旅に出てもいいですか?

 すみません、ちょっと旅に出てもいいですか?(笑)

 
 8月号を読んだら、オットにそう言いたくなったもので・・・・・・・ああ、薪さん。 理想的過ぎる。 あなたを探しに地の果てまでも行きたい気分です。


 以下、8月号の局地的な感想です。
 ストーリーや事件の謎に迫るものではありません。 また、個人的意見なので、これからの展開を考える上での参考にはしないでください。


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ニアリーイコール(4)

 発売日ですよっ!

 うきうきうきうきうき♪

 
 あ、すみません、お話の方はこれでおしまいです。
 命題に対するわたしの答えは、つまり、

『すれ違っててもいいじゃん、想い合ってるのは間違いないんだから☆』
 
 あらら、一行に書けちゃった。 ええ、それだけの話でございました。 ペラくてすみませんです。(^^;





ニアリーイコール(4)




「っ、ゔぁおぅっっ……!!!」
 踏み潰される蛙のような声を聞いて、青木は荷造りの手を止めた。見ると、洗面所の鏡の前で薪がうずくまっている。顔を洗おうとして、洗面台に肘が触れてしまったらしい。
 青木の頭を抱いたまま眠ってしまった薪の左腕は、朝には指先の感覚が無くなるほどに痺れていた。その痛痒感は薪の美しい声帯に、風に吹かれただけでも声にならない悲鳴を上げさせ、固体に触れようものなら先刻のような何処の言語だか判別の付かない不思議な言葉を喋らせた。

「大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないっ!!」
 青木の心配を即行で打ち返して、薪はきれいな額に青筋を立てる。床にしゃがんだ体勢のまま、青木の顔をキッと見据えて、
「おまえのせいだぞ、青木!」
「はいはい、すみませんね」
 怒り心頭の薪に恐れを抱く様子もなく、青木は彼の手助けをするためにタオルを持ってサニタリーへと向かう。
 自分の身体の不調を青木のせいにする、そんなことは珍しくもない。この人の責任転嫁主義にはもう慣れた。

「ったく。スカスカの脳みそしか入ってないくせに重いアタマしやがって」
「ぜんぶ許してくれるんじゃなかったんですか?」
「だれが許すか!!!」
 顔を洗っている途中のハプニングの為に、濡れたままの薪の顔を拭きながら、青木はこっそりと呟く。
「ころっころ変わるんだから」
「何か言ったか」
「いいえ、なにも」

 薪は、指の感覚を取り戻そうとしてか、左手を何度も開いたり閉じたりしている。その細い指が白百合の花弁のように、あるいは可憐な蝶の羽根のように、動くさまを青木はうっとりと見つめる。
 なんてきれいな指だろう、なんて白いてのひらだろう。
 この手が昨夜、自分の頭を撫でてくれた。繰り返し繰り返し、母親が幼子を慰撫するように、やさしくやさしく撫でてくれた。
 前夜に与えられた慈悲を思い起こせば、その手はとても気高いものに思えて、神の御手を押し頂くように、青木は両手で彼の左手を包み込む。

「薪さ、おごぁっ!!」
「触るな!! ビリビリしてるんだからっ!!」
 だからって、いくらなんでも右アッパーはないんじゃ。
 
 青木が涙目になって顎をさすっていると、薪は自分の左肘を右手で抱え込むように握って、
「おまえ、いつも僕の頭載せてくれるけど、こうなったことないのか?」
「ないです」
「それは僕の頭が軽いという事か?そういう意味か!?」
 また怒られた。正直に答えただけなのに。
 
 腕枕にはコツがあって、相手の首の部分に腕を入れるのが基本形だ。こうすると相手の頭の重さは枕が支えてくれることになるから、腕の痺れは軽くて済む。昨夜の薪のように、相手の頭をまともに腕に乗せて、しかも胸に抱え込んでしまったら、こうなって当たり前だ。
 女の子を腕枕で眠らせた経験のある男なら誰でも心得ている技術を、全然知らない薪が可愛い。見栄っ張りの薪は認めないだろうが、多分、彼の腕枕第一号は自分だ。

「ちょっとくらい痺れても、薪さんとくっついて眠れるの、うれしいです」
 青木がニッコリ笑って正直に言うと、薪は、うっ、と何かを喉に詰まらせたように呻いて、ぷいと横を向いた。
「……ちょっとってレベルじゃないだろ」
 そのまま青木の方を見ずに、薪はドアへと向かった。壁の時計は8時を指している。朝食の時間だ。

 鍵を掛けて部屋を出て、青木は細い廊下を歩く薪に追いつく。
「薪さん、片手じゃ不自由でしょう。オレが食べさせてあげましょうか」
「そんな生き恥を晒すくらいなら、僕は餓死を選ぶ」
「ええ~……」
 相変わらず、薪はシビアだ。青木は薪に食べさせてもらえるなら、腕の一本くらい無くなってもいいと思ってるのに。

――――― でも、昨夜の薪はすごくやさしかった。

 彼に許されて、それでいいと思えるほど青木も単純ではないけれど、悩んでも仕方のないことは考えないのが青木の性分だ。過去は消せない、でも、きっと何かしらの形で取り返す事ができる。やり直せない失敗はない。自分が諦めない限りは、どこからでも再スタートは切れると信じている。

「朝食は、テラスだそうですよ」
「そうか。天気もいいし、気持ち良さそうだな」
 掃除の行き届いた階段を下りて、ロビーを通り抜け、ガラスの扉を開いてテラスに出る。朝食会場では、すでに3組ほどの泊り客が朝食をしたためていた。
 丸テーブルの上に掛けられたクロスは緑と白の二枚重ね。四つ角をずらして重ねることで、交互に出現する色のコンビネーションは、今の季節にぴったりの爽やかさだ。その上に準備されたグラス、コーヒーカップ、ピカピカの食器類に手作りらしいランチョンマット。オーナーの奥さんが、パンのバスケットと木製のボウルに盛られた野菜サラダを持ってきて二人に席を勧め、目印の部屋番号が記されたプレートをエプロンのポケットにしまって戻っていった。
 バスケットからは、焼きたてパン特有の香ばしい匂いがする。サラダはレタスとトマトの色合いがとても鮮やかで、青木の大好きな冷たい牛乳もグラスに満たされていて、青木は自然とうれしくなる。

「美味しい! 牧場直送の牛乳ですね」
 牛乳嫌いの薪が冷ややかな眼差しで、自分のコップをこちらへ寄越す。ありがたく受け取って、右手でコップを持ち上げる。
 2杯目の牛乳を飲みながら、青木は空を見上げる。
 5月の美空は高原の空気に映えて、泣けてくるほど青かった。



(おしまい)



(2011.5)

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ニアリーイコール(3)

 こんにちは。

 明日はメロディ発売ですね。
 あー、緊張します……!!!
 6月号に比べたら、楽なもんですけど。 (←明るい未来しか考えてません)
 たーのーしーみー♪♪


 すでにご覧になった方も多いと思いますが、
 先日、『晴れときどき秘密』のみひろさんが、『天国と地獄』に登場する裸ワイシャツの薪さんを描いてくださいましたっ!! 
 この薪さんが、えらい色っぽくていらして、まあなんですか、うちの男爵とは大違い! 眼福とは正にこのこと!!

 まだご覧になられていない方は、ぜひぜひ飛んでみてください!! → (裸ワイシャツ薪さん
 
 




ニアリーイコール(3)





 何が原因だったのか、薪には見当もつかなかった。
 さっきまで機嫌よく話をしていて、薪の髪を乾かしながら首筋に触れ肩に触れして夜のサインを送ってきていた恋人が、突然その矢印の向きを変え、ベッドで待っている自分に見向きもしない。と思ったら突然懺悔を始めて。彼の中でどんな変異が起きたのか、薪には全く理解できなかった。

「薪さんが」
 薪は青木をベッドに座らせて、黙って手を握った。薪の手を握り返して、青木はとつとつと言葉を紡ぎだした。
「薪さんが鈴木さんのこと好きだったの、最初から知ってました。オレは薪さんに好いて欲しくて、オレに関心を持って欲しくて、鈴木さんとそっくりのこの顔を利用したんです」

 青木の言っていることが、薪にはよくわからなかった。
 どうして今になってそんなことを。それは確かに、薪が青木に心を惹かれた大きな要因だった。でもきっかけなんかどうだっていい、大事なのは今の気持ちじゃないのか。
 あほらしい、と薪は思ったが、そんな取るに足らないことを気に病む彼の純真が愛おしくもあった。こいつは本当にかわいいと、風呂上りで下ろした彼の前髪に、薪はやさしく手を差し入れた。
 滑らかな額を指先で撫でて、それは人に慣れない子猫の額をそっと撫でるように細心の注意を払って、怖がらないように、安心させるように、指先から僕のこの想いが彼に流れ込むようにと祈りを込めて、薪は彼の額を慈しむ。

「青木。あんまり僕を見くびるな。僕が外見に騙されて、そいつに心を奪われるような愚か者に見えるのか」
「普通なら惑わされないと思いますけど。薪さん、鈴木さんのことになると人が変わるから」
 ……………否定したいけどできない。

「おまえはそんなことはしていない」
 非難されるべきは自分のほうだ、と薪は思う。
 青木の中に、彼を探していた。ずっとずっと、彼の面影をこいつに求めていた。青木はそれを読み取って、僕の我欲を満たしてくれただけ。

「おまえが意識的に鈴木を装ったのは、あの時だけだ。僕を慰めてくれた」
 第九にやってきた女子職員の策謀に巻き込まれた時のことを思い出して、薪は言った。

 その時は何も考えられず、親友にするのと同じ行動を取ってしまった薪だが、後になって色々と考えた。
 一番最初に、青木はつらかっただろう、と思った。
 僕はあのとき、青木を見ていなかった。僕の身体を抱きしめて慰めてくれたのは、鈴木だった。
 自分が誰かの代わりにされる、それはどんなにか人の心を傷つけることだろう。それが分かっていながら、青木は自分のために己の存在を捨ててくれたのだと知って、薪は彼に傾く気持ちを抑えることができなくなった。
 そうして彼を愛し始めたはずなのに、それからも僕は……青木が鈴木とは全くの別人だと、どんなはずみにも間違えることがなくなるまでには何年もかかった。

 青木はそんな僕を、許してくれた。変わらず愛してくれた。
 その彼を、例え彼と出会ってから今まですべてが偽りだと知らされたとしても、僕が許さないなどあり得るだろうか。
 今現在、青木が僕を騙していてさえ、僕は彼を許す。彼の愛情は疑うべくもないけれど、それは僕の彼へと向かう気持ちには何の関係もないこと。

 僕たちの想いはいつもどこかしらすれ違っていて、理解し合えたと感じた時ですら完璧なイコール記号では結べない。どちらかが僅かに大きかったり、ベクトルの方向がコンマ1ミリほどずれていたりして、そこにあるのは必ず、イコールの上下にドットマークのついたニアリーイコールの記号だ。
 今だって、彼は僕にはまったく理解のできないことでしょぼくれて、せっかくの夜を台無しにしようとしているし、僕は僕でそんな彼に同調することもせず、泣きべそをかいた彼をとても愛おしいと思っている。

 いま、僕たちの想いは見事なまでにすれ違っている。
 だけど僕たちの根底にあってそれぞれの想いを生み出しているものはドットマークとピリオドほどに相似していて、青木の憂鬱も僕の中に突き上げる衝動も、そこから派生したもの。それを思えばこんな具合に、てんで勝手な方向を向いた自分たちでさえもニアリーイコールで包括できる。
 こんな状況をとても幸せだと感じる僕は、数学者にはなれないのだろう。

「あの時だけじゃないんです。初めて薪さんにデートしてもらった時だって、鈴木さんから白百合の花を贈られていたって聞いて、それで」
「そういうのは利用したって言わない。だれだって最初は好きな人に気に入られたくて、相手の好みにあった行動を取ろうとするだろう?それは好かれる努力であって、奸計じゃない」
「オレのはそんなかわいいもんじゃありません。薪さんにとって、鈴木さんの思い出がどれだけ大事だったか、知っててオレは」
 青木の目の縁に浮いて留まっていた水の粒が、張力の限界を超えて零れだす。それを指先で拭ってやりながら、薪はとても満たされた気分になる。自分の前で感情をさらけ出してくれる、それは彼の信頼の証。

「僕が違うと言ったら違うんだ。おまえ、僕に意見する気か」
「そうじゃありませんけど、でも」
 未だに薪の眼を見ようとしない青木の黒い瞳を覆うのは、透明な水膜。それは悲しみなのか口惜しさなのか、何を嘆くのか何に憤るのか。
「オレは……自分のしたことが、それに気付きもしなかった自分が許せなくて」
 ずっと昔、目の前で青木に大泣きされたときのことを思い出して、薪は頬に浮かぶ微笑を抑えられない。あの時はうろたえるばかりだった自分が、今はこんなに落ち着いている。彼を慰められる自信がある。元気付けてやれる自信がある。

 他人の哀楽を自分が操れると思うなんて、と嘲笑いたくば笑え。笑われても僕は平気だ、何故なら。
 僕の傲慢は彼の愛を信じていることの証明であり、僕が彼を愛していることの履行に他ならない。

 だから僕は、どこまでも高飛車に彼の心を支配する。
「僕が許してやる」

 あくまでも高慢に、明らかに上からの目線で、薪は言い放った。
 亜麻色の瞳に宿らせた熾烈な輝きは、見るものすべてに激しい沈黙を強いる。青木の意識は一瞬で彼に吸い込まれ、自分がどうしてあんなに悲しい気持ちになったのかを忘れそうになる。

「おまえがおまえ自身を許せなくても、僕が許してやる。この僕が」
 許すと言う言葉は正当ではない。そう思いながらも、薪は続けて宣告する。
「全部、許してやる」

 許すのではない、僕は、『享受する』のだ。
 青木にされることならどんなことでも、喜びをもって受容する。彼の根底にあって彼を僕へと向かわせるもの、その正体を僕は知っている。それは僕の中にもあって、青木のそれと双子のように似ている、枝葉に差異はあっても本質は同じもの。
 同じ場所から生まれてきてそれぞれの中で育って、大きく大きく成長して、今僕たちを包み込んでいるもの。
 それさえ感じ取ることができたら、他には何もいらないと薪は思う。

「反論は」
「……ありません」
 青木は素直に引き下がった。
 よし、と頷いて、涙の乾き始めた若い頬に薪は愛しく接吻する。少しだけ塩辛い、これも青木の味。
 気がつけば、5月の夜はすっかり更けて、開け放した窓からは湿気た夜気が流れ込んでくる。薪は窓から首を出して中空に上った月を眺め、その美しさに満足して窓を閉めた。
 それからベッドに横たわり、左手を真横に広げ、右手で軽く自分の二の腕を叩いた。

「今日は特別だ。僕が腕枕してやる」
 えっ、と青木が目を丸くするのに、強く睨んで反問を許さない。
 おずおずとベッドに乗ってきて、こわごわと薪の腕に自分の頭を乗せて、青木は心配そうに訊いた。
「重くないですか?」
「おまえのノミの脳みそなんざ、重いわけないだろ」
「オレ、男のひとに腕枕してもらったの、初めてです」
「だろうな」

 青木に上目遣いに見られて、薪は庇護欲を掻き立てられる。遠慮がちな瞳で自分を見上げてくる彼は、自分の未来を知らない子供のようだ。いとしくて、抱きしめたくて、薪は自分の右手が彼の頭を抱くのを止められない。
 横向きになって、青木の頭を胸に抱え込む。黒髪からはフレッシュグリーンの香りがして、薪は今宵の夢が楽しみになる。

 きっと、青木の夢を見る。
 彼を抱いて、彼の匂いを嗅いで、僕は彼の夢を見る。

「あの、本当に大丈夫ですか? 腕、痛くないですか?」
「うるさいな。さっさと寝ちまえ」
 出てくる言葉はぶっきらぼうだけど、青木の髪を撫でる薪の右手はとてもやさしくて、だから青木はまたたく間に夢の世界へいざなわれる。
「薪さん、いい匂い……」
 青木の腕が、薪の右腕の下を通って薪の背中に届く。薪を抱いて裕に余る長い腕。

 抱いて抱かれて眠りに就けば、夢で再び出会うだろう。そのことを彼らは疑いもせず、安心しきって意識を手放す。ふたつの身体でひとつのオブジェを創るようにぴたりと寄り添って、互いの体温をゆりかごに拍動を子守唄に、ゆらりゆらりと落ちゆく先は彼らしか知らない秘密の領域。
 他には誰も入れない、何ものにも侵されない、彼らにしかその扉を開かない、彼らだけの絶対領域。
 朝になれば消えてしまう、だけど毎夜、彼らはここに帰ってくる。ここは彼らの約束の地、たとえ肉体が離れていてさえ彼らはここで巡り会う。そこが彼らの想いを生み出す源泉の地である限り。
 今宵も迷わず辿り着く。




*****


 6年超でもこの程度にしか甘くならないうちのあおまきさん。(T∇T)
 Sさま、ごめんなさいね、でろ甘なあおまきさんへの道は遠いみたいです……。


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ニアリーイコール(2)

ニアリーイコール(2)




 蛙の声が聞こえる。
 内風呂はそうでもないが、露天風呂に来るとひどく耳につく。薪が言ったとおりだ。
 その声は、青木に自分の罪を思い知れ、と弾劾するかのように強く激しく、飽くことなく繰り返された。

 薪が彼らの秘め事について教えてくれたとき、青木の頭に浮かんだのは、過去の自分の行いだった。
 自分は、薪の昔の恋人にそっくりなこの顔を利用して薪に近付いた。
 偶然顔が似ていた、それだけじゃない。雪子から聞いた薪の過去や鈴木との様子を参考にして、彼が鈴木を思い出すであろうシチュエーションを用意してまで、彼の心を自分に向けさせようと画策したのだ。白百合の花束や食べ物の好み、鈴木の無邪気さ、遠慮のなさ、それらは雪子から得た情報で青木が意図的に作り出した偽りの青木の姿だった。

 それは紛れもなく薪が憎む不正の一種で、そんな方法でしか彼にアプローチできなかった愚かしい自分を、青木は今こそ殴りつけたかった。
 彼に近付きたくて、自分のことを見て欲しくて、それがどんなに欺瞞に満ちた行為だったか、あの時は気付かなかった。あの頃、いつも青木は鈴木のことを意識していた。薪の前で、鈴木ならこうしただろうと思われる行動をわざと取った。そうすれば薪は断れない、鈴木にそっくりの自分を拒否できない、そこまで計算していた。

 自分は彼に関心を持ってもらうために、彼の大切な思い出を利用した。
 薄汚れた詐謀で、薪の一番大事なひとを汚した。

 鳴き上手な同胞を利用して自分の欲望を満たす狡猾な雄蛙のように。
 自分も、彼らと同じことをしてきた。薪が対峙したときに平常心を失うこの世でただ一人の人物の虚像を使って彼に近付き、最終的に彼を手に入れた。浅ましさと欲にまみれた行為。自分と彼らと、どこが違うのだろう。

 ――――― 昔の話だ。
 青木は自分にそう言い聞かせる。
 
 今は違う。鈴木を意識したりしていない。それに、そのことではちゃんと報いも受けた。ベッドの中で鈴木に間違われて……よくよく考えたら、自分は怒れる立場ではなかったのだ。自分は「昔の恋人にそっくりな男」という触れ込みで薪の心に入る作戦を立てていたのだから、当然の帰結だったのだ。
 あの時は青木だって辛かった。それでチャラでいいじゃないか。

 だけど。
 薪はそのことに気付いていない。薪は青木の謀に乗せられただけ、なのにあんなに自分を責めて、何ヶ月も責め続けて。
 ベッドの中で、申し訳なさそうに瞳を伏せていた彼を思い出すと、今でも胸が痛む。
 彼が悪いのではないのに、悪かったのは自分なのに。
 やってしまったことは取り返せないし、現在はこうして上手く行っているのだから、蒸し返すことは得策ではない。薪だって、今更そんなことを言われても困惑するだけだろう。
 分かっているのに、どうも気持ちが悪い。腹の底がムズムズして、落ち着かない。薪の顔が真っ直ぐに見られない。

「おまえにしては、長湯だったな」
 風呂から上がって部屋に戻った青木に、読んでいた文庫本の頁から顔を上げて笑いかけてくれた薪に、ぎこちなく微笑み返して青木は備え付けのサニタリーに入った。青木が入ると一人で満員になってしまう狭い空間で、肘に当たる壁を気にしながら髪を乾かす。
「夜が更けたせいかな、蛙の声が低くなったみたいだ。空気も冷たくなってきたし」
 薪は文庫本を閉じて、ソファから立ち上がった。テーブルの上に本を置くと、スタンドの灯りを消して、常夜灯に切り替えた。
「涼んだら、窓を閉めておけよ。僕はもう休むから」
 そう言ってベッドに入った。

 髪を乾かし終えると、青木はソファに座り、天井の常夜灯を見上げた。後頭部を背もたれに載せ、ぼんやりとオレンジ色の光を眺める。
 しばらくそうしていても、薪の寝息は聞こえてこない。ベッドの中で自分を待ってくれているのだろうな、と思ったけれど、青木はソファから動く気になれなかった。

 薪が寝返りを打つ音が聞こえた。後ろ頭に、視線を感じる。こちらをじっと見て、慎ましく青木を待っている。
「青木、まだ暑いのか?」
 焦れたらしい。
「薪さん、ベッド使ってください。オレ、こっちで寝ますから」
「どうしたんだ?」
 青木の返答にびっくりして、薪はベッドから青木のいるソファにすっ飛んできた。薪が驚くのも無理はなかった。土曜の夜に外泊して、そこで別々に休むなんて、初めてだ。何事かあったと思うのが普通だろう。

 青木が返答に迷っていると、薪はちょこんと青木の隣に腰掛けて、青木の顔を覗き込んだ。思わず青木が眼を逸らすと、薪も視線を外し、青木と同じように背もたれにその身を預けた。青木がそっと彼の様子を盗み見ると、薪の澄ました横顔には亜麻色の瞳だけが不安げに揺れていて。きっと恋人が急にふさぎこんだ原因を探っているのだろう、でもさっぱり分からなくて困っている。

 貴重な休日に薪を連れ出しておいて、その上彼に気を使わせるなんて申し訳ない、と青木は思う。
 ごめんなさい、薪さん。こんなことで凹むなんてオレらしくない、明日になったら元気になりますから、すみません、今夜は放っておいてください。

 心の中で謝るが、そんなものは自分への言い訳にしか過ぎなくて、だから彼に伝わるはずもない。青木の心中を知りようのない薪は、惑い、思案し、不安になって、彼にしてみれば精一杯の行動に出る。
 細い指が、青木が着ているバスローブの紐にかかった。大抵のことなら青木はこれで機嫌を直す、と薪に思われているに違いない。たしかに、日常のちょっとした落ち込みなら喜んで誤魔化される青木だが、今日のは事情が違う。
 結び目を解こうとした薪の手を、青木は自分の手で制した。拒まれたことに驚いた薪の瞳が丸くなる。

「青木?おなか痛いのか?」
 …………オレが拒む原因て、薪さんの想像では腹痛しかないんですね……。
「いいえ、どこも痛くないです。でも、ペンションは壁が薄いから。声が隣に聞こえちゃいますよ」
 ここは角部屋で、隣の部屋は空き部屋で、そんなことは最初からチェック済みだったけれど、青木は敢えて知らない振りをした。欺瞞の象徴とされる声を聞きながら、欺瞞で彼に近付いた自分が、彼に触れるのは許されない気がした。
「……抑えるから」
 気が付いてみれば、薪はまだバスローブのままでいて、その下にはシャツも着ていない。薪もちゃんとその気でいてくれて、でも今の青木には、そんな彼の健気さが息苦しかった。

 自分の気持ちを吐き出せば楽になる、きっと薪は許してくれるとも思った。だけどそれはあまりにも利己的な考えで、正直と言えば聞こえはいいが、薪のやさしさに頼り切った卑怯者の行動だ。聞かされた薪の気持ちを考えたら、絶対に口にすべきではない。

 鈴木の存在は薪にとって、魂の奥深くに大切にしまった至宝だ。
 薪がどれだけ彼を愛していたか、別れてから十年の上もその想いを捨てきれないでいた、その事実を知りながら、青木は薪の消すことのできない恋情を利用した。自分は、薪の一番大切なものを穢したのだ。

 最も許しがたいのは、と青木は激しく胸を疼かせる。
 今の今まで、己の罪を知ることもなく、のうのうと彼の傍で、彼に愛されていたことだ。気付かなかった、知らなかった、それは免罪符ではなく、最も深い罪だ。

「青木?!」
 薪の驚いた声が聞こえて、青木は初めて自分の頬に涙が伝い落ちていたことを知る。慌てて手で隠すが、薪の心配は一気に加速して、
「そんなにお腹痛いのか?待ってろ、オーナーから薬もらってくるから。いや、医者に行ったほうがいいかな、よし、いま救急車を」
 得意のカンチガイが始まった。

「違います! どこも痛くないですから!」
「じゃあ、どうして泣いてるんだ?誰かに苛められたのか。もしかしてあれか、3つ隣の部屋の若いカップルか。すれ違いざまにおまえのこと、ウドの大木とか言って笑ってたやつら」
 思い込んだら即行動の薪の手から携帯電話を奪い取って、一安心と思いきや、数秒の間もおかず次のカンチガイループに走りこむ。頭の回転がよすぎるのも考えものだ。
「よし、僕が百倍にして返してきてやる!」
「え、オレ、そんなこと言われてたんですか? てか、違いますから!」
 ドアノブに手をかけた薪を後ろから抱きしめるように留めて、青木は焦る。
「今、彼らの部屋に飛び込んだら大変なことになりますよっ!!」
 多分訴えられると思う、絶対にそうなると思う、だってこのペンション、全室ダブルベットのカップル仕様になってるし、そういう時間だもん!

「じゃあ、なんなんだ」
 青木の腕の中で、若魚が跳ねるようにくるりと身体を反転させて、薪は青木の両頬を両手で挟んだ。そうして自分から眼を逸らせないように青木の顔の向きを固定すると、容赦なく尋問用の厳しい視線をぶつけてきた。
「何をグダグダ考えてるのか知らないけど、考えすぎるとロクなことがないぞ?おまえはバカなんだから、仕事以外で無理に頭使うな。負荷を掛け過ぎるとニューロンがショートして、耳から煙が出てくるぞ」
 薪の漫画みたいな喩えに、青木はつい頬を緩める。振動が彼の手のひらに伝わって、それでようやく薪は吊り上げた眉をなだらかにしてくれる。

 平常に戻った形の良い眉の下に、叡智を宿す宝玉がふたつ。今それは、青木の沈痛と薪の不安を映して、かすかに震えている。
 薪に、こんな瞳をさせてはいけない。

 自分が楽になりたいだけかもしれないけれど、彼の憂いを増やすことはしたくない。それでまたひとつ自分の罪が増えることになっても、それはすべて自業自得だ。
「薪さん、ごめんなさい。オレ……あいつらと一緒です」
 あいつらって?と薪は首を傾げ、鸚鵡返しに訊いた。
 曖昧な表現だったな、と青木は反省し、薪に分かるように直接的な言葉を選んだ。

「騙したんです、あなたのこと」




*****

 原作の青木さんて、けっこうこういうとこあると思うの。
 彼は、薪さんの想いに気付かない。 雪子さんがあそこまで口にしているのに、気付こうともしない。 
 鈍いというわけではなくて、自分の中にないものは想像するのが難しいから、そういうことなんだとは思うけど、それもまた罪だなって。
 そういう青木さんだから薪さんも惹かれたのでしょうけどね。




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ニアリーイコール(1)

 こんにちは。


 こちら、先月書きました雑文です。 (あ、また予告とちがう)
 ストーリーのないお話なので、だからとってもつまんないんですけど、実はこれ、
 6月号を読まれたあおまきすとさんならみんな気になってると思う、
『青木さんと薪さんの気持ちは絶望的にすれ違っている。 これであおまき成立と言えるのか』
 という命題に対するわたしなりの答えでございます。
 なので、8月号が発売される前に公開しておきます。 
 いえ、8月号でちゃぶ台返しはないと思いますけど、一応念のため。(←だって何度もイタイ目に遭ってるから(^^;)


 雑文はね、いつもこういう感じで、原作を読んで何かしら思ったり、音楽を聴いてあおまきさんに転換&妄想したり、そんな他愛もないことで生まれてくるんです。 
 本来なら、レビューにしたり日記にしたりして公開するものなんでしょうけど、わたし、日常の文章はどうも苦手で~、SSにしたほうが、自分の気持ちがちゃんと文章になるような気がします。 少なくとも、文を書いてる途中で自分の考えが分からなくなったりしない。 ←もうバカとしか……。
 ということで、よろしくお願いします。

 なお、こちらのふたりは付き合って6年越え。
 将来を誓い合っちゃった後だと思って読んでください。






ニアリーイコール(1)






「カエルの声がする」
 そう言って薪は、不愉快そうに眉をしかめた。

 せっかくの露天風呂なのに、蛙の鳴き声がうるさくてゆっくりできなかった、とこぼしながら、濡れた髪を拭き始めた彼の手から青木がタオルを取り上げたのは、その拭き方があまりに乱暴だったからだ。
 そんなに手荒に扱ったら、細くてやわらかでサラサラの、青木の大好きな彼の髪が傷んでしまう。濡れた髪は、とても傷つきやすいのだ。薪はこんなにきれいなのに、自分の美貌を維持することに無頓着すぎると青木は思う。
 備え付けのソファにすとんと腰を下ろし、後ろに立った青木に髪を拭いてもらいながら、薪は軽く舌打ちする。
「青木、窓閉めろ」
 そんなに気になるのだろうか。田舎育ちの青木には、田んぼの畦道で懸命に鳴く両生類の声は懐かしく、子供の時分を思い出したりして、いっそ愛しく聞こえるのだが。

「閉めたら暑いですよ。今時期はまだ、冷房入れてないんですから」
「ったく。東京なら、こんな不愉快な思いをしなくて済むのに」
 休暇を利用して、T県に来ている。薪がナイトサファリに行きたいと言うので、土日を利用した小旅行と相成った。ここはサファリパークの近く(と言っても車で20分ほど走ったが)にある小さなペンションで、6月からでないとエアコンのメインスイッチは入らないようになっている。
 そんな不自由なペンションをどうして青木が選んだかと言うと、実はこの宿は全室掛け流し温泉露天風呂付き、「カップルで泊まりたいペンション(関東圏)ベスト5」にランクインしているのを旅行誌で読んで知っていたからだ。しかし、その記事にはエアコンの記述はなかった。蛙の声がこんなに煩いことも。泊まってみないとわからないことはけっこうある。

「来るんじゃなかった、こんな田舎」
 サファリパークでは大はしゃぎだったくせに。相変わらず勝手なひとだ。
「風情があっていいじゃないですか。カエルの大合唱なんて、東京では聞きたくても聞けませんよ」
 薪の憤慨を軽くいなしながら、青木はドライヤーの用意をする。薪の我儘は今に始まったことではない。この位の不満声でいちいち慄いていたら、彼の恋人は務まらない。

「あれのどこが風情だ。ただの騒音だろうが。あまりに喧しくて、早々に引き上げざるを得なかった」
 1時間も風呂に浸かっていたら充分だと思うが。
「月がすごく綺麗だったのに」
 可愛らしく唇を尖らせる薪の髪に、指を埋めながら青木は、
「まあまあ。薪さん、カエル、お好きでしょう? だったら大目に見てあげましょうよ」
「好きじゃない」
 また心にもないことを、このひとは。
 薪は動物が大好きで、だから手っ取り早く彼のご機嫌を取りたいと思ったら、動物園に連れて行くのが一番簡単で確実な方法だ。園内にある爬虫類のブースで、子供に紛れやすいようにラフな服装をした彼が、アクリルの透明な板に鼻先を付けんばかりにして色鮮やかな両生類を凝視している様子を、青木は数え切れないくらい目撃している。
 よって青木には、薪が明らかに虚言を発していると分かったが、目撃証言を元に彼のウソを暴くようなことはしなかった。そんなことをしたら逆ギレされて、2階の窓からガラスごと蹴りだされかねない。

「そうでしたっけ?」
 曖昧に疑問を投げかけるだけにとどめて、薪の髪を乾かし始める。
 最初は地肌から。髪の根元を持ち上げるようにして、襟足に温風を送る。傷みやすい毛先からかけてはいけない。ドライヤーをかける目的は、速やかに頭皮を乾かすことによって雑菌の発生を防ぐことだ。
 青木の左手は薪の短い髪を丁寧にほぐし、その右手はドライヤーの先端を小刻みに動かす。同じ箇所に長く当ててはいけない。熱による髪のダメージを低く抑えるためだ。
 行きつけの美容室で教えてもらったことを思い出して、青木は注意深く恋人の髪を乾かしていく。濡れた髪はつやつやと光って、普段よりもいくらかダークな色合いに見える。その水分が青木の手に移り、部屋の空気に移り、やがて薪の髪はいつもの輝きと手触りを取り戻す。

 こんなにきれいなのに、と青木は再び独語する。
 薪の行きつけのヘアサロンが、警視庁内の簡易床屋だなんてあり得ないと思う。髪形だって、こんなありきたりの短髪じゃなくて、カリスマ美容師とかがいる店で流行の髪形にカットしてもらったらどんなにか彼の美貌を引き立てることか。てか、今どき床屋って。岡部や曽我でさえ近所の美容室を利用しているというのに。尤も、曽我の場合は美容室の女の子が目的のようだが。
 でも以前、美容室を使うよう薪に進言したら、何故かものすごく怒られた。「おまえは僕をアクマの巣窟に放り込む気か!」とわけのわからないことを言われたが、あれはどういう意味だったんだろう。薪の言動は、ときどき理解不能だ。

「カエル自体は嫌いじゃない。鳴き声も単体なら、おまえの言うところの風情を認めよう。でも集団になったときの、あの競い合うような浅ましい鳴き方は嫌いなんだ。おまえ、あいつらが今、何のために鳴いてるか知ってるのか」
「知ってますよ。メスを呼ぶためでしょう」
 孔雀がその美しい羽根を広げてメスを魅惑するように、カエルは鳴き声で異性を惹き付ける。そう思うと彼らの騒がしい声も、情緒的な響きをもって聞こえてくるから不思議だ。
「暗闇の中、声だけを頼りに愛する人を見つけるなんて。ロマンティックじゃないですか」
「なにがロマンティックだ。おまえはそれでも警察官か。暗闇に紛れてあいつらがやってる犯罪行為を見逃すのか」
「なんですか、カエルの犯罪って」
 のどかな田園風景を演出する陰の役者たちに掛けられた疑惑に青木が首を傾げると、薪は、ふん、と高慢に笑った。この仕草、普通の人間がやったら絶対に鼻につくと思うのだが、薪がやるとどうしてこんなに可愛く見えるんだろう。

「蛙の鳴き声にも巧拙があって、上手に鳴く蛙には、メスがたくさん寄ってくるんだけど」
「アイドル歌手は人気者ですか。人間と同じですね」
 美声でイケメンのアイドル歌手に熱を上げる女性たちを連想して、青木は苦笑した。人間も蛙も、女性と言うのは基本的に同じなのかもしれない。しかし薪は、とんでもない、と言うように首を振って、
「これは人間の女性がアイドル歌手に群がるミーハー心理とはまったく別のものだ。賢い彼女たちは、種全体を繁栄させるため、より強い子孫を残すため、どうしたらいいかを考えて行動している。彼女たちの接近は対象の表面的なものに惹かれてるんじゃなく、強い鳴き声の個体は生命力も強いはずだと判断した上でのアプローチなんだ」
 そうなのか、知らなかった。
 蛙にそこまで考える能力があるわけないから、これはDNAに組み込まれた行動パターンのひとつに過ぎないのだろうけど、逆にそれを本能的にやってのけるところが動物のすごさで、薪が動物たちに敬意を払う理由のひとつだ。
 どうだ、彼女らはすごいだろう、と自慢げに瞳を輝かせて、薪は蛙のラブアフェアの講義を続ける。

「でも人間と同じで、彼らも喉を鍛えるにはある程度の年月が必要だ。だから、メスを引き寄せられるような魅力的な声が出せるのは、たいていは身体の衰え始めた年寄り蛙なんだ。
 反対に、身体機能は盛んでも、若い蛙は弱々しい声しか出せない。これではいくら頑張って鳴いても、メスは寄って来ない。
 で、若い彼らはどうすると思う?」
 使い終わったドライヤーを元の位置に戻しながら、青木は「さあ?」と首を捻った。ソファに座った薪は身体を捩り、左腕をソファの背もたれに載せて、
「年寄り蛙の側に隠れていて、寄ってきたメスの上に有無を言わさず乗っかっちゃうんだ」
「えっ。じゃあメスは騙されて、目当ての蛙とは違う蛙の子を身篭ってしまうわけですか?」
「そうだ。これは明らかな詐欺罪、しかも相手の合意なくコトに及ぶわけだから、強姦罪も適用される」
 カエルの世界に法律があったとして、それを証明するのは限りなく不可能だと思われるが。だいたい、レイプは申告罪だ、ていうか、どうやってカエルから調書を取るのだ。
「蛙の大合唱の裏では、女性の尊厳を脅かす犯罪が横行しているんだ。実に許しがたい。検察として、死刑を求刑したいくらいだ」
 カエルに裁判制度があったとして、以下略。

「薪さんて本当に、色んなコトを知ってますね」
「当たり前だ。僕はおまえより12年も長く生きてるんだ。知識も12年分多くなかったらおかしいだろ」
 年長者は物知りで当たり前。薪のこういう考え方が、とても好きだ。
 薪は天才だけれど、それ以上に勤勉だ。激務をこなしながらも、毎年、自分に何かしらのスキルアップを課している。それは語学の習得だったり武道の嗜みだったりするが、決して現況に満足せず、より高い位置を目指して努力をし続ける彼の生き方を青木は尊敬している。

 すっかり乾いた髪を軽くかき上げて、薪はソファから立ち、窓辺に寄った。窓から入ってくる弱い風にも揺れる、彼の亜麻色の髪は天女が纏う羽衣みたいだ。耳にかけていない毛先の風に遊ぶ様が、重さを感じさせないその動きが、そんな幻想を青木に抱かせる。
「彼女たちの英知を嘲笑うみたいなからくりを思うと、この声が詐欺師の哄笑めいて聞こえる。だから僕はこいつらの合唱は嫌いなんだ」
 それは不正を憎む薪らしい憤慨で、青木は彼のそういう頑なさが大好きだったけれど、これが原因で薪の機嫌が悪いまま夜が終わってしまうのはどうにもやりきれなかったので、被告側の弁護に立つことにした。

「でも、若いオスの精子の方が、受精の確率も強い子孫になる可能性も高いんじゃないんですか?」
「それは結果論だろ、僕は彼らの奸計が許せないって……いや」
 薪は最初、青木の意見に一層怒りを高めるように激しく振り返ったが、ふと言葉を止めて、
「もしかしたら、彼女たちはそこまで計算してるのかも……うん、確かに、それが一番効率がいい方法だ。そうか、気が付かなかったな」
 考えるときのクセで右の拳を口元に当てた薪は、ふむ、と頷いて青木の方へ身体を向けた。窓ガラスを背にした彼の背後に、白いバスローブを着た彼の背中が映っている。

「なるほど、おまえの説にも一理ある。ていうか、そっちの方が正しいんだ、きっと。やっぱり彼女たちは賢いな」
 そんな言葉で、薪は青木の珍説を支持してくれた。それから窓枠にもたれると、月を見上げながらさばけた口調で、
「結局、見てくれに騙されてバカを見るのは人間だけってことか」
「そうですねえ。何だかんだ言って、男も女も美人の方がモテますからね。人間、見た目じゃないって言いますけど、あれって絶対にウソ……」

 外見に心を左右される人の滑稽さを揶揄する薪の言葉に、青木は追従し、しかし重大なことに気付いて口を閉ざした。
 それから自分の罪深さに初めて気付き、ぞっと背筋を粟立たせ、今までそのことに思い至りもしなかった自らの愚かさに嘔吐しそうになった。
 軽い眩暈に襲われて青木は、その場に膝を付きそうになった。が、薪に心配をかけるわけにはいかないと咄嗟に踏みとどまり、さりげなくソファの背もたれに手を置いて自分を支えた。
 青木が途中で言葉を切ったので、薪は視線をこちらに寄越した。先刻まで月を捕らえていたその瞳に青木を映して、話の続きを促すように軽く微笑んでいる。

「……オレも、風呂に入ってきますね」
 青木が話題を変えたので、薪はちょっと面食らったようだったが、すぐに気分を切り替えてそれに応じた。
「じゃあ、僕ももう一度入ろうかな」
「そんなに続けざまに入ったら湯疲れしちゃいますよ。もう少し、インターバルを置いてください」
 薪の申し出を、彼の身体を気遣う振りで体よく断って、青木は部屋を出た。一人になりたかった。
 狭い廊下を浴場へ向かう青木の足取りは、牢獄へ帰る囚人のように重かった。





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天国と地獄6 (4)

天国と地獄6 (4)





 金曜日の夜、薪の自宅で行なわれる定例会に、岡部は出席しなかった。
 母親と約束がある、とのことだったが、もしかしたらそれは嘘かもしれない。薪に不参加の理由を述べたあと岡部は、「今夜が勝負だぞ」と小さな声で青木に言った。「思い切ってぶつかってみろ」と囁かれて、青木は不思議そうに首を傾げた。
 週末の夜をふたりで過ごすなんてチャンスには違いないが、あの薪が相手では期待はできない。例え一緒のベッドで夜を明かしてさえも、薪が青木を意識してくれることはない。青木が男だからだ。
 その事実を岡部は知っているはずなのに、どうしてそんな叶いもしない期待を抱かせるようなことを言うのだろう?

 その疑問は、二人で作った青椒肉絲がふたりの胃袋の中に綺麗に収まった後、解消する兆しを見せた。
 食後、いつものように青木が薪専属のバリスタに変身すると、薪は今日に限ってダイニングの椅子に座ったまま、頬杖をついて青木のする様を見つめていた。いつもならさっさとリビングに移動してしまうのに、今日はどうしたのだろう。
 やがてコーヒーのいい香りがキッチンに立ち込め、白いマグカップに注がれた青木の真心が薪の手に渡された。
「はい、どうぞ」
 
 マグカップを両手で受け取って、薪は青木の顔をじっと見た。薪のつややかなくちびるは何かを言おうとして開かれ、しかし言葉を発せず、代わりにコーヒーを含んで閉じられた。
 薪がその場でコーヒーを飲んでいるので、青木も向かいの席に座って自分のコーヒーを飲み始めた。香気と湯気の向こうに、薪の整った顔が見える。蛍光灯の白い光に照らされて輝く亜麻色の髪と、伏せられた長い睫毛。きれいだな、と青木は思い、こうして彼を見ることができる、その幸せをしみじみと噛み締める。

「岡部に聞いたんだけど」
 唐突に、薪は切り出した。空になったマグカップを両手で弄び、瞳はカップに据えられたまま、握ったり傾けたりしている。
「こないだの宴会のとき、僕、おまえにキスしたんだって?」
「え。岡部さんが言ったんですか?」
 薪が気にするからナイショにしておこうって仲間内で決まったのに、それを副室長が破るなんて。ていうか、岡部らしくない。薪の憂いを増やすことを一番嫌がるのは彼なのに。

「悪かったな。酒の席のこととはいえ、ヘンな真似して」
「いいえ!」
 ヘンな真似なんかじゃない。薪にとってはそうかもしれないけど、青木にとっては3億円の宝くじが前後賞付で当選するよりラッキーな出来事だった。
「オレ、すっごく嬉しかったです。何度も言いましたけど、オレはあなたが好きですから。だから薪さんにキスしてもらえて、すごくうれしかったです」
「そこが理解できないんだけど。男にキスされて、うれしいのか」
「はい。相手が薪さんでしたから」
 薪の質問にストレートに答えるなら、答えは否となる。青木だってその辺の男にキスされたら、おぞましさに卒倒するだろう。でも、相手が薪だったから。性別なんか関係ない、この世でたったひとり、青木を狂わせるひとだから。

「青木、おまえ」
 率直に返ってきた青木の言葉に、薪は目を瞠る。マグカップを弄ぶのをやめて、両手をテーブルの上に置き、すっと背筋を伸ばした。
「今まで気が付かなくて悪かった、おまえ本当は」
 そうです、そうなんです。
 オレはずっとずっと前からあなたが好きで、性別だとか年齢だとかそんなものはどうでもよくなるくらいにあなたが好きで。でも何度その気持ちを訴えてもあなたは真面目に取り合ってくれなくて、だけどそんな仕打ちすらもあなたを愛しく思う要因のひとつになるほどに――――― オレはあなたに夢中なんです。
 青木の真剣な眼差しに応えるように、薪は職務中に負けない真面目な顔で重々しく言った。

「女の子だったのか」
 ………………。

「身体が大きいから、その可能性に気付かなかった。悪かったな、酔ったはずみとはいえキスなんかして」
「もういやだ―――!!!」
 テーブルに突っ伏してオイオイ泣く青木に、笑いを含んだアルトの声が降ってきた。
「冗談だって。本気で泣くなよ」
 冗談に取れないんですけど! 今までの経歴が輝かしすぎて、全然冗談に思えないんですけど!

 シュールすぎて笑えない冗談を飛ばした後、薪は神妙な顔つきになって、テーブルの上で両手を握り合わせた。細い手首と小さな両の拳に、ぐっと力が入っている。それからしっかりした声で、青木の目を真っ直ぐに見て、薪は言った。
「僕の主張は撤回する。同性間にも恋愛は成り立つと認める」
 薪の言葉は青木の聴覚を経由して、彼の脳にゆっくりと沁み込んだ。何度打ち砕かれたか数え切れない青木の告白たち、でも彼らの犠牲は決して無駄ではなかったと、そして薪のことを思い続けてよかったと、青木は心の中でそっと過去の自分を褒め称えた。

「やっと、オレの気持ちをわかってくれたんですね」
「そうじゃなくて」
 まだ納得しないのか、てかここから理論を覆すつもりか。いったいどんなウルトラQが来るのかと身構えた青木の耳に、薪の諦めたような声が聞こえた。
「僕、おまえのこと好きみたいだ。友だちとしてじゃなく」
「ほえっ!?」
「……あんまり間の抜けた声を出すなよ。本当のバカに見えるから」
 いや、だって!
 今、何て言いました!?

 自分の耳が信じられない。脳がフリーズして、言葉の解析ができない。喋るどころか、まともに声も出せない。
 喉の奥に緩衝材の塊がつまったみたいになって、空気は微かに通るけれど充分ではなく、だから呼吸もかなり苦しい。心臓はバクバクいってるし、こめかみはドクドク脈打ってるし、てか、血管切れそうなんですけど!マラソン大会のラストスパートよりしんどいんですけど!

「あ、あのっ。薪さん、あのっ……!」
 声がつまる。言葉が出てこない。

 オレも好きです、ずっと前から大好きです。
 心臓が爆発しそうにドキドキしつつも、これまではちゃんと言えたのに、どうしてこの大切な局面で舌がもつれてしまうのだろう。あんなに恋焦がれ続けたものがこの手に入るかもしれない、いざとなったらそのとてつもない幸福に臆してしまったのだろうか。

 絶対に諦めない、諦めきれないと思いつつも、心のどこかで諦めていたのかもしれない。
 見かけはアレだけど薪はノンケで、男の自分を恋愛対象として見てくれる事はないと分かっていた。プライベート時の勘違いと思い込みは凄まじいけれど、薪は自分とは比べ物にならないくらいレベルの高い人間だと知っていた。彼の仕事ぶりは天才の称号に相応しく、彼が成し遂げた偉大な功績に対する当然の帰結として数々の最年少記録を更新中。加えて、他の追随を許さないこの美貌。そんなすごい人が自分のことを唯一無二の相手として求めてくれるなんて、夢に見ることはあっても現実になるとは思っていなかったのかもしれない。
 それをいきなり目の前に差し出されて、青木の言動は空回りを繰り返す。薪が自分の気持ちに応えてくれる場面をあれだけ空想していたのに、だけどそれはあくまでも妄想に過ぎなくて、きちんと計画を立てていたわけではないから、どう動いていいのか分からない。

 強烈な戸惑いから金縛り状態にある青木に比べて、薪は冷静だった。この辺は、度量の差か。過緊張の経験は、マスコミにも慣れている薪の方がずっと上だ。
 滑らかな動作ですっくと立ち上がり、テーブルを迂回して青木の方へ歩いてくる。テーブルの上に置いた拳を握り締めたまま身体の向きを変えることもできず、眼だけで薪の姿を追って青木は、自分の横に立った薪と不自然な形で見つめ合った。
「今も、おまえとキスしたい、って思ってる。こないだみたいな戯事じゃなくて、ちゃんとしたやつ」
 大きな拳に、ほっそりした手が置かれる。片方の拳を両手で覆われ、前方を向いたままの青木の顔に合わせるように、類稀なる美貌が目前に回り込んできた。

「恋人のキスがしたい。おまえと」
 青木の手を包んでいた薪の手が離れ、青木の後頭部に回された。薪の動きは素早く、先日と同じように気がついたら唇を奪われていた。薪の長い睫毛が視認できないほど近くにあって、青木に見えるのは首を傾けた薪の左の眉と青みがかった目蓋。やわらかいくちびるの感触と、薪の匂い。
 アルコールの匂い以外は、先日の酒宴と変わりなく。だけど。
 ふたりのくちびるは、今日はいつまでも離れなかった。




(おしまい)



*****


 ということで、二人はめでたく恋人同士に。
 本編もこれくらいお気楽だったらよかったのにね~。(^^;


 この下はオマケです。
 ええ、男爵ですから……あ、ロマンチックなお話がお好みの方はご遠慮ください。




*****


 オレが自分を取り戻したのは、数十分後。
「おまえも入ってくれば?」と肩を叩かれて、ハッと振り向いたら薪さんが風呂上り定番の腰タオル姿で立っていた。

 いつもと変わらない薪さんの態度に、今のはやっぱり夢だったのか、妄想と現実の区別がつかなくなってるのか、そろそろ精神科医の門を潜るべきかなどと考えつつ、心の隅に安堵を覚える。でも薪さんはタオルで髪を拭きながら、自分の腕で顔を隠すようにして、
「ベッドで待ってるから」
 細い腕の隙間から薪さんの顔を見れば、いつものポーカーフェイスはどこへやら、大きな瞳をウロウロさせて柔らかそうな頬を赤くして、戸惑って緊張しているのは自分だけじゃない、薪さんだってテンパッているんだと分かって、そうしたら何だかすっと気持ちが楽になった。

 風呂に入って温かいお湯の中で、これからのことを考えた。
「恋人のキスがしたい」と薪さんは言ったが、中学生じゃあるまいし。大人にはこの続きが許されていることを、薪さんもオレも知っている。

 約束どおり、薪さんはベッドでオレを待っていてくれた。
 オレの姿を認めると同時に、薪さんはぎこちなく笑った。身体には毛布が掛かっていたけれど、薄ピンク色の肩がむき出しになっていて、その下の姿が想像できた。
 ベッドの上に起き上がり、腰の辺りを毛布で隠した薪さんからは、ぴりぴりとした緊張感が感じられ、それを懐柔するためにオレは彼を抱きしめて、亜麻色の頭髪に頬ずりした。

 湯上りのやわらかく湿った薪さんの肌に触れて、その体温を感じたら愛おしさが込み上げてきた。薪さんの背中はすべすべしてしなやかで。皮膚の下にしっかりとした筋肉は感じられるものの、それは不快ではなく。これが現実のものだと悟らせて、オレの気持ちを昂ぶらせた。
 薪さんがしたがっていた恋人のキスを、今度はオレのほうから仕掛けて、その甘い感覚に酔いしれる。何度も繰り返すうちに早くなってくる互いの呼吸と、自然に相手の身体をまさぐる男の本能に導かれた手。
 薪さんもオレも男だから、どちらも受け身ではいられない。女性にする方法しか知らないオレたちは、二本の手を動かして互いの肌を擦りあった。

 オレはあのときのことを、今でも忘れていない。
 それは初めて薪さんのすべてを見たという感激と、心に深く深く刻まれたその直後の体験のせいだ。

「先に進んでもいいですか?」
「……うん」

 オレはバスローブを脱いで床に落とし、薪さんの細腰にまとわりついている邪魔な毛布を取り払った。
 お互い下肢を顕にし、昂ぶりを確認し。
 確認し―――――。
 ―――――――――――――――― ………………。

「薪さん?」
「グロッ! キショ!! やっぱムリ!!」
 それを見た瞬間、薪さんはオレに枕を投げつけると、部屋を飛び出していった。

「…………薪さんの嘘吐き……」
 薪さんの恋人になるには、まだ先は長そうだった。



(本当におしまいです)




(2010.8)



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天国と地獄6 (3)

 こんにちは。

 コメレスも更新も、滞ってすみません。 
 でも今回は怠けていたのではなくて、ある方の二次創作でダークなお話を読んだらがっつり落ちてしまいまして……虚無感と喪失感が半端なく、食欲不振と極度の不眠症に悩まされ、それ以外のことを考える余裕がなくて、管理画面に向かえませんでした。   
 どなたの、とは申しませんが、とりあえず、みちゅうさんは天才だと思う!!! (←言ってる。 しかも個人攻撃になってる? そんなつもりは~~(^^;)

 秘密の二次創作の多くは非常に文学的水準が高くて、それは時に原作の感動を超えるときすらある。 その感動をもって原作を読むと、さらに薪さんへの愛が深くなる。 原作に描かれない陰のエピソードや心理を想像して彼の人間性を補完する、それもひとつの愛し方だと思います。
 そんな風に、原作をより深く愛せるような素晴らしいお話を創り出してくれる二次創作者さんたちの作品を自由に楽しめる現在の自分の幸福を、しみじみと感じています。


(そして我が身を振り返る) 
 ……少しはマトモな話を書こうね、しづ!!! (←結果として墓穴になった)


 で、お話の続きです。
 ………………墓穴まっしぐら。(笑) 




天国と地獄6 (3)




 昼休み、中庭のベンチでお喋りに興じる男女の姿を見つけた。
 親しげに顔を寄せる二人は、どちらも薪の友人だ。ひとりは同い年の女性、もうひとりは一回りの年下の男。女性は白衣を着た監察医で、男の方は薪の部下だ。

 個人的に、このふたりが仲良くしてくれると薪はうれしい。
 一回り年下の部下は薪が誤って殺してしまった親友にとてもよく似ていて、その親友は彼女の恋人だったりして、だから彼らのこんな姿を見ると、亡くなった親友が帰って来たような気がして、彼女が再び幸せを取り戻してくれたかのような錯覚に陥って、薪は幸せな気分になるのだ。
 立ち木の陰からこっそりとふたりの様子を伺うと、青木は頬を紅潮させて、何事か雪子に話している。雪子はそれに応じて頷き、青木に負けないくらい嬉しそうで魅力的な微笑を見せる。
 よしよし、いい感じだぞ。青木、がんばれ、と薪は心の中で日の丸の付いた扇子を振ってふたりを応援した。

 その扇子を握る手首の返しが止まったのは、風に払われて落ちてきた紅葉の葉っぱが雪子の白衣の肩に止まり、それに気付いた青木が彼女の肩を抱くようにしてそれを取ってやったときだった。
 それは一瞬のことだったが、薪の目に鮮明に焼きついた。
 青木の大きな手が雪子の左肩を覆っていた。それほど密着していたわけではないが、薪の位置からだと青木が雪子を抱いているような構図だった。普段は自分よりも大きくて、威風堂々としている雪子が、青木の腕の中にいると、とても女の子らしく華奢に見えた。すごくお似合いだと思った。

 途端、のしっと胸が重くなった。
 息ができないような苦しさに見舞われた。

 これはあれだ、3人という数の友人関係にはよくあることだ。鈴木が生きてた頃にも、何回か味わった。自分に黙って他のふたりが仲良くしているのを知ったときの、あの淋しさだ。
 鈴木と雪子が恋愛関係にあることは承知していたから、そんな時には自分も同じ大学の彼女に連絡を取って楽しくやっていたのだが。あの頃と違って、今は相手もいないし。
 だから、こんなに胸が痛いのは、あの頃と比べ物にならないくらい痛いのは、きっとそのせいだ。間に飛び込んで行ってふたりを引き剥がしたい衝動に駆られるのは、モテない男の僻みだ。幸せそうな彼らをやっかんでいるだけだ。

 街でいちゃついてるカップルを見ても何とも思わないのに、それがあのふたりになると冷静でいられなくなる。その事実には目を背けて、ついでに現実の目も背けて、薪はその場を離れた。
 モヤモヤしたものが胸の辺りにわだかまって、これはなんなんだろうと懸命に考えるが、その答えはとうとう出なかった。


*****



「薪さん、この書類に判を」
 帰り際、明後日行なわれる予定の会議の出席者の欄に捺印をもらおうと室長室を訪れて、岡部は薪がまた朝の鬱状態に戻っていることに気付いた。

「どうしたんですか? また何か心配事ですか?」
「うん……僕、やっぱりおかしいのかな」
 岡部が差し出した書類に印を押しながら、薪はぼそぼそと呟いた。
「今朝のこと、まだ気にしてるんですか?」
 プライベートに何があっても、仕事中はポーカーフェイスを崩さない。それが薪のポリシーだ。私生活のゴタゴタは捜査に持ち込まない、どんな衝撃も彼の職務を乱さない。鈴木が死んだ直後でさえ、静かな熱意で淡々と職務をこなしていた薪を岡部は知っている。

「なんか、胸が苦しいんだ。病気なのかな」
「心臓ですか?」
 薪は何度かショックで気を失ったことがある。満足な食事も摂らずに激務をこなし続けていたせいで、心拍停止に陥ったこともあった。それからは気をつけていたのだが、やはり後遺症が残っていたのだろうか。
「狭心症の痛みじゃなくて。なんかこう、重苦しくて、ときどきチクっと刺す感じで」
「それは医者に行ったほうがいいですね。ちなみに、いつ頃から痛み始めたんですか?」
「今日の午後1時15分32秒から」
「……どうしてそんなに明確なんですか?」
「昼休みに、青木が雪子さんと一緒にいるのを見て、そしたらこうなった」

 それでこの複雑そうな憂い顔か。ふたりの姿に嫉妬を覚えて、ようやく自分の気持ちに気付いたというわけだ。当然だ、それで気付かなかったらただのバカだ。

「それは多分、医者に行っても治らないと思いますよ」
 頑なに信じていた男性同士の恋愛は成立しないという黄金ルールを自ら破ることになって、ショックを受けているであろう薪を気遣って、岡部はできるだけやさしく言った。
「僕、もしかして、自分でも知らないうちに好きになってたのかな」
 恋愛なんてそんなもんです。俺だって、いつの間にかあの女性から目を離せなくなってました、と岡部は心の中で薪の独白のような呟きに答える。

「ずっと友だちだと思ってたのに」
「友情が恋愛に変わるのは、良くあることです。それに、ご自分じゃ気付かれなかったみたいですけど、俺の眼から見るに、それらしき態度は以前から表れてましたよ」
「まさか。嘘だろ。僕自身、その可能性に気付いたのは今さっきだぞ?」
「いいえ。薪さんはよく熱っぽい目で、あいつをじっと見つめてましたよ」
「え! 僕、雪子さんをそんな目で見てたのか?」
 …………そっちか――――!!!

 さすが薪だ、自分のルールを曲げないためには自分の気持ちを誤魔化すことなんか簡単にやってのけるのか。
「そっか、以前から僕は雪子さんが好きだったのか。全然知らなかった」
 俺だって知りませんよ!
 てか、もうやだ、このひと! ただのバカじゃなくて、キングオブバカだっ!!

 耐え切れず、岡部はその場に膝を折った。朝は何とか我慢できたが、今度は限界を超えたようだ。
 もうダメだ、自分の気持ちには自分で気付くのが一番いいとか、男同士の恋愛には抵抗がある薪が他人からこんなことを言われたら傷つくだろうとか、そんな悠長なことを考慮している余裕はない。お節介かもしれないが、誰かがハッキリ言ってやらないと、このひとは自分の本心に永遠に気付かないかもしれない。
「ちがいますよ、薪さん。薪さんは、青木のことが好きなんですよ」
「ぶふっ! 何言い出すんだ、岡部。青木は男だぞ?」
 男というだけで恋愛対象から外れる、それは確かに普通の男の反応だけど、だからと言って普通の男が男に恋をしないことの保証にはならない。運命のイタズラとか神さまの気まぐれとか、この世界はそんなもので満ち溢れているのだから。

 岡部は立ち上がり、大きな執務机を挟んで薪と向かい合い、職務と同じ真剣さで彼に言った。
「想像してみてください。青木が三好先生とキスしてるところ」
「うっ。胸がイタイ、すっごくイタイ」
 わざとらしく胸の中心を押さえながら、大袈裟に顔を顰めてみせる。薪は冗談のつもりなのだろうが、岡部はもう、冗談に紛らせるつもりはない。
「じゃあ、今度は三好先生が鈴木さんとキスをしているところ。痛いですか?」
「いや。それは実際見たことあるし」
「次に青木が受付の美代ちゃんとキスしてるところ」
「ううっ、イタタ。……あれ?」
 ふと、薪は真顔になった。
 自分の胸に手を当てて、その痛みが本物であることを確認すると、しばし自失茫然として、
「…………なんで?」

「それはご自分で考えてください」
 岡部はニッと笑うと、整った書類を持って室長室を出て行こうとした。その背中に、薪の声が掛かる。
「だからって」
 足を止め、岡部は身体を半分だけ捻るようにして薪を見る。捜査に行き詰ったときのように、薪はデスクに両肘をついて拳を合わせ、その上にくちびるを当ててじっと空を睨んでいた。
「だからって、僕には何もできない。だって、雪子さんは青木のこと」

 薪の後ろ向きな発言を聞き、岡部は踵を返して部屋の中に向き直った。気弱に睫毛を伏せた上司に、先刻第九で仕入れたばかりの情報を提示してやる。
「あれ、知らなかったんですか? 三好先生、法一の上司にプロポーズされたみたいですよ」
「えっ!?」
 この話を誰も薪にしなかったのは、決して仲間外れにしたのではなく、薪に対する思いやりだ。薪は彼女の親友を自負している。それなのに、彼女に関する重要な情報を部下に教えてもらうなんて、薪が傷つくと思ったからだ。

「多分結婚することになるだろうって。青木が今日の昼、本人から聞いたそうです」
 雪子が薪に直接話をせず、青木経由で知らせようとした理由も、岡部には何となく解る。薪はこれまで、青木を含む十人以上の知り合いを婿候補として雪子に紹介している。その中の誰でもなく、別の人を選ぶことになってしまって、いくら親友といえども引け目を感じたのだろう。

「大変じゃないか、青木のやつ。それでどうしたんだ?」
「どうもしませんよ。青木の思い人は他にいますから」
「……だれだ?」
 さすが薪さん。この期に及んで、それを訊きますか。

「本人に聞いてくださいよ!」
 笑いながら言って、岡部は室長室のドアを閉めた。




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天国と地獄6 (2)

天国と地獄6 (2)




「僕が? 青木とキス? まさか」

 岡部の前で美濃部焼きのぐい飲みを傾けながら薪は、笑えない冗談はやめろ、とばかりに細い手をひらひらと振った。
 狂乱の一夜が明けて、一人残らず重度の二日酔いに悩まされても、3日も経てばその辛さを忘れる。人間の脳は、目先の快楽に弱くできているのだ。
 そんな都合のいい脳に踊らされて、今日はいつものように薪と二人、馴染みの小料理屋で静かに杯を傾けている岡部である。

「いくら酔ってたとはいえ、僕がそんなことするわけないだろ」
「第九の全員が証人ですよ」
 薪に先日の出来事を事実として認識させようと、岡部はできるだけ重い口調で言った。
「薪さん。そろそろ自覚されたらどうですか?」
 いくら酔っていたとはいえ、好きでもない相手にキスはしない。相手が女の子ならともかく、男相手にはしない。普通の男なら絶対にしない。
 薪は普通の男だ。だから、あのキスは座興のノリではなくて、きっとこういうことだ。
「昨日のあなたの行動は、酔って制御を失って、いつもは抑制していた感情が表面に表れたとしか」
「分かってるさ、自分のことくらい。おまえに言われなくても」
 岡部が薪の行動に説明をつけようとすると、薪はぱっと頬を赤らめて、恥ずかしそうに横を向いた。

 この反応は、もしかして。
 薪は、自分の中に芽生えた青木への気持ちを認めたのか。

 事前に打ち明けてはもらえなかったことは残念だが、薪が自分の恋情に気付いたのは嬉しい限りだ。青木がどんなにか喜ぶことだろう。
 恋に一途な後輩の喜びに輝く笑顔を想像して岡部は、自分でも驚くほど優しい気持ちになり、早くそれが現実のものになることを願う。
「そうですか。じゃあ、早いとこ青木のやつに伝えてやったほうがいいですよ」
「……いやだ」
 くちびるを尖らせてぼそりと呟く、そんな薪の様子を見れば彼の恥じらいは嫌でも伝わってきて。12歳も年下の自分の部下を好きになってしまったなんて、それは確かに薪にとっては他人にも相手にも知られたくないことだと察せられるが、ほんの少しの勇気で幸せになれる人間が二人、確実に増えるのだ。ここは自分が薪の背中を押してやらなくては。

「照れくさいのは分かりますが、青木もあなたと同じ気持ちでいると思いますから」
「まあ、そうだろうな。あいつも女には縁がなさそうだし」
「そうですとも。……はあ?」
 なんだか、微妙なニュアンスの違いを感じる。女に縁がない、つまり、薪は青木のことをゲイだと思っているのだろうか。青木は女を愛せないのではなく、薪のことが好きでたまらないだけなのだが。

「昔、特別承認を受けたとき監察に引っかかっちゃってさ。その時は厳重注意で済んだけど、それからそういう店に出入りできなくなっちゃって。だから何年もご無沙汰でさ」
 遠くの空に暗雲が見えたような気がして、岡部は顔を引き締める。忌まわしい黒雲からはバチバチと電気のはぜる音がして、それが地表に落ちてくるときには必ずと言っていいくらい、岡部を虚脱状態に陥らせるのだ。

「欲求不満が高じて、酔ったはずみにそんなことをしちゃったんだな」
 ほーら、落ちてきた落ちてきた。予想はしてたけど、あー、タルイ。

「青木には悪いことした。男にキスなんかされて、凹んでるだろうな。謝らなきゃ」
「いや、止めたほうがいいです。薪さんに謝られたら、一気に凹みます」
 宴席の戯言とはいえ、薪にキスしてもらえたのが嬉しくて地に足が着いていない状態の青木に薪の今のセリフを聞かせたら、地球のコアまで落ちていきそうだ。
「だよな、思い出すのも苦痛だろうな。そっとしておいた方がいいか」
 真面目に青木の身を案じる薪の様子を見て、岡部は何とかして薪に自分の本心を悟らせたいと思う。青木は薪のことが大好きで、薪だって自覚はないけど彼のことが好きで、だったらこのままでいい訳がない。それに、酒宴の席のこととはいえキスまでしておいて進展ゼロなんて、いくらなんでも青木が可哀相だ。

「そうじゃなくてですね、青木は薪さんのことを」
「よく覚えてないけど、いよいよ末期症状だな。きっとそのときは、青木が女の子に見えたんだろうな」
 あ、なんか一気に虚脱感が……青木の巨体が女に見えるようだったら、それは完全に脳の病気だと思いますけど。
「でも僕はもう、そういうことしないって決めてるし。仕方ない、また脇田課長に頼むか」
 薪はさっさと液晶画面の向こう側の恋人の算段をすると、携帯電話を取り出して、5課の課長に連絡を取った。

「すみません、脇田課長。明日、あのビデオ貸してもらえます? そうそう、僕好みの可愛い女の子が色んな男に×××されちゃうやつ。え、もっとスゴイのがある? ……え! そんなことまで、しかも電車の中で?!」
 ああ……そんな目的でも薪さんの瞳はキラキラと子供のように輝くんですね。途中から正座して、きちんと背筋を伸ばして会話をされているのはどういう心理状態なんですか……?
「い、今から借りに行ってもいいですか?」
 涙出てきた……。
「じゃあな、岡部!僕、急用ができたから!!」
 …………すまん、青木。不甲斐ない先輩を許してくれ。



*****



 翌日、出勤してきた室長の顔を見て、岡部は思わずその場に膝を付きそうになった。
 目は赤く、腫れぼったく、頬は心なしか削げて青い。朝シャワーを浴びる時間がなかったと見えて、いつもなら眩しいくらいにきらめく天使の輪が、徹夜明けの鈍い輝きになっている。
 彼の後を追って室長室へ入り、ミーティングにかこつけて、岡部は呆れた声で言った。

「薪さん……高校生じゃないんですから」
 脇田が貸してくれたビデオがどれだけ好みの内容だったか知らないが、何もこんなに憔悴するまでしなくたって。
「僕の寝不足の理由は、おまえが考えてるような単純なものじゃないぞ」
 不機嫌な声で返されて、岡部は改めて薪を見た。
 薪はとても難しい顔をしていた。何か仕事上のトラブルでも起きたのだろうか。
「何かあったんですか?」
「あったって言うか、できなかったって言うか」
「できなかった?」
「……岡部。僕、ちょっとおかしいのかも。医者に行ったほうがいいのかな」
 途切れ途切れの言葉と、薪の落ち込んだ様子から推察するに、どうやら昨夜、せっかく借りたビデオが役に立たなかったらしい。いや、役に立たなかったのは薪のほうか。

「そんな、医者なんて大袈裟な。よくあることでしょう」
「ええええっ!!??」
 驚きの声を上げながら薪は、慌てて自分の口を両手で押さえる。室長室のドアを見て、そこから誰も入ってこないのを確認すると、今度は声を潜めて、
「そ、そうなのか? 岡部にもそんな経験があるのか?」
 そんなに驚くことだろうか。40近い男なら、誰もが経験していることだと思うが。
「ありますよ、もちろん。あんまり人に言えた話じゃないですけどね」
 内容が内容だけに、岡部はさすがに照れて笑った。
「だけど、そんなに気にすることはないですよ。ちゃんと休養をとれば、すぐに元に戻りますから」
「そうか、そうなんだ。別に珍しい話じゃないのか」
 岡部が一般的な解決方法を述べると、薪はホッと安堵の表情を浮かべて、青白かった頬に僅かばかりの朱色を刷いた。この年になるまで役に立たなかった経験がないなんて、薪は外見も若いが、中身も若いらしい。しかし見かけによらないな、と岡部は思った。あまり浮いた話を聞かないから、てっきり淡白な人だと思っていた。

「よかった、安心した。×××するときに男のことなんか考えたの、生まれて初めてだったから」
「ええ、よくある話……はっ!?」
 今なんて!?
「そっかー。岡部も経験あるのかー」
 ないです! 断じて!!
「ちょ、ちょっと待ってください。男って、だれの」
 言いかけて岡部は、薪がそんな気分のときに思い浮かべる可能性のある男はこの世にひとりしかいないことに気付き、口を噤む。案の条、薪は恥ずかしそうに俯いて、相手の名前を躊躇いつつも口にした。

「だって青木が悪いんだ。こないだ一緒にAV見て、僕がそうなったときに『お手伝いしましょうか』なんて言うから。つい、想像しちゃって」
「そんな失礼なことを言ったんですか!? 青木のやつ」
 責める口調で言ってしまって、しかし岡部は直ぐに思いなおした。薪が自分の前でそんな状態になれば、青木も平静ではいられなかっただろう。その状況を我が身に当てはめてみれば岡部だって健康な男、青木の気持ちは痛いくらい解って、だから岡部は青木のことをフォローしようと彼の信用を回復するプレゼンテーションを必死で考える。そんな岡部の心中を知ってか知らずか、薪は自慢げに言った。

「なんだ、知らないのか、岡部。体育会系の部活動では、先輩の×××のお手伝いは当たり前のことなんだぞ」
 ……誰に教わったんですか、そんな三流BL本の中にも存在しないような常識。
「って、僕も脇田課長からの受け売りだけど」
 あの鬼瓦か。次の武闘大会で息の根止めてやる。しかし、どうしてこのひとって、事件以外のことだとこんなに簡単に騙されるんだろう。
「そんなことも厭わないくらい、僕のこと尊敬してくれてる証拠だって」
 なんだろう、涙が出てきた。薪も青木も、なんだかすごくカワイソウなひとに見える。
「そうか、よくある話か。あんなにかわいい娘が×××してるのに、全然その気にならなくて、なのに青木の『お手伝い』を想像したら急に……だから僕、異常なんじゃないかって不安になって。
 あーあ、悩んで損した。昨夜は一睡もできなくてさ。昨夜のうちに、おまえに相談すればよかった」
 そしたら俺も一睡もできなかったでしょうね……。

「ところで岡部」
 ふと気付いたように、薪は右手の拳を口元に持って行き、上目遣いのくりっとした瞳で岡部を見上げた。青木だったらここで宙を舞うんだろうな、と思いつつ、なんですか、と目で尋ねる。
「おまえが思い浮かべた男って誰?まさか僕じゃないよな?」
「……カンベンしてください……」
 今夜は一睡もできなくなりそうな岡部だった。




テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

天国と地獄6 (1)

 こんにちは~。

 昨日、当ブログは2周年を迎えました!
 管理人がどれだけSに走ろうと、ギャグで薪さんのイメージを壊そうと、(←自重しようね) お見限りなく訪問してくださるみなさまのおかげです。 心から御礼申し上げます。
 どうか、これからもよろしくお願いします。

 なんて、しおらしく言ってますけどこの女、
 昨日、Mさまからコメントいただかなかったら気付かなかっ……すみませんーー!
 SSにかまけるのも大概にしないと、人間としての基本を失くしてしまいます。(2周年のお礼も申し上げないなんて!)
 これから気をつけますっ!!
 

 ブログの方も、すっかり更新が空いてしまいまして、15日の時点で3個目の記事って、仕事が暇なこの時期にはあり得ない数字っすね☆
 わたしの場合、書き溜めたものを公開しているだけなので、続きが書けなくて更新が空くことはなくて、つまり、間が空くときは只の怠ky……すみません……。
 なんか今日は、謝ってばっかりだわ☆★☆


 はい、こちらで男爵シリーズ、一旦終了です。
 その7には鈴木さんが出てくるので、お盆に公開したいと思います。
 よろしくお願いします。


 

天国と地獄6 (1)




 蒸し暑い夏の夜というのは、それだけでビールの味を高めるものだ。喉越しのよさと爽快感、身体に染み渡る苦味。そのすべてが大人を魅了して止まない。
 第九研究室の飲み会が行われたのは、そんな夜だった。 
 重大事件を解決し、所長から特別報奨が出たぞ、と室長が告げた次の瞬間、曽我が居酒屋をネット検索していた。小池が袋を持って会費を徴収し始めた。第九メンズは仕事も早いが、遊びの段取りも早い。

「室長はどうされますか?」
 薪は役職柄時間外の仕事が多い。飲み会は大好きなのだが、なかなか参加できないのが実情だ。が、その日は運よくフリーだったらしい。小池が差し出した袋に報奨金と他の職員の会費の2倍の額を入れると、「僕が行かなきゃ始まらないだろ」と高慢に笑って見せた。

「曽我、薪さん来るって! フグ刺しのある店探せ!」
「やった! じゃ、ジャンルを高級海鮮に変えて」
「居酒屋じゃなくて、いっそのこと寿司屋にするか?」
「ちょっ、ちょっと待て。僕今月新しいPC買っちゃって、クレジットカードの限度枠がいっぱいで」
 盛り上がった室内が静まり、一斉に薪を見る。その期待に満ちた瞳。

「……カードはもう一枚あるから」
「さすが薪さん、太っ腹!」
「男の中の男っ」
「カッコイイ上司を持って、俺たち幸せです」
「男の中の男……カッコイイ上司……よし、今日は『一乃房』に繰り出すぞ!」
「「「「やった――――っ!!」」」」
 たった3つのセリフで、いつもの居酒屋が寿司屋になった。残高254円の警視正キャリアの通帳は、こうして作られるのだった。


*****


 宴会が始まって1時間後。
 何杯ものジョッキが空になり、宴もたけなわと言ったところ。

「曽我孝から始まるっ! 古今東西!」
「「「「イエーッ!!」」」」

 いきなり立ち上がった曽我が右手に持った箸をタクトのように振って、皆の喚起を煽る。お祭り好きのメンバーは、直ぐにそれに乗って声を張り上げた。
 こういう宴席において一番に座を盛り上げるのは、やっぱりムードメーカーの曽我だ。第九の宴会部長の名は伊達ではない。
 本来ならこれは一番年下の青木の役目なのだが、青木は曽我のように自分が騒いで場を盛り上げる性格ではない。細やかな気配りで皆が気分よく過ごせるよう、卒なく宴席をまとめるほうだ。
 
 掛け声の後に続く手拍子。リズムに合わせて曽我は、元気良くテーマを発表した。
「巷で噂になってる室長の恋人!」
「えっ!?」
 上座の席で岡部と差しで飲んでいた薪が、自分の名前に驚いてこちらを振り返る。目元がうっすらと桜色に染まっているほかは何の変化もない、いつものきれいな顔。職務中とは打って変わって穏やかに開かれた彼の眉目を見て、青木はとても幸せな気分になる。
 凪いだ春の海のように和んだ青木の気分を破って、悪ふざけ100%の題目に答える同僚の声が響いた。

「小野田官房長!」(小池の答え)
「ち、ちがう! あれは小野田さんの冗談だから!」
「中園参事官」(今井の答え)
「いや、あのひとは男の子好きだけど、ターゲットは20代前半までだって」(←既にアラフォー)
「捜一の竹内さんですとか」(山本の答え)
「なんでだ!?」
「えーっと、後はええと、間宮警務部長!」(宇野の答え)
「殺すぞ!! てか、どうして全員男なんだっ!!」
「……じゃあ、三好先生」(青木の答え)
「「「「「ダウトオッッ!!!」」」」」
「なんでっ!?」

 全員の突っ込みに声を荒げる薪を横目で見ながら、青木は敗北の証に両手を挙げた。
 まあ、そうだと思ったが。薪まで順番を回すよりは、自分が罰ゲームを受けた方がいいだろう、と考えたまでだ。こういう席での罰ゲームは決まっている。中ジョッキの一気飲みだ。薪だって飲めないことはないだろうが、あまりビールが好きでない彼には可哀想だ。

「罰ゲームは何にしようかな~~」
 え? 一気飲みじゃないの?
「そうだなあ。室長のほっぺにキスってのは?」
 !!! ナイス、宇野さんっ!
「宇野、それヤバすぎ! 命かかってる!」
 ……確かに五体満足の保証はない。

 人事だと思って次々に突拍子もないことを言い始める先輩たちに苦笑し、青木はジョッキを傾ける。身体に合わせて肝臓も大きい青木は、これぐらいの酒では素面と変わりない。

「青木! なんで雪子さんがダウトなんだ!」
「は? いや、ダウトを叫んだのはオレじゃなくて」
「あんなステキな女性、他にいないぞ?」
 畳の上を四足でさかさかと近付いてきた薪の亜麻色の瞳を見て、青木は初めて薪の今の状態を知る。
 まずい。べろんべろんに酔っ払ってる。でも、まだビールしか飲んでないはずなのに何故、と思ったらテーブルの下に吟醸酒の4号瓶が2本も! 岡部の身体に隠れて見えなかったらしい。

「薪さん、青木の罰ゲーム、キスでいいですか?」
「よし、僕が許す!」
 雪子さんにキスして来い、と青木にだけ聞こえるように耳元に顔を寄せ、小さな声で囁く。周りの皆は、てっきり薪が酒の座興に乗っかっていると思い込み、やんやと囃し立てた。
 頼みの綱の岡部を見ると、携帯に呼び出しが掛かったらしく、電話を手に持って部屋を出て行くところだった。

 困った、岡部以外に酔っ払った薪を宥められるものはいないのに、というか他の皆は面白がって薪の暴走を逆に煽るから性質が悪い。
 そして一番性質が悪いのは、やっぱりこのひとだ。
 身長差を埋めるため、薪は青木の膝の上に乗って首に腕を回し、右肩に顎を乗せている。薪は顔に酔いが出ない体質だから、真面目に青木に迫っているように見えるが実際は違う。酔っていて身体がだるいから、相手の耳元にくちびるを寄せようとすると、この体勢が一番楽なのだ。

 そのつややかなくちびるが何を言っているのかと思えば、キスに持っていくまでのムード作りや、どのタイミングで好きだと言えば女が落ちるのかとか、青木にはまるで必要のないアドバイスだったりするのだが、言葉の内容はともかく、薪とこれだけ接近して耳元で囁かれるというシチュエーションは充分に青木を興奮させる。ふたりきりでいるときだって、こんなに密着したことはない。
 折りしも季節は夏の盛り。薪は当然ワイシャツ一枚の姿で、アルコールのせいで普段より高い体温が薄い布を通して伝わってくる。耳に掛かる薪の吐息は、どんな美酒よりも甘く。場所もわきまえずに青木は、フルーティな吟醸酒の香りに酔い、彼の香りに酩酊する。

「なんだおまえ、キスくらいで真っ赤になって。男がそんなことでどうする」
「薪さん、見本見せてくださいよっ」
「よぉし! 僕に任せとけ!」
 ノリにノッた先輩と上司が、馬鹿なことを言っている。と思ったら、薪の小さな両手が青木の頬を強く挟んで。
 気付いたときには長い睫毛が目の前にあった。


*****


 携帯電話に届いたメールは、母親からのものだった。
『お帰りは何時ごろになりそうですか? できれば猫の餌を買ってきてください』
 まったく、仕方のないひとだ。今日は祝賀会で遅くなるから先に休んでくださいと連絡を入れておいたはず。それなのにこの文面を見ると、起きて待っている気マンマンだ。

「帰宅時間は未定。猫の餌は調達します。早く寝なさい、睡眠不足は美容の敵ですよ。あなたの目の下にクマができたら、俺は悲しいです」とメールを返して岡部は苦笑する。
 今の岡部の顔を同僚が見たら、きっとびっくりするだろう。東の鬼瓦と称されるコワモテ刑事の代表格、岡部靖文警部のこんな穏やかな微笑など、同僚たちには想像もつかないはずだ。

 廊下を歩いて中座した宴会場に戻り、いくらか気を引き締めて襖を開けて、しかし岡部はその直後、あんぐりと口を開けてその場に立ち尽くす羽目になった。
 
 畳の上に胡坐をかいた青木の膝に乗って、薪が青木の唇にキスしている。二人の唇はすぐに離れ、「雪子さんにキスなんかさせるか、バーカ」というわけの分からない言葉を呟いて、薪はくにゃりと青木の胸に倒れこんだ。そのまま青木の腕の中で、安らかな寝息を立て始める。
 何がどうしてこういうことになったのかさっぱり分からなかったが、とにかくこれが薪にとってマズイ状況だということは理解できた。そして、青木にとっても。

「……オレ、もー、死んでもいいデス……」
 しっかりしろっ、人生終わるぞ青木!

 二人を取り巻いた同僚たちの間には白くて微妙な空気が漂い、ぽかんと口を開けた曽我と小池、不自然な体勢のまま固まっている山本と今井の横で、何故か一人だけ平然とビールを飲んでいる宇野の姿があった。
 柱時計の秒針がカチコチと響く中、やがてポツリと宴会部長の声が。

「曽我孝から始まる古今東西……薪さんの本当の恋人……」
「「「「「…………青木?」」」」」
 ダウトだっ!!



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

天国と地獄5 (3)

 こんにちは。

 超久しぶりに、小説カテゴリの作品を書いてます。
 やっと落ち着いてきましたのでね、少々ぎこちなくはありますが、ストーリーを組み立ててみました。
 
 今まではリハビリ代わりに、雑文ばっかり書いてました。 (雑文は、きちんとした主題がないお話です。 事件も起こらず、あおまきさんの関係に進展もなく、気付きもなく目覚めもなく、「それがどうしたの?」ってカンジの話。 けっこう書いてるんですけど、つまんないので公開しません)
 小説を書くのは震災以降初めてなのですが、とってもとっても楽しいです♪ 
 ストーリーがあるから筆が止まらないし、薪さんを追い詰めるのは萌えるし。<オイ。
 やっぱり、雑文よりも小説の方が、書くのは楽しい♪


 で、現在公開中のこちらですが。
 途中になってたんでしたね、すみませんでした。(^^;
 コメのお返事も見事に遅れまして、申し訳ありません~~! 近日中に必ず!!
 忘れてたわけじゃないんですけど、なかなかあっちの世界から帰ってこれなくて~~~。 (←誰にも理解してもらえない言い訳)

 それにしても、男爵は平和でいいねえ。 本編はしっちゃかめっちゃかになってるよ~。 ああ、楽しいな~、どうやってまとめようかな~。 (←あっという間に意識が向こう側へ……!!)

 男爵シリーズその5は、これでおしまいです。
 その6で一応、あおまきさん成立になってます。 (あれを成ったと言ってよいものかどうか)
 お楽しみに~♪





天国と地獄5 (3)




「青木、あとどれくらい掛かりそうだ?」
 帰ったと思った薪が研究室に戻ってきて、にっこり笑って青木に声をかけたとき、青木は何か不思議な力が働いて、1週間ほど時間が巻き戻されたのかと思った。

 先週の日曜日、薪のマンションを追い出されてから、薪はずっと口を利いてくれなかった。プライベートは仕事に持ち込まない人だから、職務は滞りなくこなしていたが、常に無表情に室長の仮面をつけて、青木から仕事以外の話題が出ることを避けていた。
 自分が致命的な失敗をしたという自覚があった青木は、薪の信用を取り戻すため、いつも以上に熱心に仕事に打ち込んでいたのだが、その努力も虚しく、仕事以外では目も合わせてくれない日々が続いていたのだ。それが急に、どうしたのだろう。

「いいえ、これは急ぎの仕事ではないので。何か仕事があれば、そちらを優先します」
「急がなくていいんだな? じゃあ、一緒に夕飯食べないか?」
「えっ」
 驚きと共に、青木は椅子から立ち上がった。
 何があったのか知らないが、薪の機嫌が直っている。自分の努力を認めてくれたのか、と思いかけるが、そうではないだろう。

「何がいい? おまえの好きなもの、なんでも奢ってやるぞ」
 ここであなたが食べたいです、って言ったら、怒られるだろうな。反省してないのか、って殴られるかも、ってそんなアホなことを考えている場合じゃなくて。
 突然の状況変化についていけない青木が何も喋れないでいると、薪は自分から謝罪と和解を切り出してきた。

「こないだは悪かった、おまえの気も知らずに。おまえがあの時、どんな気持ちで僕を手伝うって言ったのか、脇田課長に教えてもらったんだ」
 脇田課長が?
 もしかして、自分が薪に恋をしていることを見抜いて、薪に気持ちを伝えてくれたのか?
 いや、それはないだろう。あんなに深い信頼関係にある岡部から言ってもらってもダメだったのに、課長同士の付き合いくらいしかない脇田の言葉の方が正確に伝わるなんてこと、あるわけが……。
 待てよ、身近な岡部や青木当人から言われるよりも、第三者的な立場にある脇田の言の方が、聞かされる身には重いのかもしれない。利害関係が何も絡まない脇田が冷静に観察した結果、青木の恋心に気づいたのなら、それは本物だと考えてくれたのかも。

「おまえの気持ちは、すごく嬉しかった。ありがとう」
 呆然と、青木はその場に立ち尽くした。

 やっと……やっと伝わった。長かった、ここまでものすごく長い道のりだった。ようやく薪が、自分の本当の気持ちに気付いてくれた。その上、とても嬉しいと言ってくれた。
 じわじわと、喜びが心の奥底から湧き上がってくる。言葉の通り、薪はとてもうれしそうな顔をしている。
 決めるならここだ、彼を抱きしめて愛してます、と言うのだ。

「僕、学生の頃、部活動やってなかったから。そんな慣習のことなんか、ちっとも知らなくて。そこまで部下に想われるなんて、って脇田課長に羨ましがられちゃってさ。ちょっと照れくさかったけど、本当に嬉しかったんだ」
 伸ばしかけた手が止まる。
 部活動ってなに? ……なんか、いやな予感がするんですけど。

「尊敬する先輩に対する奉仕の心なんだってな」
 奉仕の心? なに? その安手のヒューマンドラマみたいな劣情の昇華方法は。
「おまえがそんなに僕を尊敬してくれてたなんて。ちょっと感動した」
 あああ、やっぱり!!
「おまえにはいやらしい気持ちなんか、これっぽっちも無かったのに」
 ありましたよ!! てか、そのことしか考えてませんでしたよ!
「ごめんな、ヘンな誤解しちゃって」
 薪さん、文法違います。過去形じゃなくて、現在進行形です。今まさに誤解してる最中です。
「あるわけないよな。僕もおまえも男だもんな」
 ……結局そこに落ちるんですね……。

 同性間の恋愛は成り立たない、という薪の固定観念がますます堅固になってしまった。これじゃこの先なにをやっても、奉仕としか受け取ってもらえなくなるかもしれない。ただでさえ鈍くって伝わりにくい相手なのに、どうしてくれるんだ、あの鬼瓦!
 怒髪天を突く勢いの脇田に対する青木の怒りは、しかし次の瞬間失せた。
「おまえは大事な友だちだし、こんなことで失いたくなかったから」

 そう言って、薪はびっくりするくらい明るく笑った。どんな形にせよ、脇田が彼のわだかまりを解いてくれたから、青木はこの笑顔を見ることができたのだ。
 そんなふうに、屈託無く笑う愛しいひとの姿を見れば、このまま自分の気持ちを知らずにいたほうがこの人は幸せなのかもしれない、などと切ない考えまで浮かんできて、青木は思わず泣き出しそうになる。
 だけど薪が笑ってくれるのは、やっぱりどうしようもないくらい嬉しくて、彼の笑顔を守るためなら自分の恋心でさえどうでもいいもののように思えてきて。
 
 絶対にこの笑顔を失いたくない、曇らせたくない。
 彼の笑顔よりも価値あるものなどこの世にないと思うなら、友だちを失いたくない、という彼の言葉に自分は喜んで従おう。

「薪さんの作ったオムライスが食べたいです」
「よし、じゃあ帰りにスーパーだな」
 広げた資料の片付けに、薪が手を貸してくれる。青木の半分くらいしかない手は、青木の倍の速度で動いて、それは薪の優れた動体視力のなせる技。さらには、一瞬で資料の内容を理解する頭脳があってこそのスピードだ。
セキュリティをかけて、研究室を出る。エントランスへの長い廊下で、ふたりはいつもの下らなくて楽しい無駄話に興じる。

「オムライスの材料は鶏肉と玉ねぎと……人参、たっぷり入れてやるからな」
「えええ~~」
 久しぶりに薪の意地悪そうな声を聞いて、それに自分の心が浮き立つのを感じる。優しい言葉を掛けてもらえるならともかく、意地悪されて嬉しくなるなんて、末期症状だな、と自分でも思う。
「遠慮するな。おまえの大好きな人参スティック、たくさん食わしてやるから」
「パワハラじゃないですか、それ」
「失礼な。人参はビタミンAの宝庫なんだぞ。僕はおまえの健康を考えてだな」
「よく言いますよ。いつも無理矢理口に押し込むくせに」

 ぶちぶちと文句をつける青木を見て、薪が楽しそうに笑う。
 彼が笑ってくれるならこのままでもいいかな、と青木は思う。
 現状維持というぬるま湯の中にどっぷりと浸かりつつ、青木は自分に向けられた薪の笑顔を大脳に焼き付けた。


(おしまい)




(2010.7)


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ジャンル : 小説・文学

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
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