Revenge of the monster(1)

 こんにちは。

 こちら、モンスター事件の後日談その1でございます。
 題目はモンスターの逆襲。
 



Revenge of the monster(1)





 ポーンという軽い音が来訪者を報せた。

 青木が帰って来たな、と思うが早いか、クローゼットの入口に大男の影が差す。相変わらず鼻が利く男だ。
「おかえり」
「薪さん、ただ、ふごっ」
 手が伸びてきたから反射的に蹴ってしまった。謝ろうかと思ったが、やめた。学習しないこいつが悪いのだ。
「洗濯物がシワになるからよせって、昨日も注意しただろ」
 アイロンの掛かったシャツをクローゼットハンガーに引っ掛けながら、薪は冷たく言い放つ。甘い顔をしていたら相手を付け上がらせるだけだ。

「そんなのオレがやります。薪さんはゆっくり休んで――、ああ、こんな普段着ないシャツにまでアイロン掛けちゃって。あっ、またシーツ洗ったんですか? 3日前に洗ったばかりでしょ」
 口うるさい母親のようにクローゼットの中を点検し始めた青木を置いて、薪はリビングに戻った。居室を通り抜けてキッチンに入り、お腹を空かせているに違いない彼のために、好物のビーフシチューを温める。
 こうすればシチューの香りに釣られた青木がダイニングに来ると薪は予想して、しかしその計画は失敗に終わった。青木は昨日までと同じように寝室や浴室の点検を優先し、その悉くに文句をつけた。
「ベッドに寝た形跡がない……薪さん、寝てなくちゃダメですよ」
「寝てたさ。いま起きたところだ」
「なに言ってるんですか、帝国ホテルみたいなベッドメイクしておいて。あっ、風呂が沸いてる。風呂掃除はオレが帰ってからやるって言ったのに」
「掃除はしてない。湯を張っただけだ」
「嘘ばっかり。浴槽、つるつるだし、あ、蛇口やシャワーまで磨きましたね?」
 だって暇だったんだもん。

 上着を脱いだ青木はキッチンまでやって来くると、薪からお玉を奪い取った。それから薪をダイニングの椅子に座らせて、ビーフシチューの鍋をくるくるかき混ぜながら、書斎机にあった書類が片付いてるとか食器棚が整理してあるとか冬のコートが出してあるとか、昼間、薪が為した小さな仕事を薪の嘘を証明する状況証拠として論った。
「だから薪さん独りにするの、嫌なんですよね」
 これじゃちっとも養生になってないじゃないですか、と青木はまるで薪に意地悪でもされたみたいに唇を尖らせる。
「このシチューだって、何時間も煮込んだんでしょう?」
 仕方ないだろ。牛スネ肉はダシが出て最高に美味いけど、2時間以上煮込まないと柔らかくならないんだから。
「煮込んだのは鍋の仕事だ。僕は何もしてない」
「灰汁を取るのに、長いこと此処に立ってたでしょ」
 そうしないと味が濁るだろうが。

 否定系の言い訳が通らないことを悟り、薪は作戦を切り替えることにした。テーブルに頬杖をつき、軽く小首を傾げて、
「おまえの喜ぶ顔が見たくて」
 薪がそう返すと青木はお玉を持ったまま硬直し、じーん、と瞳を潤ませた後、何かを振り払うようにぶんぶんと頭を振った。
「ダメですよ。今週いっぱいは養生させなさい、って小野田さんに厳しく言われてるんですから」
 薪は謹慎中である。
 と言っても謹慎は形だけ。実際のところは休養だ。心と身体を労わってあげなさい、と小野田が1週間の休みをくれた。

「僕は元気だ。養生の必要なんかない」
「なに言ってるんですか。本来、入院は明日までの予定だったんですからね。それを自宅療養にしたいって薪さんが我儘言うから、お医者さまにお願いして」
 ひょいと椅子から下り立ち、薪は盛んに動く青木の唇を指先で止める。青木が黙ると指を下方へ滑らせ、つん、と彼の厚い胸を突っついた。
「おまえ以外の男に肌を見せたくなかったんだ」
「薪さんっ――、はっ!」
 ぱああっと笑顔になってから青木は、ばっと身を翻してぶんぶんぶんと頭を振った。「騙されない騙されない」と小声で唱えながらも、彼の足は勝手にタップダンスを踊っている。面白いからもう少し構ってみよう。

「養生――生活に留意して健康の増進を図ること。辞書にはそう書いてあるな」
「分かってるなら実践してください」
「知ってるか、青木」
 シチューを皿に装うとしている青木の大きな背中に、薪はそっと手を添えて、
「セックスって健康にいいんだって」
 青木の手から滑り落ちた皿を、予知能力でもあるかのように難なく受け止めて、薪はそれを青木に返す。皿を手渡しながらニヤッと笑うと、青木が困ったように眉を寄せた。
「どうしてそういう嘘を」
「嘘じゃない。ストレスを解消してホルモンバランスを整える。血行を良くして老廃物の排除を促す。結果、良質な睡眠を得ることができ、疲労回復にも役立つ。いいことずくめだ」
 試験勉強にかこつけて、夜の誘いを断り続けて2ヶ月。もともと淡白な薪は平気だが、青木はそうはいかない。我慢の限界はとうに越しているはず。
「今夜、試してみようか」
 こつん、と背中に額を付けると、薄いワイシャツを通して筋肉の震えが伝わってくる。彼の葛藤が手に取るように分かって、薪は笑いを抑えるのに苦労する。青木は本当に素直な男で、この手の意地悪はいくら繰り返しても飽きない。

 青木はシチュー皿を調理台に置き、おもむろに振り返った。フリーになった両手が薪の肩に置かれる、このタイミングで突き落す。
「さあて、メシにし、お?」
 サッと身体を離そうとする、薪の動きより青木の捕縛は僅かに早かった。膝の後ろをひょいと掬われ、有無を言わさず抱え上げられる。宙に浮いた薪の視線は自然に青木の顔に当てられ、そこに薪は自分の失敗を見つけて青くなる。
 しまった。目がマジだ。

 駆け込むように寝室に向かう青木の腕の中で、薪は儚い抵抗を試みる。
「青木、待て。メシは」
「後でいいです。薪さんの健康が優先です」
 空腹状態で激しい運動とか、全然健康的じゃないよね?
「ま、まずは風呂に」
「後でいいです。薪さんの健康が最優先です」
 感染症の危険があるよね?

「いや、いい! 僕はこれ以上健康にならなくていいから、わぷっ」
 糊の効いたシーツが一瞬でくしゃくしゃになるくらい、殆ど投げ込まれるみたいにベッドに押し倒された。手足を封じられて身動きできない。青木の体重をモロに掛けられたら、細身の薪には到底返せない。
 青木で遊ぶのは楽しいけど、遊び過ぎるとヤケドする。だからこの手の遊びを火遊びって言うんだな、て今はそんな悠長に語源を遡ってる場合じゃない。
「僕が悪かった、勘弁してくれ!」
 謝れば許してもらえる。だって僕は怪我人、明日まで入院予定だった患者なんだから青木もそんな人間に無体なことはしないはず、しないと思いたい、てかしないで、お願い!
「明日からちゃんと安静にする! おまえがいない間は寝室から一歩も出ないようにするから、だから助け、ぎゃ――!!」

 口は災いの元。
 洗濯したばかりのシーツを汚しつつ、その言葉の意味を嫌と言うほど思い知った薪だった。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

モンスター ~あとがき~

 あとがきです。
 あ、新しい方はご存じないかもですが、法十のあとがきと言ったらこれなんです。管理人がリアルの文章苦手なもんで。(文字書きとしてその言い訳はどうなの)
 いつにもまして、広いお心でお願いしますっ。





モンスター ~あとがき~




薪 「死ぬかと思った。今回、マジ死ぬかと思った」
青 「オレも生きた心地しませんでしたよ。おかげで昇任試験はさんざんで、痛っ」
薪 「人のせいにするな。試験に落ちたのはおまえの努力が足りないからだ」
青 「ほぼ100%薪さんのせいでしょ」
薪 「何を言う。僕がいなかったのはたったの3日だ」
青 「いなかったのは3日でも、その前からずっと荒木といちゃいちゃしてたでしょ。それでオレ、勉強に集中できなくて」

荒 「呼びました?」
薪 「おう、荒木。ここ座れ。ほら、好物のおでん」
荒 「わーい、やったー」
青 「……座談会が無礼講なのは分かってるけど、犯罪者のみなさんも平気で出て来ちゃうの、どうなのかなあ」
薪 「はんぺん、好きなんだよな? たくさん入れておいたから」
荒 「あざーっす! めっちゃ美味いっす!」
青 「しかも必ずオレより薪さんにやさしくしてもらえるの、なんでなのかなあ」

薪 「僕はみんなにやさしいぞ。ほら食え」
青 「そう言ってオレの嫌いなニンジン口に突っ込むの止めてもらえません?」
荒 「青木さん。おれのもどうぞ」
青 「だからニンジン嫌いなの! ていうか、なんでおでんにニンジン入ってんですか」
薪 「もちろん嫌がらせだ」
荒 「同じく」

青 「なんですか、二人して組んじゃって。そんなにオレが邪魔ですか」
薪・荒 「「うん」」
青 「えっ、えっ、本当に? なんでですか」
荒 「あー、やっぱり気付いてないんすね。青木さん、善い人すぎるんすよ」
青 「や、オレは別に――うん? なんで善いとダメ?」
薪 「ダメに決まってるだろ。おまえの性格が良すぎるせいで、僕はいっつも悪者扱い。迷惑な話だ」
荒 「室長もですか。おれも一部でエセ天使とか呼ばれて。青木さんのせいっすよ」
青 「そんなこと言われても。オレ、普通の人間だし」
荒 「自覚してない自然体ってあたりがまたムカつくんすよね」
薪 「青木は天然天使キャラだからな」
荒 「一番共演したくないタイプっすね」
薪 「まったくだ。僕が善い人になれる分、滝沢の方がまだマシ」

滝 「呼んだか」
青 「だからどうして出てきちゃうかな、もう」
薪 「おまえは呼んでない。さっさと小菅に帰――こ、これは幻の名酒、梅臥龍の『鳳雛』! 滝沢、ここ座れ。ちくわぶ好きだったよな?」
青 「薪さん。荒木はともかく、滝沢さんは過去に何人もの人を殺めて」
薪 「うるさい。おまえは黙ってニンジン食ってろ、てか旨っ! なんだこの酒、むちゃくちゃ旨い」
青 「ダメですよ、薪さん。口当たりいいからってガバガバ飲んじゃ。身体に障ります」
荒 「こういう時に良識派気取るの、普通の人間がやったらすっげーイヤミっすよ。なのに青木さんがやると、心から室長を心配してるんだなあって思える……人徳って言うんですかね、なんだか」
青 「いや、それほどでも」
荒 「めちゃくちゃハラ立ちます」
青 「……」

滝 「善人ぶってて嫌われるならともかく、根っからの善人でこれだけ嫌われるキャラも希少価値だな」
荒 「だいたい青木さんて狡いんすよ。30超えて可愛い後輩ポジとか、普通ありえないっしょ」
青 「40超えてお姫さまポジの薪さんはいったい」
荒 「いいんですよ、室長は。実際可愛いんだから」
薪 「荒木もかわいいぞ」
荒 「いやあ、それほどでも」
薪 「顔もプレーリードックそっくりだし」
荒 「……」
青 「いや、褒めてるの。この人、これで精一杯褒めてるの」
滝 「おれは昔薪に、踏み潰したカエルって呼ばれたことあるぞ」
荒 「それはひどいっすね」
滝 「まあ、そういうSっ気の強いところも好みなんだが」
荒 「なにも潰さなくても、普通にガマガエルでいいのに」
滝 「……おまえ、何気に失礼な男だな?」

薪 「それにしても美味いなー。この酒、ほんと美味い」
滝 「それはよかった。ムショ仲間にもらったんだが。もちろん強制的に」
薪 「さすが小菅の帝王。荒木のこともよろしく頼むぞ」
荒 「よろしくお願いします、先輩」
滝 「任せておけ。おれの下に付けば楽しく過ごせるぞ。三食昼寝付き、リストラの心配もない。酒やタバコ、ゲームの類は親切な仲間が持ってきてくれるし、言うこと無しだ」
青 「いいのかなー。問題発言じゃないのかなー」
荒 「最高じゃないですか。それで女の子がいたら天国っすね」
滝 「そのための薪の写真だ」
薪 「! おまえな!」
滝 「青木だって似たようなことしてるぞ、ぜったい」
青 「そ、そんなことしませんよ。オレ、天然天使キャラですから」
薪・滝・荒「「「堕天使」」」
青 「どうしてオレを責める時だけ一致団結するかなあ」

荒 「そう言えばおれ、室長のビデオ撮ったんだっけ」
薪 「!!! 荒木、あれ、フィルム入ってないって言っただろ」
荒 「えへへー。実は入ってたんですよ。じゃーん」
薪 「やめろバカ! ――ん? なんだ、例のシーンじゃないのか。ならいいや」
青 「? 例のシーンてなんですか?」
薪 「おまえは知らなくていい」
青 「荒木。薪さんに内緒で、こっそり教えて」
荒 「この腐れブログに書いてありますから。自分で読んでください」
青 「どれどれ? ……なるほど、オレの知らない所でこんなことが……小菅にも写真が出回って……カチッ」(←何らかのスイッチが入った音)

滝 「チェックが甘いな、青木。おれはとっくに確認済みだぞ。ところで、どんなビデオだ? ほう、寝顔か。これは高く売れるぞ」
荒 「本物の天使みたいですよね」
滝 「××××ぶっかけてやりたくなる顔だな」
薪 「おまえはとことんゲスだな」
荒 「あはは、先輩の気持ち分かるっすよ。おれもつい――、……」
滝 「うん? 荒木、どうした。――えっ、なんでいきなり気絶? がっ!」

薪 「あー、美味かった。滝沢、この酒また持ってきてくれ。あれっ? 二人とも、どうしたんだ?」
青 「二人とも疲れてるみたいで。特に荒木はハードな役回りでしたから」
薪 「そうか。じゃ、このまま眠らせてやって……なんか二人とも苦悶の表情に見えるけど。寝落ちと言うより強制的に落とされたみたいな顔なんだけど」
青 「よっぽど疲れてるんですねえ、可哀想に。毛布を掛けておいてあげましょうね。二人が風邪を引かないように」
薪 「毛布って言うか、ズタ袋じゃないのか、それ」
青 「最新型の寝袋なんですよ。見た目よりずっと温かいし、寝心地もいいんです」
薪 「へー。そうなんだ」
青 「毛布だと寝てるうちに肌蹴ちゃうでしょ。その点寝袋なら安心ですから」
薪 「なるほど」
青 「こうして頭まですっぽり被せるのがコツです。ロープ、いや、専用の止め具で頭部と足を縛っ、じゃない、固定して、これでよし。
 動いたらお腹空いたあ。おでん、食べようっと。いただきまーす」

薪 「どうして二人を床に? それもソファの後ろに隠すように」
青 「もぐもぐ。ソファに寝せておいて、落ちたら大変ですし。ここならソファがストッパーになりますから、転がって怪我をすることもないでしょう」
薪 「なるほどなるほど。一見、東京湾から上がってくるヤクザの袋詰め死体に見えるけど、この姿にはおまえの気遣いが散りばめられているわけだ」
青 「そんな。別に褒められるようなことじゃ。もぐもぐ」
薪 「しかも奥ゆかしい……ダメだ、キュンキュンしてきた」
青 「なにか言いました? もぐもぐもぐ」
薪 「なんでもない。そろそろお開きにして、僕たちは家に帰ろう」
青 「そうですね。行きましょうか。ごくごくごく」


*****



滝 「行ったな。もう大丈夫だ。起きていいぞ」
荒 「あー、怖かったー。にっこり笑いながら鳩尾一発っすよ。あり得ねえっす」
滝 「青木の体術は岡部直伝だからな。見た目に騙されると痛い目に遭う」
荒 「室長は完全に騙されてるし」
滝 「薪は身内の嘘には弱いからなー」
荒 「室長らしいっちゃらしいですけど、ああっ! おれのはんぺんがなくなってる!」
滝 「おまえ、本編でさんざん食ってたじゃ、あっ! ちくわぶが一本もない!!」
荒 「ていうか、ニンジン以外残ってませんけど。大鍋いっぱいあったのに」
滝 「つゆも殆ど飲み干してある。なんて非道な」

滝・荒 「「――あいつこそ本物のモンスターだっ!」」



(おしまい)

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

モンスター(28)

 最終章です。
 しんどくて痛いお話でしたのに、たくさんの方にお付き合いいただきました。
 どうもありがとうございました。




モンスター(28)





 薪が退院したのは、それから3日後。澄みきった空に白い雲がぽっかりと浮かぶ、爽やかな秋晴れの日であった。
 10月もあと3日を残すばかり。今月いっぱいは怪我を治すことに専念させなさい、と小野田にきつく言い渡され、送迎役を仰せつかった青木は病院からマンションへの直行を余儀なくされたのだが、当の薪から寄り道の指令が下った。青木は小野田の厳命を薪に伝えたが、哀願する亜麻色の瞳に負けた。後で叱られるのは自分だと分かっていても、薪のこの眼には逆らえない。

 途中、花屋に寄って白い百合の花束を買った。
 一度行ったきりの場所で、青木には曖昧な記憶しか残っていなかった。どんなに複雑な道順でも一発で覚える薪の頭脳は、今回ばかりは当てにならなかった。いかに優れた情報記憶能力も、トランクの中からでは発揮しようがなかったのだ。

 方向音痴の青木が脳みそを振り絞るようにしてやっと思い出した道程を辿り、行き着いたのは、森田家の墓地であった。
 まだ内出血の引かない脚を折りたたみ、薪は石畳みの上に膝を着く。花束は石碑の前に横にして置いた。花立には新しい花が立てられていたからだ。
 こういうことをするのは多分岡部だ。その証拠に、活けられた花はあの写真に写っていたピンク色のガーベラだった。

 墓前に手を合わせる薪の横で青木も黙とうを捧げたが、薪の祈りは青木のそれよりずっと長く、きっとそれは込められた思いの深さによるものなのだろう。まだ完治していない薪の身体を、早くも街を席巻し始めた今年の木枯らしに晒すのは忍びなかったけれど。青木は薪が合掌を解くのをじっと待った。
 だが、その時は一向に訪れない。次第に青木は焦り始めた。自分がどうにかしなかったら、この人は朝まででもこの場所に居続けるのではないか。

「彼女が……荒木のお母さんがどんな人だったのか、オレには分かりませんけど」
 薪の祈りを妨げることになるかもしれない、そんな不安を抱きながらも青木は声を掛けた。そうせずにはいられなかった。
 薪の硬い表情が。人形のように動かない頑なな美貌が。
 死んであげられなくてごめんなさい。
 まるで彼女に、そう謝っているようで。

「今は、安らぎを得ているんじゃないかと思うんです。生きてるうちは難しかったけど、きっと今は、安心して眠れるようになったんじゃないかって。でもってそれは、薪さんのおかげだとも思うんですよ」
 それはどういう意味だ、と聞き返してくれることを、青木はほんの少し期待した。しかしそれは叶えられなかった。薪の様子には、何の変化も現れなかった。
 自分の声なんか薪には届かない。言葉の無力さを青木は嫌と言うほど分かって、でも言わずにはいられなかった。
 どんなに小さな光でもいい、吹いたら消えてしまうようなか細い灯りでもいい。なにかしら暖かいものを薪に届けたくて。

「だって母親なら」
 誰にも受け取ってもらえず宙に浮いた言葉を、途中にすることはできなくて。青木は静かに言葉を結んだ。
「母親なら、自分の子供をモンスターにはしたくないはずです」

 薪はなにも言わない。
 青木の言葉が聞こえなかったかのように、ただ黙って頭を垂れ続けた。冷たい木枯らしの中で、静かに祈りを捧げていた。
 青木はそんな薪から、未来への期待や生きる希望、そう言った光のようなものを何一つ見つけることができなかった。彼の俯けた美しい横顔の、供えた百合の花びらより白く透き通る頬にも、その緑色の葉に瑞々しさを添える朝露のようなくちびるにも、静かな慟哭以外のものを見出すことはできなかった、けれど。

「帰るか」
 そう言って立ち上がった薪の背中は青木を拒絶することなく。彼の隣を歩くことを許してくれた。

 もうすぐ、冬が来る。


―了―


(2015.10)

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

モンスター(27)

 ご無沙汰です。
 ブログもコメントも、放置しちゃってすみません。

 お義母さんが手術をすることになりまして。
 今週は、その事前検査でバタバタしておりました。
 家から1時間も掛かる病院に行くことになったので、朝の5時起きでオットの朝食とお弁当を作って置いていくと言う……ハードでした~。

 手術日は3月28日です。
 内視鏡でできる簡単な手術なので、心配はいりません。
 でも、その後しばらくは食べたり飲んだりしてはいけないそうで、点滴で栄養補給をせねばならず、1週間ほど入院になるそうです。じっとしてられない人なのに、お義母さん、可哀想。
 4月になって退院したら、一緒に温泉行こうね。





モンスター(27)





「もーホント勘弁して欲しいです!」
 だん、とジョッキの底をカウンターに打ち付け、はあ、と岡部は重い溜息を吐いた。隣でしきりに頷きながら焼酎のコップをスコッチグラスのように回していた中園が、奥の席にいた小野田に話を振る。
「僕もあの子のお守はたくさんだ。なんとかしてくれよ、小野田」
「まあまあ二人とも、そうぼやかないで。薪くんにはぼくからビシッと言っておくから」
「ビシッと、ねえ」
 砕けた口調で気安く話している、この二人は警察庁官房室室長とその首席参事官。本来ならば、警視の岡部が肩を並べて酒を飲めるような相手ではないのだが。

 中園からの電話は、青木と一緒に病院の自動ドアを抜けたときに掛かってきた。
『薪くんの見舞いはすんだかい? お疲れさま。一杯奢るよ』
 薪はまだ面会を制限されている。初日は1組だけ、つまり岡部たちが初めての見舞客だったのだ。薪の様子を聞きたいのだろうと思い、報告がてら出掛けてきた。
 店は任せると言われたので、自宅近所の居酒屋を選んだ。前に中園に誘われた時もこの程度の店だったし、薪の様子を聞いたら中園はすぐに引き上げて小野田に報告に行くのだと、そう思っていたからだ。ところが、縄のれんを潜って驚いた。店の粗末なカウンターに日本警察のトップに限りなく近い官僚が二人して雁首を揃えていたのだ。岡部としてはもう飲むしかない。官房長をこんな低級な店の手狭いカウンター席になんか座らせてしまって、アルコールの助けでも借りなかったら胃に穴が開く。

 駆けつけ3杯のビールと顔馴染みの店主お勧めのタコの唐揚げで、いい具合に緊張が解けてきた岡部に、中園が告げ口でもするようにこっそりと囁く。
「いつも口ばっかなんだよな、小野田は。薪くんの顔見ると、キツイこと言えなくなっちゃうんだ」
「官……小野田さんは薪さんを、息子同然に可愛がってますからね」
 その甘さを嘆くようでいて、でもどこかしら楽しそうな中園の口調に、釣られて岡部もノリよく返す。中園は小野田と同じ警視監なのだが、同じ補佐役と言う立場であることから、岡部は勝手に、彼に親近感を持っている。中園もこうして岡部に直接電話をしてくるくらいだ。似たような気持でいるのかもしれない。

「子供を強く叱れない親に育てられるとさ、子供ってダメになっちゃうんだよね」
「親バカここに極まれりですな」
「なにか言ったかい」
「「いいえ、なんにも」」
 二人で声を揃えて同時にグラスを傾ける。「なんだい、二人して組んじゃって」と拗ねたように小野田が言うから、あやうく岡部は吹き出しそうになった。昔薪から聞いたことがある、小野田が意外と子供っぽいと言うのは本当かもしれない。

「おまえもコロコロ変わるよね。こないだはあんなに怒ったくせに」
 こないだ、というのは夏に起きた監察官殺人事件のことだ。小野田や中園から絶対に動くなと命じられたにも関わらず、青木に冤罪を掛けられた上に宇野を傷つけられた薪は大暴走。その命令違反も含めて、薪は小野田にこってり絞られた。
 しかし結果だけを見れば、冤罪を意図的に画策した次長派閥の息の根を止めることができたわけで。個人的には中園は、暴走ではなく活躍と言った方が的確な表現だと思ったくらいなのだが、薪の身を案じる小野田には我慢ならないことだった。

「今回は事情が事情だからね。例の事件絡みじゃ仕方ない」
「仕方ないって、10年も経ってるんだぜ」
「そんなに経ってない。9年と2ヶ月だ」
「9年2ヶ月も10年も変わらないよ。この事件が来年起きたとしても、今回と違う結果になるとは思えないしね」
「それは認める」
 温んで汗をかいた吟醸酒の瓶を傾けて、小野田は手酌で甘露酒を注ぐ。美濃部焼のぐい飲みをくいと呷るさまは、彼が自分の後継者と心に決めた男とよく似ていた。

「きみたちは、鈴木くんを喪う前の薪くんを知らないだろ。一課にいた頃の薪くんは、あんな風じゃなかった」
 不意に、小野田は昔話を始めた。
「その頃から薪くんの捜査能力はずば抜けてた。迷宮事件を幾つも解決して、警視総監賞を何度も獲った。でも、今とは全然違うタイプの捜査官だったよ」
 昔の薪は、もっと仕事に貪欲だった。事件が起きると、彼は新しいオモチャを与えられた子供のように瞳を輝かせた。
 事件を解決することは正しいことだと信じて疑わなかった。犯罪者は悪であり、自分たち警察はそれを正す正義であると、その信念のもとに容赦なく他人の心に切り込んだ。事件被害者や遺族のことは眼中になかった、と言うのは言いすぎかもしれないが、彼の心を捉えていたのは事件の謎そのものであり、その謎を解き明かすことに快感を感じていた。

 あの事件を契機に、彼の捜査スタイルは様変わりした。
被害者は勿論、遺族、友人、加害者の肉親に到るまで、すべての事件関係者に心を配るようになった。時にその数は膨大で、普通の人間ならとてもそこまでは拾いきれない。しかし彼は天才的な頭脳でもって、それを可能にした。無駄とも思える仕事が増え、彼の負担は何倍にもなったはずだが、それでも彼はその姿勢を変えなかった。
 そして薪が未だにそのスタイルを貫いているのは、彼があの事件のトラウマから抜け出せていないことの証明でもある。そんな彼にとって今回のことは回避不能な出来事だったのだ、と小野田は言う。

 薪があの事件を乗り越えたとき、彼は初めて貝沼の呪縛から逃れることができる。「いい加減、前を見ろ」と薪を叱った自分の言葉は間違っていない、と岡部は確信する。
 ――でも。それを薪が実践していたら、荒木は殺人者になっていた。

「事件を解決することは、他人の秘密を暴露することに等しい。そこに迷いが生じれば当然、その快刀乱麻ぶりにも陰りが出る。それは捜査官にとっての停滞であり、退化であると言う者もいるだろう。ただねえ」
「世の中、進めばいいってもんじゃないんだよね」
 小野田の後を受けた中園の言は、この世の真理。
 そしてまたこの世の中は、正しければいいと言うものでもない。

 正しいことをしていても事件は起きる。それどころか、正しさに拘った分だけその悲劇は凄惨さを増していく。岡部はそういう事件を幾つも見てきた、だから知っている。
 一人一人の正しさには必ず幾ばくかのずれがあって、社会の正義は、そのわずかな共通点でかろうじて保たれているに過ぎない。各々の正しさと正しさがぶつかり合った時こそ、大きな悲劇が生まれるのだ。多くの無辜な人々を巻き込むような、災厄めいた惨劇が。

「がむしゃらに事件を解決するのではなく、個々の案件と丁寧に向き合って、事件関係者が一人でも多く救われるように尽力する。犯人を捕まえることを最終目的とするのではなく、関係者の心を、彼らのこれからの人生を大事にする。それを念頭に置いて捜査を進めていく」
 小野田は一旦口を結び、「岡部くん」と呼びかけた。
「きみがどこまでも薪くんに着いて行こうと思ったのは、彼のそう言った姿勢に惹かれたからじゃないのかい」
 岡部よりも何段階も上にいて、その分多くの人間を見てきた小野田には岡部の気持ちはとっくにお見通しで、岡部は先刻叩きつけたビールジョッキの底を今度はそっとカウンターに収め、ふう、とやわらかく息を吐いた。

「青木に怒られましたよ。『こんなに傷ついてる人を責めるのは人間のすることじゃない』って」
 苦笑しつつ、岡部は零した。
「子供みたいな言い分ですけど、間違っちゃいませんよね。やっぱり青木は、薪さんの深いところを理解してるんですねえ」
「いや、青木くんのはシタゴコロだから。薪くんに好かれたいだけだから」
「おまえってホント自分の気持ちに正直だよね」
 薪を庇った時とは別人のような冷たさで、小野田は青木の弁護を打ち捨てた。一応は二人の同居に認め印を押したものの、その胸中はなかなかに複雑らしい。

「でもさ、小野田。薪くんの暴走癖の根底にあの事件があることは認めるけど、だからって全部許すわけにはいかないよ?」
 実際に後始末をするのは僕なんだから、と中園の尤もな言い分に、小野田は岡部に注いでいた暖かい瞳をすうっと細くし、一瞬で冷徹な管理者の表情を作る。
「おまえに言われなくても。ぼくだって考えてるさ、具体的な策をね」
 ほう、と中園が空になったコップを前に置く。「親父さん、もう一杯ね」と慣れた様子で声を掛け、隣で小野田が真剣な顔でそら豆の皮を剥いているのを横目で見ながら、自分は豆皮の上部に入れた切り込みから器用に実を押し出して、ポイと口に入れた。
「それ、どうやるの?」
「ここを切るんだよ。ほら」
「なるほど。……あれ、つぶれちゃったよ?」
「相変わらず不器用だね、おまえは」
 貶しながらも豆の実だけを相手の皿に入れてやる、中園の世話女房ぶりを見て岡部は、どこのトップも似たようなものだと苦笑する。仕事はできるのに日常のことは不得手とか、仕事を取ったら只の性格破綻者とか、どうして警察の上層部にはそういう人間が多いのだろう。

「具体的な策って?」
 尋ねた中園に、小野田は彼に剥いてもらったそら豆をもぐもぐやりながら、
「来年、田城君の席が空くだろ。そこに薪くんを就任させる。科警研の所長になれば、いくら薪くんでも現場に出なくなるだろ」
 所長と言う役職を与えることで薪に自重を促す作戦らしいが、はてさて。
「そうかなあ。所長になったくらいであの子の現場主義が変わるとは思えないけど。だいたい、第九の室長が現場に出てること自体おかしいんだからね?」
「室長も所長も変わらないかもしれませんね」
「なんだい、二人して」
 またもや2対1の構図になって、小野田は憤慨する。「親父さん、お代りね」と中園を真似て空になったぐい飲みを前に置いたものの、小野田のそれは一瓶ずつ提供される冷酒で、中園の焼酎のようにグラスを取り替えるものではない。

「きっと来年も苦労するよ、岡部くん」
「中園さんも。また白髪が増えますね」
 なんとなく顔を見合わせて、かちんとグラスを触れ合わせた。同じ微苦笑を浮かべた顔で、同時にグラスに口を付ける。
「きみたち、いつの間にそんなに仲良くなったの」
 中園の透明なグラスの向こうで、小野田が不思議そうに首を傾げた。


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

モンスター(26)

モンスター(26)





「薪さん! モンスターはあんただ!」

 鍛錬に鍛錬を重ねた武道者の指が、真っ直ぐに薪を指差していた。
 岡部とて、本気で薪が全部悪いと思っているわけではない。10年前、どん底の薪を一番近くで見てきたのは岡部だ。その傷の深さも苦しむ様子も目の当たりにしてきた。だから今までは黙って見守ってきた。
 でも、彼は知らないといけない。狭窄された視野で生まれた罪悪感は悲劇を引き起こすこと。それが周囲に悪影響を及ぼし、負の連鎖を生むということを。

「そうやって、すべて自分のせいだと思い込んでしまう弱さ、それこそがモンスターの正体なんじゃないですか。そのせいで周りの人間は自分の間違いに気付けない、気付いていても後戻りできない。今回の事件は、全部あんたの加害者意識が引き起こし」
「やめてください!」
 岡部に糾弾される薪があまりにも可哀想で、青木はもう我慢ができない。
 岡部が、いつまでも薪が手放そうとしない十字架を、必要以外のものまで背負ってしまおうとするその破滅的な生き方を、何とかして直そうとしているのは解る。それは今でなくてはできない、薪の精神が回復し、その心が鉄の鎧を着けた後では何を言っても軽く流されてしまうことも解っている。だけど。
「なんで薪さんが責められるんですか?! 薪さんは被害者ですよ!」
 理屈ではない。そんなものは青木に通じない。こと、薪に関することで青木に理性的な判断などできないのだ。
「そんなの、やった方が悪いに決まってるじゃないですか!」

 理論的な岡部の告発に比べ、青木の弁護は子供のようだった。声の大きさこそ岡部に負けていなかったが、内容は小学校のホームルームの発言に限りなく近かった。
「どんなに挑発されたって例え殺してくれって頼まれたって、人を害すれば罪になるんです! 荒木は警察官です、それが分からないなんて言わせません!」
「青木。滝沢にも言われただろう。おまえがそうやって全部肯定してしまうから、薪さんはいつまで経っても」
「いいえいいえ! 薪さんは悪くないです!」
 世の中のあらゆるものから彼を守るように、青木は薪の頭を抱きしめて、それこそ濁流に流される羽虫が渾身の力で岩に張り付くように抱きしめて、頑是なく首を振った。世間を知らない子供が母親を庇うように、それは未熟極まりない援護射撃ではあったけれど。

「オレは誓ったんです。薪さんのことを悪く言う人がいたら、その口を塞いでしまおうって。憎む人があればその心を潰してしまおうって」
 薪の頭に、その亜麻色の髪にぽたぽたと垂れては吸い込まれていく、青木の涙はまごうことなき愛の証で、誰かのために無心に流される涙には、理屈や正論を打ち砕く圧倒的なまでの威力があった。
「誓ったんです」
 そう結んだ青木は薪の髪に顔を埋ずめて一時黙り込み、しかしすぐに顔を上げて岡部を非難した。
「こんなに傷ついてる人を責めるのは、人間のすることじゃありません!」
 大の男に泣きながら喚かれて、岡部はまるで小さな子供を苛めて泣かせたような気分になる。青木を連れてきたのは失敗だったかと、やるせなく溜息を吐いたその矢先。

「青木、泣くな」
 薪の指が、青木の涙を拭いた。顔を上げて青木と眼を合わせ、だから薪の頬には青木の涙が滴り落ちて、けれど薪は自分の頬には手を伸ばさず、ひたすらに青木の涙を止めようと彼の涙袋を拭い続けた。
「おまえが泣くと、僕は悲しい」
 妙に単純で素直な薪の言葉に、青木は彼に迫る限界を感じ取る。眠りに落ちるときのように、今の薪に理性はない。理性の鎧を着けていない薪がどんなに脆く傷つきやすいか、青木はよく知っている。
 これ以上薪を傷つける気なら例え岡部でも許さないと、青木が厳しい顔つきで上司を睨む。その後ろで、荒木がぽつりと呟いた。

「室長は、ちゃんと抵抗しましたよ」
 薪の窮地に青木が放り出した細紐の取っ手を、不自由を強いられた両手で器用に引き上げ、それを弄びながら、
「岡部さんたちが来る直前でしたけど。おれの手を掴んで、死にたくないって顔をしましたよ」
 岡部と青木があの霊園に辿り着いたのは、荒木がナイフを振りかざして薪の喉笛を掻き切ろうとした、正にその瞬間であった。
 岡部は咄嗟に、足元の玉砂利を投げた。それがナイフを握った手を直撃し、彼から凶器を奪った。走り寄った岡部が荒木を捕まえ、倒れた薪を青木が抱き上げた。

「だけど、殺された兄貴もきっとこんな気持ちだったんだと思ったら、動けなくなっちゃったんじゃないですか。おれがそう言ったら、眼が死んだから」
 生物にとって何よりも強くあるべき生存本能が、罪悪感に負ける。被害者遺族に死んで償えと言われれば、それを受け入れてしまう。10年経った今でも薪のスタンスは変わっていないのだと、思い知らされれば自分が彼にしてきたことは何だったのかと、煮えくり返って炭のようになったはらわたが体内で吐き出した黒煙を、岡部は八つ当たり気味に荒木に吹きつけた。
「荒木、勘違いするなよ。薪さんにはああ言ったが、おれはこの事件が全部薪さんのせいだったなんて思っちゃいない。青木の言う通り、どんな事情があったとしてもやった方が悪いんだ。自分を止められなかったおまえに罪はある」
「分かってます。室長のせいだなんて思ってませんよ」
 素直に頷く荒木には、愚鈍なふてぶてしさも捨て鉢な開き直りもなく。むしろ端然と、いっそ何かから解放されたかのような、浄化さえ漂わせていた。

「きっと母さんも同じだったんです。悪いのは貝沼という異常者で、それに眼を着けられた室長は被害者だと分かってた。でも」
 亡くなった母親のことを思い出したのか、荒木の黒い瞳に哀悼が浮かぶ。その物寂しげな様子は、いつも明るく振舞っていた彼の笑顔の奥に仕舞われた長きにわたる苦悩と涙を、見る者に慮らせる。
「貝沼が死んで、世間が事件を忘れ去って。憎しみの対象の一つもこの世になかったら、生きてられなかったんだと思います」
 荒木は自分を捕縛した紐の取っ手を岡部に差し出し、深く頭を下げた。
「すいませんでした」
 岡部は取っ手を受け取り、彼の身体を引いて病室の出口に向かった。荒木に与えられた時間には限りがあり、それは終わりに近付いていた。

「岡部さん。一つだけいいですか」
 ドアの前で立ち止まり、荒木はふと岡部を見上げた。
「もしも室長が、岡部さんが言ったみたいにおれに偉そうに説教してたら、ソッコー殺ってたと思いますよ」
「なに?」
 不穏な発言に岡部の顔色が変わる。三白眼をギラリと光らせた岡部に、荒木は怯む素振りも見せず、平然と言葉を継いだ。
「あの時、おれがナイフを振り下ろせなかったのは、岡部さんの投げた石が当たったからじゃないんですよ。二人が来るまでに充分時間はあった。て言うか、いくらでも殺す機会はあったんです。3日も一緒にいたんですから」
 青木も不思議に思っていた。荒木の生家は通りに面していて監禁場所としては危険だったし、薪を甚振ることが目的にしては彼の怪我は軽過ぎた。相手は無抵抗だったのだから、腕や脚を折ることも簡単にできただろうし、ナイフを持っていたのだから指を切り落とすこともできたはずだ。もちろん、その場で息の根を止めることも。
 しかし薪はただのひとつも、一生涯付き合って行かなければならないような傷を与えられてはいなかった。
「それがどうしてもできなくて。母さんの前なら勇気が出るかと思って、それでお墓に行くことにしたんです。それでもダメでしたけど」
 墓地は殺人を犯す場所としては最悪に近い。周りは他人の墓だらけ、いつ誰が来るか分からない。そんなリスキーな場所で犯行に及ぼうとしたのには、それなりの理由があったのだ。

「おれがこの人を殺せなかったのは、この人が全然抵抗しなかったから。おれに殺されることを、当然のように受け入れてしまったから」
 瞬きもせず自分を睨み据える恐ろしげな三白眼に向かって、荒木はハッキリと言った。
「だからおれは殺人者にならずに済んだ」
 ぐっと詰まって、岡部は薪を見る。薪は信じられないものを見る眼で、自分を弁護する荒木の背中を見ていた。

 岡部に否定された薪の行動を荒木は、それこそが薪の命を救ったのだと言った。
 ひいては、自分が最後の一線を超えずに済んだのは、彼の心からの悔恨をその無抵抗に見たからだと。彼の生に対する消極性が、自分を本物のモンスターになる運命から救ってくれたのだと断言した。

 意外過ぎる弁護者に薪と青木は眼を瞠り、すると荒木がこちらを振り返った。
「室長。こんなこと、おれが言えた義理じゃないんすけど」
 荒木はにこりと笑った。何日かぶりで見た、それはいつもの彼の笑顔だった。
「もういい加減、自分が幸せになることを許してあげてくださいよ」
 荒木の口から零れたその言葉は、荒木だけの言葉ではなかった。
 薪にぶつけられた岡部の激しい叱責の奥に、それから薪を匿った青木の涙の裏に、第九の仲間たちや友人たちの奔走の陰に、そのすべての根底にある願いだった。

「おれも、自分の罪を償ったらそうしますから」
 荒木の言葉を聞きながら、薪は黙って泣き続けた。
 ただただ涙を流す薪に、岡部はもう、何も言えなかった。



*****


 岡部母さんのお説教、強制終了です。
 ダメじゃんww



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モンスター(25)

 岡部母さんのお説教、その2です。長いな、おい。




モンスター(25)





「あんたが青木の気持ちに鈍くなったからですよ」
 岡部の怒りを確信して、薪の眉が寄せられる。岡部が薪を『あんた』と呼ぶ時は、ものすごく腹を立てているときなのだ。

「気付いてるかどうか知りませんけどね、あんたが青木のサインを見失うのは、あんたの過去が関係してるときだけなんですよ。
 それはあんたがまだ昔の事件を自分の罪だと認識していて、自分には誰かと共に人生を歩む資格はないと思い込んでるからじゃないんですか」
 一気にまくしたてる岡部に、薪は一言も言い返せない。ひたすらに眉を曇らせて、小さく開けた口を小刻みに震わせていた。
「だから青木の気持ちが掴めなくなっちまうんですよ。無意識に、青木を見ることを避けてるから」
「岡部さん」
 岡部の舌鋒を止めようと呼びかけた青木の声に耳も貸さず、岡部は言い募る。
「あんた昔おれの前で『自分は正当防衛だ、みんなに死なれて迷惑だ』と言いながら泣いてた。本当はあんた、あそこから一歩も動けないでいるんじゃないですか」
「岡部さん!」
 薪の瞳が驚きから悲しみの色に変わって行く。何もそこまで、鈴木や死んだ仲間のことまで引き合いに出す必要があるのか。岡部に対する不信が青木の中で膨れ上がり、2度目の制止はやや咎めるような声になった。しかし岡部の言葉は止まらない。

「あれから10年も経ってるんだ。いい加減前を見たらどうです」
 岡部は薪の細い肩を掴み、すると薪は痛みに顔をしかめた。まだ荒木につけられた傷が癒えていないのに、いくら岡部が薪の女房役でも、怪我人にこんなこと。
「あんたの傷の深さは分かってるつもりですよ。でも青木が可哀想じゃないですか。10年間、あんたの傍を片時も離れずにあんたを想い続けてる青木の気持ち、考えたことあるんですか」
「やめてください、岡部さん!」
 薪の肩を掴んでいた岡部の手を、強引に振りほどく。2人の間に割って入った青木は、薪を背中に庇うようにして、一言も喋れないでいる薪の代わりに岡部に言い返した。
「オレはいいんです。本当にいいんです」

 岡部が薪に言ってくれたことは、正直ありがたかった。自分の生に執着しない薪の姿勢は、青木が唯一許せない彼の悪い癖であったからだ。が、それに対する反論もまた、青木の素直な気持ちだった。
「最初に薪さんに言われました。鈴木さんのことも自分の罪も、一生忘れないって。オレはそれでもいいって言ったんです。だから」
「そりゃ最初は言うだろうさ。でも普通なら10年も経てば」
「だって薪さんですよ? 忘れないって言ったら、本気で一生忘れませんよ。天才の上にめちゃくちゃ頑固なんですから」
 青木が少しだけおどけると、岡部はふいと眼を逸らした。岡部なら分かってくれると信じていた。
「そこまで承知で、オレは薪さんの傍にいることを選んだんです」
 だからいいんです、と青木は薪に笑い掛けた。

 その笑顔に、薪はひどく哀しげな笑みを返した。
「そうやって僕は、ずっとおまえに甘えてきたんだな」
「え?」
 最後の言葉はよく聞こえなかった。薪は再び下を向いてしまい、その言葉は毛布に吸い取られたように誰の耳にも届かず消えてしまった。

「青木。おまえのアパート、まだ残してあったよな」
「あ、はい。荷物の整理が終わらないのと、家賃が1年間の前払い制なので、つい」
「ちょうどいい。おまえ、今日からそっちへ帰れ」
 病室に短い沈黙が下りた。薪が何を言おうとしているのか、察して青木は身構える。こういう薪は経験済みだ。対処法も心得ている。
「もう、家には来るな」
「嫌です」
 即行言い返した。
「こんな状態のあなたを一人にするなんて、できません」
「これは命令だ」
 毛布を握った自分の拳を見つめたまま、薪は言った。
「僕たちは少し……長く一緒にいすぎたのかもしれない」

 次の瞬間、薪の頬で、パン、と乾いた音がした。驚いた薪が青木を見る。思わず青木は自分の両手を降参の形に上げて、身の潔白を証明した。
 叩かれた頬を反射的に押さえたまま、薪が首を巡らせた。そこには鬼の形相をした岡部が仁王立ちになっていた。
「岡部さん、薪さんは怪我を」
「これだけ言ってもまだ分からないんですか?!」
 青木の控え目な抗議は岡部の怒号に掻き消された。廊下の2人にも聞こえたに違いない、ここが病院であることを忘れ去った声量だった。
「荒木を見なさい! あれはあんたのせいだ!」
 岡部の指差す方向を見やれば、薪と青木のプライベートを多分に含んだ会話に身の置き所を失くした荒木が悄然と立っている。両の手首を結わえた鉄の輪をタオルで隠し、青い細紐に腰を繋がれた罪人の姿。

「あんたの弱さがあいつを犯罪者にしたんです。それが分からんのですか」
「分かってる。元々は僕が貝沼を見逃したことが原因だ。僕の甘さが、あの事件を」
「あんた、本当にバカだな!!」
 警察庁の天才と呼ばれる薪をバカ呼ばわりできるのは、世界中探しても滝沢くらいのものだと青木は思っていたが、ここにもいた。灯台もと暗しとはこのことだ。

「そんな昔の話、今さら蒸し返してどうなるってんです。そうじゃない、おれは今のあんたの心の在り方が今回の事件の原因だと言ってるんですよ」
 悲痛な眼をして、薪が岡部を振り仰ぐ。亜麻色の瞳の中に、岡部の真剣な表情が映り込んでいた。
「ちゃんと荒木を諭しましたか? 復讐なんかでおまえの人生を無駄にするなと、上司として彼を導きましたか?
 自分の母親はおまえを呪いながら死んでいったのだと、母がそうなったのはおまえのせいだと、荒木に言われるがままに頷いて自分の罪悪感に飲み込まれて、薄っぺらい自己満足と引き換えに彼の暴挙を許したんじゃないんですか」

 岡部の言うとおりだった。薪は一切の抵抗をしなかった。
 所轄からの帰り道、「大人しくしてください」と荒木にナイフで脅され、でもそれは薪にはなんでもないことだった。岡部や青木と違って、荒木は武道を習ったこともない。構えは隙だらけだったし、簡単に押さえ込むこともできたはずだった。
 しかし、薪はそれをしなかった。諾々と荒木の言に従い、自分の手に自ら手錠を掛けたのだ。
 それから薪は、荒木が昔住んでいた家に連れて行かれた。母親が病に倒れて長いのだろう、そこは既に廃墟と化しており、近隣住民はおろかホームレスさえ近付かなかった。

 腐って虫が湧いた床の上で、薪は彼の刃を受けた。苦痛にも辱めにも、黙って耐えた。それくらい、してやってもバチは当たらないと思った。
 凶刃のひらめく間に間に挟まれた荒木の言葉で、薪は荒木の過去を知った。
 やさしかった母親が、兄の死で徐々に壊れて行ったこと。家の中はめちゃくちゃになり、嫌気がさした父親は他の女性に救いを求めて、幸せだった家庭はもろくも崩れ去ったこと。
 狂気の中で、母親は病を得た。入院費は父親が払ってくれたが、病院には顔を出さなかった。一人ぼっちの母親を放ってはおけず、荒木はずっと彼女の看病をしてきた。
 
 病床の母は、繰り返し繰り返し、薪への恨みを吐き続けた。
『和也は、あなたの兄は、あの男のせいで死んだのよ。あの男に少し似てたから、たったそれだけの理由であんなひどい死に方を』
『まだ20年も生きてなかったのに。やりたいこともいっぱいあったのに……和也ね、ライブデビューが決まったこと、真っ先に母さんに知らせてくれたのよ。それなのに』
『自分のせいで死んだ人間がいることを知りながら、のうのうとテレビなんかに出て。こんなに大きく新聞に載って持て囃されて。雑誌のインタビューまで』
『殺してやりたい、殺してやりたい、この男』
 10年間、荒木は母親の狂気と共に生きてきた。その10年の苦しみに比べれば。彼の母親を狂わせた罪人として、これくらいの罰は受けて然るべきだと思った。

 荒木の自白調書に、薪の心情についての記載はなかった。だから本当のことは分からない。でも、薪の瞳が物語っていた。
 僕は、罪を償いたかったのだと。

「それが間違いだって言ってるんですよ、薪さん」
 凄みを効かせた重低音で、岡部の糾弾は続く。彼の声には薪に対しては常に込められていた友愛の欠片もなく、心の底から薪に腹を立てていることが分かる。察して、薪の亜麻色の瞳が一層の哀しみを湛えた。
「こいつはね、おれたちを案内したんですよ。自分の兄貴が通ってた大学の近くのファミレス、もうすぐライブデビューするはずだったカフェ。バンド仲間とたむろってた喫茶店には兄貴の写真も飾ってありましたよ」
 岡部の口に青木の知らない事実がのぼり、やっと青木は理解する。岡部は事件後も、荒木の調査を進めていたのだ。そして彼の行動の真相を知った。
「荒木は本当は自分を止めて欲しかった。それをロクな抵抗もせずに唯々諾々と彼に従って、救難信号も出さず逃げる素振りすら見せず、あんたがそんなんだから」
 すうっと息を吸い込んで、岡部は薪を叱りつけた。
「荒木は後戻りできなくなっちまったんですよ!」

 薪が女性と密会していたと言うのは荒木の嘘だった。被害者となった兄に縁のある場所を回りながら、二人にヒントを与えていたのだ。
 岡部の言う通り。荒木は誰かに自分を止めて欲しかったのかもしれない。

「まだ24ですよ。こいつが、平気で人を殺せるようなやつに見えますか?」
 薪は力なく首を振った。
「僕の責任だ。僕が、彼の人生を狂わせた」
「だからどうしてそうなんですか、あんたは!」
 病室の空気が振動するような怒号。その対象ではない青木や荒木までもが一歩後ずさる。岡部が捜査一課で伝説になっているのはこういった彼の恐ろしさ、そして。
 真実を見抜く心眼。それが岡部靖文の伝説を支えている。

「薪さん! モンスターはあんただ!」



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モンスター(24)

 新しいリンクのご紹介です。

「BON子の秘密妄想帳」 ←ポチると飛べます。

 その名の通り、BON子さんの妄想を主体とした、爆笑必至のブログさんです。
 薪さんファンなら誰しも、薪さんについてあれやこれや、時事や季節イベントを絡めて空想しますよね。その模様が軽妙な文章で分かりやすく書かれており、しかもそれがBON子さんの美麗イラスト付きと言う、笑いと萌えがいっぺんに味わえる大変贅沢な作りになっております。
 個人的には、時折挟まれるBON子さんのセルフ突っ込みがめっちゃツボです。

 BON子さんの空想は限界がないと言うか自由過ぎると言うか(笑)、とにかく型破りです。わたしも大概突拍子もないこと考えますけど、BON子さんには負けます。BON子さんのパワフルな想像力、その翼は易々と次元を超えます。
 ハッキリ言ってBON子さん、
「薪さん好き過ぎて現実が見えてない」
 はい、8年前のわたしにそっくりです!!
 思い起こせば8年前、薪さんに根こそぎ持って行かれたわたしは、仕事クビになっても離婚されても文句は言えない、それくらい薪さん一色の日々を送っておりました。俗に言う「秘密廃人」です。妄想以外、何もしてませんでしたね。
 今になって思えば、オットはよく我慢してましたよ。あ、今もね。一生その調子でお願いね。(今も充分秘密廃人)

 BON子さんはここまでひどくないと思いますが、それでも、妄想の内容はかなりの確率で被っております。もはや他人とは思えません。
 BON子さんのブログを読んでいると、当時の熱い思いが呼び起こされるようです。そんな気持ちもあって、わたしの方からリンクをお願いしました。


 常軌を逸した妄想に笑い、美麗イラストに嘆息する。
 まるで、二重人格のようなブログさんを、BON子さんの魅力あふれる語り口と共に楽しんでください。超オススメです!



 さてさて、お話の方は、
 岡部母さんの説教開始です。
 心して聞くように(*・`ω´・)ゞ ←これ、ワンクリックで挿入できるようになったのね。これならわたしでも顔文字使えるw




モンスター(24)





 青木が病室に入ると、薪は窓の外を眺めたまま、岡部だけがこちらを振り向いた。2人が会話らしい会話をしていなかったことは、空気の重さで分かった。

「岡部さん。あの」
 青木の声で、やっと薪はこちらを向いた。そして見つけた。青木の陰に隠れるように立っている、誘拐犯の姿を。
 ベッドの上で、びくりと薪の身体が震えた。
 見る見るうちに薪の表情が曇り、細い眉が弱気に垂れ下がる。立ち上がろうとして為せず、なにか言おうとしてそれもできず。やがて薪はくちびるを噛みしめてうなだれた。罪を悔いる咎人そのままに。

「薪さん。荒木が貝沼事件の遺族だと知ったのはいつですか」
 薪の両手が毛布を握りしめる。その細い指は白くなるほど力が入って、小さく震えていた。
「岡部さん、医者が言ってました。まだ精神的に回復していないから、事件の話は控えるようにと」
「回復されてからじゃ遅いんだ」
 いいから黙ってろ、と岡部に命じられ、青木は一歩退がった。納得はできないが岡部のすることだ。薪にとって不利益なことのはずがない。

 岡部は薪に向き直り、重ねて回答を促した。
「答えてください」
「面談のとき。鼻の形が、森田和也くんにそっくりだと思った」
 3人が3人とも、え、と声を上げた。面談と言ったら初対面の時ではないか。荒木の素性に最初から気付いていたなら、薪はどうして彼の第九入りを許したのか。
「犯罪被害者の遺族が警察官になるのは珍しいことじゃない。むしろ、事件がきっかけとなって正義に目覚め、警官を志す者も多い。彼らは多くの場合、身内の事件について詳しい情報を得たいと考える。貝沼事件の最終捜査本部は第九だ。脳データこそ失われたが、事件調書は第九にある。荒木の転属願は自然なことだと、そう考えていた」
「それだけですか? 貝沼事件で加害者意識を持っていたあなたは、被害者遺族である荒木にできるだけの便宜を図ってやろうと、そう考えたんじゃないんですか」
「そんなことはしていない。みんなと同じに」
「青木とはあからさまに差が付いてましたけど」
「仕方ないだろ。荒木は器用で機転が利いたけど、青木は不器用で鈍くさかったんだから」
「ええー……」
 肩を落とす青木を、元気出して下さい、と荒木が慰める。おかしな構図だ。

 なんとなく緩んだ空気を岡部の咳払いが元に戻す。緊張を孕んだ声で、岡部は聴取を続けた。
「荒木の計画に気付いたのはいつですか」
「……荒木の家に初めて行った時」
 確かそれは、10月の第一水曜日だったと青木は記憶している。それから3週間近くも、荒木の計画に気付きながら薪は彼を放置していたことになる。

 絶句する青木の横で、荒木が妙な笑い方をした。
「おれ、なんかヘマしましたっけ」
「ミスと言えるほどのミスはしていない。少し気になった程度で」
「なにが?」
「兄弟が居るかと訊いたとき、きみは一人っ子だと言い、それを証明するかのように母親に電話をした」
「わざとらしかったですかね」と自嘲した荒木に、薪はゆっくりと首を振り、
「そうじゃない。自分が被害者遺族であることを隠すのはごく普通のことだし、僕に気を使ったとも考えられる。気になったのは、そのとき母親を『ママ』と呼んだことだ」
「20歳超えても、母親をママって呼ぶ男はいっぱいいるでしょ」
「父親のことは『父さん』と呼んでいた。釣り合いが取れない」
「それだけで?」
「そんな子供もたくさんいるとは思うけど。僕はその時点で、きみにもう一人の母親がいることを知っていたから……新しい母親にママと呼んで欲しいと言われたのかもしれない、でも別の可能性もあると思った。
 新しい母親と表面上は仲の良い親子を演じても、自分の母親は一人だけ。荒木は産みの親をとても大事に思っているのかもしれないと、そう思った」
 薪の推理を聞いて、青木はふと思い出す。そう言えば薪も、育ててくれた叔母夫婦を「叔父さん、叔母さん」と呼んでいた。同じ境遇の子供同士、感じるものがあったのかもしれない。

「どうしてそれを話してくれなかったんです」
「その時は未だ確証がなかった。不確かな疑惑で第九に混乱を招きたくなかった」
 質問に対する薪の答えを、岡部は疑り深そうな顔で聞いていたが、やがて軽く頷いた。
「まあそれはよしとしましょう。では、確証を持ったのはいつですか」
 毛布を掴んだ自分の手をじっと見つめ、薪は沈黙した。焦れた岡部がせっかちに解答を促す。
「答えなさい」
「…………猫の首が送られてきたとき」
 事件の朝、あの呪われた贈り物から荒木の計画は回り出した。あれが荒木の仕業だったと、薪は即座に見抜いていたのだ。

「おれがやったって証拠は、何も残さなかったはずですけど」
 荒木の言う通り、鑑識の調べでは何も出なかった。だが、薪の根拠は物証ではなかった。
「きみが青木と話しているのを聞いた。猫の耳に入れてあったメッセージカードに、僕の名前があったから僕を呼んだのだと、そう言ってただろう」
 青木もその会話は覚えていた。「例え室長に宛てたものでも処分は自分たちでするものだ」と荒木に教えていたら、隠蔽を指導するとは何事だ、と薪に叱られたのだ。
「カードは頭から突っ込んであった。文章の始めに書かれていた僕の名前は見えなかったはずだ」
 メッセージカードを抜かないうちから薪の名前が書いてあると知っていたのは、そのカードを書いた本人だけだ。
「あのときは焦ってたんですよ、おれも。青木さんのあんな怖い顔、見たの初めてだったから」
 言われてみれば、薪が青木たちに声を掛けたタイミングはおかしかった。青木が荒木を指導してから、少し間があった。青木の隠蔽工作に憤ったなら、もっと早い段階で叱責に来るべきだ。
 あのとき薪の中で、荒木に対する疑惑が確たるものに変化した。それゆえのタイムラグだったのか。

「それはつまり」
 岡部が三白眼をぎらつかせ、薪に詰め寄った。
「薪さんは、モンスターの正体が荒木だと分かっていながらそれを誰にも教えず、そのモンスターと二人で出掛けた、と理解していいんですね?」
 脅しつけるような声だった。握った拳が微かに震えていた。
 対する薪は、そうだ、と静かに応じ、伏せた睫毛を瞬くたびに揺らしながら、
「滝沢からの情報を重ね合わせると、疑わないわけにはいかなかった。岡部たちが滝沢から聞いた話を、僕は1ヶ月前に聞かされていたんだ」
「おれたちがその話を滝沢から聞いたのは、今日ですけどね」
「本当か? それでよく」
 そこで初めて薪は顔を上げ、岡部の顔を直視した。途端、わずかに身を引く。岡部はまるで憎むべき犯罪者を睨むような眼で、ベッドに座った薪を見下していた。

「なぜわかったか、ですか? あんたが青木の気持ちに鈍くなったからですよ」


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モンスター(23)

 以前、下請けさんの現場担当者のお名前が、「滝沢さんと鈴木さんだったw」と言うお話をしたことがありました。で、今回新しい現場で、その滝沢さんと再び一緒に仕事をすることになったのですけど、なんと、
 I 市役所の監督員さんの名前が「青木さん」!! マジかww
 いやー、こんな偶然、あるんですねえ。びっくりしました。





モンスター(23)





 その日のうちに荒木翔平は逮捕され、監査官による聴取を受けた。荒木の身柄が捜査一課ではなく官房室の息の掛かった監査官預かりになったのは、薪のスキャンダルを恐れた中園の判断であった。一課長の苦い顔が目に浮かぶようだったが、身内の不祥事であったこと、捜査陣がまんまと裏を掛かれて偽の信号に飛びついた事実を不問に付したこと、監査課の監査が終わった後は警視庁に身柄を引き渡すこと、つまり送検と手柄は捜査一課のものとしたことで、表立った騒ぎは起きなかった。
 一課での取り調べが行われる前、荒木の犯罪計画について、監査室では一つのストーリーが作られた。それは荒木が薪に横恋慕し、交際を迫ったが拒否されて拉致監禁、暴行、殺人未遂に到った、と言う若者にありがちなドラマであった。それが荒木の自供調書になった。貝沼事件との関係は、一文字も記載されなかった。

「なんだ、その三文小説みたいな筋書きは」
 アクリルボード越しに投げつけられた言葉に、青木は鼻白む。その言い方はあまりにも尊大で、自信に満ち溢れている。どう聞いても囚人の言い草ではない。
「誰が書いたんだ。センスねえな」
「おれだ」
 滝沢のダメ出しに、岡部が低い声で答える。俗なストーリーが岡部のイメージに合わなかったのだろう、滝沢は意外そうに眼を見開いた。
「中園さんと二人で色々考えたんだが。それが一番通りがいいだろうってことになって……まあ、薪さんだからな」
「なるほど。薪だからな」
「薪さんですからねえ」
 似たり寄ったりの感想は三者三様の口調で、しかし3人は申し合わせたように遠い眼をする。一時下りた沈黙を破って、滝沢が尋ねた。

「薪はまだ病院か」
「ああ。今日、やっと医者の許可が出た。おれたちはこれから病院だ」
 運び込まれた警察病院で、薪は丸一日眠り続けた。彼の体力が回復し面会が許されたのは、薪が助け出されてから3日後の午後。その日はちょうど滝沢に約束した面会日と重なっており、岡部と青木は小菅に寄ってから薪の病室へと赴くことにした。
 滝沢が看守を追い出した面会室で、青木は滝沢に事件の詳細と顛末を語って聞かせた。今回の事件には滝沢も一枚噛んでいた、というか、薪に危険が迫っていることを知らせてくれたわけだし、彼にも知る権利はあると判断したのだ。

「動機だけはこちらで用意しましたが、犯行の詳細について、荒木は全面自供しました」
 自分が第九入りを希望したのは、病床の母親を元気付けるためだった、と荒木は言った。
 全身を病に蝕まれた母親の、生きる気力は薪に対する復讐のみ。母親に少しでも長く生きて欲しくて、荒木は自分が復讐を代行している振りをした。

 ――今日は階段からあいつをを突き落としてやった。鈍くさいあいつは足を挫いて、松葉杖のお世話になっている。
 コーヒーの中に下剤を混ぜてやったら、トイレが間に合わなくて粗相をしてしまった。今では警察中の笑い者だ。
 ビタミン剤だと偽って飲ませていた母親の抗癌剤(病院には失くしたことにしていた)の副作用で髪が抜けて、若い頃の美貌は見る影もない。毎日、鏡を見ては溜息を吐いている。いい気味だ――。

 母親に求められるがまま、荒木は薪に様々な嫌がらせをしていると話したが、現実に荒木がしていたのは、母親の手紙を他の郵便物に混ぜて薪に届けたことくらい。それ以外は何もしていなかった。
 薪は手紙を読んでも感情を表に出すことはなかったが、それについても荒木は母親に嘘を言った。
 母さんの手紙のせいで、あいつは恐怖に怯えている。殆どノイローゼになっている。計画は順調に進んでいる、このまま追い詰めていけばあのオカマ野郎は自殺するに違いない。もう少しで恨みを晴らせる――そう、嘘を吐き続けた。あの男の死に様をこの眼で見るまではと、母もそれに応えて病と闘い続けた。

 その母がとうとう病に負けて、この世を去った時。荒木の中で何かが壊れた。
 崩落による隙間を埋めるように、そこに母親の遺志が注ぎ込まれた。その瞬間に殺意が生まれたのだと、決して最初から薪を殺す気だったわけではないのだと、犯行の計画性を否定した。

「まさかおまえ、それ、信じたわけじゃないだろうな」
 荒木の自供内容に不可を付けられた青木は、少し考え込んで、でもきっぱりと言った。
「オレは荒木を信じます」
 さもバカにした眼で滝沢が青木を見る。視線に形があったらきっと、「バカ」と書かれている。おそらく強調太文字で。それでも青木は自分の意見を曲げなかった。
「『第九に来てよかった』って、荒木はオレに言ったんです。室長のこともオレたちのことも大好きだって」
 酔いに任せて調子の良いことを、そんな解釈もできたかもしれない。しかし青木には、そうは思えなかった。
「あれが演技だったとは、オレは思いません」

 青木が口を噤むと滝沢は、あの人を値踏みするような目つきで青木を見やり、はあ、とため息を吐いた。
「おまえが鈴木くらい腹黒けりゃな」
 一部では第九の神さまと呼ばれる鈴木でさえ、滝沢フィルターに掛かるとこの始末。裏返せば、その滝沢ですら青木にはおよそ悪の要素を見い出せないと言うことになる。
「オレ、善い人じゃありません。お芝居とは言え、滝沢さんが薪さんを押し倒したって知った時には、すっごいヤキモチ妬いたし」
「当たり前だ。それが目的だったんだ」
 あれには別に目的があったのだが、滝沢は敢えて嘘を吐いた。青木もまた、その事実の裏側を薪から聞かされていたにも関わらず、知らない振りをした。
 工作員として訓練を受け、人の表情を読むことに長けた滝沢は、一目でそれを看破する。薪クラスのポーカーフェイスならともかく、青木のそれはお粗末すぎるのだ。

「薪がなんでおまえに何も言えなかったのか、分かった気がする」
「オレにだって分かってます。……オレが頼りないから」
「それは否定せんが」
 青木に話したら全部顔に出る。そうしたら周り中に知られてしまう、荒木が貝沼事件被害者の遺族であること。
 その危惧もあっただろう、しかし。
「たぶん、違うな」
 話せば青木は、必死で薪を慰める。あなたのせいじゃない、あなたはオレが守る、オレのためにもみんなのためにもあなたは胸を張って生きてくださいと、そんな言葉で彼を包むだろう。それに身を委ねてしまいそうになる、自分が薪には許せなかった。
 そんな薪の気持ちを見抜いて滝沢は、薪が「過去の亡霊に囚われている」と言ったのだ。

 もうとっくに終わった事件の、そもそも自分にはない責任を勝手に背負いこんで、誰も自分を責めないからと自分で自分を責め続け、それだけでは飽き足らずにこんな事件を引き寄せた。滝沢が自由の身なら、病院に飛んで行って平手の2,3発もお見舞いするところだ。
 自分が行けなければ誰かに託すしかない。立場的には恋人の青木が適任だが、この男にはまず無理だ。
 なぜ話してくれなかったのかと、青木からは薪に対する怒りがまるで感じられない。もちろん打ち明けてもらえなかったことを寂しいと思っている、でもそれは薪が悪いのではなく、己の未熟ゆえだと凹んでいる。
 こういう人間に、あの頑固な薪を矯正することはできない。

「どうやらあんたの出番だな。副室長殿」
「おれは他人のプライベートには口を挟まん」
「しかしこいつには無理だ。薪に尻の毛まで抜かれちまってる」
 ふうむと腕を組み、考え込む様子の岡部に、青木は慌てて言った。
「嘘ですよ、岡部さん。オレ、薪さんにそんなことしてもらってません」
 瞬時に居室に敷き詰められた微妙な空気。次の瞬間、アクリルボードの向こうで爆笑した滝沢に、岡部が苦い顔をする。
「滝沢さん、いい加減なこと言わないでくださいよ。薪さんに無駄毛の始末なんてさせられるわけ、あ、でも、耳掃除はこないだしてもらって、それが気持ちよかったのなんのってうごっ!」
 青木が座っていたパイプ椅子の脚が岡部に蹴り飛ばされてダリの絵のように歪んだのと同時に、面会は終了時間を迎えた。

 そんな一幕を経て、二人は病院を訪れた。時刻は3時を回っていた。
 薪はベッドに横になり、茫洋と窓の外を見ていた。毛布の上に投げ出された細い腕に、亜麻色の前髪が被さる額に、幾重にも巻かれた白い包帯が痛々しかった。

 見舞いに訪れた二人を認めると、薪は困ったように微笑んで見せた。その顔は「またおまえらは余計なことをして」と言わんばかりだった。
 衰弱が激しかった薪は、入院初日はICUにいた。昨日は一般病棟に移されたが、面会謝絶の状態だった。青木はスタッフを口説き倒し、看護師立会いの下で薪の寝顔を見ることだけを許してもらった。
 起きている薪を見ることができたのは5日ぶり。まだ頬は青白く笑みはぎこちなかったが、森田家の墓前でこの腕に彼を抱いたあの日より幾分も、その瞳は生ある人間に近付いていた。

「薪さ」
 青木が薪に近付こうとすると、岡部がそれを手で制した。驚く青木に岡部は、さらに青木の度肝を抜くようなことを命じた。
「青木、外で見張ってろ。誰も病室に入れるな」
 すぐにでも薪の手を取ってその無事を確かめたかったが、ここは我慢だ。青木は聞き分けよく、病室の外に出た。岡部は副室長として、室長の薪に事件の顛末や仕事の報告をするつもりなのだろう。それで秘密保持のために青木を見張りに立てたのだ。

 青木はそう推測したが、それは大きな間違いだった。
 ドアの前に立って5分もしないうち、青木は病院の廊下に信じられない人物を発見した。捜査一課の大友と西田、そして彼らが連れているのは。
「荒木……!」
 荒木は両手を前で揃えて、その上にタオルを巻いていた。腰には猿回しの猿のように青い紐を結わえ付けられ、その先端は西田の手にしっかりと握られていた。まだ取り調べ中だから囚人服こそ着ていないが、その扱いは完全に犯罪者のそれであった。

「薪室長の病室はここですか」
「そうですけど、大友さん。室長はまだ、面会謝絶が解けたばかりです。事情聴取はもう少し後にしてもらえませんか」
 病室に入る前、担当医に、患者に無理をさせないようきつく言い渡された。
 薪の怪我は全治2週間。実はこれは大した怪我ではない。時間を掛けて養生すれば、跡形もなく消える程度の傷だ。だから、医者が心配しているのはそこではない。
 誘拐事件の被害者にとって一番深刻なのは心の傷だ。例え無傷で助け出されてさえ、被害者に危険がないとは言い切れない。ほんの些細な共通点、例えば犯人がしていた腕時計と同じものを街で見つけた、監禁場所で嗅いだ潮の匂いがした、聞こえてきた時報のメロディが同じだった――たったそれだけのことで、監禁された時の恐怖が甦り、パニックになって自殺した者もいるのだ。聴取目的だろうが荒木を同伴するなんて、1課は何を考えているのか。

 怒りが顔に出ていたのか、大友は焦った様子で首を振り、「青木さんでもそんな顔するんですね」と苦笑した。
「聴取は室長が退院してからで充分です。自白調書も、その裏付も取れましたから」
「じゃあどうして」
「竹内さんから電話があって。岡部警視に頼まれたんだそうです。荒木を連れてきて欲しいって」
 驚きのあまり、青木は声も出なかった。
 岡部が荒木を薪の病院に呼び寄せた? いったい何のために?

 改めて荒木の様子を見れば、彼の太陽のような明るさはとっくに消え失せて、罪人特有の陰鬱な空気をまとい始めている。虚ろな視線を床のタイルに淀ませ、誰とも眼を合わせないように誰の視界にも入らないようにひっそりと息を殺して、その姿は出会った頃の薪を青木に思い出させる。あんなに華やかな人なのに、当時の薪はそんな気配を漂わせていた。見ていると不安を掻き立てられるようで、青木は彼から眼が離せなくなった。

「これ、課長にバレたら今度こそおれクビですからね。ぜったい竹内さんちにパラサイトしてやるー」
 仲が良いのか悪いのか、いま一つ不明瞭な竹内の後輩は、荒木の腰紐を青木に譲り渡し、サッと敬礼した。
「見張りはおれたちが代わります。青木さん、荒木を連れて中に入ってください」
「え。でも」
「『理由は分からないけど、岡部さんは薪室長に何か大切なことを伝えたいんだと思う』 そう、竹内さんが言ってました。あのひと、そういうの鋭いから」
 信じて間違いないと思います、と大友に言われてようやく青木は滝沢の言葉を思い出す。自分には預けてもらえなかった滝沢の伝言を岡部はちゃんと受け取って、薪に伝えようとしているのだ。
 青木は紐の取っ手をぐっと握りしめ、スライドドアを横に滑らせた。




テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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