……かみさま。
 そんなにわたしがお嫌い……?


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

若いってこわい(2)

若いってこわい(2)







 鈴木と出会ったのは、大学2年の春。薪が19のときだった。
 特別な出会いをしたわけではない。大学のサークルで、たまたま一緒になっただけだ。

 薪は入学当初から、犯罪心理学のサークルに入っていた。目的は他の学生のようにコンパではなく、サークルの費用で高い専門書を購入して読みふける事だった。
 鈴木が入ってきたのは、2年になってからだ。弁護士を目指している、とその当時は言っていた。
 よく一緒に、犯罪者の心理について討論をした。
 いつも薪が検察側で、鈴木は弁護側だった。薪は犯罪者はすべて糾弾するべきだと思っていたが、鈴木の持論はまるで反対だった。どんな猟奇犯罪にもそれを起こさなければならなかった理由がある、と言うのが鈴木の主張だった。
 持論は正反対だったが、彼との議論は面白かった。
 鈴木は薪ほどの優秀な頭脳は持ち合わせていなかったが、薪にはない優れた人間性を持っていた。
 やさしさである。

 彼ほどやさしいひとはいなかった。言い換えれば、優柔不断でどっちつかずということなのかもしれないが――― 雪子は鈴木をそう評していたが―――― 薪にはたまらない魅力に思えた。
 何より、薪にとっては初めてできた親友だった。
 薪は昔から友達が少なかった。
 それはその抜きん出た容姿のせいか、捻じ曲がった性格のせいか、あるいは小さい頃に両親を事故で亡くしたせいか。
 別にイジメに遭うようなことはなかったが、輪に溶け込むこともできなかった。クラスメイトとは普通に話すが、それは表面上のことだけで、心を許せる友人はできなかった。
 大学に入ってからは、友人も増えた。みんな大人の付き合い方を覚えていたし、学力がある程度そろうとつまらない妬みは薄くなるものだ。
 薪の容姿と頭脳はますます磨きがかかって、それがいくらか他の学生との間を邪魔していたが、サークル活動もそれなりに楽しくて、薪は充実した大学生活を送っていたのだ。
 鈴木に会ったのは、そんなときだ。
 
「へえ。君が有名な薪くんか。よろしく」
 そう言って握手を求めてきた。大きな身体に合った、大きな手だった。
「有名って、なに」
 少し険のある言い方で返した薪に、鈴木は屈託なく笑いかけてきた。
「いっつも学内の掲示板に張り出されてるだろ。学内トップの薪剛くん。論文や研究発表でも、よく名前見るよ。
一度会ってみたいと思ってたんだけど、しっかし」
 そこで、上から下まで薪のことを見た。
 薪の姿を正面からジロジロ見るものは少ない。男でも女でも、平静ではいられなくなるからだ。
 
「名前に合わないよなあ、その顔」
「余計なお世話だ!」
 自分でも気にしているのだ。初対面の相手に言われる筋合いはない。失礼なやつだ。
「なんだ。聞いてたほどクールじゃないんだ」
 自分の不用意な発言で相手を怒らせた人間にはあるまじき無邪気さで、鈴木は楽しそうに笑った。自分ばかりがムキになっている、この状況が不愉快で薪は押し黙る。

「オレ、鈴木克洋。今日からこのサークルに入ったから。よろしく、薪くん」
 薪の倍はあろうかという大きな手が華奢な手を握って、それが2人の出会いだった。


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若いってこわい(3)

若いってこわい(3)







 鈴木の明るく素直な性格が功を奏して、二人はすぐに打ち解けた。鈴木の裏表のない笑顔は、薪の心に安らぎを与えてくれた。
 こんなに安心できる相手は初めてだった。
 大きくて、あたたかくて、限りなくやさしくて。
 薪のどんなわがままもきいてくれる。諸般の事情から、子供の頃から一切の我儘を言えなかった薪だったが、鈴木にだけは思ったままを素直に言うことができた。

「しょうがないなあ、薪は」
 そう笑って、なんでもしてくれた。
 どこへでも付き合ってくれた。毎日が楽しくて仕方なかった。鈴木といると、世界中が自分に微笑みかけているようだった。

 自分の気持ちに気付いたのは、大学2年の秋だった。

 鈴木が他の学生と話しているのを見ると、なんとなく面白くなかった。さすがに間に割って入るような真似はしなかったが、敵意のある眼でじっと見てしまっている自分がいた。
 たいていは鈴木のほうから気が付いて、すぐに薪のところへ来てくれたが、たまに気付かないときもあった。そんなときは鈴木の友人のほうが先に気付いて『奥さん来てるぞ』などと揶揄されることもあったが、それは別に嫌な気分ではなかった。
 それどころか、鈴木にとって自分が特別な存在であることが公認されているようで、嬉しかった。

 鈴木は薪ほどではなかったが、女の子にもよくもてた。男友達のほうが断然多かったが、それなりに女の子とも付き合っていた。
 しかし、それは薪にとっては一番の苛立ちの種だった。
「あの女って、鈴木のこと好きなのかな。やめときなよ。つまんないよ、あんな女」
「おまえ、女嫌いなの?」
「べつにそんなんじゃないけど」
 子供のようにむくれて、つややかな唇を尖らせる。小学生かおまえは、と鈴木が笑う。
「オレに彼女ができるの、そんなに嫌なわけ?」
「いやだ」
 即答。
 素直すぎる。
 もう、笑うしかない。
「かなわないなあ、おまえには」
 わかったわかった、と薪の頭を撫でてくれる。他の人間だったら絶対に許さない行為だが、鈴木は特別だ。鈴木の大きな手はとても気持ちがいい。

 季節が冬になる頃には、これは恋だと自覚していた。

 薪には初めての恋だった。相手が同性だということは、薪の気持ちに幾ばくかのブレーキを掛けたが、たいして役には立たなかった。
 相手が鈴木だから―――― 男だろうと女だろうと、そんなことはどうでも良かった。
 とはいえ、さすがに告白する気にはなれなかった。いくらやさしい鈴木でも、気持ち悪がられるだろう。鈴木に嫌われたら……その後、普通に生きていける自信がなかった。

 すこし他に眼を向けてみようか、と思った。
 鈴木ばかりを見ているから、他のものが目に入らなくなって、よけいに夢中になってしまうのかもしれない。鈴木のように女の子と付き合ってみれば、いくらか紛れるかもしれない。幸い、相手には不自由しない。
 試してみたが、結果は散々だった。
 当然のことだが、女の子たちは男の役割を薪に求めてくる。甘い言葉を掛けて、ベッドに誘ってリードして―― 同性の友達とさえまともに付き合えなかった薪に、それは無理だ。
 結局、素人の女の子は諦めてプロに頼ることにした。プロのテクニックはなるほど素晴らしかったが、薪には射精の快感以外のものは得られなかった。

 こんなものか、と思った。
 幸福感も充足感も、鈴木といるときの半分も満たされない。
 あれなら、自分でした方がずっといい。自分でするときには鈴木のことを考えて、鈴木の名を呼んでイクことができるから。そのほうがずっと気持ちいい。
 もう、抑えることができなくなりそうだった。
 自分の中で鈴木への気持ちが大きくなりすぎて、息苦しいくらいだった。でも、鈴木に嫌われるのが怖くて何もできなかった。

 なんでこんなに好きになっちゃったんだろう―――― 鈴木を思いながら自慰行為を繰り返して、薪は泣いた。


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若いってこわい(4)

若いってこわい(4)






 その年の、12月24日。

『鈴木? 今日、僕の誕生日なんだけど』
 薪のいつものわがままで、鈴木はせっかくのイブの夜のデートをキャンセルさせられた。当然、彼女はものすごく怒って、結果ふられた。
 まあ、しかたない。薪のほうが大切だ。
 今日があいつの誕生日なのは知っていた。そんな日にデートの約束を入れた自分も悪かった。薪のほうにも予定があるだろうと思っていたのだが、そうではなかったらしい。あんなにもてるのに、おかしなヤツだ。

 イブの夕刻の喧騒の中、花とケーキを買って薪のアパートへ向かう。
 男の部屋を訪ねるのに花とケーキもないものだが、なんとなく薪には不自然じゃないようない気がする。薪は花が大好きだし、鈴木は甘いケーキが好物だった。

「彼女、どうした?」
 寒風吹きすさぶ屋外から暖かい部屋の中に入って、開口一番、薪が聞いてくる。自分でキャンセルしろと言っておいて、どうしたもないものだ。
「めちゃめちゃ怒って、フラれた」
「ふうん」
 うれしそうだ。
 まったく、こいつには振り回されてしまう。今までに何人の彼女と別れさせられたか。しかし、何故か嫌いになれない。
 鈴木が持ってきた花束を抱いて、にっこり笑う。このあどけない笑顔のせいか。天才と称される明晰な頭脳のせいか。それとも時折みせる翳りのせいか。

「鈴木。晩メシどうする? どっか行く?」
「どこも混んでて、レストランなんか入れないぞ」
「あれ、彼女とのデートに予約したレストランは? まさかキャンセルしちゃったのか? バカだなあ」
 ……このジコチューな性格のせいかもしれない。
「今日は彼女の家で、手料理の予定だったの」
「へえ。じゃ、よかったじゃん。まずいもの食わされなくて。僕に感謝しろよ」
 我儘もここまでくると、見事としか言いようがない。
 なんだか自分と会ってから、薪はどんどん我儘になっていったような気がする。甘い顔をしすぎたかな、と少し反省するがどうにも逆らえない。

「昨日のビーフシチューなら残ってるけど、食べる?」
「やった。薪のビーフシチュー、最高に美味いもんな」
 残り物と言いながら、薪は次々と料理を出してくる。オードブルからサラダまで、手がこんだものばかりだ。量もたっぷりとあって、これは朝から鈴木のために用意していたに違いない。
 来て良かった。薪の料理は絶品だ。
 牛スネ肉がとろけるまで煮込んだシチューに舌鼓を打つ頃には、鈴木は2ヶ月前からクリスマス用に付き合い始めた彼女のことなど、すっかり忘れていた。


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若いってこわい(5)

若いってこわい(5)







 大食漢の鈴木のために、実は昨日から仕込んでいた料理があらかた彼の胃袋に収まって、楽しい食事の時間は終わった。食器を片付けてテーブルをきれいに拭き、鈴木の持ってきてくれた花を飾る。
 白い百合の花。鈴木はこの花が好きなのか、よく薪のアパートに持ってきてくれる。

「薪、ケーキ食べよう」
「あんだけ食っといてまだ食うのか?」
「ケーキは別腹」
「人間の胃袋はひとつだよ」
 でも、鈴木の胃袋は2つくらいありそうだ。

 ケーキの箱を開ける。クリスマスのデコレーションがなされた円柱形のショートケーキだ。サンタの人形とイチゴが飾ってある。チョコレートにはX‘masの文字。
「なんでクリスマスなのに、ノエルじゃないんだよ」
 自分ではろくすっぽ食べないくせに、文句ばかり言う。薪のこの性格をかわいいと思ってくれるのは、世界中探しても鈴木くらいのものだ。
「オレ、ロールケーキよりそっちのほうが好きだもん」
「仕方ないなあ」
 しょうがないのはおまえだよ、と他人が見ていたら突っ込まれるに違いない。

 手際よくケーキを切り分け、鈴木の皿に1/4を。自分にはその半分を置いてコーヒーを注ぐ。
 ぶつぶつ言う割には、薪はくるくるとよく動く。皿にはカスタードソースとストロベリーソースで装飾がなされ、ラズベリーがちりばめられる。レストランで出てくるデザートのようだ。
 自分ではあまり食べないケーキを、鈴木の好物だと言う理由でいろいろと研究を重ねている。隠してあるが、本当はケーキも焼いたのだ。もちろん鈴木好みの生クリームとフルーツのケーキだ。でも、せっかく鈴木が買ってきてくれたのだから、今日はこっちを片付けて、自分のケーキは土産に持たせればいい。

「薪、これからどうする? どっか行きたいとこある?」
 今夜はだれも眠るものなどいない。聖誕祭とは名ばかり、お祭りのようなものだ。
「どこも混んでるだろ。ここで酒でも飲もうよ」
 そのほうがいい。
 空虚な喧騒の中に身を置くより、ふたりでする他愛もないお喋りのほうがずっと楽しい。

 クリスマスらしく赤ワインを1本あけて、オードブルの残りを肴にグラスを傾ける。鈴木は焼酎が好きなのだが、今日は特別だ。
「それより鈴木。今日は僕の誕生日なんだけど。プレゼントは?」
 2本目のワインが空になり、薪は日本酒に切り替えることにした。薪の外見には断然ワインのほうが似合うのだが、薪の好みも本当は日本酒だ。
「花とケーキを買ってきただろ」
「あれはクリスマス用だろ? 誕生日はまた別だよ」
「……何が欲しいんだよ」
 聞いてはみるが、鈴木には答えは分かっている。
 心理学の専門書か犯罪時録だな、と踏んで、あまり高くないほうにしてくれよ、と心の中で付け加える。

「彼女に贈るはずだったプレゼントは?」
 そうなのだ。それで財布の中が心細い。
「指輪。って、おいこら、勝手に見るなよ」
 薪が素早くハンガーに吊るした鈴木のコートを探る。すぐに小さな袋を見つけ、取り出して中を確認する。
「あっ、ちょっと……!」
 赤いリボンの掛けられた指輪の箱と一緒に入っていたのは、薄いビニールに包まれた平べったくて四角くて小さい――――。
 軽蔑しきったような眼で、薪が鈴木を睨む。美人が怒るとブスの3倍怖いと言うが、薪が怒ったときは心底、こわい。

「コレ、一緒に贈る気だったわけ?」
 汚いものでも触るようにソレを指でつまんで、ひらひらと振る。優雅な手に似合わない代物だ。
「いいだろ、クリスマスなんだから!」
 赤くなって鈴木が喚く。
 まったく、こいつの性格の悪さときたら!
「わけわかんない」
「必要だろ!」
「こんなんで女の子が喜ぶのか?」
「だいたい、8割は落ちるけどな」
 ふうん、と納得したような声を出して、薪は指輪の箱を開ける。
 ティファニーのプラチナリング。石は付いていないが、けっこう高かったのだ。不要になってしまったが返せないだろうな。また来年使えるかな、と不届きなことを考える。

 薪はその指輪をつまんでしばらく見つめていたが、やがて自分の指にそのリングをつけた。
 プラチナの硬質な輝きが、薪の細いゆびによく似合う。ほっそりした手の美しさを引き立てるきらめきに、ご満悦のようだ。
「おまえそれ、9号だぞ。きつくないのか?」
「ぴったりだよ。ありがとう。これ、もらっとく」
 ……どうせ不要品だったんだ。リサイクルしたと思えばいい。
 不要になった原因も、元はといえば目の前の小悪魔のせいなのだが。

 なんでオレはこいつに逆らえないんだろう、と鈴木は思う。他のやつならタダじゃ置かないんだが。
 いや、こいつ以外にこんなことをするような友人はいない。

「おまえが欲しいものって、指輪だったのか?」
 わざとそう訊いてやると、薪は黙り込んだ。
 なにやら考えているらしい。
 しまった、余計なことを言った。プレゼントの追加注文がくるかもしれない。
「これって、セットだったよね」
 今度はよく解らない。
「せっかくだから、これも使う?」
 使うって……。

 薪が顔を近づけてくる。
 きれいな顔。女のような、でもやっぱり女とは違う。不思議な美しい顔。
 華奢な手が鈴木の後頭部に回される。頭を押さえられて、なかば強制的に薪の美貌を見せつけられる。
 いくらか気の強そうな眉。大きな二重の眼。マスカラもつけていないのに濃くて長い睫。小さくて形の良い鼻。濡れたように光るつややかなくちびる。亜麻色の髪はごく普通の短髪なのだが、薪の顔を縁取っていると一流のヘアデザイナーの仕事に思えてくるから不思議だ。
 
「僕と、しようよ」
「薪……おまえ、酔ってる?」
「いいじゃん。クリスマスだし」
 それ、さっきオレが言った―――――。
「鈴木。僕とセックスしよう。クリスマスなんだから」

 おまえのほうが訳わかんないよ、と言おうとしたが、薪のくちびるが覆いかぶさってきて、その言葉は飲み込まれた。
 やわらかい濡れた果実のような感触。絡められた舌のぞくぞくするような、甘さ。
 本当に、なんでオレはこいつに逆らえないんだろう―――― 自問しながら、鈴木は目を閉じた。



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若いってこわい(6)

 この章は、イタ~イRです。
 Rが苦手な方、薪さんが肉体的に傷つくのはイヤ、という方にはごめんなさいです。




若いってこわい(6)



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若いってこわい(7)

若いってこわい(7)






 翌朝、薪は7時に目を覚ました。
 いつも起きている時間なのだ。休みの日でも、自然に目が覚めてしまう。
 隣では鈴木が寝息をたてている。裸の胸が上下して、薪の大好きな穏やかな顔で、まだ深い眠りの中にいるようだ。

「やっちゃった……」
 昨夜のことを思い出して、薪は青くなった。
 とうとう、襲ってしまった。自制する自信はあったのに、やっぱり飲みなれないワインなんか飲むんじゃなかった。
 こんなことをしてしまったら、もう鈴木とは親友でいられない。絶交されるかもしれない。
 そうなったら……空恐ろしいような気がした。自分はどうなってしまうのだろう。

 せっかく楽しいイブだったのに。楽しい誕生日だったのに。
 鈴木は彼女を放っぽって僕のところへ来てくれて、僕が作ったごはんを美味そうに食べてくれて、それだけで良かったのに。なんであんなことになっちゃったんだろう。
 ……鈴木が悪いんだ。
 彼女へのプレゼントにコンドームなんか添えておくから。そんなことをする気だったんだと思ったら、嫉妬で理性が吹っ飛んだ。
 だからあんなこと――――。

 自分がしたことを思い出して、薪は真っ赤になる。
 恥ずかしい。眠っている鈴木の顔が、見れない。

 昨夜のことは、とにかく痛かったことと……幸せだったことしか覚えていない。無我夢中で、自分が何を口走っていたのかさえわからない。
 ただ、うれしくてうれしくて。
 鈴木が自分を抱いてくれたのが嬉しくて幸せで、こんな痛みなんかどうでもいい、このまま死んでもいい――― そう思っていたことだけを覚えている。
 どうでもいいと言えるほど、軽い痛みでもなかったが。まさかあんなに痛いものだとは思わなかった。

 でも、もう二度目はない。
 なんとか冗談で済ませられないだろうか。そうしたら、もとの親友に戻れるかもしれない。
 鈴木を失いたくない。嫌われたくない。どんな形でも良いから、つながっていたい。

 とりあえず、服を着て朝食の用意をしよう。鈴木が起きたら朝食を食べさせて、何もなかった振りでこの場を流してしまえばいい。
 身を起こそうとして、薪は驚いた。
 「……ウソだろ」
 身体が言うことをきかない。ぜんぜん、動けない。
 無理に起きようとすると、腰から下に激痛がはしる。あそこが痛むのは覚悟していたけれど、ここまで痛いとは計算外だ。その部分だけではない。体中痛いのだ。これじゃ何もできない。極端な話、トイレにも行けない。
 身体は汗でべたついていて、気持ち悪い。自分ではわからないけど、きっと臭い。鈴木の前でそれはいやだ。
 せめてシャワーだけでもと思うが、この状態では不可能だ。痛くないところは頭くらいのもので、後は筋肉痛だか疼痛だか、もうわけがわからない。

 んん、と呻いて鈴木がこちらに顔を向ける。
 目の前に男らしい寝顔が来て、思わずどきどきしてしまう。
 やばい。目を覚ましそうだ。
 はやくうまい言い訳を考えないと、ってぜったい無理だ。この状況に言い訳なんて不可能だ。
 でも嫌われるのはいやだ。たえられない。どうしたらこの失態を回復できるだろう。

 パニクる薪をよそに、鈴木は目を覚ましてしまった。
『よるな、気持ち悪い』
 そんな言葉を覚悟して、薪は思わず目を閉じた。
「おはよ、薪」
 いつも通りのやさしい声。その声に、侮蔑も嫌悪も感じられない。
 薪はおそるおそる目を開ける。鈴木がこちらを見て微笑んでいる。
 
「身体、大丈夫か?」
 薪が何も言えずにいると、鈴木はひょいと起き上がって下着をつけてズボンを履いた。上半身は裸のまま、ヒーターの電源を入れにいく。そういえば昨夜は、タイマーを掛けておく余裕などなかった。
「どれ、見せてみろ」
 軽い調子で毛布を取り上げようとする。慌てて薪は毛布にしがみつく。
 冗談じゃない、何も着ていないのだ。毛布を取られたら素っ裸だ。
「いいから見せろよ」
 強引に毛布を剥がれた。とっさにうつ伏せるが、その痛みといったらなかった。体中がギシギシいっている。声を殺して奥歯を噛み締める。鈴木に心配をかけたくない。
 自分の尻に大きな手が置かれるのを感じて、薪は身をこわばらせた。
「なにするんだよ!」
 身体が言うことをきかないので頼れるのは声だけだ。その声もいつもとは違う、ハスキーな声だ。
 のどが痛い。応援団の練習をやらされた翌日みたいだ。

「あー、やっぱひどいなこりゃ。昨日、薬は塗っといたんだけどな。痛いだろ、薪」
 もう一度付けとこうな、と言っていつの間に買ってきたものか、新しいチューブに入った軟膏を出して指で患部に塗ってくれる。場所が場所だけに恥ずかしくてたまらなかったが、逃げることもできない。思うように動かない自分の身体を呪って、薪は心の中で悪態をついた。
「まったく無茶ばっかして。しょうがないなあ、薪は」
 いつものように笑っていつもの台詞。昨日までとなにも変わらない。薪にはそれが信じられない。

 あれだけのことがあったのに。
 薪にとっては、世界がひっくり返るような出来事だったのに。
 鈴木は何も感じていないのか? 何より、僕のことを気持ち悪いと思っていないのか? それとも、自分と同じようになかったことにしてしまおうと必死で平静を装っているのか。
 訊くのは、こわい。
 普段通りの笑顔が豹変してしまいそうで。もうおまえの顔を見るのも嫌だ、と言われてしまいそうで。

「まあ、最後の頃はオレも夢中になっちゃったから。おまえのせいだけじゃないけどな」
 冗談で済ませるつもりはないらしい。
 じゃあ、どうするつもりなんだろう?
 鈴木の心がわからなくて、薪は何も話せない。嫌われるのが怖くて何もできない。
 恋はひとをこんなに弱くするのか。
 こんなにも臆病な自分を、薪は初めて知った。

「ごめんな、薪」
 なにを謝るのだろう。
 この身体の傷のことか? それとも、もう会いたくない、ということか――――?

「おまえの気持ちに気付いてやれなくて。おまえ、あんなに思いつめてたんだな」
 枕に顔を埋めている薪の亜麻色の髪をいつものように撫でながら、鈴木は言った。
 汗のせいで髪の毛もベトベトしている。汚いからさわるな、と言いたかったが声は出ない。これから何を言われるのか、死刑宣告を待つ受刑者のような気分だ。
「オレ、知らないで……彼女作った話とか、何回目のデートでやったとか、そんなこと言ったりして。ずいぶん傷つけたよな、おまえのこと」
 それは鈴木が悪いんじゃない。僕が勝手に鈴木を好きになったんだから、鈴木はなにも悪くない。
「もう、しないから。おまえを傷つけるようなことは、ぜったいしない」

 もうこんなことはしない――――二度と、寝ない。そういう意味か?
 それはそれでいい。でも、友人ではいて欲しい。

 拒絶されるかもしれないという恐れでいっぱいになりながら、薪は顔を上げた。おずおずと鈴木の顔を見る。
 いつも通りの優しい顔に勇気付けられて、薪は言った。
「これからも、友だちでいてくれるか?」
「それは無理だろ。やっちゃったんだから」

 その、言葉の衝撃。
 覚悟はしていたのに、瞬時に涙腺が壊れた。

 泣くな。
 泣いてはダメだ。鈴木が困る。
 やさしいから、鈴木は優しいから。泣いている僕を切り捨てることに、痛みを感じるひとだから。
 だから平気な顔で、そうだね、と言え。終わりだね、と幕を引け。
 男なら自分のしでかしたことに責任を持て。

 必死の思いで涙を止める。
 でも、その先はできない。
 声が出ない。
 口は動くが、言葉が出てこない。

 目をいっぱいに見開いて口唇を震わせる薪の顔に、鈴木の顔が近づいてくる。
 乱れた呼吸を繰り返す小さなくちびるに、そっと鈴木のくちびるが重なった。
「友だちはこういうことしないだろ、普通。恋人、って言うんだろ、こういうのは」

 言葉の意味を理解するのに、薪の脳は少し時間がかかった。
 逆に身体の反応のほうが早かった。応急処置を施しただけの涙腺は、今度こそ完全に壊れて、大粒の涙がぼたぼたとこぼれ落ちた。
「薪? なんで泣くんだ?」
 初めて見せる泣き顔に、鈴木が狼狽している。これはきっと夢なんだ、と薪は思う。
「オレ、なんか悪いこと言ったか?」
 太い首に腕を回して、抱きしめる。大好きな鈴木の匂い。
 耳元で、そっとささやく。
「大好きだよ、鈴木。だいすき……」



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若いってこわい(8)

若いってこわい(8)









 リビングの目覚まし時計が盛大なベルの音を響かせて、薪を追憶から引き戻した。
 低血圧の薪は朝に弱い。
 電子音の目覚まし時計が枕元に3個。最終兵器のベル式のものは、何が何でも起きなければいけないように、わざとリビングに置いてある。
 もっとも、これを使うことは滅多にない。大抵はアラームが鳴るのを待たずに、悪夢が薪を起こしてくれるからだ。

 リビングのベルを止めて、シャワーを浴びに行く。時間があるときは朝からでもゆっくり湯船につかりたい薪だが、今日はその余裕はないようだ。
 熱めのシャワーを頭から浴びて、気持ちを切り替える。
 今日も仕事はたくさんある。
 岡部に言ってあの会社の裏を当たらせて、宇野にあのデータを解析させて、今井にはレイプ事件のほうを担当させて、放火事件は曽我に……。
 仕事の段取りを頭の中で組み立てながら、身支度を整え、朝食を摂る。
 昔ならこうはいかなかったな―――― ふと、そんなことを思う。

 どんなに衝撃的な出来事の後でも、こうして気持ちを切り替えてきちんと仕事ができる。自分も大人になったのだ。
 忘れてしまったわけでも、想いが薄れてしまったわけでもない。
 たとえ何があっても、それはいったん胸に閉まって、すぐに自分を立て直すことができる。どんな心理状態でも、自分の仕事に責任を持って全力で取り組むことができる。それが人の上に立つ者の最低条件だ。
 あの頃は、それができなかった。
 鈴木への想いが募って講義に身が入らなかったり、レポートの内容が意味不明だったりしたものだ。未熟だったとしか言いようがない。

 逆に、あの頃のことを今やれと言われても―――― できない。
 自分がしでかしたことながら、おそろしい。

 そういえば最近、薪にバカなことを言ってきた第九の新人も確か24歳だから、あの頃の薪と同じくらいの年齢だ。
「……若いって、こわいな」

 あの頃の自分と同じように、青木も周りが見えていないのだろう。
 もう少し年を重ねれば、こうして落ち着くことができる。
 幸い保留扱いの期限は無期限だ。自然にこのままなかったことにして、できれば雪子と幸せになって欲しいものだ。
 35歳になる自分が、鈴木のことをちっとも忘れられないことを棚に上げて、薪は勝手なことを考えている。

 ダークグレイのスーツに腕を通し、鞄を持つ。
 サイドボードの上の親友の写真に『行ってくるよ』と声をかけて、ついでにキスをしてから部屋を出る。
 腕時計に目をやりながら、駅までの道を急ぐ。背筋をピンと伸ばして、華奢な背中に活力をみなぎらせる。その小さな頭の中は、今日の仕事のスケジュールで埋め尽くされている。

 亜麻色の瞳を強い正義感に輝かせて、今日も室長の一日は始まるのだ。


 ―了―




(2008.9)

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若いってこわい ~あとがき~

 薪さんの昔話にお付き合いくださって、ありがとうございました。

 昔の薪さんは可愛かった、というご意見をいただきまして、とてもうれしかったです。
 そうです。
 すっかりオヤジになってしまったうちの薪さんですが、本来はこんなに可愛い人だったんです。皮肉屋で意地悪で自己中は変わってませんけどね。(笑)

 此処にこの話を持ってきたのは、メロディ8月号の影響もありますが、実は時系列どおりなんです。
 もともと「告」の次はこの話を入れるつもりでした。
 自分の中に青木くんへの気持ちが生まれつつあるのを自覚しながら、彼を受け入れることができない薪さんの心理には、鈴木さんのことをここまで深く想っていた過去が関係している、という展開にしたかったので。



 さて。
 つぎのお話は、ああ、これか!
 エロネタ全開、エロオヤジ、AV、フーゾク、武勇伝、金髪美人とやりまくり、あ、石が飛んできた。

 M 『だから、僕に何させる気だ!?』

 うふふ。
 わかってるくせに。

 厳しいご意見、お待ちしております(^^

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プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
毎日たくさんの拍手をありがとうございます。励まされてます。
おかげさまで、しづは元気で仕事してます。(10/28)
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