クッキング2 (1)

 こんにちは。

 先日はハイテンションの酔っ払い記事に温かい拍手とコメントをたくさん、ありがとうございました!
 ちょっと要らんことまで書いてしまって、何人かの方にご心配掛けちゃいました当ブログの今後につきましては、今はもう閉鎖なんてカケラも考えてませんので! これからも、どうかよろしくお願いします。
 最終回を読んだ直後はかなりマジで考えてたんですけど、その時、みなさんにいっぱい励ましていただいたので、このまま置いといてもいいかな、と6月初めの段階で考えていました。 不用意な発言でお気を煩わせてしまって、すみませんでした。

 ただ、新しい話は書けないだろうなー、と思ってました。 実際、この2ヶ月1作も書いてないし。
 妄想自体も、あおまきさんではできなかったんです。 絶対に青雪さん、結婚すると思ってたから。 だからずーっと、青雪さんの結婚式に笑顔で祝辞を述べる薪さんを想像してました。←しづが見た地獄の正体。

 でも、
 エピローグを読んだ今となっては!

 どうしてあんなことを考えてしまったんでしょう? 先生はちゃんと青薪さん成立フラグを立ててくれていたのに。 ページ数の比重から、青木さんのMRIの薪さん率から、諸々のエピソードから、何よりもこれまでの二人の軌跡から、いくらでも読み取れたはずなのに。
 
 のんびり「黒子のバ●ケ」観てる場合じゃないですね! 
 だって原作のふたり、これからじゃん!(何が?) 妄想し放題じゃん!(ヤメロ) これが書かずにいられましょうか!!(これ以上原作を愚弄するか)
(  )内はわたしの第一の脳(良識とも言う)の呟きですが、そんなものはキコエナイー。(そのうちクレームが来ると思うぞ)
 今までの話もこれからの話も、等しく薪さんには迷惑だと思うのですけど、多分、書かずにはいられないと思うので、もうこの人はそういう病気なんだと思って、生ぬるく見守ってやってください。


 感想は後ほど、じっくり考えて書くとして、(すみません、コメレスももうちょっと待ってください。(^^;))
 先にSSを公開します。



 青薪さん成就記念といたしまして、こちら、
『エピローグが無かったらお蔵入りになってたSS 第1弾』 でございます。


『クッキング2』という題名からお察しいただけるかと思いますが、竹内と結婚の決まった雪子さんが薪さんに料理を習うお話です。
 最終回を読む前は、雪子さんが青薪さん成就に一役買ってくれると期待していたので、こんな話も書けたんです。 で、最終回を読んだらデータごと抹消したくなりまして~~、早まらなくて良かったです。(笑)

 エピローグを読んで、雪子さんはやっぱりすごいな、って思いました。
 青木さんの所に結婚の報告写真を送ったってことは、青木さんとはいい友人になっていたってことでしょう? でなかったら送りませんよね? 
 でも、「やり直しましょう」と申し出て、結局男女関係に戻れなかったとしたら、その男性と友人でいることはひどく難しいことだと思います。 あの過去を背負った上で薪さんと友人でいるのがすごい、と初登場の時も思いましたが、今度もすごいと思いました。 
 もともとキライではなかったので、最後、彼女に恨みがましい気持ちを抱かずに済んでホッとしてます。 最終回でめっちゃ腹立ちましたけど、あの後はきっと、薪さんのことでウジウジ悩む青木さんのいい相談相手になってくれたのだと信じます。


 28日の夜は、嬉しくて嬉しくて、殆ど眠れませんでした。
 幸せすぎて眠れない、なんて、生まれて初めてです。
 清水先生、本当にありがとうございました……!!


 生まれて初めて、と言えば、この話の冒頭の薪さんの状況は、わたしがこの年になって初めて体験した恐怖がベースになってます。
 全体的には男爵カテゴリに入れようかと思ったくらいのドタバタ系ギャグなので、笑っていただけたら嬉しいです。 







クッキング2 (1)










 孤立無援という言葉が、今日ほど胸に突き刺さったことはない。
 第九のエントランスに並べられた自販機と観葉植物の大鉢の隙間に潜み、周囲を厳しい眼で睨み回しながら、薪は息を殺していた。
 警戒を怠ってはならない。既に、周りは敵だらけだ。

「くそっ、何処に隠れたんだ?」
 遠くから、苛立ちを孕んだ宇野の声が聞こえてくる。普段はあれ程ドライな彼も、すっかり人が変わってしまったようだ。
「おーい、薪さん捕まえたか?」
「ダメだ、撒かれた」
「ちっ、素早いな」
 宇野の声に呼応する2つの声、小池と曽我だ。

「こういうとき、コマイと見つけるの大変なんだよな」
「薪さんなら簡単にロッカーの中に入れるもんな」
「あの大きさならロッカーどころかゴミ箱にだって入れるぜ?」
「机の引き出しも捜索範囲に加えるか」
 ちょっと待て。ロッカーはともかく引き出しはないだろ。
「薪さん、超身体やわらかいし」
「5センチの隙間があれば抜けられるって聞いたことある」
 僕はミミズかナメクジかっ!

 思わず叫びそうになって、慌てて口を押さえる。危ない危ない、これは連中の作戦だ。薪が自ら姿を現すよう、わざと大声で、突っ込みたくなるようなことを喚き立てているのだ。
 両手で触れた頬は、熱を持っていた。怒りのせいだ。とりあえず落ち着こう、と薪は、隣で観葉植物が作り出している酸素をたっぷりと肺腑に吸い込んだ。

 どうしてこんなことになってしまったのか――――。

 朝は普通だった。それが夕方になって突然、それも一日の職務が終了した瞬間に、部下たちは一斉に蜂起した。昨日までの従順なしもべの仮面を脱ぎ捨て、薪に牙を剥いたのだ。
 彼らの襲撃は晴天の霹靂であった。自分は確かに厳しい上司だったかもしれない、でもそれは彼らの成長を思えばこそ、彼らの輝かしい未来の為に心を鬼にして行ったことだ。いつの世にも子供には理解されない親心、分かって欲しいとも思わないが、だからと言って武力で反撃してよい道理はない。自分は彼らの上司なのだから。
 しかし、現実はこうだ。3人がかりで追い詰められ、言葉にするのも恐ろしいことを強要された。薪は自分の耳を疑った。まさか彼らが、自分にそんな苦行を強いるなんて。
 薪が逃げ出すと、信じがたいことに彼らは追ってきた。部下たちに裏切られ、追われる身となった薪の心を絶望が襲う。

 そこまでして自分が苦痛にもがく姿を見たいのか? そこまで僕が憎いか?
 信じていたのに。自分は自分なりに、彼らを愛してきたのに。

 思わず、涙がこぼれた。滅多なことでは泣かない薪だが、今回の痛みには耐え切れなかった。しかし、悲しみに身を浸す時間は与えられなかった。3人の優秀な捜査官を相手取った地獄の鬼ごっこが始まり、薪は必死で逃げまわった。
 創立当初から第九にいる薪は、建物内の抜け道を完璧に覚えていた。隠れてやり過ごすのに最適な大型機器の陰や机の下、空のキャビネットなどの身を潜めやすい場所も。
 古参である事と小柄な体つきが役に立ち、何とか追っ手を出し抜いてエントランスまでやって来た薪は、息を吐き、精神を集中させた。

 3人の声はさっきよりも遠ざかった。机の引き出しとか戯けたことを言っていたが、薪が身を隠せそうな所を探しに戻ったのだろう。今がチャンスだ。
 このまま第九を出よう。鞄を室長室に置いてきてしまったのが心残りだが、それはまた後で取りに戻ればいい。とにかく、今は逃げなければ。もしも捕まって、3人がかりで押さえつけられたら……。
 先のことを想像して、薪は身を震わせる。無意識に自分の両肩を抱き、ふっくらと丸い頬を青白くする。

 恐ろしい。考えたくない。あれは、人間のすることじゃない。

 自分の想像に竦んでしまった足を奮い立たせて、薪は慎重に立ち上がった。靴音に注意して、玄関の自動ドアまで歩く。ドアが開くと、未だ沈み切らない太陽の朱色が薪を包んだ。火照った頬に心地良い夕暮れの風。自然が織り成す魔法のような美しさに、普段ならばゆっくりと歩を進め、昼と夜の交代劇を楽しむところだが。
 ドアが閉まるや否や、薪は駆け出していた。冷静になどなれなかった。一刻も早く、この場から離れたい。その衝動に押されるまま、彼は走った。
 しかし、薪の足は門を潜ったところで不意に止まる。そこには今井が待ち構えていたのだ。

「薪さん、大人しくしてくださ、うわっ!」
 問答無用で投げ飛ばす。今井の長身が空を舞って、地面に背中から叩きつけられた。デスクワーク主体の彼に、この一撃は効いたはず。しばらくは立てまい。
 今井は薪の進路を塞いだだけで、危害を加えようとはしなかった。通常ならこれは傷害罪だ。が、薪は胸を張って緊急避難を主張する。自身の生命が脅かされた場合に仕方なく取る他者を傷つける行動。今の自分の攻撃は、正にそれだ。

 薪は素早く身を翻し、研究所の中庭へと向かった。此処を突破しても、今井から他の仲間に連絡が行くだろう。別の逃げ道を探さなければ。
 第九には正門(南門)と西門、東門の3つの門があるが、先刻、彼は敢えて玄関から一番遠い西門を選んだ。敵の裏をかいたつもりだったが、そこに今井がいたということは、他の門にも誰かが待ち伏せているに違いない。薪はそれを即座に見抜いて、新たな活路を見つけ出した。
 中庭には警視庁への連絡通路に続く入り口がある。警視庁に入ってしまえば出口は30ヵ所くらいある。そこまでは手が回らないはず。捜一に居たこともある薪は、警視庁にも詳しいのだ。
 ところが。

「お待ちしてました、薪室長」
「竹内……」
 地下通路の入り口は何ヶ所かあるが、警視庁との連結口は1つ。そこで待ち伏せされたら避けようがない。
 携帯電話を片手に、長い足を見せびらかすようにクロスさせて、竹内は壁に寄りかかっていた。抵抗しても無駄ですよ、と嘯く彼を、薪は睨みつける。こいつは初めから敵だが、この局面にあってはさほどの脅威はない。薪は鼻先で笑い、余裕を見せ付けるように右の口角を吊り上げた。

「ふっ。接近戦で僕に勝てるとでも?」
 竹内は射撃こそ大会で優勝するほどの腕前だが、格闘技の有段者ではない。銃は上司の許可が無いと持ち出せないし、持っていたとしても発砲なんかできるわけがない。威嚇にせよ、こんなところで銃を撃ったら謹慎処分は免れない。
 銃さえ無ければ、竹内の戦力は一般市民とさほど変わらない。薪は柔道は二段だ、こんな優男に負けはしない。
「あら、大した自信だこと」
「ゆ、雪子さ……!」
 連絡口のドア陰から姿を現した女性に、薪の声が上ずる。彼女は膝丈のティアードスカートにブラウスと言う軽装で、トレードマークの白衣は着ていなかった。もしも着ていれば、染み込んだ消毒薬の匂いで気が付いたかもしれない。

「竹内、この卑怯者! 女の人に頼るなんて、それでも男か!」
 雪子はプレイボーイの竹内に騙されて、結婚の約束までさせられてしまった可哀想な女性だ。今回も、この最低男に言いくるめられたに違いない。
「雪子さん。僕たち、20年来の友だちじゃないですか。それなのに、どうして僕の味方になってくれないんですか」
「友だちだからでしょ。観念しなさい、薪くん」
 心から信頼していた友人にまで裏切られ、薪の絶望はますます深くなる。薪は眉間を険しくし、辛い現実から眼を背けるように長い睫毛を伏せた。

 ここに、鈴木がいたら。
 絶対に僕の味方になってくれた。世界中が、僕をこの世に産み落とした母親すら僕の敵に回ったとしても、彼だけは味方でいてくれたに違いない。
 鈴木、と心の中で彼の名前を呼ぶと、うっすらと身体の芯が温かくなった。今はいない親友が、自分を応援してくれているような気がした。

――――ありがとう、鈴木。がんばるよ。

「雪子さん、ごめんなさいっ!!」
「え? きゃ!」
 謝罪とともに、薪は突進した。身を低くして、両手を上向け、指先に触れた布地を思い切り引き上げる。瞬間、春らしいベージュ色のティアードスカートは、雪子の豊かな胸の辺りまで捲れ上がった。女性らしく安定感のある腰とそこから伸びる長い足が露わになり、捕獲者の二人が硬直する。その隙をついて、彼らの脇を脱兎のごとく駆け抜けていく小さな人影。
 戦わずして逃げるなど卑怯者の愚策、否々、三十六計どころか百計講じても逃げるしかない。雪子は柔道四段だ。勝ち目がない。

「し、室長が先生のスカートめくって逃げた……」
 あり得ない光景に愕然とする竹内の横で、雪子が赤い顔をしてスカートを押さえる。不愉快なことに、雪子は竹内の前では女らしくなるのだ。これが青木あたりだったらスカートの中身なんか気にしないで得意の一本背負いを仕掛けてきたに違いない。

「先生、その赤いフリルの下着、俺以外の男には見せないでくださ、痛った!!」
 いらんことを言ってどつかれたらしい。やっぱり雪子は最強だ。
「覚えてなさいよ、薪くんっ! 許さないからねっ!!」




*****

 
 法十名物、やんちゃ坊主薪さん。
 お、怒らないで……。



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

メロディ8月号、読みました。

 メロディ8月号読みました。

 とにかく今、叫びたい!
 日本語どころか言葉になってませんが、それでもネタバレになるので畳みます。
 詳しい感想はまた後日、書けるかなあ? レビューは苦手だからなあ、SSになっちゃうかもですけど、とにかく後日。

 一身上の都合で、すごくはっちゃけてます。 と言いますか、イっちゃってるカンジ?
 ご不快な点がありましたらすみません、でも、2ヶ月地獄を味わった後の楽園なので~、今日は見逃してください。
 あ、あと、青雪さん推奨派の方はいやんな気分になっちゃうかもなので、ご遠慮ください。

続きを読む

水面の蝶(17)

 ラストですー。
 原作とかけ離れた話になっちゃったのに、読んでいただいてありがとうございました。

 さて、メロディ買に行こうっと♪





水面の蝶(17





 コンクリート製の殺風景な箱の中で、透明なアクリル板を挟んで、山本美月は昔の恋人と向き合っていた。
 遠い記憶の中に眠る彼、そのままの姿で青木は美月の前に現れた。8年ぶりに再会したときと同じ、懐かしそうに愛おしそうに自分を見つめる黒い瞳。
 彼が、皮肉でもないせせら笑いでもない、心からの笑みを浮かべているのを見て、美月は不安な気持ちでいっぱいになる。

 どうして?
 自分は彼を騙したのに。その上、怪我まで負わせたのに。
 何故かれは笑っているの。どうしてわたしを責めないの。

「美月。少し痩せたみたいだ。ここのご飯、美味しくないの? 何か差し入れして欲しいもの、ある?」
 やさしさに満ちた彼の言葉に、美月は力なく首を振った。
 拘置所の麦飯は、パサパサして不味い。おかずもみすぼらしい。でも、親が差し入れてくれた弁当も似たようなもので、結局は喉を通らずに同室の者にあげてしまった。拘置所には専門の売店があって、そこで買ったものしか差し入れることはできない仕組みになっている。

「口に合わなくても、ちゃんと食べなきゃダメだよ。いざって時に力が出ないからね」
「いざって……どういう時?」
「うーん、運動の時間とか、入浴の時間とか?」
 必死に頭を巡らせたであろうその回答に美月は苦笑し、強張っていた肩の力を抜いた。
「そうね。ここじゃ、動くときってそれくらいしかないものね。気をつけないと太っちゃうわ」
「大丈夫。美月は太ってもきれいだから」

 呑気な会話の裏側で、彼が何をしに来たのか、美月は必死で考える。
 自分を詰りに来たのではない。恨み言を言いにきたのでも、嘲笑いに来たのでもない。じゃあ、何のために?

「美月。がんばるんだよ。オレ、美月のこと信じてるから」
 熱心に言われて美月は、青木がここに自分を励ましに来たことを知る。まさか、まだわたしの嘘を信じているんじゃ。
「一行。あのね、わたしがやったの。全部、わたしが」
「それは分かったよ。そうじゃなくてさ」
 照れくさそうに後頭を掻いて、青木は苦笑いした。子供が友人の悪戯に引っかかったときに見せるような、それは他人を安心させる笑顔だった。

「美月がちゃんとやり直せるって。オレ、信じてるから」

 同じように、自分の未来は決して閉ざされてはいないと言ってくれた人のことを美月は思い出す。美月がつけた頬の傷を絆創膏の下に隠して、今の青木と同じように美月の身を案じてくれた、彼。

「『薪さん』元気?」
「うん。相変わらず仕事の鬼だよ。今日も日曜なのに、このあと職場に戻るって」
 この後、ということは、ここまで一緒に来たのだ。おそらく外で待っているのだろう。見せ付けてくれるわ、嫌味のひとつも言いたくなっちゃう。

「あの後ね、わたし、薪さんと話をしたのよ。あなたと会った翌日、朝早くに薪さんがわたしのところへ来たの」
 へえ、と青木は眼を丸くした。どうやら知らなかったらしい。
「まさかあんな美人を射止めるとは思わなかったわ。すごいじゃない、一行」
「えっ。薪さんと何を話したの?」
「何って、色んなことよ。一行と『薪さん』の間であった、あーんなことやこーんなこと」
「ま、まさか! いや、それは薪さんの冗談だよ。オレたち別に、ソープごっことか猫耳プレイとか、してないから!! それに、女装は薪さんの趣味ってわけじゃなくて、仕事で仕方なくだからね、誤解しないようにね。まあたしかに新鮮ではあったけど。チャイナドレスもゴスロリも刺激的だったなあ……でも一番はやっぱり着物かなあ。そうだ、この次はメイド服着てもらって『ご主人様とメイド』のシチュで」
「一行……あなた、変わったわね」
 別れておいてよかった、と美月はさばけた口調で言い、久しぶりに声を立てて笑った。

 明らかにホッとした様子の昔の恋人と、後は他愛のない会話をしながら、美月は心の中で彼に語りかける。

 一行、覚えてる? わたしがあなたと別れるときに言ったセリフ。
『あなたはわたしを見ていない』

 わたしと付き合ってたとき、いいえ、その前から、あなたが見ていたのはあの人だけ。
 あなたは忘れちゃったみたいだけど、どうして弁護士をやめて警察官になることにしたの、って聞いたら、あなたはこう答えたのよ。
『科学警察研究所に薪剛って警視正がいるんだけど。警察庁始まって以来の天才って呼ばれてて、法医第九研究室っていうところの室長をやってるんだ。オレ、そこで働きたいんだ』

 彼に憧れている、とはっきりあなたは言った。
 あなたに自覚はなかったかもしれないけれど、わたしの目から見れば、それは紛れもない恋だった。
 同じ職場で働くようになってからは、もうそれを隠そうともしなくなった。たまに返って来るメールの内容が『薪さん』のことばかりなんて、ひとを馬鹿にするにもほどがあるわ。他の誰かに首ったけの男と付き合えるほど、わたしは寛容な女じゃないの。
 良かったわね。そこまで恋焦がれたひとと、相思相愛になれて。わたしは……。
 わたしは、失敗しちゃった。

「美月」
 面会の終了時間が近付いて、青木は真面目な顔になって美月の名を呼んだ。
「君に恋をして、オレは幸せだったよ」
 わたしもよ、と心の中で、美月は叫ぶ。あの頃が一番幸せだった。

 どうして。
 どうしてこの人の手を放してしまったのだろう。このひとが傍にいれば、わたしはきっと道を誤ることはなかった。今でもこの人の傍で、幸せに笑っていられたはずだ。
 でも現在、彼の傍にいて微笑んでいるのは自分ではなく、あのひと。警察署の取調室で話をした、驚くほどに美しいひと。
 彼があんなに美しいのは、一行の傍にずっといるから? 彼の愛情を受け続けているから?

 そう思いかけて、美月はそれがすべての理由でないことに気付く。薪はあのとき、自分に言ったではないか。

『青木の残したものが、あなたの中にもきっとある』

 万が一彼を失っても、薪は折れない。自分の中にある青木一行を見つめて、前に進むことができる。それは青木も同じこと。
 自分の中に薪がいるから、青木はそのやさしさを失わずに。
 自分の中に青木がいるから、薪はずっと美しいまま。
 互いが互いを磨くように、どんどん精練されていく。余計なものを取り去った糸はとても強くて、寄り合わせたらエクスカリバーでも切れない。

「だから、また別の誰かに。その幸せを分けてあげて」
 青木が最後に言った言葉に、美月は力強く頷いた。顔を上げて、しっかりと青木を見た。彼女の鳶色の瞳はキラキラと輝いて、やっぱり美月はきれいだ、と青木は思った。




*****




 T拘置所の石造りの門の陰で自分を待っていた上司に歩み寄って青木は、お待たせしました、と頭を下げた。これから職場に戻るつもりの彼は、仕事用のダークスーツに身を固め、でも休日らしく少し華やいだネクタイをしている。仕事が早く終わったら、食事くらいはと思ってくれているのだろう。

「どうだった?」
「元気そうでした。ちょっと痩せちゃってましたけど、笑うこともできるみたいでした」
 そうか、と素っ気無く背を向けて門の外に出た薪を、青木は後ろから追いかける。早足の薪に合わせるために、自然に歩幅が大きくなった。

「美月と話したそうですね。その、プライベートなことまで」
 青木が先刻得たばかりの情報を薪に確認すると、薪は明らかに歩を乱した。
 横目で睨むと薪は、ぷい、と横を向き、通り沿いのショーウインドウに飾られたこの秋の流行ファッションを眺める振りで青木の視線を避けた。バツの悪そうなその様子から、彼女の証言は信憑性を高める。

「ずるいですよ、薪さん。オレには、事情を知ってる三好先生にすら絶対に自分たちのことは話すなって言うくせに、自分は美月に喋っちゃうなんて。オレ、猫耳プレイのことはふたりだけの秘密にしておきたかったのに。あ、でも、着物プレイの良さは彼女も知ってて、着付け用の紐で両手を縛って長襦袢の裾を」
 ごん! という音がして、薪のおでこがショーウインドウとキスをした。振り向きざまに、あほか、と罵声が飛んでくる。
「おまえこそ何の話をしてきたんだ!? 彼女のこれからの人生、かかってんだぞ。ちゃんと元気付けてきたのか?!」
「大丈夫ですよ」

 脅しつけるような下方からの攻撃に、青木は余裕で切り返す。両の手のひらを前に出し、にこりと笑って、
「彼女、オレが大好きだった瞳の色をしてました」
 青木の言葉に、青木の大好きな亜麻色の瞳が凪いだ海のように穏やかになる。表情は変わらずとも、ゆっくりと開かれる細い肩が彼の気持ちを伝えてくる。

「あの瞳ならきっと。羽根を休められる草も、蜜を吸える花も見つけられると思います」
 薪はそれには何も言わず、黙ってまた歩き出した。青木もそれ以上は言葉を発せず、彼に並んで歩を進める。
銀杏並木の色づき始めた初秋の道を、ふたりは静かに歩いていった。




―了―


(2010.12)


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

水面の蝶(16)

水面の蝶(16)




「彼女も、そういうことなんでしょうか」
 食事の膳を空にして、青木は紙パックの牛乳をストローで啜りながら呟いた。しんみりしたその口調は、大切な思い出の品を失くしてしまった子供のように、寂しさに満ちていた。
 青木にはもう、事件の真犯人が彼女だと分かっていた。
 薪がここにいること、なのに彼女のことを話そうとしないのが何よりの証拠だ。薪が今も彼女の無実を信じているなら、絶対に動いてくれているはずだ。昨日、あれから美月がどうなったのか、どんな取調べを受けているのか、青木に教えてくれたはずだ。

「変わってしまったのか。それとも、オレの眼が節穴だったってことなんですかね。美月は誰にでもやさしい天使なんかじゃなくて、もともと人を害するような類の人間だったってことで」
「青木。それは違う」
 いまさら美月を庇ってもらっても、慰めにはならない。事実は事実として、動かしようもなくそこにある。

「何が違うんですか。罪を犯して、そこから逃れたくて、彼女はオレを利用しようとしたんですよね? それがうまく行かなかったものだから、腹を立ててオレを刺した。そんな人間をオレはずっと、この世で一番やさしい女性だと信じて」
「そんな人間て、どんな人間だ」
 青木の恨みがましい言葉を、薪の冷静な声が遮った。
「殺人を犯した人間は、普通の人間じゃないとでも言うつもりか。犯罪者は悪人で、そうじゃない人は善人だと?」
「違うんですか」
 薪の言わんとすることが、青木にはよく分からない。例外が無いとは言わないが、一般的な認識はそうだと思う。普通の人間は人を殺さない。
 しかし、薪は即座に青木の言葉を否定した。

「ちがう。犯罪者もそうじゃないひとも、みんな普通の人間だ。特別な人間が犯罪者になるわけじゃない。過ちを犯してしまった人たちを犯罪者と言っているだけで、彼らは悪人じゃない」
 犯人側にも目を向けることを怠らない薪らしい考え方だが、青木には屁理屈に聞こえる。薪はあるいは、自分の理屈を押し付けようとしているのではなく、青木の中にある美しい思い出を守ろうとしてくれているのかもしれないが、その気遣いすら今の青木の耳には空々しく響くばかりだ。

「そんなきれいごと」
「青木!」
 叱責するように、薪は青木の名を呼んだ。ぞくりと青木の心臓が冷える。
 いつも職場でされるように威嚇されて、条件反射で身構えてしまう自分が悲しい。しかしそのときの薪は、職場では絶対にしないことをした。ベッドに無気力に放り出されていた青木の右手を両手で包み、やさしく握って持ち上げたのだ。

「別に僕は性善説を支持してるわけじゃない。でも、誰にだってその可能性はある。ほんのはずみで、道を一本間違えただけで、転がり落ちるように犯罪に手を染めてしまって、抜け出したくても抜け出せない。そんなひとが世の中にはたくさんいるんだ」
 自分の手で救いきれない彼らの苦悩を慮ってか、薪の秀麗な眉が辛そうに眇められる。伏せられた睫毛が微かに震える、それは常に自分に厳しく、職務に忠実な薪がほんの少し覗かせる彼の真実の片鱗。
「水面を飛ぶ蝶のように。降りたくても降りられない。彼らの視野はとても狭くなっていて、真下の水面しか見えない。両側にあるはずの風景が見えないんだ。羽根を休められる草も、蜜を吸える花も、何も見えない。そんな彼らにとって、飛ぶ方向を変えることはひどく難しい」

 目蓋を閉じて、長い睫毛を重ねて、そうして薪が青木に見せてくれるのは、どんなに著名な工芸家でも作り出せない麗しい造形。だけどこんなに薪がきれいなのは、見た目だけじゃない、形だけじゃない、彼の魂の中核を成す、それは彼が生まれ持ったもの、そして彼の人生の中でその純粋さと共に懸命に積み重ねてきたもの。
 おそらくは誰もが生まれたときその手に握っていて、でも何かをつかむために手放して、多くのひとがもう二度と手に入らないと嘆く秘石を薪は当然のように持っていて、それが彼をきらめかせるから。正義感や熱意や情熱や、時には眩暈がするような愛くるしさになって、彼の中から溢れ出すから。

「青木」
 大切過ぎて触れるもためらわれるようなものを慈しむときの慎重さをもって、薪が自分の名前を呼ぶ。彼の全身から発せられる、彼の輝きが青木を包む。
「僕たちの仕事は、市民を犯罪から守ることだろ。だったら犯罪に手を染めてしまった人たちをそこから救うことも、僕たちの仕事だと思わないか」
 再び眼を開けた薪の亜麻色の輝きを見れば、それは一番に彼の真実を表していて。いとも簡単に青木の反駁心は根こそぎ奪われる。はい、と頷くしか残されていない一者択一の選択肢を、青木は心からの喜びと共に選び取る。

「怪我が治ったら、彼女に会いに行きます」
 青木の言葉に、薪がこくりと頷く。亜麻色の髪がさらりと揺れて、つやめくリングが天上の美を宿す。
 青木は薪に包まれた右手をさらに高く持ち上げると、薪の手の甲に敬虔さの漂うキスを落とした。

「薪さん。オレ、薪さんの部下でよかっ……て、なんですか、そのいきなりの大欠伸は! 感動シーンが台無しですよっ!!」
 心から捧げた尊敬をスルーされて、しかも欠伸までされた日には、胸いっぱいに広がった感動も掻き消されようというもの。大声による腹筋の収縮に伴う痛みも手伝って、青木のテンションは錐もみ状態で落ちていく。
 それなのに薪は、青木の憤慨を何処吹く風と受け流し、彼の手を素っ気無く払って口元を手のひらで隠しながら二度目の欠伸をするという軽挙に出た。
「誰かさんのせいで昨夜寝てないから。眠くって、貧血起こしそうだ」

 かちーん。

 昨夜の睡眠不足は薪の空回りの自業自得で、青木は頼んでないし、看護師さんも要らないって言ってたし、だいたい怪我人に向かって「おまえのせいで寝不足」って普通言いませんよね?
 二回の大掛かりな酸素補給を行なったにも関わらず、まだ眠そうに目をこすっている薪の耳元で、青木はささやかな復讐を試みる。
「昨夜はありがとうございました。お礼に、今度薪さんが貧血起こしたら、オレの血を全部あなたに差し上げますから」
「何を大袈裟なことを言って…………ん?」
 どこかで聞いた、いや、口にした覚えのあるセリフをそっくり返されて、薪はたちまち顔を火照らせる。信じられないことを聞いた、という顔をして青木の顔をまじまじと見る、そんな薪の姿は、看護師たちの噂話が真実であったことを青木に教えてくれる。

「まさかおまえ、ずっと意識のない振りをしてたんじゃ」
「違います、看護師さんたちが話してるのを聞いただけで、ちょっ、薪さん? どうして花瓶を頭の上に振り上げてるんですか? あ、さすがにそれで叩いたりは、って冷たっ! てか、痛―――ったいっっ!!」
 顔にぶっ掛けられた水は植物特有の臭気がして、身体をよじったものだから痛みもひどくて、本気で泣きが入りそうだ。
「みそ汁の次は花瓶の水ですか。イタタ……」
 どうやら今日の青木には、水難の相が出ているらしかった。


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

水面の蝶(15)

 明後日ですね。
 みなさん、どきどきしてますかー? 

 前回はみんなにメイワクかけちゃったので、今回はそんなことのないよう、ココロの準備をして挑もうと、懸命に精神修行を積んでいたのですけど。 ←具体的には青雪さんの結婚式とか家庭を妄想していた。 おかげでこの2ヶ月、何も書けなかった。(--;
 考えを突き詰めるうちに、「あれが薪さんなんだなー」と思えるようになって来ました。
 自分の恋心には蓋をして、相手の幸せのために力を尽くす。 わたしが好きになった薪さんは、元からそんな人でしたよ。 4巻で、会議を抜け出して雪子さんと喋ってる青木さんの代わりに書類を配る薪さんに惚れたんだもん。
 最終回でやっと、わたしの一番好きな薪さんが帰ってきたんだなー、と思えば、それはそれで感慨深いです。
 青木さんに恋をして、雪子さんに嫉妬して、修羅の果てに辿り着いた彼の現況を、祝福してあげたいです。

 事件に関しては純粋に面白いと思って読んでたので、ココロの準備が必要なのはこの件だけです。 腐女子の悲しいサガっすね☆






水面の蝶(15)






 あーん、と口を開いて、青木は薪のほうへ顔を向けた。口の中に入ってきた味の薄い卵焼きを噛み締め、満足そうに目を細める。
「美味いか?」
「はい。薪さんの卵焼きには全然敵いませんけど」

 リクライニングを起こして背中に枕を入れ、ベッドに座ったまま、青木は口だけを動かして食事をしている。薪が手ずから青木にごはんを食べさせてくれるなんて、一生の間に一度、あるかないかの大イベントだ。このチャンスを逃してなるものか。
「ほら、野菜も」
 箸ではつまみにくいプチトマトは、ヘタを取って、指でもって食べさせてくれる。プチトマトと一緒に口の中に入ってきた薪の細い指先をチュッと吸って、青木は悪戯っぽい眼で薪を見た。薪はちょっと赤くなり、照れ隠しに慌ててご飯を箸で掬い、青木の口へ……ああっ、もう本気で腕の一本くらい捥げてもいいっ!

「早く退院して、薪さんのごはんが食べたいです」
 青木が切実な口調でそう言うと、薪は食事のプレートに『普通食』と書いてあるのを確認してから、
「昼飯に何か作ってきてやろうか」なんて優しいことを言ってくれる。薪と出会ってから8年、こんなに彼にやさしくしてもらえたのは初めてじゃないだろうか。
「本当ですか? じゃ、ハンバーグとオムライスと鳥唐揚げと、牛肉の牛蒡巻きにポテトサラダに春雨とつくねのスープと」
「ちょっと待て、どんだけ食う気だ。おまえ、本当に病人か?」
 傷口は痛いが、内臓に怪我がないから食欲はある。それに、薪の作った料理ならいくらでも食べられる気がする。
 疑わしそうな目をしながら、薪は汁碗を取った。みそ汁も薄いと見えて、上部は澄まし汁、下部はみそ汁の二重構造になっている。薪は碗の底を箸で揺らして全体の味を均一にすると、身を乗り出し、汁碗を両手で持って青木の口元に近づけた。

「あのう、できればみそ汁は口移しで……」
「ばっ! そんなことできるわけないだろ、病院だぞ!」
「でも、スプーンついてないし。汁碗から直接だと、こぼしちゃいそうだし」
「うっ……」
 口元を引きつらせて、薪は椅子に座り直した。まあ、個室だし、と口の中で呟くと、みそ汁を口に含む。
 ちらりと青木を見る、恥ずかしそうな上目遣いの瞳がたまらなく可愛い。軽く尖らせた艶っぽいくちびるとか、透けそうな頬に上った朱色とか、ためらいの形に固まる指の形とか。何もかもが好ましくて、ありえないくらい愛しくて、青木は思わず亜麻色の髪に右手を差し入れる。
 びくっと身を引く薪の様子が、これまた可愛くて。数え切れないくらいベッドを共にしてお互い知らないところはない仲だというのに、失われない清純は薪というひとの特徴であり、奇蹟だと青木は思う。

「薪さん……」
 尚も身を引く薪に追いすがり、捕らえ、その身体を抱きこんで、青木は彼の整った顔を至近距離から眺める。大きな亜麻色の瞳がいっぱいに開かれて、その中に映し出された熱い目をした男の顔がどんどん近付いてきて―――。
 プ――ッ、という破裂音と共に、青木の顔面に粘っこいみそ汁が吹きつけられた。みそ汁で顔洗って出直せ、と言葉で叱責されたことはあるが、実際にその洗礼を受けたのは初めてだ。

「ひっど……ひどいですよ、薪さん」
 薪の口の中に入っていたものだから、唾液と混ざってネバネバする。タオルで顔を拭きながら青木が抗議すると、薪はヒステリックな声で、
「おまえ、歩けるじゃないか!!」
 あ、しまった。
「傷が引き攣れて腕も動かせないって、ウソだったのか!?」
 だって……薪さんに食べさせてもらいたかったから……。
「おまえというやつは~~~~~!!!」

 自分が騙されたことを知って、薪はギリギリと歯噛みし、でもさすがに入院患者に手を上げることはできなくて、不貞腐れてパイプ椅子にふんぞり返った。両腕を組み、ついでに足も組んで、金輪際おまえの世話はしないぞ、と意思表示をしてみせる。
 青木は仕方なくベッドに戻って、残りの食事をぽそぽそと食べた。薪に食べさせてもらったのと同じ料理のはずなのに、びっくりするほど不味かった。

「ったく。おまえも図太くなったもんだ。昔はあんなに僕のこと怖がって、ビクビクしてたくせに」
「いつまでも新人じゃありませんから。成長したと言ってください」
「言い様だな。人間、変われば変わるもんだ」
 はっ、と吐き捨てるように鼻で笑って、薪は足を組みなおした。スマートなスラックスが、膝の細さを際立たせる。
 青木のことばかり言うけれど、薪だって、ずい分変わった。
 知り合ったばかりの頃はこんなに我儘じゃなかったし、意地悪でもなかった。もっと穏やかで物静かで、大人の分別を持っていた。それがいつの間にか、こんな天邪鬼でコドモでフクザツな性格のオヤジに……。
 しかし、最初のころの薪より今の薪の方がずっと可愛く思えるのは何故だろう。
 悪役俳優みたいな白い眼で青木を睥睨する薪を見て、そのヒールめいた顔つきに心が浮き立つ自分に気づいて、薪の言うとおり、自分はやっぱり変わったのかもしれないと青木は思った。

「彼女も、そういうことなんでしょうか」



*****

 見渡せば、病院でエッチしてるカップルもいると言うのに、うちの二人ときたら。(笑)
 てか、
 これが鈴木さんだったら、薪さん、怒ったりしないんだろうな。 なんでかな、今では鈴木さんより青木さんの方が好きな筈なんだけどな。


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

水面の蝶(14)

 こんにちはー。

 昨日、たくさん拍手くださった方、ありがとうございます。(毎日いっぱいいただいてるんですけど、昨日は特に多かったので)
 お一方ではないと思うのですけど、昨日みたいにお天気の良い休日に、あんな不健全なもの読ませてしまって申し訳ありませんでした~。
 そして今日のシーンもまた、取調室と言う日当たりの悪い場所で。 青木さんの元カノVS薪さんと言う構図で。 
 毎度、心臓に悪いSSですみませんです。 





水面の蝶(14)





 昨日、自分を警察に連れて来た刑事に取調べを受けたときと同じように、美月は俯いて口を閉ざしていた。貝のようにただじっと、時が過ぎるのを待とうと思った。
 こんなに朝早くから取調べにくるなんて、部下を刺されてよほど頭に来ているのか。何が何でも白状させてやると息巻いてきたのだろうが、自分は絶対に喋らない。
 自分は悪くない。悪いのは、あの男だ。

「青木は大丈夫ですよ」
 思いがけないことを言われて、美月は面食らった。身構えていた緊張が、僅かに崩れる。
「傷は浅くて、内臓には届いていませんでした。よく切れる刃物でしたから、傷口もすぐにふさがるでしょう。2,3日すれば、退院できますよ」
 亜麻色の瞳は真っ直ぐに美月を見ていた。美月はやっと顔を上げて、薪の方を見た。
「心配だったでしょう?」
 やさしげな声だった。慈しむような瞳だった。昨日の刑事の威嚇するような声、眇めた鋭い眼とはまるで違っていた。

「青木がね、ずーっとうわ言であなたのことを案じていました。だからきっと、あなたも青木のことを心配してるんだろうなって」
「……相変わらず、お人好しなのね。一行は」
 自分を刺した女のことを心配するなんて、お人好しを通り越してただのバカだ。
 まったくです、と笑った薪の顔は、何故かとても誇らしくて。美月は薄々気がついていたふたりの関係を確信する。それは意外でもあり、ある意味当然かと思われた。だって、一行は昔から――。

「事件のことを、話してもらえますか」
 穏やかに切り出されて、美月はガードを固める機会を逃す。世間話の続きみたいに言われたら、意識を浮遊させる暇もない。
「添田さんを許せなかったあなたの気持ちは、よく分かります。添田さんが横領を指示していたんですよね? あなたは彼を愛していたから、彼の言いなりになってしまった。でも彼は」
 添田の言いなりにならざるを得なかった美月の苦しさを、まるで自分が味わっているかのように、辛そうに眉をひそめて薪は言った。
「あろうことか篠田玲子に横恋慕し、横領の罪を全部あなたに押し付けて、銀行から追い出そうとした」
 ちょうどその事実を知った時の自分のように、薪は長い睫毛を伏せた。それから再び顔を上げ、しっかりと背筋を伸ばした。

「一時の感情を制御できず、あなたが彼を殺めてしまったことはあなたの罪です。でも、あなたは悪人ではありません。あなたはとてもやさしい人だと、青木は言ってました。僕は彼の言うことを信じます」
 刑事のくせにずい分甘いのね、と美月は心の中で呟く。
 昔青木から聞いた限りでは、『薪さん』は凄腕の捜査官だという話だったが、とてもそうは見えない。女みたいにきれいな顔をして、身体も華奢で……ていうか、このひといくつ? わたしより若いわよね? なんか計算合わないような気がするけど。

「ひとは、過ちを犯す生き物です。誰にでもその可能性はある」
 薪はそう前置きしてから、美月がぎょっとするようなことを言った。
「僕は部下を射殺した事があります」
 美月はそれを知らなかった。青木から薪の話を聞いたとき、そんな話は出なかった。
「正当防衛が認められて、僕は裁かれませんでしたが。僕自身はあれを不可抗力だとは思っていない。自身の過ちであったと認識しています」
 悔恨でもなく、懺悔でもなく、それは単なる述懐に聞こえた。それは仕方のないことだった。彼が事件のことを感情に溺れずに口にできるようになるまでの道のりを、美月は知る術もなかった。
 しかし、次に彼が語った言葉は、美月の胸に重く響いた。

「償いのチャンスを与えられることは、決してあなたの人生にとって不利益なことではありません。本当に辛いのは、罪を認められないことです。
 罪を認めない限り、あなたはそこから一歩も進めない。釈明することもできず、償うこともできず、許しを請うことも忘れ去ることもできない。あなたの人生は、そこで止まってしまうんです。
 あなたの時間は止まり、身体だけが年老いていく。空っぽの人生を消化するだけの日々を過ごして、やがて天に召されるとき、あなたの中にいったい何が残るのでしょう。
 僕は、そんな人生をあなたに歩んで欲しくない」
 美月は、自分の身体がひとりでに震えだすのを自覚して、それを抑えようと自分で自分の腕を抱いた。
 薪の言うことは、真実味があった。人を殺めたことがある彼の言葉だからこそ、こんなにも自分の身に迫るのか。

「どうしてそんなことを、わたしに?」
 美月は不思議だった。薪の言葉も態度も、自分を恨んでいるようには思えない。彼を傷つけられて怒り心頭に発している筈なのに、その様子は心から自分を心配してくれているように見える。
「何故わたしの未来を、あなたが心配してくれるの?」
「僕があなたに感謝しているからです」
 薪の応えは、美月を驚愕させた。我知らずぽかんと口を開け、大きく開いた鳶色の眼で、目の前の美しい顔が美しい言葉を紡ぐのを見つめる。

「あなたは確かに、彼を形作った一片です。僕の大事な人の人生を豊かにしてくれた。僕が好ましいと思う彼に至る一縷の流れは、あなたから発せられたものだ。だから僕はあなたに感謝している」
 机に拳を乗せ、少し身を乗り出して、薪は熱心に語りかけた。その口調は熱く、彼のクールな外見を裏切って、青臭くさえあった。
「あなたには、実りある人生を歩んで欲しい」
 そう結んで、薪は口を閉じた。

 それきり、薪は事件に付いて一言も訊かなかった。部屋には静けさに満たされ、ふたりの呼吸の音すらしなかった。沈黙に耐えるため、美月は再び顔を伏せた。
 長いこと、薪は美月が口を開くのをじっと待っていたが、その時はとうとう訪れなかった。腕時計を見やり、他の職員が出勤してくる時間が近付いたのを確認して、薪は立ち上がった。
 最後に、薪は美月の傍に歩み寄り、彼女の横に優雅に片膝を付いた。俯いてしまった彼女の顔を下から見上げるようにして、
「今でも青木の中に、やさしく美しいあなたが息づいているように。あなたの中にも彼が残したものがあるはずです。それを思い出してもらえませんか」

 懇願されて美月は、胸を締め付けられたように息を殺した。
 やさしく美しいわたし。一行は、自分のことをそんな風に話したのか。

「彼なら、あなたがこれから生きていくのに必要なものを残してくれているはずです。僕は彼からそれを受け取りました。だから今も生きていられる」
 吸い込まれるような亜麻色の瞳に見つめられて、美月はますます胸が苦しくなる。

 なんてきれいな瞳。わたしが失ってしまった光を、彼はずっと持ち続けている。他人を殺めた者同士、でもこんなにも違う。
 それは彼が、一行が傍にいるから? 彼が一行に選ばれて、わたしは一行を手放してしまったから? その違いだというの。

「あなたにも、きっと残されている。彼は、そういう愛し方をする男だったはずです」
 すっと立ち上がり、真っ直ぐに歩いて薪は部屋を出て行った。きれいに伸ばされた細い背中が、美月の瞳に鮮烈に焼き付いていた。





テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

水面の蝶(13)

水面の蝶(13)





「青木さん、おはようございます」
 ノックの音がして、病院の看護師が姿を現した。お熱測ってくださいね、と体温計を青木に差し出し、すぐに病室を出て行く。朝の交代前で、忙しいのだろう。部屋の引き戸は空けられたままになって、多分空気の入れ替えも兼ねているのだろうと勝手に判断し、青木は横になったままで体温計を脇下に挟んだ。

 昨夜はあの後、看護師が来て痛み止めの注射を打ってくれた。そのおかげで朝まで眠ることができた。浅く不快な眠りだったが、痛くて眠れないよりはずっといい。
 青木はぼんやりと天井を見つめて、何も考えずに体温計のアラームが鳴るのを待っていた。一晩経ったら、大分気持ちの整理もついた。
 美月はもう、自分の手の届かないところに行ってしまった。自分にはどうしようもない。祈ることしかできないのだ。
 空っぽの心を抱えた青木の耳に、廊下からかしましいお喋りが聞こえてきた。

「あら、ここの患者さんて、昨日運ばれてきた人?」
「そうそう。林檎剥いてたら自分のお腹にナイフを刺しちゃったって器用な人」
 ……オレってどんだけドジなんですか。
 薪が言ったに違いない。記憶はないが、自分を病院に連れてきてくれたのは、薪のはずだ。そう思った矢先。

「そういえば、ここの付き添いで来た男の人、見た?」
「見た見た。すっごい美形だったわよね」
 話題が薪のことに移って、青木は恋人のきれいな顔を思い出す。
 冷たく透き通った美貌を一筋も乱すことなく、流れるような動作で美月を床に引き倒していた。頬に一筋の血が流れているのが、場違いなほど凄艶だった。
 薪は終始、冷静だった。青木が怪我をしても、自分が傷ついても。職務となれば感情を殺した機械にもなれる。警察官はそういう精神を要求される職種だが、恋人がナイフで刺されたのに慌てもしないなんて。しかも、昨日の6時には既に姿が見えなかった。青木はずっと気を失ったままだったから定かではないが、処置が終わり、病室に落ち着いた時点でさっさと帰ってしまったのだろう。
 寂しい気もするが、昨日の夜に病室を訪れた医師の話では、刺されたショックと痛みで気を失ってしまっただけで、大した怪我ではなかったようだし。薪が大量に持ち帰ってきた仕事は、あの騒ぎで手付かずのままだ。今頃薪は、家で書類と格闘しているに違いない。
 若干の寂しさを、書類を捌いている薪の美しい横顔を思い出すことで埋めようとしていた青木の耳に、やや年配と思われる女性の険しい声が聞こえた。

「こら、あんたたち。お喋りしてるヒマがあったら、手を動かしなさい」
 すみません、と謝る複数の声が聞こえる。どうやら彼女たちの上司は、仕事に厳しい女性らしい。さもあらん、ここは病院でひとの命を預かっているのだ。真剣に挑んでもらわなくては困る。
「で、なんの話?」
「それがですね、婦長」
 って、こら!
 噂話の声がもうひとつ増えて、廊下はますます騒がしくなる。大丈夫か、この病院。

「403の患者さんの付き添いの方の話です。ほっぺに切り傷つけてた、すごくきれいな男のひと」
「あーあー、あのひと。『僕の血を全部』のひとね」
「そうです、そう!」
 いくつかの相槌が重なり、廊下の空気がいっぺんに華やぐ。彼女たちの話はいまひとつ見えてこないが、薪のことを言っているのは間違いない。
 一刻を争う命の現場で鍛え上げられたもの特有の小さくともよく通る声で、彼女たちは言った。

「真っ白な顔しちゃって、身体中震えちゃって。彼は大丈夫ですか、ってあなたが大丈夫? ってツッコミたくなっちゃいました」
「輸血が必要なほど深い傷じゃなかったのにねー、『僕の血を全部彼にあげてください!』って叫ばれて、須藤先生も面食らってたわよねー」
「しかも大丈夫だって分かった途端、安心して貧血起こして倒れたのよ。もう、どんだけ人騒がせな付き添いなのよ」
「でもちょっと感動しない? 全部よ、全部」
「あたしの彼、あたしが怪我したら同じこと言ってくれるかなあ?」
「無理無理。あんたの彼、注射が怖くて病院に来れないんでしょ」

 くすくすと抑えた笑い声が響く中、先刻病室を訪れた看護師が体温計を回収に来た。
「青木さん、お熱測れましたか? ……大丈夫ですか? 痛みます?」
 看護師が気遣わしげに青木の顔を覗き込み、優しい言葉を掛けてくれた。青木は大丈夫です、と返して、目の縁に浮かんでいた涙を人差し指で拭った。
 笑ったら、傷口が泣くほど痛かった。でも幸せで、青木はこの痛みを失くすのが惜しいような気さえした。

「37度5分。昨夜より大分下がりましたね」
「オレ、昨夜はぐっすり寝ちゃって」
「痛み止めと、眠れるようなお薬を入れましたから」
「お世話掛けました。体温測るの大変だったでしょう? 図体でかいから」
 青木が恐縮すると、看護師は首を振って、
「ずっと付き添いの方が起きてらして。お熱はその方に測ってもらったんですよ」
「あれ。彼は夕方帰ったんじゃ」
「いいえ。一晩中、ここにおられましたよ。青木さんの意識が戻ったときは、ちょっとその……あちらの意識がなかったというか、まあ……」
 そういうことか。貧血を起こした彼に、自分が付き添ってやりたかった。

 曖昧に語尾を濁した看護師に、青木は薪の行方を尋ねる。朝早くに病院を出たそうだが、朝食の時間までには戻るから、とナースステーションに青木のことを頼んでいったそうだ。
「きっと、食事のお世話をなさるおつもりなんだと思いますけど。ぜんぜん、必要ないんですけどね……夜間も完全看護だからって言ったのに、聞く耳持たないし……」
 少しだけ呆れた口振りで彼の空廻りっぷりを暴露する、だけど彼女の表情はやさしさに満ちて。多分に迷惑を掛けたであろう青木の付き添いのことを、彼女が心の底では微笑ましく思っていることを青木に知らせる。
 朝食は普通食が出ますからね、と言い置いて、看護師は病室を出て行った。青木は仰向けになったまま、朝食の時間を心待ちに目を閉じた。




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

水面の蝶(12)

水面の蝶(12)






 日曜日の早朝、薪は渋谷南署に竹内を訪ねてきた。
 時刻は朝の6時。日曜日の署は、ひっそりとしていた。ここにいるのは『T銀行副支店長殺害事件』の捜査員だけで、それも指名手配中の重要参考人が捕まったことから殆どの職員は一旦は自宅へ帰り、取調べに当たる数人の捜査官だけが泊まり込みをしているだけだった。8時を回れば報告書の作成のために彼らも出てくるだろうが、それまでにはまだ間があった。
 
 使われていない小会議室に入り、ガタガタいうパイプ椅子にふたりは腰を下ろす。何処の署も予算削減で、普段使っていない部屋の備品は自然とガラクタばかりになる。
「青木は大丈夫ですか」
「ええ。大した怪我じゃありませんでした」
「よかった」
 竹内は心から喜んで、素直に安堵の言葉を洩らした。その気持ちは薪だって一緒のはずなのに、彼のくちびるから出てくる言葉は実に厳しかった。
「あれくらいの出血で気絶なんかして。情けないやつです」
 澄ました横顔がおかしくて、竹内は笑い出しそうになる。昨日はあんなに思い詰めた顔をしていたくせに。

「彼女は事件について、なにか話しましたか」
 尋ねる薪に、竹内はまたもや不思議な感覚を味わう。
 薪の声音からは、大事な人を傷つけられた恨みも口惜しさも伝わってこない。竹内でさえ友人である青木を傷つけられてかなりの私怨を抱いているくらいなのに、彼はどうしてこんなに平静でいられるのだろう。
 薪の丸い頬に貼られた絆創膏を見て怒りを新たにしつつ、竹内は首を振った。
「いいえ」
「例の、篠田玲子については」
「彼女はシロです。アリバイもあるし。それに、昨日電話で言った通り、副支店長と不倫関係にあったのは山本美月のほうです」
 篠田玲子という行員を調べるようにと薪から電話が入ったのは、昨日の午後だった。副支店長の不倫相手については既に情報が上がってきていたから、その事実を彼に伝えた。それから1時間ばかりして、青木の昔のアパートに来るよう言われたのだ。
「そうですか」
 長い睫毛を沈痛に重ねて、薪は苦しそうに息を吐いた。ぎゅっと握り締めた両の手が、かすかに震えている。

「室長。俺のカンでは、彼女はクロです」
 膝の上で震える手を止めようと、もう一方の震える手を重ねる。握られた手が白くなるほどに籠もるその力は、嘆きか、怒りか。
「……青木は、違うと言っています。彼女は天使のようにやさしい女性だったと」
「青木が知っているのは、昔の彼女でしょう」
 彼女と青木の過去を知っているのは自分だけだとでも思っていたのか、薪は驚いた表情で竹内を見た。こんなに朝早くから署を訪れたのも、二人の関係を説明するつもりだったのかもしれない。

「俺は青木のダチですよ。昔の女の話くらい聞いてます」
「そうなんですか? 僕は今回、初めて知りました」
 それはそうだろう。過去の女性の話だ。友人には話せても、薪には話せない。当たり前だと思っても口には出さず、竹内は青木の昔話を記憶の中から引き出した。

「人が良くて、友人のためにバイトしたり、お金を用立ててあげたりする娘だったって話ですけど。今時そんな娘、いますかね」
 本当は自分が男に貢いでいたのを、友だちのこととして青木に話したのではないか。青木から話を聞いたとき、竹内はすぐにそう思った。添田副支店長が昔から株に手を出しては借金を重ねていたことは調べがついている。青木と付き合い始める前から、彼女は添田と関係していた可能性もあると竹内は考えていた。
「だいたい、欠点がひとつも無いなんて、うさんくさいです。彼女が自分を偽っていたのか、青木がのぼせ上がって何も見えなくなってたか。そんなところじゃないですか」
 青木の持つ情報は、あまりにも偏りすぎていると竹内は判断していた。こなした数には自信があるが、そんな女性にはお目にかかったことがない。もっとも竹内なら、欠点の一つもない女性を魅力的だとは思わないが。女は欠点があるからこそ可愛いのだ。

「女ってのは、必ず裏の顔を持ってるもんです。青木みたいに初心なやつには分からないでしょうけど」
 薪は黙って竹内の女性論を聞いていたが、竹内がそう結ぶと、横柄に顎を反らし、眼を半分伏せた嫌味な表情で、
「ただれた恋愛ばかりしてきたんですね。竹内さんらしいです」
「……わかりました。青木は素晴らしい女性と付き合っていた。そういうことにしておきましょう」
 しかし、彼女はクロだ。これは譲れない。

「だけど、ひとは変わるものです。あなたも俺も、ずい分変わったでしょう?」
「人間の本質は、そう簡単に変わるものじゃありませんよ。例えば、プレイボーイは一生プレイボーイでしょう?」
 甘いマスクににモノを言わせて女の子をとっかえひっかえしていた頃のことを揶揄されて、竹内は降参の徴を胸の前に掲げた。両手のひらを相手に向けて、軽く肩を竦め、
「そうかもしれませんね。でも、その本質が出せない時期は人生の中で必ず訪れます。今の俺みたいにね。彼女もきっとそうなんですよ」
 自分が雪子と付き合いだしてから、プレイボーイの血が騒がなくなったように。彼女は青木と別れたことで、自分が元来持っていた美しさを発揮できなくなった。そういうことかもしれない。

「彼女と話をさせてくれませんか」
 速記者も付けず、外部のものを取調室に入れるのは完全な違反行為だが、毒を食らわば皿まで。いい加減、薪の顔に合わない無法ぶりにも慣れてきた。犯人を挙げるためなら、違法捜査ギリギリのことでも平気でやる。度胸がいいと言うか、無鉄砲と言うか。
「竹内さん。彼女から得た事件の情報は、全部あなたに渡します。ですから、どうか録音機は切っておいてください」
 頷いて竹内は、留置所にいる美月を取調室へ連れて来た。その後で薪を取調室へ案内し、こっそりと隣の覗き部屋へと移動する。誰もいないことを確認し、用心のために鍵を掛ける。
 マジックミラーの向こうでは、スチール製の事務机を挟んで薪と美月が静かに向かい合っていた。



*****

 しゅらばらんば2~♪(←すっごく楽しいらしい)


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

水面の蝶(11)

 ということで、本日2つ目の記事です。
(10)を読んでからこちらを読んでくださいね。(^^








水面の蝶(11)





 ハッとして青木は眼を覚ました。窓からは、西日が差し込んでいた。
 左腹に強烈な痛みを感じる。じりじりと、焼けるように痛い。刺し傷がこんな痛み方をすることを、青木は今まで知らなかった。
 周りを見回すと、白い壁とサイドテーブル、小さなロッカーが見えた。どうやら病院の個室らしいが、部屋には誰もいなかった。
 サイドテーブルに置かれた腕時計は、6時を指している。あれから2時間ほどしか経っていない。
「帰っちゃったんだ。冷たいなあ、薪さん」
 ぽつりと呟いて、でもそんなことはどうでもよかった。

 美月はどうしただろう。
 自分を刺したのを、薪は目撃している。厳格な薪のことだ、美月の罪状に傷害と公務執行妨害を追加しているかもしれない。あの場では表沙汰にしないようなことを言っていたが、怪我をした青木を思いやってのことかもしれない。薪は目的のためなら、平気で嘘を吐くのだ。
 竹内に美月のことを任せると言っていたが、竹内は上手くやってくれているだろうか。美月の言うことを、信用してくれただろうか。
 いや、そんなに心配することはない。篠田のことをきちんと調べてくれさえすれば、美月が犯人でないことはすぐにわかる。わかるはずだ。
 だが。

 心に広がる暗雲のような不安を、青木はどうしても消すことができない。
 小さな手に小さなナイフを握って、あのとき美月は言った。

『嘘吐き。男はみんな、嘘ばっかり吐くの』

 彼女の呪詛は、彼女が男に裏切られたことを暗示していた。
 銀行の上司との不倫関係、その相手に頼まれての横領、それを美月は友人のしたことだと青木に言ったが、もしかするとそれは。

「ちがうよな……美月がそんなこと、するはずない。あの美月が」

 繰り返しながら、青木は薪のきれいな頬を伝った真っ赤な血を思い出す。刃物でひとを傷つけるなんて、それも選りによって薪のことを。
 大事な薪に傷を付けられたかと思うと、怒りが込み上げてきて彼女を憎む気持ちが生まれてくる。
 やっぱり、自分は彼女に謀られていたのか。
 心の底からやさしい女性だと思っていたのに、あれは青木と付き合っていたから、恋人の前だから、だからあんなに善人でいられたのか。
 それを欺瞞と言うつもりはない。自分だって、薪の前では善人の振りを、いや、善人であろうとする。好きなひとにはよく思われたい。当たり前のことだ。

 だけど。
 信じたくない。彼女との思い出はあまりにも美しすぎて。あれがすべて若き日の幻想だったと悟るのはつらい。

「美月……」
 密やかに呼んだ彼女の名前は、見知らぬひとの名前のように、青木の耳に虚しく響いた。




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

水面の蝶(10)

 毎日更新しようと思ってたんですけど、明日、出張入っちゃいました。
 ので、
 今日、2つ更新しておきます。 褒めて♪ (3歳児?)






水面の蝶(10)






 何度か足を運んだことがある友人の家のドアを開けて、竹内誠はその場に立ち竦んだ。
 狭い玄関の床に女がうつ伏せに倒れていて、靴箱の足に手錠でつながれている。顔を上げると、リビングの床に仰向けに寝ている青木の姿と、彼の頭を自分の膝に乗せて座り、彼の左の腹をタオルで押さえている薪の姿が見えた。
 竹内は静かにドアを閉めると、玄関の女性は無視して友人たちに駆け寄った。
 華奢な右手が押さえているタオルは、血で真っ赤に染まっていた。横たわる青木の顔は青白く、意識はない。出血によるショック状態だとしたらかなり深刻な状態だが、タオル2枚分くらいの出血なら命の心配はないと思われた。薪の頬にも血がついていたが、こちらは既に止まっていた。

「何があったんですか」
 お願いします、という言葉と同時に、小さな頭が深く下げられたことに、竹内は少なからず驚いた。長い付き合いになるが、このひとが自分にまともに頭を下げたのは初めてじゃないだろうか。
 しかし、薪の頼みごとの内容にはもっと驚いた。

「本部に報告するなって……これは明らかに傷害ですよ? しかも、彼女は指名手配犯じゃないですか」
「彼女の身柄はお渡しします。でも、青木のことはどうか内密に」
 必ず一人で来てくれと電話があったときから、おかしいとは思っていたが。事件隠蔽の片棒を担がせる気だったとは。
「お願いします。頼める人が、竹内さんしかいないんです」
「……この貸しは高いですよ、室長」
「分かってます。僕にできることなら何でもします」
「うちの先生、いま二人目がお腹にいるんですけど。つわりがひどくて何も食べられない状態なんですよ。一人目の子のときみたく、料理を作りに来てくださいませんか?」
 青白い顔に冷や汗と緊張を浮かべていた薪は、竹内の言葉にようやく微笑んで見せた。
 理由はどうあれ、青木が指名手配犯を匿っていたことは事実だ。だから公にしたくない。それは警察官としてどうかと思ったが、青木は竹内の大切な友人だ。それに、普段あれだけ自分を目の敵にしている薪がこうして頭を下げてくる、その健気さにほだされなかったら、それは人間じゃなくて鉄の塊だと竹内は思う。
 
 意識を失っていた青木を薪とふたりで協力して何とか車に乗せてから、山本美月を人目につかぬように部屋の外へ連れ出した。ここは青木のアパート。ここから彼女が出てきたのを目撃されるだけでもまずいのだ。
 山本の手錠に、薪が自分のジャケットを脱いで掛けてやるのを、竹内は複雑な思いで見ていた。
 竹内は、薪と青木の本当の関係を知っている。その彼を刺した女性に、どうして薪は理性を失わずに接することができるのだろう。それとも、薪が狭量なのは竹内に対してだけで、他の人間に対しては寛大なのだろうか。

 途中、薪が指定した病院にふたりを降ろした。薪が事前に電話をしておいたらしく、病院の救急入り口に車を停めると、すぐに数人の看護師が出てきて、青木の身体をストレッチャーに載せて走り去っていった。竹内に一礼し、薪も後を追いかけて行く。
 竹内は、山本美月を連れて捜査本部のある渋谷南署へ向かった。彼女を何処で確保したか、どういう経路でその場所に辿りついたのか、それらしい報告書を捏造しなくてはならない。まあ、それは後でゆっくり考えよう。今はこの女の取調べが先だ。
 
 署に戻った竹内は、本部長に山本を確保したことを報告すると、捜査本部の人間が唖然とする中、即行で取り調べに入った。取調べは犯人を確保した人間に優先順位があるのだ。
 取調室で美月と差し向かいになり、彼女を観察する。細面の美人だが、何処となく薄倖の影がある。とても辛い恋をしてきた、そういう女性が漂わせる独特の雰囲気を持っている。

「言っとくけど、俺に嘘は通用しないよ」
 低い声で、竹内はそう切り出した。
「女の嘘は何千回と見破ってきたんだ。絶対に騙されない」



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
文字サイズをお選びください
最新記事
最新コメント
拍手のお返事
いつもありがとうございます!

最新拍手コメのお返事はこちらです。

過去の拍手レスの確認は、該当記事の拍手欄を押してください。
鍵拍手コメのレスは、記事のコメント欄にお返しします。
月別アーカイブ
カテゴリ
詩 (1)
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
QRコード
QRコード
FC2カウンター
こんにちは(^^
現在の閲覧者数: