春よ、来い(1)

 新しいリンク先のご紹介です。

 もう殆どの方はご存じだと思うのですけど、 
 『ひみつの225』 (←押すと飛べます。)
 の にに子さま に相互リンクを貼っていただきました。

 甘い甘い青薪さんの、漫画・イラストサイトでございます。
 すっごくきれいで色気のある薪さんが満載です。 それと、にに子さんは青木さんフリークなので、青木さんがとても男前なんですよね!! カッコよくてかわいいです♪

 個人的には、にに子さんの描かれるコマ漫画が超好きです。
 デフォルメした薪さんがむちゃくちゃ可愛いの

 リンクから飛べますので、ぜひどうぞ。



*****



 で、こちらのお話なんですけど。
 かなーり昔、リクエストを募ったときの候補のひとつ、「薪さんが、もう青木さんは要らないと思う話」です。

 書いたのは3年前、なんと2008年の10月です。
 最初の予定では、この話が最終話になるはずでした。 薪さんが完全に立ち直って、前向きに歩んでいくラストを書いたつもりでした。
 今読み直してみると、
 …………こっちの薪さんの方が立派じゃん! 書いた分だけ堕落したよ、うちの薪さんっ!!

 もう、今となっては矛盾だらけなラストなんですけど、最初の予定はこうだった、ということで理解してください。
 そのようなSSを公開する理由は、リク募集の際に題名だけとは言え作品があることを明かしてしまったこと、それを読みたいと言ってくださった方が何人かいらしたこと、の他にもうひとつあって、ものすごく昔のことなんですけど、
 みひろさんちの薪さんがカエルが苦手だというSSに「カエルつながりで最終話が書いてあるから、あとで公開しますね」とコメントしたことがあるので、このままお蔵入りにするわけにもいかないかな~って。

 混乱覚悟で晒します。
 本編とは若干設定が異なりますので、カテゴリはADでお願いします。

 3年前の作品なので、文章の拙さと話の荒さは大目に見てください。(^^;




春よ、来い(1)




 薪は重役会議が嫌いである。
 警視正の役職に着任してから何度かお呼びがかかった重役会議だが、下っ端の身分で自分の意見を述べられるわけでもないし、議題の重要性の割に実のある会議内容とも思えない。それは当然のことかもしれない。会議の出席者たちが真剣に考えているのは議題についてではなく、自身の属する派閥の強化だからだ。加えて老人たちは保身のためか、政治家を真似てはっきりものを言わない。第九のディスカッションのほうが遥かに充実している。一度、上層部の老人たちに第九の会議を見せてやりたいくらいだ。
 狸と狐の化かし合いみたいなこの会議で、薪は明日、一つの議案を通さなければいけない。そのため、彼は自宅に帰ってきてまで会議の草案を練っていた。

 薪が机から参考資料を探っていると、引き出しの奥から古い写真が出てきた。
 亜麻色の髪の華奢な男がスーツ姿で黒髪の男の上に乗り、彼のズボンを脱がせて下着に手をかけている。改めて見るとすごい構図だ。
 思わず作業の手を止めて、写真に見入る。
 懐かしい―――― これはまだ薪が第九の室長になる前、準備室室長として第九発足のための様々な職務をこなしていた頃のことだ。
 創立メンバーの人選からMRIシステムの試運転、追加すべき機材とマニュアルの作成。人権擁護団体の強烈な批判に対する回答は完璧に仕上げて上層部へ報告。マスコミの対応も怠りなくこなす――― とにかく忙しくて忙しくて、捜査(しごと)をしているヒマがないというまるで落語みたいな落ちがついた時期だった。

 職員のひとりは始めから決まっていた。発足時のメンバーは室長権限で選ばせてもらえるという話だから、室長の役職を引き受けたようなものなのだ。
 大好きな親友と一緒に仕事ができる。
 それは、捜査一課のエースだった薪を研究所勤務に踏み切らせた大きな理由だった。

 鈴木は以前からMRI捜査に高い関心を示していて、もしかすると薪よりも第九の職務に就きたかったくらいかもしれない。だから薪が声をかけると二つ返事で引き受けてくれた。他のメンバーの人選は鈴木と話し合って決めた。もちろん辞令は上層部から出されるが、事前交渉には鈴木が当たった。人当たりの良い鈴木は、標的となった職員を見事に説得してきた。果たして、第九にはエリート中のエリートが集まり、研究所の頭脳集団などと呼ばれるようになったのだ。

「な、なんですか? その写真!」
 大きな声に、追憶から引き戻される。
 眼鏡をかけた背高のっぽが薪の後ろから写真を覗きこみ、非難めいた声を上げている。まったく面倒なやつだ。誤解ばかりして、その飛躍した思考はいつも薪を苦笑させる。

「何って、見れば解るだろ」
 わざと意地悪く言う薪も薪だが、このパターンに何度も騙される青木も青木だ。
「鈴木さんにはこんなに積極的だったんだ……オレには一度もこんなこと」
 どよよん、と周りの空気を重くしてぶつぶつ言い始める青木に、薪は意地悪な笑いを抑えきれない。
「なんだ。これと同じことをやって欲しいのか?」
「当たり前ですよ。薪さんからしてくれたら、嬉しいに決まってます」
「今は秋だからムリだな」
「は?」
 わけがわからない、という顔をしている。当たり前だ。この写真だけでは、その時の事情はわからない。

「別のことならしてやれるぞ」
 写真を机の上に伏せておいて、薪は色香を含んだ目で青木の顔を見上げる。回転椅子を回して青木の腰をつかむ。ベルトを外してズボンの前を開き、ワイシャツを捲り上げて少し身をかがめ、へその辺りにキスをする。
 青木には残業手当もつけずに、自分の仕事を手伝わせている。見かけよりずっと仕事のできるこの部下の書類は誰よりも手早くきれいで、会議の資料作成の助手にはもってこいだ。これくらいサービスしてやろう。

 下着に手を掛けて中のものを引き出す。右手で軽く握って、口を近づける。
「ま、薪さ……」
 青木がびっくりしている。
 べつに初めてじゃないのに、と薪は思い、しかしすぐにその理由に思いあたる。ベッドの中では何度かしたことがあるが、こんなところで服を着たままするのは初めてだ。それで驚いているのか。かわいいやつだ。

 先端にキスをしてくちびるを開き、咥え込もうとする。が、椅子に腰掛けて屈んだ体勢では角度がうまく合わない。薪は椅子から降りて床に膝をついた。風俗のような位置関係に抵抗はあるが、この姿勢のほうがやりやすい。
目を閉じて口に含む。薪のちいさな口の中でそれはすぐに反応し始めて、たちまち固く屹立していく。そんなにご無沙汰だったかな、と薪は記憶を探る。いや、先週の土曜はここに泊まって朝までさんざん……まだ3日しか経ってないじゃないか。若いってのはこわい。

 さっきの写真に写っていた薪も鈴木も、あの頃は若かった。ちょうど今の青木と同じ年だ。
 これからどんな悲劇が自分たちに訪れるかも知らずに、第九の可能性に、未来に、胸をときめかせていた。あの事件さえなければ、薪は青木とこんな関係にはならなかった。鈴木が生きていたら、きっと彼以外の人間は今も目に入らなかっただろう。

 大好きだった鈴木。
 恋人として過ごした時期もあったが、友人としての時間のほうがずっと長かった。鈴木と雪子と3人で、それはとても楽しくて笑いの絶えない日々だった。

 もう、二度と戻らない。あの日々も親友も。
 昔日の光景が輝いているほどに、現在の寂しさは強くなる。いま、薪には親友と呼べる人間はいない。
 青木はちがう。青木とは友だちにはなれない。

 僕の親友は、生涯おまえだけだな――――― 青木の昂ぶりを口に含み頭を動かしながら、薪はその当時のことを思い出していた。




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春よ、来い(2)

 こんにちは。

 過去作品を読んでくださってる方、拍手をありがとうございます。
 懐かしさに駆られてちらっと目を通しただけでも、拙さと読みづらさが目に付きます。 我慢して読んでくださってるんですね、ありがたいなあ。
 この話も、3年前の作品ですからね。 読み直しのとき、ガシガシ引っ掛かって~~、
 言葉選びが~、文章のテンポが~、直してるとキリがないので、もうこのままで。 すみません。


『ニアリーイコール』にある通り、現在の薪さんはカエル嫌いではありません。 動物園に行くと熱心に見てますからね。 
 昔、嫌いだったんです。

 ↓↓↓ こちら、その理由でございます。 うちの薪さんて、ほんと不憫。(笑)




春よ、来い(2)




 ソレを見た途端、薪は室長席から立ち上がり、2mほど飛びのいた。いつも冷静な彼らしからぬ、過敏な反応である。
「なに。おまえ、こんなもんが怖いの?」
 梅雨の時期にはおなじみの、緑色のつやつやした小さな両生類。何故そんなものが第九準備室の室長室に入り込んだのかは不明だが、薪のこの反応はなかなかに面白い。
「へええ。薪の弱点、みーっけ。みんなにバラしてやろ」
 鈴木の目が子供のように輝く。普段、仕事でやり込められてばかりいる薪に仕返しができるチャンスだ、と思っているのがミエミエだ。

「怖いんじゃなくて、キライなんだ! おまえだって僕と同じ目に遭えばわかるさ!」
「同じ目ってどんな目だよ」
「……言いたくない」
「言わなきゃ分かんないだろ」
「いいよ、分からなくて。ていうか、解って欲しくない」
「なんだよ、教えろよ。オレとおまえの仲だろ」
 あの手この手で薪の口を割らせようとするが、そこは頑固な室長のこと、鈴木ごときの甘言に篭絡するほどやわではない。
 しかし、これは聞き出さねばなるまい。捜査官として真実の追究は職務である。

「じゃあさ、それ話してくれたら、オレもおまえと同じ目に遭ってやるから」
「ほんとだな?」
 鈴木の申し出に、薪の目の色が変わった。
 少し嫌な予感はしたものの、この時点の鈴木には好奇心のほうが大きい。力強く頷いてきっぱりと断言する。
「男に二言はない」
 鈴木の言葉に薪は、しぶしぶという口調で白状した。

「僕、子供の頃、身体が小さかったから近所の子供に苛められててさ」
 薪の身体が小さいのは今もだが、ここは黙っておこう。
「下着の中にコイツを入れられたことがあるんだ。それ以来、気持ち悪くって見るのもイヤだ」
 …………聞かなきゃよかった。

「鈴木、僕と同じ目に遭うって言ったよな?」
 取調室仕様の凄烈な表情と口調で、室長は冷ややかに言った。見るのも嫌なはずのカエルを白い手のひらに載せて、鈴木の目の前に突き出す。
「おまえ、カエルさわれんじゃん」
 ひとに意地悪をするためなら生理的嫌悪すら抑え込める。まったく、彼の意地悪は筋金どころか鉄骨入りだ。

「入れてもらおうか」
「いや、ちょっと待ってくれよ。だって子供の頃の話だろ、それ。今はいろいろと事情が違う、っ!」
「男に二言はないんだろ」
 この上なくきれいに微笑んだ室長を見て、鈴木は自分の愚かさを激しく後悔した……。



*****



 室長室から漏れ聞こえてくるただならぬ騒音と怒号に、第九準備室では全員がパニックに陥っていた。
『覚悟しろ、鈴木!』
『た、頼む、薪! やめてくれ!』
『往生際が悪いぞ。さっさとズボン脱げよ』
『それだけはカンベンしてくれ!』
『おとなしく入れさせろ!』
『だれか助けてー!』
 仕事どころではない。どう聞いても鈴木があぶない。
 しかし、このドアを開けて良いものかどうか。あまりのきわどいセリフの応酬に、全員が二の足を踏んでいる状態だ。まともにその場面を見てしまったら、中の二人もこちらもこれから顔を合わせづらいではないか。

「あの2人、仲がいいとは思ってたけどやっぱりそういう関係?」
「でも、室長のほうが男役だなんて意外だよな」
「あの世界は見かけとは逆だって言うからな」
「やばいぞ、鈴木。ズボン脱げとか言われてるぞ。ここで始めちゃう気かな」
「まさか」
「だって室長、入れさせろとか言ってるぞ」
「なにを」
「なにっておまえ」

「どうしたの? みんなでドアにくっついて。新しい遊び?」
 第九には珍しい女性客の声に、職員たちは一斉に蒼ざめる。
 背の高い白衣の美女。法医第一研究室の実力ナンバー1、三好雪子女史である。手にはピザの箱を4つも持っている。どうやら差し入れに来てくれたらしい。
 しかし、なんて間の悪い。雪子は鈴木の恋人なのだ。

「先生は知らないほうがいいです!」
 焦りまくる第九の職員たちに倣って、雪子は室長室のドアに耳をつけた。
 中で起こっていることに察しがついたのか、目を丸くする。が、さすがは冷静が売り物の監察医である。すぐに平静な顔に戻って、ピザの箱を静かに机の上に置いた。あまりのショックに泣き出すのでは、という職員たちの心配は杞憂に終わったようだ。

 雪子は白衣のポケットに手を入れて何やら探っていたようだが、目的のものが見つかったらしくにやりと笑った。迷うことなく室長室のドアノブに手をかける。
「み、三好センセ……今は駄目です!」
 職員の必死の制止も聞かず、雪子はドアを開けた。俊敏な動作で中に入り、ドアを閉める。

 室長室には2人の男と1人の女。1人の男を男女で取り合って、おそらく泥沼のような三角形が描かれているはずだ。
 これから起きる修羅場を予測して、第九の面々はますます顔を青くしたのだった。



*****



 パシャパシャッ、とカメラのシャッターが切られる音で薪は手を止めた。
 寝椅子に仰向けになった鈴木の上に、薪が馬乗りになっている。鈴木の状態はといえば、既にベルトを外されズボンの前を開けられて、下着のゴムに薪の華奢だが強い手がかかっていて。あと1秒で放送禁止の画面に切り替わりそうだ。

「雪子! 助けてくれ、薪に犯される!」
「なっ、ち、違います、雪子さん! これはそのっ」
 薪が慌てて鈴木から離れる。恋人の鈴木よりも、雪子への気遣いは細やかだ。薪は昔から、雪子にだけは頭が上がらないのだ。
「って、写真撮るの止めてくださいよ!」
 シャッターチャンスは逃さないのが雪子のポリシーだ。白衣には愛用のデジカメがいつも忍ばせてある。これまでもこのふたりの迷場面は、悉くカメラに収めてきた雪子である。こんな面白い場面を見逃せるはずがない。

「なんか、外がえらい騒ぎになってるわよ」
「え? どうしてですか?」
 分かっていない。いかにも薪らしい。
 今回のこれはけっこうきわどいが、このふたりのことだ。何か面白い理由があるに違いない。雪子はわくわくしながらその理由を尋ねた。

「聞いてくれよ、雪子。薪のやつ、子供のころカエルをさ」
「鈴木!」
 うっとりするほど美しい曲線を描く頬を真っ赤にして、薪が鈴木の言葉を遮る。どうやら薪の子供時代には、恥ずかしい秘密があるらしい。
 これは是非とも聞き出さねば。真実の追究は監察医の職務だ。
 ……長く付き合っていると、恋人同士の考えは似てくるものであるらしい。

「薪くん、まさか本当に鈴木くんを襲って? ひどいわ!」
「誤解です、雪子さん! 実は」
 写真まで撮っておいて今更だが、雪子は白々しく悲劇のヒロインを演じてみせる。他の女性なら放っておく薪だが、雪子だけは特別だ。雪子は薪の柔道の師匠であり、恩人であり、大学時代からの大切な友人なのだ。
 言葉に詰まりながらも、事情を説明してくれる。薪の子供時代のことには笑ってしまったが、やっぱりそんなことかと納得した雪子である。

 このふたりが昔、そういう関係だったことは知っている。しかし今、鈴木は雪子の恋人であり、薪は大切な友だちだ。二人とも雪子に対しては誠実で、とてもやさしい。
 だから雪子も余計な詮索や勘ぐりはしない。そんなものは人と人との間に必要ではない。必要なのは信頼と愛情だ。それを解っていても疑ってしまうのが女という生き物だが、雪子は違う。それを実践できる強さを雪子は持っている。その強さが彼女の魅力だ。

「じゃあ鈴木くん、頑張らなきゃ」
「へっ!?」
 薪と目を合わせて、雪子がにやーっと笑う。
「有言実行する男って、カッコイイわよね」
「そうだぞ、鈴木。男をみせろよ」
「お、おまえら……!」
 鈴木が青くなる。この二人がタッグを組んだら、鈴木にはとても太刀打ちできない。二人とも柔道は黒帯なのだ。

「もう、カエルなんかどこかへ行って」
「これでしょ」
 いつの間にか雪子の手の中に小さな両生類が握られている。薪は嬉しそうに小さな手をすり合わせ、低い姿勢を取って鈴木の背後に回った。
「たすけてくれー!!」
 薪が鈴木の背後から太い首を両腕で固め、雪子が鈴木の上に片足を乗せて押さえ込む。
 雪子の手から緑色の生き物がピョンと跳ねて、次の瞬間、すさまじい男の悲鳴が準備室に響き渡った。
「ぎやああああっ!!」

 鈴木の命があぶない――――― 決死の覚悟で飛び込んで来たであろう第九準備室の職員たちの前で、雪子は薪と一緒に腹を抱えて笑い転げていた。



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春よ、来い(3)

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春よ、来い(4)

こんにちは。


『青木さん、要らない子』 のお話、こちらでラストでございます。

読んでいただいて、ありがとうございました。






春よ、来い(4)






 夜中に目を覚まし、薪はゆるゆると身を起こした。

 青木はよく眠っている。
 年を重ねるほどに、こいつは男っぷりがよくなる。惚れた欲目なのか、最近はつい、見とれてしまうほどカッコイイと思うときがある。
 そんなことを考えている自分に苦笑して、薪はそっとベッドを抜け出した。

 夜中はさすがに冷える。厚手のパジャマの上にガウンを着込み、キッチンに行ってインスタントコーヒーを濃く入れる。明日の会議の資料作りが途中だ。今夜中に仕上げなければ。
 どんな時でも仕事の手は抜きたくない。自分は鈴木の遺志を継ぐと決めたのだ。

 作業の続きをしようと机に向かうと、机の上にはホチキス止めされた会議資料が積み重ねてあった。何部かは見本に作ったが、人数分のコピーはまだしていなかったはずだ。
 一部を手にとって確認してみる。
 薪が何枚か駄目にしてしまった書類も打ち直されて、途中だったはずの参考資料からの抜粋も完璧に仕上がっている。
 ホチキスの止め方に特徴がある。きっちりとした真横止め――― 青木だ。
 自分が眠っている間に仕上げをしておいてくれたのか。ここまで出来ているのなら、あとは自分のPCに入っている草案のチェックだけだ。

 仕事を始める前に、薪は机の一番下の引き出しから写真立てを取り出した。青木が来るときには隠してある写真の中の親友に笑いかけ、自分の誓いを新たにする。
「鈴木。僕は上に行くからな」

 親友の野望を知った2年前から、薪はそれまで興味のなかった出世に積極的になった。
 上層部に媚びへつらったり、自分のプライドを切り売りしたりするほど貪欲になったわけではないが、特別承認や昇格試験を受けることは拒否しなくなった。薪のことを目に掛けてくれている官房長の引きもあって、薪は来年には警視監の昇格試験を受験できる手筈になっている。そのための勉強も既に始めている。今度は大学のときに受けた国家Ⅰ種のように、簡単な試験ではない。
 エリートの登竜門の国家公務員Ⅰ種試験を簡単だと言い切る薪の頭脳はやはり人間離れしているが、その薪にしてみても警視監の昇格試験はきつい。薪が過去の問題を見てヤバイと思ったのは、実はこの試験が初めてだ。

 試験勉強もしたいが、とりあえず今は明日の会議だ。
 会議は嫌いだが、出世のためには仕方がない。自分の顔を売って有能さをアピールして、自然に重要なポストを手に入れるようにしなければ。そのためにはしっかりとした会議資料を作り、重役たちに提供してやることだ。

 PCの電源は入ったままになっていた。マウスを動かすと、画面が明るくなる。……訳の分からない文字の羅列が、最後のページに打ち込まれている。
 これは……自分でやったんだな、きっと。あいつがヘンなことしてくるから、夢中でいろんなところを叩いちゃったんだ……。
 ひとりで赤くなりながらその部分を消去して、薪は気持ちを切り替えた。

 キーボードの上を細い指が瞬速で走る。
 明日の会議の焦点になるであろう、テロ対策マニュアルについての明確な具体案がいくつも打ち出され、投げかけられるであろう質問に対する答えが薪の頭の中で反芻される。回答を裏付ける資料を、自己が記憶する膨大な犯罪関連の記録の中から探り当てる。警察庁のデータベースにアクセスし、自分の記憶を確かめると同時にその文献をプリントする。
 夜中の薪の努力を、写真の中の親友だけが見守ってくれていた。



*****




 翌日の会議は10時からの予定を10分ばかり超過した。
 どういった風の吹き回しか、滅多に会議には顔を出さない小野田官房長が、今朝は出席するとの意向を伝えてきたからである。
 コーヒーを飲んでいくから少し待っててね、と会議室の電話から小野田ののんびりとした声が聞こえてきて、全員が席に着いた状態で主賓の到着を待つことになった。

「やあ、ごめんごめん。待たせちゃったね」
 全員が立ち上がって頭を下げる。官房長の席は一番奥だ。が、小野田は途中で足を止め、この会議室の中にあっては若さで悪目立ちする、亜麻色の髪の警視長に話しかけた。
「今日の会議、君が主役だって聞いたから。我儘言って出てきちゃった」
「あとで僕が中園さんに叱られるんですね」
「中園は君を気に入ってるから、叱ったりしないよ。でも昼飯には付き合わされるかもね。ぼくにも資料ちょうだい」
 こそこそと身内の会話を交わして、資料を手渡す。いろいろあって、薪は官房長にも主席参事官の中園にも目を掛けてもらっている。それを快く思わない輩もこの部屋の中には多いが、小野田以上の高官が此処に存在しない以上、誰も表立って薪を責めることはできない。

「それでは会議を始めます。お手元の資料をご覧ください」
 今日の司会は薪だ。
 テロ対策は、警察庁における新しい取り組み課題である。複雑化する国際社会の中で、テロ対策に一歩遅れをとる日本を憂えた総理大臣直々の命令で、警察庁が新たな対策を練ることになった。これは官房室から薪に与えられた、大きな課題である。
 この草案が通れば、薪の才覚の程は上層部のその上まで届く。薪の警視監昇任に文句を言う者もいなくなる。外野は実力でねじ伏せる――― これは官房長の指示だ。
 薪はできれば敵は減らしたいと思っているが、なぜか年々増える一方である。困ったものだ。まあ、小野田のような強力な味方も増えているから、差し引きはマイナスではないが。

 薪が用意した会議資料は完璧だった。草案もかなりの完成度で、法律の専門家が見てもこのまま法案として通用するのではないか、と思われるくらいだ。
 しかし、そう簡単に通してはくれないのがこの会議である。ここは建設的に議論を交わす場ではなく、互いの足を引っ張り合い、自分が上に行くための土台を築く場所だからだ。

 案の定、薪の流暢な説明を遮って、警備室局長の立花が口を挟んできた。
「そう簡単にいくかね。実際の現場も知らない君のような人間が、SPの訓練にまで口を出すというのはどうかと思うがね。彼らは能力も高いが、プライドも高いからね」
 SPの所属は警備室4課であるから、警備室局長の意見も無理はない。しかし、薪は4課の課長とは既に何度も意見を摺り合せている。局長には課長からその報告書が上がっているはずだから、これは明らかに薪に対する牽制だ。

「資料の5ページをご確認ください。そこにあるように、今の日本のSPは海外のものに比べて甘すぎます。訓練段階からの改善が必要です。訓練の内容については、4課の木村課長と話し合いの上で決定しました。それに、これは官房室の草案です。私個人の名前は出ません。警備部側の反感はないと思われます」
「しかし君ね」
 なおも言い募ろうとする警備部局長を、小野田がやんわりと制した。
「いいんじゃない。これ、よくできてるよね、立花君」
「……はあ」
「草案はぼくの名前で出すから。そうだよね、薪くん」
「はい」

 この場ではそう言ったが、小野田との間には既に密約が交わされている。
 草案は連名でという小野田の申し出を、自分の若輩を理由に最初は断った薪だったが、これは官房長命令だから、といつものように押し切られてしまった。重役会議の席では官房長の名前で提出することにしてその場を凌ぎ、そのあと薪との連名で出せばいい。
 出してしまえばこっちのものだ。小野田らしい人を食った作戦だ。

 ひとより10年も早く警視長に昇任した薪には、敵が多い。薪の昇任は官房長の特別承認がきっかけであり、昇格試験の結果で周囲を瞠目させた明晰な頭脳のおかげだ。薪は初の警視長昇格試験の現役合格者であり、最高得点記録保持者だった。
 が、その結果に感服しないものも多い。試験の結果だけで警察の仕事が務まるわけではない。頭でっかちの生意気な若造――― 薪をそういった眼で見る重役たちに囲まれての会議は、薪にとっては針の筵だ。末席に端坐していてもその状態なのに、今日は自分の議案を通すため、主役を務めなければならない。
 そんな薪を心配して、小野田は殺人的なスケジュールを調整してここに来てくれたのだ。コーヒーを飲んでから、などと電話では呑気なことを言っていたが、それはもちろんフェイクで、本当は急ぎの書類をやっつけて駆けつけてくれたに違いないのだ。

 薪の提案に反発する重役たちを次々と丸め込む小野田を見て、薪はそれを確信した。
 それほどまでに自分を買ってくれている小野田に、何としてでも報いたい。来年の警視監昇格試験は必ずパスしなければ。それぐらいしか今の薪には、小野田を喜ばせる方法が見つからない。
 何度か打診のあった愛娘との結婚話を承諾してやれれば一番良いのかもしれないが、そうすると今度は、普段は大人しいくせにキレるととんでもない行動に出る薪の困った恋人が、何をしでかしてくれるか分かったものではない。薪にもそんな気はないし、愛のない結婚なんて相手にとっても悲劇でしかないだろう。

 会議は2時間ほどで無事に終了し、草案はこのまま内閣に提出されることになった。草案自体のレベルの高さもあるが、やはり小野田の力は大きい。
 会議が終了した後、薪は小野田に深々と頭を下げた。
「ありがとうございました」
「礼を言うのはぼくのほうだよ。この段階で、ここまで煮詰めたものを持ってくるとは思わなかった。法学部の教授に声を掛けといたんだけど、必要なかったみたいだね」
「専門家に見ていただけるならありがたいです。僕の法律の知識には、かなりのブランクがありますから」
 薪は今年で41歳。いくら薪が東大の法学部を首席で卒業したとはいえ、20年も前の知識では、この草案は作れない。この草案の為に薪がどれだけの時間を法律の習得に費やしたか、小野田にもよく解っている。だからこその労いの言葉なのだ。

「この資料は、もらっちゃっていいのかな」
「はい。後でもっと詳しいものをお届けしますが、今日のところはそれをどうぞ」
「本当にもらっていいの?」
 小野田の含みのある言い方に、薪は首をかしげた。
 なんだろう。こんな回りくどい言い方をする人ではないのだが。
 周りに誰もいないのを確かめて、小野田は一枚の写真を薪に見せた。
「――― っ!!」

 例の写真だ。
 小野田のところに配布されたのは不幸中の幸いというべきか、神様の悪戯というべきか。どちらにせよ、薪は穴があったら入りたい。顔から火が出そうだ。

「この写真も僕がもらっていいのかな」
「いや、あのっ、違うんです、この写真はカエルが」
「蛙?」
「つまりその」
 薪は言葉に詰まる。
 とても説明できない。この写真が資料に混ざってしまった本当の理由は、もっと言えない。

 薪が親友に襲い掛かっているようにしか見えない写真を返してよこすと、小野田は少しだけ真面目な顔つきになって言った。
「この資料、君んとこの部下と一緒に作ったんでしょ。もちろん原案は君だろうけど、ホチキスの止め方が違う資料があったから」
 自分の席に着くまでに他の出席者の席を見て、そこまで気付くとは。やはりここまで上り詰める男は、凡人ではないのだ。
「気をつけなさいよ。君は敵が多いんだから。ぼくの力にも限界があるんだよ」
「……すみません」

 小野田の心配はよくわかる。
 自分と青木の関係を、この頼りになる上司は知っている。その上で見逃してくれている。それは薪の実力を認めて自分の後継者に育て上げたいと思っていることと、青木の存在が今の薪を支えていることを察しているからだ。

「このミスは高くつくよ」
 小野田の固い声音に、薪の秀麗な眉が不安げに寄せられる。何を言われるかも怖いが、彼に余計な心配をかけてしまったことが悔やまれる。
「中園との昼食に、ぼくも混ぜてもらうとしよう。もちろん薪くんの奢りで」
「……何を召し上がりますか?」
 いつもの口調に戻った小野田に、薪は苦笑で応えた。どうやら今日も、小野田は自分を見逃してくれる気らしい。
「職員食堂のSランチ」
「そんなのでいいんですか?」
「おいしいよ、あそこのランチは」
 本当に職員食堂で食事をする気だろうか。官房長と首席参事官が席に着いたら、その周りの職員たちは食べた気がしないだろう。……面白そうだ。
 
 小野田は中園を携帯電話で呼び出すと、カフェテリアで落ち合う約束を取り付けた。立ち上がって管理棟の方へ歩いていく小野田に、薪も後ろから着いて行く。
「そうだ。あの写真のことは、中園には黙っといたほうがいい?」
「できればその方向でお願いします」
「じゃあ、口止め料にケーキも食べていい?」
 どこまでも惚けた男だ。余裕のある男はカッコイイ。自分もこれくらいの余裕を持ちたいものだ。

 しかし。問題はこの写真だ。
 確かあのとき、机の上に伏せて置いた。その後、青木があんなことを……気がついたら資料が幾枚もくしゃくしゃになっていたし、PCには訳の分からない文字が打ち出されていたし、きっとこの写真も無意識のうちにレジュメに混ぜてしまったのだろう。

 青木のやつ、どうしてくれようか。
 仕掛けたのは自分の方だったはずだが、薪の思考にはそれはない。自分はちゃんとしたのに、一度で満足しない青木が悪いのだ。

「あ、薪くん。写真のことは黙っててあげるけど、その首の方はうまい言い訳を考えときなさいよ」
「は?」
「ほら、ここ」
 ワイシャツの後襟を引かれ、その奥を指で差される。深く頭を下げないとわからない位置だが、さっき小野田に礼を言ったときに見えてしまったらしい。
 小野田の言う意味がようやく分かって、薪は今度こそ真っ赤になった。
 あれほど痕はつけるなっていつも言ってるのに……青木のやつ!
「若いっていいねえ」
 もう、何も言えない。うつむいて手で顔を隠すのが精一杯だ。

 春になったら、と薪は決心する。
 もしも春まで自分たちの関係が続いていたら、青木をこの写真の親友と同じ目に遭わせてやる。雪子さんと岡部にも手伝ってもらって、押さえつけて無理やり中に突っ込んでやる。雪子さんはまた写真を撮るだろう。そうしたら、小野田さんを心配させる写真がもう一枚増えることになるな、と薪は心の中でにやにや笑う。

 そんなふうに。
 思い出を重ねて、触れ合って。人は生きていくのだ。

 ――― 鈴木。僕はまた一歩、おまえに近づくぞ。

 明るい日差しに包まれたカフェテリアの窓際の席で、中園が待っている。薪を見てにっこりと笑う。自然に浮かんでくる微笑と共に、薪は首席参事官に会釈する。
 秋空が今日も、青い。



―了―



(2008.10)



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プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
毎日たくさんの拍手をありがとうございます。励まされてます。
おかげさまで、しづは元気で仕事してます。(10/28)
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