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天国と地獄2 (1)

 こちら、男爵シリーズ『天国と地獄』の続編でございます。
 書いたのは、10ヶ月ほど前です。(お古ばっかですみません)

『天国と地獄1』を未読の方にご説明いたしますと、
 このお話では、あおまきさんは恋人同士ではありません。
 薪さんは完全ノーマル設定で、原作の青木さんのように、男が男に恋をする感覚が理解できません。 当然、鈴木さんと恋人同士だった過去もありません。(←ここを外すのは迷いました) 
 青木くんはがっつりヘンタイで薪さんにメロメロですが、(←ここだけは外せません) ノンケの薪さんは彼の気持ちに気付いてくれません。 
 そのあたりのすれ違いやとんちんかんな言動に焦点を当てた、ギャグ小説です。

 うちの話で、青木くんが告ったときに実力行使しなかったらこうなってたかも的なパラレルとして書いてみました。
 男爵カテゴリなので、薪さんのカンチガイっぷりはMAXになっております。 いっそバカと言ったほうが、いえその。


 どうか、広いお心で。


 





天国と地獄2 (1)


「お疲れ様でした」
 ゴール地点から500m程の位置にある選手たちの休憩スペースに入ってきた上司の姿を見つけて、岡部は彼に声をかけた。
 薪は片手を上げて岡部に応え、しかし言葉を発することは能わずに、息を弾ませながら岡部の隣に腰を下ろした。休憩スペースといっても、研究所の中庭をロープで区切っただけのもの。薪が座ったのは、当然芝面の上だ。
 袖なしのランニングシャツから覗いた華奢な肩が、大きく上下に動いている。その動きは彼の肺の激しい収縮から伝わる余波で、のけぞった顎から首に流れる汗は、彼の懸命の努力を証明する。
 上を向いて、薪はハアッと大きく息を吐いた。芝生の上に仰向けに寝ころがり、両手を太陽にかざして、悔しそうに叫ぶ。
「ああっ、くっそー! 青木なんかに負けた!」
 その雄叫びの原因がひとりの男に由来するものだと理解して、岡部は思わず吹き出した。

 抜けるような青空が広がるも、凍てつく空気の冷たさに外出が躊躇われるような2月の日曜日。警視庁警察庁合同の持久走大会が開催された。
 基本的に参加は自由で、コースは皇居と日比谷公園周囲の道路。距離は約20キロ。
 身体を鍛えることは警察官の責務だ、と認識している岡部と薪は毎年参加しているのだが、3年前から第九の若い捜査官がそのメンバーに加わった。薪が負けた、と口惜しがっているのは、その彼のことだ。

「岡部、僕はもうダメだ。人間としてお終いだ」
「持久走で負けたくらいで大げさな」
「だって、相手は青木だぞ?」
「無理ないですよ。青木のやつ、スタミナ付きましたからね。今年は俺だって冷や冷やしましたよ」
「青木のくせに生意気な。2年前は2キロも走れなかったのに、いつの間にあんな」
 ぴたりと口を閉ざして、薪は冷ややかな視線を前方に送った。
 話題の後輩が、10人くらいの女子職員に囲まれている。彼女たちは青木の周りに群がり、色とりどりのタオルやスポーツドリンクなどで自分をアピールしようと躍起になっている。

「モテるようになりましたよね、あいつ。男らしくなったし。やっぱり武道に親しむと、一本芯が通りますからね」
「どこが男らしいんだ。ニヤニヤしやがって。軟派ヤローが」
 薪の辛辣な言葉は、現況にまるで合っていない。青木はニヤけてなどいないし、どちらかというと迷惑そうな素振りさえ見える。
 次々と差し出されるタオルも、自分のがあるから、と断っているし、スポーツドリンクにも手を伸ばさない。笑みを浮かべながらも固い態度は崩さずに、挙句の果てには「すみません。休ませてもらえますか」とかなりキツイ一言を放って、彼女たちを追い払った。
 それを見ていた薪は、ふん、と鼻を鳴らすと、
「硬派気取りか。本当は嬉しいくせに」
「……どっちにせよ、気に入らないんですね」
 薪は、自分より女の子にモテる男が好きではない。捜査一課の竹内のことを嫌っているのも、彼が自分より女性に人気があるから、という要因がかなりのウエイトを占めていることを岡部は知っている。

 ベスト10に食い込んだ岡部の後輩は、俯いて嘆息すると、肩の力を抜いてその広い背中を開いた。よく知らない女子職員に集団で来られて、大分緊張していたらしい。
 ふと頭を巡らせた青木が、岡部の姿を捉えた。
 軽い微笑を浮かべた青木の目が、次の瞬間キラキラと輝き出すのを見て、岡部は彼が自分の隣で胡坐をかいてそっぽを向いている上司の姿に気付いたことを知る。岡部たちの周りには走り終えたばかりの走者が大勢いて、彼らの中に埋もれてしまう小さな姿を見つけるのは困難と思われたが、青木の目は特別製らしい。

「薪さん!」
 青木は弾んだ声で薪の名を呼ぶと、さんざん悪口を言われていた本人のところへ、満面の笑顔で駈けてきた。先刻の女の子たちに向けていた態度とは雲泥の差だ。
「薪さん、ベスト10に入りました! 約束、覚えてくれてますよね」
「知らん」
「えええ!? ひどいですよ! 10位までに入ったら、デートしてくれるって、鼻の骨が折れそうですけど薪さんにされることなら平気ですっ」
 薪が勢いよく青木の顔面にめり込ませたプラスチックの容器から、甘酸っぱい匂いがする。どうやら中身はレモンの蜂蜜漬けらしい。

「もう、乱暴なんだから……ん、美味しいです。薪さん、今日のお弁当なんですか?」
「おまえのなんかあるわけないだろ。岡部と僕の分だけだ」
「ええ! だって、今日は楽しみにしてろって、耳が千切れそうに痛いですけど薪さんの指がオレの身体に触ってくれるのは嬉しいですっ!!」
 目的のためには手段を選ばない薪の人並み外れた行動力のおかげで、会話を始めて2分も経たないうちに青木の顔にはいくつもの傷がついている。自分がいると、それがさらに増えていきそうな予感がして、岡部は小さな嘘を吐く。

「俺はいいです。お袋が作ってくれましたから」
「そうなのか?なんだ。じゃあ、犬にでも食わせるか」
「意地悪ばっかり言わないで、オレに食わせてくださいよ。なんでそんなにつんけんしてるんですか?」
「薪さん、ヤキモチ妬いてんだよ。おまえが女の子に囲まれてたもんだから」
「え?本当ですか。薪さんが、ヤキモチ?」
 背の高い後輩の耳元で、こっそり真相を教えてやると、青木は何故か嬉しそうに笑って、ぐっとガッツポーズを取った。
「ヤキモチだなんて……くっ! 薪さんて、本当にかわいい……!」
「違うと思うぞ、青木」

 ベスト10に入ったことより遥かに満足そうな青木の様子に、岡部は呆れながらもお約束の突っ込みを入れる。 青木の勘違いに苦笑する傍ら、そのいたいけな気持ちを応援してやりたいと、お人好しの岡部は思う。
 だから岡部は顔見知り程度の捜一の後輩に声をかけ、その男と一緒に昼食を摂りたいと薪に頼み込む。自然の流れで中庭に歩いていくふたりの後姿を、岡部は苦笑交じりに見守った。



*****



「薪さん、何位でした?」
「……26位」
 少し口惜しそうに唇を尖らせて、ぼそりと薪は白状した。
 参加した人数は200人を超えているし、現役の警察官ばかりの大会だから、それだって立派な数字だ。青木が初めて参加した3年前なんて、順位は三桁だった。

「年々、順位が下がってる。やっぱり年には勝てないな」
 薪の顔に似合わぬ台詞にはすっかり慣れて、今更突っ込む気も起こらない。実年齢に合った発言でも、このひとの場合は外見が外見だけに、耳にした者は失笑を禁じえないのだが、薪に対する特別な感情からか青木はまた受け取り方が違って、まるで小さな子供が大人の真似をしてオマセなことを言っているような可愛らしい印象を受けてしまう。だからついつい微笑んでしまって、それが薪の不興を買うのだ。
「僕はもともと、スプリンターなんだ」
 確かに、薪のスタートダッシュは猛烈だ。400m走では勝てた試しがない。

「それで薪さん。来週の日曜日、幕張メッセで自動車の展示会が」
 薪のお手製のミートボールを口に入れて、そのやさしい味わいに目を細めつつ、青木は自分が考えたデートプランを薪に説明する。薪は自然のものが好きだから、帰りに海沿いのH公園に寄って、それから磯料理が自慢の店で夕食をとって、それからそれから、できれば友人から脱却するためにそういう雰囲気を作って、今度こそ告白を。
「仕事が入らなきゃな」
 熱心な青木とは対照的に、薪の言葉は素っ気無い。なんだか少し、機嫌が悪いような気がする。

「ていうか、僕なんかよりさっきの娘たちの中から、誰か誘った方がいいんじゃないのか?」
「どうしてそんなこと」
「おまえが純情で女の子に声を掛けられないのは知ってるけど、いつまでもそんなことじゃ困るだろ」
「オレが他の女の子とデートしても、薪さんは平気なんですか」
「いや。それは僕だって、心中穏やかじゃないけど」
 薪の素直な言葉を聞いて、青木は嬉しくなる。さっきもヤキモチを妬いて、と岡部が言っていた。嫉妬という感情は、好意があってこそだ。

「雪子さんのことを考えるとな。なあ、青木。もう一度、彼女のこと考えてみてくれないか?」
 ……こっちですか。

 途端に口の中のミートボールの味が分からなくなって、青木は力なく箸を持った右手を膝の上に載せる。薪は青木の気持ちには全然気付いてくれないばかりか、雪子と自分をくっつけたがっている。
 親友の恋人だった彼女に、薪はどうしても幸せになってもらいたい。そう思って、自分が見込んだ将来有望な恋人候補の男性を次々と雪子に紹介しているのだが、雪子の方はかなり迷惑している。薪の気持ちを思うと無碍にもできないが、正直これ以上のお節介は止めてもらいたい。雪子が青木のことをはっきりと薪に断らない裏側には、彼女のこんな本音が隠されている。「青木くんとのことをきちんと考えたいから、友人の紹介は中断して」という雪子の言い訳を真に受けて、青木のことをかき口説いているというわけだ。

「オレにはその気はないです」
「だけど、よく考えてみろ。おまえが女性の中で、唯一平気で話せるのは雪子さんだけだろ? 彼女以外の女性と付き合うより、ずっとスムーズに行くと思わないか」
 別に、女性が苦手なわけではない。薪に余計な誤解をされたくないから、喋らないようにしているだけだ。
 年長者ぶった薪の説得に、青木は心の中で反論する。口に出してはいけない想いが、青木の心とくちびるを固く凍りつかせる。

「たしかに彼女はおまえより12歳も年上だけど、女性の方が平均寿命は長いんだぞ。若い娘の方がいいっていうおまえの気持ちもわかるけどな」
 そんなこと、一言も言ってないじゃないですか。オレは12歳年上のあなたが好きなのに。
「広い心を持った年上の女性を妻にしたほうが利口だぞ。この職業についた男にとって、家庭は安らげる場所じゃないとな」
 そんなもの、いらないです。オレはいつでもあなたと一緒にいたい、切なくても苦しくてもいいから、あなたがいいんです。

「オレのことより、薪さんはどうなんですか? 見合い話、片っ端から断っちゃって。ひとに結婚を勧めるなら、まずはご自分が実践されたらいかがです?」
 実行して欲しいとは露ほども思っていないが、とにかくこの話を終わらせたくて、青木は薪に自省を促した。素直に頷かれても困ってしまうが、しかし青木には、薪が次に何と答えるか、解っていた。

「僕はいいんだ」
「じゃあ、オレもいいです」
「そんなわけにいくか。あのな、青木。警察官僚ってのは40までに結婚しないと出世に響く」
「オレは、女の人といるよりもあなたといた方が楽しいんです」
 あ、しまった、口に出ちゃった。
「まあ、気持ちは解るけどな。何のかんのいっても、男同士の方が気楽だよな。気取りも見栄もいらないから、落ち着くし」
 いえ、今も心臓バクバクいってるんですけど。
 ていうか、今のセリフで気付かないって、この人どんだけ鈍いんだっ!

 薪にはどうも、男が男を性愛の対象として好きになる、という感覚が理解できないらしい。薪に言わせると「そんなことはありえない」ことで、「そういう気持ちを持つのは特殊な人種だけ」だそうだ。偏見に満ちた薪の定義は納得できないこともない。青木も薪に恋をする前は、全く同じことを思っていたからだ。
 だからはっきりと、「オレは薪さんが好きです」と言ったとしても、それは友人としての好きとしか受け取ってもらえない。言葉で理解してもらえないなら行動で示したいところだが、きちんと意思が伝わらないうちにそんなことを仕掛けるのはためらわれるし、嫌われる要因になりかねない。薪は「特殊な人種とはお近づきになりたくない」と明言しているからだ。

 男なら誰でもいいわけではなく、というか、薪以外の男なんか気持ち悪い、だけど薪とだけはそういう関係になりたい。
 青木のこの複雑な心情を薪が理解してくれるのは、遥か先のことと思われた。



*****


 恋人同士になる前の二人を書くのは、とっても楽しいです。
 青木くんがひたすら薪さんのことを追いかけている様子が、3巻までの彼らを彷彿とさせるからです。 
 ……よくぞ帰ってきた、青木。(感涙)


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天国と地獄2 (2)

 みなさん、連休いかがおすごしですか? 楽しまれてますか?
 
 昨日は、16回目の結婚記念日でして。
 連休中はそのお祝いも兼ねて、毎年オットと小旅行に出かけていたのですけど、今年は余震が続いているので、家に一人お義母さんを残すのが怖くて、旅行はやめました。

 その代わり、一昨日、サファリパークに行って来ました♪ 
 自分のペースで動ける動物園と違って、あまり長く同じ場所に留まれないのが難点ですが、(←ひとつの柵の前に20分は居座るやつ)
 動物達が自由に動き回っているところがいいですね~。 
 水鳥と鹿が仲良く遊んでいたり、ラマとアルパカが並んで歩いていたり。 動物の種類ごとに柵を区切ってしまう園では見られない光景に、癒されまくりました。

 朝早く出かけたので、かなり時間が余りまして、それから牧場を回ったんですけど。
 馬に乗りまして、(←周りが子供ばっかりでかなり恥ずかしいのを我慢すれば楽しい、てか乗ったらやみつき)
 ロバと戯れまして、(←なつこい。 岩になった気分でじっとしてると肩に頭を付けてくる)
 ヤギと羊にもみくちゃにされました。(←エサに突進してくる)

 動物系のテーマパークは、うちのあおまきさんの定番デートコースなので、きっとこんな感じなんだろうなー、と微妙にずれたことを考えつつ、お休みを満喫してきました。
 気持ちが残っているうちに、あおまきさんの楽しいデートの様子でも書こうかな。

 でも、公開中のお話はこんなん↓(笑)




天国と地獄2 (2)




「聞いてくださいよ、岡部さん。薪さんたらヒドイんです」

 週の最初のアフターから後輩の愚痴に付き合わされて、岡部はげんなりしていた。
 後輩が持ち込んでくる相談といえば、仕事のことか職場の人間関係についての悩みと相場が決まっているのだが、この後輩に関しては、ほぼ100%特定の人物との人間関係だ。それは確かに彼らの共通の上司のことだったが、仕事とも職場とも、何の関係もない。実にプライベートなことだった。

「オレ、すっごく楽しみにしてたんですよ、昨日のデート。それなのに」
 上司と二人で出かけることを『デート』と表現していることからも解るように、青木は何年も前から薪に惚れている。仕事上の悩みなら一緒に解決策を模索することもできるが、恋愛問題、しかも成功確率マイナス値の恋となれば、これはもう、どうやって諦めさせるかに尽きる。

「電車の中では前の席に座った女の子の胸元、じーっと見てるし、モーターショーの会場ではコンパニオンの生足に釘付けだし」
「だから前にも言っただろ? 薪さんは見てくれはああだけど、中身は普通の男だって」
 何度も諦めろと忠告したのだが、この男は見かけによらず頑固者で、一向に岡部の忠告に耳を貸さない。男同士ということもあるが、それ以上に薪という男には、色々と問題があるのだ。

「わかってます、それだけならオレだって泣き言は言いませんよ。でも薪さんたら、イベントコンパニオンのコスチュームに刺激されたみたいで、帰りにイメクラ寄って行こうって……あんまりです!!」
 薪の性格を知っている岡部には、それが純情な年若い部下を揶揄しての冗談だと分かったが、青木にしてみれば恋をしている相手に風俗店に誘われるなんて、大きなショックだろう。しかも自分とのデート中に。
「どーしてホテルじゃなくてイメクラなんですか!?」
「いや、そこでホテルもおかしいだろ」
「おかしくないです。ホテルによってはサービスで、色んな制服を置いてるところも」
「……おまえが着るのか、それ」
 外見と中身の離反が激しい薪が、女物の衣装に身を包むことなどあるはずがない。それくらいは心得ていたのか、青木はウィスキーのグラスを持ったまま固まった。

 肘をついて掲げたグラスより下に頭を下げて、青木はテーブルの上にため息を落とした。青木の息が掛かった場所から、どろどろと淀んだ空気が漂ってくる。
「だから、あのひとは止めとけって言っただろうが」
「そんなこと言われたって……好きなんですよぉ。自分でも、どうにもならないんです、薪さんは男のひとだって分かってても、諦めきれないんですぅ……」
「問題はそこじゃないだろ、あのひとの場合」
 相手が同性だという理由だけで、青木の恋にストップをかけてきたわけではない。岡部は、そんな了見の狭い男ではない。
 時代が進み、同性間の恋愛についても理解が増して、その感情を昔ほどひた隠しにしなくても良くなっている現代、薪のように「普通の男は男に恋なんかしない」と思っている方が時代遅れなのだ。

「あのひとの頭の中に、おまえが恋愛の対象として自分を見ているっていう意識がカケラもないのが一番のネックなんじゃないか。まずはそこからだろ。もっと、恋愛感情を表に出してだな」
「これ以上、どうやって表現しろって言うんですか? オレ、あのひとに好きだって何回も言いましたよ。でも軽く受け流されるばかりで、しかもそのたびに仕事が増えていくし」
 自分を好きだと言う部下に対して、「そうか。じゃ、これ頼む」と書類を押し付ける薪の姿が簡単に想像できて、岡部は引き攣り笑いを浮かべた。
 薪らしい、らしすぎる。上司として尊敬されていると信じて疑っていないのだ。

「言葉がダメなら、行動で表したらどうだ。デートに誘うとか」
「その結果がイメクラでした」
 そうだ、青木はちゃんと行動もしているのだ。
「じゃあ、もう一押し。抱きしめてみるとか」
「やりました。2秒で投げ飛ばされました」
 薪は柔道の有段者だ。素人の青木を投げ飛ばすくらい朝飯前だ。柔よく剛を制す、この武術に体格差は関係ない。

「『柔道の稽古をつけて欲しいのか』とか言われて、その後、道場で1時間もしばき倒されて」
「ああ、面倒臭えなあ。いっそのこと、唇でも奪っちまえば」
「それはイヤです。気持ちも伝わっていないうちに、そういうことはしたくないです」
 それぐらいやらないと、薪には伝わらないのに。薪も薪だが、青木も青木だ。ふたりとも、自分のポリシーに執着するタイプなのだ。

 青木はしばらく考え込んでいたが、やがて意を決したように、岡部を真剣な眼で見た。
「岡部さんから、言ってもらえないですか?」
「俺が?」
「はっきり伝えなくていいんです、匂わせてくれるだけで。岡部さんに言われれば、薪さんだって真面目に考えてくれると思うし、そうなればオレの言葉も正確に伝わるはずです」
「どうだかなあ」
 正直、あまり自信がない。どんなに複雑に絡み合った人間関係でも、それが事件の背後にある限り、瞬く間に看破してみせる薪だが、我が身に降りかかると途端に鈍くなるのが彼の特徴だ。相手が女性ですら中々気付いてもらえないのに、同性ともなれば言わずもがな。

「お願いします。岡部さんが最後の希望なんです」
 それでも、こうして頭を下げられれば嫌とも言えない。あんまり期待するなよ、と渋く承諾してやると、青木は頭を上げて、その日初めての笑顔を見せた。




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天国と地獄2 (3)

天国と地獄2 (3)




 翌日の夕刻。
 部下たちが帰宅した後、岡部は室長室へ向かった。気乗りはしないが仕方がない。最後の希望とまで言われては、何のアクションも起こさずにいるわけにはいかない。

「薪さん。ちょっといいですか」
 執務席に向かって熱心に書類を読む薪に、岡部は控えめに声をかけた。薪が顔を上げて、岡部に微笑みかける。進行中の事件がないときの薪は、比較的穏やかだ。
「どうした?」
「青木のことなんですけど」
「あいつ、またなんかミスったのか?」
 すぐに仕事に結びつく。薪にとって、青木はまず部下だ。そこから切り離さなくては。

「いえ、違います。その……仕事は抜きにして、薪さんは、青木のことをどう思ってらっしゃるんですか?」
 鋭い人間なら、このセリフで察するものだが。まあ、薪には無理だろう。
 予想通り、薪は色事とは無縁の快活な笑いを浮かべ、
「あいつ、世界びっくり人間ショーとか中国雑技団とか、いけるんじゃないか」
「はあ?」
 予想もしない答えを返してきた。

「こないだ、熱いコーヒーが足にかかってるのに、まるで平気だったんだ。熱さを感じないらしい」
「それは、どういう状況で?」
「風呂から上がって、キッチンに水を取りにいったんだ。そしたらそこで、青木が自分の足にコーヒーを注いでた」
 風呂から上がったら、薪はいつも素っ裸だ。青木はそれに見蕩れていたに違いない。
「寒いのも感じないみたいだぞ? いつだったか雪山でコート脱いで、僕に着せて」(←『ラストカット』)
 あれはあなたを助けようとしたんでしょうがっ!!
 報われない後輩の境遇に、涙が出そうになる。青木、このひとだけは止めた方がいいぞ、と岡部は、無駄なアドバイスを胸中で呟かずにはいられなかった。

「もしかしたら、ナイフとか飲めるかも」
 止めてください! 青木はあなたの命令なら本気でナイフ飲みますよっ!!
「口から火を吹く大技もマスターできるかもしれないな」
「青木は不器用ですからね。自分が火だるまになっちまうんじゃないですか?」
「火だるまか。あいつ、背が高いからな。見ごたえありそうだなっ」
 そんな、サーカスを観にきた子供じゃないんですから、目をキラキラさせないでくださいよ……。 

 このひとだけは絶対に止めた方がいい、命にかかわるぞ青木、と心の中でもう一度忠告してから、岡部は青木との約束を果たそうと言葉を継いだ。
「青木の特技はともかく、仕事は頑張ってるでしょう? 日曜出勤とか残業とか、全然嫌がらないし。毎日遅くまでモニタールームに残って自主学習してるし。何故だと思います?」
「何故って。一生懸命に仕事をするのは当然のことだろ?」
「それはそうですけど。でも一番の理由は、あなたに認めて欲しいからです」
「まあ、人事査定は僕の仕事だからな」
「違いますよ!」
 岡部は思わず、声を荒げた。あの努力を査定のためと誤解されたら、青木があまりにも可哀想だ。

「そんないやらしい気持ちじゃないですよ。青木は薪さんのことが好きなんです」
 しまった、匂わすだけでいい、と言われていたのに、ハッキリと口に出してしまった。この言葉は自分で告げたかっただろうに、悪いことをしてしまった。
 何とかフォローが効かないかと、岡部が薪の様子を伺うと、薪は赤くなることも照れることもなく、平然とした顔で読み終わった書類を揃えていた。

「驚かないんですか?」
「驚く? なんで?」
「なんでって……普通はびっくりしませんか? 好きとか言われたら」
「そんなの当たり前だろ。僕はあいつの直属の上司なんだから」
 いや、青木の気持ちが当たり前だったら、人類はとっくに滅びてますから。生物学的に。
「僕だって、捜一にいた頃は羽佐間さんのこと大好きだったし、今だって直属の上司ってわけじゃないけど、小野田さんのことは尊敬してるし、大好きだぞ」
 ……よかったですね、いい上役に恵まれて。理想の上下関係ですね

「岡部だって、僕のこと好きだろ?」
「いや、違います。あのですね」
「え、違う? 岡部、僕のこと好きじゃないのか」
 青木が薪のことを好きだ、と告げたときより、ずっと驚いた顔をして、薪は岡部を見た。哀しそうに眉尻を下げて、ひどく沈んだ顔になる。

「他の職員には嫌われても仕方ないと思ってきたけど、岡部までそんな……おまえにだけは、本音で話してきたつもりなのに」
「いや、そうじゃなくて! 好きですよ、俺は薪さんのこと尊敬してます!」
 薪の様子に焦りまくり、岡部は当初の目的から遥かに遠ざかったセリフを叫んだ。それは青木に頼まれたこととは激しく食い違っていたが、彼を責めるのは酷というものだ。薪の幼げな美貌を向けられて、亜麻色の大きな瞳をうるうるさせて、思い詰めた表情で見られたりしたら、地獄の閻魔だって彼を慰めずにはいられないだろう。

「本当に?」
「本当ですよ。俺がおべんちゃら苦手なの知ってるでしょ。でも、青木のやつは、俺とは違った意味であなたのことを」
 岡部が誤解を解こうと普段は言わない本音を吐くと、薪はぱあっと笑顔になった。
「よかった。岡部にだけは嫌われたくないと思ってたんだ」

 普段はあれだけ皮肉屋でへそ曲がりなくせに、どうしてときどき豹変するんだろう。これは青木じゃなくても持っていかれる。ガチガチノーマル派の岡部には効かないが。
 青木のような感情を持ち合わせていなくても、薪のこの笑顔を誰よりも望んできたのは岡部だ。薪が笑ってくれると、岡部は本当に嬉しいのだ。

「じゃ、今日はもう帰っていいぞ。お疲れさん」
「はい、失礼します」
 薪の笑顔に釣られるようにニコリと笑って、岡部が部屋から出て行った後、薪は書類に向かって呟いた。
「ん? 青木が何とか言ってたような気がするけど……ま、いいか」

 薪の笑顔にいなされて岡部が室長室を出ると、すぐさま青木が駆け寄ってきた。岡部が持ち帰る成果を楽しみにしていたであろう彼は、期待に目を輝かせて、せっつくような口調で岡部に問いかけてきた。
「岡部さん、どうでした?薪さん、オレのこと意識してくれそうですか?」
「世界人間びっくりショーを目指して修行に励めとさ」
「????」

 疑問符の渦に飲み込まれた青木を置き去りにして、岡部は帰り支度をする。
 青木には悪いが、このままにしておいたほうが、薪は幸せかもしれない。青木の気持ちを知らないからこそ、あんなふうに楽しくやっていられるのだ。知ってしまったら態度も変わるだろうし、悩みも増えるに違いない。
「青木、あの人のこと諦める気は」
 振り返ると、今いたはずの場所に青木の姿はなかった。ぐるりと頭をめぐらせて、その長身を室長室の戸口に見つける。
 室長室から出てきた薪と、何か話している。若く張った頬を紅潮させて、黒い瞳を恋をするもの特有の熱っぽさにきらめかせて、口元をだらしなく緩ませて。
 ……何を言ってもムダか。

「岡部さん、薪さんが3人で食事に行きましょうって」
 本体から離脱して空中を舞う青木の魂が見える。食事に誘われたくらいで、そんなに嬉しいのか。
 痛々しいまでに純朴な後輩の様子を見ていると、岡部はまた迷ってしまう。薪に悩みを増やすのは不本意だが、こいつの気持ちも何とかしてやりたい。
「俺は今夜は遠慮します。おふくろを食事に連れて行く約束してるんですよ」
 意味ありげに青木に視線をくれてやると、青木は岡部の気遣いを悟ったらしい。ぺこりと頭を下げて、胸の前でぐっと拳を握って見せた。

「そっか、残念だな。じゃ、青木。『瑞樹』でいいか?」
「はい! オレ、薪さんとならどこでもいいです!」
 薪が一緒なら、コンビニの握り飯を公園のベンチで食べたって、青木には最高のごちそうなのだろう。こんなにひたむきに思われているのに、薪ときたら。可哀相に、青木のやつ。

「そうだ、青木。メシが済んだら、日曜日に行けなかった所、今夜行こう」
「……イメクラですか?」
 連れ立って廊下を歩きながら、隣で交わされる会話に、岡部は思わず涙ぐみそうになる。青木、どこまで不憫なやつなんだ。
「違う、海の見える公園。帰りに車から見えて、寄りたかったけど時間がなくて諦めただろ?あそこの夜景はきっと、すっごくきれいだぞ。おまえとふたりで見たいと思ってたんだ」
 ……薪さん、計算してます? それはいわゆる、ツンデレってやつですよね?
 
 というか、薪の気持ちがいまひとつ分からない。普通、夜景を見るのに男を誘うか?しかも、『おまえとふたりで見たかった』とか平気で言ってるし。自覚はないけど、青木のこと好きなんじゃないのか、このひと。
 青木が女の子に囲まれてたときも不機嫌になってたけど、あれは自分よりモテる男に嫉妬したんじゃなくて……て、まさかな。

「あれからずっと楽しみにしてて……何してるんだ?青木」
 男相手に恋愛が成立するはずがないと信じ込んでいる薪には、青木がどうして壁に突進して額をコンクリートに打ち付けているのか分からない。
「もしかして、新しい芸か? 額から血が吹き出てるのに、痛くないのか? スゴイな、おまえ!」
 だから、その期待に満ちた目で青木を見るのは止しなさいよ! 青木がどんどんおかしな方向へ突っ走って行くじゃないですか!

 口元をむずむずさせて、薪は青木を見上げた。長い睫毛をゆっくりと瞬かせて、青木に投げたのは一撃必殺の上目遣い。
「青木。おまえ、火吹ける?」
「はい!」
「止めろ、青木。死ぬぞ」
「ナイフ飲める?」
「はい!」
「止めろ、青木。本当に死ぬぞ」
 この先、薪に恋心が伝わったとして、果たして青木は五体満足でいるのだろうか。
「こういう場合って、労災になるのかな……」
 近い将来必要になるかもしれない厄介な事務手続きを憂いて、第九の副室長は深いため息を吐いた。


(おしまい)



(2010.7)



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プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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