鋼のこころ(1)

 リクエストの記事に、投票フォームを追加しました。
 途中経過なんですけど、『スナックで女装、捜一or第九を接待』に7票、って!!(爆笑)
 なんてこのブログに相応しい結果なんでしょう。

 そうですよね。
 みなさん、楽しくて笑える話が読みたいんですよね。
 原作が辛いから、二次創作では笑いたい。当然のことだと思います。

 …………。(←不吉な沈黙)
 この話、アップするの止めたほうがいいかしら。





鋼のこころ(1)





 月に2回から3回の割合で、岡部は金曜の夜に室長の自宅を訪れる。
 定例会と称されるこの飲み会は基本的には自由参加だが、せっかくの金曜の夜に上司の自宅に来たがる部下はいない。ましてやこの上司には、仕事でさんざん苛められている。プライベートの時間まで、室長の嫌味と皮肉を聞く気にはとてもなれない、というのが彼らの率直な意見だ。
 さらに付け加えるなら、一人暮らしの男の家に楽しいことがあるとは思えない。年頃の娘さんがいるとか、料理上手な奥さんがいるならともかく、出来合いの惣菜やつまみで男ばかりで酒を飲むなんて。だったらいつもの居酒屋で、気の許せる仲間と上司の悪口で盛り上がったほうがはるかに楽しい。

 部下たちはそう考えているのだろうが、実際は少し違う。
 仕事中の室長はたしかに怖いが、プライベートではそうでもない。私服姿の薪はスーツを着ているときよりずっと親しみやすいし、態度も言葉もくだけていて話も面白い。なによりも、その料理の腕前は素晴らしい。壊滅的な味覚の持ち主である母親と二人暮らしの岡部には、薪の家庭的な料理はとても魅力的だ。

 今日は岡部のリクエストで、鯛めしを作ってくれた。先日、岡部の母親が作った猫の餌のような代物とぜんぜん違う。岡部はもう少しで、家庭での鯛めしはこういうものなのだ、と思い込まされるところだった。
 出汁の効いた鯛めしに、季節に合わせた冬瓜の吸い物と茄子の揚げ浸し。牛肉のごぼう巻きと口直しのきゅうりの酢の物。その辺の料理屋より遥かに美味い。これを食べる機会を逃すなんて、バカな連中だ。

「何杯食うんだ、おまえ」
 薪の険悪な口調は、岡部に対して向けられたものではない。もうひとりの部下に対してのものだ。
「だってこれ、すっごい美味しいんですもん。釜ごと抱え込みたいくらいです」
 岡部と低レベルのケンカに発展しそうなことを言っている男は、第九のいちばん若い捜査官だ。岡部よりも身体が大きく、年は13歳も下だ。部下の中でこの飲み会に積極的に参加してくるのは、この青木という男だけである。
 青木は岡部以上に薪の料理に魅力を感じているらしく、この金曜日の定例会以外にもしょっちゅうこの家に出入りしては食事をしていくようだ。
 いつの間にか食器棚には、青木の専用の茶碗や箸が置かれているし、大きな体格に合わせたエプロンまである。食事の用意を手伝ったり後片付けをしたりは青木の仕事だから、そのときに使っているのだろう。

「岡部のお母さんの分もあるんだぞ。野菜をもらったお礼に、持って行ってもらおうと」
「最初に取り分けて置いてくださいよ。もう手遅れですよ」
「手遅れって……嘘だろ」
 釜の蓋を開けてみて、薪はがっくりと肩を落とす。自分は最初の1杯しか食べていないのに、知らないうちにお釜が空になっているのはいつものことだ。

「悪い、岡部。お母さんへのお礼、別のものでもいいか?」
「気を使わんでくださいよ。家庭菜園はお袋の趣味なんですから。逆に助かってますよ。自分の家だけじゃ食べきれないですから。精魂込めて作ったものを畑で腐らすのは忍びないですしね」
「こないだもらったカボチャで、雪子さんにパンプキンパイを焼いたんだ。冷凍してあるから、よかったらそれで」
 薪は料理も上手だが、パイやケーキも作れる。日本舞踊と生花はウソだったが、料理教室は通っていたのかもしれない。口に出したら殴られるだろうが。

「喜びます。お袋も甘いものは大好きですから」
「薪さん。オレも甘いもの、大好きなんです」
 岡部の母親に便乗して、後輩がデザートを要求している。まったく、こいつはいつの間のこんなに図々しい男になったのかな、と岡部は首を傾げた。
「砂糖でも舐めてろ」
 青木の言葉に、薪はムッと眉をひそめて、とびきり意地悪な表情で切り返す。すっかり見慣れた光景だ。
「イヤですよ、カブトムシじゃあるまいし。せめてガムシロップにしてください」
「ぷっ。変わんないだろ、それ。砂糖とどこが違うんだ」
 青木のとぼけた答えに吹き出しつつ、冷蔵庫からパイを取り出す。
 このひとは、言ってることと正反対の行動をとるのが得意だ。今日だって甘い物好きの部下のために、準備万端整えていたのだ。

「岡部も食べるか?」
「はい、ぜひ」
 市販のケーキは買ってまで食べたいとは思わないが、薪の作る菓子は甘さが抑えてあって美味い。作る本人がバターや生クリームが好きではないから量を調整しているそうで、その分軽くてくどくない。日本人好みのスイーツだ。

 パイを持ったまま、薪はじっと青木を見る。
 青木は黙って席を立って、コーヒーの用意を始める。この辺は以心伝心というかよく仕込まれているというか、もともと青木はよく気が利く男だが、薪に関してはその才覚を遺憾なく発揮しているようだ。
 ほんのさりげない仕草からも、薪が欲しがっているものを見事に当ててみせる。最近は、付き合いの長い岡部でさえ読み取れない細かいニュアンスを肌で感じ取っているようで、岡部は薪のいちばんの理解者というお株を奪われつつある。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

鋼のこころ(2)

 久しぶりに、エロオヤジ薪さんが出てます。
 なんて愛しいんでしょう(笑)




鋼のこころ(2)





 食事の後は場所を居間に移して、和気藹々と酒を飲む。
 薪の好みは日本酒で、この季節は冷蔵庫で冷たく冷やした吟醸酒が定番である。
 酒のつまみは、冷蔵庫の残り物を適当に持ってくる。今日はパンプキンサラダと冷奴。枝豆に柿の種。そして岡部の母親の唯一の得意料理、なすときゅうりの糠漬けである。

 めずらしく、テレビがついている。
 青木がレースの生中継を見たいと言い出して、スイッチを入れた。青木は車や乗り物が大好きで、航空機免許も持っている。ヘリやセスナも運転できるというから、この男の乗り物好きは相当なものだ。警察官にならなかったら、今ごろ旅客機のパイロットでもやっていたかもしれない。

 岡部はカーレースには興味がないが、なるほどすごい迫力だった。
 見ている分にはカッコイイが、あの車の中の人間はどういう神経をしているのだろう。スピードに対する恐怖感はないのだろうか。
「すげえな。事故が怖くないのか、こいつら」
「事故は怖いですけど。マシンと一体になる快感ていうか、そういうものがあって。一回乗っちゃうと、病み付きになるんですよね」
 青木がよく行くサーキットには、プロが運転するレーシングカーに同乗できるイベントがあるそうだ。青木はそれでハマったらしい。

「岡部さんも一回どうですか? 次回は10月の」
「岡部、止めとけ。死ぬ思いするぞ」
 青木の布教活動に薪が待ったを掛ける。顔をしかめているところを見ると、ただ意地悪を言っているわけでなくて、本当に怖い思いをしてきたらしい。
「薪さんも乗ってみたんですか?」
「こいつに無理矢理引っ張っていかれたんだ。マジで心臓止まりかけたぞ。だいたい、おかしいだろ。あんな鉄の塊が200キロ以上のスピードで走るなんて」
「新幹線は平気で乗ってるじゃないですか」
「乗り心地がぜんぜん違うだろ。僕はもう、二度と乗らないからな」
「怖いんですか?」
「怖がってなんか……あ。ちょっと待て」
 レース中継が終わったので青木がテレビを消そうとすると、薪がそれを止めた。
「ああ。この映画、明日からですよね」

 テレビに映っているのは、薪のごひいきの女優が主演する映画の番宣だ。映画のジャンルは、ラブコメディらしい。コミカルな映像が興味をそそるような順番で流れている。
 主演の女優は、胸が大きくてぽっちゃりしててかわいくて、背はそんなに高くない。なるほど、薪の好みど真ン中だ。
「薪さんて、この女優さん好きですよね」
「うん。彼女が一晩相手してくれたら、1ヶ月分の給料叩いてもいい」
「……そういうふうにしか女の人を見れないって、問題あると思いますけど」
 ニヤけた面でテレビを見ている上司に、青木はため息をついている。それは、男が好みの女性を見るときの普通の表情なのだが、青木には不愉快らしい。

「いいなあ。あの胸に挟んでもらったら、気持ちいいだろうなあ」
「窒息しちゃうんじゃないですか。薪さん、顔ちいさいから」
「ガキはこれだから。だれも顔を挟んでもらいたいなんて、言ってないだろ。×××が×××した状態で××××の間に挟んでもらって、×××を舐めてもらったら一発で天国に」
「……伏字使わないと出来ない会話は止めて下さい」
 この顔に似合わないセリフは、もちろんいつもの意地悪だ。薪がこういう話をするのを、青木はことさら嫌がる。その嫌がる顔が面白いと言って、わざと仕掛ける。
 
「悪い悪い。童貞には刺激が強すぎたか」
「だから違いますってば!」
 青木はたしかに純情そうな男だが、それでも恋愛経験は薪よりも多いのではないかと岡部は見ている。女性の気持ちがまるでわからない上司より、よっぽどスムーズに女性と話をしているし、女子職員の間でも徐々に人気も高まっているとかいないとか。薪のように観賞用の札を貼られているより、恋人ができる可能性は高いのではないかと思われる。

「見栄張らなくてもいいぞ。べつに笑ったりしないから」
 めいっぱい笑っている。
 このひとは青木を苛めているときは、心の底から楽しそうだ。
「でも知識はつけておいたほうがいいぞ。相手にバカにされるからな。僕の経験から言うと」
 それからは薪は女の話を始めて、いつものように『僕はすごいんだぞ』が出て、いつものように眠ってしまった。

「沈没しちゃいましたね」
「たいして強くもないくせに、張り合ってガバガバ飲むから」
「ベッドに寝せてきますね」
 青木は当然のように薪のからだを抱えあげて、寝室へ運ぶ。ベッドに寝せて、布団をかけてやるのだ。たいして時間がかかる作業とは思えないが、青木はなかなか帰ってこない。

 そっと寝室のドアから中を覗くと、思ったとおり薪に絡まれている。
 抱いていたときには眠っていた子供が、ベッドに寝せた途端起きてしまうように、薪もベッドに降ろした瞬間に目を覚ますことがある。子供はそこで再び泣き始めるわけだが、薪の場合は強烈に寝ぼける。相手かまわず、昔の恋人と間違えて抱きついてくるのだ。
 岡部もあの事件の直後は、何回かその被害に遭っている。あの頃の薪は錯乱状態だったから、泣きながら抱きついてくることが多かった。
 事件から2年が過ぎた今、薪の精神は落ち着きを取り戻して、例え寝起きでも岡部を鈴木と間違えたりはしない。しかし、青木のことは未だによく混同しているようだ。
 薪に言わせると、『青木は鈴木に瓜二つ』で『鈴木の生まれ変わり』なのだそうだ。
 岡部の目にも鈴木の婚約者だった三好雪子にも、2人の男がそれほど似ているとは思えないのだが、薪は自分の意見を頑として譲らない。薪は強情だ。

 首に絡みついた細い腕を振り払うこともできず、青木は困惑している。青木にしてみれば、複雑な気分だろう。
 青木の気持ちを考えると、薪がやっていることはひどく残酷だ。
 自分に惚れている男に、昔の恋人の影を重ねるなんて。それを何度されても薪から離れていかない青木も青木だが。
 青木が薪のことを特別な眼で見ていることに岡部が気付いたのは、去年の夏ごろだ。
 若いうちにはありがちな話だから、そのうち冷めるだろうと思い続けてきたのだが、すでに1年が経過している。
 薪の外見に惑わされて好意を寄せてくる男たちと違って、青木は薪の本当の姿を知っている。わがままで意地悪で皮肉屋で嫌味っぽくて、怒るとこの世のものとは思えないくらいに怖い。そんな性格まで承知しているのだ。それでもなお、気持ちが揺らがないとなると。

 認めたくないが、これは本物かもしれない。
 だとすれば、岡部も動かざるを得ない。できれば自然に青木の感情が消滅するのを待ちたかったが、最近の薪を見ているとそう呑気なことも言ってられない。
 ここは自分が鬼にならないといけない。これはふたりのためだ。

 岡部は足を忍ばせて、自分の席に戻った。頭の中で、青木の気持ちを挫くシナリオを組み立てながら。



*****


 薪さんのセリフの×××がすべて解った方。
 お友だちになりましょう。(笑)


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

鋼のこころ(3)

鋼のこころ(3)





 それからしばらくして、青木はひどく落ち込んだ顔で戻ってきた。
「またやられたのか?」
 青木は苦笑いで岡部の疑問を認める。
 なにをされたかは言わないが、鈴木に間違えられたことだけは確かだ。でなければ、落ち込んだ顔などしないだろう。

「最近増えたな。横川みどりの事件以来か」
「ええ。やっぱりショックが大きかったんでしょうね。平静に見せかけてるけど、あれ以来なんとなく情緒不安定だし」
 意図的に空かした寝室の扉の隙間から、岡部は中にいる上司を気遣って眉を寄せる。
 横川みどりの事件は、確実に薪の傷を抉った。塞がりかけていた傷が、また新たに血を流し始めたのを、岡部は感じ取っていた。
「あのひとは自分の気持ちを表に出さないからな。溜め込むだけ溜め込んで、自滅するタイプなんだよな」
 これ以上の衝撃は、薪には致命傷になる。あの事件の直後の薪を見ている岡部には、それがわかる。薪を傷つける可能性は、排除しておくに限る。

 後輩のグラスにビールを注ぎながら、岡部は何気なさを装って尋ねた。
「青木、おまえさ。その……薪さんのこと好きなのか」
「好きですよ。岡部さんだって好きでしょ。ていうか、うちの職員はみんな薪さんに惚れてますよね」
「そういう意味じゃなくて。つまり恋愛の対象として見てんのかって聞いてんだ」
「なに言い出すんですか。男の人ですよ?」
 なかなか見事な応戦だ。
 青木はウソのつけない男だが、薪が絡むと一流の詐欺師に変貌する。自分の気持ちが薪の不利益になることを、分かっているのだ。

「ごまかすなよ。俺が気がつかないとでも思ってんのか」
「そんなわけないじゃないですか。だいたい、薪さんはオレの好みじゃないです。オレが好きなのは蒼井×ちゃんみたいな癒し系の」
「じゃあ、今年の1月の夜。俺は第九で夢でも見たのかな」
「え?」
「おまえが親父さんの葬儀から、帰ってきた夜のことだ」
 青木のポーカーフェイスに、ひびが入る。
 第九の室長という役職で鍛え上げた薪の鉄面皮でさえ外すことが出来る岡部には、青木の仮面など薄い皮膜のようなものだ。切り崩すのは簡単なことだ。

「覚えてないですね、そんな昔のこと」
 けっこうしぶとい。認めてしまったら薪に迷惑が掛かる、と思っているのだろう。ここは直球勝負だ。
「俺は覚えてる。おまえが薪さんを抱きしめて、キスしてた」
 びくっと肩が震えて、青木はグラスを取り落とした。床にビールがこぼれる。
「お、岡部さんがヘンな冗談言うから」
 雑巾を持ってきます、と理由をつけて、青木はその場を離れた。
 体勢を立て直してくるつもりだろうが、そうはいかない。青木の気持ちは分かるが、岡部は追及の手を緩める気はない。

 青木はクローゼットから雑巾を取って来て、床を拭き始めた。
 住居用の洗剤も雑巾も、どこに置いてあるのか良く知っている。この家に関しては、岡部よりもずっと詳しいようだ。

「ああいうのは、あのひとに対する冒涜だぞ」
 雑巾を動かす大きな手が、びくりと強張って止まる。青木はしばらく身動きもできずに固まっていたが、やがて観念したように言った。
「すみません。オレ、あのときテンパッてて。親父のことがあって、平静でいられなくなってたところに薪さんがやさしくしてくれたもんだから、一気に爆発しちゃって」
 自分の罪を認めて、うなだれている。青木は基本的に素直で正直な人間だ。岡部は青木の人間性を高く評価している。が、それとこれとは話が別だ。

「一時の気の迷いってことか。相手の迷惑も考えられないようなガキにあんなことされて、薪さんも気の毒なこった」
「いい加減な気持ちじゃありません。遊びだとか興味本位だとか、そんなつもりはないです。オレは本気です」
 青木は開き直った。真剣な顔になっている。
「本気ね……」
 岡部はコップの冷酒で、乾いた口中を潤した。ここからが勝負だ。

「いつからなんだ? 薪さんのことをそういう目で」
「去年の春ぐらいから、です」
「そんなに前なのか」
 岡部の予想よりだいぶ前だ。早くても、夏のころからだと思っていた。
「はい。オレだってずい分悩んだんです。でも、どんどん好きになっちゃって……自分でも止められなくて」
 恋とはそういうものだ。自分でコントロールが効くものだったら、岡部だって自分の感情をもてあますようなことにはならない。ただ、青木のように行動に移したりはしない。相手にも完璧に隠し通せている。尤も、岡部の相手は、そんなことを露ほども考えていないせいかもしれないが。

「その気持ちは分からんでもないがな。おまえ、この先の覚悟はあるのか?」
「覚悟?」
「相手を好きだって気持ちだけじゃどうにもならないことも、世の中には沢山ある。例えば、薪さんとそういう関係になれたとして、おまえの親にはどう説明するんだ?」
 青木は、目を見開いて岡部を見ている。そんなことは考えもしなかった、という顔だ。
「昔と違って芸能界や芸術家の世界じゃ、そういうのは公のものになってるみたいだけどな。俺たちは警察官だぞ。万が一、世間にバレたら大きな醜聞になるんだ」
 醜聞、という言葉に青木が眉根を寄せる。不満が顔に表れている。
 自分の薪に対する気持ちに恥ずべきところなどない、と言いたいのだろう。青木の中では、とても純粋で尊い気持ちなのだろう。しかしそれは他人から見たら、蔑むべき行為に過ぎない。若い青木には、そこが分かっていない。
 
「もちろん秘密にします。人に言えないのは辛いかもしれないけど、薪さんがオレの気持ちに応えてくれるなら、オレは平気です」
「なに勝手なこと言ってんだ。世間に糾弾されるのはおまえじゃない。立場的にも年齢的にも、薪さんのほうだ。2年前の夏みたいに、またマスコミに追い回されて、ズタボロに傷ついて。おまえ、あのひとをそんな目に遭わせたいのか?」
 薪の不幸な未来予想を聞いて、青木の顔色が変わった。弱気になった今が勝機だ。ここで集中攻撃だ。
「世間に言い訳できるような正当性は何一つないから、上層部に釈明もできない。今度こそ官房長にも見捨てられる。世間からも署内からも冷たい眼で見られて、友人にも上司にも顔向けできない。そんな状況にあのひとを追い込むかもしれない。おまえの薪さんに対する気持ちの先には、そういう危険性があるんだ。それを考えたことはあるのか?」

 青木は、じっと岡部の言葉を聞いている。
 自分が正しいと思ったこと以外は耳を貸さないのが若いキャリアの特徴だが、青木にはそれはない。ここもまた、評価対象だ。

「人事部の監査課を舐めるなよ。あそこは特務機関だ。諜報部並みだぞ。おまえなんか3日で裸にされちまうよ。関係がバレたら降格、左遷、下手すりゃ免職。おまえはいいさ、自分の気持ちを貫くんだからな。でも、あのひとはどうなるんだ? 」
「考えてませんでした。そんな先のことなんて」
 それはそうだろう。まだ想いが通じたわけでもないのだ。相手をどうやって振り向かせるかを考えている段階だ。それを承知の上で、岡部はプレッシャーを掛けているのだ。
「ガキの恋愛じゃないんだ。将来(さき)のことを考えないでどうする」
 岡部の厳しい言葉に、青木は固い表情になっている。
 だれかを好きになったというだけで、こんなことを考えなければならないなんて、普通ならありえない。しかし、薪の場合は特別だ。

「そういったもろもろのリスクを考えた上で行動するのが、本当の愛情だと俺は思う」
「薪さんのことは諦めろって言いたいんですか? 未来のない関係だから?」
 そうではない。
 岡部が言いたいのは、そういうことではない。が、岡部は敢えて青木の言葉を肯定した。
「そうだ」
 これくらいで怯むような気持ちなら、いっそ砕いてしまったほうがいい。そんな生半可な気持ちで薪を守り通せるほど、世間は甘くない。

 はっきりと自分の恋心を否定されて、青木は顔を歪ませる。ぐっと奥歯を噛んで、言い返したいのを我慢している。
 きっと言いたいことは沢山あるのだろう。でも、岡部の言うことも分かる。だから黙っているのだ。

「おまえが引けば、薪さんはそれ以上は踏み込んでこない。あのひとは大人だ。感情に任せて行動すれば、どんな結果になって返ってくるか、ちゃんと分かってる。危険は冒さないはずだ」
 自分だけのことならともかく、青木の将来に掛かってくる問題だ。薪ならそこを一番に考える。薪は部下の未来を潰してまで、自分の気持ちを貫こうとはしない。
「考えてみろ。何があのひとのいちばんの幸せなのか」

 青木は黙ったまま、じっと空を睨んでいた。逆ギレして向かってくるかと思っていたが、そこまで子供ではないようだ。
 広い肩をふっと緩めて、青木はグラスに口をつけた。
 
「岡部さんは、やっぱりすごいです」
 温くなったビールを飲み干して、はあっとため息を吐く。岡部のほうにひとの良さそうな笑みを向けて、すみませんでしたと頭を下げる。
「オレ、本当に何も考えてませんでした。あのひとが好きだって気持ちだけで、動いてました。それが相手の幸せに繋がるとは限らないんですよね」
 ずい分諦めがいいやつだ。もう少し粘るかと見込んでいたが、所詮この程度か。
 やっぱりこの辺で、ストップを掛けておいて正解だ。
 このくらいで根を上げるようでは、ちょっと壁にぶつかったら、薪を置いて逃げ出してしまうに違いない。そんなことになったら、薪がどれだけ傷つくか。こんな根性なしに、薪を預けるわけにはいかない。
 しかし、岡部は青木を甘く見ていたようだった。

「難しいなあ。どうやったら監査を誤魔化すことができるかなあ」
 ぼそりと呟いたセリフに、岡部はむせた。けっこう図太いやつだ。
「考えるってそっちか。薪さんを諦めるかどうか考える、って気はないのか」
「無駄なことは考えても仕方ないですから」
「無駄って」
「だってムリですよ。これまで何回諦めようとしたか、数え切れません。オレ、今まで何回も薪さんに告ってんですよ。その度に振られて、諦めろって言われて。それでも諦めきれないんです。本人に言われてもダメなのに、ひとに言われたくらいじゃ毛ほども揺らぎません」
 たしかに、こいつはしつこいのが取柄だ。事件の捜査の時には役に立つ長所だが、こういうときには厄介な性格だ。

「監査だけの問題じゃないだろ。一生秘密にしなきゃいけないんだぞ。あのひとのことを囲い者みたいに、ずっと日陰に置いておく気なのか? それがあのひとの幸せか?」
「それは」
 青木は再び黙り込んだ。考え込みつつ、グラスを呷る。
「だからおまえは青二才(ヒヨコ)だって言われるんだ。考えが浅すぎる」

 しばらく考えた後に、青木は言った。
「よく考えてみます」
 答えは保留したようだが、青木の顔を見れば結果は明らかだ。薪さんとはいい友だちでいようと思います、とでも言ってくれば上等だ。

 そのとき、ドアの隙間から薪の苦しそうな声が洩れ聞こえてきて、岡部は席を立った。寝室へ入っていき、うなされている薪を揺り起こす。
「大丈夫ですか?」
 横川みどりの事件以来、薪は再び夢にうなされ始めた。悪夢から薪を覚ますのは岡部の役目だ。夢と現実の狭間にいる薪は、青木を鈴木と間違えてひどく怖がるからだ。
 薪は青い顔をして、冷や汗をかいている。薪にこれだけの傷を残したのだ。彼女の復讐は成功したと言えるだろう。相手が女でなかったら、ボコボコに殴り倒しているところだ。

「あの女の事は、早く忘れた方がいいです。逆恨みなんかまともに聞くことはありません」
「これは彼女のせいじゃない。僕が悪いんだ」
「薪さんはなにも悪いことなんかしてませんよ」
「違うんだ。鈴木が、僕を……」
 言葉の途中で、薪は眠ってしまった。その寝顔は悲しげで、岡部は胸を衝かれるような気分になった。

 ただでさえ重い十字架を背負っている薪に、これ以上の負担は掛けたくない。やはり青木には、しっかりと釘を刺しておかなければ、と岡部は思った。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

鋼のこころ(4)

『ナルシストの掟』というお話を書いてます。
 今朝の2時半から書き始めて、主要部分が終わりました。あとは穴埋め作業に入ります。これでやっとブログ様巡りと、コメントのお返事ができます。(^^

 朝食の支度をしようと、階下に下りて行ったら。
 お義母さんが朝食を作ってくれてた☆(うちは義母と同居)
「しづちゃん、仕事、大変なんでしょう? 夜中まで起きて、可哀想に。ムリしなくていいから、こっちはあたしに任せて!」
 ……すいません、お義母さん……何日か夢中でキーボード叩いてたのは、仕事じゃなかったの。 事務所でヘンタイ小説書いてて、ごめんなさい……。(←口が裂けても声に出せない謝罪)
 今日は真面目に仕事します。





鋼のこころ(4)





 岡部の質問に青木が答えを返してきたのは、2ヵ月後のことだった。それも言葉ではなく、行動で返してきた。
 その回答に、岡部はぐうの音もでなかった。正直、こんな答えが返ってくるとは思っていなかった。

「ったく。無茶しやがって」
 長野の市民病院の集中治療室で意識を取り戻した青木に、岡部は苦く笑ってみせた。
「すみません、ご心配かけて」
 青木は、全身を包帯でぐるぐる巻きにされている。重度の凍傷のためだ。
 こいつはもう少しで死ぬところだった。青木だけではない。普通なら一緒にいた薪もICUにいるか、下手をすればこの世からいなくなっていたところだ。

 ふたりは捜査のための遺体を引き取りに行った帰り、長野の山中で猛吹雪に遭った。極限状態の中で、青木は身を挺して薪の命を救った。つまりこれが、2ヶ月前の岡部の問いに対する青木の答えということだ。
「おまえが取った行動は、職務規定に反する行為だぞ。ああいう場合、まずは自分の身の安全が最優先だ」
 岡部でも同じことをしたかもしれないが、まだ捜査官になって2年目のこいつに、あれだけのことができたとは驚きだ。発想も体力も根性も、第九職員に必要な資質を備えつつあるということか。

「それはわかってましたけど。薪さんの命が危ないって思ったら、身体が勝手に動いちゃったんです」
 しかも、こいつの場合は他の職員にはない原動力がある。薪が室長でいる限りは、その動力源は尽きることがないと思われた。
「そんなに好きなのか? 薪さんのこと」
「あのひとが死んだら、世界が崩壊します。瓦解した世界では、オレは生きていけません。まだ青二才(ヒヨコ)ですから」
 包帯だらけのミイラ男は、雰囲気で笑ってみせた。

「薪さんには、オレがICUにいることは内緒にしてくださいね。オレがしたことも、言わないでください。きっと怒られちゃいますから」
「あのひとが怒ったら怖いからな」
「ええ。もうブリザードはこりごりです。今度こそ凍死しちゃいます」
 冗談を言う余裕があるのは、青木が薪の無事を知っているからだ。
 目覚めると同時に確認したそうだ。気分はどうかと尋ねる看護師に、「薪さんは無事ですか?」と逆に訊いて、彼女を苦笑させたらしい。
 面会を許してくれた看護師から、岡部はその話を聞いてきた。まったく、常識はずれというか青木らしいというか。薪が絡んだ途端、この男は普通の枠から逸脱してしまうようだ。

「岡部さん。お願いがあるんですけど」
「なんだ」
「今夜、薪さんの傍についててあげて欲しいんです。さっき看護師さんに聞きました、熱が高いって。うなされるようだったら、手を握ってあげて」
 2分だけと限られた面会時間の中で、薪のことばかり気にしている。本当におめでたい男だ。自分のほうが風邪をひいただけの薪より、ずっと重症なのに。

「わかったよ。薪さんのことは俺に任せろ。だから早く元気になれ。元気になって、褒美にキスでもしてもらえ」
 ミイラ男の耳元に口を寄せて、声を潜めて激励の言葉を掛ける。怪我の回復には、早く治すぞという意欲が大切だ。そのモチベーションを上げるには、これが一番だ。
「は?」
「もう一押しってところだ。がんばれよ」
「あ、あの、岡部さ……」
 青木の声を背中で聞いて、岡部は病室を出た。時間切れだ。青木がICUを出たら、ちゃんと話をしてやろう。

 2ヶ月前の夜。
 岡部はふたりの仲を裂こうとして、青木にあんな話をしたのではない。青木の気持ちを確かめようとしただけだ。

 青木がどこまで本気で薪のことを想っているのか、確認しておきたかった。
 何故なら、肝心の薪の気持ちが揺らいできていたからだ。恋に落ちるのも時間の問題、というより本人が意識していないだけで、とっくに心を奪われているのではないかと思われた。
 薪は最初から青木のことをずっと気にしていたが、それは亡くなった親友によく似た男だったからだ。
 それがこの2年の間に、少しずつ変わってきている。最近では彼の中に昔の恋人の面影を見ることなく、青木本人のことを意識している。

『僕のことを一番に考えてくれて、僕を元気にしてくれる』

 薪は青木のことをそう評価している。
 青木の自分に対する気持ちも性的な欲望も、全部知った上でのこの発言は、青木の求愛を受け入れようとしているとしか思えない。
 このままだと、いずれは行くところまで行ってしまいそうだ。それは普通の男女の恋愛に比べてひどく困難を伴う関係だ。

 ふたりの仲を邪魔する気はないが、そうなったときの覚悟が青木にあるのかどうか。
 相手の人生をまるごと背負って、相手を守り通す決心をしているのか。岡部は、そこが知りたかったのだ。
 あの時はずい分きつい言い方をしたが、他人に言われたくらいで揺らぐような気持ちでは話にならない。世界中を敵に回してでも、相手を守り抜くだけの決意をしていなかったら、薪を託すことはできない。娘を嫁に出す父親の心境みたいなものだ。

 薪は、自分が思っているほど強くない。特にこちらの方面に関しては、ひどく不器用で傷つきやすい。しかも長々と引き摺る。
 薪のこころの傷を増やすと危惧される相手なら、早いうちに芽を摘んでしまったほうがいい。自分の気持ちを自覚していない今なら、立ち直ることも容易い。そう考えていた。
 しかし、青木は見事に岡部の期待に応えてみせた。
「しゃあねえな。味方になってやるか」

 岡部にとって、ふたりは大切な仲間だ。
 ふたりとも傷ついて欲しくないし、仲たがいもして欲しくない。一般的に一番ベストなのは、それぞれ女性の恋人を見つけてくれることかもしれないが、この件に関しては岡部も他人のことは言えない。岡部の相手は、青木よりもひとの道に外れている。だから相手が同性であることに対して、四の五言うつもりはない。
 青木に覚悟を促すためにさんざん脅しを掛けたが、監査は一生続くものではないし、秘密だが、警察の中にもそういう関係を結んでいるものはけっこういる。バレたら懲戒免職だ、と青木には言ったが、現実はそうはならない。それだったら、とっくに間宮は警察庁にいないはずだ。こういうことは、隠蔽されるのが常なのだ。

「あとはあの人が、どれだけ素直になれるかだな」
 薪はへそ曲がりだ。きっと先は長い。
 恋人という関係になったとしても、すれ違いは多いだろう。好きなものを好きと言えない性格ほど、誤解を招きやすいものはないからだ。

 鋼のような心の持ち主でなければ、薪とは付き合えない。
 薪が背負った十字架ごと、薪を支えてやれるだけの強い精神力。自分の罪の重さを嘆く苦しみも、身を切るような悲しみも、迸るような激しさも。薪のすべてを受け止められるだけの、剛いこころ。薪の隣を歩きたいなら、それだけの強さが必要だ。
 まだまだ鍛える必要はあるが、とりあえずは及第点だ。これからも青木は成長するだろう。

「さて。天邪鬼の顔でも見てくるか」
 薪も今回は、青木に劣らず無茶をした。よく言ってきかせなければ。
 無謀な行動に対する説教の原案を頭の中で作成しつつ、岡部は上司の病室に向かった。



 ―了―






(2009.1)



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

鋼のこころ~あとがき~

この度は、うちの岡部さんのお説教を聞いていただいて、ありがとうございました。


 こういう現実的なことは、二次創作の世界には必要ないと思うんですが。
 これはわたしの個人的な拘りで、ついつい書いてしまいました。
 岡部さんがあおまきの敵に? と途中でヒヤヒヤしてくださった方、すみませんでした。狙ってました!(外道)

 それと、薪さんの伏字発言を快く許してくださって、ありがとうございました。
 うちの薪さんがあのくらい言っても、もうだーれも驚かないみたいですね。(笑)
 でも、みなさん×××が解るって……まずいです、そろそろFC2から勧告が来そうです。(^^;


 さて。
 次のお話は。

 薪さんのお誕生日のお話です。
 もちろん、青木くんとラブラブクリスマスデート……に、なるわけないですね、わたしが書くんですから(笑)

 ちょっと切ない系の、甘いお話になると思います。
 塩辛いおせんべいをお供にどうぞ。(^^




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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メロディ6月号、読みました。
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