秘密の森のアリス(1)

 震災から1ヶ月が過ぎ。
 聞こえてくる情報は、残念ながら明るいものとは言いかねます。
 余震はまだ続くだろうと予想されているし、原発はレベル7に引き上げられましたし。
 
 でも、こんなときだからこそ、笑いは必要だと思います。
 ほんの少しでいいから現実の心配事を忘れて、楽しいと思える一時を過ごす。 そうやって心に栄養を与えてやらないと、人間も萎れてしまうと思うんです。
 そのお手伝いができたらいいな、とおこがましくも考えまして、わたしの少ない手持ちのカードの中で、一番バカバカしい話を公開することにしました。

 すみません、本来ならみなさんに楽しんでいただける話を改めて書くべきだとは思うんですけど、1ヶ月以上書かないでいたらすっかり書き方を忘れてしまって~~、いざ書こうと思ったら、言葉が出てこないの~。 考えがまとまらなくて、ストーリーも組み立てられないし~~。
 いくら原作で落ちても、すずまきさんなら書けるとか、男爵なら平気だとか、そんな感じで書けなかったことなんかなかったんですけど……。
 ただいま、リハビリ中ですっ!


 で、
 こちらは新作ではないんですけど、『破壊のワルツ』の反動に書いたものなので、脱稿は今年の2月です。  
 お話の時期は、ふたりが付き合いだして4年目、『スキャンダル』の半年くらい後です。


 コンセプトは、
『秘密で銀魂のグダグダアクション』です。←ここで何人の方がタブを閉じることやら。
 内容は、
 ギャグで、バトルで、少年漫画、です。←…………。(セルフ突っ込みすらできない)


 太平洋より広いお心でお願いしますっ!






秘密の森のアリス(1) 





 長い眠りから醒めた3人は、空腹を覚えて立ち上がった。

 深い森の中に彼らの食料は豊富にあったが、一番のご馳走は見つからなかった。眠りに就く前には、日に1度くらい、少なくとも3日に1度は訪れた『ごちそう』。しかし何日待っても、それは現れなかった。
 仕方なく、彼らは森の奥から少しだけ出てみた。が、そこにもご馳走の影はなかった。
 そうして徐々に徐々に、彼らは森の外れまで来た。

 森が切れると、そこは崖になっていた。木々が生い茂っていたはずの山は、彼らが眠っている間に地肌を晒し、その身体に道を横切らせていた。あんなところに道が作れるなんて、と彼らは驚いたが、そこを通っていく物体にはもっと驚いた。

 平たい箱のような形の鉄の塊が、すごいスピードで走っていった。
 その中から、ご馳走の匂いがした。

 彼らはふわりと空に浮き、崖上の道に降り立った。そして無造作に手を伸ばすと、耳障りな音と共に突っ込んできた鉄の塊を受け止めた。
 彼らは鉄の扉を破り、中にいたご馳走を貪り食った。



*****



 旅行プランを曽我が立てたと聞いたときから、薪はなにか不吉なものを感じていた。
 季節は第九の閑散期の2月。年に1度の第九の慰安旅行は、近場の温泉に1泊で出かける。緊急に呼び戻されても対応できる都心から3時間までの圏内で、できるだけ静かで心穏やかに過ごせる場所を選ぶ。宿と観光先を企画する幹事は順番に交代していくのだが、今年は曽我の番だった。

「あー、田舎っていいですねえ。空気がおいしいです」
「緑がいっぱいですね。駅前なのに、商店街もない」
「かわいい小鳥がたくさんいますよ。スズメじゃないですね、十姉妹かな」
 さびれた田舎の駅に降り立ち、旅行風体の8人は歓声を上げる。
 常日頃から、IT技術の最先端に身を置いている彼らだからこそ、自然のものに癒しを求める。それは当然の摂理かもしれなかった。

 バスの乗継までの半時間を辺りの散策に費やそうとして彼らは、しかし、2月の寒さに早々と引き返す羽目になった。一面に白く塗りつぶされたような空と、ピンと張った冬の空気の中にちらちらと白いものが混じり始め、慌てて駅舎に戻った彼らは、待合室に灯油を使うタイプのストーブを見つけ、その骨董品のような暖房器具を珍しそうに取り囲んだ。
 ストーブの天井に、薬缶が置いてある。薬缶の口からはシュンシュンと蒸気が吹き出し、待合室の湿度調整に一役かっている。透明な丸い窓から見える炎は人間の脳に直接訴えかけ、体感温度を一気に上昇させる。火災の危険性から徐々に廃れていったこのレトロな暖房器具は、実はかなりの合理性を持ったスグレモノだったと、妙に感心したりする。

「曽我。かなり地方まで来たようだが、第九まで3時間で帰れるんだろうな?」
「大丈夫ですよ、薪さん。電車で2時間、バスで1時間。ぴったり3時間です」
 第九から東京駅まで20分、ここで30分の待ち時間があったら、すでに小1時間超過しているのではないか、と薪は思ったが、年に1度の慰安旅行だし、どうせ緊急の呼び出しが掛かっても、遺体を病院に搬送して脳を抽出するには手続きやら何やらで3時間は掛かるから、と自分を納得させて口を噤んだ。多分、他の連中も同じようなことを考えているだろう、と顔を上げると、マヌケな幹事の坊主頭の向こうに、バスの運行表が見えた。

「帰りは?」
「帰りも同じですよ。バスで1時間、電車で2時間」
「そうじゃなくて。ここのバス、日に2本しかない。緊急で呼び出されたとき、どうやって帰るんだ?」
「…………え」
 笑顔のまま固まった曽我の、思わずこぼれた素の声に、薪は自分の嫌な予感が的中したことを知る。

「『え』ってなんだ、『え』って! まさか考えてなかったのか!?」
「いや、だって。『都心から3時間・温泉』でネット検索かけたら、ここがヒットしたから」
「岡部、おまえが付いていながらなんだ。気付かなかったのか」
「す、すみません」
 自分が官房室との掛け持ちになってから、事件以外の瑣末な決め事は、全部副室長の岡部に任せてきた。始めはざっと目を通していたのだが、官房室の仕事が増えるにつれ、それも次第にしなくなり、現在では報告を聞くだけになっていた。だからこれは自分の怠慢が招いた結果でもあるのだが、それを素直に認めるようなら薪にあんな渾名はつかない。

「大丈夫ですよ、慰安旅行は毎年行ってますけど、今まで1度も呼び出されたことなんてないじゃないですか」
「今までなかったからって、今回もないとは限らないだろ」
 怒り出した薪をなだめようと、何人かの部下が口々に彼を安心させようとしたが、どんな時にでも仕事に万全を期したがる薪のこと、その怒りはそう簡単に収まるものではない。
 険しく眉を寄せた薪と、困惑した職員達が黙って対峙する重苦しい雰囲気の中、第九最年少の捜査官が控えめに口を挟んだ。

「あの、どうしても薪さんがご心配なら、オレ、第九に引き返して今回は留守番してます。ですから皆さんは、このままご旅行を続けてください」
「おまえ1人じゃ」
「大丈夫です。万が一のことがあっても、脳データの抽出作業だけならオレ1人でもできますし。みなさんが帰ってくるまでに、できるだけ解析を進めておきます」
 青木は若いが、すでに6年目のベテランだ。任せて安心できるだけの実力はあるし、彼の犠牲は室長の憂いを払う唯一の手段だと思われたが。

「バスが来たぞ」
 駅の停留所に滑り込んできたバスに気付いて、薪はついと頭を振る。
 それから青木の首に巻いた手編みらしきマフラーを引っ張り、彼を引き摺るようにして表に出た。

「あの、薪さん」
「おまえ、僕のボディガードだろ。だったら対象から離れるな」
 先月、官房室から正式に下った辞令を振りかざし、薪は青木の進言を却下する。カモフラージュ目的の護衛役でも、役目は役目だ。
「でも」
「いざとなったら小野田さんに頼んで、ヘリ飛ばしてもらうから」
 後ろから付いてくる他の部下たちには聞こえないよう小さな声で、薪はこそっと囁いた。
「……いいんですか?」
 それは、様々な事情から、これ以上小野田に借りを作りたくない薪にとっては好ましくない選択肢だった。それが分かっている青木の気遣いは尤もだが、背に腹は替えられない。

 だって。
 おまえがいなかったら、つまらないから。

 子供っぽい我儘を、つんとそびやかしたポーカーフェイスの下に閉じ込めて、薪は乗り合いバスに乗り込んだ。 運転席側に2人掛けの座席が7列、乗り口側に一人掛けの椅子が5個、後部に5人掛けのベンチシートがある中から、薪はバスの中間にある一人掛けの椅子を選び腰を降ろした。窓の外に顔を向け、風景を眺める振りをしながら、背後にいる大男の気配を探る。
 彼が通路を挟んで薪の隣に腰を下ろしたのを感じ取って、薪は少しだけ頬を緩めた。
 身体の大きな青木は、二人掛けの椅子に独りで座るだろうと思っていた。自分たちの他に乗客がいないことを確認した同僚達も、次々と二人掛けの座席を単独で占有する。いくら身体が小さいとはいえ、薪もそのほうが楽なのだが、でも。

「薪さん。こちらの席の方が広いですよ」
「僕はここでいい」
 後ろの席に移ってしまったら、青木の顔が見えなくなる。この旅行の間は見ていることしか許されないんだから、それぐらいの自由を与えてくれたっていいだろう。
 決して顔には出さない、絶対に口にはしない、自分でも恥ずかしいと思うこの気持ちを、だけど捨てることはもっとできなくて、だから薪は必死に抑え込むしかない。

 青木と知り合って6年、付き合い始めて4年。
 年が重なるほどに想いは募って、彼を拒んでいた頃の自分が思い出せないくらいだ。昔は友だちでいたいと願っていたはずなのに、今では恋人としての彼しか考えられない。そのせいか、仕事時間以外の彼と友人のように振舞わなくてはならない今の状況に、薪は僅かばかりの歯がゆさを感じていた。

 前後の席に陣取った小池と曽我に挟まれて、持参した雑誌やスナック菓子で先輩達と無邪気に盛り上がる彼を、薪はそっと横目で伺いながら、本格的に降り始めた雪を見つめる。
 バスは山の中腹に造られた道を走っており、車窓からは下方に見渡す限りに広がっている深い森が見えた。森には針葉樹が多いのか、真冬でも濃い緑色が美しかった。その研ぎ澄まされた緑に、そっと降り積もる雪の白。

 みんなでワイワイやるのは嫌いじゃないけど、ふたりきりだったらもっと別の楽しみ方があるかもしれない。もしも休みが取れたら、この美しい雪景色が残っているうちに、彼とふたりで見に来たい。
 知らず知らずのうちにそんなことを考えて、我に返って頬を染める。
 どうも自分は、雪とか満天の星空とか、そういうものを目にすると彼とふたりで見たい、と短絡的に考えてしまう傾向があるようだ。気をつけないと。

「ずい分、降ってきましたね」
 雪の山道を進むバスの運転手に、一番前の席の岡部が声を掛けた。
「ええ、この辺りは昔から雪が多くてねえ。今はこの道ができたからいいけど、以前は冬になると、街に出るのも命がけだったらしくて」
 田舎のバスの運転手らしく、彼は客の話に気軽に応じ、地元に伝わる伝承などを話してくれた。

「お客さん、あっちにでっかい森があるでしょ? あの森には、妖怪が住んでるんですよ」
「よ、妖怪?」
 実は怪談の類は苦手な岡部が『妖怪』と言う忌まわしい単語にぎくりと顔を強張らせるのに、前を向いたままの運転手は悪気なく話を続けている。
「私らが小さい頃は、『森の妖怪に食わせるぞ』っていうのが悪さしたときの親の切り札でね、そんな言い伝えが残ってるんですよ。
 種を明かせばこういうことです。この道ができる前、私らの曾爺さんくらいの頃は、あの森を抜けて街へ行ったんですって。だから冬は本当に命がけで。森で行き倒れて、帰らない村人が何人もいたそうです。それがいつの間にか、妖怪に食われたってことになって」

 実際に住んでみないと、その土地の苦労は分からないものだ。
 他所から来た自分たちは美しい森に感動すら覚えるけれど、つい100年ほど前は、この地域の人々にとって、この森は畏怖すべきものだったのだろう。自分の家族を森に奪われた、と嘆く人々もいたに違いない。

「今は安心ですよ。この道がありますからね」
「まったく。文明とはありがたいものですな」
「まあ、最近はその文明が逆に禍してか、カーブも雪道も関係なしにスピードを出し過ぎて、自損事故を起こすような連中も増えました。こないだの事故も、いったい何キロ出してたんだか。車体が潰れて、半分の長さになってましたよ」
 文明は、必ずしも人の命を救わない。以前森で亡くなった人の数と、現在交通事故で亡くなる人の数を比べてみたら、案外今の方が多いのではないか、と薪は皮肉なことを考える。

「それはひどい。ドライバーは即死だったでしょうね」
「多分ね。遺体は見つかってないんですが、助からなかったでしょうね」
「遺体が見つからないって、どうして」
「おそらく、窓から投げ出されたんじゃないかって。この道の下は崖になってて、すぐ側まで森が迫っているでしょう。森には野犬が多いですからね、その餌食になってしまったんじゃないかと」
 皮肉な薪と違って人の好い岡部は、同情に細い眉を寄せ、
「それは遺族の方も、悲しまれたことでしょう」と死者を悼む口調で言った。
「ええ、母1人子一人の家庭で」
 岡部の言葉に相槌を打って、運転手が言いかける。

 その言葉が終わらないうちに、センターラインを大きくオーバーして突っ込んできた対向車が、薪の目に映った。




テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

秘密の森のアリス(2)

秘密の森のアリス(2)




――――― どうして2匹も連れてきた? 食いでがありそうなのを1匹だけって、おれの言ったことを聞いてなかったのか。
――――― ちゃんと兄ちゃんの言う通りにしたさあ。でもこいつが放さんけん。
――――― そうよ。仕方なく一緒に連れてきたのよ。

 聞きなれない声に、薪は目を覚ました。意識を失う前の光景を思い出し、慌てて周りを見回す。
 雪道で、事故に遭ったのだ。みんなは無事だろうか。

 隣の席に座っていた青木が横に寝かされているのを確認して、薪はホッと胸を撫で下ろす。よかった、青木は無事だ。他のみんなは?
 そこで薪の思考は止まった。
 まだバスの中、でなければ病院だと思っていた。聞き覚えのない声が聞こえてきたから、誰かが自分たちを助けれくれたのだと解った。しかし、ここは。
 
 洞窟のような、暗い部屋。てか、どう見ても洞窟なんだけど。壁が土だし。
 病院じゃないな、じゃあ洞窟風の民家? ……ありえないだろ、それ。
 それに、さっきこいつら何て言った? 食いでがありそう、とか何とか、ホラー映画みたいなことを言ってなかったか?

 不穏なものを感じ取った薪は、未だ目覚めぬ振りで周囲の動向を伺うことにした。薄目を開けて声の主たちを探すが、彼らの姿は薪の視界にはなかった。なかったはずなのに、
『はあ、こりゃ駄目だ。こんなに小っさくて痩せっころげてちゃあ、骨を除けるのも面倒だ。森の奥に捨てて、野犬の餌にでもくれてやれ』
 後ろ襟をつかまれて、ひょいと身体を起こされた。声は前から聞こえるのに、姿は見えない。小さくて悪かったな、と普段なら言い返すところだが、こんな奇妙な状況にあっては流石にそれはできなかった。

『それはもったいねえよ、兄ちゃん。捨てるくらいなら、おらにおくれよ』
『三郎。こいつの全部の肉を合わせても、こっちの男の足1本分くらいだぞ?』
『食べるわけじゃなかよ。食うのは、そっちの男だけで充分だあ』
 信じがたいことだが、この連中は自分たちを食べようとしているらしい。しかも、姿が見えないということは……どういうことだ、どんなトリックを使っているんだ?

 ふと薪は、乗り合いバスの運転手が岡部と話していた、この地方の伝承のことを思い出す。
(あの森には、妖怪が住んでるんですよ)
 ……そんなことがあるわけがない! 第九の室長ともあろうものが、妖怪なんて言葉を知ってるだけでも恥だ!
 相手の正体が解るまでは、不用意に動かないほうがいい。そう判断して薪は、気絶した振りを続けることにした。

『また、おまえは』
『へへ、おらあ、こんなにきれいな娘っこ見たの初めてだあ』
「おまえの目は節穴か! スーツを着てるのに娘とはどういうことだ!?」
 思わず突っ込んでしまってから、ハッと気付く。
 しまった、つい。こいつら何て卑劣な手を、と薪は思うが、端から見たらカンペキなボケだ。
 
 こうなったら仕方がないと割り切って、薪はその場にすっくと立ち上がった。大胆に周りを見回すが、やはり部屋の中に青木以外の人間の姿は見当たらない。
 岡部や他のみんなは何処へ行ったのだろう。彼らに呼びかける意味もあって、薪は声を張り上げた。
「おまえらは何者だ! こそこそ隠れていないで姿を現せ!」
 自分が寝せられていた粗末な寝床(土の上に草を敷き詰めたものだった)から降りて、薪は叫ぶ。しかし、応えは返らなかった。
 薪は険しく眉を寄せ、舌打ちして、さっと床に屈んだ。気を失ったままの青木の肩を揺さぶって、彼を覚醒させようと試みる。

「青木、起きろ。帰るぞ」
『そいつは駄目だあ』
『帰るなら、おまえ1人で帰れ』
 後ろから羽交い絞めにされて、青木の傍から引き離される。正体不明のその力は非常に強く、じたばたともがく薪の足が宙に浮いても、薪を拘束した力は緩む気配がなかった。
『その前に、なあ、兄ちゃん』
『おまえは本当に女が好きだな、三郎。さっさと済ませて来い。待っててやるから』
『ええ~、アタシもう、お腹ペコペコなのに~』
『こいつを食う前に、おまえには別の仕事があるだろう』
『う。面倒だなあ』

 バタバタと動かしていた足を揃えて抱え上げられ、薪は荷物のように担ぎ上げられた。足を戒められ、腹部を支点に頭の方が下になる形で、どんどん青木から離されていく。
「青木っ! 僕の声が聞こえないのか!! 起きろ、このバカっ!!!」
 ありったけの声で叫ぶが、青木は身じろぎもしない。何かの薬物で眠らされているのか、それとも妖力というやつか。
 いや、妖力なんか認めない。こいつがヘタレなだけだ。

「青木!!」
 薪の叫びは虚しく響いて、土壁に吸い込まれた。
 
 不自由な体勢で、薪は焦る。何が原因でこんな世界に入り込んでしまったのかさっぱり解らないが、とにかく逃げないと。今自分を戒めている者とその仲間は、青木を食べる心算なのだ。
 焦燥する薪にお構いなく、薪の身体はずんずんと洞穴の奥へ運ばれていく。途中、いくつか横道があり、その中には外へ通じている道もあるらしく、冷たい空気が流れてきていた。

「おい、おまえらは何者なんだ。どうやって姿を隠している?」
『おめえ、おらたちの姿が見えねえのか。さては、ゲンダイジンってやつだな』
「どういう意味だ?」
『おらたちは、存在を認めねえ人間には見えねえのさ』
「……妖怪ってことか」
 認めたくはないが、認めざるを得ないようだ。これは夢だと思って成り行きに任せていたら、永遠に夢から目覚めなかったという結末になりかねない。

『その呼び方は好きじゃねえ。兄ちゃんみたく、『三郎』って呼んどくれ』
 妖怪である彼にも、名前はあるのか。人間と同じに、親がつけたのだろうか。だとしたら、親子の情とか兄弟の情とかもあるのだろうか。そこに訴えかければ、あるいは道が拓けるかも。
「三郎って、いい名前だな。ご両親が付けてくれたのか」
『おらが一番最初に食った人間の名前が、三郎だったんだあ』
 ……聞くんじゃなかった。

 三郎と名乗った妖怪は薪を抱えたまま、何度か角を曲がった。パニック状態の、しかも逆さになった頭で、それでも薪はその道順をしっかりと覚えた。
 入り口に大きな葉が暖簾のように吊り下げられたその部屋は、どうやら寝室らしかった。先刻、薪が寝かされていた粗末な草の敷物より、ずっと厚手の寝床がしつらえてある。ベッドは3つ。つまり、ここにいるのは3人。
「3人で暮らしているのか?」
『ああ、ずーっと前から3人だあ。兄ちゃんが700歳、姉ちゃんが500歳、おらが300歳』
「そんなに生きてるのか。すごいな」
『おらはそうでもねえ。けどな、兄ちゃんと姉ちゃんはすごいぞ。おらも早くああなりてえ』
 
 少しずつではあるが成り立ってきた会話に、薪は僅かばかりの希望を抱く。話が出来るということは、意志の疎通が可能ということだ。交渉次第では、ここから無事に帰れるかもしれない。それには、こいつから様々なことを聞き出して、交渉に有利な材料を揃えることだ。
「長生きの秘訣はなんだ?」
『人間を食うと精がつくだ。鳥や鼬ばっかじゃ、こうはいかねえ。人間を食わなかった仲間は、みんな死んじまった』
 ……無理だ! 人間を食料としか考えていない生物に、ネゴシエイトなんか不可能だ!!

 彼らにとって、自分たちは牛や豚に見えているのだ。言葉が通じるからと言って、マトモに話を聞いてくれるわけがない。
 再びパニックに陥った薪を三郎はベッドに座らせ、両肩に手を置いた。姿は見えないが、重みは感じる。触れられた感触はたしかにあった。

『おらの言うこと聞けば、おめえは殺さねえでいてやる。おめえの心掛け次第によっちゃ、森の外れまで送ってやるけん。大人しゅうしとれ』
 しゅ、とネクタイの結び目を解かれて、慌てて薪は相手の見えない手をつかむ。触感だけだが、いかつい農夫のようなその手は、固い毛に覆われていた。
「男相手に何するつもりだ、このエロ妖怪っ!!」
 手に力を入れて、薪は怒鳴った。

『オトコ?』
「そうだ、僕は男だ、ほら証拠!」
 相手の手をワイシャツの胸に導いて、その平坦さを強調するように胸をそらす。三郎は自分からサッと手を引いて、
『…………コロス』
 うあああ、しまったっ!! 自分で死刑執行のスイッチを入れてしまった!

『おらのこと騙しただな。ふてえヤツだ』
「そっちが勝手に誤解したんだろうが! 自分が女性だなんて、僕は一言も言ってないぞ!」
 それには一理あると思ったのか、三郎はしばし沈黙した。余計に怒らせたか、と不安に駆られる薪の耳に、意外にも優しい言葉が。
『神さまも間違う事があるってことだべかな。そんな顔で男さ生まれてきて。可哀想に、おめえも色々苦労してきたんだべな』
 妖怪の目にも涙、って、
 腹立つ! 顔のことで妖怪に同情されるって、むっちゃ腹立つ!!

『けど、女じゃねえなら生かしとく意味もねえ。森に捨てるだ』
 彼らが言う『森』とは、バスの窓から見えたあの広大な森のことだろう。その奥に置き去りにされたら、助けを呼びに行っている間に青木はおそらく骨になっている。
「ちょ、ちょっと待て!」
 つまみ出される猫のような格好で不可思議な力に持ち上げられつつ、薪は必死で頭を巡らせる。
 青木を救い出すには、ここで捨てられては困る。苦し紛れの口八丁が、追い詰められた薪の口から飛び出した。

「おまえ、男としたことないのか? 300年も生きてきて、それは哀れなことだな」
『ああ? 何を言っとるだ?』
「女なんかよりずっといいぞ。少なくとも、僕を抱いた男はみんなそう言う」
 妖怪相手に2枚目の舌が通用するかどうかは解らないが、何もしないわけにはいかない。第九の室長として、こんな訳の分からない死に方をしてたまるか。

『男が男に何をするだ?』
 すとん、と床に降ろされて、薪はホッと息をつく。さあ、ここからだ。
「そんなこと……口ではとても言えない」
 口元に手を当てて、もじっと身体を捩ってみせると、相手はにやけた声で、
『恥ずかしいんか。おめえ、男にしちゃあメンコイなあ』
 芸は身を助けるとはよく言ったものだ。おとり捜査の為の演技訓練、やっておいてよかった。

『じゃあ、さっそく身体で教えてもらうとすっか』
「ちょ、ちょっと待って!! えっと、えっと、そうだ、まずは風呂! 風呂に入らないと男同士はできないっ!!」
『なんでだ?』
「つ、つまり、男が使うところはその、事前に洗わないと細菌に汚染されて病気になる可能性が」
『おらたちは病気になんかならねえ』
 そりゃそうだ、性病に侵された妖怪なんか聞いたことがない。でもここは断固死守!

「入れたら腐り落ちるぞ! それくらい強力な毒性なんだ!」
『そうなんか? そりゃあ困るな。仕方ねえ、湯を立ててきてやる』
「あ、ありがとう」
『大人しく待っとれよ』
 だれが待つか、バカ。

 心の中で毒づいて、見えない相手にニコッと笑いかけ、バイバイと手を振る。部屋からひとの気配が完全に消えたのを確認して、薪は立ち上がった。




*****


 薪さんの美しさは万国共通。
 妖怪の世界でも通用しちゃうのでした☆


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

秘密の森のアリス(3)

 こんにちは。

 久しぶりに、昨日はお出かけしてきました。
 行き先は、国営の海浜公園。
 こちら、年間を通して美しい花が咲いているので、わたしたちの定番お散歩コースなんです。 今時期は水仙とチューリップ、それからネモフィラが真っ盛りでした。

 中でもネモフィラは、みはらしの丘という場所に無数に群生してまして、これが真に見事だったんですけど、なんだろう、職業病? というのも、遊歩道がいつの間にか舗装道になってて、
 以下、オットとの会話です。


「これ、密粒13?」(←アスファルトの種別)
「うん、透水性舗装してるね」

 道はいいから花を見ようよ。(←みはらしの丘の呟き)

「この丘って、建設残土で作ったんだよね?」
「そうだね。第2種発生土と、第3種も混じってるのかな」
 
 ねえ、向こうに海も見えるよ? きれいだよ、とっても。  

「急勾配でもクラック(ひび割れ)入ってないね。上手だね」
「この急なカーブ、ASフィニッシャーのオペレーター、苦労しただろうなあ」

 ……おまえら、何しに来たんだ。 

「うわ、見て。あの道、地震で亀裂入ってる」
「本当だ、補修掛けてある。グースアスファルト使ったのかな」

 ……………………………………帰れ。


 何をしに行ったのやら。(笑)


 



秘密の森のアリス(3)






 部屋から三郎がいなくなると、薪は直ぐに行動を開始した。
 携帯電話は取り上げられていなかったが、思ったとおり圏外で使い物にならなかった。岡部たちに連絡を取りたかったが、それは諦めるしかないようだ。外部からの助けは期待できない。何とか自力で脱出しないと。

 青木が寝かされていた部屋に戻ろうと、薪は入り口に垂れ下がっている大葉を掻き分け、洞窟内の通路に出た。似たような土壁ばかりが連続しているが、そこは天才の強みで、先刻通ってきた道をあやまたず戻っていく。
 途中の横道にもチェックを入れ、外界につながっていそうなルートを探る。特に冷たい風が吹いてきた通路に寄り道をすると、薪の胸の高さにぽっかりと穴が開いており、寝室の入口と同じ大葉でふさがれていた。
 葉の隙間から覗けば、外は森の中らしく、太い樹木の幹だらけだ。雪はそれほど積もっていない。上空を覆う葉が重なり合って、地面まで落ちてこないのだろう。これなら、かなりの速度で走れる。密集する樹木は、彼らから自分たちの身を隠してくれるはず。右も左もわからないが、ここから遠ざかることだけはできそうだ。

 あと2つほど角を曲がれば、目的の部屋に着く、というところまで来て、薪は何かにぶつかった。
 しまった、三郎が帰ってきたのか、それとも残りの2人のどちらかが、と身構えるが、相手は何も言わなかった。気のせいか、とも思ったが、ひとの気配を感じる。

「あのう」
 おずおずとした声が下から聞こえ、見ると、女の子が床に座り込んでいた。中学生になりたてくらいの小柄な女の子で、くせっ毛のショートヘアに眼鏡を掛けている。
 なんと、自分たちの他にもやつらに囚われた人間がいたのか。それも、こんな少女を。
「きみもあいつらに捕まったんだね?」

 彼女は洋風の、ひどく古臭い服を着ていた。
『不思議の国のアリス』というロリコ……いや、夢一杯のファンタジー小説があったが、あれの主人公が纏っているような提灯袖のエプロンドレス。頭には猫耳をつけて――――― そうだ、これってあれだ、秋葉原を闊歩しているコスプレイヤーとかいうやつだ。都心のコスプレイヤーが、どうしてこんなところに?

 彼女が立とうとするのに手を貸し、薪は彼女を安心させようと力強く言った。
「怖かっただろうね。もう大丈夫だよ、僕は警官だ」
「……けいかん?」
「そうだよ。仲間もいる」
 気絶したままでは青木の巨体はお荷物以外の何ものでもないが、覚醒すればそれなりに使える。青木は剣道2段、射撃3段。柔道以外の種目なら、薪より強い。
 
 薪は少女の手を取って一旦来た道を戻り、さっき見つけた横道に入った。
「いいかい、きみはここに隠れているんだ。この道の突き当りから外に出られる、でも1人じゃ危険だ。僕が仲間を連れてくるから、それまでここで待ってて」
「うしろ! 伏せて!!」

 薪は咄嗟に屈んだ。
 次の瞬間、ボゴッという鈍い音と共に、向かいの土壁が何かに抉られたように砕けた。高さはちょうど薪の身長くらい。屈むのが一瞬でも遅れていたら、壁に叩きつけられていた。

『部屋さ待ってろと言っただに……おらの言いつけを破っただな。言うことを聞かんなら、こうしてくれる!』
「右よ! 後ろへ避けて!」
 慌てて身体を反らすと、ごおっと音をたてて目の前を何かが過ぎていった。巻き起こった風で薪の前髪が持ち上がり、きれいな額が顕になる。見えない敵の攻撃は、かなり強力だ。

「下、跳んで!」
 少女に言われるがままに身体を動かしつつ、薪は叫んだ。
「やつはどこだ!?」
「右!」
 言われた方向に拳を突き出すが、そこには何もなかった。ならばもっと右かもしれないと、得意の回し蹴りを繰り出すが、それもまた空を切るばかり。

「もっと奥です! 3歩先で○ボタン!」
「格闘ゲームじゃないからねっ!」
『ぐっ!』
 確かな手応えがあって、薪の拳に痛みが走った。普通の人間より、固い身体をしているらしい。これは足技を多用したほうがいい。

「左、下、斜め右上!」
「もっと細かく指示してくれ!さっきみたいに何歩先とか」
「了解! R2△○、R1×□L1!」
 ゲーム語で指示するのやめてっ!!

「日本語で頼むよ!」
「はいっ、左に2歩、胸の高さに蹴りです!」
 少女のアドバイスは正確で、薪の攻撃は確実に敵を捕らえていった。
 どうして自分に見えない妖怪の姿が、この少女には見えるのだろう。不思議に思ったが、今はそれどころじゃない。ここでこいつを仕留めないと、もしかしなくても殺される。

「真向かいにいます!」
 薪は軽く跳んで足を高く上げ、思い切り降り下げた。踵に強い衝撃が加わり、ドサッという音がした。
「いって! 固いアタマしやがって……きみ、ヤツはどうなった?」
 踵を持ってピョンピョン飛び跳ねたいのを我慢して、薪は少女に尋ねる。しかし彼女はそれに答えず、何を思ったかぱちぱちと拍手をした。

「すごーい、やっつけちゃった!」
「そうか。でも、喜ぶのは後だ。こいつらの仲間は、あと2人いる。早く青木を連れてここから逃げないと」
 薪は床を手探りで触って、気絶した敵の体を見つけた。彼の腕らしき部分をつかんで、ずるずると引き摺ると、
「こいつは縛って、どこかに隠す」
 気絶した妖怪を隠すなら、脱出口として使おうとしている横道からは離れた方がいい。薪は横道のひとつに彼を隠すと、少女の協力を得て、自分のネクタイで彼の足首を、少女の襟元を飾っていたリボンで手首を縛り上げた。

 これは間違いなく、三郎だ。残りの2人は、こいつを待つと言っていた。それから、一方の妖怪には、食事の前に仕事があるとか何とか。あれはどういう意味だったのだろう。

 再び先刻の横道に戻ってきて、薪は少女の目の高さに屈み、彼女を勇気付けるように言った。
「僕は仲間を助けてくる。1人で怖いだろうけど、きみはここで」
「あなたの仲間って、彼らに捕まってるのね?」
 少女の質問に、薪は自分の失言に気付く。彼女を不安にさせまいと、青木が敵の手中にあることは隠しておく心算だったのに。

「黒髪の、身体の大きな男のひとね」
「彼を見たのかい?」
「まだだけど。……すごく彼の事が心配なのね」
 自分は、そんなにも情けない顔をしていただろうか。一般人の前だと思って、できるだけ平静を装っていたはずなのに、こんな年端も行かない少女に見透かされて。

 ポーカーフェイスの厚みを1センチほど嵩上げしようと試みて、薪はその困難を悟る。
 本当に心配で、いてもたってもいられない。だって、あの連中は青木を食べるつもりなのだ。彼らは三郎を待つと言っていたが、妖怪にとって同胞との約束がどれくらいの重きを成すものかわからないし、三郎が来るのを待ちきれずに食べ始めてしまうことだって充分に考えられる。

「彼を助けるなら、わたしを連れて行ったほうがいいわ。だって、あなたは彼らの姿が見えないんでしょう?」
 少女の言うことは尤もだった。しかし、彼女は一般人、自分たちは警察官だ。自分達が守るべき相手を、危険と解っている場所に連れて行くわけには……。
「こんな非常時に、警官も一般人もないわ」
 彼女の助けがあれば、さっきのように妖怪を倒せるかもしれない。自分たちが死んでしまっては、この子を助けることもできない。迷った末、薪は彼女に「頼みます」と頭を下げた。

 彼女はニコッと無邪気に微笑んで、
「今のうちだったら、まだお仲間は無事なはずよ。子種を搾り尽くしてからじゃないと食べないから」
「そうか、子……こっっ!!??」
 あどけない少女の口からとんでもない言葉が飛び出して、薪は床につんのめりそうになる。
 彼女はどう見ても中学生、下手をしたら小学校高学年くらいの年齢だ。興味を持つ年頃ではあるかもしれないが、こんな言葉を使うとは思えない。自分はいったい何を聞き間違えたのだろう。

 自分のミスに赤くなって、薪が右手で口元を隠していると、少女は何を焦っているのかわからない、と言った表情で、
「そうよ。彼らが仲間を増やすには、人間の男と交わるしかないの」と、恥ずかしがる様子もなく答えた。聞き間違いではなかったらしい。
「どうして? さっきのヤツとの間に子供を作れば、あ、そうか。姉弟なのか」
「そう。血が近すぎて、異形になってしまう確率が高いから」
「不思議だな。最初彼らは僕を女性だと思っていたはずなのに、僕に子供を産ませようという話は出なかった。食いでがないから森の奥に捨てて来いって。何故だろう」
「無理よ。彼らと交わったら、人間の女なんか即死。あいつらの精液は猛毒だから」
 あ、危なかった……。

「きみは、どうしてそんなに彼らのことに詳しいの?」



*****

 さて、彼女は何者でしょう?
 正解者には、法十の秘蔵未公開Rをご進呈!←ないない。


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

秘密の森のアリス(4)

秘密の森のアリス(4)






「きみはどうしてそんなに彼らのことに詳しいの?」
「えっ」

 不可解だった。
 秋葉原の歩行者天国から攫われてきたコスプレイヤーの彼女が、どうして彼らのことをこんなによく知っているのだろう? そもそも、どうして彼女には彼らの姿が見えるのか?

 もしかしたら、と薪は思う。
 彼女はアキバのオタク、つまりは2次元の世界と現実を混同してしまうような社会不適格者、じゃなくて、柔軟な思考の持ち主だ。2次元人に恋ができるような人間なら、当然妖怪の存在も信じているはず。だから彼女には彼らの姿が見える。
 妖怪たちに言わせれば「食いでがない」体格の彼女を彼らがさらってきたのは、自分たちの姿が見える彼女に、身の回りの世話をさせようと思ったからではないか。彼女はもう何年もここで彼らの生活を目の当たりに見てきて、彼らのことを熟知しているのではないか。

 目の前に浮かんだ謎を解き明かそうとするのは、捜査官の本能。推理の神さまとまで呼ばれた薪にとって、脳裏に浮かんだ疑問に対して瞬時に仮説が立てられるのは、もはや条件反射のようなものだ。

「わ、わたし、アキバノオタクだったんだけど!」
 少女の小さな口が開いて、妙なアクセントの言葉が聞こえた。ちょっと考えて、『秋葉のおたく』と言ったのだとわかる。彼女も緊張しているのか、声がひっくり返ったらしい。
「彼らにさらわれて、身の回りの世話をさせられていたの。何年もここにいるから、彼らのことはよく解っているの」
 やっぱり、と薪は頷いた。
 自分が考えた通り、彼女は大分昔にさらわれたらしい。それでこんなに古臭いコスプレをしているのだ。

「何年くらいここにいるの?」
 彼らのことを語る彼女の様子に恐れが見えないところから、2,3年は経っているかも、と薪は予想する。
「えーっと、2,3年くらい?」
「きみは今、いくつなの?」
 彼女の体つきは、まだ少女のままだ。声も高いし、胸も小さいし足も細い。12,3歳といったところか。
「えーっと、12、3歳くらい?」
 すると彼女が被害に遭ったのは、10歳くらいのときか。

「じゃあきみは3年も前から、彼らのその……そういう場面を見てきたってこと?」
「そういう場面て? 男から子種を絞るところ? それとも女を犯すところ?」
「!! 女の子はそういうこと、言っちゃいけません!」
 ついついオヤジくさく説教してしまうのは、薪が女性に夢を抱いているからだ。女性はやさしく美しく、性には慎み深く、欲を言えば雪子のように凛としていて欲しい。

「でも、よく解ったね? その行為が、そういう目的で為されてるって」
 10歳の少女に性衝動なんか理解できなかっただろうし、子孫を作るためにそんなことをするなんて知らなかったはずだ。言葉だって、女を犯すとか子種とか、まさかこの年でエロビデオなんか見たことないだろうし。
「あー、今はほら、『えろびでお』とかあるから」
「えっ!! だってきみ中学生でしょ!? 僕、24のとき初めて鈴木に見せられっ……!!!」
 言わなくてもいいことを言ってしまって、慌てて自分の口を塞ぐが言葉は戻せない。
「ううう、また中学生に負けた……」
 昔のイヤな記憶も戻ってきたりして、思わず固まる。まったく最近の若いもんは、とオヤジ定番の口癖が出そうになって、さすがに今はそんなときではないと気を取り直して立ち上がる。

「行こう」
 薪の言葉に、2人は薪が最初に目覚めた部屋を目指して歩き始めた。

 不本意にもここに住まざるを得なかった少女は、目的の部屋までの道も熟知していた。彼女の道案内は薪の記憶と違えるところはなかったが、薪は彼女の背中を守る形で、体ひとつ分後ろを歩いていた。

「彼らが、ひとを食べる場面も見てきた」
 歩きながら、少女が低く呟いた言葉が、薪の瞳を暗く翳らせる。
 この小さな少女にとって、その場面はどれだけ恐ろしかったことだろう。自分を守ってくれる親もなく、頼りになる大人もいない状況で、明日は我が身かもしれないと思いながら彼らの世話をしなければならなかったとは、なんて可哀想な子だろう。

「ひとを食べるたびに、彼らは姿が変わるの。前はあんなに醜くなかった」
 しかし、彼女の足取りはしっかりとして、彼らの元へ戦いに赴こうとしてる今の状況に恐れを抱いている雰囲気は微塵もなかった。
 彼女の健気さを、薪は好ましく思う。オタクというのは現実逃避ばかりしている人種かと思っていたが、そんなことはないようだ。こんなふざけた格好をしていても、心は鋼のように強い。

「わたしは彼らに、これ以上醜くなって欲しくない」
 ふと少女の声に、彼らに対する憐憫が混じったような気がして、薪は自分の先に立って歩く彼女の頭を見つめた。ふわっとしたクセ毛のショートヘアを飾る猫耳が、ぺたんと垂れている。どうやら可動性らしい。最近のオタクグッズはよくできている。

「あなたのお仲間が、エッチに強いことを祈ってて。それで稼げる時間が違ってくると思うから」
 青木が妖怪とセックスしている間は殺されない。そういうことだ。
 彼が自分以外の誰かとそういうことをするのは腹が立つけど、今回は仕方ない。嫉妬なんかしてる場合じゃない、命が掛かってるんだ。

「どうしていきなり怒り出すの? わたし、何か気に障ること言った?」
 いいや、と首を振って、薪は彼女に顔を見られないように横を向く。ポーカーフェイスはマスコミ仕様のものにしているはずなのに、子供って鋭いから苦手だ。

「そうだな、青木は4時間くらいはぶっ続けでいけるから。まだ余裕だと」
「どうしてあなたがそんなこと知ってるの?」
「ッ、ゴホッ、ゴホッ! お、男同士はそういうの、自慢し合ったりするから」
「ふううん。それが本当なら安心ね。受精の確率を高めるためには量が多いに越したことはないから、最後の一滴を絞り尽くすまで続けると思う」
 逆の立場にならなくて良かった、と薪は心の中で天の配剤に感謝する。自分だったら多分、20分で殺されてる。それに、こんな環境でしかも相手は妖怪で、それが役に立つかどうかも―――――。

「攫われてきた男の中には、恐怖で震え上がっちゃう男もいるだろ? そういうときはどうするんだ?」
「あのね、彼らの中で女性だけは特殊な能力を持っているの」
 薄暗いトンネルのような通路を歩きながら、少女は自分の知識を惜しみなく薪に与えた。
「男の人の心の中が読めるの。彼らが好ましいと思っている女性の姿形を知って、その姿になることができるの。だから、大抵の男の人は拒まないわ」
 彼女の説明を聞いて、薪は納得する。
 それなら、殆どの男は飛びつくだろう。妻や恋人がいない男だって、アイドル歌手に憧れていたり、人妻に横恋慕していたりするのだから。ここぞとばかりに張り切るに違いない。自分だって目の前に深田○子が、あの神々しいバストを晒して迫って来たら……。

「やばい」
 何度か青木と交わしたことのある会話を思い出して、薪は急に不安に駆られる。

「急がないと、危ないかもしれない」
「え、どうして? 4時間は大丈夫なんでしょう?」
 たしかに、青木は一晩中フルスロットルで飛ばせるやつだけど、でもそれは。
 相手が僕だから。
 青木は僕が好きだから、僕と一緒に高まりたくて、だからあんなに―――――。

「好きな相手じゃないと、役に立たないって言ってた。もしかすると駄目かも」
 青木から目的のものを引き出せないと知ったら、彼らはどうする。即座にその目的を変更して、彼を引き裂くのではないか。
 三郎が来るまで彼らは待つと言ったが、それは青木を殺すのを待つと言ったわけではない。食べるのを待つ、と言ったのだ。

 青木の自分を見る熱い瞳を思い出して、薪の背筋がぞっと寒くなる。
『オレは、薪さん以外のひとは欲しくありません』

 あいつが求めるのは僕だけ。
 もう何年も前から、世界中で僕ひとり。

 小刻みに震え始めた薪を気遣って、少女が歩を緩めた。弱気になった薪を勇気付けるように、胸の前で小さな拳を握り締める。
「大丈夫よ。彼の好きな人の姿になるんだから」
「青木は姿形だけで僕を抱いてるんじゃない!」

 すでに彼の命は奪われているかもしれない、そんな不安が薪の余裕を奪っていた。だから、少女のびっくりした表情の意味にも、しばらくは気付けなかった。
 あんぐりと口を開いている彼女の両目がぱちりと瞬き、薪は自分を取り戻した。

「あ、いや、あの、つまり、そのっ」
 出会い頭の事故のようなカミングアウトを何とか無効にできないかと、必死で考えるが頭の中は完全に真っ白だ。恥ずかしい時は反射的に出てしまう、右の拳で口元を隠すクセを意識することもできず、薪は壁にへばりついてしまった。

 徹底的にマズイことになった。
 こんなことが原因で、協力的だった少女が自分たちに対する嫌悪感から勝手な行動を取ったらどうしよう。青木と彼女、2人も抱えて逃げられるほどの腕力は、薪にはない。

 薪の心配を他所に、軽蔑の眼差しを浮かべるかと思った少女は、胸の前で握っていた拳を神さまに祈るときのように組み合わせて、
「す、すてき……」
 と、茶色の瞳をきらめかせた。
「きゃー、初めて本物を見たわ! 萌える~~! わたし、応援するから!」

 ……腐女子だったのか……。



*****

 ということで、正解は腐女子でした☆


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

秘密の森のアリス(5)

秘密の森のアリス(5)





「青木さんていうの? 面倒な男ね。あなたの話が本当なら、彼とっくに殺されてるわ」
 足音を隠す余裕もなく、ふたりは目的の部屋までの道を急いでいた。

「でも、そんなに心配することないわよ。今までも奥さんのいる男は何人も来たけど、彼らの上には大抵、奥さんよりも若くてきれいな女性が乗ってたから」
「世間一般の男の基準であいつを測らないほうがいい」
 薪はそれを青木という人間を冷静に判断した上で言ったのに、青木のことを知らない少女には、自惚れに聞こえたらしい。大した自信ね、と小さく口中で呟き、
「はいはい。それじゃ、妖怪の変身能力に期待するのね。あなたそっくりに化けられてるといいけど」
 冷やかす口調で言われて、薪は少々腹を立て、
「彼の上にどこかの女が乗ってたら、それはそれで僕が彼を殺すけど」
「……シュールすぎて笑えないんだけど、その冗談」

 裾の長いドレスを蹴立てて走る少女の後ろを、薪は必死に付いていく。薪は足はかなり速いほうだが、この少女の走りはすごい。陸上でもやっていたのだろうか。
「大丈夫? 息、上がってるみたいだけど」
「ああ。でも、こんなに遠かったかな」
「一番未熟とはいえ、さっきの奴も妖怪だからね」
 瞬間移動のような力でも持っていたのだろうか。周りが同じ土の壁だから、気がつかなかった。
「青木の意識さえ戻れば、彼は僕よりも強いから。そう簡単にはやられないと思う。銃も持ってるし」
 青木は薪のボディガードとして正式に任命されているから、銃の携帯を許可されている。いつも持ち合わせているわけではないが、今回のように遠出をするときには何があるか分からないから、必ず持っているはずだ。妖怪に鉄砲玉が効くかどうかは不明だが、丸腰よりは心強い。

「あなたがさっきやっつけた奴は、まだ年が若いから普通の人間よりちょっと固くて力が強いくらいだけど、一番年長の奴はそう簡単にはいかないわ。力は人間の何倍もあるし、車にぶつかっても傷ひとつ付かない丈夫な身体を持ってる」
「げ。そんなデタラメな奴にどうやって対抗するんだ?」
「大丈夫、こっちにも秘密アイテムがあるから」
「秘密アイテム?」
 そんなものがあるのか。さすがは彼らと3年も暮らしてきた少女だ、只者ではない。もしかすると、逃げ出す機会を伺いつつ、彼らの弱点を研究していたのかもしれない。
 走りながら、彼女はエプロンのポケットからカラフルなステッキを取り出した。

「これよ、魔法の杖」
 …………オタクのコスプレイヤーの言うことなんか、マトモに信じた僕がバカだった。

「あ、信じてないわね。あなた、そんなんだから彼らの姿が見えないのよ。可哀想なひと」
「僕の年になってそれを信じられたら、別の意味でカワイソウな人だよ」
 それよりも青木が心配だ。
 青木は確かに強いけど、それは人間相手のときだ。心を読むという妹と、怪力を持つという兄。妹が青木の心を読み、兄に伝える事ができたら、青木の攻撃はすべて相手に予測されてしまう。まともに戦えるとは思えなかった。
 殺されてしまうくらいなら、浮気してくれたほうがいい。仲間由○江でも蒼○優でも、なんだったら僕のフ○キョンを貸すから! だれでもいいから青木の上に乗っかっててくれ!

「部屋が見えてきたわ、あの突き当たり……!」
 前を走る少女が言い終わらないうちに、部屋の入り口から放り出された人影があった。
「青木っ!?」
 思わず呼びかけるが、それは彼ではなかった。亜麻色の短髪に華奢な肢体、下着をつけていない身体が妖艶に透ける膝丈のチュニック。

「……僕?」
 って、ちょっと待て―――――っっ!!
 なんだ、その場末のストリッパーみたいな衣装は! 僕の顔を使うならもっとマトモな服を着ろ、てか、お願いだからパンツ穿いて!! でないと僕は、猥褻物陳列罪の罪で、自分に自分で手錠を掛けなきゃならなくなる!

 放り出された人影は直ぐに立ち上がると、部屋の中に取って返した。なにやら揉めているような2つの声が聞こえて、その片方が自分の恋人の声だと知って、薪はその場にへたり込みそうになる。
「中で何をしているのかしら」
「なにって」
 子供には見せられないことに決まってる!

 入り口までの20mを全力疾走で駆け抜け、薪は部屋に飛び込んだ。
「青木、無事か!」
「ちょっ、わたしを追い抜いていくなんて無鉄砲すぎっ、あら、1人だけ?」
「え? 僕に見えないだけじゃなくて?」
 部屋の中にいたのは、青木と薪にそっくりな青年の2人だけだった。つまり、これは男性の心の中が読めて、好ましい姿に変身できるという妹の方だ。どうして兄の姿がないのだろうと考えて、すぐにその理由に気付く。
 彼らの目的は青木の精を絞ること。席を外すのが当たり前だ。
 これはチャンスだ。兄の方は相当の手練と聞いている。彼がいないうちに、ここを離れられれば。

「青木、今のうちに逃げ」
「薪さん」
 青木は自分の腕に縋るようにしていた細身の青年を邪険に突き飛ばすと、薪の方へ一目散に走ってきた。薪の言葉を途中に、その長い腕に彼を封じ込めて、深く息を吐く。
「よかった、無事だったんですね!」
 ぎゅっと抱きしめられて、薪は目をつむる。こんなことをしている場合じゃないのに、だけど安心して力が抜けてしまった。
「どこも痛くありませんか? せっかく旅行に来たのに交通事故なんて、ついてませんでしたねえ」
 青木は薪の身体を確かめるように、背中から腕、それから頬に手を当てると、薪の顔を上向かせて、彼の瞳をじっと見つめた。青木の黒い瞳に、微かに水膜が張っている。よほど薪の身を案じていたのだろう。

 チッと舌打ちする音が聞こえて、彼らの傍らを薪にそっくりの男が走り抜けて行った。
「青木、あいつは」
「ああ、あのひと。何を考えてるのか知らないけど、あんな格好でオレに迫ってきたんですよ。だから思わず跳ね除けちゃって」
「どうして」
「え、だってオレ、薪さん以外の男の人は興味ないし、てかすみません、気持ち悪いです」
 その姿はどこからどう見ても自分なのに、『気持ち悪い』などとヒドイ言葉で拒否されて、薪は複雑な気分になる。青木の心の中に、自分以外愛を捧げる相手がいないことが立証されたのは嬉しいけれど、薪と同じ外見の人間にまったく惑わされないのは矛盾しているような気がする。

 自分を放そうとしない青木の腕を力ずくで押しのけて、薪は少し非難がましい口調で言った。
「あいつ、僕にそっくりじゃないか。どうして偽者って解ったんだ?」
「え? ぜんぜん違いますよ?」
 青木は不思議そうに首を傾げて、薪の顔を覗きこんだ。間近に迫ってこられて、薪の心臓がとくんと跳ねる。
 いやいや、これはさっき走ったから。付き合い始めて4年にもなるのに、いまさら顔が近付いたくらいでときめいたりしないから。

「どこが似てるんですか? 薪さんの方が100倍きれいですよ。
 顔も身体も声も匂いも、まるで違います。オレいつも、薪さんを見た瞬間にドキドキするんです。それから嬉しくなって、幸せな気分になって。でも、あの男には何も感じませんでした」
 騒ぎ出す心臓を押さえられない薪が必死に言い訳を重ねる間にも、青木はますます薪の胸中を乱す言葉を重ねてきて、薪は頬に熱が上るのを抑える事ができない。だから薪はいつものように、そっぽを向いて憎まれ口を叩く。
「おまえ、眼鏡作り直したほうがいい」
「えー、なんでですか?」
 薪には鏡を見ているとしか思えなかったのに、こいつの眼は腐ってる。

 横を向いた薪の視界に、ぼーっと立っている少女の姿が映り、薪は彼女の存在を一時忘れていたことに気付く。
 まずい、彼女の前で抱き合ってしまった。彼女にショックを与えてしまったのではないだろうか。腐女子というのは幻想の世界に生きるものであって、現実を見たら引く可能性が大きいと、雪子の助手から聞いた事がある。
 しかし少女は茶色の瞳を熱っぽく輝かせ、
「ステキ……見かけに惑わされることなく、真の恋人を見抜くなんて。BLっていいわあ」
「BL言うなっ!!」
 腐女子の妄想とイコールにカテゴライズされてたまるか!!

「誰ですか、この子」
「行きずりの腐女子だ」
 彼女の逞しい精神には感謝すべきところだが、BLとか呼ばれたくない。だいたい、僕たちボーイズじゃないし!

「『ふじょし』ってなんですか?」
「BLをこよなく愛するエイリアンだ」
「『びーえる』ってなんですか?」
「……おまえは知らなくていい」
 ああ青木、なんて純粋でかわいいやつなんだ、抱きしめてやりたい。

 現実から外れて行きそうになる薪に再び緊迫感を与えてくれたのは、夢想が得意なエイリアンだった。
「もうちょっと妄想してたいけど、妹の方が兄を呼びに行ったから。早く逃げましょ」
「逃げる? どうして」
「逃げながら説明する。早く来い」
 1人だけ状況のわかっていない青木の両腕を引いて、薪と少女は部屋から駆け出した。




テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

秘密の森のアリス(6)

秘密の森のアリス(6)





「よ、妖怪!? ―――― あ痛っ!」
 驚いた拍子に思わず背中を伸ばしてしまって、青木は頭を通路の天井にぶつけた。自然の洞穴を利用したと思われる妖怪たちの住処は、青木の身長には低すぎるのだ。

「妖怪なんて、そんなバカな」
「僕だって信じたくない。でも現実なんだ」
 オカルトとは縁のない第九の室長は、青木の横を走りながら冷静に答える。
「僕には彼らの姿が見えない。だけど声は聞こえたし、攻撃も受けた」
 日頃のトレーニングの成果を十二分に発揮して、青木は走り続ける。第九職員に求められるのは体力と根性、それから薪のイジメに耐えられる強い精神力。今の状況には、どれも必要なものばかりだ。

「気配はあるのに人の姿はないとか、誰もいない場所から声が聞こえたりとか、しなかったか?」
「オレが目を覚ましたときには、彼が――― さっきの男の人がですね、オレの上に乗ってその、服を、脱がそうと……」
 ちらりと薪の隣を走っている少女を見て、青木はこの手の話は教育上よくないと判断し、口を噤んだ。腐女子というのがどういうものか青木はよく知らないが、見た目は中学生くらいの女の子だ。大人の話はまだ早いだろう。

「彼女は、彼らの姿が見えるそうだ」
 走りながら、薪が彼女のことを教えてくれる。
「2,3年前に彼らにさらわれて来て、逃げ出すチャンスを伺っていたんだ。アキバのオタクでコスプレイヤーでもある彼女は、その柔軟な精神から彼らの姿を見る事ができるんだ」
「あなたたちには、あの妖怪が薪さんの姿に見えていたでしょう? でも、わたしには本当の姿が見えるの。彼女は女の妖怪。薪さんとは似ても似つかない」
「へえ。オレも『びーえる』っていうのを学べば、見えるようになりますか?」
「そんなことは僕が許さんぞ! あれは悪魔の書だ!!」
「……読んだことあるんだ……」
 何故だか顔を真っ赤にしている薪と、ジト目で彼を見る少女の顔が気になったが、それは後回しにして、青木は今自分たちが置かれている状況を整理する。

 薪の言う通り、ここはどう見ても病院ではない。山道で事故に遭って気がついたらここにいた、そこには何らかの超常的な力が働いたと考えていい。
 自分たちは慰安旅行の途中だったのだし、怪我もないのだから、引き続き旅行を楽しむ権利があるはずだ。ちょうど雪も降ってきたし、薪の大好きな温泉で雪見風呂を楽しませてやれると思っていたのに、どこの誰とも知らぬ輩に邪魔されて。何だかだんだん、腹が立ってきた。

 相手が妖怪だろうが怪人だろうが関係ない。
 自分の役目は、薪を守ることだ。

 走るスピードは落とさずに、妖怪に詳しいと言う少女は、彼らについて青木に説明してくれた。
 彼らは3人兄弟で、長兄が一番強い。2番目がさっき青木に迫ってきた女妖怪で、3番目は薪が気絶させた上に手足を縛ってある。よって当座の敵はふたり。
 兄の能力は怪力と高い防御力。走っている車を止める事ができるというから、かなり強力だ。まともに攻撃をくらったら、命はないかもしれない。
 妹はテレパシスト。相手の心が読めるらしい。さっきも、青木の心から薪の映像を感じ取って、それに化けたのだと説明された。

 しかし、ちっとも似ていなかった。薪の肌はもっと透明感があるし、瞳は星みたいにキラキラしてるし、睫毛もくちびるももっとセクシーだ。からだからは百合の香りがして、華奢な腰に浮いている腰骨の曲線といったらクラクラするくらいに色っぽくて。
 それでいて初心で恥ずかしがり屋で、ベッドに連れ込むのが毎回一苦労で、だから絶対にあんな格好するわけないし、だいたい薪の方から迫ってくれたことなんて、この4年の間に数えるほどしか。
「そうなんだ。青木さん、苦労してるのね」
「え? なにが?」
「こっちの話」
 なんだろう、今の会話。青木は何も言ってないが。

「あの、オレは青木といいます。きみは?」
「えっ」
「そう言えば、きみの名前を聞いてなかった。何て言うの?」
 少女は何故か口ごもって、自分の名を告げるべきか迷うようだった。
 
 彼女は変わった服を着ていた。アキバのコスプレイヤーだと薪が言っていたが、これは『不思議の国のアリス』のアリスのコスプレだろうか。
「あ、アリスよ」
「へえ、可愛い名前だね。どんな字を書くの?」
「か、カタカナで」
 自分の名前に合わせてコスプレの衣装を選んでいたのかもしれない。しかし、アリスは猫耳をつけていたかな。

「じゃあ、アリスちゃん。きみはここに詳しいんだよね? どこかに武器になりそうなものはないかい?」
「青木」
 微かに咎める口調で名前を呼ばれて、青木は厳しいボディガードの顔になった。
「攻撃は最大の防御です。もしも追っ手が迫れば、オレが時間を稼ぎます」
「おまえにそんなことをさせるわけには」
 言いかけて、薪は言葉を止めた。彼が素早く動かした視線の先には、夢中で走る少女の姿。
 
 おまえにだけ危険な真似をさせるわけには行かない、僕たちはいつでも一緒だと、自分ひとりなら通る我儘も、彼女がいては通らない。自分たちは警察官だ。彼女の安全を優先させなければならないと、薪の心の動きは手に取るように解る。
 どんなときでも自分が警官たることを魂に刻んでいる、そんな薪にだからこそ、この身を捧げても悔いはないと青木は思う。

「だが、相手は人間じゃない。まともに戦えるとは」
「弟には薪さんの踵落しが効いたんですよね?だったら、上の2人にも物理攻撃が有効かと。その辺、どうなの? アリスちゃん」
 大人の自分達についてくる彼女の脚力に舌を巻きつつ、青木は彼女の知識を頼る。敵の内情に一番詳しいのは彼女だ。
「兄のほうは素手では厳しいと思う。妹は身体能力だけだったら、弟よりも弱いはず」
「妹のほうは腕づくで何とかなるとしても、問題は兄ですね」

 角を曲がったところで、アリスは横道に入った。ちょっと寄り道、と彼女が案内したのは8畳ほどの部屋で、水を入れた瓶や焚き付けの薪、更には竈のようなものが置いてあった。奥には物干しに掛けられた布巾のようなものが干してあり、どうやらこの少女のおかげで妖怪たちは人間に近い生活を営んでいるらしい。

「この部屋で食事を作るから、包丁とかもあるわ。好きなものを選んで」
「オレ、これでいいです」
「……ものほし竿?」
「はい」
 樹木の枝を利用した物干し竿を適当な長さに叩き折り、青木は棒の端に干してあった布を裂いて巻きつけた。そうして作った不恰好な木刀を、両手でぎゅっと握る。使い慣れた竹刀には程遠い握り心地だが、自分が武器を持つなら、これが一番だ。
 それに、妖怪といえども刃物で切りつけたりはしたくない。もし先刻のように人間の姿で出てこられたら、相手に刃物を向けることはできそうにもなかった。
 薪も同じ考えらしく、刃物には手を伸ばさなかった。薪の得意な武術は柔道と空手。どちらも接近戦だ。彼が見かけよりもずっと強いことは知っているが、相手は妖怪。素手で倒せる敵ではない。

「薪さん、これ。持っててください」
 青木が差し出したものに、薪の瞳が見開かれる。自然に後ずさる彼の手を取って、青木は強引にそれを握らせた。
「薪さんが銃を持ちたがらないのは知ってます。でも、今は緊急時です。刃物を通さない相手に対抗するには、飛び道具しかありません」
「おまえは?」
「オレにはこれがあります」
 剣道には自信がある。特に、高身長を生かして高い位置から繰り出される面はかなりの破壊力を持つと、自分でも自負している。

 小さな手のひらの中の黒く冷たい鉄の塊に目を据え、薪はその重みにしばし耐えるように立ち尽くしていたが、何か他に役立つものはないかと壺や籠をひっくり返している少女を見て、思い切ったように銃を背広の内ポケットに入れた。

「二人とも、刃物は要らないのね?」
 武器の選択を確認してきた少女に、彼らは頷きで応えた。少女はちょっと呆れたような顔をしていたが、やがて肩をすくめて、
「そんな甘い相手じゃないと思うけどなあ」と呟いた。
 生きるか死ぬかの局面で、相手を殺す決意を固めきれないふたりに失望したように少女は彼らに背を向けたが、それ以上は何も言わず。そう呟いた彼女も、やはり刃物は持たなかった。
 代わりに少女は、引き出しから黒いロープのようなもの何本か取り出し、ポケットに入れて調理場の出口に向かって歩き出した。

 年齢に似つかわしくない勇ましい彼女の態度に、青木は心の中で舌を巻く。自分は男だけれど、果たして中学生くらいの時にこんな勇気を持てただろうか。3年という月日が彼女の精神を逞しく造り替えたのかもしれないが、それにしても大したものだ。
 再び薄暗い通路を早足で歩きながら、青木はそんな気持ちでアリスに話しかけた。
「アリスちゃん。アリスちゃんが家に帰ったら、お父さんとお母さん、喜ぶだろうね。頑張ったね、ってアリスちゃんを褒めてくれるよ」
「え? あ、そうね」
 思ったよりも素っ気無い返事が返ってきて、青木は面食らう。両親が恋しくはないのだろうか。

「青木、無駄口はよせ。声で敵に居所を悟られないとも限らない」
 薪に叱責されて、今はそんな悠長なことを言っている場合ではなかったと気付く。薪も少女も必死なのだ。が、少女の説明を聞いただけで、妖怪たちと対峙していない青木には、今ひとつ実感がわかなかった。さもあらん、青木は最先端科学を集結した第九の捜査官だ。妖怪なんてそんなもの、そう簡単には信じられない。
 信じられないはずなのに。

「止まって! ふたり、前にいるわ!」
「うわあああっ!!」
 狭い通路を抜けて大きな部屋に入り、そこを通過しようとしたとき。突如として目の前に現れた異形のものたちに、青木は悲鳴を上げて後ろへ飛び退った。
「えっ? 青木、見えるのか?」
 薪が不思議そうな顔をして青木を見る。
 薪にはこれが見えないのだろうか。いや、見えないほうが幸せかもしれない。

 全身毛むくじゃらのヒヒのような化け物。手足の爪は伸び放題で鋭く、腰まである髪はぼうぼうに乱れている。身の丈はそれ程大きくはない。薪より少し高いくらいか。
 人型を取ってはいるものの、その顔は人間のものではない。目はぎょろりと大きく、鼻は潰れ、口は耳まで裂けている。真っ赤な口からむき出しになった彼らの歯はのこぎりのように尖って、生きたまま人間を食べるという少女の話は嘘ではなかったと、信じさせるに充分な恐ろしい風貌だった。
 ふたりの姿形は似たり寄ったりだったが、右側に立った妖怪のほうが幾分小柄だった。こちらが妹のほうだとすると、注意すべきは大きいほうの妖怪だ。
 思ったとおり、大柄な妖怪がこちらに向かって突進してきた。反射的に薪と少女を抱えて横っ飛びに逃げ、彼の攻撃を避ける。

「な、なんですか、あの恐ろしい生き物は!」
「すごい、青木さん。あいつらが見えるのね?」
「なんで!? どうして僕にだけ見えないんだ!?」
 そんなの、青木にだって分からない。自分は『びーえる』の勉強もしていないし、オタクの修行も積んでいない。

「青木さんには素質があるのかもしれない。ちょっと頑張れば、立派なアキバ系男子になれるかも」
「ならんでいい!」
「何だったら、わたしが教育してあげても」
「アリスちゃん、余計なことしないで! ただでさえこいつは色々と規格外なんだから! そんなもの教え込んだら、どんなプレイになって僕に返ってくることか!」
 さすが薪さん、どんな状況に陥ってもユーモアを忘れない。真っ青になってるけど、ジョークですよね?

「冗談言ってないで、逃げてください。マジでやばそうな相手です」
 ふたりの軽口に付き合っている余裕は、青木にはなかった。身体を張ってでも、彼らを逃がさなくてはならない。
 妖怪の風体はとても恐ろしかったが、その場に座り込んでしまうほどでもなかった。自分はこんなに度胸が良かったか、と青木は考えて、今は守らなければならない人たちがいるからだ、と戦う決意を強くする。

「ヤ――――ッ!!」
 青木は腹の底から声を出した。剣術の掛け声には、相手を威嚇する意味もある。
 大声量と共に、青木は敵に斬りかかった。


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

秘密の森のアリス(7)

 こんにちはっ。

 毎度バカバカしいお話にお付き合いくださいまして、真にありがとうございます!
 この章が、このお話のアホMAXでございます。
   
 銀河系より広いお心でお願いしますっ。





秘密の森のアリス(7)





 大上段に振りかぶった木刀が、ビュッと空を切る。しかし、相手の動きは人間を遥かに超えて素早く、青木は太刀筋を左に流したが、それも避けられてしまった。
 直ぐに体勢を立て直し、乱取りの要領で次々と剣を打ち込むが、一太刀として相手に当てる事ができない。
「ぐはっ!」
 剣を振り切ったところに逆に懐に飛び込まれ、拳を入れられる。咄嗟に組み手で防御したが、その固さときたら尋常ではない。
 岡部からでさえ3本に1本は奪う事ができる得意の剣を軽々とかわされて、青木は焦る。こいつ、まるで次の剣筋が分かるみたいだ。

「アリスちゃん。今のうちに逃げるよ」
 青木の険しい表情に戦況を察しつつも、薪は少女の保護を優先する。自分も青木も警察官だ。私情は許されない。
 しかしアリスは薪に従おうとはせず、細い眉をぎゅっとしかめて言った。
「まずい。妹の方が青木さんの心を読んでる。これじゃ青木さんの攻撃は、全部避けられちゃう」
「えっ、青木と戦ってるのは兄のほうじゃ?」
「兄妹間で、感応能力みたいなものがあるのかもしれない。妹の方が、何かブツブツ言ってるから。まずは妹のほうを何とかしないと」
 自分が妹のほうを攻撃すれば、青木は有利になるかもしれない。しかしそれは、少女の安全を確保してからだ。彼女をどこかに匿って、それから引き返してくれば。

「アリスちゃん。ここはひとまず青木に任せて、きみは避難を」
「その選択は間違ってる。このままじゃ青木さん、5分も保たないわ。そしたらすぐに追いつかれて、2人ともオダブツよ」
 彼女の言うことは正しい。青木には一刻の猶予も無いように見えるし、見えない敵を2人も相手取って少女を守り抜く自信はない。

「わかった。それじゃ、三郎のときみたく僕に指示を出して」
「無理よ、妹はあなたの心が読めるんだもの。わたしの声を聞いてから動くんじゃ、遅すぎるわ」
「じゃあどうすれば」
 自分の不甲斐なさに、薪は歯噛みする思いで少女に尋ねる。せめて敵の姿を見る事ができれば、自分にも勝機はあるかもしれないのに。こんな局面が来ると分かっていたら、菅井さんに無理矢理貸されたBL小説、全部読んでおくんだった!

「いいわ、必殺のアイテムを貸してあげる」
 少女に何かができるわけではないと、思いつつも発してしまった問いに頼もしい答えが返ってきて、薪は眼を瞠る。
 この状況で『必殺のアイテム』を出せる、オタクとは何と有能な人種だろう。今まで社会不適格者とか現実逃避主義者とか、そんな言い方をして悪かった。ここから無事に帰れたら、菅井が貸してくれた本をちゃんと読もう。それがどんなに精神的苦痛を伴う行為でも、これは彼らに対する自分の罪滅ぼしだ。

 アリスは白いエプロンドレスのポケットを探り、サッとそれを取り出した。明るい笑顔で薪の前に差し出したのは、カチューシャに白い3角形の毛皮がついたいわゆるひとつの―――― ネコミミ?

「これを装着すれば、あなたにも彼らの姿が見えるように」
「きみの頭は春爛漫のお花畑かっっ!!!」
 社会不適格どころじゃない、社会のゴミだ、こいつら!! こんな奴らを野放しにしておいたら、そのうち日本は沈むぞ! オタク禁止条例を出すべきだ、ビシビシ取り締まるべきだ! 手始めに、ここから無事に帰れたら、菅井が置いていった本はすべて焼き払ってやるっ!

「どうしてそんなに頭が固いのよ。騙されたと思って、付けてみなさいよ」
「あのねえ!」
「わたしだって必死なの! 早く付けなさい!!」
 薪はびくっと身を引いた。
 一瞬だったが、彼女の口が耳まで裂けたように見えた。眼鏡の奥の眼が、鬼女のように凄まじい光を宿したような気がした。
 女の人は怒ると怖い。雪子も普段はやさしいのに、怒ったらものすごく怖いのだ。柔道の試合の時彼女に睨まれると、薪は上手く身体が動かせなくなる。

「わ、わかりました」
 妖怪よりも彼女に殺されそうな気分になって、薪は素直に『必殺のアイテム』を受け取る。カチューシャを頭につけて、恐る恐る彼女を見た。

「これでいい?」
「薪さん、ずるーい。わたしよりかわいい」
「はは……ありが、と、えっ!?」
 見える!
 青木と戦っている妖怪の姿が見える。

 生まれて初めて見る妖怪の姿は、サルと人間の合の子のような容貌だった。とても恐ろしい顔をしているが、あのくらいだったら立ち向かえないほどではない。角度によっては、岡部にちょっと似てるし。
 青木は苦戦していた。アリスの言った通り、完璧に攻撃を読まれている。敵は、青木の鋭い太刀を悉く避けて常に反対の方向に動き、剣が空振りに終わった後には必ず訪れる隙をついて強烈な反撃を繰り出している。
 妖怪の毛深い足が青木の腹にめり込み、薪は思わず声を上げた。
「あおきっ!!」

 薪の叫びに反応して、青木がこちらを振り返る。
 その黒い瞳は薪を捕らえ、次いで驚愕に見開かれ、男らしい口元は息を呑んだ。青木は左手で鼻から下を覆い隠し、するとその指の隙間から大量の血液が。

「ま、薪さん、ネコミっ、ぐふうっ……!!」
 アリスちゃん連れて、ここから逃げたくなってきた。

「大変! 青木さん、吐血したわ! もしかしたら内臓にダメージを?!」
「うん、心配しなくて大丈夫。あれ、鼻血だから」
 庇う気力もない。恋人がケモノの耳を頭につけただけで鼻血を噴くような男を庇えるほど、薪はヘンタイという生き物に寛容ではない。
「鼻血? ああ、なるほど……はーん」
 そこで納得しないで! 「青木さんが今何を考えたのか、手に取るように分かるわ」って、男の願望を見透かしたような顔するのやめて!

 アリスが予想する青木の想像の中で、自分が服を着ているのかどうか怖くて訊けない薪をよそに、少女はぽんと手を打った。
「そっか。青木さん、妄想癖があるのね。道理で彼らの姿が見えたはずだわ」
 そんな馬鹿な、と反論しかけて、薪は否と思い直す。
 言われてみれば、青木は筋金入りのドリーマーだ。でなければ12歳も年上の男を美しいだのかわいいだのと、何年も誤解できるわけがない。

「薪さん、協力して。この『必殺アイテム』で、青木さんの戦闘能力を上げることができるわ」
 いや、なんかもう腰砕けになってるみたいだけど。てか、そのまま砕けちまえよ、おまえ。
「スキルアップの方法は、こうよ」
 果てしなく冷たい瞳で青木が妖怪に痛めつけられる様子を見ている薪を尻目に、アリスは両手を口の横につけて大きな声で、

「青木さん! そいつを倒したら、薪さんが猫耳プレイしてあげるって!!」

 どんなスキルの上げ方だ!!
「どういうプレイだ、それはっ」
「猫耳つけて『にゃーん』て鳴いて、大事なトコにすりすりしてあげるって! ほら、薪さん、鳴いて!」
「だれが鳴くかっっ!」
「早く鳴かないと、青木さん死んじゃうわよ」
「ぐっ」
 少女の言葉は脅しではなく、妖怪の攻撃は確実に青木を弱らせている。固い拳は青木の皮膚を破って、彼の顔には幾筋もの血が流れていた。
 冗談では済まされない状況になっている。ていうか、こんなアホみたいな死に方をされたら寝覚めが悪すぎる。

「…………にゃ、にゃ~ん」
「!! せや――――っ!!」
 薪が小さくネコの鳴き真似をすると、途端に青木の剣がひらめいた。鋭く突き出された剣先に、毛深い妖怪の身体が吹き飛ばされる。

「上がったね」
「そうだね。僕のテンションは下がったけどね」
 
 ふたりとも置いて、逃げちゃおうかな。



*****


 アホMAX=薪さんのネコミミっ!
 もー、これが書きたくて、50Pも書いたんですねー。←アホMAXはおまえじゃ。

 どうしてネコミミ薪さんを書きたくなったのかというとですね、うちで相互リンクを張らせていただいてる「擒」というブログ様(URLはこちら )に感化されまして。

 管理人のえあこさんの描かれるネコミミ薪さんが、ヤバイくらいかわいくて!!
 えあこさんはすずまきすとさんでいらっしゃるので、らぶい鈴薪さんを中心に描かれているのですけど、こちらの薪さんが、うちの薪さんに負けないくらい鈴木さん激らぶ!! でして。 
 しづはえあこさんのブログを拝見する度に、「そーよ、そうなのよ、薪さんは鈴木さんのこと、死ぬほど好きだったのよ~!」と萌え萌えしている次第です。(あおまきすと??)

 しかーし、
 えあこさんちの薪さんの可愛いらしさに、うちのオヤジ薪さんが追いつけるはずもなく~~、
 しかもギャグ展開で痛ーいネコミミオヤジになってしまいまして、(←キャサリンとか言わないで←知らない人は『銀魂 キャサリン』でググってみよう)
 えあこさんファンの方々には、心よりお詫び申し上げます、ごめんなさい。

 えあこさんのブログ「擒」には、リンクの欄からも飛べますので、まだチェックがお済みでない方は、ぽちっと飛んでくださいねっ♪


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

秘密の森のアリス(8)

 こんにちは~。

 今日の回は、わたし的にはとっても銀魂らしいと思うんですけど。
 怒っちゃイヤ。

 


秘密の森のアリス(8)





 だだ下がりのテンションを気合で戻して、薪は自分に課せられた敵に立ち向おうと、妹妖怪の姿を探した。
 亜麻色の髪を一振りして薪は、通路の暗がりに隠れていた敵を簡単に見つけ出す。
 頭に取り付けた屈辱的なアイテムが薪の視神経にどういう作用を及ぼしているのかは不明だが、とにかく、姿が見えればこっちのものだ。

「アリスちゃん。これ、借りるよ」
 少女のポケットからロープを2本抜き取ると、それを自分のポケットに入れて妹妖怪に狙いを定める。
 猛烈なスタートダッシュで敵との間合いを一気に詰め、素早く相手の背後に回る。長く伸びた髪をつかみ、足払いを掛けてその場に引き倒した。

 途端、兄妖怪の動きが急に鈍くなった。妹の集中が途切れたことで、青木の攻撃が読めなくなったらしい。ここを勝機とばかりに、青木は鋭く剣を振り下ろすが、それは敵の腕によって止められた。
「つっ。どんだけ固いんですか」
 まるで鉄の塊を叩いたようだ。強烈な反動に、思わず木刀を取り落としそうになって、青木は咄嗟に後ろに逃げた。まともに剣を握れない状態で、突っ込んでこられたら反撃の仕様がない。
 木刀で仕留めるのは無理かもしれない。薪に渡したものが必要になるかも。

 妹のほうは、先刻薪が倒した三郎よりも肉体的には弱いとアリスは言っていた。今の薪は彼らの姿が見えるらしいし、だったら倒すことは難しくないだろう。薪は見かけによらず、とても強いのだ。
『ふふ、妹を侮るなよ』
 対峙した兄妖怪の口から不気味な笑いが漏れて、青木は焦る。さては、こちらの妖怪にも心を読む能力があったのか。
『勘違いするな、おれには妹のような能力はない。だが、おまえは考えていることが顔に出やすい。わかりやすいやつだ』
 ……妖怪にわかりやすいって言われた……。

 黒い剛毛に覆われた手で、妹を害しようとしている薪を指差して、妖怪はふてぶてしく顎をしゃくる。
『あの男の心には、見たこともないくらい大きな穴がある、と妹は言っとった。そこを衝けば、非力な自分でも簡単にあの男を倒せると』
「あ……」
 妖怪の言葉を聞いて、敵が薪に対して取るであろう戦法を予想して、青木は我知らず呻く。

 心を読む妖怪に対して、あまりにも薪の傷は大きい。
 もし鈴木のことを読まれて、彼の姿をとったら。薪は何の抵抗もできず、彼にされるがままになるに違いない。

「薪さん、気をつけて! 鈴木さんのこと、考えちゃ駄目ですよ!!」
 駄目だと叫びながら、青木はその忠告が無駄であることを知っていた。
 薪は鈴木を忘れたことなどない。薪の心の中心に、永遠に、鮮明に生き続ける彼の姿。隠すことなど不可能だ。
「薪さん!!」
 そう分かってなお、青木は叫ばずにはいられない。彼の傷を知る青木には、それがどれだけの強さでもって彼を傷つけるのか、どれだけ暴力的に彼をあの日に引き戻すのか、ありありと想像できるからだ。

「アリスちゃん、まずい! 薪さんは昔、とってもつらい経験をしてるんだ! 敵の幻術に惑わされる可能性が高い!」
 兄妖怪と再び剣を交えながら、青木は頼みの綱のアリスに呼びかけた。アリスは薪に注意を促すため彼に駆け寄ろうとしたが、何か眼に見えない壁のようなものに行く手を阻まれてしまった。
「しまった、結界を張られたわ! 外からは、薪さんに触れられない」
「えっ。じゃあどうすればいいの」
「薪さんが自分で、何とかするしかない」
「それができるくらいなら、心配なんかしな、―-っ!」
 目前に迫ってきた拳をよけきれず、青木は思わず眼をつむった。が、襲ってくるはずの痛みはなく、不審に眼を開けると、兄妖怪の寸止めされた拳が見えた。

『そっちが気になって仕方ないようだな。一時休戦と行こう』
「えっ」
 なんて話の分かる妖怪だろう。というか、こいつは本当に悪い妖怪なのか? 人を食べるような悪鬼が、こんなことを言うだろうか。
 青木が驚いていると、兄妖怪はその場に腰を下ろした。どうやら、妹と薪の戦いぶりを観戦するつもりらしい。

『おれたちは、生きるために最低限の食物を食べているだけだ。無益な殺生はせん。だから、あそこにいた人間の中から、3人で食べるために一番大きなおまえを選んだ。あの者を連れてくるつもりはなかった』
 生きるために食べる、それは青木も日常的に行っていることだ。自分の生命を維持するために、鳥や豚を食べている。それと同じに、彼らも人間を食べていると言いたいのか。

「で、でもそれは」
『そら、妹の反撃が始まるぞ。やつが愛しく思うものの姿に、妹は変化する』
 反論しようとした青木の言葉は、長兄によって遮られた。
 理屈は通っても、とても納得はできない彼らの主張を、青木はひとまず横に置いて、見えない壁の向こうにいる薪を見つめる。
 薪の手によって地面に押さえつけられていた妹妖怪の姿がぶれて歪み、次の瞬間そこにいたのは。

「「『なんでそこで深田○子!?』」」

 しかも水着姿だよ! なにを考えてんだ、このひと! てか、どんだけ好きなんだよ、深田○子!!
 
 薪は彼女をやさしく助け起こして、男子高校生のように頬を紅潮させ、
「すいません、サインを。あ、あと、握手も……で、できたらその、ちょっとだけ胸にタッチなんか」
 男の子全開だよ!! なんて目の前の誘惑に弱い人なんだ!!(でも猫耳)

「なにやってんですか、薪さんっ!この非常時に!!」
「うるさいな、こんな機会、一生に1度あるかないかだぞ。男として逃せん」
 そのせいであなたの一生、ここで終わっちゃいそうですけどねっ!!

「ひどいですよ! そこで思い浮かべるならオレのことでしょ、普通!」
「僕はおまえみたいなヘンタイじゃない。野郎の水着姿なんか、見たくもない」
 オレだって男の水着姿なんか、あ、でも薪さんの水着姿は健康的だけど角度によってはお色気たっぷりで、特に後ろから見上げるようなアングルだと、かわいいお尻がズッギュンバッキュン、て、そうじゃなくて!

「あんまりですよ! オレは薪さんのことしか考えてないのにっ!!」
 妹妖怪が変化した姿がその男の最も愛しい相手だと、青木は自分の経験から知っている。ということは、青木への薪の愛情の強さは、このアイドルよりも下ということで。
 どうしようもない虚脱感に囚われて、ある意味兄妖怪にボディブローを決められたときよりも深いダメージを負って、青木はその場に崩れ落ちた。膝を抱えて、落ち込みのポーズで顔を隠す。これが泣かずにいられるか。
 ぽん、と肩に置かれた手があった。アリスかと思って顔を上げると、ついさっきまで拳を交えていた敵が気の毒そうに、
『……まあ、元気出せよ』
 妖怪に慰められたよっ!! どんだけ不幸なんだよ、オレの恋愛模様っ!

「薪さんっ、それは妖怪ですよ! 正気に戻ってください!!」
「僕は正気だ。最上の選択をしている。……すみません、次はぜひ女豹のポーズを」
 女豹のポーズのどの辺が最上の選択!? てか、どんなポーズか知ってんのかよ、妖怪! あ、そうか、薪の心を読んでるのか。
 彼女は四つん這いになり、豊かなバストを強調するように両腕で脇から盛り上げて見せた。すっかりご満悦の薪は、にこやかに笑いながら彼女の背後に回る。
 まさか後ろから乗っかっちゃう気じゃ、と青木が青くなった瞬間、薪はポケットから紐のようなものを出して、彼女の足を素早く縛った。続いて両手も縛り、彼女の自由を完全に奪うと、自分のハンカチで目隠しまで。

「あれっ。薪さんたらいつの間にそんなプレイに興味を」
「アホか。眼を封じただけだ。眼が見えなければ、心も読めないだろう」
 彼女を床に転がしたまま、薪はその場を離れた。先刻、アリスが弾かれた見えない壁を難なく突き抜けてくる。妹妖怪は身体の自由を奪われて、結界を張ることもできなくなったようだ。

「僕は紳士だからな。例え妖怪でも、女の子に無体な真似はできない」
「超絶ビニキで現れた時点で、紳士失格ですけどね」
 心理戦と呼ぶにはあまりにも下らない彼らの戦いの決着がついて、青木はやっと薪の戦法を理解する。
 薪は妹妖怪の特殊能力を知っていた。だから、意識的に彼女のことを考えたのだ。どうして彼女なのかといえば、それはおそらく、相手が誰の姿を取れば一番双方に被害が少なくなるか、薪はそれを考慮したのだ。
 鈴木や雪子の姿で向かってこられたら、薪は多分身動きができない。第九の職員たちにも、乱暴な真似はできない。かといって、薪が嫌っている竹内や間宮の姿を読み取らせれば、今度は必要以上に相手を痛めつけることになってしまうだろう。薪はたぶん、それも避けたかったのだ。

「しかもTバックで女豹のポーズって。いやらしい」
「失敬な。僕にはいやらしい気持ちなんか、これっぽっちも」
「と言いつつ、携帯で写真撮ってますよね? タイトル『陵辱、深田○子』って、ひとの携帯に汚らわしいもの送らないでくれますか?」
「おまえだって受信ボタン押したくせに」(圏外なので赤外線通信)

 携帯を使って掛け合い漫才をやっていると、アリスが興味深そうにそれを見ていて、
「へえ。今はこんなもので写真を撮るの?」
「え? アリスちゃん、携帯知らないの?」
 10歳くらいで攫われてきたと言っていたから、自分の携帯を持っていなくても不思議ではないが、携帯自体を知らないというのは珍しい。親が携帯嫌いの親だったのだろうか。
「これは携帯電話って言ってね、遠くにいても、これで会話ができるんだよ。他にも、メールって言って」
『おいっ!』
 呑気に携帯の機能を説明し始めた薪に、気色ばんだ声を掛けたのは妖怪の兄だった。

『よくも妹を辱めてくれたな。このお礼はきっちりさせてもらう』
 うん、彼の気持ちはすごくよくわかる。オレも舞がこんな目に遭ったら、同じことを言うと思う。
「薪さん、そこだけは謝っておいたほうがいいですよ。人として」
「ちょっと待て。妖怪の味方するのか、おまえ」
「そうね。わたしも女性として、薪さんの行動には許せないところがあると」
「アリスちゃんまで?! ……すみませんでした、調子に乗りすぎました」
 3対1になって、薪は仕方なく頭を下げた。青木ひとりだったら決して謝らなかったと思うが、薪は女性には弱い。

 ごめんなさい、と素直に謝る薪は、白い猫耳が彼の心情を表すようにぺたんと垂れて、もう殺人的にかわいい。2人きりだったらソッコー押し倒してる。
 薪にとってはある意味妖怪よりも危険な自分の中のケダモノが牙を剥きそうになって、青木は慌てる。青木は薪から眼を逸らし、ここから無事に帰ったら薪さんに頼んで、絶対に猫耳プレイをしてもらうから、と約束して、必死にケダモノを宥めすかした。




*****


 コンセプトは『秘密で銀魂のグダグダアクション』
 薪さんファンにも銀魂ファンにも石を投げられそうな内容ですみませんーーー! (一番の怒りは深田○子ファンでは?)





テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

秘密の森のアリス(9)

秘密の森のアリス(9)





 携帯をポケットにしまって、薪はくるりと踵を返した。それから残念なことに猫耳を外し、それをアリスに渡した。これはどうやら彼女の持ち物だったらしい。
「外しちゃうんですか?」
「もうこれが無くても、僕には彼らの姿が見える。彼らが存在していると、しっかり認識できたからな」
「ええ~、せっかく似合ってたのに。もったいない」
「妖怪の前に、おまえを退治してやろうか」
 いつものように青木と軽くジャレ合った後、薪は長兄に向き直った。腕を組んで横柄に、床に安座している兄を見下ろす。

「さて。残るはおまえひとりだな。降参するなら今のうちだぞ」
『だれが降参などするものか』
 うそぶいて立ち上がり、兄妖怪はさっと身構えた。
「僕と青木、ふたりを相手に戦うつもりか? 妹の助けもなしに?」
『こちらも死活問題だからな。四の五言わんと掛かってこい』
「男が相手なら容赦しないぞ。例え恭子ちゃんのお兄さんと言えども」
 まだ惑わされてんですか、あんたは。

「あ、薪さん。こいつ、ものすごく固い身体をしてるから気をつけて」
 青木の注意が終わらぬうちに、薪は短慮にも攻撃に移った。ぐっと足を踏み切って、得意の回し蹴りを相手の頭部に決めるが、次の瞬間、悲鳴を上げたのは薪のほうだった。

「痛―――っったいっ!!!」
 よっぽど痛かったらしく、右足を持ってぴょんぴょんと跳ねている。
「だから言ったじゃないですか。何か武器を使わないと無理ですよ。せやっ!!」
 掛け声と共に振り下ろされた木刀を、妖怪の右手が受け止める。しかし、それは囮で本命は鳩尾を狙った蹴りだ。ところが、それもまた左手で弾き飛ばされて、青木は後ろに退いた。更に妖怪は、後ろから殴りかかった薪の拳を軽くかわして彼の腕を掴み、前方へ投げ飛ばした。

「あぶなっ」
 逆さまになって吹っ飛んできた薪の身体を受け止めて、青木は彼を立たせる。青木の首に右腕を回したまま、薪は青木の耳元で小さく囁いた。
「おかしい。あいつ、僕たちの動きが分かるみたいだ」
「えっ。妹にはオレたちが見えないはずなのに、どうして」
『ふん、浅はかなやつらだ。眼を塞いだくらいで、妹の能力は防げぬわ』

 聞かれたはずのない会話に返答が返ってきて、ふたりは状況を理解する。目で見なくとも心は読める、テレパシーも使える、そういうことらしい。
「そうか。猿ぐつわも噛ませるべきだったな」
「いや、猿ぐつわも意味がないと思いますけど」
 この人は超能力の基本が分かってない。
「でもそうすると完全にR15を超えちゃうから、今回の路線を外れちゃうし」
 そして薪の考え方の基本が、青木には分からない。

『降参するのはおまえらのほうだ。おまえ達の動きは分かる。しかも、この固い身体は刃も通さぬ。おまえ達に勝ち目はない』
 兄妖怪の言う事がハッタリでないことは、彼の身体に何度か切り込んだ青木にはよく分かっていた。木刀が折れることこそなかったが、その強度は尋常ではなかった。おそらく、真剣でも切れないだろう。
『先刻も言った通り、おれは無益な殺生は好まん。大きな男よ、おまえが大人しく我らの胃袋に納まるなら、その2人は見逃してやろう』
 それは魅力的な取引に思えたが、薪がものすごい眼で青木を睨むので、青木は思ったことが言えなかった。しかし、兄妖怪の言は正しい。戦況は自分たちに限りなく不利だ。

「笑えるな。それくらいのことで勝利宣言とは」
 弱気になる青木に引き換え、薪はどこまでも強気だった。兄妖怪の申し出をせせら笑う口調で却下すると、懐から拳銃を取り出し、右手でさっと構えた。
「人間にはピストルという武器があるんだ。鉄の弾が378m/sで飛び出しておまえの身体に627J/cm2の圧力で食い込む。おまえの身体がどんなに固くとも、音速の鉄球を防げると思うか」
『ふん、面白い。試してみるか』
 薪は相手を睨みすえたまま、青木に銃を放って寄越した。左手で器用に受け止めた青木の耳に、薪の低い声が響く。

「青木。おまえ、射撃3段だったよな。あいつの右の膝、狙えるか」
 どれほど傲慢に振舞っても、やっぱり薪はやさしい。膝を撃ち抜いて追ってこれなくすればいい、そう考えているのだろう。
「はい」
 青木の銃は357マグナム。貫通力には定評があるが、薪が普段使用している32口径に比べると、かなり重いし反動も大きい。薪がこの銃を使って、小さな的に当てるのは難しいはずだ。青木に銃を返した薪の判断は正しい。

「右足の膝を撃つ。防げるものなら防いでみろ」
 薪が大きな声で宣言したのを聞いて、青木は木刀を下に置き、銃を構えた。右手でグリップを握り、左手をハンドガードの真下に置く。脇を締めて腕を伸ばし、照準器を睨んで引き金を引く。
 狙いは過たず、標的の右膝に命中した。が、瞬時に跳ね飛ばされ、兆弾した弾が土の壁にめり込んだ。
「そんな……銃が効かないなんて」

 これでは倒しようがない、やはりここは自分が犠牲になるしか、と絶望の中でさらに絶望するようなことを考えて、青木は青ざめる。薪を守るのは自分の職務でもある、彼のためなら自分の命など惜しくない、青木はそう覚悟を決めている。彼に刃が突き出されれば自分が彼の盾となり、銃弾が彼を貫こうとすれば自分がそれを受ける。常日頃から青木の中にあるその気持ちは嘘ではない。
 だが。
 妖怪に食べられるというシチュは考えてなかったからっ! てか、こんなマニアックな死に方、いやっ!!

「なるほどな。やっぱりそうか」
 ぐらぐらと足元もおぼつかない青木の傍らで、薪は憎らしいぐらい落ち着いていた。
 やっぱり、と言うからには、薪は妖怪に銃が効かないことを予想していたのか。しかし、それで平静でいられる薪の神経が分からない。
「落ち着いてる場合じゃないですよ。銃が効かないなら、もうオレが人身御供に行くしか」
「バカを言うな。部下を人身御供になんかできるか」
 薪は高慢な口調でそれを言うと、乱れた髪に手櫛を入れ、きれいな額を顕にした。自分に気合を入れるとき、薪はよくこのポーズを取る。
 そのきりりとした横顔の、清冽に輝く亜麻色の瞳を見ていると、気持ちがすっと落ち着くから不思議だ。

「青木、あいつの身体は初めから堅いわけじゃない。ずっとあの硬度を保っているとしたら、間接が曲がらないはずだ。どこに攻撃が来るか察知して、そこを意識的に堅くしてるんだ。その証拠に、さっきのおまえの突きは効いただろう?」
 そうだ。薪の猫耳に興奮して思わず発した突きは見事に決まって、兄妖怪の身体は壁まで吹っ飛んだ。これはいけると思ったのだが、その後は相手の防御力が上がって、逆にこちらの手が痺れるようになった。
「攻撃が予測できなければ、身体を硬化させることもできない。つまり」

 封じるべきは妹の方だ。

 青木がそう思ったときには、薪はもう動いていた。青木の手から拳銃を奪い取ると、ひらりと後方へ飛び退って、
「おい、妖怪。こっちを見ろ!」
 薪は声を張り上げ、兄妖怪の注意を引きつけた。彼の視線を受けつつ、地面に這い蹲らせた妹妖怪の背中を手で押さえ、彼女の頭部に拳銃を突きつける。
「大人しくしろ。でないと妹の頭を打ち抜くぞ!」
 …………さすが薪さん。目的のためには手段を選ばない。

『兄さん、助けて!』
『おのれ、妹を人質にとるとは、卑劣な真似を。正々堂々と戦ったらどうなんだ!』
 妖怪にフェア精神を説かれる警察官て、どうなんだろう。
「僕の言うことを聞け! 妹がどうなってもいいのか!」
『ううっ、やめてくれ。妹に無体なことをしないでくれ』
 妖怪が哀れっぽく頼むのに、薪は手を緩めなかった。すでに彼の戦意は感じられないのに、妹に銃を突きつけたまま、恐ろしい眼で兄妖怪を睨んでいる。

『兄さん、このままじゃ2人とも殺される! アタシのことは気にしないで、兄さんだけでも逃げて!』
『おまえを置いていくなんてできない! たったひとりの妹じゃないか!』
「……なんかこれ、見方によっては僕が悪者みたいじゃ」
「「『『どこからどう見てもあんたが悪者』』」」
「ちょっと待て! 今、4人でハモった!?」

 薪のツッコミをスルーして、青木は好機とばかりに兄妖怪の身体を拘束する。腕を捻りあげて地面に伏せさせ、容赦なく片膝で押さえ込んだ。
「青木さん、これでそいつを縛って」
 小走りに青木に駆け寄ったアリスが、エプロンのポケットから黒い紐のようなものを出した。先刻、調理場から彼女が持ってきたものだ。
「連中の髪の毛で編んだ紐よ。長兄の力でも、簡単には切れないわ」

 青木は少女の指示通り彼を後ろ手に縛り上げ、地面に転がした。当座の危険が去ったせいか、どっと疲れを感じた。
「ごくろうさま。この薬を塗っておくといいわ」
 アリスがポケットから軟膏を取り出して、青木に渡してくれた。続いて濡れティッシュとタオル地のハンカチを出して、青木の額についた血を拭き取ってくれる。色々なものが出てくるポケットだ、と青木は妙なことに感心していた。




テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

秘密の森のアリス(10)

秘密の森のアリス(10)





 4人の非難を受けて分が悪くなった薪は、女妖怪の身体を起こし、目隠しを取ってやった。が、人質を解放する気はないらしく、彼女の傍に片膝を付いた体勢のまま、銃の先が彼女から離れることはなかった。

「心を覗かれるのは不愉快だ。もう1度やったら容赦なく撃つからな」
 女妖怪は大人しくしていたが、ふと気付いたように「三郎は?」と訊いた。彼女の問いに、薪は手足を縛って転がしてある彼のことを思い出したが、
「死んだよ。僕が殺した」
『! なんてことを』
『よくも弟を!』
 肉親を害されて憤慨する彼らを、薪は冷笑する。
 その酷薄な笑みに勢いを削がれたように、彼らの憤慨は一時で収まり、慟哭がそれに取って代わった。妖怪にも肉親の死を悼む情はあると見える。しかし、彼らの嘆くさまを睥睨する亜麻色の瞳は、氷のように冷たかった。

「君たちが食べてきた人間にだって、親や兄弟がいるんだ。自分のしたことが自分に返って来たからって、憤るのは間違ってる」
 薪の言うことは正論だが、その理屈は通らないだろうと青木は思った。
 彼らが食料である人間に逆襲を受けて、それは自分の立場に置き換えてみれば、肉親が牛や豚に殺されて、しかし彼らの同胞を食べてきたのだから憤るのはおかしいと、そう言われているようなものだ。納得できるわけがない。

「三郎が話してくれた。君たちは、人間を食べなくても天寿を全うできるんだろう。もう充分生きたはずだ。これから先は人間を襲わずに、森の中で暮らす。そう約束できるなら、僕たちはこのまま帰る。どうだ?」
「薪さん!?」
 薪には彼らの命を奪う気はないのだと分かって、青木は不安になる。
 彼らを見逃していいはずがない。自分たちはこれで逃げ延びられるかもしれないが、彼らはきっとまた、人間を襲う。それは彼らの生存本能に基づく行為で、だから彼らには罪の意識もなく、その衝動を断つことは不可能に近い。
 青木は薪の傍らに屈み、彼の意見を覆そうと、強くかぶりを振った。

「彼らに人間の理屈が通るとは、到底思えません。ここで片をつけるべきです」
「青木。僕たちは警官だ。犯罪者を捕まえるまでが僕たちの仕事だ」
「ちょっと待ってください。彼らは人間ではありませんし、ここに罪を裁く司法は存在しません。オレたちがここで彼らを見逃すってことは、彼らを野放しにするってことですよ? また直ぐに、次の犠牲者が出ます」
 薪の気持ちは分からないでもない。青木だって、好き好んで他者の命を葬りたくはない。しかしこの場合、それを為さないことは正義ではない。ただの怯懦だ。

「オレたち以外の誰かが襲われるんですよ。見過ごせません。薪さんがやらないならオレがやります。銃を貸してください」
「青木。僕たちは捕まえるだけだ。生殺与奪の権利はない」
 同じ言葉を繰り返す薪に、青木は説得を諦める。薪は頑固だ。こうやって自分の意見に固執しだしたら、何を言っても意志を変えない。
「もう1度言います。銃を貸してください」
「僕たちは警察官だ! これから犯罪を犯すかも知れないからといって、その者を殺害することは職務に反する!」
「だからそれは人間の場合でしょう!? 彼らは人間じゃ」
 薪は青木の口を左手で塞ぎ、ヒートアップする論争に休符を挟んだ。男とは思えないやさしい手の感触に青木が言葉を止めると、薪は静かに言った。

「人間じゃなくても、彼らには感情がある」
 弟を殺されたと聞いて憤る彼らを冷酷に嘲笑ったはずの薪は、自身の振る舞いとはまるで反対のことを言い出した。
「弟が死んだと聞かされて、彼らは悲しんだじゃないか。改心する可能性もある」
 改心?
 それは人間の心を持っているものにだけ可能な未来だ。彼らにその時が訪れるとは、青木には思えない。
 冷静な薪らしくもない、彼は時に非情な判断をしてきたはずだ。それがここに来て、どうしてこんな状況に合わない真似を―――――。

『殺すがいい』
 自分たちのやり取りを黙って聞いていた長兄は、重々しく口を開いた。
『小さい男の言うことは正しい。そして、大きな男の予想も間違っていない。おれたちはこれからもひとを食うだろう』
 長兄らしい、正直な言葉だと思った。
 彼が妖怪らしからぬフェア精神の持ち主であることや、他者に対する思いやりを持っていることを、青木は戦いを通して知っていた。彼が青木に手加減をしていたことも分かっていた。ピストルの弾を弾くような硬い拳が本気で入っていたら、肋骨の4,5本、軽くイッてるはずだ。

「その呼び方やめろ。僕には薪って名前がある。こっちは青木」
『では、小さいマキ』
「小さいはいらん!! てか、わざと言ってるだろ、おまえ!」
 薪は青木の口から手を離すと、屈んだ両膝の上に細い肘を乗せ、頬杖を付いてうんざりしたように長兄を見た。

「だから。これから先、おまえらが人を襲わないと約束すれば、殺さないって」
『それは無理だ』
「なぜ」
『では聞くが、マキは死ぬのが怖くないのか』
 至極当たり前のことを訊かれて、薪は黙る。長兄は、見た目に相応しくない理性的な声音で言葉を継いだ。
『おれたちは死ぬのが恐ろしい。だから人間を食った』
 生きるために他生物を食べる、それが悪なのかと問われれば、自分たちにも同じ質問が返ってくる。この血肉に変わった命を偲べば、簡単に答えを出すことも躊躇われて、青木は自分の考えに自信が持てなくなった。
 彼らの意識では、人を食べることは罪ではない。それは彼らが人ではないから。だったら、彼らを人の法で裁くのは正当か?

「誰だって死ぬのは怖い」
 当たり前の問いに当たり前の答えを返して、薪は長兄と相対した。亜麻色の瞳が、真っ直ぐに彼を見ている。
「でも、僕たちは永遠に生きていたいとは思わない。天寿をまっとうできれば、それで充分だ」
 彼は拳銃を下ろし、しかしそれを青木に返そうとはせず、自分の内ポケットにしまった。左胸に手を差し込んだまま、自分の動悸を確かめるように、
「ずっと昔に死んでしまったという君たちの仲間は、人を食べなかったと聞いた。ならば君たちも、彼らと同じ終焉を迎えられるはずだ」
『連中は弱虫だ。人間を食べる勇気がなかっただけだ』
「ちがう! 君たちの仲間は、人間を食べないことを選択して死んでいったんだ!」
 激しい言葉と共に、さっと懐から出した右手に、彼は何も持たなかった。彼の手のひらは開かれており、青木はそこに何物をも認めることができなかった。

「限られた時間しか持たないからこそ、得られるものも気付けるものもある。できるだけ多くの思いを他の生き物と交わそうとする、伝え合いたいと思う。そうして自分以外の誰かと一緒に作り出したものは、限りなく尊いと僕は思う。
 君らの仲間達は、神さまに与えられただけの時間を使いきって死んだ。でもそのとき、彼らはたくさんの尊いものを持って、ここから旅立ったはずだ」
 見落としていた、と青木は思った。
 何も持たないと思っていた薪は、多くのものを持っていた。その手のひらには、溢れんばかりの彼の想いが載っていた。それは彼らに対する思いやりであり、彼らによって葬られた人々に対する憐情であり、それでも彼らを赦したいと願う彼のこころだった。

「悠久の生命を得た代わりに、君たちは大事なものをみんな失った。命が潰えるときに、何も持っていくものがない。だから怖くて死ねないんだ」
 彼らに、大昔の記憶がどれほど残っていたのかは不明だ。しかし彼らは、黙って薪の話を聞いていた。
 青木にも経験があるが、薪の説教は不思議と耳に心地よい。言葉は決して優しいものではないのだが、何故か暖かいものを感じる。彼らにも、それが伝わっているのだろうか。

 しばらくの間をおいて、長兄が悲しそうに言った。
『そんなもの、おれたちにはもう作りようがない』
「なにを寝ぼけたこと言ってんだ。3人で作ればいいじゃないか。兄弟なんだろ、おまえたち」
 吐き捨てる口調で言ったその言葉も、熱い眼差しがそれを裏切る。懸命にエールを送る、声にならない彼の想いが洞窟内に木霊する。

「僕は1人っ子だったからな。ちょっと羨ましいぞ」



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

秘密の森のアリス(11)

秘密の森のアリス(11)





「僕は1人っ子だったからな。ちょっと羨ましいぞ」

 薪はついと横を向き、彼らから視線を外した。本音を吐くのは照れるらしい。
『……3人?』
 聞きとがめて、兄妹は薪の顔を見る。薪はそっぽを向いたまま、右の頬を指先で引っかいて、
「三郎を殺したと言ったのはウソだ。まあ、頭にでかいコブはできてるかもしれないが」
 膝に手を当てて、よっこらしょ、とオヤジみたいに立ち上がる。それから両手を後腰に当てて、ウン、と伸びをした。

『本当か』
『ああ、三郎……』
「寝室近くの横道に転がしてある。いま、連れてきてやる」
 安堵のため息をついた2人の妖怪は、じっとうなだれたままだった。その姿は薪の言葉に深く感じ入り、自省しているようにも見えたが、青木には彼らがこれで人を襲うことを止めるとは思えなかった。
 これが人間の社会なら、彼らはこれから刑務所に行き、長い年月を監視下に置かれて過ごすことになる。法が定めた服役期間があってこそ、深い自省ができるのだと青木は思っている。しかし、彼らは人間ではないし、服役期間もない。

「本当に、大丈夫なんですか? オレにはどうしても、完全に彼らを信じることは」
「大丈夫だよね? アリスちゃん」
 ふいに、薪は少女に呼びかけた。
 なぜ彼女に保証を求めるのか、薪の言動は青木には理解できなかったが、彼女には、それですべてが伝わったようだった。

「いつごろから気付いていたの?」

 アリスは青木が初めて聞くような、低い声で呟いた。ぎゅっと拳を握り締めて立ち尽くす彼女からは、さっきまで彼女の個性だと思っていた子供らしい甘さは消え失せて、青木はぞっと背筋が寒くなるのを感じた。
「途中から何となく。決め手はきみが、『アリス』と名乗ったことかな。あれ、僕たちの心を読んでたんだろ? 本当の名前はなんていうの?」
「わたしたちに名前なんてないわ」
 アリスが自分たちの心を読んだ?
 彼女にも妹妖怪と同じ特殊能力が? それではまるで彼女は。

「青木。彼女は、アリスは彼らの仲間だ」
「えっ!! じゃあ、彼女も人を食べて生きてきたんですか!?」
「失礼ね、こいつらと一緒にしないでよ!」
 猫耳をピンと立たせて、アリスは怒った。尻尾があったら間違いなく逆立っていそうだ。
「同種族には変わりないけどね。人を食べるなんて野蛮な真似はしなかったわ。わたしたちには誇りがあったもの」
「うん。だと思った。きみの姿は、彼らとは違っていたからね。それはきみの真の姿なんだろう?」
「正解だけど。自分の心を読まれて、その姿をとっているとは思わなかったの?」
「悪いけど僕、胸の小さい女には興味ないから」
「……セクハラよ、それ」
 むっとした顔をしながらも、彼女の耳は穏やかに垂れて。どうやら彼女の本心を見抜くには、耳を見た方が早いらしい。

「人間を食べるたびに彼らが醜くなっていった、ときみは言ったよね。彼らをこれ以上、醜くしたくない、とも。だからきみは、彼らを救いたくてここに来たんだと思った。違うかい?」
 薪の問いかけを横顔で聞いて、アリスは背中で腕を組み、侮辱を受けた胸をぐっと強調するように反らせて、
「何でもお見通しかあ。薪さんは、人間よりもわたしたちに近いのかもね」と、聞きようによっては失礼なことをのたまった。

「アリスちゃん。きみは」
「わたしは300年前に滅びた一族の思念体。その代表として、ここに来たの」
「代表? きみが?」
 彼女はまだ年端も行かない子供で、強そうでもないし、偉い役職に就いているようにも見えない。そんな彼女が、どうしてこんな重責を負うことになったのだろう。
「だってー、今の時代のBLはスゴイって聞いたから。一度現物を拝んでみたかったんだもん」
 そんな理由か――――――っっ!!
「恐ろしい……300年も前から腐女子は存在していたのか」
 薪はツッコミ処を間違えている。

「こんなんなっても仲間だからねえ。仲間の尻拭いはわたしの仕事ってことで」
 アリスの告白に、青木は薪の横顔をじっと見る。
 いつだって、すべてのからくりを見抜くのは薪だ。薪は天才的な頭脳を持っていて、一度見たり聞いたりしたことは忘れないから知識量もすごくて、でもそれだけじゃない。
 他人の話をよく聞いて、そのひとの感情に寄り添おうと、いつも努力しているから。ひとを理解して、そのつながりを大事にしていきたいと、いつも願っているから。だから、普段の知識がまったく役に立たないこんな状況でも、真実を見抜くことができるのだ。
 真実は、人の心の中にあるから。

「あとは、わたしに任せて」
 アリスはポケットから首輪のようなものを出すと、それを妖怪たちの首にはめた。それからカラフルなステッキをエプロンのポケットから取り出すと、
「いい? これから人を襲ったりしたら、その首輪がボンと行くからね? わたしがずっと監視してるから、そのつもりでいるように」
 外道!! つまるところ脅迫だよ!!

 妖怪たちは複雑な顔をしていたが、自分たちで決めたこともあるようで、不満を漏らすようなことはしなかった。この先、彼らの心情が変わらないとは限らないが、今のところは仲間の意思とやらに従うつもりでいるようだ。
「秘密兵器って、こういうことだったのか」
「仕方ないわよ。生きるために食べるっていう本能を抑え込むんだもん。そんなに簡単にはいかないわ。今までのこともあるしね」
 殺伐とした方法しか取れない自分を恥ずかしがるように、アリスは照れ笑いをした。

「わたしが最後まで、責任を持って監視します」
 きりりと強く引き絞られた彼女の茶色い瞳の潔さに、青木は何故彼女が仲間たちの代表になったのか、その本当のわけを知る。
 彼女は決して強くないし大人でもない、そんな彼女が仲間たちの代表になったのは、誰よりも彼らのことを憂いていたから。彼らを最後まで見守る決意を、彼女がしていたから。

 アリスに頼まれて、青木は薪と一緒に三郎のことを捜しに行った。
 途中、薪は銃を青木に返してよこした。青木はそれを黙って受け取り、安全装置を掛け直してガンホルダーに落とし込んだ。馴染んだはずの銃が、なんだかやけに重かった。
 三郎は、薪が隠した場所ですやすやと眠っていた。頭にコブはできていたが、他に傷はないようだった。
 青木が彼を肩に担いで先刻の場所に戻ると、すでに手足の拘束を解かれていた兄妹が寄ってきて、三郎の身体を抱きしめた。アリスは容赦なく三郎の首にも拘束具を取り付けたが、その手つきはとても優しかった。

「さて。僕たちは帰るか」
 三郎の足を縛ったことで汚れてしまったネクタイをポケットに入れて、薪は青木を見上げた。ここは森の奥深くらしいから、帰るのも一苦労だと思われたが、薪についていけば安心のような気がした。
「あ、待って。出口はこっち」
 アリスがステッキで地面を叩くと、そこは真っ黒な深淵になった。青木が下を覗くと、遥か下方に、自分たちが乗っていたバスが見えた。ガードレールに接する形で止まっているが、横倒しになったりはしていない。更に眼を凝らすと、中の様子が見えた。第九の仲間も運転手も、気絶しているのか眠っているのか、動く気配はない。

「さ、早く行って」
「行ってって……アリスちゃん、これ、命綱とかハシゴとか、そういう安全面をサポートするものは」
「これくらいの高さでビビッてんの? 男らしくないわね」
「いや、男らしいとか男らしくないとかのレベルじゃないからね、これ。君たちの常識で測らないでくれる? 人間が落ちたらカクジツに死ぬからね」
 目測50m、いや、100m?眼では測れないその距離感を不安に思うのは当然だが、加えて薪には高所恐怖症の気がある。それは後天的なもので、その原因は数年前、火災に巻き込まれて仕方なくマンションの5階から飛び降りたという滅多にできない恐怖体験のせいかもしれない。

「やーね、大丈夫よ。ぽーんと飛べば、あっという間に元の世界に」
「あっという間に天国の間違いじゃ!?」
「ごちゃごちゃうるさい。行きなさい、ほらっ」
「わっ、とっとっ、……ひいいいいいっ!!!」
 ぽんっ、と少女に突き飛ばされて、でもその力はびっくりするほど強くて、薪は何もない空間に投げ出される。自然の重力が働いて、彼の身体は真っ逆さまに下方へ落ちていった。

『怖いわねー、あの子』
『おれにはとてもあんな非情な真似はできん』
『逆らわねえほうが身のためだべ』
 妖怪に畏怖された少女は、ちらっと青木を見て、何ならあなたも突き飛ばしてあげましょうか、と眼で訊いた。それには及びません、とこちらも眼で返して、青木は飛び込み台から下方の水面を目指すスイマーのように地を蹴った。

「し、死ぬっ!! 絶対死ぬ! 恩を仇で返しやがって、あのクソガキ―――――っっ!!!」
 眼を白黒させながら、口汚く少女を罵る恋人を空中で捕まえて、青木は彼の身体を腕の中に大事にしまう。
「大丈夫です。オレが守りますから」
「……ぅるっさい」
 ぎゅっと自分の背中を抱きしめる細い腕を感じて、青木は眼を閉じる。
 ほらやっぱり。薪がいればぜんぜん怖くない。
「そのときは一緒だ」
 思いつめたような薪の声が聞こえて、青木は彼を抱く腕の力を強くする。そのまま気が遠くなりかけた彼らの耳に、少女の声が聞こえてきた。

「薪さん、青木さん!」
 薄れゆく意識の中、彼らはかすかに眼を開く。遥か上空を見上げると、茶色い猫耳がピンとそそり立った少女のシルエットが浮かび上がった。
「素敵な名前をありがとう!!」




*****

 と言うことで、
 あやさん、ピタリ賞でした!!<少女の正体。
 お見事っ!!
 てか、底が浅くてすみません。(^^;


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

秘密の森のアリス(12)

 こんにちは。

 明日はメロディの発売日ですね。
 ……緊張します。

 
 で、こちらの、チャレンジと呼ぶにはあまりにも無謀な、銀魂的秘密二次創作は今日でおしまいです。
 読んでくださった方に、ちょっとでも笑ってもらえたらよかったのですけど。(^^


 お付き合いいただいて、ありがとうございました。




秘密の森のアリス(12)





 自然の竹を利用した湯管から流れてくる細い水流が、湯面を揺らしている。その僅かな音さえも周囲の雪に吸い込まれていくような、静寂に包まれた雪見風呂で、凄絶な戦いが繰り広げられていた。
 その戦いは静かに、しかし限りなく熱く。時間と共に疲労は増し、気力体力の消耗、やがて耐え難い脱力感が容赦なく彼らを襲う。

「がああっ、もうダメだあっ!」
「無理っす、限界ですっ」
「俺もっ……うー、眼が回る」
「私も気持ち悪くなってきました……」
 次々と脱落していく戦士たち。その中で、ひとり平然と雪景色を眺めていた麗人が、涼やかなアルトの声で冷ややかに言った。
「まったく嘆かわしい連中だ。鍛え方がなっとらん」
「「「「1時間も温泉に浸かれる薪さんの方が異常なんですよっ!!」」」」

 温泉とくれば露天風呂、露天風呂とくれば時間勝負。いわば自分との戦いというか、つまりは我慢比べだ。これは第九の慰安旅行の恒例行事で、優勝者には敗者たちのカンパで地酒が進呈されることとなっている。
「あー、じゃあ今年も優勝は室長ってことで」
「毎年悪いな。あ、地酒はよーく冷やしておいてくれ」
「……ふあい」
 露天風呂の狭い床に屍累々とへたばっているのは、小池と曽我と宇野、それから山本の四人。男の風呂はカラスの行水がポリシーの岡部は最初から参加せず、賢明な今井は早々に引き上げた。あの2人はいつもうまく立ち回る、と4人は密かに思っている。
 例年ならもうひとり、顔を真っ赤にした大男がここに加わるところだが、残念ながら今年はその滑稽な姿は見られない。青木はここにくる途中に遭ったバスの事故で額を怪我しており、参戦することができなかったのだ。

 雪道をオーバーランしてきた対向車と薪たちが乗り合わせたバスがぶつかりそうになり、急ハンドルと急ブレーキによる衝撃で、運転手を含め全員が一瞬気を失った。皆が気付いたときには既に対向車の姿は無く、車体の損傷もなかったことからニアミスだったとわかった。
 薪を庇おうとした青木が、椅子に取り付けられた取っ手に頭をぶつけて軽い怪我をした以外、誰も身体の異常を訴えるものはいなかったが、念のために病院で検査を受けたいと運転手に相談をすると、ちょうどこのバスの終点はこの地域で唯一の総合病院の前だと言う。
 正直者の運転手が包み隠さずバス会社に事情を報告すると、日に2本しかないバスが逆に幸いして、終点である病院前の停留所に乗客がいなければ、運転手も一緒に検査を受けて来なさい、という指示が出た。バス会社の予想通り最後の停留所に客の姿は無く、無謀な対向車のためとはいえ事故を起こしてしまったことに責任を感じた運転手は会社に掛け合って、そのまま一行を旅館まで送ってくれることになった。

「いやー、ラッキーでしたね。この旅館、バス停からけっこう距離がありますからね。雪道だと30分じゃ着かなかったかも」
 青木の額に絆創膏が貼られた以外は何事もなく病院を出て、バスに揺られて30分。旅館の玄関に乗り合いバスを横付けしてくれた運転手に礼を言い、帰って行く車を見送りながら幹事の曽我が言うのに、バス停から歩く30分は片道3時間の中に入っていたのか、という今更ながらの疑問を抑えつつ、薪は岡部に背中を押されるようにして旅館の門を潜った。
 古きゆかしき温泉宿は日本情緒がたっぷりで、しかも雪見の露天風呂とくれば、風呂好きの薪にはこたえられない。自宅の風呂だって1時間くらいは平気で浸かっているのだ、周囲の温度がこれだけ低ければ2時間はいける。

「おまえら、何をやっとるんだ。他の客に迷惑だろう」
 カララと引き戸を開けて、露天風呂の惨状を目にした岡部が苦い声を出す。呆れ顔の副室長は、洗い場のない露天風呂の狭い床面を占有している4人の部下と、すまし顔の室長を見比べて、「また今年も薪さんの一人勝ちですか」と肩を竦めた。
「岡部さん、助けてください~」
「空がぐるぐる回って」
「立てないんですよぉ……」
 山本に到っては、口を利く気力もないらしい。

「ったく、手のかかる。おい、青木! 手伝ってくれ、ひとりじゃ運びきれん」
 はい、と室内風呂から声がして、黒髪の若い男が姿を現した。とても背が高く、身体もがっしりとした彼は、大丈夫ですか、と先輩たちに声を掛けて、右腕に宇野を、左腕に山本を抱えて中へ戻っていった。続いて岡部が小池と曽我を肩に担ぎつつ、
「薪さんは大丈夫ですか?」と気遣うのに、
「僕はもう少し、雪を見ていく」

 断熱ガラスで隔てられた外空間に独りになると、すぐ傍を流れる渓流の音がはっきりと聞こえてきた。
 背中を壁に預けると、真正面には目隠しの竹垣があるが、その上下の隙間から向かいの林が見える。林立する樹木の枝々に積もる雪の風情を楽しみたくて、だけどそれには竹垣が邪魔で、思うように明媚を堪能できない腹立ちから、別に覗かれたって減るもんじゃなし、こんなもの要らないのに、と薪は思う。
 薪は仕方なく湯から上がり、竹垣の隙間に顔を近づけて、渓流と林の雪景色を楽しむ。さすがに身体は火照っていたから、冷たい空気が心地よかった。

「薪さん。タオル忘れてます」
 正座に近い体勢で、僅かに浮かせた腰に背後からタオルを巻かれて、薪は後ろを振り返る。先刻2人の男を軽々と運び出した力持ちが、黒い髪を、今日は無造作に額に下して、困った顔で薪を見ていた。
「ったく、気をつけてくださいよ。お尻丸出しにして……・俺以外の男が来たら、絶対に後ろに乗っかられて」
「そんな発想するのはおまえだけだ」
 青木の心配性は、何年経っても変わらない。相変わらず、薪を狙っている男はたくさんいるのだと誤解している。薪は2ヶ月前、40になった。妙齢の女性ならともかく、40のオヤジの背中に何処の誰が乗りたがるというのか、いっぺん頭の中を覗かせろと言いたくなる。

「岡部は?」
「部屋に戻りました」
「相変わらず、カラスの行水だな」
「薪さんのは楊貴妃の湯浴みだって言ってましたよ」
 青木は笑いながら湯に入り、身体を伸ばしてため息を吐く。岩にもたせた腕の筋肉が、渓流の流れに負けないくらいきれいだ、と薪は思う。

 雪を抱いた林に視線を戻して薪は、後ろで湯に浸かっている男と体験した、不思議な出来事を思う。あれは夢だったのか、と実は真っ先に思って、だけど青木の身体中に残る打ち身痕がそれを強く否定する。
 青木本人は、事故のとき転んで打ったと言っていたが、薪が気がついたとき、青木は薪の身体を庇うように抱きしめていた。それで腹や胸を強打するのは不自然だ。

 カシャリ、という音がして、薪は後ろを振り返る。
 携帯電話のカメラを構え、被写体の許可もなく写真を撮っている軽犯罪法違反の部下に、薪は思い切り嫌そうな目線を送った。
「肖像権の侵害だぞ」
「すみません。薪さんの背中が、あんまりきれいだったから」
「……ばか」
 40にもなった男の背中のどこが、以下略。

 気になる事があって薪は、四足で竹垣の側を離れる。タオルを外してお湯の中に戻り、青木の隣に腰を落ち着けた。
「青木。おまえの携帯に、超レアな写真が残ってないか」
「これですか?」
 慣れた手つきで親指を動かし、青木は画面を薪に見せた。画面には何も映っていなかったが、タイトル欄には『陵辱・深田○子』の文字が。

「やっぱりおまえのも消えちゃってたか。実に残念だ」
「残ってたら残ってたで、大問題だと思いますけど」
「固いこと言うな。彼女のグラマラスボディが緊縛されて、しかも目隠しまでついて、それが地べたに転がっていたんだぞ。『今夜のフカキョン』に殿堂入り間違いなしの一品だったのに」
「……今夜の、って」

 落胆は計り知れない薪の傍らで、青木は彼の憂い顔の、本当の理由を鋭く見抜く。だけどそれは、もう自分たちにはどうしようもないこと。

 例えば、虫を殺すように人を殺し続けた残虐な殺人者がいたとして、自分たちの仕事は彼を捕まえることで、彼を裁くことではない。
 彼には罪の意識の欠片もなく、再び社会に戻ったら必ず同じ犯罪を繰り返す、そう確信しても裁くことは許されない。それは司法の仕事で、その結果、精神鑑定で彼に無罪判決が出たとしても、釈放されて10日後にはまた人を殺めたとしても、自分たちは再び彼を捕まえるだけで、彼を害してはいけない。
 寝る間も惜しんで捜査を続けて、犯人を検挙したその後は。
 自分たちには、彼らの更生を信じることしか残されていない事実を、青木も薪も嫌と言うほど知っているから。 信じて、それを何度も裏切られてきた経験があるから。

「きっと、彼らは大丈夫ですよ」
 青木がいきなり核心に触れると、薪はひゅっと亜麻色の瞳を引き絞って、でも、こっくりと頷いた。
「アリスちゃんもいることですし」
「そうだな」

 何度裏切られても。
 それでも信じることをやめてはいけないと、だから薪は彼らをアリスに託した。あの行動は、アリスの目的を知っていたからでもあるだろうが、それ以前に、薪は彼らを信じたのだ。それができない者には、警察官たる資格がないから。

 薪には珍しく、自分から身体を青木の方へ寄せて、その逞しい腕に左耳をつけるように首を傾け、つややかなくちびるから白い息を吐きながら、彼は夢見るように言った。
「連中、持っていける土産がたくさんできるといいな。あっちに行っても楽しいように」
「そうですね。3人で、いっぱい作って欲しいものですね」
 青木は湯船の底で慎ましく握られている薪の手に自分の手を重ね、彼の手を長い指で包み込むように握ると、
「オレたちも、いっぱい作りましょうね。オレたちだけの大事なもの」
「さっきの写真とか?」
 薪は青木の手から携帯を取り上げ、カメラモードに切り替えた。腕を伸ばして自分たちにファインダーを向け、もう片方の手で青木の後頭部をおさえた。それから青木の顔に自分の顔を近付けて、軽く目を閉じる。
「この写真とか」
 ふたりのくちびるが触れ合おうとした瞬間、カララと戸を開ける音がして、

「あれ? 薪さん、まだ入ってたんですか」
「おお、今井か! いま上がろうと思ってたところだッ!! じゃあなっっ!!!」
 ザバッとお湯から上がり、腰にタオルをさっと巻くと、逃げるように浴場から出て行く上司を見送り、今井は苦笑する。
「薪さん、あんなに顔真っ赤にして。いったい何時間入ってたんだろ。声もやたらと大きかったし」
 室長の風呂好きは第九では有名だし、今日は年に1度の慰安旅行。薪が心ゆくまで温泉を楽しんでくれるのは、今井にとっても嬉しいことだ。

 身震いするような冷たい外気の中、もうもうと湯煙を上げるお湯は何よりの贅沢だ。自分も自然の恩恵に与ろうと、今井が湯の中に足を入れると、なにか柔らかいものにぶつかった。ここは岩風呂なのに、どうして弾力のあるものが足に当たるのだろうと不思議に思って手を伸ばす。
 湯の下を覗いてみれば、黒い髪が海草のようにゆらゆらと揺れて、それが変わり果てた後輩の姿だと分かる。
「なんだ、青木。湯船の中で潜水の訓練でもしてるのか? てか、絆創膏はがれちゃってるけど、おまえ傷口痛くないの?」
「いいんです……放っておいてください、うううう……」
 青木は湯から顔を上げて、でも彼の両眼からはとめどなく熱いものが流れてきて、やっぱり傷口に沁みたんだな、と今井は冷静に結論を下した。



*****


 それから、さらに遠い未来。
 かつてここを訪れた背の高い男も小柄な男も、とっくに別の世界へ旅立ってしまった。それくらい先の時代。
 人の立ち入らぬ森の奥、柔らかな落ち葉の上で、途絶えようとしている3つの命があった。

 3人の姿は人に近く、しかし人にあらず。
 彼らは世界で唯一、この地で幾ばくかの時を過ごした2人の人間の記憶を持つ生物だったが、それも最後の時を迎えていた。

『兄ちゃん、姉ちゃん。持って行くものは決めただか』
『おれはおまえら2人と、この森の美しさを持っていく』
『じゃあアタシはあんたたち2人と、動物たちの可愛らしさを持っていくわ。三郎、あんたは?』
『おらはそうさなあ。兄ちゃんと姉ちゃんさえいれば、他はなにも……お、そうじゃ。あんときのメンコイ娘を持っていこう』
『娘じゃなくて男よ。それに、あの大きな男が必ず付いてくるわよ』
『よかろう。ふたりとも、まとめて持っていこう。なんと言っても我々に、このときを迎えさせてくれたのはあの2人だからな』
 3人の会話が終わるのを待って、頭部に獣の耳を持った、しかし身体は少女という不可思議な生物が、カラフルなステッキをエプロンのポケットから取り出して、声高に言った。

「じゃあ、準備はいいわね? みんなのところへ案内するから、3人とも、しっかりわたしに付いて来るのよ」
 少女がステッキをサッと振ると、辺りは闇に包まれた。ざわざわと木々が震え、一陣の風が起こった。
 再び森が日常の光景を取り戻したとき、彼らの意識はすでに、そこにはなかった。

 深い森の中、3人は、長い長い眠りに就いた。


(おしまい)



(2011.2)


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
文字サイズをお選びください
最新記事
最新コメント
拍手のお返事
いつもありがとうございます!

最新拍手コメのお返事はこちらです。

過去の拍手レスの確認は、該当記事の拍手欄を押してください。
鍵拍手コメのレスは、記事のコメント欄にお返しします。
月別アーカイブ
カテゴリ
詩 (1)
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
QRコード
QRコード
FC2カウンター
こんにちは(^^
現在の閲覧者数: