イヴに捧げる殺人(6)
こんにちは。
GW、楽しんでますか~?
お仕事中の方はご苦労様です。
わたしのGWは、映画2本立てでした。
「相棒」と「テルマエ」。 どっちも面白かったです。
個人的には「相棒」の方が笑ったかな。右京さんの変人に磨きがかかってます。まあ、あれも計算のうちなんでしょうけど。
そう言えば、昨日は結婚記念日だったんですよ。
去年の結婚記念日も映画を観に行ったんですけどね、その時が「藁の楯」で今年が「相棒」。我ながらシュールなアニバーサリィチョイスだなあ(^^;
青薪さんにも、結婚記念日(家族になった記念日)ってあるのかしら。
「今日は薪さんが初めてオレの家にいらした日ですから」とか言って3人でお祝いすればいいと思うの。だれか書いてください。
イヴに捧げる殺人(6)
支度をしてドアを開けたら青木がいて、うわっと仰け反られた。無理もないと思った。40男のセーラー服なんて薪だって卒倒する、ていうか、条例違反でトラ箱にぶち込む、絶対。
「悪い。驚かせた」
薪が謝ると青木は慌てて首を振り、
「落ち着いて見れば大丈夫なんですけど、いきなりだとドキッとしますね」と自分の動揺を恥じるように言った。
醜悪だという自覚はあった。青木は薪の女装は何度も見ていて、つまりは免疫がある。その青木ですらたじろぐような姿なのに。
「おまえがドン引くほどヒドイ格好なのに。不思議だよな、どうしてバレないんだろう」
「いえあの、衣装に驚いたんじゃなくて。要はですね、全世界美少女コンテストの優勝者が突然目の前に現れたら誰だってびっくりするでしょう?」
「美少女コンテストの優勝者? そんな娘とどこで知り合ったんだ?」
「いや、そうじゃなくて」
「僕にも紹介しろ」
「……もういいです」
訳の分からない事を言い出したと思ったら勝手に会話を終了させて、これだから最近の若い者は。世界一の美少女は何処へ行ったんだ。
まあいい。薪の好みは成熟した大人の女性だ。背は低めでちょっとぽっちゃり系。他のことはあまり拘らないが、胸はCカップ以上が必須条件。未成年者は対象外だ。
「お嬢様ってのは温室育ちだからな。どこかズレてるんだろうな」
「薪さんには言われたくないと思いますけど」
「何か言ったか」
「いいえ、なにも」
青木はついと眼を逸らし、薪の追及を逃れた。昔は蛇に睨まれたカエルよろしく冷汗を流すばかりだったのに、最近は空っとぼけるようになった。
この制服を着るのも4日目だ。さすがに慣れてきて、スカーフを結ぶのも早くなった。おかげで今朝は時間が余って、薪はその空白を2杯目のコーヒーで埋めることにした。昨夜青木が此処に泊った、ということは薪は当然寝不足だ。いつもより多くのカフェインを摂る必要があった。
「調査の方はいかがですか」
お湯をドリッパーに注ぎながら、青木は現在薪が携わっている事件について尋ねた。青木の問いに、薪はきらっと眼を輝かせ、
「面白いことが分かったぞ」と遠足に出掛ける前の子供のように笑った。
「彼女は間違いなく苛めの被害者だ。それも多数の人間から苛めを受けていた」
「受けて、いた?」
言葉尻を捉えて青木が聞き返すと薪は満足そうに頷き、次いで青木が差し出したコーヒーを鼻先に近付けて、夢見るように微笑んだ。その美しい微笑み。やわらかな線が織りなす、いっそ夢幻の世界にしか存在しないかのような美貌。
しかしながら、その花のような口元からこぼれる言葉はひどく現実的で、青木は彼が作り出すギャップと混沌にいつも眩暈を覚える。
「吸血鬼事件の被害者は3人とも、彼女を苛めてた生徒なんだ」
「えらい偶然ですね。捜一の見解はどうなってるんですか?」
「それが件の学園は男子禁制で、生徒たちは男性に免疫がなくてな。捜一の連中が彼女たちに話を聞こうとすると、一様に口を噤んでしまうらしい。だからこの事実は未だ掴んでないと思う」
「潜入捜査のお手柄というわけですか。苦労した甲斐がありましたね」
昨夜、ベッドに行く前の前哨戦が行われたソファで仕事の話をする。そんな日常にもだいぶ慣れた。
「じゃあ、その子が犯人なのかもしれませんね。苛めに耐えかねて、衝動的に相手を殺してしまった」
「被害者は身体中の血を抜かれてるんだぞ。頭も丹念に潰されてる。子供にできるとは思えないが」
「それは彼女の犯罪を隠そうとして、周りの大人たちが。子供にはできない、と思わせることが目的なんですよ」
「だとしても親は無関係だ。中園さんにボディガードの斡旋を頼んできたくらいだからな」
「父親だけが知らないのかも。母親や使用人たちがグルになってて」
「そろそろ時間だ」
薪はふいに席を立った。薪が話を打ち切きったということは、青木の推理は却下されたと言うことだ。薪の琴線に響かないなら、この線は誤りなのだろう。青木は思考をリセットし、鞄とコートを持って彼の後を追いかけた。
「あの。苛めの方はまだ続いてるんですよね。放っておいていいんですか」
車の後部座席に収まった美少女にミラー越しに話しかけると、思いもかけない答えが返ってきた。
「首謀者を絞り込むことはできると思うけど、注意したところで苛めがエスカレートするだけだろう。何より、本人が戦う気マンマンなんだ」
「マンマンですか」
「代議士のお嬢さんで苛めに遭ってるって言うから、風が吹いただけでも泣くような女の子を予想してたんだけど。まるで違ってた」
ミラーの中で薪は微笑んだ。相手を好ましく思っているときの笑み。子供のお守なんてまっぴらだと、初めはあんなに嫌がっていたくせに。野良猫も3日飼えば情が移るというやつか。
「施設にいたらしくて、小さい頃から苦労して育ったみたいだからそのせいかもしれないけど。必死に強がる様子が、なんか可愛くてさ」
薪に邪心はないのかもしれないが、青木は穏やかではない。薪は青木の恋人だが、同性愛者ではない。普通に女性が好きなのだ。その証拠に、可愛い女の子がいれば自然にそちらを見る。今もちらっと右側を見た、視線の先にはバス停でバスを待つOL。ふっくらしたくちびるがキュートな女の子だった。
そんな彼が女の園で潜入捜査。仕事とは言え、楽しくないわけがない。
嫉妬心に煽られて昨夜は少々無理をさせてしまった。鏡の中で彼が発した大あくびはその証。自覚はあるが反省する気になれないでいる。ヤキモチは謙虚さを遠ざけるのだ。
「それと、あの子には何か秘密がある」
「秘密? それはさっきオレが考えたようなことで?」
「おまえの言う通り、彼女は事件に関係してる。被害者の接点が彼女なんだからな。でも彼女の秘密は事件とは無関係だと……いや、もしかしたら」
薪は右手の拳を口元に当て、視線を虚空に据えて固まった。推理を巡らせるときのポーズ。表面は静かだが、彼の頭の中では目まぐるしい速度で仮説とそれに基づく論理展開がなされているに違いない。
それから学校までの約20分、薪は黙りこくって思考を続けた。その間、彼は声も発せず身じろぎもせず、窓の外を見ることもなかった。
GW、楽しんでますか~?
お仕事中の方はご苦労様です。
わたしのGWは、映画2本立てでした。
「相棒」と「テルマエ」。 どっちも面白かったです。
個人的には「相棒」の方が笑ったかな。右京さんの変人に磨きがかかってます。まあ、あれも計算のうちなんでしょうけど。
そう言えば、昨日は結婚記念日だったんですよ。
去年の結婚記念日も映画を観に行ったんですけどね、その時が「藁の楯」で今年が「相棒」。我ながらシュールなアニバーサリィチョイスだなあ(^^;
青薪さんにも、結婚記念日(家族になった記念日)ってあるのかしら。
「今日は薪さんが初めてオレの家にいらした日ですから」とか言って3人でお祝いすればいいと思うの。だれか書いてください。
イヴに捧げる殺人(6)
支度をしてドアを開けたら青木がいて、うわっと仰け反られた。無理もないと思った。40男のセーラー服なんて薪だって卒倒する、ていうか、条例違反でトラ箱にぶち込む、絶対。
「悪い。驚かせた」
薪が謝ると青木は慌てて首を振り、
「落ち着いて見れば大丈夫なんですけど、いきなりだとドキッとしますね」と自分の動揺を恥じるように言った。
醜悪だという自覚はあった。青木は薪の女装は何度も見ていて、つまりは免疫がある。その青木ですらたじろぐような姿なのに。
「おまえがドン引くほどヒドイ格好なのに。不思議だよな、どうしてバレないんだろう」
「いえあの、衣装に驚いたんじゃなくて。要はですね、全世界美少女コンテストの優勝者が突然目の前に現れたら誰だってびっくりするでしょう?」
「美少女コンテストの優勝者? そんな娘とどこで知り合ったんだ?」
「いや、そうじゃなくて」
「僕にも紹介しろ」
「……もういいです」
訳の分からない事を言い出したと思ったら勝手に会話を終了させて、これだから最近の若い者は。世界一の美少女は何処へ行ったんだ。
まあいい。薪の好みは成熟した大人の女性だ。背は低めでちょっとぽっちゃり系。他のことはあまり拘らないが、胸はCカップ以上が必須条件。未成年者は対象外だ。
「お嬢様ってのは温室育ちだからな。どこかズレてるんだろうな」
「薪さんには言われたくないと思いますけど」
「何か言ったか」
「いいえ、なにも」
青木はついと眼を逸らし、薪の追及を逃れた。昔は蛇に睨まれたカエルよろしく冷汗を流すばかりだったのに、最近は空っとぼけるようになった。
この制服を着るのも4日目だ。さすがに慣れてきて、スカーフを結ぶのも早くなった。おかげで今朝は時間が余って、薪はその空白を2杯目のコーヒーで埋めることにした。昨夜青木が此処に泊った、ということは薪は当然寝不足だ。いつもより多くのカフェインを摂る必要があった。
「調査の方はいかがですか」
お湯をドリッパーに注ぎながら、青木は現在薪が携わっている事件について尋ねた。青木の問いに、薪はきらっと眼を輝かせ、
「面白いことが分かったぞ」と遠足に出掛ける前の子供のように笑った。
「彼女は間違いなく苛めの被害者だ。それも多数の人間から苛めを受けていた」
「受けて、いた?」
言葉尻を捉えて青木が聞き返すと薪は満足そうに頷き、次いで青木が差し出したコーヒーを鼻先に近付けて、夢見るように微笑んだ。その美しい微笑み。やわらかな線が織りなす、いっそ夢幻の世界にしか存在しないかのような美貌。
しかしながら、その花のような口元からこぼれる言葉はひどく現実的で、青木は彼が作り出すギャップと混沌にいつも眩暈を覚える。
「吸血鬼事件の被害者は3人とも、彼女を苛めてた生徒なんだ」
「えらい偶然ですね。捜一の見解はどうなってるんですか?」
「それが件の学園は男子禁制で、生徒たちは男性に免疫がなくてな。捜一の連中が彼女たちに話を聞こうとすると、一様に口を噤んでしまうらしい。だからこの事実は未だ掴んでないと思う」
「潜入捜査のお手柄というわけですか。苦労した甲斐がありましたね」
昨夜、ベッドに行く前の前哨戦が行われたソファで仕事の話をする。そんな日常にもだいぶ慣れた。
「じゃあ、その子が犯人なのかもしれませんね。苛めに耐えかねて、衝動的に相手を殺してしまった」
「被害者は身体中の血を抜かれてるんだぞ。頭も丹念に潰されてる。子供にできるとは思えないが」
「それは彼女の犯罪を隠そうとして、周りの大人たちが。子供にはできない、と思わせることが目的なんですよ」
「だとしても親は無関係だ。中園さんにボディガードの斡旋を頼んできたくらいだからな」
「父親だけが知らないのかも。母親や使用人たちがグルになってて」
「そろそろ時間だ」
薪はふいに席を立った。薪が話を打ち切きったということは、青木の推理は却下されたと言うことだ。薪の琴線に響かないなら、この線は誤りなのだろう。青木は思考をリセットし、鞄とコートを持って彼の後を追いかけた。
「あの。苛めの方はまだ続いてるんですよね。放っておいていいんですか」
車の後部座席に収まった美少女にミラー越しに話しかけると、思いもかけない答えが返ってきた。
「首謀者を絞り込むことはできると思うけど、注意したところで苛めがエスカレートするだけだろう。何より、本人が戦う気マンマンなんだ」
「マンマンですか」
「代議士のお嬢さんで苛めに遭ってるって言うから、風が吹いただけでも泣くような女の子を予想してたんだけど。まるで違ってた」
ミラーの中で薪は微笑んだ。相手を好ましく思っているときの笑み。子供のお守なんてまっぴらだと、初めはあんなに嫌がっていたくせに。野良猫も3日飼えば情が移るというやつか。
「施設にいたらしくて、小さい頃から苦労して育ったみたいだからそのせいかもしれないけど。必死に強がる様子が、なんか可愛くてさ」
薪に邪心はないのかもしれないが、青木は穏やかではない。薪は青木の恋人だが、同性愛者ではない。普通に女性が好きなのだ。その証拠に、可愛い女の子がいれば自然にそちらを見る。今もちらっと右側を見た、視線の先にはバス停でバスを待つOL。ふっくらしたくちびるがキュートな女の子だった。
そんな彼が女の園で潜入捜査。仕事とは言え、楽しくないわけがない。
嫉妬心に煽られて昨夜は少々無理をさせてしまった。鏡の中で彼が発した大あくびはその証。自覚はあるが反省する気になれないでいる。ヤキモチは謙虚さを遠ざけるのだ。
「それと、あの子には何か秘密がある」
「秘密? それはさっきオレが考えたようなことで?」
「おまえの言う通り、彼女は事件に関係してる。被害者の接点が彼女なんだからな。でも彼女の秘密は事件とは無関係だと……いや、もしかしたら」
薪は右手の拳を口元に当て、視線を虚空に据えて固まった。推理を巡らせるときのポーズ。表面は静かだが、彼の頭の中では目まぐるしい速度で仮説とそれに基づく論理展開がなされているに違いない。
それから学校までの約20分、薪は黙りこくって思考を続けた。その間、彼は声も発せず身じろぎもせず、窓の外を見ることもなかった。