QED(1)

 今回はラブコメです。
 ええ、わたしがラブコメを書くとこんな感じに。あははは。

 時系列では『ナルシストの掟』の次、『運命のひと』の前になります。
 ちょびっとRなので、苦手な方にはごめんなさいです。

 よろしくお願いします。





QED(1)






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QED(2)

 うちはミクロサイズの土木会社を営んでいるのですが。
 今年はめっちゃ暑いし、でもみんな頑張ってるし、ちょっとフンパツして、先週の土曜日の夜、行きつけの小さなスナックを借り切って、社員一同で暑気払いをしました。

 始まって1時間後。
 アルコールも回ったみたいで、義弟(♂)が酔っ払って、次々と周りの社員(もちろん♂)にキスを。 ←ほっぺとかオデコでしたけど。
 店内は悲鳴を上げる社員たちで阿鼻叫喚の地獄絵図。
 まさに『ビアガーデン』状態でした(笑)


 男同士の飲み会って、こんな風にハチャメチャになることが多いですよね。(うちの会社だけかな?)
 ズボンの上から股間を揉むなんて、アルコールが入らなくても当たり前にやってるしー。 揉まれた方は「ああんっ、感じちゃうっ!」とか女声を上げるし。(←みんなノリがいい。 うちだけ?)
 そんな光景をいつも見ているので、わたしの話はこんなに下品なんですね(^^;
 

 ところで、義弟にはひとり、超お気に入りの男の子(外見は眼鏡を掛けた曽我さん)がいまして。
 しょっちゅう自宅に泊らせるし、飲みに行くのも一緒だし。
 その男の子にマイクで何度も「K!!愛してるぞー!」と叫んでおりました。(←もちろん冗談で、周りからのブーイングで笑いを取る)
 ちなみに、年下のKくん(27)が攻め、義弟(36)の方が受けだそうです。

 ということで、今月の義弟の誕生日プレゼントは、ローションにしようと思います☆





QED(2)


 
  

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QED(3)

QED(3)





 第九のモニタールームに、張りのあるアルトの声が響いている。
 衆目の中、メインスクリーンの前に毅然と立った室長は、いつもの通りメモを見ることも無く、流麗な口調で事件の概要を説明していた。
 2週間ぶりに会う室長は、長い研修に疲れた様子もなく、被疑者未確定の事件の際に見せる行き過ぎた熱心さで部下たちを鼓舞する。
「いいか。今、この瞬間に第3の犠牲者が出ないとも限らない。捜査は一刻を争う。一秒でも早く犯人を見つけるんだ!」
「はい!」
 時刻は10時を回っていた。今日は確実に真夜中を越えそうだ。
 しかし、第九にはこれが当たり前のことだ。事件の見通しがつくまで、不眠不休の捜査が続く。

 普段は「健康管理は社会人の基本だ」などと職員たちの夜遊びを叱る室長が、事件が起こるや否や、180度言うことが変わる。
 いわく、『2、3日寝なくても人間は死なん』
 ……死ななければいい、というものでもないと思うが。

 睡眠不足は確実に仕事の能率を落とす。集中力の欠如は、大きなミスに繋がる。結果的には捜査を混迷させる結果になりかねないのだが、そこは気力で何とかしろと言うのが室長の厳命である。
 集中が削がれる原因は、睡眠不足ばかりではない。空腹や疲労、悩み事など精神的なことも大きな要因だ。その兆候が現れているひとりの捜査官に、薪はそっと話しかけた。

「青木」
「はい」
 表面上は平静を装っているが、その眼には僅かばかりの不満が表れている。
 あの状況で呼び出されたのでは無理もない。2週間ぶりのご馳走に待ったを掛けられ、お預けを食った犬状態。青木はまだ25歳という若さで、他の職員に比べると精神的にも未熟だ。取り上げられたご馳走に意識が向いて、いつもの能力を発揮できないかもしれない。
 この部下の操縦法は解っている。ここはフォローを入れておくところだ。

 薪は声を落として、青木の耳にだけ入るように囁いた。
「さっきは、残念だった」
 自分だって辛かった、という気持ちを伏せた睫毛の震えで表現する。青木はたちまち嬉しそうな顔になって、薪に微笑を返してきた。
 これだけで充分だとは思うが、念のためにもう一押し。この一言で、青木は実力以上の力を発揮する。
「おまえがこのヤマのホシ挙げたら、埋め合わせに朝まで付き合ってやるから」
「本当ですか!」
「男に二言は無い」
「岡部さん! 最初のガイシャ、オレに任せてください!!」
 青木のやる気を引き出すことは、薪にとっては赤子の手を捻るより容易い。

 デスクを二つ占領して捜査資料を広げ、捜査官の目になってモニターを見始めた青木の様子に、他の職員たちが驚いている。青木は普段から仕事熱心な男だが、ここまでの気迫を感じることはめずらしい。
「むちゃくちゃ張り切ってないか? 青木」
「鬼気迫るもんがあるな」
 たしかに。
 身体の一部が差し迫っている。
「青木なりに考えてんだろ。薪さんが警視長になって初めての事件だ。ここで事件の解決にもたついてみろ。警察庁の仕事と第九の室長を兼任するなんてわがまま、通らなくなるぞ」
 青木が考えているのはそういうことではない。

「岡部さんの言うとおりだ。俺たちも青木に負けないように、頑張ろうぜ」
「いいです、皆さんは普通にしててください。でないとオレのご馳走がなくなっちゃいます」
「はあ?」
 青木の言うことは時々よくわからない。
 この現象は何年も前から続いていることだから、いまさら誰も突っ込む者もいないが。

「見つけましたっ!! この男です!」
 気合が能力を水増ししたのか、最初に決定的な画を発見したのは、周囲から浮きあがるほど張り切っていた捜査官だった。
 青木のモニターを見て、薪が満足げな笑みを浮かべる。自分が育てた捜査官の実力が確実に伸びていることを認識するのは、上司の醍醐味というものだ。
 こいつが本当に集中したときのカンの良さは、岡部に匹敵する。サーチの能力も、宇野に近付いてきている。少し精神的にムラが多いのが難点だが、スキルは確実に伸びている。
 これは、褒賞の価値がある。

「よくやった! 約束どおり朝まで付き合ってやるぞ!」
 薪の宣言に、青木はびっくりする。
 そんなに大きな声で、みんなに聞かれてしまう。まさかカミングアウトするつもりじゃ。
 もちろん青木に異存はない。薪が自分とそういう仲だと公言してくれたら、どんなに嬉しいだろう――――― なんて、甘い夢だった。
 
「みんな、事件解決の祝い酒だ! 朝まで飲むぞ!!」
「やった!」 
「朝までってそういう意味……?」
「今日は僕のおごりだ。おまえらジャンジャン飲め!」
「ごちそうさまです!」
 ……詐欺だ。

 盛り上がる同僚たちを尻目に、青木は深いため息を吐く。
「まあ、予想はしてたけど」
 青木は何回か、このパターンで騙されている。何度引っ掛かっても次の時にはまた騙される。その度に、この次は絶対に騙されないぞ、と心に誓うが、やっぱり乗せられてしまう。滅多に見せない薪のしおらしい態度や、上目遣いのクラクラする可愛らしさに、コロッといってしまう。
「どうしたんだ、青木? おまえが功労賞だぞ」
「はい。もうヤケクソです。ビール樽ごと持ってきてください」
「なんでヤケ酒?」
 これが飲まずにいられるか。

 捜査データを保存してプロテクトを掛け、みなが帰り支度を始めた時だった。
 直通電話がルルルと鳴り、近くにいた岡部が電話に出た。
「室長! 捜一から緊急の協力要請です!」
 連続の捜査要請。
 薪は瞬時に厳しい室長の顔に戻り、澄んだアルトの声を張り上げた。

「祝賀会は延期だ。続けて検証に入る。おまえら、根性見せろよ!」
「はい!」
 室長の気迫に、職員たちが力を込めた返事で応える。

 第九研究室の明かりは朝まで消えず、「朝まで付き合う」と言った薪の言葉は現実のものとなったのだった。



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QED(4)

QED(4)





 信号が青に変わって、青木は車をスタートさせた。
 街並みはすっかり春の風景に変わり、道行く人々は薄手のコートやブラウスに身を包んでいる。桜並木も見ごろになっていたが、それをゆっくりと楽しむ余裕は青木にはなかった。

「参ったな。何とかしてあの女性から、話を聞けないものかな」
 後部座席で捜査資料を捲りながら、薪が思案顔で舌打ちする。彼の不興の原因は、先刻の事情聴取の失敗によるものだ。
 捜査中の事件の関係者に話を聞きに行ったところ、取り付く島もなく追い帰されてしまった。とにかく自分は何も知らないの一点張りで、有益な情報どころかまともな会話すらできなかった。
 彼女が重要な情報提供者になり得ることは間違いない。事件現場のすぐ近くにいたことが目撃されているし、被疑者と面識があったことも確認されている。要は、犯人と目される男が犯行時刻に現場にいた、という証言を彼女から引き出すことができれば、この事件は片がつくのだ。

「犯人からの報復を恐れて、口を噤んでいるんでしょうか」
 下手に証言をして、犯人に逆恨みされるのが怖いとか、面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだとかいう保身的な理由から、情報提供を拒む人間はたくさんいる。自分の身を守る術のない一般人には、仕方のないことかもしれない。
 青木はそう考えていたが、上司は他の可能性を見出しているようだった。

「あるいは、言いたくない理由があるのか」
「言いたくない理由?」
「事件現場は銀座のアートビル。43歳の主婦が夜の10時頃歩くには、似つかわしくない場所だと思わないか」
 なるほど。すぐ近くにホテル街がある。薪が言いたいのはそういうことか。

「夜の10時じゃ、スーパーのタイムセールは終わってますね」
 とぼけた返事を上司に返して、青木は彼女の口を軽くする手段を考える。まずはラブホテルの聞き込みからだ。
「その時間に営業していた店舗を当たってみます」
「うん。5課のバッジを借りるといい」
「わかりました」
 捜査5課は、暴力団や風俗店の取り締まりに当たっている。ラブホテルもそれに関連する商売だから、5課の人間には頭が上がらない。5課の捜査官である証のバッジを付けていけば、相手は驚くほど素直に質問に答えてくれるのだ。

「青木。帰りに僕の家に寄ってくれ。着替えを取りに行きたいんだ」
 はい、と返事をして、青木は左の車線に進路を変更した。
「室長。一日くらい休んでくださいよ。もう2週間もぶっ続けじゃないですか」
 警視長の研修を終えた日から2週間。火急の捜査は続いている。薪はいつものように第九に泊まり込んで、不眠不休で捜査に当たっている。
「僕は大丈夫だ」
 何年か前にもこんなことがあった。あのときは確か、23日間という泊り込みの新記録を樹立してしまった。今回、記録が更新されないことを祈るばかりだ。
「やばいのはうちの冷蔵庫だ。きっとまた魔窟になってる」
 ああなっちゃうと掃除が大変なんだよな、とぶつぶつ言いながら、捜査資料の確認に余念がない。もう2日くらい眠っていないはずなのに、相変わらず仕事中の室長は、限りなく自分に厳しい。

「薪さん。来週の月曜日、何の日だか覚えてます?」
「部長会議だろ。それまでにはカタをつける」
 やっぱり覚えてない。
 2ヶ月も前から、この日は薪と特別な夜を過ごそうと約束していたのに。

 4月中旬の忘れられない日。1年前の同じ日に、薪は初めて青木を受け入れると言ってくれた。
 思えば薪と出会った最初の年、春に芽生えた恋心を彼に告げたのは秋の半ば。
 薪に好きだと言った後、室長室で初めてのキス―――― 事実を端的に並べると元から両想いだったように見えるが、実際はひどかった。
 告白した直後、『僕はそういうジョークは嫌いだ』と恋心自体を否定されてしまったし、キスのお返しには往復ビンタと正拳突きが飛んできた。頭からコーヒーをぶっかけられ、最終的には室長室から蹴り出されたのだ。
 それから何回、薪に好きだと言っただろう。そのたびに断られて、雪子との交際を勧められ、僕のことは諦めろと突き放されて。

 あれから2年。
 薪はようやく自分の想いに応えてくれた。
 恋人同士になって、初めての記念日。青木はその日をとても楽しみにしていたのだ。

 しかし。
 捜査官モードに入ってしまった薪は、青木との約束など1億光年の彼方に追いやってしまう。薪はとても頭がいいくせに、自分に都合の悪いことはきれいに忘れる、という特技を持っている。
 薪が忘れるのは、デートの予定ばかりではない。
 青木がまだ25歳の若い男だということも、自分がその愛情と欲望を受け止める唯一の人間であることも、完全に忘れ去っているにちがいない。仕事中の薪の態度を見ていると、そうとしか思えない。
 今だってせっかくふたりきりでいるのだから、少しくらい甘い雰囲気になってもいいのに。例えばデートのときのように助手席に座ってくれるとか、信号待ちの間は手を握らせてくれるとか。マンションの地下駐車場に入って周囲から遮断されたら、キスを許してくれるとか。

 青木の期待を無視して、薪はクローゼットの中で着替えを用意している。ハンガーに掛かったワイシャツを何枚かとスーツを2組。クロークから何本かのネクタイを引き抜いて、それらをすべて青木に手渡した。運べ、ということだ。
 次に薪はチェストを探る。チェストには下着と靴下が入っている。
「これだけじゃ足りないかな」
 5、6枚の清潔な下着を手にして、枚数の不足を気にしている。いったい、あと何日泊り込む気でいるのだろう。

「奥のほうに新しいのがあったかな」
 薪は床に両膝をついて、両手を引き出しの奥に伸ばした。
 四つん這いになって腰を高く上げた後姿に、青木は思わず唾を飲み込む。
 このポーズは……ヤバい。
 お尻を突き出したその体勢は、薪のかわいいヒップを強調する。薪のそれはキュッと上向きで程よく肉がついていて、プリッと丸い。うつ伏せに寝ていると、頬ずりせずにはいられない愛らしさだ。
 それが青木の前で、もぞもぞと動いている。手を前に伸ばすたびに、色っぽくしなる腰。その奥に自分を埋めたときの快楽を思い出して、青木の下腹部が熱を持った。

「……何をする」
 無意識に、青木の腕は薪に渡された衣服を床に落とした。その代わりに服を着る本人を後ろから抱きすくめていた。
 青木の腕に、薪のからだの感触が伝わる。しっかりとした肉の感触。しなやかでバネの強い身体。このスーツの下に隠れた美しさを、青木は知っている。
「お願いします。一度だけでいいですから」
「なにトチ狂ってんだ、バカ。捜査状況、解って言ってんのか。容疑者が確定できない状態なんだぞ?」
 それは解っているが、殺人事件の捜査中にセックスをしてはいけないという決まりはないはずだ。でなければ、捜一の人間の家庭には子供ができないことになる。

「だってもう1ヶ月も。薪さんは淡白だから平気でしょうけど、オレは限界なんです」
 研修期間中は、顔を見ることもできなかった。帰ってきたと思ったら、緊急捜査で呼び出された。それもあんな中途半端なところで。
 それから捜査が始まって2週間。青木は薪の身体に指一本触れていない。計算してみると、薪と最後に愛を交わしたのは1ヶ月以上も前のことだ。欲しくなって当たり前だ。
 
「お願いします。1時間だけ、いえ、30分でもいいですからオレに時間をください」
「1時間と言わず、一晩中でもくれてやる」
 薪は低い声で呟くと、青木の顔を見上げた。
 亜麻色の眼が氷のように冷たい。めちゃくちゃ怒っている。軽蔑しきった目で睥睨されて、青木は何も言えなくなった。
「そんなに抜きたきゃ、ソープへでも行って抜いてこい」

 あんまりだ。
 相手が薪だから我慢しきれないのに。まるで性欲処理の目的だけで迫ったみたいな言い方をされて。
 この人のこういう言い方には、ものすごく傷つく。デリカシーがないというか相手の気持ちを考えないというか。
 もともと自分勝手な人なのだ。
 ベッドの中でも、薪は自分だけ満足したら眠ってしまう。薪の仕事がどれだけハードなものか青木は知っているし、年齢的なこともあったりするから、無理に起こして続きを強要したことはないが、こんな酷いことを言われてしまうとそういうことも思い出されて、つい恨みがましい気持ちになってしまう。素直に謝れない心境だ。

 黙り込んだ青木を、薪はぎろりとねめつけた。それは間違っても恋人に対する視線ではない。愛情も真心も感じられない。薪が仕事にプライベートを持ち込まない主義なのは解っているが、ふたりきりのときまでこんなに厳しくしなくたって。

 帰りの車中で、薪は口もきいてくれなかった。
 ルームミラーに映ったきれいな顔は冷徹な捜査官の顔で、薪は事件のことで頭がいっぱいなのだと解った。
 薪はいつもこの調子だ。
 仕事が1番、第九が2番。3番が雪子で、4番目が……鈴木のことだ。自分は薪の何番目なのだろう。せめてベスト10に入っていることを祈りたい。

 薪が書類を読みやすいようブレーキのかけ具合に注意しながら、青木は小さくため息をついた。



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QED(5)

QED(5)





 事件が解決したのは、翌週のことだった。
 青木が聞き込んだラブホテルの従業員からの情報が、証人の気持ちを動かした。手のひらを返したように協力的になった証人のおかげで容疑者は確定され、木曜日の夜に犯人は逮捕された。
 そこで第九の捜査ラッシュは途切れ、薪の泊まり込みは15日間という数字で終わった。事件解決の祝い酒はまた今度の機会に譲って、その週の第九は休日を返上して、連日の捜査に関する膨大な報告書の作成に追われていた。

 明けて、月曜日の夕方。
 薪は珍しく定時で研究室を出た。
 日比谷公園を横切って、日比谷駅から山手線に乗る。銀座で降りて、晴海通りを歩く。ソニービルの1階の有名なパティスリーに寄って、ケーキの箱を持って出てくる。
 マキシムド・パリのミルフィーユは、だれかさんの大好物だ。この大きさであの値段だからかなりの贅沢品だが、今日くらいは奮発してもいい。

 今日は、特別な日だから。

 せっかく銀座まで出たのだからと、薪はもうひとつの贅沢を自分にも許してやろうと思う。銀座には、薪の大好きな吟醸酒を売っている店がある。京都伏見の『綾紫』。限定品で、東京ではここでしか手に入らない。
 コンビニの角を左に曲がり、歩くこと数分。
 薪は人ごみの中に、周囲より頭ひとつ分高い部下の姿を発見した。

「あ」
 声を掛けようとして、思い留まる。
 青木がこの道を歩いているということは、たぶん目的地は薪と同じだ。薪のお気に入りの酒を手土産に、マンションに来る気でいるのだろう。
 まったく、薪の機嫌を取ることに関しては仕事より熱心だ。吟醸酒くらいで、薪が平日に最後まで許すとでも思っているのだろうか。

 ……でも、今日は特別な日だし。
 1ヶ月ぶりのデートだし。こないだのエッチはめちゃめちゃ中途半端だったし。僕だって絶対にイヤだってわけじゃないし、あいつが土下座して頼むなら考えてやっても。
 果てしなく傲慢なことを考えていた薪は、次の瞬間、息を呑んだ。

「え……?」
 青木の隣を、女の子が歩いている。20歳前後の若い娘だ。長い髪とスタイルの良さが人目を引く美人だ。二人は歩きながら、親密そうに顔を寄せて話をしている。

 誰だろう。少なくとも青木が以前見せてくれたアルバムの中に、この女性はいなかった。
 まさかと思うが、浮気?
 ないない。あのヘタレにそんな勇気があるもんか。万が一にも僕に嫌われる可能性のあることを、あいつがするわけがない。たしかにこの近くにはホテル街があるけど、まだそこへ行くと決まったわけじゃ……。
 薪の予想を裏切って、ふたりはだんだん問題の通りに近付いていく。角を曲がって通りに入り、やがて一軒のホテルに入っていった。

 嘘だ。
 なんかの間違いだ。
 きっとこれには訳があって、そういう目的じゃない何かで青木はあの娘とここへ入ったんだ。だからすぐに出てくる。5分もしないうちに出てくるはずだ。それから僕へのプレゼントを買って、僕のところへ来る。
 僕はあいつを信じてるから、ここで待ち伏せるなんて真似はしない。ただちょっと歩き疲れたから、立ったまま休みたいだけだ。

 30分経っても、青木は出てこなかった。
 馬鹿馬鹿しくなって、薪はその場を離れた。吟醸酒を買うのを忘れたな、と電車の中でぼんやりと思った。家に帰ってからケーキの箱を開けてみると、ドライアイスが切れて温度が上がったせいか、飾りの生クリームが溶けていた。これぐらいなら食べられると思ったけれど、何故かそれが許せなくて、ゴミ箱に叩き込んだ。
 それから薪は、冷蔵庫を開けた。
 その中には今夜のために昨日から仕込んでおいた料理がぎっしりと詰まっていたが、薪は片っ端からそれらを取り出して、トレーごとゴミ袋に突っ込んだ。

 ふざけやがって。
 なにが『来週の月曜日は何の日か覚えてますか?』だ。
 僕を誰だと思ってんだ。警視長試験トップ合格者の薪剛だぞ。覚えてないわけないだろうが。

 聞かれたときにそのことを言わなかったのは、仕事中だったから。職務中にするのは仕事の話だけ。プライベートの話はそれ以外の時間にするべきだ。僕がそういうポリシーを持っていることくらい、とっくに解ってると思ってたのに。
 あの会話で、青木は今日の約束はキャンセルだと思い込んだのだろう。それであの娘と。

 冷蔵庫の扉を開けたまま、薪は冷気の前に座り込んでいる。
 冷蔵庫が空になったら、自分の心まで空っぽになってしまったような気がする。勢いで全部捨ててしまったけれど、これじゃ自分の夕飯もない。

「なにやってんだ、僕」
 自分の短気に、頭を抱える。
 いいじゃないか、べつに。たまに女の子と遊ぶくらい。
 本音を言えば薪だって、時々は女の子と寝たいと思っている。これは男である以上、当たり前のことで。あいつが泣くと思ったからしなかっただけで、あっちもやってるんだから、これからは自由にできるということだ。ラッキーじゃないか。

 青木の隣を歩いていた、髪の長い女の子を思い出す。
 37歳のオヤジと20歳の女の子。
 どう考えても勝ち目がない。ていうか、薪だってそっちがいい。
 1年経って痛みはだいぶ薄らいできたけど、やっぱりセックスは女のほうが気持ちいい。だいたい、なんで僕ばっかり痛い思いしなきゃいけないんだ。そりゃ、たまにはうまくできることもあるけど、ほとんどは我慢してるだけだ。早く終わって欲しいって、そればっかり考えてる。

 もしかしなくても、僕とのセックスは、楽しくないのかもしれない。
 男の場合、感じてるかどうかなんて見た目ですぐに解っちゃうし、どうしてもダメなときは途中で強制終了だし。
 痛がってばかりいる相手とのセックスなんか、面白いわけがない。僕だって、そんな女の子と寝たくない。
 でも、青木は僕のことが好きだから。
 だから、土下座して頼むほど僕のことを欲しがって……。

 薪は呆然と床を見つめた。
 木目の美しい床の上に、正座して頭を下げる大男の幻が見えた。





*****

 ラブコメラブコメ♪
 って、世間一般の定義と若干のズレがあるような。(笑)


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QED(6)

QED(6)




 室内にチャイムの音が響き、薪は顔を上げた。

 もしかして、青木が来たのか?
 ……もう遅い。料理もケーキも、全部ゴミ箱の中だ。

「薪さん。オレです、開けてください」
 知るか。
「早く開けてくださいよ。お酒が温くなっちゃいますよ」
 カメラを確認すると、百合の花束と例の酒屋の袋を持った長身の男が、うれしそうな顔をして立っている。ものすごく幸せそうに、薪がドアを開けるのを待っている。

 別に、こいつの愛情を疑っているわけじゃない。ずっと許さなかったのは僕だし。
 あれは単なる生理現象だ。僕だってあのくらいの年齢には月に何回か。だからこのことは、気付かなかった振りをしてやり過ごすのが大人の関係というものだ。年上の恋人らしく、見て見ぬ振りをしてやろう。
 もとより、僕はこいつの要求にはとても応えきれない。12歳も年が違うんだから、当然と言えば当然だ。月日が経つほどに、その差は広がっていくだろう。
 遅かれ早かれ、こいつは僕から離れていく。それは1ヶ月後かもしれないし、明日かもしれない。きっとあまり時間は残されていない。だからつまらないことでケンカなんかしないで、限られた時間を楽しく過ごしたほうがいい。
 そう心に決めて、ドアを開けたはずなのに。

「さわるな!」
 自分を抱きしめようとした手を、薪は反射的に振り払っていた。
「他の人間を抱いた手で、僕にさわるな! 裏切り者!」
 相手を責める言葉が、勝手に口から飛び出していく。こんなことを言うつもりはなかったのに。鉄の自制心はどこへ行ったんだ。
「僕以外の人とはできないって言ったくせに! 嘘つき!」
 これじゃ鈴木のときと同じだ。醜い嫉妬に苛まれて、みっともなく取り乱して。
 相手のこういう態度に、男はウンザリする生き物だ。行き過ぎた嫉妬心は相手を白けさせるだけだと解っているのに、どうしてこんなことを言ってしまうのだろう。

「あの、なんのことですか?」
 玄関口に立ったまま、青木は訝しげな顔をして、薪に説明を求めてきた。素直に謝ってくるならともかく、とぼけられると本当に腹が立つ。
「とぼけたって無駄だ。銀座のラブオールっていうラブホで」
 そこまで言いかけて、薪はあのホテル街からの情報が先日の事件の証人の協力を得るきっかけとなったことを思い出す。
 ラブホテルの情報を元に脅しまがいのことをして証人を喋らせたわけだから、当然報告書にはそのことは載らない。あのときは頭に血が昇っていてその可能性に思い至らなかったけど、もしかしたら捜査の一環で?
 いやいや、あの事件は木曜には完全に終結を見たはずだ。もう、あのホテルから聞き出すことは何もない。

 薪の剣幕に怯むこともなく、青木は靴を脱いで部屋に上がってきた。薪の前を通り過ぎ、リビングのローテーブルに買ってきた花束と吟醸酒を置く。
「オレはあなたを裏切ったりしてないです。あの娘は捜査に協力してくれただけです。あのホテルは、彼女の叔母さんの持ち物なんですよ。そこにCCDをちょっとね。
 本当はもっと早くに回収に行かなくちゃいけなかったんですけど、報告書をまとめてたら遅くなっちゃいまして」
「盗撮したのか? ていうか、証人を脅したのか? それ、違法捜査だろ」
「オレは何枚かの写真を提示しただけです。あとは向こうが勝手に喋ったんです」
 なんてやつだ。
 こいつをこんな、狡すっからい真似をする捜査官に育てた覚えはない。……まあ、自分も似たような方法を考えていたが。

 自分の貞節を疑われたというのに、青木は何故か笑みを浮かべている。ひとの気も知らないで、なにがおかしいんだ。
「うれしいです。薪さんがヤキモチ妬いてくれるなんて」
「ヤキモチなんかじゃない! 僕は昔っから不倫とか浮気とか許せないんだ。不倫するくらいなら、離婚してからやればいいんだ」
「それは色々と事情が。子供のこととかあるし」
「だったらやらなきゃいいだろ」
「みんながみんな、薪さんみたいに自制心の強い人間じゃないんですよ。オレだって昔はあなたが結婚したら諦めようと思ってましたけど、今は例えあなたが誰かの父親になっても諦められるかどうか。自信ないです」
「なに調子いいこと言ってんだ。あの娘と寝たくせに」

 青木の態度はとても誠実で、たった今恋人を裏切って他の女性と楽しい時間を過ごしてきた男にはとても見えなかった。薪はその言葉を信じたい気持ちでいっぱいになっていたが、憎まれ口のほうは止まってくれなかった。
「僕は裏切り者は一生許さない。もう二度と僕の身体にさわるな!」
 言ってしまってから、薪はすぐに後悔した。
 こんな決定的な決別の言葉まで口にするつもりはなかったのに。ここまで言ってしまったら、こいつだって後に引けなくなってしまう。

 謝ったほうがいいと思ったが、薪の口は開いてくれなかった。
 肝心なときに限って、自分の気持ちと反対のことばかり出てくる。これまで何度、この性質のせいで失敗してきたことだろう。
 気持ちの制御を失ったとき、人は大切なものも一緒に失くしてしまう。長い間かけて培ってきた、信頼とか絆とか、そういったかけがえのないものを一瞬で壊してしまう。
 決してそんなことを望んでいるわけじゃないのに。どうして僕はいつもいつも、素直になれないんだろう。

 薪の葛藤をよそに、青木はいつもの穏やかな顔を崩さなかった。苦笑しつつ、大きな手で薪の両手を包み、
「なんでそんなに自分勝手なんですか? こないだオレに、ソープ行けとか言いませんでした?」
 言った。というか、怒鳴りつけた。
「だって、進行中の事件の最中におまえがヘンなこと言い出すから」
「捜査中は禁止ってことですか?」
「そんなことをしている間に被害者が増えたりしたら、僕は自分を許せなくなる。きっと、おまえのことも恨みがましく思ってしまう。だから」

 自分の考えが一般的でないことは、薪にも解っていた。それとこれとは別だと考えるのが普通だ。自分で思い込むのは勝手だが、それを相手にも強要しようなんて。しかも相手の男の事情まで封じてしまおうなんて。
 我ながら、どこまで身勝手なんだろう。

 自分がやっていることの愚かさに気付いて、薪はうなだれた。
 それでも自分には、こうすることしかできない。自分が犯した罪を償うためにも、できる限りの人々を救いたい。が、それに青木を巻き込むのは筋違いだ。
 悪かった、と言おうとしたとき、ふいに抱きすくめられた。

「意地悪言って、すみませんでした」
 ひと月ぶりの温かさに、薪はうっとりと目を細める。おずおずと背中に手を回して、そのぬくもりを抱き返した。
「オレは薪さんのそういうところに惹かれたんです」
 どこまでもやさしい青木。
 こいつは僕のことを好きでいてくれる。大切なのは気持ちだ。他の女と寝たか寝ないかなんて、どうでも――――。
 ……………。
 やっぱり面白くない。

 そんなに簡単に割り切れるものじゃないけど、でも今は我慢しよう。せっかくこうして、自分に会いに来てくれたのだから。この時間を大切にしなければ。
 薪は目を閉じて、愛しい恋人の香りを吸い込んだ。




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 ここはRかな? ギャグかな?
 じゃあ、大人のギャグってことで。 18歳未満の方はご遠慮ください☆





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プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
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