きみはともだち 前編(3)

 毎年この時期は、夢の中でも竣工書類に追われます。
 料理が上手で肩を揉んでくれるやさしいお嫁さん、欲しいなー。 可愛くて、ちょっとぽっちゃりした娘が好みです、よろしくお願いします。 ←???






きみはともだち 前編(3)





「向いてないと思うよ、君には」
 ぽそっと洩らした鈴木の言葉を薪の耳は拾い上げ、彼は足を止めた。たちまち不機嫌な顔になる彼に、鈴木は思わず苦笑する。彼に会ってから6時間くらい経ったが、鈴木は彼のしかめ面以外見ていない。

「だって無理だよ。交番のお巡りさんて言ったら、市民に慕われなきゃ。友だちとまともに会話もできない君に、なれっこないと思うよ」
「……今日会ったばかりだ。君とは友だちじゃない」
「友だちじゃなくてもさ、会話の基本ってあるだろ。当たり障りなくにこやかに、会話を途切れさせないようにするとか」
「内容のない会話なんて必要ない」
「必要だよ」
 なぜ? と薪の眼が問うた。この男は寡黙だけれど、言いたいことがないわけじゃない。口に出さないだけで、心の中では多くのことを考えている。大きな亜麻色の瞳は、彼の形の良いくちびるよりもずっと雄弁だった。

「初対面の相手に道を教えたり、事件関係者から聴取をしたりするんだろ? 相手は君が警官だってだけで緊張する。その緊張をほぐしてやらなきゃいけない。他愛ない会話は必要だ」
 薪はぱちりと瞬きをして、少しだけ口を開けた。あどけない顔。女子はみんなこの顔に騙されるのだろう。
「なるほど」
 と、薪は口元に軽く握った右手を当てて、それは彼が思案する時の癖らしかった。先刻のバイトでも、彼は何度かこの姿勢で考え込んでいた。

 やがて彼は結論を出し、鈴木の顔を見上げた。
「習得する必要がありそうだ。具体的にはどうすればいい?」
「そりゃ友だち付き合いをすることだろ。コンパとか飲み会とか、断ってばかりいないで」
「難しいな」
「勉強で忙しいのは分かるけどさ、頑張ってみなよ。時間をやりくりするのも、社会に出るための訓練の一つだと思って」
「お金が無いんだ」
 思いもかけない、しかも限りなく明白な理由が返ってきて、鈴木は言葉を失う。
「……へ?」
「奨学金とバイト代で生活してるんだ。余分なお金は持ってない」
 鈴木も有り余っているわけではないが、彼のような経験はなかった。毎月の小遣いは親からもらっている。新しい服や本やCDなど欲しいものは沢山あって、いつも月末になると心細い状態になるが、母に頼めばそれなりに融通してもらえたし、それを理由に友人付き合いを断らなければならないほど金銭的に困ったことはなかった。

「悪い。全然そんな風に見えなかったから」
 言われてみれば、彼の着衣は清潔ではあるが安手の量販品で、鈴木のように時計や靴など、何かしらの拘りもなかった。飾り気のない彼を見て、シンプルな服を着ていても絵になる、美形は得だな、とその程度のことしか考えられなかった自分を、鈴木は恥ずかしく思った。
 社会的常識に欠けるように見えた彼が、すでに働いて日々の糧を得ていることに、鈴木は心の底から驚いた。と同時に、先ほど折半された報酬も彼にとっては貴重なものだったのだと気付き、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。「飲み代にでもすればいい」と彼は言ったが、その胸中は複雑なものだっただろう。

「これ、やっぱり返すよ」
「遠慮は要らない。労働に対する正当な報酬だ」
「じゃ、じゃあさ、晩メシ食いに行こう。奢るから」
「悪いけど。先約がある」
 彼のプライドを傷つけずに彼にお金を返す方法を考えての鈴木の提案は、即座に却下された。「先約って?」と、彼の事情を知らないうちは利けた軽口が、今の鈴木からは出てこなかった。

「あのう、すみません」
 会話の途切れた二人の間に、控え目な声が掛かった。
「U駅ヘは、どう行ったらいいんでしょう?」
 両手に買い物袋を持った70歳位の老婆が、鈴木を見上げていた。この年代のご婦人が一人でこんな時間に外を歩いているのは珍しいと思ったが、どうやら道に迷ってしまったらしい。
 交番の警官を目指していると言う言葉を証明するように、薪は眼で鈴木を制し、困り果てた様子の彼女の前に一歩進み出て、
「この通りを東へ向かって240m、あなたの歩幅ですと約328歩進み、信号を右に曲がり道路を横断して、更に東に150m約205歩ほど進むと二つ目の信号がありますのでそれを左に、その先90mで」
「薪、薪、もうその辺で」
 カンベンしてやれよ、というセリフを、鈴木は寸でのところで飲み込んだ。オリエンテーリングじゃないんだから、東西南北とか歩数とか説明されても。お婆さんは眼が点だ。可哀相に、腰まで引けてる。

「あのね、お婆ちゃん。あそこに信号あるでしょ? あの信号、右に渡って、それから真っ直ぐ行くともう一個信号があるから、今度は左に渡って。少し行くと駅が見えてくるよ。右、真っ直ぐ、左、ね?」
「まあ、ご親切に。どうもありがとう」
 ぺこりと頭を下げると、彼女は鈴木に教えられた方向に歩いて行った。鈴木はそれを確認すると、複雑な表情で立ち尽くしている彼を横目で見やり、
「やっぱり、日常会話の練習が必要みたいだな?」
「それ以前の問題かもしれない」
 鈴木は再び歩き出そうとしたが、薪はその場から動かなかった。人混みに紛れて見えなくなるまで、彼は彼女の後姿を見つめていた。何か思うところがあるのか、それとも彼女のことを心配してのことか、それは鈴木には判断が付かなかったが、老婆を見送る彼の横顔は、とても寂しそうに見えた。

 やがて老婆の姿が見えなくなると、薪は小さく呟いた。
「彼女が声を掛けたのは君だった。どうして彼女は僕を選ばなかったんだろう」
「うーん、顔のせいかな」
 薪の顔は整い過ぎてて隙がない。気さくに話しかけられるような雰囲気でもないし、あのお婆さんが自分に道を訊いたのも無理はないと鈴木は思った。

「顔? 確かに僕は、君みたいなハンサムじゃないけど。見てくれで人の価値が決まるわけじゃないだろ」
 そんな理由で適性を決められたら堪らない、と薪は不満気に言い放ち、だから鈴木はひどく驚いた。彼は自分の外見の秀逸を理解していない。あれだけ女子に騒がれて、そんなことが有り得るのか。
「オレなんかより、君のほうがハンサムだろ。さっきのバイト先でもお姉さんたちに、『今日も可愛いわね』とか言われちゃってさ」
「君も僕をバカにするのか。彼女たちと同じだな」
 激しい憤りの言葉が返ってきて、鈴木は怯んだ。彼女たちは彼に好意的なのに、そんな受け取り方は良くないと思った。
「別に、彼女たちは君をバカにしてるわけじゃ」
「バカにしてるだろ。もうすぐ成人する男を捕まえて、可愛いってなんだよ」
 鈴木は止めようもなく微笑した。彼のむくれた顔は、とんでもなく可愛かった。

「まったくだ。いくら年下でも、男に対してカワイイってのは、女性に対して勇ましいって言うのと同じくらい失礼だよな」
 鈴木が宥めるように言うと、薪は初めて鈴木の言葉に頷いて見せた。それから自分の左手首に視線を落として時刻を確かめると、
「叔母と約束があるから。これで」
 そう言って、雑踏の中に消えて行った。どうやら鈴木は、透明人間から普通の人間に昇格したらしかった。




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

きみはともだち 前編(2)

 こんにちは!
 図面描いてたらあっという間に5日も経っちゃいましたー。 放置してすみませんです。



 ところで。
 ちょっとしづの愚痴を聞いてくださいー。
 こないだ、衆目の中で酷い辱めを受けたんです。(;;)

 先週、高校の同窓会がありまして、120人ぐらいで集合写真を撮ったのですけど。
 わたしの席は前から二番目の真ん中辺でした。 懐かしい友人たちに囲まれて座っておりましたら、写真屋さんがつかつかとこちらに近付いてきまして、
「しづさん、周りの人と顔の高さが違ってしまうので、中腰になっていただけますか」
 まさかの空気椅子!!
 しかも周りの連中、わたしを指差して爆笑しやがっ、いやだって、20年ぶりに顔合せたのに一瞬で笑い者ってひどくない!? 人のこと小さい小さいって、気にしてるのにっ、ほんっと、昔っからロクな友だちいないよ!

 ……類は友を呼ぶとか言った?! 言ったよね、今っ! ←言い掛かり。

 5回も撮り直す間、腰を浮かしていたので太腿の筋肉がぷるぷる言いました。
 1年に1回くらいは同窓会やろうねって盛り上がったので、来年も行こうと思います♪ ←懲りない。






きみはともだち 前編(2)







 大学を出て歩くこと20分――その間、薪は鈴木の発した言葉を悉く無視した――到着したのは、商業ビルの7階にあるITオフィスだった。

 薪のバイト先が、受付を通さなければ入れないようなオフィスであることを確認した時点で鈴木は帰りたくなったが、自分から言い出した手前、引くに引けなくなってしまった。内心のため息を押し隠しながら、受付嬢に渡されたゲストカードを首から下げ、IDカードでドアロックを解除する彼に続いて、社内に足を踏み入れる。
 社会で働く者たちの熱気と緊張感が、広いオフィスを満たしていた。カシャカシャとキィを打つ音と、ブーンというファンが回る音。ずらりと並べられた黒い箱型のPC機器、その表面を彩る赤や青のランプが規則的に点滅を繰り返している。
 慣れない場所で緊張した面持ちの鈴木をちらりと見やり、薪は人を見下すような眼をした。まるで、おまえがここに来た本当の理由も何もかも、全部お見通しだ、と言われているような気がした。
 二の足を踏む鈴木とは対照的に、薪は臆することなくオフィスの奥へと足を進めた。鈴木も後を追う。彼とは未だまともな会話も成り立たないが、それでもこの場所では唯一の知り合いだ。取り残されたくはなかった。

 薪は途中、何人かの社員に声を掛けられては、大学で教授とすれ違う時のように黙礼を返していた。その殆どは女子社員で、「今日も可愛いわね」などと言いながら彼に微笑みかけてきた。鈴木にはそれが不思議だった。まともな返事も返ってこない相手に、どうして寛大になれるのか。鈴木が見た限り、その日彼が普通に会話をしたのは彼の直属の上司らしき男とだけであった。

「よお。薪くん、待ってたよ」
「こんにちは、芳賀さん」
「あれ、そっちの子は?」
 薪は芳賀と呼んだその男に、鈴木が自分と同じ大学の生徒であることを説明し、「今日は見学で」と尤もらしい嘘を吐いた。鈴木が見学目的で薪に着いて来たことは事実だから嘘とは言い切れないが、しかしその対象は彼個人であってこの企業ではない。鈴木の胸がちくりと痛んだ。
 芳賀は、部下の嘘にも鈴木の複雑な表情にも気付かないようで、それと言うのも、彼はかなり切羽詰った状況下にあったらしい。

「いやあ、参ったよ。こないだのプログラムだけど、セカンドステージでフリーズしちゃってさ。先に進めないんだ」
「エラーリストは? こんなに? セカンドステージでこの調子じゃ、プログラミングし直した方が早くないですか?」
「相変わらず手厳しいなあ。そう言わず、頼むよ」
「フリーズはおそらく85ブロックのループが原因だと思うので、ブロックを増設してそっちから別ルート組めば解消されると思いますけど。このエラーは量的にちょっと」
 今日中に終わるかな、と薪が眉根を寄せると、芳賀は、まるで神様にでも祈るように両手を顔の前で合わせた。
「頼むよ。追加料金払うからさ」
「では、端末をもう一台貸していただけますか。彼にも手伝ってもらいますから」

 思いもよらない方向に話が進んで、鈴木は焦る。二人の会話もちんぷんかんぷんだし、薪が持っているリストに到っては、アルファベットと数字の羅列にしか見えない。
「ちょっと待って。オレ、こんなのやったことない」
「僕が教える」
 薪の要求を呑んで、芳賀が端末の調達に席を外すと、彼は鈴木を見て意地悪そうに笑い、
「君、有名私立から東大ストレート合格なんだろ。エリート学生の意地、見せてみろよ」
 そう言えば、薪は公立高校の出身だと聞いた。特別優秀でもない、平均的な学生が集まる都立高校だ。それも彼の逸話の一つだった。
 大学の合格率が生徒を集める学校経営の実情から、鈴木が通っていた私立高校では希望大学ごとにクラス分けをされていて、その大学の特質に合った授業を受ける仕組みになっていた。当然、入試には有利になる。しかし薪の出身は普通高校で、鈴木たちのような特別な授業は受けていない。その条件下で日本最高学府の入学試験に於いて満点に近い成績を修めるなど、天才としか言いようがないというわけだ。

 それから5時間、鈴木は薪と机を並べて、彼に言われるがままに作業をした。知識のない鈴木に命じられたのは、エラーリストに掲載された文字列を膨大なプログラムの中から探し出すこと。ブロックと番号をメモして薪に渡すと、彼はそこから網を手繰り寄せるように原因を探り出し、幾つものプログラムを修正する。
 滑るような彼のタイピングはとても見事で、鈴木は思わずそれに見惚れた。先刻手を握った時にも思った、華奢できれいな指だった。男の手とも思えなかったが、その硬質さは女性のものでもなかった。それは、鈴木の知らない手だった。

 最後のエラーを修正し終えたのは、予定時刻を1時間ばかり超過した午後10時過ぎだった。
 鈴木はひどい疲労を感じた。目蓋を閉じると眼の奥に光の点滅が見える。モニターを凝視し過ぎたせいだ。これが365日続くなんて、IT関連の、特にモニターを見続けるような仕事はとても自分には勤まりそうにない。弁護士を選択しておいてよかった。
 手のひらで目蓋を揉み、凝り固まった肩を回す。鈴木と違って慣れているのだろう、彼は眉一つ動かさなかった。最後に修正プログラムのデータを送信すると、「お疲れさま」と抑揚のない声で終わりを告げた。

 薪のバイトは歩合制の仕事らしかった。データと引き換えに芳賀から(経理担当者は帰宅した後だった)給金の入った封筒を受け取った薪は、ビルの出口で中身を出して、紙幣の半分を鈴木に差し出した。
「これ、君の取り分」
「あ、いや、いいよ。オレ、あんまり役に立たなかったし」
 レポートの作成に例えれば、鈴木がしたことは参考文献の頁をめくったくらい。他はみんな薪がやったのだ。お金なんかもらえない。
 鈴木が辞退すると、薪は鈴木の手を取って紙幣を握らせ、
「これから横浜まで帰るんだろ。もう遅いし、タクシー使った方がいい」
「平気平気。飲みに行ったと思えば、まだ宵の口」
 薪が自分の身を案じてくれていることが解って、鈴木は嬉しくなる。意外と優しいところもある、と思いかけた鈴木の心に冷や水を掛けるように、薪の素っ気無い声が響いた。
「じゃあ飲み代にでもすればいい。お疲れさま」

 薪が歩き出したのは、駅とは反対の方向だった。鈴木の家は横浜で、ここから一時間も掛かる。慣れない作業で疲れていたし、明日は1時間目から講義だし、早く帰って休みたかった。なのに、鈴木の足は自然と彼の後を追い掛けた。
「なあ。薪くんは将来、IT関連の職業に就く気なの?」
「……駅はあっちだ」
「教えてくれたら大人しく帰るよ。ITに進むの?」
 鈴木が尋ねると、薪はちっと舌打ちし、ものすごく嫌そうな顔をした。夜になっても灯りには不自由しない街中で、彼の姿も表情もよく見える。ここまであからさまだと、いっそのこと笑いたくなる。彼は天才で、学生でありながらIT会社の社員に頼りにされるほど優秀なのに、精神的にはまるで子供なのだ。これが笑わずにいられようか。

 不愉快な気持ちを態度に表しても全く怯まない鈴木に、とうとう薪は折れた。細い手で前髪をかき上げ、軽くため息を吐くと、
「いいや。僕は警官になる」
「警官?」
 意外な答えだったが、想像してみたらピッタリだと思った。傲慢なところとか、人を見下すところとか。彼なら官僚一年生にしてベテランの風格を纏うのではないかと、鈴木はまたもや皮肉なことを考えた。

「警察官僚かあ。うん、似合ってる。薪くんなら警視総監まで行けるかもね」
「いや、僕がなりたいのは普通の警官だ。交番にいる警官」
「ええ?」
 疑問符の後に笑い出そうとして、鈴木は唇を結ぶ。彼は真剣な顔をしており、冗談を言った風ではなかった。
 では、東大卒業後は警察学校に? そんな話、聞いたことがない。
「どうして? せっかく東大に入ったのに」
「君に説明する義務が?」
 どうやらそこまでだった。これ以上は何も喋らない、と、彼の冷たい美貌が語っていた。

「向いてないと思うよ、君には」



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ジャンル : 小説・文学

きみはともだち 前編(1)

 こんにちはー!
 
 今日から公開しますこちらのお話、うちの鈴薪さんのジェネシスで、3万5千拍手のお礼SSとなっております。 
 わたしにしては大人しい話だと思います。 青薪さんみたいに命の危険とかないし。←どういう自社比。
 ゆったり構えて、のんびりお付き合いいただけたら嬉しいですー。







きみはともだち 前編(1)





「よろしく、薪くん」

 そう言って彼の手を握る1年も前から、鈴木は彼のことを知っていた。なんと入学第1日目から、でもそれは鈴木に限ったことではなく、入学式に出席した学生全員に当てはまることで、つまり彼はその年の首席合格者だった。
 新入生代表挨拶で壇上に立った彼の、華奢だけれどピンと伸びた背中とか、大講堂の大きな窓から差し込む陽光に照らされて、かしこまった式典にはいっそ相応しくないほどに煌めいていた亜麻色の髪の毛とか、まだあどけなささえ残す透き通ったアルトの声とか。間近に見たわけではなくとも、次に会ったら絶対に彼だと分かるだろう。そんな強烈な印象を彼は鈴木に残したものの、この時点で二人は単なる同期生でしかなかった。

 彼と言葉を交わすずっと前から、鈴木は彼をよく知っていた。
 積極的に情報を収集せずとも、同じ学内にいれば嫌でも彼の噂は耳に入って来た。百年に一人の天才だとか、IQはアインシュタイン並みだとか、失笑を禁じ得ないそれらの噂を、鈴木はちっとも信じていなかった。大げさな、と一笑に付して、それでも彼が驚嘆に値すべき成績でこの大学に入ったことだけは事実だった。満点と言うのは眉唾だと思ったが、過去最高得点を更新したことは教授から直接聞いた話だったからだ。

 才覚に恵まれた者の常で、彼と付き合いたがる者は大勢いたのに、彼はその中の誰ともステディな関係にならなかった。話し掛けられれば返事はするが、自分から働きかけることは殆どない。コンパや飲み会にも顔を出すことはなく、社交的とはお世辞にも言えない彼のキャンパスライフはひたすら勉学に明け暮れるのみだと、これも友人から聞いた話だ。
 鈴木はそんな彼を、どうせ幼い頃から勉強ばかりしてきて、遊び方を知らない男なのだろうと予想していた。付き合っても楽しいとは思えない。彼と友だちになる気などなかった。だから彼が所属している唯一のサークル「犯罪心理学研究会」の扉を叩いたのは、純粋に自分の将来の仕事に役立てる為だった。

 初めて会った時、彼は不機嫌そうだった。
 これまで遠くからしか彼を見たことがなかった鈴木は、彼の瞳が日本人には珍しい、髪よりやや薄めの亜麻色であることを知った。彼の髪は今日も美しく輝いていたが、その型は単純に前髪を額に下ろした今どき高校生でもしないような面白みのない短髪で、加えて彼はとても整った顔をしていたが激しく童顔で、自分よりもずっと年下に見えた。
 彼の声は澄んだアルトだったが、入学式で耳にしたものよりも尖っていた。目つきもあまり良くなかった。ただ、彼の背中だけはあの日と同じに真っ直ぐに伸びていた。

 不機嫌な人間に対応するときの習性で、鈴木は無邪気さを装って彼に笑いかけた。彼はニコリともしなかった。大きな亜麻色の瞳で、鈴木を値踏みするように見た。初対面の人間に対して、失礼な視線だと思った。
 意趣返しの心算で、鈴木は彼を頭のてっぺんから爪先まで、ジロジロと見てやった。周りの人間には気付かせていないが、鈴木はそれほど穏やかな性格をしていない。ニコニコと笑いながら、相手をバッサリと切るタイプだ。
 顔に似合わない名前だ、と皮肉ると、余計なお世話だ、と怒声が返って来た。見た目よりも激しい反応に驚いた。彼の精神的未熟が可笑しくて、鈴木の作り笑いは本物の笑いに変わった。少しだけ、相手に対する興味が湧いた。
 右手を差し出したら、口をへの字に曲げながらも、鈴木の手を握った。白くて小さな手だった。女の子のように華やかではないが、健康的な薄ピンクの爪はとても清楚だった。

 彼は握手が済むと、鈴木に中断された読書の続きに戻った。頁に目を落すや否や、彼は瞬く間に世界と断絶した。まるで見えないカーテンで仕切られたように、鈴木の存在を完全に無視した。
 その時、居室には彼と鈴木の二人きり。普通こういう場合、当たり障りのない言葉を交わし合うものではないだろうか。20年に満たない僅かな人生経験から鈴木はその結論を導き出し、彼に話しかけた。
「なに読んでんの? ……犯罪時録? 面白いの、それ」
「べつに」
 一応返事は返って来たが、木で鼻をくくるとは正にこのこと。こちらが気を使って話し掛けているのに、正直、こんな無愛想な人間は見たことがない。
「なあ、薪くん家ってどの辺?」
 そのとき鈴木が言葉を重ねたのは、気遣いでも好意でもなかった。無視されるのが面白くなかっただけだ。
「オレは実家が横浜でさ、ここまで通うの結構大変」
「うるさい」
 ぱん、と音をさせて、彼は本を閉じた。険悪な目つきで下から鈴木を睨み上げ、黙れ、と眼で会話を強制終了させた。

 頭が良くて顔もいいのに、取り巻きができない理由が分かった。性格が悪すぎる。
 彼の凶悪な視線と鈴木の呆れた眼差しが一瞬絡んだとき、ピピピというアラーム音が聞こえた。それは彼の腕時計からで、彼はそれを合図に立ち上がり、何も言わずに居室を出て行こうとした。
 繰り返すが、部屋には彼と鈴木の二人きり。鈴木が透明人間でもない限り、「誰それと約束してるから」とか「ゼミの時間だから」とか、何かしら部屋を出る理由を述べるものではないか。

「どこ行くの? 誰かと約束? もしかして彼女?」
 ドアを開いて廊下に踏み出す彼の背中に、立て続けに質問を投げつける。ここまで来たら意地だ。絶対に単語以外の言葉を喋らせてやる。
「バイト」
「え、バイトしてるの? どんな?」
 学舎の長い廊下を歩く彼を追いかけながら、鈴木は軽い口調で尋ねる。が、彼は説明してくれる気はないようで、鈴木の問い掛けは見事にスルーされた。

「オレも付いてっていい?」
 鈴木の言葉を無視して先を歩いていた彼は、驚いて足を止めた。振り向いて、不思議なものを見る眼で鈴木を見る。出会ったばかりの人間に、そんなことを言われるとは予想していなかったのだろう彼の、その顔つきはなかなかに可愛かった。女子が騒ぐだけのことはある。
 鈴木はにっこりと笑って、でも心の中ではかなり最低なことを考えていた。バイト先なら、彼は立場の弱い従業員だ。傲岸不遜な彼の、他人にペコペコする姿が見られるはず。それが客商売なら最高だ、自分が客になって彼に愛想をふりまかせてやる。

「ダメ? 他人には見られたくないようなバイトなの?」
 彼がダメ出しをする前に、その口を封じる。沈黙は金とか言うけれど、計算された饒舌はプラチナだ。
 鈴木の策略にはまって彼は、べつに、と横を向き、結果的に鈴木の同行を許した。鈴木は内心ほくそ笑む。しかし、その目論見は大きく外れる運命にあった。




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きみのふるさと(15)

 最終章ですー。
 読んでいただいてありがとうございました。(^^





きみのふるさと(15)





 全員で軽く昼食を摂った後、青木は薪と一緒に仏間の片付けをした。
 灯籠は分解し、樟脳を入れてビニル袋に密閉、箱にしまう。青木はいつも、片付ける時には上手く箱に入らなくなってしまうのだが、薪はどのパーツがどの位置にどの順番で入っていたのかを記憶しているらしく、部品の入れ直しを一度もしなかった。

 御膳の洗浄と部屋の掃除は三人の女性に託して、笹立てを解体する。軍手をはめた両手で笹を引き抜こうとする薪の、頼りない足腰が可愛らしくて、ついつい緩む口元を意識して引き締める。青木の体重で締め固めたのだ、薪の力では抜けまい。
「これは建設機械が必要だな」
 痺れた手をひらひらと振りながら口にした彼の冗談に笑いながら、青木は太い腕と大きな手で持って、青笹を引き抜いた。片手ですぽすぽと笹を抜いて行く青木を見て、薪は眼を瞠り、ちっ、と舌打ちする。プライドに障ったらしい。
「薪さんのおかげで大分緩みました。ちょっと力を入れただけで、ほら」
 慌てて彼のご機嫌を取ろうとするが、白々しいお世辞は言わない方がいい。火に油の結果になって、薪は本格的に拗ねてしまった。つまらなそうな顔でもくもくと地面の穴を埋め、足で踏み固める。その動作の乱暴なこと。あの地面にはきっと、青木の顔が描かれているに違いない。

 そんな些細なトラブルはあったものの、片付けはスムーズに進み、出発予定の半時間前にはすっかり綺麗になった。青木の、いや、薪と青木二人の母親が淹れてくれた温かい緑茶で喉を潤せば、ぴったり予定の時刻だ。
 出掛ける間際になって薪が、「まだアルバムを見せてもらってない」と駄々を捏ねだした。次の機会に、と青木が宥めると、「嫌だ、いま見たい」と薪は譲らず。それはまったくいつもの彼らしくて、青木は必死に薪を説得しながらも嬉しくて仕方なかった。薪の我が儘は彼が元気な証拠。借りてきた猫みたいに大人しい彼も可愛いけど、やっぱり青木は普段の彼がいい。

 表の通りまでタクシーを呼んで、青木たちは家を出た。せめて通りまで、と申し出た母と姉と幼馴染の見送りを、寒風に晒されて風邪を引いたら大変だから、と断り、玄関前で別れた。
 別れ際、薪はもう一度だけと言って草太を抱かせてもらい、彼とのスキンシップを楽しんだ。「子供は嫌いだ」と宣言しておきながら、すっかり仲良くなっているのが可笑しく、微笑ましかった。

 来るときに歩いた砂利道を薪と二人辿りながら、青木は冷たい風に身を竦ませる。
「薪さん、寒くないですか」
 声を掛けて隣を見れば、薪はいつの間にか青木の後方に居て、いま自分たちが後にしてきた家を見ていた。
「薪さん?」
「この両側の田んぼと後ろの棚田、田植えの時期は壮観だろうな」
 柔らかい緑に包まれた故郷の光景を、青木は脳裏に思い描いた。懐かしくて誇らしい、それは青木の原風景。叶うことなら、その美しい風景を薪にも見せてやりたい。

「見に来るか。来年」
 両手をポケットに入れたまま青木の方を振り向いて、薪は微笑んだ。
「そうすれば、アルバムも見られるし」
 薪が再びこの地を訪れようと思ってくれたことが嬉しくて、青木は躍り上がりたいような気持ちになる。「はい」と返事をして、本当はもっと感謝と嬉しさを伝えたかったのだけれど、咄嗟のことで何も言えず。でも、薪はにっこり笑ってくれた。

 タクシーが来たらしく、合図のクラクションの音が通りから聞こえた。足を速めて二人は、砂利道を軽快に歩く。
「その時は、一緒に風呂に入ろう」
「えっ! で、でも、さすがに母の前でそれは」
「今度は僕が草太を風呂に入れてやる。楽しいぞ、きっと。男3人で風呂ってのも」
「ええっ! 草太の目の前でですか? 薪さん、なんて大胆な」
「……なんか、別のこと考えてないか?」
 ついつい妄想が先走る己が性癖を恥じるが、用事も終わって薪と二人きり、どうしても青木の気分は浮かれてしまう。そちらの方面の欲求も、家まで待ち切れないくらいだ。

「あ、あのう、薪さん。今日はこのまま博多のホテルにもう一泊なんて」
「却下」
 冷たい眼で見られて、即座に切って捨てられた。青木のシタゴコロなんて、薪にはバレバレだ。
 はは、と笑って駆け出す薪を、青木は二つのスーツケースを抱えて追いかけた。




―了―



(2012.10)


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きみのふるさと(14)

 こんにちは。

 澤村さんちの家政婦さんはミタさんだそうで。
 …………。
「ぼくの両親を焼き殺した犯人捕まえて」「かしこまりました」で、一挙解決じゃね? ←100人中99人が考え付きそうなネタ、特にこたさんあたりが絶対に考えてそうなネタですみません。

 


 私信です。

 Sさま。
 この章、草太くんがヒーローです。 お楽しみいただけると嬉しいですー。




きみのふるさと(14)




 青木の叔父が来ていることを真美に話すと、真美は薪に、仏様にお供えしたお膳を下げてきて欲しいと頼んだ。親戚同士の話の席に入っていくなら同じ他人でも青木家に出入りを許されている隣家の真美の方が適任ではないかと薪が返すと、真美はブンブンと首を振って、
「今の旦那とは、あのおじさんの紹介で結婚したの。顔を合わせたら上手く行ってるかどうか訊かれるでしょう。おばさんたちの前で恨み言も言えないし、嘘も吐きたくないから」
 どうやらあの叔父は、他人の結婚を世話するのが趣味というお節介な人種らしい。何でも仲人100組を目指して、地元の若者に声を掛けているそうだ。懸命に青木を口説いているのも兄の遺言というよりは、自分の目標に近付きたい気持ちの方が強そうだ。
 そういう事情なら、と薪は快く真美の頼みを引き受け、仏間へと向かった。廊下に立つと、障子を通して中の話し声が聞こえた。繰り返し、長男の役目と結婚と子孫を残すことの大切さを説く叔父の声と、大人には意味を為さない子供の声。どうやら草太はここに紛れ込んでいるらしい。

「失礼します」
 料亭で賓客をもてなすときの要領で、薪は廊下に膝をつき、声を掛けてから障子を開けた。中では青木母子が疲れた顔をして、叔父の相手をしていた。部屋にはアルコールと煙草の匂いが充満し、見れば、叔父の前にビールのコップと灰皿に山と盛られた吸殻があった。酒はともかく、子供のいる家で煙草は非常識だと薪は思い、でも部外者の自分に口を出す権利は無いと飲み込んだ。草太は青木の母親の膝の上で遊んでいたが、和歌子の姿は見えなかった。他の部屋を探しているのだろう。この家は部屋数も結構あるから、かくれんぼには最適かもしれない。

「こちら、下げますね」
 薪が、今朝供えた膳を仏壇から持っていこうとすると、母親が慌てて、
「あら薪さん、結構ですのよ、わたしがやりますから。お部屋で休んでらして」
「これくらいは手伝います。泊めていただいたんですから」
「そんな、薪さんには沢山お手伝いいただいたのに。もう、和歌子は何をしてるのかしら。草太もここにいるし」
 とにかくこれはわたしが、と母親は薪からお膳を取り上げ、台所へ運んで行った。薪の腕は空っぽになったが、それを狙っていた者がいた。先刻まで母親の膝で遊んでいた草太だ。
 彼はバタバタと畳の上を這ってくると、薪のズボンを掴んで甘えたような声を出した。一度遊んでやった人間のことは忘れないところは子犬に似ている。薪は苦笑して、彼の小さな身体を抱き上げた。
 草太を抱いた薪に、青木が申し訳なさそうな視線を送ってくる。ほったらかしにしてごめんなさいと、何も謝ることはない、叔父に礼儀正しくしろと命令したのは薪だ。青木はちゃんと薪の言うことを聞いて、一生懸命にやっている。褒めてやりたいくらいだ。

「丁度よか、あなたからもお願いしますよ、室長さん。こいつはのらりくらりとわしの言う事ば聞き流してから真面目になんか聞きやせん。ばってん、あなたのこつば大層尊敬しよる言うちょります。せやけん、あなたの一言言うてくだされば」
「叔父さん。薪さんは関係ないでしょう」
「せからしか。元はと言えばおまえが……あ、いや、あなたも未婚でしたな。まったく嘆かわしい。こぎゃんこつなら一行を警察なんかにやるんやなかったわい。兄も最後まで反対しとったとですよ。しかも第九やなんて」
 叔父さん、と彼を止める青木の声が気色ばむ。先刻までとは違った青木の不穏当な雰囲気に薪は悪い予感に襲われ、でも肝心の叔父は青木の変化に気付かない。

「父は認めてくれました。臨終間際、オレに『仕事がんばれ』って。オレはあれを父の遺言だと思って、この仕事に一生を捧げようと」
「生意気なこつば言うな! 人間の脳みそなんて気色の悪かもんばかり見とるけん、いくつになってもまともな人間になれんのじゃ」
「叔父さん、それは取り消してください。オレは自分の仕事には誇りを持ってますし、薪さんだって第九室長としての功績が認められたからこそ、この若さで警視長なんですよ」
 自分のことなら何を言われても我慢できるが、話が薪のことに及ぶと青木は理性を失う。それは青木にとって当たり前のこと、だって彼は薪のために生まれてきたのだと、自分を定義しているのだから。

 今まで大人しく話を聞いていた甥が急に刃向かってきたのがカンに障ったのか、叔父は不機嫌な顔つきになった。丸い腹を揺すって立ち上がり、薪の方へのっそりと近寄ってくると、不躾にも気安く肩に手を掛けた。
「室長だか警視長だか知らんが、40過ぎて結婚ばしとらん男のどこの偉いんか。失礼やけど、身体に欠陥でも?」
 草太を抱いているから、叔父の手を振り払うこともできない。薪は身を引いて彼から離れようとしたが、彼の太い指は薪の腕をがっちり掴んで放してくれなかった。
「細か腕やなあ。これや女子の一人も」
 逆に引き寄せられる形になって、相手の息が薪の顔に掛かった。アルコールとタバコの匂いが混ざったその呼気は不快で、気分が悪くなったのは薪ばかりではない。彼と薪の間で窮屈な思いをしている草太もだ。未だしがらみというものに囚われていない彼は、怒りを顕わにして叫んだ。

「だー!」
 彼の逆襲は、薪を叔父の手から守ろうとした青木の動きよりも早かった。紅葉のような手がぎゅっと閉じられ、なんの間違いか、その中に握りこまれたのは叔父の前髪のひと房。生後7ヶ月のあどけない勇者の腕が、迷いなく振り下ろされる。
「あっ」
 シン、と部屋が静まり返った。七三分けの黒髪に慎ましく隠されていた叔父の頭皮は寺の住職よりも見事な光沢を持っており、蛍光灯の白色照明に光ること光ること。

「そ、草太くん。ちょっとそれ、叔父さんに返しなさい」
 薪は青くなって子供を叱ったが、草太はなぜか得意げだ。甥の様子に青木は、昨夜、彼に自分の髪を引っ張られたことを思い出した。
「ああ、なるほど。子供ですからねえ、素直に覚えちゃったんですね」
 青木が呟くと、カンの良い薪は直ぐに事情を察し、
「もしかして、昨夜のアレか」と以心伝心振りを披露した。
「薪さんに褒められたのが嬉しかったんでしょうね」
「ちょっと待て。それじゃまるで僕が仕込んだみたいじゃないか」
「さすが『推理の神さま』。深謀遠慮は人智を超えてますね」
「それは神さま違いだと思うぞ?」
 草太は小さな手でブンブンと獲物を振り回し、勢い余ってすっぽ抜けたカツラが飛んで行った先は持ち主が山にした吸殻の上。艶やかな黒髪はタバコの灰にまみれて、見るも無残な有様だ。ぐうう、とくぐもった声を上げる叔父が、ほんの少し可哀想になってくる。

「あらまあ。オホホホホ!」
 薪と青木が必死で叔父を見ないように目を泳がせる中、高らかに笑い声を上げたのは、台所から帰ってきた彼の義姉だった。この状況を笑い飛ばせるなんて、九州の女性には一生逆らうまいと薪は思った。
「俊幸さん、その方がオトコマエよ」
 嫌味十割の褒め言葉を放って、母親は座卓の上の髪の毛を取り上げた。煙草の灰を畳に落さないように注意深く払い、ぽんと叔父に手渡して、
「はい。ちょっと汚れちゃったけど」

 引っ手繰るように掴みかかった叔父の太い手を、母親の細い手がパシリと捕えた。何事かと義姉を見上げる彼に向かって、彼女は張り付いたような笑みを浮かべたまま、
「それから、一行の結婚相手のことですけど。あの子の好きにさせてやってくださいな。青木家の血は和歌子の子供たちが受け継いでくれますし、本家の存続なら俊幸さん、あなたの家が受け継げばよろしいのじゃなくて? あなたには立派な息子が3人もいらっしゃるでしょう」
「母さん、オレのことなら」
 引きつった顔で、青木が口を挟む。薪は知らないが、叔父の家の息子は3人とも都会へ出て行ってしまって実家には寄り付かない。帰省率は青木より低いくらいだ。つまり母親のこの台詞は、自分の家の息子すら親元に引き留めておけない人間がいくら兄弟とは言え他家の息子に意見するなと、言い渡したも同然であった。

 青木の嘴は、これからの母の立場を考えてのものだったが、母親は態度を変えなかった。カツラの一方を掴んだまま、息子に良く似た黒い瞳を熱っぽく輝かせ、
「わたしと義兄さんは、そういう考えでおりますのよ。うちのひとも、次男坊で本家を継いだわけだし」
「し、失礼するっ!」
 叔父は赤黒く顔を染め、力任せにカツラを奪い取ると、部屋を出て行った。どすどすと廊下を歩く下品な足音が響き、玄関がピシャリと閉まった。
「これでしばらくは来ないでしょ。ああ、スッキリした」
 躊躇なく快哉を叫んだ母親に、薪と青木は同時に膝が抜ける。必死に耐えてた自分たちがバカみたいだ。

「よくやったわ、草太。いい子ね~」
「お母さん、その教育はちょっと」
 孫の頭をよしよしと撫でる親バカならぬ祖母バカに、薪は軽いツッコミを入れる。いくらなんでもあれはヒドイ。
 他人の薪が同情するのに、義姉の立場の女性はにこやかに笑って、
「ところで薪さん。今日、お帰りになる予定じゃ?」
「あ、いえ」
 朝まではその心算だったが、和歌子との会話と真美との和解で、薪の気持ちは変わっていた。自分の存在が彼女たちの迷惑にならないなら、ここでもう少し親孝行していくべきだ。

「大丈夫です。最初の予定通り、明日帰ります」
「無理しないで。昨夜、和歌子に聞きましたよ」
 やはり、と薪は思った。先刻、台所で和歌子は真美に、『薪さんの様子がおかしかったから』と言った。彼女はあの会話を聞いていて、それで薪の異変に気付いたのだ。
 母親は品の良い浅葱色の着物の袖を前に差し伸べて、薪の腕から自分の孫を抱き取ると、とても優しい微笑をその口元に浮かべて、
「お仕事なんでしょう? 遠慮することはないわ、あなたはもうわたしの息子なんだから」

 彼女の口からその言葉を聞いたとき。薪は猛烈に自分を恥じた。
 青木の母親が自分に対していかに好意的に振舞っても、それは息子に対する愛情から派生するものであって薪個人に向けられたものではない。薪は彼女の言動をずっとそういう風に捉えてきた。だって彼女がお腹を痛めて産んだのは青木で、自分はその大事な彼を奪っていく人間なのだから疎まれるのが当然だとすら思っていた。
 でもちがう。このひとは違うのだ。
 息子の付属物として薪を見ているのではない。薪剛という一人の人間として、新しい息子として認めてくれているのだ。

「子供は親に甘えるものよ」
 母親という存在は、本当に素晴らしいと思った。『人間は子供を産んで一人前』と言われるが、こういうことなのか。自分たちにはそれは望めないけれど、こんな素晴らしいお手本が傍にいるのは幸運だ。彼女から学べるものは計り知れない。そして。
 その彼女が手塩にかけて育てたのが、青木一行と言う男なのだ。自分とは、持って生まれた魂が違うと、何度も思い知らされたけれど。彼女の息子なら、あれで当たり前だ。

「5時の飛行機で帰るよ。ここを出るのは3時で大丈夫だから、灯篭と笹はオレが片付けていくよ」
「青木、僕は」
 薪が口を挟むと、青木はこそっと薪に耳打ちした。
「すみません、薪さん。オレの方が我慢できません。せっかくの連休、一日くらいは二人きりで過ごしたいです」
 青木の子供っぽいワガママに呆れた薪が、一瞬の脱力のあと口を開こうとしたとき、障子がガラッと開いた。

「あ、草太! ここにいたの? もー、家中探しちゃったわよー!」
 祖母の手に抱かれていた子供は、母親の姿を見ると嬉しそうに手を伸ばした。母から娘の手に移って行く彼の姿は、命そのものが伝達されていくようで。薪は、どうして人が赤ん坊を愛おしく思うのか、やっと分かった気がした。
「おじさん帰ったみたいだからあたしも手伝いに、きゃー、草太くん! 大きくなったわね」
 続いて真美も入って来て、仏間は一気に騒がしくなった。どうして女は群れると騒がしくなるのだろう。単体だとそうでもないのに、不思議な生き物だ。

「もう七ヵ月だもの」
「和歌ちゃん、抱かせて抱かせて」
「はい、どうぞ」
「すごく可愛いー! あ痛、ちょっと草太くん、髪の毛引っ張らないで」
「あら、ごめんなさい。草太ったら、いつの間にそんなオイタ覚えたの?」
 姉の困り顔に、薪と青木は素知らぬ振りで明後日の方を向く。本当のことがバレて、この三人にいっぺんに責められたら、薪は男の尊厳を保てる自信がない。

「今ね、草太が俊幸さんのカツラを取って放り投げたのよ。もう母さん、おかしくって。お腹の皮がよじれるかと思ったわー」
「え、そんなことしたの!?」
 自分の息子がしでかした不始末に和歌子はたいそう驚き、大きな声を上げた。被害に遭った彼とは親類関係、この先の付き合いを思うと頭が痛いだろう。

「えー、見たかったなー。なんでそのとき呼んでくれないのよー」
 お姉さん……それは彼の姪としても人としてもどうかと。
「行ちゃん、ビデオ録ってないの? 薪さんも?」
 真美さん、あの状況でカメラ回せる勇気のある人間がこの世にいると思われますか?
「「「なによ、男が二人も揃って情けない」」」
 すみません、男という生き物は、特にその件に関しては、あなた方ほど残酷になれないんです。明日は我が身ですから。

「そりゃあ見事に光ってたわよー。後光が差してるみたいだったわー」
「あははは! おばさんたらー、でも想像付くー。あのおじさん、脂ぎってるもんねー」
「今度、俊幸叔父さんに会う時はサングラス掛けてくわー」
「きゃははは、和歌ちゃん、ひどーい」
「次の法事の時には、俊幸さんにお経上げてもらおうかしら」
「あははー、それいいー」
 もうやめて、許してあげて、と心の中で叫びながら、薪は静かに後ずさった。こっそりとこの場から逃げるつもりの彼は、同じ目的で、和歌子が開け放した障子に近付いてきた恋人の姿を眼端に捉えた。ふと見上げれば自分と同様、同情心に溢れた青木の貌。

「女の人ってザンコクだよな」
「本当に……オレにだって、あの遺伝子流れてるのに」
 泣きそうな顔で、青木は呟いた。
 青木の、ずっと先の未来を想像して、薪は青木の父の遺影に行き着いた。やさしそうに垂れた眉と眼、人生で笑った数だけ深くなる目尻の皺。彼がそんなマスクを手に入れる頃、自分はどうなっているか分からないけれど。
 その時の彼も今と変わらず、元気で幸福であるようにと。祈らずにはいられない、人の命は永遠ではないから、せめて願わずにはいられない。

「想像したでしょ、今!」
 薪の微笑を誤解して、青木が怒った。自分の顔を叔父の容姿に当てはめて、薪が笑っていると思ったらしい。
「してない」
「してました、顔が笑ってました」
「してないって。それに、別にいいだろ、禿げても太っても。おまえはおまえだろ」
「そうはいきませんよ。今だって薪さんの隣に並ぶには、容姿的に遠慮しちゃうのに。これで兆しでも見え始めたら、よけいに」
 額に手を当てて、生え際の位置を指で確認する。青木の心配が滑稽で、薪はクスクス笑った。




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

きみのふるさと(13)

 すみません!!
 1月に入ってからのコメレス、まだ1個もお返しできてなくて。 今日からお返事させていただきますので、どうかもうしばらくお待ちください。 
 更新も、1週間も空いてしまって誠に申し訳ありませんでした。


 レスも更新も放置して何をしていたかと言うとですね、オットと二人だけの世界に浸っておりました。
 1月8日の夜から。
 二人とも、熱に浮かされたように、ええ、本当に二人っきりで部屋にこもりきりで。

 カンのいい方はお分かりですね?


 はい、正解です。
 インフルエンザで隔離されてましたー(^^;

 いやー、参りましたー、二人で同時発症ですよー。 お義母さんに伝染ったら大変なんで、なるべく部屋から出ないようにしてたんですけど。
 なかなか熱が下がらなくてねー、普通の風邪なら気力で治すんですけど、さすがインフルっすね。 熱が下がったと思ってちょっと動くと、またすぐに上がってくるんですよね。 医者の言うことは正しいわ。←当たり前。
 

 みなさんもインフル、気を付けてくださいねっ!
 外から帰ったら必ず手洗いとうがい、面倒がらずに実行してくださいね!



 ではでは、お話の続きです。

 
  




きみのふるさと(13)





「真美デース。後片付け手伝いに来ましたー」

 本当に手が必要なときに現れてくれる、頼りになるお隣さんだ。彼女の親切が押し付けにならないのは、この土地柄と、彼女の明るいキャラクターのおかげだ。昨日、薪は彼女に厳しいことを言われたけれど、それは純粋に彼女が青木家のことを心配しているからこそ出た苦言で……。
「あら、和歌ちゃん。早速嫁イビリ?」
 この女、やっぱりキライだっ。

 薪が引き攣った顔で真美を睨むと、真美はひょいと台所に上がり、「久しぶり、元気だった?」などと言いながら和歌子の傍に寄って来た。和歌子は年長者の余裕でそれに応え、にこやかに笑いながらも小さな棘の含まれた言い回しで、彼女に牽制球を放った。
「薪さんの様子がおかしいから予想はしてたけど。やっぱり真美ちゃんにはバレちゃったのね。あなた昔っから、一行の恋の相手には敏感だったものね」
「あたし、鼻が利くの。べつに行ちゃんだけじゃないわ」
「ま、そういうことにしておきましょ」
 自分よりも若干小さい真美を睥睨し、顎を上げる。やっぱりこの人には逆らわないほうがよさそうだ、と薪は思った。

「そういうことも何も、本当だもん。ところで、草太くんは?」
「草太ならここに、あらっ?」
 てっきり床で大人しくしていると思っていた息子は、いつの間にか消えていた。
「いやだ、どこ行っちゃったのかしら。いい子にしててって言ったのに。ちょっと探してくるわ」
 和歌子は慌てて台所を出て行き、ダイニングテーブルの前には薪と真美だけが残された。気まずい空気が流れる。昨日、あんな会話を交わしたばかりだ。真美も、薪の顔など見たくないに違いない。

「和歌ちゃんが嫁イビリに夢中になってる隙に、逃げちゃったのね。赤ちゃんだもの、じっとしてないわよね」
「その言い方、止めてもらえますか」
 捜査会議で反対意見を封じ込めるときの厳しい口調で、薪は言い放った。青木家の人間にしてみれば、薪の存在は他人に触れられたくないことのはずだ。それを考えなしに口にする、彼女の無神経さが許せなかった。
「いいじゃない。行ちゃんのお嫁さんなんでしょう?」
「少しは考えてください。あなたの不用意な発言が、この家の人たちを窮地に追いやることに」
「他人に言うわけないでしょ、こんなこと」
 嘲笑うように言われて、薪の神経が室長モードに切り替わった。平たく言うと、キレた、ということだ。

「まあ、あなたのやり切れ無い気持ちも解りますよ。僕だって、初恋の人が同性の恋人を連れて帰ってきたら、それなりにショックを受けると思います。ましてや、肝心の彼が」
 周囲の空気を凍てつかせながら横柄に腕を組み、せせら笑う口調で挑発し、薪は見下した眼で真美を見た。
 一度目は不覚を取ったが、今度はそうは行かない。売られたケンカは借金してでも買うのが薪のポリシーだし、やられたことは倍にして返すのが第九の社訓だ。こちらは毎日、生き馬の目を抜く勢いのマスコミ相手に答弁をしているのだ。田舎娘なんかに口で負けてたまるか。
「青木の方がだいぶ年下ですし、住んでる家も僕の名義です。稼ぎも僕の方が断然良い。あなたがどうしても僕たちの関係を夫と妻の立場に準えたいなら、妻になるのは青木のほうですからね。ご心痛、お察しします」

 捲くし立てられて、真美はぽかんと口を開けたまま固まった。
 泣き出されたら厄介だと、多少の不安はあったものの、自分は絶対に退くべきではないと薪は思った。青木の母と姉が薪の立場を認めてくれる以上、卑屈になったら彼女たちに申し訳が立たない。
 何より、青木の覚悟に報いるために。臆病な自分に負けたくなかった。

 やがて真美は自分を取り戻し、怒るでもなく泣くでもなく、何かに会得したときのように両手を胸の前で合わせた。
「行ちゃんて、昔から気の強い年上のひとが好きだったのよね。人間の好みって、びっくりするくらい変わらないのね」
 それから、少しだけ寂しそうに、
「あたし、もうちょっと早く生まれてきたかったな」
 俯き加減の彼女の睫毛は微かに震えていて、薪は些少の罪悪感を味わった。正当性とは関係なく、女の子に悲しい思いをさせるのは気分が悪い。薪は男で、男は女性を守るものだと父親に教えられて大きくなった。幼少期の刷り込みは、そう簡単には消えないのだ。

「昨日は、酷いこと言ってごめんなさい」
 真っ直ぐでつやつやした黒髪を下方に垂らして、真美は薪に頭を下げた。すらっと言葉が出てきたのは、もしかすると彼女が、今日は最初から薪に謝るつもりでここを訪れたことの証拠かもしれなかった。
「あたし、結婚失敗したなあって思ってて。うちの旦那ね、結婚する前はあんなに優しかったのに、結婚して半年もしないで女作ってさ。それから2年の間に4人よ、4人。もう、やんなっちゃった」
 真美が既婚者であるという事実は、薪の自己正当性を強くした一因だったが、結婚生活が幸せなものであるとは限らない。薪自身、青木が他所の女との間に子供をもうけたと誤解して、足元が消えてなくなるような崩落感を味わったばかりだ。でも。

 あの時、薪は青木がこれまでに自分にしてくれた数々のこと、今現在してくれていることを思い起こした。結果、一つの結論に達した。
 彼が何処で誰と何をしていても。彼が一番愛しているのはこの僕だ。

 青木がどんなに薪のことを大切にしてくれたか、薪のためにどれだけの努力をしたか、数え上げたらキリがない。それは昔から連綿と続いており、現在も絶えることはない。なのに、どうやって彼の愛情を疑えと言うのか。
 青木も普通の男だ。欲求もあるし気分の浮き沈みもある。何かのはずみでちょっと揺らいだだけのこと、たったそれだけのことで彼がくれたものすべてを否定するなんて、薪にはできない。今現在ここにはいない彼の、でも確かに感じる愛情を、認めずにはいられない。
 しかし、真美には夫のそれを感じることができないのだ。実際に受け取っていないのかもしれないし、彼女が気付かないだけかもしれない。部外者の薪に言えることはないが、彼女の辛い気持ちだけはよく分かった。

「行ちゃんは昔から背が高くてカッコよくて優しくて、この辺の女の子、みんな行ちゃんが好きだったの。でも行ちゃんは、女の子の中ではあたしと一番仲が良くて。あたし、それが自慢だった」
 そんなにモテてたのか、と薪は昔の青木に嫉妬したが、男の価値は成人してから決まるんだ、今は僕の方が上だ、と自分を慰めた。これは男のプライドの問題で、彼に対する恋愛感情とは関係ない。薪が女性なら、モテ男を手に入れたことに優越感を抱くかもしれないが、男同士ではそうもいかない。
「昔の行ちゃんは、みんなに優しかったの。気配り上手でね、皆に平等に眼を配ってた」
 真美が語る青木少年の姿は、薪にも簡単に想像がついた。青木は今でも気配り上手だ。それが興を奏して先輩からも可愛がられているし、友人も多い。
「でも、今の行ちゃんは違う。あなたの事しか見てないし、あなたのことだけ気に掛けてる。他の人はどうでもいいみたい」
 そんなことは、と薪は言いかけて、でも思い留まった。昔の青木を知らない自分が、彼の変化について論じる資格はない。
「だから僻んじゃった」
 前に縛ったエプロンの紐を弄りながら、真美は照れ臭そうに言った。
「あんなこと、本気で言ったんじゃないの。ごめんなさい」
 うん、と薪は頷いた。素直に謝ってこられれば、快く受け入れてやる。薪はもともと女性には寛容なのだ。

「男の眼を自分に向けるのなんて、簡単だ。自分は彼だけのものじゃない、と危機感を抱かせればいい」
 男性の立場から、薪は真美にアドバイスした。と言っても、恋愛経験の少ない薪にそんな気の利いたことが言えるわけがない。実は、昔の親友からの受け売りだ。彼の口調と仕草を真似て、薪は真美の肩に手を置き、首を傾けて彼女の顔を覗き込んだ。
「大丈夫。君はそんなに可愛いんだから」
 そして薪は、かつての親友のその言葉と仕草が、自分に恋愛相談をしてきた女の子を落とすための手管だったことを知らない。
 思わず顔を赤らめる真美を、可愛いと薪は思った。彼女の旦那は女を見る眼がない。いや、失ってしまったというべきか。

「ありがと。薪さん、ひとつ聞いていい?」
 なに? と微笑んで、薪は彼女の言葉を待った。
「年、いくつなの? てっきりわたしより年下だと思ってたんだけど」
 待たんかい、こら。
 真美は青木より5つ年下、ということは薪より17歳も下ということだ。それで年下ってどういうことだ!!

「だから余計に腹立っちゃったのよね。年下はダメとか言ったくせに、って」
「僕は警視長だって言ったでしょう。青木は警視ですよ」
「警察の階級なんか分かんないもん」
 当然かもしれない。一般人が知っている階級といえば、テレビによく出てくる巡査、警部、警視、この3つくらいだ。警視正や警視長ともなると現場には出ないから、視聴者が喜ぶドラマが作れない。だから認知度が低いのだ。

 薪が自分の本当の年を教えてやると、真美は息を飲んで、
「うそぉ! 美魔女ってやつ? あ、男の人だから美魔男?」
 薪は激しく舌打ちし、やっぱりこの娘は苦手だ、と思った。




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

きみのふるさと(12)

 こんにちはっ!

 年末年始にかけて、たくさんの方のご来訪、及びコメントと拍手をありがとうございました!
 お返事遅れててすみません。 お正月ってついだらだらしちゃ、あ、いえ、色々忙しかったんですよ、ガキの使い笑ってはいけない6時間スペシャルのビデオをオットと一緒に見たりとか、しづ、OUT! ←こんなん見てる人、秘密コミュにいる? 
 すみません、だらだらしてました。
 人としてOUTですみません。

 コメントのお返事もしたいし、お友だちのブロガーさんのところへ新年のご挨拶にも行きたいのですけど、休みの日のわたしは基本的にオットに独占されてるので、時間的に余裕が無くて~~、
「警視庁24時」の4時間スペシャルのビデオをオットが見ている間に更新してます。

 7日から平常運転に戻りますので、それまでどうかお待ちください。
 お待ちの間にお話の続き、よろしかったらどうぞ。(^^
  
 





きみのふるさと(12)






 青木が家に帰ってショックだったのは、昼食の用意ができていなかったこと。そして、もっとショックだったのは叔父が未だ居座っていたことだ。
 姉さん、と恨みがましい目つきで姉を見ると、さすがの姉もこの叔父ばかりは手に余ったようで、
「あんたが帰ってくるまで帰らないって言い張って」と叔父の主張をそのまま伝えた。匙を投げた、という感じだった。

「おう一行、帰ったか。ちょっと此処ば座れ」
 目ざとく甥の姿を見付けて呼びつける。叔父の態度は相変わらず横柄だ。空腹感も手伝って、青木は不快な気分になったが、さっき薪に言われたことを思い出して「はい」と返事をした。
 叔父の隣には母親がいて、困惑した眼をして青木を見た。ずっと叔父の話を聞かされていたのか、疲れたような表情だった。

「それでな、この女性なんやが」
 叔父がおもむろに取り出したのは、着物姿で映っている女性の写真。立派な装丁の、所謂見合い写真というやつだ。叔父はその写真を指で示しながら、年は28で丁度いい、中学校の先生をしていて料理が得意だそうだ、などと、彼女のセールストークを始めた。
 しかし、叔父の押し出すセールスポイントはまったくもって青木の食指を動かさない。青木は基本的に年上が好きだし、美味しい料理は薪に食べさせてもらってる。
「なかなかの美人やろ。こん人ならおまえも気に入ると」
 毎日薪の顔を見ているのだ。美貌で青木を釣るのは相対的に不可能だ。
 薪さん以上に美しい女性を連れてきたら考えてもいいです、と言ってやりたかったが、思い留まった。出来るだけ穏便にこの場をやり過ごそうと、青木は言葉を選んだ。

「すみません、叔父さん。今こっちへ戻ってくるのは無理なんです。さっき、オレの上司も同じ事を言ったでしょう?」
「長男坊が30過ぎても実家に戻らんと、そげな非常識な」
 法事の席に見合い写真を持って来るのは非常識ではないのだろうか。
「警察というところは、厳しい世界なんですよ」
 愛想笑いを浮かべて叔父の相手をするのはひどく疲れるが、薪の心配事を増やすよりはずっといい。ほんの小一時間、自分がこうして我慢すればよいのだ。
 叔父が帰ったら薪さんに甘えさせてもらおう、とモチベーションを上げるためのご褒美の算段までして、青木は顔の筋肉に力を入れた。

 青木が叔父の話し相手になったのを確認して、和歌子は仏間の障子を閉めた。
「薪さん、ごめんなさいね」
 お腹空いたでしょ、と和歌子は台所へ行き、草太を床に下ろして、昨夜のカレーを温め始めた。心地良い母親の腕から離された草太は床を這って薪のところにやってきて、自分を抱き上げるよう態度で示した。天下の警視長も、彼にかかっては単なる下僕だ。
「僕はいいです。先にお客さまに」
 草太を抱き上げながら、薪が昼食を辞退すると、和歌子は笑って、
「冗談。昼食なんか出したら、ますます帰らなくなっちゃうわ。長っ尻なんだから、あの人」
「いつもあんな調子なんですか」
「まあねー。とにかくしつこくって。母さん、ノイローゼになりそうだって言ってたわ」
 和歌子の話を聞いて、薪は強い衝撃を受けた。自分たちのせいで、青木の母親が苦労をしている。これは自分の選択の結果だ、原因は自分にあるのだ。

「すみません。僕のせいですね」
 謝ってもどうにもならないと思ったけれど、謝らずにはいられなかった。自分の気持ちを変えることはできない、青木と別れることはできない、母親を助けることもできない。何一つできない自分の力不足が、泣きたいくらい悔しかった。
「なんで薪さんが謝るの?」
「弟さんが道を誤ったのは僕のせいです。彼は悪くない、僕が」
「なるほどね。あなたがそんなだから、一行があんな態度に出るのね」
 和歌子は謎のような言葉を呟くと、カレー鍋に蓋をして火を止めた。それから、薪の腕に抱かれてご満悦だった草太を取り上げ、有無を言わさずに床に下ろした。「いい子にしててね」と母親の威厳を持って息子に命じると、立ち上がってにこりと笑い、
「ねえ薪さん。ちょっと失礼なこと言っていい?」
「はい」
 ある種の覚悟を決めて、薪は和歌子の言葉を待った。心が折れないよう、腹の底に力を入れる。

「あんたなあ、何かっちゅうと自分のせい自分のせい言うて、被害者ぶるのもええ加減にせんね。わたしの弟、小バカにしちょると?」
 和歌子が突然異国の言葉を喋り始めたので、薪はその言葉がどの国のものか判断するのにコンマ3秒ほどの時間を要した。きょとりと眼を丸くして、長い睫毛を3度ほど瞬き、それが青木家のお国言葉だと理解する。理解して、震え上がった。激したときには人間の本性が露わになると言うが、雪子が怒ったときと同じくらい迫力がある。青木が決して姉に逆らわない理由はこれだったのか。
 彼女のおっとりとした外見からは想像もつかない変貌だったが、考えてみたら当然かもしれない。彼女は九州の女、幼い頃から日本一勇ましい九州男児と対等に渡り合っているのだ。

「恋愛は同等やろ。お互い、同じ責任と幸せ負っちょるもんやろ。なんであんた一人で被ると。どうしてあの子に分けてやらんの」
 僕は、青木を守るとお母さんに約束しました。だからこの責は僕が負うべきもので、一欠けらたりとも彼に背負わせて良いものではないんです。責任を取るのは上の仕事、年長者の僕の仕事です。
 薪はそう返そうとした。しかし。
「一行はわたしの弟ったい。そんくらい背負えんほど、ケツの穴の小さか男じゃなかよ」
 彼女の口調の激しさと独特のイントネーションが、薪の反論を封じた。弟を馬鹿にするなと姉に言われれば、薪に返す言葉はなかった。

 唇を噛んで俯く薪に、和歌子はふっと肩の力を抜き、お国言葉はそのままに、口調だけをやわらかく変えて、
「薪さんのことねえ、わたし、一行から直接聞いたんよ」
「青木が?」
 薪は驚いて眼を瞠り、鸚鵡返しに訊いた。
 てっきり、母親から伝わったのだと思っていた。いくら青木が能天気でも、同性を伴侶にすることを家族に賛同してもらえるなどとは考えまい。隠し通せるものでもないが、できれば隠しておきたかったはず。身内には余計に言い難かろうと、そう思ったから自分の口から姉に打ち明ける決意を固めてきたのだ。そんな薪の覚悟を無駄にして、青木が姉にどんな風に自分とのことを話したのか、聞いて薪は卒倒しそうになった。

『認めてくれなんて言えないけど。薪さんに悲しい思いをさせるくらいなら、オレはこの家と縁を切る』
「お姉さんに向かってそんなことを?! あのバカ」
 咄嗟に、姉の前で弟をバカ呼ばわりしてしまって、慌てて薪は自分の口を塞ぐ。つい、口から出てしまった。だってバカとしか言いようがない。以前、薪は青木に「僕のために親も未来も捨ててみろ」と詰め寄ったことがある。提示されたのは究極の選択、でも青木は呆れるくらいアッサリと薪を選んだ。だけど、それをそのまま身内に言うなんて。それはバカのすることだ。

 ――どうしてそのひとなの?
 と、和歌子は訊いたそうだ。それに対する青木の答えがまた、バカにバカを掛け合わせてバカバカバカバカ……なにがなんだか解らなくなってきた。

『薪さんが笑ってくれると嬉しいんだ。オレが持ってるもの、全部使っても惜しくない』
 ――全部? 命懸けてるとか言いたいの?
『オレ、あの人のために生まれてきたんだ』

 バカをどれだけ乗じたら青木に近付くのか、薪の天才的な頭脳を持ってしても、その答えは出せなかった。脳がスパークして何も考えられない。自然に涙が浮かんだ。
「あれだけキッパリ言われたら、なんも言えんねえ」
 失笑とも苦笑とも付かぬ表情で、和歌子は言った。我が弟ながら呆れたわ、と肩を竦めて見せた。
 すみません、と薪は謝った。それ以外の言葉が見つからなかった。和歌子は、自分といくらも変わらぬ背丈の、俯いた薪の顔を下から覗きこんで、
「一行に、生きる目的を与えてくれてありがとう」

 いいえ、僕の方が。
 僕が彼に救われたんです、僕に未来を与えてくれたのは彼なんです。

 そう言おうとしたが、声にならなかった。込み上げてきた嗚咽を止めるのが精一杯で、口を開いたら泣き出してしまいそうだった。
 ぎゅ、と両手を握って懸命に涙を押し留めていると、ノックもなしに勝手口のドアが開き、青木の幼馴染が顔を出した。
「真美デース。後片付け手伝いに来ましたー」




*****

 私信です。

 Aさま。
 ずっと心配されていた「お姉さんが薪さんを泣かすシーン」、こちらでございます。 この先は安心して読んでください。
 ちなみに次章は、
 薪さんVS真美の第2ラウンドです。 ←安心できるか。
 お楽しみにっ♪


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

初夢、見ましたか?

 やたっ!
 今年の初夢、薪さんだった!

 あ、ご挨拶の前にすみません。(^^;


 あけましておめでとうございます。
 今年もどうか、よろしくお付き合いください。



 しづの今年の初夢は、
 薪さんが青木さんと一緒に暮らすことを手紙で雪子さんに報告する夢、でした。 
 絶対にないし意味もわかりませんが、とにかく、
 薪さんが夢に出てきただけで今年1年いいことありそうですっ。
 縁起のいい初夢って言ったら昔から、
 1薪2薪3青木(人によっては鈴木) ですからね!! 


 でも、薪さんの字は下手でした。
 後なんか、一緒に暮らすことにはなったけどそういうんじゃないから、って一生懸命に言い訳してた。 ありえねえ。 薪さん、言い訳しないもん。


 夢のその後は~、
 お友だち数人とオフ会で道を歩きながら鈴薪さんのことを話していたら、(顔、めぐみさんしか分からなかった)
 心停止状態になった何処かのおじさんを救急隊の方が搬送していく場面に出くわせました。 
 まあ、夢なので。 意味はないです。


 以上。
 初夢報告でした。


 この下、お話更新したいんですけど、(その前にレスを返せですみませんー!)
 昨日は新春SS書いてて準備ができてなくて~、(もちろん今年の正月には間に合わない)
 今日は今から成田山に参拝に行って、同県にお泊りして、明日帰ってきますのでそれからやります。
 
 今年も変わらずのグダグダ管理人ですみません。
 


 ではでは、
 本年もよろしくお願いします!


 
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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おかげさまで8歳になりました(^^♪
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