パンデミック・パニック(3)

 明日だっ、もう明日だよ~、あー、どうしよー、ねえ、どうしたらいいの? どうしたらいいと思う?!
 と言う会話を何日か前からオットに仕掛けては後頭部をどつかれておりますしづです。

 お話の方もパニック状態ですけど、リアルはもっと重症です。 あー、薪さん……。





パンデミック・パニック(3)





 青木がモニタールームを出た後、薪は気絶した犯人の頬を叩いて意識を回復させた。5回目のビンタでやっと目を覚ました男が、「なんて乱暴な女だ」とふざけたことを言うから、もう一発殴ってやった。

「おまえの名前は? このIDカードは? 盗んだのか」
 腫れ上がった頬を横に向けたまま、男は答えない。大抵の人間は手錠を掛けられると抵抗する気力を失うものだが、なかなか性根の据わったやつらしい。
「法一で、何をするつもりだったんだ」
 誰が言うか、と嘯く犯人に、薪は冷笑を浴びせる。
「黙秘する犯人に無理やり唄わせるのが取り調べの醍醐味ってもんだ。せいぜい僕を楽しませろ」
 喉の奥で笑って、薪は床に転がったままだったメスを取り上げた。先刻、自分の喉元に突きつけられた凶器をお返しとばかりに男の頬に当て、悪魔でさえ逃げ出しそうな残酷な笑みを浮かべる。

「へっ、脅したって無駄だ。監視カメラがあるところじゃ、警官は何もできないはずだ」
 犯罪者には厄介な設備であるはずの監視カメラが、自分の身を助けてくれる。ここは日本、法治国家だ。政治警察のような無体な真似は許されないはず。
 が、メスを持った男は戸惑う様子も見せず、それどころか鼻で嗤うように、
「知ってるか? ここは法医第九研究室と言って、死んだ人間の記憶を見るんだ。あのでかいモニターでな。個人情報の流出を防ぐため、システムが起動している間は監視カメラは作動しないようになっている。つまり、僕がおまえに何をしようと、真実は誰にも分からない」

 亜麻色の瞳が限りなく冷酷な光を宿しているのを認めて、男の背中に冷たい汗が流れる。
 第九研究室の悪名は、彼の耳にも入っていた。一緒に犯行を計画した友人から聞いたのだ。死神の棲まう研究室とか言われているらしい。特にそこの室長は冷酷非道な男で、本物の死神よりも恐ろしいとかサタンの生まれ変わりだとか稀代のファムファタールだとか、最後の意味はよく分からないが、とにかく、係わり合いにならないほうがいいと自分で注意したくせに、どうして建物の場所を間違えて教えるかな……。

「お、おまえ、警官だろ?」
「警察官だって人間だ。毎日毎日人殺しの画ばっかり見てたら、自分でも試したくなるのが人情ってもんじゃないか?」
「つっ、罪は必ず露呈するぞ! 完全犯罪なんかありえないんだ!!」
 もう、どちらが警官だか分からない。
 犯罪者側に片足を突っ込んだ第九の室長は、銀色に光る刃物をピタピタと男の頬に押し付けながら、
「おまえには生憎だが、僕は警視長という高い階級に就いている。僕の言葉は、ここでは絶対だ。誰も僕を疑ったりしない」
「さっきのデカイ男が帰ってくる! 彼は自分の正義に基づいて、正しい証言をしてくれるはずだ!」
 なるほど、と言って室長は、リモコン操作で自動ドアをロックした。ドアの前に立っても扉は開かない。ニヤニヤと笑いながら、彼はこちらに歩いてきた。……この男、本気だ。

 細い指が男の頬に添えられ、恐ろしいくらいに整った美貌が近付いてくる。至近距離で瞬きされて、重なり合う睫毛の音が聞こえたような気がした。
 これが男?あり得ない。こんな人間、この世に居るわけがない。この男の顔立ちは、人間を超えてしまっている。悪魔とか妖魔とか魔物とか、そういった人外の造形に近い気がする。
 要は、普通じゃないということだ。
「ずっとやってみたかったんだ……人間の身体中の皮膚を剥がしたら、どれくらいで出血死するものなのか。なあ、教えてくれよ」
 つうっと爪の先で男の頬を撫で上げれば、それがチェックメイトのサイン。

「わ、わかったっ!! 白状するっ! 実はこの細菌を増やして」
「細菌?」
 彼は手錠の掛かった手で、白衣のポケットから名刺入れ程の大きさの黒い箱を取り出した。
「うちの研究室で開発したばかりの細菌だ。これを培養して増やし、外国のテロ組織に売りつけようと」
「そんな物騒なことを考えていたのか。やっぱりここで殺しておくべきだな」
「いやっ、もうそんな気は失せ……あ、あれ?」

 ざざあっと幻聴が聞こえるほど、白衣の男は一気に青くなった。頬にメスを当てられていたときよりずっと、それは決して逃れられない死の恐怖に怯える者の顔つきだった。
「ケースが……壊れて」
 見ると、黒い小箱からは白い煙のようなものが立ち上っている。何らかの衝撃を受けたことが原因で密閉容器が破損し、中身が外に漏れ出してしまったらしい。
 ……もしかしなくても、さっきの一本背負い?

「あんたが投げ飛ばしたりするから!」
「人のせいにするなっ! 自業自得だろうが!」
 自分で認めてはいても、それを他者に指摘されると腹が立つものだ。特に、元凶の人間には言われたくない。
「い、いやだ、死にたくないっ、助けてくれ!」
「勝手なことを言うやつだな。それがテログループに渡ったら、何千人も死ぬんじゃないのか」
 犯罪者特有の身勝手な命乞いを、薪は足蹴してやりたい思いで退けた。
 多くの命が失われることが確実な行動を取っておいて、自分は死にたくない? ふざけるな、おまえが一番先に死ね。
 警察官の良識が飲み込ませた悪態を舌打ちに変えて、薪はぶっきらぼうに言った。

「ワクチンを出せ。打ってやるから」
「おれは持ってない」
「ワクチンも持たずに毒性のある細菌を盗み出してきたのか? 侵入する建物を間違うあたり、ドジな男だとは思っていたが。そこまでアホか」
 なんて杜撰な犯罪計画だ。容器の破損による自己の感染なんて、充分に考えられる事態ではないか。それくらいのことも計算に入れなかったとは、呆れ果ててモノが言えない。こんなオツムでテロ組織と取引しようなんて、恐れ入ったドリーム精神だ。

「研究所の名前と住所を言え。警察から働きかけて大至急取り寄せてや、――――っ!!」
 突然、男の口から大量の血液が吹き出した。近くに寄せていた薪の顔に、彼の吐血が掛かる。
「おいっ、しっかりしろ!」
 ゴボゴボと、男の喉奥で血泡が沸き立つ音がした。口端から赤い泡を垂らして、男は動かなくなった。カッと眼を見開いたまま、苦悶に歪んだ表情だった。
「嘘だろ、こんな劇的に発症する細菌なのか?! 冗談じゃないぞ!!」

 慌てて男の肋骨を探り、心臓の位置を確かめると、両手を重ねて体重を掛ける。薪は警察官だ。失われる命を、そのままになんてしておけない。
「研究所の名前を言え! 細菌の名称は!」
 懸命に心臓マッサージを繰り返しながら、薪は男に呼びかける。男の胸の上、重ねた手に、拍動は戻ってこない。それでも必死に圧迫を繰り返し、薪は彼に声を掛け続けた。
 心臓マッサージは重労働だ。薪の額には汗が浮き、呼吸は激しくなり、使い慣れない二の腕の内側の筋肉が痛みを訴える。
「帰ってこい! 僕の前で死ぬなっ!」

 鼻先から、汗が滴り落ちる。男の白いワイシャツに落ちた薪の汗は、赤かった。顔に浴びた彼の血のせいだ。
「ちくしょ……」
 自分の手から零れ落ちる命が口惜しくて、薪は美しい顔を歪める。知らなかったとはいえ、この男の死因は自分にあるのだ。
 MRIシステムを無謀な団体から守るため、守衛室の手前にはセンサーがあって、大量の火薬や危険物に反応して警報を鳴らすようになっている。警報が鳴った様子はないから、爆発物は持っていないと判断した。だから投げ飛ばしたのだが、それが命取りになった。
 
 汗だくになりながら薪が心臓マッサージを続けていると、入り口のほうから、ドンと鈍い音が響いた。
『痛った……なんでドアが開かないんだ?』
「入るな!!」
 その声を聞いた瞬間、薪は男から離れて、ドアに駆け寄った。
 犯人を脅して自白させるための偽装だったが、ドアをロックしておいて良かった。こんな危険な場所に、青木を入れてなるものか。

「青木、直ぐにこの建物を閉鎖しろ。誰も中に入れないように、おまえも早くここから離れるんだ」
 炭疽菌等の粉末細菌は空気感染する。ホワイトハウス宛の封筒に封入された炭疽菌で、郵便局員が感染した例もある。
 ケースから発生した白い煙を吸って、男は吐血した。モニタールームの自動ドアには防音効率を高めるためにかなりの密閉性を施してあるはずだが、絶対に外に洩れないとは保証できない。

『命の危険があるなら尚更です。オレは薪さんの傍に』
 窮状を理解せず、感情に流されようとする青木の愚かさに、腹が立った。思わず怒鳴ってしまった。
 これでは駄目だ、青木はもう薪の怒声には慣れてしまっている。いくら脅しつけたって、自分の命令には従わないだろう。

 落ち着くために、深呼吸をした。心臓マッサージの疲れか、立っているのが辛く、薪は扉に背を向けて体重を預けた。自然と目に飛び込んでくる、もはや手の施しようのない男の死体。
 フラッシュバックする過去の記憶。血溜まりに転がっていた親友の姿。男の顔は鈴木の顔になり、次の瞬間、薪の恋人の顔になる。
 ひゅっ、と喉が張り付いたみたいに、息ができなくなった。

『ここを開けてください』
 苦しそうな青木の声をドア越しに聞いて、薪は思った。
 感情に流されているのは、本当に駄目なのは自分のほうだ。
 青木の身に感染の危険があるかもしれないと、そう思っただけで自分はいとも簡単に、この男の蘇生作業を放棄した。自分がしなければならなかったのは、彼の蘇生を続け、この細菌の正体を聞き出すことだったのに。そうしておけば万が一感染が広がったとしても、被害に遭った人々を助けることができたかもしれないのに。

 薪はドアを離れ、男の死体に近づいた。開いたままだった彼の両目を閉じてやり、モニター用の埃避けに使う白布を亡骸に掛ける。
 結局自分は、テロ組織に細菌を売ろうとしたこいつと一緒だ。
 人の命は等しく重い、そんな当たり前のことすら分かっていない、実践できない。僕には青木の命だけが大事なんだ。
 世界中の人が感染してこの男のように血を吐いて死んだとしても、彼だけは無事でいて欲しい。今の自分の行動は、そんな利己的な心の現われだ。
 激しい自己嫌悪に駆られながら、しかし薪には悠長に自分を掘り下げている時間はなかった。感染エリアから青木を遠ざけなければ。
 再びドアに寄り、薪は悲痛な声で言った。
「……青木。僕を助けてくれ」
 
 自分はここに留まらなくてはならない。細菌に侵されて心停止した男の吐血を、顔面に浴びた。粘膜感染の可能性は極めて高い。
 死ぬ前に、やっておかなければならないことがある。

 礼儀を重んじている余裕はなかった。青木を屋外に避難させた後、薪はいくつかの番号に電話を掛け、そのうちの何人かをベッドから引き剥がした。
 その時点で打てるだけの手を打ち、モニタールームの中に今宵の寝床を定める。もしかしたら自分の最後の居場所になるかもしれないその場所で、薪は親友の名前を小さく呟き、襲いくる疼痛に身を震わせていた。





テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

パンデミック・パニック(2)

 発売日まで、あと3日ですね。
 どきどきします~。

 コメントで「薪さん的に幸せなラストを望みます」といただきまして、
 うんうん、本当にその通り、薪さんさえ幸せになってくれればあとはどうでもいいよ。 悪い奴らが捕まって、薪さんと青木さんは無事に第九へ帰って、薪さんの願いはすべて叶って、
 ん? 願い? 薪さんの願いって、青木に殺……。
「ダメじゃんっ!!」
 と、思わず口に出てしまって、社員に白い眼で見られました。
 
 この時期は、どうしても情緒不安定になりますよね。 わたしだけ?

 


パンデミック・パニック(2)




「おまえ、ちょっと見てこい」

 薪の命令に、青木は難色を示した。
 自分が此処を離れたら、薪が犯人と二人きりになる。それは危険ではないのか。守衛がこの男に危害を加えられていたら、と心配する薪の気持ちも分かるが、青木には薪の方が心配だ。
「警備室に連絡して、誰か見に行かせた方がいいんじゃないですか?」
「その必要はない。守衛室に誰も怪我人がいないことを確認できればいい」
「どちらにせよ、この男は警備部に引き渡すんでしょう?」
「……事を荒立てたくない。少なくとも、このIDの山岡宏という人物の身元を確認するまでは」
 歯切れの悪い言い方に、青木は薪の真意に気付く。
 薪の大学時代からの親友は、法一の副室長を務めている。この男がもし、法一の正式な職員である山岡宏という人物から手引きを受けて科警研に侵入したとなると、彼女は立場上、窮地に立たされることになる。それを慮って、可能な限り秘密裏にことを運ぼうとしている。言ってしまえば、守衛に怪我がなければ、第九への侵入も自分への狼藉も不問に付そうというのだ。まったくもって、薪は雪子にはとことん甘い。

「三好先生に電話して訊きますか?」
 青木が解決法を提示すると、薪はいささか驚いたように眼を見開き、それからぷいと横を向いた。何か身元を示すものはないかと、気絶したままの犯人の白衣のポケットを探りながら、
「新婚3ヵ月だぞ、最中だったらどうす……いいや、電話しろ。雪子さんが酷い目に遭わされてるかもしれない、てか、そうに違いない。むしろ行け。雪子さんの家まで行って確認して来い」
「…………守衛室に行ってきます」
 嫉妬心剥き出しの顔をして、いつになったらこの人は雪子とその夫が相思相愛であることを認めるのだろう。呆れ果ててモノが言えない、てか、雪子が羨ましい。薪は一度だって、自分にこんなヤキモチを妬いてくれたことはない。

 モニタールームを出てエントランスを抜け、正門の近くにある守衛室を覗くと、顔見知りの守衛が缶コーヒーを飲んでいた。インターフォンを鳴らしたときは、エントランスの自販機にいたに違いない。あんな物騒な人物を通しておいて、呑気なものだ。
 青木の姿に気付き、立ち上がって敬礼する守衛に、青木は穏やかに訊いた。モニタールームで起こった変事を守衛に悟られないように、平静な口調を心掛ける。
「こんばんは。先刻ここに来た白衣の男の人なんですけど。受付表を見せていただいてよろしいですか?」
 守衛は「はい」と気持ちの良い返事をし、受付表の束を青木の方へ寄越した。そこにはIDカードに記載された氏名と所属が書かれてあった。
 守衛室にはIDカードを読み取るためのリーダーがあり、偽カードによる侵入を防いでいる。受付表には「カード確認」の欄にチェックが入っており、決して守衛が確認作業を怠ったわけではないことが記されていた。薪の推測どおり、本物のIDカードに騙されたのだ。

 法一と第九を間違えたことから、彼は間違いなく部外者だ。となると、このIDカードは本来の持ち主から強引に奪ってきたとも考えられる。まずは「山岡宏」という職員の安否を確かめないと。
 山岡本人に連絡を取って彼の安全を確認するためには、やはり雪子に連絡を取るしかない。薪に相談しようとモニタールームに戻った青木は、入り口のドアに嫌と言うほど鼻頭をぶつけてしまった。

「痛った……なんでドアが開かないんだ?」
 モニタールームの自動ドアは、中からロックされていた。ロックを掛けたのは薪だと思うが、自分の意志でしたとは考えられない。犯人が何らかの方法で、薪に施錠をさせたのだ。

「入るな!!」
「薪さん!?」
 中から薪の怒鳴り声が聞こえて、青木は我を失う。
 犯人に脅されているに違いない。彼の身に迫った危険を思えば、どうして大事な彼をこんな危険な場所に置き去りにしたのかと、自分を打ち据えたい衝動に駆られる。
 焦燥に唇を噛む青木の耳に、薪の鋭い声が響いた。

「青木、直ぐにこの建物を閉鎖しろ。誰も中に入れないように、おまえも早くここから離れるんだ」
 建物を閉鎖しろだの、ここから離れろだの、立て篭もり犯にしては要求が変だ。こういう場合、金と車を用意しろ、と言うのが普通ではないのか。
「いったい何が」
「極めて危険な細菌が播かれた。感染の可能性がある」
「感染……?」
 あまり詳しくないが、危険な伝染病と言えばコレラとかペストとか?あの男が伝染病の保菌者だったということか?
「細菌の種類は分からない。犯人が死んでしまったからな」
「えっ」
 犯人が死んだと聞かされて、青木は度肝を抜かれた。さっきまで、他人に刃物を突きつけるくらい元気だったのに、突然死んだなんて。彼の死因が薪の言う伝染病によるものだとしたら、死体と同じ部屋にいる薪の身は甚だしく危険なのではないか。

「薪さん、大丈夫なんですか?!」
「今のところ大丈夫だ。青木、おまえは早く行け」
「いや、待ってください。その男が保菌者だとしたら、オレも感染してるかも」
 伝染病の中には空気感染するものも多いはず。たしか、SARSのコロナウィルスも飛沫感染だった。
「安心しろ。細菌は密閉された容器に入っていた。それが割れて、中身が洩れ出した。その直後に、彼は血を吐いて死んだんだ。だからおまえから感染が広がることはない。速やかに避難しろ」
「そんなの駄目です、命の危険があるなら尚更です。オレは薪さんの傍に」
「いいから早くここを離れろ!」
 それまで穏やかだった薪の口調は、いきなり激しくなった。上司らしく青木を諭すのは諦めたのか、いつもの暴君に早変わりした薪は、怒鳴るというよりは喚く口調で青木に命令した。
「急いで建物の外に出て、念のために検査を受けろ。自動ドアの隙間から細菌が廊下に漏れないかどうかなんて、僕には保証ができないんだ!!」

 薪の怒号の原因が自分の身を案じてのことだと知って、青木の胸はぎりぎり痛む。そんな危険な場所に、薪を一人残して行けるものか。
 歯を食いしばって、ドアに額を付けた。ここを開けてください、と搾り出した青木の耳に、逼迫した薪の声が聞こえてきた。
「青木、青木、頼む。僕を助けてくれ」
 涙交じりの薪の声。無理もない、たった今、正体不明の細菌に侵されて目の前で人が死んだのだ。薪だって怖いに決まっている。

「この男が細菌を持ち出した研究所に行って、ワクチンを手に入れて欲しい。そうしたら、僕は助かる」
「研究所の場所が分かってるんですか?」
「ああ、容器に備品シールが貼ってあって、研究所名が記してある」
 青木は心底ほっとした。迅速に事を運べば、薪は助かる。
「じゃあ、それを警備部に」
「青木、僕はおまえに助けて欲しいんだ。僕の命を預けるんだ、顔も知らない警備部の人間なんか嫌だ。おまえがいいんだ」
 普段は決して言わない我が儘を、だけど今彼は平常心を保てない状態だ。もしかしたら間に合わないかもしれない、ならば愛する恋人に縋りたいと、彼のいたいけな気持ちは痛いほど伝わってきて、青木は彼の願いを叶えてあげたいと思う。

「僕はおまえのものだろう? だったら、おまえが守ってくれ」
「薪さん……」
 愛の告白とも取れる言葉をドア越しに聞かされて、青木の胸は震える。絶対に、彼は絶対に自分がこの手で助けてみせる。そのためには。

「研究所の住所は電話で教える。まずはここから離れてくれ。おまえが感染してしまったら、元も子もない」
「はいっ!」
 青木は全力疾走で廊下を走り、建物の外に出た。背広の内ポケットから携帯電話を取り出し、薪に電話を掛ける。
『青木。外に出たか?』
「はい、いま守衛室の前です」
『それは重畳。では、車でI県のT市へ向かってくれ』
「分かりました」

 研究所の管理棟に向かい、地下駐車場から第九の所有車を選んで乗り込む。エンジンをかけ、ナビに行き先を登録しようと、青木は電波という見えない糸でつながっている上司に尋ねた。
「ナビに入力します。研究所の名前と場所を―― 薪さん?もしもしっ、薪さん、もしもし!?」



*****


 
 切れた携帯電話から最後に聞こえた恋人の声に、薪はクスクスと笑いを洩らした。
 先刻、青木と話をしていたドアの場所から一歩も動かず、床に座ってドアに背中を預けていた彼は、寸前までつながっていた電話番号に着信拒否の登録を施した。これであのバカの吼える声を聞かずにすむ。

 ガラガラと、防火シャッターの閉まる音が聞こえる。薪の要請に従って、警備部が操作をしてくれたのだろう。シャッターで菌の飛散を防げるかどうかは分からないが、未消毒の建物内に入って来ようとする愚か者をシャットアウトすることはできる。
 第五室長への連絡は、青木が駐車場へ走っている間に済ませた。法医第五研究室はバイオテロに用いられる病原微生物及び細菌毒素研究の専門部署だ。衛生班の手配から細菌の特定まで、任せておけば間違いはない。青木が自分の嘘に気付いて第九へ取って返す頃には、入り口は閉鎖されていることだろう。

 薪の投げ出された足先、床に転がった密閉容器には、ラベルどころかナンバーすら無かった。何の変哲もない黒色の小型ケースで、出所の探りようもない。息を止めて蓋を開けてみると、中身は完全に気化してしまったらしく、内側のプラスチックに僅かに水滴が残っているだけだった。
 死んだ男の身体も徹底的に探ってみたが、身元を示すものは何も持っていなかった。お手上げだ。

「職場であいつといい雰囲気になって、エライ目に遭わなかった試しがないな」
 やれやれ、と薪は失笑する。
 青木が無事でよかった。神さまって本当にいるのかもしれない。エライ目には遭っているけど、僕の一番大事なものは奪わないでくれた。

 ズキン、と関節が痛んで、薪に急な発熱を教える。きたか、と覚悟を決めて、薪は立ち上がった。
 死に場所を何処に定めたら、一番迷惑が掛からないだろう。消毒が簡単なように、シャワー室とか? ああでも、既にこの部屋は汚染されているのだ。この中ならどこでも一緒だ、ならばここだ。
 左端、前から二列目の席。今は持ち主のいない、かつての親友の席だ。
「まさかこんな形で、おまえのところに逝くことになるとはな」
 机に突っ伏して、薪は眼を閉じる。冷たいスチールの感触が、火照った頬に気持ちよかった。

 多分、自分は助からない。この菌に感染したら、あっという間に血を吐いて死ぬのだ。この細菌を持ち込んだ男が死ぬ様子を見ていた薪には、よく解っている。
 次第に苦しくなる呼吸に死の影を感じ取りながら、薪はひっそりと呟いた。

「鈴木、もうすぐ会えるな。……楽しみだ」



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

パンデミック・パニック(1)

 こんにちは。

 先週はたくさん拍手いただいて、本当にありがとうございました! 1週間で1050拍手は新記録です~。 おばさんはびっくりしました~(@▽@)
 ずっと昔から見守ってくださってる方々、ご新規の方々、誠にありがとうございます。 
 みなさん、きっと最初は麗しの室長を求めて『秘密 薪さん』で検索なさったはずなのに、何の間違いかこんなブログに流れ着き、
 原作設定完全無視の二次創作、しかもクールビューティのクの字もないオヤジ薪さん等々、数々の「ありえねえ」をお許しくださり、
 なかなかくっつかない上にくっついたと思ったら今度はケンカばっかりしてる残念なあおまきさんに辛抱強くお付き合いくださいまして、なんてお礼を申し上げたらいいのかしら。 ありがとうございますとしか言えないんですけど、本当に感謝してます。
 みなさんに喜んでいただけるような話が創れるように、これからも精進します。 (←だったら甘いあおまきさんを書けばいいんですよね…… どうしていつも心臓に悪い話になっちゃうんだろう?)


 感謝を込めまして、
 本日から公開しますこちらのお話、本編の過去を発掘しまして、2066年10月のお話になります。 『女神たちのブライダル』で雪子さんと竹内が結婚してから3か月後くらいです。
 内容は、病気で死にかけてる薪さんに青木さんが早く死んじゃえみたいな、いやいや、そんな愛のない話じゃなくて、病名を宣告された薪さんが我を失って暴れて雪子さんに足げにされ…… なんか違うなあ……。
 年を取るとどんどん日常の言葉に詰まるようになって、もともと苦手なあらすじの説明が壊滅状態に~、すみません、とりあえず読んでください。 

 で、ですね、いつの話だよ、って感じですけど、15000拍手のお礼ということで、お納めいただきたいと思います。 薪さんの女装も入ってますし♪ ←書きたかっただけ。
 
 しばらく書けなくなってて、久し振りに描いた話なので、文章も構成も素でヒドイです。 公開するの、申し訳ないくらい。(^^;
 毎度のことながら、広いお心でお願いします。
 

 それと、コメレスお待たせしてて、申し訳ありません。
 28日に河川工事現場の検査なんです。(メロディの発売日に検査なんて(--;) 
 それでしばらくバタバタしてて~、
 少しずつお返ししていきますね。(^^ 






パンデミック・パニック(1)





 凝視していたモニターから視線を外し、青木は眼鏡を押し上げるように下方から指を入れて、眼精疲労に凝り固まった目元を揉みほぐした。瞼を閉じると液晶画面の残像が、夏の木漏れ日のように揺れる。
 目蓋の裏の点滅が治まってから眼を開き、後方に頭を巡らせば、そこに彼は一筋の乱れもなくピシリと伸ばされた華奢な背中を見る。自分より12歳も年上で、体力的にも劣るであろう彼が毅然と職務に打ち込む姿を見れば、青木の姿勢は自ずと正されて、再びモニターを見つめる黒い瞳には真摯な熱意が灯る。

 業務終了時刻から約5時間。青木と室長が行っているのは、MRIシステムの過負荷テストだ。
 本来、過負荷テストは宇野という職員の仕事なのだが、彼は腸イレウスで入院中だ。再来週には職場に復帰できるとのことだったが、テストの期限は今週末に迫っている。過負荷テストは3ヵ月に1回の履行を定められており、もしテストを行わずにシステムが誤作動を起こした場合、室長は管理責任を問われてしまう。青木は宇野に次ぐシステムに精通した職員で、だから彼にお鉢が回ってきたというわけだ。

 先週、青木は宇野の見舞いも兼ねて、室長と共に彼の病室を訪れ、テストのポイントについて詳しい説明を受けてきた。病気の同僚に教えを請わずとも、取扱説明書を参考にすればできないことはないと思ったが、所詮マニュアルは汎用的なもの。経験に基づく話を聞いた方が分かりやすいし、現場では役に立つ。
 それに、宇野はちょっと変わっていて、三度の飯よりもパソコンが好き、プログラミングもパーツいじりも大好き。果てはMRIシステムを恋人のように可愛がっている。見舞いの花束より、仕事の話の方がずっと彼を元気付けてくれるのだ。

 繁忙を極める職務の合間を縫って、見舞いとテストの時間を作り出そうとしている薪に、自分一人でも、と青木は言ったが、これも上司の仕事だ、と譲らない薪に折れた。
「おまえみたいなボンクラに、大事なテストを任せておけるか」
 口ではそう言ったが、薪は部下思いだ。宇野のことも心配して、ずっと様子を見に行きたかったのだろう。

 モニターに示されるゲージがレッドゾーンを振り切らないように注意しつつ、ブロックごとに負荷をかけていく。エラーが出たブロックは、この先、不具合が起こり得るということだ。問題ありとして番号を控えておく。
 黙々と作業を続けていた青木に、室長の疲れたような溜息が聞こえた。ちらりとそちらを見ると、肩を回して眉をしかめている薪の姿。
「肩凝りですか? よかったら、マッサージしましょうか」
 システムにストッパーを挟んで、青木は部下として、あくまでも部下として申し出る。決してシタゴコロではない。

「けっこうだ。明日、岡部にしてもらうから」
 さては警戒しているな、と青木は思った。
 先週の土曜日はどうしても薪がうんと言ってくれなくて、でも青木は是が非でもしたかったから、マッサージの名目で無理矢理ベッドに引き込んだ。最終的に協力はしてくれたものの、騙まし討ちみたいに奪われた彼は、翌日かなり不機嫌だった。
「遠慮しないでください」
 冷たい拒絶を受けて、でもそれを素直に聞いていたら、このひとの傍になんかいられない。彼と付き合う極意は、にっこり笑って図々しく。青木は当然のような顔をして、薪の後ろに立った。

「僕に触るな。余計なことしてないで、さっさと自分のエリアを終わらせろ」
 肩に置いた手を振り払われて、さすがにちょっと怯む。先週の今日だ、まだ機嫌が直っていないのかもしれない。謝っておいた方が無難だ。
「土曜日はすみませんでした。もう、あんな真似はしませんから」
「土曜? ああ、別に。おかげさまでな、おまえの人を人とも思わない非道な振る舞いにはすっかり慣れた」
 恒常的に、部下をドレイとして扱う薪に言われたくない。けど、ここは我慢だ。

「そんなに怒らないでくださいよ」
「怒ってない。でも、おまえと職場で触れ合うと、その後ロクなことにならないから」
「はあ?」
「今までさんざんひどい目に遭っただろ? 小野田さんにバレて叱られたり、人格が入れ替わったり、写真を撮られて脅されたり」
「別系統の話も混ざってる気がしますけど、言われてみればそうですね」
 どうしてだろう、と考えて青木は、嫌なことに思い当たる。ここは鈴木が死んだ場所だ。だから鈴木の霊は第九にこそ残っていて、薪にちょっかいを出すと祟るとか?
 でも、それはおかしい。だって、いつも酷い目に遭うのは薪の方だ。鈴木は薪のことをとても大切に想って死んだのだから、薪には被害が及ばないように計らうはずではないのか。

「平気ですよ。肩を揉むだけなんですから」
 有無を言わせずジャケットの上から薪の肩を掴むと、薪は一瞬抵抗する素振りを見せたが、すぐに気持ちよさに負けてしまったらしく、低く呻いて顎を上げた。白い喉が仰け反って、亜麻色の髪がさらりと青木の手の甲をくすぐる。
「そうだな。邪心が無ければ大丈夫かな……んふっ……」
 薪にはなくても、青木にはたっぷりある。いっそ邪心で出来ている。
 だって、マッサージを受けている時の薪の表情と言ったら、あの時の顔そのままで。呻き声もモロにアレだし、ドアの外で聞き耳を立てている人間がいたら、誤解されること請け合いだ。もしここに守衛が見回りに来たら、明日はとんでもない噂が科警研を席巻するのだろうな、限りなく真実に近い噂だけど、と青木は乾いた笑いを洩らした。
「なんだ?」
「いえ、なんでも……えっ?」

 地獄耳の薪が訝しげに眼を眇めた時、自動ドアが開いた。守衛はモニタールームに入ってはいけないことになっているのに、さては薪の声を聞かれたか、と思いきや、そこにいたのは警備服ではなく、白衣に身を包んだ男だった。
 首からIDカードを下げている。他の研究室の人間だろうか。こんな時間にアポも取らずに、ずい分非常識な話だが、何か緊急事態なのかもしれない。青木は薪の傍を離れて、訪問者の方へ足を進めた。
「何か御用で」
 
 口を開いた青木の横を、ひゅっ、と男は通り過ぎた。青木の眼に、白衣の残像が残る。男は真っ直ぐに薪の席に向かい、彼の腕を掴んで強引に立たせた。薪の背後に回り、細い首に白衣の腕を回し、頬に光るものを突き付ける。蛍光灯の光を反射してきらめく棒状のそれは、医療用のメスだった。
「薪さん!」
「騒ぐな。早く培地を用意しろ」
 白衣の男は、低い声で言った。
 侵入者の目的も要求もいま一つ意味が分からず、何よりも薪に危険が迫ったのを見て、青木はその場に立ち竦んだ。下手に動くと命取りになる。

「室長を放してください。オレが人質になりますから」
「あんたは人質にするにはデカ過ぎる。このくらいのサイズの方が、逃げるときも便利だしな」
 人より若干小さい体格を指摘されて、薪の表情が険しくなる。そんな細かいことに反応している場合ではないと思うのだが、もはや条件反射なのかもしれない。

「青木。G-8957のブロックにストッパー挟んどいてくれ。テストが途中なんだ」
「さすが法一の室長。この状態で口が利けるとは、肝が据わっている」
「暴走させてしまうと、最初からやり直しになる。ここまで3時間も掛かったんだ、冗談じゃない」
 自分の命を握っている者に対して、ズケズケと物を言う。それは確かに薪らしい行動だったが、青木は気が気ではない。相手を怒らせたらグサリということもあり得るのに、無鉄砲にも程がある。

 首にメスを当てられても顔色一つ変えない薪に、侵入者は舌打ちした。見れば、白衣を纏った彼からは、医療に携わる者が持つべき命に対する敬虔さも慈愛も感じられない。雪子が白衣を着ると輝いて見えるのは単なる白衣効果ではなかったのだと、今さらながらに青木は知った。
 薪を人質に取られて身動きもできない青木に比べ、当の薪は普段となんら変わらぬ声で、
「ところで君、訪問先を間違えてるんじゃないのか。ここは法一じゃなくて第九だぞ。培地なんか用意できない」
「えっ!? そんなはずは」
 冷ややかに薪が指摘すると、侵入者は上ずった声を発した。焦って周りを見回して、見たこともない機械に自分が囲まれていることに気付き、呆けたように口を開けた。

 その隙を、薪が逃すはずがなかった。
 靴の踵で相手の足の甲を思い切り踏みつけると、痛みに緩んだ手からメスを叩き落とし、素早く腰を屈めて一本背負いを決める。背中から床に叩きつけられた痛みにあっけなく気を失った相手に、薪は容赦なく手錠をかけた。

「薪さん、怪我は」
「ない」
 一瞬とは言え捕り物の後、薪の冷静さは憎らしいくらいだ。
 薪は強い。だからいつだってこの調子で、青木の手など必要としない。自分は彼のボディガードなのに、彼を守りたくてあんなに鍛錬を重ねてきたのに、それを殆ど役立てられていない現実が悔しくて仕方ない。

「この男、何者なんでしょう?」
「さあな」
「法一に侵入するつもりが、ここに来ちゃったってことですか?」
「似たような建物だからな。正門に名前が刻まれてるけど、一と九の違いだからな。慣れない人間が夜目に間違うのも無理はない。それより、この男が法一に侵入しようとした目的は何だったのか……」
 手錠で繋がれた犯人の両手を仰向けになった彼の胸に載せ、首から掛けられた身分証明のIDを確認する。カードに記された名前は山岡宏。偽名か本名か、盗んだものか偽造したものか、この時点ではまだ判断はつかない。

 薪はIDカードを抜き取ると、端末に繋がれたカードリーダーに挿入した。科警研の人間なら閲覧できるシステムにアクセスして、カードが有効かどうかを試す。
「IDは本物らしいな。守衛もこれに騙されたのか、それとも」
 薪はちょっと考えて、犯人の傍らに膝をついている青木を見た。叡智に輝く亜麻色の瞳は、この短い時間で事件の裏側を早くも悟ってしまったかのような落ち着きを湛えている。
 
 薪は壁に掛けられたインターフォンを押して、守衛室を呼び出した。しかし、応答は無かった。所要で席を外しているのか、あるいは。
「見回りに出てるんですかね」
 科警研の警備は、実はそれほど厳しくない。夜間の警備は基本的には監視カメラのみ。第九には専属の守衛室があるだけマシなのだ。
 逆恨みした犯罪者がいつ襲ってくるか分からない警視庁と比べて、科警研は平和だ。ここはあくまで研究所だからだ。第九もその一施設に過ぎない。捜査データの流出には気を使うが、セキュリティは機械任せだし、対人間用の警備は手薄だ。尤も、警察庁の警備部と連携しているから、異変があれば応援はすぐに来るのだが。

「おまえ、ちょっと見て来い」



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ジャンル : 小説・文学

ヘアサロン(5)

 そうか、世はバレンタインだったんですね。
 すっかり(今年も)失念しておりました。 ごめんね、オット。(今年も) 来年は忘れないようにするからね。(多分無理)


 過去作品に連日の拍手をありがとうございます。
 4日連続で3ケタだった~、たくさん拍手してもらってすっごくうれしい、でも話の内容を思い出すとこんなん読ませてごめんなさいっ!! て夢中で謝りたくな…… とにかくありがとうございます。 あなた様の寛容に感謝します。


 毎度バカバカしいお話、こちらでおしまいです。
 読んでいただいてありがとうございました。 笑っていただけたら、とってもうれしいです。





ヘアサロン(5)







 どうにも治まらない腹の虫を力技でねじ伏せて、薪はスタイリングチェアに座り直した。
 まったく、失礼な。岡部の年若い義母がフェアリー系ロングの美人なのは知っているが、どうして彼女の髪型を男の自分に当てはめるのだ。悪ふざけにも程がある、と薪の憤りは尤もだが、残念ながら美容師たちはふざけていたわけではない。

「改めて確認しますけど」
 おずおずと掛けられた質疑に、薪はうんざりする。さっきも細かいことをぐちゃぐちゃと訊かれて、いい加減イヤになっていた。街の美容室はやっぱり面倒だ。
「平気です。短くなってもいいですから、クセのついた毛先を全部切って」
「本当に男の方なんですか?」
 確認、そこ!?

 性別も判断できないような腐った目玉ならいっそのこと刳り抜いてやろうか、と物騒な脅し文句が頭を過ぎるが、ここは岡部の馴染みの美容室。彼の立場を悪くするようなことは控えるべきだ。
「いや、失礼しました。ガーリー系のショートボブにされてたから」
「理髪店の店員のミスで。眠って起きたらあの髪型になってたんです」
 ガーリーだかパーリーだか知らないが、それは薪の咎ではない。カットクロスに包まれた彼の姿を見て、100人中100人が女性だと判定しようと、罪は錯誤した100人にあるのであって自分は悪くない。多数決なんかで性別決められてたまるか。

「男子警察官に相応しい髪型にしてください」
「かしこまりました」
 どうにか意思の疎通を果たし、薪はクロスの下で肩の力を抜いた。
 これで一安心だ。ここに来る途中、いつになく男に声を掛けられたが、今思うと、そのガーリーなんとかのせいだったのだろう。髪を切れば、あの不快な体験ともおさらばできる。

 しかし、運命は薪に冷たかった。

 過酷な運命の始まりは、ルルル、というやさしい電子音だった。それを薪は、店内に流れるヒーリング音楽と共に聞いていた。
 この曲はトロイメライのアレンジだな、とぼんやり考えていると、ゆったりした楽曲の流れを破るように、店員の大きな声が響いた。
「店長、大変です! 頼んでおいたカットモデルさんが、ここに来る途中、交通事故で」
「なんだって!?」

 店長はそれを聞くと、薪の髪に吹きつけていた霧吹きを放り出すようにキャスターに置き、泡を食って電話口へ向かった。引っ手繰るように受話器を受け取った彼の口から、それは困る、とか、誰か代役を、など、途切れ途切れの言葉が聞こえてくる。
 店長と入れ替わりに電話を受けていた店員がやってきたので、薪は彼女に事情を聞いてみることにした。
「何かあったんですか?」
「実は、これから雑誌の取材が入ってたんですけど、カットモデルの娘が事故に遭ってしまって。怪我は大したことないみたいなんですけど、病院と警察に止められてるから撮影には間に合わないって」
「それは困りましたね」
「ええ。今からじゃ、代役を頼むって言っても」
 気落ちした様子で答える店員の声を遮って、店長の激した声が響く。

「困るよ、同レベルの娘を用意してくれないと! 『Hモード』の取材なんだよ? 店の存亡が懸かってるんだ!」
 受話器を投げつけんばかりの勢いに、薪の眼が丸くなる。お客に不快感を与えていると察した店員が、申し訳なさそうにフォローした。
「すみません、お見苦しいところを」
「いいえ、僕は警官ですから。もっとすごい怒鳴り声を日常的に耳にしてますよ」
 僕が部下を怒鳴りつけるときはあんなもんじゃありません、と喉まで出掛かったセリフは意識して臓腑に収めた。岡部のテリトリーで、彼の男を下げるようなことを言うべきではない。

「『Hモード』は、業界では有名な雑誌なんです。それに載れば優良店として認められたことになるし、店の宣伝にもなるからって、店長、張り切ってたから」
「店長さんのお気持ちは分かりますよ。どんな仕事でも、長という名が付いた人間の苦労は大きいものです」
 店の存亡が懸かっているとなれば、店長が必死になるのも当たり前だ。薪だって、第九の存続が危ぶまれたりしたら、なりふり構っていられない。長たる者の責任と使命を果たそうとする、彼の情熱には共感すらできる。

「察してくれよ、下手なモデルなんか使えな……なにい!? モデルの問題じゃなくて、カット技術の問題だろうって? そんなことは解ってる、でもね、肉眼ならともかく、写真はモデルの美醜に左右されるんだよっ! そんなことも分からないで、よくモデルの派遣なんかやってられるな!!」
 憤る店長の様子は痛々しいくらいで、薪は少しだけ彼に同情する。長く続く不況で、美容業界も大変なのだろう。
「はあ? お宅のモデルがA級品の粒揃い? それは何処の美的基準なんだ、猿の惑星か、地底人か。ふざけちゃいけない、うちの店に来てくれるお客さんの方がずっと美人だよ! 今いるお客さんもね、今日頼んだ娘なんか比べ物にならないくらいの美人なんだ」
 自分の美意識を満たすモデルを派遣してもらえないことに腹を立てた店長は、派遣会社にクレームをつけ始めた。自分のことが話題になっている気もするが、美人という形容詞が付いているので、これは店長の見栄だろう。男の自分に付くのは、凛々しいとかカッコいいという形容詞のはずだ。

「なんか店長さん、怒りのあまり話がズレてるみたいですけど。今は一刻も早く、代わりのモデルさんを斡旋してもらうべきじゃないんですか?」
「店長、普段はやさしい人なんですけど。頭に血が上ると口が止まらなくなるって言うか、売り言葉に買い言葉で。いつもとんでもないことになっちゃうから気を付けてくださいって言ってるんですけど」
 薪も頭に血が上ると失言が多くなるクチだから、彼の心理は分からなくもなかった。あれって、その場の勢いに押される感じで自分でも止められないんだよな、と我が身を反省し、他人から見るとこんなに滑稽に映るのか、と恥じ入るような気分になった。

「じゃあ、そのお客にモデルを頼めばいいだろうって? 言われなくてもそうするさ!!」
 叫ぶと同時に電話を切った店長に、薪の眼が点になる。
 本当に、買い言葉で通してしまった。取材の時間が迫っているのにモデル会社とケンカしてどうする気だろう、と他人事ながら心配になる薪の傍らに、店長はさささっと走ってきて、
「そういうことになりましたから」
「…………えっ?」
 お願いします! とスタッフ全員に頭を下げられたが、もちろん薪には何のことやら分からない、てか、分かりたくない。

「冗談ですよね? だって僕は」
「大丈夫です! うちはメイクも自信があります!」
「いやあの、メイクの問題じゃなくて」
「店長、モデルさんに用意したドレス持ってきました!」
「ドレスってなに!?」
 思い切り突っ込んだのに、誰も薪の言葉なんか耳に入っていない様子だ。「もっとエクステ用意して」「メイクの用意を」などと、次々に店員に飛ばされる店長の命令が、薪の抗議を掻き消していく。
 まずい、このまま行くと化粧をされてドレスを着せられて写真を撮られてしまう。そんなものが職場に出回ったら、恥ずかしくて仕事に行けなくなる。

「あのっ!! ちょっと僕の話を、わぷっ!」
 失礼いたします、と言う優しい言葉と一緒に薪の首に通されたのは、黒いサテンのロングドレス。
「おお、サイズもぴったりだ! これで安心ですね!」
 めちゃくちゃ不安なんだけど!!
「我々スタッフにお任せください。業界最大手のモード誌、『Hモード』に相応しいモデルに仕上げて差し上げます!」
 そんな目的で来たんじゃないし!!

「では、メイクに入らせていただきます」
「待ってください、僕は、うっ」
「動かないでくださいね、ビューラー掛けますから」
「僕は引き受けるなんて一言も、んっ」
「喋らないで。口紅塗りますから」
「ちょっ、少しはひとの話を」
「この肌の白さだと、アクセサリは銀の方がいいわね」
「それならアイメイクにも銀ラメを入れて。アクセと合わせた方がいいわ」
「待って、それはお客さまの清純な雰囲気を台無しにしてしまうわ。ラメは無いほうがいいと思う」
「私もそう思う。本当のメイクは、お客さまの肌の色、服装の好み、そこから発せられる無言の要望に耳を傾けて為すものよ」
 メイクの真髄はどうでもいいから、僕の話に耳を傾けてっ!!!

 何人もの女性の手が薪の顔の上を滑り、彼の面に華やかさを添えていく。彼女たちはとても楽しそうだ。人形遊びでもしているかのように、無邪気にはしゃいでいる。
「「「いかがですか、お客さま」」」

 彼女たちの手が遠のき、薪に視界が戻ってくる。美容室の大きな鏡の中にいたのは、亜麻色の髪を可愛らしく巻いた絶世の美女。
「オボエテロよ、岡部……」
 写真用の派手なメイクを施され、黒いドレスに身を包んだ彼女の呟きは、誰の耳にも留まらなかった。




*****




 木枯らしの吹く街をクリスマスソングが彩る頃、岡部の元に、行きつけのヘアサロンから一冊の雑誌が送られてきた。
 不思議に思って添えられた手紙を読むと、『紹介してくれたお客様に渡してください』と書かれており、岡部はますます訳が分からなくなった。岡部がこの美容室を紹介した相手といえば勤め先の上司だが、彼はこんな雑誌には興味が無いはずだ。

 パラパラと頁をめくると、特集記事が組まれた優良店舗の中に件の店が入っているのに気がついた。ということは、薪に対する宣伝のつもりだろうか。
 残念ながら無駄だったな、と岡部は顔なじみの美容師を気の毒に思う。

『僕は一生涯、ヘアサロンには行かない』

 彼の店を紹介した後、岡部は薪にそう宣言されたのだ。岡部には薪の髪はとてもよく仕上がっているように見えたのだが、薪は気に入らなかったらしい。フィーリングの相違と言うやつだろうか。前髪をクリップで留めるような人だから、髪型にそれほどの拘りがあるとは思わなかったのだが。
 どれだけ気に食わなかったのか知らないが、彼は恨みがましい眼で岡部を睨み、その不機嫌は1週間近くも続いた。岡部に対してはいつも寛大な薪が、どうしたことかと訝しく思っていたのだ。

 次に店を訪れた時、雑誌に掲載されたお祝いを言うため、岡部は彼の店の紹介記事に目を通すことにした。『魔法のエクステンション』とか『得意のテイストはフェミニン系』とか、岡部にはちんぷんかんぷんの文字が躍る中、彼はそこに信じられないものを発見した。

『ガーリー系ショートからグラマラスウェーブへの華麗な変身』『ストレートロングで深窓のお嬢さま風』『巻き髪アップでパーティの主役』などなど、女性の興味を引きそうな謳い文句の上に配置された数枚の写真。それを見た途端、岡部は薪の不可解な言動のすべてを理解し、同時に心から彼に同情した。

「薪さん……おいたわしや……」
 衷心から呟くと、岡部は雑誌をぱたりと閉じ、資源ごみの袋に投入した。




(おしまい)




(2011.11)


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ヘアサロン(4)

 この章をアップしようとして気付いたんですけど。 
 このお話、男爵シリーズの『天国と地獄3』を読んでないと意味が分からないかも。 ←今ごろ!!!
 雑文は設定とかいい加減で~(だって雑文だし)、薪さんの階級も警視正のままだったり、男爵系統の設定も混ざってたりして、分かり難くてゴメンナサイです。


 
 ちょっと私信です。
 Rさま。

 そう、そうなんですよっ!! あの歌、正に本誌の薪さん状態じゃないですか!!!
 ちょっとだけ引用 ↓↓↓

「例えば今此処で君が消えてさ 例えば何もかも終わり行く運命でも 変わらないよ二人で見た景色もこの気持ちも 支えあう強さを感じてonly you 」
 さらに2番、 
「例えば今此処で僕が消えてさ 例えば世界は知らぬ顔で回ろうとも 願うのは君の心で輝き続けること 通い合う喜び感じて to be with you 」 

 歌詞だけ読むと鈴薪っぽい気もしますが、ここは敢えてあおまきで! この曲の明るさ、前向きさは、どうしようもなくあおまきだと思うの。
 なのでね、現在、この曲のイメージで滝沢さんのお話を書いてるんですよ~♪ 
 ……「なんでこの歌で滝沢!?」とRさまが絶叫なさるのが目に見えるようデス。(笑)






ヘアサロン(4)






 翌、土曜日の午後1時5分前。
 部下が描いてくれた地図と自己の記憶を頼りに、薪は目的の店を見つけ出した。それほど大きな店舗ではなかったが、落ち着いた外装の店だった。
 入り口のドアには『ヘアサロンNANA』と書かれていた。岡部の行きつけの散髪屋が理髪店でなかったことは少し意外だったが、薪の苦手な、客の姿が外から丸見えの壁面ガラスの店舗でなくてよかった。通行人の見世物になったような気がして、あれはどうも落ち着かないのだ。

 ドアを開けると、カランとカウベルが鳴って、いらっしゃいませ、と複数の店員の声が掛かった。店には2人の先客がおり、それも仕上げに近付いているようだった。
 受付のカウンターで薪が、岡部の紹介で来たことを告げると、店員は、少々お待ちください、と待合スペースのソファを手で示した。促されて腰を下ろすと、それを見計らったようにコーヒーが運ばれてきた。なかなか接客の行き届いた店だ。

「店長。1時にご予約の方で、岡部さまのご紹介だそうです」
「ああはい、伝言メモにあった人ね。岡部さんと同じ髪型にしてくれって」
「岡部さまと同じ、ですか?」
 店長らしき男と話をしていた受付の女性美容師は、ちらりと薪を振り返った。コーヒーを飲んでいる薪を見て、ほんの少しの思案した後、テキパキと言った。

「じゃあ、エクステの用意しますね。お色はA12くらいで?」
「うん。頼むよ」
 店員同士の話は専門外の薪には意味不明だったが、客の髪にスプレーを掛けながら、もう少しお待ちくださいね、と薪に笑いかけた彼らの笑顔は気さくで、薪はこの店に好感を持った。店内も落ち着いた雰囲気でくつろげるし、さすが岡部のお勧めの店だ。
 
 コーヒーカップが空になると、シャンプー台へ案内された。天井を見上げる形式のシャンプー台は馴染みが薄いが、慣れてしまえばこちらの方が楽かもしれない。
「綺麗なお色ですね。染めたばかりですか?」
「…………あ、地毛です」
 気が付いたら眠りかけていて、質問に答えるのが遅れた。年のせいか、横になるとすぐに眠くなって困る。
「まあ、羨ましい。生まれつきなんですか?」
 店員の次の言葉には答えられなかった。女性のやさしい指先による頭皮のマッサージは気持ちがいい。シャンプー台に横になって2分も経たないうちに、薪はすっかり夢の中だった。

「あら、眠ってしまったわ。……それにしても、きれいな人ですねえ。岡部さんの奥さんも美人だけど、またタイプの違う美人だわ」
「違う違う、雛子さんは奥さんじゃなくて、お母さん」
「えっ? 息子さんとは似ても似つきませんけど」
「雛子さんは後妻さんだから」
 洗い上がった髪を乾かしながら、そうなんですかあ、と彼らがお客のプライバシーについて話をしているのは、店内には眠った客と3人の店員しかいないからだ。2人いた先客は仕上がりに満足してお帰りいただいたし、残る一人の客は眠っている。お得意様との未来の会話の中で、トラブルの原因になるかもしれない誤解は解いておいた方が賢明だ。

 今日の予約客は、このお客で最後だ。初めてのお客だから、これからリピーターになっていただくためにも満足してもらえるように自ら腕を振るおうと店長は考えていた。
 今日、こんなに客が少ないのには理由がある。
 実はこれから、業界一のファッション誌、『Hモード』の取材が入っているのだ。あの雑誌に載れば店の宣伝になる。そのための、専用のモデルも雇った。取材の対象はあくまで店の技術だが、モデルの見た目に左右されるのも事実だ。撮影が始まれば自分はモデルに掛かりきりになるから、他のお客には眼が届かなくなる可能性が高い。そんな失礼をするくらいなら、と予約を調整させてもらったのだ。

「乾かしたら、カット台に移っていただいて」
「はい。お客さま、お疲れの処すみません」
 店長の命に従おうと店員は、客に声を掛けてから徐々に背もたれを起こし、すると彼女はゆっくりと眼を開けた。風に吹かれる花弁のように、ふわりと揺らいだ長い長い睫毛。
 店員の言うとおり、なんて綺麗なひとだろう。
 計算づくで作られた人形のように、完璧に整った目鼻立ち。透き通るような白い肌。美容師として注目せずにはいられない、あの亜麻色の髪の輝きはどうだろう。洗い上げただけなんて、信じられない。職業柄、美髪モデルには知り合いも多いが、彼女たちよりずっと意欲をそそる素材だ。

 寝不足なのか、彼女は軽く目をこすりながら鏡の前のスタイリングチェアに移動した。髪質を手で確かめながら、ヘアスタイルの確認をする。
「岡部さんと同じ髪型でいいんでしたよね?」
「はい。お願いします」
「かしこまりました」
『岡部さんと同じ髪型』は真ん中分けのウェーブヘアだ。髪の長さはエクステで調整するとして、分け目は髪の流れに合わせた方がいい。彼女の額はとても美しいが、意外と強気な眉をしているので、このまま左分けにして前髪は下ろしたほうが愛らしさが強調できる。

「前髪はこれくらい長さがあった方が、お客さまにはお似合いだと思いますが。岡部さんのように、額は出したほうがいいですか?」
「あ、いえ。そこまでそっくりにしたいわけじゃないんで。適当でいいですよ」
「では、前髪は残しますね」
 はい、と彼女が頷いたのを確認し、店長は彼女の後ろ髪に手をかけた。
 それから幾つか細かいことを訊いたが、彼女はあまり髪型に拘る女性ではないらしく、「適当でいいです、お任せします」という答えしか返ってこなかった。美人と言うのは案外こんなものだ。これだけ元が良ければ、細部に拘らなくても美しく見えるからだ。

 確認を済ませ、店長は彼女の地毛にエクステンションを添えた。エクステンションの先にはケラチンが付いていて、ヒーターに挟むと超音波でケラチンが溶け、地毛に接着する仕組みになっている。少々値は張るが、髪のダメージを考慮すると超音波以外のエクステンションはお客に勧めたくない。こんな美髪なら尚更だ。
「お客さまの髪の色ですと、こちらのものが最適かと。長さと形は調整できますので」
「ええ、適当で……ちょっと待った!!」
 それまで大人しかったお客が、突然振り返ったので、店長はヒーターを取り落しそうになった。超音波式だから火傷はしないが、それでも急に動いたら危ない。動かないように忠告しようと店長は口を開いたが、彼女の声の方が早かった。

「なんでそんなもの付けるんですか!?」
「……岡部さまと同じ髪型をご所望では?」
「そうですけど。そんなものを付けないと、あの髪型にならないんですか?」
「岡部さまの髪は、背中まで届くゆるふわウェーブですよ? 絶対的に長さが足りません」
「そうですか、背中まで届くゆるふわ、ってどこの岡部だ、それは!!」

 何故だか分からないが、怒られてしまった。ショートボブの客がロングヘアを希望したら、エクステで対応するのが当たり前だ。店側に落ち度はなかったはずなのに、彼女はどうしてこんなに怒っているのだろう。
「いったい、岡部の電話の何を聞いていたんです!」
「伝言メモには、ご紹介者様の岡部さまと同じ髪型にと……岡部雛子さまのご紹介では?」
 店長が得意客の名前を出すと、初顔の客は眩暈でも起こしたかのように額に手を当て、沈痛な面持ちで言った。
「紹介者の名前はフルネームでメモするよう、従業員に徹底すべきです」
 初めての客に、社員教育について諭されてしまった。失礼な、と思ったのも束の間、彼女の次の言葉に、店長の憤慨は一瞬で吹き飛んだ。

「僕の紹介者は岡部靖文。彼と同じ髪型を希望します」
 
 寺島公延、42歳。20年美容師をやってきて、お客の言葉に開いた口が塞がらなかったのはこれが初めてだった。



*****


『天国と地獄』を読んでない方に、補足説明です。
 うちの岡部さんには、雛子という義母がいます。 岡部さんより年下で、ファンシー系のおっとり美人です。 

 でねっ、実は岡部さんは彼女が好きなの~。 
 でも母親だから結婚できないし、それに二度と彼女を警察官の妻にはしたくないって思ってて、それは岡部さんのお父さんが殉職でね、そのときお義母さんがたくさん泣いたからって、でも薪さんは二人を見て、本当は好き合ってるんじゃないかなって思って、雛子さんは雛子さんで、岡部さんは薪さんを好きなんだと思って、母親として協力しますって言うんだけど、わたしが思うに彼女も本当は岡部さんのこと好きなんじゃないかと、いや、どうなんだろう、薪さんの思い込みかなあ?? ←補足説明どころか自分が混乱している。
 

『天国と地獄3』に書いてありますので! 読んでください。 ←投げた。

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ヘアサロン(3)

ヘアサロン(3)





 結局、薪が自分の変化に気付いたのは第九へ帰ってからだった。
「どうしたんですか、その頭」
 帰るなり岡部に言われて、そういえば田城にも訊かれた、と思い出し、トイレに直行して鏡を覗き込んだ。

「えっ、なんで?!」
 普段はストレートに流れる亜麻色の髪が、ふんわりと空気を含んでやわらかく膨らんでいる。カールした前髪は眉を隠し、内側に巻かれた両側の毛先は幼い頬を強調して、限りなく中性的、というより9割方女の子だ。
「ちなみに、後ろはこんな感じです」
 背中に立った岡部が手鏡の角度を合わせ、薪の後頭部を壁の鏡に映しだす。バックはフェミニンな感じの二段カットになっていて、一段目が内巻き、裾は躍動感を出すためにコテで跳ねさせてあった。もう絶対に女の子にしか見えない。

「仕上がりを確認しなかったんですか?」
「それが、眠って起きたら会議の10分前になってて。確認する暇が無かったんだ」
 眼が覚めた時に見たのは、理髪店の天井と腕時計。時計の針を見たら、焦燥で周りの物が見えなくなった。これでは店主がバイトの娘を叱るのも無理はない。頼んだ髪型とまるで違うのだから、やり直しを申し出るわけだ。
「そうか、それで部長たちにガン見されたのか。チャラついた髪型しやがって、とか思われてたんだ、きっと。それじゃなくてもこないだ代議士の息子捕まえたせいで、白い眼で見られてるのに」
 頭を抱える薪に、岡部は三白眼を鈍く光らせて、
「いや、多分、部長たちが薪さんを見ていたのは別の意味だと」
「? どういう意味だ?」
「…………知らない方が幸せだと思います」

 疑問を提示しておいて解答を示さないのは結構最低の行為だが、今の最優先課題は部下に人の道を説くことではない。この頭を何とかしなくては。
 再度理髪店に行こうかとも考えたが、今日はもう時間がない。それでなくとも会議で仕事が押されているのだ。下手をすると、午前中岡部に取り上げられた報告書が期限に間に合わない。
 自分で何とかしようと、薪は必死に髪を撫でつけてボリュームダウンを図った。が、銀座の美容師が腕を振るったガーリーヘアは見事なセット力で、毛先の跳ね一つ直すことができない。

「そのままでもいいんじゃないですか? 似合ってますよ」
「これ以上、部長たちに睨まれたくない。捜査に関しては絶対に譲らないけど、それ以外のことでケンカ吹っかける気はないんだ。明日、マスターにやり直してもらって……あ、土曜日か」
 土日祭日は、庁舎内の店舗は休みだ。すると月曜日までこの髪形と言うことに、いや、月曜の朝は警察庁の定例会議がある。またそこで顰蹙を買うのはごめんだ。

「どうしよう。困ったな」
「街に出れば床屋なんかいくらでもありますよ」
「いやなんだ。街の床屋って、こっちが言うとおりに髪を切ってくれないだろ?」
「確かに、行き慣れない店だとイメージの相違ってのはありますね。そういう場合は写真を持っていくといいですよ」
「やってみたけど無駄だった」
 薪がそう言うと、岡部は鏡の中で不思議そうな顔をした。仕方なく薪は、自分がいくつかの美容室から受けた不愉快な対応について話してやった。

「左分けの短髪にしてください、って頼むと、今はこういう髪型が流行りだとか、前髪は下ろした方が似合うとか、段を入れた方がいいとか、それも周りをぐるっと囲まれて一斉に喚かれるんだ。うるさくて」
 鏡に映った部下の顔が、憐れみを含んだ困惑顔になる。やはり岡部は自分にとって最高の理解者だと、浮かれる気持ちが薪を饒舌にする。
「こんなに綺麗な髪を伸ばさないのは罪悪だとか言われて、毛先しか切ってもらえなかった店もあった。それから一番困ったのは、僕に似合う髪形はどっちかで、美容師同士がモード系とガーリー系とに分かれてケンカになっちゃって。どちらか選んでくださいって迫られても、意味わかんないし。
 とにかく、誰一人として僕の要望を聞いてくれないんだ。だから街の床屋へは行きたくない」

「薪さんて、本当に不憫ですよね……せっかくの容姿が、ただの一つも有益に働いてないんですね……」
「ん?」
 なにか言ったか、と振り返ると、岡部は苦笑して、
「よかったら、俺の馴染みの店を紹介しましょうか」と提案した。

「俺の名前を出して、同じ髪型で、と言えば短髪にしてくれるでしょう。どちらにせよ、毛先にコテ当てられちゃってるから、真っ直ぐにしようとするとかなり短く切ることになるでしょうし」
「本当か? それは助かる」
 警察官らしく、きちんとした髪型なら何でもいいのだ。以前、火事に遭って焦げた髪を短く切ったことがあったが、今日みたいな目で見られた記憶はない。短いのは許されると言うことだ。

「よし。そうと決まれば明日に仕事を持ち越さないよう、さっきの案件をさっさと片付けちまおう」
 モニタールームに戻ると、何となく部下たちがざわめいている感じはあったが、直接それを口に出すものは一人もいなかった。第九の人間はみな、薪の逆鱗を理解している。自分が働いている研究室を氷河期にしたい職員はいないし、金曜日の午後に室長の機嫌を損ねて強制残業の憂き目に遭いたい酔狂者もいない。
 
 室長室に入ると、岡部は簡単な地図を描いてくれた。
「住所は此処、店の名前はこちらです」
 見ると、岡部のマンションからそう遠くない場所で、隣のコンビニへは行ったこともある。迷うことはなさそうだった。
「もしもし、岡部ですけど。いつもどうも。明日、予約をお願いしたいんですが、先生は? 出かけてらっしゃる? じゃあ伝えていただきたいんですけど、明日の予約は俺の友人で、俺と同じ髪型にして欲しいんです。そうです、職業に合った髪型に」
 仕事の早い岡部は、その場で電話もしてくれた。これで今日のような失敗は無い。明日は眠っていても安心だ。

「これでよし、と。いや、今日は青木が研修でよかったですね。でなきゃ今ごろ、大騒ぎになってましたよ」
「え? 青木に何かあったのか?」
「あ、いや。何でもないです」
 岡部の言う青木の大騒ぎには全く心当たりがなかったが、気がかりだった床屋の件が消えたおかげで、薪は仕事に集中することができた。今日が期限の報告書も検証を終え、その後は何事も無く業務を終了し。失敗した髪型を気にしながらも、薪は帰途に着いたのだった。




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ヘアサロン(2)

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 怒りを含んだ男の声で、薪は眼を覚ました。
 女の声と何やら言い争っている、いや、一方的に男が怒っているだけのようだ。「どうしてこんなことに」とか「確認しない君が悪い」とか、相手の非を責める言葉が聞こえてきて、薪は目蓋を開いた。
 声がする方向を見やると、いつも穏やかな店主が女の子を叱りつけていた。どうやら、自分が眠っている間に何かトラブルがあったようだ。

「そりゃ、総務部長に捕まって帰ってこれなかったぼくも悪かったけど、ていうか、君がカンチガイするのも無理はないけど、靴を見れば分かったはずだよ」
 トラブルの内容については不明だが、どの仕事にも苦労は付き物だな、と彼らに少しだけ同情して、軽く頭を振る。低血圧の薪は、眼が覚めてもすぐには起き上がらないようにしている。急に起きると貧血を起こす恐れがあるからだ。
 リクライニングチェアに仰向けになったまま、腕時計を確認する。カットクロスが外されていないことから、さして時間は経っていないと思われたが、文字盤を確認したらとんでもなかった。

「…………嘘だろ!」
 なんと、二時間も眠ってしまった。会議の時間まで、あと10分しかない。

 慌てて飛び起きて、カットクロスを椅子の上に脱ぎ捨てる。低血圧なんかに構っている余裕はない。
「あ、室長! 誠に申し訳ありません、こちらのミスで、オーダーを間違えてしまいまして」
 薪が起き上がるや否や、店主が気付いて謝罪をしてきた。彼がバイトの娘を叱りつけていた理由は解ったが、そんなことはどうでもいい。ここから警察庁の12階の会議室まで、全力で走って間に合うか。
「すぐにやり直しさせていただきますので」
「悪いけど時間がないんだ。とりあえず、前髪が眼に刺さらなきゃ何でもいいよ」
 料金をカウンターの上に置いて、猛ダッシュで店を出た。本当に、髪型なんかどうでもいいのだ。触ってみた限りでは、オールバックに固められた様子もないし、五分刈にされたようでもない。分け目を間違えたとか、前髪を短く切りすぎてしまったとか、そんなところだろう。

 廊下を走ってエレベーターに到着し、下のボタンを連続で押した。何回押しても箱が下りてくる速度は変わらないと分かっていても、急いでいる時はついついやってしまう行動だ。
 幸い、エレベーターは1分もしないうちに来た。中には2人の男が乗っていて、彼らは薪とは一面識もなかったが、何故か薪を見てびっくりしたような顔をされた。
 時間に追われて血走った形相をしていたのかな、とその時は思ったが、各階止まりのエレベーターの扉が開くたび、入って来る職員たちがみな、薪の顔を見て一様に眼を見開くのだ。何だかおかしい、とは思ったが、腕時計のアラームが薪にその違和感を放棄させた。会議開始時刻、5分前だ。
 警視庁から警察庁へは、一旦建物の外に出なくてはならない。短距離走には自信があるが、それでもギリギリだ。若輩者の自分が会議に駆け込みなんて、後で部長たちに何を言われるか。

 1階に着いて外に飛び出し、警察庁まで必死に走る。警察庁のエレベーターに乗ったのが、定刻の3分前。12階の会議室に入ったのは、定刻の1分前だった。
 ドアを開けると、既に薪以外の全員が顔を揃えていて、一斉にこちらを見た。若造のくせに定刻1分前の到着とは非常識な、そう言わんばかりの非難がましい視線が突き刺さる。
 部長会議の出席者は全員が薪よりも10近く年上の重役ばかり。若輩の薪が事前準備に駆り出されるのは当たり前だ。もちろん、手伝いではなく第九の代表者として出席しているのだが、そんなものに拘って第九の立場を悪くしたくない。薪は重役たちの前で、捜査以外で自分の主張を通そうとしたことはなかった。出世にも保身にも興味はないし、プライドもない。大切なのは、親友が遺した第九を守ることだ。

「すみません、遅くなりました」
 素直に頭を下げて、末席の自分の席に着こうとする薪を、途中で科警研所長の田城が呼び止めた。
「薪くん、その頭」
「はい?」
 慌てて理髪店を出てきたから、もしかしたらヘアクリップでも付きっぱなしになっていたか、と恥ずかしく思いながら、両手で髪を確認してみる。が、手に触るものは何もなく、いつもと変わらぬサラサラした感触があるだけだった。
「なにか、ヘンですか?」
「いや、よく似合ってるけど……完全に高校生にしか見えないねえ」
「はあ?」
 
 不思議に思いながらも、時間がそれ以上の質疑を許さず、薪は自分の席に腰を下ろした。レジュメと黒い折箱に入った弁当が置いてある。強制されているわけではないが、こういった用意の手伝いは一番若くて階級が低い自分の仕事だ。だから必ず定時の30分前には会議室へ入るようにしていた。開始時刻ちょうどに現れた薪が謝罪をしたのは、そういう理由からだ。
 会議の席次は、出席者全員の顔が見えるディスカッション式になっている。最後に到着した自分を、みんながジロジロ見ている。そんなに責めなくても良さそうなものだが、眠ってしまった自分が悪いのだ。居心地の悪さは仕方のないことだと諦めた。
 
 やがて会議が始まると、出席者の注視は進行担当の刑事部長と弁当に振り分けられたが、薪に注がれる視線は止むことが無かった。末広亭の松花堂弁当は薪の好物だが、絶えず重役たちに睨まれては、さすがの薪も味覚が鈍ろうというもの。何とか残さず食べたものの、味はよく分からなかった。
 会議の間中、いくつかの不穏当な視線は薪に向けられたままだったが、昼食会を兼ねた会議自体は滞りなく進行し、定時の14時にはお開きになった。
 
 議長が席を離れたのを確認して、薪は重役たちに一礼し、廊下に出た。入室は時間に余裕を持ってするが、退室は速やかに為すのが正しい処世術だ。何故なら、刑事部長を筆頭とする警察機構の実力者たちが、会議録に残してはいけないことを語るべく、その場に残るのが常だからだ。薪のような一介の室長ごときが係われる密事ではない。
 ドア口を出るまで、薪の背中には彼らの視線が突き刺さっていた。一番身分の低い自分が定刻ギリギリに滑り込んだのは失礼だったかもしれないが、会議の時間に遅れて皆に迷惑を掛けたわけでもないのに、あそこまで不快に思われるなんて。それはつまり、第九を快しとしない彼らの気持ちの顕れなのだろう。
 これからは気をつけなきゃ、といささか気落ちして科警研に帰って行く薪の後方、会議室の中で交わされた会話のありえなさ。

 口火を切ったのは刑事部長だった。

「いやー、驚きましたな! 今日の警視正、むちゃくちゃ可愛かったじゃないですか」
「前々から美人でしたけど、髪型一つでああも変わるとはね。見惚れてしまって、眼が離せませんでしたよ」
「いやまったく。何と言う髪形なのか、街ではよく見かけますが、彼がすると特別なもののように見えますな。奇跡的な美しさだ」

「わたしなんか、ほら。携帯のカメラで」
「総務部長! 隠し撮りは会員規則違反ですよ!」
「固いこと言わないで、この場に残った会員には全員に送信しますから」
「そういうことなら……あああ、なんて愛らしさだ」
「ちょ、画面にキスはないでしょう!」
「うるさい、あんたらだって陰じゃこんなこともあんなこともしてるでしょう!」
「してませんよ! 警視正は私にとっては女神です、劣情の絡む余地はありません」

「何を白々しいことを。刑事部長がシャワーシーンの写真を闇で購入したことは、我々公安部の調べで分かっていますよ」
「自分の部下に何を調べさせてんですか、公安部長! こっちだって知ってますよ、あなたが諜報部の連中を使って密かに彼に想いを寄せる男たちを潰していることくらい」
「いや、それは我々会員の公共の利に寄与することだ。警視正の純潔を守っているんだからな。責めを負うべきは、シャワーの写真を独り占めしたあなたの方ですよ、刑事部長。あれは会全体で保有すべき宝物だ」
「そういう警務部長だって、警視正がプールに置き忘れたタオルをオークションで競り落としてたじゃないですか。彼の肌についた水滴を含んだ、あの聖布を!」

「いやいや、あれは会の運営費を賄うためのオークションだったんですから、警務部長は間違ったことはしていませんよ。むしろ問題はあなたの方だ、総務部長。カフェテリアに手下を紛れ込ませて、警視正が使った割り箸を手に入れたと言う噂が」
「何ですか、自分のことを棚に上げて。地域部長こそ、彼の隣の席をいいことに、先月の会議のとき彼がコーヒー飲んだ紙コップ、捨てといてあげるとか上手いこと言って持って帰ってたじゃないですか」
「そこを責めますか。なんて恩知らずな。誰のおかげで今日、警視正の食事風景を見ることができたと思ってるんです。昼食会を兼ねた会議を提案したのは私ですよ?」

「そうですよ、地域部長には感謝すべきですよ。彼と一緒に食事をしたい、という我々の望みを叶える方法を思いついた英雄なんですから」
「ええ、夢のような二時間でした。彼と一緒に、彼と同じものを食べて。他の会員たちが悔しがるでしょうな」
「いや、可哀想なのは我々の方です。一般職の会員たちはカフェテリアで彼の食事風景を見ることもできるでしょうが、我々の階級になると職員食堂の利用は憚られますから、こんな策でも取らない限り彼と一緒に食事なんてできませんからね。不自由なものです」

「それだけに、貴重な体験をさせていただきました。彼の優雅で上品な箸使い、小鳥のような唇の動き……眼に焼き付いておりますよ」
「ええ、とても可愛らしくて。彼、里芋を挟もうとしてね、箸の先がつるっと滑ったんですよ。そうしたら、あ、って小さく声を洩らして。まあ、隣の席にいた私にしか聞こえなかったと思いますけど」
「わたしも見ましたよ、向かいの席ですから。ちょっと焦った顔をして、実に可愛かった」

「少し狡いんじゃないですか、お二人とも。そんなプラチナショットを独り占めしていいと思ってるんですか? 警視正はみんなのもの、携帯のカメラに収めて全員に配信すべきでしょう」
「総務部長のおっしゃる通りですよ。この際、はっきり言わせて貰いますけど地域部長と生活安全部長。あなた方が毎回警視正の隣と真正面の席に座れるってのも不公平だと思うんですよ。あの席は、いわば特別席。もっと平等にすべきです」
「「いや、それは階級順ですから」」
「しかし、この会議は忌憚無く意見を交わす場のはず。階級に拘るのはおかしいでしょう。その姿勢を表明するためにも、これから警視正の隣の席と向かいの席は、くじ引きで決めることにしませんか」

「「「「「「賛成!!」」」」」」
「「反対!!」」
「6対2でくじ引き案は可決されました」

 翌月に開かれた部長会議で、薪の隣に刑事部長が座ったのにはこんな理由があったのだが、その時、いつもと違う席順に不思議そうに小首を傾げる警視正の様子が、彼らを喜ばせたのは言うまでもない。





*****


 こんな警察機構だったら、本部内手配されても安心なのに。(笑)






テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

ヘアサロン(1)

 こんにちは~。
 1週間のご無沙汰で、しかもまだお返ししてないコメントレスが2桁と言うヘタレな管理人で誠に申し訳ありませんっっ!! どうか広いお心で、もうしばらくお待ちくださいね。

 わたしが不義理をしている間に、新しいお客さまに来ていただきまして、過去作に拍手をたくさん、本当にたくさん、いただきました。 ありがとうございました。 おかげさまで、総拍手が18000を超えました。 うれしいです。(^^)←お礼のSSはどうした?
 最初から最後まで通して読んでいただいたみたいで、フルマラソン並にお疲れになったのではないかと、てか、それはもはや苦行だったのではないかと、
 うぎゃー、すみませんでした!! でも、ありがとうございました。 


 
 先週はずーっと現場で測量しててね~、ものっそい風が冷たかったの~。
 田舎の現場だから周りがオール畑で、風除けが無くてですね。 霜柱のせいでぬかるんだ土が道路端にはみ出してて、そこで滑って転ぶし。 ←バナナの皮を踏んづけて転ぶアニメキャラのように尻もちをついて、オットに爆笑された。
 8日の水曜日に開発公社の検査が入ってるから、(現在、その書類作りに追われています) 10日くらいには一段落着く予定です。 それ以降は通常運転ができると思います。 4月号発売の前に『ぱんでみっく・ぱにっく』も公開しておきたいし。 滝沢さんリターンズの話も、4月号を読む前じゃないと書けない気がする。
 がんばります。 
 

 それまでの場つなぎと言うわけではございませんが、その間、こちらでお暇を潰してください。

『言えない理由』が重かったのでね、毎度バカバカしいお話を一席~、というわけで。
 最近書いた雑文でございます。 (最近とか言いつつ、確認したら去年の11月でした。 年を取ると、月日の流れが速いねー) 


 うちの薪さんは街の美容室を利用しないばかりか「悪魔の巣窟」とまで酷評する、と言うかいっそ恐れている? というエピソードを『二アリーイコール』というSSの中でチラッと書いたのですけど。
 その理由を書いてみました。
 青木さんはその訳を知らなかったので出演させられなかったのですが、代わりに岡部さんにお付き合いいただきました。

 軽いお話なので、気楽に楽しんでくださいね。(^^






ヘアサロン(1)





 警察官の服装については、『勤務中規則及びこの規定の定めるところに従い端正な服装の保持に努めなければならない』と定められている。他にも、ワイシャツは白いものを着用するとか、棒タイは警察官の品位を保てるものとする、とか、事細かに規制されているのだが、そんな条文を暗記せずとも、警察官たるもの国民の安心と信頼を得るため、常にきちんとした身なりを心掛けるのは当然の姿勢だ。
 が、その日岡部が上司に向けた苦言は、警察官の良心が彼の服務違反を見逃せなかったなどという堅苦しい判断に基づくものではなく、単純に美観の問題だった。

「前髪を目玉クリップで留めるのはやめてください」
 窓から差す陽光にきらきら輝く亜麻色の髪。天使もかくやのその輝きを、銀色の無粋な文房具が挟み、頭頂部に毛先を捻じり上げている。最近は男でも前髪をヘアピンで留めたりするのが流行っているみたいだが、このひとのこれはオシャレではなく、ただ単に、無精の証である。
 叱責を受けた上司は悪びれる様子もなく、それどころか書類に目を落としたまま、しれっと言い返した。
「毛先が眼に刺さるから」
「切ったらいいでしょうが」
 それもそうだな、と今度は素直に受けて、彼は引き出しを引いてハサミを取り出した。目玉クリップを外し、前髪を一房左手で持って、そこに鋏の切っ先を向ける。
「ちょっ、なにするつもりですか!」
 薪の危なっかしい所作を慌てて止めて、岡部は彼の手から鋏を奪った。手から零れた前髪が、さらさらと彼の睫毛にぶつかる。右に流して耳に掛けるが、癖を持たない髪はすぐに耳から外れて、大きな瞳をその奥にしまい込んだ。

「切れって言ったの、おまえだろ」
「床屋へ行ってくださいよ」
「そんな暇があったら、この案件を」
 左手で髪を押さえながら右手で取り上げた書類は、ハサミ同様、部下にサッと奪われた。不機嫌な顔つきで見上げれば、そこには困ったような部下の顔。

「髪の毛にクリップを付けて、部長会議に出席なさるおつもりですか?」
「ダメなのか?」
 上層部が出席する会議でそんな非常識なことをするつもりはないが、部下の困った顔はもっと見たいから、ついつい意地の悪い返答になる。部下を困らせて楽しむのは、彼の悪いクセだ。
 だが、今回ばかりは部下の方が上手だった。

「ラブレターと一緒にピンク色の髪留めが送られてくると思います」
「…………1時間ほど留守を頼む」
 確認していた書類を未処理の書類箱に放り込み、薪は無表情に立ち上がった。



*****



「―――――― というわけなんです」
 職務中に理髪店を訪れた理由を説明し終えて、薪は不満そうに唇を尖らせた。
 問わず語りに経緯を語ったが、職務時間中に散髪を済ませる職員は別に珍しくもない。刑事にとって定められた就業時間など有って無いようなもの。薪も捜一に籍を置いていた頃はそうしていたが、研究室に移ってからは一応の休憩時間が取れるようになったので、昼の時間を利用していたのだ。

「何処の部下も、あんなに小言が多いのかな」
 やれやれと肩を竦める薪に、店主は笑いながらカットクロスを着せる。「見かけによらず細かいんですねえ、岡部さんは」と失礼な相槌を打って、しかしそれも止むを得まい。岡部の外見から、心配性とお節介が共存する彼の性格を推察しろと言う方が無理だ。
「でも、それくらいじゃないと第九の副室長は務まらないんでしょうね。目配り気配りが必要とされる役職でしょうから」
「そうですね」
 軽い気持ちで答えを返し、正面に眼を向けると、そこには水色のカットクロスの効果で晴天を祈願するマスコットのようになった自分が映っている。襟元のネクタイが見えないせいか、何とも間抜けな姿だ。

「ところで、今日はどうなさいます?」
「いつものでお願いします」
「かしこまりました」
 いつもの髪型で、と言えばそれで通じる。行きつけならではの気安さだ。警視庁にいた頃から利用しているから、もう15年にもなる。科警研の管理棟にも理髪店は入っているのだが、薪はこちらの店を気に入っているのだ。

 一般的に、ヘアサロンの選定条件は理容師のカット技術だと思うが、薪は違う。
 ヘアサロンと言っても、ここは警視庁の地下にある職員専用の店舗だ。公共の施設に入っているくらいだから、とびきり腕が良いわけでもカリスマ美容師がいるわけでもない。大して客が入るわけでもないから店員は店主を含めて2人しかいないし、技量も極々平均的。特に流行の探求については、街中の美容室の足元にも及ばない。
 そんな店にどうして通っているのかと言えば、まずはいつも店が空いていて、待ち時間が殆ど無いこと。警察官らしい落ち着いた髪型に仕上げてくれること、などが挙げられる。特に二番目の要因は大事だ。薪の場合、下手に街の美容室に入ると、勝手にシャギーやらセニングやらをされて、気がついたら何処ぞの高校生みたいになっていたりするから油断がならないのだ。

 警官らしい髪型を求めるだけなら科警研の理髪店を利用しても良さそうなものだが、わざわざ薪が警視庁まで足を運ぶのは、三番目の理由からだ。つまり、
「相変わらず、室長は勇ましいお顔をなさってますね。特にこの眉」
 薪の前髪を後ろに撫で付けながら店主が言うのに、
「そうですか?」
 ついつい綻ぶ口元を意識して引き締めて、薪は何気ない素振りで返事をする。薪も、自分の顔の中で眉毛だけはけっこう男らしいと自負しているのだが、それを教えてくれたのは何を隠そう彼なのだ。言われてみて初めて、そうかと思った。裏を返せば、言われなければ分からないくらいの微妙な男らしさだったわけだが、こういうことは裏返したりしないのが薪の薪たる所以だ。

「男の度量は眉に顕れるって言うの、本当なんですねえ」
 そんな格言は聞いた事がないが、彼が言うのだ、きっと何処かにあるのだろう。もしかしたら理容師の間では有名な話なのかもしれない。

「せっかくだから、もっと眉毛が出るヘアスタイルにしようかな。オールバックとか」
「いやいやいや! 前髪に隠れてた方が絶対にかわい……ここまで男らしい眉だと、全部出すのは嫌味ですよ。前髪からちらりと覗く程度がいいんです。ほら、筋肉隆々の男がタンクトップ姿で街を歩いてるのって、自分の筋肉を自慢してるみたいで、見せられるほうはイヤでしょう? あれと同じです」
「それもそうですね。警察官にとって、謙虚さは大事ですからね」
「まあ、室長は美人だからクールビューティも似合うと思いますけど。ぼくはどっちかって言うと可愛い感じの方が好みなんで」
「は?」
 薪が訊き返すと、店主はいいえと首を振った。この店主はこうして時々、聞き取り難い声でブツブツ言う癖があるのだが、スタイリングについて考えていると独り言を言ってしまうそうで、それはきっと、自分が推理を組み立てるときに断片的な言葉を口にしてしまうのと同じことなのだろうと薪は理解している。

「それにしても、カットクロス巻くと女の子にしか見えませんね。ああ、抱きしめて頬ずりしたくなっちゃう」
「え? 女の子?」
 店の中には店主と自分だけだ。もう一人の店員も、今日は休みらしい。
「……先日、バイトの女の子を雇ったんです」
「へえ、頬ずりしたくなるほど可愛い娘なんですか。彼女はどこに?」
「カズミちゃんは10時からの約束なんで。あと10分もすれば出勤してきますよ」
 カズミちゃんと言うのか。自称面食いの店主が褒めるくらいだから、相当可愛い娘なのだろう。会うのが楽しみだ。

「ああ、なんてサラサラでやわらかい髪……」
 雑談の間、店主は薪の髪を何度も指で梳いている。これは悪戯に髪を弄っているのではなく、毛髪のタイプと流れを確認しているのだそうだ。
「しかも、いい匂い」
 頭に顔を近づけて匂いを嗅ぐ、これは整髪剤の種類を決めるために必要な作業なんだそうだ。整髪剤には香料が入っているから、それが客の体臭とマッチしないと、周囲の人間が吐き気を催すような匂いになってしまうと、これも店主に教わった。

 それから店主の指は、薪の頬に添えられる。シミひとつない白い頬を指先が滑っていく、これはもちろん。
「ついでに、ヒゲ剃りもなさいます?」
「はい。お願いします」
 倒れてゆくリクライニングシートに身体を預けて、薪は満足そうに眼を閉じる。
 さすがこの道30年のベテランだ。僕の顔に生えているのは産毛じゃなくてヒゲなんだと、ちゃんと分かっている。細すぎて電気シェーバーは使えないけど、1週間くらい剃らなくても肉眼で確認できるほどに伸びないけど、これはヒゲだ。この見極めができる理容師はなかなかいない。彼が本物である証拠だ。
 かように、薪は心から店主を信頼していたが、彼がその時泡立てていたのは男性用のシェービングフォームではなく、女性の顔を剃るときに使う保湿性の高いクリーム状のフォームだった。

 スパスパに研いだ剃刀の刃が、白い肌の上の金色に透ける産毛を刈り取っていく。仕上げの蒸しタオルを済ませると、彼の頬は一層の白さを纏う。まるで、奥ゆかしく輝く真珠のようだ。
「白さといい、肌理細かさといい、本当に男らしい肌ですね」
「いやあ、それほどでも……あるけど」
『白く肌理細やかな肌』と『男らしい肌』がどうしてイコールで結ばれるのか、店主の言葉は矛盾しまくっているが、薪の頭脳はそれを解析しない。『男らしい』という枕詞が、薪から日本語を解する能力を奪っている。

「室長はホント、男も惚れる男の中の男、ですよね。ラブレターを送りたくなる男子職員の気持ち、分かるなあ」
 この店主は岡部の次に自分の真実を理解している、と薪は思う。『男の中の男』とは、実に的確な表現ではないか。しかし、
「いや、男からのラブレターはちょっと」
「そりゃあ仕方ないでしょう。真の男ってのはね、男にも女にもモテるんですよ。ロバートデニーロとか矢沢栄吉とか、どちらかというと男性ファンの方が多いでしょう」
「真の男か……なるほどなるほど」
 男の中の男に寄せられた手紙の内容が、どうして女装に対する賛美と恋人になって欲しいという要望に限られるのか、その疑問を店主にぶつけることはせず、薪は大いに納得して深く頷いた。

 第三者が聞いていたら脱力感で膝も砕けようという彼らの会話を遮るように、店の電話がリリリンと鳴る。
 店主が受話器を取り、ちょっと困った顔をした。「今、お客様が一人いらして、そのあとお伺いしますので」と丁寧な口調で説明しているが、相手がなかなか納得しないようだ。
「出張サービスの依頼ですか? 誰から?」
「それが総務部長でして。会議前に、顔を当たって欲しいと」
 なるほど、我が儘を言ってくるわけだ。警視庁に出入りしている店舗を総括しているのは庶務課、総務部はその統括部署だ。ぶっちゃけた話、この店の存続は総務部長の胸先三寸と言っても過言ではない。

「顔を当たるだけなら、30分くらいで済むでしょう。僕はその後でいいですよ」
 今日の会議は12時から、昼食会を兼ねて行われる。今は10時前だから、その後散髪に入っても充分間に合う。
「いや、そうはいきませんよ」
「気にすることはありません。僕だって、マスターがこの店からいなくなったら困りますから」
「……すみません、絶対に30分で帰ってきますから」
 焦って部長の顔に傷をつけたりしないように、と快く店主を送り出して、薪は眼を閉じた。
 慢性的な睡眠不足に悩まされている薪のこと、柔らかいシートに仰向けになれば当たり前のように眠くなってくる。薪はその眠気を従順に受け入れ、2分もしないうちに眠りに就いた。薪はいつもこの調子で、散髪の最中に寝てしまうのだ。あの店主なら、薪が眠っていても完璧に仕上げてくれる。

 店の外では、店主が総務部に向かって急ぎ足で歩いていた。エレベーターに乗ろうとして、箱から降りてきた一人の女性に眼を留める。バイト店員のカズミちゃんだ。
「カズミちゃん! よかった、ここで会えて。あのね、ぼく、今から部長の部屋へデリバリーに行かなきゃいけないんだけど、店にお客さんを一人待たせてるんだ。頼めるかな?」
 彼女はバイトだが、腕は確かだ。以前の仕事場は、銀座の美容室。そこに10年近くも勤めていたのだが、この不況で店が潰れてしまい、バイトに応募してきたのだ。

「お客さまのご希望はAコースだ」
 警視庁内の理髪店では、指定される髪型はほぼ決まっている。短髪、オールバック、スポーツ刈りのどれかだ。それにシャンプーと髭剃りをセットして、お得なコース料金を設定している。Aは短髪のコースだ。
「Aコースですね。わかりました」
「お客さん、多分眠っちゃってると思うけど、可哀想だから起こさないであげて。あの人はいつもそうだから、Aコースの基本形でカットして構わないから」
 任せてください、とにこやかに請け負って、カズミは自分の職場へと歩を進めた。

 笑顔で引き受けたものの、彼女の心の中はなかなかに複雑だった。と言うのも、型に嵌ったような面白味のないカットばかりが要求される仕事内容に、彼女のビューティーコーディネイターとしての鬱憤が溜まっていたからだ。
 彼女が美容師を目指したのは、女性を美しくしたかったからだ。自分の手によって変貌する女性たち。彼女たちの変身をこの目で見るのは何よりの楽しみだったし、彼女たちから寄せられる感謝の言葉はカズミの生きがいであった。
 それが、この仕事場では発揮のしようもなく。何故なら来る客は男性のみ、しかも年配の男ばかりだ。それも当たり前、若い世代の職員、オシャレに興味のある人間なら街の美容室を利用するだろう。女子職員なんか、店舗の前を通る事すらない。

 女性を美しくしたくて美容師になったのに、ここにはカズミが夢中になれる素材がない。お金のためとはいえ、自分の才能を腐らせてしまうような日々の繰り返しに、蓄積していく憂鬱を抱えていたカズミだったが。
 その憂いは、店に入ってスタイリングチェアに横たわった客を見た瞬間に吹き飛んだ。
「まあ」
 思わず、カズミは小さな驚嘆の声を洩らした。

 なんてきれいな人。こんな人は、銀座の店でも見たことがない。
 サラサラした亜麻色の髪。長い睫毛に慎ましやかな鼻梁。白く輝く肌。つやつやした薔薇色の唇。

 警察官にもこんなに見目麗しい人がいるのだわ、とカズミは感心し、どうしてこんな美人がうちの店を、と疑問に思った。聞きたかったが、客は店主の言った通り、よく眠っている。起こさないであげて、と注意を受けたのを思い出し、カズミは音を立てないように散髪の準備をし、チェアの後方に立った。

「さてと。女性用のAコースは、ガーリー系のショートボブね。久しぶりに腕が鳴るわ」





テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
毎日たくさんの拍手をありがとうございます。励まされてます。
おかげさまで、しづは元気で仕事してます。(10/28)
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