ツイート

 こんばんは。

 大晦日のこの時間になっても大掃除が終わらないしづです。 ←事務所、窓しか拭いてない。
 しかも、個人的な年賀状は今日投函したと言う。 なんてまあ段取りの悪い嫁でしょう。 わたしなら絶対にこんな嫁もらわないな。 外したな、オットよ☆


 明日から新年ですが、うちの会社は仕事でございます。
 工業団地の配水管工事で、元日しか断水できないとか。 3日からは工場が動くので、それまでに繋ぎ込みするんですって。
 おそらく1日の夜は夜間工事になるので2日の昼間は爆睡。 よってうちのお正月は2日の夜に来る予定です。 だから、事務所の大掃除は明日やってもいいよね? おせちも明日作ればいいや。 


 と言うことで、年末のご挨拶です。 ←何が「と言うことで」なんだか。

 今年は色々と大変なことがございました。 そんな中、当ブログにお越しいただきましたすべての方に、お礼申し上げます。
 また、様々な事情から更新が滞りがちだった最中、励ましてくださった方々に、心からの感謝を捧げます。 
 それと、幸運にもオフでお会いできた方々、面倒見ていただいてありがとうございました。
 来年も仲良くしてくださいね。(^^


 以上です。
 ……お礼、みじかっ!!

 すみません、言葉が出なくて、ご挨拶とかあんまり得意じゃないので~、(←社会人失格)
 お礼代わりに一昨年の年末、大掃除をしながら思いついたSSを。
 (その前にコメントのお返事を返すべきでは、と思ったんですけど、すみません、まとまった時間が取れなくて……本当にすみませんっ!)


 ツイートは本来「さえずる」という意味なのですけど、この場合はツイッターのツイートで「呟く」という意味です。
 よろしくお願いします。




ツイート




 土曜日、AM9:00

 36回目の寝返りを打った後、拝跪するイスラム教徒のごとくベッドの上に突っ伏して5分、心地よい毛布の温もりと柔らかな枕の誘惑を断腸の思いで振り切って身を起こす。正座の姿勢で更に5分、頭に血液が上がってくるのをじっと待つ。このプロセスを省略すると、低血圧の身体は床に下りた途端、膝が崩れてしまう。
 重い頭のせいで、身体のバランスを取るのに苦労する。起き抜けはいつもこの調子だ。壁やソファの足にぶつかりながらリビングを通りぬけ、まずは風呂のスイッチを入れる。サニタリーの床にうずくまり、湯が沸くまでの10分を待つ間にも眠りそうになる。
 給湯器に「お風呂の用意ができました」と声を掛けられ、びくっとして眼を醒ます。
 ……眠ってた。

 のろのろと寝巻きを脱いで風呂に入る。41度のお湯に身を浸して、はーっとため息を吐く。自堕落にバスタブの背にもたれて、とっぷりとお湯に浸かる。眼を閉じて、血流が脳に行き渡るのを実感し、そこでようやく覚醒する。
 ザバッと湯から上がり、簡単に身体を洗う。シャワーで泡を流した後、もう一度湯船に浸かりたいと思うが、給湯パネルの時刻を見て諦める。

 今日は、彼が来る。




 同日、AM10:00

 朝食を済ませた後、布団を干す。シーツと布団カバーをはがして洗濯機に入れる。自分の枕と、予備の枕をひとつ用意してマットレスの上に並べて干し、リビングへ戻る。
 エプロンの紐をぎゅっと締めて、気合を入れる。ハンディモップを右手に持って腕まくり、「よし」と自分を鼓舞する。
 本棚の上方の埃を落とすことから始まって、机、パソコン、ローテーブル。サイドボードにテレビにソファ。一人暮らしの2LDK、でも生活には様々なものが必要で、そのすべての埃を払おうと思うとけっこう手間が掛かる。

 ソファは特に念入りに拭く。
 このソファには、彼が必ず腰を降ろす。ここに並んで座って、テレビを見たり、コーヒーを飲んだり。同僚の噂話をしたり、次の休みの計画を立てたり、とにかく色んな話をして、笑って、ふざけあって。
 そうこうしているうちに、手が触れたり身体が近付いたりして、キスくらいはしちゃうかも……おっと、掃除掃除。

 掃除機をかける。
 床にものを置くのは嫌いなので、障害物はない。おかげで掃除機のヘッドはすいすい進む。それが済んだら床磨き。平日はモップで拭いてお終いだが、今日は丁寧に雑巾がけをする。裸足で歩いてみれば解るが、モップと雑巾では、床の滑らかさが違う。別に裸足で歩く予定があるわけではないが、あ、でも、もしかしたら裸の背中が触れることになるかも知れ……その事態は回避してみせる、絶対。

 余計なことを考えていたら、床を拭く腕に力が入りすぎた。靴下で歩いたら滑って転ぶくらいにピカピカになって、仕事の質としては合格だけど、明日は筋肉痛確定。




 AM11:00
 次はキッチンの掃除。

 夕食はここで摂る。彼と一緒に作って、二人で食べる。
 四方山話をしながら、冗談を言い合いながら、楽しく料理をする。彼が刻んだ玉ねぎを僕が炒めて、彼が皮を剥いたジャガイモを僕が煮込む。僕が味をつけた肉を彼が焼き、僕が用意した皿に彼が盛り付けをする。そんなふうに、ひとつの料理をふたりで作る。
 
 同じ皿から料理を取り分けて、戯れに相手の皿から肉だけ掠め取ったりして、笑いながら食事をする。ここにテレビはないけれど、彼と一緒に食事をしていて退屈したことはない。彼が食べているのを見ているだけでも楽しい。
 彼はすごく幸せそうに食事をするから、見ているこっちにも幸せが伝わってくるようで。彼が幸せなら僕もしあわ……だから掃除だってば。

 テーブルやシンク、クッキングヒーター周りはもちろん、レンジとかポットとか炊飯器とか、器具の汚れや埃もきちんと拭う。それから冷蔵庫の中の整理も。ダイニングは隅から隅まで清潔にしておきたい。食事をするときに電灯の笠の埃に気付いたら、せっかくの料理が台無しになる。
 ていうか、ダイニングテーブルの上に仰向けにされて、身体を揺すられたときに上から埃が落ちてきたら困……巻き戻しの上訂正。

 腕の痛みが倍増。テーブルを拭きすぎた。





 AM12:00

 食事の次は風呂だ。
 たいていは彼と一緒に入る。背中を流してやったお返しに、髪を洗ってもらったり。お互いの身体を洗いっこすることもある。もちろんふたりとも裸だけど、別にヘンなことにはならない。くすぐったいところをわざと丁寧に洗ったり、湯船のお湯を頭からかけたりして、ケラケラ笑い合うことが多い。

 危ないのは湯船に入っているときだ。
 彼が僕の後ろに座る体勢になるから、彼の手は僕の身体をさわり放題。肩や足を触ってるうちはいいけど、段々に身体の中心に手が伸びてきて。外から触るんならまだしも、内側にまで入り込まれると、もうどうにでもしてくれって感じに……頼むから掃除しようよ、僕。

 窓を開けて換気扇を回し、タイルにカビ取り剤をスプレーする。3分間放置した後、湯船のお湯を再利用して、床や壁の掃除をする。シャワーヘッドやホース、桶や椅子の汚れを落とし、蛇口や鏡もピカピカに磨いておく。水垢専用のクリーナーを使うと面白いくらいに汚れが落ちて、ついつい時間を忘れる。

 壁も床も天井も、眼に入りそうなところは真っ白に仕上げたい。排水溝の奥まで、しっかりと洗浄しておきたい。
 だって、はだかで抱き合ってるときにふと天井の隅のカビが目に付いたり、排水溝から嫌な匂いがすると興ざめ……前二行削除。


 

 寝室の掃除に行く予定を急遽変更。ちょっと気分を変えないと、筋肉痛が腱鞘炎に進行しそうだ。
 玄関とトイレ、クローゼットを掃除する。
 玄関は靴箱の中から三和土の隅々まで、きちんと雑巾をかける。見た目にそれほど汚れていなくても、バケツの水は真っ黒になった。

 トイレの掃除は毎日しているから、今日はタンクの中と壁と電灯に重点を置いた。タンクの中は水垢がびっしりで、黒ずんだ汚れを落とすのに一苦労した。
 さすがに、この空間では思考の暴走はない。玄関やトイレで何をどうしろって、あ、でも、クローゼットは姿見があるから、彼の好きな羞恥プレ……だれか僕の思考を止めてくれ。
 てか、右腕がパンパンに張っちゃったんだけど。






 PM1:00

 寝室の掃除はいかにもヤバそうなんで、(何が、とか突っ込まないのが良識の見せ所だ)先に買い物に出ることにした。昨夜のおかずの残りで簡単に昼食を済ませて、歩いて30分のスーパーマーケットに到着。
 今日は歩きで来たから、カートは使わない。買いすぎ防止のためだ。持って歩けないほどの量を買ってしまったら、帰りの30分は苦行だ。

 いきなりだけど、メインディッシュから選ぶ。野菜や果物の買い置きは家にあるから、足りないのは肉と魚。今日の分だけあればいいのだから、それほどの量にはならないと踏んでの徒歩だ。買い物は計画的に。無駄遣いを防ぐ基本だ。
 肉売り場に行くと、国産牛の特売をやってて、メインはすぐに決まった。自分では肉より魚が好きだけど、彼は肉の方が好……特売だったから! 彼の喜ぶ顔とか、どうでもいいから!!

 でも、ちょっとだけ想像してみる。
 鉄板の上のステーキを見た彼はきっと、「わあ、美味しそうですね!」って子供かおまえは。あんなバカ面、知性の欠片も感じられない、でもバカな子ほどかわいいってのは言い当て妙で、こんな単純なことで喜ぶ彼を見てると抱きしめて頬ずりしたくなるくらい愛おし……買い物っ! 買い物に来たんだ、僕は!!

 買い物カゴの中を見ると、何故か肉のパックが5個も入ってた。誰が食うんだ、こんなにたくさん。まあ、ステーキ肉をステーキ以外の料理に使っちゃいけない決まりもないし、特売だし、って、必要以上に買ったら節約にならない、と考えるそばから浮かぶ彼のリアクション。
『これ、全部食べていいんですか?』(笑顔付) ……いいや、もう。

 予想以上に重くなってしまったから、後は明日のパンだけ買っていこうと思い、パン売り場への通路を通る。途中、オレンジジュースを手にとって、隣に並んでいる牛乳のパックに気付く。
 僕は大の牛乳嫌い、でも彼は牛乳が大好き。
 朝はコーヒーとオレンジジュース、別に彼もそれに文句を言ったことはない。オレンジジュースも好きみたいだし、両方買ったら荷物が重くなる。だからここは、
『あー、風呂上りの牛乳って最高!』(超無邪気な笑顔付) ……1本だけだぞ、1本だけ!

 別に飲んでもいいけど、僕にキスする前には必ず歯を磨いて欲し、ストップ、マイ妄想! 周りに人がいるのに、お願いだから止まって!!

 冷凍食品のコーナーに差し掛かった。
 ハーゲンダッツのアフォガードを探すが、見当たらない。人気が無いのか、取り扱う店が減ったみたいだ。残念。
 彼の好きなクッキー&クリームはある。買って行ってやろうかと思いかけて、でも、帰りは30分も歩かなきゃならないからアイスを買うとドライアイスも必要になって、ますます荷物が重くなる。肉と牛乳で只でさえ重いのに、
『わあ。オレ、このアイス大好きです』(天使みたいな笑顔付) ……仕方ないな、1個だけだぞ。
 早くパンを買って帰ろう。でないと、買い物カゴが二つに増えちゃいそうだ。

 パン売り場がやたらと遠い。
 あ、新発売のこのお菓子、彼が食べたがってた。お、たい焼きのパックがある。そう言えば最近、和菓子の美味しさに目覚めたとかって言ってたような。いや、それなら僕が作ってやったほうが喜ぶかな? 牛乳も買ったことだし、小豆で餡を作って、小麦粉でパンケーキを焼いて挟めば、ドラ焼きもどきが簡単にでき……誰か、僕のこの右手をつかんで、「目を覚ませ!」って怒鳴りつけてくれないかな…………。

 食パンの袋が置かれたのは、牛乳とカップアイスと新発売のチョコレート菓子と小豆の袋の上だった。
 結局帰り道は、両手に大荷物を持って30分の筋力トレーニング。
 ……両腕が痛い。




 PM2:30

 買ってきた食材を冷蔵庫と戸棚にしまう。干しておいた布団を取り込む前に、寝室の掃除をする。
 ベッドシェルフの埃を払い、掃除機をかけ、ベッドの下の埃をよーく掻き出して、モップで拭き取る。繰り返し、何度も拭き取る。
 ……ベッドの上で激しく動いたときに埃が立つと嫌だからだけど、それが何か!?

 布団を取り込んで、乾燥機の中でふんわりと乾いたシーツとカバーを掛ける。お日さまの匂い、すうっと吸い込むと身体の中が温かくなるみたいだ。
 この布団に彼とふたりで包まって、安らかな眠りに就くことを想像する。
 彼の寝顔はとても満ち足りてて、僕の寝顔は、
 なんでだろう、疲労困憊して青白い顔で死んだように寝てるんだけど。どうしてそんな状態になってるんだろう。

 糊を利かせた清潔なシーツを、マットレスとベッドパッドを包むようにかける。ダブルベッドは幅が広くて、皺を作らないようにするには技術がいる。まあ、どうせ眠るまでには色んなモノがついてぐちゃぐちゃになっちゃ……いいだろ、自分で洗濯するんだから! 誰にも迷惑掛けてないだろ!!

 暖まって膨らんだ枕。二つ並べるのは、ちょっと気恥ずかしい。だけど必要なものだし、あ、いや、眠るときは多分、彼の腕で、
 何か文句ある?!
 ベッドシェルフの引き出しを引いて、中の在庫を確認、
 何を確認したかは聞かないでっ! お願いだからもう放っといてっ!

 寝室の掃除完了。
 なんか、ものすごく疲れた……。




 PM3:00

 約束の時間まで、あと1時間。シャワーを使う。
 髪と身体を丁寧に洗う。寝る前には彼と一緒に風呂に入るけど、その前に何かあったら大変だから、って別に期待してるわけじゃないからな!?

 実は、この頃ベッド以外の場所でいきなり始まっちゃうことが多くて、僕としてはすごく困ってるんだけど、それはどうやら彼ばかりが悪いわけじゃないことが分かって、それを拒めない僕にも原因がある、というよりは僕が誘ってるって彼は言い張って、でも僕にはそんなつもりは全然なくて、ただ、彼に求められるのは嫌な気分じゃないから、彼がくれる刺激は決して不快なものじゃないから、身体が勝手に動いちゃうっていうか、本能が理性に勝るっていうか、要するにすっごくキモチイイ……じゃなくて! 念のためだ、念のため。保険みたいなもんだ。

 足を広げて、石鹸を泡立てて、指で丹念に洗って、
 何をって聞かないでねっ! 僕は答えないからねっ!!
 それから指を入れて、奥まできれいにして、
 何処をって聞いたら殴るよ!?

 寝室からこっち、すっごく疲れるんだけど、この心のつぶやき。
 もう、やめていい?




 PM3:30

 リビングで彼を待つ。
 床もサイドボードもピカピカに光ってる。掃除は完璧。夕食の材料も、風呂の備品も、彼の歯ブラシとタオルとパジャマも用意した。
 
 ローテーブルに置いておいた携帯電話が鳴った。きっと彼からだ。時間には少し早いけど、着いたという連絡をくれたのだろう。
 恋人なんだから、玄関のチャイムを鳴らせば中に入れてやるのに。奥ゆかしいやつ。そういうところもかわいいと思……。

 着信の名前を見る。フラップを開き、耳に当てる。
「薪だ。……分かった、すぐ行く」





 PM6:00

「よって、一刻も早い容疑者の確定と被害者の共通点を割り出すことを最重点項目として捜査を進める。以上、各人、分担のデータ検証にかかれ!」
「「「はいっ!」」」
「いいか、この事件の犯人は極悪非道冷酷無比、人として断固許すことの出来ない重罪を犯している。 我々はこの凶行を見逃すわけには行かない」
「「「はいっ!」」」

「細部まで余罪を追及して、二度と太陽を拝めないように、ぜーったいに刑務所にぶち込んでやる、検察に圧力かけて無期懲役にしてやる」
「「「……はい?」」」
「ていうか、取調べは僕がしたい。竹内に頼んで取調室に呼んでもらって、見えないところで骨の2,3本」
「「「……室長?」」」
「あんなに苦労したのに、恥ずかしい思いもたくさんしたのに、こいつのせいで全部水の泡に……ええい、おまえら何やってんだ、さっさと仕事にかかれっ!!!」
「「「は、はーいっ!」」」

「さすが室長。仕事の鬼」
「正義感の塊というか。土曜も日曜も関係ないもんな、見上げた根性だ」
「ていうか、あのひとから仕事取ったら何にも残らないんだろ」
「ほんと、イキイキしてるよなあ。仕事してるときの薪さんて。――――― どうした、青木。なんで捜査始まる前から机の陰に屈んで泣いてるんだ」
「いいんです……デートよりも仕事が優先なのは当たり前ですから」

「青木、女とデートの予定だったらしいぞ」
「青木のくせに生意気だな」
「薪さん、仕事大好きなの知ってますから……オレよりも仕事の方が大事だってことも……でも、あんなにあからさまに生き生きされちゃうと……取調べまで自分の手でやりたいなんて」
「なんだ、その神さまに見捨てられた殉教者みたいな泣きっぷりは。さては今回のドタキャンが原因で、彼女に振られたのか」
「違いますよっ、放っておいてくださいよ! うううう……」

 気になる会話が聞こえてきたけど、今は仕事が最優先。
 でもちょっとだけ。

 泣き顔も、かわいいと思った。





(おしまい)


(2010.1)



 読んでくださってありがとうございました。
 それではみなさま、よいお年を。(^^




テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

今日もジーンは道に迷う

 こんにちは。

 「シングルズ」に於きましては、クリスマス企画とか言いつつ、ぜんっぜんロマンチックじゃなくてすみませんでした。 お読みくださった方にはご承知の通り、完璧にギャグでしたね。 せっかく変えたクリスマス仕様のテンプレートと、話の内容がまったく合いませんでしたからね。

 クリスマスの甘いデートを期待していた方々に、肩透かしの罪滅ぼしといっては何ですが、
 つい最近書きました糖度高め (←あくまでも当ブログ比) の雑文でございます。
 よろしければどうぞ。(^^
 
 
  

 


今日もジーンは道に迷う







 薪とは意見が合わない。
 感じ方も考え方も違う。頭のデキも違うし、年も大分離れているから、そのせいもあるのかもしれない。でも一番の原因はきっと、薪の天邪鬼な性質によるものだと思う。

 例えば、合わせた肌から伝わる熱が互いの体温を奪い合い且つ与え合い、温度を等しくしていくのと同じにその感覚すらも共有していると感じ。相手への愛しさで溺れ死にしそうな気分を味わう、こんなとき。
 青木はいつも思うのだ。
 地球上に生命が誕生したのがおよそ40億年前、気が遠くなるほど長い時流の果て、正にこの時代、この国に生れ落ち、世界の人口75億人の中でたった二人巡り合えた幸運とか、互いにその性癖を持たなかったはずなのに男同士愛し合えた奇蹟とか、これはもう神さまが定めた運命だったと、青木は本気でそう思っているのに。

 青木がそれを言葉にしようものなら、薪は心底呆れ果てた溜息と共にやや乱れた前髪を指で梳き上げて、
「なんかヘンな宗教でも始めたのか」
 それがベッドの中で恋人に言うセリフですか?

 ちょうど一回目が終わって、小休止のピロートークの時間。二回目につなげるためにも愛情を高める会話がしたかったのに、この切り捨て方。薪さんが二度目したくないのは知ってますけど、ちょっとヒドくないですか?

 これで青木は、けっこうなロマンチストだ。もともとドラマティックな恋愛に憧れる傾向があった彼は、薪という恋人を得て、ますますその憧憬を強くした。薪は見た目、ドラマの主演女優が霞んでしまうような麗人だったからだ。
 しかし、それはあくまで見た目だけ。中身はものすごくシビアなひとで、恋に酔うことなんかあり得ない。それもそのはず、彼の中では恋愛はさして重要なものではなく、譬えるなら夏の夜を彩る花火のようなもの。あれば楽しむのはやぶさかではないが、なくても一向に困らない。
 青木は愛する人のいない人生なんか生きる価値もない、とまで思っているが、薪にとって人生の最重要課題は仕事だ。それは青木との数少ない逢瀬の時を狙いすましたかのように掛かってくる所長からの緊急呼び出しに、薪が微塵の躊躇もなく応じる姿に表れている。部屋でのんびり過ごしている時ならまだしも、こうして身体をつなげている最中でさえ一瞬で仕事モードに切り替われるのだから恐れ入る。青木には絶対に無理だ。

「薪さんて、どうしてそんなにドライなんですか?」
 青木の肩に頭を乗せて呼吸を整えていた薪に、いささか尖った青木の声が掛かる。薪は眼を開け、青木の憤慨をいなすように苦笑いした。
「おかしいのはおまえだろ」
 心外だ。熱愛中の恋人に運命を感じる、それの何処がおかしいのだ。
「運命の相手が男って、どう考えてもヘンだ。そんなんがまかり通る世の中だったら、とっくに人類は滅びてる」

 それはあくまで生物学的見地によるものであって、恋愛の教義ではない。恋愛は精神的なものでしょう、と青木が意見を返すと、薪は人を見下す眼になって、
「恋愛感情なんか、遺伝子に組み込まれた信号に過ぎない。感情を伴った生殖行為の方が、そうでない行為よりも成果を上げやすいことは知ってるだろ? いつだったかおまえも言ってた、オーガズムを感じると女性は妊娠しやすくなるって、あれだ。つまり恋愛感情も、種を繁栄に導くために遺伝子が仕掛けた戦略の一つに過ぎないってわけだ」
「だったら、オレが男のあなたに恋をするのはおかしいでしょう? 子孫は望めないわけですから」
「よくそこに気が付いた」

 よしよし、と薪は青木の頭を撫でてくれた。完全に馬鹿にされているのは分かったが、薪の手を払うなんてもったいないことは青木にはできない。プライドなんかとっくに捨てた。

「その通りだ。おまえの遺伝子はエラーを起こしてる」

 断定されて、青木はつむじを曲げる。
 何年も捧げた恋心をタイプミスみたいに言われて、面白いわけがない。命に代えても惜しくないと思うくらいなのに、この気持ちが遺伝子のエラー?

「薪さんが運命論者じゃないのは知ってますけど」
「勘違いするなよ、僕は運命の相手の存在を否定してるわけじゃない。でもそれは異性に限られる、って言ってるんだ」
 恋愛感情さえ種族保存の本能に基づいた遺伝子の為せる業だと考えるなら、運命の相手は必然的に異性になる。理屈は分かるが、青木は納得しない。

「じゃあ、1億歩ほど譲って、オレに運命の女性がいたとしてですね」
「地球二回り半か」
「地球の外周は約4万キロだから1歩を1mに換算すると譲った距離は地球二回り半、ってそういう意味で言ったんじゃないですっ!」
 日本語って難しい!

「嫉妬してくれないんですか? その女性に」
 薪の小さな頬を手で包んで彼の顔を覗き込むと、薪は森の奥の湖面のように澄んだ瞳をしていた。先刻からの薪の言葉は、青木をからかっているわけでも意地悪を言っているわけでもない、本気でそう思っているのだと分かって、青木の背中を冷たいものが駆け下りる。
 自分は薪以外の人なんか考えられないのに、薪はそうではないのだろうか。何度抱き合っても、それは一時の感情。そんな風に思っているのだろうか。

「オレは、薪さんに自分以外に運命の相手がいると思ったら、ものすごく悲しいです。悲しくて、腹立たしい。薪さんは違うんですか?」
「悲しくもないし、腹も立たないけど」
「どうしてですか!?」
 訊いたけれど、聞きたくないと思った。
 薪がさらりと答えるものだから思わず尋ねてしまったけれど、理由は分かってる。分かっているから聞きたくない。しばらく聞かなかった薪の得意のセリフ、『おまえが望むなら、いつでも別れてやる』。できれば二度と聞きたくなかったのに、一緒に暮らし始めてからは聞かされたことはなかったのに。不用意な質問を悔いてももう遅い。
 薪の唇が開くのを見て覚悟して、だけど青木の耳に届いたのは、聞き慣れた薪の憎まれ口ではなく、初めて聞く言葉だった。

「だって、僕が勝つから」

 勝ち負けの意味が分からなくて、青木はぱちくりと目を瞬く。青木の闇色の瞳の中、鱗粉を纏ったように仄かな輝きをもって、薪は傲慢に言い放った。
「世界中の女性を集めて、一人一人おまえに引き合わせたとしよう。その中には絶対に、おまえの運命の女性も混じってるはずだ。それでも、おまえは僕を選ぶに決まってる。
 何処の誰だか知らないけど、おまえの運命の女性に僕は勝った。そういうことだろ?」
 分かりきったことを訊くな、というように、薪の顔つきは普段通りの澄まし顔。驚きに瞬く青木の黒い瞳を自分の瞳で縫いとめて、余裕の確認作業に掛かる。
「ちがうのか?」
「いえ、違いません」

 運命より強い何かで。
 自分は彼に愛されている。

 人生に於いて恋愛感情などさして重要ではない、まったく重要ではないと繰り返す彼の愛はきっと、もっと大きな何か。地球規模だか宇宙レベルだか、それは青木には想像もつかないほど大きな何か。
 薪への恋愛感情に囚われているうちは永遠に見えてこないであろう彼の真意は、決して複雑でもなく屈折してもいない。彼の曲がりくねった性格とは対照的に、それはそれはイノセンスな波動。

 絶対的な信頼と一欠片の疑念もない未来観。
 相手を信じるって、こういうことじゃないのか。

「薪さん」
 青木はやにわに薪を抱き寄せ、腕の中に閉じ込めた。唐突な拘束にもがく細い身体を更なる強さで封じ込め、やがて諦めた薪が青木の背中に腕を回してくるのを心地よく感じる。
 薪が自分に預けてくれた信頼が、どんな愛の言葉よりも嬉しい。

「薪さんも同じですよね」
 腕を緩めて、薪に自由を返し、青木は彼の肩に手を乗せた。この方が、薪の顔がよく見える。
「世界中の女性を集めて、その一人一人と会ったとして、それでもオレを選んでくれますよね?」
 分かりきっている答えを聞きたがる青木を、見上げた薪の顔は意地悪そうな笑い顔。嫌な予感がする。

「さあ。それはどうかな?」
 裏切られて呻く青木に、ははは、と笑って薪はベッドから抜け出した。




(おしまい)


(2011.11)



 あれっ、やっぱり甘くならない……?
 いいやもう。 早いとこテンプレ戻そう。(笑)

テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

シングルズ(5)

シングルズ(5)





「おかしい。絶対におかしい」
「俺もだ。不思議で堪らない」
 モニターに映った車のナンバー部分を拡大し、プリントボタンを押しながら、小池と曽我は何度も首を捻っていた。
 さすがは科警研随一のエリート集団、法医第九研究室だ。クリスマスイブ、それもあと1時間で日付も変わるという時刻に、こんなに仕事熱心な人材が二人もいるとは。常日頃から『職務には120%の力を注げ』と室長に指導されているだけのことはある。

「「山本があんな美人と結婚できるなんて」」
 …………他人を導くのは難しい。

「実は彼女はむかし犯罪に手を染めたことがあって、たまたまその事件を担当した山本が、求刑の軽減を条件に彼女に結婚を迫ったとか」
 常日頃から『最大限に想像力を働かせろ』と室長から、以下略。
「ある! ありうる、そんなことやってそうな顔だよ、あいつは!」
「前科者が検事の妻になれるはずがないだろう」
「あ、そっか。じゃ、隠蔽だ。握りつぶして不起訴にしちゃったんだ」
「くっそ、俺も検事になればよかった! そうすりゃ今ごろ」
「世の中は美人の犯罪者で溢れかえってるな」
「「あははは……室長!?」」
 あまりにも自然に話に加わってきたものだから、ひとり増えたのに気付かなかった。無駄話をしていても、眼はモニターに据えられたままの第九の仕事では、よくこんなことが起こる。

「どうしたんですか、こんな時間に」
「ピザだけじゃ、腹が減っただろうと思ってな」
 大きい手提げ袋から次々に出てくるタッパーには、何種類もの料理。魚介のテリーヌを載せたブルスケッタ、サーモンとホタテと野菜のカルパッチョ、玉ねぎとミートボールのスープにメインのラムロースト、更にはデザートのブッシュ・ド・ノエルまである。

「「うわあ、すごい!!」」
 小池と曽我は、飛びつくように料理が置かれた机に寄り、前菜のブルスケッタを口に入れた。それから給湯室に、メインディッシュとスープを温めに行く。電子レンジを購入してもらっておいてよかった。最もあのときは、素直に喜べなかったが。
 捜査中の第九職員は、昼休みもロクに取れない。職員食堂に足を運んでいる暇はないから、売店の冷たい弁当で我慢するしかない。夏場はともかく、冬は温かいごはんが食べたいです、と室長に頼んだら、電子レンジを入れてくれた。そういう意味じゃない、とそのときは思ったが、あればあったで役に立つものだ。

「「めちゃめちゃ美味しいですっ!」」
 嬉しそうに割り箸でクリスマス料理をつつく二人を横目に、薪は彼らがまとめていた報告書にざっと目を走らせる。ヤケクソで仕事をしているから荒さが目立つかと思いきや、そんな様子は何処にもない。いかなる心境でもクオリティの高い仕事をする、そんな彼らに薪は誇らしさを覚える。
 当然だ。こいつらは、僕が育てた部下だ。

「このラムロースト、やわらかくて、バジルソースがサイコー!」
「ああ~、熱いスープが五臓六腑に染み渡るっ」
 真夜中近いというのに、旺盛な食欲を見せる部下たちを微笑ましく思いながら、薪はスープをマグカップで飲む。夕飯に作った玉ねぎのファルシーのアレンジだが、けっこういける。
「これ、いつもの総菜屋さんですか? 室長のご自宅の近くの?」
「そうだ」
 小池の問いかけに、薪は平然と頷いた。休日出勤の褒美にと、今まで何回も差し入れは持ってきているが、総菜屋から買ってきた、というウソを貫いている。
 料理は薪の趣味の一つだが、男らしいとはお世辞にも言えない。男の中の男を自称している薪には、なるべくなら他人に知られたくない側面なのだ。

「総菜屋さんて、今頃までやってるんですか?」
「――――― っほ、ごほっ! い、イブは、特別営業でなっ!」
「うわあ、ラッキーだったなあ。聞いてくださいよ、青木のやつ、夜食買って来てくれって頼んだのに、デリバリーのピザでバックレ……あれ?
 なんで室長、俺たちの夕食がピザだけだって分かったんですか?」
「!!! そ、それはそのっ、えっと、つまり……け、刑事のカンだ!」
「「へええ」」
 二人の尊敬の眼差しに、心がチクチクと痛むのをやり過ごし、薪はケーキを箱から取り出した。

 ノエル1本は、3人では余ってしまうだろう。青木に出してやればよかったか、と思うが、甘いもの好きの青木のことだから全部ひとりで食べてしまうかもしれないし、残っても「残りはどこへ?」と聞かれるに違いない。食い意地の強さは誰にも負けない男だ。
 適当な大きさに切り分けようと薪が包丁を構えたとき、
「あ――――っ!! 待ってくださいっ!」
 予期せぬ大声に、包丁を取り落としそうになる。意識して右手に力を込めて、薪は入口を見やった。聞き間違えかと思ったが、そうではなかった。やはり、彼だ。
 自宅のベッドで眠っていたはずの大男が、そこに立っていた。手にはコンビニの袋を持っている。

「青木。どうしたんだ、今頃」
「ただいま買出しから戻りましたっ!」
「「ウソを吐け!!」」
 ウソもここまでくると立派な冗談になる。

「すみません、さっき友人たちとのパーティが終わったところでして……これ、お詫びのアイスクリームです」
「おお、気が利くな。冷たいものが欲しかったところなんだよ」
「許してもらえますか?」
 恐る恐るといった口調でカップアイスを机に並べる青木に、小池は笑って、
「いいよ。おまえが手を抜いたおかげで、こんなに美味しいクリスマス料理が食べられたんだし」
「そうだな。いつもの勢いでとんかつ弁当とか食ってたら、この時間に腹が減らなかったかもな」
「曽我、おまえと青木は大丈夫だろ。なに食っても2時間で消化するじゃないか」
 第九で一二を争う大食漢二人に、小池が放ったきつい一言に、皆は笑い、薪も笑った。

「それとですね、ケーキを切る前に。これ」
「なんだ?」
 青木が差し出したのは、4本の蝋燭だった。長さは15センチほど、普通の蝋燭よりずっと細く、カラフルな色がついている。
「コンビニのケーキ売り場に、『ご自由にお取りください』て書いてあったんで、もらってきたんですけど。ちょうどケーキもあるみたいだし。
 薪さん、今日お誕生日ですよね。おめでとうございます」
「え。そうなんですか?」
「なんだ、曽我。知らなかったのか?」
「小池は知ってたのか?」
「当たり前だろ」と小池は答えたが、薪はそれは違うと思った。

 上司の誕生日を覚えることは、職務に含まれていない。薪は上司として、万が一に備えて部下全員の生年月日と血液型を把握しているが、部下のこいつらにその義務は無い。
「すいません、薪さん。でも、俺も今覚えましたから。もう忘れません」
 そう言ってやろうとしたのに、3人の部下たちがあまりにも自然に笑うものだから。職務や義務を引き合いに出そうとした自分が、薪は何だか恥ずかしくなる。

「……そんな下らないことを保管しておくスペースが頭の中にあるなら、MRIシステムのバックアップの手順でも覚えたらどうなんだ、曽我。毎回毎回、ポートを保存するのを忘れるのは、あれは何か、わざとやってるのか?」
「照れなくていいですから、ほら薪さん」
「てれ……! だ、だれがっ!!」
 蝋燭の立てられたケーキが薪の前に置かれ、モニタールームの明かりを消すために、青木が壁へと歩いていく。小池が応接室から持ってきた卓上ライターで蝋燭に火を灯したのを確認して、青木はスイッチを押した。

 部屋の照明がすべて消えると、一瞬視界を奪われる。ぼうっと光るのは小池のデスクのモニターの灯りと、ケーキの上に立てられた4本のろうそくの、ゆらゆらと揺らめく焔。頼りなく、不確かで、でも見る者の心を温めてくれる。

「一息で吹き消してくださいね」
「こ、子供じゃあるまいし、こんな真似」
「薪さん、早くしてください。ロウが溶けてケーキに着いちゃいます。せっかくのケーキがダメになっちゃいますよ」
 仕方なく薪は息を吸って、ふっと蝋燭の火を吹き消した。複数の拍手が響く中、蛍光灯の白い光が室内を再び照らし出す。
「「「おめでとうございます!」」」
「だから、僕はもう誕生日が嬉しい年じゃ」
 視界を取り戻した亜麻色の瞳には、何がそんなに嬉しいのか満面の笑顔で上司を見ている3人の部下の姿が映る。ボーナスが出たときみたいに浮き浮きした顔をして、合コンの計画がまとまったときのようにはしゃいでいる。
 それを彼らの純然たる好意と受け取れないのは、薪の悲しいクセだ。
 上司と部下の間には、利害が絡むものだ。彼らの人事考課やボーナス査定も、薪の胸先三寸に掛かっている。だから、部下である彼らは自分には逆らわないし、よっぽどのことがなければ機嫌を損ねるような行動も取らない。それを計算高いとかいやらしいなどと考えるのは間違いだが、鵜呑みにして喜ぶのも愚かなことだと―――――。

「…………ありがとう」
 薪は途中で自分の思考を止めた。止めて、礼を言った。
 鵜呑みにするのは愚かなことかも知れないが、こんな風に考えるのはもっと下らないと思ったから。

 薪が照れ臭そうに言い慣れない言葉を口にすると、お調子者の曽我が立ち上がって、
「薪さん、俺、そのチョコレートプレートのところがいいです!」
「俺にはイチゴの飾りのあるところを下さい」
「じゃあ、残りは全部オレが引き受けますねっ」
「……僕の分は?」
「「「はい、ローソク」」」
 なんて美しいコンビネーションだ、こいつら。
「きれいにハモりやがって。僕の誕生日なんだからなっ、これは全部僕が食う!」
 ぎゃあぎゃあ喚きながらゲラゲラ笑いながら、薪が適当な大きさにケーキを切り出すと、青木はコーヒーを淹れに席を立つ。しばらく待っても帰ってこないところを見ると、さすがは第九のバリスタ、インスタントで済ませるつもりはないようだ。

 食事の続きに戻った小池たちを置いて、薪は給湯室へ向かう。薪はコーヒーを淹れるときの、あの馨しい香りが大好きだ。この機会を逃す手はない。
「青木。ゆっくりでいいぞ。曽我たちはまだ、料理を食べてるから」
「はい」
 狭い給湯室、クッキングヒーターの前に並んで立って、お湯が沸くのをじっと待つ。細く窄まった薬缶の口から白い蒸気が上がってきて、その時が近づいたことを知らせる。ミル挽きしたコーヒーのいい匂いが部屋中に広がって、真夜中には相応しくない飲み物の、しかしこの強烈な誘惑にはどうしても逆らえない。

「……何故わかった?」
 コーヒーフィルターをドリッパーにセットしている青木に、薪は訊いた。
「僕がここに来るつもりだったって、おまえ、最初から分かってただろ。だからその、今日は……あ、アッサリ済ませてくれたっていうか」
 丁寧に動く大きな手が、ミルからコーヒーをドリッパーに移し、トントンと叩いて表面を平らにする。シュンシュン言う薬缶を濡れ布巾の上に置いて、待つこと1分。
 薬缶の中のお湯の温度は約90℃。ドリップ作業の開始だ。

「料理が」
 大きな手が薬缶を取り上げ、粉の中心に、細くゆっくりとお湯を落していく。ふわあっと広がる、強い香気。
「キッチンに残った匂いと、料理の内容が合わなかったから」
「匂い? そんなに強く匂ったか?」
「オレ、鼻が利くんです。ラムローストの香草の香とか、カルパッチョのビネガーの匂いとか、生クリームのバニラの匂いとか。なのに、それを使った料理が無かったから。きっと何かの理由で取り分けてるんだと思いました」
 粉が丸く膨らんできたら、手を止める。腕時計の秒針を確認し、30秒後に再びお湯を注ぎ始める。

「周到なあなたのことですから、予定外のことでもなければ当日の分から取り分けるなんてことはしない。だから、突発的に差し入れたい相手ができたんだなって」
 サーバーにコーヒーが落ち始めたのを確認して、青木は手の動きを大きくする。やや大きめの『の』の字を書くように、しかし決して縁には掛からぬように細心の注意を払って、粉をムース状に保つよう努める。
「小池さんと曽我さんしか、考え付きませんでした」
 サーバーにコーヒーが大分落ちて、青木は落す湯量を増やす。目的の目盛りまで抽出液が到達するのを待って、サッとドリッパーを外した。

 サーバーを持ち上げて一言、
「一応、言っておきますけど。オレは、ワインを飲んでも眠くなったりしませんから」
 ……やっぱりタヌキ寝入りか。食えないやつだ。
 不自然だと思ってはいたのだ。飲み慣れないとはいえ、あれぐらいのワインで青木が寝入ってしまうなんて。

「どうしてそんな」
「だって。薪さん、オレが起きてたら気兼ねして出られなかったでしょ。オレがどんなにあなたと過ごす夜を楽しみにしてるか、ちゃんと分かってくれてるから」
 お湯を注いで温めておいたコーヒーカップに、静かにコーヒーを注ぎ分ける。4人分のコーヒーを注ぎ終わったところで、青木はふっと苦く微笑んだ。

「でも、ホント言うと、ちょっと寂しかったです」
 空になったコーヒーサーバーを水に浸け、コーヒーを運ぶための盆を用意しながら、
「『今日じゃなくてもよかった』って言われたことも、小池さんたちに差し入れに行きたいって話してくれなかったことも。薪さんが他人に気を使う性格なのは、もう解ってますけど。オレには遠慮しないで、何でも言って欲しいです」
「それは助かる。じゃあ、赤十字は半年に1ぺんてことで」
「……そう来ますか」
 
 薪は日付には拘らない。クリスマスも誕生日も正月も同じ1日24時間、世界は廻り、いつもと変わらぬ日常が重なっていくだけだ。
 だけど、やっぱりそこにはある種の魔法が存在するのかもしれない、と絶望に打ちのめされた青木のベソかき顔を見ながら、薪は思う。そうでもなければ、いま薪の感情のすべてを支配している、飛び跳ねたくなるようなこの嬉しさは説明がつかない。
 青木を苛めるのは楽しいし、彼の淹れたコーヒーを飲めるのも嬉しいが、これはそんなレベルの嬉しさじゃない。何年経ってもこの日のことを思い出せば、またこの感覚が取り戻せる、永久に霞まない喜びのメモリィ。そんなものはありえないと分かって、でもどうしても今だけはそれを信じたくて、薪は口を開いた。

「気を使ったわけじゃない」
 盆の上から自分のコーヒーを取り、薪はその香りに眼を細める。行儀悪く立ったままでカップを傾け、一口含んで幸せそうに頬をほころばせる。
「本当に、今日じゃなくてもかまわなかった。僕は」
 くるっと身体を反転させ、細い背中を見せて薪は言った。
「僕はおまえさえいてくれれば、日付なんかどうだって」

「「青木、コーヒーまだかー?」」
 薪の声に重なるように聞こえてきた二人の声に、青木は薪の言葉を聞き逃し、薪は自分を取り戻す。
 あぶないあぶない、またもやクリスマスマジックに引っかかるところだった。

「はーい、今お持ちします」
 盆を持って給湯室を出ようとした青木に一歩先んじて、薪は歩き出した。薪の耳元で、青木がそっと囁く。
「薪さん、すみません。今、『おまえさえ』の後、なんて?」
「おまえみたいな冴えない男に祝ってもらったって、嬉しくも何ともない、って言ったんだ。かわいい女の子がいい。深田○子似の。僕を喜ばせたかったら、どっかから調達して来い」
「……また、脇田課長にでも頼みますか」
 虚ろな目をして組対5課の課長へのお願いを提案した青木を、薪は横目で見てにやりと笑う。
 薪の顔の高さで、盆に載った3つのコーヒーカップから漂う湿った香気が、不発に終わった魔法の残骸のように揺らめいた。




(おしまい)




(2010.12)



 クリスマス企画のクセに、ぜんぜん甘くなかったですね。 しかもこれ、クリスマスと言うよりは誕生日ネタだし。 ←テンプレ、変えた意味ない。
 まあ、無理ないよ。 結婚して15年、クリスマスは毎年仕事というわたしが書いたんだもん。
 今年だって、世は3連休でクリスマスイルミが何とか、レストランの予約がどうとか言ってるのに、ずーっとパソに向かって下水道管がどうのマンホールがこうのって、しかも農集の設計書、見るのめんどくさっ!! 300Pもある数量計算書、一枚一枚めくってたら年が明けるわ!!

 ……『みんな一緒に不幸になればいい』 ←やがて自分に還る呪詛。 


 ところで、
 メロディ発売まで、あと3日ですね♪
 カレンダー、楽しみだなあ。 早く続きが読みたいなあ。


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シングルズ(4)

 メリークリスマス。
 みなさま、素敵なイブを過ごされますように。(^^





シングルズ(4)




 右手でドアを開き、客人を玄関に招き入れてもなお、薪は驚きに跳ねる心臓を落ち着かせることができなかった。
 それは、扉を閉めて外界と遮断された瞬間に薪を抱きすくめた彼の腕の強さのせいかもしれなかったし、摺り寄せられた頬の冷たさのせいかもしれなかった。そして、その冷たさに慣れても一向にドキドキが治まらないのは、首筋に掛かる彼の熱い吐息のせいか。

「お誕生日、おめでとうございます」
『消えもの』なら受け取ってもいい、と以前言った薪の言葉を憶えていたのか、青木は白いカサブランカの花束を差し出した。両腕で抱き取って、その清冽な芳香に眼を細めながらも薪は、彼特有の甘ったるい憎まれ口を叩く。
「子供じゃあるまいし。誕生日が嬉しい年でもない」
 胸中はトランポリンの上を歩くような心地でも、言葉と声音は平静を装える。鉄壁のポーカーフェイスは恋愛における自分の最大の武器だと、薪は本気で思っている。

「あの二人が、よく解放してくれたな?」
「夜食を買いに行くって言って外に出て、ピザ屋にデリバリーを頼んで、そのままバックレちゃいました」
「……おまえ、明日大変な目に遭わされるんじゃないのか」
「いいんです。だって、今日は薪さんの誕生日で」
「別に、今日じゃなくてもよかったのに」
 誕生日だとかクリスマスイブだとか、そんなものに特別を感じる感性は、薪にはない。だが、青木はやたらとこういうことには拘って、誕生日を祝うのは当日でないと意味がないとさえ考えているようだった。
 何年前だったか、夜中の12時の5分前に薪の自宅までプレゼントを持ってきたことがあった。その時の青木は「間に合った!」と息を弾ませて笑っていたが、薪には何が間に合ったのか、意味がよく分からなかった。電車の発車時刻でもあるまいに、自分は何処にも行ったりしない。明日、職場で渡しても同じだろう、と言うと、青木はがっくりと肩を落として帰っていった。

 気のない口調の薪に対し、青木はにっこりと笑って、
「オレがお祝いしたかったんです。迷惑ですか?」
 ……くっそ、この顔はアレだ、僕が本当はすごく嬉しがってることを見通している顔だ。年下のクセに余裕こきやがって、後でオボエテロ。

 だけど、『今日じゃなくてもいい』というのは薪の本心だ。
 自分の誕生日を憶えていてくれて、お祝いしてくれる誰かがいる、それはもちろん嬉しいことだけれど。
 こいつがいれば、僕はいつだって嬉しい。
 
 そんな想いを決して声には滲ませず、薪はぷいとそっぽを向くと、素っ気無さに輪をかけて吐き捨てた。
「メシはまだ出来てないぞ。食いたけりゃ手伝え」
 はい、と元気な返事が後ろからついてくる。薪が花束を花瓶に活ける間に青木は手を洗い、薪の家に置いてある自分専用のエプロンを着けて、キッチンを覗き込んだ。
「わあ、おいしそう!」という歓声が、リビングにまで聞こえてくる。食い物のことでそんなに喜べるなんて、単純なヤツだ。
 ダイニングテーブルの上に並べてあるのは、オードブル代わりのブルスケッタ。チーズとトマトとバジルでシンプルだけど彩りよく作った。それと定番のミモザサラダ。とろ火に掛けられた鍋の中には、玉ねぎのファルシー。青木の好きなトマトソースでじっくりと煮込み、味を染み込ませてある。
 オーブンの中のチキンは、あと10分で焼きあがる。青木の仕事は皿を用意することくらいだ。

 薪はキッチンへ戻り、冷蔵庫の中から赤ワインを取り出した。赤ワインは16℃くらいで飲むのが正しいそうだが、何となく冷たいほうが美味い気がする。冷やしすぎると渋くなると言うけど、生ぬるい液体が喉を通る、あの感覚の方が許せないと思うのは自分だけだろうか。
 オープナーで瓶の口のラベルを切っていると、青木がワイングラスを持ってきた。
「ここで赤ワイン飲むの、初めてじゃないですか?」
 実は薪も青木も、ワインはあまり好きではない。薪は日本酒党だし、青木はビール党だ。でも、やっぱり今日くらいは。
 特別な相手と、イヴに相応しい飲み物で。この夜を祝いたい。

「居酒屋でビールの方が良かったか?」
「吟醸酒じゃなくて、良かったんですか?」
 お互い同じことを思っているのが分かっていて、だけど言葉はふたりの間をつむじ風のようにくるくる回る。
「あ、そうか。お子さまはアレだ、シャン○リー」
「薪さんこそ。リカーショップの店員に、年齢確認されてたくせに……痛ッ!」
 普通のスリッパでははみ出してしまう大きな足を、小さな踵がバン!と踏む。冷たい瞳でひと睨みすれば、青木は薪のご機嫌を取るように笑って、ワイングラスを彼の手に持たせた。

 かちりとグラスを触れ合わせて、赤い果実酒を口に含んだところで、オーブンから焼き上がりのメロディが流れた。キッチンミトンをつけた青木がオーブンからチキンを取り出し、嬉しそうに頬をほころばせる。周りをパプリカとブロッコリとトマトで飾った大皿が既に用意されていて、青木はその美しい彩りを崩さないよう慎重にチキンを盛り付けた。
 一緒に席に着いて、「いただきます」と手を合わせる。四方山話に花を咲かせながら、いつものように楽しく食事をする。
「すごいですね。丸ごとの鳥なんて」
「腿肉のほうが食べやすいんだけどな。量もちょうどいいし。まあ、おまえなら食べきるだろ」
「ええ~、いくらオレでも無理ですよ。他にも料理があるのに」
「と言いつつ、なんで僕の皿からチキンを奪う?」
「なんか人のって、美味しそうに見えるんですよね」
「そーかそーか、じゃあこの人参スティックも美味そうに見えるんだな? 5本くらいまとめて行っとくか?」

 美味しい料理と弾む会話、応酬される軽口とジョーク。ほらやっぱり、と薪は思う。
 今日が何の日だって、関係ない。青木がいれば、13日の金曜日に仏滅がブッキングしても楽しい。

 ぎゅっと眉をしかめた青木の口に、親鳥よろしく人参スティックを差し込みながら、薪は意地悪そうに微笑んだ。



*****




 隣に寝ている男を起こさないように、薪はそうっとベッドから抜け出した。
 手探りでパジャマの上着をはおり、裸足で冷たい床に立つと、チカチカしている携帯電話の充電器の灯りを目印に本棚まで歩く。
 
 いつ仕事の連絡が入るか分からないから携帯はベッドシェルフに置いておきたいのだが、「あのときだけは、携帯はベッドから2m以上離れた場所に置いてください」と青木が必死になって頼むものだから、仕方なくそうしている。
「電話が何メートル離れていても、着信があれば中断するぞ?」と薪が言うと、「あの状態(身体をつなげた状態)で応答されるのがイヤなんです」と言われた。おまえがさっさと抜けばいいだけの話だろう、と言ったら泣かれた。面倒なやつだ。

 携帯のフラップを開いて、時刻を確認する。午後10時20分。
 まだ眠ってしまうには早い時間だが、飲み慣れない種類のアルコールを摂取したせいか、青木はぐっすりと寝入っている。特別な夜だと張り切っていた割には、セックスもしごくあっさりしたものだったし。
 薪には好都合だ。おかげで予定通り出掛けられる。
 これから夜のデートには赤ワインを用意しよう、と薪は思い、次の朝、目覚めて自分の不甲斐なさを呪う青木の姿を想像して、くすりと笑った。

 忍び足でクローゼットに入って、ワイシャツとネクタイを手に取り、少し迷ってネクタイは元に戻した。いつものダークスーツを着て、カシミヤのコートを手に持ち、薪は部屋を出た。




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シングルズ(3)

シングルズ(3)





 山本の姿が見えなくなってからも上手く怒りを収められずにいた岡部は、それでもズボンのポケットに入った携帯の着信に気付いた。
 身体の力を抜き、携帯のフラップを開ける。着信メールを確認した途端、現金なことに彼の顔は、先刻の怒りが嘘のように穏やかなものへと変化する。
「すみません、室長。俺も帰っていいですか? お袋と約束があって」
 
 岡部は母親との二人暮らし。親孝行の彼は、母親をとても大事にしている。
 この年になって母親と二人で食事に行ったり、買い物に付き合ったりするのはマザコン扱いされかねないが、彼の場合はその外見と質実剛健たる実績が見事にそれを許さない。硬派の彼が女性にデレデレする姿すら想像できないのに、ましてや相手が母親ともなれば、それは尊敬の対象にしかならない。

「岡部さんのお母さんは幸せですね。こんな親孝行な息子、何処にもいないですよ」
「俺も少し、見習わなきゃなあ。たまには田舎の母ちゃんに、クリスマスプレゼントくらい贈ってやるか」
 感心した口調で小池と曽我が岡部の美徳を讃えると、岡部は複雑そうな顔になって、しかし取り立てて反論はせずに帰り支度を始めた。そんな岡部を、薪が妙にニヤついた顔をして見ているのを不思議に思った青木が首を傾げたが、やはり何も言わずに口を結んだ。

「すいません、室長。俺も帰ります。今、ネトゲ仲間からイベントの誘いが来て」
 素早く返信メールを打ちながら、宇野が朗らかに言った。彼の私物のノートパソコンには、イベントの内容だろうか、ゲームキャラクターの格好をしてケーキを食べている人々の姿が映っている。ちょっと普通の人間には入れない雰囲気だ。

 母親に、ネトゲ友だち。
 どちらも歯軋りするほど羨ましい相手ではないが、自分たちより幸せなことに変わりはなかった。が、先刻のように表立った妨害工作はできない。岡部には逆らいたくないし、宇野に到ってはゲームオタクのイベント。そんなものまで羨んだら、自分がミジメすぎる。
 ただ、やはり取り残される寂寥感はわだかまって、二人の姿が執務室から消えた後、小池は誰にともなく叫んだ。
「ちくしょーっ!! 今日は徹夜で書類整理だっ!!」
「分かる、おまえの気持ちすごくよく分かるよ、小池!男は仕事に生きてナンボだよな。俺も付き合うからな」
 仕事の上でもこの二人は実にいいコンビだが、漫才をやらせたら研究所内で右に出るものはいないに違いない。

「さて、僕も帰るぞ。後はよろしくな」
 黒いカシミヤのコートを着た薪は、机に置いた鞄を小脇に抱えた。小池と曽我は、声を揃えて頭を下げる。
「お疲れさまでした!」
 さすがに、室長を引き留める気はない。それに、どうせこの人は家に帰っても独りだし。
 と、思っているのはこの部屋の中では2名だけ。
 恋人たちが愛を語り合う聖なる夜、薪も当然、秘密の恋人と約束している。ちらりと彼に眼を走らせれば、すぐに返ってくるアイコンタクト。

 ――――― 家で待ってるから。
 ――――― はい。
 ――――― ……なるべく、早く来い。
 ――――― はい!

 彼の黒い瞳が四角いレンズの向こう側で熱っぽく輝くのを視認して、薪は出口に向かって歩き出した。
 彼とのことは、誰にも明かせないトップシークレット。自分たちを取り巻く環境の厳しさを思うと疼くような切なさが込み上げるが、それは今宵に限ってはとても甘く。やはりクリスマスイブには、恋するものだけが掛かるある種の魔法があるらしい。

「青木、夜食買って来い」
「あ、はい」
 篭城を決め込んだ二人が、後輩の青木に買出しを命じる。こんな寒い日に可哀相だと思うが、これも後輩の務めだ。だから薪は何も言わない。
 代わりに薪は、自宅の冷蔵庫の中にいっぱいに詰まっている下拵え済みの材料にどの順番に火を入れるべきか、頭の中でタイムスケールを組み立てる。青木が買い物に要する時間を勘案して、待たせず焦らさずアツアツの料理を食べさせてやりたい。

「夜食だけ用意したら、今日は帰らせてもらえますか?」
「……おまえまで俺たちを裏切るのか!!」
 後ろから聞こえてきた小池の激しい声に、薪は足を止めた。
 給湯室の戸締りを確認する振りをして、薪は出口から遠ざかる。地獄耳と陰口を叩かれることすらある高性能の聴覚をフルに発揮して、彼らの会話に聞き耳を立てた。

「ヒマなんだろ?おまえも付き合えよ」
「えっ……いや、あの、それはちょっと……」
 まずい。青木は頼まれるとイヤと言えない性格だ。同情心も強いし、こいつらに押されて今夜のデートはおじゃんという可能性も出てきたぞ。
 他の日ならともかく、今日は僕の誕生日だぞ? 気合入れろよ、青木。

「彼女か!? 彼女できたのか!?」
「い、いや、彼女はいませんけど。その、友人と約束があって」
 よし、いいぞ。頑張れ。
「友人? 友人と俺たちと、どっちが大切なんだ?」
「そ、それは、まあ……」
 そこで口ごもるからダメなんだ、おまえは! 切るならスパッと切れ!
「先週の水曜日も友達と約束があるって、メンテ当番代わってやっただろ? 代わりに、土曜と水曜以外ならいつでも当番代わってくれるって言ったじゃないか。今日は火曜日だぞ? 当番だと思えばいい」
「うっ……」
 そんな屁理屈にやり込められてどうするんだ! それでも幹部候補生か、おまえは!
「安心しろ。おまえが寂しくないよう、俺たちが朝まで付き合ってやるから」
「……ありがとうございます……」
 ダメだ、こいつは。

 今度こそ呆れ果てて、薪はモニタールームを後にした。
 外に出ると、突き刺すような冷気が襲ってくる。この寒さでは、いつものトレンチでは荷が重い。カシミヤのコートにして良かった。
 まだ時刻は5時を回ったばかりなのに、辺りはすっかりモノトーンの世界だった。1年に1度の特別な夜、ここが霞ヶ関でなかったら、通りは華やかなイルミネーションに彩られていただろうに。

 無機質な風景に寂しさを感じることも無く、薪はポケットに両手を入れて、駅までの道のりを辿る。家路を急ぐ人の群れに混じり、寒さに肩を竦めながら、彼は先刻の部下たちのやり取りを思い出している。
 まったく、ふざけた連中だ。揃いも揃って、バカばっかりだ。面倒見切れん。
 中でもダントツは、やっぱり青木だ。1ヶ月も前から何度も何度も予定を確認してくるほど、今日の日を楽しみにしていたくせに。

 泣き出しそうだった青木の声を思い出して、薪は心の中で笑いながら駅の自動開札を抜けた。



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シングルズ(2)

シングルズ(2)





「帰りたくないのか?おまえらにだって、イブの予定くらいあるだろう」

 そんなのありません、と一様に首を振る一部の部下たちに、薪は大きな瞳の虹彩を小さく引き絞って、
「ないのか?」と繰り返した。
「だって、俺たち恋人もいないし」
「年中、約束を違えてるものだから、誘ってくれる友人もいなくなっちゃったし」
「家に帰っても誰もいないし。かと言って街に出ればカップルばかりだし」
 小池、曽我、宇野……なんて寂しいやつらだ。本気で可哀想になってきた。

「だったらみんなで仕事してた方がマシだよな。気も紛れるし」
「そうそう。淋しいのは自分だけって思わなくていいし」
「でも、俺たちだけで仕事するってのは、あまりにも不公平だと思う」
「「「みんな一緒に不幸になればいい」」」
 …………この僻み根性さえなければ。

「ぷっ」
 3人のあからさまな呪詛の言葉に、薪は失笑した。
 右手の拳を口元に当て、いつもはきつく吊り上げられた眉をゆるりとたゆませ、亜麻色の眼をやさしく細める。すべらかな頬は丸みを強め、持ち上げられた口角には華やぎと愛くるしさが添えられる。
 なるほど、宇野の言葉も納得できる。これを見た後に街へ出て女性を見ても、何も感じないかもしれない。

「おまえらはそれで良いかもしれないが、予定の有る者にはいい迷惑だろ。残りたい者だけで残れ。今日は僕も定時で帰るから、後は好きにしろ」
 意外だった。
 特に急ぎの仕事がなくても、書類や報告書の整理で一番遅くまで第九に居るのが当たり前になっている薪が、クリスマスイブとはいえ、定時で帰るなんて。この人に恋人がいるわけはないし、友人はもっといないだろう。残る可能性は部下に気を使ってくれている、ということになるが、それも何だか後が怖い。

「ではすみません、お言葉に甘えまして。私は先に帰らせていただきます」
 室長の言に一番最初に乗ったのは、土下座までして定時退室を申し出た今井ではなく、第九に入って一年にもならない新人の山本だった。
 意外な言葉に、執務室の全員の眼が彼に注がれた。
 山本はある意味、薪の対極に位置する人間だ。それは、この世には必ず相反するものが存在する、という理の証明とも言えた。
 山本は薪と正反対の外見を持っている。つまり、薪が年の割りに異常に若いのと反対に、異常に老けているのだ。年齢は薪と一つしか変わらないはずなのに、贔屓目に見ても50代後半。下手をしたら還暦を過ぎた今井の祖父より年上に見える。
 そんな彼に、クリスマスイブを共に過ごす誰かがいる、という可能性は、限りなくゼロに近いように思えた。問い質すのも失礼かと思いつつ、今井は真実を追究するのが宿命の捜査官だ。確かめずにはいられない。

「山本。予定、あるの?」
「はい。家で妻と娘が待ってますから」
 
 …………。

 今井が自分を取り戻したときには、壁に掛かった時計の秒針はゆうに一回りしていた。
 人間、あまりにも予想外の言葉を聞くと、思考を停止させてその衝撃に対抗しようとするのかもしれない。謂わば、自己防衛に基づく意識の喪失というわけだな、うん。

「ツマ……」
「ムスメ……」

 今井と同じように自失していた同僚たちが我に返り、記憶の中からその言葉の持つ正確な意味を探し出そうと、二つの言葉を繰り返し発音している。ひとりだけ平気な顔をしているのは室長だが、これは驚くに当たらない。彼は職務上、部下の家族構成をすべて把握しているからだ。

「き、きっと尻に敷かれてるんだぜ。山本って気が弱そうだし」
「もちろんさっ」
 引き攣った半笑いの表情でヒソヒソとやっかむ小池に、曽我が意気込んで相槌を打つ。が、その声もまた魂の抜けたような声音だった。
「休みの日には粗大ゴミ扱いされて、奥さんに邪険にされてさ」
「娘には疎ましがられて、お父さんの服とアタシの服一緒に洗濯しないで、とか言われてんだぜ。カワイソウに」
「俺はそうはなりたくないな!」
「まったくだ! 独身の方が自由でいいよな!」
「「はははは……はあ……」」

 いかに不幸な夫、不憫な父親像を山本に重ねても、彼が聖なる夜を愛する家族と共に過ごすという事実は少しも揺らがず。哀れな彼を想像するほどに虚しさは募るばかり。
 帰り支度を整えた山本が、寒そうな頭に中折れ帽を乗せ、内ポケットからおもむろに携帯電話を取り出した。画面を開き、それを無言で小池たちの方へ向ける。
 大きめの液晶画面には、デコレーションケーキの後ろで微笑む中学生くらいの可愛らしい少女と、彼女に良く似た妙齢の美女。通信欄に打ち出された文章に、小池の眼が――――― 開いた。
『パパ、ケーキできたよ! 早く帰ってね♪』

 度の強い角縁眼鏡の奥の暗い眼が光り、薄い唇が勝ち誇ったように笑った。
 かちーん。 
 次の瞬間、山本に向かって繰り出された小池の右腕は、彼の数倍の筋力を持つ腕に阻まれた。

「押さえろっ、小池! 手を出したらこっちの負けだ!!」
「あいつが笑うと異様にむかつくんすよっ!!」
 力自慢の岡部に後ろから羽交い絞めにされ、身動きの取れないまま、小池は尚も山本を罵ったが、山本本人は何処吹く風。自分の優位を自覚しているのだ。

「山本、おまえ早く帰れ」
「はい。失礼致します」
 山本は慇懃無礼スレスレの深さに頭を下げて、出口に向かって歩き始めた。が、すぐ何かに気付いたように足を止め、
「ああ、岡部副室長。副室長が書かれた報告書の誤字を訂正しておきましたから、後で確認しておいてください」
「う……わ、分かった」
 何もみんなの前で言うことはあるまいに、と山本にそんな気遣いを期待するだけ無駄だ。岡部もそれくらいのことで怒るほど、度量の狭い男では―――――。

「あの、副室長。もしよろしければ、娘の漢字検定の参考書のお下がりがありますから、それを差し上げましょうか。クリスマスプレゼントということで」
 …………ぷっつん。

 今井が危険を察知したときには、既に淋しんぼトリオの3人組が、理性を失った岡部を取り押さえている状態だった。
「抑えてっ! 抑えてください、岡部さん!」
 さっきまでと逆の体勢になった岡部が、怒りのために青ざめた顔を般若のように歪め、振り絞るような声で叫んだ。

「このっ、ウスラハゲがっ!!」
「おや、ご自分の学力をお認めになられましたか」
「ああ!?」
「先ほど岡部副室長は、身体的特徴を攻撃対象にするのは小学生以下の発想だと仰られました」

ぶっつん、ばっつん、ぼっつん!!

「うおおお!!!」
「やばい、小池と違ってマジで死人が出るぞ!!」
「3人じゃ押さえきれん! 青木、手伝え!」
「はい! 岡部さん、落ち着い、いったあいっっ!!!」
 青木が蹴られた。角縁眼鏡が山本と被ったらしい。
「室長、何とかしてください!」
 今井は薪に向かって懇願する。暴走し始めた岡部を止められるのは薪だけだ。

 薪は重々しく頷いて室長の威厳を見せ、余裕の表情で腕を組み、涼やかな視線を二人に向けると、
「そんなに楽しそうにジャレ合えるようになるなんて。山本と岡部は、すっかり仲良くなったな。組ませて良かった。次の案件も、その調子で頼むぞ」
「「「「「カンベンしてください――――っっ!!!」」」」」
 恐慌状態の執務室でひとりだけズレまくった見解を発する上司に頭を下げ、今井は山本の腕を引いて、阿鼻叫喚のるつぼと化した部屋から飛び出した。




*****

 法十名物、第九ギスギスフィーリング。
 ホント、うちの連中ってみんな仲悪い。(笑)

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

シングルズ(1)

 今週は忙しかったです~~。
 眼精疲労による肩凝りで、吐き気がするくらい。(@@) 
 
 きっとみなさんも、師走だからお忙しいのでしょうね。
 そんな中、今日もこのヘタレブログにお出でくださいまして、誠にありがとうございます。


 気が付いたら、来週はもうクリスマスですよ!
 と言っても、例年通り、うちの会社は仕事なんですけどね。(^^;
 気分だけでも味わおうと思って、25日までの期間限定ですが、テンプレをクリスマス仕様に変えてみました。

 お話の方も、クリスマス特別企画でございます。 
 なんつって、今年書いたんじゃないんですけど。

 実は昨年、クリスマスに合わせて公開しようと書いた話がまんまと間に合わなくて、そのままになっていたんですね。 ちょうど軽いお話でもあることだし、すずまき話の前にこちらを公開します。
 よかった、思い出して。 また1年、寝かすところだった。(笑)


 クリスマスのお題で書いたもので、ストーリーはありません。
 よって、カテゴリは雑文 (=ぐだぐだ) です。

 大した話ではないのでね、お暇な方だけ覗いて行ってください。(^^



 

シングルズ(1)





 きれいに片付けられた自分のデスクの上に一片の仕事も残っていないことを確認し、今井は席を立った。引き出しの施錠を点検し、モニタールームの同僚たちに声をかける。

「すいません、お先に」
「ちょっと待ってくださいよ、今井さん。まだ報告書のまとめが残ってますよ。このヤマ、俺と今井さんの担当でしょう」
「いや、悪いけど今日は」
 自分を引き止めた仕事熱心な糸目の同僚に、今井はこっそりと鞄の蓋を開けて、中に入っているリボンのついた箱を見せる。長さ20センチほどの長方形のその箱は、光沢のあるピンク色の包装紙に包まれており、結ばれた赤いリボンの尻尾は『Xmas』という文字が型押しされた金色のハート型のシールで止められていた。

「……彼女へですか?」
「まあな。わかるだろ? 今日、約束の時間に遅れたりしたらどうなるか」
「ええ、そりゃあもう」
 今井がコソコソしている理由が解ったらしく、小池は声を潜めて頷いた。二人してちらりと奥のドアを見やり、彼らは微笑とも苦笑ともつかぬ形に唇を歪める。
 
 ふたりが勤務する法医第九研究室は研究所の中で最も仕事に対してストイックな部署として、その名を科警研内だけでなく、隣接する警察庁及び警視庁にまで知らしめている。と言うのも、この研究室に君臨する室長はとても厳格な人物で、仕事の鬼どころか魔王とまで噂されるほど職務には厳しいからだ。
 『報告書を上げるまでが捜査』が持論の室長に、手付かずの書類を残して退室しようとしていることを知られたら、間違いなく今井の今日の予定は握りつぶされる。

 今井は仲の良い同僚の顔を見て、「悪いな」と笑いかけた。ニコッと笑いを返してくれる、小池の細い目に確かな友情を感じる。
 男の友情というのは、本当にいいものだ。何故引き止めなかったと、後で自分が鬼上司に叱られるかもしれないのに、こうして今井の私事を優先してくれようとしている。
 篤い友情に感激する今井の前で、小池はおもむろに立ち上がり、両手を自分の口の横に置くと、
「大変です、室長! 今井さんが仕事よりプライベイトを優先しようとしていますっ!!」
 ……信じた俺がバカだった! 男の友情なんか幻想だよ!!

「なに叫んでくれてんだ、裏切り者!」
「裏切り者はどっちですか!! 第九に彼女持ちなんて、あっちゃいけないことなんですよっ!!」
「自分がクリスマス直前に彼女に振られたからって、俺まで巻き込むなよ!」
「ちょっと今井さん」
 言い過ぎた、と思った瞬間、謝るより前に曽我が口を挟んできた。曽我は小池の親友だ。親友の生傷に無遠慮に踏み込んだ今井を許せなかったのだろう。非難される立場でありながら、彼らの間に確かな友情を感じて、今井は頬を緩ませた。
 
 曽我は同情心いっぱいの顔で、
「小池はまだ失恋の傷が癒えてないんですよ。それなのに、そんなにハッキリ『振られた』とか言ったら、小池が可哀相ですよ。そりゃー、クリスマスの3日前になって彼女に振られる小池の方がしょっぱすぎるってことは解ってますけど、それでも振られたことは事実なんですから、そこはそっとしといてやるべきだと。まあ、彼女の方も、クリスマスのデートも危ない小池より、公務員の彼のほうへ流れるのは当たり前かも知れませんけど……あ、知ってます? 今井さん。小池の元カノの新しい彼氏って、市役所に勤めてて、顔も小池よりカッコよくて」
「曽我、その辺でカンベンしてやれよ。小池、泣いちゃったぞ」
 慰めるつもりが逆に傷に塩を塗ってしまっている。曽我のKYは何とかしないと、そのうち刺されるかもしれない。

「ふっ。俺を出し抜いて彼女作ったりするからですよ。当然の報いです」
 わざとかよ!? なんて醜いんだ、男の友情!!
「曽我、おまえなんか彼女を作ることもできないから、振られるまで行き着かないくせに! だったら俺のほうがマシだ!」
「ああっ、言ってはならないことを! この糸目!」
「何を! このメタボ体型が!」
 みにくい。醜過ぎる。

「おまえら、いい加減にしろよ? 身体的特徴を攻撃対象にするなんて、小学生以下だぞ」
 地の底から響くような凄みのある低い声が聞こえて、二人はパッとお互いの口を手で塞ぎ合う。何をやっても息の合う二人だ。
「室長に聞かれたら、全員ここに泊まりになるぞ」
 副室長の岡部が、ボキボキと指の骨を鳴らしながらこちらを見ている。細い眉を吊り上げた三白眼にぎろりと睨まれて、思わず身を寄せ合う小池と曽我のコンビが、震えながらコクコクと頷いた。

「まあ、俺はそれでもいいですけどね」
 カタカタとキィを叩きながら、眼鏡の奥の眼はモニターに据えたまま、第九随一のシステムエンジニアはシニカルに言い放つ。
「俺の恋人はコイツですから」
 コンピューターオタクの宇野は、MRIシステムをこよなく愛している。犯罪捜査よりもプログラム開発が好きな宇野は、心の底ではシステム開発室へ行きたがっているのではないかと思うのだが、現場にも一人システムメンテナンスのプロを置いておきたい室長の意向を汲んで第九に留まっているものと、今井は見ている。

「俺たち、宇野に比べればまだマシかもな」
「そうだな。少なくとも、現実の女の子と話をして楽しいと思えるもんな。画面の美女じゃなくて」
「ちょっと待て、人をアキバのオタクと一緒にするな」
 こそっと呟いた小池と曽我の会話を耳ざとく聞きつけて、宇野はモニターから目を離した。執務椅子をくるりと回して、椅子ごとこちらに向き直る。

「俺はな、その辺の女じゃ満足できないんだよ。室長が女装したときくらいの美女じゃないと、食指が動かないの」
「はあ!? どんだけメンクイだよ」
「鏡見たことあるのか、おまえ」
「仕方ないだろ? 毎日あの顔見てんだから。あのクラスじゃないと、ときめかないんだよ」
「あ、それ分かります。オレも、薪さん以外のひとには何にも感じなくなって、痛い!」
 会話に入ってきた瞬間にいらんことを言って岡部にどつかれたのは、第九最年少の青木だ。突かれた衝撃で持っていたコピーの束を床にばら撒いてしまい、慌てて拾い集めている。

 コピー紙を拾うのを手伝ってやろうと床に屈んだ今井の前に、ふと人影が差した。
 ダークグレイの細身のスラックスに包まれた二本の足。磨き上げられたカルツォレリア・トスカーナの黒い革靴。このブランドが気に入りの上司が、自分の部下たちの中で唯一、鞄を持ってコートを着込んで帰り支度を整えている自分に向けているであろう氷の視線を予想して、今井は固まる。

「すみません、今日は帰らせてください!」
 謝るが勝ちだ。幸い、土下座に近い格好をしていることだし、誠意も伝わり易いかも。
「お願いします、室長。今日だけは見逃してください。西葛西の報告書は、明日の午前中に必ず提出しますから」
 必死になって頭を下げる今井の傍に、室長はひょいと屈んだ。みんなと一緒になって床に落ちているコピー紙に手を伸ばしながら、穏やかな口調で、
「構わんぞ。西葛西の事件は急ぎの案件ではないし。みんなも、キリの良いところで帰っていい」
「「「えええ! そんな!!」」」

 嬉しそうな今井の笑顔のその向こうに、いくつかの悲壮な声音が重なり、薪は目を丸くする。クリスマスイブに定時で帰っていいと部下に申し渡して、ブーイングを食らうとは思わなかったのだろう。
「帰りたくないのか? おまえらにだって、イブの予定くらいあるだろう」






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インタビュー

 こんにちは。 ちょっとご無沙汰でした。

『タイムリミット』のあとがきを書こうかな、と思ったんですけど~、
 いただいたコメントを拝読しましたら、わたしが伝えたかったことはほぼ伝わったみたいなので、いいかなって。 ←リアルの文章は苦手なので、できるだけ書きたくない。(^^;
 
 なのでお礼だけ。
 お付き合いいただいて、まことにありがとうございました。
 読んでくださる方がいるから、続けてこれました。

 この先は、
 ぼちぼち雑文など公開していきますので、お暇があったらまたお寄りください。(^^


 で、最近書いた雑文です。
 てか、文にもなってないな~、お遊びって言うのかな~。 でもこういうの、楽しい♪ です。









 インタビュー



 

   『巷で噂のラブラブカップルに突撃インタビュー』


(『突撃』と銘打ちながらも暗黙の事前打ち合わせ)
 いいですか? 今回は、『ラブラブカップル特集』ですからね。 企画内容を念頭に置いて、質問には正直に答えてくださいね。 
 特に薪さん、不必要に場を荒らさないで……あ、時間ですね。 
 じゃ、よろしくお願いします。



 最初に、お名前と年齢をどうぞ。
「青木一行、30歳です」
「薪剛、42歳」


 見た目には信じられませんけど、けっこうな年の差カップルですね。 世代の差とか、話が噛みあわないとか、苦労されませんか?
「そうですね。世代の差と言うより、薪さんは考え方が独特だから……常に宇宙人と会話してるみたいですけど、それも含めて愛してますから」
「世代も何も、バカとは話が合いません」
 のっけから攻撃的ですね。 覚悟はしてましたけどね。 気を取り直して次行きます。


 ズバリ、相手の何処が好きですか?
「すべてです! 顔も身体も髪の毛も手も足も、全部好きです」
 それはすべて容姿だというツッコミはこの際無しで、薪さんは?
「さあ。僕が訊きたいです」
 企画を盛り上げようとか、チラッとも思わないんですね。 そういう人だって分かってましたけどね。 


 お互いの第一印象を教えてください。
「綺麗なひとだな、って」
 また容姿に関することですね。 いいですけどね。 薪さんは?
「でかいな、って」
 お互い、表面的なものしか見てないんですね。 普通はもっと運命を感じたりするもんだと思うんですけどね。……はあ、盛り上がらないなあ、今回は。


 恋人同士になってから、相手への気持ちに変化はありましたか?
「以前より、もっともっと薪さんのことが好きになりました」
「ウザさが倍増しました」
 盛り上げる気がないどころか、盛り下げようとしてますね。 企画そのものを潰したいという意図すら感じ取れます。


 将来の夢は?
「できれば一緒に住みたいです」
「第九の全国展開が夢です」
 仕事のことじゃなく、プライベートのことでお願いします。
「健康で長生き」
 ……………徹底的に盛り下げますね。


 一番怖いものはなんですか。
「薪さんに嫌われることが一番怖いです」
「いきなり押し倒された時に偶々ベ○ピだったりするとめっちゃ怖…………僕に怖いものなどありません」
 なんかとんでもない裏事情を聞いた気がしますけど、無視してサクサク進めましょう。


 相手のためにしている、一番の心配りは?
「いつも相手の気持ちを考えて、意見を尊重しています。相手の言いなりとかよく言われますけど、そんなつもりはなくて、薪さんの機嫌がいいと、オレも楽しいから」
「……食物繊維の多い食事を……」
 ? それは、相手の健康を気遣って食事の内容に気を配っているということですか?
「いや、繊維を摂らなきゃならないのは僕の方で」
 ?? どうしてですか?
「…………」
 ああ、もしかして、大分年上でいらっしゃるから? 相手のためにも、いつまでも若々しく、健康でいようということですか?
「………………………………はい」
 素直じゃないですか。 じゃあ、次行きます。


 此処だけは直して欲しいと思うところは?
「薪さんは、仕事に夢中になると食事を摂らなくなってしまう癖があって。あれだけは直して欲しいです」
「夢中になると朝までノンストップで吹っ飛ばされ……いやその……」
 なるほど。 お二人とも、仕事に夢中になりすぎる、と言うことですね。 ……薪さんはどうして顔が赤いんですか?
「………なんでもないです」
 ? 訳は分かりませんが、可愛いので許します。


 相手がしてくれることで、一番嬉しいことは?
「薪さんが笑ってくれることです」
「残飯処理」
 相変わらず人間ディスポイザーなんですね。 青木さん、糖尿病まっしぐらですね。


 相手にしてあげたいことは?
「薪さんが望むことなら、なんでもしてあげたいです」
「出世させてやりたいです」
 めちゃくちゃズレてますね。 他のカップルはみんな、僕も同じです、って返答が返ってくることが多くて、こちらも幸せのお裾分けをいただいてるようで温かい気分になったもんですけど。 

 さっきから聞いてりゃあんたたち、1ミリも意見が合いませんね。 実に不快です。 いっそのこと、別れた方がいいんじゃないですか。
「「いやです」」
 息ピッタリですね。 やればできるじゃないですか。


 最後に、相手に対して一言どうぞ。
「いつも美味しいご飯をありがとうございます」
「残さず食えよ」
 最後の最後まで、ロマンチックのロの字もないやり取りですね。 もういいです。 
 
 質問に答えていただき、ありがとうございました。 


*****


 どうやって編集したらキャップに怒られないで済むのか、頭が痛いです。
「えっ、上の人に怒られちゃうんですか?」
 企画のテーマ、『ラブラブカップル特集』だって言ったでしょう? それなのにあんたら、全然ラブくないから。 怒られるだけならまだしも、下手したら減給ですよ。
「それは可哀相ですね。じゃあ、今からオレが薪さんに素早くキスしますから、その瞬間をカメラに捉えてください」
 いいんですか? 後で薪さんに怒られませんか?
「大丈夫ですよ。オレは薪さんの恋人ですから。 ――――― 薪さん」


 CHU。
 どかばきぐしゃ。


「ど、どうでした? 撮れました?」
 はい、ばっちり。青木さんが薪さんに蹴り飛ばされる場面が。
「それじゃ『ラブラブカップル特集』に使えないんじゃ」
 ご安心ください。キャップに相談して、『バイオレンスカップル特集』に企画変更しましたから。


 (おしまい)



(2011.11)


 

タイムリミット(19)

 最後のエピローグです。
 これまでお付き合いくださいまして、感謝にたえません。
 誠にありがとうございました!!






タイムリミット(19)




      エピローグ  ~2068.春 サナギの中~







 幾週も続いた捜査がひと段落ついた週末、薪は幼虫になった。
 
 目が溶けるほど睡眠をとり、パジャマのままでうだうだと食事をし、ゆっくりと風呂に浸かってからまたパジャマを着て、リビングの床に昼寝用の布団を敷いて寝転んだ。ごろごろと寝返りをうち、もぞもぞと動いて布団に頬ずりをし、枕代わりのクッションを抱いて目を閉じた。
 お日さまが高くなる時間まで眠ったのに、またウトウトしてきて、人間は寝溜めはできないけれど永遠に眠り続けることはできるかもしれないとバカバカしいことを思う。とろりとろりと脳が溶けていくような心地よさを味わいながら、意識を手放そうとしたときチャイムが鳴った。

 まったく間の悪い。あいつはいつもそうだ。

 ノンレム睡眠に落ちかかっていたせいで重く感じられる身体を引きずるようにして、薪は玄関に向かう。カメラで来訪客を確認するまでもない、壁の時計はいつも彼がここに訪れる時刻を示している。
 ドアを開けると昨夜まで一緒にモニターを見ていた部下の姿があり、しかしその服装と表情は15時間前とはまるで違っている。ジーンズ生地のラフなダウンシャツにコットンパンツ、髪も洗って乾かしただけで、額に落ちる前髪を左に流している。

「薪さんっ」
 弾んだ声で名を呼ばれ、いきなり抱きすくめられた。外見の相違点以上に彼の行動は職場のものとは違って、それはつまり彼の立場の違いだ。休日の午後にここに来る彼は、薪の部下ではなく、もっと近しい存在だから。
「まだお休みだったんですか? 疲れてらっしゃるんですね」
 パジャマ姿に気付いて気遣う素振りを見せるが、薪を眠りに戻らせてくれようとはせず、立ったままキスをされた。軽く済ませてくれればいいものを、むさぼるように吸い上げられて胸が苦しくなる。薪は無抵抗のまま、相手の腕に身体を預けている。抵抗する気がないのではなく、手足が言うことを聞かない。低血圧で寝起きにはうまく身体が動かない薪の弱点を、相手はよく知っている。
 
 足がもつれて真っ直ぐに歩けないのを見透かされたか、抱え上げられて運ばれ、リビングの布団に寝かされる。覆いかぶさってきた恋人に、弱々しく薪は抗議した。
「疲れてるんだ、休ませてくれ」
「オレもです。さすがに4日目の徹夜はきつかったです」
 薪より12歳も年下の部下は情けない顔で弱音を吐くと、眼鏡を外してローテーブルの上に置き、薪の隣に寝転んで長い腕をこちらに伸ばしてきた。薪の背中の下に手を入れて、横に転がすようにして自分の胸に抱きこむ。薪の髪に鼻先を埋めて、すうっと息を吸い込み、薪さんの匂いがします、と当たり前のことを言った。

「本当は家で休もうと思ったんですけど。お休みが重なったのに、薪さんに会わないなんてもったいなくて」
 もったいない、という表現はおかしいと思ったが、いつもの5%も働いていない薪の脳は状況を的確に表現する言葉を見つけることができなくて、またそれを指摘するのも面倒で、結局薪は検索作業を放棄する。スリープモードの薪の頭を彼がそっと持ち上げて自分の肩に載せるのに、抗うこともできない。
「薪さんだって、こうしたほうがよく眠れるでしょ」
 半身を触れ合わせ、足を絡めるように抱き合う側臥の姿勢。完全な側位ではなく、薪の方は伏臥に近く相手は仰臥に近い。要は相手の身体に薪の右半身を載せるような形だ。その体勢が安眠に適していると推奨する彼を、薪は鼻で笑い飛ばした。
「はっ、女の子の胸ならともかく、男の胸なんて。固いしゴツイし、汗くさ……ぐぅ」

 文句を言い終わらないうちに眠りに落ちていく自分を相手が笑っているのが胸の振動でわかって、それはとても腹立たしいことのはずが何故か嬉しくて。先刻抱えていたクッションより遥かに寝心地の悪い褥が妙に気持ちよくて、薪の意識はあっという間に浮遊する雲間に埋もれた。



*****



 それからふたりはサナギになった。
 リビングの床に敷いた小さな布団の上で、抱き合って丸くなって。

 薪がすやすやと眠る幼子のように安らかな寝息を立てれば、青木は雄大な海のように深いストロークで呼吸をする。ペースも息継ぎの間隔もまるで違うはずのふたりの呼気は、どういう不思議かぴったりと合わさって。それは互いの背中に回した手のひらから伝わる肺の収縮による筋肉の動きのせいかもしれないし、互いの肌に掛かる息の間合いからかもしれない。
 
 寝苦しいと一蹴した褥に、薪は深く深く沈んでいく。薪が辿りついたのは、海の底のような蒼くて薄暗い空間。静かでとても居心地がいい。
 広い空間にたったひとりで、でも全然さびしくない。感じるのは、自分を包むなにか。周囲の空気が、いや、この空間そのものが自分を守ってくれているような気さえする。
 現実の身体は恋人の腕の中で窮屈な形に戒められているのに、ここでの薪は自由に動ける。伸び伸びと手足を投げ出し、遊び疲れた子供のように仰臥して、その解放感に身を委ねた。

 青木は自分の上に乗った快い重みに、安心を覚える。
 薪の身体から力が抜け、すべてを自分に預けてくれる。彼の平穏をこんなに近くで感じ取れる、もしかしたらその一翼を自分が担っているかもしれない。それは彼にとって最大級の喜び。
 現実には布団よりずっと重いものを載せられて苦しいはずなのに、彼は浮遊する自分を感じる。形状の束縛を逃れた彼は、隣で眠る大切な存在に寄り添うように形を変える。
 彼の頭頂部からつま先までを包み込むように身体を広げて、あらゆるものから彼を守ろうとする。だけど現実に守られているのは自分の方だと嫌になるくらい分かっている青木は、せめて彼の眠りくらいこの手で守りたい、と強く願う。

 眠りの波形の頂点で時折、薪はぼんやりと目を開ける。うつらうつらとした時間が10時間以上も続いていれば、眠りも浅くなって当然だから、それは幾度も繰り返される。
 その度に亜麻色の瞳に映るのは、見慣れた男の顔。ガキくさくてマヌケで、だけど何故か薪の胸をあたたかくする。温まったこころとからだに眠気を促され、薪は再び目を閉じる。穏やかに寄せてくるやさしい波にその身をさらし、攫われる快感を楽しむ。

 隣にいる美しいひとのことが気になって、青木は時々目を覚ます。眠っている最中にも薪のことが頭から離れなくて、愛しいと強く思った瞬間、彼の眠りは破られる。
 目を開けると、目蓋を閉じた薪の顔が至近距離で寝息を立てていて、その美しさと安らかさに青木は至上のよろこびを覚える。
 深い眠りを要求する若い体の欲求に負けて、青木はすぐ目を閉じる。目蓋の裏に、たった今見た天上の美をのせて。

 そうしてふたりで寝息を重ね、互いの眠りを深くして、静かで平和な時を過ごす。
 せっかくの休日なのに、新緑が見ごろの爽やかな気候なのに、昼間から眠ってしまうなんてつまらない連中だ。そんなふうに評されても反論できない彼らの休日は、実は最高に満たされていて、その満足感は彼らにしかわからない。
 普段から時間に追われている彼らにとって、滅多に過ごせない怠惰な時間はとびきりの贅沢だ。それを一緒に味わえることの幸せ。意識はなくても、この世で一番望む相手が隣にいることをふたりは知っている。彼らの穏やかな眉目と安心しきったリズムで打つ胸の鼓動が、その事実を物語る。

 閉ざされた空間で、彼らだけの世界で。彼らにしかわからない幸福は、だれに認められずとも確かに存在する。
 サナギの中で眠り続ける、幼虫たちの幸福。



*****



 ふわりと水面に浮かび上がるように眠りの海から放たれた彼らは、目の前で互いの目がゆっくりと開くのを見た。

 最後の寝息を同時に吐き終え、同じ瞬間に目蓋を開いて、直後に見るのは夢の中ですら見ていたいと思う愛しい顔。
 ああ、なんて幸せなんだろう、と青木は思い、昼寝をすると頭が痛いと薪は愚痴る。低血圧の薪は、寝起き時は機嫌が良くない。
 コーヒーでも淹れましょうか、それとも風呂を炊てましょうか、と気遣う青木に、薪は額を押さえつつ、青木、と不機嫌そうに呼びかけた。
「両方ですね、はいはい」

 薪をそこに残して起き上がろうとするのを、薪の腕が青木の肩を抱いたまま、それをさせない。さては抱き上げて椅子に座らせろ、あるいは風呂まで運べ、という薪お得意の無言の命令だと悟って、青木は恋人の細い身体をソファに座らせる。
「風呂が沸くまでここで待っててくださいね。只今、コーヒーをお持ちしますから。……薪さん?」
 青木がそう言っても、薪の腕は青木の首に絡んだまま。不思議に思ってかれの名を呼ぶと、薪ははんなりと微笑んで、
「僕たち、一緒に暮らそうか」

 薪の科白に、青木は言葉も出ない。薪は強烈に寝ぼけるタイプだが、ここまでボケたのは初めてだ。
 なにか悪いものでも食べたのだろうか。熱もないみたいだし……あれ? 今日ってエイプリルフールだっけ?
 いや、違うな。今年のエイプリルフールはもう済んだ。
 
 青木は毎年、第九の先輩たちに悪質な冗談でからかわれるのだが、今年は特にひどかった。異動の辞令を偽造して、それぞれに餞別の袋を青木に手渡した。雪子にいたってはお別れの花束まで贈ってきた。副室長の岡部が『ロンドンへ行ってもがんばれよ、青木』と肩をたたき、薪は『どこへ行っても第九の誇りを忘れるな』と感動的な台詞を吐いた。青木は、薪やみんなと離れるのがイヤで思わず涙をこぼしてしまい―― 次の瞬間、全員が床に突っ伏して笑い転げた。
 今年こそは騙されまいと気張っていたのに、人事部長の承認印まで偽造するという念の入ったイタズラにやっぱり引っかかってしまった。宇野の仕業だろうが、ものすごく精巧にできていたのだ。

『一緒に暮らそう』なんて、薪がそんなことを本気で言ってくれるわけがない。付き合い始めて6年目、アイシテルの言葉さえ彼の口から聞いたのは片手に余るほど。引き換え「バカ、マヌケ、役立たず」などなど、罵倒のセリフは千回をとうに超えた。そんな生活を8年も送っていれば、どんな天使だってひねこびる。
 オレってけっこう可哀相、だけど世界一の幸せ者だという自信もある。その二つの評価は青木の中で矛盾しない。
 ここでカンゲキする素振りを見せたらこの感動をぶち壊し、粉々に砕いて楽しむ薪の非道な性格を知っている青木は、薪が『冗談に決まってるだろ、バカ』と言ってケラケラ笑い出すのを待っていた。しかし、薪は動かない。
 ずい分タメが長いな、もしかしてまた眠ってしまったのかな、じゃあ今のは寝言?
 意地悪説から寝ぼけ説に傾きかけた青木の耳に、ようやく薪の声が聞こえた。

「いっしょにいよう。ずっと」

 素直でストレートな飾らない言葉。青木の首に顔を伏せて、薪の表情はわからない。だけど彼の声は、やさしさと好意に溢れていて。まるで動物たちに話しかけるときのような、むかし親友の写真に話しかけていたときのような、自分の耳には馴染みの薄いその響きを、青木は全身で感じ取った。

「はい」

 それ以上、言葉が出なかった。
 壊れた言語機能は放棄して、青木はソファに座り薪の身体を自分の膝に乗せ、ぎゅっと抱きしめた。やわらかい薪の頬が青木の頬に触れて、その夢のような感触に自分はまだ夢の中にいるのかと妙に納得し、次いでやっぱりそうかと苦笑する。

 まどろむ春の午後に青木が見るのは、夢の夢、夢のまた夢。
 夢でいいから永遠に醒めるな。



*****



 その夜、ふたりは一緒に羽化した。
 欲望に大きくからだを膨らませ、その圧力で蛹殻を破り、翅脈に愛情を送り込んで思う存分羽根を広げた。
 誰にも邪魔されない秘め事の愉しみに、ふたりはクスクス笑いながらお互いのからだを探りあう。表も裏も中も外も、余すところなく触れ合わせて。

 青木の膝の上に跨るようにして、彼の腕の中にすっぽりと包まれる、それは薪がいちばん安心して快楽に浸れる体勢。
 周囲に回された腕に自分を守ろうとする意志を感じる、でも本来守護者になるべきなのは自分の方だ。だから薪は彼の腕をほどき、青木のからだを横たえて彼の快楽に奉仕する。
 そうして彼の官能を深める努力をしつつ、自分もまた彼と同じ感覚を味わい。彼とつながって溶け合う場所から生み出されるうねるような煽動に、我を失いそうになる。やり過ごそうとして、しかし能わず、結局はその衝動に身を任せ、溺れ。
 制御の利かなくなった薪に気付き、青木は半身を起こして快楽に耽る彼を愛おしそうに抱きしめる。羞恥心からかプライドからか、自分を抑えようとする薪もかわいいが、流されてしまう彼はもっとかわいい。

 消し飛んだ理性の残骸が自分を抱く恋人の腕を感じ取り、薪は夢中で相手の背に爪を立てる。身体中に満たされたエナジーが、解放の瞬間を待っている。
 悲鳴にも似た声と共に渾身の力で相手を抱きしめ、自分の中で大きく脈打つ彼を認識した瞬間、薪は自分のからだがぱっくりと割れてかれを包み込むような不思議な感覚を覚える。自分は青木の腕に抱かれ、彼に愛されながらもこうして彼を満たすことができる。昔のように受けるしか能のない愛玩人形ではないと、今の自分の在り方を自覚する。

 振り返ってみれば、と薪は思う。
 僕はずっと、殻に閉じこもった蛹だった。
 自分を縛る様々な制約、でもその多くは自分自身が作り出したもので、自分が強くなれば何ということはない、明日からでも破れる呪縛。

 青木のため、彼の将来のため、彼の親を泣かせたくない、そのことで彼を苦しませたくない。青木との関係を否定する理由はいくらでも思いついたけど、自分はあくまで青木のことを思って彼と距離をおこうとしているのだと自分に信じ込ませようとしていたけれど。そんなものは欺瞞に過ぎない、僕はそんな立派な人間じゃない。鈴木みたいに本気で他人を思いやれるような人間になろうとしたけど、結局はなれなかった。
 青木の未来を奪うのが怖かった、自分自身そう思い込んでいたけれど、底の底まで自分の心を探れば、そこにいたのはただの臆病者で。要は、自分が周りの人間に謗られるのが怖かっただけだ。いつも一緒にいたい、一緒に暮らしたいという互いの気持ちを拒んでいたのは、それだけの理由だった。

 青木はとうの昔に、僕に自分の人生を預けてくれていた。僕はとっくにそのことに気付いていた。この男は僕のためなら命を懸ける、そう分かっていた。
 だけど、僕には自信がなかった。もしものときには世界でたったふたり、他に味方は誰もいなくなる。あらゆる弾劾から彼を守り、人生のすべてと引き換えにして余りあるほどの幸福を彼に与える、そんなことが自分にできるわけがないと思った。
 そんな理由から、僕は常に逃げ道を用意していた。いつ別れてもいいように、傷が最小限に抑えられるように、予防線を張っておいた。愚かな僕。

 目の前の問題から逃げることばかり考えていた卑怯でちっぽけな僕を、青木はずっと愛し続けてくれた。さんざん迷って堂々巡りを繰り返して、転んで起き上がって歩き出してまた転んで、そんな不器用な僕を、青木は辛抱強く待っていてくれた。
 僕は転んでできた傷の分だけ痛みを知って、起き上がった回数分だけ強くなった。そうして辿りついた解は、ひどく単純で明確な真実。

 例えるなら、僕たちは一対の羽根。どちらが欠けても飛べない。
 一生カゴの中で飛ぶことを知らなくても鳥は生きていけるけど、それは鳥にとって本当の生じゃないように、僕たちにとっても離れて暮らす人生は人としての生じゃない。偽りの心を抱き続ける人生は、消費するだけの生に過ぎない。

 こんな簡単なことを悟るのに、こんなに時間が掛かったのかと思うと自分に呆れるけれど、もっと早くに気付けばよかった、今までの時間を無駄にした、などとは思わない。きっと僕には必要なことだったんだろう。迷い悩み傷ついた僕たちの軌跡があるからこそ、得たものは尊いと思っておこう。

 つながったまま、ふたりは互いの胸に刻まれるリズムが同じトーンに落ち着いていくのを聞いている。平静の呼吸を取り戻すまで、そのままの姿勢で動かずに、相手の背中をやさしく撫であう。
 手のひらに感じるのは汗ばんだ皮膚と固い肉。だけど彼らが互いの手のひらで慈しみあっているのは、触覚では感知できない、身体の奥深くに息づくもの。

 大事に大事にあたためてきた、ふたりで一緒に育ててきた、サナギの中のタカラモノ。
 もう絶対に手放さない。




 ―了―


(2009.11)


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

タイムリミット(18)

 しばらくの間、ご挨拶もできずにすみませんでした~。

 実は、オットが尿管結石を患いまして。
 22日に左の背中が痛くなって、近くの内科に掛かったんですけど、理由が分からず胃腸の薬と痛み止めを貰って様子見。 翌日は祝日で、病院がお休みだったので、24日の木曜日に大きな病院へ行ってCT撮って病名が判明しました。
 内臓の病気じゃないから心配要らないよ~、膀胱のすぐ傍まで下りてるから今日か明日には治るよ~、とお医者さんに言われて、薬と痛み止めを貰って帰宅。
 でも、金曜の夜になっても痛みは止まらず……痛み止めも3時間くらいしか効かなくて、残りの18時間は「痛い」と「すごく痛い」が周期的に繰り返されるそうで、夜も熊のように寝室をウロウロと歩き回っておりました。(痛くて眠れないのと、横になっているより立っていた方が痛みが和らぐらしい)
 土曜の夜には痛みがMAXになってしまって、救急病院へ連れて行きました。 田舎に住んでるもんで、車で50分くらいかかるのですけど、四の五言ってられない状態で~~、
 これ、本当にただの結石なの? もう5日だよ、長すぎない? 他の病気なんじゃないの?
 とか考えてしまって、けっこう焦りました~。 休日だから専門医がいないし~~、祝日、土、日に病気になるのは困りますね。

 結局、石は日曜日の夕方に飛んだらしいのですが、おかげで月曜日は仕事がパンク状態!!! そりゃそうだよ、この時期に5日もサボっちゃったんだもんっ!

 うがーっっ!! と心の中で叫びながら仕事を片付けていたのですが、友人に言われて気付きました。 
 もしもお勤めに出ていたら、日中、何度も病院に連れて行ったり、オットの世話を焼いてあげることもできなかったのだろうなって。 今の社会では、それは贅沢とも言えることなんだなって。
 大事なひとが苦しいときに傍にいてあげられる自由があるのは、幸せなことなんですね。

 そういう気持ちで溜まった書類を見れば。
 やっぱり「うがーーーっっ!!」ってなる★ ←ダメ人間。



 さーてっと。
 お話の方は、残り1章ですね。 次のエピローグでおしまいです。
 まきまきさん、サクサク終わっちゃってすみません~。 お詫びに、次は『言えない理由 sideB』を公開しますので。(^^) (←イタイすずまき話。 死者に鞭打つとか言われそうだ)
 
 
 





タイムリミット(18)




 夕食の話題は、一通の葉書だった。
『男の子が生まれました』とホップな文字で飾られた写真付の吉報に、薪はその夜、とても機嫌が良かった。

「賢そうな子ですね」
「美和子さんの子だからな。我が儘に育つんだろうな」
「祐二さんに似れば、やさしい子になると思いますけど」
 にっこりと笑った仲の良さそうな夫婦の間に、白い産着に包まれて母親の腕に抱かれる赤子の姿がある。丸々と太った赤子の後ろには、命名『祐輝』と書かれた掛け軸。

 子供の名前は、実は薪がつけた。
 生まれてくる子供に薪の名前を付けたいという夫婦の申し出を、薪は固辞した。それは彼らの感謝の証であったけれど、薪は美和子と婚約していた事実がある。期間は3ヶ月足らずだったし、世間的に見て薪はただのアテ馬だったわけだが、それでも誤解を受ける恐れがあるからと丁寧に断ったのだ。
 薪に相談されて、青木も一緒に子供の名前を考えた。青木がいなかったら、この子は古典的な名前になっていたかもしれない。
 というのも、子供の名前を考えるのは存外大変な作業で。名前の響きだけでなく、漢字の意味やら画数やら果ては運勢まで、考えすぎて煮詰まってしまい、「もう太郎でいいだろ」と言い出した薪のテンションを何とか上げて、この名前に落ち着かせたのだ。

 美和子の結婚式から4ヶ月が過ぎて、季節は晩秋を迎えていた。
 来月、1年の終わりの月に、薪は43歳の誕生日を迎える。その美貌は相変わらずで、年齢を聞くと我が目を疑いたくなる。ひいき目に見ても20代前半、下手をしたら高校生だ。このひとの成長ホルモンは、一体どうなっているのだろう。
 肌理細やかな肌。薔薇色のくちびる。長い睫毛と大きな瞳。この顔で43というのは、ある意味犯罪だ、と青木は思う。
 見れば見るほど惹きつけられて、魅せられて。年月と共に色褪せるどころか益々あでやかに、咲き誇る花のような魅惑を発するようになってきた。静謐な白百合を思わせる佇まいは変わらずとも、時おり見せる真っ赤な薔薇のような妖艶さ。誘惑に満ちた色濃いフェロモンを、今もその身体に漂わせていることを、本人は気付いているのかいないのか。

 さりげなく外された胸のボタンに、前髪をかきあげる細い肘の角度に、知らず知らず煽られて。下くちびるをぺろりと舐めた小さな舌の赤さとその動きに、我慢ができなくなった。
 青木の向かいで葉書を持っていた薪の手を、そっと握る。
 若い恋人の欲情のタイミングを計りかねている薪が、訝しそうに青木を見た。
「今夜、いいですか?」
「今日は約束の日じゃないだろ」
「お願いします。1度だけでいいですから」
「嫌だ、面倒くさい。セックスなんて、1年に1回もすれば充分だろ」
 ……間隔が延びてる。そのうちオリンピックみたいに、4年にいっぺんとか言い出すんじゃないだろうか。

 生まれつきこちらの方面には興味が薄い薪は、大昔のおかま帽を被った探偵が出てくるDVDを見たり、ネットで次のデートプランを練ったり、夜はそんな風にして過ごすのが好きなのだ。薪に合わせられるのは、70歳くらいの煩悩から解き放たれた世代の人間だろう。青木がそこに到達するまでには、あと40年くらい掛かりそうだ。
 仕方ない。いつもの手でいくか。

「じゃ、キスだけ」
 薪はキスが大好きで、どんなに機嫌が悪いときでもこれだけは許してくれる。
 仕方ないな、という表情でこちらを向き、光線の関係で青みがかったようにも見える目蓋を閉じてくれる。
 頬に手を添えて上向かせ、艶めいた花びらのようなくちびるにくちづける。自然に開く花弁を押し分けて中の実を舌先で剥き、その甘さに酔いしれる。
 のけぞった顎下から首筋にかけて舌先を滑らせ、可愛らしい耳を甘噛みする。ぴくん、と薪の両肩が上がって、困惑したように眉根が寄せられた。

「あ、青木。キスだけって」
「キスですよ? 誰もくちびる限定なんて言ってないでしょ」
「それはサギじゃ、んんっ」
 詐欺じゃない。
 だって、薪も青木の行動を予想しているはずだから。
 本当にしたくないときは、薪はくちびるを開いてくれない。青木の舌に応えてくれたら、それはOKのサインなのだ。
 誘っても拝み倒しても、素直に頷いてくれない恋人をベッドに連れ込もうと思ったら、こんな回りくどい手を使うしかない。なんて面倒くさい、と他人は思うだろうが、本人たちにしてみれば、これはこれで楽しい。

「おまえってば、ズル……あ、あんっ」
 早くも乱れ始める薪の様子に、青木は自分の行動が正解だったことを知り、密かに安堵する。薪も今日は、その気でいてくれたらしい。このひとは本当に勝手なひとで、これを読み取ってやらないと、あとで機嫌を悪くするのだ。
「ベッドに」
「いつかみたいに、ここでしたいんですけど」
 狭い椅子の上での不自由な愛撫に焦れて、薪が場所の変更を求めてくる。常ならばそれに応じるが、今日はぜひ、以前の感度を取り戻した薪をキッチンで味わいたい。青木は何週間か前から、この機会を狙っていたのだ。
「ね、いいでしょう?」
「イヤだ! 放せ、このヘンタイ!!」
 ドカッと腹に蹴りが入った。後頭部を殴られて、目から火花が出た。
 青木は不承不承、薪を抱えて寝室に移動する。させてもらえないよりはマシだ。

 せめて灯りは点けたままで、ベッドの上で白い肌を味わう。薄く脂肪ののった腰周りや太ももは滑らかで柔らかく、手のひらで擦ると微かな震えが伝わってくる。
 薪の身体は、元の麗しさを取り戻しつつある。まだ完全ではないけれど、ヒップも丸みを帯びてきたし、あばら骨も目立たなくなってきた。
 以前のような手触りを楽しむには、あと3キロくらいかな、などと計算しながら恋人の腰を撫でていると、横向きに寝そべって青木の背中に片腕を回していた薪が、上目遣いのコケティッシュな表情で剣呑な言葉を吐いた。
「おまえ、この頃やたらと僕のケツに触ってくるけど。チカンの練習でもしてるのか」
 恋人を使って痴漢の練習って、何の意味があるんだろう。
「薪さんのお尻ってかわいいから。つい触りたくなるんです」
 青木がそう言うと、薪は思いっきりイヤそうな顔をした。
「ヘンタイ」
 ベッドの中で恋人の身体に触って、変態呼ばわりされるなんて。相変わらず理不尽だ。
 
 そう思っても口に出しては言えないから、青木は行動で不満をぶつける。薪の腰を持ち上げて割れ目に顔を埋め、肉の感触を頬で確かめる。
「止めろ。普通はしないんだぞ、こんなこと」
「オレ、ヘンタイですから」
「あ、や、いやだ。中はダメっ……!」
 指先と舌で薪の秘密をつつけば、たちまち追い詰められた薪が切ない声で啼き始める。足を開かせて裏返し、膝を立てさせて彼のすべてを露呈させれば、もう嫌だとは言わず青木の舌に悶えて腰を捩るばかり。
「キス以外のことも、してもいいですか?」
 耳元で囁くと、今度は素直に頷いて、それは薪が青木を欲しがってくれている状況証拠。押し当てるだけでほどけていく秘部の潤いは、確かな物的証拠だ。

 薪の上半身を後ろから抱きしめて、覆いかぶさるようにひとつになる。急に攻めてはつらいかと恋人の身体を気遣えば、誘い込むような薪の動きが青木を先導する。請われるままに、引き出し押し込み。きゅんきゅんと締め付けて腰を使う薪の中を、右へ左へ掻き回すように打ち込む。
「ひゃんんっ! い、いあああ!!!」
「……鼓膜が破れそうです」
 快楽の虜になった薪の、びっくりするような声。この声を聞くと、薪が本当に感じてくれているのが分かって、前後のことも考えずに夢中で攻め立ててしまう。
「も、ダメ! もうっ!!」
「ちょっ、待ってください。オレ、まだ……!」
「あっ、あっ、あ―――ッ!!」
 しまった、激しくしすぎた。薪はあんまり長持ちしないから、快感を長引かせる工夫が必要なのに。

 くにゃりと薪の身体がベッドに沈んで、顔が枕に埋まった。
 青木を受け入れたままの状態で、薪は間もなく寝息を立て始める。その間、なんと30秒。墜落睡眠も神業の域だ。
「すいません。コレ、どうしてくれるんですか?」
「くか――――」
「ムゴイ……」

 薪はカンペキに元に戻ってしまった。
 我儘も自己中も、皮肉も嫌味も意地悪も。自分勝手なセックスまで、すっかり元通りだ。

 薪本人は何も変わらないのだが、青木には嬉しい変化があった。しばらく前から、青木は自分の自由意思で、薪の家に泊まっても良いことになったのだ。
 美和子との破談が決定的になった、あの日。
「離れたくないです」と普段は言わない我儘をこぼした青木に、薪は説教を始めた。
「泊まりたけりゃ、泊まればいいだろ」
「だって薪さん。前に、そんな半同棲みたいなだらしない真似はダメだって」
「おまえがいつまでもそんなだから、小池に『室長っ子』なんてからかわれるんだ」
 おそらくそれは、自分たちの関係に勘付いている彼の、軽い嫉妬を含めた皮肉だったのだろう。恥ずかしがり屋の薪には、とても教えられないが。
「おまえ、もう30だろ。自分の行動は自分の責任において決めろ。おまえが決めたことについて、僕は何も言わない」
 ベッドの中でそれだけ言うと、薪はいつものように寝入ってしまった。眠る薪を抱きしめたまま、その日青木はとても幸せな朝を迎えたのだ。

 温かい蒸しタオルで薪の身体を清めながら、青木は頬が緩むのを抑えられない。
 自分から誘って奉仕をしてくれた薪よりも、今の薪の方がずっといい。やっぱり薪はこうでないと。
 5年という月日の間に、青木の奴隷根性も骨の髄まで沁みたようで、そんな考えが一般的でないことなど、気にもならない。
 
 チェストからパジャマを出し、海月のようにふにゃふにゃした恋人に着せてやり、布団に包んで床に寝せる。シーツを新しいものに取り替えて、再びベッドに横たえ、首まで包むように布団を掛けてやる。
 明日の朝、薪が爽快な目覚めを迎えられるように。清潔な寝床は夜のうちに設えておく。薪が起きる前には風呂を沸かし、コーヒーの準備をして。ベッドで一緒にコーヒーを飲んでから、薪を風呂に入れて身体を洗ってやって。
 ドレイの仕事は山程あって、薪といる限り青木にはゆっくり休む暇もないのだが、その奉仕のひとつひとつがこの上なく楽しみだ。
 
 つんと澄ました恋人の清廉な寝顔にしばし見惚れ、軽くくちびるにキスを落とすと、青木は薪の雫を含んだシーツを持って寝室を出た。




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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