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言えない理由 sideB(2)

 こんにちは。

 お正月も早8日。 みなさん、七草粥は食べましたか?
 わたしは忘れました。 ←今年もダメ嫁。

 なんか今年は忙しくって~~、
 1日に工事したでしょ?
 2日は寝正月して、3日は実家に挨拶に行って、4日は漏水当番で、5日は成田にお参りに行って、そのまま千葉のホテルに1泊して6日に帰ってきたら、
 入札の指名とお葬式の連絡が2件。(・∀・) しかも、うち1つは当日がお通夜だったという。 
 そして、
 昨日から仕事です。
 お正月なんて、毎年こんなもんなんですけどね。 今年は特に盛りだくさんだった気がします。 春からお盛んてことで☆
 

 そんなわけで色々あって、新年のご挨拶いただいた方々、お返事が遅くなってしまってすみません。 これからお返ししますねっ。
  





言えない理由 sideB(2)





 そんな会話をこの部屋で交わしたのは2ヶ月くらい前だった、と鈴木は思い、そこで回想を止めた。
 ふと横を向いて、死んだように眠っている親友の青白い顔を見る。いや、親友と呼ぶのはおかしいかもしれない。たった今、自分たちは特別な関係を結んだばかりだ。
 自分でも信じられない。酔った勢いとはいえ、男とセックスするなんて。
 鈴木は今まで男の身体に反応したことは一度もないし、そんな趣味もない。興味もなかったし、自分の未来に関係するとも思えなかった、というか、あんまりお近付きになりたくなかった。迫害する気はないが、自分とは縁のない世界だと思っていたのだ。

 どうしてこんなバカな真似を、と鈴木の中の良識が顔を歪める。今までもこいつは、薪の我が儘に振り回されるたび、なぜ彼に怒りを覚えないのかと口うるさく鈴木を嗜めてきたのだ。
「だって。薪があんまり一生懸命だったから」
 汗ばんで冷たい薪の頬に、そっと手を載せる。目の縁に残った涙を拭いてやって、長い睫毛が指先に当たる感触を楽しんだ。

 ―――― なんだ、その理由は。おまえは一生懸命に迫られれば、誰とでもセックスするのか。
「うん。相手に恥をかかせたら可哀相だろ。女の子の泣き顔は見たくないよ」
 ―――― こいつは男だぞ?
「下らないこと言うなよ。付き合いの浅い女の子を泣かすのもイヤなのに、薪を泣かせるなんて、冗談じゃないよ」
 ―――――。
 黙り込んだな。オレの勝ち。

 考えるまでもないことだ。ホモフォビオでもない自分が、僅かばかりの生理的嫌悪感と今や心の殆どを占めている薪と、どちらを優先するかなんて分かりきってる。
 見慣れているはずのきれいな顔に、鈴木は胸が詰まるような疼きを覚える。それにしても、薪が自分のことをそんな風に思っていたなんて、全然気付かなかった……。

 街を歩けば10人のうち3人が同性愛者だと囁かされるこの時代、鈴木の数多い友だちの中にはゲイもいたりするが、薪と彼らの間に共通点はなかった。彼らが鈴木を見る湿気を含んだ目線と、薪の涼やかな瞳は比べようもなかった。
 自分は、薪のあの目に弱いのだ。
 琥珀のように透明度の高い瞳。時にそれは夜空に浮かぶ月のように神秘を湛え、またある時にはイタズラ好きの子猫のように眩めく。鈴木の女の趣味は悪いと、氷のように冷ややかになったかと思えば、警察官僚になって警察機構を上から改革してやると、夢を語るときは熱っぽく輝く。
 でも、あんなに情の籠もった薪の瞳を見たのは昨夜が初めてだった。

 先刻まで自分たちがしていたことを思い出して、その行為が薪を手酷く傷つけたことを知って鈴木は、そっとベッドから抜け出す。傷口の血は拭っておいたけど、ちゃんと手当てをしておかないと、後で困るだろう。
 血止めと化膿止めの塗り薬を買うために、鈴木は夜中の街に出た。




*****




 自分たちの新しい関係は、人に知られてはいけないものだということを理解していた彼らは、友人たちの前では今までどおり振舞っていた。しかし、愛される喜びを知った薪の内面から滲み出す自信に満ち溢れた美しさは、どうにも隠しようがなかった。
 今までも薪と付き合いたがる人間は後を絶たなかったが、この時期の彼の周りには、ひっきりなしに彼と親しくなりたがる男女が押し寄せた。しかし薪は彼らを悉く、それもかなり辛辣に跳ね除けた。

 鈴木と付き合うようになって丸くなったと評されていた薪の性格は、昔に戻ってしまったようだった。どちらかと言えば内向的だった彼は、鈴木と友情を築くことで、鈴木を介して他の友人とも交流を深めるようになっていたのだが、それをぱたりと止めてしまった。他の者を交えず、鈴木とふたりきりでいることを好んだ。
 それは、付き合い始めたばかりの恋人同士が誰にも邪魔されずに甘い蜜月を過ごしたい、そんな当たり前の感情から起こされた行動だったのかもしれない。が、人間的な成長を考えれば、交友関係を至極限られたものにすることは明らかなマイナスだった。
 そのことに気付いてはいたものの、鈴木はそれを放置した。何故なら、鈴木自身が薪に溺れかけていたからだ。

 恋人という関係になってから、薪は変わった。
 意地っ張りの皮肉屋だったのが嘘のように、素直に鈴木に甘えてくるようになった。部屋でふたりきりになると、すぐに傍に寄ってきて、鈴木の腕や肩に額を預け、
「鈴木。僕のこと好き?」
 はにかんだ口調で照れたように、でも幾度となく聞いてきた。
「薪。そのセリフ、今日何度目だ?」
 心にもなく鈴木がからかうと、薪は頬を膨らませて、
「いいだろ。何回だって聞きたいんだ」
 そう言って鈴木の身体に両腕を回してくる。細いからだが愛おしかった。
 鈴木は薪を抱き返し、その場に組み敷き、彼の肌を貪った。相手を愛しいと思う気持ちがそのまま欲望につながる、そんな年齢だった。

「夢みたいだ」
 欲望が去った後も離れがたく、力を失った鈴木を自分の中に収めたまま、薪は窮屈に身体を折り曲げながら、すっかり平静に戻った声で呟いた。
「鈴木と、こんなふうになれるなんて。夢みたい」
 薪は言って、綿菓子みたいにふんわりと笑った。
 鈴木は、薪のそんな笑顔がうれしくてたまらなかった。ずっとこんな風に笑っていて欲しいと思った。そして、今のこの関係を壊したくないと痛切に願った。

 誰にも、特に自分の親には絶対に知られてはいけない。鈴木の親は薪のことをとても気に入っていて、彼の訪問を心待ちにするくらいだったが、それはあくまで息子の親友として歓迎していたのであって、こんな関係を結んだと知ったら間違いなく反対される。親のいない薪は、鈴木の両親を自分の親のように慕っていた。彼らの白眼視は、確実に薪を傷つけるだろう。
 薪を守りたい、と思う気持ちと、おそらくは保身のため。鈴木は、薪との関係を完璧に隠蔽しようと努めた。

 薪が鈴木との蜜月を満喫しようと自分の殻に閉じこもるようになっても、鈴木はこれまでと変わらずに友人たちとの付き合いを続けた。講義も、ゼミも、サークルも。以前と同じ生活スタイルを崩さないこと。それが鈴木が取った作戦だった。
 3ヶ月くらい過ぎた頃、友人のひとりが女の子を紹介してくれた。断ろうとしたが、「おまえ、恋人でもできたの?」と聞かれて断れなくなった。結局、一晩付き合って別れた。
 彼女に特別な感情は抱かなかったが、男女が一夜を過ごせばそこには当然、そういう関係が生まれた。逆に何もしないことによって、余計な詮索をされることを危惧した。彼女の方もさばけた性格だった。鈴木に、それ以上のものは何も求めてこなかった。薪と恋人同士になったものの、彼の身体を気遣って欲望を抑えていた鈴木には、格好の相手だった。

 翌日、友人のお喋りから薪にそれがバレて、ものすごいケンカになった。
「僕がいるのに」と責め立てられて、その剣幕に鈴木は何も言えなくなった。「カモフラージュのつもりだった」と説明しても納得してもらえなかった。事情は承知しているはずだと思っていたのに、真っ向から否定されてしまった。
 薪がこれほど嫉妬深いとは思わなかった。外見から推察するに、クールな部類に属すると想像していた彼の恋愛スタイルは、実は火のように激しかった。

「ごめん。もう二度としない」
 鈴木が謝っても、薪はなかなか泣きやまなかった。床に座って泣き続ける薪を見て、鈴木は思った。
 薪がそんなに嫌なら、もうこんなことはするまい。だけど、女の切れたことのない鈴木が突然女と付き合わなくなったら、周囲の人間は不思議に思うだろう。
 薪が落ち着いたら、その辺のことをよく諭してやろう。薪自身も、もっと友だちや女性と付き合うようにしないと、自分たちの仲は発覚してしまう。そうしたらきっと、一緒にはいられなくなる。

「嫌いに、ならないで」
 治まりきらない慟哭の中で、薪は途切れ途切れに鈴木の名前を呼んだ。鈴木が彼の顔を覗き込むと、薪の丸い頬に、乾くことを知らない涙がまた新たな水途を作った。
「初めはね、こんなつもりじゃなかったんだ。僕が鈴木を好きになったんだし、鈴木が女の子の方が好きなことも知ってるし、だから鈴木のことを束縛しようなんて、これっぽっちも思ってなかった。
 今日だって、我慢しなきゃ、って思ったんだよ。だけど」
 薪は懸命に言葉を継いだ。不規則な息継ぎが彼の言葉を聞きにくいものにしたが、それは鈴木に伝わる何ものをも阻害しなかった。
「カッコワルイよね、僕。みっともないって自分でも解ってるけど、でも……僕のこと、嫌いにならないで」
 
 臆面もなく、駄々をこねる子供のように。薪の愛情のベクトルは、真っ直ぐに鈴木を指していた。
 鈴木は彼の身体を抱き寄せた。首筋に、薪の涙が伝うのを感じた。

「好き、鈴木が好き。誰にもさわらせたくない」
 自分の感情を制御できないことを恥じる薪を、愛しいと思った。彼を放したくないと思った。
「鈴木にさわるやつ、みんな殺してやりたい」
 物騒な発言は、しかし鈴木の心を怯ませなかった。
 これまで付き合った女性の中に、ここまで独占欲の強い女性はいなかった。浮気がバレてケンカ別れした彼女は何人かいたが、縁りを戻すことはしなかった。世の中に女は星の数ほどいる。ポジティブな鈴木らしい考え方だったが、裏を返せば自分も相手もそれくらいの思い入れしかなかったということだ。

「そんなこと考えちゃいけないって、いつも自分に」
 薪の言葉を遮るように、鈴木は薪にくちづけた。ただでさえ不自由だった薪の呼吸はしばし止まり、鈴木が彼を解放したときには言葉を発する余裕もなかった。
「こりゃ大変だ。これからは隣で子供が転んでも、助け起こさないようにしなきゃ」
「……おばあさんを背負って横断歩道を渡るのもダメだよ」
 鈴木がおどけると、薪は泣き笑いの顔になって冗談を返してきた。頬は涙で汚れて鼻は真っ赤になって、髪もめちゃくちゃだったけど、すごくかわいかった。
 亜麻色の前髪に隠れた額に自分の額をつけて、鈴木はクスリと笑った。



*****


 あおまきさんでこれを書いたら、身体中痒くてたまらなくなると思うんですけど。 すずまきさんだと照れくさいだけで平気なのはどうしてかしら??



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

言えない理由 sideB(1)

 新春より当ブログにお越しのみなさま、ご来訪ありがとうございます。
 本年もよろしくお願い致します。
 この「よろしく」の内容を平たく言いますと、やっちゃいましたなSSにも目をつぶってください、ということで……今年も生温い眼で見てやってくださいねっ!!


 で、早速『やっちまったなSS』第一弾、すずまきさんの失恋話でございます。(松の内も明けないうちからすみません)
 うちのすずまきさんは、大学時代に1年くらい恋人として付き合っていたのですけど、薪さんが鈴木さんに振られる形で別れてしまいまして、その経緯を薪さん視点から書いたのが『言えない理由 sideA』でございました。 
 こちらはその逆バージョン、鈴木さんサイドから見たお話です。 どっちにせよ、別れちゃうことに変わりはないんですけど。(身も蓋もなくてすみません)



 こちらのお話、鈴薪強化月間参加作品 となっております。
 みなさまにはご存知の通り、にに子さんのブログ 『ひみつの225』 にて、鈴薪強化月間実施中でございますが、図々しくも、それに乗っけていただきました♪ (←ポチると飛べます)

 にに子さんとは、一緒に鈴薪強化月間を盛り上げよう! とお話いたしまして、1月の公開と相成りました。
 わたしはあおまきすとですが、すずまきさんあってのあおまきさんであって、薪さんが鈴木さんに恋をしていなかったから、薪さんが鈴木さんを殺めていなかったら、薪さんは青木さんに恋をしなかったと思ってます。 青木さんも、あそこまで薪さんに心酔しなかったんじゃないかと。 
 もちろん、これはあおまきすとにあるまじき考えだということは承知しております。 だって二人は運命の二人だから、どんな状況で巡り合ったとしても恋に落ちるに違いない、というのが正しいあおまきすとの考え方ですよね。
 だけどわたしには、そうは思えなくて。
 あのふたり、運命じゃなくて必然だった気がするんですよね。

 にに子さんのところの鈴薪強化月間に参加させていただこうと思ったのは、そう言った理由で、わたしがすずまきさんを重要視しているからです。
 以上、声明でございました。

 
 え、しづの本音?
 そんなん決まってんじゃん、うちのS話で傷ついた読者さんを、にに子さんの甘いすずまきさんで癒してもらいたいなって。 ←こすっからしい。
 
 ということで~、みなさま、うちの話を読んで「なんやこれ」と思われましたら、にに子さんのブログへダッシュ!!
 なお、しづの人の道に外れた魂胆は、にに子さんにはナイショにしてくださいねっっ!! ←非道。





言えない理由 sideB(1)






 爽やかな秋晴れの休日。
 鈴木は薄手のブルゾンのポケットに両手を入れて、ジーンズに包まれた長い足を軽やかに動かしていた。
 鈴木が向かっているのは、鶯谷の学生向けのアパートで独り暮らしをしている友人の家。今年の春知り合って、現在は一番の親友になった男の家だ。

 もうすっかり見慣れたドアの前に立ち、右手のチャイムを押す。すぐにドアが開いて、友人が姿を現わした。
 ドア口から顔を覗かせた彼は10月の潔い太陽光に照らされて、階段の下から吹いてくる秋風より涼やかに、鈴木を見てにこりと笑った。
「いい天気だぜ、薪。どっか行こうか?」
「やだ。部屋でゲームしたい」
「え~、またかよ」
「じゃあ、ビデオ観る。それか読書。とにかく、家の中がいい」
 頑固に言い張る自分勝手な親友に、鈴木は「はいはい」と頷く。言うことを聞いておかないと後で自分の頼みも聞いてもらえなくなるから、これはいわゆる妥協だ。

 主に促されて部屋に入り、鈴木が居間兼居住スペースのカーペットの上に置かれたクッションに腰を落ち着けると、キッチンからコーヒーと菓子を持って薪が現れる。レモン風味のパウンドケーキにコンソメ味のポテトチップ。さすが親友、オレの好みを解ってる。
 テレビの配信管理画面を開いて作品を物色し始める親友の背中を見て、こいつはこんなに極端なインドア派だったかな、と鈴木は思う。
 確かに本が好きで、室内でのゲームや映画鑑賞を好むタイプだったけど、以前はもっと頻繁に外へ出掛けていたような気がする。それともあれは、まだそれほど親しくない友だちに対する遠慮だったのだろうか。
 昔から友人の多い鈴木だが、この友だちは少し特別だ。とびきりの頭脳と容姿、そして誰にも真似できない独特の思考回路を持っている。薪の考えていることは、実のところ鈴木にもよく分からないことが多い。だからこそ面白いのだが。

「鈴木。なんかリクエストある?」
「女子アナ水着大運動会」
「……そのジャンルは登録されていません」
「なんで。基本だろ、男なら」
 薪の家のビデオ配信設定ジャンルは、本格推理もの、冒険アドベンチャー、動物感動もの。イロケのイの字もない。
「鈴木の家にはあるのか?」
「もちろん。オレの部屋のテレビのジャンル設定は、セクシー系、萌え系アニメ、アダルト映画の3つだ」
「……ヒロ兄、さいてー」
 鈴木の幼い妹の呼び方を真似て、薪が軽蔑しきった顔をする。
「おやおや。コドモの薪くんには、女の子のビキニ姿の騎馬戦は刺激が強すぎるのかな?」
「べつに。そんなの平気だけど。アダルトジャンルは有料だから、それだけ」

 薪は親元を離れてひとり暮らしをしている。仕送りはあるのだろうが、彼の読書量を勘案するに、多分ぜんぜん足りない。
 女子がデパートで洋服を買いすぎてしまうように、薪は本屋に入るとふらふらと本の背表紙に惹かれて行って、最終的にはびっくりするくらい大量の本を買い込む。1回に20冊くらいは平気で買うのだ。それを月に何回か。毎朝見かけるたびに違う本を持っていることが、鈴木には信じられない。

 鈴木の求める作風のものはここにはないことを悟った薪は、冒険活劇のカテゴリからひとつの作品を勝手に選び、スタートボタンを押した。軽快な音楽に乗って、主人公の青年とヒロイン役の美女が姿を現す。
 ジャングルの奥地に隠された秘宝をめぐるアドベンチャーだか何だか、そんな話らしかった。ストーリーは平凡だが、アクションシーン満載で純粋にワクワクする。こういう映画には付き物の主人公とヒロインの恋愛にしても、冒険を通してふたりが惹かれあう様子が自然に描かれていて、これなら恋愛映画としても楽しめそうだ。
 彼らの気持ちは秘宝に辿りつく直前に最高潮を迎えたようで、明日は洞窟の中に入る、という前夜、一緒のベッドに入ることになったらしい。胸の大きな金髪のヒロインが服を脱ぎ、鈴木が身を乗り出すと、隣にいた親友が席を立った。

「どこ行くんだよ?」
「コーヒーのお代わりを。あ、止めなくていいよ、先に進めちゃって」
 そんなもったいない、と思わず突っ込みたくなるのを堪えて、鈴木は停止ボタンを押した。
「待ってるから、早く持ってこいよ」
「いいよ。別に見たくないから」
 19歳の男が、こういうシーンを見たくないなんて、正気とは思えない。が、思い起こしてみると、薪はこういう場面がテレビに映ると自然に席を外すことが多かった。鈴木が悪友たちとナンパの成果を自慢し合うときも、黙って聞いているだけだった。薪は顔立ちも雰囲気も上品で、そういう話題にはそぐわない男だったから、その場では誰も無理に聞こうとはしなかったが、みんな気になってはいたのだ。つまり、薪の女性経験だ。

 新しいコーヒーを持って帰って来た親友に、鈴木は軽い調子で尋ねてみた。
「薪。おまえ、もしかして女の子としたことないの?」
「あ、あるよっ、僕にだって!」
 コーヒーカップを倒しそうになるほどうろたえて、薪は頬を赤らめた。その顔は鈴木以外の友人たちが同席しているときの表情とは、まるで違っている。鈴木の前でだけ見せる、薪の素の顔だ。

「へえ。いくつのとき? 相手は?」
「こ、高校三年のとき。相手はクラスの娘で」
「同級生かあ。どうだった?」
「そ、それが……あんまり、うまくいかなくて」
「なんだよ、何やらかしたんだ?」
「……笑わない?」
 うっすらと桜色に頬を染め、ちらっと上目遣いに見上げてくる親友の顔に、どきんと心臓が脈打つのを感じて、鈴木は焦る。こいつって、本当に可愛い顔してる。思わず性別を忘れてしまいそうだ。

「笑ったりしないよ。オレだって最初は、相手にリードしてもらったもん」
「そっか、相手が大人の女性なら良かったのかも。僕は同い年の娘だったから、相手も初めてだったみたいで。どこに入れたらいいのかよく解んなくって、だけど女の子のハダカ見てたら興奮しちゃって、入れる前にその」
「―― 未遂暴発?」
 赤い顔をしてこっくりと頷く薪を見て、鈴木は大声で笑い出した。約束を違えた鈴木に、恥ずかしそうに俯いていた薪が目を剥いて怒り出す。

「笑わないって言ったじゃないか! うそつきっ!!」
「だ、だっておまえ、それ……ぶはははは!!」
「鈴木のバカ――ッ!!」
 顔やら胸やらを、小さな手がめちゃめちゃに叩いてくる。まるで子供が癇癪を起こしているみたいだ。ホント、可愛いやつ。
「だれかに言ったら承知しな、って、なにチェーンメールで回してんだよ!!」
「いや、これきっと今年のグランプリだぞ」
「なんの!?」

 鈴木は薪の拳を避けようと、床に転びつつも笑い続けた。メールはもちろんフリだけ、こんな可愛い薪を他の誰にも見せたくない。だけど真っ赤になって怒る薪の姿はもっと見たいから、鈴木は携帯のフラップを閉じない。
 仰向けになった鈴木の腹の上に跨るような体勢になって、薪は鈴木の頬を思い切りつねる。それでも鈴木が笑いを収めないと知るや、薪はため息をついて鈴木の上から退いた。

「どうせ僕は、遅れてるよ」
「そんなことないって。てか、遅れてるとか進んでるとか、そういうもんじゃないだろ。薪が本当に好きになった人とすればいいんだからさ。焦ることないよ」
 膝を抱えて落ち込みのポーズを取る親友を、鈴木は慌ててフォローする。ここでこいつに機嫌を損ねられたら、週明けに提出予定のレポートは絶望的だ。
「付き合い始めて3日でやっちゃう鈴木に言われてもなあ」
「オレの祖先、イタリア人だから」
「ウソ吐け! 大和民族代表みたいな顔してるくせに」
「うおっ、気にしてるのに! いいよな、薪は。ハーフみたいで、カッコよくて」
 薪の亜麻色の髪や瞳は、太陽に照らされるとキラキラ光って、角度によっては金髪にも見える。それが不自然に見えないくらい、白い肌と整った顔立ち。その気になれば女の子なんか選び放題だろうに、薪は誰とも付き合おうとしない。変わったやつだ。

「好きじゃない」
 膝を抱えたまま、薪はポツリとこぼした。
「僕、自分の顔好きじゃないんだ。鈴木みたいな顔がよかった。こんな風に」
 隣に立ち膝をついた鈴木の顔に、細い指が伸びてくる。右手の中指の先が眉根に当てられ、すっと右にずらされた。
「眼は切れ長で、鼻は高くて。唇も顎も男っぽくて」
 左手の人差し指が眉間に当てられ、眉間から鼻筋を通って下に下りていく。下唇で立ち止まった指先が左にずらされ、頬に手のひらがあてがわれた。
「頬は……」
 華奢な両手が鈴木の頬を包み、薪は急に黙り込んだ。鈴木は薪の言葉の続きを待っていたが、やがて焦れて、彼に声をかけた。
「薪?」

 名前を呼ばれた薪は、突然両手で鈴木の頬をバシンと叩いた。
「痛て! なんだよ、いきなり」
「叩きたくなる頬っぺたなんだよ、鈴木のは」
「はあ?」
 相変わらず、何を考えているのか分からないヤツだ。
「警察官僚を目指す男が、そういう理由でひとを叩いて良いと思ってんのか?」
 鈴木の抗議に苦笑して、薪は顔を上げた。
 ちらりと時計を見て、台所へ歩いていく。何か食べたいものある? と聞かれて、鈴木は好物のスパゲティナポリタンを注文する。薪の間違った認識(付き合い始めて3日でなんて、そんな美味しい思いはしたことがない。最短でも2週間かかった)は是非とも正しておきたいところだが、それはこいつの作る昼飯を食ってからだ。薪の作るメシは美味い。鈴木の好みにピッタリと合った味付けだ。

 台所の入口で足を止め、薪はこちらに背を向けたまま呟いた。
「……本当にそう思う?」
「ん?」
「僕が本気で好きになった人とすればいいって、鈴木は本当にそう思う?」
「ああ」
 頷きながら、笑って悪かったかな、と少し後悔する。けっこう気にしていたらしい。罪滅ぼしの意味もあって、鈴木は彼の大人への挑戦にささやかな力添えを申し出る。
「もしかして、だれか狙ってる娘がいるのか? 教えろよ、協力してやるから」
 友情の証ともいえる親友の申し出に、薪は振り向きもしなかった。細い肩を軽く竦めて、静かに言った。

「いないよ。だれも」




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
10万拍手ありがとうございます!
いつの間にか9歳になってました。( ゚Д゚)
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