天国と地獄5 (1)

 こんにちは。

 天国と地獄シリーズも、ターニングポイントを迎えました。
 こっちのあおまきさんも最終的には恋人同士になるのでね、そろそろこういう話題も必要かなって。 
 でも、大人な内容、というよりか、オヤジな内容?
 仕方ないじゃん、男爵だもん。(笑)





天国と地獄5 (1)





「青木。いいもん見せてやろうか」
 薄いCDケースを人差し指と中指の間に挟んで、薪は意味ありげに青木を見た。下方からの目線、しかし見下されていると感じるのは、その目つきの悪さのせいか。
 なんですか?と応じると、薪はケースを青木に差し出し、デッキにセットするよう促した。DVDの裏面は真っ白で、ラベルも文字もない。
 それでも上司の命令だ。別に違法なものではないだろうと判断して、テレビの下に据え付けれたデッキにメディアを挿入する。

「うわっ!?」
 屈んだ姿勢のまま、何気なく画面を見ていた青木の身体が仰け反って、大きな身体が後方に引かれた。咄嗟についた両手も間に合わず、青木はその場に尻もちをついた。
「なんなんですか、これ!」

 42インチの液晶画面に映し出されたのは、大人しか見てはいけないヒメゴトの画。それもモザイクなしの無修正ものだ。
「見るの初めてか?」
「そうじゃないですけど……これ、違法ビデオですよね。どこからこんなもの」
「脇田課長が貸してくれたんだ。僕好みの娘が出てるからって」
 なんて不愉快なことをしてくれるんだ、あの鬼瓦は。巨大ハンマーで粉々にして、ガレキの塊にしてやりたい気分だ。

「本当だ、むっちゃ僕好みだ。やっぱり女の子はちょっとくらいぽっちゃりしてた方が……青木?」
 興味津々の顔つきで身を乗り出してくる上司の姿に、青木は思わず涙ぐむ。いくら外見がきれいでも、中身は普通の男。正常な男なら、これが当たり前の反応だ。なのに、その様子を見てると涙が出てくるのは何故だろう。
「感激して泣いてるのか?」
 ストーリー皆無のエロビデオの何処に感動の涙を流せと!?
「たしかに、この胸は感涙ものかもしれないな」
 ああ、涙が止まらない……。
「はあ、可愛いなあ。特にこの、太ももとお尻のむっちり感が」
 エロオヤジ全開の薪の発言が、青木の精神を蝕んでいく。どうしてこのひとは、顔と中身のギャップがこんなに激しいんだっ!

 キレそうな勢いで頭を巡らせた青木は、幼い美貌が微笑んでいる様子にたちまち骨抜きになる。
 青木の隣に正座して画面を凝視しているその横顔は、テレビのスピーカーから妖しげな音が響くこんな状況にあってもやっぱり可愛くて。どんな理由からでも、彼が笑ってくれることは嬉しい。仕事中は常に厳しく吊り上げられた彼の眉に、これほどやさしいカーブを描かせてくれるなら、画面の中の彼女をご苦労さまと労いたいくらいだ。彼の笑顔が増えるなら、それでいいじゃないか。
 
 と、天使のような考えを持てたのはほんの数分。
 可愛らしい顔でとんでもないものを見ていた薪は、ビデオが進むにつれ、次第にソワソワしだした。これは、多分あれだ。男特有の現象が起こりかけているのだ。
 薪はちらっと青木の方を見て、青木が平然としているのに眉を顰め、少し頬を染めて前を向いた。
 昔の青木だったら彼と同じことになっていたと思うが、薪に恋をした今では、画面の向こうの女性を一夜限りの恋人にする気は全然起きない。メリハリのきいた彼女のボディも、正直、肉の塊にしか見えない。
 
 画面に視線を戻した薪は、緩んでいた口元を引き締め、MRIでも見るような表情を取り繕った。年下の青木が平静を保っているのに、自分が興奮しているのがプライドに障ったのかもしれない。面倒なひとだ。
 しかし、薪が抑えようとしているのは謂わば生理現象。仕事の時ならともかく、オフタイムの彼に御しきれるはずがない。仕事モードの薪は人間の5大感性まで見事に押さえ込んで見せるが、プライベートモードの彼は基本のポーカーフェイスすら危ういのだ。

「……どちらへ?」
 黙って席を立った薪に、青木はやっかみ半分に問いかける。訊くのは野暮だと分かっていても、知らないふりはできなかった。

 だって、くやしい。
 当たり前だけど、薪は自分の裸体を見ても興奮してくれない。女の子の身体を持っているというだけで、実際に触れもしない映像だけで彼をこんな気分にすることができる彼女たちが、めちゃめちゃ羨ましい。
 もしも自分が女の子だったら、少しは可能性があっただろうか。器量よしでなくともいい、女性でありさえすれば、女の武器は備わっているはず。少なくとも『あなたが好きです』という言葉の意味は、正しく捉えてもらえたはずだ。
 ……真面目に性転換しちゃおうかな……。

「ちょっと、その」
 青木に呼び止められた薪は、その場に立ち尽くした。頬を赤くして、右手で口元を覆っている。恥じらいの理由はエロビデオによる男の事情という身も蓋も無いものなのに、なんでこんなにかわいいんだ、これは詐欺じゃないのか。
 パーカーの裾を引っ張って、ズボンの前を隠している。隠さなければいけない状況になっていると白状しているようなものだ。

 薪のその状態が自然に頭に浮かんで、途端に青木の下腹部は熱を持つ。
 夢の中で想像の中で、幾度も繰り返された薪の痴態。自分の下になって悶える夢の恋人と現実の薪が、ほんの少しだけ重なった。

「すぐ戻るから」
「薪さん、待ってください」
 くるりと翻った細い背中を、青木はもう一度呼び止めた。肩越しに顔だけ振り向いた薪に、恐々と申し出る。
「あの、良かったら……お手伝いしましょうか」

 言葉にした直後、青木は後悔した。薪の顔がひどく歪んだからだ。
「手伝うって、どういう意味だ?」
 プライベートのときにはついぞ聞いたことのない、冷たい声音。嫌悪感でいっぱいの表情。あまりにも明確な拒絶に、青木は声も出せなかった。

 気まずい沈黙が下りて、青木は俯いた。膝の上に置いた自分の手をじっと見る。女優のはしたない声が、空々しく響いている。
 薪はリモコンでビデオを止めると、スタスタと歩いてビデオデッキからDVDを取り出した。元通りケースに入れると、それを青木の前に置き、
「これ、貸してやるから。今日は帰れ」
 固く強張った背中で、薪は書斎に入ってしまった。追いかけて謝らなければ、と思ったが身体が動かなかった。
 どうしていいか分からず、狼狽えるばかりの青木の頭の中で、薪の冷たい亜麻色の瞳が悲しげに伏せられた。




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天国と地獄5 (2)

天国と地獄5 (2)





 シュッと衣擦れの音をさせて、水色のネクタイが引き抜かれた。ワイシャツの一番上のボタンが外され、優雅な首がのぞく。ほのかに漂う香水のような魅惑的な香りと、ベルトに掛けられた細い指。ためらいがちにベルトを抜いて、スラックスのフックを外そうとしている。もうちょっとで、あの麗しい脚線美が―――。

「……アホくさ」
 脇田耕作は口中で呟くと、視線を前に戻した。
 状況だけ説明されると思わず生唾を飲みたくなるようなシーンだが、別におかしな場面ではない。ただの男子更衣室だ。道場で一汗かいて、仕事に戻ろうと着替えていたら、知り合いの男が来て隣で着替え始めた。それだけのことだ。

「こんにちは、脇田課長。上がりですか?」
 にこやかに脇田に声を掛けてきた男は、右手に鞄を持っていた。どうやら今日はもう仕事上がりで、帰りに道場に寄ったらしい。
「いんや、これから課に戻ってもうひと踏ん張りだ。今のヤマ、思うようにネタが上がらなくて、長引いててよ。で、うちの連中にちいと気合入れてやろうと思ってな。その前に、自分に気合入れに来たのよ」
「ご苦労さまです。課長の仕事とはいえ、部下のモチベーションをあげるのは大変ですよね。怒鳴りたくなんかないのに、怒らなきゃいけないときもあるし。僕だって、できることなら穏やかに毎日を過ごしたいですよ」
 ワイシャツのボタンがもう一つ外され、露わになった胸元の白さに驚いて、脇田は思わず彼を凝視する。ついつい目を奪われてしまうが、こいつは男だ。脇田の好きなロケットのような胸はない。見てもムダだ。

 隣で道着に着替えようとしているのは、第九研究室の室長。男ばかりのむさくるしい職場で毎日を過ごさなければならない部下たちの間で、女神というかアイドルというか、そんな役回りをさせられている不幸な男だ。
 薪はミスユニバースが尻尾を巻いて逃げそうな美貌の持ち主だが、それは彼の人生において何のプラスにもなっていない、と脇田は確信している。自分の部下たちがこの男のことをどんな眼で見ているか、知っているからだ。自分がこの男の立場に立たされたら……迷わず整形手術する。

「あ、そうだ。脇田課長、これ、ありがとうございました」
 ワイシャツ一枚の半端な格好で、薪が鞄から取り出したのは、先日貸してやった無修正もののポルノビデオ。薪の外見に騙された脇田の部下たちは女神だなんだと騒いでいるが、中身はしっかり野郎だ。
 押収品の中の一枚だが、これを薪に回してやったのは、脇田なりの感謝の印だ。先日の麻薬組織摘発の際、薪には囮になってもらった。本人が嫌がるのを無理に頼み込んで女装してもらい、結果組織の幹部に辿りつくことができた。違法捜査ギリギリの手段だったから、表立って薪が褒章を与えられることはなかったが、彼の功績は大きい。何か礼を、と脇田が申し出るのに、魅惑的な美女のまま「じゃあ、ヌケるビデオでも貸してください」とカラッと言って、その場に居合わせた部下たちの精神を崩壊させていた。

 更衣室内の他の連中に気付かれないように、DVDケースをこっそりと手渡され、脇田は相好を崩した。にやりと下卑た笑いを浮かべると、
「どうだ、ヌケたか?」と小さな声で訊いた。
「そのはずだったんですけど」
「ありゃ。好み、外してたか?」
 その情報は、薪の部下で脇田の友人でもある岡部靖文警部から仕入れた。薪の好みは『背の低い、ぽっちゃり系のカワイコちゃんタイプ』と聞いていたが、はてさて。

「いえ、ばっちり僕好みの娘でした。××××なんか××××状態で、モロ僕の×××を刺激してくれて」
 女のように小さくてつややかなくちびるから零れだしたのは、深夜のスナックで話すにしても、もっとトーンを抑えるであろう卑猥な言葉の数々。サラサラした亜麻色の髪と長い睫毛に囲まれた大きな瞳を煌かせて、顔だけ見ているとどこかで誰かが吹き替えでもしていて、これはいわゆるドッキリかとまで疑いたくなる。
 これを薪に憧れている脇田の部下たちが聞いたら、外見とのあまりのギャップに、泣いて転げまわるに違いない。曲がりなりにも脇田は課長だから薪との付き合いも深いが、部下たちはロクに口を利いたこともないのだ。薪の真実を知るものは少ない。

「じゃあ、なんで」
 脇田が不発の理由を聞くと、薪は眉尻を下げて、亜麻色の瞳に果てしない困惑を浮かべた。
 幼げな美貌の彼にワイシャツ一枚の姿でそんな表情をされると、ガチンコノーマルの脇田でさえ、ちょっとクる。ここにうちのバカどもがいたら大変な騒ぎになるな、と想像して、脇田はその場に座り込みたくなるような脱力感を覚えた。

「一緒に見てた部下が、突然ヘンなこと言い出して」
 プライベートの薪と一緒にこんなものを見る可能性がある彼の部下というと、心当たりはふたり。副室長の岡部と、第九最年少の青木だ。しかし、岡部はこういうものにあまり興味がないから、おそらくは青木のほうだ。
「女の好みにケチでもつけられたか?」
「そうじゃなくて。見てるうちに、あの娘の××××で××××してもらえたら堪んないだろうな、って思ったら×××が××××しちゃいまして」
 まあ、正常な男ならそうなるだろう。しかし、薪を胸のない女性(どうやったらそんな思い込みができるのか、脇田には良く分からない)と信じて疑わない部下たちが聞いたら、その記憶を消去しようと、壁に頭を打ち付けるものが後を絶たないだろう。
「××××しちゃったものは仕方ないから、××××しに席を外そうとしたら」
 部下たちが聞いたら、以下略。
「……お手伝いしましょうか、って」
 淀みなく放送禁止用語を連発していた薪が口ごもり、躊躇しつつ言ったのは、『お手伝い』という子供でも知っている言葉だった。

「まさかと思うけど、あいつ」
 綺麗な横顔に浮かんだ嫌悪感と疑惑を、それを向けられたであろう男のことを思って、脇田は胸を痛める。
 青木のことは脇田も知っている。岡部が特別研修に行っている間、柔道の個人レッスンを頼まれていた。とても熱心で、素直ないい若者だった。キャリア組でありながら何故武道に情熱を注ぐのか、と本人に尋ねたところ、意外な答えが返ってきた。

『室長を守りたい』

 きっぱりと言い切った青木の黒い瞳は、夢を追いかける子供のように純粋に輝いて、そこまで慕われているこいつの上司は幸せだと思うと同時に、それだけではないだろう、という邪推もあった。それは薪の容姿に寄与する部分もあったし、薪のことを語る青木の口調の熱っぽさにもよった。
 だから脇田は、好ましい若者の窮地を救うべく、彼に助け舟を出す。あんなに薪のことを思っている彼が、それだけの理由で遠ざけられるのはあまりにも可哀想だ。

「薪、そいつはお前さんのカンチガイだ」
「カンチガイ?」
 小鳥のように小首をかしげた仕草に、脇田は青木が哀れになる。この男はこうして、自分でも意識しないうちに相手をその気にさせてしまう媚態を持っている。脇田のように年も経験も重ねた男には効力は薄いが、若い部下たちにとっては覿面だろう。それを公私に渡り見せられている青木にいたっては、もはや中毒症状を呈しているに違いない。

「体育会系の部活ではな、そういう『お手伝い』は珍しいことじゃねえんだ」
「えっ!!?」
「先輩がエロ本眺めてる間、後輩が手○○するわけよ」
「そうなんですか!?」
 眼と口を大きく開いて、薪は純粋に驚いている。ヒネクレ者との評判が高い薪だが、本来は素直で正直な男だ。被疑者の取調べ以外で、他人の言葉をまず疑ってかかる、などということはしない。
「おうよ。だからって、そいつらが全員ホモってわけじゃねえぞ。そこには先輩を尊敬する気持ちがあってだな、謂わば奉仕の心ってわけよ」
「へえ。そんな慣習があるんですか。知りませんでした」
 これが捜査に関することなら、もっと慎重に脇田の言葉を検証するだろう。しかし、今はオフタイム。オフの彼ほど騙しやすい男を、脇田は知らない。

「悪いことしたな……謝らなきゃ」
 こそっと口中で洩らした呟き声を拾って、脇田は自分の首尾に満足する。他人ができるのはここまでだ。
「お前さんのこと、よっぽど想ってるんだろうよ。いい部下持って幸せだな、薪」
 脇田が止めの一言を添えると、薪は気恥ずかしそうに頬を染めて、
「脇田課長。教えていただいて、ありがとうございました。ビデオの件と合わせて、今度一杯奢らせてください」
「いいってことよ。ビデオはもともと、こないだの礼だしな」
 酒のお誘いは嬉しいが、薪とふたりで飲みに行ったりしたら5課内でストライキが起こる。社会的な破滅と酒を天秤にかければ、脇田には当然仕事の方が重い。しかし、相手の好意を断るのも申し訳ない。

「でも、せっかくだしな。お前さんにその気があるんなら、どうだい。今、この場に座ってみちゃくれねえか」
 訝しがる様子もなく、薪は脇田の言に従い、床に腰を下ろした。薪は本当に面白いやつだ。仕事中はあんなに厳格で、自分の部下にさえつけいる隙を見せないくせに。プライベートになった途端、薪のガードは薄くなる。特に自分の味方だと思っている人間に対しては、無条件に相手を信じる傾向がある。
「正座して、ケツっぺた床に落として……そうそう。でもって、眼だけ上見て、ちょっと涙ぐんでみてくれ。あ、ワイシャツのボタンはもう一つ外してな」
「こうですか?」
 涙ぐめだのボタンを外せだの、どう聞いてもおかしなセリフだが、プライベートになった途端、薪のガードは、以下略。

 臙脂色のネクタイをタイピンで止めて、ジャケットを右手に持つと、脇田はにやりと笑った。
「よーし、OKだ。これで今追ってるヤマも、カタがつきそうだぜ。ありがとうな、薪」
「???」

 狐につままれたみたいな顔をしている薪に軽く手を上げて、脇田は彼に背を向けた。部屋にいた連中が、着替え途中のみっともない格好のまま部屋の隅に一塊になっているのに失笑しつつ、更衣室を出る。
 脇田が自分の部署に帰ると、長い膠着状態に疲弊している部下たちが、重い空気の中で腹ごしらえをしていた。もちろん、脇田の分も机の上に置いてある。ペットボトルのお茶が汗をかいていないところを見ると、用意されていくらも経っていない。これは美味そうだ。
 揚げ物の香ばしい匂いに食欲を刺激されつつも、脇田のいかつい手が最初につかんだのは、机の上に置かれた自分の分の弁当ではなく、PCのマウスだった。
 職業柄、常にタイピンに仕込んである超小型カメラで写したばかりの映像データを、PCに伝送する。画面を開き、目的のファイルに範囲指定をかけて印刷する。全体像の3分の1がA3サイズの紙面に現れ、プリンターから吐き出された。

「野郎ども、これを見ろ!」
「「「「「「「おおおおお!?」」」」」」」
 短い髪をさらりと左に流し、大きな亜麻色の瞳を潤ませてこちらを見ている美女。白いシャツのボタンは大胆に外され、白く眩しい胸元が見えかかっている。正にそこで画像は途切れ、いやでも男たちの妄想を掻き立てた。

「ああ、室長、ダメッす。そんなうるんだ瞳で見つめられたら」「このくちびるが俺を狂わせる」「鎖骨がきれいすぎる」「この肌に触れたら、死んでもいい」
 
 写真に群がって口々に被写体への賛辞を述べる部下たちを見て、脇田はどうしようもない虚脱感を味わう。それは自分の計画通りの展開だったのだが、何もここまでハマらなくたって。いつの間に5課は、あいつのファンクラブになったんだ。マトモなやつは残ってないのか。こないだのスナック潜入捜査の折、やつのチャイナドレス姿を見て拍車が掛かったらしいが、嘆かわしい限りだ。

「課長! どうしたんですか、この写真!」
「おまえらが捜査に行き詰まり、疲れていると話をしたら、室長が『みなさんを元気付けて差し上げたい』と仰ってな。自らこの写真を」
「なんてやさしい人だ。やっぱりあのひとは俺たちの女神だ……!!」
 うん。それは思想の自由というやつだな。
「今現在、俺に送られてきている映像はここまでだが、実はこの全体像もあるらしい。事件が解決した暁には、それを贈ると言ってくださってる」
「ぜ、全体像?」
「ワイシャツのボタンをここまで外してくれてるだけでも、充分刺激的なのに」
「も、もしかして、胸の谷間とか」
 
 自分の部下たちがいつになったら薪の性別を正しく把握するのか、という命題は棚上げにして、脇田は課長としての職務を全うする。つまり、部下たちのやる気を引き出すことだ。

「ちなみに、ワイシャツの下は裸だそうだ」
「「「「「「「「「いよっしゃーーー!!!!」」」」」」」」

 警視庁全体を揺るがすかと思われるような野太い咆哮が響き、脇田は思わず耳を塞いだ。横を見ると、窓ガラスにヒビが入っている。……老朽化してたんだな、きっと。

「よし! 5課の根性を見せてやろうぜ!!」(何としても室長の写真が見たい)
「××町のスナック、もう一度聞き込み行くぞ!」(できれば室長の声も聞きたい)
「罪状なんか何でもいいから引っ張って来い! 命に代えても吐かせてみせる!!」(実物を見れたら死んでもいい!)
 仕事意欲満々の部下たちのセリフに被る、この副音声はどこから聞こえてくるのだろう。

「おまえら、テンション上げすぎだろ……」
 野郎の裸ワイシャツでこんなに盛り上がれるなんて、うちのバカどもはまったく。
 
 ぼやきながら自分のPC画面を見て、脇田は部下たちが命を懸けてまで見たいと熱望する薪の全体像を眺める。うるんだ瞳に長い睫毛に小さく開かれた口元。左にかしげた華奢な首の細さと白さと、襟元から覗く鎖骨のむしゃぶりつきたくなるような色っぽ……いやいや、これは男だ、自分と同じ野郎の写真だ。
 白いワイシャツの裾から伸びた魅惑的な太腿。程よく肉がついて、すべすべしてて柔らかそうで。なんて綺麗な足だ、こんなの見たことねえ。可愛らしく内股座りになって、恥じらうようにワイシャツの合わせを両手でつかんで。膝がかわいい、めっちゃかわいい。くるぶしがそそる、めっちゃエロい。

「…………やべえ」
 ぼそりと呟き、脇田はファイルを閉じた。



*****

 一度は書いてみたかった、薪さんの裸ワイシャツ♪♪
 絶対にかわいいと思うの、きれいだと思うの、売れると思うの。(え)

 あ、それと、余談ですが、
 こちらの薪さんはうちの薪さんなので、原作に合わせてません。 一応の区別として、髪の分け目が逆です。 (原作の薪さんは、前髪を右に流してますよね)
 男爵シリーズはあまりにも原作との乖離が大きいので、(←本編と変わらんとか言わないでください) 
 良心の呵責から、 (←おまえにそんなものがあったのかとか言わないでください)
 明確な違いを作ってみました。
 だから、読んでも怒っちゃいやん☆


 6/23 追記

 こちらの話に出てくる裸ワイシャツの薪さんのイラストを、『晴れときどき秘密』のみひろさんが描いてくださいましたーー!!

 こちらから見られます。 ぜひどうぞ → 裸ワイシャツ薪さん


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天国と地獄5 (3)

 こんにちは。

 超久しぶりに、小説カテゴリの作品を書いてます。
 やっと落ち着いてきましたのでね、少々ぎこちなくはありますが、ストーリーを組み立ててみました。
 
 今まではリハビリ代わりに、雑文ばっかり書いてました。 (雑文は、きちんとした主題がないお話です。 事件も起こらず、あおまきさんの関係に進展もなく、気付きもなく目覚めもなく、「それがどうしたの?」ってカンジの話。 けっこう書いてるんですけど、つまんないので公開しません)
 小説を書くのは震災以降初めてなのですが、とってもとっても楽しいです♪ 
 ストーリーがあるから筆が止まらないし、薪さんを追い詰めるのは萌えるし。<オイ。
 やっぱり、雑文よりも小説の方が、書くのは楽しい♪


 で、現在公開中のこちらですが。
 途中になってたんでしたね、すみませんでした。(^^;
 コメのお返事も見事に遅れまして、申し訳ありません~~! 近日中に必ず!!
 忘れてたわけじゃないんですけど、なかなかあっちの世界から帰ってこれなくて~~~。 (←誰にも理解してもらえない言い訳)

 それにしても、男爵は平和でいいねえ。 本編はしっちゃかめっちゃかになってるよ~。 ああ、楽しいな~、どうやってまとめようかな~。 (←あっという間に意識が向こう側へ……!!)

 男爵シリーズその5は、これでおしまいです。
 その6で一応、あおまきさん成立になってます。 (あれを成ったと言ってよいものかどうか)
 お楽しみに~♪





天国と地獄5 (3)




「青木、あとどれくらい掛かりそうだ?」
 帰ったと思った薪が研究室に戻ってきて、にっこり笑って青木に声をかけたとき、青木は何か不思議な力が働いて、1週間ほど時間が巻き戻されたのかと思った。

 先週の日曜日、薪のマンションを追い出されてから、薪はずっと口を利いてくれなかった。プライベートは仕事に持ち込まない人だから、職務は滞りなくこなしていたが、常に無表情に室長の仮面をつけて、青木から仕事以外の話題が出ることを避けていた。
 自分が致命的な失敗をしたという自覚があった青木は、薪の信用を取り戻すため、いつも以上に熱心に仕事に打ち込んでいたのだが、その努力も虚しく、仕事以外では目も合わせてくれない日々が続いていたのだ。それが急に、どうしたのだろう。

「いいえ、これは急ぎの仕事ではないので。何か仕事があれば、そちらを優先します」
「急がなくていいんだな? じゃあ、一緒に夕飯食べないか?」
「えっ」
 驚きと共に、青木は椅子から立ち上がった。
 何があったのか知らないが、薪の機嫌が直っている。自分の努力を認めてくれたのか、と思いかけるが、そうではないだろう。

「何がいい? おまえの好きなもの、なんでも奢ってやるぞ」
 ここであなたが食べたいです、って言ったら、怒られるだろうな。反省してないのか、って殴られるかも、ってそんなアホなことを考えている場合じゃなくて。
 突然の状況変化についていけない青木が何も喋れないでいると、薪は自分から謝罪と和解を切り出してきた。

「こないだは悪かった、おまえの気も知らずに。おまえがあの時、どんな気持ちで僕を手伝うって言ったのか、脇田課長に教えてもらったんだ」
 脇田課長が?
 もしかして、自分が薪に恋をしていることを見抜いて、薪に気持ちを伝えてくれたのか?
 いや、それはないだろう。あんなに深い信頼関係にある岡部から言ってもらってもダメだったのに、課長同士の付き合いくらいしかない脇田の言葉の方が正確に伝わるなんてこと、あるわけが……。
 待てよ、身近な岡部や青木当人から言われるよりも、第三者的な立場にある脇田の言の方が、聞かされる身には重いのかもしれない。利害関係が何も絡まない脇田が冷静に観察した結果、青木の恋心に気づいたのなら、それは本物だと考えてくれたのかも。

「おまえの気持ちは、すごく嬉しかった。ありがとう」
 呆然と、青木はその場に立ち尽くした。

 やっと……やっと伝わった。長かった、ここまでものすごく長い道のりだった。ようやく薪が、自分の本当の気持ちに気付いてくれた。その上、とても嬉しいと言ってくれた。
 じわじわと、喜びが心の奥底から湧き上がってくる。言葉の通り、薪はとてもうれしそうな顔をしている。
 決めるならここだ、彼を抱きしめて愛してます、と言うのだ。

「僕、学生の頃、部活動やってなかったから。そんな慣習のことなんか、ちっとも知らなくて。そこまで部下に想われるなんて、って脇田課長に羨ましがられちゃってさ。ちょっと照れくさかったけど、本当に嬉しかったんだ」
 伸ばしかけた手が止まる。
 部活動ってなに? ……なんか、いやな予感がするんですけど。

「尊敬する先輩に対する奉仕の心なんだってな」
 奉仕の心? なに? その安手のヒューマンドラマみたいな劣情の昇華方法は。
「おまえがそんなに僕を尊敬してくれてたなんて。ちょっと感動した」
 あああ、やっぱり!!
「おまえにはいやらしい気持ちなんか、これっぽっちも無かったのに」
 ありましたよ!! てか、そのことしか考えてませんでしたよ!
「ごめんな、ヘンな誤解しちゃって」
 薪さん、文法違います。過去形じゃなくて、現在進行形です。今まさに誤解してる最中です。
「あるわけないよな。僕もおまえも男だもんな」
 ……結局そこに落ちるんですね……。

 同性間の恋愛は成り立たない、という薪の固定観念がますます堅固になってしまった。これじゃこの先なにをやっても、奉仕としか受け取ってもらえなくなるかもしれない。ただでさえ鈍くって伝わりにくい相手なのに、どうしてくれるんだ、あの鬼瓦!
 怒髪天を突く勢いの脇田に対する青木の怒りは、しかし次の瞬間失せた。
「おまえは大事な友だちだし、こんなことで失いたくなかったから」

 そう言って、薪はびっくりするくらい明るく笑った。どんな形にせよ、脇田が彼のわだかまりを解いてくれたから、青木はこの笑顔を見ることができたのだ。
 そんなふうに、屈託無く笑う愛しいひとの姿を見れば、このまま自分の気持ちを知らずにいたほうがこの人は幸せなのかもしれない、などと切ない考えまで浮かんできて、青木は思わず泣き出しそうになる。
 だけど薪が笑ってくれるのは、やっぱりどうしようもないくらい嬉しくて、彼の笑顔を守るためなら自分の恋心でさえどうでもいいもののように思えてきて。
 
 絶対にこの笑顔を失いたくない、曇らせたくない。
 彼の笑顔よりも価値あるものなどこの世にないと思うなら、友だちを失いたくない、という彼の言葉に自分は喜んで従おう。

「薪さんの作ったオムライスが食べたいです」
「よし、じゃあ帰りにスーパーだな」
 広げた資料の片付けに、薪が手を貸してくれる。青木の半分くらいしかない手は、青木の倍の速度で動いて、それは薪の優れた動体視力のなせる技。さらには、一瞬で資料の内容を理解する頭脳があってこそのスピードだ。
セキュリティをかけて、研究室を出る。エントランスへの長い廊下で、ふたりはいつもの下らなくて楽しい無駄話に興じる。

「オムライスの材料は鶏肉と玉ねぎと……人参、たっぷり入れてやるからな」
「えええ~~」
 久しぶりに薪の意地悪そうな声を聞いて、それに自分の心が浮き立つのを感じる。優しい言葉を掛けてもらえるならともかく、意地悪されて嬉しくなるなんて、末期症状だな、と自分でも思う。
「遠慮するな。おまえの大好きな人参スティック、たくさん食わしてやるから」
「パワハラじゃないですか、それ」
「失礼な。人参はビタミンAの宝庫なんだぞ。僕はおまえの健康を考えてだな」
「よく言いますよ。いつも無理矢理口に押し込むくせに」

 ぶちぶちと文句をつける青木を見て、薪が楽しそうに笑う。
 彼が笑ってくれるならこのままでもいいかな、と青木は思う。
 現状維持というぬるま湯の中にどっぷりと浸かりつつ、青木は自分に向けられた薪の笑顔を大脳に焼き付けた。


(おしまい)




(2010.7)


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プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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