スネーク

 ハロウィンですね。
 ということで、ハロウィン企画のRです。
 3年前のハロウィンRは「キャンディ」でお菓子だったから、今回はイタズラの方にしてみました。蛇の仮装てことで。
 なんで蛇なのかって、今公開中の話がいかにもエロ設定なのに全然それらしくならなくてガッカリされてる方にお詫びのつもりで書いてたんですけどなんか途中で書いてる本人が気持ち悪くなっ、……なんでもないです。
 


 いつも通り、3日間の期間限定公開です。
 お嫌いな方と、十八歳未満の方はご遠慮ください。
 今回に限り、蛇の嫌いな方もご遠慮ください。
 よろしくお願いします。


*3日は短すぎるのでせめて1週間、というご要望がありましたので、期間延長します。
 11/7までです。よろしくお願いします。
  

 ちょっと私信です。

 なみたろうさん。

 こないだコメントで言ってた、「途中で気持ち悪くなって書けなくなったR」です。
 蛇が気持ち悪かったわけじゃなくて、このSSそのものが気持ち悪くて。(←それを公開するの、犯罪じゃね?)
 Rはやっぱり美しく書かないとダメですね(^^;
 書き上がったの、なみたろうさんの美しい蛇姫薪さんのおかげです。どうもありがとう。





スネーク






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テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

12月号、読みました

 読みました。
 
 メロディ12月号の局地的感想です。
 ネタバレいやんな方はご遠慮ください。




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蛇姫綺譚(14)

 明日は発売日ですね!
 事件の展開がとても楽しみです。どういう風にあのシーンに結びつくのかなあ。わくわくするなあ。



 続きです。
 うーん、やっぱりオワラナカッター。



蛇姫綺譚(14)






「それはないだろ!!」
「蛇姫の力は唯一無二のもの。二人いては争いの元じゃ」
 派閥争いを防ぐため、前リーダーを殺すのは古代史だけでなく動物の世界でも普通になされることだ。理屈は分かるが、はいそうですかと頷くわけにはいかない。
「待て! 青木は関係ないだろう!」
「その男の精力は惜しいが、おぬしも一応は蛇姫の魂を持つ者。供の一人もおらぬでは、果敢なさが過ぎようと言うもの」
「僕は一人で平気、むががっ」
 1メートルほど開いた板の間をひょいと飛び越えて薪の隣に立った青木が、いきなり薪を抱き締める。驚く間もなく口を手で塞がれた。
「なにす、んうっ」
 薪には青木の意図はさっぱり解らなかったが、ハツには伝わったようだった。蛇姫の神通力、というかその場で分かっていなかったのはあるいは薪だけだったかもしれない。

 ハツは、手に入れた若さと美貌を薪に見せつけるように、悠然と笑った。
「二人一緒に逝けるのじゃ。感謝せえよ」
 青木の腕の中で、薪はぎりぎりと歯噛みする。そうする間にも床はどんどん少なくなって、助かるには今この場で鳥にでもなるしかないところまで追いつめられてしまった。
「くっそ、化けて出てやるからな! オボエテロ!!」
「どこが科学的なんですか」
 呪いの言葉を吐いても床は止まらない。次の瞬間、抱き合ったまま下に落ちた。

 思わず目を瞑る。
 青木のように蛇を見ただけで悲鳴を上げるほどではないが、これだけ大量の蛇の中に入るのだ。いかに豪胆な薪とて身体が竦む。

 意外にも落ちた衝撃は柔らかく、大量の蛇がクッション材になったものと思われた。が、周りはヘビだらけだ。突っ込んだはずみに何匹か服の中に入ってるし、気の弱い人間なら気絶していてもおかしくない。
「青木っ、大丈夫か!?」
「☆□▽※~~!!!」
 だめだ、こりゃ。
 それだけパニクっていても青木は薪を放さない。強く抱かれ、ひしゃげられて苦しい呼吸の下で薪は必死に活路を模索した。色彩豊かな蛇たち、だが見たところ、毒蛇はいないようだ。普通の蛇に少々噛まれたくらいなら人は死なない。蛇たちを刺激しないよう注意して逃げ道を探せば助かるかもしれない。

「うん?」
 蛇の中に突っ込んでしまった足をそうっと出して、薪は不思議に思った。靴を履いていないのに、噛まれた跡がないのだ。
 蛇と言うのは獰猛なイメージがあるが、実は臆病な生き物だ。大きな音を立てながら近付けば逃げて行ってしまうし、いきなりテリトリーに踏み込んだりしなければ襲ってきたりはしない。今回の場合、蛇たちにしてみれば突然人が降ってきたのだから手当たり次第に噛みまくってもおかしくないのだが、彼らにその気配はなかった。
 落ち着いて蛇たちの動きを見れば、彼らはその長ひょろい身体を必死にくねらせて、薪たちの下に入り込もうとしている。ある可能性に思い至り、薪は青木に命じた。
「青木。手を放せ」
「おひゃは! まっ、ひゃん、ぼ、いいいい! ひ、ひんでもあ、あああ~っっ、ます!(訳 オレは薪さんのボディーガードです。死んでもあなたを守ります)」
「無理して喋らなくていい。力抜け」
 強張った青木の腕からようよう脱け出すと、薪は蛇たちの上に仰向けに横たわった。
「薪さん」
「いいから。おまえもやってみろ」
 彼らが作り出すうねりに身を任せれば、自分の身体が一方向へと運ばれていくのが分かる。背筋を伸ばし、大人しくしていれば蛇の海に埋もれることはない。背泳ぎの要領だ。

「蛇のベルトコンベアーですね」
「尻の下がちょっと気持ち悪いけどな」
 慣れてくれば起き上がることもできる。二人は蛇の絨毯の上に胡坐して、暗い通路を進んだ。何処へ連れて行かれるのかまだ安心はできないが、ひとまず命の危険はなさそうだ。

「この方向ってもしかして」
「分かるのか」
 方角に心当たりがあるらしい青木に説明を促したが、それを青木が口にする前に出口が見えてきた。薄暗いランタンの下、扉代わりの粗末なベニヤ板が無残に割られている。どうやら青木が閉じ込められていたと言う庭の納屋のようだ。
 二人を納屋に下ろすと、蛇たちはぞろぞろと通路に戻っていった。虹色の動く絨毯が少しずつ闇の中に帰って行く様子は、幻想的で美しく、荘厳ですらあった。

「さて、行きましょうか。よく掴まっててくださいね」
 裸足の薪を抱え、青木は自分が破った戸口から外に出た。屋外に出て、外が暗いことにひどく驚く。まだ夜が明けてなかったのか。
「困りましたね。長居はできないし」
 薪が生きていることが分かったら、争いの目を摘むと言う名目で、また村人たちに命を狙われる。仕方なく青木は森の中を進んだ。車まで行ければトランクに薪のスニーカーが積んである。例え車を動かすことができなくとも、歩いて森を抜けることができるようになる。
「青木。そこ右だ」
「えっ? まさか薪さん、車の場所を覚えて……いや、もう驚きません」
 最初、それを二人は気のせいだと思った。自分たちが進む道の草木が、二人を避けてくれるように感じたのだ。事実、二人が通り過ぎた後、草木は元の位置に自然に戻った。後方で起きている現象に気付かず、薪と青木は難なく車まで辿り着いた。

「あれっ?」
 自分たちの車を発見して、二人は驚きの声を上げた。不思議なことに、車を取り囲んでいたはずの樹木が消えていたのだ。
 村人たちの言葉を信じるならばこれも蛇姫の神通力と言うことになるが、何らかの理由で術が解けたのか。解けたと言うよりは解いた、要するに。
「蛇姫失格ってことか」
 薪は心の中でガックリと肩を落とす。もちろんやりたくはなかった、しかし、ハツが言ったような理由でお役御免になったのだとしたらものすごく情けない話だ。男として切なすぎる。90過ぎの老婆に下半身で負けるなんて。

 無言で不貞寝してしまった薪を横目で見やり、青木は何も言わずに車をスタートさせた。今までの経験から下手な慰めには鉄拳が飛んでくることを知っていた彼は、しばらくそのままで車を走らせた。



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蛇姫綺譚(13)

蛇姫綺譚(13)





「そら。開発責任者が営業に来たぞ」

 鉄格子の向こうから、ぬうと姿を現したハツに、薪は剣呑な視線を送る。お年寄りにはやさしく、と言う道徳はこのさい無視だ。
「蛇姫の巫女だかタコだか知らんが、よくも騙してくれたな。二度と同じ手は食わんぞ」
 催眠術は、猜疑心に凝り固まった人間には効かない。薪はもう、この屋敷の中で一瞬たりとて気を許すつもりはなかった。
「バカもんが。せめてもの情けと思うて、一人目はそやつに似た男を選んでやったのに」
「どこが。青木の方がずっとカッ、――蚊がいるなっ」
「え。そうですか? どこに?」
 危なかった。青木が鈍くて命拾いした。
 そんな二人の様子を見て、ハツは苦笑いした。周りに集まってきた男衆に向かって、力なく首を振る。
「おぬしのような強情な男は初めてじゃ。今回ばかりは蛇姫の人選ミスじゃの」
 リーダーのハツが敗北宣言をしたことで、村人たちも観念したようだった。黙ってハツの周りに腰を下ろし、謝罪のつもりか深く頭を垂れた。
「どうやら諦めるしかあるまい。下半身も残念だしの」
「うるさい!」

「しかしのう、蛇姫はすでにおぬしの中におるのじゃ」
 さっきもそんなことを言われたが、薪に自覚症状はない。とぐろを巻きたくなることもないし、昨夜のカエルも正直口に合わなかった。
「こちらもできるだけの譲歩をするゆえ、おぬしも納得してくれぬか。おぬしが嫌なら村の男と交わらずともよい。子を産んでくれるだけでよいのじゃ」
「全然譲歩になってないんだけど」
 男が子供を産むって処女懐妊よりすごいことだよ? キリストどころか神さま生まれちゃうよ? あ、蛇姫は神さまだっけ。
「蛇姫の血さえ途絶えなければそれでよい。もう贅沢は言わん。その男の子供でよい。産んでくれぬか」
 だから無理だって!
「薪さんが……オレの子を……」
「なにドリーム入ってんだバカ! 産めるわけないだろ!」
 おまえが説得されてどうする!
「子供ったって何処から出てくるんだ、ケツの穴からか?! それただのウン」
「言っちゃダメです!!」
 薪さんにそんなセリフ喋らせたらこのブログ閉鎖されちゃいます、てこいつの言ってること意味わからん。

「う」
 急に下腹に痛みを感じて、薪は患部に手を当てた。左下腹に重い鈍痛。いくらか目眩もする。思わずその場に膝を着く、薪の前にポイと投げられたのは、テレビのCMが流れるたびに男は目のやり場に困る、女性のための月に一度の必需品。
「月のものが始まったようじゃの。使いんさい」
「要らん! 始まってたまるか、そんなもの!」
 出たとしても男の場合は下血だから。必要なのは生理用品じゃなくて大腸検査だから。

「おぬしの身体は子が産める体に変化しておる。痛みはそのせいじゃ。蛇姫のありがたい神意を受けておきながらそれを無にするような真似をしてみろ。天罰が下ろうぞ」
 脅しつけるようなハツの物言いに、薪は鼻先で嗤いを返す。天罰なんて非科学的なものが、第九の室長に通用すると思ったら大間違いだ。
「この村は蛇が異様に多いと思わんか。あれらはみな、蛇姫の祟りを受けた者どものなれの果てよ。元は同族、哀れと思うゆえ保護しておるのだ」
 もともと蛇と言うのは生命力が強いのだ。その上に人間が保護したり餌を与えたりしたら増えるのは当たり前だ。

「薪さん、大丈夫ですか? まさか本当に身体に変化が」
「アホ。昨夜のカエルだろ」
 痛みは徐々に増して、薪の額には冷や汗が浮いた。動ける時間は少ないと判断し、薪は行動を開始した。
「おい、ハツ」
 年長者を呼び捨てにするのはポリシーに反するが、今はそんなことに構っていられない。腰の曲がった老婆を下から睨み上げるようにして、低い声で言い放った。
「僕の身体に蛇姫の魂が宿っているなら、おまえは僕のなんだ。僕に仕える巫女だろう。だったら僕の言うことを聞け。僕らをここから解放しろ」
 てか、トイレ行かせて、おねがい!

 薪の切実な訴えに応えたのは、果たしてハツではなかった。
 最初に気付いたのは、上を向いていた薪だった。それは真っ暗な高い天井の、その上から下りてきた。

「薪さん、あの子」
 薪の表情の変化に気付いた青木が、驚きの声を上げる。梁を伝い柱を滑り、やがて皆の前に姿を現したのは真っ白い肌をした小さな男の子。薪と青木はその肌の色に見覚えがある。宮原さつきのMRIに映っていた男の子だ。
「し、始祖さま」
 ハツがうろたえた声を出す。その男児はゆるやかに床に降り立ち、驚きのあまり腰を抜かしたらしいハツと右往左往する村人たちに向き合った。

「逆さまになってたのは吊るされてたんじゃなくて、天井から下りてきてたのか」
「事件じゃなかったんですね」
 薪たちの会話が耳に入ったのか、男児は細い足先をこちらに向け、すたすたと歩いてきた。その白い身体は鉄の格子を難なく通り抜ける。全裸に見えた彼に性器は付いておらず、しかし女児のそれでもない。不謹慎にも、青木が薪に囁いた。
「全身白タイツみたいですね」
「どこぞのお笑い芸人か」
 信仰心に欠けた二人を責めるでもなく、痛みに呻く薪に手を差し伸べる。不思議なことに、薪の腹からすうっと痛みが引いて行った。
 痛みが消えて元気になった薪が、勢いよく立ち上がる。それを横目に男児は、再び鉄格子の向こうに戻った。
「なるほど、この鉄格子は立体映像だったんだな。出るぞ青木、痛っ!」
「どうして体当たりする前に手で確かめるとかしないかな」
 したたかにぶつけたおでこを擦る薪の前で、男児はハツに向かって歩き、彼女と重なり合い。彼女の腹に消えて行った。

「薪さん……今の」
「解った、あの男の子が立体映像だったんだ。防犯システムのオプションだ、きっと」
 見たものをそのまま信じる青木と超常現象を認めない薪の間で、ズレた会話が交わされる。その先ではハツが、自分の腹に手を当てて呆然としていた。
「始祖さまが……わたしに……」
「なんと。婆さまが次の蛇姫になられた」
 騒然となる村人たちの真意を汲み取って、薪が意地悪く微笑む。40過ぎのオッサンと90過ぎの老婆、究極の選択ってやつだ。どちらにしても男を立てるには根性がいる。

「面白いことになったぞ、青木。あの婆さんが男たちの相手を……え」
 老婆のしなびた身体が二つに割れた。まるで蛇が古い皮膚を脱ぎ捨てるように、中から若く美しい女性の姿が現れる。漆黒の髪に輝くような白い肌。蛇姫と言うだけあって、顔立ちはややきつい。強気な瞳は白蛇のそれと同じ赤色、ぽってりとした唇もまた紅を引いたように赤く艶めいていた。
 村の男たちがわっと歓声を上げる。新しく誕生した姫の周りを囲み、口々にその美しさを褒め称えた。
「なんと美しい」
「やはり村の血じゃ。余所者の比ではないわ」
「いいえ、薪さんの方がずっときれいです! ――っ、なんで叩くんですか」
「黙ってろ、バカ」
 
ハツは自分の身体を見下ろしたり、顔に手を当てたりしていたが、伝承に生きた女性らしく落ち着いてその変化を受け入れた。身長も伸びたのか、サイズの合わなくなった巫女の衣装を身に着けると、裾からはみ出たしなやかなふくらはぎが実に色っぽかった。男たちが別の意味で騒然となる。
「これが本来の蛇姫伝説だったんですね。すごいなあ」
「騙されるな、青木。あれはペテンだ、トリックだ。若い女性が黒い服を着て物陰に隠れてたんだ」
「『伝説は本当だった』じゃダメなんですか」
「僕は第九の室長だ。科学で証明できないことは認めん」
 青木の言い分を全否定して、薪は、だん! と床を踏み鳴らした。村人たちの注意を引くためだ。

「よく分からないが、僕は用済みと言うことでいいのかな」
 盛り上がっている村人たちにわざと水を差すように、薪は冷ややかな声で言った。信じられないものを見たショックからか、下腹の痛みは消えていた。
「そうじゃった。いや、すまんの」
 男たちの輪から脱け出して鉄格子に近寄ってきたハツが、薪を見て申し訳なさそうに言った。「いいえ。よかったですね」と微笑む青木を、お人好しもいい加減にしろと蹴り飛ばし、薪はぶっきらぼうに答える。
「謝罪はいい。早くここから出してくれ」
「いや。本当にすまんの」
「……おい。なんのつもりだ」
 ハツが壁のスイッチを押した。てっきり鉄格子が上がるものと思っていたのに、動いたのは二人の足の下、つまり床板だった。
 廊下の板が真ん中から分かれて、徐々に左右の壁に吸い寄せられていく。5メートル下には、座敷牢と同じように蛇の大群が。

「それはないだろ!!」


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蛇姫綺譚(12)

 メロディ発売まであと1週間ですね♪
 前回、飴だったんで今回は鞭だと思うんですけど(←え)、楽しみ楽しみ♪♪♪
 

 お話の方はあと6回です。
 全体的にダレた話になってしまってすみませんー。




蛇姫綺譚(12)






「うおおおお!」
 突然、獣のような咆哮が聞こえた。
 驚いて見開いた薪の瞳に、自分めがけて倒れてくる鉄格子が映った。どおん、と大きな音が響く。
「うわわ!」
「ぎゃっ!」
 鉄格子は部屋の奥行より長く、奥の壁にぶつかる形で落下は止まった。薪は寝ていたから難を免れたが、上体を起こしていた青木は堪らない。後ろから鉄棒に殴られる形になって、畳の上にもんどりうって倒れた。

「大丈夫か、青――あれっ?」
 乱れた衣服を整える余裕もなしに、倒れた男に擦り寄った。が、そこに頭を抱えてのたうちまわっていたのは、薪の知らない男だった。
「……だれ?」
「こっちが聞きたいですよっ! だれですか、その男!!」
 聞き覚えのある声に振り返れば、青木が額に青筋を立てて叫んでいた。いつの間に入れ替わったのだろう。

「青木。おまえどうやって」
「なんでこんなことになってるんですかオレなんかしましたかそれとも足りませんでしたかオレの何が不満だったんですか」
 激しい口調で薪の言葉を遮り、訳の分からないことを喚き立てる。てか、句読点忘れてるぞ、青木。
「サイズですか持ち時間ですか昨夜1回で終わったのが物足りなかったんですかいつもみたいに抜かず3発がんばればよかったんで、ふごおっ!!」
「どさくさ紛れになにいらんこと喋ってんだっ!」
 問答無用で男の顔面を蹴り飛ばす。踵で蹴られて鼻血を吹いた恋人を横目に、下着とズボンを手早く着けた。シャツと背広を着て、しゃんと襟を正す。最後にたるんでいた靴下を直した。

 青木はまだ鼻を押さえている。ちょっと強く蹴り過ぎたか。
「悪かった。でもおまえが余計なこと言うから」
「えへへ。見えちゃいました、薪さんの、ごふぅっ!」
 もう一度顔面に膝頭を叩きこむと、ニヤけた面で鼻血を吹きながら仰向けにひっくり返った。このバカを絵に描いたようなリアクション。間違いなく青木だ。
 と言うことはなにか。僕はこの、どこの誰だか知らない男を青木だと思い込んで必死に助けようとしていたのか? 彼にキスされて身体中まさぐられて、あんなに感じて――。
「……やば」
 彼と行ったあれやこれやが青木にバレたら、死んだ方がマシと言う目に遭わされる。多分、ベッドの上で一晩中。
 純粋な恐怖に駆られ、薪はやや強引に話題を変えた。

「青木。おまえ、どこから来たんだ」
「庭先の納屋に閉じ込められてたんです。薪さん昨夜、お婆さんの盃を受けて倒れたの覚えてますか? あの後すぐに村の人たちが現れて、『毒を飲ませた。解毒剤が欲しければ大人しくしろ』って脅されて。でもさっき、薪さんに呼ばれたような気がして」
 親に悪戯がばれた子供みたいに頬を指先で擦りながら、青木は笑った。
「扉、蹴破ってきちゃいました。後で直しておかないと」
「いや、修理は必要ないだろ」
 真面目でお人好し。青木のズレた親切心が薪の心を毬のように弾ませる。本当に、僕は青木のこういうところにとことん弱い。

 物音に気付いたのだろう、奥の部屋から杖をついたハツと、村人たちが現れた。あの話の後でハツが皆と何を話し合っていたのか、予想はできるが聞きたくない、てか、それを青木の前でだけは言ってくれるなよ。僕は青木を殺人犯にしたくない。
 ハツは、彼らの先頭に立って廊下を進みながら青木の姿を目に留めた。この狼藉を働いたのが、一見大人しそうなメガネ男だと悟ったのだろう。床に座ったままの青木をまじまじと見つめ、驚嘆した声で呟いた。
「鉄格子を枠ごと倒すとは。なんという力じゃ」
「愛の力です」
 ハツの表情が能面のように固まる。仕事柄、芝居がかった台詞には慣れているはずの巫女をドン引かせるとは、さすが青木。
「おぬしもいい趣味をしておるの」
 皮肉られて、しかし薪は薄笑いを浮かべる。鼻先で嘲笑うように嘯いた。
「そういうセリフを真顔で言えるのが青木だ」
「いやあ。それほどでも」
「褒めてないぞ」
「え」
 青木は人の言うことを言葉通りに受け取る。皮肉や厭味は通じないのだ。
 青木のズレ加減とは逆に、狂いっぱなしだった薪の調子は徐々に落ち着いてくる。頭と身体がやっとつながった感じだ。
 じわじわと、廊下の前後から薪たちを挟み撃ちにする形で村男たちが輪を狭める。それを視線で牽制しながら、薪は口を開いた。

「それよりも説明してもらおうか。僕に何をした」
 薪はしきりに青木の変貌を訝しがったが、青木がおかしくなったのではない、なにかされたのは薪の方だ。眼鏡と黒髪しか共通点の無い男を、青木だと信じた。幻覚か、催眠術か、手段は不明だがそれに近いことをされたに違いない。深い催眠効果を得るために、薬物も使用された可能性が高い。おそらくは、昨夜の料理や酒に混入されていた。でなければ、青木が彼らの暴挙を許すわけがない。

「これは驚きじゃ。もう術が切れたのか」
 術、やはり催眠術か。ハツが村民の尊敬を集めていたのは、その特技も一役買っていたのだろう。
「これ、しっかりせい。わしが渡した薬はどうした」
「ちゃんと飲ませました」
 後頭部を擦りながら起き上った青木の偽者は、ハツの問いにそう答えた。薪には薬を飲まされた覚えなどない。でも。
 キスされた後、急激に昂ぶった。もしかしてあのとき。

「ヘンじゃな。あの薬の効果は最低でも半日は……おぬし、もしや身体に欠陥でも」
「失礼だな! ちゃんと出すもの出したぞ!」
「それではなにか、あの短時間で全精力を使い切ったのか。……哀れな」
「やかましい!」
 90歳の老婆に憐れまれるってどんだけだ!
「やれやれ、情けない男じゃ。おぬしに村中の男と交わる役目は荷が重かったかの」
「いい加減にしろ、クソバ、――はっ」
 恐る恐る隣を見ると、苦笑する青木と眼が合った。さすがに、この状況でヤキモチを炸裂させるほど子供ではないか。
「生憎、今日は持ち合わせがなくて」
 そう言って青木はにっこりと笑い、上着の前を広げて見せた。心配したホルダーケースに拳銃はなく、薪が安堵したのも束の間。
「撲殺と絞殺。どっちか選んでください」
 それなら素手でできるね、てそうじゃなくて!

 薪はクスクスと笑いだした。いつもならムキになって止めに掛かるのに、と青木が訝しげに首を捻る。
「いや。青木だなあと思って」
「……褒められてませんよね」
「わかるか」
 正解したから後で褒美をやる、と耳元で囁けば、そういうことだけは勘の良い青木が元気百倍で立ち上がる。

「青木。そろそろお暇するか」
「そうですね」
 ちょっとお借りします、と了解されるはずのない断りをハツに入れて、青木は彼女の手から杖をひったくる。薪と背中合わせになりながら、上段の構えを取った。
 多勢に無勢、そんな常識は彼らには通用しなかった。薪は柔道、空手共に黒帯、青木は剣道4段の腕前だ。昼間畑で逃げの一手だったのは、相手が善良な市民だと思っていたからだ。薪を拉致監禁し、不特定多数の男性との情交を強要しようとした。立派な犯罪集団だ。もう遠慮はいらない。
 薪が手近な男を投げれば、青木が杖を横に払い、3人を一度に薙ぎ倒す。その攻撃に村人たちは、あっという間に浮足立った。剣先の鋭さに怯み、尻もちをつくもの、床を這って逃げるもの。程なく廊下には人が通れるだけの隙間が空き、二人はそこから逃げだした。

「ハツさん、ありがとうございました。杖、お返しします」
 青木は律儀に礼を言ってハツに杖を手渡し、先に走り出した薪に追いついてきた。ハツが呆気に取られた顔をしている。本当に、この男は。
「なんか、物騒な割に手ごたえのない人たちですね」
 そうではない。青木が強いのだ。
 青木は、弛まぬ努力で自分を鍛えてきた。岡部や脇田と言った武術の達人から稽古を受け、庁内の武道大会で歴戦の猛者と闘ってきた。実戦の経験こそ少ないが、その実力は確かだ。長閑な村の農民など敵ではない。

 外の物置に閉じ込められていたと言う青木の道案内に従って、薪は廊下を走った。長い廊下だった。いくつも角を曲がり、数えきれないほどの窓を過ぎ――ふと薪は疑問を感じる。この家はこんなに広かっただろうか。
「てか、長過ぎないか?」
「すみません。迷ったみたいです」
 家の中でも迷うのか。
「おまえの方向音痴は神業だな」

 おかしいなあ、とぼやく青木の目の前に、ごおんと音を立てて壁が下りてきた。慌てて足を止めると、間髪入れずに後ろにも。左は外壁、右にしか活路はない。すたんと障子を開ければ、そこには青木が壊したはずの鉄格子。
「くそ。どうなってんだ」
「やっぱり祟りなんですよ、白蛇の!」
「祟りなんかあるわけないだろ。これはアレだ、最新型の防犯システムだ」
「となると、藁ぶき屋根に見えたのは実は新型の太陽光パネルでそこから電力を」
「第九にも欲しいな。どこの警備会社に頼めばいいのかな」
「株式会社蛇神警備保障とか」
 鬼ごっこも振出しに戻ったわけだが、二人して冗談が言えるくらいには落ち着いていた。どんな状況でも、二人一緒ならなんとかなる。



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蛇姫奇譚(11)

蛇姫奇譚(11)






 鉄の格子を挟んで、座敷牢に囚われの身となった二人と、老婆の会話は続いていた。
 先ほどまでと違っていたのは、そこに敵意を露わにして場を乱す者たちがいなくなったことだ。その分、老婆の言葉は耳に入りやすく、薪はこの村に対する理解を深めていった。

 廊下に座したハツは杖を横に置き、自分は蛇姫に仕える巫女である、とその素性を明らかにした。
 この村は蛇神信仰が古くから浸透した村で、ご神体は蛇姫と呼ばれる女神である。その縁起は、田崎巡査に聞いたものとほぼ一致していた。
 蛇は神の使いであるから、村全体で大切に保護されている。もしもこれを害した者は、その理由の如何に関わらず罰を受けなければならない。罰と言っても命に関わるようなことではなく、一定期間の労働力の提供、つまりは畑仕事に従事すれば許されるそうだ。
「じゃあなんですか。僕たちはあの3匹の蛇を畑の隅にでも埋葬して、その場で冥福を祈ればよかったわけですか」
「そういうことさね。あんたらは余所者やし、村のもんも見逃したかもしれん。畑仕事ができるようにも見えんしの」
「いいや。あの鍬には殺意が籠ってた」
 すっかり疑り深くなった薪はブチブチと愚痴り、胡坐の膝に肘を置いて頬杖をついた。いわゆる、ふてくされのポーズだ。
 あの状況で大人しく捕まるやつなんかこの世にいるか、と薪は思う。しかしそれは何度も修羅場を経験してきた猛者の言い分で、普通の人間は5人もの男に囲まれれば委縮してしまうものだ。
「じゃがの。白蛇を殺めたおぬしらに、それは通じん」
 死をもって償うか、蛇姫の勤めを果たすか。どちらか選べと巫女は言ったが、どう考えても答えは後者しかない。

「あの。蛇姫の仕事って、具体的に何をすれば」
「村の男たちの夜伽の相手じゃ」
 なんだそのエロ神設定は。
 まあ正直なところ、薄々は感づいていたのだ。ハツが薪を「美しいおなご」と称えた時から、そっち系の宗教かもしれないと思っていた。蛇はセックスシンボルとして有名だし、畑に若い女性が一人もいなかったことから、この村では女性が非常に貴重であることは察しがついた。

「もしかして、さつきさんも?」
「そうじゃ」
 それでさつきはこの村を出たのだ。男の相手を強要される日々が辛くて。
 しかし、ハツにとってさつきは我が子同然ではなかったのか。自分の娘がそんな立場に追いやられたら、親ならきっと。
「あなたがさつきさんを、この村から逃がしたんですか」
「この村は昔からおなごが産まれにくくての。そうでもせんと子孫が絶えてしまうのじゃ。蛇姫の一番大事な仕事は子を産むことじゃ」
 ハツは、薪の質問が耳に入らなかった振りで説明を続けた。しかし薪は、さつきの名前を出したとき、ハツの瞳が切なく潤むのを見逃さなかった。

「残念ながら僕は男です。子供は産めません。畑仕事で勘弁してください」
「いいや。おぬしは次の蛇姫じゃ」
「人の話聞いてます?」
「おぬしはすでに、その身に蛇姫を宿しておる。巫女のわしにはそれがわかる」
「だから男なんですってば。証拠見せましょうか?」
「大事ない。蛇姫になれば男でも子を授かることができる」
「ボケてんのか、ババア」
 田崎巡査も似たようなことを言っていたがそれは単なる言い伝えで、第一、薪は神さまではないから女にはなれない。
「これまでにも蛇姫が男だった時期はある」
 そうきたか。
 女性が少ないと若い男子が代替品になる。刑務所のセックス事情と同じだ。

 薪が苦虫を潰したような顔になると、ハツはやや首を傾げて、
「とはいえ、おぬしは余所者じゃ。長くこの村に留まるわけにもいくまいの」
 巫女の神通力などなくとも薪の心は簡単に読み取れて、するとハツはこちらの事情を慮る態度を示した。相手に歩み寄りの気持ちがあるなら協力するのはやぶさかではない。薪は正直に、残された時間を話すことにした。
「出張は3日間、土曜日までの予定です。翌日の日曜は公休日として、それを過ぎて東京に帰らなかったら上司が僕を探しに来るでしょう」
 小野田のことだ。薪が無断欠勤なんかしたらそれこそ官房長権限で、N県警総動員で捜索に当たらせるかもしれない。ここで薪がどんな目に遭ったかを知れば、ハツも村人たちも只では済むまい。薪のハッタリには多少の真実も含まれているのだ。
「わしも無益な殺生は好まぬし、この村を警官に荒らされるのも困る」
 ふうむ、とハツは皺だらけの顔に更に皺を寄せて考え込んだ。そして膝を正し、改めて薪に向かい合った。
「では3日、いや2日でよい。蛇姫になってくれまいか」
 彼女にしてみれば、これが最大限の譲歩なのだろう。蛇姫の巫女と言う立場上、また薪たちの身柄を預かった手前、このまま自分たちを帰らせたら村人たちに示しがつかない。2晩なら2人の男で済むわけだ。なるべく物分かりのよさそうな大人しい男をハツに選んでもらって事情を話し、致したフリをしてもらう。お礼に歌舞伎町ツアーに招待すると言えば喜んで協力してくれるに違いない。少なくとも薪なら乗る。40歳のオッサン相手に田舎の夜を過ごすより、夜の蝶たる彼女たちと戯れた方が楽しいに決まってる。
 2日間、ハツと示し合わせて蛇姫の仕事に勤しんだ振りをする。ハツにとっても自分たちにとってもベストな選択だ。
 薪は心を決めた。

「わかりました。2日でいいなら」
「2日間、ぶっ通しで励めば村の男たちに一通り行き渡るじゃろ」
 ざけんな。死ぬわ。

 再び凶悪な顔つきになった薪を見て、ハツは首を振った。たるんだ顎に手をやり、ため息交じりに、
「どうしてもおぬしがそれを断ると言うなら」
「言うなら?」
「下に落とすまでじゃ」
 下、と言われて視線を落とした薪を、青木が手招きした。端により、真ん中の畳を持ち上げる。現れた敷板を1枚外すと、5メートルほど下方にうじゃうじゃとうごめく大量の蛇が。
「おぬしらの血肉がこやつらの血肉になり、新しい蛇姫が誕生するであろう」
 ハツが立ち上がり、鉄格子の左側の壁に手を付いた。おそらく、そこに座敷牢の床を抜くスイッチがあるのだ。
 思わず青木を見た。このままでは2人とも殺されてしまう。青木は反対するだろうが、ここはひとつ――。

「薪さん。言うことを聞きましょう」
「えっ?」
 それ以外の選択肢がないことは分かっていた。でも。
「……いやだ」
「お気持ちは分かりますが、殺されるよりはマシです」
「い・や・だ!」
 薪は拒絶の言葉を繰り返した。
 それは自分から言い出すことで、青木から言われることではないと思った。彼の命が係っているのなら他の男と寝ることなんか今更なんでもない、だけど。
「青木、おまえ本当におかしいぞ。やっぱり、何かされたんじゃないのか」
 恋人の貞操に命を懸けて欲しいなんて思ってない。それは利口な人間のすることじゃない。薪が逆の立場なら同じことを言ったはず。なによりも相手の命を救うために。

 ただ、青木なら。
 違うことを言うんじゃないか。

 こういう場合、薪が考え付かないような答えを導き出すのが青木で、それは時に常識外れで実現不可能な狂人の妄言と何ら変わりのない夢物語であったりするのだけれど、彼のそんな飛び抜けた発想が天啓となって、薪の頭に完璧な計画が下りてくる。今まではいつもそうだった。だから納得できない。追い詰められて、薪が尤もだと思うことを言う青木なんて。

 ぷいと横を向いた薪に青木は少し困った顔をして、それでも薪が背を向けたままでいると、果たして鉄格子の向こうにいる人物に呼びかけた。
「ハツさん、二人きりにしてください。オレが説得しますから」
 説得だと?
 ますますおかしい。薪が、言って聞くような人間かどうか青木が一番解っているはずだ。言葉なんかで薪の心は動かない。その限界を、虚しさを、残酷なまでに見せつけられてきたから。

「2時間もすれば最初の相手が此処に来る。それまでに納得させるんじゃな」
 ハツが奥へ引っ込んだのを確認し、青木は薪の背中に語りかけた。
「二晩だけ我慢すれば、後は自由になれるんですよ」
 そう言いながら薪を後ろから抱き締める、恋人をまるで別人のように感じる。
 僕は青木を見損なっていたのか? いや、そんなはずはない。では青木も成長したのだろうか。成長して、なにが大事なのか見極められるようになった。付き合い始めたときには20代前半だった青木も30近いのだ。恋にのぼせあがる時期もとうに終わって――。

「お願いですから。聞き分けてください」
 なんだ、その言い方。僕が頭悪いガキみたいじゃないか。
 今日の青木は可愛くない。あれって本当だ、バカな子ほどかわいいってやつ。
「いいのか。僕が他の男に」
「大丈夫ですよ。あなたが誰に抱かれても、その後でオレがこうしてあなたを愛してあげます。そうすればあなたはオレのものでしょう?」
「モノ?」
 かちん、ときた。なんだか青木の言うことがいちいち引っ掛かる。あれかな、倦怠期ってやつかな。

「薪さん。愛してます」
「よせ、こんなところで。んっ」
 強引にくちびるを奪われた。手で顎を掴まれ、口を開けさせられる。捻じ込まれた舌先は、粘液に包まれた軟体動物のように薪の口の中で動いた。
「んうぅ、――」
 混ざりあった二人分の唾液が喉奥に流れ込む。こくりと薪の喉が鳴った。

 シャツのボタンを素早く外して胸元に滑り込んできた指先が、迷いもなく突起を捕える。捏ねられて、じんと腰の辺りが痺れた。固まった隙に上半身を剥かれる。露出した肩から首の周辺を青木の舌が濡らしていく。蛇がくねるように、快感が薪を這い上がってくる。
 自分でも信じられないくらい。急激に昂ぶった。
 彼の舌の動きはいつも薪を夢心地にさせたけれど、今日のそれは普段とは比べ物にならなかった。他のことを考えることができない。いま自分が置かれている状況とか、こんな場所でことに及ぶことの愚かしさとか、いつも薪を縛るそれら理性的な判断が暴力まがいのスピードで霧散した。平たく言うと、勃った。
 布の上から触られるのがもどかしくて、自分でベルトを外した。前を開いて彼の手を導く。彼の手で自身を擦り立て、最後は彼に抱きついて果てた。吐精後の倦怠に包まれながらも、薪の中に生まれる絶大な違和感。
 おかしい。まだ昼間、しかも他人の家。こんな状況下で欲望が抑えられなくなるなんて。
「この話、期間限定公開だっけ」
「は?」
「いや。こっちの話」

 力の抜けた薪の身体を、青木は畳の上に延べた。ズボンを脱がせ、脚を抱え上げる。
「薪さん。いいですよね?」
「待て。やっぱりなんかおかしい」
 青木がムッと眉を顰める。ここまできてお預けはないだろう、と言いたげだ。
「自分はイッたくせに。ずるいです」
「そんなの、今に始まったことじゃないだろ」
 一回抜いたら頭が冴えてきた。
 絶対におかしい。何がおかしいって、自分の旺盛な性欲もさることながら、青木のこの強引さは何だ。確かに青木はケダモノみたいなやつだけど、本気で嫌がる相手を押し倒したりしない。絶対にしない。
 力で自分を抑えこもうとする恋人に、薪は必死で抵抗する。でも身体に力が入らない。秘部に宛がわれたものの熱さは青木の焦りを物語っていたけれど、それを受け入れることは容易かったけれど、膨らんだ違和感が薪を躊躇わせる。

 ――この男は本当に青木なのか?





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蛇姫綺譚(10)

蛇姫綺譚(10)





「なんと言うことじゃ。おぬしのような余所者が次の蛇姫とは……しかし、これも蛇姫の神意」
 次の蛇姫? え、だれが?

「認めませぬぞ、婆さま!」
 薪が疑問を口にするより早く、周りの男たちによってハツの言葉は否定された。口火を切ったのは、畑で薪に鍬を振り下ろした若者だった。他の者たちも怒りに顔を紅潮させ、次々と老婆に詰め寄った。
「そうじゃ。この者は余所者ではないか」
「天命を授かった者が為すべきことを、この者が横取りしただけじゃ。こいつが、生まれるはずだった蛇姫を殺したんじゃ」
 殺すとか殺されるとか、蛇の話でしょ? どうしてそんなに目を血走らせてるの、きみたち。

「こいつを殺してしまおう。さすれば正しい蛇姫が誕生なさるに違いない」
「その通りじゃ。殺してしまおう」
 なんでそうなる!!
「コロセ!」
「殺してしまえ!」
 村人たちの剣幕に、捕虜たちは顔を見合わせる。先刻の薪のフカシに対する言葉の暴力だと思いたいが、それにしては鉄格子の間から突き殺せだの、そのための槍を取ってこいだの、脅し文句にしては内容が具体的過ぎた。
 喧々囂々と物騒な言葉が飛び交う中、竹の先端を斜めに切って尖らせた竹槍の束を抱えて一人の男が廊下を走ってきた。思わず後ろの壁にへばりつく。あれで刺されたら超痛い、てか死ぬだろ。

「青木、おまえのせいだぞ。なんとかしろ」
「え、オレのせいなんですか? どこらへんが?」
 大袈裟な脅し文句で必要以上に村人たちを追い詰めたのは薪のはず。いったい自分の何処にこの状況を招いた原因があるのかと、首を傾げる青木に薪は強い口調で、
「一般人に簡単に拉致られるおまえが悪い」
「いえ。彼らに拉致されたわけじゃなくて、オレは」
「うるさい、捕まっておきながら熟睡しやがって。僕がどれだけ心配したと思ってんだ」
 村人たちの剣幕に焦るあまり、ぺろっと本音を喋ってしまった。慌てて口を手で塞ぐが、言葉も時間も戻せない。薪の失言に、もしも隣の男がニヤけた面をしていたら記憶が飛ぶまでぶん殴ってやろうと拳を固めて横目で見れば、青木は、青白い顔で穏やかに微笑んでいた。

 薪は妙な気分になった。
 自分たちは殺されようとしている。この状況で顔色が悪いのは当たり前かもしれないが、青木は意外と図太いのだ。今まで何度も死地を潜り抜けてきた、そんな中でも、零れ落ちた薪の好意にはこちらがドン引くほど感動する青木を見てきたせいか、少し拍子抜けしたのかもしれない。
「ていうかおまえ、本当に身体大丈夫なのか。顔色悪いぞ」
「この状況で青くなるなって方が無理ですよ」
「違いない……さて、どうするかな」
 薪が悩んだのは3秒ほど。次の瞬間には彼はもう堂々と胸を張って、鉄格子の向こうの村人たち相手にネゴシエイトを始めていた。

「みなさん。私なら蛇姫を生き返らせることができます」
 どよどよとざわめき出す村人たちの目を盗み、青木がこっそりと薪に尋ねる。
「そんなことできるんですか?」
「簡単だ。東京から似たような蛇を買ってくればいい」
「それは生き返らせるとは言わないんじゃ」
「青木。信仰と言うのは人々の心の中で生き続けるものだ」
 尤もらしいことを尤もらしい口調で語る薪には、朴訥な村人たちを騙る罪悪感の欠片もない。彼には目的のためには手段を選ばない、冷徹な断行者の一面もある。

「嘘を吐け。そんなことができるものか」
 薪の二度目の交渉は簡単には進まなかった。先刻の暴言もさることながら、最初の交渉で、代わりの蛇を用意すると手の内を晒してしまったことが失敗の原因だった。しかし、これくらいで引き下がる薪ではない。
「嘘ではありません。蛇姫を信仰するみなさんなら、蛇の生命力が強いのはご存知でしょう。彼らは頭を潰されても数時間生きることもあるそうです。つまり、死んで間もない今なら最先端の医療技術をもって彼女を生き返らせることが可能なのです」
 顔を見合わせ始める村人たちの死角で、青木がまた薪に耳打ちする。
「可能なんですか?」
「できるわけないだろ。なに寝ぼけてんだ」
 嘘を吐いた数だけ、人は地獄で舌を抜かれるそうだ。それが本当なら何回責め苦を受ければいいのか想像もつかない、だけど青木の命が懸かっている。良心などクソクラエだ。

「彼女の遺体は私たちが埋葬しました。その場所は我々しか知りませんし、この辺りの地理に疎い私には言葉で説明することもできません。蛇姫を救うためには一刻も早く私たちをここから解放し、彼女の蘇生措置をさせることです」
 時間の制約を付けて相手を焦らせる、詐欺師の常套手段に村人たちの態度が変わった。万が一、相手の言うことが本当だったら、自分たちが蛇姫の復活を妨げてしまうことになりかねないのだ。
 どう思う、おまえはどうだ、と他人の意見を求める声が上がる中で、試しにやらせてみては、と誰かが言い出す。薪は表面は深刻な表情を取り繕い、心の中でほくそ笑んだ。
 そのとき。

「嘘です」
 弾劾する声は、薪の隣から発せられた。信じられない思いで恋人を見る。
「似たような蛇を買ってきて、代わりにするつもりだそうです」
「な」
 何を言う、と薪が言葉にするより早く、村人たちの怒号が津波のように押し寄せた。殺気立って竹槍を構える男たち。薪は咄嗟に青木の前に出て、彼を奥へと押しやった。

「待てい! この者は次の蛇姫ぞ!」
 逸る男たちを諌めたのは、巫女姿のハツであった。彼女の一声で男たちは一歩後ろへ退く。身体は小さくともさすがの威厳だ。山姥そっくりの顔立ちも、彼女のカリスマ性を引き立てている。
「しかし婆さま。こいつは」
「黙らっしゃい。この者は白蛇の死に立会い、次に使いの3匹の死に立ち会った。それが何よりの証拠じゃ」
 言っていることの意味は全然分からないが、彼女が薪の命綱であることは分かった。絶体絶命の薪の前に垂らされた蜘蛛の糸。薪は心の中で彼女に賛辞を送った。こうして見れば山姥なんてとんでもない、気品に溢れたご婦人じゃないか。
「白蛇は蛇姫の化身。後続の前にのみその姿を現し、自ら命を絶つ。お供の蛇たちは、あの世で蛇姫の世話をするために後を追って死ぬ。その際、次の蛇姫の前に後事を託しに現れると言う」
 話し方も落ち着きがあって、声にも張りがある。背中もそれほど曲がってないし、90才との話だったが70、いや、60代でも通る。独り身らしいし、ここをうまく乗り切れたらお礼に男性を紹介してもいい。部下の中から選ぶなら見た目年齢が近い山本とか、あ、山本は奥さんいたんだっけ。じゃあ年上好きの小池辺りで。

「すべて言い伝えの通りじゃ」
 ハツの説得は功を奏し、男たちは無言になった。そうか、なるほど、などと頷く者も出てきている。これで上手く行けば自分たちは助かる。彼女は命の恩人だ。
「それに」とハツは意味ありげに薪を見る。その視線に薪は彼女の温情を感じた。なんなら竹内に頼んでスペシャルな一夜を経験させてやってもいい。あんな奴に頭を下げるのは業腹だが、この場を凌げれば彼女には2度も命を助けられることになるのだ。大恩に報いるためにそれくらいのことは、
「村の娘ではないが、大層美しい女子ではないか」
「ちょっと待てクソババア。だれがオナゴだ」
 ぶち壊し。

「薪さん。ここはひとつ、ハツさんの言うことを聞きましょう。それ以外にオレたちが助かる道はありません」
 女子に間違われて頭に血が上った薪を、青木が冷静に諌めた。確かに青木の言う通り、ここでハツが垂らした糸を切ってしまってはデッドエンドが待つばかりだ。
 青木は一歩前に出て、それでもう鉄格子の前に立つ。歩幅の広い彼にとって、この部屋は狭過ぎた。
 鉄格子の隙間から、青木は村人たちを見渡した。彼らの顔つきは未だ険しく、ハツの手前抑えているものの、崇拝する神の化身を殺した罪人を許す気はなさそうだった。
「そう睨まれてはこちらも素直になれません。とりあえず、みなさんは帰ってください。後はハツさんとの話し合いで身の振り方を決めます」
 顔を見合わせる村人たちを、青木は重ねて説得する。
「オレたちはハツさんの決定に従います。嘘は吐きません。さっきも本当のことを言ったでしょう?」
 その言葉で、村人たちは納得したようだった。二人の処分が決まるまで奥の部屋で待機を、とハツに命じられ、廊下の奥に消えて行った。青木が薪の嘘を暴いたことが結果として吉と出たわけだが、薪はなんだか腑に落ちなかった。薪を悪者にするなんて、そんなやり方は青木らしくない。

「青木。おまえ」
 言い掛けて、薪は口を噤んだ。見上げた青木の横顔には表情がなかった。いつだって脳内思考ダダ漏れの男が、どうしたことかと驚いたのだ。
 薪に言葉を失わせたことを知ってか知らずか、青木はよく通る声で老婆に話しかけた。
「やれやれ、やっと静かになりましたね。ハツさん、お話の続きをどうぞ」


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蛇姫綺譚(9)

 おはようございます。
 続きです。




蛇姫綺譚(9)





 酷い頭痛で眼が覚めた。
 痛む箇所に手をやろうとして気付く。身体が動かない。手だけではなく、脚も腰も。手首と足首に違和感がある。口にも。どうやら口にテープを貼られ、手足を縛られて床に転がされているようだ。
 暗さに目が慣れてきて、ようやくそこが物置であることが分かる。客間に布団なんて贅沢は言わないが、この扱いはひどくないか?

 薪は口封じのテープの下で苦しい呼吸を繰り返しながら、身体を丸めた。高い柔軟性を活かし、後ろ手に縛られた両手を足下を通して前に持ってくる。指先だけで口のテープを苦労して剥がし、手首を拘束する布紐に噛みついた。幸い、老人の力で縛ったらしい紐はすぐに解けた。
 身体の自由を取り戻し、起き上がって頭を振った。縛られていたせいで固まっていた身体を動かしてみる。酒を過ごしたときのような酩酊感は残っているが、他に怪我はしていないようだ。
 脱出を試みたが、当たり前のように扉に鍵が掛かっている。スライド式の木の扉は、いくら力を入れても開かなかった。

 やられた。
 薬を盛られて、縛られて、閉じ込められた。証拠はないが、あれだけの酒で悪酔いするはずがない。何らかの薬物が混入していたと考えるべきだ。

「ふー」
 一息吐いて、薪はぎゅ、と拳を握りしめた。脚を開いて腰を落とす。目前の扉の板部分に、大嫌いな男のいけ好かない顔を思い浮かべた。
 くん、と身体を回し、回転のエネルギーを足先に込める。ドゴッ、と鈍い音がして、扉がレールから外れた。もう一丁、と薪は大嫌いな男の顔をガンガン蹴り飛ばす。やがて扉は、盛大な音を立てて外側に倒れた。
「思い知ったか、竹内! 早く雪子さんと離婚しろ!」

 薪が大いに勝どきを上げた時、幾つもの足音が廊下に響いた。扉を破るのに遠慮なく音を立てていたから、異変に気付いてやって来たのだろう。
 その面子には見覚えがある。昨日、畑で薪を襲った農夫たちだ。では、ハツは彼らの仲間だったのか。
 見かけによらない薪の強さに驚いたのか、農夫たちは眼を丸くして、
「あっ。手足を縛っておいたのに、なぜ」
「どうやって扉を」
「「「竹内ってだれ?!」」」
 なんで3番目の質問が一番多いんだよ。
「こう見えても空手は黒帯でな」
 どの質問に答えるべきか迷ったが、この場面で効果的だと思えた2番目の質問にだけ答えて残りは黙っていることにした。特に3番目はメンドクサイ。

「ハツさんは、あなた方の?」
「婆さまは蛇姫の巫女じゃ。おまえらは婆さまの術に掛かったのじゃ」
 巫女だの術だの、薪には男たちの言っていることが分からない。方言てむずかしい。
「どうして僕がこんな目に遭わされるのか、分かるように説明していただけませんか」
「なにを白々しい」
「そうだ、あれだけのことをしておいて」
 彼らの顔触れからして、思い当たることは一つしかない。ボンネットの中で死んでいた蛇の件だ。

「要するに、僕たちが蛇を殺してしまったことが原因なんですね? わかりました。後で同種の蛇をプレゼントします。それで勘弁してください」
 地域信仰を余所者に強要して暴行を加えた上に監禁するなど犯罪に限りなく近い、というか犯罪そのものだと思うが、薪は謙虚な態度を崩さなかった。ここで権力を振りかざすような真似をしたら捜査協力が得られなくなる。
 そこまで下手に出ても、彼らの怒りは静まらなかった。「ふざけるな!」と薪の提案を一蹴し、だん! と廊下を踏みならす。昨日のように農具で脅されることこそなかったが、家の中でなければ鎌が飛んできそうな按配だ。

「大丈夫ですよ。東京のペットショップなら種類も豊富です。色もサイズも選び放題で」
「使いの蛇は、蛇姫が御自ら選ぶんじゃ!」
「そうだそうだ! 人間が選ぼうやなんて思い上がりも甚だしい」
 怒らせてしまった。安易に代わりを手配しようとしたのが逆鱗に触れたようだ。ここは素直に謝ってしまうに限る。
「皆さんのお怒りは尤もです。十分反省していますから、どうか穏便に」
 頭を下げた、薪の視界の右奥に色褪せた畳が映った。そこに青白い顔で仰向けに横たわった男の姿。それを見た途端、薪の態度は一変した。

 声にするより早く身体が動いた。
 彼のもとへ走る動線で、邪魔になった男を二人、足払いを掛けて転ばせた。薪を止めようと肩に手を掛けた男には、一本背負いを喰らわせた。
 突然人が変わったように乱暴になった薪に、男たちは怯んだ。所詮は農民の集まりだ。武道に精通した警察官に勝てる道理がない。

 薪は素早く彼の傍らに膝を付き、彼の顎の下に手を当てて脈を確かめた。力強く、規則的な律動。気を失っているだけだと分かってホッと胸を撫で下ろす。
「青木、起きろ」
 声を掛けたが、青木は眼を覚まさない。揺すっても起きない。面倒になってひっぱたいた。
「あ、薪さ……(パン!)ちょ(パパン!)い、痛っ(パパパン!)」
 うえええん、と青木の泣き声がして我に返った。
「どうした青木。どこか痛むのか」
 頬を押さえて涙を浮かべる青木の様子に、薪の怒りは瞬く間に甦った。振り向いて叫ぶ。
「おまえたち、彼に何をした!」
「「「ええー」」」
「青木は僕のボディガードだ。おまえらごときに遅れを取る男じゃない!」

 鋭い叱責と共に薪が勢いよく立ち上がると、上方からガラガラッと大きな音が響いた。重量を感じさせる音に、咄嗟に身を引く。
「な、うわっ」
 ズウン、と重い地響きを伴って、鉄製の格子が薪と村人たちを分断した。ハッとして周りを見れば3畳ほどの狭い部屋。三方は石造りの厚い壁。
 しまった。閉じ込められた。

「ほほほ。ネズミがネズミ取りに引っ掛かりおった」
 悠然と男たちの前に現れたハツが、憎々しげに言い放つ。昨夜と同じように家の中でも杖をついている彼女はしかし、昨夜の割烹着姿とは打って変わって白い羽織に赤い袴の、いわゆる巫女の出で立ちであった。
 ギリッと奥歯を噛み、薪は射殺すような目つきで彼女を睨んだ。
「もう一度訊く。彼に何をした」
 こう見えても青木は強い。特に剣道は4段の腕前で、猛者揃いの武術大会でも3位入賞を果たすほどなのだ。殴られたか薬を盛られたか、何かされたに違いない。
「おまえを人質にしたら、儂らの言いなりになった。バカな男だ」
 他ならぬ自分が彼を窮地に陥れたのだと、聞かされれば薪の怒りは易々と沸点を超え、心のリミッターを粉砕する。俗に、堪忍袋の緒が切れた、と言う現象だ。

「バカはおまえらだ」
 ふっ、と薪は笑った。
 その微笑は暗く、冷たく。瞬時にして周りの空気が凍りついていくような錯覚を人に与える。海千山千の捜一の連中すら震え上がる第九室長のブリザード。純真な農民など瞬時に凍る。
「これがなんだか分かるか」
 薪は上着の襟に付いているバッジを親指と人差し指で挟み、つまみ上げて村人たちに見せた。
「これは緊急用の発信機でな。これを押せばすぐさま、警官隊がこの村を包囲する。そうなったらおまえら全員犯罪者だ。一生地下に閉じ込めて強制労働だ」
 嘘八百にゼロを3つほど割増して、薪の二枚舌が軽快に動く。こういうときの薪は実に生き生きとしている。

「う、嘘だ。そんなことできるわけが」
 畑で警察手帳を見せているから、薪が本物の警官であることはみな知っている。警察の人間が嘘を吐くと思わないのが農民たちの良いところでもあり、残念なところでもあった。
 ハッタリを武器に、薪は傲慢に腕を組む。他人を見下す王者の視線で、
「そのためのSITだ」
 SITは傭兵部隊ではない。
「おまえたちを強制連行した後、村ごと焼き払ってこの村を日本地図から消してやる」
 テロリストでもない。

 眠りから覚めたばかりでしばらくの間ぼうっとしていた青木が、ようやく自分の役目を思い出したのか、完全な悪役と化した薪を慌てて諌めた。
「薪さん、ちょっと落ち着いて」
「おまえは黙ってろ」
 薪は一旦キレると手が付けられない。こんな脅迫まがいのことをして後で困るのは薪の方だと、耳打ちする青木の言葉など耳に入るわけもなく。細い指先がためらいもなく発信機のボタンを押下するのに、村人たちがハッと息を飲んだ。

「もう我慢ならん。こんな連中はまとめて刑務所に、……あれ?」
 不思議そうな顔になって、薪はそのボタン電池のような装置を見つめた。平面に埋め込まれた粟粒大の赤ランプ、救難信号が発信されればこれが点灯するはずなのだが。
「発信機が動かない」
 ここは携帯電話も使えない村だが、この発信機は衛星通信だ。アンテナは関係ない。
 押しても押してもランプが点かない救援グッズに、薪はちっと舌打ちし、
「肝心な時に」
 普段から作動テストをしておけばよかった、と小さな声で零した。

 どうやら応援は来ないと分かって、村人たちが俄然勢いを取り戻す。薪の脅すような態度に反発を覚えたのか、彼らは口々に荒い口調で喚き始めた。
「天罰じゃ。蛇姫さまの怒りを買ったのじゃ」
「これでおまえらもおしまいじゃ」
 憤る村人たちを代表して、ハツが厳かに告げた。
「おぬしらには裁きを受けてもらう。この村で蛇殺しは重罪、それも3匹とあっては刑は免れん」
 彼女が森で薪たちを助けてくれたのは事実、しかし身柄を拘束されたのも事実だ。村人たちの言が本当なら、あの森で迷ったのも彼女の仕業ということになる。巫女の神通力とやらをそこまで信じる気にはなれなかったが、彼女が青木を何らかの手段で強制的に眠らせたことは間違いない。彼女は敵だ。

「4匹だ」
 薪は鋭く言い返した。
「この村に入る前に、白い蛇を一匹轢き殺した。合わせて4匹だ」
「な、なんじゃと!」
 ぎょっ、と老婆は眼を剥いた。白髪を振り乱し、わなわなと手を震わせる。その狼狽が伝播したように、男たちも騒然となった。思わず廊下に膝を着くもの、両手を組み合わせて天に祈る者、中には泣きだしてしまった者もいる。面白いからもう2、3匹轢いたことにしておけばよかった、などと薪が意地の悪いことを考えていると、ハツが突拍子もないことを言い出した。
「なんと言うことじゃ。おぬしのような余所者が次の蛇姫とは」



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蛇姫綺譚(8)

 先週の入札、めでたく落札いたしまして。書類作成に追われる毎日となりました。
 多分、来月の頭には現場に出ることになると思います。そうしたらまた月の更新回数は一桁になってしまうと思いますが、どうか気長にお付き合いくださいませ。

 この話、あと10章くらいなので今月中に終わらせ、られるといいなあ。
  


蛇姫綺譚(8)





 家の中は外観を裏切らない造りで、それは大いに薪を喜ばせた。なんと、部屋の中に囲炉裏がある。山間のホテルに泊まった際、ラウンジで囲炉裏のオブジェを見掛けたがそれは飾りに過ぎず、こうして実際に湯を沸かしたり汁物を温めたりして使うのは初めてだ。薪が興奮するのも無理はない。
 夕餉の膳は庭の野菜と、森の中で採れた山菜を中心とした質素なものだったが、これまた薪は大満足だった。煮付けや和え物と言った料理法のため色合いはカラフルとは言い難いが、素材は新鮮で滋味に溢れており、街中のレストランよりよほど美味しく感じられた。

 残念ながら、肉が好きな青木には物足りないようだったが――いや、実は老婆は肉も出してくれたのだ。しかしそれは青木の口に合わなかった。正確には、途中までは喜んで食べていたのが、
「このお肉、美味しいですね。鶏肉ですか?」
「それはカエルの肉じゃ」
 という会話の後、箸が止まってしまったのだ。
 森の中、老婆が一人で自給自足に徹すれば、動物性たんぱく質の摂取ルートは限られる。話を聞くと罠で野鳥や野兎を捕えることもあるそうだが、運と天気に左右される。ここ2,3日、森は雨続きだったそうで、その中で貴重な肉を客人のために出してくれたのだ。食べないのは申し訳ないと思い、薪も勇気を出して口にしてみた。意外と旨い。鶏のささみ肉のような食感で、鶏よりも舌触りが滑らかだった。
「ダメですよ、薪さん。お腹壊しますよ」
「おまえ、さんざん食っておいて今更。カエルはフランスでは高級料理だぞ」
 とはいえ、部位によっては少々生臭い。一切れ食べて箸を置き、薪は「ごちそうさまでした」と頭を下げた。

「お世話になっておきながら、自己紹介もまだでしたね。僕は薪と言います。東京で公務員をしています。こちらは青木。僕の部下です」
 食事の後、口の中を白湯で流して、落ち着いて考えてみたらちゃんと挨拶をしていなかった。遅れた自己紹介に老婆は、「わしはハツじゃ」と名前だけを名乗った。
「東京の人かいの。こんな田舎まで、何しに来んさった」
「宮原さつきという女性について調べています」
 薪は恩人の質問に素直に答えただけで、老婆からの情報を期待したわけではない。しかし老婆は意外なことを言い出した。

「さつきがどうかしたんか」
「え。ご存知なんですか」
「さつきは森の子じゃ。20年間、わしが育てたんじゃ」
「森の子?」
 森の子、つまり捨て子ということらしい。さつきが養女だったことは田崎巡査から聞いたが、宮原家はさつきの戸籍上の親になったに過ぎず、彼女は森に住む老婆に育てられたのだった。本当の親が分からないわけだ。

 この森は『迷いの森』と呼ばれるほどに迷いやすく、そのため自殺者が後を絶たない。その中には親子心中の目的で訪れる者もいる。が、どうしても我が子を殺すことができず、自分だけが死んでしまう親も少なくない。さつきはそういう身の上の子供で、幸運にもこの老婆に保護されて生きることができたのだ。25年と言う短い人生ではあったが、目も開かない赤ん坊のうちに野犬に食われてしまうよりはずっと幸せだったはずだ。

「そんな恐ろしい森だったのですか。ハツさんに助けてもらえて幸運でした」
 今になってゾッとする思いで、薪は礼を言った。
「僕たちが見つけたご遺体も、やはり自殺だったのでしょう。すでに白骨化していましたが、白いワンピースを着ていました。頭部に長い黒髪が残っていて……若い女性だったのでしょう。惨いことです」
「ほう。おぬしら、あれを見たのか」
 あの白骨死体は老婆も知るところだったらしいが、自分には関係ないと捨て置いたのだろう。ここで世捨て人のような生活を送っている彼女には、人間の死体も動物の死体も同じようなものなのかもしれない。

 が、自分で育てた娘となれば話は別だ。
 薪がさつきの死を告げると、何かしら予想はしていたのであろう老婆は沈痛に目を瞑り、深々と息を吐いた。
「そうか。あの娘は死んだんか」
 そう言って開いた老婆の目に涙はなく、しかし。
「バカな娘じゃ。この村におれば長生きできたものを」
 平坦な声音の中にも老婆の哀惜を感じる。幼い頃の宮原さつきはきっと、老婆の心の糧となったに違いない。彼女が世話になった老婆を此処に残して上京した経緯は不明だが、他に頼る者とていない厳しい森の暮らしの中で、実の母娘以上の絆が二人の間に培われたであろうことは察しがついた。
 だから断れなかった。

「一献、付き合うてくれんかの。さつきの通夜じゃ」
 薪は、ハツの盃を受けた。
 ひどく生臭い酒だった。
 小さな盃をなんとか飲み干したが、ひどい悪心に襲われた。頭がガンガンする。昼間の熱中症がぶり返したみたいだ。

「ハツさん、これは」
 なんの酒ですか、と薪の質問は声にならず。思いがけなく床に横たわった薪を、青木が抱き起した。その姿が暗く霞んでいく。
 意識を手放す直前、森の中で見つけた白骨死体の幻が見えた。骸骨は、宮原さつきの顔をしていた。




テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

蛇姫綺譚(7)

 薪さんの年齢が公式発表されましたね。
 2066年で39か40、なんですね。男爵の方が1こ年上ですね。←なんじゃそりゃ。

 あのねっ、
 警察のキャリアって、(現行制度だと)入庁前に6ヵ月程度の警大研修があるんですよ。で、青木さんが第九に来たのは2060年の1月、てことはその時には23才になってるはず。薪さんは青木さんより12歳年上だから、2060年で35歳。その設定で書いてしまったもので、うちの薪さんは2066年には41歳に……。
 書き直し無理なんで、もうこのまま。ごめんなさい。




蛇姫綺譚(7)





 目覚めた時には完全に迷っていた。

 薪が気絶している間に青木は再び車を走らせ、しかしその道程は全くもって間違っていたらしい。起き抜けの朦朧とした薪の眼に映ったのは、どこまでも重なる樹木の連なりであった。
「何処をどう走ったらこんな場所に着くんだ」
「地図の通りに来たはずなんですけど。おかしいなあ」
「おかしいのはおまえの頭だ!」
 普段の低血圧を今だけは返上し、薪は叫んだ。
 日は暮れかけている。一刻も早く、この森から脱出する必要があった。森の中で夜になったら大変だ。日本の森にだってクマと言う立派な猛獣がいるのだ。

「太陽の位置からしてあっちが西か。地図によると町は東だ。このまま進め」
「オレもできたらそうしたいんですけど」
 前に進むことはできなかった。樹木が密集して道を塞いでいたのだ。では回り道をと後ろを見れば、そこにも生い茂った樹木の集団が。
「いったいどうやってここまで来たんだ!?」
「それがいつの間にか……すみません」
 なんて器用なやつだ。道もない所に車を迷い込ませるなんて、方向音痴もここまでくれば超能力だ。

 薪は車から下りて人里を目指すことにした。青木の話では森に入って間もないそうだから、それほど距離はないはずだ。歩いて抜けられるだろう。お腹も空く頃だし、できれば民家が見つかると良いのだが。一食ぐらい抜いても自分は平気だが、大食漢の青木は可哀想だ。

「行くぞ」
「はい。薪さん、お身体は大丈夫ですか」
「ああ。もうなんともない」
 頭痛と吐き気は治まっていた。だるさも取れた。単なる寝不足だったのかもしれない。でも昨夜は割と軽かったのに――思い出しかけて薪は自分にストップをかけた。青木はまだ20代。今日の遠出のために昨夜こそ一度で解放されたが、一晩に3回も4回も泣かされる夜の方が多いくらいだ。疲れが溜まっていたのだ、きっと。

 森の中を歩くうちに日は急速に傾いて、周囲はどんどん暗くなっていった。
 程なく辺りは木漏れ日の風景から薄闇に変わり、同時に、鳥のさえずる声までが明るく可愛らしい小鳥のものからカラスの不気味なそれに取って代わった。カラスに悪気はないのだろうが、暗い森の中で聞くとどうにも気味が悪い。

 その鳴き声に導かれたわけでもなかろうが、二人は行く手にとんでもないものを見つけてしまった。
「ま、薪さん。これ」
 青木が声を震わせる。それは白いワンピースを着た白骨死体だった。樹の幹を背もたれに、座った形で骨になっている。頭蓋骨には未だ、黒髪が豊かに残っていた。
「事故でしょうか」
「……自殺じゃないかな」
 死体の前に屈み、少し考えて薪は言った。骨だけでは死因も分からないが、少なくとも骨折はない。森の中を彷徨ううちに力尽きたと仮定するには、人里が近すぎる。覚悟の自殺と考えた方がしっくりくる。
「サンダルに素足。こんな軽装で森を歩かないだろ」
「殺して、森に死体を隠したのかも」
「発見を遅らせたいなら埋めればいい。……あった」
 薪は骸骨の、投げ出された右手を覆うように伸びた下生えを掻き分け、それを見つけた。透明の小さな薬瓶。中は空だが、鑑識に回せば何らかの毒物が発見されるだろう。薪はそれをハンカチに包み、上着のポケットにしまった。

「白いワンピースは白装束、ですか」
「おそらくな」
 服装から推察するに、若い女性だったのだろう。可哀想だが、今は何もできなかった。ここから出たら地元警察に連絡をして、ねんごろに弔うよう頼むしかない。
 せめてもの哀悼に、黙祷を捧げた。それから二人は元の道に戻ったが、日は完全に暮れてしまった。

 すぐに出られると思ったのに、誤算だった。ほんの少しとは言っても車の速さは徒歩の10倍だ。あるいは車の中にいた方が安全だったか、と後ろを振り返って薪は焦った。車が見当たらないのだ。
「青木。おまえの背丈でも見えないか」
「すみません。オレ、暗い所はよく見えなくて」
 そうだった、青木は鳥目なのだ。それでなくとも黒塗りの公用車は暗がりでは見つけづらい。昼間ならともかく、日が落ちてからでは無理だ。
「まずいな」
 日が沈んでしまったら、方角もよく分からなくなってしまった。こんなところで猛獣に出くわせたりしたら。熊が出るほど深い森ではなかろうが、野生の猪でも充分に脅威だ。テレビで見たことがあるが、物凄い速さで突進してきて体当たりで金網を破るのだ。あの勢いで激突されたら人間の脚くらい簡単に折れる。

 薪が心配する側から、後ろの茂みでガサリと音がした。
 青木と二人、反射的に身を竦める。茂みを震わす音は次第に大きくなり、こちらへと近付いてきた。無意識に手を取り合う。
「薪さん、逃げてください。さすがにクマに勝てる自信はありません」
「クマの足の速さは時速40キロだぞ。逃げ切れるもんか」
 やがて硬直する二人の前に、それは姿を現した。

「「うわあっ!」」
 見事にハモった二人の悲鳴が森に木魂し、驚いた鳥たちが一斉に羽ばたく。舞い散る鳥の黒い羽と木の葉の向こうに立っていたのは、真っ白い髪を長く垂らし、ぎょろりと目を光らせた恐ろしい顔つきの年老いた女。曲がった腰に杖をついた、その姿はまるで。
「だれが山姥じゃ!」
「「言ってません」」
 力いっぱい思いましたけど。

「し、失礼しました。地元の方ですか?」
 バクバクする心臓をなだめすかし、薪は老婆に尋ねた。老婆は曖昧に頷き、薪の足元辺りを胡乱そうな眼で見つめた。老婆の視線を辿ってみると、青木が腰を抜かして地面にへたり込んでいた。なんて度胸のない男だ。
「おぬしら。迷いんさったか」
 はい、と薪が頷くと老婆はくしゃりと顔を歪め、どうやらそれは笑いの表情であるらしい。クツクツという控え目な笑い声が彼女のたるんだ顎の下から聞こえてきた。
「この森は迷いの森じゃ。案内無しには抜けられんから、死にたがりも大勢押し寄せる。そういう連中は放っておくが、おぬしらは違うようじゃの」
 ついと踵を返し、老婆は薪たちの前に立った。袴のようにゆったりとしたズボンに割烹着姿。妙に迫力のある老婆だが、出で立ちから察するに農婦のようだ。
「付いてきんさい」

 後を追おうとして、青木に手を掴まれた。まだヘタってるのか、置いていくぞと薪が脅せば青木はぶるぶると首を振り、
「行っちゃダメです」
 なにを戯けたことを。ここで彼女に助けてもらわなければ、野宿確定ではないか。
「なに言いだすんだ。今の状況、分かってんのか」
「だってあの人、人間じゃないですよ」
「おまえ、失礼だぞ。確かに彼女のビジュアルは人間離れしてるけど」
「人間離れしてるのは薪さんも一緒ですけど、そういう意味じゃないです。あの人は――、待ってくださいよ、薪さん」
 ビビリ男の戯言なぞ放っておくに限る。薪はさっさと老婆の後に着いて歩き、すると予想通り、青木も後ろを着いてきた。

「ありがとうございます、助かりました。お婆さんはこの森にお詳しいようですね」
「当り前さね。わしはこの森に90年も住んどるんじゃ」
「90年? お元気でいらっしゃる」
「独り者じゃからの。元気でないと生きていけぬわ」
 こんなところに老婆が一人で? この町の福祉体制はどうなってるんだ。
「ご不自由はありませんか」
「案内無しには森も歩けんおぬしらの方が、よっぽど不自由だと思うがの」
 これは一本取られた。いま面倒を見てもらっているのは自分たちの方で、その立場から彼女の生活スタイルに口出しするのは大きなお世話と言うものだ。
「おっしゃる通りです。余計なことを言いました」
「まあ無理もないわ。町のもんには想像もつかん不便な生活じゃからの」
「いえそんな。僕は割と昔から田舎暮らしには憧れてて」
 そんな風に薪と老婆は和やかに話しながら歩いていたが、青木は一向に固い表情を崩さなかった。警戒心いっぱいの声音で老婆に向かって、
「森の出口まで案内してもらえれば、そこまででけっこうですから」
 よっぽど老婆の登場の仕方が怖かったのか、青木にしては心無い言葉だった。救いの手を差し伸べてくれた相手に礼も言わないなんて。

「年寄りの眼と足じゃ。明日、明るくなってからでないと案内はできん」
 青木は一刻も早く森を抜けたかったのだろうが、老婆の言い分も尤もだ。彼女も家路に着く途中だったのだろうし、自分たちと別れてから森の中に帰らせるのは逆に心配だ。
「薪さん。やっぱり引き返しましょう」
「行きたきゃ一人で行け、バカ」
 青木はとても困った顔をしたが、暗闇の中、その表情は薪には見えなかった。結局、青木は薪の言葉に従った。

 老婆に導かれた二人は、森の奥へと入って行く。聞こえてくるのは葉擦れの音と、目覚めたばかりのフクロウの鳴き声。暗闇に沈む森の中、ぼんやり灯る提灯の明かり。それはなんとも風情のある日本の夏の夜だった。

 やがて3人は、寂れた古民家に到着する。そこが老婆の家らしい。
 老婆は一人暮らしとの話だったが、それにしては大きな家だ。所々に雑草の生えた重そうな藁ぶき屋根を、自然の形を残した丸太柱がしっかりと支えている。壁も扉も木造りで、コンクリートや鉄筋の類は使われていない。庭には小さな畑があり、自分が食べる分の野菜はここで作っているようだ。その隣には納屋がある。農作業に使う道具や肥料などが置いてあるのだろう。

 日はとうに暮れたのに家に灯りは点いておらず、しかし老婆は迷いなく家の扉を開けて中に入った。
「今夜は泊っていきなんし」



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しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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