こんにちは~。
今日の回は、わたし的にはとっても銀魂らしいと思うんですけど。
怒っちゃイヤ。
秘密の森のアリス(8) だだ下がりのテンションを気合で戻して、薪は自分に課せられた敵に立ち向おうと、妹妖怪の姿を探した。
亜麻色の髪を一振りして薪は、通路の暗がりに隠れていた敵を簡単に見つけ出す。
頭に取り付けた屈辱的なアイテムが薪の視神経にどういう作用を及ぼしているのかは不明だが、とにかく、姿が見えればこっちのものだ。
「アリスちゃん。これ、借りるよ」
少女のポケットからロープを2本抜き取ると、それを自分のポケットに入れて妹妖怪に狙いを定める。
猛烈なスタートダッシュで敵との間合いを一気に詰め、素早く相手の背後に回る。長く伸びた髪をつかみ、足払いを掛けてその場に引き倒した。
途端、兄妖怪の動きが急に鈍くなった。妹の集中が途切れたことで、青木の攻撃が読めなくなったらしい。ここを勝機とばかりに、青木は鋭く剣を振り下ろすが、それは敵の腕によって止められた。
「つっ。どんだけ固いんですか」
まるで鉄の塊を叩いたようだ。強烈な反動に、思わず木刀を取り落としそうになって、青木は咄嗟に後ろに逃げた。まともに剣を握れない状態で、突っ込んでこられたら反撃の仕様がない。
木刀で仕留めるのは無理かもしれない。薪に渡したものが必要になるかも。
妹のほうは、先刻薪が倒した三郎よりも肉体的には弱いとアリスは言っていた。今の薪は彼らの姿が見えるらしいし、だったら倒すことは難しくないだろう。薪は見かけによらず、とても強いのだ。
『ふふ、妹を侮るなよ』
対峙した兄妖怪の口から不気味な笑いが漏れて、青木は焦る。さては、こちらの妖怪にも心を読む能力があったのか。
『勘違いするな、おれには妹のような能力はない。だが、おまえは考えていることが顔に出やすい。わかりやすいやつだ』
……妖怪にわかりやすいって言われた……。
黒い剛毛に覆われた手で、妹を害しようとしている薪を指差して、妖怪はふてぶてしく顎をしゃくる。
『あの男の心には、見たこともないくらい大きな穴がある、と妹は言っとった。そこを衝けば、非力な自分でも簡単にあの男を倒せると』
「あ……」
妖怪の言葉を聞いて、敵が薪に対して取るであろう戦法を予想して、青木は我知らず呻く。
心を読む妖怪に対して、あまりにも薪の傷は大きい。
もし鈴木のことを読まれて、彼の姿をとったら。薪は何の抵抗もできず、彼にされるがままになるに違いない。
「薪さん、気をつけて! 鈴木さんのこと、考えちゃ駄目ですよ!!」
駄目だと叫びながら、青木はその忠告が無駄であることを知っていた。
薪は鈴木を忘れたことなどない。薪の心の中心に、永遠に、鮮明に生き続ける彼の姿。隠すことなど不可能だ。
「薪さん!!」
そう分かってなお、青木は叫ばずにはいられない。彼の傷を知る青木には、それがどれだけの強さでもって彼を傷つけるのか、どれだけ暴力的に彼をあの日に引き戻すのか、ありありと想像できるからだ。
「アリスちゃん、まずい! 薪さんは昔、とってもつらい経験をしてるんだ! 敵の幻術に惑わされる可能性が高い!」
兄妖怪と再び剣を交えながら、青木は頼みの綱のアリスに呼びかけた。アリスは薪に注意を促すため彼に駆け寄ろうとしたが、何か眼に見えない壁のようなものに行く手を阻まれてしまった。
「しまった、結界を張られたわ! 外からは、薪さんに触れられない」
「えっ。じゃあどうすればいいの」
「薪さんが自分で、何とかするしかない」
「それができるくらいなら、心配なんかしな、―-っ!」
目前に迫ってきた拳をよけきれず、青木は思わず眼をつむった。が、襲ってくるはずの痛みはなく、不審に眼を開けると、兄妖怪の寸止めされた拳が見えた。
『そっちが気になって仕方ないようだな。一時休戦と行こう』
「えっ」
なんて話の分かる妖怪だろう。というか、こいつは本当に悪い妖怪なのか? 人を食べるような悪鬼が、こんなことを言うだろうか。
青木が驚いていると、兄妖怪はその場に腰を下ろした。どうやら、妹と薪の戦いぶりを観戦するつもりらしい。
『おれたちは、生きるために最低限の食物を食べているだけだ。無益な殺生はせん。だから、あそこにいた人間の中から、3人で食べるために一番大きなおまえを選んだ。あの者を連れてくるつもりはなかった』
生きるために食べる、それは青木も日常的に行っていることだ。自分の生命を維持するために、鳥や豚を食べている。それと同じに、彼らも人間を食べていると言いたいのか。
「で、でもそれは」
『そら、妹の反撃が始まるぞ。やつが愛しく思うものの姿に、妹は変化する』
反論しようとした青木の言葉は、長兄によって遮られた。
理屈は通っても、とても納得はできない彼らの主張を、青木はひとまず横に置いて、見えない壁の向こうにいる薪を見つめる。
薪の手によって地面に押さえつけられていた妹妖怪の姿がぶれて歪み、次の瞬間そこにいたのは。
「「『なんでそこで深田○子!?』」」
しかも水着姿だよ! なにを考えてんだ、このひと! てか、どんだけ好きなんだよ、深田○子!!
薪は彼女をやさしく助け起こして、男子高校生のように頬を紅潮させ、
「すいません、サインを。あ、あと、握手も……で、できたらその、ちょっとだけ胸にタッチなんか」
男の子全開だよ!! なんて目の前の誘惑に弱い人なんだ!!(でも猫耳)
「なにやってんですか、薪さんっ!この非常時に!!」
「うるさいな、こんな機会、一生に1度あるかないかだぞ。男として逃せん」
そのせいであなたの一生、ここで終わっちゃいそうですけどねっ!!
「ひどいですよ! そこで思い浮かべるならオレのことでしょ、普通!」
「僕はおまえみたいなヘンタイじゃない。野郎の水着姿なんか、見たくもない」
オレだって男の水着姿なんか、あ、でも薪さんの水着姿は健康的だけど角度によってはお色気たっぷりで、特に後ろから見上げるようなアングルだと、かわいいお尻がズッギュンバッキュン、て、そうじゃなくて!
「あんまりですよ! オレは薪さんのことしか考えてないのにっ!!」
妹妖怪が変化した姿がその男の最も愛しい相手だと、青木は自分の経験から知っている。ということは、青木への薪の愛情の強さは、このアイドルよりも下ということで。
どうしようもない虚脱感に囚われて、ある意味兄妖怪にボディブローを決められたときよりも深いダメージを負って、青木はその場に崩れ落ちた。膝を抱えて、落ち込みのポーズで顔を隠す。これが泣かずにいられるか。
ぽん、と肩に置かれた手があった。アリスかと思って顔を上げると、ついさっきまで拳を交えていた敵が気の毒そうに、
『……まあ、元気出せよ』
妖怪に慰められたよっ!! どんだけ不幸なんだよ、オレの恋愛模様っ!
「薪さんっ、それは妖怪ですよ! 正気に戻ってください!!」
「僕は正気だ。最上の選択をしている。……すみません、次はぜひ女豹のポーズを」
女豹のポーズのどの辺が最上の選択!? てか、どんなポーズか知ってんのかよ、妖怪! あ、そうか、薪の心を読んでるのか。
彼女は四つん這いになり、豊かなバストを強調するように両腕で脇から盛り上げて見せた。すっかりご満悦の薪は、にこやかに笑いながら彼女の背後に回る。
まさか後ろから乗っかっちゃう気じゃ、と青木が青くなった瞬間、薪はポケットから紐のようなものを出して、彼女の足を素早く縛った。続いて両手も縛り、彼女の自由を完全に奪うと、自分のハンカチで目隠しまで。
「あれっ。薪さんたらいつの間にそんなプレイに興味を」
「アホか。眼を封じただけだ。眼が見えなければ、心も読めないだろう」
彼女を床に転がしたまま、薪はその場を離れた。先刻、アリスが弾かれた見えない壁を難なく突き抜けてくる。妹妖怪は身体の自由を奪われて、結界を張ることもできなくなったようだ。
「僕は紳士だからな。例え妖怪でも、女の子に無体な真似はできない」
「超絶ビニキで現れた時点で、紳士失格ですけどね」
心理戦と呼ぶにはあまりにも下らない彼らの戦いの決着がついて、青木はやっと薪の戦法を理解する。
薪は妹妖怪の特殊能力を知っていた。だから、意識的に彼女のことを考えたのだ。どうして彼女なのかといえば、それはおそらく、相手が誰の姿を取れば一番双方に被害が少なくなるか、薪はそれを考慮したのだ。
鈴木や雪子の姿で向かってこられたら、薪は多分身動きができない。第九の職員たちにも、乱暴な真似はできない。かといって、薪が嫌っている竹内や間宮の姿を読み取らせれば、今度は必要以上に相手を痛めつけることになってしまうだろう。薪はたぶん、それも避けたかったのだ。
「しかもTバックで女豹のポーズって。いやらしい」
「失敬な。僕にはいやらしい気持ちなんか、これっぽっちも」
「と言いつつ、携帯で写真撮ってますよね? タイトル『陵辱、深田○子』って、ひとの携帯に汚らわしいもの送らないでくれますか?」
「おまえだって受信ボタン押したくせに」(圏外なので赤外線通信)
携帯を使って掛け合い漫才をやっていると、アリスが興味深そうにそれを見ていて、
「へえ。今はこんなもので写真を撮るの?」
「え? アリスちゃん、携帯知らないの?」
10歳くらいで攫われてきたと言っていたから、自分の携帯を持っていなくても不思議ではないが、携帯自体を知らないというのは珍しい。親が携帯嫌いの親だったのだろうか。
「これは携帯電話って言ってね、遠くにいても、これで会話ができるんだよ。他にも、メールって言って」
『おいっ!』
呑気に携帯の機能を説明し始めた薪に、気色ばんだ声を掛けたのは妖怪の兄だった。
『よくも妹を辱めてくれたな。このお礼はきっちりさせてもらう』
うん、彼の気持ちはすごくよくわかる。オレも舞がこんな目に遭ったら、同じことを言うと思う。
「薪さん、そこだけは謝っておいたほうがいいですよ。人として」
「ちょっと待て。妖怪の味方するのか、おまえ」
「そうね。わたしも女性として、薪さんの行動には許せないところがあると」
「アリスちゃんまで?! ……すみませんでした、調子に乗りすぎました」
3対1になって、薪は仕方なく頭を下げた。青木ひとりだったら決して謝らなかったと思うが、薪は女性には弱い。
ごめんなさい、と素直に謝る薪は、白い猫耳が彼の心情を表すようにぺたんと垂れて、もう殺人的にかわいい。2人きりだったらソッコー押し倒してる。
薪にとってはある意味妖怪よりも危険な自分の中のケダモノが牙を剥きそうになって、青木は慌てる。青木は薪から眼を逸らし、ここから無事に帰ったら薪さんに頼んで、絶対に猫耳プレイをしてもらうから、と約束して、必死にケダモノを宥めすかした。
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コンセプトは『秘密で銀魂のグダグダアクション』
薪さんファンにも銀魂ファンにも石を投げられそうな内容ですみませんーーー! (一番の怒りは深田○子ファンでは?)
テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学