緋色の月(4)

 先日から過去作品に拍手くださってる方、どうもありがとうございます。
 最初のお話から丁寧に読んでくださってるみたいで、律儀にポチポチと、ありがとうございます。 あなた様のやさしいお心は、しづに届いております。
 昔の話は日本語がヘンなところも多いので申し訳ないのですけど、『桜』から『ラストカット』まではきちんと主題に沿って書いてるので、最後までお付き合いいただけるとうれしいです。
 そこから先は萌えのままに、なのであんまりオススメではなくて。できれば『ラストカット』で止めておいた方が、むにゃむにゃ。

 こうして読んでくださる方がいらっしゃるのですから、いつまでも怠けているわけにはいかないと思いました。
 1ヶ月の記事数が4つって、ありえないですよね。(^^;
 作品を書きながら公開しているならともかく、わたしの場合、ワードからコピペして保存ボタン押すだけだもん。 時間なんか、一記事に5分も掛からない。 できないわけがないんです。 気力の問題なんです。 怠けててごめんなさい。
 来月はがんばります!!





緋色の月(4)





 青木がいなくなって、我慢できたのはたったの3時間だった。
 今日は金曜日で、午前中に第九へ帰ろうと思っていたから、朝食は7時に頼んでおいた。その連絡がフロントから入り、薪は連れの朝食をキャンセルし忘れたことに気付いた。
 まだ任意同行の段階なのだから、青木には警察から朝食が供されているはず。青木のことだから、お代わりとか要求して、所轄の人間に呆れられているかもしれない。
「あんまり恥ずかしいことをしてくれるなよ」
 部屋で独り、パサついた焼鮭の身をほぐしながら、薪は呟いた。

 部屋係の女性が食事と一緒に持ってきてくれた新聞に目を通すが、昨夜の事件は載っていなかった。報道規制が為されているのか、校了時刻に間に合わなかったのか、いずれにせよ情報は得られなかった。テレビはいくらかましだった。昨夜遅く、Y地区の公園で男女の他殺体が発見されたこと、被害者の身元が判明したことについて報じていた。が、それ以外のことは捜査中とのことで、詳しいことは報道されなかった。
 朝食が済むと、薪にはすることがなくなってしまった。帰り支度は青木が整えておいてくれたし、チェックアウトの手続きも彼が戻ってからにした方が良いと思った。
 青木だって、ショックを受けているはずだ。取調室から職場に直行では、さすがに参るだろう。質の良い仕事ができるように少しフォローしてやって、それには2人きりの方がいいから、部屋は確保しておいたほうがいい。

 敷いたままの布団に寝転がって、板の目がうねるように連なっている天井を見上げる。青木はもうすぐ釈放されるはず、自分はここで待っているより他に術はない。
 署長に直談判して無理矢理釈放させることもできるが、彼らが自分たちの関係を知っている風だったのが気になる。ごり押しは、彼らの疑いを確証に変えるだろう。得策ではない。

 騒ぎ立てないほうがよいと判断して薪は、しかしどうにも落ち着かなかった。
 ひょいと起き上がり、布団の上に胡坐をかいて腕を組む。腕時計を見ると、時刻は8時を指している。青木からの連絡は、まだない。
 1分ほど思案して、薪は腹を決めた。窓の外を見て曇り空を視認し、薄いベージュ色のスプリングコートを羽織る。
「ちょっと散歩に出てきます。僕宛に何かあれば、この番号に電話をください」
 仕事用の携帯電話の番号を記したメモをフロントに預けて、薪は外へ出た。宿の人間は青木が警察に連れて行かれたことを承知しているのだろうが、そこはプロだ。何食わぬ顔で、笑顔さえ浮かべて、いってらっしゃい、と薪を送り出した。

 行き先は無論、昨夜訪れた公園だ。
 ここで起きたという殺人事件に興味を持ったわけではない。管轄外の事件に手出しする気はない、それは警察の重大なタブーのひとつだ。興味本位で首を突っ込んで、トラブルを起こす心算はない。ただ、青木が帰ってきたときに、話を聞いてやるのに基礎知識があった方がいいだろうと、それくらいの考えだった。じっと待っているのは性に合わない。捜一にいたころ、薪が一番苦痛に感じていた仕事は張り込みだった。
 問題の公園には正門があり、周囲は高いフェンスに囲まれていた。つまり入り口は一つで、そこには見慣れたキープアウトのテープが張られていた。野次馬はいなかった。すでに現場検証は済んだのだろう。死体のなくなった現場に張り付いているほど暇な一般人は、この町にはいないようだ。
 入り口に、警邏係の警官が立っていた。黙って警察手帳を見せると、仰天して背筋を伸ばし、しゃちほこばって頭を下げた。一介の巡査が警視長の手帳を見せられたら、これが普通の反応だ。あの連中がおかしいのだ。

「ごくろうさま。ちょっと中を見せてもらえますか」
「どうぞ。現場は公園の奥です」
 殺人事件が起きれば県警から刑事が来るのは当たり前。自分が顔を知らない捜査員がいても当然のこの状況で、彼の非を問うものはいないだろう。
 制服を着用していない薪に、彼は額に手を当てての敬礼はしなかった。これは当然の配慮で、何故なら誰に見られているかもわからない屋外で手敬礼で挨拶を交わしたりしたら、相手が警察関係者だと遠目にも判ってしまい、私服刑事の意味がなくなる。駐在の教育は行き届いているようだ。

 公園の中に入ると、昨夜見た桜が今日は曇天の空に霞んで、うら寂しいような薄ら寒いような、昨日とはまた違った風情で佇んでいた。
 警官の言うとおり、奥の方に、青いビニールシートで囲った一画があった。間違いない。昨夜青木と行為に及んだ場所だ。
 偶然とはいえ、ここが殺人現場に選ばれたことは、青木にとっては不利だ。ここには彼の痕跡が残っている。毛髪や体液が残っている可能性もある。が、だからと言って、それは決定的な証拠にはならない。それはあくまで、彼が此処を訪れた証拠に過ぎない。殺人の物証にはなりえない。

 それにしても、と薪は思う。
 自分たちがここで愛を交わした後、同じ場所で非業の死を遂げた人間がいるのか。
 そう思うと、複雑な気分だった。事件の詳細は分からないが、警察が、他所者という理由で青木に目をつけたのなら、通り魔的な犯行だったのかもしれない。時間がずれていたら自分たちが襲われていたかもしれない。薪も青木も柔道は黒帯だ。通り魔の一人や二人、投げ飛ばせる自信はあるが、あの状態で襲ってこられたら応戦できるかどうか、いや、危害を加えられる前に恥ずかしくて死んでるかも……。

 ひとりで頬を染めながら、もう二度と外では許すまい、と心に誓って、薪はブルーシートの中に入った。
 桜の枝に紐をかけて、シートは四方を囲んでいた。上空に覆いはないから、観察に必要な明るさは得ることができた。
 現場は雑草交じりの芝生で、下足痕は期待できそうになかった。犯人の指紋が残っていそうな箇所もなかった。あったとしても、ここは公園だ。数が多すぎる。被害者の血液が付着してでもいない限り、特定は不可能だ。
 血痕は、草叢に残っていた。さほど多くない。小雨が降れば流れてしまう程度だ。この量から見て撲殺の可能性が高いと思ったが、遺体を見ないことには断定できない。刺殺でも、凶器を刺したままにしておけば外部的出血は少なくて済むし、絞殺だったとしても揉み合ううちに流血に及ぶこともあるからだ。
 草を数箇所採取した跡があるから、鑑識が持っていったのだろう。そこに被害者以外の唾液、血液等が混じっていればベストだ。DNA鑑定で、青木は即釈放される。
 DNA鑑定には専門の技術が必要だが、その精度は77兆分の1という驚異的な数字だ。これ以上の物証はない。

 薪はシートから外に出て、公園を後にした。
 長居は無用だ。場所が確認できたら、それでいい。どうせ細かいことは鑑識の結果待ちだろうし、自分が捜査に加わることは許されない。
 歩きながら腕時計を確認すると、午前10時。何事もなければ、東京行きの電車に乗っているはずだった。
 青木が連れて行かれてから5時間。まだ聴取は終わらないのだろうか。
 事情を聞くだけなら、とっくに解放されてもいいはずだ。ましてや青木は本庁の警視。濡れ衣だと分かった時点で客人扱い、頼めば車で宿まで送り届けてくれるはずだ。それが未だに何の連絡も入らないと言うことは。
 
 青木はただの参考人から、重要参考人になった。

「…………あのバカ」
 ふーっと重いため息を吐いて、薪は携帯電話を取り出した。周囲に誰もいないことを確認して、留守を任せてある副室長に電話を掛ける。
「僕だ。何か報告はあるか?」
 昨日も今日も平和なもんですよ、と落ち着いた声が聞こえてきて、薪は安堵する。
「そうか。特に急ぎの案件はないんだな。じゃあ僕と青木、今日休んでもいいか?」
 短い沈黙の後、「何があったんですか」と深刻な声が問うのに、薪は努めて軽い口調で、
「いや。桜がきれいだから、ついでに観光でも、と思ってさ」
 取ってつけたような言い訳に、元捜査一課のエースが騙されてくれるはずもなく。厳しい口調で、薪さん、と呼びかけられて、薪は奥の手を出すことにした。

「わかった。岡部にだけは本当のことを言おう。実は、すごく困ったことになってて」
 困ったこと? と、一転して心配そうな声音になる岡部の素直さを好ましく思いながら、薪は用意しておいた台詞を淀みなく口にする。
「昨夜、張り切りすぎちゃってさ。青木のやつ、ぎっくり腰になっちゃったんだ」
 岡部が黙った。予定通りだ。
「久しぶりだったから、明け方まで粘られて。僕も足腰立たなくてさ」
 ユデダコのようになった岡部が、ダラダラと汗をかいている姿が見える。これがテレビ電話でなくて残念だ。
「本当にすごかったんだ。青木ったら、僕のあんなところまで舐め」
 ぷつっと電話が切れた。後に残るのは、ツーツーという無機質な電子音。

「岡部を黙らせるにはこれが一番だな」
 ぱたりと携帯を閉じて、薪は皮肉に笑った。



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緋色の月(3)

 ぷんぷん。

 6年生になる姪っ子がね、「薪さんて気持ち悪い。 おカマみたい。 お姉ちゃん、趣味悪い」 って言うんですよ。 ぷんぷん。
 そんな鈍い感性だから、分数の計算もできないのよ。 数式の美しさが分からないの。  

 高校生の甥っ子がね、「お姉ちゃんて腐女子だよね。 奥さんが変態なんて、まーくん(オットの名前)が可哀相」 って言うんですよ。 
 おかしいじゃない、男の人がビアンショーを楽しんでも変態扱いされないのに。 立ち居地は同じはずでしょ? ぷんぷん。
 そんな理屈もわからないから、理科のテストで8点なんてありえない点数を取っちゃうのよ。

 おまえら、ひとに社会人失格の烙印を押す前に、自分の本分をしっかり果たせよ。


「「ところでお姉ちゃん、会社の決算終わったの?」」
 ……………ごめんなさい、もうちょっと待ってください……。 




 ここから本編です。 よろしくお願いします。




緋色の月(3)





 乱暴にドアを叩く音に、薪は目を覚ました。
 低血圧の彼は、やっとのことで目蓋を細く開け、唐突に眠りを中断された不快さに歯噛みする思いで隣に寝ている男を見やった。
 あれだけの騒音にも破られない彼の眠りの深さが妬ましい。腹立たしくなって、薪は男の頭をパシリと叩いた。
 痛覚で目覚めたらしい彼はむくりと起き上がり、ぼやけた表情で周囲を見回した。それからようやく、ノックというには激しすぎるドア口の音に気付いてのろのろと起き上がった。

「はいはい……て、まだ5時前ですよ。なんだってこんな時間に」
 そんなことは薪にだって分からない。でも、応対は青木がすればいい。
 薪の身体が普段にも増して重く感じられるのは、出張による疲れからではない。青木のせいだ。
 
 ひとつの事件が解決を迎え、顛末を説明するためにF県の被害者遺族の家までやって来た。職務に忙殺されて1月ほど休みを取っていない薪に気を使った岡部が、仕事にかこつけて気分転換に出してくれた。青木をお供に選んだのも岡部だ。彼は、自分たちの関係を知っている。薪の前で口に出したことはないが、分かっているはずだ。ふたりがこういう関係になる前から、岡部は青木の気持ちにも薪の気持ちにも気付いていたのだから。
 だから岡部の意向はきっと、遺族への説明が終わったら温泉にでもつかってのんびりして、明日ゆっくり帰ってきてください、青木をお世話係につけますから、というものだったはずだ。

 なのに、その命を受けたはずのお世話係は自分の身の程もわきまえず。
 昨夜、公園で一度したのに、宿に着いて風呂を済ませたら「浴衣の薪さんはそそります」とか始まって、「畳に布団だと気分が変わりますよね」ってそれは認めるけれど、どうして僕が浴衣の帯で手首を縛られなきゃいけないのかは理解できない。一度で許してくれればまだしも、それから深夜過ぎに至るまで啼かされっぱなしで。不自由な両手に悶えさせられて、クセになったらどうしてくれ、いやその。
 とにかく、こんなに疲れているのは青木のせいなのだから、無礼な早朝の来訪者をあしらうことくらい彼に一任してもバチは当たらない、と薪は、枕に右頬を擦り付けて夢の世界へ戻ろうとした。

「えっ! なんですって!?」
 何事か起こったらしい、とは、青木の声の調子で分かった。しかし、薪は布団から動く気はなかった。青木も6年目になる捜査官だ。社会人としての教育もしてきたつもりだし、大概のことには対処できるはずだ。
「ちょっと待ってください、オレは何も知りません。きっと人違いです。オレ、昨夜はずっと此処にいました」
 襖の向こうから聞こえてくる焦燥を交えた青木の声音に、薪はトラブルを予感して薄目を開ける。来訪者と青木は尚も押し問答を続ける風だったが、その声量が次第に高くなっていくのを聞いて、仕方なく薪は上体を起こした。これで大した用件じゃなかったら、全員まとめて一本背負い掛けてやる。

「困ります! オレ、今日は仕事もあるし」
「うるさい!!」
 すたん、と襖を開けると、青木の後姿が見えた。だらしなく寝乱れた浴衣に髪はぼさぼさ、寝起きを絵に描いたような姿だ。
「こんな朝っぱらから、いったい何の騒ぎだ。非常識にもほどがある。他の客にも迷惑だろう」
 青木の大きな背中に隠れて、相手の姿は見えない。浴衣の帯を締めながら裸足で板間を歩いて、薪は青木と訪問客の間に割って入った。

 迷惑な客は、2人組みの男性だった。
 一人は40過ぎ、もう一人は20代か。40代の男はひどく垂れ下がった眉毛をして、やや小柄。気弱そうに見えるが、眉毛の下の目は鋭い。若い方はすらっと背が高く、短い髪をツンツンと立てて、見るからに生意気そうだ。
 彼らは徹夜作業に従じた人間特有の浮腫んだ目をして、陰険にこちらを見た。年長者の方が口を開き、胸ポケットから何かを取り出しながら、
「失礼。あたしらは」
 警察のものです、と出された身分証を確認する間もなく、ぐんと腕を引かれて青木の後ろにしまわれた。何をする、と抗議する前に、潜めた声で、
「薪さんっ、前」
 浴衣の前がはだけたままだと言いたいのか。青木は薪の肌を他人に見られるのを嫌がる、それは恋人として当たり前のことかもしれないけれど、警察が自分の身柄を確保しに来ているのにそれどころじゃないだろう。少々肌を見られたところで、男の薪には何の被害も……。
「昨夜の痕が」
 それを早く言え!!
 無言で部屋に取って返して、とりあえずシャツを着る。スーツのズボンを穿いて、ついでに髪も手櫛で直した。眠気はすっかり醒めていた。

「彼は僕の部下ですが、なにか?」
 再び戸口に立ったとき、薪は沈着冷静な室長の貌を取り戻していた。青木に何らかの用事があるらしい二人の警官をギッと睨み据えて、青木を自分の背中に庇う。身体は小さくとも、自分は彼の上司。部下を守るのが上司の務めだ。

「昨夜、Y地区の公園で殺人事件がありましてね。そのことでお連れの方にお話を伺いたいと思いまして」
 Y地区の公園というと、昨日帰りに立ち寄った桜の見事な公園のことか。どうして青木に、と一瞬考えて、薪はすぐに解答を導き出す。此処は片田舎だ。余所者は目立つ。青木のように人並みはずれた体躯を持つものは尚更だ。おそらく、公園にいた人物に事情聴取をする中で彼らは、長身の余所者の存在を知ったのだろう。
 殺人事件となれば、捜査に協力するのはやぶさかではない。しかし。
「目撃証言を取るにしては、この時間は非常識じゃありませんか」
 田舎の人間は朝が早いと聞いたが、朝の5時なんて。いくらなんでも相手の都合を考えなさ過ぎる。所轄の方針に口を出す心算はないが、こんな聞き込みの仕方では市民の協力は得られないと、少しは考えさせてやろうと思った。
 ところが。

「あなたには用はないんですよ。あたしらが話を聞きたいのは、そちらのお方で」
 部外者のように扱われて、薪はムッと眉間に立て皺を刻む。不調法な所轄の刑事に腹が立ったが、表情には出さず、静かな口調で、
「どうして青木に?」
「死亡推定時刻の11時ごろ、お連れさんが公園から出てきたと言う目撃証言がありましてね。あたしらとしては、事情を聞かないわけにはいかんのですよ」
 それを聞いて、薪は笑い出したくなった。
 なんて的外れな。青木は昨夜、一晩中自分と一緒だった。いや、深夜以降は記憶がないけど、12時の柱時計の音は聞いた。逆算して、犯行時刻には3ラウンド目に突入していたことになる。

「昨夜、彼は僕と一緒にいましたよ。同じ部屋に泊まっているんです。外出すれば、気付きますよ」
「だから、あなたの話は聞いてないって言ってるでしょう。あたしらは、そちらのお方に用事があるんですよ」
 薪のきれいな額に青筋が立った。
 なんだ、こいつらの横暴な事情聴取の仕方は。いくら参考人の聴取が最優先だからと言って、同室の人間の証言を聞きもしないなんて。一課長はどういう教育をしてるんだ。
 階級を振りかざすやり方は好きではないが、こういう輩には仕置きが必要だ。薪は警察手帳を取り出し、記載されている階級名を見せ付けるように上下に開いて彼らの前に突き出した。

「こう見えても僕は、本庁の」
「存じ上げていますよ。生え抜きのエリート集団、第九の室長さんでしょう。おや、階級は警視長殿でしたか。たいしたものですな」
 冷徹に返されて、薪は絶句した。
 こんな田舎町の所轄で、しかも現場に足を運んでいることから、この二人はせいぜい巡査長か巡査部長。なのに本庁の刑事、しかも警視長の自分にこんな口を利くなんて。警察は縦社会だ。こんなことはあり得ない。それとも此処は、そんな常識すら通用しない辺境の地なのか?
 
 短い虚脱に囚われた薪に、年長の刑事の後ろで沈黙を守っていた若い刑事が見下すような眼をして言った。
「あなたのようなエリートさんには、釈迦に説法だと思いますけどね。被疑者の内縁関係にある者の証言は、無効なんですよ」
「なっ……!」
 軽蔑の滲んだ口調。咄嗟には言葉が出なかった。

 自分たちの関係を知られている。 
 会ったこともない所轄の巡査に、どうして? まさか、公園での情事を誰かに目撃されていて、それが聞き込みの過程で彼らの耳に入ったのか?
 可能性はあると思ったが、認めるわけにはいかなかった。薪は瞬時に動揺を治め、腹の底に力を入れた。
「失敬な!!」
 恫喝は、しかし彼らを怯ませなかった。それどころか、戸口で交わされる応酬に眠りを破られた同宿の泊り客たちが、何事かとドアの隙間から顔を出し始め、事態はますます悪くなった。

「峰、止せ」
 年長の刑事が同僚の発言を窘めるように首を振り、下がった眉毛をいっそうみすぼらしく顰めて薪の顔を見た。
「あなたも大声出さんでくださいよ。あたしらがどうしてこんな時間に来たか、少しは察してください。あたしらだってね、身内の恥は晒したくないんですよ」
「うるさい、今言ったことを取り消せ。無礼にもほどが」
「こちらにはね、ちゃあんと証拠があるんですよ。証人もいる」
「証人だと? いったい何処の誰がそんなふざけた事を」
「もう止めてください! オレ、行きますから」
 薪が刑事たちとのやり取りに夢中になっているうちに、青木は着替えを済ませてきていた。髪もきちんと撫で付けて、スーツもネクタイもびしっと決まって、それは第九職員として恥ずかしくない堂々たる姿だった。

「青木」
「薪さん、大丈夫です。オレが何もしてないことは、薪さんが一番よくご存知でしょう? だったら、オレを信じて待っててください」
 眼鏡の奥の瞳が、薪を慈しむように見る。嫌疑は自分に掛けられているのに、こんな状況ですら薪を気遣う青木のやさしさが、薪のくちびるをわななかせた。
「現場にはきっと、真犯人の残した遺留品があるはずです。指紋や毛髪、手形に足跡、それらがオレのものと一致しなければ直ちに解放される。そうでしょう? だったら、ここで押し問答してるのは建設的じゃないです」
「……おまえに諭されるようじゃ、僕もおしまいだな」
 軽く嘆息して、薪は肩を開いた。二歩下がって、青木の通り道を用意する。

「さっさと済ませてこい。品川の刺殺事件の被害者の脳が、おまえを待ってる」
 素っ気無く言って、薪は腕を組んだ。
 二人の刑事は青木の潔い態度に敬礼して、それがわずかに薪の心を慰めたが、ポーカーフェイスの下に隠した忿怨はマグマのように煮えたぎっていた。それは自分の恋人に嫌疑を掛けられたからというよりは、ろくな物証もなしにあやふやな目撃証言だけで容疑者を引っ張る彼らのやり方に憤っている部分が大きく、この時点で薪は、青木がすぐに釈放されることを信じて疑わなかった。
「行ってきます」

 別れは突然に訪れる。
 まるで買い物にでも行くように微笑んで歩き去った青木の、その笑顔を失うことになるとは、露ほども考えなかった。薪が考えていたのは、岡部に帰りが遅れる理由を何と説明しようかと、そんな瑣末なことだった。
 そのとき彼らは知らなかった。これから自分たちを襲う過酷な罠を、既にそのあぎとに捕らえられていたことを。
 徐々に迫りくる敵の姿も、その狂気に満ちた妄執も、まだその片鱗さえ見せず、しかし敵は確実に二人の動きを掌握し、濁流の中心へ導こうとしていた。



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緋色の月(2)

 こんにちは~~。

 みなさま、連休はいかがお過ごしでしたか?
 楽しい夏の思い出はできましたか?

 わたしは3連休を利用して、家族で旅行に行ってきました。 たくさん遊んで、楽しかったです。 (←頭の悪い小学生の日記のようだ。)

 しかし、あの暑さには参りました~。 
 昼食を終えて車に戻ったら車内の温度が半端なくて。 どれくらい凄かったのかというと、
 車のナビが「車内温度が異常です。ナビを中止します」って喋ったかと思うと、突然真っ暗になっちゃったんですよ。(@@) 

 熱でナビが壊れたのは初めてだったのでびっくりしましたが、考えてみればナビゲーションシステムって精密機械ですものね、熱には弱いんですね。 取り付け型のポータブルナビだったものですから、直射日光が当たってたのがいけなかったんですね。
 幸い、車内が冷えたらナビは復活しまして、旅行に支障はなかったのですけど。 あのままお亡くなりになったらどうしようかと思いましたよ。 
 ポータブルナビには日よけをしないといけないんですね。 みなさまもご注意を。 



 で、お話の続きです。
 あー、まだプロローグの途中だったんですね。(^^; 
 次の章から本編に入ります。 よろしくお願いします。





緋色の月(2) プロローグ(2)






「……あれ?」
 深く息をしながら薪は、不思議そうに空を見ていた。何がそんなに気になるのか、正中した月をじっと見据えている。

「月がどうかしましたか」
「白い。てか、蒼い」
 月は青白くて当たり前だと思うが。

 何を当然のことを、などとは言わずに、そうですね、と答える。せっかく薪が茫洋としているのだ。怒らせて正気に返す手はない。
 裸の薪を膝に載せたまま、青木は自分の鞄に手を伸ばし、中から濡れティッシュとタオルを取り出した。自分の左手に付着した薪の残滓を拭い、それから薪の身体をきれいにしてやる。ここに外灯はないけれど、今夜は月がとても明るいから作業に支障はない。

 青木は行為の後いつも、薪の身体を清めてやりたいと思っている。でも薪は恥ずかしがって、なかなか身を預けてくれない。あんまりしつこくすると、青木の腹に蹴りを入れてシャワー室へ猛ダッシュされる。情事の余韻など、あったものではない。
 その薪が、今夜はどうしたことか、薪の中の青木が力を失くしても青木から離れようとせず、ぼんやりと宙を眺めていたのだ。まるで何かに酔ったようにとろんとした瞳をしている薪を、青木はこれ幸いとばかりに膝に抱き、陶器製のビスクドールを磨くように細心の注意を払って彼の身体を清めた。

 開かせた脚の奥に指を入れ、中に溜まった残留物を掻き出す。白く濁った液体が、薪の尻から草叢に落ちてくる。他人から見たら、汚らしい光景だと思う。薪はこういうことに嫌悪感を抱くタイプだから、きっと青木に後始末をさせるのは忍びないと思って青木の腹を蹴るのだろう。
 だけど青木にとって、それは薪との愛の証。
 自分が放った体液と薪の粘液との混合物。その液体は、これ以上ないほどに侵食しあって、どこからが自分でどこからが彼だか分からなくなったあの刹那を証明する物的証拠。他人からどう見えようと関係ない、青木には大事なものなのだ。

「あの月」
 青木にされるがまま素直に身体を開いていた薪が、ぽつりと呟いた。
「さっきまで、真っ赤じゃなかったか」

 そう言えば、最中にそんなことを言っていたような。
 でも、青木には赤い月の記憶はない。空気中の塵や水蒸気に影響されて、低空の月が赤く見える現象は知っているが、今夜がそうだったのだろうか。
「おかしいな……」

 下着とズボンを太腿まで持っていくと、薪は気がついたように腰を浮かせた。青木の手を払って、残りは自分で引き上げた。正気に戻ってきたらしい。
 さっと立ち上がり、でもすぐによろけて、無理もない、あんなに夢中になって下半身を動かしていたのだから膝が笑って当然だ。仕方なく薪は草の上に胡坐をかいて、ワイシャツのボタンを留め、ズボンのベルトを締めた。ネクタイを取り上げるが、あちこちに唾液のシミが付いていて、歯型も残っていたりして、これはもう使えないと判断してか、ぐしゃぐしゃに丸めて上着のポケットに突っ込んだ。

「立てますか?」
 身づくろいを済ませた青木が薪に手を差し伸べると、薪は、うん、と頷いて、でも桜の幹にもたれたまま、未練がましく月を見ていた。

 青木が薪の腰を抱くようにして立たせてやると、薪は青木の胸に額を預け、
「気のせいだったのかな」
 その言い方が、あまりにしゅんと項垂れる風だったので、青木はお節介と知りながら赤い月の講義を始める。
「空気中の塵や水蒸気に邪魔されて、月の光が減じて波長の長い赤色だけが眼に届く。赤い月って、そうやって見えるんですよね。所詮は錯覚みたいなもんですから。身体の状態に影響されるのかもしれませんね」

「またおまえは、いい加減なことを」
 とん、と突き飛ばすように青木から離れて、薪はひとりで歩き出した。青木はその後ろを、二人分の鞄を持っていそいそと追いかけた。


                  *****



 あんな彼を初めて見た、と私は思いました。

 それは衝撃であり、感動でありました。
 とてつもなく大きな感情の波動が私の背中を震わせ、その弾みで私は再度この世に生まれたと言っても過言ではありません。
 かつての私には、もう戻れませんでした。
 私は暗がりの中で立ち上がり、私の前に新しく伸びる道に向かって一歩踏み出したのです。


              

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緋色の月(1)

 こんにちは。

 ご無沙汰いたしております。
 永らく放置してまして、すみません。 

 まだ旅先なんですけど、どなたかにえぐえぐされちゃったので。
 女の子を泣かせたらあかん、としづの中の男脳がガンガンドーパミンを分泌するものですから、旅先からお送りすることにしました。
 上記を日本語に直すと、『いつまでも怠けてないで、頑張りますっ』 ということですね! 
 


 こちらのお話、書いたのは6月です。 めちゃめちゃ新しいです。 (当ブログ比)
 新鮮、というよりまだ生っぽいです。 食あたりされませんように☆☆☆

 男爵から本編に戻りまして、時は2066年の4月でございます。 恋人同士になって4年目、薪さんのお身体もすっかり熟成されてます。
 お話の内容は、
 Rに始まってRに終わる、青木さんのためにがんばる薪さんです。 (←なんか別の意味に聞こえる。 てか、この話400字詰原稿用紙で160枚あるんだけど、最初から終わりまでRに徹してたらそれもまたスゴイな☆)

 ということで、最初はRです。
 18歳未満の方と苦手な方はご遠慮ください、あ、でも、このシーンがないと話が始まらないし意味がわかんないと思う、うーん、我慢して読んでください。 ←強制!? 





緋色の月(1) プロローグ(1)





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プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
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