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ラストクリスマス

舞台裏の呟きです。
本編には関係ありません。お暇な方は、どうぞ覗いていってください。(^^




***



実はこの話は、わたしのツボ中のツボで。
これまでで一番、萌えたかも。

わたしは4巻の、『青木くんの代わりにプリントを配る薪さん』に惚れたくらいだから、相手の幸せを考えて自分は身を引く、とか、ふたりのデートを画策する、とか、大好物だったりする。
で、自分でやっておいて、悲しくなっちゃって、陰で泣いてたりとか・・・・・大好きだったりして。
バカだなあ、と思うと同時に、健気でかわいいなあ、と思ってしまう。

ぐるぐると色々なことを考えてる薪さんは、結局は青木くんの手を取る勇気が出ないだけで。
鈴木さんのときには、襲い受けだったくせに(笑)
ただ、こんなふうに、若いときにはためらわずにできたことが、年を取ると怖くなってしまうことって、あると思う。
大人になるってことは、強さを身につける反面、臆病にもなることだと思う。



ところで。
雪子さんの結婚相手について、鍵でたくさんコメをいただいて。
なんか、そっちの話のほうが盛り上がってたような(笑)
Kさん、泣かせちゃってゴメンね(^^;
(しかし、どうしてKさんは、あんなに竹内に惚れてくれてるんだろう・・・・・嬉しい反面、詐欺師になったかのような罪悪感が・・・・・(ーー;))

『幸せな薪さん』の時点で、この可能性に気付いていた方、何人かいらっしゃったみたいで。
みなさん、鋭い。
先読みしてくれるってことは、真剣に読んでくれてる証拠だと思う。・・・・・・涙出るほどウレシイ!!(><)



今回のハイライトってわけではないけど、いちばん気に入ってる一文。

『仕事一筋のキャリアウーマンで、当然独身。女だてらに柔道4段の腕前で、やっぱり独身。第九研究室の室長で警察庁一怖いと評判のだれかさんの名をとって、「女薪」とのあだ名があることから、結局独身。』

当然独身、やっぱり独身、結局独身。
うちの雪子さんはこうでなきゃ!(笑)

竹内警視の受難(5)

竹内警視の受難(5)




 再び廊下に出た竹内は、自分たちを取り囲む状況の厳しさを目の当たりにした。美穂を助け出して気が緩みかけていたメンバーに、さっと緊張が走る。
 いまや下方へ降りる階段は、完全に火に埋め尽くされて、来た道を辿ることは不可能だった。玄関からの脱出は、無理だということだ。
 残るは、非常階段と窓。
 高層マンションにおいては、各階に2箇所以上の脱出シュートを備えることが励行されているが、あったとしても何処の部屋に設置されているかわからないし、確認しているヒマもない。少なくとも、美穂たちの部屋にはなかった。
 
「非常階段は?」
「こっちです!」
 非常階段付近は、黒い煙に包まれていた。なんだか、火の音も激しいような気がする。
 そうか、こちらの方角は。

「ちっ。やっぱりこう来たか」
 非常階段は、ちょうど犯人の部屋のすぐ側にあった。鉄骨でできた階段は、1000度を超えた高温に炙られ、ぐにゃりと曲がっている。人間が歩ける形状をしていない。
「お二人の運動神経なら、いけるんじゃないですか?」
「鉄骨は、熱によって強度が下がるんだ。500度で1/2、600度で1/3。1000度でほぼゼロになる。住宅火災の最高温度は約1200度。危険だ」
 命の危険が差し迫っているというのに、薪は憎らしいくらい冷静だ。まったく、見かけによらず豪胆なひとだ。そこがまた、魅力なのだが。

「くっそ……生きて戻れたら、取調べのときに腕の2,3本、折ってやる」
「竹内さん」
 薪に、不穏な発言を聞きとがめられた。どんなときでも、竹内の揚げ足取りは欠かさない人だ。
「腕は2本しかありませんから。もう1本は、足にしてください」
 そこですか。
「上へ逃げるしかありませんね。なるべく火元から離れて。窓際で救助を待ちましょう」
「階段、もうひとつある」
 竹内の背中にしがみついていた美穂が、意外なことを言い出した。
「むかし使ってた階段が、反対側にあるの。こっちから火が出たなら、あっちの階段は大丈夫かも」
「えらい、美穂ちゃん! よく思い出したね」
「ただ、今は使わないように、階段の入り口に三角形のとんがり帽子みたいなのが置いてあって、黄色と黒の縞々の棒が掛かってるの。それを退かさないと」
「青木!」
「はい!ルート確保します!」
 薪が命令しようとしたときには、もう走り出している。走りながら、返事をする。
 この、打てば響くような動き。状況判断の速さ。やっぱり、青木は捜一に向いている。

「青木は使えますね。ますます、欲しくなりました」
「あげませんよ、ぜったいに。あいつは僕のものです」
 竹内から岡部を取り上げておいて、贅沢な。他にも第九には、精鋭が揃っているというのに。まあ、デキのいい部下は何人いてもいいものだが。

 青木の後を追って、走り出そうとしたそのとき。
 突然、轟音と共に廊下の天井が崩れて、火だるまになった梁が落ちてきた。咄嗟に身をかわすが、舞い上がった火の粉は避けきれない。
 美穂を抱きこんで床に伏せ、降り掛かる灼熱の雨を背中で受け止める。ジャケットには細かな穴が開き、髪の毛の焼けるいやな匂いがした。

「大丈夫? 美穂ちゃん」
 震えながらも泣くことはせず、何度も頷く少女に、竹内は胸を撫で下ろす。
 気丈な子だ。将来は、きっといい女になる。それもとびきりの美女に。
 ここで死なせてたまるか。美人の損失は、国家予算を投じても補填できない。
 問題はその方法だが。

 断続的に落ちてくる瓦礫の衝撃に床に伏せたまま、竹内は必死で逃げ道を模索していた。




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

ご紹介です

このお話を読んでくださってるみなさまに、ご紹介です。

K24さんが、うちの設定を使って、薪さんのイラストを描いてくださいました。(//∇//)
現在、トップに飾っていただいてます。
『23日目の秘密~天空の霊園~』の薪さんだそうです。筆者の貧相な想像力を遥かに超えた、芸術的なイラストになってます。
あまりの美しさに、ため息が出ること請け合いです。
ぜひ、ご覧になってください。


URLはこちらです。

最愛の秘密

イラスト中心の、素敵なサイトです。
個人的にはK24さんのひとりごとがツボです。笑えます。
リンクからも飛べますので、ぜひどうぞ!


K24さんのところでは、もうひとつ、うちのお話に関するプロジェクトが進行中、というお話を伺ってます。
こちらは、今回の薪さん以上にありがたいお話で・・・・・・筆者はうれし泣きしております。

K24さん、本当にありがとうございます!しづは幸せ者です!


えっと・・・・・・。
薪さんのイメージイラストを描いていただいたので、こっそりとカミングアウトを。

じじじ、実はですね。
今まで黙ってたんですけど、わたしの薪さんて、原作の薪さんじゃなくて、アニメの薪さんなんですよ。だからうちの薪さんは、亜麻色の髪に亜麻色の瞳で、柔道が強くて部下に対して『バカヤロウ!』なんて怒鳴ったりするんです。(原作の薪さんの髪は亜麻色じゃなくて薄茶色だし、瞳は琥珀色ですよね)

これは、原作よりアニメが好き、とかじゃなくて、原作の薪さんは美しすぎて、動かせなかったんですね。崩したくなかったんです。原作の薪さんは、美しいままでいて欲しいのです。
アニメの薪さんだったら崩れたって平気、っていうかすでに崩れてたから、オヤジ化してもいいや、って。
一人称は『オレ』だし。顔は一昔前の少年アニメみたいだし。この薪さんなら遊べる、って思ったんです。
(アニメファンの方、ごめんなさい!でも、わたしアニメも好きですよ!)

これはあくまでわたしがお話を書く上での脳内変換なので、読んでくださる方はご自分のお好きな薪さんを思い描いていただきたいです。(あ、でも、薪さんのイメージが・・・・・・すいません・・・・・・)

これからも、みなさまの優れた想像力におすがりさせていただきますので、よろしくお願いします。
そして、たまにはキレイなものを見たいわ、と思われましたら、ぜひK24さんのサイトへどうぞ!

竹内警視の受難(4)

 お葬式が終わりました。
 今日は、いただいたコメのお返事をさせていただきます。
 いただいたコメントを読んで、そのお返事を書いてるときが一番楽しいです。(〃▽〃)



竹内警視の受難(4)





 住民たちの確認作業を木下に任せ、3人は薪の後を追った。
 もしも逃げ遅れた人が判明した場合には、大友の携帯に連絡が入ることになっている。見切り発進に近いが、一刻を争うこの状況には、有効な手段だ。
 薪の行き先は分かっている。美穂たちが5階に住んでいる、と言った竹内の言葉を、あの薪が覚えていないはずがない。

「くそっ! 煙がすごい……吸うなよ。一酸化炭素中毒で、あの世行きだぞ」
 出火現場は4階。目的の部屋は5階だから、かなり火の回りが激しいところだ。口元を濡れたハンカチで覆い、身を低くして階段を駆け上る。エレベーターはもちろん使えない。電気系統がいかれて閉じ込められたら、オーブンの中で焼かれるようなものだ。

「竹内さん、木下から連絡ありました。どうやらマンションに残っている住人は、あの母娘だけのようです」
「そうか。よかった。よし、ちゃっちゃと片付けるぞ。俺はこれから大事な用があるんだ」
「いいっすね、竹内さんは。オンナにもてて」
 相手は女性ではないが、女性よりも遥かに竹内のこころを乱す人物だ。ふたりきりではないが、薪の自宅へ招いてもらったのは初めてだ。何があっても逃したくない。
 左隣で身をかがめていた青木が、何となくこちらを睨んだような気がしたのは、気のせいだったろうか。

 大友の誤解を敢えてそのままにして、竹内たちが何とか5階まで登ると、轟々と燃え盛る炎の音に混じって、半狂乱で泣き喚く女性の声が聞こえてきた。
「美穂を! 美穂を助けてください!」
 次いで、どすっ!と何かがぶつかる音。「くそっ!」という聞き慣れた声がして、ドアを蹴り飛ばす音が聞こえてきた。
 声のした部屋に駆け込むと、果たしてそこには薪と美穂の母親がいて、内部屋のドアを破ろうと躍起になっていた。

「大友! 先にお母さんを保護して差し上げろ!」
「美穂っ!」
 自分を娘から遠ざけようとする男の手から逃れようと、母親は必死で身を捩った。気持ちは分かるが、いまは早く避難してもらわないと。
「大丈夫です。美穂ちゃんは、俺が必ず助けます」
 なおも渋る母親を、大友は無理矢理引き摺っていった。
 スポーツ刈りの頭がガテン系の職人を思わせる外見の後輩が、女性の身体を羽交い絞めにして連れ去る姿は、事情を知らない人間が見たら誘拐犯のように見えるに違いない。

 竹内たちが母親の保護に当たっている間に、第九のふたりは子供の救出に力を注いでいた。
「薪さん!」
「部屋の中に、子供がいるんだ。鍵が掛かってて」
 何度か体当たりを繰り返したのだろう。薪は細い肩を押さえていた。
 この部屋に美穂がいる。事情はよく分からないが、何らかの原因で閉じ込められたか、煙を吸って動けなくなったか。
「このドア、破れるか?」
「はい!」
 大きな体躯を武器に力任せにぶつかって、木製の障害物をぶち破ろうと試みる。何度目かの体当たりで、メリメリッという音が響き、ドアが内側に倒れた。

「やるもんですね。青木はやっぱり捜一向きですよ」
「あげませんよ」
 気の抜けた会話とまるでそぐわぬ素早さで、薪と竹内のふたりは部屋の中に飛び込んだ。
 美穂は後ろ手にガムテープで拘束されて、床に転がされていた。口にもガムテープが張ってある。助けを求めることもできなかったわけだ。

「だれがこんな」
「あの強盗犯です。母親の証言が取れてます。母親は、キッチンのテーブルの足に縛られてました。美穂ちゃんを部屋に閉じ込めて外から鍵をかけ、鍵は窓から放り投げたそうです」
 子供部屋の場合は、外から鍵が開けられるように、両側から施錠開閉ができるタイプのドアが主流だ。今回はそれが裏目に出た。
「そうなの? 美穂ちゃん。あのお兄ちゃんだった?」
 ガムテープの痕がひりひりするのか、美穂は細い手首をさすりながら、こくりと頷いた。
 彼女の証言によって追い込まれた犯人が、腹いせにこんな真似をしたのか。このまま放置して、焼け死ぬように仕向けるなんて。こんな子供に、なんて残酷なことを。
 最初の被害者も、放置の結果死亡した。初犯とはいえ、もう同情の余地はない。いっそトランクに入れたまま署まで運んで、いや、車ごと海に落としてやりたいくらいだ。

「美穂ちゃん、落ち着いてね。おうちが火事になったんだよ。俺たちと一緒に、ここから逃げるんだ」
 犯人に対する怒りは一旦、胸にしまって、今は無事に脱出することだ。この子を守らなければ。
 部屋に入り込んできた煙や匂いから、美穂は状況を把握していたらしい。竹内の言葉に取り乱すこともなく、くりっとした愛らしい目を瞠って、神妙に頷いた。
 母親より、よほど落ち着いている。今時の子供は大したものだ。

「さ、急いで」
 薪が差し出した手を、美穂は何故か振り払った。両手で竹内の腕を、ぎゅっと抱きしめるように身を寄せてくる。
 もしかして、誤解している……?
 まだ、薪のことを女性だと思っているのだろうか。薪の声は中高音のアルトで、女性の声に聞こえないこともないが。
 あの時は夜目の遠目と慰めることもできたが、今のこれは、ええと……。

 美穂を負ぶって、竹内は立ち上がった。
 恐る恐る横を見ると、薪は微笑んでいた。子供が無事でよかった、とホッとしている顔だ。さすがにこの状況では、自分の容姿のことを誤解されたくらいで、怒ったりはしないか。
 歩きながら、薪は自分の肩を押さえている。痛むのだろうか。
「室長。肩、大丈夫ですか?」
「平気だ」
 何でもないような顔をして見せるが、微かに眉がしかめられている。きっと内出血で、熱を持っているに違いない。そんな華奢な身体で、ドアに体当たりなんかするからだ。まったく、薪の勇ましさにはハラハラさせられる。
「あれ? 薪さん。空手二段じゃ」
 それは竹内も疑問に思っていた。空手の有段者なら、ドアを蹴破るくらい、簡単ではないのか。
「僕のは型空手で、実際にドアを破ったりはできない。もともと取調べのときに、容疑者に舐められないようにと思って習い始めただけだから」
 なるほど。
 たしかに容疑者を脅すだけの目的なら、型空手で充分なわけだ。

「なんだ、やっぱり薪さんて非力、っ!」
 ビュッと風を切って、青木の右頬3センチの場所に、華奢な拳が打ち込まれる。型空手とはいえ、そのスピードと威力はなかなかのものだ。
「人間の鼻くらいなら、折れるぞ」
「すいません……」
「じゃれあってる場合か! 早く逃げるぞ!」

 背中に背負った少女が、驚いたような声をあげた。
「あのひと、本当に男のひとなんだ」
「そうだよ」
「なんだあ。てっきり、誠さんはあの人のことが好きなのかと……誤解してごめんなさい」
 それは誤解ではない。

 美穂は、自分に微笑みかけた竹内の顔に、うっとりしたような声で言った。
「誠さん。美穂ね、昨夜誠さんの夢を見たのよ。美穂がきれいなお嫁さんになって、誠さんと結婚するの」
「はいはい。ここから無事に逃げられたら、結婚でもなんでもしてあげるからね」
 いまひとつ緊迫感のない会話に、竹内はため息を吐いた。



*****


 実は、この型空手というのを甥が習ってます。
 見た目だけはすごいんですけど、板は割れないそうです。
 見掛け倒しのうちの薪さんにはぴったりです。(笑)


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

リクエストありがとうございました

みなさま、たくさんのリクエスト、誠にありがとうございました!

そして、4000拍手、ありがとうございました!!
さらに、5000hit、ありがとうございました!(間違ってきてしまった方、特に『柔道二段』のキーワードで来てしまった方、ごめんなさい・・・・・(笑))

6月14日にブログを始めて3ヶ月。
こんなにたくさんのご好意をいただきまして、ありがたくてありがたくて、それに応えきれない自分の拙さが申し訳なくて・・・・・・情けなくも嬉しくて、泣きそうです。(;∇;)


前回のリクエストは、締め切りとさせていただきます。
(もう、期限のことはスルーで・・・・・下等生物のアメーバーにひとの心なんか期待しちゃいけませんぜ、だんな・・・・・・って、ぐえええ!薪さん、首絞めないで、マジで死ぬから!)
すいません、すいません、すいません!(←みーちゃんから借りっぱなし)
お約束を守れず、申し訳ありません!(><)



開票結果ですが。

筆者の勝手な都合で、まとめ集計とさせていただきます。
(お話を作る上で、ひとつのエピソードに入れた方がいい、と思うものをひとくくりにします)

1.捜一時代の薪さん     5票
2.薪さんが鈴木さんに振られる過去+イタエロイ薪さん+鈴木さんとの幸せなH     8票
3.スナック女装+王様ゲーム+浮気した薪さんが青木くんに責められるR系       29票
4.薪さんに猛烈なアタックをする男が現れる        11票
5.岡部さんの恋話       4票

ということで、3000拍手のお礼は、3の『スナック女装』に決定しました。(^^
続いて、4000拍手のお礼は、4の『薪さんに猛烈アタック』・・・・・・これは、オリキャラ作りから始めないといけませんね(^^;
かなり、お時間をいただくことになるかと思います。気長にお待ちください。

それにしても、投票フォームって、便利ですね。手軽だし、無記名でいいし・・・・
と思ったら、すぎやまださんがコメにご自分のお名前を残してらっしゃって、爆笑しました(^∇^)
すぎさんのこういうところが、好きなんだあ(^^)←さらっと告ってみた。




今の『ラストクリスマス』が終わったら、2000拍手のお礼の『竹内警視の受難』を。
次に、3000拍手のお礼の『ナルシストの掟』というお話を。

順次アップしていきますので、みなさまに受け取っていただけましたら、望外の喜びです。

みなさま、本当にありがとうございました!!

竹内警視の受難(3)

 ちょっと私信です。
 鍵拍手いただきました、かのんさん。(←鍵の意味ない(笑)
 はい、その通りです! また見抜かれちゃいました。相変わらず鋭いです!(>▽<)


竹内警視の受難(3)




「すみません、室長」
 思いがけず、長い寄り道になってしまったことを謝りながら駆け寄ると、薪が氷のような無表情になっている。薪がこの表情になるときは、めちゃめちゃ機嫌が悪いのだ。
 さっきまでは、ちょっと不機嫌ないつもの顔だったのに。どうやら美穂との会話は、薪に聞かれていたらしい。

「竹内さん、さすが女性キラーですね。あんな幼い子にまでモテるなんて」
「冗談よせよ。あの子は、そのマンションの5階に住んでてさ。こないだ聞き込みに行ったときに知り合ったんだよ」
「そうなんですか? 誠さん、なんて呼ばせてるから、てっきりあれが新しい彼女かと」
「俺はロリコンかよ! ってか、犯罪だろ、それ!」
 青木がわざとおかしな冗談を言って場を和ませようとしているのがわかったので、少々大げさに突っ込んでみる。そっと薪のほうを伺うと、いくらか気配がやわらかくなっている。
 白磁のような頬を緩め、寒さの中でも艶やかさを失わないくちびるを、まるで薄ピンクの山茶花が咲き初めるように開き、連なった真珠を覗かせる。
 うっとりするような光景なのに、出てくる言葉は辛辣だ。

「どうせ、目当ては母親の方でしょう」
 薪の悪意に満ちたセリフには、すっかり慣れた。まるっきり無視されるより、嫌味でも皮肉でも、会話をしてもらえるだけマシだ。
「俺は、不倫なんかしませんよ。監査課に目をつけられるような真似はしません」
「それじゃ、本当に娘のほうと? 女と見れば、子供でも口説くんですね」
 ……違います、薪室長……。

「監査課って、そんなにすごいんですか? 不倫とかも、すぐに解っちゃったりするんですか?」
「すごいなんてもんじゃないよ。あいつら、全員諜報部員で構成されてるんだぜ。不倫どころか、自分の奥さんと週に何回セックスしてるかまで、全部わかっちまうよ」
 青木があまり不安そうな顔で尋ねるので、思わず大げさなことを言ってしまった。こいつは年の割りに初々しいところが可愛くて、ついつい構いたくなるのだ。

「「本当に!?」」
 竹内のジョークを聞いた二人の声が重なる。
 ……どうして、薪まで反応しているのだろう。
「そっか、それでか。そうだよな、そうとしか考えられない。ずっと不思議だったんだ。なるほど、諜報部員か」
 なにやら納得しているようだが、身に覚えがあるのだろうか。

「あの、冗談で」
 薪はぶつぶつ言いながら、ふと立ち止まった。コートのポケットに手を入れたまま、後ろを振り向く。
 その視線が竹内を通り越して、長身の部下に注がれた。つられて竹内も後ろを向く。
 歩き続ける薪の背中についていたのは、いつの間にか竹内ひとりだった。青木はずっと後ろの方にいて、自分が歩いてきた道を見つめていた。
 いや、見つめているのは、空だ。

「どうした、青木」
「あれ、煙じゃないですか?」
「ほんとだ。夜だから見えにくいけど……っ、あの方角って!」
 竹内が火災現場の可能性に思い至ったとき、隣を小さな人影が走り抜けていった。疾走する小柄な人物を追いかけて、青木も後に続く。竹内も慌てて後を追った。

 薪は足が速い。荷物を持っていない分、身軽なのかもしれないが、それにしても速い。しかもペースが落ちない。毎日、警視庁のジムで走りこんでいるだけのことはある。
 それにぴったりと、青木がついて行く。最近は剣道の腕前も上がってきたと岡部が言っていたが、基礎体力のほうもばっちりらしい。なるほど、射撃の腕も上がるはずだ。発砲の反動に耐えうる強靭さを、身につけつつあるわけだ。

 現場へ走りながら、竹内はどうしてこいつは彼女を作らないんだろう、と疑問に思う。
 年も若いし、見た目も悪くない。キャリアだし、穏やかで明るい性格だから、女子職員の間でも評判がいい。実際、青木との仲を取り持って欲しい、という話も何件か来ている。本人が興味を示さないので、一度も会わせたことはないが。
 だれか、こころに決めた女性がいるのだろうか。三好雪子以外の女性が、青木の周りにいる様子はないのだが、やはり彼女が……いや、違う。どんな理由があっても、大切な女性をクリスマスディナーの席にひとり残して立ち去ったりするはずがない。

 などと、呑気なことを考えている場合ではなかった。
 嫌な予感は的中し、竹内の後輩が張り込みをしていたマンションは、激しい焔に包まれていた。
 先刻の、安穏とした風景が信じられない。
 燃え盛る炎は、哄笑を響かせる悪魔の舌のように暗闇に踊り狂い、人々の悲鳴や嘆き声がその饗宴に絶望を添えていた。火のはぜる音とバキッと何かが折れる音、ガラガラと重いものが崩れる音。
 この火の回り方は、尋常ではない。ガソリンか何かを撒いて、意図的に火を点けたのではないか。

「大友! どうしたんだ、これは」
「マルヒの部屋から急に火が出て。火事の混乱に乗じて逃げようとしていたところを、確保しました。消防には連絡済みです」
 容疑者の部屋は4階。火の元はマンションの西側だ。
「住民の避難は? 怪我人は?」
「今日はたまたま公民館で集会をやってて、住民は20人ほどしか残っていなかったそうです。木下が、いま人数を確認しています」
 大友の視線の先を見ると、木下が集会の責任者に連絡を取り、火災のことを伝え、マンションに残っているはずの住民の名前を聞いて、書き出している。そのリストができたら、中庭に避難している人々と照合を取る。逃げ遅れた住人が居ないといいのだが。

「犯人はどうした?」
「手錠掛けて、車のトランクに押し込んどきました」
「トランクっておまえ」
「だって、非常事態だし。逃げられたら困るし」
「……よくやった」
 竹内でもそうしただろう。こいつも機転が利くようになった。
「すいません、竹内さん。リストができたところから照合作業をしますんで、手伝ってもらえますか?」
「わかった。おい、青木、おまえも――ちょっと、待て!!」
 エントランスから中へ入っていこうとする青木の腕を掴み、竹内は彼を引き戻した。こいつが無茶なことをするのは知っているが、この火災の中に飛び込むのは自殺行為だ。

「放してください! 薪さんが、中にっ!」
「なんだって!?」
 こいつも無茶だが、上司はもっと無茶だ。第九は無鉄砲野郎の集団か。
「どうしたんすか?」
「薪室長が中に入って行ったって!」
「なんで!?」
「分かんないです。避難した人たちに、逃げ遅れたひとがいないかどうか、聞いてたんですけど」
「誰か、逃げ遅れた人がいたのか?」
「いいえ、みなさんパニック状態で、とても話が聞ける状態じゃなくて」

 竹内は中庭に身を寄せ合っている人々の顔ぶれを、ざっと見渡した。そして瞬時に理解する。薪がどこへ向かったのか。

「美穂ちゃんたちがいない!」




*****

 楽しいすき焼きパーティは、どこへ行ったんでしょう(笑)


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竹内警視の受難(2)

 すいません、コメレス遅れてます。
 近所にお葬式ができてしまいまして、お手伝いに行かないといけないのです。 田舎の定めです。しかも今年は班長だったりする。(^^;
 月曜日にはお返しできると思いますので、申し訳ありませんが、どうかご了承ください。m(_)m
(記事の方は下書済みなので、予約投稿でアップします)



竹内警視の受難(2)





 目的のマンションは、7階建ての建物だった。
 1階がエントランスになっており、地下に駐車場がある。建物の外壁はベージュ。周囲は低い塀で囲まれ、垣根の緑がそれを覆っている。ごくごくありふれた、中等級のマンションだ。
 そのエントランスが見える位置で、しかも木の陰になって目立たない場所に停められた一台の車に、竹内は近付いていく。
 見張っているマンション以上にありふれたセダン。闇に隠れやすいように、当然、色は黒だ。

 竹内がコンコンと窓を叩くと、車の窓が開いて、後輩の大友が顔を覗かせた。スーパーの袋を渡してやって、職務に邁進する後輩に労いの言葉をかける。
「ごくろうさん。ほら、差し入れ」
「ありがとうございます、竹内さん」
「こっちの栄養ドリンクとシリアルバーは、薪室長から」
「え、なんで?」
 第九と捜一の因縁を知っている大友は、不思議そうに竹内を見た。
 ドリンクを買い物カゴに入れたのは青木だが、お金を払ったのは薪だった。何やらコソコソと言い争いをしているように見えたが、レジで財布を出そうとした青木の手をピシャリと叩き、ムッとした顔で支払いを済ませていた。

「一緒だったんすか?薪室長と?」
「偶然。そこのスーパーで会ったんだ」
「へえ。薪室長も、スーパーで買い物なんかするんですね」
「そりゃ、するだろ。後でちゃんと、礼を言っておけよ」
 竹内がそう言って車を離れると、大友は窓から首だけを出して、電信柱の陰に隠れるように立っている第九の凸凹コンビの方に頭を下げた。人目についてはいけないから、ここは会釈だけでいい。

 竹内は、軽く走って薪たちの方へ寄っていき、すいませんでした、と声をかけた。
 薪は軽く頷いて、先に立って歩き始めた。細身のトレンチコートの背中を追って、荷物を両手に持たされた青木がついていく。竹内は青木から荷物の半分を受け取ると、青木に並んで歩き始めた。
 薪のマンションへは、ここから徒歩で20分くらい。住所はとっくの昔にチェック済みだが、もちろんそんな素振りは見せない。
 薪は両手をコートのポケットに入れて、肩を竦めている。寒さに弱いのか、そんな姿も愛くるしい。
 ……本当は、竹内を自宅に招く羽目になったことに腹を立てて、肩を怒らせているだけなのだが。世の中には、知らぬが仏という言葉もある。

「誠さん!」
 突然、甲高い声に名前を呼ばれて、竹内はびっくりする。
 声のした方向を見ると、マンションの地下駐車場から表に出てきた親子連れが目に入った。
 このマンションの住人で、先日の聞き込みに協力してくれた母娘だ。母親の名前は忘れてしまったが、娘の名は――。
「やあ、美穂ちゃん。この前はありがとう。おかげで助かったよ」

 竹内たちがいま追っているのは、西荻窪で起きた宝石店強盗殺人事件。
 犯人は夜更けに店を訪れ、ひとり暮らしの店主を刃物で脅し、何点かの宝石を奪おうとした。が、店主に反撃され、苦し紛れに振り回したナイフが相手の胸に刺さってしまった。故意ではなかったのかも知れないが、彼は逃走した。そのままにしておけば、相手が死ぬかもしれないのを分かっていて逃げたのだ。
 結局、店主は出血多量で亡くなった。
 証拠品をあちこちに残していることから、犯人が犯罪に慣れていないこと、宝石が盗まれていないことから、自分のしたことが恐ろしくなって逃げたのだということは容易に察せられたが、だからと言って罪が軽くなるわけではない。これは、殺人事件だ。

 近隣の聞き込みを始めて2日目。竹内たちはこのマンションにやってきた。
 そして、この少女の証言から、竹内はこのマンションの4階に住む男が犯人であるとの確信を持った。美穂は、塾の帰りに被疑者の姿を目撃していたのだ。
 子供の言うことだからと、課長は彼女の証言に懐疑的だが、美穂はとてもしっかりした娘で、その記憶力も観察眼も素晴らしかった。

「塾の帰り? 大変だね」
「うん。誠さんは? 今日はお仕事じゃないの?」
「今日はお休み。あのお兄さんたちと一緒に、お酒を飲みに行くんだよ」
「……あの女のひと、彼女?」
「え?」
 いくらか険を含んだ少女の視線を追うと、10メートルほど離れた場所に立ってこちらを見ている薪の姿があった。寄り道の時間が長引いたことに腹を立てているのか、とても苛立った様子だ。
 が、美穂のいう「女のひと」の姿はどこにもない。

 またか、と竹内は思う。
 美穂の眼は、明らかに薪を見ている。確かに、コートで体の線が隠れると、薪は女性と言っても通用してしまう。しかし、これが聞こえたら確実に薪の不興を買う。
 薪は、自分の性別を間違えられることを嫌う――― まあ、当たり前の反応だが。

「美穂ちゃん。あのひとは、男のひとだよ。俺の友だちなんだ」
「ウソお!」
 頼むから、声を抑えて欲しい。それでなくても子供の声というのは、よく響くものだ。
「美穂。ご迷惑よ。竹内さんのお友だち、お待たせしちゃいけないわ」
「はあい。またね、誠さん」
 母親の気遣いがありがたい。竹内は母親に会釈をし、美穂に手を振って、その場を離れた。



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ジャンル : 小説・文学

竹内警視の受難(1)

 遅くなりましたが、2000拍手のお礼です。

 竹内が主役の特別編です。
 彼の報われない人生に幸あれ。(笑)



 ご要望により、今回よりこちらに本文を書くことにします。
(鍵付きのお話に関しましては、これまでどおり『つづき』からお願いします。)
 わたしのSSは異常なくらいに長いため、なるべく読みやすくしたいと考えておりますので、こういうご指摘はとてもありがたいです。
 その他、読みづらい点等ありましたら、ご遠慮なくどうぞ!

 あ、文章自体が読みづらいですか。
 そうですか……。





竹内警視の受難(1)






 夜の9時を回ったスーパーマーケットは、買い物客もまばらで、閑散としている。活気のない店内で、しかしその分ゆっくりと、薪は商品を選んでいた。
 
 昔から歓楽街が少なく、夜の早い街として有名だった吉祥寺には、深夜営業の店はとても少ない。薪が住んでいるマンションの近くで夜の10時まで開いているスーパーは、ここ一軒しかない。
 何十年か前までは、24時間営業のスーパーは珍しくなかったと聞く。しかし、2062年の現代においては、エコロジーの観点から、真夜中まで営業する店舗は減少してきている。
 地球の資源が限りあるものだ、という当たり前のことに人類が気付いてから100年あまり。その事実によって促されるべき行動が端部にまで及んできたのは、つい最近の話だ。

「ネギと白菜、白滝に焼き豆腐に、あ、青木、シイタケはだめだ。岡部がキライだから」
「じゃ、人参も省きましょうよ」
「なに言ってんだ。すき焼きに人参は欠かせないだろ」
 これはもちろん、青木に対する意地悪だ。
 普通、入れないと思いますけど、と口の中で呟いて、青木はシイタケのトレーを棚に戻した。代わりにエリンギのパックを取って、カゴの中に入れる。

「明日の朝のサラダにも使うし」
「わかりましたよ」
 薪に促されて、青木は渋々オレンジ色の根菜を手に取る。
 青木の嫌いな人参と、薪の好きな黄色いパプリカ。アスパラガスにブロッコリー。何も言わなくても自分の好物がカゴに入ることに、薪は満足そうな笑みを浮かべる。

「後は、すき焼き用の肉だな。800じゃ足りないよな。1キロ買うか」
「そうですね。お給料出たばかりだし」
 薪ひとりなら200グラムもあれば充分だが、青木も岡部も、とにかくよく食べる。前のときは800グラムで足りなかった。

「あれ? 薪室長」
 食後のデザートにと、イチゴのパックを手にしたとき、嫌な声を聞いた。
 聞こえなかった振りをして、精肉売り場の方へ行こうとする。それを青木のバカが、いりもしない返事を返して、薪は仕方なく足を止めた。
 いやいや振り返ると、思ったとおり、不愉快な人物がそこに立っている。
 薪の天敵、竹内誠警視だ。

「こんばんは。買い物ですか?」
「……ええ」
 無愛想に会釈でその場を離れようとするが、青木と竹内は仲がいい。買い物で一緒になった近所の主婦同士のように、買い物カゴを片手に喋り始めてしまった。

「なんでおまえ、室長といっしょなの?」
「今から岡部さんと、3人で飲み会なんです。竹内さんは?」
「この近くで張り込みやってて。夜食買いに来たんだ。この辺て、コンビニないんだな」
 確かに竹内の出で立ちは、スーパーに買い物に来る人間のものではない。
 黒い光沢のある皮のジャケットに、胸の開いたインナー。幅広のベルトとジーンズは、やはり黒。靴は爪先が細い流行のもので、あの飾りの形はイタリアの有名ブランドだ。
 上から下まで黒で固めて、首には細かい黒曜石をつなげたネックレスをつけている。ペンダントトップは、金色の小さな長方形のプレート。刻印が読み取れるから、たぶん24金。

 ……チャラつきやがって。
 まるでファッション雑誌から抜け出してきたような竹内の服装に、薪は心の中で唾を吐く。
 薪だって出かけるときにはおしゃれを楽しむが、張り込みのときにこんな格好はしない。TPOを解しない人間は、好きになれない。

「ご苦労さまです。コンビニだったら、駅の近くにありますよ」
「パンと牛乳さえ手に入れば、どこだっていいんだ」
 そんなどうでもいい会話は早いところ切り上げて、さっさと肉を買いに行こう。喉まで出かかったセリフを、ため息と共に噛み殺す。
 薪は、この竹内という男が嫌いだ。なぜ嫌いかと言うと。

「このカゴの内容からすると、今日はすき焼きだな? いいなあ。俺、一人暮らしだから。すき焼きなんて、もう何年も食べてないよ」
「またまた。彼女に作ってもらってるくせに」
「この頃、あんまり女運良くなくてさ。金が掛かる女ばっかりだよ。いつも外食」
「あれ? 夏のころに、彼女に弁当作ってもらったって言ってませんでした?」
「いつの話してんだよ。その彼女から、今はもう4人目だよ」
 こういうところだ。

 竹内は、俳優と言われれば信じてしまいそうな美形で、都会的なセンスの持ち主だ。
 やや細めの眉とその下の涼しげな瞳。奥二重だが、そのぶんやさしく見える。黒目の部分が大きくて、一見誠実そうな印象を受ける。日本人にしては高い鼻。男のフェロモンを漂わせる、頬の削げ具合。適度な丸みを持ったシャープな顎。くちびるは理想的な厚さと形で、口角に締りがある。
 ところどころふわりと浮く焦茶色の髪は、計算された無造作ヘア。薪と3つしか違わないくせに、今時の若者みたいな頭をしている。左に流した前髪が長いのも、襟足が長いのも気に食わない。警察官ならきちんとするべきだ。彼の向かいで笑っている、薪の部下のように。
 身長は青木より低いが、それでも薪よりは10センチ以上高い。逞しいという体躯ではなく、スマートだが筋肉がついている、という感じだ。
 一番気にいらないのは、その日本人離れした足の長さで、身長は薪と10センチしか変わらなくても、股下は20センチくらい違うような……くっそ、柔道は体の重心が低い方が有利なんだ。別に、足の長さで人間の価値が決まるわけじゃない。

 この顔でこのスタイルで、京大出のエリートで、しかも警視庁の花形部署、捜査一課のエース。女性がなびく要素がてんこ盛りだ。
 薪もそれは認めているが、次々と付き合う女性を変えるという、その恋愛スタイルが許せない。もともと、恋愛ゲームを楽しむような人間は好きになれない。決して、自分よりも女にもてる竹内をやっかんでいるわけではない、と薪は心の中で叫んだ。

「すごいですね。半年で4人ですか。オレにはとても真似できません」
 まあ、青木にはムリだろう。
 容姿の違いもさることながら、青木の性格は一途でしつこくて。一人の女性を何年でも思い続けられるタイプだ。
「なんだ、青木。おまえ、まだ彼女できないのか。紹介してやろうか?」
 余計なことをしなくていい! こいつは……。
「竹内さん」
 薪の呼びかけに、竹内が「はい」と応えを返した。
 失敗した。口を挟むつもりはなかったのに。
 竹内がおかしなことを言うから、つい……別に、おかしくないか。彼女のいない男友だちに、知り合いの女性を紹介する。ごく普通のことだ。

「お仲間が張り込み中なんでしょう? いいんですか、こんなところで油売ってて」
 口調が剣呑なのは、いつものことだ。竹内のお節介に、腹を立てているわけではない。
「そうですね。早く行ってやらないと。失礼します」
 竹内はにこりと微笑むと、薪に軽く頭を下げた。
 昔は薪がこういうことを言うと、第九の引きこもりには現場の辛さは分からないだろうとか、逆にじっとしているのが得意な第九こそ張り込みの仕事をするべきだとか、こちらの神経を逆撫でするようなセリフを嫌味な口調で言ってきたのだが、ここ1年ばかりで、竹内は態度を改めている。
 しかし、薪にはその謙虚さすら面白くない。

 うさんくさい。バカにされている。
 心の中では嘲笑っているくせに、態度だけはしおらしくして。騙されてたまるか。
 とにかく、気に食わない。

 薪は不機嫌な顔で、もうひとつ意地悪を重ねた。こういうムカついた気分の時には、意地悪を言うと気が晴れるのだ。
「残念ですね。竹内さんがお暇でしたら、うちにお誘いしたのに」
「え?」
「今日は冷えますから。鍋を囲んで日本酒で一杯、と思って、いい酒も用意したんです。竹内さんとご一緒できたら、楽しい飲み会になったでしょうに」
「本当ですか?」
「ええ。歓迎しますよ。ああ、でも職務中じゃ仕方ないですね」

 自分たちがパンと牛乳の食事で張り込みをしなければならないときに、こちらは温かい部屋の中で、すき焼きと熱燗。
 ザマーミロ。せいぜい、悔しがるといい。

「伺います!」
「……は?」
「張り込みをしているのは、大友と木下です。俺は今日は非番なんです。差し入れだけしてやろうと思って、出てきたんですよ」
 うれしいなあ、薪室長に誘っていただけるなんて、と心にもないセリフを言って、竹内はパン売り場に歩いていった。思いついたように振り返って、張り込みの現場は薪の自宅への道の途中にあるので、そこにちょっと寄り道して下さい、とにこやかに笑う。

「いや、あの、ちょっ……!」
「薪さん」
 なんだ、と荷物持ちに連れてきた部下に目を向ける。
 青木は呆れ果てた顔で口をへの字に曲げると、軽く嘆息した。
「お肉、1キロじゃ足りないかも、って、痛ったあ!」
 目に付いた足に蹴りを入れて、薪はさっさと歩き出す。
 竹内が来るなら、牛肉は止めて豚肉にしてやろうか。いっそモツ鍋に……くそ!腹の立つ!

「なんでオレを蹴るんですか、もう!」
 青木は不満げな声を洩らしながら、薪の後ろを付いてくる。
 理不尽な八つ当たりを受けた部下の情けない声を聞いたら、少し気分が良くなった。

 それでも、アメリカ牛だな。

 肉の等級をワンランク落とすことで、招かざる客に対する憤懣に折り合いをつける薪だった。



*****


 自分の意地悪で墓穴を掘るお子ちゃま薪さん。(笑)
 果てしなくアホっすね☆


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ラストクリスマス~あとがき~

 このたびは、うちのオカドチガイ男爵(←わんすけさん命名)の誕生日にお付き合いくださいまして、誠にありがとうございました。


 今回は薪さんの誕生日のお話でした。
 青木くんに誘われて、ニヤケまくりの薪さん。書いてて楽しかったです。(^^
 そして、いつもの袋小路思考と暴走。
 結局は雪子さんにしてやられて、青木くんと雪子さんをくっつける計画はおじゃんです。青木くんに落ちる一歩手前の、最後の悪あがきってところですね。


 作中の、
『オレの望みは、薪さんが昔の写真にあるような顔で笑ってくれることです』
 青木くんのこのセリフは、唯一、わたしが原作の薪さんに望むことです。

 昔のあの笑顔を取り戻して欲しい。どんな方法でもいいから、自分の幸せを諦めることなく、前に向かって歩いていって欲しいのです。
 見るのも辛いシーンでしたが、10月号の雪子さんとのやり取りで、薪さんが一歩でも前に進めたなら。あの涙は流す意味があったのだ、と……そう思いたいです。


 さて、次のお話は、少々本編から外れまして。
 2000拍手のお礼SSです。
 かのんさんにリクエストいただきました、不憫な竹内のお話です。
(リクエストをいただいたのはだいぶ前なのですが、時系列的にここに入るので、公開を遅らせていました。ご了承願います)

 竹内はオリキャラなんですが、なぜか異様に気に入ってくださった方がいらっしゃいまして。作者としてはうれしい限りです。
 彼女には雪子さんとの結婚話に泣かれてしまいましたが、産みの親にしてみれば、それはとても嬉しいことなのです。そこまで惚れてくださるなんて、と感激いたしました。

 
 この世界で一番報われない男、竹内の不憫な様子をご笑覧いただけましたら幸いです。



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ラストクリスマス(6)

ラストクリスマス(6)




 軽やかな電子音が響き、薪に来訪者の存在を告げる。

 エントランスのドアを解除した覚えはないから、これは管理人の馴染みだ。つまり、岡部かあいつだ。でも、後者はない。だって、青木は雪子さんと食事中――――。
 不安に駆られて、インターホンについたカメラの画を見る。いやな予感は的中し、マヌケ面をした長身の男がそこに映っていた。

「薪さん。オレです。開けてくださ、あ、よかった、いてくれて、って痛っあ!」
 ドアを開けると同時に、薪は青木の向こう脛を蹴り飛ばした。
「なにするんですか、もう」
「それはこっちのセリフだ! 何してるんだ、こんなところに来て。雪子さんはどうしたんだ?」
「三好先生なら、二人分のフルコースを食べてます」
「レストランに女性をひとりで置いてきたのか!? なんてことするんだ、おまえは! 雪子さんの気持ちを考えなかったのか!」

 ドア口で怒鳴っていたら、同じマンションの住人が廊下を歩いてくるのが見えた。
 いくら完全防音が売りのマンションでも、廊下はその対象外だ。ここで騒ぐのは迷惑だ。
 薪は細い顎をしゃくって、青木に中に入るよう促すと、自分は靴を脱いで部屋に上がった。青木は玄関に立たせたまま、自分は一段高い床の上で、それでも自分より青木の顔が高いところにあるのがシャクに障る。

「薪さん。これ、お土産です。薪さんが入れてくれたワイン。とっても美味しかったから、1本買ってきちゃいました」
 能天気な顔で、きれいにラッピングされたワインを差し出す。リボンを止めているハート型のシールには、Xmasではなく、Happy Birthday の文字。
 薪はそれを受け取ろうとはせず、腕組みをして青木を睨み据えた。

「おまえな。レストランに残された女性が、周りからどんな目で見られて嫌な思いをするか、想像して」
「オレの気持ちはどうなるんですか」
 薪の言葉を遮るように、青木は言った。
「オレの気持ちは、考えてくれないんですか。オレはあなた以外は見えないって、何度も言ってるじゃないですか。それなのに、三好先生とふたりきりの夕食をセッティングするって、どういうことですか」
 普段なら、青木は絶対に薪の言葉を遮ったりしない。どんなに耳が痛いことでも、あるいはどれだけ理不尽なイジワルでも、にこにこしながら聞いている。
 それが、こんなふうに言い募るのは……青木の父親が亡くなったとき以来だ。

「薪さん。オレのこと、キライじゃないですよね。休日に、何度もふたりで出掛けましたよね。オレがキライだったら、そんなことしないでしょう?」
 嫌いじゃない。
 きらいじゃないから、困ってるんじゃないか。

「じゃあ、正直に言うけど。僕はおまえとは友だちでいたい。おまえとセックスするところなんか、想像できないんだ。だから、そういう関係を望んでるなら、僕のことは諦めろ」
 今まで何度も何度も断り続けてきたけれど、ここまで具体的な拒絶の言葉を告げたのは、初めてかもしれない。
 僕には鈴木がいるから、とか、僕は鈴木のものだから、なんて死んだ人間を引き合いに出す断り方は、もう卑怯だと思った。そんな言い方じゃ、こいつは僕を諦めない。

 ……諦めて欲しくなかったのか?
 いや、そんなことはない。そんなことはないけど、でも。
 言ってしまった後の、この焦燥感はなんだ?どうしてこんなに不安になるんだ?
 これで決定的にこいつが僕から離れてしまうと思ったら、泣き出したくなるほど辛いのは何故だ――――?

「いいです、友だちで」
「へっ……?」
「友だちでいいです。薪さんのそばにいられるなら、それでもいいです」
 またこいつは、きれいごとばかり言いやがって。男の欲望ってのは、そんなに純粋なもんじゃない。
「おまえの望みは、そうじゃないんだろ?」
「オレの望み、ですか?」
 薪の頭上10センチの空間で、青木が首を傾げる。メガネの奥の子犬のような瞳が、ふわりと笑った。
 
「オレの望みは、薪さんが昔の写真にあるような顔で、笑ってくれることです」

 屈託のない笑顔に、薪の心臓がとくりと高鳴る。

 だめだ。
 抱きしめたくなるくらい、こいつが愛おしい。

 こいつの真っ直ぐな愛情に貫かれるのが、震えるほどうれしい。
 流される。
 抑えが効かなくなる。
 これ以上、こいつの顔を見ていることは、危険だ。

「笑えばいいんだな? 望みを叶えてやるから、レストランに戻れ。雪子さんを家まで送ってくれ」
 くちびるの端を吊り上げて、微笑みの形を作る。
 作り慣れた営業スマイル。どんなに心が乱れていても、笑顔の一つも作れなければ、第九の室長は務まらない。
「あの写真には、ほど遠いですね」
 薪の完璧な作り笑顔を受けて、青木は苦笑した。
「三好先生が言ってました。薪さんは余計な事を考えすぎるんだって。笑顔の秘訣は、考えても仕方のないことは、考えないことですよ。オレはいつもそうしてます」

 薪の両肩に、青木の手が置かれる。
 黒曜石の瞳が、琥珀の瞳を捕らえる。瞬くようなきらめきが、自分へ向かう想いの熱を、薪に悟らせる。
「オレはまだまだ未熟ですけど。きっといつか、あの写真みたいな笑顔をあなたに取り戻してあげ」
「いいから、早く行け!」

 突き飛ばすように、青木をドアの外に追い出す。顔を伏せたままドアを閉めて、背中で扉ごしに青木の気配を探る。
 見えなくてもわかる。
 青木はちょっと困ったような顔をして、ドアを見ている。僕がこうしてドアのこちら側で青木の気配を感じているように、青木も僕の背中を見ている。
 ドアは僕たちの間にあって、でもまるで鏡のように、お互いの姿を映し出す。

 冗談じゃない。
 胸のうちまで見透かされてたまるか。

 薪はドアから離れた。
 完全防音の部屋には、廊下の音は一切聞こえない。青木が歩く足音も、階段を下りていく音も。
「ったく。正真正銘のバカだな」

 さっきまでの哀しい気分が、ウソのように消えている。一回りも年下の若造に、こうまで感情を操られるなんて。

 友だちでいいと青木は言ったけど。
 たぶん、それは無理だと思う。
 それはお互い分かっている。僕たちは友だちになるには価値観が違いすぎるし、考え方も違う。
 何より、僕も青木も、それを本心から望んでいない。
 このままいくと、そこに辿りついてしまう予感はある。が、そうなってしまったら……。

 答えの出ない堂々巡りに再び陥りそうになって、薪は慌ててかぶりを振る。
 考えても仕方のないことは、考えない。
 それが笑顔の秘訣だと、青木は言った。
 
「何様だ、あいつ。何がオレが笑顔を取り戻して、だ」
 せめて独り言で強がって、薪は青木が上がり口に置いて行ったワインを取り上げた。ダイニングに行き、オープナーでコルクを抜く。
 ワイングラスに薄い黄金色の液体を注ぐと、見えない誰かと乾杯でもするように、顔の前に掲げた。

「はっぴーばーすでぃ……僕」



―了―





(2009.7)


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プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

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いつの間にか9歳になってました。( ゚Д゚)
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