夢のあとさき(4)

 日曜日の夜と月曜の夜、たくさん拍手くださった方、ありがとうございました。 とっても嬉しかったです(^^)

 本誌連載が一旦終了したせいか、最近秘密を語る機会が減ったように感じます。原作についてのコメント、いただけると狂喜しますです。語りたい。
 ツイッターにもっと積極的に参加すればいいんですけどね、あれ、字数制限がメンドクサくて。わたしみたいにだらだら喋る人間にはブログの方が合ってるみたいです。

 まあ、ツイッターに参加できない一番の原因はオットの妨害なんですけど。
 こないだなんか就寝時間超えてツイッタしてたらコンセント抜くって言われて、「PC壊れるよ」って言い返したら「どうせ直すのはオレだからいい」
 ……参りました。




夢のあとさき(4)







 車に戻って目的地をナビにセットする。目指すは薪の大好きな露天風呂。もちろん、湯上りの地酒セットも予約してある。
 街中の道路は青木の懸念通り混んでいて、ナビに30分と表示された予定時間が50分掛かった。おかげで予約時間に十分ほど遅れてしまったが、薪からの文句は出なかった。自分が滝に長居したせいだなどと殊勝な気持ちからではない、温泉施設を取り囲む深い林に気を取られたからだ。木々が太陽の光を遮るせいか周辺の空気はヒヤッとして、入浴には最適な涼しさだった。
「本当に森の中にあるんだな」
 一年の内で一番生命力に溢れた新緑の森を眺めながら、風呂に入って地酒で一杯。嬉しそうな薪の様子に、青木は心の中でガッツポーズを取る。待合室を兼ねた受付所も木造りの大きな建物で雰囲気がいいし、遠くに見える貸切風呂の棟々も贅沢にスペースを取ってある。これは期待できそうだ。

「受付でタオルとか浴衣とか貸してくれるみたいですよ」
「浴衣か。まさか女物じゃないだろうな?」
 薪の冗談に二人は楽しそうに笑いながら建物の中に入り、しかし。
 その後の出来事は、正に悪夢だった。

「え!」と驚きの声を発し、青木は軽いパニックに襲われた。何の因果か、混み合う休日には稀に起きてしまう事故が我が身に降りかかったらしい。青木たちが入るはずだった離れの露天風呂は、2人が時間に遅れた十分の間に別の客を受け入れてしまったと受付係の女性は言った。
「申し訳ありません。ちゃんと確認したんですが、さっきは空室になっていて……いえ、すみません。こちらの不手際で、誠に申し訳ありません」
 弁解がましい言葉が出るのは、ネットの予約係と現地の受付係で分担が分かれているせいだろう。ダブルブッキングはこの女性のミスではなく、予約係のミスであると推察された。
「謝られても」
 青木の深刻な様子に気付いたのか、待合室の掲示物を眺めていた薪が振り返る。ちらりと彼を見れば、先ほどまで新緑の美しさに輝いていた亜麻色の瞳は不興に曇り、だから青木は必死になって受付係の中年女性に言い募る。
「困ります。なんとかしてください」
「それが、本日はどの部屋も予約でいっぱいで」
「オレだって予約はちゃんと」
 言い掛けて青木は口を噤んだ。予約係のミスを被って平謝りに謝る受付係に同情したからだ。でも、相手の望む「じゃあまた今度」という言葉はなかなか出てこなかった。自分一人のことなら譲ることに抵抗はないが、薪がいる。彼が一番楽しみにしていたスポットなのに、それがキャンセルなんて、後で薪にどんな目に遭わされるか。今の青木の未来予想を見せることができたら受付係の対応も変わるだろうに。

「やっぱり先約があったんですね。こんな日に空きがあるのはおかしいと思いました」
 振り返ると、そこには三人の親子連れが立っていた。3人とも吊り目の痩身で、よく似ている。手に着替えの浴衣とタオルを持った若い母親が、五歳くらいの男の子の手を引いていた。父親の方は足に怪我をしているらしく踝から下に包帯を巻き、歩く時にはびっこを引いていた。
 どこかしら神経質そうで線の細い彼は、細い目をさらに細めて青木に微笑みかけた。
「私たちは飛び入りみたいなものですから。辞退しますよ」
 申し出に感謝する。相手方からそう言ってもらえて青木が安堵したのも束の間、
「やだっ!」
 反発したのは子供だ。両親と一緒の露天風呂を楽しみにしていたのだろう。それが取り上げられて、我儘を爆発させたのだ。
「おじさんたちが遅れてきたのが悪いんだ」
「こらっ」
 母親が叱ってくれたが、青木は自分が「おじさん」と呼ばれたことに少しだけショックを受けた。
「ワガママ言うんじゃありません。もともとこの方たちのものなのよ」
「やだやだ、ぜったいに嫌だ! だって、お父さんが」
 子供はちらりと父親の足を見た。この温泉は、切り傷や打ち身によく効くとパンフレットに書いてあった。子供がそれを読んだわけでもなかろうが、母親にでも教えてもらったのかもしれない。
 父親の怪我を案じる彼のやさしい気持ちを知って、青木は自分たちの権利を主張することを躊躇う。譲ってあげたい気持ちが押し寄せるが、薪のがっかりした顔を思い浮かべると青木の口は重くなる。板挟みだ。

 母親と子供が言い合うのに、事情を察した薪が寄ってきて、親子連れに見えないように青木の脚をスリッパの爪先で蹴りとばした。
「子供みたいに駄々をこねるな。空きが無いものは仕方ないだろ」
 駄々を捏ねさせたら5歳の子供にも負けない人に言われても。
「僕のことなら気にしなくていい」
 すみません、足を踏まれながら微笑まれても首肯できません。
「こういう場合は多数決でしょう。3対2で僕たちの負けです。どうぞ」
 物分かりの良い大人の態度で3人に微笑みかける。薪は外面がいい。母親が若くて美人なのも関係しているに違いない。

 子供は薪の言葉にぱっと眼を輝かせ、満面の笑みを浮かべると、
「お兄ちゃん、ありがとう。後でお礼するね」と子供らしい率直さで礼を言った。
 照れ臭かったのか、「いや」と薪は横を向いた。前に、薪は子供が苦手だと聞いたことがある。理由を聞くと、善人と悪人を本能で見分けるから怖いんだ、と訳の分からない答えが返ってきた。どうやら子供にはある種のシックスセンスがあると信じているらしい。薪の思考は常人には理解し難いことだらけだ。
「おじさんも。どうもありがとう」
「いいえどういたしまして、てちょっと待って、どうしてオレがおじさんで薪さんがお兄さんなのか説明してくれないかな、ねえちょっときみ!」
 青木の叫びを無視して3人は深く頭を下げ、貸切風呂への渡り廊下を渡って行った。さりげに失礼な親子だと思った。

「お客様、誠に申し訳ありませんでした。お詫びと言っては何ですが、こちらはご予約いただいた地酒のセットです。どうぞお持ち帰りください」
 低いお辞儀と共に、受付係の女性は小型の手提げ袋を2つ差し出した。薪はそれを受け取り、「また機会があったら利用させていただきます」とよそ行きの笑みを返した。その間、青木の足はずっと薪の足の下敷きになっていた。

 車に戻って袋を開けてみると、中には1合瓶の3本セットの他に小型のポーチに詰め込まれたアメニティグッズと、貸切風呂の優待券が入っていた。心遣いは嬉しいが、期限は3ヵ月。再訪できる確率は低いと思われた。
「すみません。予約時間に遅れると分かった時点で電話を入れておくべきでした」
 箱から取り出した地酒の瓶を陽光に透かして見ている薪に、青木は謝った。忙しい薪に時間を割いてもらったのに。一番大事なプランで空振りなんて申し訳なさ過ぎる。
「別に、おまえのせいじゃないだろ」
 声に怒りはなかったけれど、薪の怒りは2種類あって、直情爆発型の時はその場で済んでしまうが、沈着進行型の時は後が怖い。今回は後者だと悟って、青木はこれから何週間かはこのネタで苛められるに違いないと覚悟を決めた。

「あの神社、ご利益ないな。墓所に参らなかったのが拙かったかな」
 クスッと笑って薪は瓶を箱に戻した。後部座席の床に置いて、シートベルトに手を掛ける。
「すみません」ともう一度青木は謝った。ハンドルに置いた手に額を付けるようにして、顔を隠した。その深刻な様子に、シートベルトを付けようとしていた薪の手が止まる。露天風呂がポシャったのは確かに残念だけど、そこまで落ち込むことじゃない。もともと今日は厄落としに来たのであって、こちらはメインではないのだ。
「なんでそんなに落ち込んでんだ。目的は果たしただろ」
「すみません」
「だから謝るなって。おまえのせいじゃ」
 手首とハンドルの隙間から見えた青木の眉が苦しげに歪んでいるのに気付いて、薪は口を噤んだ。

 唐突に知る。あのとき薪が呟いた数字の意味を、青木は理解していたのだ。

「おまえのせいじゃない」と薪は繰り返した。それから強い口調で、
「もちろん僕が悪いんでもない」と当たり前のことを言った。
 何かを察して顔を上げる青木の眼を、薪は真っ直ぐに見つめた。そして自分の推測に確信を得た。やっぱり、青木は気付いている。
 厄年なんて勝手に誤解して、青木はそれを二人で出掛ける口実にしたがった。春先の事件は自分の隙から起きたのだという自覚もあったし、そのことで青木がひどく傷ついたであろうことも推察できたから彼の我が儘に付き合うことにした。と、今回の小旅行を薪はそんな風に考えていたけれど。
 青木はちゃんと分かっていたのだ。

『42』
 それは薪のせいで死んだひとの数だ。東条の事件でまた二人、犠牲者が増えた。

 言葉にすれば青木は必ず言ってくれる、「人が死ぬのはあなたのせいじゃない」。だから言えない。自戒の言葉が慰めを期待する言葉にすり替わる、そんな甘えを薪は許せない。
 青木は薪のそういった性格を知り尽くしていて、その言葉を口にすることができないならせめて薪の無聊を慰めたいと。思ってこの旅行を企画したのだろう。神社はむしろフェイクで、メインはこちらだったのだ。

「再入場できるんだろ? 時間もできたことだし、家康公の墓所、参って行こう」
 突然の話題転換にぽかんと口を開ける青木に、薪は楽しそうに言った。
「そう言えば、鳴竜見てないよな」
「見たいんですか? 鳴竜」
「興味はあるさ。音の多重反響現象を利用した建築方法を江戸時代の大工が確立していたんだぞ。すごいことだと思わないか」
「えっ。すいません、多重反響って?」
「……おまえ、本当に東大出てるのか」
 呆れた口調で呟かれて自分の愚を悟ったのか、青木は慌ててシートベルトを締めた。スイッチを押してエンジンをかける。

「いいか? 音は波動現象だから反射・屈折・回折・干渉・重ね合わせ等の特徴を持っている。鳴竜はその中の反射と重ね合せの効果が重なったものだ。平行する2枚の板の間で音を発すればそれは天上と床にぶつかり、跳ね返って重ね合わされ、増幅される」
 わかったか、と薪が理解度を確認すると、青木は、
「ベッドの中の薪さんみたいですね」と薪の顎が落ちるようなことを言い出した。
「オレが薪さん大好きって思うと、薪さんもオレにそれを返してくれるでしょ。繰り返すうちに増幅されて」
 何となくオチが予想できて、薪は後部座席に置いたばかりの紙袋を取り上げる。中の物を取り出して、逆手に構えた。
「その結果薪さんが大きな声で鳴くことに、――すみません、酒瓶は割れたら臭いんで勘弁してください」
 青木が頭を下げると、薪はチッと舌打ちして酒瓶を箱に戻した。赤い顔をして黙り込んだ薪がシートベルトを装着するのを確認して、青木は車をスタートさせた。
 楽しい旅行はまだ続くのだ。




*****


 ここから先はプロットにはなかった話です。薪さんの気持ちを理解して、そうとは言わずに彼を気遣う青木さん。それだけの話だったんですね。
 ……ここで終わっときゃいいのにねえ。
 なんで蛇足を書いちゃうかねえ。

 

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夢のあとさき(3)

 説明書き入れるの忘れちゃったんですけど~、
 このお話は2066年の5月、「2066.4 緋色の月」の直後です。そちらを読んでない方にはちょっと分かりづらいかと、て、肝心の陽明門を過ぎてから言われても(^^;
 東条というド変態のことが詳しく書いてありますので、未読の方はよろしかったらどうぞ。



 ところで。

 東照宮は実際に見てきたのですけど、一番驚いたのは、陽明門の左にある神輿舎です。
 そこには3つの神輿が保管されてるんですけど、それぞれに宿ってる魂が源頼朝、徳川家康、豊臣秀吉の3人なんですって。説明書きを読んでびっくりしました。 
 ケンカしないの? これ。
 わたしの記憶違いかもしれませんけど、徳川家康って大坂の陣で豊臣一族滅ぼしたんだよね? それもわりと阿漕なやり方で。
 それを並べちゃうなんて、さすが天下の東照宮。度胸いいですよねえ。祟りとか怖くないんでかすねえ。

 神輿舎の中で、
『家康、てめーよくもワシの子孫を騙してくれたな!』
『戦は勝ったもん勝ちじゃもーん。騙される方が悪いんじゃもーん』
 みたいな会話してるんだろうか。 頼朝、困ってるだろーなーww。






夢のあとさき(3)








 厄落としの祈祷は十時から約1時間、終えて授与品を受け取ると、青木は激しい空腹を覚えた。朝が早かったせいもあって我慢できそうもない。ぐうぐう鳴る腹を押さえて薪を見やれば、「僕もだ」と薪の腹から相槌が返ってきた。つまらない偶然が可笑しくて一緒に笑い出す。些細なことに笑えるひと時に幸せを感じた。

「薪さん、何が食べたいですか」
「Kホテルのビーフシチューが食べたかったんじゃないのか」
 言われて青木は、薪を誘う時に老舗ホテルの名物料理を挙げたことを思い出した。しかしこの時季、ガイドブックに載るような人気店は何処も行列ができている。短気な薪が2時間も並んで食べるビーフシチューを有難がるとは思えないし、二人の腹具合にも余裕はない。混雑を避けるため朝は早目に家を出て、朝食はコンビニのおにぎりを車の中で食べたのだ。それでもあれだけの交通渋滞に巻き込まれた、恐るべし黄金週間。

「まだ奥宮にお参りしてないですよね。食事に出たとして、再入場できるのかな」
「戻らなくていい。風呂の時間がなくなる」
 世界遺産よりも風呂、そして今必要なのは食べ物だ。それでも一応、表門の所で拝観券のもぎりをしている係員に再入場の是非を尋ねると、理由を話して半券を提示すれば可能だと言われた。「戻らない」と断言したが、休日の薪は気紛れでコロコロ意見が変わる。保険を掛けておくに越したことはない。

 昼食は、混雑を避けるために東照宮から少し距離を取り、日光市の街中の店を選んだ。インターネットで目星をつけておいた幾つかの店の一つだ。HPにアップされた写真より実物は大分風雪に晒された感があったが、木立に囲まれた瓦屋根に木造りの佇まいはなかなかに風情があって、薪の気に入りそうな店構えだった。店の入り口には地元名物の「湯葉料理」と書かれたのぼりが立っている。
 店内は明るく、古めかしい外観を裏切るようなモダンな造りになっていた。8つほどあった天然杉らしいテーブルに着くと、薪は壁の張り紙を一瞥しただけで、そこに書かれた湯葉刺しと冷たい蕎麦のセットを注文した。メニューを端から端まで見ないと決められない青木とは対照的だ。
 蕎麦と植物性タンパク質だけでは2時間もしたら腹が空くと判断した青木は、薪が頼んだセットの他にカツ丼を注文し、それを食べ終わった後、更にもり蕎麦を一枚追加した。

「お兄さん、身体大きいだけあってよく食べるねえ」と店の主に感心される中、薪は青木が追加の蕎麦を食べる様子をソワソワしながら見ていた。早く行かないと風呂が逃げると思っているのかもしれないが、予約の時間までにはまだ間がある。
「二時に予約を入れてあります」
 青木はボディバックからパンフレットを取り出し、薪に差し出した。受け取ろうとして薪は、「いや」と首を振り、
「写真に騙されたことが何度もあったからな。今回は見ないでおく」
「あはは。パンフレットの写真て、本当に上手く撮ってありますよね。実物の3倍くらい広く見えますものね」
「なんでもそうだろ。おまえの履歴書の写真も、頭良さそうに写ってたぞ」
 皮肉られて苦笑する。薪さんの口の悪さも写真には写りませんしね、と心の中で言い返した。

 そんなやり取りをしておいて、結局薪はパンフレットの誘惑に耐えられなかった。2分もしない内にテーブルに置かれた冊子を取り上げ、
「話半分てことで、片目で見れば大丈夫だよな?」
 こういうときの薪の理屈には、笑い出さずにいられない。クスクス笑いが止められないでいると、
「この温泉、切り傷や打ち身によく効くって書いてある。試してみるか」と薪に指を鳴らされた。慌てて蕎麦に意識を集中する。何事もなかった顔をして再びパンフレットを眺める、きれいな顔を見ればたった今脅されたことも忘れてしまう。青木にはボケ防止に効果のある薬湯が必要かもしれない。
「へえ。森の中に風呂があるのか」
「近くに川も流れてるから、せせらぎも聞こえるそうですよ」
「今時期だと、小鳥の声も楽しめそうだな」
「露天ですからね。鳥やら虫やら飛んできちゃうみたいですけど。薪さん、虫、大丈夫ですよね?」
 パンフレットを見ながら「ああ」と頷いた薪は、期待に眼を輝かせていた。質問形式だけれど、これは確認だ。薪は自然の生き物は分け隔てなく好きなのだ。青木が苦手な蛇や爬虫類にさえ、彼はやさしい目を向ける。

 食事を終え、二人は、予約時間までの空隙を散策で埋めることにした。車があるのだから中禅寺湖辺りに足を延ばせれば良いのだが、途中のいろは坂の混雑は想像するだけでげんなりする。近隣でオススメの散歩コースはないかと店の主人に尋ねると、店から車で10分ほどだという滝を勧められた。
 この県には日本三代名瀑に数えられる有名な滝もあるが、あちらはすっかり観光客用に整備されて、昔の、滝壺に飲み込まれるような臨場感はなくなってしまったそうだ。規模は小さいがこちらの方が見て楽しめる、と主は太鼓判を押した。

 彼の言のとおり、そこは一つの穴場というやつだった。無料の駐車場は20台ほどのスペースだったが、埋まっているのは半分くらい。観光客が少ないおかげで待ち時間なしで停めることができた。
 駐車場の出口には掲示板があり、滝の謂われなどが書いてあった。江戸時代の頃からの景勝地で、由緒ある滝らしい。滝までの簡単な経路図も描かれており、それによると観瀑台までは約五百メートル。山の中をてくてく歩く。
「薪さん、大丈夫ですか?」
「平気、っと、や、大丈夫、うわっ」
 地面に積もった落ち葉に昨夜の雨が悪戯して、その滑りやすいことと言ったらなかった。青木はスニーカーだが薪は革靴だ。いくら慎重に歩いても、ぬかるんだ土に足を取られる。それでなくてもアップダウンの激しい山道、古びた木製の階段と遊歩道はあったがそれは断続的で、快適な散歩道には程遠い。
 でも薪は楽しそうだった。不安定な足元を絶妙のバランス感覚で補う、その軽快さは運動靴の青木に比べても遜色なく、途中、何人かの観光客を追い越したくらいだ。

 森の中、渓流を遡っていく小道は実に爽快だった。ザアザアと流れる水の音と小鳥の鳴き声と枝葉の擦れ合う音が、自然のハーモニーを奏でる。天気はいいし、風は心地良いし、新緑は美しい。下方を流れる川の透明度は溜息が出るほどで、流水が岩にぶつかって白く弾ける様を見れば心が弾む。
「あ。滝の音がしますね」
 土に丸太を埋めて作った階段を上がりきった時、唐突にその音が聞こえてきた。不思議なもので、一定の距離まで近付くといきなり大きな音になる。音の減衰理論には合致しないが、自然界は様々な音で満たされているため、重なり合う音がフィルターの役目を果たすことからこんな現象が生まれるらしい。
 そこから観瀑台までは木製の橋が架かっていて、足元が確かになった薪は駆け出さんばかりに目的の場所へと急いだ。吹き上げてくる風に水の粒子が混じる。川を横断する形に架けられた橋の中ほどまで行くと、視界を塞いでいた木立が切れて、前方に流れ落ちる水の風景が広がっていた。観瀑台まではさらに30段ほどの階段を昇る必要があったが、目前に迫った滝に気を取られて殆ど無意識のうちに登り切っていた。

「ああ、本当に。小さいけど綺麗ですね」
 観瀑台に立った薪は、青木の言葉に頷くこともしなかったけれど。その瞳は落下する水と岩が生み出す刹那の光景に熱っぽく輝き、白い頬には柔らかな笑みが浮かんでいた。
 心から感動したとき、薪は寡黙になる。それは、どんな言葉を持ってしてもこの美しさを表しきれないと思う言語そのものの限界によるものかもしれないし、胸中を口に出す必要を感じない彼のマイペース精神ゆえの怠慢かもしれない。そのときも薪は黙って長い時間、同じ場所に立っていた。

 青木たちの前に観瀑台にいた数人の客が去り、新たな客が訪れ、その客がまた去っていく。それを何回か繰り返し、青木はこの名所が混み合わない本当の理由を知った。
 寂れているのではなく、長居をする客がいないのだ。だって、滝しかない。こんなところに10分もいたら欠伸が出る。5分ほど眺めて写真を撮ったら次のスポットへ向かう、彼らが普通なのだ。それを薪ときたら足に根が生えたように動かない。そのまま20分が経過して、さすがに青木も飽きてきた。
「あの。薪さん、そろそろ」
「え。まだちょっとしか観てないだろ」
 一枚のMRI画像の分析に20分も掛けていたら雷が落ちるが。仕事のときとは時間の流れ方が違うらしい。

「隣のお客さんは5回ほど入れ替わってますけど」
 青木が客の回転効率について説明すると、薪はすっと滝の右下を指して、
「太陽の位置が変わると水の色合いが変化するんだ。太陽は15分に1度西に移動するから、ほら見ろ、最初よりも明るい緑色になってるだろ? 光の進入角が変わった証拠だ。それから、滝の右上にある枝にさっきシジュウカラが止まって、それを先刻から子狐が狙ってて」
「それ多分、薪さんにしか見えないと思います」
 目を凝らしたが、青木には木しか見えない。
 頭脳だけでなく眼も耳も。薪のパーツはとびきり優秀だ。そんな彼には見える世界も、普通の人間とは違うのかもしれない。

「もう行きましょうよ。A温泉の予約時間に間に合わなくなっちゃいますよ」
 焦れた青木は薪が楽しみにしている風呂を餌に彼を釣ろうとしたが、その企ては薪に見透かされた。予約は1時間も先、ここからA温泉までは30分程度だ。
「じゃあ予約時間を変更しろ」
 白々しい嘘と分かって旋毛を曲げた薪が、実現不可能な命令を下した。特別日に時間変更なんて出来るわけがない。そんなことは薪も承知の上、要は「黙ってろ」と言いたいのだ。

 結局、観瀑台には小一時間もいた。退屈で仕方なかった青木は、滝ではなく薪を見ていた。それなら青木は半日でも眺めていられる自信がある。他の見物客から見たら奇妙な二人連れだったと思うが、旅の恥はかき捨てだ。
 放っておいたら夕方まで居座りそうな薪に、ゴールデンウィークならではの交通事情の因果を絡めて、やっと引き剥がすことに成功した時には午後1時を回っていた。




*****

 滝のモデルは「裏見の滝」です。
 けっこう歩きますが、お勧めです。


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ジャンル : 小説・文学

夢のあとさき(2)

夢のあとさき(2)






 日光東照宮の駐車場から入口までは緩やかな登り坂が続く。その両脇には見事な日光杉が列をなしている。
 歩きながら、青木は空を見上げた。抜けるような皐月の空を背景に新緑が萌えるようだった。昨日の夕方から雨が降り出したので心配していたのだが、今朝はきれいに晴れ上がってよかった。
 ゆっくりと坂道を登っていく、多くの観光客が正面の石鳥居より先に眼を奪われるのは、右手前にある巨大な石柱だ。時代劇でおなじみの金色の葵紋の下に、いささか品性を欠くのではと危惧される程でかでかと神社の名称が書いてある。

 もう少し慎ましくすればいいのに、とは青木の恋人の意見だ。彼は仰々しいことは嫌いで、形骸的なことはもっと嫌いだ。拝観料を取ることからも分かるように、神のおわす場所と言うよりは観光名所に分類されるのが相応しいその趣に、彼はいささか不満げであった。
 それでも彼は作法通り、左の鳥居柱の前で立ち止まって一礼した。彼の隣を他の観光客がぞろぞろと追い越して行く。参道の真ん中を歩く彼らに薪はチッと舌打ちし、「神社に来るなら作法の一つも勉強してきたらどうなんだ」と小声で吐き捨てた。「家康公に祟られるぞ」なんて憎まれ口まで叩いて、普段はここまでうるさ型のオヤジではないのだが、今日の彼はあまり機嫌がよくない。

 彼に顰め面を作らせる大きな原因は、このごった返した人混みだ。うじゃうじゃと言う表現がぴったりだ。それもそのはず、世は大型連休の真っ只中。此処に辿り着く間にも交通渋滞に巻き込まれて、高速道路ならぬ超低速道路をのろのろと走って来たのだ。
「これで金を取るのは詐欺じゃないのか」
 渋滞によるイライラをETCバーにぶつける助手席の声を聞こえない振りでやり過ごしたら、目的地の名物を当てこすられてか「サル」と罵られた。薪の眉間の皺に怯えながら、だけど青木はちょっと嬉しい。サイドブレーキが必要になる程の渋滞なら薪の顔を見て話ができる。ぷんぷん怒っていても、休日の薪はやっぱりかわいい。
 薪の今日の服装は定番のカジュアルな少年ルックではなく、キレイ系だ。白いボタンダウンシャツにシルバーのナノータイを合わせ、ズボンもライトグレイのスラックスで上品にまとめている。祈祷を受けるのだから神さまに失礼な服装ではいけないと、同伴者の青木にまでジャケットの着用命令が出た。この格好ではウォーキングは無理だと思い、霧降高原のニッコウキスゲは諦めた。

 生理前の女性のように取るに足らないことが勘に障って仕方ないらしい薪の様子が落ち着いたのは、石鳥居を潜って左手に五重塔を観て(これについても彼は「せっかくの歴史的建造物を現代の塗料で塗り直してしまうなんて」と文句を言っていた)、表門に入ってからだ。目前に現れた三神庫と名付けられた建造物は、五重塔と一緒に何回目かの補修工事を終えて美しく塗り直されたばかり。赤と金を主体にした派手な色合いが青空によく映えた。
「きれーい」と、青木の隣で立ち止まった中年男女の女の方が声を上げた。「華やかねえ」と彼女ははしゃいだ声を上げ、夫らしき男に「派手な墓地だねえ」と失笑された。
「え、墓地って?」
「知らないの? ここ、家康公のお墓」
「そうなの」
「あの葵の御紋はなんで付いてるんだと思う?」
「単なるデザインかと」
「どんだけ勇敢な建築デザイナーだよ。徳川家の紋章を勝手に使ったら打ち首だって」

 無知な女性もいたものだ、と青木の懸念はそんなことではない。この会話を耳にしたら、薪の機嫌は直滑降だ。慌てて隣を見ると、薪はきょとんとした顔で歩き去って行く二人を見ていた。怒りを通り越して虚脱したらしい。
 彼は茫然とその場に立っていたが、彼らが歩き去ってからくすりと笑い、
「うん。綺麗だな」と呟いて歩き出した。
 青木もそう思った。歴史とか時代背景とか、何も解らなくてもきれいだと思えた。ここが家康公の墓地であることさえ知らなくても、その美しさに感じ入ることは許される。それを咎める権利を自分は持たない。よって彼女の無知に憤ることは自分の仕事じゃない。薪はそう考えたのかもしれない。

 表門から順路に従って進むと、最初の人だかりはやはり有名な三猿の彫刻がある建物だ。この建物は神馬の馬小屋だとパンフレットに書かれていたことを思い出しながら、青木は素朴な疑問を薪に投げかけた。
「馬と猿って相性がいいんですか?」
「どうしてだかは僕も知らないけど。昔、猿は馬の病気を治すって思われてたらしい」
「へえ。でも『見ざる言わざる聞かざる』じゃあ、病気の馬がいても気が付かない振りをされちゃうんじゃ」
「ぷっ。どっちにせよ、子供の猿じゃ役に立たないかもしれないな」
「え?」
 青木が不思議そうな顔をすると、「なんだ、本当に知らないのか」と薪は軽く眉を顰め、「そうか。おまえ福岡だっけ」と青木の出身地を口にした。関東の人間なら小中学校あたりで必ず訪れる見学地だが、北九州生まれの青木には馴染みが薄いのだ。

「恥ずかしながら大学のとき友人と一度来ただけで。三猿は覚えてましたけど、他の彫刻は忘れてました。全部で、えっと、8枚あるんですね」
 最前列に彫刻についての説明書きがあるらしいのだが、この人混みでは近づくことも困難だ。人の隙間から何とかして読もうとしている青木に、薪は8枚の彫刻の概要をざっと説明してくれた。
「この彫刻は人の成長を模していて、1枚目が母子、2枚目の三猿は幼少期で、悪いことを『見ざる言わざる聞かざる』で素直に育ちなさいって意味なんだとさ。それから少年期、青年期と移り、あの青い雲は青雲の志を表わしていて」
 さすが薪。何でも詳しい。
 人に問われて返答に窮する薪を、青木は見たことがない。信じがたい量の知識をその小さな頭脳に納めていて、それを淀みなく引き出すことができる。天才の頭脳は周囲の尊敬と畏怖を集め、だがそこで終わらないのがこの人の欠点だ。例えば、電気炊飯器はどういう仕組みでご飯を炊くのかを尋ねたとする。すると彼はとても分かりやすく説明してくれるのだが、その後、「仕組みも知らないでよく使えるな? 爆発するかもしれないとか思わないのか」などと嫌味なことを言うから誰も感謝してくれない。

 だけど青木はそのおかげで彼に近づくことができる。これで性格までよかったら高嶺の花すぎて、声をかけることもできない。その時も薪は一通りの説明を終えた後、三猿の彫刻に視線を戻して、
「インターネットが幼稚園児まで浸透したこの時代に、どうしろって?」と皮肉な笑みを浮かべた。意地の悪いツッコミは彼の上機嫌の証拠。嬉しくなって青木はそれに応じる。
「それは子供たちを隔離するしかないのでは」
「ふむ。となると、あの三猿の前には鉄格子とインターネットは1日1時間までの貼り紙が」
「……祟られますよ」
 青木が苦笑すると、薪はニヤニヤ笑って、
「そのための厄落としだろ。同じ料金ならたくさん祓ってもらった方が得だと思わないか」と罰当たりなジョークを返した。

 祈祷を行うのは祈祷殿という建物で、宮の中枢である本殿のすぐ横にある。厄落としに訪れた者たちは、約2時間おきに行われる祈祷の時間を待つ間、坂下門の手前にある眠り猫を様々な角度から見上げたり、その先に続く長い長い石段を登って家康公が眠っている奥宮に参拝したりする。
 その中枢エリアの外門となっているのが、有名な陽明門である。別名『日暮しの門』と呼ばれる、時が経つのを忘れて見惚れるうちに日が暮れる、それほどまでに美しい門。が、これは薪の好みではないだろうと青木は思っていた。
 陽明門は、門と呼ぶにはあまりにも豪華絢爛な建造物だ。実用性を重視する薪に、この門は装飾が多すぎる。

「薪さんは、もっとシンプルなものの方がお好きでしょう」
 薪の好みに詳しいところを見せたくて青木は先走る。相手が言葉を発する前にその意見を決めつけるのは失礼な行為だと思う、でも実際は、無口な父親の言葉を母親が代弁するように親しい関係にはありがちな言動だ。
 天邪鬼の本領を発揮するでもなく、薪は軽く頷き、まあな、と青木の予想を肯定した。
「薪さんが絶賛するのって、大抵は自然ですよね。オレはこういった建築物を観るのも好きですけど」
「自然が生み出す美しさに比べたら人間が作るものなんて大したことない。でも」
 それから顎を上げて、じいっと門の彫刻を見つめた。508体の彫刻の上を亜麻色の瞳が撫でていく。青木も釣られて、門を見上げた。
「此処でそんなことを言うやつは想像力がないんだ。どれだけの苦労を重ねて彼らがこれを造ったのか。考えたら、とてもそんなことは言えない」
 薪らしいと思った。薪は我儘だけど、常識人でちゃんとTPOを考える。根は真面目なのだ。

 混み合っているおかげで、彫刻を堪能する時間は充分にあった。流れに乗って門を潜り、そこで皆がするように振り返る。目的は、もちろん逆さ柱だ。
「『建物は完成した瞬間から崩壊が始まる』て言われてて、それで逆につけたんですよね」
「そうだけど、門にそれを施すのは珍しい。門にはもともと魔を通さない役目があって、ほら、この門にも正面に鬼神が彫られてただろ?」
 確かに、ものすごく怖い顔をした鬼がこちらを親の仇みたいに睨んでいた。眼がギョロッとして、青木は五課の脇田課長を思い出したくらいだ。
「あの鬼神で払いきれない大きな魔が訪れた時には、門は自ら壊れてそれを滅するんだ。逆さ柱に縛られて、この門は肝心な時に役目を果たせない。本末転倒だ。つまり、この逆さ柱は建造物の永続性を願ったわけじゃなくて、この門が美しすぎて災厄を引き寄せると人々に思われてしまったから付けられたんだ」
「美しすぎて……災いを……」
「魔よけのために作られたのに、逆に魔を呼ぶと懸念されて逆さに柱を付けられたとき。この門はどんな気持ちだったんだろう」
 門に同情するように、薪は呟いた。

 本人の好みとは関係のないところで、この門は薪に似ている。見る者の魂を奪う絶対的な美しさ。彼自身は何も思う所はないのに、その美しさが魔を呼ぶと人に言われる。事実、薪の美に魅入られた者たちは次々と道を誤って行く。多分最初の頃は、青木もそう思われていた。彼の殺人鬼と同じように、自分が青木を惑わしてしまったのかと悩んだに違いない。きっと薪は自分とこの門の境遇に共通点を見つけて、やるせない思いでその絢爛さを見つめていたのだ。

 掛ける言葉が見つからなくて、青木は口ごもる。そのまま俯いてしまった青木に、薪は笑って、
「信じたのか?」と意地悪そうに言った。
「ウソに決まってるだろ、バカ」
 ぽかんと口を開ける青木を尻目に、薪はくるりと踵を返した。
「おまえの言うとおり、逆さ柱の意味は建造物の崩壊を避けるおまじないだ。門が魔物と心中するわけないだろ。門が壊れたら小物の妖怪まで入り放題じゃないか」
 肩を揺らしながら嘲笑う、細い背中を追いかける。自分の取り越し苦労に気付いて、本当は全然そんなことは思わなかったのだけれど、青木は薪を非難した。
「ヒドイですよ。どうしてそんな嘘つくんですか」
「バカをからかうのは楽しい」
「もう。薪さんの話が本当だったら、この門、今の瞬間に崩れてますね」
「あ? なんだ、僕がアクマだとか言いたいのか」
「よく言われてますよね。太夫さんに」
 太夫とは被疑者のことだ。周りに一般人がたくさんいる場合、彼らのことをこう呼んだりする。
「大した根性も信念も持たずに法を犯すことの愚かさを、頭の悪い連中にも解るように噛み砕いて説明してやってるだけだ」

 何年か前、捜二からの協力要請で取調べを手伝ったことがある。詐欺師の学校なるものを摘発したときだ。信じがたい事に、犯人グループは詐欺の仕方を授業形式で教えていたのだ。主犯格たる経営陣の取り調べは二課の人間が行うとして、問題は生徒として登録されていた300名を超える詐欺師の卵たちだ。とても課だけでは捌き切れず他の課に応援を頼んだのだが、元二課の小池を通して第九にもお鉢が回ってきた。
 薪は犯罪者には容赦しない。そのことを青木が知ったのはその時だ。
「でも言葉には気を付けないと。身体に危害を加えなくても、威圧的な言葉で怒鳴ったりしたら強制的に歌わせたことになっちゃうんですから。それを理由に法廷で自白を覆されたりしたら」
「そんなことをしたら死ぬより怖い目に遭わせてやると言い聞かせてあるから大丈夫だ」
「だから脅しちゃダメなんですってば」
 犯罪者に人権なんかないと言い切る、そんなだから彼はいつまでも自分を赦せないのだと青木は思う。

「脅すなんて人聞きの悪い。丁重にお願いしてるんだ」
「じゃあどうして皆さん、オレの顔を見た途端『助けてください』って飛びついてきたんですか?」
 いったい何をされたらああなるのか、取調室に青木が赴くと、それまで薪と向き合っていた犯罪者の多くは青木の後ろに隠れてしまう。そのことを指摘すると、薪は肩を竦めて、
「さあ。悪い夢でも見たんじゃないか」
 と他人事のように言ってのけた。まったく、薪のツラの皮は鋼鉄でできている。

 青木には薪のような取調べの仕方はできない。というか、取調べそのものが苦手だ。犯罪者には犯罪を起こすに至った彼らなりの理由があって、それは時として涙を禁じ得ないほど悲しい物語だったりする。同情心の強い青木のこと、ついつい可哀想になって調書が甘くなる。問題は、その8割が作り話である、という事実だ。「交代だ」と言われて薪と席を替わった5分後には、彼らは何かに取りつかれたように本当のことを話し出す。その際、幼少期に死んだはずの父親は生き返り、男を作って出て行ったはずの母親と慎ましく暮らしていたりするのだ。
 鬼神の代わりに取調室仕様の薪の顔を置いておけば如何なる魔物も寄り付かないのではないかと青木は思い、その代わり、自分にとっては日暮しどころか人生そのものが暮れ落ちるまで門の前から動けなくなるかもしれないと、洒落にならない冗談を考えた。

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夢のあとさき(1)

 おはようございます!
 今日は銀魂観に行くんだー、と楽しみにしてたら5時半に目が覚めました。(子供か) 時間ができたので更新しますー。


 お約束の日光東照宮SSです。 て、そこがメインじゃないんですケド。
 いつものように「薪さんと青木さんのらぶらぶデート♪」と思いながら書き始めていつものように違うものになりました。毎度毎度すみませんです。
 鈴薪さんなら計画通りに書けるんですけど、青薪さんだとズレる傾向が強いです。青薪脳がぎゃーぎゃー騒いで第一の脳の邪魔をするからだと思います。ほんと迷惑。
 
 





夢のあとさき(1)






 薪がぽつりと呟いた。

「42」

 それが何の数字か最初は分からなかったけれど、すぐに理解した。だから青木はグラフィックボードの強化について解説されているページに付箋を貼り、本をテーブルの上に置いて、薪に提案したのだ。
「次の休みに神社へ行きましょう」
「神社?」
 ソファを背もたれ代わりに床に胡坐をかいた薪は、大きな眼を無垢に開いて青木を見上げた。いきなり何だ、と彼が首を傾げるのは予測済みだった。

「薪さん、厄年でしょう。お祓いに行かないと」
 青木が大真面目に言うのに、薪はひらひらと手を振って、
「迷信だろ、あんなの」
 薪は信心深い人間ではない。それも承知の上だ。説得方法は考えてある。
「オレも若い頃はそう思ってたんですけど身近な実例があってですね。オレの叔父さん、まだ50になったばかりなのに帽子以外の被り物が手放せない人なんですけど、なんと42歳から急速に風化が進んだそうなんです」
 と、青木は実家の近くに住んでいる叔父の話を持ち出し、
「聞いたら、厄落としに行かなかったって」
「おまえの叔父さんの話だろ。厄祓いが必要なのは僕じゃなくておまえじゃないのか」

「落とすのにお金を使うよりも植えるのに使った方が賢明だと思うけど」とシビアに切返す薪の冷たい視線をものともせず、青木はリビングのサイドボードから菓子折りサイズの箱を取り出した。蓋を開ければそこに広がるのは、その9割が計画倒れになった青木の夢。なんてことはない、観光地のパンフレットだ。

 青木はその一つを取り出し、薪に向けて開いた。A4サイズの限られたスペースに、美しさを競い合うように並べられた数枚の写真のうちの一枚を指差して、
「厄落としの後は滝を観に行きましょう。水と一緒に厄も流そうってことで」
「おい」
「この時季だと高原もいいですね。ニッコウキスゲ満開ですって」
 スマートフォンのWEB画面を薪に見せると、険しかった薪の眉間がすうっと開かれた。若草色の絨毯の上に広がるゼンテイカ(ニッコウキスゲ)のやや赤みがかった黄色。広々とした草原は、薪が好む勝景のひとつだ。

「このホテルのビーフシチュー、一度でいいから食べてみたかったんですよねえ」
「僕の厄落としにかこつけて、自分が遊びたいだけだろ」
 近郊グルメのページを眺める青木に薪は苦笑し、ソファに寄りかかった。面倒そうに青木が持ち出したパンフレットに手を伸ばし、だが彼の口角はわずかに持ち上がっている。ここで切り札。
「立ち寄りの露天風呂は野趣。源泉かけ流しだそうです」

 青木の言葉を聞き流している風を装っても、亜麻色の瞳の輝きがそれを裏切る。青木は余裕で彼の応えを待った。やがて薪は青木のスマートフォンを我が物顔で操りながら、
「東照宮は文化財としての価値も高く、国宝8棟、重要文化財34棟。世界遺産にも登録されている。日本人なら一度は見ておくべきかもしれないな」
 文化人を気取って見せるけど、薪が熱心に見ているのは温泉情報と地酒の特集ページだ。時間さえ取れれば泊まりたいと言い出すに違いない。
 新緑に囲まれた温泉の湯気が漂ってきそうな画面に、無意識に身を乗り出す薪の横で、青木は箱の中から温泉宿の情報誌を取り出した。



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ミッション(4)

 辻褄合わせの雑文、これでおしまいです。 つまんないもの読ませちゃってゴメンナサイ。 
 次の本編はこれよか幾らかマシだと思います。 よろしくです。






ミッション(4)





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ミッション(3)

 ただいまですー。
 無事に帰って参りました。
 旅行先の海は濃霧がすごくって、せっかくのオーシャンビューが真っ白でした。 悔しかったので青薪さんのプールネタを考えました。 今度書くー。


 で、こちらの続きですね~。
 今さらですが、なんでこんな頓狂な話を書いたのかようやく思い出しました。
「消せない罪」で青木さんが薪さんをレイプしたって思ってたことを薪さんが知って、じゃあ何とかしたろってんで男爵脳が動いたんでした。 2年も経つと忘れちゃうねえ。


 ここからRなので追記からお願いします。




ミッション(3)


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ミッション(2)

 3連休ですね。
 みなさん、いかが過ごされますか?

 わたしはお義母さんのお伴で温泉行ってきます。
 帰りは月曜日になるので、次の更新は来週の火曜日です。 よろしくですー。






ミッション(2)






 始まりは、一本のメールだった。

『今夜は忘れられない夜にしたい。18:00に家で待っている』

 スペシャルな夜を予感させる文面に、青木は背筋が震えるような感覚を味わった。薪からこんなロマンチックなメールが届いたのは初めてだったからだ。
 薪からのお誘いメールは実にシンプルで、その書式は『帰宅(又は在宅)予定 ○○:○○』というものだ。丸の中の数字が変わるだけで手紙といえるものではない。たまに買ってきて欲しいもののリストが追記されていることはあるが、それだって「米」「味噌」「ミネラルウォーター」という具合に品名が連なっているだけだ。業務連絡だってここまで味気なくはない。
 そんな薪が、『忘れられない夜にしたい』なんて。
 彼にどんな心境の変化があったのかは不明だが、きっと今夜はとびきりのサプライズが待っているに違いない。逸る心を抱えて、青木は彼のマンションへと急いだ。
 天にも昇る心地で彼の部屋のチャイムを押すと、薪は直ぐに出てきて青木を中に招き入れ、ニッコリと笑って青木を地獄に突き落とした。

「これまでのことは無かったことにしてくれ」
 あまりにも突然で、咄嗟には言葉が出なかった。『忘れられない夜』ってこういう意味?
 薪が自分にサプライズを用意しているとは思っていたが、それが別れ話だなんて。予想もしなかった。別離を言い渡された理由に、心当たりはまるでなかった。

「どうしてですか」
 声が震えないように気を付けたつもりだったが、やっぱり語尾が揺れてしまった。青木の視界は薄暗く曇り、立っているのが精一杯だった。
 実際に貧血を起こしそうな青木に畳み掛けるように、薪は非情に言葉を継いだ。
「ずっと後悔してた。だから全部忘れて欲しい」
 後悔――。
 薪は、自分とこういう関係になったことを後悔していたのか。
 たしかに今まで良いことばかりじゃなかった、ケンカもすれ違いもたくさんあった。でも青木はそれで薪と別れようなんて思ったことは一度も無いし、こうして彼との関係が続いている限りすべてが大切な思い出で、忘れるなんてできるはずがない。

「そんなの、無理です」
 青木が辛そうに首を振ると、薪は上目遣いに青木を見上げて、
「おまえの気持ちも分かるけど。僕だって考えに考えた上での提案なんだ。聞き分けて欲しい」
 直情型の青木と違って、薪は物事を広い視野で考えるタイプだ。恋人関係においては相手と自分の気持ちが一番大事だと青木は思うが、薪は周囲の人間に与える影響や仕事のこと将来のこと、とにかく色々なことを考えてしまう。その結果、別の道を歩んだ方がお互いのためになると判断したのだろう。

「どうしてもダメか?」
 困惑した薪の表情に、青木は心が張り裂けそうになる。
 恋人に別れを切り出されて、嫌だとダダを捏ねられるほど青木も子供ではない。同性の恋人を持つことの危険性もデメリットも、嫌と言うほど分かっている。薪が尊敬している上司に自分たちの関係を否定されてさんざん悩んでいることも知っているし、もっと現実的なことを挙げれば、薪ほどの天才が自分の遺伝子をこの世に残さないなんて世界的な損失だと思う。
 何よりも、薪がそう決心したのなら。
 自分の想いは二の次だ。彼の意向に副うよう、彼の憂いを増やさぬよう。薪が新しい幸せを見つけてくれるならそれは自分の幸せでもあると、泣き叫ぶ心を必死になだめ、青木は小さく頷いた。

「……わかりました。薪さんが、そう望むなら」
「そうか!」
 薪はパッと明るい笑顔になって、青木の手を取った。
「良かった。これは僕一人じゃできないミッションだからな」
 相変わらず勝手なひとだ。一方的に別れを切り出しておいて、自分一人じゃできないって、意味が分からない。
 それになんなんだ、この異様に明るい笑顔は。
 思ったよりすんなり別れられて、薪は嬉しいのかもしれない。でもここは嘘でもいいから寂しそうな顔をするとか、苦渋の決断だったと辛そうな顔をして見せるのが3年も付き合った恋人に対する思いやりってもんじゃないのか。
 くそ、あんなに簡単に頷いてやるんじゃなかった、などと遅すぎる反発心を抱えながらも薪の笑った顔はやっぱりかわいいと彼に見惚れている自分がいて、本当にどうしようもないのは自分自身だと青木は悟る。
 恨むだけ無駄だ。自分は、骨の髄までこのひとに溶かされてしまっているのだから。

「じゃあ今から始めるぞ」
 明らかに浮き浮きした口調で、薪は青木に笑いかけた。まるで水族館のイルカショーを見ているときのようなはしゃいだ表情で、青木の首に両腕を回してくる。
 始めるって何を、と訊こうとした青木の唇に、薪の細い指が当てられた。人差し指1本で青木の唇を封じた薪は、いつになく大人っぽく微笑んで、
「そんなに緊張しなくていい。僕に任せておけば大丈夫だから」
 ……なにを?
「食事の用意ができてる」
 ……お別れ会ですか?
「おまえの気持ちも分かるけど、何か腹に入れておいたほうがリラックスできるぞ」
 振られ男にリラックスもクソもあったもんじゃないんですけど。
 って、なんか違う。これは違う、別れ話じゃない。きっと自分はとんでもない勘違いをしている。そして多分薪は突拍子もないことを考えている。

 青木のその予感は、食事とシャワーを終え、薪に手を引かれて寝室のドアをくぐったとき確信に変わった。
 暖かな色合いの間接照明に浮かんだベッドの上に、チューリップの花束が置いてあった。薪から差し出されたそれを受け取って、青木はその可愛らしい花の中に隠された危険物を見つけ出す。小さい正方形の、周囲がギザギザになったカラフルなアルミの袋に密閉された、これはそのいわゆる大人のアイテム。
 絶対に最後の思い出とかじゃない。別れのエッチでこんな茶目っ気のあることができるほど、薪は恋愛慣れしていない。

 取り上げた花束の代わりに青木をベッドに座らせると、薪は青木のパジャマのボタンを外し始めた。いまひとつ真意はつかめないが、それでも薪が何をしようとしているのかは分かったので、いつもするように青木も彼のボタンを外そうと手を伸ばした。
 しかしその手は薪の右手に制された。
「焦らなくていいから」
 いや、別に焦ってませんけど。
「大丈夫。僕に任せろ」
 任せるも何も、薪さんいつも『好きにして』状態じゃ。
「誰だって初めてのときは緊張するだろうけど。僕を信じて」
「初めてって、何がですか?」
 その一言が、今宵の魔法を一瞬で消し去る反魂の呪文だった。

「せっかくここまで運んだのにっ! 台無しだ!」
 薪はピタリと手を止め、それまでの穏やかな微笑を消し去って、
「おまえのせいだぞ、青木!」
 あ、元に戻った。
「すみません、ちょっと詳しく説明してもらえないですか? 薪さんが何をしようとしているのか、オレにはさっぱり」
 何時間もの苦労を水泡に帰された腹立ちから、薪は投げやりな動作で床に胡坐をかき、身体を斜めにして、右ひざの上に肘を当てて頬杖をついた。
 うん、完全にいつもの薪さんだな。

「さっき説明しただろ。おまえ、納得してたじゃないか」
「何をですか?」
「これまでのことは忘れてくれって言ったら、分かりましたって頷いただろ」
 推理ドラマで名探偵が犯人を言い当てるときのように鋭く指差されて、青木は薪の言葉をしっかり理解しようと努める。
『これまでのことは忘れてくれ』、それは確かに聞いた、聞いて頷いた。それで?

「だから、今おまえは僕と付き合い始める前ってことだ」
 …………はい?
「要するに、今夜が初めてなんだ」
 そうなるのか!? 
 わからない、やっぱり薪の考えることは全然わからない!!

 ぐるぐると渦巻く疑問符が、青木の身体中を埋め尽くしている。頭の中だけじゃなくて文字通り身体中、耳の穴どころか爪の間からさえクエスチョンマークがぽわわんと浮かび上がりそうだ。
 しかし、青木は腐っても第九の捜査官。考えろ、推理しろ、薪の言動のどこかに謎を解く鍵は隠されているはず……いや、聞いたほうが早い。薪の思考経路は常人には理解できないし、青木の推測など一度も当たった試しがない。逆に思い違いをして余計なことになるのがオチだ。

「どうして今更こんな」
「どうしてって」
 怠慢にも考えるという捜査官にとって不可欠の作業を放り出して青木が疑問を口にすると、薪はそれを咎めるでもなく、頬杖を外して口を開いた。
「ずっと後悔してたって言っただろ。おまえに悪いことしたって」
 胡坐の形に広げていた両膝を立てて細い腕を回し、小学生が体育の授業のときに体育館の床に座るような体勢になると、小さな顎を膝頭につけて、薪はベッドに座ったままの青木を見上げた。

「あの時おまえ、すっごく期待してただろ」
 3年も前の、でも決して忘れられないあの夜のことを薪が口端に上らせれば、その時の自分の切羽詰った心理状態が消しようのない罪の意識と共に浮き彫りになってくる。あの件については100%青木が悪いのだから薪に恨まれていても仕方ないと思っていたのに、申し訳なさそうにしているのは何故か薪のほうだ。
「僕が年上だから、上手に導いてくれるって信じてただろ。それがあんなことになっちゃって……ずっと悪いことしたと思ってたんだ」
「悪いことしたのはオレのほうで」
 青木が謝罪しようとすると、薪は細い首を左右に振って、青木の言葉を遮った。
「僕が正直に言えばよかったんだ。年は上だけど経験は少ないって。スムーズにできる自信はないって。だけどそんなこと言うの照れ臭かったし。見栄もあって」
 そう言えば、と青木は当時の彼の矛盾を思い出す。
 薪は『僕がリードするから』とか言ってたけど、あれはリードとは言わない。青木は年上の女性とばかり付き合ってきたからよく分かっているが、彼女たちは青木の手を取って自分の身体に触れさせたり、自らの局部を押し付ける仕草によって、時には具体的な言葉まで用いて、青木に自分の身体が青木を受け入れる準備をさせる。だけどあの時の薪にはそういった行為が一切なくて、ちゃんとほぐさなきゃいけないとか慣らしてからじゃないと怪我をするとか、そういう大事なことをぜんぜん教えてくれなかった。勿論、勉強していかなかった青木が一番悪いのだが、薪のリードと言う言葉に青木が誤解させられたのも事実だ。

「だから、初夜のやり直しをしてやろうかと」

 ……何を考えているんだろう、この人は。
 そんなことをしても過去が変わるわけじゃない。自分が薪を傷つけた罪は消えない。青木はそう思ったが、すぐに考え直した。
 薪が年上らしくリードしてくれる、そんなベッドも楽しいかもしれない、てか絶対に楽しい。薪は恥ずかしがり屋で、なかなか自分から積極的に動いてくれないのだが、こういうシチュなら攻めの彼が見られるはず。

「ぜひっ! 是非お願いしますっ!!」
 青木はパッと床に膝をつき、薪の方へ身を乗り出して叫んだ。
「最初から素直にそう言えばいいんだ」
 最初からそう説明してくれれば良かったんです、などと思ったことを口に出すような愚行は犯さない。青木は黙って薪の肩に手を伸ばした。

「じゃあ仕切り直すぞ。まずはメールを」
 ……そこからですか。



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ミッション(1)

 予告のお話の前に雑文をひとつ。

 これ書いたの2年以上前なんですけど、あまりにもくだらない内容なのでお蔵入りにしておいたら、次の東照宮SSの中にこの話がないと何のことやらな部分があって、仕方ないので引っ張り出してきました。
 そんな経緯なのであんまりデキのいい話じゃないです、すみません。 しかもRなので、苦手な方には二重にすみませんです。 どうか広いお心で。




 
ミッション(1)






 
 薪が、またおかしなことを始めた。
 
 牛ヒレのカットステーキを口に運びながら、青木は疑問が顔に出ないように注意して向かいの席を見た。
 青木の恋人はダイニングテーブルの下で優雅に足を組み、シャンパングラスを傾けている。こくりと白い喉を鳴らし、取り澄ました顔でグラスをテーブルに置くと、青木の視線に気づいてにっこりと笑った。
 ……悪寒がする。
 いや、視覚的に気持ち悪いわけじゃなくて。

 自分の恋人の自慢になってしまうから出来る限り控え目に言うと、薪はこの世で一番可愛くて美しい。断っておくが、これはふざけている訳ではなくて、本気で控え目に表現しているのだ。
 遠慮なしに言わせてもらうなら、疑うべくもなく宇宙一。さらに本音を言わせてもらえば、この世が始まってから滅亡するまでの間に、彼以上の美しい生物は生まれ得ないと断言できる。彼を見た後では、世界三大美女ですらただのおばさんに見える。
 勿論これは青木の主観であって、一般論とは大きく隔たりがあるが、青木の中では紛れもない真実だ。そうでなければ、このややこしい性格の男を恋人にしたいなんて思わないだろう。

「美味いか?」
「あ、はい。とっても美味しいです」
 これは青木の主観ではない。薪の料理の腕前はプロ級だ。彼の料理が舌に合わなかったと言う人間には、未だお目にかかったことがない。
「良かったら、僕の分も食べるか?」
 やさしそうに微笑んで、薪は自分の皿を青木の方へ差し出した。
 ――気持ち悪い!

 薪は意外とやさしい、でもそれは表面に現れることは滅多となく、ましてや言葉に表れることは絶対に無い。態度はぶっきらぼうだし言葉は乱暴だし、何か余計なことを言わないと気が済まない性格だし。こういう場合は「そんなに意地汚くしてると、そのうち餓鬼に取り付かれるぞ」なんて嫌味の一つも添えるのが普通だ。
 あまりにも普段と違う薪の態度に、青木は薄ら寒さを覚える。これまでの経験が教えてくれる、このひとが自分にやさしくしてくれるときは、必ず裏に何かあるのだ。

「どうした?」
「いえ。なんか、胸がいっぱいで」
 遠まわしに薪の好意を断ると、薪はこの上なく美しく微笑んで、
「遠慮しないで。君のために作ったんだ。たくさん食べなさい」
『君』? 『食べなさい』……?
 言葉遣いまでヘンなんですけど!! 絶対になんか企んでるよ、このひと!

 薪は、こんな喋り方はしない。青木のことは『おまえ』もしくは『バカ』と呼ぶ。職場でも家でも丁寧語なんか使われたことがない。青木は部下だし、それが普通だと思っていたが、こうしてデスマス調で話されると想像を絶する気持ち悪さだ。どうしてだか夢中で謝りたくなってきた。
 だいたい薪が自宅でシャンパンなんて、何かの記念日でもなければありえない。床に胡坐で日本酒がこのひとの飲酒スタイルだ。それは確かに薪の見た目を甚だしく裏切って、でも見慣れるとこの上なく可愛くて、青木は薪のそんな姿を見るのがとても楽しみだった。
 今、目の前にいる薪は優雅で穏やかで、その麗しい外見からもたらされるイメージを髪の毛一筋も損ねることなく完璧に振舞っている。それは神が造りたもうた奇蹟のような彼の造形にはとても相応しい所作だと思うし、政界の重鎮とも会合を持つ立場にある彼には、必要欠くべからざる技能のひとつだ。

 でも、今はプライベイト。
 堅苦しい職務の反動か、家にいるときは自堕落一歩手前までリラックスする、そんな薪を知っている青木に迫ってくるのは、圧倒的な違和感。吐き気がするくらい気味が悪い。何だか肉の味が分からなくなってきた。

 居心地の悪い食卓を早く離れたくて、青木は薪にもらった肉を急いで頬張る。その様子を薪は、穏やかな瞳でじっと見守っていた。



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ランクS(14)

 最終章ですー。
 読んでくださってありがとうございました。(^^





ランクS(14)






「やっぱり途中で帰ってきちゃったか。薪くんにも困ったもんだねえ」
 ソファにふんぞり返って書類をめくりつつ、中園はヘラヘラと笑った。腹が立ったが、小野田はそれを飲み込んだ。過ぎたことを言い争っても仕方がない。

「僕の言った通りになっただろ」
 計画が失敗に終わったのに、どうしてこの男は満足そうなのだろう。小野田がこんなにがっかりしているのに、人の気持ちの分からない男だ。
「別に問題はないだろう。フォーラムは予想以上の成功を収めた。フランス警察からご丁寧な礼状も来ている。それに、薪くんは仕事を途中で放り出したわけじゃない。自分の仕事が全部終わって、やることが無くなったから帰ってきたんだ」
「結果的には同じことだろ」
「青木くんだって全然変わってないじゃない! 何が自分から身を引くだよ!」
 遂にキレて、小野田は叫んだ。中園の横柄な態度も危機感の無い表情も許せなかった。自分の立てた作戦が失敗したのに謝りもしないで、この男の辞書には反省と言う文字が無いのか。

「引くどころか押せ押せで、プロジェクトにまで手を出して。彼、フランス語ができない宇野君のために通訳をしてたんだよ。宇野君から送られてきた書類を翻訳してメールで送り返して、宇野君が作った意見書をフランス語に訳してメールして。その分、薪くんは自分の仕事に集中できた。予定が繰り上がるわけだよっ」
「それって悪いことなの?」
 中園の質問は尤もだと思うが素直に答えたくない、ていうか、そこは突っ込まないでくれよ!!

 計画が頓挫した根本的な理由はそこではない。スムーズに仕事が運び過ぎた、それ以前の問題だ。
「離れてたのはたったの3ヶ月。それも事件捜査じゃないから薪くんはヒマを持てあましてメールも電話もし放題、その上トゥーサンだの休戦記念日だのでチーム全体が休みになるもんだから週末ごとに帰国して、比べてみたら日本にいるときよりもデートの回数は増えたよねって、落語のオチじゃないんだよ?!」
 こんなことなら日本に、自分の手元に置いておけばよかった。その方がずっと彼らを牽制することができた。
「喚くなよ、みっともない。そんなに怒るなら、どうして国際フォーラムに青木くんの同行を許したんだよ」
「仕方ないだろ。薪くん、フランスに着いたその日に、知らない男に空港の個室トイレに2回も連れ込まれたって宇野くんが」
「……予想の遥か上を行くねえ」
 襲われキャラもここまで徹底すると見事だ。

「僕としては、バージョンアップのプログラムを各国に無償提供することの方が問題だと思うね。代価は求めるべきだよ。開発にだってそれなりの金が掛かってるんだ。どこかで回収しなきゃ」
「金なんかよりもっといいもので返ってくる。薪くんはそう思ってるみたいだよ」
「信用とか友好的な捜査協力とか? バカだな、外国からのそんなものを得るより、実質的に国益をあげて財務省に恩を売るほうがよっぽど」
「中園。それは警察の仕事じゃないよ」
 中園が小野田の答えに納得していないことは一目瞭然だったが、彼はひとまず口を噤んだ。公式発表してしまったことをとやかく言っても始まらない。彼の賢明さに満足を覚えながら、小野田は彼にだけ吐ける弱音を吐いた。

「問題はあの二人だよ。どうしたらいいものか」
「そんなに腐るなよ。この次はもっと上手く行くさ」
 嘯く中園を、小野田はじっとりと見つめた。小野田が目を細めると善人を絵に描いたような笑顔になるのだが、中園に対してだけは例外で、心の中と同じ不機嫌な顔になる。
「大丈夫だよ。薪くんのデータも青木くんのデータも、完璧だということが証明された。次は僕も本気を出すから」
 中園の瞳が冷たく光ったのを見て、小野田は嫌な予感に襲われた。かつて中園があの眼をした時、小野田の政敵たちは一人また一人と姿を消して行った。スキャンダルがマスコミを賑わせたり、過去のミスが取り沙汰されたり、家族の軽犯罪が暴かれたり。その度に小野田は権力の階段を一歩ずつ昇ってきた。彼らの失脚の形は様々で、発覚の仕方に共通点は無かった。その騒ぎの何処にも中園の姿はなかったが、薄々は気付いていた。
 でも、言わなかった。彼の暗躍なくして、自分が上に昇れないことは分かっていた。

「中園。薪くんは敵じゃないよ?」
「分かってるよ、そんなこと」
 何を今更、と中園は呆れたように笑い、読み終えた書類を抱えて席を立った。
「恐れながら官房長に進言いたします。この程度の書類にタイプミスが5箇所。あの秘書は替えたほうがよろしいかと」
「おまえに任せるよ」
 ありがとうございます、と中園は慇懃無礼に頭を下げ、官房室を出て行った。不利益になると判断すれば容赦なく切り捨てる。中園の人事評価の辛さは相変わらずだ。

 彼の評価基準は仕事ができるかできないかと言うよりも、小野田の役に立つか立たないかだ。小野田の足を引っ張ると判断すれば、例え相手が薪でも――。

 悪い予感を打ち消すように、小野田は首を振った。
 薪を自分の後継者にすることは、10年以上前からの決め事だ。旧第九が壊滅したことで遠回りせざるを得なかったが、この春ようやく、薪は官房室の一員になった。ここまで来てそれを壊すような真似は、いくら中園でもするまい。

 小野田の都合の良いように政敵が消え去ったとき、その疑惑を飲み込んだように。小野田は今回も沈黙を守ることにした。
 書類に目を戻した小野田の背後の窓の外では、2065年の春一番が吹き荒れていた。



―了―



(2013.4)



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ランクS(13)

ランクS(13)





 それから半年後、MRI捜査国際フォーラムは大成功を収めた。
 MRI捜査に関しては後進国のフランスが堂々たるホスト役を務め上げたことについて、日本からのアドバイザーの力が大きかったことは言うまでもない。それは衆目が認めるところで、しかし決して日本代表の警視長はそのことに言及しなかった。日本人らしい奥床しさは、フランス警察の好意を得ることにつながった。フランス司法警察と日本警察は、この機会に友好な関係を築けたと言ってよかった。

 企画に寄与した事実の代わりに彼がフォーラムで発表したのは、自国が独自に開発を進めたテクノロジーに関する具体的な成果だった。モニター画面の分割やデータ伝送時間の短縮、情報過多による負荷への機械的な対応、オーバーフロー時の自動バックアップ機能など、捜査を効率的に進めるために不可欠な、それでいて往々にして縁の下に隠れがちなそれらに焦点を当てたトピックは、参加者たちの耳目を強力に引き付けた。
 彼の隣にはその開発に携わった技師の姿があり、質問は彼に集中した。日本代表である法医第九研究室室長は、その瞬間から優秀な通訳者になった。技師に質問の内容を伝え、質問者にはその国の言葉で解答を示した。解答は多くの専門用語を必要としたが、彼の答えは的確で、しかもとても分かりやすかった。

 彼らはその功績を、日本の専売特許にする心算はなかった。世界全体のMRI捜査の発展のために、プログラムとノウハウを無償で提供すると宣言した。それに伴うハードの開発はそれぞれの国に任せるより他なかったが、ソフト部分の協力は惜しまないと、徳人の態度を貫いた。
 結果、彼らはフォーラムに集った国々の賞賛を一身に浴びることになり、お株を奪われたフランスがへそを曲げるかと思いきや、フランスのMRI捜査関係者はすでに、揃いも揃って日本代表に骨抜きになっていた。会場に沸き起こった拍手の中で、最も強く手を叩いていたのは彼らだったのだ。

「ツヨシ! トレビアン!」
「メルシ、ちょ、ムッシュ、ヘンなとこ触らないでください」
 フォーラムが無事終了し、控え室に戻った薪を追いかけるようにしてやってきたフランス代表の中年男性が、賞賛の声と共に浴びせた熱い抱擁とベーゼをかいくぐり、薪は彼と距離を取った。姿勢を低くして身構える。この国は本当に、ちょっと気を抜くと大変なことになる。着いたその日に空港のトイレに2回も連れ込まれたなんて、青木に知られたらどんな目に遭わされるか。

「また投げられたいんですか、ジャン」
 綺麗なフランス語に無数の棘を含ませて、薪は彼のスキンシップを拒否した。男は薪とは対照的に砕いた母国語で、
「いいじゃない。久しぶりに会えて嬉しいんだよ」
 ジャンと呼ばれた男は悪気のない笑顔で薪を宥め、降参の印に小さく両手を上げた。

 執行委員長の彼とは、共に協力し合って準備を進めた。フランスの威信を掛けたコンベンションの責任者に抜擢されるだけあって、優秀な男だった。リーダーに相応しい人望と、他人を惹き付ける人間的な魅力を併せ持っていた。
 彼は語学に堪能で、各国のMRI捜査関係者とも連絡を取り合える立場にいた。よって、招待客とメンバーの調整は彼に任せて、薪は技術的な討議内容の雛型のみを作成すれば良かった。それは薪にとっては簡単で、他の委員たちには申し訳ないが退屈な仕事だった。

「準備期間半年の予定を3ヶ月で終わらせて帰国したときには、日本人はなんて人生の楽しみ方を知らない人種なんだろうと思ったよ」
「それは偏見です。仕事でも何でも、時間さえ掛ければいいってものじゃない。日本人は、限られた時間内で人生を楽しむ術を知っているんです。それに」
 感謝と親しみを込めて、薪は微笑んだ。
「僕は自分の国が好きなんです。あなたもそうでしょう?」
 フランス国民の誇り高さは知っている。彼らは何でも自国が一番にならないと気が済まない。彼らのヨーロッパ至上主義には辟易するが、その為に努力を惜しまない姿勢は称賛に値する。

「まさか、懇親会にも出ないで真っ直ぐ日本へ帰るとか言うんじゃないだろうね?」
「今日はお付き合いしますよ。日本から優秀なボディガードを連れて来てますから」
 薪は上着を脱いで、後ろにいた背の高い男に手渡した。振り返りもせず、男の顔を見ることもしなかった。
「彼は僕に触れる者を許しません。どうか御身を大切に」
「彼は君の?」
 青木とは初対面に近いのに、一瞬で自分たちの関係を見抜く彼らの恋愛スキルの高さには脱帽する。ジュティームだのアムールだのと日常的に口にできる国民性はどうしても馴染めないと思っていたが、あれは常日頃からその方面の鍛錬を積んでいるのかもしれない。

「oui」
 ジャンへの牽制もあって、薪は素直に彼の言うことを認めた。
「この事は他言無用です。日本はまだまだその手のことには保守的なんです」
「そうなのかい? 呆れた後進国だね。MRI捜査はあんなに進んでるのに」

 薪の背広をハンガーに掛ける青木の背中を薪が苦笑交じりに見やったとき、ドアが勢いよく開いて宇野が飛び込んできた。
「青木、通訳頼む。英語ならともかく、他はちんぷんかんぷんだ」
 天才技師として紹介された宇野は、他国の技術者の質問攻めにあったらしい。システムに関することで自分に答えられない質問はないと自負する宇野だが、質問の意味が分からなければ答えようがないだろう。
「日常会話なら何とかなりますけど、ITの専門用語になるとちょっと」
 自信が無さそうな青木の様子に、ならば僕が、と言い掛けた薪を制して、ジャンは一歩前に進んだ。薪と宇野の間に自分の身体を滑り込ませて、困難な役目を買って出た。

「ムッシュ宇野。通訳なら僕がやろう」
 ジャンは、参加国すべての言葉に精通している。彼が責任者に選ばれた理由も、その言語能力と交渉術を買われてのことだった。
「では、僕たちはレセプションパーティの準備の手伝いに」
「ノンノン! ツヨシ、この件に関しては君は遠慮してくれ。我が国のエクセレントな演出を、ジャパニーズ・OYAJIの感性でぶち壊されるのはごめんだ」
 強い口調で薪の協力を拒むと、ジャンはニヤッと笑って、
「パーティまでは2時間くらいある。限られた時間を有効に使って人生を楽しむ日本人の技ってのを、ぜひ見せて欲しいね」
 ウインクした片目にある種の情感を仄めかせ、ジャンは宇野の背中を押すようにして控室を出て行った。要は冷やかされたのだが、鈍い青木には伝わらなかったらしい。チッ、と舌打ちした薪を不思議そうに見ていたからだ。

「ジャパニーズオヤジの感性とか言われてましたけど。何かあったんですか?」
「レセプションパーティの演出プランについての会議でさ、日本の宴会の伝統芸を聞かれてドジョウ掬いを紹介したんだ。それ以来、何故かレセプション関係のミーティングには呼んでもらえなくなって」
 呆れた顔をする青木に、薪は言い訳がましく、
「腹踊りよりは品がいいと思ったんだ」と肩を竦めた。腕を回したら、肩がパキッと音を立てた。相当凝っている。自分ではそれほど意識していなかったが、かなりのストレスが掛かっていたらしい。

「そうですね。ドジョウ掬いは場が盛り上がりますしね。オレはいいと思いますよ」
「だろう?」
 軽く頷きながら、薪はソファに腰を下ろした。ネクタイを緩め、コーヒーを淹れてくれと言おうとした瞬間、
「薪さんはパーティまでの間に、人生を楽しまなくちゃいけないんですよね? オレは何をしましょうか?」
 急に後ろから抱きしめられて、薪は焦った。耳に掛かる青木の息が熱い。ジャンの言葉はパリっ子独特のスラングだらけのフランス語だったから彼には分からないと思っていたが、どうやら青木を見くびっていたらしい。

「じゃあ、まずは」
 右手を上から後ろに伸ばして、薪は青木の頭を捕らえた。そのまま後ろに仰のくと、青木はすぐに察して、薪の要求に応えた。
 異国の地で交わすキスは、フランスのデザートを煌びやかに飾るシュクレフィレの味がした。




*****

 言えないよ……この話、薪さんに「oui」て言わせたいがためだけにフランス警察を引っ張り込んだなんて言えないよ……。


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
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2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
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