ビアガーデン(1)

 ギャグポイント、溜まりました。
 久しぶりに(?)オヤジのアホな薪さんが出てきます。
 笑っていただけたら嬉しいです。







ビアガーデン(1)











 この世にビールがなかったら、夏はもっとつまらないものになっていたに違いない。ビール党の青木は、夏が来るたびにそう思っている。

 青木は真面目な学生だったが、飲酒に関しては少しだけ素行不良だった。
 ビールの苦味を美味いと感じたのは、なんと中学2年のときだ。それから親に隠れて飲むようになり、自分の部屋で飲んでいた所を見つかって、めちゃめちゃ怒られるかと思いきや、父親が晩酌の相手が出来たとばかりに喜んで、一緒に嗜むようになってしまった。変わった親である。
 そんなわけで、青木のビール歴は11年。計算が合わないので、他人には内緒だ。

 どんな状況で飲んでも美味いビールだが、最高の一杯といったら、やはりビアガーデンではないだろうか。
 冷房の効いたホテルのバーで、グラスビールを品よく傾けるより、ムシムシした熱帯夜の暑い空気の中で、冷たいビールをジョッキでガーッと飲むのが美味いのだ。ビールは勢いが命だ。ちびちび啜ったのでは、飲んだ気がしない。

「ということで、ビアガーデンに行きましょう」
「……何が『ということで』なんだ」
 報告書の向こうから、思い切り不機嫌な声を返される。形の良い亜麻色の眉が、不味いものでも食べたときのように顰められる。
 相も変わらず、仕事中の室長はシビアだ。

「室長も連れて行くって、先輩たちに言っちゃったんですよ。いいじゃないですか。たまには付き合って下さい」
「僕は、騒がしいところは嫌いなんだ。軍資金は出すから、それで勘弁してくれ」
「お金は要りませんから、室長に来て欲しいんです」
「忙しいんだ」
 忙しいと言うが、室長の机を見るとそうでもない。いつもはこの広いデスクの大半が書類に埋まっているのに、今日は全体の5分の1くらいだ。しかも、至急扱いの赤いスタンプが押された案件は、ひとつもない。
 その常套句が、誘いを断る口実であることは明らかだ。ここはもう一歩、押してもいいだろう。

「今日は、オレの誕生祝なんですよ。なのに室長は、顔も出してくれないんですか?」
「雪子さんにでも声を掛けたらどうだ。彼女はアルコールさえ入っていれば、消毒用でも飲むぞ」
 すぐに雪子の名前を出してくるところを見ると、まだ例の件を諦めていないらしい。まったく、見かけによらず頑固なのだ。
「いいです。悪酔いしそうですから」
 しかし、粘り強さならこっちも負けない。
「お願いします、室長。ちょっとでいいですから」
「僕は、ビールはあまり好きじゃないんだ」
 取り付く島もない。
 が、このくらいで引き下がっていたら、室長の忠犬役は務まらない。

「じゃあ、ビールでなければ付き合ってもらえるんですね?」
「そうは言ってないだろ! なんでおまえはひとの言葉を、自分の都合の良いように拡張解釈するんだ」
「薪さんが好きだからに決まってるじゃないですか」
 当たり前のことを聞かないで欲しい。

「……そういうことを職場で言うな」
 青木のさらっとした告白に、はっとした目になって、薪は長い睫毛を伏せる。ほんのわずかだが、頬が赤くなっているようにも見える。
 このセリフは、いくらか効果があったようだ。
「すみません。でも」
「……ちょっとだけだぞ」
「はい!」
 薪のしぶしぶの承諾に、青木は満面の笑みを浮かべた。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

ビアガーデン(2)

 お話を書くときには、環境も大切だと思います。
 その世界に入るために、身の回りを整えるのです。
 わたしのアイテムは、白百合の花とコーヒーです。書斎(オットにはオタク部屋と呼ばれています)のドアを開けると、ふわっと百合の匂いがして、薪さんのような清楚な花が目に入ります。そこに薫り高いコーヒーを持ち込んで、この世界の扉を開けるのです。

 そして。
 できたものが、こんなん!!(爆)


 余談ですが。

 わたしは必ず白百合を蕾のまま買ってきます。長持ちするし、花が開いていくのが楽しみだからです。
 でも、ファイヤーウォールを書いていたときだけは、花屋の店員のミスで、ピンクの百合が咲きました。思わず笑ってしまいました。(^^;





ビアガーデン(2)








 霞ヶ関のタワービルの屋上は、毎晩ビールを楽しむ人々で賑わっている。
 ここのビアガーデンは、時間制の飲み放題方式で、料理も美味しく値段も手ごろだ。ちょうどホテルのバイキングのように、客がカウンターに酒や料理を取りに行く形式を取っているのが安値の理由だ。酒の種類もビールだけでなく、カクテルやワインなども置いてあるから、女性だけで来ているグループも少なくない。

「かんぱ~い!」
 特別な祝い事がなくても、酒宴というのは乾杯の音頭から始まるものだが、今日の飲み会は青木の誕生祝という名目である。乾杯、という言葉の後に「おめでとう」と言葉が続く。例えそれが飲み会の理由付けに過ぎないとしても、こうして自分のために職場の仲間が集まってくれるのは、嬉しいものだ。
 一番うれしいのは、これまで一度も職場の飲み会に顔を出してくれなかった室長が来てくれたことだ。
 騒がしい場所が嫌いな薪を口説くのは一苦労だったが、こうして顔を出してくれた。「最初の1杯だけ」という条件をつけられてしまったが、それでも青木は舞い上がるほどに幸せな気分である。

 初めて室長がこういう席に来た、と他の職員たちは内心の驚きを隠せないでいる。
 薪がアルコールを飲む姿を見たことがあるのは、薪の腹心の部下と、薪に憧れて、べったりとくっついている新人だけだ。今日はその新人の誕生祝だから、薪も顔を出してくれたのだろう。なんのかんのと言っても、この新人は薪に気に入られている。
 しかし、そのことをやっかむものは、ここにはいない。仕事中の薪は、その新人の未熟さに、ことさら厳しく当たるからだ。

 青木は、第九の捜査官になって1年半。
 まだ駆け出しの域を超えていないのだから、他の職員たちと同じレベルの仕事をこなすのは無理だと誰もが思うのだが、薪だけは容赦しない。ベテランの捜査官と同じクオリティを新人の青木に求め、青木がそれに応えられないと、何度でもやり直しをさせる。
 見所があると思われている証拠かもしれないが、薪に気に入られることによって、あの厳しさが自分に降り注ぐことを考えると、青木が羨ましいとはとても思えないのだ。

「薪さん。枝豆食べます?」
「こっちに冷奴ありますよ」
「焼き鳥、塩のほうがお好きでしたよね」
 薪の周りに群がって、職員たちはあれこれと世話を焼く。
 普段の飲み会では薪の悪口ばかり言っているクセに、本人が来たらこの調子だ。おべっかを使っているわけではなく、本当は、みんな薪のことが好きなのだ。

 仕事のときは、警察庁中で右に出るものがいないくらい厳しくて怖い薪だが、オフのときはそうでもない。職員たちの話に耳を傾けて、静かにビールを飲んでいる。外部の目があるせいか、あまり酒を飲んでも乱れる様子はない。
 いつも一緒に酒を飲んでいる岡部や青木は知っていることだが、薪はこういう開放的な空間で、ワイワイ騒ぐのはあまり好きではない。薪の好みは日本酒だし、つまみは白身魚の刺身が好物で、和食のうまい店で少人数で飲むのが好きなのだ。
 しかし、たまにはこういうのも楽しいはずだ。
 薪はもっと、職員たちと交流を持つべきだ、と青木は考えている。そうすれば、自分がどんなに第九の職員たちに慕われているか分かるはずだ。
 薪は自分のことを、嫌われ者の上司と認識している節がある。その思い込みが間違っていることに気付いてほしい。自分がみなに好かれていることが分かれば、薪の意地悪も少しは減るかもしれない。可能性は低いが。

「青木。よく薪さんを口説き落としたな」
「どうやったんだよ。岡部さんでもムリだったんだぜ」
「企業秘密です」
 にっこり笑って口を閉ざす。室長室の会話は、他人には言えない。
「でも薪さん、楽しんでくれてるかな」
「うん。こういうところ、苦手だって言ってたもんな」
 やさしい気遣いを見せる職員たちに、青木の胸が暖かくなる。やはりみんな薪のことを大切に思っているのだ。

「薪さん、本当はビールがあまり好きじゃないんですよ。今日はオレのお祝いだからって飲んでくれてますけど。薪さんの好みは日本酒です」
「マジ? ぜんぜん似合わねえよな。ビールも似合わないけど、日本酒はもっと似合わねえ」
「ワインかカクテルだよな。あのひとのイメージだと」
「まあ、焼酎飲まれるよりはいいか」
「焼酎も飲みますよ。冬は梅干入れて、お湯割で」
「うわ。見たくねえ! まるっきりオヤジじゃん」
「……まあ、薪さんも今年で37ですから。立派なオヤジですよ」
 想像するとイメージダウンになるのかもしれないが、実際見てみると、そんなことはない。
 冷たい吟醸酒を美濃部焼きのぐいのみで傾ける薪の姿は、日本人独特の色気があるし、お湯で割った焼酎の中の梅干を、一所懸命マドラーで突っついている姿はめちゃめちゃかわいい。
 どちらも他人には見せたくないので、青木は彼らの誤解を敢えて解かない。

 青木が2杯目のビールを飲み終えたころ、薪のジョッキはようやく空になった。薪にしては遅いペースだ。1杯だけ、という約束を守りつつ、なるべく長くここに居てくれようと気を使ってくれたのかもしれない。
「薪さん。次は日本酒いきますか?」
「いや。僕はもうそろそろ」
 気を利かせた今井が、新しいビールを持って来る。薪はそれを断って、席を立とうとした。
「一杯だけ付き合う約束だったんだ。あとはおまえらで」
「薪さん。ここ、日本各地の地酒が置いてありますよ」
 腰を浮かしかけた格好で、薪の動きが止まる。薪の好みはリサーチ済みだ。

「北海道の千歳桜が入ってたなあ。秋田の山田錦も」
 亜麻色の瞳がくるめいている。ここで王手だ。
「そうだ、京都伏見の大吟醸もありましたね」
「京都伏見の?」
「薪さんの好きな『綾紫』かもしれませんよ」
「飲み放題のこんな店で、そんなにいいもの置かないだろ。まがいもんじゃないのか」
「さあ? 飲んでみたら分かるんじゃないですか?」
「……そうだな。確かめてみるか」
 チェックメイト。

 今井が持ってきたビールは青木が引き受けて、薪には地酒のサーバーからジョッキに吟醸酒を注ぐ。ビアガーデンなので、グラスはジョッキ以外置いてない。ワインやカクテルも、ここではジョッキで飲むのだ。そこが面白いと受けている。

「青木。おまえ、すげえな」
「いつの間に薪さんを操れるようになったんだよ」
 小池と今井が、青木の手腕を褒めてくれる。今のお手並みは、岡部以上かもしれない。
「仕事のとき以外は、けっこう気さくなんですよ。あのひとは」
「それにしてもさ。あんな薪さん、初めて見るよ」
 ジョッキの底に少しずつ入った日本酒を、薪は片っ端から飲んでいる。前々から飲んでみたかった銘柄の酒を色々と試せるのが嬉しいとみえて、研究室ではついぞ拝んだことのない笑顔つきである。

「コツは、薪さんの男らしさを、さり気なく褒めることです」
「男らしさって。ないものをどうやって褒めるんだよ」
「そんなことないですよ。男らしいところ、たくさんありますよ。薪さんは」
「仕事中ならともかく、なあ」
「あれじゃあさ」
 薪は女の子がするように、両手で挟むようにジョッキを持っている。つややかなくちびるをすぼめて、そうっとジョッキを傾けている。
 日本酒はビールのように呷るものではないから、1回に口に入る量を調節するためにそうしているだけなのだが、その様子は隣のテーブルで豪快に大ジョッキを呷っているOLより、遥かにかわいい。

「大丈夫です。薪さん、自分のことは男らしいって信じてますから。試してみましょうか?」
 自信たっぷりに言い切って、青木は薪のほうへ近付いていく。薪の後ろから千歳桜のジョッキを差し出し、自分の言葉を証明するべく、気難しい上司に話しかけた。
「やっぱり日本酒はキツイですね。アルコール度数がビールの倍以上ありますものね。酒に強い男の人じゃないと、飲めませんよね」
「なんだ情けない。日本男児なら日本酒くらい飲めなくてどうするんだ」
「いや、オレにはムリです。これ、どうしよう」
 本当に飲めないわけではないのだが、ここで自分の不甲斐なさを見せることがポイントなのだ。それが薪の優越感を高めて、さらには機嫌を良くしてくれる。
「よこせ。僕が飲んでやる」
 酒が強いほうが男らしいと思い込んでいる薪は、青木に見せ付けるようにジョッキを呷る。ここで一気におだて上げる。
「すごい! ゴクゴクいけちゃうんですね」
「まあな。僕は大人だからな。おまえみたいなガキとは、味覚も違うんだ」
「カッコイイなあ、日本酒が似合う男の人って」
「こんなもん、水の代わりだ。もっと強い酒持って来い」
「はい」
 空になったジョッキを持って、青木は小池に片目をつむって見せる。ざっとこんなもんだ。

「見事だ」
「ていうか、薪さんて意外とちょろいんじゃ」
 冗談じゃない。
 ここまで薪を懐柔するのに、青木がどれだけ苦労してきたことか。その積み重ねがあったからこそ、薪が自分のオダテに乗ってくれるのだ。

 青木は、去年の春からずっと薪のことを見てきた。
 秋からは岡部と一緒に薪の家を訪れるようになり、薪の好みや性癖を、こと細かく観察してきた。研究に研究を重ねて、ようやく薪のツボを押さえられるようになったのだ。
 第九に入ったのはいちばん後でも、薪を見ていた時間なら誰にも負けない。岡部にだけは、まだ敵わないかもしれないが、他の職員には絶対に引けを取らない。
 青木はそう信じていた。だから、ジョッキに新潟の月山を注いで席に戻ったときには、思わず我が目を疑ってしまった。
 
「室長って、日本一いい男ですよね。女が放っておかないはずですよ」
「頭が良くて凛々しくて。男の中の男ですよね」
 いくらなんでも露骨すぎる。薪は、そんな見え見えのオダテに乗るほど単純では。
「おまえらも、ひとを見る目ができてきたじゃないか」
 ……乗るんですか。

「最近、ますます筋肉ついてきたんじゃないですか?」
「肩とか胸とか、惚れ惚れしますよ」
 大嘘だ。さすがにこれはお世辞だとわかるだろう。
「当たり前だ。僕は普段から鍛錬してるからな」
 ……どこまで単純なんですか。
 
「おまえらも体を鍛えろよ。この仕事は、体力勝負だぞ」
「はい。でも、室長ほどの見事な体躯はちょっと」
「ボディービルダーみたいですもんね」
「よく分かってるじゃないか。そうだ、僕は脱いだらすごいんだぞ!」
 …………好きにしてください。

 馬鹿馬鹿しくなって、青木は月山のジョッキをゴクゴクと呷った。喉を刺すような日本酒特有の辛さ。これは薪の好みには合わない。薪の好みはやや甘めの酒だ。
 第九の職員たちに囲まれて、にこやかに笑っている薪の姿を離れた席から見て、青木は少々複雑な気持ちになる。
 みんなと仲良くして欲しいと思ってここに連れて来たのに、目の前でその光景を見せられると、なんだかあまり面白くない。酒に酔って笑ったり怒ったりする薪を知っているのは、岡部と自分だけだと、そんな優越感があったのかもしれない。
 だいたい今日は自分の誕生祝なのに、自分より他の人と仲良くするなんて、とわけのわからない苛立ちまで感じてしまう。

 理不尽な気分を流すように、青木はジョッキの酒を一気に飲み干した。



*****


 ああ、楽しい。
 オヤジあほ薪さん。(←そのうち誰かに刺されそうです)

テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

ビアガーデン(3)

ビアガーデン(3)




 
「青木。薪さん、そろそろ沈むぞ」
 小池と今井の間に座って、なおも男らしさについて語っている薪を遠目に見て、岡部が苦笑混じりに言った。
「そうですね」
 完全に出来上がっている。薪が自分を『すごい』と言い出したら、もう長くない。飲み友達の岡部と青木は、良く知っている。あと30分もしないうち、薪は眠ってしまうだろう。

 10人掛けの丸テーブルの、薪から一番離れた場所に、岡部と青木は陣取っている。その場所は薪の様子が良く見えて、かつ、他の職員たちと薪の間に割り込まない位置関係だった。
 職場の仲間と、こういう交流を取ることは大切だ。円滑な人間関係はアフターで作られる、と言っても過言ではない。
 自分たちは既に薪の素顔を知っているが、薪と他の職員たちとの間には未だ、薄い膜のような壁が存在している。この機会にそれが取り払われれば、とふたりは思っていた。

「もう少ししたら、オレが送っていきますよ」
「主役のおまえが帰るわけに行かないだろ。俺が送っていくよ」
「平気です。オレのアパートすぐそこですから。薪さんを寝せて、戻ってきます」
「ああ、そうだったな」
 薪は、青木のアパートに何回か来たことがある。鍵の隠し場所も知っている。

 最近薪は、数少ない休日を、青木と一緒に過ごしてくれるようになった。
 最初に行った動物園が、よほど楽しかったらしい。ひと悶着あったが、翌日は水族館にも付き合ってくれて。シャチのショーのダイナミックさに感動したと、帰りの車の中で興奮して喋っていた。
 先日はレンタカーを借りて、少し遠くのアミューズメントパークまで足を伸ばした。
 広大な土地に夢のように広がるヨーロッパ風の建造物にはしゃいで、人工の湖を、その水面より遥かに透き通った瞳で見つめる薪の愛くるしさに青木が骨抜きになったのは、たった3日前の話だ。
 そんな風に、薪と休日をともにしていることは、ふたりだけの秘密だ。薪に固く口止めされているし、青木も誰にも言うつもりはない。ましてや帰りの車の中で、疲れて眠ってしまった薪のくちびるを何回か盗んでしまったことは、薪本人にもナイショだ。

「あれ、青木? 岡部さんも」
 声を掛けられて振り向くと、そこには警視庁きってのモテ男、竹内警視の姿があった。
 竹内グループの面々と一緒に、飲みに来ていたらしい。5つほど離れたテーブルに、部下の大友の姿が見える。
「飲み会ですか?」
「今日はこいつの誕生祝いなんだ」
「へえ、おめでとう。おまえ、いくつになったんだ?」
「25です」
「若いなあ。俺と9つも違うのか」
 まずい。
 薪は竹内のことが大嫌いなのだ。せっかく機嫌よく飲んでいるのに、この男が来たらすべてぶち壊しだ。
 いや、それよりも、もっとまずいのは――――。

「やあ、薪室長もご一緒で……」
 2つ隣の席に座った宇野に笑いかけている薪の笑顔を見て、竹内は言葉を止めた。
 なんの話をしているのか、薪は華奢な手で宇野の眼鏡を取り上げて、声を立てて笑っている。奪い取った眼鏡をかけて、目眩を起こした振りをする。
「青木のメガネもクラクラするけど、おまえのも相当だな」
 ……薪さんのかわいらしさに、全員クラクラしてます。

 当然、この男もだ。

 たぶん初めて見るであろう薪の笑顔に、竹内は棒立ち状態である。そんな竹内の態度を勘違いしたお人好しの岡部が、余計なことを言ってくれた。
「少しここで飲んでくか?」
 ダメです、自分の席へ帰ってください。
 喉まで出掛かった言葉を、青木はぎりぎりで飲み込んだ。
「いいんですか? ありがとうございます」
 竹内は図々しく、岡部の隣の席に腰を下ろした。薪の席からは遠いが、それでも同じテーブルである。青木にとっては、少しだけ面白くない状況だ。

 この男が薪に惚れていることは、とっくに気付いていた。
 普段の薪なら同席しても心配ないが、今の薪は酒に酔っているから隙だらけだ。それでなくても薪は、飲みすぎると、とんでもない行動にでることがある。竹内の存在は危険だ。
 こんな言い方をすると、青木が竹内のことを嫌っているようだが、そうではない。竹内は親切で、とてもいい人だ。薪のことさえなければ、心から歓迎するのだが。

「竹内。青木はどうだ? 射撃の腕は上がったか?」
 竹内は、青木の射撃の先生でもある。
 捜査資料の見方や作成の仕方についても、捜一の人間ならではの具体的なポイントを、青木に教えてくれる。竹内は青木のことを気に入ってくれていて、薪には内緒だが「捜一に来ないか」との誘いを何度か受けている。もちろん青木は薪のそばを離れる気はないから、きちんと断ったが。
「はい。身体のほうがしっかりしてきましたから、ブレも少なくなりましたよ。もう少ししたら、銃の口径を大きくしたほうがいいかもしれませんね。青木の身体だったら、32口径でもいけるんじゃないですかね」
 岡部と話をしながら、目はちらちらと薪のほうを見ている。
 薪は小池の耳元になにかしら吹き込んでいて、小池が赤くなっているところを見ると、どうやら女の話らしい。
 小池の焦る様子を見てケタケタと笑っていた美貌が不意に固まって、すぐに剣呑な表情になった。
 薪が竹内の存在に気付いたのだ。

「なんであいつがここにいるんだ」
 歯に衣きせぬ言い方で、薪は真っ向から竹内を非難した。酒のせいで理性が働かなくなっているらしい。が、その貌はいつもの氷のような無表情ではない。
 亜麻色の大きな瞳はアルコールのせいで潤み、目元が桜色に染まっている。
 この顔で何を言われても、ぜんぜん怖くない。むしろ呂律の回らない舌ったらずな喋り方が甘えているようで……竹内でなくとも持っていかれそうである。

「すみません。お邪魔でしたね。せっかく仲間内で飲んでらしたのに。失礼します」
「薪さん。俺が誘ったんです」
 素直に席を立とうとした竹内を、岡部が庇う。竹内は岡部が捜一にいた頃、可愛がっていた後輩なのだ。
「いい機会だ、こっちへ来い。説教してやる」
 薪は、竹内のことを引き止めに掛かった。竹内の気持ちをこれ以上惹き寄せるような真似は、慎んで欲しいのだが。
「小池、そこ空けろ。ここに座れ」
 薪は自分の隣の席を指して、細いあごをしゃくった。竹内に、来いと命令しているのだ。
「あの」
「行ったほうがいいですよ」
 薪の目が据わっている。くだを巻き始めた薪には、逆らわないことだ。

 竹内が自分のジョッキを持って薪の隣に座ると、薪はさっそく説教を始めた。オヤジというのは、酔うと説教をしたがるのだ。
「だいたい、おまえは生意気なんだ。3つも年下のクセに、僕より筋肉つけやがって。ちょっとくらい女にもてるからってな、勝った気になってんじゃないぞ!」
 説教ではなく、ただの言いがかりである。薪は絡み酒だ。
「はい。すみません」
「僕だって脱いだらすごいんだぞ! ボディビルダーも真っ青の筋肉なんだ!」
 薪のお得意のセリフが出てしまった。沈没は秒読み段階に入ったようだ。
「ええ。存じ上げてます」
「……わかってりゃいいけどさ」
 竹内はいつの間にか、薪の扱い方を心得ている。
 どんな言葉にも逆らわず、神妙な顔で聞いている。竹内にしてみれば、薪に何を言われても、きっと嬉しいのだ。

「なに飲んでんだ、おまえ」
「新潟の月山です」
 竹内のジョッキには、透明の液体が入っている。薪の好みを、いつの間にかリサーチしているあたりはさすがだ。
 が、まだ甘い。薪の好みは、甘めの吟醸酒だ。
「ふうん。ちょっと飲ませろ」
 竹内のジョッキを奪い取って、一口すする。しかしそれは、薪の苦手な辛口の酒だ。青木の予想通り、薪は顔をしかめた。
「旨いでしょ? 男はやっぱり、辛口ですよね」
 一般的にはそうなのだが、その言葉は薪には禁句だ。
「……そうだな、なかなかいけるな」
 自分が飲めない辛口の酒を、竹内が旨そうに飲んでいるのが口惜しいらしく、薪は自棄になってジョッキを呷り始めた。そろそろ止めてやらないと、明日の二日酔いが心配だ。
 
「薪室長も、日本酒なんですか?」
「僕はビールはあまり好きじゃないんだ」
「カクテルとかワインは飲まれないんですか? 俺、すごくいいバーテンダーがいる店を知ってるんですよ。良かったら今度一緒に」
 さりげなくデートに誘っている。女性を扱いなれているだけあって、口説き文句が自然に出てくるらしい。青木にはとても真似ができないスマートさである。
「男なら日本酒だ。カクテルやワインなんて女のさけ……」

 薪の大きな目が、半分開いたところで止まった。
 そのまま3秒くらい固まる。薪は次の瞬間、椅子から崩れ落ちそうになったところを、竹内の腕に抱きとられた。
 
「室長!? 薪室長!」
「竹内さん、大丈夫ですよ」
「うちの室長は、いつも突然寝ちゃうんです」
 唐突に眠り込む薪のクセを知っている第九の職員は誰も焦らないが、竹内にとっては未知の経験だ。慌てふためいた顔をして、薪を覚醒させようと耳元で必死に呼びかけている。

「寝不足で眠るのとは話が別だろ。急性アルコール中毒だったら、どうするんだ」
 そんなには飲んでない。青木はちゃんと、薪の飲酒量は把握している。
 竹内の腕から薪の身体を奪い取りたいところだが、あまり表立って行動すると、恋愛の機微に鋭い竹内に自分の気持ちを気付かれてしまう。薪が眠っているだけだと分かれば、竹内も落ち着くだろう。そうしたら薪を第九の人間に預けて、自分の席に帰るだろう。薪を送っていくのはそれからだ。

「室長! 室長!」
 竹内は薪の体を揺さぶって、覚醒させようとしている。
 これだから素人は困る。気持ちよく眠っているのだから、放っておいてやればいいのだ。
「あ、気がつきました?」
 起きてしまった。
 まったく余計なことを。薪の安らかな眠りは滅多にないのに。

 薪はぼんやりとした目で自分を抱いている男を見ると、ふっと微笑んだ。その微笑に、青木は軽いデジャビュを感じる。
「ま、薪室長?」
「……うふっ」
 つややかなくちびるから、吐息のような声が洩れる。まさかこれは――――。
 青木は思わず、席を立った。

「どうした? 青木」
「まずいです、岡部さん。薪さんを竹内さんから離してください!」
「あん?」
「薪さんがあの笑い方したら、やばいんですよ!」
「なに言って」
 ガタガタガタ――ッといくつもの椅子が倒れる音がして、青木は事態が手遅れになってしまったことを知った。すべてを悟って、手で顔を押さえる。
 顔を覆った指の隙間から薪のほうを見ると、青木が危惧した通りの展開になっている。周りにいた職員たちはみな、床の上に座って口をパクパクさせ……。

 竹内の膝の上に座って相手の首に両腕を回し、薪は竹内と熱烈なキスを交わしていた。



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ビアガーデン(4)

ビアガーデン(4)







「なんで教えてくれなかったんですか!」
 法医第一研究室で、青木は雪子に食って掛かっていた。

「薪さんが酔うとキス魔になるって、そんな重要なことを、どうして言ってくれなかったんです?!」
 青木の剣幕に耳を押さえつつ、雪子は悪びれない様子で応えを返す。
「あたし、前に言わなかったっけ?」
「聞いてません!」
「言ったわよ。口当たりのいい酒をガンガン飲ませると、面白いことになるって。でも、周りに迷惑だから、ふたりのときにしなさいって」(2060.10 告)
 ……たしかに聞いたことがある。
 しかし、それはただ単に酒癖が悪いという意味だと思っていた。薪は酔っ払うとくだを巻くし、説教は始めるし、やたらと人に絡んでくる。てっきりそのことだと思っていたのだ。

「はっきり言ってくれなきゃ、分かんないですよ。まさかそんなクセがあるなんて」
 あのあと薪は、竹内から引き離そうとした今井にも襲い掛かって、しっかりくちびるを奪っていった。青木が慌てて薪の体を押さえつけると、薪は青木の胸に倒れこんできて、くーくーと寝息を立て始めた。
 あんまりだ。
 自分にはしてくれないなんて、いや、そうじゃなくて。

 薪に恋をして1年余り。恋心を告げてから、もうすぐ10ヶ月になる。
 薪に好かれようとさまざまなアプローチを重ね、涙ぐましいまでの努力をしてきた。その自分がまだキス止まりなのに、目の前で他の男とバンバンキスされたのだ。自分の立場はどうなるのだ、積み重ねてきた努力はいったい……。

「薪さんが酔っ払うと記憶失くすのはいつものことですけど、今回のはあんまりですよ。オレの気持ち知ってるくせに、オレの前であんな。よりにもよって、相手は竹内さんですよ! 普段、あんなに仲悪いくせに、なんで気がつかないかな、もう!」
 可愛さ余って憎さ百倍とはこのことだ。普段なら薪の言動がどんなに青木の心を傷つけたとしても、それを非難する気持ちなど湧いてこないのだが、今度だけは如何ともしがたい。薪のかわいらしい顔を思い浮かべると、すぐに竹内とのキスシーンが浮かんできて―――― 目の前が怒りで黒く塗りつぶされていくようだ。

「まあまあ。お酒の席のことだし、相手が竹内だったら、返って良かったんじゃないの? あいつ女好きだから、それがきっかけで薪くんに惚れたりすることもないでしょ」
 恋愛の機微にさとい雪子にしては、ひどく間の抜けた慰め方だ。雪子は竹内の気持ちに気付いていないのだろうか。
「なに呑気なこと言ってんですか、三好先生ともあろう人が。気が付かなかったんですか? 竹内さんて、薪さんのこと好きなんですよ」
「え、なんで? いつからそんなことになったの?」
「オレもその辺の事情は知りませんけど。前はケンカばっかりしてたくせに、秋ごろから急に第九に来ちゃあ、薪さんのことチラチラチラチラ見て。いやらしいったら」
「あんたがそれ言うの?」
「オレはチラチラなんか見てません。仕事中もガン見です。モニターより、薪さんを見てる時間のほうが長いです」
「……仕事しなさいよ」
 もちろんそれは冗談だ。
 薪に見蕩れて仕事が手につかないなどということがあれば、仕事最優先実力至上主義者の薪に役立たずの烙印を押されてしまう。そんなことになったら「第九に無能はいらん!」とばかりに、室長権限で即刻異動させられてしまうだろう。

「とにかく、オレのほうがずっと先に薪さんのことを好きになったのに、なんで後からきた竹内さんと同じレベルなんですか!?」
「いいじゃない、キスくらい」
「よくないですよ! オレだってまだキスなんか、片手ほどしかしてないのに!」
「え? あんた、春ごろ薪くんとエッチしたんじゃ」
「は? なんの話ですか?」
「薪くんが、催淫剤を間違って飲んじゃったとき。渋谷の何とかっていうホテルで。あたしがどうだった? って聞いたら、うまく行きました、って言ってたじゃない」(2061.3 ファイヤーウォール)
「あの時は、お手伝いしただけです。あんな状態の薪さんをどうにかするなんて、オレにはとても」
「あんたって……」

 言葉に詰まったように、雪子は青木の顔をじっと見た。
 いつも強気な彼女の瞳は、そのときだけは何故か哀愁を帯びて、青木はふと、いわれのない罪悪感に駆られた。

 が、すぐにその光は消えて、普段の雪子の口調がもどる。
「あんた、この1年なにやってたのよ」
 あまりに遅いふたりの進展具合に、呆れ返ったようだ。脱力した様子で机に肘を突き、手のひらに額をあてる。
「今日び中学生の恋愛だって、告って半年も経てば、キスだけじゃ済まないわよ」
 雪子の一般論に、青木はがっくりと肩を落とした。
 薪も自分も、20歳を越えたいい大人だ。これが普通の男女なら、キスどころか子供が出来ていてもおかしくない。

「ムリですよ。薪さん、普段は全然スキがないし、迫れば殴られるし抱きつけば投げ飛ばされるし。キスなんかしたら蹴りが入ります」
「薪くん口説くのは、命がけってことね」
「そんなに身持ちが固いクセに、酔っ払うとキス魔って。予想不可能ですよ」
「ロスじゃ挨拶代わりだったんでしょ」
 雪子は突然、異国の話を始めた。急な展開についていけず、ぽかんと口を開けてしまう。薪がロスに住んでいたことがあったのだろうか。
「知らなかったの? 薪くん、27のときに1年間ロス市警に研修に行ってるのよ。海外研修は箔付けになるから。研修から帰ってきて、第九の準備室長になったの」
 海外研修までこなしていたのか。やはり薪は、超が付くエリートだったのだ。
 あの事件さえなければ、今頃は警視長に昇任して、官房室にでも勤務していたかもしれない。もったいない話だが、そうなっていたら青木は薪に会うことはできなかった。
 
「知りませんでした。そうですか、ロスに」
 言われてみれば、以前薪が自分の女性遍歴について「ロスにいたころは金髪美人と毎晩犯りまくった」と豪語していたことがあった。金髪美人の話は嘘だったが、ロスにいたのは本当だったのか。(2060.11 仮面の告白)
 確かに、ロスでは友達同士でも軽い挨拶代わりにキスをする。別に特別な感情がなくてもすることだ。
 3度目のキスは薪のほうからしてくれたから舞い上がってしまっていたが、薪にしてみればただの挨拶だったのか。
 
「じゃあ、オレとキスしたのも、大した意味はなかったってことですか」
「そんなことないわよ。ここは日本だし、嫌いな人や普通の部下とはしないわよ」
「竹内さんのことは嫌いじゃないし、今井さんは普通の部下じゃないってことですね」
「そんなに落ち込むこともないでしょ。昨日のは酔った勢い。あんたとのは、そういうんじゃないんでしょ」
 雪子に促されて、青木は改めて自分が薪とキスをしたときの状況を思い出してみた。
「初めのは、薪さんがクスリでラリってるときで」(2060.9 室長の災難)
「初めはそうでも何回かしてるんでしょ? だったら」
「2回目は不意を衝いて無理やり奪っちゃって、その後蹴り出されて。3回目はオレが親父のことで落ち込んでるときに薪さんが慰めてくれて、そのどさくさ紛れに。4回目は」
「4回目は?」
「車の中で眠ってるところを、盗んじゃいました」
「……1回もマトモなのないじゃん」
 自分でもそう思っていたのだが、他人に言われるのはキツイ。ついムッとして、青木は見当違いの不満を雪子にぶつけてしまった。
 
「このごろ三好先生が、オレにちゃんとアドバイスしてくれないからですよ」
「あたしだって、あんたのことばっかり構ってられないのよ。研究論文とか学会の準備とか、けっこう忙しいの」
「そうなんですか?」
 雪子は優秀な監察医である。医師免許も持っている。自分の能力を錆付かせないため、学会やシンポジウムに出席して、最新の知識を仕入れることは職務なのだ。
「秋に大きな学会があるの。そこで、論文発表することになってるのよ」
「それで春ごろから、あまり第九にいらっしゃらなかったんですね?薪さんが寂しがってましたよ。このごろ、雪子さんの差し入れがないって」
「あたしを待ってるの?差し入れを待ってるの?」
「もはやイコールなんじゃないですか?薪さん、三好先生が差し入れてくれたものだけは、ちゃんと食べますから」
「親鳥を待つヒナ鳥の心境ね」
 雪子はちらりと腕時計を見て、席を立った。

「悪いけど、あたしお昼まだなの。そろそろ行かないと、食べ損ねちゃうから」
「あ、オレがご馳走します。職員食堂でいいですか?」
「ごめんね。スガちゃんと約束してるの」
 雪子に誘いを断られたことに、青木は少し驚いている。
 雪子がこんなふうに青木の相談を途中で遮るのは、初めてのことだ。いつもは最後まで青木の話を聞いてくれて、青木が元気になるまで慰めてくれた。それをこんな中途半端なところで、しかも青木の奢りを断るなんて。今までだったら、助手の女の子の分まで青木に払わせていたはずだ。

 法一の自動ドアの前で待っていた助手の女の子に声を掛け、青木には軽く片手を上げて、雪子は廊下を歩いて行ってしまった。青木の相談事は、消化不良を起こしたままだ。

 今日の雪子はひどく冷たい。これまで青木が落ち込んだときには、必ず薪の新しい情報をくれて、次はこの手で行ってみたら、などとアドバイスをくれたのだが。
 まずはお友達から、という雪子のアドバイス通り、薪とは親しくなったものの、それから先は全然進展していない。ここで雪子を失うのは痛い。
 雪子が青木の相談に乗ってくれるようになって、もう1年以上たつ。雪子の有力なアドバイスを活用できない青木の不甲斐なさに、嫌気が差してしまったのかもしれない。

「職員食堂だから、断られたのかな」
 明日は天外天のランチに雪子を誘おう、と青木は心に決めた。



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ビアガーデン(5)

ビアガーデン(5)






 昼休みは雪子がいちばん好きな時間である。その理由はもちろん、食事の時間だからだ。
 その貴重な時間に押しかけてきて、大切なランチタイムを短縮させた第九の新人に、雪子は少なからず怒りを覚えている。

「ゴメンね、スガちゃんの昼休みまで潰しちゃって」
 今日は1時から、会議が入っている。定時に開催できるように、昼休みのうちに支度をしなくてはならない。職員食堂で食事を摂っていたら間に合わないので、売店の弁当を買って食べる羽目になった。
「せっかくのお昼に、冷たいお弁当なんて。なんかすごく損した気分よね」
「わたしは別にいいですけど。雪子先生みたいに、食べることに命賭けてませんから」
「相も変わらず厳しい人物評、ありがとう」
 この助手はとてもかわいい顔をしているのに、言うことはもの凄く辛辣だ。
 思ったことは口に出さないといられないタイプで、上司の雪子に対しても、自分の考えをズケズケと言ってくる。
 名前は菅井祥子。天然系の26歳で雪子より10も若い。

「まったく気が利かないわよね、あの男。昼休みに押しかけてくるなんて……あら、このから揚げ、けっこう食べられるじゃない」
 冷たい弁当なんて不味いに決まっていると思っていたが、なかなか美味しい。特に、煮物は味が染みていて、かなりのハイレベルだ。
「またそんな言い方して。素直じゃないんだから。だから30女は可愛くない、とかって言われちゃうんですよ」
「はいはい、美味しいですって素直に言えばいいのよね」
 から揚げの感想ひとつでそこまで言われる筋合いはないと思うが、菅井は雪子より口が達者だ。言い返すと10倍になって返ってくる。逆らわないほうが身のためだ。

「違います。青木さんのことですよ」
「青木くん? 青木くんがどうかしたの?」
 菅井は箸を止めて、雪子の顔をじっと見た。
 ……このから揚げを狙っているのだろうか。

「スガちゃん。1個だけならそのコロッケと交換てことで」
「わたし、雪子先生があの人のこと好きなの、分かってます」
 雪子の箸から、から揚げが転がり落ちた。
 このあたしが食べ物を落とすなんて―――― いや、驚くのはそこではない。
 この娘は突然、なにを言い出すのだろう。

 開いた口が塞がらない。自分の青木に対する態度のどこをどう見たら、そんな意見が出るのだろう。
「なにバカなこと言ってんの」
 口の中が変に乾く。
 この煮物、味が染みて美味しいと思ったけれど、味つけが濃かっただけかもしれない。

「わたしを誰だと思ってるんですか。恋愛マスター、菅井祥子ですよ。先生の気持ちなんか、まるっとお見通しです」
 菅井はたしかに恋多き女で、相手の男はしょっちゅう変わる。すごいときには、週代わりということもあった。それを恋愛マスターと称するのかどうかは疑問だが。

「青木くんがあたしのところに来てたのはね、恋愛相談が目的だったのよ。青木くんの好きなひとっていうのがあたしの友だちで」
「知ってます。でも、恋愛の相談を受けてるうちに恋が芽生えるって、よくあるじゃないですか」
 男と女が話をしていると、すぐにそちらの方向に結びつける人間というのはいるものだ。自分がそうだからと言って、他人にまで自分の恋愛感を押し付けないで欲しい。
「ないわよ。だいたい、いくつ年が違うと思ってんのよ。青木くんにしてみたら、あたしは12歳も年上のオバサンよ」
 それを言ったら、薪も同じことなのだが。
 しかし、この恋愛マスターを自称する女の子を納得させるには、わかりやすい理由が必要だ。
「年なんか関係ないです。わたしだって、高校生の彼氏と付き合ったことあります。わたしのほうが10歳年上でした」
「あんたってホント、守備範囲広いのね」

「わたし、ずっとおふたりのことは見てきました」
 菅井は自分のハンバーグを半分に切って、雪子の弁当箱に入れて寄越した。これは雪子に聞いて欲しいことがあるときの、菅井の習慣である。
「あのひとは、雪子先生のところに来るときは決まって落ち込んでて、雪子先生が慰めてあげると、元気になって帰っていったじゃないですか。今まであの人を支えてあげたのは雪子先生です。雪子先生のお友達じゃありません」
 から揚げも美味しかったが、ハンバーグもなかなかいける。年がら年中ダイエットをしている菅井は、豆腐ハンバーグを選んだようだが、これはこれで美味しい。
「いい加減、素直になったらどうですか? 今日だって聞いてるのが辛くなって、途中で切り上げちゃったんじゃないんですか?」
 菅井の言葉を無視して、雪子は弁当に専念する。食事の際には、目の前の食べ物に集中するのが雪子の作法だ。
 最後の一粒まできれいに食べて、雪子は箸をしまった。冷たい緑茶で喉を潤す。冷たいごはんには冷たい緑茶の取り合わせが最高だ。
 
「先生。ご自分の気持ちを伝えるべきだと」
「それはスガちゃんの考えすぎ。ほら、いつまで食べてんの。仕事仕事」
 雪子が自分の話をまったく取り合わないことを悟って、菅井は弁当の蓋を閉めた。
 雪子の半分も食べていない。よくあれで夕食までおなかが空かないものだ。これだけ食べても、3時もオヤツは欠かせない雪子である。

 菅井は会議用の資料を取りに、キャビネットの方へ歩いていった。
 そのかわいらしい後姿を見ながら、雪子は思い込みの激しい助手に嘆息する。

「相変わらずキツイ娘ね。参るわ」
 短い黒髪を左右に振り、ついでに自分の中の何かも振り切って、雪子は立ち上がった。



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ビアガーデン(6)

ビアガーデン(6)







 売店の弁当で昼食を済ませて第九に帰り、青木は室長室を覗くことにした。
 雪子に愚痴を聞いてもらうばかりでは申し訳ない。青木が努力しているという姿勢を見せなければ、雪子も協力のし甲斐がないに違いない。アドバイザーに実の有る報告ができるように、薪との距離をもっと縮めなければ。

 昼休みは、薪の昼寝の時間だ。
 気候の良い春や秋は中庭の芝生に寝転んでいるときが多いが、今は夏だ。冷房の効いた室内のほうが気持ちよく眠れるこの季節、薪は室長室のカウチで熟睡しているはずだ。眠りを妨げるのは憚られるが、それほど時間を割かせるつもりはない。10分ばかり早く起こしても、大した違いはないだろう。
 予想通り、薪は室長室で眠っていた。
 毎日毎日ろくな食事も摂らずに、よく眠れるものだ。青木なら腹が減ると、夜中でも目が覚めてしまうが。
 両手を胸の上に載せて、分厚い洋書を抱いている。片膝を立て、もう片方の足は床に降ろして、顔は背もたれの方に向けている。きれいな寝顔が見えないのが残念だ。

「んん……」
 狭いカウチの上は寝苦しいのか、薪が鹿爪らしい顔をしてこちらを向いた。いつもは安らかなその寝顔が、今日はひどく苦しげだ。部屋には心地よく冷房が効いているのに、薪は額に汗をかいている。
 研究室では夏でもきっちりとスーツを着て、汗ひとつかかない薪が―――― きっと二日酔いだ。
「う……」
 眠りも浅そうだ。これなら少しばかり早く起こしても、せっかく気持ちよく寝てたのに、と怒られることはないかもしれない。

「ふ……っく、あっ」
 苦しげな呻き声とともに、薪のきれいな顔が歪められた。二日酔いで、気分が悪くなったのかもしれない。顔色も真っ青だ。

「薪さん。気分が悪いなら、吐いちゃったほうが楽ですよ」
 デスクの下から屑入れを持ってきて、肩を揺すって声を掛ける。薪は目を覚ますと同時に跳ね起きた。
 青木のワイシャツを両手で掴み、蒼白な顔を押し付けてくる。大切な洋書が床に落ちたが、それを気に留める余裕はないようだ。よほど切羽詰っているらしい。
「いやちょっと、そこに吐かないでくださ……!」
 いくら薪のものでも、ゲロのついた服では午後から仕事にならない。
 肩を掴んで引き離そうとするが、薪は夢中で青木にしがみついている。両腕を背中に回して、ガタガタと震えている。二日酔いではなく、どうやら怖い夢でも見たらしい。
 
「大丈夫ですか?」
 小さなからだを抱きしめてやり、髪を撫でてやる。感情が乱れたとき、薪はこうしてやると落ち着くのだ。
 しかし、その日の薪は、もの凄い勢いで青木の腕を振り払った。
「薪さん?」
 寝椅子の隅に身体を縮こめるようにして座り、両手で頭を押さえている。信じられないものを見るような目で、青木のことを見ている。

「ゆるして……もう……」
「え?」
「違うっ……僕をそんな目で見るな!」
 薪の様子を見て、青木は夢の内容を察した。
 いつもは冷静な亜麻色の瞳が、異常な光を帯びている。眼のふちには大粒の涙が浮かんでいる。青木は黙って踵を返し、室長室を出た。
 今の薪にとって、自分の顔は恐怖を与えるだけだ。この顔は薪の亡き親友の顔と同じ―――― 薪が殺した男の顔なのだ。

 あの事件から2年が経とうというのに、まだ薪の傷は癒えない。
 薪があの事件に捕らわれている限り、薪のこころに青木の入る余地はない。以前、そこに立ち入ろうとして、薪をひどく傷つけてしまった。薪のあんな泣き顔を見るのは、二度とごめんだ。

「薪さん、どうかしたのか」
 ヒステリックな薪の声を聞きつけて、岡部が様子を見に来る。
「夢を見たらしくて。オレがいると、よけい怖がっちゃうみたいだから」
 こう言えば、岡部には薪の夢の内容がわかる。岡部は薪の事情を、青木よりも良く知っている。ここは岡部に任せたほうがいい。
 岡部は軽く頷くと、室長室へ入っていった。ドアの隙間からそっと伺うと、岡部は寝椅子の上にうずくまった薪の隣に座って、何事か話しかけている。岡部の顔を見て、薪は少し落ち着いたようだ。その瞳に涙はない。

 青木は、岡部に微かな嫉妬を覚える。そして自分の顔に、もっと激しい嫉妬をする。
 なんでこんな顔に生まれてきてしまったのだろう。よりにもよって、愛した人が殺めてしまった親友の顔にそっくりなんて。

 本当のところ、自分ではそれほど似てはいないと思うし、周りの人間に聞いても同じ意見が返ってくる。鈴木の婚約者だった雪子にいたっては「鈴木君のほうが3倍イイ男だった」と断言されてしまった。
 それが薪の目には、まるで親友の生まれ変わりのように映るらしい。
 だからこそ最初のうち、薪は自分のことを見てくれたのだ。そして自分を助けてくれた。この顔のおかげで薪に関心を持ってもらえたのだから、逆に感謝しなければならないのか。
 それに、この顔を利用して、図々しく薪の家に押しかけたりもした。大好きだった親友にそっくりな自分を、薪が拒絶しきれないであろうことは、実は計算のうちだった。
『薪くんは押しに弱いから、ガンガン行きなさい』
 青木の恋のアドバイザーは薪の大学時代からの友人で、彼の性格を心得ている。
 鈴木も物怖じしない男だったらしい。にっこり笑って、どんな人間にも平気で近づいて行ったという。そんな屈託のなさが薪のこころを射止めたのだ、と雪子は主張していた。

 鈴木はまた、限りなくやさしい男だったとも聞いた。
 そのやさしさが薪の我が儘を助長させた、と雪子は言うのだが。おそらくこれは冤罪だ。薪の我が儘は天性のものだ。薪と親友だった15年間、鈴木はずっと薪の我が儘に振り回されていたのだろう。

 きっと心の底では、その我が儘をうれしく思いながら。
 鈴木の脳を見たことがある青木には、それが解るのだ。

 薪のことを本当に大切に思っていなかったら、鈴木はあんなことはしなかった。雪子という婚約者までいた鈴木が、自分の脳を撃ってまで薪を貝沼から守ろうなどと、普通の友人ではありえない。それでなくても鈴木の目に映る薪はとてもきれいでかわいくて、いくらか幼げな薪の雰囲気が、二人の裏の関係を表しているような気がした。

 きっと鈴木は、薪のガーディアンだった。

 周りから見たら、薪の方が名実共に鈴木より強い。柔道は黒帯だし、階級は警視正で役職は室長。昔から薪の鬼のような仕事振りは有名だから、鈴木が親友でも容赦はしなかったに違いない。
 が、薪は強そうに見せかけて、その実ひどく脆いところがある。
 その脆さが出てしまったときに支えてくれたのが、鈴木だったのだろう。だから鈴木との間に、あんなジンクスができたのだ。

 自分がそれを踏襲できたのは、鈴木に良く似たこの顔のおかげだ。だが、いま薪を怖がらせてしまったのも、やはりこの顔だ。感謝するべきか恨めしく思うべきか、青木には判断がつかない。

 いつになったら、薪は自分を見てくれるのだろう。
 薪が自分の中に鈴木の影を探すことなく、親友に良く似た第九の部下としてではなく、青木一行個人として見てくれる日が、来るのだろうか。

 やがてすっかり冷静さを取り戻した薪が、澄ました顔で室長室から出てくる。岡部と職員のシフトの話をしながら、青木の方を見もしない。
 鈴木とまったく共通点のない岡部は、その確かな捜査官としての実力で、始めから薪の信頼を得ている。鈴木の顔を借りて薪を慰めることしかできない自分とは、えらい違いだ。

「いいなあ。岡部さんは」
 連れ立ってモニタールームを出て行く二人の背中に、青木は大きなため息をついた。



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ビアガーデン(7)

ビアガーデン(7)





 亜麻色の大きな瞳がうっとりと情を含み、たまらない色香を持って近付いてくる。
 朝露に濡れた花弁のようなくちびるが半開きになって、その隙間から赤い舌が覗いている。やがてそれは竹内のくちびるに重なって、舌が激しく絡められ吸い上げられ――――。

「竹内さん。いつまでソースかけてんすか」
 大友の言葉に、竹内は我に返った。気が付くと、ソースの海にイカフライが浮いている。
「いいんだよ。俺はソースが大好きなんだから」
 フライを箸で摘み上げると、衣の吸収量をはるかに超えたソースが、ぼたぼたと皿の上に落ちてくる。付け合せのキャベツにいたっては、まるで泥のようだ。別皿でポテトサラダを取っておいてよかった。

 竹内がサラダにマヨネーズのチューブを絞っていると、聞き覚えのある声がして、先刻の竹内の言い分に疑問を投げかけた。
「おまえって、そんなにソース好きだっけ?」
「あ、岡部さん。昨日はどうも、―――― っ!」
 捜一の先輩である岡部の傍らに薪の姿を発見して、竹内は思わず右手を握りしめた。ブシュッ、という音がして、どうやらサラダも食べられなくなりそうだ。

「岡部。あっちへ行こう。二日酔いが悪化しそうだ」
 ソースの海に浮いたフライと、マヨネーズに埋もれたポテトサラダ。たしかに竹内のプレートは、食欲を減退させる。
 自称二日酔いの薪のプレートには、冷たいそばと大根おろし、ほうれん草のおひたしが載っている。しごくあっさりしたものばかり。だから薪は筋肉がつかないのだ。

 さっさと竹内たちの席から遠ざかっていく薪の背中を目で追って、竹内は自分の心臓が早鐘のように打っていることに気付く。周囲に聞こえてしまいそうなくらい、大きな音を立てている。
 そんな竹内の心中を知ってか知らずか、岡部は無造作にそのことに触れてきた。
「竹内。昨日のことだけど」
 あの場面を、岡部は目撃している。岡部だけではなく、他の第九の職員たちもみんな見ていたのだ。
「薪さん、何も憶えてないんだ」
「憶えてない?」
「あのひとは、酔うと記憶を失くすタイプでな。沈没する30分前からの記憶は、完全に消去されるんだ。昨夜おまえが一緒だったことも記憶にない」

 竹内を名指しして説教を始めた頃には、ぐでんぐでんだったのか。確かに目の縁はアルコールのせいで色っぽく染まっていたが、それほど酔っているとは思えなかった。
「いつもああなんですか? その」
「まさか。いつもは眠ったらそのままだ。おまえがムリに起こすから。おおかた女の夢でも見てたんだろうよ」
 普段と変わらない白い頬だったから、急性のアルコール中毒を疑ってしまったのだが、薪は酔いが顔に出ない性質らしい。
「まあ、悪い夢を見たと思って早く忘れてくれ」
 災難にあった竹内を慰めようと、やさしい岡部はそんなふうに言って、自分を待っている上司の席へ歩いていった。

 あのキスが、特別なものではなかったことはわかっていた。
 薪は自分の後にも、第九の部下のひとりに襲い掛かっていた。それでも竹内にとっては、憧れの人との初めてのキスだ。忘れられるはずがない。

 やわらかいくちびるだった。甘くてぞくぞくするような舌だった。アルコールの匂いは強かったが、薪の身体からはとてもいい匂いがした。
 竹内の首に抱きついて膝の上に腰掛けて、竹内の太腿に密着した薪の小さな尻の質感が、下腹部を直撃してきて―――― 思わず抱きしめて、夢中で舌を吸い返してしまった。
 周りの人間がパニックに陥っていたおかげで、竹内の不埒な行いは誰にも気付かれなかったが、第九の職員が薪を引き離してくれなかったら、あのまま押し倒してしまっていたかもしれない。……もう少し、放っておいて欲しかった……。

 それをすべて忘れてしまっているとは。うれしいような悲しいような。
 しかしそれは、飲ませてしまえば何をやってもOKということか?
 ……すいません、薪室長。いま俺は、人間のクズになりかけました。

 薪のほうをこっそりと見ると、背筋をしゃんと伸ばして端然と椅子に腰掛けている。
 その清廉な美貌。昨日の乱れた酔いどれと同じ人物とは、とても思えない。
 あれはきっと、第九の仲間だけに見せる顔なのだ。
 薪がこころを許しているのは、あの連中だけだ。自分ではその中に入っていくことはできない。こうして遠くから見ているしかない。
 青木のように薪に憧れて第九に異動願いを出す、などということは竹内にはできない。竹内は捜一の仕事に誇りを持っている。これが自分の天職だと思っている。いくら薪に近付きたいからと言って、それを自ら捨てることはできない。

 薪にとって、第九の部下たちが自分をさらけ出せる仲間であるように、竹内には捜一の大切な仲間がいる。目の前の大友もその一人だ。
 竹内はソース浸しのイカフライを箸で摘んで、大事な仲間に声を掛けた。
「ひとつだけ、取替えっこしないか?」
「いやです」
「冷たいやつだな。俺が腹減って現場で犯人取り逃がしたら、おまえのせいだぞ」
「ソース大好きなんじゃなかったんですか」
「だからさ、この味をおまえにも教えてやろうと思って」
「けっこうです」
 竹内が大事に思っていても、相手はそうとは限らないのかもしれない。

「ちっ、冒険心のないやつ」
 これはもう一度、買いに行くしかない。
 そう思って席を立ちかけた竹内の前に、新しいランチプレートが差し出された。
「これをどうぞ」
「ま、薪室長!」
 ミックスフライと別添えのポテトサラダ。冷奴のおまけも付いている。

「岡部にあなたに謝罪するように言われまして」
 昨夜味わったばかりのつややかなくちびるが動いて、プレートの訳を説明した。薪は、岡部の言うことなら比較的よく聞く。岡部のことを信頼している証拠だ。
「昨日はずい分絡んでしまったそうで。すみませんでした」
「そんなことはありません。俺も楽しかったです」
 ああいう絡みなら、大歓迎です。もっと絡んでいたかった、いやその。
「僕は飲みすぎると、記憶が飛んでしまうんです。あなたにとても失礼なことをしたそうですけど、僕は何をしたんですか?」
「それはその……」
 気配りの上手い岡部らしい。きっと内容は話さずに、ただ迷惑を掛けたから謝っておいてください、とでも言ったのだろう。

「もしかして、殴りましたか?」
「いえ。殴られはしませんでしたけど。窒息しそうになりました」
 竹内は言葉を選んだ。
 それ以上細かい事情を話すわけにもいかず、竹内が黙ってしまうと、薪は気取った仕草で肩を竦めた。
 その華奢な肩も身体も、昨夜この腕に抱いた。今付き合っている女のものより、遥かにしなやかで締まったからだだった。

「とにかく、謝りましたから」
 投げやりに言って、薪は竹内に背を向けた。
 そのきれいな後姿に見蕩れる。
 季節柄、薪はジャケットを着ていない。だから、体の線がよくわかる。白いワイシャツの背中から、腰のラインがとても優美だ。
 それを見て竹内は、自分の腿の上に乗っていた、ちいさなヒップの感触を思い出す。
 しっかりした肉の感触だった。思わず撫で回したくなるような――――。

 その場を立ち去りかけた薪だったが、何かに気が付いたように足を止め、竹内のほうを振り向いた。亜麻色の瞳が氷のように冷たい。下衆な考えを見透かされたのだろうか。

「これからは、僕が酒を飲んでいるときには近付かないで下さい」
 剣呑な口調で、薪は言った。
「この次は、あなたを窒息死させるまで、止めないかもしれませんよ」
 ……されてみたい。
「その覚悟があれば、歓迎しますよ」
 踵を返した肩越しに殺し文句を吐き捨てて、薪は自分の席へ歩いていった。
 
「相変わらず、怖いっすね~」
 はあっと詰めていた息を吐き出して、大友が囁いた。
「え? どこが?」
「どこがって。竹内さん、酔っ払った薪室長に、首を絞められたんでしょ? 次は殺すぞ、っていま言われてたじゃないですか」
 大友は、薪が竹内の首を絞めたものと思い込んだらしい。表現の仕方を誤っただろうか。
 たぶん薪も、竹内の言葉をそう取ったのだ。薪には昨日の記憶はないのだから、あんなことがあったとは夢にも思わず、窒息という意味を言葉通りに捉えたのだろう。

「ああ。仲間内で楽しくやってるところを、邪魔しちゃったからな」
 大友の誤解を解くわけにはいかない。あれは、第九の職員と自分だけの秘密だ。
「普通、それぐらいで首絞めたりしないでしょう。酔っ払った振りしてわざとやったんじゃないですか?」
 あの行為が意図的なものだったら、どんなに嬉しいだろう。

「あのひとって、本当に性格悪いですよね」
「うん。まったくだな」
 そんなことはない。
 薪は本当は、ひとに気を使う性格だし、とてもやさしい。今だってこうして、新しいランチのプレートを持ってきてくれたではないか。冷奴のおまけまでつけて。

 酔ったはずみとはいえ、キスなんかしてしまったら、よけい可愛く思えてきた。
 しかも、あのキスの激しかったこと。甘くて扇情的で――――。

「竹内さん」
「うん?」
「しょうゆ、いつまで掛けてんすか?」
「……いいんだよ。俺は冷奴は、いつもこうして食べるんだよ」
 どっぷりと醤油に浸かった豆腐を見て、今日の午後はとても喉が渇きそうだ、と竹内は思った。



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ビアガーデン(8)

 昨日、カウンターが2000を超えました。
 ありがとうございました。
 これもマメにお寄りくださる、みなさまのおかげです。
 サイト名を変更しても、来訪してくださる方の数があまり変わらないので、公式と間違えられてた、ということはなかったみたいです。ホッとした。(笑)

 こんなズレまくったサイトにお時間を割いていただいて、本当に感謝しております。
 これからも、よろしくお願い致します。




ビアガーデン(8)






 そして第九には、日常が戻ってくる。
 室長が、報告書のファイルを抱えて部下の間を回る。昨日の酒宴の乱れは微塵もなく、いつもの冷静な表情だ。

 室長は、それぞれのモニターを背後から覗いて、部下の捜査の進み具合を確認する。報告に頷きながら、行き詰った捜査には光明を、間違った推理には軌道修正を施す。それは指導というよりはヒントを与えるという程度の微かな指示で、部下の成長を促すためのものである。
 進行中の事件では、自分ひとりでもズバズバ推理を進めてしまう薪だが、それでは部下が育たない。だからこのように、事件そのものは終わっているがその証拠固めのためのMRI捜査のときには、薪は自分の推理を語らない。ひとりひとりの推理能力を高めることが、第九のクオリティをより高める。そのことを薪は、重々承知している。

「今井。この誘拐事件の報告書だが」
 薪は途中で言葉を止めて、今井の顔を見た。
 近付いてみると、今井の顔には殴られたような痕やら引っ掛き傷やらが残っている。後頭部には大きなこぶもできている。喧嘩でもしたのだろうか。

「おまえ、どうしたんだ?その怪我」
「いえ、その……」
 理由を聞いても口を開こうとはせず、何故か赤くなっている。そのうえ、薪の顔を見ようとしない。
 その不自然な様子から、推理能力に優れる第九の天才は、部下に訪れた不幸にひとつの仮説を立てた。
「もしかして昨夜、酔った勢いで」
 今井の顔が、思い切り引き攣る。これはどうやら間違いない。
 薪はつややかな口唇を今井の耳元に近づけて、こっそりと囁いた。
「無理やり彼女に迫ったんだろ」
 今井は不自然な笑いを浮かべたまま、固まっている。やはり図星だ。
「女性はそういうの、嫌がるからな。それで引っ叩かれたんだろ」
「……はい。仰る通りです」

 自分の仮説が的を射ていたことに満足して、薪は鷹揚に頷いた。
 今井は彼女との付き合いは長いはずだが、それゆえに演出に凝ったり、プレゼントをして彼女を喜ばせてやる努力を怠っているに違いない。ここは一つ、年上の男性として女性の扱い方をアドバイスしてやろう。
「女っていうのはな、雰囲気に弱いんだ。彼女と仲直りしたかったら、ちょっとしたプレゼントでも用意して、シャレた店でメシでも食わせてやって、好きだよとか言いながらキスしてやれば一発だ」
「キス、ですか」
「そうだ。女をモノにしたかったら、まずはキスだ。キスで酔わせることができれば、簡単にベッドに連れ込める」
「……室長が、キスが上手いのは知ってます」
「あん?」
「室長。どうぞ」

 青木の声に、薪は顔を上げる。
 目の前に、芳しい魅惑の液体の入ったカップがある。そういえば、今日は昼にコーヒーを飲まなかった。
 青木はいつも、わりと早めに研究室へ帰ってくる。業務開始の10分くらい前には、昼寝から醒めた薪にコーヒーを淹れてくれるのだが、今日は姿が見えなかった。

「お酒の翌日なので、酸味の強いガマテラを使ってみました。コクを出すためにジャバロブスタと、香り付けにモカを少々混ぜてみました」
 飲む人の体調まで、しっかりと気遣ってくれる。第九のバリスタの名に恥じない仕事振りである。
 薪は上機嫌でマグカップを持つと、室長室へ入っていった。
 せっかくのコーヒーだ。椅子に座って、ゆっくりと楽しみたい。

「サンキュー、青木」
「これはオレの仕事ですから」
 そんな謙虚な言葉と共に、青木は今井の机の上にコーヒーを置いた。
 この後輩は2年目になるのに、まだ一番下っ端のままだ。4月に入ってきた3人の新人は、1週間で一人が辞め、残りのふたりも2ヶ月足らずでいなくなった。
 そんなわけで、青木はまだ新人の仕事をしているが、実際のところ、なかなかの実力を付けてきている。いくつか、メインで報告書を上げた事件もあるくらいだ。しかし、本人はあくまで控えめな態度を崩さずに、進んでお茶汲みやコピー取りや、買出しに行ってくれる。

「コーヒーもありがたいけど、室長のことだよ」
「ああ。今井さん、なんか困ってたみたいだったから」
 今の件でも分かるように、青木はとてもひとの気持ちには敏感で、気も利く。勘違いばかりしている誰かさんに、爪の垢でも煎じて飲ませたいくらいだ。

「内緒話してたみたいですけど。なんだったんですか?」
「この顔の傷、彼女にやられたんだろうって」
 今井の顔に傷を付けたのは、第九の仲間たちである。
 酔っ払った薪にくちびるを奪われた後、何故かみんなに袋叩きにあったのだ。どう考えても自分は被害者だと思うのだが、めちゃめちゃに殴られた。
 そういえば、その中に、この謙虚な新人もいたような気がするが。この一番でかいこぶは、こいつの大きな拳によるものだったような――――。
「みんな酔ってましたからね。ふざけて軽く小突いたつもりだったんでしょうけど。ああ、でも痛そうですね。大丈夫ですか?」
 いや。きっと気のせいだ。こんなやさしい男が、そんなことをするはずがない。このコブは、きっと岡部さんだ。

「たいしたことないよ。所詮は女の力だ」
 薪の的外れの仮説を皮肉って、今井は両手を広げた。エスプリの効いた冗談に、青木は苦笑する。
「薪さんの勘違いは、日々進化してますからね」
「進化っていうのかね。―――― あれ?このコーヒーって、なんか味おかしくないか?」
 なんだかヘンに酸っぱいような苦いような、それでいて薄いような。とても第九のバリスタの手によるものとは、思えない味だ。

「そんなことないだろ。いつも通り、美味いよな」
「おまえ、口の中腫れてて、味がわかんなくなってるんだよ」
 同じコーヒーを飲んでいる同僚に指摘されて、なるほど、と今井は納得する。たしかに今日は、食事もまともな味がしなかった。昨日の酒の影響も残っているし、口中に傷もある。
「口の中が切れてて染みるだろうからって、青木がおまえに気を使って、手間のかかるアイスコーヒーを淹れてくれたんだから。残さず飲めよ」
 本当に気が利くやさしい後輩だ。こいつが第九に来てくれてよかった。
「ああ。ありがとう、青木」
「どういたしまして」
 温かい新人の心遣いを、今井はありがたく飲み干した。

 10分後。
 空になったグラスを集めて給湯室へ戻った青木に、岡部が話しかけてきた。岡部も昨日は飲みすぎたとみえて、冷蔵庫のミネラルウォーターをラッパ飲みしている。
「で? 本当は何を入れたんだ?」
「はい?」
「とぼけるな。今井のコーヒーだよ。下剤か? 雑巾の絞り汁か?」
「なにも入れてませんよ」
 岡部は、疑わしそうな目で青木を見ている。やっぱり岡部にはバレてしまったか。
「本当に普通のコーヒーですよ。みんなのコーヒーを取った後の搾りかすから抽出して、それを煮詰めたものですけど」
「……それは、普通のコーヒーとは言わんだろ」
「エコロジーの時代ですから」

 このセコイ嫌がらせは、今井が薪のくちびるを奪ったことに対する、ささやかな報復である。今井の後頭部を一発ぶん殴ったくらいでは、気が収まらなかった。自分が受けたショックの大きさを考えれば、竹刀で叩いてやりたかったくらいだ。
「今井さんが体を壊したら、困るのは室長ですから。あのひとを困らせるような真似はしません」
「賢明だな」
 ミネラルウォーターを飲み干して、研究室へ戻ろうとした岡部を呼び止めて、青木は昼からずっと気になっていたことを聞いてみた。
 
「室長が第九であんな夢を見たのは、初めてじゃないですか?」
 時々、岡部と一緒に薪の家に泊まりこんでいる青木は、今まで何回か薪が夜中にうなされているのを聞いたことがある。
 たいていは3人で一緒に酒を飲んで、最初に潰れた薪をベッドに寝かせてやってから、岡部とふたりで飲みなおすのだが、薪の声が聞こえるように、寝室のドアは少しだけ開けておく。苦しげな声が聞こえてきたら、すぐに岡部が薪をなだめに行って、落ち着いたらリビングに戻ってくる。
 そのとき青木は、息を潜めてじっとしている。
 自分が殺した親友に良く似た青木の姿は、薪を怯えさせてしまう。だから青木は、薪の悪夢を止めてやることができない。
 しかし、その夢を第九で昼間見たというのは、初めてではないだろうか。

「初めてじゃない」
 青木の疑問を、岡部はあっさりと否定した。
「事件のすぐ後は、ひどかった。うたた寝してもうなされてたよ。睡眠薬と精神安定剤が手放せない状態だったんだ」
「そうだったんですか……」
 岡部は、その時期の薪を支えてきたのだ。だから薪は、岡部に絶対の信頼を寄せている。青木がどうしても入り込めない、ふたりの絆である。

「でも、この頃薪さん、よく笑ってくれるようになったし。昨日も、楽しそうにしてましたよね」
 薪の傷は、徐々に塞がってきている。そう思うのは、青木の都合のいい解釈だろうか。
「命日が近づいてきたからな。そのせいだろ」
 あの事件が起きたのは、8月9日。夏の最中の蒸し暑い日だった。
 その日が近付くにつれ、薪は事件を思い出してしまうのだろうと岡部は言う。
 岡部の言うとおりかもしれない。やはり、忘れることなどできないのだ。

「そう落ち込むな。おまえが薪さんの家にちょくちょく出入りするようになってから、あのひとはずいぶん明るくなったぞ。あのひとの笑顔が増えたのは、おまえのおかげだよ」
 そんな嬉しいことを岡部に言われて、青木は自然と笑顔になる。自分の価値を誰かに認めてもらえるのは、とても誇らしい。
「まあ、意地悪のほうも磨きが掛かったみたいだけどな」
 ……それもオレのせいですか。

「そういえば、今日は金曜ですけど。定例会どうします?」
 定例会というのは、薪の家で週末に開催される、男3人の色気のない飲み会のことだ。
「今日はやめとくって、薪さんが言ってた」
「そうですよね。昨日あれだけ飲みましたものね」
「いや、そうじゃなくて。明日行きたい所があるからって」
 その場所がどこだか、青木には察しがついた。
 おそらく、岡部も分かっている。岡部の目は「薪さんの邪魔をするなよ」と言っている。

 青木は黙って頷くと、アイスコーヒーのグラスを洗う仕事に戻った。



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ビアガーデン(9)

 夕方、メールを確認したら、20件近くのコメをいただいておりました。
 すべてお一人の方からの拍手コメで、とてもありがたく思い、PCに向かって頭を下げました。

 ……Kさま。一瞬、スパムメールかと思ったわたしを許してください。
 だ、だって、びっくりしたんだもん。(^^;)





ビアガーデン(9)






 薪が家を出たのは、朝の10時頃だった。
 黒装束に身をかため、白い百合の花束を抱えている。いつもはその手にない、細いプラチナのリングが、彼の左手の薬指を飾っていた。

 吉祥寺の駅から電車に乗る。
 同じ車両に乗り合わせた人々の中には、花束を抱えた美貌の人物に、視線を注いでいる者がいる。その者たちは薪の美しさに目を留め、ついでその沈痛な表情にあって、声を掛けるのを断念する。喪服に薬指のリング―――― どう見ても大切なひとの墓参りか葬儀だ。軽々しく声を掛けられる雰囲気ではない。

 神田で京浜線に乗り換えて、横浜方面に向かう。石川町の駅で降り立ち、中華街とは反対の方向に歩いていく。30分ほど歩くと、潮風の匂いがしてくる。
 やがて辿りついたのは、『天空の霊園』と異名を取る、長い階段の上に設置された墓地だった。

 薪がここを、陽の高いうちに訪れることは珍しい。いつもは夜の闇に紛れるようにして、こっそりと彼に逢いに来ていた。
 霊園には、薪の他にも2、3組の墓参りをする人々がいた。線香の匂いが漂ってくる。

 ひとつの墓石の前に百合の花束を置き、薪はいつものように、屈み込んで手を合わせる。
 その墓は先祖墓らしく、墓誌に何人かの名前が刻んである。その中で一番新しい名前を指でなぞり、にっこりと微笑みかける。
「鈴木。逢いに来たぞ」

 2年目の夏。
 自分はまだ、こうして生きている。
 鈴木のいない世界で。
 鈴木の顔も見られない世界で。
 自分には、何の意味も無い世界で。
 それでも生きている。

 去年はここで、涙が枯れるほど泣いた。
 どうしても涙が止まらなくて、帰るに帰れなくて。待たせておいたタクシーの料金が、とんでもないことになっていた。今年は電車で来たから、何時間でもここにいていいのに、涙は出てこない。
 ここに来ると必ず、親友が本当にこの世にいないことを思い知らされて、耐え難い寂寥感に襲われるのに、今日はなぜか落ち着いている。
 2年という月日の成せる業か、あるいはこの、生命力に満ち溢れた夏の太陽のせいか。

 そのおかげで、ゆっくり鈴木と話ができる。鈴木に、みっともないところを見られずに済む。
 これまでずっと自分の泣き顔ばかり見せられて、きっと鈴木は辟易していただろう。

 だから、今年は笑おう。

 自宅で写真に話しかけるときのような、蕩けるような笑顔で、薪は墓石を見つめる。そのまま30分ほど心の中で会話を交わして、ゆっくりと立ち上がった。
「じゃあな。また来るからな」
 小さく呟いて細い人影が去ったあと、その墓石に近付いていく人物がいた。

 黒髪に黒い瞳の若い男。チタンフレームのメガネを掛けていて、とても背が高い。
 彼は薪が座っていた場所にしゃがみ込むと、一心に手を合わせ、何やら口の中でぶつぶつと呟き始めた。それが終わると懐から線香を取り出し、墓前に供えた。
「頼みましたからね。お願いしますよ」
 言ってから、これは墓参りに来る人間のセリフじゃないな、と彼は思う。
 ここは神社ではないし、眠っているのは神様でもない。鈴木家ゆかりの人間ならともかく、自分は赤の他人である。頼みごとをした相手に会うのも、これが初めてだ。いや、これを会うと表現していいものかどうか、それすら怪しい。
 彼と一緒に墓に入っている鈴木家の先祖たちは、今ごろ「最近の若いもんは」と自分の上司の口癖と、同じことを口にしているかもしれない。しかし自分の頼みごとは、ここに入っているいちばん若い人物に、深く関わっているひとに関することだ。
 ぜひ、聞き届けてもらいたい。

 墓前に向かって深く頭を下げ、彼は立ち上がった。
 長身が、長い石段を降りていく。
 3番目の踊り場で、彼はその人影に気付いた。遥か下方、石造りの門柱の隣に立ち、腕を組んでこちらを見上げている。

 まずい。

 とっさに身を翻した長身に、鋭い声が突き刺さってきた。
「降りて来い、青木!」
 おそるおそる振り返ると、怒りを含んだ亜麻色の瞳が自分を睨みすえていた。


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ビアガーデン(10)

 昨日は、すごくすごく、たくさんの拍手をいただきました。
 あまりの数に、また拍手カウンターのトラブル!? と思いました。(^^;

 何人かの方が、過去記事を読んでくださいまして。
 とてもとても、うれしかったです。
 本当に、ありがとうございました。





ビアガーデン(10)







「偶然だな。おまえもここに、知り合いがいるのか」
 薪は明らかに怒っていた。
 鈴木との逢瀬を邪魔されたことに、腹を立てているのだ。
 無駄だと知りながら、青木は見え透いた弁明を始める。百戦錬磨の捜査官を騙せるとは思わないが、自分の愚行を認めるわけにもいかない。

「ええと、叔父さんが」
「ふうん。実家は福岡だろ。なんで横浜に墓があるんだ」
「は、母方の叔父でして」
「おまえのお母さん、香川県出身じゃなかったか」
「いえ、長崎です―――― あっ」
 ついつい誘導尋問に引っ掛かって、青木は馬脚を現す。とにかく、ウソのつけない男なのだ。
「観念しろ。おまえに詐欺師の才能はない」
 あっても使い途に困ると思うが。

 薪は先に立って歩き出した。
 いつもより、歩調がゆっくりだ。これは、並んで歩いてもいいということだ。
「ウソも下手だけど、尾行はもっとお粗末だな」
 青木は身体が大きいので、もともと尾行は苦手だ。追跡の途中で服装を変えても、その身長で同一人物だと一発でばれてしまう。
「どこら辺から気付いてました?」
「始めから。家の前に、8時から立ってただろ」
 正確には7時からだ。しかし、そんなところからばれていたとは。尾行はもとより、張り込みの才能もないらしい。

「2時間待っても動きそうにないから、仕方なく出てきたんだ。僕は、ここへはいつも夜に来ることにしてるんだ。なるべく、人目に付きたくないから」
「すみません」
 薪が気にしている『人目』というのは、鈴木の家族や親戚のことだ。
 正当防衛とはいえ、息子を殺した人間の顔を見たくはないだろう、という薪の気遣いは、相変わらず続いているようだ。

「で? 叔父さんに何の用だったんだ?」
 薪は意地悪そうな顔をして、青木の見え透いた嘘を蒸し返した。亜麻色の瞳がきらきらしている。
 誰かを苛めてやろうというとき、薪はとても生き生きした顔つきになる。青木は苛めがいがあるようで、しょっちゅうこの目を向けられている。
「ちょっとしたお願い事です」
「お願い事って。ここは神社じゃないぞ」
「オレの叔父さんは、神様みたいなひとだったんです」
 青木の開き直った言い方に、薪は意地悪の矛先を一旦収めることにしたようだ。普段の穏やかな顔に戻って、何気なく周りの風景に目をやる。
 この辺りは、海を見渡せる霊園が多くあるせいか、静かで緑が多い。朝の涼しい時間帯なら、散歩にはもってこいの道だ。

「その神様に、何を頼んだんだ?」
「秘密です」
 青木が黙秘権を行使すると、薪は少し不機嫌な顔をした。
「そんな大したことじゃないですから」
 実際に、何をしてくれと頼んだわけではない。
 むしろその逆だ。

『オレが、あのひとの笑顔を取り戻してみせますから。見守っていてください』
 鈴木に頼んだのはそれだけだ。
 謙虚で奥ゆかしいと称されることの多い、青木らしいささやかな願い事である。
 しかし、その本音は。
『よけいな事をせずに、黙って見てろ』
 である。

 ―――― 絶対に、追い出してやる。

 夢に現れては薪を苦しめ続ける鈴木の存在は、青木にとって決して快いものではない。
 それに、薪の心に鈴木が住んでいる限り、自分は薪の中に入っていけない。
 初めは薪を惹きつけたこの顔が、今は逆にネックになっていて、薪はいつまでたっても自分のことを見てくれない。
 岡部は「青木のおかげで薪に笑顔が増えた」と言ってくれたが、それは青木に笑いかけているのではなく、自分の中の親友に笑いかけているのだ。
 その証拠に、薪は寝ぼけると100%の確率で、自分を鈴木と間違える。寝言ではいつも鈴木の名前を呼んでいるし、寝ながら微笑んでいるときには、確実に鈴木の夢を見ているのだ。

 周りの人間が思っているほど、自分は純情でもないし、お人好しでもない。表には出さないが、けっこう負けず嫌いで強情だ。
 薪を好きになってからは、その兆候が激しくなってきて、さらには醜い嫉妬心まで育ってきてしまった。

 青木にとって以前、恋は楽しくて幸せなものだった。
 こんなふうに、他人を羨んだり、妬ましく思ったりしたことは決してなかった。青木は昔から争いごとは苦手で、もしも友人と同じ女性を好きになってしまったら、自分は身を引くタイプだった。
 それが薪に関しては、どうしても譲れないと思ってしまう。他の人達を羨ましいと思ってしまう。
 薪のハートを捕えている鈴木は言うに及ばず、自分より薪の信頼を得ている岡部や、付き合いの長い第九の先輩たちや、薪の大学時代のことを知っている雪子にまで、実は嫉妬している。
 こんな恋は初めてで、自分でも戸惑っている。薪といると幸せな気持ちになることも多いが、それ以上に、マイナスの感情を持つことも多々ある。

 薪のことが、欲しくて欲しくてたまらない。
 自分のことを好きになって欲しい。
 このひとを独り占めにしたい。

 そんな身勝手な感情がどんどん沸いてきて、青木を良識を壊していく。
 自分はこんな利己的な人間だったのかと反省するのだが、一昨日のようなことがあったりすると、どうしようもない嫉妬心に身を焼かれる。

 青木を振り回すその美貌の人は、6月末の暑さの中、きっちりと黒服に黒いネクタイ姿で、汗ひとつかいていない。アスファルトから立ち上る熱気は、風景を揺らめかせるほどの暑さなのに、薪の周りにだけは、涼やかな空気の層があるようだ。

「さて。せっかく横浜まで来たんだ。中華街でメシ食って帰るか」
「まだ金香楼のランチに間に合いますね」
「あそこの麻婆豆腐が美味いんだよな」
「この暑いのに、麻婆豆腐ですか?」
「僕は暑さには強いんだ」
 歩きながらそんな話をする。
 特別な意味はない、四方山話。薪と過ごすこんな時間が、青木にはとても楽しい。

「薪さんて12月生まれでしょう? 寒いほうが好きなんじゃないんですか?」
 薪は冬の生まれだから、寒いほうが元気になるのかと思っていたが、本人は逆だと言う。冬に生まれた者は寒さに強い、というのは俗説らしい。
「じゃあおまえは6月10日生まれだから、雨が好きなんだな」
 なるほど。そういう理屈になるか。

「オレの誕生日、覚えててくれたんですか?」
「おまえだけじゃない。部下のデータは、全部頭の中に入ってる。事故が起きたときに、血液型と生年月日は必要だからな」
 殆どの病院は、名前と生年月日を入力すれば、その人物の病歴が表示される医療ネットワークシステムを導入している。不慮の事故などでかかりつけ以外の病院に運ばれたときに、事前検査をする余裕もなく治療に当たらねばならない際、このシステムは使用薬品を決定する重要な鍵になる。室長として、それを把握するのは当然ということか。

 薪は何を思い出したのかくすっと笑い、悪戯っ子のような目で青木を見た。
「岡部の誕生日、知ってるか?」
「いえ」
「3月3日だぞ」
「ぶっ」
 思わず吹き出してしまう。岡部の男らしい外見には、まったく似合わない。
「雪子さんは4月10日だ。よく覚えておけよ」
 二言目には雪子の名前を出してくる。これで青木を牽制できると思っているらしいが、その考えはいい加減捨てて欲しい。

「女の人の誕生日にはプレゼントが効果的だぞ。指輪とかネックレスとか、光り物が嫌いな女はまずいないから」
「その指輪は、鈴木さんからもらったんですか?」
 薪のアドバイスを遮って、青木は反撃に出る。薪はびくりと肩を上げて、どうやら青木の攻撃はかなりの威力を発揮したらしい。

「バカか、おまえ。男が男に指輪贈ってどうするんだ」
「それじゃ、誰から貰ったんですか? 自分で買ったわけじゃないでしょう?」
「これを買ったのは確かに鈴木だけど、僕のためじゃない。クリスマスプレゼントに、彼女にやるつもりで買ったんだ」
 ぜんぜん話が見えない。どうしてそれを薪がしているのだろう。
 だが、薪はその経緯については教えてくれなかった。もとより薪は、青木の前で鈴木の話をするのを嫌がる。
 しかしこの指輪は、やはり鈴木との大切な思い出の品なのだろう。でなければ、こんな日にしてくるはずがない。しかも左手の薬指だ。つまり、そういう意味なのだろう。

『僕は鈴木のものだ』
 薪はそう言った。それを具現化したのが、このプラチナのリングというわけだ。

「よく似合ってますよ」
 青木が指輪を褒めると、薪は嬉しそうな顔をした。少し頬を染めて、照れくさそうに自分の左手を見る。
 何を思い出しているのか、抑えきれずにこぼれだす笑み。指輪を見つめる、熱っぽい視線。

 ……引き抜いて、海に投げ捨ててやりたい。

 咄嗟に浮かんだ衝動に微かな罪悪感を覚えつつ、青木は薪の幸せそうな微笑に見とれていた。



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ビアガーデン(11)

ビアガーデン(11)






「そういえば、一昨日の事だけど」
 中華街の朱雀門をくぐったとき、薪は自分から例の件を持ち出してきた。
「僕、竹内にすごいことしたんだな」
「誰から聞いたんですか」
 第九の中では、あのことは秘密にしようと決めた。だから薪が情報を仕入れるとしたら、外部の人間ということになるが、それを知るものといったら。

「昨日、岡部とカフェテリアに行ったら、竹内に会っちゃってさ」
 岡部がついていながら、何て不始末だ。どうして竹内に口止めしてくれなかったのだ。
 いや。岡部が何と言っても、竹内がそれを素直に聞くとは思えない。
 竹内にしてみれば、これは薪との距離を縮められる、絶好のチャンスだ。うやむやにしてしまうはずがない。

「あいつ、窒息しかけたって言ってた」
「でしょうね。いくら酒の席のこととはいえ、あれはひどいですよ」
 この際だ。
 薪にははっきりと、自分の困った性癖のことを知っておいてもらったほうがいい。そして自分以外の人間の前では、二度と酒を飲まないようにしてもらおう。

「酔ってたからな。普段から考えてることが、行動に出ちゃったんだな、きっと」
「他の場所ならともかく、くちびるはまずい―――― はあ!?」
 青木の大声に、何人かの通行人がこちらを振り向いた。
「なんでそんなにびっくりするんだ」
「だって……薪さん、竹内さんのこと、そんなふうに思ってたんですか」
 初めは反目しあっていた男女が次第に惹かれ合う、というのはドラマの王道だが、まさか。

「あれ? おまえ、僕の気持ち、知らなかったのか」
 知らない。というか、知りたくなかった。
 いつの間に竹内は、薪の心を捕らえていたのだろう。薪は、鈴木だけを見ていたのではなかったのか。

「いつからですか? きっかけは?」
「2年くらい前からかな。なんかあいつ、妙に僕に絡んできて」
 なんてことだ。
 自分が薪と知り合う前から、竹内は薪を見ていたのか。もしかすると、あの仲の悪さはカモフラージュで、優先権は竹内にあったのか。竹内が次々と女を変えるのは、ひょっとすると薪との仲を隠すためだったのか。

「そんな」
「おまえには何度も注意しただろ。竹内と付き合うのは止めろって」
 あれはそういう意味だったのか?竹内は自分のものだから、手を出すなと?
 ……次の射撃訓練のときに、誤った振りをして撃ち殺してしまいそうだ。

 目の前が真っ暗になってきた。なんだか、足元がふらふらする。
「どうしたんだ。熱射病か? 少し休むか」
 薪が、心配そうに声を掛けてくる。
 下手にやさしくしないで欲しい。
 竹内がうらやましい。
 なんでこのひとは、こんなに残酷なんだろう。自分の気持ちを知っているくせに、どうして他の男と……。
 でも、責めることもできない。自分の気持ちは、一方的なものだ。
 薪は、青木のことは永遠に受け入れられないと言った。竹内のことは受け入れられた、ということか。
 無理もない。竹内は大人だし、男の自分から見てもカッコイイし。捜一のエースだし、射撃の腕前は全国大会で優勝するほどだしで、とても敵わない。

「喜んだでしょうね、竹内さん」
「なにが?」
「だって、みんなの前で、薪さんにあんなことしてもらえて」
 隠さなければならない関係というのは、辛いものだと思う。
 きっとふたりとも、堂々と人前で愛を交わしたいと、心の底では思っていたに違いない。それが酔った拍子に、表面に現れてしまったのか。

「してもらえて? おまえもして欲しいのか?」
「して欲しいですよ。オレだって」
「そうなのか? なんならここでやってやろうか?」
 してくれる気などないくせに、むごいことを言う。
「できるもんなら、してみて下さいよ」
 つい、挑戦的な口調になってしまった。薪の目が、生意気なやつ、と言っている。でも、これは薪のほうが悪い。
 ところが薪は、本気のようだった。

「じゃあ、ちょっとかがめ」
 青木の首に、華奢な手が掛かる。
 本当にキスしてくれるつもりだろうか。こんな人目につくところで?
「薪さ……ぐえええ!」
 細い指が、思い切り首を絞めつけてきた。かなり痛い。
 
「何するんですか!?」
「おまえがしてくれって言ったんだろ」
「はあ?」
「僕、竹内の首を絞めたんだろ?」
 ……やっぱり薪は何も憶えていない。
 竹内の『窒息しかけた』という言葉の意味を、首を絞めたと解釈したのか。
 薪が早とちりの達人で、助かった。
 飛び抜けて頭が良いくせに、薪はこういう勘違いがとても多い。そこがまたかわいいのだ。思わず苦笑してしまう。
 
「竹内のやつ、僕の顔見てびびっちゃってさ。サラダにかけてたマヨネーズのチューブを、握り締めちゃったんだ。皿から溢れるほどマヨネーズかけちゃって。僕に首絞められたのが、よっぽど怖かったんだろうな。いい気味だ。憶えてないのが残念だけど」
 薪の困った酒癖のことは、本人にはやはり内緒にしておこう。一昨日のことは、ずっと誤解させたままにしておきたい。竹内が本当はいいひとだということも。

「もう二度と竹内は、僕が酒を飲んでいるところには、近付かないと思うぞ。脅しかけといてやったから」
「竹内さんにはなんて?」
「この次は窒息死するまでやめないかもしれない、って言ってやったんだ」
 ……まっしぐらに走ってきそうだ。

 薪の勘違いには振り回されっぱなしの青木だが、今回は竹内もその気分を味わったに違いない。ということは、また竹内も薪のかわいらしさに惚れ直すということか。
 ますます油断できない。どうやって息の根を止めてやろうか。

 周りの人間は青木のことを、嘘がつけないとかバカ正直だとか思い込んでいるようだが、かように恐ろしいことも考えている。それを薪の前では完璧に隠しているあたり、詐欺師の才能もまったくないとは言い切れない。

「青木。どこまで行く気だ?」
 金香楼の入り口で、薪がこちらを振り返っている。竹内のことに気を取られて、目的の店を通り過ぎてしまった。
 青木は心中の黒い思考を見事に隠し、照れ笑いを浮かべて薪に近付いていった。


 ―了―




 (2009.3)


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ビアガーデン~あとがき~

 このたびは、法十のビアガーデンにご来店いただきまして、まことにありがとうございました!
 お礼に、うちの薪さんの投げキッスを!
 どうぞ、お受け取りください!!


 今回のビアガーデンでは、薪さんの困ったクセがまたひとつ、増えてしまいました。
 まったく、どんどん崩れていきますね、彼は。作者にも止められません☆
 第九の面々との楽しい飲み会や、竹内の煩悶状態を、笑っていただけたら幸いです。

 今回のメインは、やっぱり鈴木さんのお墓参りです。
 この話は次のお話の進行上6月なので、ちょっと早い月命日、ということだったのですが。

 去年は涙が止まらなかった薪さんが、今年は笑うことができた。
 それはやっぱり、陰にいるチタンフレームのメガネをかけた背高ノッポの存在が大きいかと。
 時系列でずーっとお話を続けていると、こんな風に薪さんが立ち直っていく様子を以前と比べながら書くことができて、それはとても幸せな気分になります。
 もっとも、うちの薪さんの場合、3歩進んで2歩下がるって感じですが。
 それでも。
 少しずつ、少しずつ、元気になっていく薪さんを、これからも書き続けたいです。


 さて、次のお話ですが。
 これは……100歩くらい、逆戻り? ていうか、ダ・カーポ?
 あはははは。
 
 何人かの方はお察しのようですが。
 核爆弾、投下します。
 核シェルターに避難をお願いします(笑)って、そんなに大げさなものじゃないと思いますよ。


 次回も、広いお心でお付き合いくださいませ。



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プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

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