ナルシストの掟(1)

 3000拍手のお礼SSです。

 このお話の時期は、2063年の3月。現在より、約1年先のお話です。
 この時点で、ふたりは恋人同士になってます。付き合い始めて約1年くらいです。
 付き合っていると言っても、うちのふたりですから、ラブラブカップルにもおしどり夫婦にも程遠く……あ、きっと誰も期待してませんね。そういう平和な展開は。(笑)



 こちらは最初、Kさまにリクエストをいただきました。
 後に投票フォームで最高票を獲得し(笑)、『薪さんのスナックで女装』話と相成りました。

 あまりにもわたしのツボにハマるお話だったため、またちょっと暴走しちゃいましたけど~、(^^;)
 みなさまにちょこっとでも、笑っていただけたらうれしいです。








ナルシストの掟(1)







 薪は自分の顔が大嫌いだ。
 幼い頃からあまり好きなタイプの顔立ちではないと思っていたが、年齢を重ねるに従って、ますます嫌になってきた。
 大きな眼も小さな鼻も、幼子のようにふっくらとした頬も。あごが尖っているのも唇がやたらと光って見えるのも気に入らない。
 特にイヤなのは、この邪魔くさい睫毛だ。
 子供の頃、長い睫毛をからかわれるのが嫌で、鋏で短く切ってしまったことがある。そしたら、次にはもっと濃くて太い睫毛が生えてきて。かえって逆効果だとわかって、それからは放っておくことにしたのだが、結果はこの有様だ。

 鏡の前で身支度を整えながら、薪は今日も自分の顔に向かって不満のため息を洩らす。
 もっと細くて、鋭い眼が良かった。鼻はもっと高くて、頬は削げていて。唇は薄くても良いから、自然な色がいい。身長だってせめて170は欲しかったし、肩幅も胸板も、もっともっと。

 キレイだとかカワイイとか、よく他人に言われるけれど、女の子じゃあるまいし。
 女の子にかわいいって言われた男の屈辱が、彼女たちにわかるもんか。好きでこんな顔に生まれたんじゃないのに、バカにしやがって。
 それでも、若い頃はまだ良かったのだ。20代前半までなら、「可愛い」も褒め言葉として取れないこともない。
 しかし、とうの昔に30を過ぎて、40に手が届こうというこの年齢になって、きれい、などと言われると、問答無用で相手を張り倒したくなる。

 実際、何日か前もその言葉を繰り返し、薪に殴り飛ばされた男がいる。
 何を隠そう薪の恋人なのだが、ベッドの中でそのセリフを3回も言ったものだから、我慢できなくなって思いっきり腹に拳を叩き込んでやった。そのまま、行為半ばの寝所から追い出して、それっきり口もきいていない。
 そろそろ反省した頃だろうから、今日あたりは家に上げてやってもいいが、もう一度禁句を吐いたら……今度は股間に蹴りを入れてやる。

 この乱暴な言動でわかるように、薪の現在の恋人は男性だ。薪より12歳も年下で、しかも自分の部下だったりする。他人に知られたら、かなりまずい関係だ。

 機械的にワイシャツを着てネクタイを締めながら、薪は今日の仕事の予定を頭の中で組み立てる。
 曽我の報告書の手直しと、裏付けの資料を追加するように指示をして。小池のやつがあの画像に引っかかってるみたいだから、軌道修正してやって。宇野の報告書には、ひとつでもいいから証言を載せるように注意して。青木が受け持ってる練馬の事件には被害者の友人の過去が絡んでるから、その画像を探すようにヒントを。
 仕事はたくさんあるが、それでも定時には終われるだろう。進行中の事件もなければ、会議の予定もない。
 今日は水曜日だし。
 室長会議用の資料を作ったら、久しぶりにあいつと一緒にレストランで食事をして、それからここで――― そこまで考えて、薪ははっと我に返る。

 朝っぱらからアフターの予定を組んでいる自分に驚いて、知らないうちに自分が、特別な日に締めるためのブランド物のネクタイを結んでいたことに、もっと驚く。

 ……重症だ。

 タイに合わせた翡翠のタイピンをつけて、薪は朝から二度目のため息を吐いた。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

竹内警視の受難~あとがき~

 このたびはうちのオリキャラ、竹内警視の受難話にお付き合いくださいまして、誠にありがとうございました。

 いただいたリクエストは、『不憫な竹内警視』ということでしたが、書いてみたら『悲惨な竹内警視』になってしまいました。合掌。(←普段から容赦がないけど、オリキャラになるとさらに鬼)
 竹内の何が不憫って、命を懸けてまで薪さんを助けたのに、薪さんは青木くんに夢中、と! ここが一番、不憫。(笑)


 竹内という男は、あれでけっこうな正義漢でして。
 以前はそうでもなかったのですが、薪さんに恋をしてからは、職務に対しても昔の情熱を取り戻しています。なので、作中で竹内が薪さんに言っていた「一緒にいたのが美穂ちゃんでも、美穂ちゃんの母親でも、俺は同じことをしました」というのは本音です。
 相手が薪さんだから、命を懸けたわけじゃないんです。自分より弱いものがいればそれを守り、助ける。それが警察官だ、と岡部さんに仕込まれてますから。
 せっかく竹内の純愛に感動していただいてたのに、水を差すようなことを申し上げてすみません。(^^;

 今回のことで薪さんにもそれが伝わって、「竹内は警察官としてはなかなかの男」という気持ちが彼の中に生まれます。(自分を好きだから助けてくれた、という発想は皆無です。うちの薪さんですから) ですから、これから先、捜査活動に関してはいいコンビになっていきます。
 でも、プライベートでは相変わらずです。 想いが通じないから面白いんですよ。(^^)(←果てしなく鬼)


 さて。
 次のお話は、3000拍手のお礼SSです。
 これがまた、えらく長くなってしまいまして。
 この『竹内警視の受難』も29ページあったんですが、次の『ナルシストの掟』は39ページあります。どこがSS(ショートショート)なんだか。
 お礼なのに、読んでいただく方に負担をかけてどうする!と自責の念にかられております。
 でも、内容的にR系ギャグにまとまった感があるので、それほど読みづらくは、あ、やっぱりタルイかも。 すみません。


 次のお話も、欠伸をかみ殺しながら、お付き合いいただけたら幸いです。


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

イラストを描いていただきました♪

 このお話を読んでくださってる方が、うちのあおまきのイメージで、イラストを描いてくださいました(≧∇≦)
 公開の許可をいただきましたので、貼らせていただきます。

 Mさま、ありがとうございました!!


 このシチュは、『竹内警視の受難』の冒頭で購入していた野菜のサラダをふたりで食べているところ。
 女王(薪)×奴隷(青木)  のイメージだそうです。


 まさしく、うちのふたりの関係ですね(^^)







ピンクのサラダ




 キライなニンジンを無理矢理食わされる青木くんと、大好きなブロッコリを口に入れてもらう薪さん。
 M「遠慮しないで、食べろよ・・・・」(笑)



 まさかうちのふたりの設定から、こんなに らぶい イラストを描いていただけるとは、夢にも思いませんでした。
 だって、ピンクですよ、ピンク!
 恋人同士の色ですよ!

 なんだ。
 ラブラブじゃん、おまえら(笑)



 Mさま。
 本当にありがとうございました。
 秘密の同人誌、お待ちしてますからね(^^

竹内警視の受難(11)

 お礼です。

 過去作品を読んでくださってる方がいらっしゃるみたいで、連日たくさんの拍手をいただいております。 昨日は『新人騒動』からでした。 一昨日の方とは、別の方かしら。
 誠にありがとうございます。 とってもとっても、うれしいです。
 新しい方が来て下さるたびに、どの辺りでドン引きされるのかしら、といつも心配になります。(^^;) ←心配しなきゃいけないようなものを書いてるから。 自業自得。

 どうか、広いお心でお願い致しますm(_)m



 お話のつづきですが。

 この章の内容は、いただいたリクエストの主旨から外れてしまうんですけど。
 時系列的にこの時期のお話ですし、なによりもあおまき至上主義のかのんさんのリクですから(笑)、あおまきでシメたいと思います。

 ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
 終章です。






竹内警視の受難(11)





 病院の玄関を出て、薪は冷たい外気に身を竦めた。
 通りを隔てた駐車場まで、急ぎ足で歩く。待たせておいた部下の車に無言で乗り込んで、温かい車内の空気に肩の緊張を解いた。

「竹内さんの様子は、どうでしたか」
「うん。だいぶ良くなってた。あいつが退院したら、うちですき焼きパーティやるから。おまえも参加しろ。そうだ、雪子さんも誘おうかな」
「三好先生が来たら、お肉は2キロ必要ですね」
 国産牛は諦めて、オーストラリア牛にしようかな、とまたセコイことを考える。竹内の治療費のことを視野に入れると、しばらくは倹約しないと。もしかしたら、共済に借入を申し込むことになるかもしれない。
 実は、薪は殆ど貯金がない。
 あまり長く生きているつもりがないので、将来の蓄えなどする気がなかった。やたらと気前がいいのはそのためだ。しかし、今回のようなことがあると、今までの浪費癖を少しだけ改めようか、とも思う。

「薪さん。傷が痛むんですか?」
 無意識に、左脇下の折れたあばらに手を当てていた。先刻の嗚咽の後遺症だ。あれはかなり痛かった。
「大丈夫だ」
 竹内以上に、こいつには弱いところを見せたくない。青木は部下だし、それに……。
「あんまり無茶しないで下さいね。オレ、今回はマジで寿命縮みました」
 こいつにだけは言われたくない。
 僕のことが絡むと、すぐに暴走するくせに。

 青木は薪たちと別れた後、東側の非常階段から外に出て、美穂を消防隊員に預けると、すぐさま火の海に取って返そうとした。そこまでは予想していたが、消防隊員の制止を振り払おうとして、ずい分すったもんだしたらしい。
 挙句、消防活動の妨げになると判断されて、竹内の部下に手錠を掛けられて拘束されていたという話を聞いたときには、搬送された病院の屋上から飛び降りたくなった。
 情けないにもほどがある。どうしてこいつは僕のことになると、常識を忘れてしまうのだろう。

 それでも、薪たちがマンションの裏側に飛び降りる可能性を示唆したのはこの男だったというから、まったくの役立たずではなかったらしい。素早い救助作業のおかげで、竹内は一命を取りとめたのだ。

「自分の命を顧みない行動は、捜査官として慎むべきだと思います」
「おまえがそれを言うか」
「オレは、相手があなたじゃなきゃ、命を懸けたりしません。オレはそこまで、やさしくなれないです」
「僕はやさしくなんかない」
 そう。
 やさしさからの行為ではない。自分が楽になりたいだけだ。

 自分のせいで失われた多くの命の代償に、出来る限りのひとを救いたい。その気持ちが、薪を職務に駆り立てる。身を削ってまで捜査に没頭するのは、そうしている間だけは自分の罪を忘れられるから。だから、今回のように目の前にそのチャンスがあれば、例えどんなに危険でも、それを為さずにいられない。
 それで、自分の罪が消えるわけではないけれど。亡くなった人が、帰ってくるわけではないけれど。
 だれかの命をこの手で救うことができれば、自分の罪深さも少しは薄れるような錯覚を覚えて……そのわずかな慰めが欲しいだけだ。

「オレは、何をしたらいいんですか」
 不意にそんなことを訊かれて、薪は運転席に顔を向ける。
 こちらを向いていた部下と、目が合った。眼鏡の奥の純粋な瞳が、薪に語りかけてくる。

 あなたが何を思い、何を為そうとしているのか、オレは知っています。
 自分のことを省みないあなたの行動を、他人のオレがいくら止めても無駄だ、ということも解っています。
 でも、せめて。
 ほんの少しでもいいですから。
 あなたの痛みを、つらい気持ちを、オレに分けてもらうことはできないんですか?
 オレの前でつらいことはつらい、と仰っていただくだけでもいい。オレの前で泣いてくれたら、もっと嬉しい。
 だけど、普段のあなたは何ひとつ、表に出そうとしないから。
 平静を装い続けるあなたに、オレは何もできない。あなたが他人の手を欲していないのは、承知してますが。
 あなたのために、オレができることは何もないんですか。

「何をしたらって、おまえが今握ってるのは何だ? その状態で、車の運転以外なにができるんだ」
 熱を帯びた黒い瞳から溢れる自分への想いには気付かなかった振りをして、薪は言った。青木は口を開きかけたが、軽く息を吐いただけで何も言葉を発せず、イグニッションキーを回した。車のエンジン音が響く。

 薪はシートベルトを装着し、シートにもたれかかった。
 昼間でも陰鬱な、真冬の曇り空が見える。先刻、病室の窓から見た一条の光は、再び雲間に隠れてしまったらしい。
 先ほど宿敵がしたように、さして美しいとも思えない空に視点を固定して、薪は呟いた。

「立派な捜査官になれ」
 隣の男の頬がぴくりと動いたのを目の端に留めて、薪は言葉を続ける。
「おまえが僕にしてくれるどんなことよりも、僕はそれがうれしい」
 青木は何も言わなかった。頷きもしなかった。
 ただ、哀しそうな目で薪を見ただけだった。そして黙って車をスタートさせた。

 それは、青木が望んだ答えではなかったのかもしれない。
 だけど。
 僕がおまえに望むのは……望んでいいのは、それだけだ。
 上司として室長として。部下に望んでいいのは、ただそれだけ。そのことを肝に銘じなければ。

 それを忘れたとき、僕たちの関係は崩壊するだろう。
 この名前のつけられない、微妙で居心地のいい関係には、二度と戻れなくなる。
 僕はそれが―― こわい。
 この関係を壊すのが、ひどく怖いんだ。おまえにはわからないだろうけど。

 青木。
 僕はおまえに、何も望まない。
 そのままでいて欲しい。
 僕との関係も、今のおまえの僕に対する気持ちも、ずっとそのままで。
 もちろん、それを望むのは無茶苦茶なことだと解っている。だから、僕は何も言えない。願いを口にすることはできない。

 僕はずるい。
 自分からは何もしようとせず、この関係を保とうとしている。おまえから見れば、そんなふうに見えるのだろうな。

 でも、青木。
 おまえは知っているか?
 僕がどれだけおまえと過ごす時間を、大切に思っているか。
 週に何時間か、おまえの友人として共に過ごせるひとときこそが、今の僕を生かしてるって、気付いているのか?
 ひとりになってからも、おまえの一挙一動を思い出してはニヤニヤしてる愚かな僕を、見たことがあるか?

 おまえとの時間は、僕にとって至福のときだ。
 ふたりで出かける前の晩は、新しい推理小説を読むときよりワクワクして、おまえに会ったときは、レーシングカーに無理矢理乗せられたときよりもドキドキする。
 あっという間に時間が流れて、もっともっと一緒にいたい、と何回言いかけては飲みこんだことか。

 その楽しい時間の後には、例の悪夢が必ず襲ってくると分かっていても。
 たとえ、鈴木に何回殺されても。
 おまえと会うのを止めようとは、爪の先ほども考えない。

 ただ。
 僕はそんなふうに、おまえのことを大事に思っているけれど、やっぱりおまえが僕に望んでいることとは微妙に違っていて。
 僕は正直、おまえと抱き合ったりキスしたい、とは思わない。ましてやそれ以上のことなんて。
 僕はゲイじゃないから、その欲求には応えられない。僕にだって経験がないわけじゃないから、応えられないことはないかもしれないけれど……進んではいけない関係だと思う。
 鈴木と関係していた頃みたいに、無鉄砲にはなれない。
 僕もいい大人だし、物事の分別はつけなければ。さもないと、色々なひとを悲しませることになるし、これ以上、自分の罪が増えるのもごめんだ―――――。

 つらつらと考え事をしながら、薪は自分の目がいつの間にか、運転席の男の横顔に釘付けになっていたことに驚いた。トクトクと響く心臓のリズムが速くなっていることに焦って、慌てて助手席の窓のほうに顔を向ける。さりげなく頬に手をやると、最悪なことに火照っている。

 ちょっと気を許すとこれだ。まったく、救いようがない……。

 風が出てきたのか、暗雲は再び動いて、太陽の光があちこちから地上に注ぎ始めている。
「あ、晴れてきましたね。良かったですね、薪さん。寒いの苦手でしょ?」
「……べつに」
 薪の素っ気無い返事に眦を下げて、青木は丁寧にブレーキを踏んだ。
 赤信号だ。停止線で静止し、横断歩道を渡る人々をなんとなく眺めている。
 地表に届く幾筋もの光が、黒いアスファルトをまだらに彩っている。

 その白さと暖かさは、薪のこころを満たす至福のときのように。
 交差点付近のガラスミックスアスファルトに反射して、まるで宝石のようにキラキラと輝いていた。



 ―了―




(2009.8)


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

竹内警視の受難(10)

 ちょっと私信です。


 昨日、『ラブレター』をはじめとする作品にたくさん拍手を下さった方、ありがとうございました。(^^)
 とっても励みになります。
 以前、『官房長の娘』とか『新人騒動』に拍手を下さったのと同じ方かしら。精神崩壊してらっしゃらないかしら。(笑)

 すみません、もうひとつ私信です。

 Kさま。
 拍手欄で「(私の)光の君が報われた、良かった」と仰ってましたが。(光の君、の呼び名が出た時点で、イニシャルの意味がない(笑))

 あの~、素朴な疑問なんですけど。
 竹内が薪さんにしてもらったことって、泣いて「ごめんなさい」って言ってもらっただけですよね。
 たったそれだけのことで、報われたことになっちゃうんですか?

 竹内って、今までどんだけ不憫だったの!?
 てか、わたし、そんなに竹内のことを不幸に書いてた!?
 しづは、改めて自分のドSっぷりを思い知りましたよ。(←何を今さら)

 可哀想なので、竹内にはもうちょっとだけ、いい思いさせてあげましょうね。今回は特別編だし。(^^







竹内警視の受難(10)





「僕に、何かできることがありますか」
 平静を取り戻した薪の声に、竹内は振り返った。
 落ち着いたいつもの顔。薪は立ち直りが早い。切替えの早さは、優秀な指揮官の条件のひとつだ。
 が、そこにはやはり、拭いきれない悲哀の痕跡が残っていて。
 濡れた睫毛の麗しさが、噛み締めたために赤みを増したくちびるのあでやかさが、竹内の心をずくりと疼かせた。

「キスしてもらえますか?」
「はあ?」
「俺、キスをしてもらうと、傷の治りがよくなるんです。脳内ホルモンが分泌されて、痛みもやわらぐし」
「僕は男ですよ」
「性別は関係ないです。人間なら、誰でもいいんです」
 突拍子もない竹内の申し出に、薪は呆れ返った顔をしていたが、やがて頭を一振りした。火事の熱で焦げた毛先をカットした為に大分短くなった亜麻色の髪は、軽く振るだけで全体がさらりと動き、かれの周りに小さな光の粒をまとわせた。

「わかりました。じゃ、目をつむってください」
 言われた通り、竹内は目を閉じた。
 竹内の視界が闇に変わると、薪の気配が薄くなった。席を立って、竹内から離れたようだ。

 このまますっぽかされるのだろうな、と竹内は予想する。
 薪が自分に、そんなことをしてくれるはずがない。きっとしばらくして目を開けたら、ここには誰もいなくなっているに違いない。
 そうしたら、自分は宿敵の情けない姿を思い出して、ひとり悦に入るのだ。

 初めて見た、薪の泣き顔。
 きれいに生え揃った下睫毛の上に盛り上がった、透明で限りなく清らかな液体。瞬きによってそれは溢れ、重力の法則に従って下方へと流れた。
 やわらかそうな曲線を描く頬を、ほろほろと伝い下りていった美しい雫たち。記憶は定かではないが、自分はこの甘露の味を知っているような気がした。

 濡れた睫毛が縁取った、亜麻色の大きな瞳。そこにいつもの厳しさはなく、絶望に満ちた哀惜が見て取れた。
 余計なことだと思っても、慰めずにいられなかった。どうにかしてこの涙を止めてやりたい、と痛切に感じた。

 弱気な眉に弱気な瞳。
 乱れた呼気に、わななくくちびる。
 素直で純粋な薪の言葉。
 愛らしい声。
 それらは、薪に恋焦がれながらも諦めようとしていた竹内の気持ちを揺すぶり、覚醒させた。

 もう、自分に嘘を吐くのは止めようと思った。
 やっぱり、俺はあのひとが好きなのだ。
 出来ることなら、薪の涙を自分のくちびるで受け止めてやりたかった。抱きしめて、この胸の中で泣かせてやりたかった。

 ふと、ひとの気配がした。薪が戻ってきたらしい。
 体重がベッドの端に掛かったのか、ぎしっとベッドが軋む音。密やかな息遣いが聞こえてくる。
 胸がドキドキしてきた。本当にキスを?

 小さくてやわらかい手が、竹内の両頬を挟んだ。やさしいくちびるが、そっと竹内の頬に触れて、すぐに離れていこうとした。
 とっさに、頭を押さえつけていた。
 さらさらした髪に指を絡ませ、片手に余る後頭部をしっかりと掴んで、竹内は深く唇を重ね合わせた。
 舌で前歯を割って、濡れた口中に入り込み。過去に一度だけ味わったことのある甘美な果実を、再び捕らえる。あの時とは違う、アルコール抜きの純粋な味わい。

 薪は逆らわなかった。
 ぎこちなく、竹内の舌におずおずと応えてきた。その技巧はひどく幼く稚拙で、夏の日の彼とは別人のようだった。
 素面の時には、こんなに初々しいのか。なんてかわいい人だろう。
 かれを味わいつくして、竹内は唇を放す。薄目を開けて、激しいくちづけに恥らっているであろう、薪のかわいい顔を見ようとして―――。

「いえええええ!!???」
 あまりの衝撃に思わず叫んだ。まだつながっていない肋骨が、激しく痛む。しかし、そんなことに構っている場合ではない。
 竹内の目の前で頬を真っ赤に染めて、うっとりと瞳を潤ませていたのは、まだ10歳にも満たない少女だった。

「みっ、美穂ちゃ……!」
「あなたというひとは、子供相手にあんな」
 あからさまに侮蔑の響きを含んだ薪の声が、上から降ってくる。ベッドの横に立って腕を組み、細い顎をツンと反らせ、竹内を見下ろしている。
「いや、ちがっ」
 てっきり薪が相手だと思ったから!だから!!

「うれしい、誠さん。美穂、しあわせ」
 恥ずかしそうに竹内の胸に額をつける美穂を見て、薪の目が普段の冷ややかさを取り戻した。
「呆れ果てて、モノも言えません」
 軽蔑しきった目を向けられて、竹内は弁解を諦めた。

 やっぱり、薪との関係は今まで通りでいい。
 竹内が見たいのは、こういう薪だから。
 傲慢で居丈高で、皮肉屋で陰険で。それでいて陰では気配りの名人で、意外なくらいの熱血漢で。ときどき見せる素の顔が、理性を毟り取られるほどにかわいくて。
 強がる薪でいい。突っ張った彼でいい。
 薪が竹内に見せたがっているのは、強い自分だ。ならば竹内は、薪のことを強い人間だと認めて付き合おう。

「さて。僕はお邪魔のようですから、退散します」
 嫌味な捨て台詞とともにコートに袖を通し、ドアに向かって歩いていく。華奢な背中はしゃんとして、それはいつもの薪の姿だ。
「竹内さん」
 ドアの取っ手に手を掛けて、右にスライドさせてから、薪は思い出したように振り返った。
「怪我が治ったら、僕の家で快気祝いにすき焼きパーティやりましょう」

 引き戸が閉まるまでの、ほんの僅かな時間に垣間見せた薪の笑顔は、とても愛らしくて。
 竹内の決心は、早くも揺らぎそうになる。
 このまま、宿敵としての立ち位置を貫くか。
 それとも、正直な気持ちを伝えて、礼賛者としての立場を確保するか。
 竹内の中で、答えは出ない。

 薪と入れ違いで病室に入ってきた美穂の母親の姿に、竹内は慌てて美穂の耳元で「今のことは誰にもナイショだよ」と囁くと、良く似た顔立ちの母娘に微笑みかけた。



*****


 竹内がイイ思いしましたよ!(笑)
 てか、薪さんたら子供に何をさせてるんだか☆


 お礼のSSは、ここでおしまいです。
 次の章は、リクエストをしてくださったのに、さんざんハラハラさせてしまった可哀相なかのんさんに、お詫びの印です。ごめんね、かのんさん。(^^;



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

竹内警視の受難(9)

 とりあえず、ふたりとも生きてましたよ!!
 て、生きてりゃ良いってもんじゃないですね。はい、反省してます。(^^;) でも、またこういうの思いついたら、書いちゃうんだろうな。(笑)




 続きです。





竹内警視の受難(9)






 ごめんなさいって、なんだろう。

 自分の口から出た子供っぽい言葉に、薪は耳を疑った。
 自分はもう少し、まともな謝罪の言葉を考えてきていたはずだ。
「申し訳ありませんでした」「お詫びの言葉もございません」「治療費は、こちらで持たせていただきます」
 それが、竹内の痛々しい姿を見たら、頭の中が真っ白になってしまって。まるで子供みたいに泣いてしまうなんて。
 どんな状況でも、竹内に自分の弱いところを見せるなんて、冗談じゃない。今回は確かにこいつのおかげで命を助けられたが、竹内は第九の敵だ。敵に弱味を握られるわけにはいかない。自分は第九の室長なのだ。
 そう思うのに。
 薪は、涙を止めることができなかった。ごめんなさい、と繰り返すことも、止められなかった。

「あなただけじゃない。青木のやつも以前、僕のせいで」
 自分の一番の弱点を敵に教えようとしている自分に気付いて、薪は口を閉ざそうとした。しかし、乱れる呼吸が、それを許さなかった。

「俺の怪我が自分のせいだと? 自惚れないでくださいよ。俺は相手があなたじゃなくても、同じことをしましたよ。一緒にいたのが美穂ちゃんでも、美穂ちゃんの母親でも。目の前に消えそうな命があったら、助けるのが当たり前でしょう」
 竹内は、そんな言い方で薪の罪悪感を消そうとしてくれた。
 自分は警察官としての規範に従って行動しただけだ、あなたのせいじゃない。
 竹内の気遣いは分かったが、薪にはもう、こみ上げる嗚咽を止めることができなかった。

「僕はもう……見たくない。僕のせいで誰かが死ぬのも、傷つくのも」
 震える吐息と一緒にこぼれだす言葉が、この先自分を追い詰めることになる。それが理性ではわかっているのに、吐き出さずにはいられなかった。
「僕は……僕なんかのために、誰にもなにもして欲しくないんです。僕はそんな価値のある人間じゃない……」

 自分のくちびるが、弱音を吐くのを止められない。
 きらいだ。
 こんな弱い自分が、大嫌いだ。

「どうして、そんなふうに考えるんですか」
 どうしてもなにも、それが事実だから。
 生きている価値など何もない人間が、それでも生きながらえているのは……死ぬことも許されないから……。

 いや、それは詭弁だ。
 僕はあのとき、死ぬことが怖かった。地面に叩きつけられて死んでいる自分の姿を想像して、心底こわいと思った。死にたくないと思った。
 足が震えて仕方がなかった。鈴木に勇気をもらわなかったら、一歩も踏み出せなかった。
 僕は、ただの臆病者だ。
 生きてる資格もないくせに、ちっぽけな生に執着して。どこまで汚い生き物なんだ……。

「俺なんかが口を出すことじゃありませんけど」
 宿敵の惨めな姿を前に、竹内が言った。その口調に嘲笑の響きがないことを、薪は意外に思った。
「そろそろ、前を向いてもいいんじゃないですか。俺はかれとは面識がありませんが、彼もそれを望んでると思いますよ」
 竹内の言う『彼』が誰を指すのかは、明らかだった。
 おまえなんかに言われる筋合いはない、と思いかけたが、図らずしも鈴木と同じ行動を取ったこの男に――― 自分を犠牲にして薪の命を助けようとした愚か者に――― 敵意を向けることはできなかった。

 薪は黙って頷いた。
 頭を軽く振るだけで、ぽつぽつと滴り落ちる涙が情けなくて、薪はスーツの袖に自分の弱さの証を吸い込ませた。

 こんなやつの前で、みっともなく泣いたりして。またこいつの皮肉のタネを提供してしまった、と後悔したが、竹内は薪のほうを見ていなかった。なにが面白いのか、特に変わり映えしない窓からの眺めを、ずっと見ていた。

 ―― 見ない振りをしてくれているのだ。

 今回ばかりは、竹内の心遣いに気付かないわけにはいかなかった。
 そういえば竹内は、親の敵のように薪のことを悪く言うが、あの事件のことだけは、ただの一度も口にしたことがなかった。そこが薪の唯一の弱点だということを、竹内は知っていたはずだ。それなのに、そこを衝こうとはしなかった。
 岡部が育てたにしては出来の悪い後輩だと思っていたが、見誤っていたのは自分の方かもしれない、という考えがちらりと頭を掠めた。

 竹内と一緒に窓を見ると、先刻まで暗く空を埋め尽くしていた雲が微かに割れて、やわらかな冬の太陽光が、一筋の光を地表に投げかけていた。




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

再び、ご紹介です

このお話を読んでくださってるみなさまへ、ご紹介です。

『最愛の秘密』のK24さんが、うちの竹内のイラストを描いてくださいましたっ!(≧∇≦)

これがまた、誰!?というくらい、かっこよくて!
筆者のつたない表現力を遥かに超越した、素晴らしいイラストです。
百文は一見に如かず?(笑)

もう、しづは自分のオリキャラに惚れそうです(//∇//)(これって自画自賛?でも本当にカッコイイの!)
うちの青木くんが、『竹内さんに本気で来られたら勝ち目がない』と思ってしまうのもムリはない、と素直に頷けてしまうほど素敵です。マジで『たけまき』SS書こうかしら。(笑)

K24さん、本当にありがとうございました!!


K24さんの記事には こちら から飛べます。ぽちっと押してみてください!

竹内のことをちょこっとでも気にかけてくださってる方には、ぜひ見ていただきたいです。
K24さんのイラストのイメージでお話を読んでいただくと、うちの拙いお話も少しは楽しい作品になるかと思います。


はい、まずは自分で試してみますね。

(K24さんのイラストのイメージで、『竹内警視の受難』を読んでみた)

・・・・・・あ、あれ・・・・・・イラストがカッコよすぎて、小説の方でイメージダウンという現象が・・・・・・いや、ホントに・・・・・・・わたしの筆力がK24さんのイラストに追いつきません・・・・・・・(TT)。

次のお話ではもっとカッコよく書きますから、今回は見逃してください!(><)
失礼しました。




竹内警視の受難(8)

 拍手SSなのに、絶叫コメをたくさんいただいちゃいました。(^^;
 逃亡準備は万端に整えて。
 はい、つづきです。




竹内警視の受難(8)





 竹内は、病室の窓から外を見ていた。
 窓辺には大きな銀杏の樹があって、先日の雪がまだ枝の付け根の部分に融け残っている。2月の空は暗い雲に覆われて、とても寒そうだ。こんな日は暖かい部屋の中で、気の置けない友人と鍋を囲んで一杯やりたいところだ。
 あとどのくらい、ベッドに縛り付けられていなければならないのだろう。痛み止めが効いているから痛みはさほどでもないのだが、とにかく退屈だ。これなら、いくら寒くても現場で張り込みをしていたほうが遥かにマシだ。

 ノックの音がして、竹内はドアの方を見た。
 もしかして、彼女だろうか。先週、来てくれたときは痛みが激しくて、キス以上のことはできなかったが、今日はもう少し、いい思いができるかも。

 弾んだ声で、どうぞ、と声をかける。
 しかし、入ってきたのは竹内が予期した人物ではなかった。
 濃灰色のスーツに落ち着いたブルーのネクタイを締めた、美貌のひと。左腕にコートをかけ、右手にはかれのイメージにぴったりの、華やかで愛らしい花かごを持っている。

「薪室長」

 相も変わらず気の強そうな瞳で、竹内のことを真っ直ぐに見る。仲の悪い人間と出会ったときの、硬い表情。キッと吊り上げられた眉と、不機嫌そうに結ばれた口元。
 薪の不興が顔に表われていることに、竹内は安堵と喜びを覚える。
 彼のきれいな顔になんらかの表情が宿るのは、相手に対して気を許している証拠だ。昔は、完璧な無表情だった。自分の気持ちは少しずつ、薪に伝わっていると解してもいいのだろうか。

 竹内と共に死地から生還した彼が、あばら骨を2本も折る重傷だったことを聞いて心配していたのだが、こうして見る限り元気そうでよかった。
「見舞いに来てくださったんですか? お忙しいでしょうに。ありがとうございます」
 薪は持っていた花かごをサイドテーブルに置くと、黙ってベッドの横の丸イスに腰を下ろした。
 膝の上に手を置いて、無言のまま竹内を見ている。見舞いに来たのかにらめっこをしに来たのか、よくわからない。
 薪が黙っているから、竹内も無言になる。その静寂を重いと感じないのは、薪の瞳がいつもよりずっと穏やかだからだ。

「冬は、それほどではないんです」
 長い沈黙の後、薪はぼそりと言った。一瞬、何のことだろうと思ったが、すぐに仕事のことだと気付いた。
「ああ、そうですよね。第九に回されるような猟奇事件は、夏のほうが多いでしょうね」
 薪はまた、黙り込んだ。
 穏やかだった薪の瞳に、苦渋めいたものが浮かんだ。
 竹内の身体に巻かれた包帯や、腕に刺さった点滴や、ギプスで固定された足を見て、自分のことを責めている。

 僕のせいで、こんなことに。
 僕を庇って、こんな怪我を。
 僕は、どうやってこの償いをすれば……。

 薪との会話は、とても不思議だ。
 口数は少ないのに、かれの気持ちは伝わってくる。それは言葉にしない分、生まれたままの純粋さを持って、竹内の心に浸透する。
 これまでにも、薪は何度も様子を見に来た、と竹内の母親が言っていた。竹内が眠っている頃合を見計らうかのように、こっそりと来ては寝顔を見て帰って行ったそうだ。
『自分のことを庇って、ご子息は怪我をされました。申し訳ありませんでした』
 そう言って竹内の母親に、深々と頭を下げた。それに対して、あの母親が何と答えたのか、実は竹内は聞いていない。なにか失礼なことを言ったのでなければよいのだが。竹内の母は夫を早くに亡くして、女手ひとりで竹内を育て上げたせいか、性格も口も、かなりキツイのだ。

「どうしてあんなことを」
 目を伏せたまま、薪は独り言のように呟いた。
 長い睫毛が震えている。弱気な薪の表情は、竹内の心をざわざわと騒がせる。
「あんなことって?」
「僕を庇うなんて。あなたは、僕が嫌いじゃなかったんですか」

 嫌ってなんかいません。
 俺は、ずっと前からあなたのことを。
 ええ、もう一年にもなります。ずっとずっと、あなたが好きだったんです。

「あなたが先に落ちたら枝が折れて、俺のクッションがなくなっちゃうじゃないですか。そうしたらカクジツに死にますからね。だからああしたまでです」
「まあ、そんなところでしょうね。あなたが僕のことを嫌っているのは、わかってます」
 膝の上に置いた白い手の甲に、ぼたたっ、と透明な雫が落ちる。
「お互い様ですよね。僕だって、あなたのことは大嫌いですから」
 器用なひとだ。
 ボロボロ泣きながら、平気で喋れるのか。普通だったら呼吸が乱れて、言葉が途切れそうなものだが。

 そんな薪の姿に、竹内は胸が詰まる。
 憎まれ口を叩きながらも、薪の泣き顔は、とても幼くて。眉が弱気に下げられるだけで、これほど庇護欲を掻き立てる顔つきになるとは。
 そういえば、ずっと昔、青木のジャケットに顔を伏せて泣いていた薪を見たことがあった。あのときは遠目だったし、青木の服で顔が隠れていたから気付かなかったが、こんなに可愛らしい顔をして泣くのか。

「……ごめんなさい」
 謝罪の言葉など、竹内は望んでいない。
 薪が元気で生きていてくれること。それだけで充分だ。

 下を向いた亜麻色の頭のつむじから、きれいに流れる絹糸のような髪に反射する室内灯の明かりを、まるで聖職者の後光のようだと感じながら。
 竹内は何も言わず、窓の方に顔を向けた。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

竹内警視の受難(7)

 薪が5階から落ちてきた。
 ……『重力ピ●ロ?』(笑)

 お礼のSSとは思えない展開になってまいりました。どうしてこういう方向に、話が進むんでしょう。(^^;
 それはわたしがSだから、って、みなさん、もうご存知ですね☆



 すいません、ちょっと私信です。
 Mさま、素敵なイラストをありがとうございました!
 自分の書いたお話からイメージを膨らませてイラストを描いていただけるというのは、作者としては、ものすごく感激することで。 嬉しくて背筋が震えました。
 で、実際に拝見しましたら。
 萌え死にしそうっ!!
 Mさま、素晴らしいです!
 朝から幸せです。今日は一日中、ニヘラニヘラして過ごします。(〃▽〃)





竹内警視の受難(7)





 飛んだ瞬間。
 時が止まったように感じられて、薪は様々なことを思い出した。

 両親のこと。
 子供の頃のこと。
 鈴木のこと。
 雪子のこと。
 第九のこと。
 それから―――― 青木。

 青木は、僕が死んだら泣くだろう。
 でも大丈夫。あいつは若いし、僕のことはすぐに忘れる。もう、雪子さんじゃなくてもいいから、ちゃんとした相手を見つけて欲しい。
 色々あったけど……一線を越えなくて、本当に良かった。
 あいつの悲しみが、倍になるところだった。

 落ちていく。
 ただ、落ちていく。風圧で、目が開けられない。
 薪は力を抜いて、目を閉じた。

 ――― 鈴木。これでようやく……。

 大好きな鈴木の笑顔が目蓋に浮かんだ刹那。風を切る感触以外のものが自分の身体に訪れて、薪は我に返った。
 誰かの腕に抱かれる感覚。ぎゅ、と抱き込まれる。
 鈴木? 鈴木が迎えに来てくれて――――。

 ちがう。
 これは鈴木の匂いじゃない。鈴木は香水なんかつけない。これは。

 バキッと耳をつんざくような音と共に、落下運動のエネルギーが僅かに緩和される。それを意識する間もなく、地面に叩きつけられた。
 身体が跳ね返される。強い衝撃に、呼吸が止まる。重力が逆転するような感覚に、内臓が口から飛び出してきそうだ。

 ボキボキッといやな音が聞こえて、薪は顔を歪めた。
 この音は、知っている。人間の骨が折れる音だ。
 意識がある。生きている。
 耳に残った不快な音から察するに、骨は何本か折れたらしいが、それほどの痛みはない。今は無我夢中で、痛覚も麻痺しているのだろう。
 とにかく、生きている。
 奇跡だ――――。

「うっ……」
 普通に喋れるほどの軽症でもないが、声も出せるようだ。
 額に手を当てると、手のひらが真っ赤に染まった。どこか派手に切ったらしいが、患部は不明だ。血が吹き出ているという感覚がない。
 患部を突き止めるのは後だ。なんとか身体を動かして、ここにマットを持って来るように指示をしないと。そうすれば竹内は助かる。

 浅い呼吸を何度か繰り返して、やっと薪はその異変に気付いた。
 自分がうつ伏せになっている地面。それは土でも木の枝でもなかった。

「た、竹内!?」

 何故だ?
 5階で待っているはずの竹内が、なぜ自分の下になって、しかも口から血の泡を吹いているんだ!?

 痛みも忘れて、薪は身を起こした。飛び降りるときより遥かに青い顔になって、瀕死の宿敵を見る。
「馬鹿な……なんで、こんな」
 奇跡でもなんでもない。
 竹内が自分の身をクッション代わりにして、薪を助けてくれたのだ。

 初めからこのつもりだったのか?
 それであんな、挑発的なことを言ったのか。薪に自発的な跳躍を促し、自分がフォローに入るつもりで?
 計画的な行動でなければ、この現象はありえない。薪が足を踏み切った瞬間、竹内も飛んでいなかったら、薪の落下速度に追いつけないはずだ。
 薪の額にたっぷりと付いた血液は、竹内の吐血だったことを知り、薪は真っ暗な穴の中に落ちていくような恐怖に震えた。
 
「た、竹内っ!! しっかりしろ! いま、助けがくるから!」
 そんな保証はなかった。
 助けが来るかどうか、この状態の薪に分かるはずがなかった。しかし、そう叫ばずにはいられなかった。
 竹内の意識は、すでに混濁していた。あれだけの高さから落ちたのだ。しかも薪の体重を受けて。大量の吐血は、内臓破裂の証拠だ。

「竹内! しっかりしろ! 死ぬなっ、死ぬな……!」
 声を張り上げると胸に激しい痛みが走ったが、それどころではない。
 痛みを感じるのは、生きている証拠。いま竹内は、痛みを感じることができているのだろうか。
「死ぬなっ!」

 ちくしょう。
 青木といい、竹内といい、みんなしてよってたかって。僕が鈴木に逢いに行くのを、邪魔しやがって!

 竹内の口元に、薪の涙がぼたぼたと落ちた。
 それは竹内の口から溢れ落ちる命の雫に混じって、真っ赤に染まった。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

竹内警視の受難(6)

 うちの薪さんの身の上を案じてくださってる方々へ。
 えーっと、えーっと、えーっと、
 ご、ごめんなさいいいい!!!





竹内警視の受難(6)





 目前に横たわったガレキの山に、薪は思わず呻いた。
 この大量のコンクリートの塊は、1階分の量ではない。おそらく、上の階の分も一緒に落ちてきている。塊の中から鉄筋が突き出しているが、その数は数えるほどしかない。
 工事の際に、鉄筋の数を故意に減らしている。手抜き工事だ。そのせいで、こんなに簡単に廊下の天井が落ちてきたのだ。
 3人は、崩れてきた天井によって分断された。こちら側には竹内と薪。もちろん、竹内から離れようとしない美穂も一緒だ。
 
「薪さん! 竹内さん、聞こえますか!?」
「青木。そっちは大丈夫か」
「大丈夫です! でも、このガレキを退けないと」
 ガレキの隙間から、青木の顔が見える。うまい具合に窓のような形になって、向こう側に通じている。この大きさなら、子供一人くらい抜けられそうだ。

「美穂ちゃん。さっきのメガネをかけたおじちゃんが、あっちにいるから。おじちゃんと一緒に、先にお外に行っててくれないかな」
「いや。美穂、誠さんといる」
「美穂ちゃん。俺のお嫁さんになってくれるんだろ? お嫁さんは先に帰って、俺のごはんとお風呂の用意をしといてくれなきゃ」
「誠さんは?」
「仕事が終わったら、すぐに帰るよ」
 美穂はこくりと頷いて、ガレキの隙間から青木の手を取った。

「早く行け、青木! 彼女を安全な場所に避難させるんだ」
 苦渋に満ちた青木の瞳が、薪の顔を見る。

 ―― あなたを残していくなんて。
 ―― そんなことを言ってみろ。このガレキの下敷きにしてやる。

「絶対に、絶対に助けに来ますから!」
 ぎゅっとくちびるを噛んで、青木は美穂を抱え走っていった。
 ホッと息をつく間もなく、またもや熱膨張で割れた天井のコンクリートが落ちてくる。危ういところでそれを避け、更なる襲撃を予測して上を見上げると、2階上の天井に十字に組み合わされた網状の鉄筋がむき出しになっていた。
 まるで、篭の中に捕らわれた虫のようだ。
 もう、どこへも逃げ場がない。ここは5階だし、階下へ降りる道も上へ登る道も、閉ざされてしまった。窓に寄って救援を待つしかないが、この火の回りでは。

「ゲホッ、ゴホッ、ゴホッ!」
 毛先が焦げていやな匂いがする頭を振り、薪は咳き込んだ。
 天井が抜けて空気の通りが良くなったせいか、火の勢いが増して来た。不燃材を多く使った壁材からは大量の有害な煙が発生して、薪をその中に閉じ込めようとする。
「薪室長。こちらへ」
 竹内の手が薪の腕をつかみ、手近な部屋へと連れ込んだ。建物火災の場合、火は廊下から回るから、救助を待つなら部屋の中にいた方が得策だ。
「屈んでください。これを」
 水に濡らしたハンカチを差し出す。
 いつの間にこんなものを。竹内の俊敏さに、薪は少しだけ感心した。

 ハンカチを口に当てて目で彼を追うと、竹内は窓際によって、窓から外を見た。
 助けが来るかどうか、階下の火の回りはどうか。この状況で取り乱すこともなく、冷静に逃げ道を模索しているようだ。
 なかなか肝が据わっている。竹内のことは大嫌いだが、やはりここで死なせるには惜しい男だ。

「薪室長。この窓から飛び降りましょう」
「5階の窓からですか?」
 体勢を低くしたまま、竹内の隣に寄る。窓から下を見て、薪は目眩を覚えた。
 一瞬、窓から飛び降りる可能性を考えたが、やはり無理だ。この高さでは、確実に死ぬ。

「あそこに木があるでしょう? 枝に掛かれば、助かる可能性はゼロではない」
 あるにはある。
 が、この建物からはかなりの距離だ。助走もなしにあそこまで飛ぶには、体操選手並の脚力が必要だ。
「お一人でどうぞ。僕は高いところが苦手なんです」
 飛び降りても、結果は同じだろう。焼け死ぬよりは楽かもしれないが、死んだときに脳の一部でも残ってしまったら厄介だ。それよりはこのまま、全部焼けてしまった方がいい。
 以前、岡部に自分の頭を潰してほしいと言ったことは、もちろん本気ではない。犯罪に手を染めるようなことを、部下にさせるわけにはいかない。
 あれは、自分の覚悟を岡部に見せておきたかったから。何としても、かれが欲しかったから。
 岡部は、期待通りに成長してくれた。自分がいなくなっても、立派に第九を守っていってくれるだろう。

 人間、いつどこでどう死ぬかなんて、わからないものだ。
 まさか、竹内と心中する羽目になるとは。

 雪山で青木と死ぬのと、どっちがマシだったろう、と考える。
 答えは、その質問が形を成さぬうちに出た。

 青木が生きててくれて、よかった。
 あいつがまたここに飛び込んできて、危険な目に遭ったりしないように。消防隊員たちがしっかりとあのバカを止めてくれるように、願うばかりだ。

 薪がその場に残る意を示すと、竹内はとても彼らしい表情になって言った。
「アクションは苦手、というわけですか」
 懐かしささえ覚える、その皮肉な口調。片頬だけを上げた、傲岸不遜な顔つき。
「はっ。これだから、第九の引きこもりは」
 亜麻色の瞳がぎらりと光って、竹内の顔を睨みすえた。
「じゃ、俺ひとりで行かせてもらいますよ。でもって、助かったらあなたの腰抜け振りをみんなに話して、第九は臆病者の集まりだってことをマスコミに暴露します」
「何を勝手なことを――ッ、ゴホッ、ゴホッ!」
 死を前にして、なお第九を愚弄する男に、こころからの憤りを覚える。
 こんな男と心中なんて。冗談じゃない!
 
「じゃ、お先に。薪室長。あなたは勝手にしたらいい」
 竹内も激しく咳き込みながら、それでも憎まれ口を叩き続ける。フェラガモの靴が窓枠にかかったのを見て、薪は竹内の腕をつかんだ。
「早まらないでください。ここで救助を待ちましょう」
 竹内の言うように、確かに木はある。
 でも……これは死ぬ。
 どう考えても、この高さからでは無理だ。うまく枝に飛べたとしても、加速度で枝が折れて地面に墜落だ。それよりは、ここで救助を待った方が可能性があるかもしれない。

「やれやれ。現場に出ない捜査官というものは、こうもカンが鈍るものですかね。危機感が麻痺しているとしか思えない。ま、無理もないか。第九の捜査は、死人が相手ですからね」
 この期に及んで、まだこんな皮肉を。なんてやつだ。
「間に合いませんよ、どう見ても」
 竹内に促されて、薪は後ろを見る。
 振り返るまでもなく、熱気で炎の激しさが分かる。
 すでに、炎は部屋の中に侵入してきている。ガラガラと大きな音で壁が崩壊していく地響きがしているし、煙もすごい。目が痛くて、開けていられないくらいだ。
 それでも、飛び降りたら確実に死ぬ。
 薪は、覚悟を決めることにした。

「僕が先に行きます」
 自分の死を目の当たりにすれば、竹内も思い留まるかもしれない。こんなやつ、死んだって痛くも痒くもないが、心中だけはゴメンだ。

 竹内を押しのけて、薪は窓枠に足をかけた。
 情けないことに、足が震えている。奥歯を噛み締めていないと、歯がカチカチと音を立ててしまいそうだ。窓から身を乗り出すが、やはり眩暈がするほど高い。下腹の辺りがひゅうっと冷えて、まともに息もできない。
 死ぬことなんか怖くないと思い続けてきたのに、人間の生存本能ってのは厄介だ。

 何を迷うことがある。これで、鈴木に会えるんじゃないか。
 親友の笑顔を思い浮かべると、少しだけ震えが止まった。ぐらぐらと揺れていた視界が、クリアになる。

 今だ。

 目的の枝を目指し、薪は右足をぐっと踏み切って、空に飛んだ。




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
メロディ6月号、読みました。
一言感想 「どひゃー……」
文字サイズをお選びください
最新記事
最新コメント
拍手のお返事
いつもありがとうございます!

最新拍手コメのお返事はこちらです。

過去の拍手レスの確認は、該当記事の拍手欄を押してください。
鍵拍手コメのレスは、記事のコメント欄にお返しします。
月別アーカイブ
カテゴリ
詩 (1)
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
QRコード
QRコード
FC2カウンター
こんにちは(^^
現在の閲覧者数: