青木がヘタレなのはどう考えても薪が悪い(1)

「極甘あおまきさん大放出したいけどないものは出せないその2」でございます。
 実はこちら、その1の別バージョンです。(「その1ってなんだっけ」と思われた方はそのままに、「ああ、あれね」と思われた方は早く忘れてくださいー!)
 うちのあおまきさんには、こっちの方が合ってると思う。

 題名は「私がモテないのはどう考えてもおまえらが悪い」略して「わたもて」のパクリです。あのアニメ、めっちゃツボりました(>m<)



青木がヘタレなのはどう考えても薪が悪い(1) 





 ヘタレの代表みたいに言われますけど、オレだって好きでヘタレなわけじゃないです。でも、薪さんの前だとどうしてもそうなっちゃって。
 別に保身に走ってるわけじゃないんですよ。そりゃ薪さんはおっかないけど、それ以上にオレは薪さんが好きですから。嫌われるのが怖いからって言うのともちょっと違う、いえ、もちろん嫌われたくはないですけど、それでヘタレ男になってるわけじゃないです。

 我慢ばかりしてると暴発する? いや、決してそんなことは。
 我儘を言うのは薪さんばかり、ええ、それは当たってますけど、我慢することも多いですけど、でもやっぱりちょっと違うんです。
 ええと、どう言えばいいのかな。オレ、あんまり説明うまくなくて……。

 え、分かりやすい事例ですか?
 そうですねえ。理解してもらえるかどうか微妙ですけど、先週の日曜日、こんなことがありました。



*****



「キ●ガイか、おまえは」
 斬新な切り返しだと青木は思った。恋人に欲情してキ●ガイ呼ばわりとは。
 これまでに何人かの女性と付き合ったが、その中の誰にもこんな言い方で拒否されたことはなかった。性別の差と言うよりも人間性の差だと思う。

「僕が何しにおまえの家に来たか、僕の話を聞いてたか?」
 だくだくと首に流れる汗をタオルで拭い、薪は、裸の胸を隠すように片足を引き寄せた。防御のつもりだったのかもしれないが、完全に逆効果だ。膝を抱えたらハーフパンツの隙間から腿の裏側が覗いて、その白さにクラクラした。暑さのせいじゃなく。
「薪さんのお宅のエアコンが壊れて、明日にならないと修理ができないって話ですよね。それでオレの家に涼を取りに来られたと。ちゃんと聞いてましたよ」
「そうだ。8月の太陽に全身焼かれるような思いをしながら、僕はここに涼みに来たんだ。なのに」
 セリフを溜めて息を吸い込む薪の仕草に、青木はすばやく心の準備を整える。次は怒号がくる。ぜったい。
「なんでこんなに暑いんだよ、おまえんち!!」
 予想通りの怒鳴り声に「すみません」と平謝する。自分に咎のないことで頭を下げるなど、痛くも痒くもない。これくらいでいちいち腹を立てていたら、この人の恋人なんかやってられない。

 エアコンが止まっているのは青木のせいではない。酔っぱらい運転の車が近所の電柱に突っ込んだからだ。悪いのは昼間から深酒した挙句に電柱を折る勢いで自爆した何処かのアホウだ。
 そんな事情だったから青木は言ったのだ。電柱の緊急工事が終わるまでの間、何処か涼しい場所に避難しましょうと。事実青木は出かける用意をしていた、それを留めたのは薪だ。炎天下を歩いてきて、もう一歩も動けない。電気が復旧するまで此処で待つからおまえは勝手に何処へでも行けと言われた。いつになるか分かりませんよ、と言ったのに、彼は頑固に居座った。暑いのは自業自得なのだ。

 玄関先でそんなやり取りをする間に、薪はシャツを脱いでしまった。裸の上半身が汗で光っていた。スニーカーを脱いで上り込むと同時にソックスを脱ぎ捨てた。普段は見えない踝が妙に色っぽかった。
「ああ、床が冷たくて気持ちいい」
 ハーフパンツだけの姿になって、薪は床に突っ伏した。殺人現場の死体よろしく、ピクリとも動かない。
 フローリングの茶色とハーフパンツのオリーブ色が、彼の白い背中と白い脚を浮き立たせていた。投げ出された手足が壊れた人形みたいだった。
「青木、水くれ」
 匍匐前進の要領でずるずると床を這い進んだものだから、ハーフパンツがずり下がって超ローライズになった。見せパンが必要なレベルだ。もうちょっとで割れ目が見えそう、そんな状態で彼は床に肘を付いて裸の上半身を起こした。
「青木、みず、うわっ?!」
 思わず後ろから覆いかぶさったら薪に噛みつかれた。比喩ではなく、前に回した腕を実際に。その上、腹に蹴りを入れられて床に転がった。
「このくそ暑いのに何をトチ狂ってんだ!」
 薪は顔を歪めて起き上がり、そして先刻のセリフを言い放ったのだ。

「だって薪さんが」
「ああ? おまえまで僕が誘ったとか言い出す気じゃないだろうな。言ったら絶交だぞ」
「誰かに言われたんですか?」
 言葉尻を捉えて聞き返したら固まった。「薪さん?」と重ねて訊いたら眼を逸らした。
 あやしい。

 しばらく無言のプレッシャーを掛けて自白を促したが、薪は頑なに口を結んだまま。そっぽを向いて青木の方を見ようともしない。
 薪に口を割らせようと思ったら隙を突くしかない。青木は追及を諦めたふりをして台所へ行き、冷蔵庫から麦茶を取り出した。電気は止まっているが、密閉性のおかげで未だ冷たさを保っている。冷凍庫の氷も残っていた。両方をグラスに放り込んで差し出すと、薪は一気にそれを呷った。胸に冷たさが下りていくのにホッと息を吐く、その瞬間の緩みを狙って青木は切り込んだ。
「フランスの男は積極的みたいですね」
「っ、あれほど口止めしたのに宇野のやつ……!」
 宇野さんは何も言いませんでしたけどね、と青木は心の中で宇野の弁護をする。
 普段から青木があれだけ眼を光らせているのに、一体どこで男に言い寄られたのだろうと考えるに、薪が仕事で青木から離れていた一時期の事だと思い至った。去年の冬、宇野とフランスに行った時だ。
 青木がフランス男に辿り着いた経緯を薪に説明してやらないと、後で宇野が酷い目に遭うことは目に見えていた。心の中で手を合わせつつも青木は口を噤み、薪の言葉が聞こえなかった振りをした。だって宇野さん、薪さんと一緒にフランスなんて羨まし過ぎ。

 身の危険を感じたのか、薪は立ち上がって麦茶のお代わりを取りに台所へ向かった。すかさず後を追う。追及の手を緩めるつもりはもちろんない。
 他人の家の冷蔵庫を開けて見つけた缶ビールを勝手に飲んでいる薪に、青木は低い声で尋ねた。
「何されたんですか」
「べつに」
「何もなかったなら口止めの必要ないですよね。そうでしょう?」
 今度はリビングに逃げていく薪をしつこく追いかける。トイレの中にまで入って来かねない青木の猛追に、薪はしぶしぶ白状した。
「トイレの場所は何処かって聞かれて説明しても理解してもらえなくて連れて行ってくれって言われて案内したらトイレの個室に連れ込まれて」
「どうして何度も繰り返すんです」
 青木は頭を抱えた。日本でも似たような手口に引っかかって物陰に引きずり込まれてるのに、どうして危険予知できないかな。

 青木は薪の学習能力の低さを嘆いたが、返ってきた答えは青木の脱力感を更に強めるものだった。
「別の人間が同じ手を使ってくるとは思わなかったんだ」
 二回も同じ手に引っかかったの、バカじゃないの、この人。
「フランスはあまり慣れてなくて。ああいうお国柄だって知らなかったんだ」
 それはフランスに対する侮辱だと思います。
 フランスの国民性ではなくあなたの警戒心の問題でしょう、と青木がやや強い口調で薪の自覚を促すと、薪はムッと眉を潜めて、
「これがロスなら警戒したさ。なんたって、事件解決の功労者を裸に剥いてみんなしてキスマークを付けるのが伝統って国だからな」
 どこのゲイ国家の風習ですかそれは。

 青木は冷たい麦茶と一緒に言葉を飲み込む。薪とこの手の話をしていると、5秒に1回くらいの割合でツッコミを入れたくなる。あまりの頻度に気が引けて、おかげで口から出かかった言葉を飲み込むのが癖みたいになってしまった。
「功労者の肌にキスすることで幸運の女神にあやかるんだって」
 だからどうしてそういう小学生でも騙されないような嘘にコロッと引っかかるんです。
「それってセクハラじゃ」
「女性にはしないさ。男だけ」
 薪さんの場合性別は関係ないんですよ、いい加減自覚してくださいよ。
「じゃあ一つ訊きますけど。薪さん以外の方も手柄を立てたら服を脱がされたんですか?」
「もちろん。僕は参加しなかったけど、みんなやってるってジョージ(ロス市警研修時代の友人)が言ってた」
 騙されてる、絶対に騙されてるよ。

「昼間の酒は効くな」
 薪は空になった缶を床に置き、はあ、とため息を吐いた。立場が逆だと思った。ため息を吐きたいのは青木の方だし、飲んで憂さを晴らしたいのもこっちだ。
「済んでしまったことは仕方ありませんけど。薪さん、今はオレの恋人なんですからね。他の人にキスさせたりしないでくださいね」
「安心しろ。今はヨーゼフにさえ触られたくない気分だ」
 暑い、と再び薪は床に身を寄せ、ごろりと仰向けになった。引き合いに青木ではなく犬の名前を出されるのは複雑だが、まあヨーゼフは特別な犬だし。人間じゃないのだから嫉妬心も起こらない。ましてや次に動物園に行ったら餌に下剤混ぜてやろうなんて、考えない考えない。
「ああー、この床本当に気持ちいい。結婚したい」
 ……燃やしたい。

 青木は薪を真似て彼の横に寝転んだ。薪の片方の眉がピクリと上がる。不機嫌の予兆だ。
「なんだ」
「いえ。薪さんがあんまり気持ちよさそうに床と絡むので」
「もう少し離れろ。体温が伝わってきて気持ち悪い」
 ……泣かない……泣かないもん。
「オレたち、恋人同士じゃないですか」
「夏の間は解消。また寒くなったらな」
 暑いうちは駄目だけど寒くなったらくっついてもいいなんて、青木を携帯カイロ代わりにしているとしか思えない発言だが、それに対する青木の反応は普通の人間とは少し違う。彼は限りなく前向きに、例えば、冷たい死体になったら夏でも薪に抱き締めてもらえるのだろうかと真面目に検討してみる。精神的にこれくらいイッちゃってないと薪の恋人は務まらない。

 基本的に、薪は狡い。
 その上、信じがたいほど意地が悪い。誘うだけ誘って許してくれないとか、しょっちゅうだ。青木が自分の意のままに動くのが面白くて仕方ないのだろうが、ちょっと気の短い男だったら絶対に力づくで犯られてると思う。青木は昔、我を忘れて薪に怪我をさせてしまったことがあるから厳しく自分を律しているが、もしもあの経験がなかったらケダモノプレイに走ってたかもしれない。それくらい薪の誘惑は強烈なのだ。今も。
 仰向けになっている彼の裸の胸がゆっくりと上下する、それと一緒に小さなピンク色の突起が動いて青木の視線を持っていく。滑らかに凹んだ腹、ずり下がったハーフパンツのせいで平らな下腹と腰骨と脚の付け根の線が見えてる。
 この状態で誘ってないとか言われて「はいそうですか」と頷く男は小学生までだと思う。持論の正しさに自信はあるが、触ったら怒られる。薪は潔癖症のきらいがあって、普段でも風呂に入る前は青木に身体を触らせない。青木は薪の匂いが好きだから、それをシャワーで流されてしまうのは本意ではないのだが、などと考えているうちに停電でも水は出ると気付いた。

「そうだ。薪さん、シャワー浴びませんか? 電気止まってるからお湯は出ませんけど、冷たいシャワーなら」
 薪は腹筋だけでひょいと起き上がり、青木の言葉が終わらないうちに浴室へ飛び込んで行った。一歩も動けないとか言ってたくせに、現金な人だ。
「あー、きもちいいー。床は止めだ、シャワーと結婚するー」
 ……世界中砂漠になっちゃえばいいのに。


*****

 がんばれ、青木さん。

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青木がヘタレなのはどう考えても薪が悪い(2)

 こんにちは。

 前章に番号振るの忘れちゃいました(^^;)
 この話、2章あるの。(こんな下らない話に2章も必要なのかとか言わないで、ぐすん)
 訂正しましたんで、よろしくです。




青木がヘタレなのはどう考えても薪が悪い(2)





 濡れた髪を拭きながら現れた薪に勧められ、青木は入れ替わりに風呂へ入った。身体を覆っていた汗の膜をシャワーで洗い流すと、一時の清涼感に包まれる。気化熱が体温を奪う僅かな時間。十分と持たないだろうが、電柱の復旧工事が終わるまでの辛抱だ。暑くなったらこれを繰り返せばいい。

「またそんな格好して」
 リビングに戻ると、薪がまたもや現場遺体になっている。しかも今度は裸で、うつ伏せになった尻の上に短いタオルが掛かっているだけ。これで誘ってないとか言われて納得するのは、以下略。
 でもさっきみたいに襲い掛かったらまた蹴り飛ばされる。自制して、青木は彼から眼を逸らした。そんな青木のいじましい努力など何処吹く風、薪は自分が暑さから逃れることに邁進していた。すなわち現実逃避だ。

「ああ、この心地よさ……やっぱり僕には君しかいないよ。シャワーとは遊びだよ、分かってるだろ」
 誰に向かって何の言い訳してんですか。
「もう君以外は眼に入らない」
 それだけ床に密着してれば床しか見えませんよね。
「結婚しよう」
 できるもんならやってみてください。神父呼んであげますから床に結婚指輪埋め込んでやってくださ、――っ!

「危ないですよ、薪さん」
 目の前に飛んできた空き缶を咄嗟に受け止め、青木は抗議した。怒ると手当たり次第に物を投げるのは薪の悪い癖だが、青木は黙って薪のドリームを聞いていただけだ。怒られるようなことはしていない。
「嘆かわしい。なんて情けない男だ」
 人に優しいと評されることが多い青木は、同時にこの手の悪口には慣れている。優しすぎて頼りないとか男として情けないとか、彼女に振られるときの決まり文句がこれだった。だけど、薪の恋人になってからは改善したつもりだ。身体も鍛えたし、精神的にも随分タフになったと自負している。後者は薪と仕事に強制的に鍛えられた感が大きいが。

「オレの何処が情けないんですか」
「恋人が目の前で浮気してるのに、指を咥えて見てるのは腑抜け野郎だ」
「浮気?」
「僕がいま、次々と浮気して見せただろうが。裸で絡み合って」
 無機物に妬くほど落ちぶれちゃいません。
 言い返そうとして青木は気付く。薪が青木に投げつけてきた空缶は500ミリのプレミアムモルツ。さっき、風呂に入る前に飲んでたのはエビスの350缶。そして身を起こした彼の横に転がっているのは黒ラベルの500ミリが2つ。
 冷蔵庫のビール、全部飲んじゃったよ、この人。

 青木がシャワーを浴びていたのはせいぜい10分くらい。ビールのアルコール度数はそれほど高くないが、こんな短時間で多量に飲めば酔っぱらうに決まっている。加えてこの暑さだ。体温の上昇は酔いを助長する、つまり。
「結婚まで申し込んだのに、ノーリアクションとはどういうことだ」
「すみません。さっきシャワー嬢とは話を付けてきたんで、今度は本命の床子さんと話し合いを」
 酔っぱらいオヤジの絡み酒ってことで、もう話を合わせるしか青木に道はない。シャワーで得た清涼感は何処へやら、暑さと脱力感が倍になって戻ってきた。
「そうか、シャワーは納得したか。しかし夏の時季に彼女と断絶するのは辛いな」
「いや。それが相手の方は未練タラタラで」
「そうだろそうだろ。あれだけいい思いさせてやったんだから、彼女がそう簡単に僕を諦めるはずがない。いやあ、モテる男はツライなー」
「ですねー。大変ですねー」
 青木は同情するように頷き、薪に追従した。普段もそうだが、酔っぱらった彼には絶対に逆らってはいけない。絡み酒がDVに進化するからだ。

「女の子を落とすのなんか簡単だぞ。物陰に引き込んで押し倒しちゃえばいいんだ」
 それは犯罪ですよね。ていうか、しょっちゅう被害に遭われてますよね、ご自分が。
「8割の女の子は男性の強引な行動を待ってるんだ。短いスカート穿いて見せパン穿いて、誘ってませんなんて言い訳が通ると思ってる方がおかしい」
 その理屈は同じ男として分からないでもないですが、彼女たちも今の薪さんにだけは言われたくないと思います。
「ここへ来る途中も電車の中で隣り合わせた女子がものすごく短いスカート穿いててさ。あれじゃあ痴漢してくれって言ってるようなもんだと思ってたら案の定」
「被害に遭われたんですか? 可哀想に」
「痴漢が間違えて僕を触って来たんだ。傍迷惑にもほどがある」
 ……それ多分まちがいじゃないです。

 薪の被害届に、青木は彼が自分の部屋を訪れた時の様子を思い出す。部屋着のまま出てきてしまったのだろう彼のズボンは太腿の中程までしかなくて、シャツは汗で肌に張り付いてピンク色の乳首が透けて見えてた。痴漢にしてみれば「どうぞご自由におさわりください」ってプラカード持って立ってるように見えたのだろう。薪の誘惑は無自覚な分タチが悪い。自分が他人からどう見えているか、分かっていないのだ。
「どこまで触らせたんですか」
「僕が許したみたいに言うなよ。ケツ撫でられただけだって」
「下着の上から?」
 えっ、と薪は言葉に詰まった。詰まるということはつまりそういうことだ。

「だから裾の広がった短いズボンは穿かないでくださいって言ってるじゃないですか。隙間から手入れられちゃうから」
「40過ぎのオヤジのケツ触って何が楽しいんだろうな。狂ってるとしか思えない」
「オレは楽しいですけど」
「キ●ガイ」
 振り出しに戻った。

「触られる方はたまったもんじゃない。気持ち悪いったら」
「オレが触っても嫌ですか?」
「夏は暑いからな。そうだ、夏の間だけプラトニックな関係になるとか。いいアイディアだと思わないか」
 よくないです、全然。
「汗かくし、疲れるし」
 汗ひとつかかないセックスほど虚しいものはないと思います。
「次の日、仕事キツイし」
 それは冬でも同じですよね。
「盆と正月に限定しようと思ったけど、夏は第九の繁忙期だし。正月オンリーの方が現実的だよな」
 オレに死ねって言ってます?

「不服そうな顔だな?」
 薪はニヤッと笑って、青木にビールを放って寄越した。床に転がっていたからてっきり空だと思ったが、それは青木の早とちりだった。
 ビールはとても冷たくて美味しかった。部屋が暑いからか、ビアガーデンのビールのようにキンキンに冷えているように感じられた。不思議に思って聞くと、青木が風呂に入っている間に薪がビールを冷凍庫に移しておいてくれたらしい。こういうところ、薪は本当に気が利くと思う。

 人ひとり分空けて薪の横に腰を下ろす。床に胡坐で冷たいビールを味わった。窓からは生ぬるい夏の風と、セミの鳴き声が流れ込んでくる。真っ青な空と真っ白な入道雲、その明るさと、部屋の中で自堕落に肌を露出している恋人のギャップがすさまじかった。
「おまえだってその気にならないだろ。この暑さじゃ」
 食欲も性欲も減退する、とそれは薪の本音なのだろうが、それを青木にまで強制してほしくない。ゆるゆると床に寝そべった彼の、汗で光る艶めかしい肌とか細いウエストから盛り上がったヒップの曲線美とか色気むんむんの腰骨とか、免疫のない男だったら五分で犯罪者になれそうな視覚刺激を放っておいて、その言い草はないと思う。ましてや。
「飲んだら怠くなった。膝貸せ」
 胡坐の膝に頭を載せて仰向けになるとか、止めてほしいんですけど。

 両手両足を投げ出して、安心しきった顔をして。青木がその安寧を妨げるとは微塵も思っていない様子に、情けないやら切ないやら。絶対に主人の手を噛まない犬くらいに思われているのだ。心の底から舐め切っている。

 そんな、普通なら腹立たしさを覚える恋人の態度に。
 青木が感じるのは純粋な喜び。だってこれは、自分だけの特権だから。

 薪の誘惑は無意識で、言うなればそれは誰の身にも等しく降りかかる雨みたいなもの。そこに彼の意志はない。でも、いま自分の膝の上にいる彼は、その無防備は、彼自身の選択によるものだ。室長の仮面もない、警視長の気負いもない、素のままの薪剛。
 他の誰にも見せない、剥き出しのあなた。

「薪さん。オレのこと好きですか」
 青木の問いに、薪は眼を閉じたまま答えた。
「くだらん質問だ」
「そうですか?」
「ああ。下らな過ぎて欠伸が出る」
 欠伸をしながら薪が寝返りを打った。腰のタオルがずれて、視覚刺激が120%アップする。マジ勘弁してください我慢できなくなっちゃ、てかすでに反応しちゃってるんですけど頭でぐりぐりしないでくれますか、痛いです。

「ははっ。ホント変態だな、おまえ」
 薪は笑って、本当にそのまま眠ってしまった。
 汗で頬に張り付いた薪の髪を耳に掛け、保険の勧誘員からもらった団扇で風を送ってやった。薪はすやすやと気持ちよさ気な寝息を立て、それはつまり青木にとって最高の幸せ。

 心休まる時の少ないあなたの、貴重な貴重なひと時を。オレにくださってありがとうございます。



*****



 てな感じなんですけど分かっていただけましたか。
 え。ヘタレ男以外の何者でもない? この状態でなだれ込まないなんてBL失格?
 いやだって、薪さんに負担掛けたくないし。暑いところでエッチして熱中症になっちゃったら大変だし。
 そういうこと考えないのがBL? へえ。そうなんですか。
 すみません、オレにはちょっと無理みたいです。激情の嵐とか言われましても、ごめんなさい、オレは薪さんの寝顔の方がいいです。あの人の寝顔を見てるときが、オレは一番幸せなんです。

 そんなんじゃ薪さんに愛想尽かされる? そんなことないですよ。薪さんはちゃんとオレのこと愛してくれて……る……はず……すみません、下手に慰めないでもらえます? 余計に落ち込みますから。
 直接聞いてみろって、ええー、嫌ですよ。どうせ冷たい目で「おまえからヘタレを取ったら何も残らん」とかキツイこと言われるに決まってるんですから。

 は? もしかしたら「ヘタレごと愛してる」って言ってくれるかもしれない?
 またまた、そんな巧い話に乗せられませんよ。薪さんがオレのことを好きだって言ってくれるのは二人して生死の境を彷徨ったときだけです。ええ、実際に何回か死にかけましたけど、それが何か?

 聞いてみるだけなら命の危険はないし、もしも好きだって言ってもらえたら儲けものだろうって?
 ……分かりました。そこまでおっしゃるなら薪さんに聞いてみます。あまり気は進みませんが。
 薪さーん。ちょっといいですか。実はかくかくしかじかで。

「ヘタレで腑抜けで僕の言う事を何でも聞く青木が好きだ」

 ちょっと、聞きましたか今の!
 薪さんがオレのこと好きだって。それもヘタレなオレが好きだって、オレ、一生ヘタレとして生きていきますっ。
 はい? ヘタレ男が好きな人間なんかいるわけない? どう聞いても都合のいい男にされてるだけだって?
 いいえ、そんなことはありません。あなたが何を言おうと、オレは薪さんの言葉だけを信じてますから!

 あ、薪さん、なにか? お風呂の掃除ですか? はい、任せてください。それが終わったら家中の照明器具と天井と、その後窓拭きですね。はい、きちんとやっておきます。では官房室の慰安旅行、いってらっしゃい。どうかお気を付けて。

 ? なんですか、その可哀想な人を見る目は。
 さあ、もう帰ってください。オレは忙しいんです。薪さんがお帰りになるまでに、しっかりお掃除しておかなきゃ。



*****


 結論。
 青木がヘタレなのはどう考えても薪が悪い。


(おしまい)



(2014.7)



*****


 ……極甘?(笑)

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ジャンル : 小説・文学

薪が自己中なのはどう考えても青木が悪い

 極甘あおまきさん大放出したいけどないものは出せないその3 です。
 こないだ書いたんですけど、やっぱり現場持ってると落ち着かなくてねえ。このくらいが関の山です。ヌルイ目で見てやってください。

 コメントしたいブログさんが複数ある……時間見つけてお喋りしたいです。過去記事にコメントすることになっちゃう恐れアリアリなんですけど、許してください。
 てか、その前に自分とこのお返事! ごめん、もうちょっと待ってください(^^;




薪が自己中なのはどう考えても青木が悪い




 だって、何でも言うこと聞いてくれるんだ。

 どんな我儘も通してくれるし、どれだけ理不尽な態度を取っても笑って許してくれる。
 例えば、僕に非があることでケンカになったとするだろ? でもそれを認めたくなくて、かなり無理のある理屈をガガガッと捲し立てた後に頬を膨らませて彼を睨むと、それまで眉を顰めていた青木が突然しまりのない顔になって、僕を抱き締めたりするんだ。「もう、なんでそんなに可愛いんですか」とか言ってるけど、おまえにしか見えないドリームだから、それ。
 その調子で何年も甘やかされてみろ。チベットの修行僧だって思い上がるわ。

 そりゃ僕だって、このままじゃマズイと思う時もあるよ。彼のやさしさの上にいつまでも胡坐かいてちゃいけないって。そんなことじゃ何時か愛想を尽かされることになるだろうし、人間的にも堕落してしまうと思う。
 でもさ。本当にやさしいんだよ、青木は。

 どこまで耐えられるのか試したわけじゃないけど、僕が何をしても怒らない。彼が一番大事にしてるのは車だけど、僕が車庫入れの時に誤ってぶつけてしまっても怒られなかった。ヤバイと思って知らばっくれてたんだけど、車磨きは彼の趣味で、直ぐに僕が犯人だと分かって、でも。
「お怪我はありませんでしたか?」
 皮肉じゃなくて本気で心配してるんだ。嫌味なくらい天使くんなんだよ、青木は。一緒にいるこっちが居たたまれなくなるほどに。

 僕のボディガードとして同居している彼は、僕といる限りくつろげる時間が無い。外出時には特に神経を張っているのがこちらにも伝わってくる。
 あん? 青木がピリピリしてるのは、ちょっと目を離すと僕がナンパされるからだろうって? 失礼な。いやしくも警察官だぞ、僕は。ナンパされるような隙はない。
 ああ、道はよく聞かれるな。道案内も警察官の大事な仕事だ。一般市民には非番の日でも丁寧に応対するよう心掛けている。
 とにかくそんなわけだから、たまには休ませてやろうと、彼が非番の日は苦手なSPを引き連れて出勤する。なのに、帰ってみると部屋がピカピカだ。風呂場の排水溝の中まで掃除してあって、かえって疲れるだろ、それ。

 ゆっくり休めって言ったのに、人の好意を無にしやがって、と少々ささくれ立った気分でうがいをしにサニタリーに入れば、溜まっていた筈の洗濯物はきれいに片づけられて、当たり前みたいに風呂が沸いてて、着替えのパジャマまで用意してある。
 僕は一人暮らしが長いから、自分のことは自分でするのが普通だと思っていた。それを誰かにしてもらえることの贅沢。「背中流しましょうか」てそこまで甘えることはしないけど、言葉だけでもうれしいさ。

 風呂でサッパリして、汗を拭きながらダイニングを覗けば、テーブルに並んだ夕食の刺身はツヤツヤ、晩酌のビールはキンキン。もう至れり尽くせり。できた嫁だ。
 二人で楽しく食事をしながらビールを飲んで、ほろ酔い気分でベッドに入れば、布団は温かでお日さまの匂いがする。「待っててくださいね。急いでシャワー浴びてきますからね」とか言われたって、アルコールにふかふかのベッドだぞ。抵抗できるわけ無いじゃないか。
 気が付いたら朝が来て。青木が風呂に入ってる間に眠ってしまったのは何度目か分からないくらいだけど、彼は一度も不機嫌な顔で僕に「おはよう」と言ったことが無い。だから僕も謝らない。

 いや、悪いとは思ってるよ。それじゃなくても仕事の都合で繰り延べにすることが多いんだから。でも、向こうが何も言わないものを蒸し返してまで謝るのってヘンだろ。
 立場上、言いだせないんじゃないかって? 彼は年下だし、部下だし、それで我慢してるんじゃないかって?
 それはまあ、充分考えられることだけど。だからってこっちから言い出すのは藪蛇って言うか、その後の展開を考えると迂闊に言い出せないって言うか。

 え。明日は休みなんだから、覚悟を決めて訊いてみろ?
 勝手なこと言うなよ。誰が地獄を見ると思ってんだ。
 最近は地獄ばかりでもないんじゃないかってコロスぞ、おまえ。

 恋人同士で一番大事なのは思いやりと会話だって、うるさいな、言われなくても分かってるよ。聞けばいいんだろ、聞けば。
 おーい青木。昨夜は――。

「ありがとうございました。煮物の味付け濃くなっちゃったのに、残さず食べていただいて」
 いや、美味かったよ。ビールに合ってたし。
「すみませんでした。薪さんのお好きな吟醸酒、売り切れてて。今度買い置きしておきますね」
 平日はビールでいい。その方が次の朝、寝覚めがいいし。昨日は布団が気持ちよかったから、尚更。ただ、ちょっと寝つきが良くなりすぎてだな、その……。
「昨夜の薪さんの寝顔、むちゃくちゃ可愛かったです。見れて幸せです」

 聞いたか?
 ノープロブレム! 亭主関白万歳だ!

 なに? 亭主関白は熟年離婚の原因? いやいや、青木に限ってそんな。
 でも一応、確かめておくか。僕に何か要望があるかどうか。
「要望ですか? ええと、そうだ。次はぜひ、お背中流させてくださいね」

 どうだ、参ったか。


(おしまい)


(2015.3)


*****

 甘さ、カケラもねえ(笑)

テーマ : 二次創作(BL)
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プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
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