GIANT KILLING (1)

 あんまりアホな話ばっかり公開してると本物のアホだと言うことがバレそうなので、薪さんのお仕事の話をひとつ。
 
 みなさん、『GIANT KILLING』てご存知ですか?
 スポーツ用語、主にサッカーに使われる言葉で、直訳すると「王者殺し」。 弱小チームが強豪チームを倒すことを言うんだそうです。 サッカーは得点するのが難しいスポーツなので、それが起きる確率が高いとかで、だからサッカー用語みたいになってるんですね。
 この題名のサッカー漫画もあって、アニメにもなったんですけど、観てた人いないだろうなあ。(^^;


 書いたのはアニメがBSでやってた頃だから、2年前の7月です。 
 第九が解体された今となっては賞味期限が過ぎてる気がしますけど、しかもカテゴリは雑文なので意味もないんですけど、よろしかったらどうぞ。






GIANT KILLING (1)






「釈放だ」
 警視総監の剣呑な声が響いた。
 予想はしていた。それに対して自分が反論するであろうことも、この男は予想していると知っていた。

「総監。もう少しだけ、時間をください。せめてあと1日。必ず証拠を掴んで」
「確実に証明されるかどうかも判らないMRIの画に、現役の大臣を拘束する力があるはずがないだろう。拘束中の秘書は釈放。この件に関して、これ以上の捜査は不要だ。下がりなさい」
 相手が悪いのは解っている。しかし、これは殺人事件なのだ。被疑者の職業が捜査に影響を与えるなど、あってはならない。薪は食い下がった。

「これを見て下さい。画面右下の男、顔は映っていませんが、この服は当日の朝、被疑者が着用していたジャケットと同じものです。今はここまでですけど、もう少し解析が進めば」
 年若い警視長が机に広げた何枚かの写真を、総監は押しのけた。これ以上、話を聞く気はない、ということだ。
「こんな不確かな証拠で、現役の外務大臣を引っ張れというのか」
「責任は僕が取ります、僕の首を懸けてでも」
「思い上がるな」
 警視庁の頂点に立つ男が、厳かに言った。それは静かな恫喝だった。
「君が警視長に昇任したところで、第九の地位が向上したことにはならない。あくまで第九は研究室、警察庁の出先機関に過ぎんのだ」

 その気になればいつでも潰せるぞ―――― 声にならない脅迫を受けて、薪は口を噤む。引き下がるしかなかった。
 今まで、何度こうして煮え湯を飲まされてきたことだろう。正義の名の下にあるはずの警察機構、しかしその実態は、出世と保身にまみれた汚い裏取引がまかり通る世界。自分が警察を離れた後も利用できる有力なツテには決して捜査の手を伸ばさない、それが上層部の意思だ。

「……っ!」
 上からの圧力に屈して膝を折るしかない自分の存在が、とてもちっぽけなものに思える。ここまで捜査を続けてきた部下たちの努力を、室長の自分が摘まねばならない、屈辱に震えるこの口唇で、捜査中止の命を告げなければならないのだ。
 これまでにも何度か、薪はこの耐え難い職務をこなしてきた。自分ひとりのことなら決して譲らない、しかし第九を、部下を守るためには必要なことだった。

 過去に幾度も試みたように、薪は研究室に帰る前に中庭に出た。第九の建物が見える場所に大きく枝を繁らせた、一本の樹。そこはかつての親友と、自分たちの未来について語った思い出の場所だ。

 ―――― すごいよな、第九だぜ。最先端の捜査方法だぜ。

 薪の脳裏に、いつか親友と話した会話が甦る。懐かしい声に涙腺が緩みそうになり、薪は俯いた。

 ―――― 被害者が死んでも「おしまい」じゃない。今までヤブの中だった犯行動機や犯人が。

 黒い瞳を輝かせて、未来の捜査に夢を馳せていた親友の姿。やさしい彼が望んでいたのは、非業の死を遂げた被害者の無念を晴らし、その遺族たちの未来にほんのわずかでも寄与できればと。
 自分の大切なひとの命の鼓動が誰の手によって止められたのか、遺族には知る権利がある。知ったところで亡くなった人は還らない。だが、それを受け止めることができれば、前に進める。どんなに深い悲しみからも、前に進む気概があれば抜け出せる可能性が生まれる。
 しかし、闇に埋もれた事件の被害者には、その活路は見出せない。何故死んだのか、誰がこんなことをしたのか、どうして彼が被害に遭わねばならなかったのか、何も分からず何も知ることができず。被害者の無念は残り、遺族の時間は止まる。

 神のごとくすべてを見通すMRIは、それを防ぐ最終兵器だったはずなのに。そう信じたからこそ、倫理や道徳を乗り越えて、この職務に身を投じてきたのに。

 ―――― これからはわかる。何でもわかる。

「分からないよ、鈴木」
 昔こんなとき、親友の胸に額を預けたように、薪は固い樹皮に額をあてた。そこには当然、今の薪に必要なぬくもりも労わりもなく。物言わぬ静かな生命が、彼の慟哭に関係なく端座しているだけだった。
「見ることすらできない……被害者の視界さえ、藪の中なんだよ」
 かつては親友の温かい胸に吸い込まれた涙が、風に散った。彼を失ってから薪はたったひとり、この痛苦に耐えてきた。薪の涙を拭いてくれるひとは、もういないのだ。
「鈴木……ごめん。ごめんな……」

 僕はおまえの理想を叶えてやれない。
 おまえの人生を奪っておきながら、おまえの夢ひとつ実現できない。おまえが自分で成し遂げたかっただろう、MRI捜査による被害者の魂の救済を、せめて僕が代行しようと思ったのに。

 僕の手は小さくて、あまりにも小さくて、ほんの一握りの人々の最期しか掬うことができない。
 そのわずかな成果でさえ、この手から零れ落ちていく。意志とは裏腹に大きく開いた指の狭間から、落ちて落ちて落ちて。
 
 落ちて行く彼らを見送りながら、薪は自分の無力を嘆く。
 許して欲しいと願うことすらおこがましい。ならば、自分は最下層に堕ちよう。そこに落とされた彼らの痛みを知ろう。
 闇に葬られた事件の犠牲者たちの、せめてもの慰みに。
 



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

GIANT KILLING (2)

 お暑い中、本日もお運びありがとうございます。

 みなさんにいただきました拍手が、とうとう3万を超えまして!
 どうもありがとうございますー!! と舞い上がりつつも、今書いてる話は2万5千のお礼SSだったりして。(しかも内容的に超ビミョー)
 すみません、3万のお礼はいつになるやら分かりません。
 でも、いっぱい感謝してます!! いつもありがとうございます!!!



 ところで、
 お盆はお休みの方が多いと思うのですけど、何かと忙しいですねー。
 わたしもけっこう忙しいです。 漏水当番とか電子入札の準備とか積算とか。 ←盆、関係ねえ。
 今日は漏水当番で事務所にいなきゃなので、ゆっくりSS書けます~。 
「どうせ事務所にいるなら仕事しろ」とオットがうるさいのですけど、会社のみんながお休みなのに自分だけ仕事なんて、そんな薪さんみたいなことやってられません。(笑)






GIANT KILLING (2)






 
 自動ドアから現れた華奢なシルエットに、モニタールームの全員の視線が集まった。副室長の岡部が、室長不在の間の進展を報告する。
「室長。4日の深夜に、気になる画が」
「みんな、ちょっと聞いてくれ」
 氷のような無表情で報告を遮った室長の横顔に、職員たちはこれから彼が告げるであろう言葉を予期する。
「現在、捜査中の三鷹の殺傷事件だが」
 続く言葉は分かっていた。それは彼らにとってとても不快な言葉だったが、誰一人室長の言葉を邪魔するものはいなかった。それを一番望んでいないのは、決定を告げる本人であることを、彼らはみな知っていたからだ。

「青木はどうした」
 新人の不在に気付いて、室長は話題を転じた。もしも外に出て実地調査をしているようなら直ぐに帰るよう命じなければいけない、そう思ってのことかもしれない。
「仮眠室です。あいつ、3日も寝てなかったみたいで」
「貧血か」
「ええ、多分」
 本当は机の上で熟睡していたのを、4人がかりでベッドに運んだのだ。普段なら床に転がしておくのだが、進行中の捜査の真っ最中に執務室で眠っていたら、超ド級のブリザードが吹き荒れるに違いない。とばっちりはごめんだ。

 青木の昏倒を聞いて、薪の無表情の仮面にヒビが入った。ぎゅ、とくちびるを噛んで、辛そうに眉を寄せる。伏せられた亜麻色の瞳が、年若い捜査官の席を映した。
 急な失調を物語る、雑然と散らかった机上。幾枚もの写真と、捜査資料に手書きのメモ。
 室長はゆっくりと彼の席に歩み寄って、それらを悲しそうに眺める。

「……これは?」
 被疑者の顔が車のサイドミラーにしっかりと映っている写真を手にして、室長がこちらを振り返る。目の合った曽我が、淀みなく説明した。
「青木が見つけたんです。それ見つけて、気が緩んだんでしょうね。一気に眠気が勝っちゃったみたいで。プリントアウトしながら、もう爆睡してて」
「ば、バカ! 青木が居眠りしてたって、薪さんには秘密だって言っただろ」
「ああっ、しまった!」
 例え証拠を見つけても、警視総監から下された決定は覆らないことを、彼らは今までの経験で知っている。だからこの間抜けなやり取りは、室長の痛みを少しでも和らげるための緩衝材だ。

「室長、眠ったのは青木だけです、ブリザードは仮眠室限定でお願いします!」
 友情は脆くも崩れ去り、ひたすら保身に走る第九の職員たちを尻目に、薪は仮眠室へ入った。
 4つあるベッドの右奥、大きな身体を横たえて、黒髪の青年が眠っている。長い手足がベッドからはみ出している。シングルサイズでは、青木の身体には小さすぎるのだ。
 疲れ果てて眠っているはずの青木の顔は、どことなく満足げで。きっとそれは、自分が見つけ出した証拠が事件解明の役に立つと信じてのこと。あの写真がシュレッダーに掛けられて燃やされる運命にあるなどと、夢にも思っていないのだろう。
 
 メガネを外して前髪を額に下ろして目を閉じたその寝顔に、自然に重なった面影に、薪は胸を熱くする。繰り返し繰り返し、薪の中で木霊するその音声。

 ―――― やりがいのある仕事だよ。とてもやりがいのある仕事だ。

 仮眠室へ行ったきり帰ってこない室長を気にして、職員たちはそっと中を覗きこむ。室長はじっとベッドの傍に立ち尽くしていたが、不意に強い声で命令した。
「マジックペン、よこせ。油性のヤツ」
 唐突な要求に顔を見合わせるが、第九の面々は室長の気まぐれに慣れている。差し出した手のひらに与えられた筆記具のキャップを、薪は迷いなく開けた。
 ペン先の柔らかいフェルトが、すっきりと開かれた眉の間を黒く塗りつぶした。すうっと一直線に伸びた眉毛の上を何重にもなぞり、見事なカモメ型にその形を整えると、
「なかなかのオトコマエだ」と薪は呟いた。

「10年早いんだよ、半人前が。おまえなんかに言われなくたって、解ってるさ」
 眠っている男におかしな言いがかりをつけて、室長は背中をしゃんと伸ばした。大股に足を運び、勢いをつけてドアを開く。モニタールームを走り抜けるようにして、薪は研究室を出て行った。




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GIANT KILLING (3)

GIANT KILLING (3)







 1時間も経たないうちに引き返してきた若き警視長に、総監は再び迫られていた。
 先刻とは、顔つきも声音もまるで違う。それは彼の右手に握られた幾枚かの写真の力か、この半時ほどの間に彼を見舞った何かの作用か。

「証拠は挙がったんです。この画の発見時刻は、中止命令が下る前です。これは命令違反ではありません」
「それは屁理屈と言うのだよ」
 確かに、それは決定的とも言える証拠だった。しかし、問題の焦点はそこにはない。証拠が見つかろうが見つかるまいが、この被疑者が政界にもたらす影響の前には、どうでも良いことだった。
 それを理解できない愚鈍な警視長は、まだ何やら騒いでいる。

「僕の部下たちが3日も徹夜して、やっと確たる証拠を手に入れたのに、今度はそれを揉み消せなんて。僕だけが知っている事実ならともかく、彼らにまで隠蔽の片棒を担がせるなんて、僕にはできません」
 まったく、どうして上層部はこの男の昇進を許したのか。彼の階級が上がるほどに、保守派の彼らの首は絞まっていく。それが予想できなかったのだろうか。
「責任は僕が取ります。事件の報告書を提出させてください」
「君ごときの首でどうにかできるくらいの相手なら、わしとて反対はせんよ」
 逆に都合がいいくらいだ。何かと意見の合わない第九の室長の首を挿げ替えることができたら、総監の職務は、今よりずっとやり易いものになるに違いない。

「ならば、あなたの首も懸けてください」
 警視庁の古だぬきは、あんぐりと口を開けた。目の前で静かな怒りに震える男が何を言ったのか、咄嗟には理解できない。
「犯罪を撲滅し国民を守る警察が、そのトップに立つ人間が、正義を貫かないでどうするんです。誰がそんな警察を信用してくれますか」
 薪の口調は、決して激しいものではなかった。脅しつけるような威圧感も、同情を買うような哀願もなかった。
 そこにあるのは、純粋な熱意だった。

「ま、薪……きさまっ……!」
 怒りのために蒼白になった顔を引き攣らせて、総監が席を立つ。重厚な執務椅子が、ガタン、と耳障りな音を立てた。
 じっと自分の目を見つめる亜麻色の瞳の中に、先刻は見られなかった彼の覚悟が燃えている。その頑迷な輝き。
 こんな目で見られたのは、久しぶりだ。

「今回きりだ。二度は無いからそう思え」
「ありがとうございますっ!」
 即座に礼を言われて、総監は面食らう。
『そう思うなら、二度とこんな理由で中止命令を出さないでいただきたい』
 皮肉屋で、しかも青臭い彼からは、そんな言葉が返ってくるものと総監は予想していた。しかし、そのときの彼はポーカーフェイスが信条の警察官僚の風上にも置けず。頬を紅潮させた少年のような笑顔で、亜麻色の瞳を希望に輝かせていた。

「感謝します、総監」
 ばっと頭を下げると、急いで部屋を出て行く。一刻も早く部下たちにこの事を報せてやりたい、そんな思いから彼の足は走り出す。
「廊下を走るな!」
 閉めたドアの外に総監の声が聞こえたかどうかは疑問だが、バタバタと響いていた足音は静かになり、総監室に静寂が戻ってきた。
「ったく、小学生か、あいつは」
 吐き捨てる口調で言う総監のたるんだ頬には苦笑が浮かび、絶対に警視正に降格してやる、と毒づく言葉とは裏腹に、妙にサバサバした仕草で執務椅子にもたれかかった。

「くくくくっ……いやー、笑いを堪えるのがこんなに苦しいとは。死ぬかと思いましたよ」
 くつろいでいた総監の顔つきが、一瞬で固くなる。奥の部屋から笑い声と共に現れた男は、明らかに自分の敵だ。
 彼の名は中園紳一。階級は警視長、役職は官房室付首席参事官。つまり、小野田官房長の現在の右腕だ。

「相変わらず面白いことやってくれるねえ、薪くんは」
「まったく、面倒な子ですな。ハチの巣を突いて騒ぎを起こして、その後始末はこちらに被せる気でいる」
 薪が小野田官房長の後継者として育てられつつあることは、衆目の知るところだ。彼の我が儘がまかり通る裏側には、この大物の力が働いている。
「だから、言ったじゃないですか。警視庁で立件が不可能と判断するなら、警察庁で引き受けますって。もともと第九は、うちの管轄機関ですしね」
 総監の顔が不快に歪む。
 先刻この男は、薪が総監室を辞したあと入れ替わりにやってきて、そんな勝手なことを言い出したのだ。

『捜査はこちらで引き継ぎます。もちろん、責任は官房室でとりますよ。あなたと同じ、警視監の首だ。文句はないでしょう』
 そんなことが、できるはずがない。
 この件は、既にマスコミに洩れている。捜査をしていたのが警視庁であり、MRI捜査を発動させるまでに被疑者を追い込んだのは警視庁の捜査一課だ。それが、犯人が現役の大臣とわかった途端に捜査を中断し、さらに警察庁の継続捜査で犯行の証明が為されるとなると、これでは警視庁は完全な道化役だ。
 しかし、あの段階では確たる証拠が摑めるという確証もなかったはず。その状態で責任の引継ぎを申し出た中園の、いや、官房室の真意は。
 そこまで、薪を信頼しているのか。それとも、警視庁のプライドを読んでのことか。

「察庁(サッチョウ)さんの手を煩わせるなど、とんでもない。もちろん、そちらのお心遣いには感謝しますが、これは初めに我々が手掛けた事件ですから。道理から言っても、うちがカタをつけるのが当然かと」
 謙虚な言葉を選びながら、総監は幾重にもガードを固める。政敵の前で弱味を見せてはならない。
「官房長殿にも、くれぐれもよろしくお伝えください」
 言葉の裏側に、いくつもの声にならない呪詛を隠し、総監は中園の目を見る。自分と同じ、冷たく、奥底の知れない瞳。

 先刻の亜麻色の瞳との、それは何と大きな隔たりだろう。
 単純で、純粋で、迷わない瞳。
 あれが警視長? ……まったく、迷惑な男だ。

「ほだされちゃダメですよ、総監」
 いつの間にか、頬が緩んでいたらしい。不愉快な冤罪を掛けられて、再び総監の顔つきが厳しくなった。
「おかしなことを言いますな。わしが薪くんに傾いた方が、あなたたちには都合がいいはずだが」
 中央の権力争いは、次長・官房長・警視総監の3つ巴。が、どちらかというと総監は、保守派の次長を支持している。自分たちの勢力を増したいのなら、総監を取り込むのが手っ取り早い方法だと思われるが。
「総監が次長よりの立場を取っているから、今の警察庁と警視庁の関係はうまく行ってるんです。間違っても官房室に靡くようなことはしないでくださいよ。現段階で次長に全面戦争を仕掛けてこられたら、こちらもお手上げですから」
 たしかに、次長と官房長の勢力は7:3と言ったところだ。しかし、総監が次長側についているから次長は焦らず、小野田派を見逃している部分もある。
「まあ、もちろん、相手も無傷では済ませませんけどね」
 食えない男だ。
 小野田は薪のような男に肩入れするところからも、捨てきれない甘さが窺い知れるが、この中園という男は冷酷極まりない。目的のためなら何でもする男だ。敵に回したくはない。

「大捕り物の準備でお忙しいでしょうから、これで失礼しますよ。抜け穴を掘られないように、頑張ってください」
 不遜に笑って、中園は部屋を出て行った。静まり返った広い部屋で、総監は背もたれに背中を預け、肩の力を抜く。
 中園の、もとい官房長の圧力が掛からなかったら、中止命令は覆らなかった。これは総監の本意ではない。しかし、この気分の軽さはどうしたことだろう。

「今ごろ第九はお祭り騒ぎだろうな。ったく、忌々しい」
 悪意たっぷりの口調で呟きつつ、警視庁の最高権力者は、笑った。




*****


 ご指摘いただいた通り、この話のあおまきさんは付き合ってないんですけどね。 何故か中園が出てくると言う矛盾。 (付き合ってたとしても、中園が出てくる頃には薪さんは、青木さんに鈴木さんを重ねたりしない)
 すみません、雑文の設定はいい加減なんです。(^^;






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ジャンル : 小説・文学

GIANT KILLING (4)

 終章ですー。
 読んでいただいてありがとうございました。




GIANT KILLING (4)







「捜査続行だ!!」
 ドアが開くと同時に、薪は高らかに宣言した。一瞬の静寂の後、モニタールームに歓声が満ちる。

「本当ですか!」
「やった! おい、さっきの画! おまえも見つけてただろう、ジャケットの返り血」
「じゃあ、これも証拠になりますよね? 5日の早朝の」
 俄かに活気付いた研究室に、活発な声が飛ぶ。プリンターがフル回転して、次々と証拠の画が提示されていく。
 彼らが自分を信じて、あれからも捜査を続けていたのだ、と薪は知る。
 ぶつかってみて、良かった。何度打ちのめされても、僕にはこいつらがいる。こいつらが、僕に勇気を与えてくれる。僕を強くしてくれる。

 自分がいなくなった後の警視総監室で何が起きたか、また、中止命令の撤回の裏に働いていた陰の力を知る由もない薪は、ただ純粋に捜査の続行を喜び、眼を輝かせてモニターを見つめる。
 積み重ねてきた努力は、無駄にはならない。葬られる事件をすべて明らかにすることはできないけれど、こうして少しずつ、その数を減らしていくことができたら。

「薪さんっっ!!!」
 後ろからびっくりするような大声で怒鳴られて、薪は思わず椅子の上で飛び上がった。この声は青木だ。目が覚めたらしい。起きて、髪を整えようと鏡を見て、イタズラ描きに気付いたのか。
「ひどいですよ、顔に落書きなんて! 子供じゃあるまいし!」
「捜査中に居眠りなんて、気を抜くおまえが悪い」
「だからって、こんなに顔中描くことないじゃないですか!」
「顔中? ……あははははっ!! なんだおまえ、その顔!」
 青木の抗議内容に不審を覚えて、薪は振り返った。見ると、青木の顔は単なるカモメ眉毛のダサイ男から、ヒゲともみ上げをボウボウに伸ばされた原始人のような顔になっていた。額には横に3本のしわが描かれ、目の周りには睫のつもりか、幾本もの斜線が添えられている。それがきちんとスーツを着て角縁のメガネを掛け、ユデダコのように真っ赤になって怒ってる姿は、薪でなくても噴飯ものだ。
「なに言ってんですか、自分でやっといて!」
「こ、こっちに来るな、笑い死ぬっ!!」
 部下は上司の姿を見て育つ。良いところばかり受け継げばいいが、そうはいかない。大抵は、短所7割長所3割の割合で似るものだ。薪の思い込みが強いところや頑固なところ、そしてシャレにならない悪ふざけも。

「室長、資料が揃いました!」
「よし、先にデータを伝送しとけ。岡部、捜一にハッパかけに行くぞ!」
 薪は資料を抱え、岡部を引き連れてモニタールームを出て行く。背筋を伸ばし、その横顔を未来への希望で輝かせて。

 ―――― すごいよな、第九だぜ。最先端の捜査方法だぜ。

 鈴木。
 おまえと夢見たMRI捜査の理想を。僕がそれを現実にしてみせる。
 僕の手はこんなに小さくて、とても一人じゃ無理だけど、僕には頼もしい仲間がいる。何本もの手がある。僕と一緒に被害者たちの最期を掬ってくれる手が。たとえ僕の手から零れ落ちるものがあったとしても、それを受け止めて、僕に返してくれる手が。
 彼らが、僕の背中を押してくれる。だから僕は走り続けることができる、恐れずに挑むことができる。

 おまえと見た夢を、こいつらと一緒に追い続けるよ。
 僕の命の続く限り。

『Let’s  start  now  GIANT KILLING 』




 ―了―



(2010.7)




*****



 舞台裏を書くほどの話じゃないので、こちらにちょこっとメモ書きを。

 この雑文は「ジャアントキリング」というアニメの主題歌『 My Story ~まだ見ぬ明日へ~ 』を聞いて書いたんですけど、(どの辺が? と言われてましても)
 わたし、原作のジャイキリは未読でして。 アニメも見たのが2年くらい前なので、監督のタツミさんくらいしか覚えてません。 Nさん、Rさん、めっちゃすみませんです。(^^;


 この歌は、とってもいい曲です。 
 サッカー漫画の主題歌なので応援ソングになってて、聴くと元気がでる。 原作読んで凹んだときに、よく元気付けてもらいました。 超オススメです。

 で、薪さんとの共通点が、(←関連付けずにいられない病)
 全身全霊を傾けてスキルアップに努めるイレブンの様子に、悩みながらも捜査を続ける薪さんのひたむきさが重なることもさることながら、
 やっぱり2番のこの歌詞。

『明日を待ちきれなくて もがいたあの夜 人知れず流した 涙に夢は宿る
時が流れていつか 挫けそうな時 君と見た景色が 胸の奥よみがえる』

 あああ! 鈴木さんっ!! ←ドツボ。

 意に副わぬ隠蔽工作にどれだけ涙しても。
 薪さんはこれからも、鈴木さんと一緒に夢見たMRI捜査の理想を懸命に追い続けていくんだろうな、と思ってこの話になったのでした。
 
 第九が解体された今となっては、こんな風に同じ場所で捜査をする彼らを見ることはできなくなってしまいました。 それはとても寂しいことですけど、でも、
 もっと大きな意味合いで彼らは共にある。 薪さんと第九メンズは、これからも一緒に戦っていくんですね。


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プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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