手紙2

 鈴薪祭り、盛り上がってますね!
 今年は鈴薪さん大豊作で、おばちゃん嬉しいよ!

 てことで、
 法十の鈴薪祭り第2弾。
 お手紙、鈴木さんバージョンです。

 決して原作の鈴木さんを貶めているわけではなく、薪さんの傷心を軽視しているわけでもないのですけど~、なんかそんな風に読めるのは何故?
 うちの鈴木さん、幽霊になっても軽い奴ですみません☆






手紙2





『だめなんだ。自分ではできない』
 そう言っておまえに縋った自分の弱さを、今も後悔している。

 オレが愚痴ればおまえは「後悔するくらいなら初めからやるな」とかキツイこと言うんだろうな。容赦ないもんなあ、薪は。
 うん、おまえの言う通り。オレが悪かったよ。ごめんな。
 ……なんだろう。今、「謝るくらいなら死ぬな」って逆ギレするおまえが見えたんだけど。
 冗談だよ。そんなに怒るなって。
 僕をそんな風に見てたのかって、薪くん、それはこっちのセリフですよ。貝沼とオレがタッグ組むとか、あり得ない夢見てたのは誰ですか。
 いや、責めてないよ。泣くなよ。オレ、そんなキツイこと言った?
 ごめんごめん。最低の部下とか犬死とかクソミソに言われたのはこっちの方だと思うけど、一応謝っとくわ。

 一番悪いのはオレだもんな。

 悪いのは貝沼だろうって? うんまあ、それはそうなんだろうけどさ。あれを見たのがオレじゃなくて、例えば今の第九の副室長あたりだったら、違う結果になってたと思うよ。多分、彼には貝沼の闇は理解できないだろうから。尤もこの場合、それが正解なんだけどな。理解したオレが間違ってたんだ。
 貝沼は薪を愛してたよ。歪だったけど、あれは確かに愛だった。
 おまえにはとても認められないだろうけど、否、良識のある者なら認めてはいけないのだろうけど、オレには分かったよ。どんな犠牲を払ってでも薪に自分を見て欲しかった、あいつの気持ち。

 信じられないって顔してるな? でも本当だよ。だからオレは狂ったんだよ。
 ――引くなよ。今は大丈夫だから。

 狂った頭で必死に考えた。結果があれだ。「バカの考え休むに似たり」って言うけど、狂人の考えは惨劇を生むってことがよーく分かったよ。 

 人間、狂うとな。まともな判断ができなくなるんだよ。
 なにか思いつくだろ。そうすると、それが正しいとか間違ってるとか、考えるより前に、もうそれしかないと思い込んじゃうんだ。
 あの時オレが考えてたことはたったひとつ。貝沼のデータをこの世から消さなきゃいけない。それだけだった。データはMRIシステム内、これは消去した。脳データそのものも、ログもすべて消した。後はないかと考えて気付いたんだ。
 オレの脳に残ってる。これも消さなきゃいけない。

「バカじゃないのか」って、ちょ、ひどいわ、薪くんたら。鈴木くん、泣いちゃう。

 おまえの言いたいことは分かるけどさ、まあ黙って聞けよ。恨み事は後でいくらでも聞くから。こっちが悪いんだから、殴られても仕方ないと思ってるよ。

 あのとき銃口を頭に当てて、そうしたら。
 頭の中にふわあーっと、おまえの顔が浮かんだんだよ。

 よく走馬灯がどうこうって言うけどさ、あれ、嘘だな。少なくともオレは子供の頃のことなんか一瞬も思い出さなかったね。
 両親も妹も、雪子のことも。何一つ頭に浮かばなかった。薪のことだけ。それが狂うってことなんだろうな。

 とにかくあの瞬間、頭の中がおまえの笑顔でいっぱいになったんだ。笑って、オレに手を振って、「鈴木」って無邪気にオレを呼んだ。
 そしたらさ、撃てないじゃん。おまえのことは撃てないじゃん。

 何が何でもこのデータは消さなきゃいけない。それには撃つしかない。でも撃てない。どうしようどうしようってパニックになったところに、おまえが来た。
 薪は、オレが今まで会った人間の中で一番優秀で頭がよくて、何でもできるすごい奴だった。試験勉強も仕事も、いつも分かんないところ教えてもらってたし、だから、分からなくなったらおまえに頼るクセが付いちゃってたんだよな。それであの時も頼っちゃったのかな。
 おまえってさ、ブツブツ言うけど面倒見よくて、最後には必ず何とかしてくれただろ。あの時も、薪ならなんとかしてくれるって。そう思ったのかもしれない。

 怒らないで聞いてくれよ? 
 胸を撃たれたとき。さすが薪だと思った。
 オレが壊したくなかったものはちゃんと守ってくれて。貝沼のデータも、二度と出力できないようにしてくれた。
 そうか、こんな解決法があったんだ。さすが薪、頭いい。オレ、ロクに状況説明できなかったのに、オレのしたいことちゃんと分かってくれたんだ。
 親友ってありがたいな、て感動した。おまえに頼んで良かったと思った。
 ――だから怒るなよ。その時はそう思ったってだけで、今は間違ってたって分かってるから。

 薪。
 オレは本当におまえを守りたかったんだよ。

 死ぬ前の何日か、オレはそのことばかり考えてた。この世界の中にある、薪を傷つけるすべてのものからおまえを守るためにはどうしたらいいんだろうって。
 それを全うしたくてああしたはずなのに、蓋を開けてみたら。オレが一番「薪を傷つけるモノ」になってた。

 当たり前のことを当たり前にすることに、おまえは傷つくようになった。オレのせいで。
 例えば、朝、目覚めること。太陽の光が眩しいと思うこと。朝の空気に草木の匂いを感じること。小鳥の声が聞こえること。そんな普通のことに、いちいち傷ついた。
 オレができなくなったことを自分がしている。そのことに罪悪感を覚えて、おまえは何一つ、心を痛めずにはできないようになった。――呼吸さえ。
 吸い込んだ空気が肺を広げて、古い血液と新しい血液を交換する。ふんだんに酸素を含んだ血液が指先にまで活力を運ぶ。それは生物が生命を営むための生理現象で、自分では止めようもないものなのに、それすら申し訳ないことに感じて。

 大きく息を吸わないように、いつも背中を丸めて。
 暖かい日の光から逃れるように、いつも俯いて。
 地面と自分の靴先と、無味乾燥な書類だけを見て。
 なにも感じないように、心を石にして。
 ひたすらに息を潜めて。

 勿論、賢いおまえは分かってた。そんなことをしても何も変わらない、罪は消えないしオレは生き返らない。だから意識して自分を律していたわけじゃない。でも自然にそうなっちゃってた。
 おまえって身体は正直なんだよな。口は減らないくせに。そんな無駄なことやってる暇があったら、ちゃんとメシを食え。

 だいたいさ、これはちょっとした手違いだったんだよ。オレもおまえもそんなつもりはなくて、二人とも望んでこうなったんじゃない。悪気はなかったんだから、もっと気楽に行こうぜ。
 こっちはこっちでけっこう楽しくやってるからさ、おまえももっと周りを見ろよ。人は一人じゃ生きられないって、昔オレが教えてやっただろ。

 おまえのことを大事に思ってるのはオレだけじゃないよ。おまえの周りにもいっぱいいる。分かってるんだろ?
 おまえ、贅沢なんだよ。彼らを受け入れるために必要なものを、おまえはもう持ってるはずだ。これ以上なにが必要なんだよ。
 オレの赦しなんか要らないよ。ていうか、オレが「許します」て言ったって聞く耳持たないだろ、おまえ。
 おまえに必要なのは、おまえ自身の赦しだよ。おまえがしたことを許せるのはおまえしかいないんだよ。

 だからさ。がんばってみろよ。

 受け入れて。
 求めて。
 ――生きて。

 オレはいつまでも、おまえの味方だよ。



*****



 一万回書いた手紙の、たった一通でいい。連綿と綴られた言葉の欠片でもいい。
 おまえに届いてくれたなら。
 おまえは泣き止んでくれるのかな。明日を生きてくれるのかな。

 書いても書いても届かない手紙。それがオレの罰。


―了―


(2015.7)






 

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

手紙1

 なみたろうさんが、フライング鈴薪祭りやってらしたんです。

 お許しいただいたので、リンク貼ります。
「今、なにか・・・」←ポチると飛べます。

 とっても素敵なイラストで、心が震えました。でもその気持ちの半分もコメントでは表せなかったので、SSにしてみました。コメント投稿しようとしたんですけど、文字数オーバーでエラーになったので、自分のブログに載せます。

 見ることは叶わないけれど、あったかいものに包まれて、「・・・鈴木?」の後の薪さんです。ちょっとうちの設定混じっちゃってますけど、なみたろうさんに(勝手に)捧げます。
 いつも素敵なイラストありがとうございます。感謝を込めて。





手紙1



 おまえの幻を見なくなって、何年経つのかな。


 おまえがいなくなってしばらくの間、おまえのことだけ考えて生きてた。文字通り、朝から晩まで、いや、夢の中でも。長いこと、おまえに責められる夢ばかり見てたよ。
 他人からは親友と呼ばれて、自分でもその気でいて、だからおまえのことは何でも分かってるつもりでいた。将来の夢とか彼女のこととか、おまえが他の誰にも話さないことを僕に話してくれるから、僕は少しうぬぼれていたのかもしれない。本当は全然分かってなかったんだ。青木に教えられるまで、おまえが貝沼の脳を一人で見たってことも知らなかったしな。

 ――まったく。
 あの時ばかりは僕も困ったよ。昨日まで、普通に友人の会話をしていた相手にいきなり「撃ってくれ」とか言われてもなあ。
 あんなに狼狽したのは初めてだった。どうしていいのか見当もつかなかった。パニックに陥った僕は判断を誤った。
 おまえの精神状態を知らなかった、それも僕が悪かった。僕は室長だ。部下の状態は常に把握しておかなくてはいけなかった。

 でも、おまえも悪いよ、鈴木。
 報告の義務を怠った。それどころか僕に隠れて勝手に――。
 違うな。ごめん。
 言いたくても言えなかったんだよな。僕が弱っていたから。やさしいおまえは僕の負担を増やすようなことは言えなかった。僕の前では何でもない顔をして、貝沼の画を見続けた。そして。

 事あるごとにおまえに頼っていた、僕の弱さがあの事態を招いたのだと。僕はひどく後悔したよ。部下が何でも相談できるように、上司は強くあらねばならないと、強く強く思った。努力の甲斐あって、今の僕のあだ名は「鬼の室長」だ。
 え。方向性間違ってる? 怖さが先に立って部下が相談できないんじゃないかって?
 ……それでも、死なれるよりはマシだ。僕を毛嫌いしようが陰口を叩こうが、死んでしまう部下よりずっといい。上司を守りたくて、守ろうとして、挙句、その上司に殺されてしまう部下より100倍いい。

 まったく、おまえは最低の部下だったよ。
 上司に発砲して、逆に撃ち殺されて。捜査のせいで精神に異常をきたしたのに、殉職扱いにもしてもらえなかった。余計なことするからだよ。あそこまで追いつめられてたくせに、MRIシステムのハードディスクから貝沼の脳データだけを消去するなんて精密なことするから、判断能力ありと断定されたんだ。庇ってやりたかったけど、僕も言えた立場じゃなかったしな。
 おかげで特進もなく、警視のまま。脳データがなくなったから、捜査は打ち切り。そう言うの、犬死って言うんだぞ。最低だろ。

 ――うるさい、ほっとけ。泣いてない。
 もうおまえのために流す涙なんか残ってない。さんざん泣いたからな。

 おまえを失った世界は瞬く間に色褪せた。
 死んだ人間が残された人の心の中で生き続けるなんて嘘っぱちだ。だって、おまえはいなかった。当時、僕の心の中はその殆どが鈴木の思い出で占められていたけれど、それは僕が都合のよいように作り出した鈴木であって本当の鈴木じゃない。
 おまえが何処にもいない。その残酷な事実だけが僕を打ちのめす。

 一生分泣いた。それくらい泣いたのに、なんでだろうな、鈴木。僕はあれからひどく涙もろくなったよ。
 今だって、ほら。
 心の中でおまえ宛に短い手紙を認めている、それだけで。目の前の風景が滲んでくるの、あれかな、更年期障害かな。
 笑うなよ。生きてりゃ色々あるんだよ。

 ――そんな話も、おまえとしたかったよ。

 二人して50過ぎのおっさんになってさ。徹夜がきついだの腰が痛いだの、つまんない愚痴をぶちぶち言い合ってさ。若くて仕事ができる後輩に科警研のマドンナ持って行かれた僻みを、「最近の若いもんは」て言いがかりに近いこきおろしで解消したかったよ。
 うだうだぐだぐだ、いくら話しても答えが出ない会話を。おまえが教えてくれた意味のない会話を。何年も何十年も続けたかったよ。
 共に髪に、雪の降るまで。



*****

 書いてたら夜が明けちゃった☆

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

ナポリタン

 こんにちは。
 1カ月ぶりの更新です、しづです。
 お休みしてて、ご報告が遅れてしまいましたが、

『秘密とナゾとねこじゃらし』のにゃんたろーさんに、リンクしてもらいました~! 
 URLはこちら。(ポチると飛べます)

 楽しいレビューと美しいイラストと、鋭いツッコミと爆笑必至の漫画で構成された秘密ファンには夢のようなブログさんです。読んだ後、楽しい気分になれること請け合いです。
 レビューは基本楽しいのですが、ちょっとびっくりしたことがあって~。
 今まで何となく避けてきた鈴木さんの罪とか、ちゃんと向き合ってる。まずはそこで捕まりました。後は雪子さんのこととか。
 あとねあとね、コマ漫画が楽しい!
 最新シリーズの今日の岡薪シリーズとか、お腹抱えて笑っちゃう! ぜひ読んでください!
 
 て、みなさん、もうご存知ですよね。だからここはわたしのブログの改善点てことで、
 リンクのカテゴリからにゃんたろーさんのブログに飛べるようになりました! 便利になったね!

 にゃんたろーさん、ありがとうございました。
 リンクしてもらえるの、うれしいな~。
 古参の方はご存知だと思いますが、うちのブログには黒歴史があって、自分からはリンクしてください、と言い出しにくいので。誘っていただけると飛びつきますです。それこそ猫じゃらしに飛びつく猫のように☆


 さて、表題の雑文ですが。

 いくら在庫が無いからって、不良品を売ってはいけないことは分かっております。
 でも今回、何もないとリンクのお知らせだけで記事を上げることに……誰も知らない秘境の秘密ブログさんを発見して、お友だちになっていただいたのでみなさんにご紹介、ならばその価値もありましょうが、
 お相手が、既にみなさんご存じの人気ブログさんで、「リンクしてもらっちゃった、わーい♪」と言うわたしの超個人的喜びの記事になにもオマケが付かないのでは、読まされる方はたまったもんじゃないだろうと思ったの。

 しばらく書いてなかったんで、SS書く前に文章の練習をしてたんですけど、(ピアノの指ならしみたいなものだと思ってください)
 こちらはその練習文でございます。
 練習なんで意味とかないですから、ていうかここまで意味不明な話書いたの初めて……
『腐女子が二次創作に意味なんか求めるようになったら終わりだ』
 てことで、活字中毒の人だけ読んでください。あと、「薪さん」て文字だけで萌えられる人だけ。

 よろしくお願いします。




ナポリタン




 日曜日の午前中、多くのスーパーは「朝市」と銘打って商品の販売に力を入れる。朝市と言えば野菜や鮮魚など、真っ先に生鮮食料品が浮かぶが、スーパーの場合は平気で缶ジュースやら乾麺やら日持ちのする商品を前面に押し出してくる。朝の市だから朝市、それは間違いではないけれど、並んだ値札は普段の2割引きで給料前の財布にはありがたいけれど、朝である必要性はまったく無い。
 薪が疑問を感じる朝市商品の一つが乾燥パスタだ。その束が山と積まれたワゴンの、『お家でお手軽ランチ』と書かれた店員の手作りポップの前で、二人の男が睨み合っていた。
 正に一触即発の雰囲気。二人とも180センチを軽く越す大男だ。怖がって誰も寄りつかないから、パスタの残量は殆ど開店当時のまま。隣のうどん・蕎麦のワゴンは順調な売れ行きで早くも底が見えているのに、この状態があと3分も続いたら、彼らは店側から営業妨害の現行犯で通報されるんじゃないか。

 彼らの睨み合いの原因と言うのが、
「パスタは太麺です。絶対に譲れません」
「細麺だ。ソースの絡み具合から言っても」
 くだらない。耳を塞ぎたくなるくらいくだらない。
 彼らは薪の部下、つまり警察官だ。人並み以上の良識を持ち合わせているはず。果たして薪の期待に応えるかのように、年嵩の男が三白眼を閉じて睨み合いに終止符を打った。ふう、と重い溜息を吐く。
「青木。実は俺は親父の遺言で細麺以外は食べられないんだ」
「オレだってそうですよ。父の遺言です」
 おまえら、親をなんだと。

 あほらしいとメンドクサイのダブルパンチで、一旦は彼らの傍を離れた薪だが、店内を1周して帰ってきても二人が同じ場所で不毛な言い争いをしている様子に、本気で心配になって来た。彼らが通報されたら、結局は上司である自分のところに来るのだ。薪は仕方なく傍観者の立場を諦めて、「いい加減にしろ」と彼らを諌めた。しかし。
 すでに手遅れであった。
 二人とも、眼の色が変わっていた。舌戦を繰り広げたせいで二人の脳はヒートアップしており、理性は焼き切れる寸前であった。レーザー光線と見まごうほどに激烈な視線をぶつけられ、思わず薪はスーパーのカゴを盾にして、2,3歩後ろに下がってしまった。部下である彼らに気迫で押されるなんて一生の不覚だ。

 薪が引いたのをいいことに、二人は再び討論に戻った。口火を切ったのは青木であった。
「ナポリタンと言えば太麺でしょ。卑弥呼の時代から決まってることですよ」
 薪が店内を1周している間に時代が邪馬台国まで戻ってる。てか、邪馬台国にナポリタンがあったのか。化石とか見つかったのか、それ。
 心の中で激しく突っ込む薪に代わって、岡部が強い口調で言い返す。
「バカ言え。スパゲティてのは短い紐って意味だ。古事記にも書いてある」
 古事記の時代にスパゲティが、以下略。
 ていうか、どうして古代日本なんだよ。スパゲティってイタリアの料理じゃないのか。

「本物のナポリタンてどうやって作ってるか知ってます? 前日に茹でたパスタを一日冷蔵庫で寝かすんですよ。その苛酷な状況に細麺が耐えられると思いますか。フライパンで炒めた時点で細切れになるのがオチですよ」
 青木が披露したトリビアに、薪はふうんと頷いた。そうなのか、知らなかった。
「それくらい知ってる。日本人の常識だ。警察学校の試験にも出る」
 え、そうなの。警察学校ってそんな試験あるの。警大にはなかったけど。
「だがな青木。これから昼飯に食おうって時に、一日寝かせることを前提とした麺を用意してどうするって話だよ。細くてコシがある、それが旨い麺の鉄則だろ」
「いいえ、食べ応えから言えば太麺に敵うものは」
「そこがおまえの浅はかさだ。いいか、細麺でも太麺でも一人前の量は変わらないが、細麺てのはその形状から一度に多量の麺を掬うことが難しい。自然と口に運ぶ回数が多くなる、つまり味わう回数が増えるんだ。断然お得だ」
「それはお店で食べるときの話であって、自宅で自由に量を調整できるならむしろ太麺にして量を増やした方が」
 くだらない、あまりにもくだらない。これが科警研のエリート集団、第九職員の議論か。所長の耳にでも入ったら、いや、田城さんはやさしいから笑って許してくれるかもしれないけど、第九を目の敵にしている警務部長に聞かれたら研究室が取り潰される、絶対。

 どこまで行っても平行線の二人を、もうここに捨てて行こうかと、やつらによって生じた損害は働いて返させますと店長に話を付けに行こうかと、ファミリーサイズのケチャップがたったひとつ入ったカゴを持ってレジに向かおうとした薪の耳に、二人の男がほぼ同時に吐いた溜息が聞こえた。
 薪は足を止めた。どうやら新しい局面が開けるらしい。

「二人で言い合っても埒が明かんな。ここはひとつ、第三者の意見を聞こうじゃないか」
「そうですね。多数決ってことならオレも引きますよ。まあ、負けませんけどね」
 客にアンケートでも取るつもりだろうか。これ以上店に迷惑掛けないで欲しいんだけど。ただでさえうちの近所、徒歩圏内のスーパー少ないのに。僕、買い物する店無くなっちゃうんだけど。
「ふっ。甘いな、青木。あの人の好みはうどんより蕎麦だ。つまり細麺派だ」
「いいえ、薪さんはシューストリングポテトよりナチュラルカットポテトを選びます。つまり太麺派です」
 あ、僕の話?
「「薪さん、どっちですか?!」」
 急に詰め寄られて、カゴの中のケチャップが魚みたいに跳ねた。二人がワゴンから離れるのを待っていたように客が押し寄せ、次々とパスタの袋を買い物カゴに入れていく。どうやら営業妨害は免れたようだ。

 だが、薪には次の危機が。
 右に岡部、左に青木。どちらも薪より20センチは背が高い。上でドンパチやられると、雷雲の真下にいるみたいだ。
「薪さん、薪さんはいっつも岡部さんの好みに合わせますけど、今日はそう言うの無しですよ。薪さんが本当にお好きな方を選んでください」
「薪さん、ご自分が嫌いな牛乳やチーズを青木のために常備しておいてやるのは見上げた親心だと思いますけど、今回だけは本音でお願いします。それが青木のためですよ」
 二人して薪に正直になれと言う。薪は素直に答えた。
「僕はペンネが好きなんだけど」
 薪の頭上で二人はしばし固まり、頷き合って薪から3歩遠ざかった。こちらに背を向ける形で、何事もなかったように2分前の会話に戻る。
「細麺!」
「太麺!」
「……おまえら、僕の意見なんか聞く気ないだろ」
 付き合いきれん。早く帰ろ。

 忍び足でその場を去ろうとした薪は、男の声に呼び止められた。
「偶然ですね、室長。おれもペンネ派なんですよ」
 気障ったらしい声ですぐに分かった。岡部の後輩の竹内だ。どうして休みの日にこいつの顔を見なきゃいけないんだ、と舌打ちしながら横を見やれば、いけ好かない男のいけ好かない顔。相変わらず、モデル雑誌から抜け出してきたような格好だ。スーパーのような庶民的な空間がとことん似合わない。チャラ男め。
「どうしてあなたが」
「いや、外から二人が見えて」
 客寄せのために通りに面した外壁は透明のアクリルボードになっている。問題のワゴンは入口の近くだから、声はせずとも目立ったのだろう。二人の揉め事を心配した友人の顔を装っているが、こいつはそんな善人じゃない。稀代のナンパ師なのだ。きっと、美人の人妻でもたぶらかそうと店内を物色しに来たに違いない。
「気になって中に入ったら、店員が警察呼んでって言ってたから」
 おれが預かることにしました、と笑った竹内に、薪は激しく舌打ちした。嫌な奴に借りを作ってしまった。

「そうですか。竹内さんもペンネ派で」
 薪は憮然と言った。竹内なんかに死んでも礼を言いたくない薪が意図的に変えた話題に、竹内はにこりと微笑み、
「旨いですよね、ペンネ」
「なに言ってんの。そもそもペンネはスパゲッティじゃないでしょ」
「雪子さん」
 横から口を挟んできた女性の声に、薪はコロリと表情を変える。竹内は嫌な奴だけど、その奥方である雪子は薪の友人だ。竹内のような浮気男とは早く別れて欲しいのだが、今のところ薪は、相手に離婚を迫れるだけの決定的な証拠を掴めないでいる。
「あたしは絶対に太麺派。スガちゃんは?」
 雪子の陰からひょこっと顔を出した、小柄な女性は菅井と言って雪子の助手だ。彼女たちはとても仲が良くて、雪子が結婚してからもちょくちょく家に遊びに来ているらしい。
「わたしは細い方が好きです」

 新たに参戦してきた3人を加えて、場は混沌を呈してきた。
「てことは、太麺、細麺、ペンネ派が2人ずつか。困ったな」
 青木の深刻な表情に眩暈がする。そんなことで困ってるのはおまえだけだ、単なる好みの問題であって、みんなおまえみたいにそれに拘っているわけでは、
「そうね。あたしも譲れないけど、みんなも同じ気持ちでしょうしね。何とかして和解案を見出さないと、ここから出られないわね」
「雪子さん……」
 くだらない論争は言いだしっぺの二人に任せておいて、僕の代わりに竹内置いて菅井さんと3人でここから出ましょう。そう言おうと思っていたのに。食べ物のことになると異様な執念を燃やす雪子の性質をすっかり忘れていた。

「メニューはナポリタンなんでしょ? だったら太麺で決まりじゃない」
「ですよね。さすが先生」
 我が意を得たとばかりに青木が大きく頷く。食べ物の好みもよく似ているし、今さらながらにどうして青木は雪子を選ばなかったのだろうと薪は思う。
「それはレストランの話でしょ? 一度、ペンネのナポリタンを試してみてくださいよ。麺より食べやすいし、病みつきになりますから。ね、室長」
 嫌いな奴の意見に同意するのが業腹で、薪が落とした沈黙を打ち破るように、菅井が大きく首を振った。
「食べやすさから言ったら細麺じゃないかしら。フォークに小さくまとめやすいから、食べるとき大口開けなくていいし、デート向きですよ。要するに、細麺派は上品なんですよ。ね、岡部さん」
 菅井さん。岡部はスパゲティを箸で食べます。

 スパゲティだけでなく殆どの西洋料理に箸を用いる第九の副室長は、いぶし銀の顔に苦渋を滲ませて呟いた。
「それぞれに長所があり、拘る理由があると言うことか。なんて奥深い世界だ」
 形だけの問題だよね。むしろ浅いよね。
「組成からして謎めいてるし」
 いや、小麦だから。
「どうにもまとまりませんね。難しいな」
 まとめる必要ないだろ。好みの問題だろ。
「パスタの選択は人類の根幹に関わる問題だからな。ここは慎重にいかないと」
 なんだそれ。いつから人類はスパゲティ星人になったんだ。
「謂わばこの命題は、神が人間に与えたもうた試練」
 スパゲティの神様なんて聞いたことないけど。どこにいるのそれ、マカロニの神殿にでも住んでるの。
 どっちにせよ、そんな命題いらないから。
「だが我々は一人ではない」「そう、こんな時こそ試されるのが仲間の絆だ」「そうね。みんなで力を合わせてこの難局を乗り切りましょう」なんて口々に尤もらしいこと言ってるけど、
 おまえらみんなバカだろ。

 それから時間を掛けること数十分。うだうだと迷走する討論会からやっと抜け出すきっかけを作ったのは、京大卒のエリート警視正だった。
「決まらないですね。ではここはひとつ、料理を作る人の意見を尊重するってことで」
「ずるいぞ、竹内。薪さんにかこつけて自分の好みを通す気だな」
「いや、そこは大事ですよ。6人分のナポリタンを作るのは大変な作業ですから」
 ちょっと待って。いつの間に僕がみんなの分のナポリタン作ることになってんの。
「それもそうですね。スパゲティだけだと栄養バランスが悪いから、ポテトサラダくらい付けなきゃいけないだろうし」
 サラダ追加? しかも手間のかかるポテトサラダかよ。
「わたし、パスタの量は控え目でいいんですけど、食後のデザートは欠かせないんです。室長、よろしくお願いします」
 まさかのデザート要求?! さすがは雪子の助手、大人しい顔してとんでもない女だ。
「菅井さん。あんまり薪さんに負担掛けないで。デザートはその辺のプリンとかで我慢してくださいよ」
 よく言った、青木。それでこそ僕の部下だ。
「それよりも問題はおかずでしょ。スパゲティに合うおかずって言えば煮込みハンバーグ! それだけは忘れないでくださいねっ、薪さん」
 忘れたい。この記憶ごと消し去りたい。
「あ、鳥唐揚げもいいなあ」
 おまえの存在を消し去りたい。
「ピザって手もあるわね」
「ミネストローネとかのスープ類も外せませんね」
 コース料理だよね、それ。『お家でお手軽ランチ』のコンセプトじゃないよね。
「オレ、個人的にスープはミネストローネよりコーンスープとかのポタージュ系が――薪さん、どこ行くんですか?」

 行く手を塞いでいた青木を乱暴に突き飛ばし、薪は通路を進んだ。目的のものを見つけると、迷わずカゴに入れる。
「薪さん。あの、それは」
「薪くん。ねえ、ちょっとそれ」
 控え目な抗議をねじ伏せる勢いで、振り返った顔つきは鬼室長の鉄仮面。ホラー映画のように、暗く沈んだ顔に眼だけが光っている。
 顔を見合わせて黙り込んだ5人の前を、薪はスタスタと通り過ぎ、レジに直行した。チェッカー台の上にカゴをどんと置く。
「いらっしゃいませ。ケチャップ370円が1点、インスタントスパゲティ230円が6点、合計1750円になります。ありがとうございました」
 ふん、と振り返ったら。
 さっきまで勢いよく喋っていた5人が雁首揃えて情けない顔をしていて、思わず吹き出してしまった。少しだけ気分がよくなった薪は、にやにや笑いながらポケットから財布を取り出した。



*****



「薪さん。もうお昼ですよ」
 部下の声に眼を覚ました。軽く頭を振ると、頭蓋骨の中で脳が波打つのが分かった。寝過ぎると脳が溶けるって本当だ。
「お昼、ナポリタン作りましたけど。食べられそうですか?」
 部屋の中にはケチャップの香りが漂っていた。キッチンから聞こえてくる、友人たちのトーンを落とした話声も。

 今日は青木の誕生祝いで、お祝いに来てくれる友人たちにささやかな食事でも用意しようと話をしていた。でも、急に官房室の仕事が入ってしまって。ようやく片付いたのが朝の4時。家に帰って青木におめでとうを言う間もなく、ソファで寝てしまった。
「起き抜けで食欲なかったら、ミネストローネもありますよ。竹内さんが作ってくれたんです」
 ふと窓を見ると外は雨。6月らしい見事な降り方だ。
 雨の中の買い出しは面倒だし、薪は眠っているしで、青木は友人をもてなすのための料理を家で作ることにしたのだろう。やって来た友人の一人がそれを手伝ってくれて、ついでに一品作ってくれた、というわけだ。

 寝起きのぼうっとした頭で、開かない瞼をこすりながら、青木に促されてダイニングに入った。岡部が一番に気付いて、「薪さん、お疲れさまです」と声を掛けてきた。「お邪魔してます」と頭を下げる竹内と菅井に会釈を返し、「忙しいときに押しかけちゃってごめんね」と謝る雪子に、それは前からの約束だったのだからと軽く手を振って席に着く。しまった、竹内に、おまえは来なくていいオーラをぶつけるのを忘れた。
 低血圧の頭がテーブルに突っ伏しそうになるのを気力で抑え、明け方まで掛かった事務処理に凝り固まった肩をぐるりと回した。右の肩からゴキゴキと関節のこすれる音がした。

 ぼんやりとテーブルを見る。そこには、夢の結末とは正反対の多彩な料理が並んでいた。
 青木が言ったように、メインディッシュはナポリタン。麺は太麺だけど、同じソースで薪の好きなペンネも和えてある。レタスに包まれたポテトサラダはパプリカの赤ときゅうりの緑がきれいに映えて、添えられた串切りトマトが実に爽やかだ。スープカップによそられたミネストローネから立ち上る香りは、イタリア料理に欠かせないガーリックとローリエ。その食欲中枢を揺さぶるような匂いに、薪は昨夜、仕事に追われて夕食を抜いてしまったことを思い出した。

「このピザは」
「スパゲティだけじゃ足りないからって、雪子先生が宅配ピザを。参っちゃいますよね」
 苦笑する青木に、薪は続けて、
「このハンバーグは?」
「いや、それはほら、スパゲティのおかずっていうか」
 おまえに雪子さんを笑う資格があるのか、青木。
「デザートもあるのよ。スガちゃん特製、玉子プリン。美味しいんだから」
 食事の量は減らしてもデザートはしっかり食べる、それでいて年がら年中ダイエットをしているのだから女の子は謎だ。

 豪華な食卓に賑やかに着座する、友人たちの楽しげな様子を見ながら、薪はクスッと笑った。
「なんですか?」
「思い出し笑いですか?」
 両隣に座った岡部と青木が尋ねるのに、薪は「いや」と首を振り、菅井がグラスに注いでくれたビールを胸の前に掲げた。
「青木。32歳の誕生日、おめでとう」


(おしまい)

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
文字サイズをお選びください
最新記事
最新コメント
拍手のお返事
いつもありがとうございます!

最新拍手コメのお返事はこちらです。

過去の拍手レスの確認は、該当記事の拍手欄を押してください。
鍵拍手コメのレスは、記事のコメント欄にお返しします。
月別アーカイブ
カテゴリ
詩 (1)
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
QRコード
QRコード
FC2カウンター
こんにちは(^^
現在の閲覧者数: