ラストカット 後編(12)

 年の瀬のご挨拶です。
 今年、当ブログにお越しいただいたすべての方に、こころからお礼申し上げます。
 ひと手間かけて拍手を押してくださった方、更にはお時間を割いてコメントを入れてくださった方、本当にありがとうございました。

 つたないSSしか置いてない殺風景なブログではありますが、どうかお見捨てなきよう。
 来年もよろしくお願い致します。

 それではみなさま。
 よいお年をお迎えください。






ラストカット 後編(12)






 濃紫の帯が解かれ、浴衣が畳の上にぱさりと落ちる。
 昨夜と同じ光景だが、夜の人工的な明かりと朝の清々しい光の中とでは、その美しさの種類が違う。昨夜の妖艶でなよやかな雰囲気は、今朝の薪にはない。痛いくらいに清冽で、眩しいくらいきれいだ。
 それは見るものを驚かせるほどの美しさだったが、青木が目を瞠ったのはもっと別のことだった。
 
「防弾チョッキ、脱いでくれたんですか?」

 薪は白い素肌の上に、直に薄緑色のシャツを着た。休みの日らしく、ボタンの一番上は留めずに、両の手で襟を直す。
「なんだ。今頃気が付いたのか」
 そういえば、薪は昨日から防弾チョッキを着ていなかった。
 山中の温泉で、岩の上に脱ぎ散らかされた薪の衣服の中に防弾チョッキはなかった。部屋の露天風呂から出た後、薪は素肌に直接浴衣を着ていた。

「おまえと一緒のときは、僕はもう防弾チョッキを着ない。おまえが守ってくれるんだろ?」
 薪のその言葉は、青木にとって最高の名誉だ。薪の信頼を、自分は勝ち得たのだ。
「はい……はい!」
 心の底から喜びが湧き上がってくる。この信頼に応えたいと、体中の細胞が叫びだす。今なら岡部にも勝てそうだ。
「オレの命に代えても守ります」
 嘘偽りのない言葉が、勝手に飛び出してくる。
 以前、薪に注意を受けたかもしれないが、この気持ちは本物だ。そのときになったら自然に身体が動いてしまう。どんなに薪に叱られても、自分は身を挺して薪を守ろうとするだろう。

「それはダメだ。何度も同じことを言わせるな」
 ……やっぱり怒られた。

 薪はシャツの上にジャケットは着ず、薄手のストールを羽織ると青木のほうへ歩いてきた。ストールは明らかに性別詐称策だ。旅館の売店で下着と一緒に購入したものだ。
「約束しろ。おまえは僕より先に絶対に死ぬな。何があってもだ」
 亜麻色の瞳が、強い光を宿す。
 今の薪の顔は厳しい上司の顔だ。青木がいちばん尊敬している警察官の顔だ。
「返事は」
 命令に逆らうことなど考えられない。縦割り社会に生きる警察官にとって上司の命令は死守すべきものだが、青木にとって薪の指示は神のお告げにも等しい。

「はい。絶対に死にません」
「簡単に言うな!」
 ……どう言えというのだろう。
「何があってもだぞ。車の事故でもヘリが墜落しても、絶対に死んじゃだめなんだぞ!」
「え。いや、ちょっとヘリはムリかも」
 乗ったヘリが落ちて生きていたら、それはもう人間ではない。
「ダメだ、死ぬな。おまえは絶対に死ぬな」
 青木のジャケットをつかんで、顔を寄せてくる。至近距離からの強い視線と、青木の視線が絡む。第九で捜査に夢中になっているときのような口調で、薪は言い募った。
「僕に拳銃で胸を撃たれても、おまえは生きるんだ! それができなきゃ僕の恋人とは認めない!」
 
 それは無理です。撃たれたら普通死にます。
 しかし、いまはつまらない揚げ足を取っている場合ではない。
 突っ込むところはそこではない。薪が言った最後のセリフだ。

「薪さん、今……恋人って」
 亜麻色の目が、まん丸になる。長い睫毛が何度もしばたかれる。
 大きな瞳があちこちに動いているのは、記憶を探るときの薪のクセだ。自分がいま言ったことを思い出しているのだ。
 「いや、ちが、こ、……」
 目を伏せて視線を泳がせる。下を向いて右手で口を覆う。薪のことをずっと見てきた青木には、その行動が何を意味するか分かっている。
 考えている。
 なにか上手い言い逃れを考えているのだ。こういうとき、薪の次のセリフは確実に笑えるものになる。

「恋人じゃない。交尾相手って言ったんだ!」
 きた。予想通りきた。
「なんですか、交尾相手って」
「セフレの日本語だろ」
「なんでわざわざ日本語に直したんです?」
「僕は日本人だからだ!」
 ここで吹き出してはいけない。ちゃんと会話をつなげてやらないと、薪の機嫌は最悪になる。コーヒーのセットがあれば回復も可能だが、ここには豆もドリッパーもない。

「セフレって言われても。オレ、昨夜なにもしてませんけど」
「え!?」
 素っ頓狂な声を上げた薪の反応に、青木は自分の予想が当たったことを知る。
 やっぱり、薪は何も覚えていない。
「だって……朝起きたらあんな格好で」
 眠りを妨げたくなかったから、服を着せなかっただけだ。と言うのは建前で、本当は薪のきれいな裸体をずっと見ていたかったからだが。

「だから、お酒はほどほどにしてくださいって言ったじゃないですか。薪さん、酔っ払ってヘンな夢見て裸になっちゃったんですよ」
「……僕、なんかヘンなこと言わなかったか?」
「言ってましたよ。金髪美人がどうとか、僕のテクニックがあれば女なんかイチコロだとか。一回僕と寝た女は僕を忘れられなくなるんだ、とか。挙句の果てにオレを女と間違えて抱きついてきて、終いにはオレの服まで剥ぎ取ったんじゃないですか」
 全部口からでまかせだが、薪は自分の弱いところを青木に知られたくないはずだ。
 青木はもともと嘘が苦手だが、薪に付き合っているうちに、こういうウソが得意になってしまった。ウソで隠さなければいけない真実もあるし、ウソで伝わるやさしさもあるのだ。

「本当に何にもしてないのか? セーフなのか、僕たち」
 セーフとアウトの概念がわからない。12歳という年の差のせいだろうか。
「はい」
「なんだ……何にもなかったんだ。道理でどこも痛くないと思った」
 よかった、と薪は自分の胸を撫で下ろしている。明らかにほっとした表情だ。昨夜の青木の忍耐力に感謝して欲しい。
 
 夢に見るほど欲しかったものを目の前に出されて我慢できる人間というのは、この世にどれくらいいるのだろう。
 風呂に入っている姿を見ただけでもそういう状態になってしまったくらい、欲しくて欲しくて堪らなかったのだ。悪夢を見た直後の薪の感情が、一時的に乱れているだけだと分かっていても、とても我慢できないと思った。
 自分からはだかになって、身を寄せてきたのだ。青木の服を脱がせて「忘れさせて欲しい、何も考えられないようにして欲しい」と言いながら抱きついてきた。青木の耳元や首につややかなくちびるを押し付けてきて、小さな手が青木の背中に絡みついてきて――。

 我ながら、見事な忍耐力だった。雪子の厳しい意見が聞こえてきそうだ。
『この、ヘタレ! あんたそれでも男!?』
 雪子にこの話をしたら、絶対にこう言われる。前にも同じようなことがあったのだ。
『それ、完璧に据え膳じゃん。なんで食べないのよ?』
 だって三好先生。
『だってじゃないわよ! 薪くんのほうから食べてくださいってきてるのに』
 薪さん、ずっと泣いてたんですよ。
『……』
 青木の頭の中で、赤い唇が沈黙した。
 雪子は薪のことを大切に思っている。青木の行動が正しかった、と認めてくれたのだ。




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ラストカット 後編(11)

ラストカット 後編(11)





 スズメの声で、薪は目を覚ました。
 なんだかすごい夢を見たような気がする。
 青木が出てきた。どこかの温泉宿にふたりで泊まって同じ部屋で寝て。いやな夢を見て、あいつに抱きついたらそんな気分になって、自分から服を脱いで関係を迫ったような―――。

「……っ!?」
 目の前に誰かの裸の胸がある。残念ながら男の胸だ。薪より広くてとても逞しい。羨ましい、ってそんなこと思ってる場合か!
 慌てて起き上がってみると、裸だったのは相手だけじゃない。相手はまだ下着を着けているけど、自分はパンツも穿いてない。

「しまった~、やっちゃったか~」
 薪は、真っ青になって頭を抱え込んだ。
 夢じゃなかった。ここは長野の温泉宿だ。昨日は青木とお地蔵様を祀りに来て、ここに泊まったのだ。
 
 昨夜のことはよく覚えていないが、状況証拠から有罪は決まったようなものだ。なにをどうした記憶はないが、ひとつの布団でハダカで抱き合って寝ていれば、それはもう。
 男同士だけど、青木は自分に惚れている。これが他の部下だったら何もないと思えるけど、いや、パンツ脱いでたら相手が誰でもアウトか。

 急いで浴衣に袖を通し、帯を締める。別に寒くはなかったが半纏も着込んで、薪は眠っている男から離れた位置に座った。
 鈴木と初めてしたときは、翌朝は動けないくらい痛かったが、今回は大丈夫だ。長いこと使ってなくてずい分狭くなってしまったように思っていたけれど、一度経験したことは身体のほうが覚えているらしい。どこにも痛みはない。きっと上手くできたのだ。
 青木の寝顔はとても幸せそうで、満ち足りているように見える。好きな人と結ばれた翌朝は、あんな顔になるのかもしれない。
 
 けっこう、いい男になってきたような気がする。
 鈴木と顔が同じなんだから、もともとの造作は悪くないのだ。ただ、いままでは甘ちゃんというか学生くささが抜けないというか、カッコイイとは思えなかったのだが、この寝顔は悪くない。頬のラインも男っぽくなってきた。以前はやさしさが前面に押し出された顔立ちだったが、武道に親しんだせいか、このところは精悍さを加えてきた。
 
 眼鏡を取ると、男っぽい眉が目立つ。目は切れ長の二重。高い鼻。口はいくらか大きめだ。
 この口唇と、昨夜キスをした。
 このくちびるが僕の肌に触れてきた。耳から首から胸、それからもっと下のほうへ。大きな手がそうっと背中や腰を撫でてくれて……こいつの愛撫はとてもやさしくて気持ちよくて。
 でも、薪が覚えているのはそこまでだ。後は夢中になってしまったのかもしれない。
 鈴木との時もそうだった。翌朝覚えていたのは幸せだったことと痛かったことだけで、自分がどんな風に鈴木に迫ったのかもよく覚えていなかった。

 薪は、自分の困った性癖に頭を抱える。
 あの時も酔っ払ってた。きっと自分は、酒で失敗するタイプだ。
 気が付いたら女の子が裸で隣に寝てて、責任取らされて結婚までいくパターンだ。こいつが男で良かったのかもしれない。これからは気をつけないと。

 微動だにしなかった睫毛がぴくぴくと動いて、ぱちっと黒い目が開いた。ゆるゆると上半身を起こして、青木は盛大な伸びをする。長い両腕を上に上げて背中を反り返らせ、ぎゅっと眉根を寄せた。
 薪の嫉妬を掻き立てずにはおかない筋肉質の上半身。
 昔は図体ばかりでかくて根性も持久力も無くて、道場で組み合ったときには1分もしないうちに投げ飛ばしてやった。今だってできないことはないと思うが、それほど簡単にはいかないかもしれない。特にあの腕力は厄介だ。道着をつかまれて力任せに投げられたら終わりだし、引き倒されて押さえつけられたら身動きできない。

「おはようございます。早いですね」
 薪の姿を見つけて、屈託無く笑う。この笑顔を曇らせてしまうのは忍びないが、昨夜のことは忘れて貰わないと困る。なんて言えば――。
 そうだ、遊びだったことにしよう。旅先のアバンチュールってやつだ。あっちは真面目だったのかもしれないけど、でもそれを受け入れるわけにはいかない。
 何と言っても僕たちは上司と部下だし、雪子さんのこともある。誰かに喋ったりしないように口止めしておかないと。監査課にでも知れたら二人とも左遷だ。

「青木。昨夜のことだけど」
「昨夜? なにかありました?」
 なかったことにしてくれるつもりなのか。それはそれで好都合だが。
 薪の困惑に気付かないのか、青木は自分の浴衣を着て帯を締めた。日本人らしいその衣装は、黒髪に長身の男を2割増しで好男子に見せてくれる。

 こいつ、こんなにいい男だっけ。
 一度そういう関係になってしまうと、情が沸くのかもしれない。こいつを傷つけるようなことはしたくない。「昨夜のことはただの遊びだ。おまえも早く忘れろ」なんて、言わなくて済むものなら言いたくない。

「薪さん。ビッフェに行きましょう」
 何事もなかったように話しかけてくる。青木があまりに自然な態度を取るから、本当に夢だったのかと勘違いしてしまいそうだ。
「いま起きたばっかりだろ。起き抜けでメシが食えるのか?」
「だってオレ、腹減って目が覚めたんです」
「昨夜あれだけ食っといてか!? おまえの胃袋って」
 旅館の朝食はバイキング形式だと仲居が言っていた。つまり、食べ放題だ。こいつより後に食堂に行ったら、何も残っていないかもしれない。

 薪は戸棚を開いて、昨日着ていた服を出した。下着は旅館の売店で買えたが、服はなかった。同じシャツを2日着るのは抵抗があるが、着替えを持ってこなかったから仕方がない。
「あれ? 着替えちゃうんですか?」
「この格好、動きづらいんだ。ビッフェだったら自分で取ってこなくちゃならないだろ」
「ああ、そうですよね。バイキングは戦いですもんね。オレも着替えようっと」
 青木はバイキングの意味を取り違えている。

 バカは放っておいて、薪は洗顔と歯磨きをする。青木は薪の後ろで髭剃りを始めた。鏡の中から澄んだ亜麻色の目が、背後にいる男を見ている。
「昨夜はよく眠れたみたいですね」
「まあな」
 歯ブラシを口に入れたまま、もごもごと返事をする。
 こいつのおかげでよく眠れたのは確かだ。こいつは悪夢から僕を守ってくれたのだ。
 
 青木は嘘を吐かない。
 きっとこれから、こいつは僕よりも強くなるのだろう。強くなって、僕を守ってくれるのだろう。
 余計なお世話だが、青木はそういう気持ちでいるのだろう。

 青木に気持ちを打ち明けられてから、もう1年半だ。
 その間、きちんとした返事もせずに、終始あやふやな態度を取って。他の女性と青木をくっつけようとしたり、自分は女性にしか興味がないふりをしてみたり、かと思うと自分からキスしたり、青木に彼女ができたと勘違いしてやきもちを焼いてみたり。
 自分でも何をやっているのか、よくわからない。青木にはもっと理解できないだろう。

 そろそろ返事をしてやらなくてはいけない。きっちり断らないと。
 そうしないと、こいつはずっと僕に恋をしたままだ。そのうち冷めると思っていたのに、1年経ってもこの調子だ。
 自分の愚かな行動に、バカはなかなか気付かない。だから、僕のほうから教えてやらなくてはいけない。
 昨夜したことはただの遊びで、おまえの恋人になる気はない、とはっきり宣言しなくてはならない。それがこいつのためだ。

 いま、僕を生かしているこいつとの楽しい時間。
 それを失いたくなくて、答えをずるずる引き延ばしてきたけれど、こいつにこれ以上無駄な努力をさせるのは忍びない。
 
 青木の努力が実ったとしても、結果はこういうことになる。
 仕事中はただの上司と部下。プライベートでは友だち。僕がさびしい夜には必ずそばにいてくれて、キスをしたり抱きしめてくれたり、そういう気分になれば昨夜みたいなこともしてくれる相手。
 言い換えれば都合のいい相手。呼び名をつければセックスフレンド。
 恋人にはなれない。僕には鈴木がいるから。
 そんな悲しい役目を、こいつにさせたくはない。でも、こいつを受け入れるとしたら、そんな受け入れ方しかできないだろう。
 だから僕のことは早く諦めさせなければ。このやさしい男に、悲しい思いはさせたくない。

「青木。ちょっと話を」
「薪さん、早く着替えて下さい。オレ、飢え死にしそうです」
「……できるもんならやってみろ」
 食事に行くときと薪のそばに来るときだけは、誰よりも素早い青木である。頭からつま先まですっかり身支度を整えて、薪が来るのを待っている。
 空腹時の青木に何を言っても無駄だ。こいつは腹が減ると、小学生の算数の問題もまともに解けなくなるのだ。早く空腹を満たしてやらないと、人間の肉でも食いかねない。以前、首の肉を食べられそうになった。

 食事を済ませたら部屋に戻ってくる。そうしたら、ちゃんと話をしよう。昨夜のことも含めて、こいつが納得するまで諭してやろう。
 薪はそう心に決めて、浴衣の帯を解き始めた。



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ラストカット 後編(10)

ラストカット 後編(10)





『薪さん。愛してます。大好きですよ』
 半分夢の中にいるようなゆったりとしたまどろみの中、耳元で繰り返し囁かれるその言葉は、とても心地好い響きを持っていた。
 逞しい腕が自分を抱き上げて、まだぬくもりの残る夜具の中に入れてくれた。すぐに暖かい体温を持ったはだかの胸に抱きこまれる。
 薪は、手を伸ばして相手の背中を抱きしめた。ぴったりと密着すると、心の底から安心感が湧き上がってくる。

 こうなるかもしれないと予想はしていた。青木が予め宿を用意していたことは、気が付いていた。
 山中の温泉で青木は電話を掛けたと言っていたが、あの場所は圏外で携帯電話は使えない。しかし、宿の予約は取れていた。つまり、事前に予約がしてあったということだ。知っていて、着いてきた。

 だって、こいつと過ごす時間はとても楽しくて。時を忘れてしまうくらい楽しくて楽しくて。
 もっと一緒にいたいと……今日だって帰りたくなくて、こいつと離れるのがいやで。
 でも、そうやって楽しい時間を過ごした後の悪夢は、決まって凄まじいものになる。心に刻まれた幸せな気持ちを帳消しにしようとするかのように、悪夢は繰り返され、眠れない夜は増えていく。

 人殺しが人生を楽しもうなんて、それじゃ殺された人間はどうなるんだ?
 こんな不平等な話があっていいのか?

 薪の心の底で、通奏低音のように鳴り続けているその責め言葉は、永遠にそこの住人になった親友の弾劾なのか、それとも罪の意識から逃れられない薪の弱さなのか。薪にはもう、判断がつかない。

 できることなら忘れてしまいたい。忘れて楽になりたい。
 鈴木のところに行けば、楽になれると思っていた。鈴木はいつだって、僕が必要とするものをくれたから。きっと今度も、くれるに違いない。僕が切望する、この罪に相応しい罰を。
 それさえ与えられれば、僕はもう苦しまない。何も考えず、彼に身を任せていればいい。もっとも、あの夢の内容じゃ、なにか考えてる余裕はないだろうけど。
 
 この世でしなければならないいくつかのことを済ませたら、鈴木のところへ行ける。きっと鈴木が迎えに来てくれる。自分はそれを心待ちにしていたはずだ。
 第九のことも目途がついてきて、その日も近いというのに。今の僕はこいつとの時間を失いたくなくて、刑の執行を先延ばしにしようとしている卑怯者になってしまった。
 そんな僕を、鈴木は見破っている。あの男が好きなんだろう、あの男に抱かれたいんだろう、と冷たい眼で責められた。
 それは違うと必死で言い訳したけれど。……本当は、自信がない。

 こいつに告られる前から、僕はずっとこいつのことを見てて。
 それは鈴木の面影を探していたつもりだったけれど、今となってはどこから気持ちが変化したのか、よくわからない。けど、今でも鈴木と見間違うこともあって、こんなどっちつかずの自分は浮気者みたいで嫌だけれど、たしかに僕はこいつと一緒にいるのが楽しくて。

 その証拠に、さわられても鳥肌が立たない。
 抱きしめられてもぞわぞわしない。
 キスはうっとりするくらい気持ちいい。

 そうやってこいつと触れ合うたびに、鈴木を忘れていく自分を感じていた。それが自分で許せなくて、僕は鈴木のことだけを愛していくのだと自分に言い聞かせて……言い訳だと分かっていても、僕にはそうすることしかできなかった。

 薪の髪を撫でていた大きな手が、背中に下りていく。腰の辺りをまさぐられて、薪は思わず肩を竦める。
 腕をとられて仰向けに寝かされる。くちびるにやさしいキスが降りてくる。耳元に熱い息がかかる。ぞくりと背筋を嫌悪感ではない何かが這い上がってくる。

 こいつに抱かれてしまえば、何か変わるのだろうか。
 こんな夢を見なくなるのだろうか。鈴木のことを忘れられるのだろうか。
 ……忘れていいのだろうか。
 
 鈴木のことを忘れて、新しい恋人と新しい人生をやり直す。そんなことが許されるのだろうか。
 それができれば、どんなにか楽だろう。
 身体の関係ができてしまえば、そうなっていくのだろうか。鈴木とのときもそうだった。寝たら、ますます鈴木のことが好きになって。
 関係を結ぶのは簡単だ。このまま目を閉じていればいい。こいつが勝手にやるだろう。
 
 久しぶりに触れる人肌はあたたかくて心地よくて、薪を安心させてくれる。
 このぬくもりが、ずっと欲しかった。
 鈴木が教えてくれて、でも途中で放り出されて。放置プレイの末にとうとう顔も見せてもらえなくなってしまった、非情な恋人。
 そんな冷たい恋人とは別れて、自分を熱愛してくれる新しい恋人と幸せになる。それのどこがいけないんだ。

 ……そんなことが許されないのは、分かっている。
 でも、一晩くらい。
 僕だって一晩くらい夢が見たい。幸せな夢が見たいんだ。
 
 僕を愛してくれる恋人と愛戯を交わす幸福な一夜。今夜だけでいいから、目を瞑っていて欲しい。
 明日になったらまた、鈴木の恋人に戻るから。鈴木に永遠の片恋をし続ける、いつもの僕に戻るから。
 今夜だけは……。

 薪は心に蓋をする。
 鈴木の声が聞こえない世界に、薪は自分の身を投げ出した。



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ラストカット 後編(9)

ラストカット 後編(9)





 夕食の膳を片付けてもらったのは、それから1時間後のことだった。
 手際よく食器を運び出す仲居の顔には、先刻の誤解の片鱗もなかったが、彼女が仲居部屋でどんな話をしたのかは判らない。薪には何があっても、その誤解の内容は教えられない。

 部屋を出る際に、仲居はにっこりと微笑んで青木に話しかけてきた。
「青木さま。当店はご高齢の方も多くいらっしゃいまして。皆様テレビの音を大きくされますから、防音設備も整えてございます。かなり大きな音でも隣の方には聞こえませんので、テレビのボリュームを絞る必要はございません」
 突然の宿自慢に、青木は心の中でがっくりと肩を落とす。
 絞らなくていいのはテレビのボリュームではなくて、つまり。

「明日の朝は7時から9時の間に、1階の朱雀の間でバイキング形式の朝食をご用意しております。こちらに手前どもが伺うことはございませんので」
 完璧に誤解されている。もう言い訳する気もなくなってきた。旅の恥はかき捨てだ。
「ではごゆっくりおやすみ下さいませ」
「……ありがとうございます」

 彼女の誤解を助長させた張本人は、とっくに布団の中である。青木の苦労も知らず、健やかな寝息を立てている。
 その寝顔は、やっぱりかわいい。見ているだけで幸せな気分になれる。これだからどんな目に遭わされても、青木は薪から離れられない。
 
 畳の上に布団で寝るのは、学生のときに仲間と一緒に旅行に行ったとき以来だ。清潔な寝具とイグサの香り。枕が変わると眠れない人間もこの世にはいるらしいが、もともと寝つきが良い青木はものの2分で眠りに落ちた。

 その眠りが破られたのは、夜半過ぎのことだった。
 どこからか泣き声が聞こえたような気がして、青木は目を覚ました。
 横を向くと、薪の姿がない。さてはまた風呂か、とベランダのほうを見ると、小さな影が部屋の隅っこにうずくまっている。
「何やってるんですか、薪さん」
 部屋が暗くてよくわからないが、薪は膝を抱えて座っているようだ。なぜ布団から出たのだろう。
「座敷わらしかと思いましたよ。早く布団に戻って」
 近付いてみて、驚いた。
 薪は瘧のように震えている。歯の根が合わないほどにガタガタと揺れ動いて、それを止めようと両肩を手で押さえている。
「薪さん? どうしたんですか?」
 怖い夢でも見たのだろうか。それにしては雰囲気が異様だ。

 薪を安心させようと、青木は部屋の明かりを点けた。震える薪の姿が、明るい照明の下にさらされる。
 亜麻色の瞳が、涙に濡れている。
 普通の泣き方ではない。滂沱、という感じだ。
 その目が青木の姿を捉える。大きな瞳に青木の顔が映っている。しかし、その眼はいつもの冷静な眼ではない。これは……狂気を孕んだ眼だ。

「迎えに来てくれたのか? 鈴木」
 寝ぼけているときは必ず間違えられる男の名を聞いて、青木は言葉を失う。普段なら違います、と否定するところだが、今の薪にそれを言ったら大変なことになりそうな気がする。
「ずっと待ってた……早く連れて行って」
 両手で青木の浴衣の前をつかみ、薪は自分の身を寄せてくる。薪が自分から近付いてくるのは、青木を死んだ親友と間違えているときだけだ。

「おまえが満足するまで、僕を好きなようにしていいから」
 抱きつかれて、耳元でそんなことを囁かれる。涙に濡れた頬を青木の頬に擦り付けて、愛してる、と繰り返す。
 今日の寝ぼけ方は強烈だ。
 鈴木の夢でも見たのだろうか。それで恋しくなってしまって、泣いていたのだろうか。
 なにもわざわざこんな日にそんな夢を見なくたって、と心無い薪の行動を非難したくなってしまう。
 しかし、青木の夢占いは外れたようだった。

「血の一滴までおまえにやるから。何回でも殺していいから」
 愛の言葉が物騒な話に替わって、青木は思わず身を離す。
 これは、早く正気に戻したほうがいいかもしれない。薪はとんでもない悪夢を見たのかもしれない。

「薪さん、オレです。青木です。しっかりしてください」
 華奢な肩をつかんで揺する。亜麻色の髪が揺れ、瞳も揺れた。
「心配いりません。ただの夢ですよ。だれもあなたを傷つけるものはいません」
 ややあって亜麻色の瞳に焦点が戻り、薪は自分を取り戻したようだった。
 ぺたんと畳に尻を落として、背中を丸める。普段のきりりとした室長の顔からは想像もつかない、弱々しい表情。それを隠すために両手で顔を覆っている。

「大丈夫ですか?」
 このひとは、まだあの事件の夢を見るのだろうか。あれから2年も経ったというのに、まだその衝撃を忘れられないのだろうか。
「いつも、こうなんだ」
 ほそい指の隙間から、透明な雫が垂れてくる。薪が泣き虫なのはもう分かっているが、その涙を止めてやりたいとこれほど強く思ったのは初めてだった。

「楽しいことがあると、決まってその日の夢は凄くキツイんだ」
 薪はまだ震えている。抱きしめてやりたいが、余計に怖がらせてしまいそうだ。青木の顔は薪にとって、自分が殺した男の顔なのだ。
「わかってるんだ。なんでこんな夢を見るのか。鈴木が僕を嗜めてるんだ」
 親友を殺してしまった悔恨。愛する人をその手にかけた痛み。青木には想像もつかない、深い慙愧の念。
 それは薪の精神をゆっくりと蝕んで、時に幻覚となって薪の前に姿を現す。先刻の狂気のように、薪のこころをずたずたに切り裂いて。

「ひとを殺しておいて、なんでそんなに楽しそうにできるんだって。人殺しのクセに、なにヘラヘラ笑ってんだって」
「鈴木さんはそんなこと思ってません。オレ、言ったじゃないですか。薪さんの命は鈴木さんが守ってくれた命だって。薪さんの人生は鈴木さんが守ってくれた人生なんですよ。楽しく笑ってていいんです」
 鈴木はとてもやさしい男だった、と誰に聞いても同じ答えが返ってくる。薪の親友をやっていたくらいだから、ちょっとやそっとのことでは怒らない性格だったのだろう。
 
「鈴木さんはそれを望んでます。鈴木さんがそういう人だって薪さんが一番良く知ってるはずでしょう」
「うん、知ってる。でも、どうにもならないんだ。夢の内容までは制御できない」
 それはきっと、薪の心が見せる悪夢だ。
 自分のせいで大勢の人が死んだと思い込み、自分自身を許すことができない。薪の誰よりも強い正義感が、薪自身を苦しめている。
「今日は……今日はとっても楽しかったから、絶対に来ると思ってた。誰かと一緒なら大丈夫だと思ったんだけど」
 それで泊まろうと言い出したのか。ひとり寝が怖い子供のように、だれでもいいから傍にいて欲しかったのか。
「オレがついてますよ。ずっとここにいますから」
 今のこのひとは、子供と同じだ。だれかの庇護が必要なのだ。

「おまえ、僕を守ってくれるって言ったよな」
「はい」
「じゃあ、この夢からも守ってくれるか?」
 弱気な瞳が、青木に縋り付いてくる。
 果てしなく繰り返される悪夢は、薪の精神の均衡を崩していく。2年以上もこの夢に悩まされて、薪は藁をもつかみたい状態になっている。

「もう、忘れたい……何もかも、忘れてしまいたいんだ」
 薪は立ち上がり、自分から浴衣の帯を解いた。
 合わせを広げて肩を出す。畳の上に浴衣を落とし、下着も取って生まれたままの一番美しい姿に還った。

 青木は決意を固めた。
 薪を救うには、やはりこの方法しかない。それは青木にとっては甚だ不本意な手段だ。確実に嫌われてしまうし、薪が自分を好きになってくれる望みもなくなる。
 だが、いちばん大切なのは薪の幸せだ。自分と薪がうまくいくことではなく、薪が幸せになることだ。薪の幸せに自分の幸福は関係ない。

「……何も……考えられないように」
 薪の手が青木の浴衣の帯をほどく。浴衣を脱がせて半身を露わにする。
 白い腕が青木の頭を抱いた。耳に甘やかな吐息がかかる。やさしい肩が薄い胸が、青木の肌に触れ、擦り合わされる。
 
「夢なんか見ないくらいに……」
 青木は目を閉じて、愛しいひとの身体を抱きしめた。




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ラストカット 後編(8)

ラストカット 後編(8) 





 薪はそこで、軽蔑したような顔で青木を見た。

「おまえ、ヤラシイこと考えてるだろ」
「はい!?」
「飲みすぎると、役に立たなくなるとか思ってんだろ」
 亜麻色の目は据わりきっている。完全に酔っ払いの目だ。

「何をバカなこと言ってんですか」
「だっておまえ、僕のこと好きなんだろ。今夜はチャンスだとか思ってんじゃないのか」
 チャンスだとは思っている。でも、それはからだの関係を持つチャンスだと考えているわけではない。
 青木は、保留中の答えを聞きたいだけだ。いくらかでも自分を好きになってくれているのか、それとも恋愛の対象にはなりえないのか。きちんと答えて欲しいだけだ。

「思ってませんよ」
「嘘つけ。この旅館だって、計画済みだったくせに」
「妙なことを言いますね。ここに泊まることは、急に決まったんじゃありませんか。第一、泊まるって言い出したのは薪さんのほうですよ」
「じゃあ聞くけど。この宿の予約、どうやって取ったんだ?」
「どうって、電話で」
「あの山の中のどこに電話があったんだ?」
「何言ってんですか。携帯があるじゃないですか」
「携帯電話ね」
 薪は腕を組んで顎を反らし、青木を睥睨した。
 亜麻色の瞳が煌いている。これは確たる証拠を掴み、今から容疑者(青木)を自白させ(イジメ)ようとするときの薪の表情だ。それを見て、青木は誘導尋問に引っ掛かったことに気付いた。
 ……あそこは圏外だ。

「おまえの携帯は便利だなあ。アンテナがなくても使えるのか」
 薪の嫌味が始まった。
 酒の席だし、ここは明るく冗談で返すことにしよう。
「いやあ。オレのは特別で、海の底でも宇宙でも使えるんで、――っ!」
 軽口を叩き終わる前に、薪の拳が飛んできた。顔面3センチのところで止まっている。華奢な手だが速度が速いので、急所を殴られるとかなり痛い。
「あの世でも使えるかもしれんな。試してみるか?」
「……すみません」
 さすが薪だ。
 青木の計画など、最初からお見通しというわけか。
 でもそうすると、それを解っていて自分についてきてくれたことになるが、その辺はどう解釈すればいいのだろう。もしかして薪もその心算で……いや、温泉に入りたかっただけだ、このひとは。

「僕は、おまえの思い通りにはならないからな。おまえなんかにいいようにされるくらいなら、サルと寝たほうがマシだ」
 ひどい。サル以下だ。
「オレはそんなことは考えてません。薪さんがちゃんとオレのこと好きなってくれるまで、そういうことはしません」
「おまえ最初、僕に無理矢理キスしてきたじゃないか」
 薪に初めて想いを告げたとき、薪は青木の気持ちをジョークにしてしまおうとした。それは決して青木の心を踏みにじったわけでも茶化したわけでもなかったのだが、恋情を募らせていた青木にはひどく冷酷な仕打ちに思えた。
 自分が本気だということを薪にわかってもらいたくて、行動に出てしまったというのがキスの理由だ。

「あのときのことは謝ります。でも、それからは無理強いしたことはなかったと」
「その後もあったろ。おまえが実家から帰ってきたときとか」
「あれは薪さんのほうから」
「僕はおまえの涙を拭いてやっただけだ。おまえが押さえつけたんじゃないか」
 ……そうだっけ? 舌を絡めてきたのは薪のほうだったと思うが。
「こないだも車の中で、僕が眠ってるときに盗んだだろ」
 だってあんまりかわいくて、つい……これは男の本能というやつで、どうにも逆らいがたいものなんです。
「すみません」
「すみませんで済んだら、第九は要らないんだよ」

 決まり文句を吐いて、薪は2本目の瓶の封を切った。手酌でコップに注ぐ。
 薪は飲むピッチが早い。少量しか入らない猪口は面倒なので使わない。いつもぐい飲みかコップである。
 
「キス以上のこともしたいとか思ってんだろ」
「思ってませんよ」
 本当は、力いっぱい思っている。
 夢の中でも頭の中でも、薪との情事は何度も繰り返されている。そこに出てくる薪は妖艶で淫らで、男を悦ばせる術を知っている。そのくせ夢のようにきれいで可愛くて。実際夢なのだが、それが現実になったらどんなに幸せだろうといつも思っている。
 しかし、いまは言いたくない。素面のときならともかく、この状態の薪に何を言っても無駄だ。明日の朝にはきれいさっぱり忘れている。

「おまえがいくらとぼけたって、僕にはわかるんだぞ」
 自分の夢の内容を知られているとしたら、殺されても文句は言えない。
 昨日の夜は今日の旅行が楽しみで、薪が温泉に入っているところを想像しながら眠った。
 当然のように夢を見て、薪は露天風呂の中から裸で青木を手招きした。誰か来るかもしれない野外のスリル満点の風呂で、薪は恥ずかしがりながらも切ないよがり声を上げて、青木を受け入れてくれた。
 しかし、それを薪が知っているはずがない。ここは地の果てまでシラを切りとおすところだ。ハッタリに引っ掛かって迂闊なことを喋ったら命はない。

「何のことだか分かりませんけど」
 青木が素知らぬふりでジョッキを呷ると、薪は両手を畳について、内緒話でもするように青木の方へきれいな顔を近づけてきた。
「おまえ、今日僕に欲情してたろ」
 咄嗟に否定できなかったのは、身に覚えがあるからだ。
「昼間、岩場の温泉にふたりで入ってたとき、やばくなってただろ」
 ……ばれていたのか。

 しかし、そのことで青木の邪心を疑うのはあんまりだ。
 嫌がる青木を無理やり風呂に入れて、あちこち触ってきたのは薪のほうだ。自分の気持ちを知っているくせに、あんな誘うような真似をして。応えてくれる気なんかないくせに、あれで青木が我慢できなくて襲いかかっていたら、きっと岩の上に投げ飛ばされていたのだ。このひとはそういうひとだ。

「タオルの下で、ここが」
 薪の白い手が、青木の太腿に置かれる。小さな手は青木の浴衣の裾を割り、迷うことなくその中に入ってくる。その手は膝から内腿へ滑っていき――――。
「こ……」
 亜麻色の頭が不意に落ちてきて、青木の下腹にぶつかった。
 足の間から、すくーっという音が聞こえる。薪の眠りはいつも唐突だ。
 
「薪さん……これはセクハラです」
 やわらかい頬がそこに当たっている。ちょっとでも動いたら、薪のくちびるが下着の上からそこに触れそうだ。
 まずい。これは昼間の状況よりやばい。
 薪の体勢は、畳に両膝をついて腰を上げ、顔を青木の股間に埋めている形だ。何をしているところか、100人中100人が間違った答えを出しそうだ。

「お待たせいたしました。蒼山をぬる燗でお持ちいたし――!」
 ……絶対にこうなると思った。

 仲居は床の上に静かに盆を下ろし、優雅にお辞儀をしてゆっくりドアを閉めた。
 旅館の仲居というものは、時に第九の室長をも上回るポーカーフェイスを持ちうるらしい。現況の理解は100%間違っていたにしても、青木にそれをどうしろというのだ。
「もう二度とここへは来れないな……」
 せっかく見つけた薪好みの宿を、一軒失ってしまった青木だった。




*****


 R系のギャグって、ほんっとに楽しいです!(ロマンチックはどこへ行った?)


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ジャンル : 小説・文学

ラストカット 後編(7)

ラストカット 後編(7)





 懐石風の夕食に、薪は満足してくれたようだった。
 この宿は、料理も良いが酒もいい。特に地酒の種類が豊富だ。
 薪好みの口当たりの良いやや甘めの地酒を選んで出してもらったのだが、昼間だいぶ飲んだとみえて、薪は口をつけなかった。

 料理を運んできた客室係に、お風呂はいかがでしたか、と尋ねられて、薪はにっこりと笑う。
 薪は、初対面の人には愛想がいい。とりあえず笑顔で相手を油断させておいて、腹の中を探ろうとする。第九の室長として様々な団体との交渉ごとを行なっている薪にとって、この行動はもはや本能である。

「先ほど中庭を散歩されてましたね」
「ええ。素敵なお庭ですね。獅子脅しは、今では珍しくなりましたよね」
 ビール党の青木は、当然冷たいビールを飲んでいる。珍しいことに、薪がお酌をしてくれる。
「旦那さまと仲がよろしくて。羨ましいですわ」
 仲居の不用意な発言に、青木は思わず噎せ込んだ。ビールが鼻から出てきそうだ。
「大丈夫ですか?」
 あなたが大丈夫ですか、と叫びたい。薪の氷のような目つきと、礫のような言葉の暴力が始まってしまう。

「新婚なんです」
「は!?」
「まあ、そうなんですか。おめでとうごさいます」
「まだ指輪もくれないんですよ、このひと」
「あらあら。それはいけませんね」
 何を思ってか、薪は仲居の勘違いに付き合うことにしたようだ。

「仕事が忙しくって。このひとの上司がとても怖い人で、休日出勤も残業も断れなくて。あんまり家にも帰ってこないんです。今日の休みも3週間ぶり。ひどいでしょう?」
 怖い上司が怖いことを言い出した。この仲居がいなくなったら、自分は殺されるのかもしれない。
「だから今日は、思い切り甘えさせてもらおうと思って」
 ふたりの女性は、揃って青木の顔を見た。意味ありげな視線を向けてくる。
「……マツタケの網焼き、追加で」
 薪とその共犯者は、楽しそうに手を打ち合わせた。

 最後の汁物と鯛めしを置いて仲居が部屋から出て行くと、薪は足を崩して浴衣の裾を割り、いつもの胡坐の姿勢になった。正座をしていたため足が痺れたのか、手で揉んでいる。
「薪さん。あの、今のは」
「浴衣がおいてある時点で、間違えられてるのは解ってた。だから話を合わせただけだ」
「いいんですか? 誤解を解かなくて」
「今日はいいんだ」
 いつもはあんなに怒るくせに、いったいどうしたのだろう。
 もしかすると、薪も自分と同じように、この夜を大切なものにしたいと思ってくれているのだろうか。つまらないことで怒ったりして、せっかくの夜を台無しにしたくないと考えてくれているのだとしたら――。

「ここの露天風呂は気に入ったから」
 ……結局それなんですね。

「ああ、もうおなかいっぱいだ。旅館の食事って、なんでこんなに大量なんだろうな。絶対に3人分はあるよな」
 普段から薪は食が細い。定食屋でも一人前を完食する事は稀だし、今日だって皿が空になったのはマツタケの土瓶蒸しと追加の網焼き、刺身くらいのもので後は半分ずつくらいしか食べていない。信州和牛の陶板焼きに至っては、まだ生肉のままである。
「そうですか? オレにはちょうどいいですけど」
 青木は薪の食べ残しの皿を引き寄せて、当然のように食べ始める。しばらく前から青木は、どこへ行っても一人前を食べきれない薪のディスポイザーと化している。

「ひとの分まで食っといて、なにがちょうどいいんだ」
「残したら旅館のひとに悪いじゃないですか。この牛だってゴミ箱に入るより、人間の胃に入りたいに決まってますよ」
「……昔の事件でさ、牛の胃袋の中から人間の頭部が出てきたことがあったんだ」
 意地悪そうな笑みを浮かべて、薪はこと細かく発見の状況を語り始めた。
「顔中の皮膚が胃液でどろどろに溶けててさ。神経とか血管とかぐずぐずになってて。髪の毛は残ってたんだけど、頭皮が溶けちゃってるから簾みたいになって」
「やめてくださいよ! 食べられなくなっちゃうじゃないですか」
「食いすぎなんだ、おまえは」
「薪さんは少し飲みすぎですよ」
 仲居がいなくなった直後から、薪は地酒を飲んでいた。さっきは女の振りをしていたから、酒を控えていたのだ。2合瓶がすでに空である。

「この酒、美味いな。ちょっと柚子の風味があって、いくらでも飲めそうだ」
 四つん這いになって電話のところまで行き、酒の追加を注文する。きっと厨房では、青木が飲むと思われているのだ。
「蒼山をもう1本と、寒椿、それから」
 なんと3本も追加を入れている。
 仲居がすぐに注文品を部屋に運んできた。地酒の瓶が2本と生ビールが1杯。変わり身の早い薪は、正座してお茶を飲むフリをしている。
 仲居がいなくなると、早速瓶に手を伸ばす。大して強くもないくせにやたらと飲みたがる。そのあとは周りの人間が大変な思いをするのだ。

「ダメですよ、薪さん。昼間も1本空けてるんですから」
「いいだろ、旅行のときぐらい。ほら、おまえもじゃんじゃん飲め」
「オレはこれだけでいいです」
 自分まで酔ってしまったら、薪の世話をする者がいなくなる。
 このひとは多分このまま眠ってしまう。自分で布団に入ることもできない。青木が運んでやらなくてはならないのだ。

「ケチケチするな。おまえの分の宿泊代も、僕が払ってやるから」
「お金の問題じゃありません。オレは薪さんの体を心配して」
「カラダ?」
 薪はそこで、軽蔑したような顔で青木を見た。

 


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ラストカット 後編(6)

 みなさまにいただいた拍手が、6000を超えました(〃∇〃)
 ありがとうございますっ、とっても嬉しいですっ!

 読んでくださるだけでもありえないくらい幸せだと思いますのに、(いや、ここがよそ様のように、ロマンチックでラブラブなあおまきさんならそこまで卑下することもないと思うのですが、置いてあるものがモノだけに。原作のイメージぶち壊してすみません(^^;)
 ひと手間かけてぽちっと押していただける。そこに、励ましや共感のお気持ちを感じて、じーんとします。
 心が温かくなって、元気が出ます。


 うちは本当に、細かい文字ばっかりずららっと並んでる地味なブログで。
 しかも拙い小説しか置いてなくて、レビューとか考察とか、人様に喜んでいただけるような記事もなくて、こんなんでブログやってていいのかしら、と思いかけたこともありましたが。
 みなさまの励ましのお陰で、ここまで続けてこれました。
 とてもとても、感謝しております。

 これからもよろしくお願いします!

(あとでちゃんと、お礼記事書きます。リクエストの投票フォームも設置しますので、よろしかったらご参加ください)



 お礼の気持ちを込めまして。
 と、思ったらなんかビミョーな展開だな。(笑)





ラストカット 後編(6)





 雪に彩られた日本庭園はたしかに美しくて、自然が作り出す芸術を好む薪の心を捕らえるに充分な魅力を持っていた。

 1歩外へ出ると、当たり前だが気温は低い。こんなに雪が積もっているのだ。
「さむ」
 大浴場までだから、と薪は半纏を着てこなかった。青木が自分の半纏を着せてやろうとすると、おまえが寒いだろ、と手を止められた。
「オレは平気ですよ」
「部下に風邪を引かせるわけにはいかん」
「それじゃ戻りましょう。薪さんが風邪を引いちゃいますよ」
「いやだ。あそこの獅子脅しが見たいんだ」
 獅子脅しは中庭の奥のほうだ。けっこう距離がある。

「こうすればいいんだ」
 青木の半纏の片袖だけを脱がせると、薪はからだをぴったりと寄せてきた。
「な? あったかいだろ」
 亜麻色の髪から立ち上ってくる甘やかな香り。温泉のいい匂いがして、きめ細かな肌がとてもきれいで――人目もはばからず、抱きしめてしまいそうだ。

 理性を働かせるために、自分の半纏の中の人物から目をそらせた青木は、中庭に面した廊下に、さきほど部屋に来た仲居の姿を見つけた。
 ひとつの半纏にふたりで入って、中庭の散歩をする。
 これはどこからどう見ても、仲の良い夫婦か恋人同士だ。仲居の誤解はますます深まったことだろう。もう薪が男だということは、隠し通さないとヤバイ状況になってきた。

 雪の中をゆっくりと歩いて、薪は幸せそうな笑みを浮かべる。
 青木に対してこんな風に微笑んでくれたことはないが、美しい風景や動物などにはやさしそうに微笑む薪である。その十分の一でも第九の職員に分け与えて欲しいところだ。

 獅子脅しを見たいという薪の好奇心を満たしているうちに、ふたりの体はすっかり冷えてしまった。急ぎ足で館内に戻り、大浴場に直行する。
 大浴場は、意外なくらい空いていた。青木たちの他には、2,3人の客がいるだけである。この宿は全室に露天風呂が付いているから、1階にあってあまり眺めの良くない大浴場は人気がないのかもしれない。
 掛け湯を使ってから、まずは体を洗う。サルの温泉とは違うから、ここではきちんとルールを守らなければならない。薪もちゃんとタオルを腰につけている。薪は常識がないわけではなく、仲間同士というカテゴリーの中ではあまり羞恥心が働かないだけなのだ。

「背中、流してあげましょうか?」
「うん」
 薪の背中は細くて小さい。真っ白ですべすべしている。男にしてはウエストのくびれが強くて、きれいな腰骨へと滑らかな曲線を描いている。
 これを部屋の中で見せられたら飛びかかってしまいそうだが、明るい風呂場で周りに人もいる状態だと理性もきちんと働くようで、昼間のようにタオルを取ったらヤバイという現象は起きずに済んでいる。

「もういいぞ。今度は僕が、ってこれ、どう考えても僕のほうが損だろ」
 青木の背中を洗いながら、なにかぶつぶつ言っている。
 人間でかけりゃいいってもんじゃないとか、男はガタイじゃなくて中身だとか、これが薪でなかったら「たかが背中を流してもらうくらいのことで四の五言われる筋合いはない」と断るところなのだが。
 薪に背中を流してもらえるなんて、青木は天にも昇りそうな気持ちである。何日もかかってデートプランを組んだ甲斐があった。

「ほら、終わり」
「わ!」
 ざばっと頭から、盥のお湯を掛けられた。
 眼鏡も髪も、びしょびしょになってしまった。手櫛で前髪を上げ、眼鏡を外す。
 ひどいですよ、と振り返ると薪は意地悪そうに笑っている。
 ――はずだった。

「薪さん?」
 薪は、びっくりしたような眼で青木を見ていた。
 亜麻色の瞳が感傷を含む。切なげに寄せられた眉根。小さく開かれたくちびる。
「そんなに鈴木さんに似てますか?」
 はっとしたような顔になって、薪は横を向いた。黙って湯船のほうへ歩いていく。つまり、それは肯定の意味だ。
 青木はわざとその後を追わずに、髪を洗い始めた。洗髪を済ませて顔を上げると、鏡の中から青木のほうを見ている薪の顔が見えた。
 眼鏡をしていないので、表情はわからない。でも予想はつく。きっと誰かを思い出して、切なそうな顔をしているのだ。
 
 広い湯船をいいことに、青木は薪と離れて湯につかった。
 薪がちらちらとこっちを見ている。甘さと愁派を含んだ視線。
 青木は、薪の視線に気づかない振りをする。薪が今見ているのは自分ではない。だからここは知らない振りだ。

 ときどき、薪はこんな眼で自分を見る。
 死んだ親友に生き写しだと、何度も言われた。昼寝から覚めたときには、100%間違えられる。それはもはや、間違いとは言わない。
 薪は、彼に恋をしていた。いまでも夢中で恋焦がれている。
 薪が自分を突き放さないのは、その彼に顔が似ているからだ。だから薪の前で、眼鏡は取りたくなかったのに。

 青木は曇りを覚悟して眼鏡をかけ、前髪をきちんと後ろへ撫で付けた。鈴木との印象を違えるためにも、眼鏡は必需品だ。
 そのうち冷静さを取り戻したのか、薪は青木の方へ寄ってきた。
「悪い」
 俯いて、小さな声。このひとが謝るなんて、転変地異の前触れではないか。
 
「何がです? あ、まさか薪さん、オレの分もお饅頭食べちゃったんですか?」
 本当は、わかっている。
 薪は自分の気持ちを知っている。鈴木と間違えられる度に傷ついている青木の心を、わかってくれているのだ。
 でも、鈴木と自分が重ねられていることに青木が気づいていることを認めてしまうと、薪がまた自分自身を責めてしまう。

「おまえじゃあるまいし。って、ひとつしか残ってなかったじゃないか」
「あれは2人で1個なんです」
「じゃあ僕は中身のアンコで、おまえは皮だけだな」
 青木のとぼけた会話に乗ってくれる。エスプリのきいた意地悪が、薪の会話の基本である。
「ずるいですよ、平等に分けましょうよ。あのお饅頭、皮は薄くてアンコがたっぷりなんです。甘さを抑えた漉し餡で、皮には味噌の風味が」
「なんで中身知ってんだ?」
「あ」
「何が平等だ! やっぱ、食ってんじゃないか!」
 ざばざばとお湯を掛けられる。青木はもう一度眼鏡を外すが、薪の表情が変わることはなかった。

「夕飯、楽しみですね」
「おまえはホントに食うことばっかだな。色気より食い気か。子供だな」
「ここは山の中ですから、国産マツタケの土瓶蒸しが名物料理みたいですよ」
「マジでか!? よし、早く食べに行こう!」
「ひとのこと言えませんよね」
 
 薪はさっさとお湯から上がって、浴室を出て行った。
 からりと引き戸を開けたとき、すれ違った中年の男が驚いたような顔で薪を見た。浴室の入口に立ったまま、男は薪の裸を目で追っている。
「……ちっ」
 青木は舌打ちして湯船から上がり、薪の後を追いかけた。



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ラストカット 後編(5)

ラストカット 後編(5)





 獅子嚇しが響く雪景色の中庭は、松の木や石灯篭といった日本特有のオブジェに彩られて、宿泊客の目を楽しませている。
 国際化が進んだ今の世でも、からだに流れる血には大和民族の名残があるのか、こういう風景を見ると懐かしいような気がする。

 和風の静かな温泉宿を、薪はとても気に入ってくれたようだ。
 建物の中を見回す目がきらきらと輝いている。薪の目は、言葉よりも雄弁だ。
 その外見にそぐわず、薪は日本のものが大好きで、だから青木はここを選んだ。
 純日本風の建物、畳と障子と襖の部屋。窓を開ければベランダに露天風呂があって、中庭の雪景色が楽しめる。薪の好みにあったこの宿は、彼の笑顔を増やしてくれるに違いない。

 客室に露天風呂が付いているのを見つけた薪は、部屋係が挨拶に来る前に風呂に入ってしまった。さっきも雪山の温泉に入ってきたばかりなのに、そんなにお湯につかっていたら身体がふやけてしまうのではないだろうか。

 やがて、客室係が挨拶に来た。
 畳の上に正座して丁寧にお辞儀をし、お茶を淹れてくれた。定番の温泉饅頭をお茶請けに用意して、客がひとりしかいないことに気付いた彼女は、首をかしげた。

「ものすごく風呂が好きなひとで。もう、そこの風呂に入ってます」
「まあ。これを選んで頂こうと思ったんですけど」
 年配の人の良さそうな仲居が差し出したのは、何枚かの浴衣だった。
 模様はそれぞれ違う。水玉や小花柄、朝顔に金魚。渋めのものでは竹や梅。無地のものはピンクや水色、浅葱色に薄紫。
 しかし、これは当然女物だが。
 
「あの?」
「女性の方には浴衣をサービスしております。後ほど、お連れ様がいらっしゃるときに、またお伺いいたします」
「いや、それは困ります」
 受付の時、薪は青木の後ろにいて、一言も喋らなかった。ロビーに飾られた豪華な生花や、小さな橋の下に小川に見立てた水路がある様を、目を輝かせて見ていた。
 そんな子供っぽい表情のせいか、温泉に入ったせいで髪が濡れて前髪が額を隠していたためか、体型を隠すロングコートのせいか、薪は完全に女性に間違われているようだ。

 この事実を薪が知ったら、確実に怒り出す。絶対に帰ると言い出すに違いない。
 ここまで漕ぎ着けておいて、それはない。なんとしても避けたい事態である。
 薪が男だということをこの仲居に告げるべきか。しかしそれを言うと、また注目を集めてしまう。誤解させておいた方が、薪の機嫌を損ねないかもしれない。
 こういう田舎では、薪のようなタイプの男性は皆無に等しい。東京でも薪ほどの美貌には滅多と出会えないが、都会の人々はさりげなく見るだけだ。田舎の人は悪気はなくても、露骨に指を差してきたりするから困るのだ。

「じゃあ、旦那さまが選んで下さいますか?」
 青木の迷いをどうとったのか、仲居はくすくすと笑い、青木に浴衣を選んでくれるように頼んできた。
 
 青木はとりあえず、一番地味な浅葱色の浴衣を手にする。
 しかし、仲居は断然こちらの色が似合う、と薄紫の浴衣を推してきた。たしかにこちらのほうが薪のイメージだが、薪がこれを着ることはないだろう。
 
「奥様は肌がとても白くていらっしゃるから、こちらのほうがお似合いになると思いますよ。ほんと、おきれいな方ですよねえ」
「えっ。いや、奥様って」
「帯はこちらをお使い下さい。旦那さまにはこちらの浴衣を。これ以上、大きな浴衣はございませんので」
「はあ。ありがとうございます」
「夕食のお時間まで、お邪魔は致しませんので。ごゆっくりお寛ぎください」
 ……なにやら誤解されたらしい。
 客室係の再度の来訪を青木が断った意味を、そっちの方に取ったのか。
 彼女が仲居部屋に帰って仲間内でどんな話をするのか、薪には絶対に聞かせられない。

 猿と一緒にのぼせるほど温泉につかっていた風呂好きの奥様は、さすがに飽きたのか、ほどなく部屋に入ってきた。
 一応、腰にバスタオルを巻いている。ここは旅館だから、人の出入りもあるかもしれないと思っているのだろう。これが自宅だったら間違いなく素っ裸だ。
 
「どうでした? 露天風呂」
「サイコーだぞ。中庭の景色がきれいでさ」
 今日の薪はにやけっぱなしだ。温泉三昧のフルコースに、笑いが止まらないらしい。

 薪はキョロキョロと目を動かして、何かを探しているようだ。風呂上りに探すものと言ったらビールか着替えだ。
 やがて亜麻色の瞳が、薄紫色の浴衣の上で止まった。

「これ、まさかと思うけど僕のか」
 しまった、薪のサイズの男物の浴衣を用意してもらうのを忘れていた。
「そ、それはその、旅館の人が間違えて」
 何を間違えたのか、目的語を濁すところがポイントである。ここを明確にしてしまうと、雪嵐警報が発令されてしまう。
「いま、フロントに」
「まあいいか」
 よほど機嫌がいいらしく、薪は薄紫色の浴衣を素肌に纏うと、濃紫の幅広の帯をぎゅっと締めた。
 びっくりするくらい良く似合う。仲居の見立ては大したものだ。
 女の子のように帯の形を作ったりはしないが、それでもやはり浴衣姿というものは、男をクラクラさせる。めちゃめちゃ色っぽい。

「じゃあ、僕は大浴場に行ってくるから」
 ……まだ入るんですか。
 
 いや、だめだ。この状態のこのひとを男湯に入れたら、大変なことになる。
 露天風呂で温まった薪のからだは、柔らかそうな薄ピンクに色づいて、さっき飲んだ吟醸酒が目元を艶っぽく染め上げて――これでは襲ってくださいと叫んでいるようなものだ。警察官が犯罪者を増やすような真似をするわけにはいかない。
 
「そんなに続けて入ったら、湯疲れしちゃいますよ。もう少し休んでからにしませんか?」
「何度入ったって宿泊代は変わらないんだから。入らなきゃ損だろ」
 湯疲れして体調を崩すほうが、よっぽど損だと思うが。
 もとより、青木の言うことなど聞く耳を持たない薪である。こうなったら自分が付いていって、薪の身を守るしかない。
 そう決心して1階の大浴場まで下りていったのだが、薪は不意に庭に出たいと言い出した。いつもの気まぐれである。






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ラストカット 後編(4)

ラストカット 後編(4)





 薪は、お湯の中を滑るようにして青木に近付いてくると、華奢な手をこちらに伸ばしてきた。ためらいもなく、青木の胸に触れてくる。無邪気な触り方は、性をまったく意識していない。
「いつの間にこんなに筋肉ついたんだ? 2キロも走れないやつが、どうしてカチカチの足をしてるんだ?」
「ちょっ、さわらないで下さいよ」
 上半身はともかく、下半身はヤバイ。薪の手は遠慮というものを知らないのか、腰につけたタオルの中にまで入ってきそうな調子である。
 
「薪さんがオレに身体を鍛えろって言ったんですよ。それから少しずつ、トレーニングしてたんです」
「おまえって、どんだけ素直なんだ」
「おかげで10キロ走れるようになったんですよ。薪さんのハイペースには、まだついていけませんけど」
「2年くらいで、そんなに筋肉つくのか」
 走り込みもしているが、岡部について柔道と剣道も習っている。背の高い青木は柔道が苦手だが、剣道のほうはなかなか筋が良いと褒められた。
 
 薪には絶対に秘密だが、捜一の竹内に射撃も教えてもらっている。岡部が口をきいてくれて、竹内も快諾してくれた。竹内の射撃の腕前は全国レベルだ。
 竹内は、意外なほど面倒見が良くて親切で、頭もいいから話も面白い。これで薪に惚れてさえいなければ、心の底から友人になれるのだが。
 薪はそんな竹内のことを、何故か毛虫のように嫌っている。機会があれば薪の誤解を解いてやりたいところだが、それは竹内が薪のことを完全に諦めて、他の誰かに心を移すのを確認してからだ。恋敵に塩を送るほどの余裕は、青木にはない。

「ふん。ずるいやつ」
「な、なんのことですか?」
 心を読まれたのかと焦るが、薪の憤慨はまったく別のことだった。
「なんで僕は筋肉がつかないんだ? あんなに努力してるのに」
 薪はたしかによくトレーニングをしているが、捜査が混んできてしまったときはそんな時間はない。休日も休み時間も仮眠すら取らないのだから、合間を見て警視庁のジムを利用することもできない。使わない筋肉はどんどん落ちていくものだが、薪の場合、一番の原因は食事を摂らなくなってしまうことだ。

「ちゃんと食べないからですよ。筋肉を作る材料が身体の中にないと、いくらトレーニングをしても筋肉はつきません」
「そうなのか?」
「それだけじゃありませんよ。食事を抜くと生命維持に必要なエネルギーを得るために、身体は筋肉を分解して糖を作り出すんです。だから薪さんの身体には、筋肉がなくなっちゃうんですよ」
「おまえ、よくそんなこと知ってるな」
「三好先生の受け売りです」
 雪子には、効率よく筋肉をつけるための食事指導をしてもらっている。それにかこつけて、色々と薪のことを教えてもらっている。大学時代のことや捜一にいたころのことなど、ロスに研修に行っていた話も雪子から聞いたのだ。

「だから捜査に夢中になっても、食事を抜くのはやめてください」
「詰めのときはダメだ。食べると緊張感がなくなる。せっかく積み上げた推理が崩れてしまうんだ」
「そういうもんですかね。オレなんか腹減ってると、考える気にもなりませんけど。どっちかっていうと、おなかいっぱいのときのほうが、いいアイディアが浮かびますよ」
 脳の栄養源は糖質だけなのだから、これは青木の意見が理論的には正しいはずだ。勉強疲れのときは甘いものを食べろ、というではないか。しかし、頑固な上司は自分の困ったクセを矯正する気はないようだった。

「おまえは胃袋でものを考えるタイプだからな」
「なんですか、それ。オレが食欲だけで生きてるみたいじゃないですか」
「おまえ、ひょっとして胃袋の中に脳みそがあるんじゃないのか?」
「めちゃくちゃ言ってくれますね。胃液で溶けちゃうじゃないですか」
「いくらかでも溶け残ってるといいけどな」
 青木が怒った顔をすると、薪は楽しそうに笑ってくれた。
 もう、むちゃくちゃかわいい。本気で脳が溶けそうだ。
 
「雪見風呂に雪見酒かあ。これで隣に美人のお酌がついたら最高だな」
 薪は吟醸酒の盆に手を伸ばし手元に引寄せると、青木の肩を背もたれ代わりにして寄りかかってきた。温泉で温まった背中が腕に当たって華奢な両肩が目の前に来て……もしかしてこれは、忍耐力のテストだろうか。
「こんなところに、美人なんか来ませんよ」
「仕方ない。おまえで我慢するか」
 猪口を青木の方に差し出す。桜色に染まった細い腕。

「サルにでもお酌してもらってください」
 素っ気無く言って、青木はお湯から上がった。
 まだ体は充分に温まっていないが、我慢の限界だ。ここで無理やり襲ってしまって薪に投げ飛ばされるか、風邪を引くかの二者択一。これからのことも考えて、青木は後者を選ぶことにした。
 
 着替えを済ませて浴場に戻ると、薪は岩の上に座っていた。のぼせてしまったのか、顔が赤い。
 さすがに腰にタオルを置いているが、見えない分よけいに扇情的だ。腰の辺りから、ふるいつきたくなるような色香が立ち上っている。とても直視できない。これが水着だといくらかは落ち着いて見られるのだが。露出度はそう変わらないのに、不思議なものだ。

 薪のほうを見ないようにして、冷たいミネラルウォーターを渡してやる。コクコクと水を飲む音がする。
「そろそろ帰りましょうか?」
「うん。……もう、帰らないとダメか? ヘリのレンタル料とか、嵩んじゃうのか?」
「それは大丈夫ですよ。ヘリは明日の夜までに返せば、料金は同じです」
「じゃあさ、今日はここに泊まっていかないか?」
「え!?」
 デートプランを念入りに計画していた青木は、もちろんそのつもりで宿の予約もしてあった。薪にそれをどう切り出すかで頭を悩ませていたのだ。都合の良いことに、それを薪のほうから申し出てくれた。
 
 どういうつもりだろう。
 自分の気持ちに応えてくれる気でいるのか、それとも――。
 「そうしたら、明日もここに来れるだろ」
 ……単に温泉に入りたいだけなんですね。

 このひとはこういう人だ。自分の都合しか考えない。
 青木の気持ちなど、ちっとも考えてくれないのだ。どうしてこんな自分勝手なひとを好きになってしまったのだろう。
 今ここで、このピンク色に上気したからだを組み敷いてやりたい。柔道の技では負けても、腕力では負けない。力任せに奪おうと思えばできないことはないはずだ。
 でも、それをやってしまったら、永遠にこのひとを失ってしまう。せっかく縮めた距離が、また遠くなってしまう。だから何もできない。
 多分、薪は自分のそんな気持ちを見抜いている。だから自分の前で平気ではだかになれるのだ。襲うだけの勇気もないと思われているのだろう。くやしいが、事実だから仕方がない。

「わかりました。じゃ、2、3軒、宿を当たってみますね」
 本当はもう予約を入れてあるのだが、ここはこう言っておいた方がいい。あくまで薪のほうから誘った形をとっておかないと、後でまた何を言われるかわからない。
「当てがあるのか?」
「車に住宅地図と電話帳がつんでありましたから。電話してみます」
 青木はそれを理由に、その場を離れた。

 肩越しに振り返ると薪はまだ岩の上にいて、両手を後ろにつき、胸を反らせていた。
 片足を立てて目を閉じている。吐く息が白い。その姿は雪の化身のように白く清廉で、生身の人間とは思えないくらいきれいで――。
 どうしてこんなにきれいなんだろう。
 傷つけることなどできない。無理やり穢すことなどできない。
 少しだけでもいいから、汚いところがあればいいのに。そうしたら、こんなに躊躇わない。
 
 どこから見ても何をしていても、薪の美しさは損なわれることはない。惚れた欲目ではあるのかもしれないが、薪が泥酔してくだを巻いていたときでさえ、可愛くて仕方なかった。
 ラーメン食べても納豆食べても可愛かったし、自分の目はおかしくなってしまったのだろうか。このまま病状が進行すると、例え目の前でゲロを吐かれても可愛いと思うようになってしまうのかもしれない。
 ……人間を辞めたくなってきた。

 薪を口説くのは命賭けだが、もう自分でも抜けられない。
 近付けば近付くほど好きになって、薪に想いを告げた一昨年の秋よりも、今のほうが青木の熱は上がっている。この熱を冷ますのは、雪女にも不可能だ。
 
 とにかく、今夜が勝負だ。
 絶対に、返事をもらうのだ。
 決意を胸に、青木は車を置いてきた場所へと歩き始めた。



*****


 次はお泊りですね♪
 ベタな展開だなあ(笑)




 私信です。

 わんすけさん&コハルさんへ。
 正解は4番の『青木くんをなめきってるから』でした!
 ……すみません、ふざけすぎました。怒らないで。


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

ラストカット 後編(3)

 半年近く前になりますけど。
 500拍手のお礼のリクを募集したとき、『ふたりきりで露天風呂』というのをいただきまして。(かのんさん、覚えてらっしゃるかしら)
 後の話に出てきますので、とその時は先送りにさせていただいたのですが。
 それがこの章です。

 これはもう10ヶ月も前に書いたお話なので、細かいところは忘れちゃったし、あれー、なんでこんなこと書いたんだっけって、あちこち綻びているのに修正もままならず。
 残念な記憶力ですみません。(^^;





ラストカット 後編(3)







 雪に囲まれた岩の狭間に、滾々と湧き出る熱いお湯。それが自然に出来た溝を通って窪みに溜まり、大きな池になっている。
 ここは地元の人しか知らない温泉だ。
 お湯の中には先客がいる。野生のサルだ。ここは彼らの大浴場なのだ。
 
「ここに来るサルは大人しいですから。ひとを襲ったりしませんよ」
 青木は回復期には、この温泉に日参していた。病院の看護師に凍傷に良く効くと勧められたからだ。サルたちはまだ自分のことを覚えているかもしれない。

 ボストンバックから大きな布とバスタオル、海水パンツを取り出す。手ごろな木の枝を探して布を掛け、簡易式の脱衣所を拵える。
「薪さん、この中で水着に着替えてください」
「ん? なんか言ったか?」
 ……もうお湯に入っている。
「薪さん……脱ぎっぷりよすぎです」

 薪が脱いだ服が、岩の上に置いてある。
 防寒対策の白いロングコートに、パステルグレーのジャケット、同系色のズボン。春らしい薄緑色の開襟シャツに深緑色のネクタイ。よほど急いで服を脱いだと見えて、ズボンと下着が重なったままだ。
 青木は苦笑して薪にタオルを差し出し、薪の衣服を脱衣所に運んだ。コートは雪が積もっていない木の枝に掛けておく。こんなところに置いたら濡れてしまう。
 ここには着替える場所もないし、地元の人が来るかもしれないから、それなりの準備をしてきた。布を木の枝に掛けて簡易式の脱衣所を作り、その中で薪に水着に着替えさせて、温泉に入ってもらうつもりだった。

「薪さん。水着、着たほうがいいですよ。誰か来たらどうするんですか?」
「こんなとこに、男の裸を見て悲鳴を上げるような若い女の子なんて来ないだろ。それに、僕は男だから見られたって平気だ。だいいち温泉に水着で入るなんて。サルに失礼だ」
 最後の理屈はよくわからない。しかし、薪がわけのわからない理屈をこねるのは、機嫌がいい証拠だ。

「サルが来る温泉があるって、あれ嘘じゃなかったんだな」
「はい。ホテルの人に聞いたんじゃなくて、病院の守衛さんに聞いたんですけど。場所も奥平じゃなくて、病院のすぐ側なんです。あの時は後ろにいた男を撒こうと思って。嘘ついて、すみませんでした」
「ちゃんと説明してくれれば、引っかいたりしなかったのに」
 もちろん、正直に話そうとした。後で必ず連れて行きますから、と叫んだような覚えもある。聞く耳を持たなかったのは薪のほうだが、それを言うとまた傷薬が必要になる。

 クーラーボックスから吟醸酒を出して、木の盆に載せてお湯に浮かべてやる。亜麻色の瞳がいっそう輝いて、つややかなくちびるが冷たい甘露にキスをする。
「天国だ~!」
 雪景色に温泉に『綾紫』。自分を幸せにしてくれる3大アイテムが揃って、薪は大はしゃぎだ。今回の青木の計画は当たりらしい。
 
 実は、今日のデートに青木は勝負を賭ける気でいる。
 告白してから1年半。薪は一向に答えをくれない。
 いや、何回かきっちり振られているのだが、この1年半の間には色々なことがあって、そのたびに薪との距離は縮まっていくように思える。
 今日だって、二つ返事でついてきてくれた。決して嫌われているわけではない。その証拠に、薪はこんなことまで言い出した。

「あ~、気持ちいい。おまえも早く入れよ」
 恐ろしいことをさらっと言ってくれる。青木の自制心を信用してくれているのかもしれないが、他の人間がいる公衆の大浴場ならともかく、2人きりの温泉なんて危なすぎる。
「オレはいいですよ」
「なんで?」
「なんでって」
 このひとは自分の気持ちを知っているはずなのに、どうしてこう鈍いのだろう。
 事件のときは視覚者の心情をあんなに的確に見抜くくせに、と恨みがましい目つきになってしまう。
「なんだ、その顔。いいから入って来い! 僕の言うことが聞けないのか。僕はおまえの上司だぞ!」
「はいはい。わかりましたよ」
 薪は早くも絡み酒だ。温泉で身体が温まっているから、酒の回りが早いらしい。

 薪のために用意した脱衣所を使うことにする。
 服を脱ぐところを見られるのは、変に恥ずかしいものだ。脱ぎ終わった後のほうが露出度は高いはずなのに、あれはどういう心理なのだろう。薪はぜんぜん気にしないようだが。
「なんだおまえ。男のクセに裸になるのが恥ずかしいのか?」
 腰にタオルを巻いて出て行くと、ひとにイチャモンをつけるのが得意な上司が、また何か言っている。男らしくないだの、さては自分の身体に自信がないんだろうだの、勝手に言っててくださいという感じだ。酔っ払いの戯言をいちいち真に受けていたらきりがない。

「タオルはお湯につけないのが温泉のマナーだろ」
「ほっといてください。いいんですよ、ここは。水着も大丈夫なんですから」
 こんなことなら、自分の水着も持ってくればよかった。薪のために用意した水着では、片足しか入らない。
 マナーを説くだけあって、薪はタオルを頭に載せている。しかし、普通こういう場合は前を隠すものだが。薪の羞恥心はサル並みだ。

 周りを雪に囲まれているから、気温はかなり低い。お湯に入って温まらないと、10年ぶりに風邪を引いてしまう。
 なるべく薪から離れた位置でお湯につかる。ここへ来るのは5ヶ月ぶりだが、やっぱりとても気持ちがいい。

「あれ? おまえって」
 薪がこっちを見ている。サルは他人の裸も気にしない。
「なんですか?」
「おまえって、こんなにいい身体してたっけ」




*****


 ま、薪さんがセクハラオヤジに……青木くん、ピンチ?(笑)


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Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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