デート(1)

 今回は、薪さんと青木くんが、初めてデートをするお話です。
 ラブくなるといいな。(自分で書いといて、いいなって。(^^;)


 ちょっと私信です。

 すぎやまださんへ

 こちらは以前、すぎさんの水族館のコメに残しました、あのお話です。
 楽しんでくださるとうれしいです。





デート(1)







 第2と第4の水曜日の夜を、青木は指折り数えて待っている。
 その日は、金曜の室長会議に使う資料を作成する助手にと、毎回薪からお声が掛かる。例え仕事でも、薪とふたりになれる貴重な時間だ。
 本音を言うと、金曜の夜の定例会より楽しみにしている。会議の資料作りの流れで、薪と一緒に夕食が食べられるからだ。
 定例会は岡部がいて、それはそれでとても楽しいのだが、水曜は薪とふたりきりだ。プライベートのかわいい薪をひとりじめにできるのが、何よりも嬉しい。

 ペニンシラホテルの一件以来、戒厳令は何故か解除されて、青木は再び単身でも薪の家に行けるようになった。と言っても、それほど頻繁にチャンスに恵まれたわけではない。年度末の室長は何かと忙しくて、帰りは遅くなることが多かった。
 青木のほうも、4月に新人が入ってきてからはアフターの誘いが多くなって、自由になる時間がなかった。結局、戒厳令が解かれてからこの2ヶ月の間に、薪の家に行けたのはたったの4回。金曜の定例会も含めてのこの回数は、決して青木を満足させる数字ではない。
 だから、今日のチャンスは絶対に逃したくない。
 資料の準備は、昨日のうちに進めておいた。自宅でレジュメも作ってきた。これなら7時前には、研究室を出られるはずだ。
 ところが、薪に掛かってきた一本の電話によって、青木の計画は頓挫してしまった。

「今夜は所長と一緒に、人権擁護団体の役員と会食をすることになった」
 プライバシー問題でMRI捜査を非難する人権擁護団体は、第九にとって厄介な相手だ。
 彼らには定期的に会食の機会を設けることで、いくらかでも態度を和らげてもらうように務めている。いわば接待のようなものだ。団体の役員も切替の時期だから、今夜の会食は新しい役員の紹介も兼ねているのだろう。第九の室長が顔を出さない訳にはいかない。

 薪が、少し困った顔でこちらを見ている。
 青木はにっこりと笑顔を作って、明るく言った。
「場所は『玄楼鮨』ですか? いいなあ。あそこのアナゴは絶品なんですってね」
「会食の間中、嫌味たらたら言われるんだぞ。ものを食う気になんかなれるか」
「聞き流せばいいじゃないですか。高いお金を払うのに、もったいないですよ」
「それもそうだな。じゃ、今日は耳栓して行って、食ってみるか」
 薪に皮肉な口調が戻る。しかし、亜麻色の瞳は憂鬱そうだ。会食の相手のせいもあるだろうが、いつもなら仕事と割り切っているのに、今日は様子が違うようだ。

 もしかしたら。
 薪も少しは、今夜の予定を楽しみにしてくれていたのかもしれない、と考えるのは、自惚れが過ぎるだろうか。

 セキュリティーを掛けて、研究室を出る。エントランスまでの長い廊下を、ゆっくりと歩く。
 薪の歩調がゆっくりなのは、青木と話をしたがっている証拠だ。青木は自惚れを一段階、強めることにした。
「一乃房の寿司は、いつになったら食べさせてもらえるんですか?」
「ちっ、覚えてたのか。食うことだけは忘れないな、おまえは」
 言葉面だけ聞くとひどい言われ方だが、本気でそう思っているわけではない。亜麻色の前髪に隠れた眉の形が、やさしくなっている。
「食べることじゃなくても忘れませんよ。薪さんとの約束ですから」
 薪は足を止めた。
 右手を口許に当てて、考えている。頭の中で、スケジュール表をめくってくれているのかもしれない。

「今、けっこう忙しいんだよな。春の異動の後で、会議も多いし」
「じゃあ、お休みの日に連れて行ってください」
「いやだ」
 即答だ。コンマ1秒もかかっていない。
「少しくらい、迷ってくれたって」
 休日に薪とデートをしたのは、1回だけだ。
 去年の冬に、青木の誘いを薪が仕事だと勘違いして、なし崩しにデートに持ち込んだ。それから何回か誘いを掛けたのだが、一度もOKしてもらったことはない。
 仕事の流れで食事に行ったりするのは、上司と部下であればおかしくない。しかし、休みの日にふたりでどこかへ行く、というのはその範疇を超えることだ。
 薪はそう考えているのかもしれないが、青木はいつまでも、ただの上司と部下でいるつもりはない。

「観たい映画とか」
「ない」
「森林浴とか」
「そこに皇居と日比谷公園があるだろ」
「海とか」
「まだ5月だぞ」
「美術館とか、博物館とか」
 くるりと背を向けて、歩き始める。付き合ってくれる気は全然ないらしい。
「ドライブ、セーリング、ゴルフ」
 すたすたと青木の前を歩く。薪はとても足が速い。
 もう、ヤケクソだ。

「植物園、遊園地、動物園」
 薪の足が止まった。

「植物園?」
 歩き出した。
「遊園地?」
 早足になった。
「上野の動物園で!」
 止まった。

「サイの赤ちゃんが産まれたって、ニュースでやってました」
 薪はゆっくり振り向いた。




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デート(2)

デート(2)








 土曜日の動物園は、なかなかの賑わいをみせている。
 当然ながら親子連れや子供の姿が多く、次いで恋人同士やグループ交際らしき男女の集団。間違っても、成人男子がふたりで来るところではない。
 が、薪となら話は別だ。これが例えピュー○ランドだって、文句は言わない。

 まさか、動物園で薪が釣れるとは思わなかった。
 外見と中身のギャップの激しさには慣れたつもりでいたが、薪にはまだまだ驚かされることが多い。
 周りの年齢層を考慮して、青木も今日は長袖のTシャツにジーンズ姿だ。薪も似たような格好だが、このひとがスーツ以外の服を着ると、殺人的にかわいい。
 白地に黒と青でMCMのロゴが入った半袖のTシャツと、リーバイスのジーンズ。胸に太目のチェーンと十字架のネックレスをぶら下げている。髪型もいつものビジネススタイルではなく、ワックスでふんわりと根元を立たせて、毛先をあちこちに遊ばせている。
 仕事のときには絶対に見られない姿だ。というか、他のだれにも見せたくない姿だ。かわいすぎる。

「オレ、東京の動物園初めてです」
「まったく、おまえは子供だよな。いまどき動物園なんて、小学生だって」
 憎まれ口を叩きながら、足が止まる。
 亜麻色の目はきらきら輝いて、柵の中のレッサーパンダを見ている。ちょうど餌の時間らしく、飼育員が細竹の束を持って入ってきた。
「レッサーパンダも竹を食べるんですね」
「パンダだからな」
 へんに下の方から声が聞こえたような気がして、ふと横を見ると薪の姿がない。目を落とすと、しゃがみこんで中を見ている。隣の子供よりも熱心だ。さっきのメガネザルのところでもこうだった。

 そういえば、と青木は薪と街を歩いたときのことを思い出す。
 いつも早足でさっさと歩く薪の歩調が、急にゆっくりになるときがあった。あれはペットショップの前を通るときだ。青木の前ではさほど興味がなさそうに振舞っていたが、自分ひとりだったら、きっと立ち止まって見ていたに違いない。

 自分の観察眼が鋭ければ、もっと早くにデートに連れ出せていたかもしれない。
 見落としているだけで、薪にだって好みのアトラクションやイベントがあるはずだ。無理矢理にでも外に連れて行って、楽しませてあげたい。雪子も、自分の友だちにそうしてもらったと言っていた。この世にはまだ、楽しいことが沢山あることを、薪にも思い出させてやりたい。

 それにしても、この動物園は広い。
 さすが入園者数日本一を誇るだけはある。ゾウやキリン、ライオンといった定番の動物の他にも、青木がまるで知らない動物たちが山ほどいる。園内パンフレットに書かれた名前を見ただけでは、どんなものか想像もつかない。

「スローロリスってリスじゃないんですか?」
「ちがう。あれはサルの仲間だ。完全な夜行性だから、きっと今の時間は眠ってる」
「アビシニアコロブスってなんだろう」
「それも猿だ。白と黒のコントラストが特徴的なサルだから、一度見たら忘れられない。生まれたばかりの頃は全身真っ白で、成長するに従って毛が黒くなっていくんだ」
 パンフレットを見ながらいくつかの動物の名前をあげると、そのほとんどを薪は知っている。中には知らないものもあったが、その確率は1割程度だった。

「詳しいですね」
「前は、この近くに住んでたんだ。だからここへは、たまに来てて」
「ひとりでですか?」
「ひとりでは来ないだろ。こういうところは」
 ……きっと鈴木と来ていたのだ。
「雪子さんと3人だ」
 ヤキモチが顔に出てしまったらしい。薪は苦笑して付け加えた。

「子供の頃は、もっと頻繁に来てたんだ。母が動物が好きで、よく連れてきてもらった。30年も前のことだから、だいぶ園内は変わっちゃってるけど。その頃はゾウの隣にクマがいたんだ」
 30年前の記憶が残っていることが怖い。青木なんか、3年前の国家試験の問題すら思い出せない。

 薪の両親は、薪がまだ子供のころに、交通事故で亡くなったと雪子に聞いた。
 それから薪は、ずっと叔母の家で育てられたそうだ。叔母夫婦は子供がいなかったから、薪をとても可愛がってくれたらしいが、やはり本当の親とは違うし、ずい分気を使ってきたらしい。中学を卒業すると同時に叔母の家を出て、一人で暮らし始めたそうだ。とびきり優秀な学生だったから、奨学金も国家特別奨励金も全部取得して、叔母の家にはなるべく負担の係らないようにアルバイトもしていたという。

 今の薪は警視正という立場もあって、経済的にはまったく問題のない生活をしている。優雅な外見も手伝って、過去にそれほど苦労したようには見えない。品も良いし、言葉の発音もきれいだ。口は悪いが。
 レストランに行けば完璧なテーブルマナーを披露してくれるし、美術や音楽にも造詣が深い。ブランド品にはあまり興味がないようだが、室長の身だしなみとしてスーツや靴にはお金を掛けている。英国製やイタリア製のスーツを、さりげなく着こなすあたりはさすがだ。成城の実家には執事がいる、と言われたら信じてしまいそうだ。
 しかし、それは薪がそういう場所で、TPOに合わせて振舞っているときだけだ。普段の薪は上品でもないし、気取ってもいない。中身はまるっきり、普通の男の人だ。

 例えば、こんな冗談も得意だ。
「あそこに岡部がいるぞ」
 親指を立てて斜め後ろを指し、薪はにやっと笑う。もちろん、ゴリラのブースだ。
 オスのローラントゴリラは、奥の寝床で横になっている。タイヤやボールが上からぶら下がっているから、遊具で遊ぶときもあるのだろうが、残念ながら今は休憩中らしい。
「お昼寝中みたいですね、岡部さん」
 薪は下を向いて笑っている。周りの人に気兼ねして、大きな声では笑わないが、青木の冗談を楽しんでくれている。
「薪さんが呼んだら、起きるかもしれませんよ。『モニター準備!』って言ってみてくださいよ」
「岡部が聞いたら怒るぞ」
 軽口にクスクスと笑って、薪は顔を上げた。青木にだけ聞こえる小さな声で、「事件だぞ、岡部」と囁く。
「薪さんだって……あ、本当に起きた」
 あまりのタイミング良さに、ふたりは顔を見合わせる。同時に思いっきり吹き出した。

「ダメです、もはや岡部さんにしか見えなくなってきました」
「よし。次の室長会議には、こっちの岡部を連れて行こう」
「あはは。メチャメチャ言いますね」
「大丈夫だ。ネクタイさえ締めれば完璧だ」
 バカな話をしている間に、ゴリラはのしのしと歩いてきて、ぶら下がったボールの中に手を入れた。中から木の実を取り出す。あれは遊具ではなく、エサの入れ物らしい。
 薪は柵から身を乗り出して、大きな体の草食動物に熱い視線を送る。動物に興味のない、大人の振りをするのは止めたようだ。

 しばらくゴリラの食事風景を楽しんだ後、その場を離れる。
 鳥や爬虫類のブースを回り、孔雀やニシキヘビや珍しい蛙を見る。大きな目が忙しく動いて、薪は次第に饒舌になる。
「こいつを見ると、おまえのこと思い出すんだよな」
 薪が示したのは、アフリカ産のベリツノガエルという蛙だ。泥の色の皮膚をして、目つきが悪い。岡部とゴリラのように、見た目が似ていると思われていたらかなりのショックだ。
「なんでオレがカエルなんですか?」
「こいつはもの凄く、食い意地が張ってるんだ。肉食だからネズミとか昆虫とかを食べるんだけど、自分よりも大きくて、絶対に飲み込めないような相手でも、丸飲みにしようとするんだ。
 それで、どうなると思う?」
「蛇みたいにおなかが伸びるんですか?」
 亜麻色の頭を左右に振って、青木の答えにバツをつける。カエルにはあんなにやさしそうだった瞳が、青木を見るときには、途端に意地悪になる。
 
「窒息死しちゃうんだ」
「え!? 死んじゃうんですか?」
「うん。窒息する苦しさに食欲が勝つなんて、おまえにそっくりだろ」
「ムリです。オレにはそこまではできません」
「今度、特大の太巻き寿司作ってやるから。チャレンジしてみろ」
 きれいな顔でブラックなジョークを言って、グウグウと鳴くカエルを見る。ハラも身のうちだぞ、と大喰いのカエルに話しかけて、にっこりと笑う。
 薪にあんなにやさしく笑ってもらえるなら、青木はカエルになってもいい。

「あ、孔雀が羽根を広げてますよ。きれいだなあ」
「今はちょうど、繁殖期だからな」
 孔雀の金網に近付くと、動物の名前と特徴が書かれた掲示板に、孔雀の繁殖期は4月から6月とある。なんでもよく知っているひとだ。
「これって、求愛のためにするんですよね」
「うん。美しさでメスを惹き付けようとする動物は、孔雀以外にも沢山いる。殆どの鳥はオスのほうが華やかだし。ライオンの鬣とか、トラの模様とかもそうだ。オスよりもメスのほうがきれいな動物って、人間くらいじゃないのかな」
「それ、薪さんに言われても、だれも納得しないんじゃ」
 薪に聞こえないように口の中で呟いて、青木はそっと隣を見る。

 見事な扇形の羽根を広げた煌びやかな鳥を、うっとりと見ているきれいな顔。青木には孔雀の羽根より、こちらのほうが数段魅力的だ。
 薪の美しさは、孔雀というよりは白鳥といった風情だ。ゴテゴテと飾り立てることはせず、シンプルで儚くて清らかで、それでいて目を離せない清冽さを持っている。

 ふと、隣の柵の中に雪のように白い鳥を見つけて、青木はすこし驚く。
 白い孔雀だ。これは初めて見た。
「白い孔雀もいるんですね」
 その純粋さに、青木は目を奪われる。
 これは薪のイメージそのままだ。白鳥より華奢で、優美で儚い。首を後ろに曲げて羽根繕いをしている。真っ白な羽根がふわりと開く様は、胸を衝かれるほどの美しさだ。
「アルビノ(白子)っていうのは一種の奇形でさ。色素細胞の異常によるものなんだけど、大抵はその他にも欠陥があって、普通の個体と比べて体が弱かったりするんだ。だから自然界では、こいつらは長生きできない。森の中で白は目立つから敵には見つかりやすいし、仲間には入れてもらえないし、メスも寄ってこない」
「こんなにきれいなのに?」
「それは人間の感覚だろ。孔雀たちの間では、こいつはただの出来損ないだ。一羽だけ別に囲ってあるのは、そっちの柵に入れたら、みんなから袋叩きにされるからだ」
「ひどいです。見かけがちょっと違うからって、苛めるなんて」
 動物の行動は短絡的だ。これが人間ならそんなことはしない。道徳心に従って、自分より弱いものを庇おうとするだろう。

「ひどくない。
 こいつがいると外敵に発見されやすくなって、グループ全体が危険に晒される。かれらは生存本能に従って、危険を排除しているだけだ。人間が気にいらないやつを仲間外れにするのとは違う。自分より優れた者を妬んだり、逆に劣った者を蔑んだり、そんな醜い感情は持っていないんだ」
 白い孔雀を見る瞳に含まれる翳りに気付いて、青木は薪の過去を慮る。

 このひとは、ずっとそんな目に遭ってきたのかもしれない。
 優秀すぎる頭脳と、美麗すぎる容姿。何でもできてしまう天与の才能。
 それを奇形とは言わないけれど、周りの人間と違いすぎる点では変わらない。憧れと賞賛を集める代わりに、友人や仲間は遠ざかって行ったのかもしれない。薪が友好的な人間関係の構築を最も不得手とするあたりに、その変遷が表れているような気がする。

「こいつが人間だったら、オレは絶対にこいつを苛めたりしません。守ろうとすると思います。みんなもそうだと思いますよ。こんなにきれいな生き物を、傷つけようとするほうがおかしいんです」
 薪が、びっくりした目で青木を見る。
 信じられないと言った表情をしている。そんなにおかしなことを言っただろうか。

「動物たちには、悪意はない。襲撃を受けて身体は傷ついても、心は傷つかない。こいつだって、自分のことをかわいそうだとは思ってない」
 すっとその場にしゃがみ込み、孔雀に目線を合わせる。薪の顔は見えないが、アルトの声は澄んで柔らかい。
「悪意の不在証明ですか。動物のほうが人間より、道徳的ってことになりますね」
「同種族で殺し合いをするのは、人間だけだ。動物はメスを争ったり縄張りを主張したりしてよくケンカはするけれど、相手を殺してしまうことは滅多にないんだ。種全体が生き残るためには、個体の数を減らすことは得策ではない。かれらはちゃんと考えてるんだ。
 はずみや一時の感情で、相手を殺してしまうバカな人間より、ずっと冷静で頭がいい」

 その『バカな人間』というのがだれを指しているのか、特定しなくても青木には解る。
 今まで手がけてきた、事件の加害者ではない。薪は加害者のことも、悲劇の渦中の人間のひとりだと思っている。だからこれは、自分のことだ。

 純粋なひとだから。
 だから、いつまでも自分の罪が許せない。その純粋さが、薪の魅力であり危うさの原因だ。
 いつも自分の罪を意識して、それゆえに自分には殊更厳しく、研鑽を怠らない。そこに青木は、どうしようもなく惹きつけられている。あまり自分を追い詰めないで欲しいと思うが、だからこそ放っておけないのだ。

 自ら生きる楽しみを放棄してしまっているような、薪の生き様を見ているのが、とてもつらかった。
 むかしの写真にあるような笑顔を、取り戻して欲しいと思った。この手で薪の人生を、明るい色に塗り替えてやりたいと思った。
 薪が喜ぶなら、なんでもしてやりたい。
 あの笑顔で笑ってくれるなら、特大太巻きに挑戦してもいい。

 鳥類の金網が切れると、広場にでる。動物園によくある、動物と触れ合える広場だ。
 動物の種類ごとに柵で区切られていて、羊やヤギ、ウサギやハムスターなどの小動物、犬や猫や、ニシキヘビまでいる。
 広場にいるのは9割が子供で、あとは子供に付き添っている母親が何人か。どこにも子供専用とは書いていないが、なんとなくこういうところは子供がいないと入りづらい。カップルや父親たちは、柵の外からその様子を眺めているだけである。
 しかし、動物好きには堪らないはずだ。この中に男ふたりで入っていくのは抵抗があるが、薪のために付き合ってやろう。

「薪さん。エサやってみますか?」
 動物のエサを買って帰ると、もう薪はいなかった。
 ギャラリーの中に埋もれてしまったのかと思って辺りを探すが、どこにもいない。
 身長の低い薪は、人ごみに紛れ込むのが得意だ。子供の多いこの場所では、比較的容易に探すことができたのだが。

「あははは! くすぐったい!」
 赤い雪よりめずらしい、明るい笑い声が聞こえてくる。
 犬の柵の中で子供に混じって遊んでいる、高校生くらいの男の子の姿を見つけて、青木は頭を掻いた。
 ぜんぜん不自然じゃない。というか、どの子供よりも楽しそうだ。

 薪の遊び相手は、とても大きな犬だった。雪山で遭難したひとを助けたりする、あれだ。薪ぐらいなら、背中に乗れそうだ。
 その犬に、薪は頬を舐められている。太い首に手を回して、楽しそうに笑っている。豊かな毛並みに顔を埋めている。
 犬が羨ましい。今まで一回だって、青木にあんな笑顔を向けてくれたことはない。

「よせ、こら!」
 今度は仰向けに倒されて、のし掛かられている。首筋をぺろぺろ舐められている。
 よせ、と言いながら、めちゃめちゃ楽しそうだ。青木があれをやったら、間違いなく投げ飛ばされる。
「甘えん坊だな、ヨーゼフは」
 勝手に名前までつけている。これは、相当の犬好きと見た。
「その犬、ヨーゼフって名前なんですか?」
「ヨーゼフって顔だろ?」
 どういう顔なのだろう。

「薪さん、犬好きなんですか?」
「うん、大好きだ」
 薪が何かを好きだというのを、初めて聞いた。
 なにかまた、ヒネくれた答えが返ってくるものと思っていたのに、動物といるときの薪は、やたらと素直だ。
「オレと、どっちが好きですか?」
「犬」
 ……素直ならいいってもんじゃない。
「美味いか? もっと食べるか?」
 地面に座り込んで、自分の手のひらから餌を食べさせている。
 なんて幸運な犬だろう。やさしく頭を撫でながら時々頬にキスをして、あんなふうに薪に食べさせてもらえるなら、青木はきっとドックフードだって食べる。

「薪さん。そろそろオレの餌の時間なんですけど」
「そこに人参とか売ってるぞ」
 ひどい。犬より下の扱いだ。
「それってポニーの餌ですよね」
 オレが人参が嫌いなこと知ってるくせに、とぶちぶち言うと、薪は犬に向けていた笑いをそのままに、青木に笑いかけた。
「もうちょっと。もうちょっとだけ、な?」
 その笑顔で頼まれたら、飢え死にするまでだって待ってます。

 幸せそうに犬と戯れる薪の姿を、これまた幸せそうに見ながら、青木は薪のこの笑顔をいつまでも見ていたいと思った。




*****


 お詫びです。
 動物行動学に詳しい方から教えていただいたのですが、上記の中でうちの薪さんがもっともらしく言ってることは大間違いでした。
 動物間の同族殺しは人間のそれより遥かに多くて、サルの集団リンチとか、ライオンなんか早くメスに自分の子供を産ませるために、前のオスとの子供を殺しちゃうこともあるんだそうです。全然知りませんでした。
 生半可な知識で書いてしまって、すみませんでした!!(><)
 これを書いたときは、どこかの教授が授業で使った講義の内容をネットで読んで鵜呑みにして、そのまま書いちゃったのでした。

 本来なら書き直さなくてはならないところなのですが、このセリフを省いてしまうと、続きのセリフがおかしなことになってしまうので。すみません、このままで許してください。



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デート(3)

デート(3)





 動物園を出たのは4時過ぎだった。
 夕飯にはまだ早いが、このまま帰るにはもったいない。そんな中途半端な時刻だ。
 上野の駅までは西門を出れば一直線なのだが、わざと東門から出て不忍池の周りを散策することにした。今時期はツツジが見ごろだ。

 さきほど会ってきた動物たちの愛らしい仕草を思い出すと、薪の頬はついつい緩んでしまう。
 人間といるより、ずっと楽しい。
 動物は嘘を吐かないし、言葉で心をごまかしたりしない。

「ここって、恋人同士が一緒にボートに乗ると別れるって言い伝えがあるんじゃなかったですか?」
 不忍池に浮かんだいくつものボートを見て、青木が古いジンクスを持ち出してくる。薪もそれは聞いたことがあるが、今はそんなことを気にする者もいないようだ。
「逆に、愛を確かめようとしてるんですかね。ジンクスに打ち勝つ、みたいな」
「もしかしたら、別れたがってるのかもしれないぞ。全員離婚調停中だったりして」
「こんなんで縁が切れれば、家庭裁判所は要りません」
「あはは。確かにそうだな」
 どうでもいい話をしながら、ぶらぶら歩く。そんな普通のことがすごく楽しい。動物たちのパワーをもらったおかげで、こころが元気になった証拠だ。

「別れさせ屋って商売もあるみたいですよ」
「なんだ、それ。どういう商売なんだ?」
「別れたい彼女がいるときとかに頼むと、後くされなく別れさせてくれるんですって」
「別れたかったら別れたいって、言えばいいじゃないか」
「そんなに単純に行きませんよ。付き合い始めるときはなんとなくでも、別れるときはたいてい修羅場ですからね。相手を傷つけたくないとか、恨まれるのは嫌だとか。色々考えちゃうのが普通です」
「別れ話なんだから、傷つくのも恨まれるのも当たり前だろ。それを他人にどうにかしてもらおうなんて、卑怯じゃないか?そんな覚悟もできないんだったら、初めっから付き合わなきゃいいんだ」
「どうなんでしょうね。オレは振られたことしかないから、わかりませんけど」
「そういえばおまえ、前の彼女に振られたときって、何て言われたんだ?」
「聞きますか? 普通。そういうこと」
「聞きたい。しつこく付きまとってくる誰かさんを諦めさせるのに、効果的な言葉かもしれないだろ」
 青木はちょっとイヤな顔になった。誰かさん、というのが自分のことだと分かったらしい。

「あなたは私を見ていない」
 前を向いたまま、やれやれと言いたげに、青木は口を開いた。
「そう言われました。たしかに第九に入ったばかりで、彼女のことは1ヶ月以上もほったらかしでしたから。無理もないです」
 他の部署に配属になっていたら、きっと今でもその彼女と仲良くやっていたのだろう。こいつはそう簡単に、心変わりや浮気をするタイプには見えない。

「薪さんには使えませんよ。オレはあなたのことしか見てませんから」
 たしかに、これは使えない。
 青木はいつも自分を見ている。いつも熱い視線を感じている。
「迷惑ですか?」
「別に。上司が部下の見本になるのは当然だから」
 そういう意味で見てるんじゃないのに、とぶつぶつ言っているが、それは聞こえないフリだ。せっかくいい気分なのに、そっちの方向へ話を持っていきたくない。
 青木の気持ちは知っているが、薪はこのまま青木とは友だちでいたい。それ以上の関係にはなりたくない。
 かと言って、青木に恋人ができて自分の地位が格下げになるのも面白くない。
 ……なんだかものすごく勝手なことを望んでいるような気がする。

 少し申し訳ない気がして、薪は青木が喜びそうな情報を、他の職員たちより一足先に教えてやることにした。
「再来月から、女子職員が来ることになったぞ」
「本当ですか」
 それは、第九職員全員が切望していたことだった。
 職場に女の子がいるのといないのとでは、仕事の熱の入り方も違ってくる。男ばかりの環境だと、どうしてもむさくるしくなるし、お茶だって男に淹れてもらうより、かわいい女の子に手渡されたほうが、美味しく感じるに決まっている。

「お茶汲みや買い物なんかは、彼女がやってくれる。伝票の整理も資料ファイルの作成も任せて大丈夫だ。もとは警察庁の経理課にいたそうだから、要領は心得ているとさ」
「ありがとうございます。助かります」
「礼には及ばん。職員の確保は室長の仕事だからな。
 ただ、パートタイマーだから、勤務時間が10時から4時までなんだ。朝の掃除だけは、このままおまえに続けてもらうしかないな。それとも、当番制にするか」
「いいえ。オレがやります」
 多分、そう言うだろうと思った。こいつの性格はわかっている。

「彼女は、いつから来てくれるんですか?」
「7月の第一月曜からだ」
「第一月曜ってことは、7月の4日からですか。じゃあ、オレのバリスタ稼業も、来月でおしまいですね」
「まあ、そういうことになるかな。でも」
 薪はそこで、じっと青木を見る。
「薪さんの朝と昼のコーヒーは、オレが淹れます。専属ですから」
 当然だ、という顔で、薪は鷹揚に頷いた。

 思ったとおりの答えだ。こいつがこう答えることは、100%解っていた。
 自分の専属のバリスタにしてやる、と言ってやったときの青木の嬉しそうな顔を思い出して、薪の頬が自然に緩む。
 こいつは自分と一緒にいられるのが、楽しくてたまらないのだ。今からだって、美味いコーヒーが飲みたいから僕の家に来て淹れてくれ、って言ったら尻尾を振ってついてくるに決まってる。そこまで甘い顔をするつもりはないけれど、この立場はやっぱり気分が良い。

「これ、動物園にあったんですけど」
 青木はジーパンのポケットから、折り畳んだパンフレットを取り出した。動物園と同じ系列の、水族館のパンフレットだった。
 薪は、魚類はそれほど好きではないが、ペンギンやイルカは大好きだ。アザラシとかオットセイとかアシカとか。たとえ彼らが夕飯の刺身を食べてしまっても、きっと怒らない。

 メガネの奥の黒い瞳が、なにか言おうとしている。
 察しがついたが、OKする気はない。2日続けてこいつとデートなんて、いくらなんでもまずい。今日だって本当は、少し後ろめたかったのだ。普通の上司と部下は、休みの日にふたりで動物園には行かない。

「明日は第4日曜日で、シャチのショーをやるみたいですよ。イルカはよく聞きますけど、シャチは珍しいですよね。きっとダイナミックで面白いでしょうね」
「シャチ? あのでかいやつが、ショーをやるのか?」
 それは薪も、見たことがない。
 イルカやオットセイは、空中に飛び上がってボールを尾ひれで蹴ったりするが、シャチがそれをしたらさぞかし見ごたえがあるだろう。イルカの5倍は大きいのだ。力も強いだろうし、水飛沫も盛大に上がったりして……想像するとワクワクする。

「場所は? 何時からだ?」
「今日と同じ時間に、薪さんのお宅まで迎えに行きます」
「行くなんて言ってないだろ。参考までに聞いただけだ」
「いったい何の参考にするんですか?」
「……今度の室長会議の資料にしようかと」
「水族館における犯罪の傾向と対策ですか? それは是非、実地検証が必要かと」
 青木の巧妙な誘い方に、ついニヤリとしてしまう。こいつも捻りの利いた会話に乗ってくるようになった。
「実地検証には助手が必要です。捜査官は基本的に、ふたり一組ですから」
「検証じゃ仕方ないな。ちゃんと報告書、提出しろよ」
「はい!」
 ものすごく嬉しそうだ。こっちまでつられて、笑ってしまいそうだ。
 おかしなやつだ。休みの日に職場の上司と外出なんて、薪だったら絶対に嫌だ。

 変人は放っておいて、薪はパンフレットを眺める。シャチのショーの他に、定番のイルカ、ペンギン、アシカのショーもある。これは計画的に回らないと、一日では見切れない。
 今日より1時間早く出ることにして、霞ヶ関の駅で青木と別れた。
 青木は送りたがったが、まだそれほど遅い時間ではないし、送ってもらわなければならない立場でもない。薪は男だし、青木より強い。

 電車の窓越しに、青木の姿が見える。ホームに立って、ずっとこちらを見ている。
 やがて電車が動き出し、地下鉄のホームが見えなくなっても。
 その暖かい視線は、いつまでも薪を包んでいた。





*****


 色気のイの字もないまま、デート終了です。
 どこの中学生だよ、おまえら。(笑)


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デート(4)

 青木くんと薪さんの、楽しいデートはいかがだったでしょうか?
 ほのぼのと、いい雰囲気で帰途につき、明日の水族館に備えてお休みになった薪さんは、ちょっとだけイヤな夢を見ちゃいます。
 この章と次の章は、その夢のお話です。

 ということで、下記に該当なさる方は、読まずに次の章にお進みください。
 次の章の冒頭には、この章の内容を書きますので、お読みにならなくてもストーリーはわかります。

 ○R系のグロイ描写が苦手な方。
 ○イタグロの苦手な方。
 ○心臓の弱い方。
 ○鈴木さんファンの方。(これ、けっこう重要です)
 ○イタイ薪さんを見たくない方。




 すいません、ちょっと私信です。

 みちゅうさんは、読んじゃダメです。眠れなくなっちゃいます。(笑)
 すぎさんには、次章を捧げます。受け取ってください!(あっ、バットで打ち返された)





デート(4)






 白い孔雀の前に、薪は立っている。
 隣には青木がいて、一緒に孔雀を見ている。
 真っ白な孔雀は美しいけれど、仲間からは迫害される運命にあると言うと、青木は柵の中に入っていき、孔雀を抱き上げて『オレが守ります』と言った。

 薪は孔雀が羨ましくなる。
 あの場所は、自分の場所だ。青木はいつも、自分のことを一番に考えているはずだ。

「青木、早く来い。次はサイの赤ちゃんを見に行くぞ」
 が、青木は声を掛けても動かない。白い孔雀に夢中のようだ。
 仕方なく、薪はひとりで園内を回ることにする。
 ひとりでだって、充分楽しめる。ヨーゼフとも遊びたい。

「あれ?」
 横を向いて驚く。どうしてここにも柵があるんだろう。

 その柵は色気のない灰色の金属製で、薪の遥か頭上まで伸びている。柵ではなく鉄格子―――― まるで牢屋のようだ。
 反対側を向くと、やはりそちらも鉄格子に囲まれている。さっきは薪の腰までしかなかった前面の柵も、いつの間にか鉄格子に変わっている。
「いったい何が……鈴木!」
 後ろを振り向くと、そこには薪の大好きな親友がいて、いつものようににっこりと微笑んでくれている。
 犬が飼い主に駆け寄るように、薪は鈴木のところへ走っていく。親友に会えた嬉しさに、我を忘れて彼に抱きついた。
 
「鈴木、鈴木! 会いたかった」
 親友が何も言わないことに気付いて、薪は顔を上げる。
「鈴木?」
 いつもなら抱きしめてくれるはずの鈴木が、今日はヘンだ。顔はニコニコと笑っているのに、目が笑ってない。
「おまえ、その格好なに?」
「え?」
「なんでそんなにオシャレしてるの?」
「べつに。普通だよ」
「普通ってことないだろ。朝っぱらから何時間、鏡の前で髪の毛いじってたんだよ。洋服だって昨夜から用意しちゃって、つけたことないアクセまでつけちゃってさ」
 細い首から下げたチェーンネックレスを摘み上げて、鈴木は吐き捨てるように言った。
 昨夜からの浮かれた自分を指摘されて、薪は気恥ずかしさに赤くなる。うつむいて、鈴木のデニムシャツをつかんだ自分の両手に視線を落とす。

「そんなにあの男とのデートが、楽しみだったの?」
「ち、違うよ! そんなんじゃなくて。だいたいデートなんかじゃないよ。僕はヨーゼフに会いたかっただけだし」
 薪は犬のことを持ち出して、彼の気持ちを和らげようとする。薪には大切な思い出だし、鈴木にとっても、それは同じはずだ。
「覚えてるだろ? あの犬、鈴木が名前つけたんだぞ」
 しかし、鈴木は追及の手を止めてくれなかった。
「ヨーゼフと遊んだら、髪なんかぐしゃぐしゃになるの解ってて、なんでそんなに念入りにセットしてたわけ?」
「……いいじゃん。たまには僕だって、オシャレくらいするよ」
「正直に言えよ。あの男の気を惹きたかったんだろ」
「ちがうよ」
「あいつ、おまえのこと惚れ直したって顔で見ててさ。おまえだって、それが嬉しくてたまらなかったくせに」
「そんなこと思ってないよ! なんだよ、鈴木だって僕がお洒落でいたほうが嬉しいって、むかし言ってくれただろ」
「オレのためにオシャレしてくれるなら嬉しいけど。他の男のためにするのは面白くない。ってか、許せない」
 鈴木の素直な反応が、ちょっと意外だ。鈴木がヤキモチを妬いてくれたのなんか、初めてじゃないだろうか。
 思わずニヤついてしまう。
 ヤキモチを妬いてもらえるのは、愛されている証拠だ。すごくうれしい。

「鈴木ったら」
「なにチャラついてんだよ。人殺しのクセに」

 薪の笑顔は瞬時に凍りついた。
 鈴木は妬いてくれたんじゃなくて、僕が楽しそうに休日を過ごすのが気に入らなかっただけなんだ。
 じわっと涙が出てくる。鈴木のシャツのボタンに刻まれた文字が、ぼやけて読めなくなる。

「ごめんなさい」
「いいよ。許してやるよ。オレはおまえの親友だから」
 鈴木はやさしく薪のからだを抱きしめてくれる。そのぬくもりを愛しく感じながらも、薪の腕は鈴木のからだを抱き返さない。
 だって、鉄柵の向こうから、青木がこちらを見ている。

「す、鈴木っ、ちょっと待って!」
 Tシャツの裾から入ってきた大きな手を押留めて、薪は叫ぶ。鈴木が自分を欲しがってくれるのは嬉しいけれど、ここでは嫌だ。
「どうしたんだよ」
「だって」
 鈴木の胸に顔を伏せて、見物人の存在を指差す。顔を上げることはできない。
「気にするなよ。見せつけてやろうぜ」
「いやだよ! 僕がこういうとこ他人に見られるの、大嫌いだって知ってるだろ」
 薪は昔からこちらの方面の羞恥心は強い。セックスを見るのも見られるのも、ものすごく恥ずかしい。正直な話、AVにだって抵抗がある。
 お互いが相手しか見えない状態になってしまえばいいけど、その全体図を眺めるとなると、これはまったく話が別だ。普通の男女のそれだってとても美しいとは思えないのに、ましてや男同士なんて。絶対にエチケット袋が必要だ。

「あいつには見られたくないってこと?」
「だれに見られるのも嫌だよ。恥ずかしいよ」
「そんな言い方で、オレのこと誤魔化せるとでも思ってんの?」
 ぞっとするような声音に、薪は思わず鈴木の顔を見る。
 鈴木はこんな声で、薪を威嚇したことはなかった。いつだってやさしくて、薪のわがままは何でもきいてくれた。顔は確かに鈴木だけれど、この男は本物の鈴木なのだろうか。

「ふざけんなよ」
 鈴木は急に怖い顔になって怒り出した。髪を掴まれて引き摺られる。鈴木にこんな乱暴なことをされたのは初めてだった。
「髪の毛一本までオレのものじゃなかったのか? おまえ、何度もオレにそう誓ったじゃないか」
「そうだよ。僕は鈴木のものだよ」
 それは本当の気持ちだ。身もこころも、僕のすべては鈴木のものだ。
「だったら嫌だなんて言うなよ」
「嫌がってなんかいないよ。ただ、場所を変えてくれって頼んでるんじゃないか」
「オレはここでしたいんだよ。あいつの目の前で、おまえがオレのものだって思い知らせてやりたいんだよ」
 鈴木が『あいつ』と呼んでいるのは、鉄の棒越しに薪たちを見ている背高のっぽのメガネ男のことだ。
「あの男が、二度とおまえにちょっかい出さないように」
 ぶちぶちっ、と何本かの髪が頭皮から引きちぎられる。めちゃめちゃ痛い。ハゲたらどうしてくれるんだ。

「痛いよ、鈴木!」
「知ってんだぜ、オレ。おまえ、この前あの男にここを許しただろ」
 固いジーンズ生地の上から思い切りそこを掴まれて、薪は痛みに身をよじる。
 例のPホテルの一件か。あれは鈴木には内緒にしておいたのに、どこから聞いたのだろう。
 ……当たり前か。鈴木は僕の中に住んでるんだから。僕のことなら何でもわかるんだ。

「あれは違うんだ。クスリのせいであんなことになっちゃっただけなんだ。鈴木のことを裏切ったわけじゃないよ」
「あの男に、全部許してもいいと思ってたくせに」
「思ってないよ。思うはずないだろ。僕が愛してるのは鈴木だけだよ」
「よく言うよ。あいつとのこと思い出して、オナニーしてたくせに」
「それは」
 あの体験を夢に見てしまって、ついそんな気分になって。でも、あれは本当に処理をしただけで、鈴木を思ってするときみたいに、相手とのセックスを想像したりしてない。
 
「仕方ないだろ。僕だって生身の男なんだから。そんな気分のときもあるんだよ」
「解ってるよ。だからオレが満たしてやろうって言ってんじゃん」
「やめろよ! 人前でするもんじゃないだろ!」
 薪は鈴木の腕を振りほどいた。これまで鈴木の求めに応じなかったことは、一度もない。でも、薪には他人の目に晒されながらその行為を行うなんて、絶対に耐えられない。

「奥の方に行こうよ。そこでなら」
「だめだ。ここでするんだ」
「鈴木。どうして今日はそんなに意地悪なんだよ」
「決まってるだろ?」
 ぐいっと髪の毛を鷲づかみにされて、身体を持ち上げられる。鈴木は背が高いから、爪先立っても届かない。痛みに耐えかねて鈴木の身体に縋る。鈴木が手を離すと、何本もの亜麻色の髪が地面に落ちた。

「おまえがオレを殺したから」




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デート(5)

 ご注意ください。

 グロイです!
 キモイです!
 ご気分が悪くなっても責任持てません☆

 こちら、すぎさんに捧げます。愛をこめて
(注意事項を並べておいて、捧げますって(^^;))


 



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デート(6)

 前章を読まれなかった方の為に、内容をご説明します。
 もうグロイシーンは出てきませんので、安心してお進みください。


 薪さんは夢を見ました。
 すごくすごく、怖い夢でした。

 夢には鈴木さんが出てきて、薪さんが青木くんと昼間、楽しくデートをしたことをなじりました。
 鈴木さんはめちゃめちゃ怒っていて、青木くんが見ている前で薪さんを犯しました。
 薪さんは鈴木さんには逆らえないので、為されるがままでした。
 そんな薪さんに幻滅して青木くんが去っていくと、今度は貝沼の狂気の犠牲になった少年たちが出てきて、集団で薪さんを襲いました。(性的な意味ではなく暴行です)
 薪さんは40人もの人間の手で、バラバラに解体されて死んじゃいました。

 あれー、わたし、こんな残酷なこと書いたっけ……。(←書いたそばから忘れる)








デート(6)







 親友の写真を抱きしめて、海老のように身体を丸め込み、薪はシーツの中で震えている。

 今夜の夢は、ものすごく怖かった。ヨーゼフと遊ぶ夢が見られると思っていたのに、あんまりだ。
 どうしてこんな夢を見たんだろう。昼間はあんなに楽しかったのに。

 ……楽しかった、から?

 今日は青木と一緒に動物園に行って、大好きな動物たちの顔を見て、古い友だちのヨーゼフとも会ってきた。久しぶりに、心から笑えた休日だった。

 だから?

 薪は震える足でベッドから下り、部屋の明かりを点けた。
 明るくなった寝室で、薪はシーツについた血痕を発見する。ふと見ると、爪の先が血だらけだ。両腕には幾筋もの蚯蚓腫れができていて、傷口から血が流れている。

 胸に抱いた写真立てを両手に持ち替え、親友の顔を見る。
『なにチャラついてんだよ。人殺しのクセに』
 夢の中で、鈴木に投げつけられた刃のような言葉が、胸の痛みとともに甦ってくる。

「あれはおまえの本心なのか? それとも、僕が勝手に思い込んでいるだけなのか……?」
 鈴木は、とてもやさしい男だった。特に薪には、限りなく甘かった。
 こんな酷いことをするはずはないし、言うはずもない。だからこれはきっと僕の思い込みで、鈴木はそんなことを考えてはいない。
 わかっているのに、鈴木を信じているのに、どうしてこんな夢を見るんだろう。

 そういえば、と薪は過去の悪夢を思い出す。
 以前にも一度、こんなふうに鈴木に、嬲られる夢を見た。貝沼と一緒になって、薪を殺す夢だった。
 あれを見たのは去年の冬。やっぱり青木と過ごした日のことだった。その後も夢とは違ったけれど、あいつのことで鈴木に誤解されて。
 鈴木が怖い男になって夢に出てくるのは、決まって青木と何かあった日のことだ。これはどういうことなんだろう。
 鈴木は、僕が青木と過ごすのが、面白くないのだろうか。

『そんなにあの男とのデートが楽しみだったの?』
『あの男の気を惹きたかったんだろ』
『あの男に、全部許してもいいと思ってたくせに』
 そんなことは思っていないのに。僕が愛してるのは、鈴木だけなのに。

「あいつとは何でもないよ。おまえとはぜんぜん違うよ」
 薪の声は、空に飲み込まれた。
 言葉に出してみても、だれも答える者はない。虚しさが増すばかりで、つい涙があふれてくる。

 ……本当は解っている。
 鈴木の言葉は、全部薪のひとり芝居だ。自分の中にあいつに惹かれていく自分がいて、それを許せないだけだ。
 そいつは近ごろ増長してきて、薪は月に何度か青木と過ごすアフターを、楽しみにするようになった。頻繁に家まで押しかけてこられて、以前は迷惑だと思っていたはずなのに、最近は心待ちにするようになった。
 明日の準備だって、万全に整えてある。
 服だって選んであるし、今日とは違うアクセも用意した。
 半袖のTシャツとベストに、カーゴパンツでアクティブに決めて、腕には太目のシルバーのバングルを……どうしよう。この傷だらけの腕では、半袖は着られない。

 困った顔をした薪に、鈴木が呆れたように言う。
『おまえって頭いいのに、時々すげえバカみたいだ』
 そうだ。鈴木の言うとおりだ。長袖の服を用意すればいいんだ。
 外出用のシャツは何枚かあったはず。これから用意してアイロンをあてて――――。

『行かなきゃいいだろ』

「……やっぱり?」
 あはは、と薪は笑う。
 笑いながら、涙を流す。

 自分はゆっくり狂っていくのかもしれない、と薪は思った。









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デート(7)

 前回、鍵付き部分の内容説明を書いてて、思ったんですけど。
 我ながら、怖かったです。


 ちょっと、余談ですが。

 わたしは小説を書いているときは、あまり意識がないんです。
 何も考えてないって感じで、書き終わった直後は自分が何を書いたのか覚えてないことが殆どです。
 だから後で自分で読んだときに、「うおっ、こんなこと書いてる!」とか、「へえ、ここはこうやってまとめたんだ」などと驚くことがよくあります。
 きっと小説を書かれる方は、みなさん味わう感覚だと思うんですけど。あれは何なんでしょうね?
 待てよ。もしかしてわたしの場合、頭が悪すぎて、書くそばから忘れていってるだけ?

 ということで、決してわたしが薪さんのあんな姿を望んでいるわけではありませんから!!
 ……信じて?






デート(7)





 薪からの電話は、朝の7時にかかってきた。
「今日は行けない」
 おはようの挨拶もなしに、薪はいきなりキャンセルを申し立てた。
 昨日はあんなに楽しみにしていたのに、急にどうしたのだろう。

 落胆を隠して、青木は穏やかに応えを返す。
「もしかして仕事ですか?」
 仕事以外で、このひとに急用ができるとは思えない。薪には彼女も友だちも、親兄弟もいないのだ。
「そうじゃない。でも行けない」
「声がおかしいですよ。体調が悪いんですか?」
「ちがう」

 ちがうと言うが、薪の声は、いつもの落ち着いたアルトではなく、鼻にかかった声だった。昨日めずらしく半袖の服なんか着ていたから、カゼをひいてしまったのかもしれない。
 残念だが仕方がない。今日はゆっくり休んでもらおう。

「シャチのショーは、毎月やってますから。来月の第4日曜に見に行きましょう」
「おまえとは行かない」
 ぶつり、と電話が切れた。

 青木は思わず、携帯電話を見つめる。
 薪が気分屋なのは心得ているが、昨日と今日でこれほど落差があるなんて。
 昨日とは別人としか思えない上司の態度に、青木はため息をついた。



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デート(8)

デート(8)




 ぽっかりと空いた休日に、薪はふて寝を決め込んでいる。
 血に汚れたシーツを洗濯機に入れて、新しいものと取り替え、風呂に入ったら、もうやることは何もない。

 今日は家から一歩も出ない。一日中、鈴木と一緒だ。
 今までは、ずっとこうだった。
 休みの日には、部屋の掃除と洗濯をして。たまに朝トレで岡部に会うと、朝食に誘ったりしたけれど、基本的にはいつも独りだった。

「独りじゃないか。おまえがいるもんな」
 ベッドの頭部から親友の写真を取り、枕の端に載せる。
 鈴木と恋人同士だった頃は、目が覚めたらこうして鈴木の寝顔を見つめていた。
 寝ても覚めても鈴木と一緒にいられることが、幸せで幸せで。鈴木と一緒なら、いつ死んでもいいと思ってた。
 あんな恋は、もう二度とできない。

「大好きだよ。鈴木」
 写真立てを寝せておいて、薪はそこに覆いかぶさってキスをする。むかし隣で眠っていた恋人にしたように、これは朝の挨拶だ。

 恋人同士の熱いキスの最中に、無粋にもチャイムが鳴って、薪は時計を見た。
 まだ8時前だ。日曜のこんな時間に他人の家を訪問するような礼儀知らずは、シカトするに限る。どうせロクなやつじゃない。新聞の勧誘とか、きっとそんなんだ。
 薪は来客を無視して、鈴木とのキスを続行する。しかし、訪問者はしつこかった。
 チャイムは鳴り続け、薪は癇癪を起こしてベッドから飛び降りた。

 まったく、常識を知らない最近の連中は頭にくる。
 リビングに走っていき、インターホンを取り上げる。カメラも見ずに、薪は来訪者を怒鳴りつけた。
「うるさい! 新聞なんかいらん!」
『新聞? それは買ってきませんでしたけど』
 聞きなれた部下の声に、驚いてカメラの映像を確認する。メガネをかけた黒髪の男が、百合の花束を抱えて立っている。
 びっくりしたら、身体が勝手に動いてしまった。気がついたときには、薪の手はドアのロックを外していて、早朝の来訪者の入室を許してしまっていた。

「あ、やっぱりカゼひいちゃったんですね? 早起きの薪さんが、今頃までパジャマでいるわけありませんものね」
 薪は、自分の目が信じられない。
 なんでこいつがここにいるんだ? 今さっき、約束をキャンセルしたばかりなのに。

「これ、お見舞いです。そこのコンビニのプリンですけど」
 まだどこの店も開いてなくて、と青木は言って、薪にコンビニの袋を手渡した。
「この花は昨日から用意しておいたんです。公園の花壇から盗んできたんじゃありませんよ」
 薪の注視の理由を花の調達先のことだと勘違いして、青木は必要のない言い訳をする。
「少し顔が赤いみたいですね。熱があるんじゃないですか?」
 大きな手が、薪の額に触れる。
 右手で邪険に振り払う。青木の手に薪の手が当たって、パシッと音を立てた。
 心配してくれている相手に、こんな態度を取るのは良くないが、薪にはこうすることしかできない。あの夢が二晩続いたら、明日は仕事にならない。
 手を振り払われたのがカンに障ったのか、青木はくるりと薪に背を向けた。
 そのまま、薪から離れていこうとする。その後姿が、夢で薪を見捨てた背中と重なった。

「あ……」
 夢を現実にトレースしたように、青木は白い百合を胸に抱いていた。夢では孔雀だったけれど、色は同じだ。今とそっくりに薪に背中を向けて、薪がどんなに叫んでも戻ってきてくれなかった。

 薪は夢中で手を伸ばした。
 現実には、薪を阻む鉄格子はない。一歩足を踏み出せば薪の腕は、青木を後ろから抱きしめることができた。
 しっかりした肉の感触が腕に伝わってくる。

 ―――― 行くなっ!

 大きな背中に顔を埋めて、夢で叫んだように心の中で叫ぶ。口には出せない激しい想いが、薪の中で渦を巻く。
薪の手に、大きな手が重なった。

「どこへも行きません。花を活けてくるだけですよ」
 青木の言葉は、薪を驚かせる。
 心で思ったことに返事をしてくるなんて、こいつの耳はどうなってるんだ。

 薄いシャツの背中は、ダイレクトに相手の体温を感じさせる。暖かくて、とても安心する。
「よかったあ。薪さん、オレと行くのが嫌になっちゃったのかと思いました。ちゃんと楽しみにしてくれてたんですね」
 唐突な話の展開に、薪は目を開ける。
 見ると、青木の視線はリビングのローテーブルに注がれている。
 そこには、今日着て行こうと思っていた洋服と、シルバーのバングルが置いてある。隣にはショルダーバックと水族館のパンフレット。完璧な証拠品だ。
 青木が何を根拠にそんなことを言い出したのかが分かって、見る見る薪の顔が赤くなる。顔が見えない位置関係で助かった。

「やっぱり来月、行きましょうよ。オレとふたりなのがマズイなら、岡部さんとか三好先生とか、誘えばいいじゃないですか」
 またこいつは、心にもないことを。
 こいつは僕のことが好きなんだから、ふたりだけの方がいいに決まっている。ふたりきりで過ごして、あわよくばそういう関係に持ち込みたい、と思っているはずだ。

 青木の背に顔を伏せたまま、薪は小さな声で訊いた。
「それでいいのか?」
「はい。薪さんが昨日みたいに笑ってくれるなら、オレはそれでもいいです」
 青木は薪の手を握ったまま、明るく言った。
「何なら、第九のみんなで行きましょうか? 署内レクリエーションみたく、予定組んじゃいましょうよ」
 冗談のように言うが、案外本気かもしれない。
 大の男が7人も揃って水族館をぞろぞろと歩いたら、それはきっと水族館の方もいい迷惑だろう。特に岡部のことは、小さい子供が見たら、泣き出しそうだ。

 薪は青木から手を放した。
 ベル式の目覚まし時計を見て、時刻を確認する。7時56分。

「薪さん?」
 薪はローテーブルの衣服を持って、クローゼットに向かう。
 用意しておいた半袖のシャツの代わりに、長袖のTシャツを着る。バングルはやめて、チョーカーをつける。昨日のように髪を整える時間がないから、ウエットワックスで前髪だけ流して、キャップをかぶることにする。

「行くぞ」
「え? あの、風邪は?」
「だれが風邪ひいたなんて言った」
「でも、あの」
「早くしろ! ショーの時間に間に合わなくなっちゃうだろ!」
「はい!」
 怒号一発で、部下は上司の言いなりになるものだ。

 青木は急いで花をバケツに活け、プリンを冷蔵庫にしまった。嬉しそうに薪の鞄を持つと、スニーカーを履いて玄関を出る。
 薪は出掛けに鏡を覗いて、身だしなみのチェックをする。
 チョーカーの飾りが中心にくるように位置を調整し、キャップのつばを動かして、一番オシャレに見える角度に合わせる。

 鏡の中の薪は、とても勇ましい顔をしている。強い目をして、眉をきりりと上げている。
 薪は、覚悟を決めた。

 例え今夜の悪夢が、僕の心臓を止めても。
 ……シャチのショーが見たい。

「行ってくるよ、鈴木」
 玄関の靴箱の上に飾られた写真にキスをして、薪は家を出た。



 ―了―




(2009.4)




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デート~あとがき~

 青木くんと薪さんの初デートにお付き合いくださいまして、ありがとうございました。
 って、ブログがお通夜みたいな雰囲気なんですけど。(^^;


 今回のお話は、「2060.12 真冬の夢」と関連しています。被ってるな、と思われた方もいらっしゃったのではないでしょうか。
 楽しい思いをして、そのことを自分で許すことができず、悪夢を見てしまう。
「真冬の夢」のときの薪さんは、たったひとりで悪夢から立ち直るしかありませんでした。
 でも、今日は違います。青木くんがいてくれて、薪さんを元気にしてくれるんです。もう、薪さんはひとりじゃないんだよ、という話になるはずだったんですけど。
 薪さんが青木くんに惹かれていく自分を許せない、と思う気持ちが大きすぎて、夢の内容がエスカレートしてしまい、書き上がってみたら、悲壮な決意を固める薪さんになってしまいました。
 そんなにシャチのショーが見たかったのか。(笑)

 わんすけさんからいただいたコメにありました通り、夢の中で薪さんが首につけていたネックレスは、罪人を牢獄につなぎとめる鎖。そして鉄格子は、薪さん自身の心の壁を表しています。
 薪さんは、どうしてもそこから逃れることができない。彼は未だ、鈴木さんや貝沼や、犠牲になった少年たちのフィールドに捕らわれているのです。
 そこに働きかけるのが、青木くんです。
 彼は、薪さんの悪夢の内容を知ることもなく、(腕の傷には気付いたと思いますが、それでも何も言わず)ただ、自分を後ろから抱きしめる薪さんの手を握るだけ。たったそれだけのことしかしてないです。風邪を引いたのでは、なんてトンチンカンなことまで言ってます。
 でも、薪さんには、それで充分だったのです。
 あの夢に立ち向かう、勇気が湧いたのです。

 みなさまに、さんざんドSドSと言われましたけど。(笑)
 誤解を恐れずに言っちゃいますけど、うちの薪さんは幸せだと思いますよ?
 だって、かれを取り巻く環境を考えてみてください。

 青木くんは、薪さんのことをわき目もふらずに愛し続けてる。
 雪子さんは、薪さんの親友で、ふたりの恋を応援している。
 第九の面々は、みんな薪さんのことを大切に思い、慕っている。
 岡部さんは、薪さんの腹心の部下として、陰になり日向になり、彼を守る。
 小野田さんという強力な後ろ盾もあり、その力に守られている。
 間宮はヘンタイだけど、薪さんを気にいっているので、多少のワガママな人事も通してもらえる。

 最後のはちょっと微妙ですけど。(笑)(でも、間宮ノートは、後々薪さんの役に立つんですよ)
 ね?
 幸せでしょう?
 本人が気付いてないだけで、彼はとても幸せなひとなんです。

 ちょっと手を伸ばせば、幸せが手に入るのに。
 自分で自分の心に張り巡らせた鉄格子を、どうしても超えられない、超えてはいけないと思い込んでいる。
 彼の心の壁が取り払われたとき、彼は自分の幸福に気付くことができるんです。
 そしてやはり、その壁を取り払うのは、青木くんの役目で。
 もっとも、本当に壁を壊せるのは薪さん自身なので、青木くんはそのお手伝い、もしくは傍にいてそれを支えるだけ、という状況になると思いますが。



 さて。
 お次は、明るく行きます。(ホントですよ、信じてください)
 だって~、ずっと真面目な話が続いてて、ギャグポイントがたまっちゃったんだもん。(笑)



 次のお話も、ごゆるりとお付き合い願えれば幸いです。


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プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
毎日たくさんの拍手をありがとうございます。励まされてます。
おかげさまで、しづは元気で仕事してます。(10/28)
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