ナルシストの掟

みなさま、8000hit ありがとうございました!
お礼が遅くなって申し訳ありません。さらに、更新も滞っていて申し訳ありません(^^;)

次に公開予定の 『ラストカット』 を推敲中です。ものっそい、眠いです(笑)
日曜日には、1話目をアップできると思います。
どうか、よしなにお願いいたします。


日曜日。
一足お先に、原画展に行ってまいりました。

薪さんがとってもきれいでした!!(//∇//)
モノクロの原稿に、感動しまくりでした!!(;∇;)

・・・・・それだけ!?
すいません、レポは苦手です・・・・・小説モードにならないと言葉が出てこない・・・・(@@;)
詳しいレポが、第九の部下Yさんのブログ 「いつもあなたを守ってる」 に載ってました。リンクから飛べますので、よろしくお願いします(^^;





舞台裏です。
ヒトリゴトなので、スルーOKです(^^




楽しかった!
もう、この一言に尽きる!このお話、書いてる間、ものすごく楽しかった!!

コハルさんを始め、みなさんにリクをもらったお話だったけど、いやー、こんなにツボにはまる話は久しぶりで。
39Pを3日だぞ、3日!多分、最速記録じゃないか?
どんだけギャグ好きなんだよ、わたし(笑)

スナックで第九の部下たちの相手をする薪さんが、アホ過ぎて(笑笑)
手品師の常套手段は分かっても、スナックの常識を知らない薪さん・・・・・
うちの薪さんはこれでいいのよ。スナックなんか、行ったことないの(そんなわけない)


今回もオカドチガイ男爵(わんすけさん命名)は大暴走。
うちの薪さんは、思考も行動も突っ走らなきゃ。

てか、うちのふたりはどっちもどっちで。
薪さんも突っ走るけど、青木くんもよくキレる。
原作の青木くんは自制心が強くて、大臣に殴られた薪さんに走りよるタイプだけど、うちの青木くんは直情型で、大臣に向かっていくタイプ。ジンクスのときも、三田村部長を締め上げちゃったし(^^;
今回もやってくれたよ。
普通だったら懲戒免職だぞ、おまえ(ーー;

ギャグを優先したから、お話の辻褄はあちこちで綻びてるけど。
まあ、ギャグだから。(←セーフとアウトの境界線が分かってない)
滝渕も、最終的には改心した、ということで甘いオチをつけてみた。シリアスだったらあんなに簡単に自白させないけど、今回は後味がいい話にしたかったので。

かなりムリヤリ、女装だの潜入捜査だの、王様ゲームだのとこじつけたけど。
書いてる本人が一番ムリがあると思ったのは、青木くんが薪さんの下着を鋏で切って、いきなり挿れようとしたシーン。
青木くん、あの状況で、よく勃たせたなって――― そこ!?


ラストの薪さんの独白シーンは、ちょっとだけ切ない。
『おまえに愛されるときだけは・・・・』ということは、裏を返せば、普段は自分の価値を認めていない、ということになる。冒頭の自分の顔が大嫌い、というのは、本当は自分がキライ、という意味で。

『オフタイム』という話の中で、「世界で一番きらいな人間」について青木くんと話すシーンがある。
2番目は三田村、3番目は竹内、じゃあ1番は?
この答えは書いてないし、青木くんはまさか自分?と焦ったりしてたけど・・・・・正解は、薪さん自身。
大切な鈴木さんを殺した自分を、恨んでるし嫌ってる。
それが3年経って、ようやく自分を認めようか、という気持ちが芽生えてくる。
青木くんがこんなに自分を大事にしてくれるなら、そこに価値を見出そう。自分を好きになろう、愛してみよう。

自分自身を愛せないひとは、他人も愛せない。
自分を大事にできないひとは、ひとのことも大事にできない。
自分や周りの人間を大切にできなかったら、そのひとは幸せにはなれない。
自己啓発セミナーに行くと、よくこういうことを言われるけど、実際はとても難しい。
なぜなら、自分は騙せないから。自分の中の汚い感情やずるい考え方を知らずにいることは不可能だから。
かといって、人間は神様じゃない。咄嗟に、マイナスの考えが浮かぶのは当たり前。
だから、思わず浮かんでしまう醜い感情を抑えることが大事なんじゃなくて、そういう自分を許していくことこそが大事なんだけど、うちの薪さんはとても狭量なひとで。自分も他人も許せない。だからいつまでも、過去のことを引き摺り続けて・・・・・。

そんな薪さんが今回、自分のことを「価値のある人間だと思おう」と考えてくれた。
そのことが、とてもうれしくて。書きながら、ちょっと震えた。
「それが僕の、ナルシストの掟」 でストンと納まったときには、ほっと息を吐いた。

エンドルフィン出まくりの、素晴らしい体験だった。
コハルさん、みなさん、本当にありがとう。


竹内警視の受難

みなさま、ありがとうございます!

叫びたくなるくらい、うれしかったです。

先日、仕事の関係で更新が週1くらいのペースになります、と身勝手なことを言ったのに。
たくさんの方から 「しづさんのからだの方が大事です。待ってますから大丈夫ですよ」 とのやさしい励ましのコメをいただきました。(;∇;)
本当に、この秘密ネットワークの方々はやさしい人ばかりで・・・・・コメをいただいたKさまの言葉をお借りするなら、
まさに 『奇跡のようなネットワーク』。
よくもこんなにいいひとばかり、善意ばかりが集まったものだと思います。

そんなみなさまの一端に加えていただけることに、喜びと誇らしさを感じています。みなさんに顔向けできないようなことはすまい、と自然に背筋が伸びます。お仕事にも気合が入ります。
(それで、どうしてああいう話が出来上がるかは、また別問題・・・・・・・すいません・・・・・・)

これからもよろしくお願い致します!!




***




舞台裏です。
独り言なので、スルーOKです。(^^




このお話は、かのんさんのリクエストから。(かのんさん、ありがとうございます)

竹内の何が不憫かって言ったら、薪さんのことが大好きなのに、徹底的に嫌われてるところ。
一生懸命、誠実に接しているのに、薪さんに嫌われ続けるところ。それでも薪さんを忘れられなくて、次々と彼女に振られるという正にマダオスパイラル。(笑)

今回なんか、命かけて薪さんを救ったのに、「10歳にもならない女の子を口説いて、あんなキスまでした変態ヤロー」という烙印を押されてしまった。(爆)

ものすごく不思議なんだけど、竹内が好き、という方が何人かいらっしゃって・・・・オリキャラを好きになってもらえるのはすごく光栄で舞い上がるほど嬉しいけど、やっぱり摩訶不思議。
わたしは竹内のことをカッコよく書いた覚えはない。ていうか、女ったらしはキライ。(←作者にまで嫌われる・・・・これこそ不憫№1だな)

だって、半年で4人も彼女変える男だよ??見舞いに来た彼女とキスしたり、それ以上のことしたい、とか考えてる男だよ??(サイテー)
なのに、なんで~~(@@)

それでも、竹内の中で、薪さんに対する思いだけは本物。
下手をすると、青木くんより純粋に薪さんのことを思ってたりする。でも、同時に諦めてもいる。かなわない恋だと、わかっている。でも諦めきれない。
・・・・・女々しくないか、それ(笑)

って、この気持ちって原作の薪さんの青木くんに対する・・・・・・いや、なんでもないです。(冷汗)


このお話を公開中に、K24さんとMさんにイラストを描いていただいた♪
自分の創作のシチュで誰かにイラストを描いてもらえるなんて、ありえないくらい幸せなことで。
ものすごくうれしかった!(≧∇≦)
おふたりともプロのように上手で、見た瞬間、「きゃー!!」と叫んでしまった。
自分でもはしゃぎすぎだと思ったけど、うれしさを抑えることができず、ご紹介の記事はかなりテンパッてて・・・・・不愉快に思われた方もいらっしゃったかと・・・・・
調子に乗りすぎてました。ごめんなさい(^^;



今回の衝撃スクープ

『薪には貯金がほとんどない』
お金に執着しないと言えば聞こえがいいけど、これってただの浪費家じゃ。
こんな男、イヤ。(笑)

ナルシストの掟~あとがき~

 この度は、うちの薪さんの潜入捜査にお付き合いくださいまして、ありがとうございました!

 このお話は、皆さんのリクエストから生まれました。リクエストに票を入れてくださった方々に、改めてお礼を申し上げます。

 最初にこのリクをくださったのは、コハルさんでしたが、(お許しをいただけたので、お名前を出させていただきます)それがすごく具体的なリクでして。
『スナックで女装して、第九のメンバーを接待する』
『王様ゲームでみんなの言いなりになる』
『浮気した薪さんが青木くんに責められる鬼畜R系』
(最初にいただいたときは、爆笑しました。コハルさん、ごめんなさい)

 真面目な話、最初の2つはいいとして、(いいの?)最後のひとつは無理だろう、と思いました。
 鬼畜Rはともかく(ともかく?)うちの薪さんに浮気は無理です。薪さん自身、不倫や浮気が大っ嫌いで。自分を愛してくれる恋人がいるのに、不誠実な言動を平気で取る人間には憎しみすら覚える、というひとですから。
 この薪さんにどうやって浮気させよう、と悩みました。(悩むなよ)

 で、うちの薪さんに相談を。
「薪さん。ちょっと浮気してみない?」
「しない」(即答。0.3秒)
「そんなこと言わないでさ。青木くんより相性のいいひとがいるかもよ?」
「他の人間とやりたかったら、別れてから正々堂々とやる」
 ああ、あんたはそういう人よね……不倫するくらいなら離婚してからやればいいんだ、とか、めちゃめちゃなこと言ってたもんね。

 どう説得してもOKしてくれないので、浮気じゃなくて、潜入捜査で身体を張る形に持っていくことにしました。
 うちの薪さんなら、「たくさんの命が救えるなら、自分の身など惜しくない」と思うだろうと。


 このお話、非常にわたしのツボに嵌りまして。
 最近、ここまでわたしがノッたお話はないです。

 以前はお話を書いている間は、疲れも感じないし眠くもならない、お腹も空かない、という状態で取りつかれたようになっていたのですが、(←キチガイ)このところはすっかり落ち着いてしまいまして。
 皆様の素晴らしい創作を読ませていただいて、すっかり満足してしまったので、これなら自分が書かなくてもいいやー、とか思ってたんですね。当たり前ですけど、展開がわかってる自分の話より、ひと様の書かれた話のほうが面白いし。

 そのせいか、お話は浮かんでも没頭できないというか、キャラが動かないというか……書いていても、いまひとつ夢中になれなかったのです。おかげでボツになったエピソードが、10個くらいありますねえ。(苦笑)

 でも、このお話は夢中で書きました。
 構想1日、執筆3日というスピードでした。
 推敲には時間をかけましたが、書き上がりは異常に早かったです。すごくすごく楽しくて、幸せでした。


 白状しますと、このお話で一番楽しんでいたのはわたしです。
 今回は、読んでくださってありがとうございました、の他に、書かせていただいてありがとうございました、という気持ちでいっぱいです。

 具体的にリクエストをくださった、コハルさんのおかげです。
 手間をかけて投票してくださった、みなさまのおかげです。

 本当に、ありがとうございました!!



5000拍手のお礼と、今後の予定のお知らせ

みなさま、5000拍手ありがとうございました!!(歓喜の踊り)
こころから御礼申し上げます!!

5000拍手をいただいたお礼に、以前のようにリクエストを募りたいところですが、4000のリクの「薪さんに猛烈なアタックをする男性が現れる」というお話が、まだ手をつけたばかりの状態でして。
(脳科学者は・・・・しづの頭には難しいです・・・・専門用語がチンプンカンプンです・・・でも何とか頑張ってます。少なくとも、捜一時代の薪さんよりは書きやすいです)
ということで、今回のお礼は3番目に票が多かった「薪さんが鈴木さんに振られる話」にしようと思います。
こちらは既に書いてありますので・・・・いえ、その、決して新しいお話を書く手間を惜しんでいるわけではなく。

実は、リアルのほうで、かなり仕事が忙しくなってきまして。
うちの会社は毎年、冬から3月までは公共工事の書類地獄に入るのです。夜は11時くらいまで仕事です。自営業だから、日曜も祭日もないし。まるで第九の職員のような生活に(笑)いっそうちの従業員に、わたしのことを「室長」って呼ばせようかしら。(←どんな状況でも笑いに持っていくタイプ)

おそらく、新しいリクをいただいても書く時間が取れない可能性が高いので、投票フォームは次の機会に持ち越したいと思います。

それと、身勝手でたいへん申し訳ないのですが。
ブログのほうも、更新は1週間に1度くらいの頻度になっていくと思われます。そのくらいが体力的にも限界かと。
わたしの場合は、既に書き溜めたものをアップしているだけなので、新しいものを書きながら公開されている方よりずっと楽なのですが、それでも推敲はしなくてはいけないし、それには時間が必要です。
お話の途中で日にちを空けるくらいなら、春までブログはお休みしたほうがいいかしら、とも考えたんですが、それはわたしが淋しいので。(勝手なやつですいません・・・)


ブログを開設して4ヶ月。
決して万人には受け入れられないタイプのわたしの創作に、温かい拍手とやさしいお言葉をたくさんいただいてきました。
今までも、わたしって幸せ者だわ、と思って生きてきましたけど、(友人には脳天気とか、不幸に気付かない幸せな奴と言われてますが)中でもこの4ヶ月は、最高に幸せな日々でございました。
みなさんのおかげです。ありがとうございました。

これからも薪さんを愛する方々の輪に加えていただきたい、つながっていたいと思っておりますので、どうかよろしくお願いいたします。m(_ _)m

ナルシストの掟(13)

ナルシストの掟(13)






「オレが怒ってるのは、あなたが自分のからだを道具にしようとしたからです」

 薪は目を瞠った。
 だって、仕方なかった。自分のからだひとつで、大きな情報が得られるかもしれなかったのだ。捜査官なら、仕事にからだを張るのは当然だ。
 だいいち、そのことについて青木に怒られる筋合いはない。このからだは僕のものだ。優先順位は、僕にあるはずだ。

「僕の」
「自分の身体をどうしようと自分の勝手だ、なんてふざけたこと言ったら、このまま奥までぶち込みますよ」
 恐怖に舌の根が乾いた。
 冗談じゃない。そんなことされたら、明日は仕事にならない。

「オレたちは、恋人同士なんですよね?」
 青木は鋭い眼で薪の瞳を捕らえたまま、押し殺すような声で言った。脅しつけるような口調なのに、どこかしら哀しそうな響きだった。
「まあ、一応……」
「ですよね!?」
 キレてる。
 これ以上、怒らせないほうが身のためだ。

「うん、そうそう。おまえの言うとおり」
「だったら、お互いのからだは共有物でしょう? あなたのからだもオレの身体も、二人で一緒に大切にしていくものでしょう?」
 夫婦には共有財産という概念があるが、恋人の場合はそれはないはずだ。
 薪がそのことを控えめに主張すると、「夫婦も恋人も似たようなもんです」と断ち切られた。
 そんな曖昧なことでいいのか、法学部。

「オレが……オレひとりがいくら大事にしたって、あなた自身があなたを大事にしてくれなかったら、オレにはどうしようもないじゃないですか」
 長い両腕が切なく絡んで、薪の身体を抱きしめた。最近、憎らしいくらいに男らしく削げ落ちてきた頬が、薪のやわらかい頬に頬ずりする。
 滝渕に引っ叩かれた傷から微かに滲んだ血が、青木の頬についた。さっき薪が思い切り殴ってやったから、青木だって痛いはずだ。

「オレがこんなに大事にしてるのに」
 薪の顔の両側に肘を付いて、青木は薪の顔を見つめた。
 またこいつは、こんな傷ついたような顔をして。
 ひどい目に遭わされたのはこっちなのに、被害者面するなんて、ずるいやつだ。

「オレだけじゃないです。岡部さんだって第九のみんなだって、三好先生だって……竹内さんだって。みんな、あなたのことを大切にしてるじゃないですか。みんなが大事にしてるものを、あなたの勝手で壊す権利なんか、あなたにはないはずです」
 レンズの向こう側の黒い瞳が、懊悩を浮かべる。怒りと悲しみと、自分の無力さに対する苛立ちと。何よりも大事なものを傷つけられた痛みが、かれの目の縁に透明な液体を湧き上がらせる。

 でかいアホガキが、ベソかきやがって。
 怒るなら怒る、泣くなら泣くではっきりしてくれないと、こっちも対応に迷うのだが。
 てか、どうでもいいからこの手枷をはずせ。

 薪は無言で青木を睨みつけ、両手を前に突き出した。細い顎を右上に動かして、解放を命令する。
 青木はサイドボードの上から鋏を取り、薪の両手を自由にしてくれた。何度か手を握ったり開いたりして、感覚を取り戻す。

「薪さん、あの……ぐぎゃっ!」
 口を開きかけた男の頬に、強力な右ストレート。たしかな手ごたえと、手首に些少の痛み。このところ鍛錬をサボリ気味だからか、脇の締め方が甘かったらしい。二発目のパンチは諦めて、膝で青木の腹を蹴り上げる。
 どすん! という音が響いて、寝室の床が振動した。

「これでさっきのおまえの暴行未遂、チャラにしてやる」
「あ、ありがとう、ございます……」
 ベッドから転がり落ちて床の上に腰を落とし、青木は頬を押さえている。だいぶ痛かったらしい。

 当然だ。思いっきり殴ってやったんだから。
 僕にあんなことをするなんて。しかも、上司に説教するなんて。100年早いわ、クソガキが。

 果てしなく傲慢なことをこころの中で思いつつ、先刻の黒い瞳の輝きを想う。
 純粋で、一筋の曇りもない。真っ直ぐに自分を貫いた視線。

 薪は、ゆるゆると頭を振った。ベッドの上に胡坐をかいて、自分のこころに浮かんだセリフを相手に言うべきかどうか、逡巡する。
 ふっくらとした下唇を白い前歯が噛み、出かかった言葉を塞き止める。言いたいことは、たくさんあるのだ。

 薪は理屈をこねるのは得意だ。豊富な知識とボキャブラリで言葉を魔法のように操って、完膚なきまでに相手の持論を叩き潰すことができる。あんな青臭い意見に対する反駁なぞ、容易いことだ。単語だけだって、新聞紙一枚分の言葉を並べることができる。
 でも、それらをすべて口に出すのは間違いだ。本当に必要なことだけを言えばいい。人との会話というのは、そういうものだ。
 だから、一言だけ。

「悪かった」
 顔を横に背けて、ぼそりと小さな声で。

 悪びれた様子もなく、むしろふて腐れた不良少年のように。これで青木の怒りが治まると思っているのだから、薪の自信も相当なものだ。謝罪会見でこんなことをしたら、間違いなく世間の非難が集中するだろう。

「はい」
 青木はにっこりと笑って、薪の心のこもらない謝罪を受け入れる。
 そこで許してしまうからますます薪が増長するのだということが、青木にはわからないのだろうか。

「オレの方こそ、すみませんでした。あなたに乱暴なことをしてしまって。反省してます」
 おまえが謝ってどうする、と誰か突っ込んでやって欲しい。
「反省するなら許してやる」
「ありがとうございます」
 ……だめだ、こりゃ。
 まあ、このふたりはこれでいいのかもしれない。恋人同士、というよりは女王様と奴隷だが。それでも当人同士が幸せなら、だれもそこに口を挟む権利はない。

 薪は、ベッドの上から横柄な態度で青木を手招きする。
 手のひらを上に向け、犬でも呼ぶように指を自分の方に倒し、むっつりしたまま横目で青木を見る。
 実際に薪が犬を呼ぶときは、両手を広げてとびきりの笑顔になるから、これは犬より下の扱いだ。
 それでも。
 その目には、限りない色香が含まれていて。不機嫌に眇められているのではなく、誘われているのだと解釈できるのは、青木の才能のひとつだろう。そのどこまでも前向きな思考回路を、薪は密かに羨んでいる。

 青木はベッドに乗ってきて、薪の肩に両手を置いた。座ったまま、キスをする。
 始まりの合図のキスは、やがて先を促す激しい交歓に。口中を侵略するように貪っていった青木の舌から解放されて、薪は大きく息を吐く。

「あ、服」
「たまにはいいです、こういうのも。刺激があって」
 普通の服ならそれもいいかもしれないけれど、今、薪が着ているのは、深紅のチャイナドレスだ。これじゃカンペキにオカマさんだ。
「いやだ。こんなヘンタイみたいな格好」
 男同士でセックスしているのだから、紛れもないヘンタイなのだが。それは置いといて。

「どんな格好してたって、薪さんはきれいですよ」
「38になる男を捕まえて、きれいとかって言うな!」
「だって、仕方ないじゃないですか。オレにはそう見えるんですから。薪さんはこの世でいちばん可愛くてきれいな、オレの自慢の恋人です」
「バカにして、んっ!」
 感じやすい耳から首筋へ、青木の吐息とくちびるが、彼の飢えと火照りを伝えてくる。その熱は薪の皮膚から深部に浸透して、それと呼応する部分を共鳴させる。

「どこまでも純粋で、きれい」
 滝渕に切り裂かれた胸の布地をはだけられて、中の柔肌に恋人のくちびるが下りてくる。いつも通りのやさしいキスに、薪のからだがゆっくりと蕩けていく。
 スカートの中に手が入ってきて、もはや下着の機能を持たなくなった布を薪のからだから取りさろうとしている。薪は自分から腰を上げて、それに応じた。

 スカートを捲り上げられて、顕になったへその下方に濡れた舌が這い降りていく。やさしく腿を撫でられて、そっと開かされる。
「身体の芯まで、ほら。こんなにきれい……」

 身体の芯、てのは脊髄とかじゃないのか。そこは単なる生殖器官だろ。
 だいいち、それはキレイなんて形容詞が当てはまるようなシロモノじゃなくて。

 露を含んだ先端を、ひとさし指と中指でつつっと撫でられて、自分のそれと青木の指を、ねっとりと繋ぐ糸を想像する。恥ずかしさに身悶えする薪の足がさらに大きく広げられて、内腿に青木の硬い髪が触れる。
「あっ、あっ……!」
 青木が言う『きれい』の象徴が、彼のくちびるに挟まれて、やわらかい舌が絡んでくる。腰の辺りがジンジンしてきて、薪の理性に綻びが出始める。脳内では、様々な色のシグナルが点滅する。明確な誘導ができなくなって、あちこちで命令系統がトラブルを起こしているみたいだ。

 痺れていく脳髄の奥で、薪はせめてもの反駁を試みる。
 僕がきれいだって?

 反論の言葉なら、電話帳一冊分だって重ねることができる。1時間でも2時間でも、「38歳の男の身体がきれいだ」という青木の思い込みを砕く言葉を吐き続けることができるだろう。
 でも、口から出てくるのは、甘い吐息と濡れた声だけで。羞恥に頬を染めながらも、潤んだ亜麻色の瞳には、すでに愉悦の色しかなくて。

 ああ、もういいや。面倒だ。
 そうだとも。
 僕は世界一きれいで美しいんだ。

 おまえに愛されるときだけは、僕はナルシストになろう。
 大切なおまえの言うことは、全部肯定してやろう。

 僕を永遠に好きだと言う言葉も。
 死ぬまで一緒だという、バカげた妄想も。
 僕の心も身体もきれいだ、という間違いだらけの認識も。
 穢れてなんかいない、罪なんかないという、僕の過去を根底からひっくり返すような無謀な意見も、全部全部、肯定して。
 自分が、おまえに愛される価値のある人間だと思い込もう。
 せわしない呼気の中で、それをうれしく噛み締めよう。
 おまえを身体の奥に感じながら、この地上最後の天使みたいな純真バカが、未来永劫僕を愛してくれるんだ、と信じよう。

 今だけ。
 いま、このときだけ。
 それが僕の、ナルシストの掟。


 ―了―




(2009.9)


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

ナルシストの掟(12)

 たった6日、ブログを離れただけなのに、気分はすっかり浦島太郎・・・・(@@)
 Mさんのところでは「SLIP」完結してるし、Yさんのところは「鳳仙花」あとがきに入ってるし~~。Kさんのところは「紅葉」のあとがきにリンク張ってもらった御礼もせずにいて・・・・うにゃああ、申し訳ないことだらけです(><)
(作品名を出した時点で、イニシャルの意味ない(笑))


 そして、K24さんがイラストを描いてくれたことも知りませんでした!
 遅ればせながら、リンクさせていただきます。(^^

 こちらからどうぞ!

 薪さんの色っぽーいおみ足が見られます(〃∇〃)

 モロ、三角関係の構図だし。(笑)
 こちらのイラストに文字を入れるとしたら。
 愛憎渦巻くサスペンス劇場『ナルシストの掟』~妖艶な美女をめぐって、二人の男が骨肉の争いを~  
 って昼メロ!?


 冗談は置いといて、お話のほうですが。
 ここからは、特定の方のお好みで、青木くんの鬼畜R系になってます。と言っても、激しいものではないので、子供が読んでも大丈夫です。(いや、子供はまずいか)
 でも、やさしい青木くんと彼に包まれて幸せそうな薪さんがお好みの方は読まないほうが無難です。それと、青木くんが薪さんより優位に立つのが嫌いな方も要注意です。

 では、大丈夫な方のみお進み下さい。






ナルシストの掟(12)






 自宅のドアを開けると同時に、薪の携帯が鳴った。
 春物のコートを脱ぎながら、薪は電話に出る。電話の相手は予期した通り、今夜の仕事の相棒だった。
「脇田課長。先程は申し訳ありませんでした。うちの職員が、とんでもないことを」
 薪は電話をしながら、思わず頭を下げた。脇田の姿が見えなくても、頭を低くせずにはいられない。常識では考えられないことをしでかしてくれた、バカな部下のせいだ。

 青木は第九の職員たちと別れた後、竹内と連絡を取って現場にやって来た。張り込んでいた現場の人間から薪が置かれた状況を知ると、作戦を聞こうともせずに即行で踏み込もうとしたらしい。それを止めようとした5課の職員を投げ飛ばし、さらには彼から拳銃を奪い取ってホテルの玄関に突っ込んでいったと聞いた時には、いっそあのまま滝渕にクスリを打たれていたほうがマシだったと思うくらい、絶望的な気分になった。

 竹内から事情を聞いた薪は、みんなの前で思い切り青木の頬を張り飛ばした。青木の勝手な行動で、作戦が台無しになるところだったのだ。
『薪室長。青木を責めないでやって下さい。元はと言えば、俺が』
 青木とは仲の良い竹内が、薪の二発目の拳を押さえた。
 竹内は青木を止めようと後を追ったが、青木が拳銃で部屋の鍵を壊したの見て、諦めたそうだ。脇田に合図を送り、青木と共に部屋に踏み込んだ。
 結果として薪は命拾いしたわけだが、上の命令に逆らうことは警察官にとって最大のタブーだ。指揮系統が乱れたら、組織は崩壊する。
 青木がやったことは、重大な背信行為だ。減俸処分くらいで済めばいいが、脇田にクレームをつけられて、査問会に掛けられたりしたら。

「無理は承知でお願いします。今回のことは、何とか穏便に」
『かかか! 第九にあんなはねっ返りがいたとはな! ちょっと見直したぜ』
 脇田の豪快な笑い声に、薪は胸を撫で下ろした。どうやら事なきを得そうだ。
「ありがとうございます。部下には、僕の方から厳しく言っておきますので」
『お前さんが言えた義理かい? 勝手な行動は、お前さんも得意だろうが』
 屈辱だ。青木(バカ)と一緒にしないでもらいたい。

「脇田課長。僕に何か用事だったんじゃ……え!? 自白した?」
 服を脱ぎかけた薪の手が止まる。
 一刻も早くこのボロボロの衣装を替えようと思っていたのだが、電話の内容は重大だ。こちらが先だ。
「滝渕が、組織のことを喋ったんですか?」
『おう。パトカーの中で、歌いまくったぜ。おかげでこっちはてんてこ舞いよ。今夜中にもガサ入れだ』

 意外だ。
 絶対に口を割りそうになかったのに。取調べは長引くと思ったからこそ、薪は自宅に戻ったのだ。
 青木に車を運転させて、Aホテルから帰ってきた。今日は疲れてるからゆっくり休んで、明日は滝渕の取調べに立ち会うつもりだった。

「どうして?」
『警察が自分の身を守ってくれる、と判断したんだろ』
 そうだろうか。
 とてもそんなことを考えているようには見えなかった。あのとき、滝渕は薪を殺そうとしたのだ。致死量を遥かに超える覚醒剤を投与しようとして。薪が死んでいたら、情状酌量も何もなかったはずだ。

『滝渕がお前さんに注射しようとしたクスリな。ただのブドウ糖だった』
「ブドウ糖?」
『お前さんを殺す気なんか、なかったんだよ。ちいっと脅してやっただけだ、って言ってたぞ。焦るお前さんの顔が面白かったって、笑ってた』

 ちょっと? あれがちょっと?
 冗談じゃない、本気で死を覚悟したのに。

『お前さんに礼を言っといてくれとさ。最後にいいもん拝ましてもらった、って』
「いいものって?」
『女装のことだろ』
「まさか」
『じゃあ、ハダカの方か』
「もっとありえません」
『ガラス玉だと思ったら、宝石だったって言ってたな』
「はあ?」
 さっぱりわからない。

「なんのことですか? それ」
『なんで俺に訊くんだよ。滝渕と交渉してたのは、お前さんだろ』
「僕にだって、見当もつきませんよ」
 他人が何を考えているのかなんて、ちっとも解らない。罪を犯すに到った心理はすらすら読み解く薪だが、こういうことはまた別だ。

 なぜ、滝渕は心変わりしたのだろう。いや、あの腐りきった男のことだ。ガセネタということも考えられる。警察に一泡、吹かせようとしているのかも。
 しかし、それが自分に何のメリットもないということは、滝渕もわかっているはずだ。あの男はバカではない。そうなると、残る可能性としては。

 あらゆる仮説を検討していた薪は、一緒に部屋に入った部下が、いつの間にか傍らに立っていることに気付かなかった。ひょいと身体を抱え上げられて、現実に戻ってくる。
「青木。後にしろ。今ちょっと考えて」
 相手をしてやらないわけではないが、シャワーを浴びて着替えてからだ。さっき滝渕にあちこち触られたままの身体なんて、こいつだってイヤだろう。

 薪の抗議を無視して、青木は寝室に入った。
 先月、買ったばかりのダブルベット。まだスプリングが少し硬い。
 そのベッドに、薪の身体を乱暴に押し付ける。硬いバネが薪の背中で、ギシッと音を立てた。

 さっきから青木は、一言も喋らない。
 むっつりと表情を消している。いつもは熱っぽく薪を見る眼鏡の奥の瞳が、モニターを見るときのように細く眇められている。その眼は、薪に何も語りかけてこない。
 青木がこうなったことは、今までにも何回かあった。
 ヤキモチだ。
 まったく、公私混同もいいところだ。今回のこれは職務で、仕方のないことだったのに。

「青木、あのな。今夜のことは、別に僕が自分から望んだわけじゃなくてだな。昨日話した通り、5課の課長に頼まれて。店では証拠を押さえられなかったから、あの男について行っただけで、おまえを裏切ろうとしたわけじゃない」
 薪の釈明を、青木は黙って聞いていた。しかし、彼は薪の肩を押さえつけたままで、薪を自由にしてくれる気は無いようだった。

「あの男とは、何もなかった。ちょっと足とか触られたくらいで、唇も許してない」
 不貞を働いていない事実を告げても、青木の表情は変わらなかった。
 今回の嫉妬は、大きそうだ。ここはひとつ、こいつが喜びそうなセリフを言って、機嫌を取ってやるとするか。

 薪は顔を横に向けて、瞼を伏せた。視線を自分の右肩に固定して、小さな声で呟く。
「その……おまえのために、守ったんだぞ。だから、機嫌直せ」
 これでこいつは、尻尾を振って懐いてくるはずだ。こいつを調子付かせると明日の朝が辛いから、あまりこういうことは言いたくないのだが。

 ところが、薪の読みは外れた。
 青木は薪の両手首を合わせ、自分の右手でその自由を奪うと、左手で破れたチャイナドレスの胸を更に引き裂いた。赤い布地に歯を立てて布目に沿って細く裂くと、急ごしらえの紐で薪の手首を縛った。
 人間、あまりにも意外な行動に出られると、思考が停止してしまうものらしい。薪はろくな抵抗もせず青木の狼藉を許し、その後、自失状態から復帰したときには、既に両手の自由を奪われていた。
 正気に返って、思わず叫ぶ。

「青木! ヤキモチも大概に―― 痛っ!」
 怒鳴りつけてやろうとしたら、手首を捻り上げられた。頭の上に押さえつけられて、肘がギリギリと痛んだ。
 なんなんだ。
 どうして1日に二度もこんな目に遭わなきゃならないんだ。しかも、こっちはプライベートなのに。
 こいつ、さっきの僕の格好見て、ヘンなことに目覚めちゃったんじゃないだろうな。

「ほどけ! 僕はそんな趣味は」
 ジャキ、という金属音に身を竦ませる。音がした方向を見ると、青木が右手に鋏を持っていた。
 ピカピカ光る裁縫用の裁ちバサミ。いつの間に持ち出してきたのだろう。
「あ、あおき……?」

 青木が自分の上から退いても、薪は用心深く動かずにいた。
 眼の色が、尋常じゃない。これは下手に動かないほうがいい。
 嫉妬に狂った男に鋏で刺されるなんて、そんな事件を起こしてたまるか。第九のみんなにも、僕たちのことを見逃してくれている小野田さんにも、申し訳が立たない。
 他にも、青木の親や親戚や友人や、雪子さんにだって。周りへの影響を考えると、滝渕に注射器を突きつけられたときよりも、こっちのほうが状況はより深刻だ。

 青木は鋏を操って、スリットが入っていない側の布地を切った。足を摑まれて、乱暴に開かされる。下着の上に尖った鋏の切っ先を当てられて、薪のからだの中心が縮みあがった。

 まさか、切り落とす気じゃないだろうな。これさえなければ浮気しないでしょう、とか言い出すんじゃないだろうな。いくらこいつがヤキモチ妬きだって、そこまでは。

 ジャキジャキと布を切る音がする。
 冷たい金属が尻肉に触れて、薪は身を固くする。動いたら大怪我しそうだ。

 下着を切られた。尻の辺りがスースーする。ビキニパンツはこれしか持ってないのに。3ヵ月後のこいつの誕生日のときに穿いてやる計画は、無期延期だ。ていうか、永久に棚上げだ。

「あっ、やっ、ちょっ……!」
 足を肩に担がれて、腰を持ち上げられる。スカートを捲し上げられて、切られた下着の隙間から熱を持った先端をあてがわれる。

 このまま?
 嘘だろ!

「いっ、痛うっ!!」
 めりりっと身体が割り裂かれて、薪は悲鳴を上げた。
「痛い! 痛いってば! 青木!!」
 痛いに決まってる。
 ほぐすどころかローションもなしで。まだ全然その気になってないのに、無理矢理ねじ込まれたら。

 薪は夢中で抵抗した。
 縛られたままの両手で、青木の胸をバンバン叩く。
「いやだ!」
 こいつとセックスするのが嫌なんじゃなくて。僕だって、今日はその気だったし。
 べつにやさしくして欲しいとか、いつもみたいに「愛してる」とかって言って欲しいわけじゃないけど。

「や、いやだ、これじゃまるで」
 悔しくて、涙が出てきた。

 こんなのは違う。
 セックスじゃない、これは僕たちのセックスじゃない。

 いつもはもっと、お互いが興奮して楽しくて。恥ずかしいけどうれしくて。
 ちょっと、いや、かなり痛いときもあるけど、それでも幸せで。青木が僕の中にいるのを感じて、僕の細胞が青木に溶け込むのが分かって。
 僕の中が青木に擦られるたびに、青木への愛情がどんどん膨れ上がっていく。それは痛みを遥かに凌駕する幸福感で。それがいつもの僕たちなのに。

「これじゃまるで、道具じゃないか!」
 こんな、局部だけを露出させて、その部分だけ使えればいいと言わんばかりに。
 今の僕は、ただの肉の塊だ。性欲処理のオモチャだ。人間として扱われていない。
 そんな非道なことを、こいつが僕にするなんて。

「これは薪さんが、今夜しようとしたことですよ」
「だから何もしてないって! キスも許さなかったって言っただろ! なに聞いてたんだ、おまえ」
 嫉妬のあまり、恋人の言うことも信じられないなんて。青木がこんなに狭量な男だとは思わなかった。

「やっぱりあなたは、何もわかってない」
 大きな手が、薪の頭頂部を摑んだ。ぎゅっと握られて、髪の毛が引っ張られる。
 ものすごく痛い。
 力入れすぎだ。禿げたらおまえのせいだぞ!

「オレが言ってるのは、そういうことじゃないです」
 痛みに上向いた薪の顔の前に、青木の顔が迫ってきた。とても怖い目をしている。こんな青木は……去年の夏の、あのとき以来だ。

「オレが怒ってるのは、あなたが自分の身体を道具にしようとしたからです」



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ナルシストの掟(11)

ナルシストの掟(11)








「そのきれいごとが、いつまで続くかな。ここにあるヤクだけでも、全部打てば楽にあの世に逝けるぜ」
 薪の両手を革のベルトでベッドヘッドに固定して、滝渕は残忍な笑いを洩らした。
もがき続ける薪の足を1本ずつ縛る。足を曲げさせて広げさせ、足首と太ももとを繋ぐ拘束具で自由を奪う。こういうものが用意してあるところを見ると、ここは滝渕がそういう目的に使っていたところらしい。何人もの中毒者がクスリをチラつかされてここに引き込まれ、この男の餌食になってきたのだろう。
 手足を縛られては、いくら薪が黒帯でも反撃はできない。こうなったらネゴシエイトだ。

「外で5課が待機している。素直に投降すれば、おまえの罪もいくらかは軽くなるぞ」
「まあ、そうだろうな。潜入捜査がされるってことは、アミ(包囲網)も完璧だろう。おれも年貢の納め時ってことよ」
 滝渕は状況を冷静に把握している。末端の売人ではないから、それなりに頭も切れるのか。
「ムショに入る前に最後に抱くのが、男だってのはちょっと悲しいけどな。まあ、いいや。塀の中にはあんたみてえなシャン(美人)はいねえからな。せいぜい、楽しませてもらう」
 臍を噛む思いで薪が滝渕の様子を見ていると、滝渕はベッドの下から粉状のクスリを取り出した。水で溶いて注射器で吸い上げる。

 ……ちょっと待て。それ、致死量超えてないか?

「少し多すぎるんじゃないか? 楽しむだけなら、その100分の1くらいでよくないか?」
 1グラムの覚醒剤で、人間死ぬんだぞ。おまえもプロならわかってるだろ!?
「あの世に逝く瞬間の女の締まりは、最高なんだぜ。男で試すのは、あんたが初めてだが」
 そんなのなくても、僕のは締まりいいから! よすぎて最初、入らなかったくらいだから! 今でもけっこう苦労して、ってそんなこと言ってる場合か!

「僕を殺したら、極刑になるかもしれないぞ」
 心の中の焦燥を表に出さないよう注意して、薪は落ち着いた声で言った。ネゴシエイトは、相手に焦りを悟られたら負けだ。
「なに寝ぼけたこと言ってんだ。この世界、捕まったらゲームセットなんだよ」
 自棄になってる。当たり前か。
 どのみち、滝渕に未来はない。警察に捕まって刑務所に送り込まれた麻薬の売人がどんな末路を辿るか、薪だって知らないわけではない。五体満足では出て来れない。そして刑務所から出たら、組織の報復が待っている。薪に恨みを持つのは当然のことだ。

「そう悲観的になることはない。親元を教えてくれれば、その情報と引き換えに、おまえの身の安全は警察で保証する。おまえの協力次第で、情状酌量の余地も」
「サツに人生売るくれえなら、死んだ方がマシだ」
 だめか。
 どの世界でも、頑固者ってのは厄介だ。

 滝渕がこちらを振り返った。注射器の先端から、透明な液体がこぼれる。
 滝渕の眼は、冷徹な殺人者の眼だ。これは滝渕にとって、いつものゲームに過ぎないのだ。ゲームが終わってここに死体が転がったとしても、薬物に溺れた人間のひとりくらい、跡形もなく消してしまう。組織犯罪の恐ろしさを、薪は厭というほど知っている。

「やめろ! 打つな!」
 さすがに、冷静を保てなくなってきた。声が恐怖に裏返る。
「打っといたほうがいいぜ。初めてなんだろ? これがありゃあ、最初から天国に逝けるぜ」
「いや、大丈夫だから! 何度もイッたことあるから! 僕はもうベテランだから!」
 本当はこの1年の間に、まだ1回ぐらいしかそうなったことがないのだが、ここはこうとでも言わないと。
「あん? もしかして、あんたアンコなのか?」
「ま、まあ一応、その……今のところは」
「ふーん。純情そうな顔して、見かけによらねえな」
 納得はしてくれたようだが、手を止める気はないらしい。悪魔の液体をたっぷりと含んだ注射針の先が、薪の首に近付いてくる。
「よせ! やめろ!!」
 こんなところでこんな奴に犯り殺されるなんて。
 いくらなんでも、この死に方はあんまりだ。こんなことなら、こないだ青木に死ぬかと思うほどイかされたとき、素直に死んどきゃよかった、ってそうじゃなくて!!

 そのとき、2発の銃声が轟いて、ベッドの上のふたりは硬直した。間髪入れずにドアが蹴破られ、2人の男が入ってくる。
「滝渕! 無駄な抵抗は、ってこら! 青木!」
 名前を呼ばれた長身の男は、銃口を滝渕の頭に突きつけると、無言で注射器を払い落とした。首の部分を掴み、ベッドの下に投げ落とす。
 現場に踏み込んだときのセオリーは、犯人に投降を呼びかけてから、抵抗するようなら反撃し、犯人を確保する。決して警察側から先に手を出してはいけない。相手が凶器を所持しているようなら威嚇射撃も止むを得ない、とされる。
 なので、青木がいまやっていることは大間違いだ。丸腰の相手に銃を突きつけて、両手を上げた相手を乱暴に床に投げつけた。重大な職務規定違反である。始末書が5枚ばかり必要になりそうだ。

「わかった、大人しくするよ……ぎゃっ!!」
 犯人が降参の意を示したのに、銃身で殴った。しかも3発も。始末書はあと3枚、追加だ。
「おい青木、それくらいで」
 竹内が、ベッドの上に横たわっている薪に気づいて言葉を止めた。
 生まれたままの姿で、両手を拘束され頭上に結わえられている。革ベルトで両足を固定され、脚をMの字に開かされて。
 竹内は黙ってシーツを薪の身体に掛けると、床に転がった滝渕を青木と一緒になって蹴り始めた。始末書の山が出来そうだ。

「おまえら! 先に僕の拘束を解け!」
 警視正として室長として、部下の暴走を止めないといけない。
 薪は大声で叫んだ。

「僕にも殴らせろ!!」




*****


『アンコ』というのは、マルボー用語で受け役の男のひとのことです。
 ご存知の方、いらっしゃったかしら。


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ナルシストの掟(10)

ナルシストの掟(10)






 滝渕が部屋に戻ると、今夜の恋人はバスローブ姿でベッドの端に腰掛けていた。

 長い睫毛に囲まれた亜麻色の瞳が半開きになり、その視線は空をさまよっている。ちいさな手に載せられた、注射器とアンプルの小瓶。瓶も注射器の中も空っぽで、その中身は彼の身体中を血液と共に巡っている最中らしい。
 隣に座って、華奢なからだをベッドに横たえる。バスローブの紐を解いて滑らかな肌に触れると、固く強張っている。まだクスリが回りきっていないのか、常習しすぎて1本では効かないのか。
 抵抗されたら厄介だ。事前に手を打つに限る。
 滝渕の懸念は、もうひとつある。どちらかというと、こちらの方がより重要だ。

「あっ、なにを」
 バスローブの紐で、手首を縛る。足を広げさせて、例の場所を確認する。
 ローブの下はなにもつけていないから、下腹部が丸見えだ。シミひとつない内腿と、やわらかそうな尻。その間にある、滝渕も見慣れたもの。

「やっぱりな。あんた、クスリなんかやっちゃいねえだろ」
 注射針の痕は、フェイクだ。
 触感にまで拘ったメイクを風呂場で落としてきちまうなんて、よっぽど動転していたに違いない。先刻からの不自然な態度といい、こいつは男の相手などしたことがないのだろう。さっきの男とのことも、芝居だったに違いない。

 びくっと細いからだが震えた次の瞬間、思いがけない素早さで、紐で結ばれた両手が滝渕の顔面めがけて繰り出された。すんでのところでそれを避け、手首を捉えてベッドに押しつける。
 明らかに訓練された者の動きだ。どうやら、悪い予感が当たってしまったらしい。
「あんた、サツの犬か? さっきの男もグルか」

 薪はギッとくちびるを噛んで、滝渕の顔を睨みつけた。亜麻色の大きな瞳が怒りに燃えて、熾烈な輝きを宿している。
 驚いた。
 今まで男は女の代用品という考えしかなかったが、こいつはそそる。恥辱に頬を染めている表情もクるし、手首の拘束を解こうと、もがくさまにも煽られる。

 こんな細っこいからだを押さえ込むのは、滝渕の体躯をもってすれば簡単なことだ。腹の上に跨って体重を乗せれば、相手はぴくりとも動けなくなる。
「どうして分かった?」
 観念したのか、薪は大人しくなった。抵抗するのをやめて、静かな瞳で滝渕を見上げる。
「下手な芝居だったか」
「いや。良い演技だったよ。ここに来てコンタクトを外すまでは、正直信じきってた」
「コンタクト?」
 眉をひそめて、薪は尋ねた。

「目がな」
 やわらかい頭髪に太い指を差し入れ、下方に梳く。さらさらと手触りのいい、極上の絹糸のようだ。
「キレイすぎるんだよ、あんたの眼は。ヤクをやってる人間の目ってのは、そんなに澄んじゃいねえんだ。おれはジャンキーを何人も見てるからな。分かるんだよ」
 ガラス玉のように透明な瞳が、じっと滝渕を見ている。その清涼感に、滝渕は焼かれるような苛立ちを覚えた。

「どんな小さな罪も、犯したことなんかないんだろ、あんた。キレイな顔に相応しい、おキレイな人生送ってきたわけだ」
 どす黒い感情が、滝渕を支配する。こいつとは、長い付き合いだ。こいつは、滝渕を今の地位まで押し上げてくれた。だから滝渕は、この感情を歓迎している。
「ガキみてえに、キラキラキラキラしやがって。おれはそういうの見ると、めちゃめちゃムカツクんだよ。ぐちゃぐちゃに踏み潰してやりたくなるんだよ。」
 感情のままに、薪の小さな頬を手の甲で張り飛ばす。指輪がぶつかったのか、薪の右頬には傷が付き、口元から血が流れた。

「男の相手だって、初めてなんだろ? ガチガチに緊張しちまって」
「何の罪もない、か」
 幼い顔に似つかわしくない、妙に老成した声が滝渕の耳に届いた。驚きとともに、滝渕は言葉を飲み込んだ。
「おまえの目は、節穴か」
 ふっと唇を歪めて、薪は苦く笑った。
 それは彼の容貌にはひどく不釣合いな、まるで人生の終盤にさしかかった老人のような乾いた笑いだった。

「僕は、40人殺してる。いや、40人じゃきかないか。被害者の遺族の中には、絶望から自殺した人間もいるし。僕が犯人を検挙したせいで失われた命も、たくさんある。数え切れないくらい多くの人々の平穏を奪ってきたし、踏みつけてきた」
 不穏当な発言とは裏腹に、どこまでも澄み切った瞳が滝渕の濁った眼を射抜く。長い間忘れていた感傷に囚われそうになって、滝渕は4本しかない指を握り締めた。
「直接手を下したのは一人だけだが、ひとの命を奪ってきた事実は変わらない。自分の手を汚さずに……おまえと一緒だ」

 だから。
 こんな罪に塗れた身体ひとつで、大勢の命が救えるなら。
 僕はためらったりしない。

 声に出さない薪の声が聞こえたような気がして、滝渕は固まった。
 優位に立っているのは、自分のはずなのに。この男の命を握っているのは、自分なのに。勝てる気がしない。

 ベッドの上で、上と下の位置関係で。ふたりの男は、しばし無言で睨み合った。




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ナルシストの掟(9)

ナルシストの掟(9)






 タクシーの後部座席で、腹の底から沸き起こる嫌悪感と戦いながら、薪は身を固くしていた。

 男の太くて短い指が、薪の太ももを撫でている。中心に触られたら女じゃないことがバレてしまうから、そこから奥へ入ってこないように両手でガードしている。タクシーの運転手の目があるから、胸には触ってこない。それだけでも命拾いしている。
 店で現場を取り押さえることはできなかったが、もっと大きな収穫が得られそうだ。滝渕の自宅まで行って証拠を押さえれば、自分の店舗で麻薬が使用されていたことによる管理者責任ではなく、滝渕本人の罪として逮捕することができる。任意ではなく、容疑者として取調べができるのだ。

 こんなにすんなり行くとは思わなかった。これは、竹内の功績だ。作戦を持ちかけたのは薪の方だが、竹内はよくやってくれた。芝居が真に迫っていたから、滝渕が引っ掛かったのだ。
 竹内とて、男の身体なんか触りたくもなかっただろうに。生理的な嫌悪感まで押さえ込んで、捜査のために自分の役目を果たしたのだ。そこは正当に評価しなくてはならない。女ったらしの遊び人だが、職務に対する情熱だけは一級品だ。岡部が仕込んだだけのことはある。

 それにしても、迫真の演技だった。
 首筋を舐められたときには、ちょっとゾクッときた。内股をまさぐられたときには、思わず腰が震えてしまった。後ろからのしかかられたときには、マジで焦った。
 あの場面を青木に見られたら、大変なことになっていた。芝居だと分かっていても、キレていただろう。青木はあれでけっこう、よくキレるのだ。この状況だって、青木が知ったら大騒ぎだ。連中と一緒に帰ってくれて良かった。

 店で第九のみんなと飲んでいたとき、青木はすでに恐慌状態だったのだが。相変わらずこういうことには、てんで鈍い薪である。

 滝渕と乗ったタクシーがAホテルの玄関に横付けになって、薪は心の中で舌打ちした。
 自宅ではない。もしかすると、勘付かれたか。
「本当にここにあるの? あなたのおうちじゃなくて?」
「ああ。家には妻がいるからな。おまえを連れて行くわけにはいかないだろう? ここは二つ目の家みたいなもんだ」
 滝渕に案内された部屋は、25階のスイート。クスリで吸い上げた金で、贅沢三昧というわけか。絶対に捕まえて、刑務所にぶち込んでやる。

 部屋に入ると同時に、丸太のような腕に抱き寄せられた。キスをしようとせまってきた顔を両手で押しのけて、薪はクスリの在り処を探ろうとした。
「先に、クスリを見せて」
「わかったよ。ほら」
 寝室のサイドテーブルの引き出しを引くと、中に小型の注射器とアンプルのセットがたくさん入っている。これで証拠品は充分だ。

 薪たちが乗ったタクシーの後ろから、覆面パトカーがついてきていたのは確認している。滝渕の隙をみて携帯を鳴らせば、脇田たちがここに雪崩れ込んでくる。滝渕に先にシャワーを使わせて、その間に連絡を取ればいい。さっさと終わらせて、家に帰ろう。
 無事に捕り物が終わったら、青木を呼んで、この前の続きをしてもいい。昨日は今日のことが気になっていてそれどころじゃなかったけど、すべて決着がついた後なら。べつに僕だって、あいつと夜を過ごすのがイヤってわけじゃないし。

 だけど。
 もう少しだけ、探りを入れてみようか。滝渕の上にいる人間の情報を、いくらかでも聞き出せたら。

「おれがこいつを見せたんだから、あんたもおれに本当のことを言いな」
 不穏な言葉に、薪の心臓が凍りついた。嫌な予感は的中し、滝渕はナイフを取り出して、薪の目の前に突き出した。

 もしかして、僕の正体に気づいたのか? だったら、どうしてここまで連れてきたんだ?

 太くて短い4本指が、黒髪に絡んだ。思い切り引っ張られる。まずい、と思ったときにはカツラをむしりとられて、チャイナドレスの胸を切り裂かれていた。
「やっぱり男か。匂いが違うと思ったぜ」
 くそ、ここまでだ。
 もう少し粘るつもりだったが、自分が男だとバレてしまったら、これ以上の情報を得るのは不可能だ。

「安心しな。ちゃんとクスリは分けてやるよ」
 滝渕の顔に、自分が騙されたことに対する怒りが浮かばないのを見て、薪は考えを改めた。そうだ、客の振りをすればいい。滝渕はまだ、薪のことを中毒者だと思っている。その筋から探ればいい。
「本当? 良かった、僕……わっ!」
 切り裂かれたドレスを脱がされそうになって、薪は焦って身を翻した。びっくりして、滝渕の顔を見る。

「おれは男も平気だぜ。ムショの中で、何回も抱いてる」
 ……何故この可能性に気づかなかったんだろう。暴力団や極道の世界では、よくあることなのに。
「おまえもそのつもりで付いて来たんだろ?」
「あ、う、うん」
 本当のことを言うわけにはいかない。でも、こんな展開は予想していなかった。男だとバレた時点で、アクションスタート、の計画だったのだ。

「ま、待って! これ、次に欲しくなったら、どうしたらいいの?」
 顔面5cmの距離に近付いた分厚い唇を避けて、薪は横を向いた。嫌がっているのを悟られないように甘えた声を出し、情報を引き出すために演技を重ねる。男のたるんだ頬に手を添えて、指先ですっと撫で上げ、上目遣いに微笑んで見せた。
「おまえが言えば、都合してやるよ」
「あなたが警察に捕まらないって保証は?」
 滝渕は、ちょっと嫌な顔になった。確かに失礼な聞き方だが、ゆっくり問い質している余裕はない。

「ごめんなさい。でも僕、本当に困るんだ。さっきの男もダメになっちゃったし。あなたの買い付け先を教えてくれたら、なんでもするから」
「わかったよ。教えてやる。その代わり、な」
「あっ、待って。先に教えて」
「こっちが先だ」
 くそ、固いな。
「お願い」
「ダメだ」
 そう都合よくはいかないか。
 どうしよう。もうちょっとで聞き出せそうなのに。

「わかった。じゃ、先にシャワー浴びるね」
 相手の要求に応じる振りをして、その場を離れる。このままじゃラチがあかない。
 洗面所兼脱衣所に逃げ込んで、必死で考えを巡らせる。何とかして、滝渕から情報を聞き出したい。いっそのこと、あのナイフを奪って脅してでも――――そのくらいで吐くようだったら、極道なんかやってないか。
 となると、残る手段は。

 ふと顔を上げると、洗面所の鏡に自分が映っている。
 派手な化粧にケバケバしい衣装。
 ものすごく無様な姿だ。

 とりあえず、このみっともない化粧だけは落とすことにして、薪は顔を洗い始めた。カラーコンタクトを外して、石鹸を泡立てる。
 化粧を落としてから自分の顔を見ると、今度は泣きそうな顔になっている。弱気な表情をして、むき出しの肩が微かに震えてる。

「くっそ……」
 なにを尻込みしてるんだ、このくらいのことで。
 この状況を利用すれば、組織の情報が手に入る。もう少し、もう少しだ。

 薪は服を脱ぎ始めた。
 浴室に入って、シャワーを浴びる。強めの水流で、臆病な自分を流してしまおうと試みる。

 滝渕と寝たら、青木が怒るだろうな。
 だけど、このまま放っておいたら、クスリの被害者は増える一方だ。ここで情報が得られれば、組織を壊滅できるかもしれない。
 そうしたら、何千人ものひとが助かるんだ。それを考えれば、こんなのは何でもないことだ。青木だって解ってくれるはず。あいつも警察官なんだし。ていうか、そんなことで怒るようだったら、こっちから引導を渡してやる。

 石鹸を塗った指を後ろから忍ばせて、その部分を清める。行為の前のこの準備は、薪にとってとても屈辱的なことだ。青木と会う前には必ず行なうのだが、ひどく恥ずかしくて、と同時に少しだけときめいたりして。
 でも、今は。
 これからあの男の手が自分に触れるのだ、と思うと、すぐにもこの場から逃げ出したくなる。そのことを想像すると、膝に震えが走る。
 そんな弱い自分に気付かない振りをして、薪はシャワー室から出た。

 鏡でもう一度、自分の顔を確認する。
 こんな怯えた顔じゃダメだ。冷静に。落ち着いて。
 大丈夫。これくらい、たいしたことじゃない。

 寝室に戻ると、滝渕が缶ビールを飲みながら薪を待っていた。薪の素顔を見て、驚いた顔をする。
「ほう。えらいベッピンじゃねえか。化粧なんか、しねえほうがいいぜ」
 親指と二本の指で顎を挟まれ、顔を上げさせられる。薪は臆せず、滝渕の顔をじっと見た。

 ここで目を閉じるのが自然だと思ったが、どうしてもイヤだった。すでに覚悟は決まっていたが、くちびるだけは許すまいとつまらないことを考えた。
 売春婦の中には、キスだけはお客と交わさない女がいるそうだ。それだけは本当に好きな人とする、と言う話を聞いた。身体を売ることを生業にしてるくせに、そんなことに何の意味があるんだろう、とそのときは思ったが、今は彼女たちの気持ちが少し分かるような気がする。

「あんた、名前は?」
「薪」
 名前なんか聞いて、どうするんだろう。
 ああ、そうか。顧客リストに名前を載せるのか。しまった、つい本名を……まあ、いいか。どうせあと数時間で、こいつはパトカーに乗ることになるんだ。

「あなたも、シャワーを」
「……ああ」
 滝渕がシャワー室に入ったのを確認し、薪は脇田に電話をかけた。
「部屋は2502。突入は1時間後。僕が合図にカーテンを開けますから」
『薪、大丈夫か? ムリしてんじゃねえのか?』
「大丈夫です」
 脇田はまだ何か言いたそうだったが、薪は電話を切った。それから、サイドテーブルの引き出しを開ける。そこにはアンプルと、小型の注射器が入っている。

 注射器を手にとってクスリを吸い上げ、薪は暗い瞳で注射針の先を見つめた。




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ナルシストの掟(8)

 ご報告です。

 『最愛の秘密』のK24さんが、『ナルシストの掟』のイメージイラストを描いてくださいました~~!!!(〃∇〃)


 K24さん、ありがとうございました!
 メリージェーンのアイディアを使わせていただいた上に、イラストまで描いていただくなんて。
 盗人に追い銭とはこのことですね!(もう少しマシな例えはないのか(--;)


 K24さんの麗しいイラストは こちら です。是非、ぽちっと押して、ご覧になってください!

 K24さんには以前にも、竹内のイラストを描いていただきました。(こちら です)
 この章は、K24さんのイラストのイメージで読んでいただくと、こんな幼稚な文章でも色っぽく読めるかも、です。
 どうぞお試しあれ。(^^






ナルシストの掟(8)






 薄暗い廊下に、濃密なエロスの空気が漂っている。
 どこかでよろしくやっている連中がいるらしい。こういう雰囲気は、肌で感じるものだ。店内での情交はしないようにと、厳しく支配人には言ってあるのだが。

 滝渕謙三は化粧室に続く廊下で、そっとその気配を辿り、一組の男女を発見した。
 一定の間隔を置いて壁に灯されたライトの下で、ふたりは夢中で抱き合っていた。女のしなやかな足が男の足に絡んで、男の唇が女の首を這い回っている。

 男も女も、えらく美形だ。ホストクラブでもなかなかお眼にかかれない色男と、これまたモデル顔負けの美女。これまで見たこともないような、いいオンナだ。この容姿なら、銀座のクラブでも生き残っていけそうだ。
 服装からするに、さっき、レジのところに立っていたあの女か。いい身体をしているとは思ったが、遠目でよく顔が見えなかった。
 ボーイの島村が知り合いの女性をひとり雇って欲しいと言っていたが、あの女のことか。いったい、どこであんな美女を見つけてきたのか、ボーナスを弾んでやらにゃなるまい。金額は、あの女の味次第だが。

 女はたっぷりと情感を含んだ眼差しで空を見つめ、男の愛撫を受け入れていた。露わになった首筋から肩のラインが官能的に薄暗がりに映える。その肌は、滝渕が今まで手に入れてきたどの女よりも白かった。

「あん、ねえ、部屋に行ってからゆっくりしましょ。アレ、使って……ね?」
 チャイナドレスのスリットから、女の陰部をまさぐっていた男の手が止まり、胸に埋められていた顔が上がった。
「アレはもう、手に入らないんだ。俺の知り合いがパクられちまって」
「え!? うそ!」
 行為の続きに戻ろうとした男の手を摑んで、女は言い募った。切羽詰った表情だ。
 
「他の人からも買えるんでしょう? だったら」
「やめたほうがいい。サツもこの辺、締めてきたみたいだし。ここらが潮時だろ」
「冗談じゃないわよ! アレがなかったら、あたし……」
 自分の要求に男が応えてくれないと解ると、女は男の身体を乱暴に突き飛ばした。胸の前を合わせて、イライラした調子で爪を噛む。
「なんでそんなに焦ってるんだ? 俺はおまえをシャブ中にするほど、クスリを渡してなかったはずだぞ」

 豹変した女の態度に、男は訝しそうに首を傾げたが、すぐにひとつの可能性に気付いて、女の華奢な腕を摑んだ。
 腕の内側を確認するが、探していたものはない。まあ、そんな見えるような場所に打つバカはいない。足の指の間とか、腿の内側とか。

「なんだ、これ! こんなに痕になるほど、おまえ、いつの間に」
 女の内股にその証拠を見つけて、男の顔色が変わった。
 真っ赤な布地から覗く白い腿。滝渕は思わず、唾を飲み込んだ。

「どこから手に入れたんだ? どうやって? まさかおまえ、俺以外の男と!」
「だって」
「っざけんなよ、この淫売!」
「きゃっ!」
 パン! という音が響いて、女が床に倒れた。女の顔を殴るなんて、ひどい男だ。ブスの顔なら構わないが、美女の顔は許せない。
 うつ伏せに倒れた女の背後から、嫉妬に狂った男は襲いかかった。
「いやっ! 乱暴にしないで!」
 スカートをたくし上げ、無理矢理足を開かせようとしている。必死で抵抗するが、しょせんは女の力だ。いくらもがいても、男の腕力には勝てない。服ははだけていく一方だ。白い尻に食い込んだ黒い下着が、ちらりと滝渕の目を掠めた。
「だ、だれか! 助けてっ!」

「おれの店で、揉め事はよしてもらおうか」
 ドスのきいた声で滝渕が一喝すると、ふたりはびっくりして跳ね上がった。
 特に男の方は滝渕の風体に恐れをなしたらしく、立ち上がって逃げる素振りを見せた。女の腕を摑んで連れて行こうとしたが、女は嫌がって首を振った。滝渕を縋るような瞳で見て、声もなく哀願する。

「待ちな。その女は置いていきな」
「こ、この女は俺の」
「兄さん、悪いこたあ言わねえ。この店から無事に出たかったら、おれの言うとおりにしな」
 欠けた小指を見せ付けると、真っ当な人間は大抵びびる。後は額の傷を見せてやれば、脅しめいたことは何も言わずとも、相手が勝手に逃げていくという寸法だ。
「そのイカした面がありゃ、他の女がいくらだって寄ってくるさ。なあ」
 凄んだ顔で笑ってやると、男は尻尾を巻いて逃げていった。床に腰を落としたまま、女は着衣の乱れを直している。やがてよろよろと立ち上がり、滝渕に向かって頭を下げた。

「ありがとうございました」
「気にするな。店の女の子は大事な身内だ。守るのは当たり前よ」
 太い腕が女の身体に伸びて、細い腰を抱き寄せた。びくりと身体を強張らせるが、抵抗らしい抵抗はしてこない。とりあえず、今夜にでも味を見ておくとするか。

「あっ、いや」
 スカートの中に手を入れて、注射針の痕を探る。
 なるほど、ボツボツと痕がある。相当、のめり込んでるな、この女……。
「うちに来れば、いくらでもあるぜ」
「え?」
「欲しいんだろ。これ」
 すべすべした内股をさすりながら、クスリの存在をチラつかせると、女は一も二もなく飛びついてきた。

「あの、ここで欲しいんだけど」
「今は持ってねえ。家に行かなきゃ、ダメだ」
 微かな困惑が女の瞳を曇らせたが、すぐに腹は決まったようで、彼女は素直に滝渕の後をついてきた。袖なしのチャイナドレスから可愛らしく覗いた華奢な肩を抱き寄せて、滝渕は好色な笑いを洩らした。




*****




 店の裏口から出てきた二人の男女を見て、脇田は目を剥いた。
 体格のいい滝渕の陰に隠れるようにして歩いてくる女は、赤いチャイナドレスを着た、眼の覚めるような美女だ。
 二人は流しのタクシーを拾うと、後部座席に乗り込んで身体を密着させた。タクシーはすぐに発進し、渋谷方面に向かう。
「ちっ。薪の野郎、また勝手なことしやがって。おい、あのタクシー追え。1班、2班、渋谷方面だ。追って指示する」
 覆面パトカーの助手席で、脇田は苦く吐き捨てるように言い、無線で計画の変更を部下に告げた。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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しづ

Author:しづ
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2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
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