You my Daddy(5)

 今年も始まりました、入札ラッシュ!
 とりあえず、今回は5本。うち何本かでも落札できるといいな~。と言っても現在、2本元請工事やってるから、それはそれで大変なんだけど(^^;
 少々忙しくなりますので、ブログは不定期更新、あるいはご挨拶抜きの予約投稿になるかもです~。ご了承ください☆





You my Daddy(5)





 薪からの電話は約1時間後に掛かってきた。時間調整に通達類の整理をしていた手を止めて、青木は電話に出る。
『家に帰る。カフェテリアまで車を回してくれ』
「え。カフェテリアですか?」
 少し驚いた。内容が内容だけに、人目を避けて庁外に出たものとばかり思っていた。管理棟のカフェテリアで話し合いなんて、無防備な薪らしい。自分が有名人であることに自覚がないのだ。

 妙齢の女性と幼い子供、そして科警研の若き所長と言う組み合わせは、周りの人々の好奇心をさぞ煽り立てたことだろう。しかも相手の女性はあの性格だ。執務室でしたように、相手の立場も周りの目も意に介さず、自分の主張だけを声高に述べたのではないか。
 薪の立場と精神状態が心配で心配で、青木は居ても立ってもいられなかった。帰宅ラッシュで混み合う科警研の地下駐車場から管理棟の屋外駐車場へ車を回す、わずかな時間が耐え難かった。

 青木が焦燥に胸を焦がしつつ、カフェテリアの駐車場の入口に差し掛かった時、ちょうど建物から薪が出て来た。
「えっ?」
 咄嗟にブレーキを踏んで、車を止めた。あやうく前の車に追突するところだった。

 薪は、ミハルと手をつないでいた。
 小さなミハルの右手は薪の細い手をしっかりと握り、反対側の手は母親であるヒロミの手に握られていた。両手を大人に預けたミハルの屈託ない笑い声が、子供の両側で微笑む大人たちのやさしい声が、遠く離れた車の中にいる青木にまで聞こえてくるような、それはそれは幸せそうな姿であった。
 春の夕陽の暖かい朱色に包まれて微笑み合う彼らは、まるで本当の家族のようで――いや、「よう」ではない。ヒロミの話によれば、薪はむかし彼女の母親と男女の関係にあった。それを裏付ける証拠の写真もあり、薪もその事実を認めている。彼らが実の親子である可能性は充分にあるのだ。

 青木は言葉を失くした。鼻の奥がつきんと痛む。
 それはもしかしたら、薪が当たり前に手にしていたものかもしれない。もしも貝沼事件が無かったら、もしも鈴木が生きていたら、もしも自分がこれほどまでに彼に執着しなければ。
 3つのイフの、最後だけは意味がないと自嘲する。例え薪が青木を受け入れてくれなかったとしても、自分の気持ちは止められなかっただろう。

 青木の車を認めてこちらに近付いて来る彼らの、楽しげな足取り。やがて3人は仲良く後部座席に収まり、薪の声が車を出せと青木に命じた。
「あの。どちらまでお送りすれば」
「このまま家に帰ってくれ」
「え」
 いいのだろうか。二人で撮った写真やらペアパジャマやら、自宅には他人に見せられないものが沢山ある。写真や服は仕舞えるけれどダブルベッドは隠しようがないが。
「安心しろ。夕食はテイクアウトしてきた。ちゃんとおまえの分もあるぞ」
「いえ、夕食のことでは」
 自分たちの関係を知られても構わない、と言うことだろうか。それはつまり。

「ではやはり、ヒロミさんは薪さんの実の娘さんで」
「パパ、きれい」
「ん? ああ、夕焼けだね」
 青木の質問はミハルの声に遮られた。薪がミハルの声に耳を傾けてしまったので、青木は質問を続けることができなかった。
 冬に実家に帰った時も思った。薪は子供が嫌いと言うが、とてもそうは見えない。子供は自分が相手に好かれているかそうでないか、いかに言葉面を繕っても察知する生き物だ。自分を嫌っている人間のところへは決して近付かない。それは力の弱い子供だからこそ持ち得る自分を守るためのスキルなのだ。嘘吐き上手な薪の言葉より、子供の本能の方が確かだと青木は思う。

「夕焼けと言うのは光の散乱現象だ。レイリー散乱と言って、微粒子の大きさDが光の波長λよりも遥かに小さい場合、光は波長λの4乗に逆比例して散乱されやすくなる。加えて朝夕は太陽の位置が低くなることで光の通過する大気層の長さが長くなるため、昼間散乱することによって見えていた波長の短い青い光は届かなくなり、逆に微粒子の間をすり抜けていた赤い光が拡散されて」
 子供相手にレイリー散乱の講義を始めた薪を、止めるべきか突っ込むべきか、青木は迷う。そして気付いた。どんな魔法を掛けたものか、ヒロミがすっかり大人しくなっている。
 薪の、子供には到底理解できない講釈を、ヒロミは黙って聞いていた。まるで、子供の相手に慣れていない父親を微笑ましく見守る妻のように。

 此処はやはり自分が薪を止めるべきかと思案する青木の後ろで、ヒロミの娘らしく、ミハルが華麗に薪の講義をスルーする。
「パパ、きれいね」
「え、僕のこと? ちがうよ。僕はパパじゃなくておじいちゃん。それから、男の人にはキレイって言わないんだよ。カッコイイって言うんだよ」
「パパ、お顔、きれい」
「いや、だから」
 かみ合わない会話に、薪が口ごもる。舞がこれくらいの頃にはもう少しまともな会話が成り立ったように青木は記憶しているが、幼児期の個人差は大人よりも大きいものだし。小学生あたりから急速に伸びるタイプの子供もいる。
「……ありがとう」
 さすがの薪も幼児相手にキレるわけにもいかず、苦笑で諦めたようだった。
 ルームミラーでその笑顔が作り物で無いことを確認すると、青木は軽く微笑んで車をスタートさせた。


 ――彼らがカフェテリアを後にする数分前。

(薪所長に子供が)
(見ろ。子供に向ける笑顔の美しいこと)
(まるで聖母だ……)
(なんと神々しい)
(おまえら、よく落ち着いていられるな?!)
(おまえこそ、なにをそんなに苛立っている?)
(バカかおまえらは! 子供ができると言うことは、我らの女神がどこかの男に汚されたと言うことだぞ!)
(バカはおまえだ。薪所長は男性だぞ)
(それもそうだ。と言うことは)
(((処女懐妊に決まってるだろうが)))
(なるほど。ああ、なんて神々しい)
 同様の会話がカフェテリアのそちこちで繰り返されていたことを、彼らは知らない。



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

You my Daddy(4)

 髪を切りました。
 夏っぽく、思いっきりショートにしました。多分、薪さんより短いと思う(=∀=)



You my Daddy(4)




「ミハル!」
 子供の泣き声を聞きつけたかのように、モニタールームに女性の声が響いた。入口の自動ドアを振り向けば、第九付の警備員の友田巡査長を突き飛ばすようにしてこちらに走り寄る女性の姿。彼女の鼻の形はミハルのそれとよく似ており、それがなくとも彼女がミハルの母親であることは、その様子を見れば明らかだった。
 年の頃は24、5だろうか。緩やかに波打つ長い黒髪に、やや吊り気味の黒い眼。気の強そうな眉。逆三角形の小さな顔と痩せた体つきが彼女にきつそうな印象を植え付けているものの、充分美人の部類に入る。

「どうしたの。どこか痛くしたの」
 職員たちを無視して給湯室に走り込み、ミハルの身体を検めた彼女は、鋭い眼をさらに吊り上げて、傍らに立っていた青木を睨みつけた。
「ご、ごめんなさい。オレが泣かせました」
「なんで」
「だって……薪さんにキスを……」
「なに!?」
「ごめんなさいー!」
 子供を守ろうとする母親の気迫の前に、誰も青木を庇えなかった。ていうか青木が悪いよね、これ。

「お仕事中に申し訳ありません、みなさん」
 突然の来訪者に目を丸くする職員たちに、警備員の友田が頭を下げた。
「こちらの女性、笹原ヒロミさんと仰るそうですが、薪所長を訪ねて来られまして。第九は関係者以外立ち入り禁止だと警備室で問答するうちに、いつの間にか子供がいなくなってしまって」
 警備員の説明に、なるほど、と職員たちは頷いた。
 彼らが納得したのは、これが特に珍しいことではないからだ。薪の熱狂的なファンの中には、思い詰めた挙句に恋人や婚約者を偽って第九に乗り込もうとする女性もいる。もしも嘘だった場合は詐欺罪に問われますよ、と諭せば大人しく帰る者が殆どだが、たまにこういうツワモノも現れる。
「つまり、あの女性は薪さんのファンで、あの子を薪さんの子供だって言い張るんだな」
「いやそれが、今回はちょっと変わってまして」
 友田はそのいかつい顔を苦笑に歪めて、後ろ頭をポリポリと掻いた。

「自分は所長の娘で、あの子は孫だと」
「「「「まさかの男爵的中?!」」」」
「は? 男爵とはなんでありますか?」
 目を点にする友田を執務室から追い出し、薪のプライバシーを確保しながらも第九メンズは動揺する。突拍子もないことをと笑っていたが、まさか本当の孫?

 本気で第九に血の雨が降るかもしれないと、恐る恐る青木を見れば、大きな身体を丸めて自分よりずっと小さな親子にペコペコと頭を下げている。まだこの事実は青木の耳には届いていないらしい。
「ミハルちゃん、意地悪してごめんね。チョコレートあげるから許して」
「うん」
 甘いお菓子に子供はすぐに泣きやんだが、母親の方はそうはいかない。大事な娘の心を傷つけられたのだ。我が子を思う愛が深ければ深いほど、簡単には許せない。
「ふざけんじゃないわよ。慰謝料よこしなさいよ」
 て、金かよ。
「いや、チョコが慰謝料ってことで」
「なに甘いこと言ってんの」
 チョコだけに?
 なんて冗談を口に出せる雰囲気ではなかった。カカオマス99%のビターチョコみたいな女だ。

「泣いてたじゃない。精神的被害を被った証拠よ。子供を第九職員に虐待されたってマスコミに言い触らされてもいいの?」
「そんな無茶苦茶な」
「エリートなんでしょ。5万でいいわ、さっさと出しなさいよ」
「いやあの、この季節は歓送迎会等で出費が多くてですね」
「金銭の要求は恐喝罪になりますよ。チョコレートで手を打った方が身のためです」
 執務室に怜悧な声が響く。モンスターペアレントの攻撃にタジタジの青木を救ってくれたのは、警察庁に出向いたはずの薪だった。

「薪さん。定例報告は」
「小野田さんに急な来客があってな。延期だ」
「岡部さんは?」
「中園さんと話が弾んでるみたいだったから。置いてきた」
 首席参事官の中園と岡部は仲が良い。世話の焼ける上司という共通スレッドから話も合うみたいだし、階級の垣根を越えて、たまに二人で飲みにも行っているようだ。

 職員たちの質問に答えながら、薪は足早に給湯室へ近付く。追い詰められて壁にへばりついた青木と、子供を背中に纏いつかせた母親の間に割って入ると、冷たい目つきで女を見据えた。睨まれた女がぎょっとして身を引く。
「どうして」
 ミハルが持っていた写真は、母親が持たせたものだったのだろう。20年以上前に撮った写真と寸分変わっていない人物が眼の前に現れたら、誰だってびっくりする。
「あ、もしかして、薪室長の息子?」
「本人です」
 常識では彼女の方が正しくとも、薪にその理屈は通用しない。「今は室長ではなく所長ですが」と冷静に答える、だけどそのきれいな顔はバリバリに強張っている。彼女の失言に腹を立てているのだ。それを証明するかのように、彼の声は厳しかった。

「僕の部下に言いがかりを付けるのは止めてください。彼はやさしい男です。子供を苛めるなんてあり得ない」
「第九の室長だか所長だか知らないけど、聞いて呆れるわ。現場を見もしないで、自分の部下の肩を持つの」
 彼女の言い分は正しい。確かに青木は他人にやさしい男だが、それは薪にちょっかいを出さない相手に限られるという事実を当の薪だけが知らないのは、果たして喜劇か悲劇か。
「子供が訳もなく泣くと思うの」
「情緒不安定なんじゃないですか? あなたのヒステリーが遺伝して」
「なんですって。部下も部下なら上司も上司ね。親の顔が見たいわ!」
「親は関係ないでしょう!」
「ああら。今、遺伝がどうのっておっしゃいませんでした?」
「う」
 薪の呻きに、おお、と一斉に周囲がどよめく。口論で薪から一本取るとは、この女、只者ではない。
 苦い顔をして髪に手を突っ込み、ぎゅっと頭皮を押さえて薪は、ちっと舌打ちした。

「とにかく、その子を連れて出て行ってください。ここは関係者以外立ち入り禁止です。お望みとあらば、公務執行妨害で留置所に入ってもらってもけっこうですよ」
「いや、でも薪さん。その人たち、もしかしたら」
 ためらいつつも今井が、警備員の話から生まれた疑惑を口にすると、薪は、亜麻色の髪を繻子のように波打たせながら首を左右に振って、
「話は警備室長から聞いた。その女の言うことはでたらめだ」

 岡部と二人、行きは時間に迫られて、地下通路を利用した。約束がキャンセルになって時間に余裕ができたから、帰りは外を回って帰って来た。春の5時台と言えば外は未だ明るく、新芽の香りを含んだ暖かい春風なども吹いて、書類で凝り固まった目と肩をほぐすにはもってこいだと思った。
 当然、正門から第九に入った。子供の親を探すために誰に相談したものかと考えながら歩いていたら、警備室の騒ぎが耳に入った。覗いてみると、「子供が迷子になった」と警備員が庶務課に電話をしていた。そこで警備室長から彼女の言い分を聞いたのだ。
 それは薪の予想と寸分違わず合致して、しかし、彼女を目の当たりにした薪に生まれたのは絶大なる違和感。さらに青木を責める彼女を見て、その違和感は確信に変わった。

「大学の時に付き合っていた女性はいたけど、君が彼女の子供の筈はない。麻子ちゃんは奥ゆかしくて、可愛いひとだった」
「アサコ? ……ああ。なるほどね」
 薪が麻子の名前を出すと彼女は、聞き覚えがある、という顔をした。それから一人で納得したように頷き、キッと眦を上げて薪に噛みついた。
「恋人がいたくせに、わたしのママを弄んだのね。ひどい男」
「なにを」
「これが証拠よ!」
 黄門さまの印籠よろしく彼女が高らかに掲げたのは、パッションピンクの縁取りのスマートフォン。画面には、上半身裸でベッドに横たわる男女の姿が。

 刹那、シンと静まり返った執務室は、次の瞬間恐慌状態に陥る。真っ先に思い浮かんだのは全員一致のリスクアセスメント。つまり。
「「「「青木を抑えろ!!!」」」」
 野生のチーターもかくやの瞬発力で、4人が青木に飛びかかる。しかし青木の動きを止めるには至らず、それもそのはず、事態を遠巻きに見守っていた彼らとは違い、青木は薪を挟んで彼女に手の届く位置にいたのだ。か細い女の手からスマートフォンを取り上げるなどコンマ2秒の仕事だ。

「早まるな、青木!」
「薪さんに会えなくなってもいいのか!」
「福岡のお母さんが泣くぞ!」
 立てこもり犯の説得みたいになってきた。このままだと青木の実家に連絡が行きそうだ。
 職員たちの心配をよそに、青木は意外なくらい落ち着いていた。
「大丈夫ですよ。どうせ合成でしょ」
 穏やかに微笑みながらも、薪の過去の秘め事を記録したスマートフォンは時速120キロでゴミ箱にダンクシュート。言ってることとやってること違うぞ、青木。

「わたしのケータイ! あんた、壊れたら弁償しなさいよ?!」
 剛速球を受け止めたゴミ箱は衝撃で弾き飛ばされ、5メートルほど吹っ飛び、壁にぶち当たって止まった。仕事中にKYな着メロを響かせては薪に投げられていた曽我の携帯だって、こんな扱いを受けたことはない。
「どこが優しい男なのよ。ねえ、今の見たでしょ?」
 彼女は薪に問うが、こういうところは見ないのがこの二人の巡り合わせと言うか度重なる不幸と言うか、その時も薪は突き付けられた自分の過去でいっぱいいっぱい。青木の非人道的な振る舞いに気付く余裕もなかった。
 尖った顎に右手を当て、しきりに何か思い出そうとしていた薪の、亜麻色の瞳が不意に見開かれる。やがて彼の口から零れたのは、一人の女性の名前であった。

「アユミちゃん」

 え、と青木が呟いた。ぽかんと口を開ける青木の前で、亜麻色の瞳が彼女の中に誰かの面影を探すかのように眇められる。
「きみ、笹原亜由美さんの娘か」
「そうよ」
 どよよっと執務室がざわめきに満ちた。実は皆の見解も青木と同じで、てっきり合成写真だと思っていたのだ。ところが、薪の口から相手の女性の名前と思しきものが出た。つまり、相手の女性との関係を認めたと言うことだ。

「じゃあ、本当に薪さんの娘?」
「と、孫?」
「そうよ。だからお金貸して」
 青木からの略取に失敗した彼女は、その収穫先を薪に求めた。けれども悲しいかな、そこは焼野原。
「持ってない」
「嘘」
「いやホント。この人の銀行預金、254円だから」
「なんで。所長でしょ?」
 実は薪の金銭感覚は壊滅的で、あればあるだけ使ってしまう乱費家。元々が贅沢な人間ではないから無くなれば無くなったで一向に平気な上、老後の事なんか考えないタイプだから貯金が無くても気にしない。一緒に暮らし始めて青木が一番驚いたのは、薪の通帳の残高だったりする。

「じゃあパパの家に泊めて。今夜、寝るところがないの」
 彼女の次なる要望に、ハッと職員たちが息を飲む。
 若い女性が男の家に泊めて欲しいと頼む。これは血縁関係がなければ出てこない言葉ではないか。
 相手の家族構成も知らない状況で、もしも自分の貞操に危険が及んだらと、普通の女性なら心配になるのが当たり前だ。それをなんの迷いもなく宿泊を希望するとは、それこそが薪の肉親である証拠では? それとも、薪が相手ならそれもありなのか?
 女の大胆さに、第九メンズは冷や汗を流す。彼女の本心は知れずとも、青木の性質なら知っている。青木は普段は借りてきた小猫のように大人しい男なのに、薪のことになると大トラに化ける。相手が子供でも容赦しないのは、トリプルエスプレッソで証明済みだ。

 ざわめく面々に軽く舌打ちし、薪はちらりと時計を見た。
 定例報告の後は親睦会の予定だったから、時刻は定時の5分前。人事異動の季節柄、決済待ちの書類は山ほどあるが、火急を要する案件はない。どうやら、こちらの火の手を先に鎮めた方がよさそうだ。
「場所を変えよう」
「いいわ」
 いくら第九の部下たちが身内同然でも、聞かせられない話もある。すでに手遅れのような気もしたが、取り敢えず薪は彼女を外に誘い、職員たちには急ぎの仕事が無ければ退庁するようにとの岡部の伝言を伝えた。

 職員たちの前を今更の無表情で通り過ぎながら、薪は少しだけ脚を止める。宇野の前で2、3秒、言葉もなく目線を交わした。それから二人を廊下へ出した後、自動ドアを開けたまま振り返り、
「青木。おまえは残れ」
「はい」
 応じる青木にも迷いはなく。その声音にも乱れはなかったけれど。
 残された職員たちの心は不安に満たされ、さりとて所長のプライベートな問題に踏み込むこともできず。静けさを取り戻した執務室で、困惑しきった顔を見合わせるだけだった。




テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

You my Daddy(3)

 暑くなってきましたね~。
 秘密ブロガーさんの中にも体調不良の方が多いみたいで、心配です。暑さ負けかなあ。秘密って繊細な作品だから、ファンもやっぱりデリケートなのかな。
 どうかみなさんのお身体が、早く良くなりますように。

 え、わたしですか?
 すみません、めっちゃ元気です。 
 夏、大好きなんです。ビールが美味い季節なんで (*≧∪≦)


 7月11日に、75000拍手、いただきました。ありがとうございました。 
 今、公開してるのが7万のお礼なんで、次のお話が7万5千のお礼ということで、
 薪さんがボケ老人になる話と、新しい室長候補に室長の座を奪われる話、どっちがいいですか? (あ、どっちもいらねーですか? そうですか……)
 もうちょっとマトモな話を考えますね。ていうか最近、拍手のお礼SSしか書いてないぞ。ペース落ちてるなー。
 身体は元気なんですけどね。頭の調子がどうもね……(。´・(ェ)・)

 とりあえず、お話の続きをどうぞ。 



You my Daddy(3)




「パパ!」

 小さな小さな手でこちらを指差す、その脅威の甚大なこと。男なら誰しも一つや二つは身に覚えがあって、だから薪も岡部も一瞬固まる。ミハルの含みの無い笑顔とは対照的に、二人が取り繕ったのは大人の表情。
「おまえの子供か、岡部」
「違います」
「なんで生まれたときに知らせてくれなかったんだ。お祝いしたのに」
「違いますって。実は薪さん、この子はあなたの写真を持って」
「それにしてもいつの間に。雛子さん、細身だから全然気付かなかった」
「だから違うっての! 聞けよ、人の話!!」
「隠さなきゃいけないおまえの立場も分かるけど、友だちじゃないか。僕にだけは本当のことを」
 とん、と太腿に軽い衝撃を受けて薪の言葉が止まる。ふと下を見れば、自分を見上げているツインテールの女の子。

「パパ」
「えっ?」
 女の子は薪の顔を指差して嬉しそうに笑い、つまりそれは彼女にパパと呼ばれたのが自分であるという逃れようのない事実。
「いや、僕は君のパパじゃ、――はっ」
 薪はやや強引に自分から子供を引き剥がし、向かいにいた岡部に預けると、パパと呼びかけられた時より遥かに焦った表情でその場にしゃがみ込んだ。そうすることで薪の目線は、床に座ったまま薪のことをぼーっと見つめていた男と同じ高さになる。展開を先読みした岡部が、薪の行動に待ったをかけた。
「薪さん、みんなの前です。余計なことは言わない方が」
「なにを呑気なことを。おまえは青木を殺人犯にしたいのか?」
 仲間にも恋人にも、どんだけ信用ないんだ、青木。
「青木、僕を信じろ」
「信じろと言われましても、子供というのは生きた証拠で。写真のこともありますし」
「何かの間違いだ。僕が最後に女とやったのは20年も前だぞ」
「だから薪さん、余計なこと言わないでっ」
「それだって風俗嬢だぞ。歌舞伎町の姫って店のヒトミちゃんて35歳の女の人で、得意技は高速回転ピーピーピーピー」
「子供の前でなに言ってんですかあんた!」

 あまり表情が変わらないから分かりにくいだけで、薪はとっくにパニック状態だった。ミハルに「パパ」と呼びかけられた時から、彼の男爵スイッチは入っていたのだ。
 恋人の青木にはそれが分かって、でも少しだけ意趣返しをしたかった。少し前の話になるが、薪は、夜中に自宅に電話を掛けてきた青木の姉を青木の浮気相手だと誤解し、子供までいるなら自分と別れて彼女と家庭を築くべきだと青木に説教したのだ。心から愛する恋人に浮気を疑われることがどんなに悔しいか、薪にも理解して欲しいと思った。
 その時青木が薪にフォローを入れなかったのはそういうわけで、だけど本気で薪を困らせるつもりはないから、周りの職員たちに目配せをして、そっと自分の席に戻るよう仕向けた。こうしておけば薪が正気に戻った時、自分が言ったことを誰にも聞かれていないと信じさせることができる。

「とにかく、僕には本当に身に憶えが――待てよ」
 我が身を切り裂くような自己弁護を中断し、薪は口元を右手で覆った。俯いて何かを思い出す様子に、俄然興味をそそられた第九メンズがレンゲに群がるミツバチのように舞い戻る。
「憶えがあるんですか?」
「やっぱり薪さんがこの子のパパ?」
「パパじゃない! ……けど」
「けど?」
 どうにも歯切れの悪い薪の口ぶりに、職員たちは、彼を取り囲む輪を一回り小さくする。人数で囲んでプレッシャーを掛ける作戦だ。仕事ではそのポーカーフェイスに無敵を誇る薪だが、プライベートになると意外なくらい押しに弱い。
 果たして薪は、躊躇いつつも口を開いた。

「もしかしたら、僕の孫かも」
「「「「孫お!?」」」」
 子供ならぬ孫疑惑。さすが薪だ、常識の遥か上を行く。

「この写真を撮ったのは大学生の時だ。その当時関係のあった女性が実は子供を産んでいて、その子が成人してこの子が生まれたとしたら、計算は合うだろ」
「「「まさかあ」」」
 全員が口を揃えたが、可能性がないとは言い切れないのが男の弱味。母子関係の明確さに比べ、父子関係の曖昧なこと。DNA鑑定でもしない限り、男は女の言葉を信じるしかない。
「この子と僕、よく見ると似てるような気もするし」
「「「どこが?」」」
「目は二つで鼻と口が一つずつある」
 それは全人類共通です。
「すまん、青木。おまえを裏切るつもりは」
 それが裏切りになるんだったら誠実な男はこの世にいません。てか、この子とあんた、全然似てないから。

 それは全員の総意だったが、男爵全開の薪に言葉での説得は通じない。後でDNA鑑定でもすることにして、この場は薪を宥めて官房室に向かわせないと。
「見損なわないでください。いくらオレでも、20年以上も前のことでヤキモチなんか妬きませんよ」
「そうか」
「とりあえず、この子はオレが預かりますから。定例報告に行って来て下さい」
 うん、と薪は頷いて、所長の顔になった。あれだけパニックになっていたのに、一瞬で仕事モードに切り替われるのはさすがだ。

「この子の名前は?」
「ミハルちゃんだそうです」
「じゃあ、ミハル。おじいちゃんはお仕事に行ってくるから。このおじさんと一緒に、ここでいい子にしてなさい」
 齢40にして孫を持つ人もいないわけではないが、この人ほど「おじいちゃん」という呼称が似合わない人はいない。見かけだけならここにいる大人の誰よりも若いのだ。
 しかし、子供にとっては遥か年上の男性に違いはない。うん、と嬉しそうに薪に抱きつき、感謝の印か親愛の情か、その頬にキスをした。自分の孫かもしれない女の子のキスに薪はまんざらでもない顔をして、早くも親バカ、否、爺バカ、て言うかただのバカだと全員が思った。ひとりを除いて。

「みんなの前で薪さんにキス……子供だから許されるとかそういう問題じゃないよな……」
「青木、どうした?」
「20年後、薪さんを誘惑するようなことが無いとも限らない……今のうちに潰しておくか……」
「なにをブツブツ言ってるんだ? この子の面倒、見てくれるだろ?」
「任せてください。子供の世話は姪っこと甥っこで慣れてますから」
 青木は力強く言い切って薪を安心させると、「さあ、小野田さんが待ってますよ」と二人を送り出した。時間に追われて薪は自分の失態に気付く余裕もなく第九を去り、後には第九の面々と所長の孫かもしれない少女が残された。

 薪に孫を託された青木は早速、ミハルのために給湯室へ行くと、
「ミハルちゃん、ビスケットだけじゃ喉が渇いたでしょう。これ飲んで」
 気配り上手は世話上手。さすが青木、と思いきや。
「にがいー!」
 飲ませたのはなんとブラックコーヒー。しかもこの色合いはトリプルエスプレッソだ。普通のエスプレッソの3倍も濃い、徹夜でMRIを見るときに飲むやつだ。
 案の定、うわーん、と泣き出す子供に青木はにっこり笑って、
「ごめんねえ。砂糖もミルクも切らしてて」
 ……大人げないぞ、青木。




テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

You my Daddy(2)

 こんにちは~。
 
 先週、連休を利用して那須の動物王国に行ってきました♪ (お義母さんは義妹にお願いしました)
 ここはしづイチオシの動物園で、法十の青薪さん定番のデートコースなんですが、
 動物王国と名の付くだけあって、動物たちがみんなふくふくしてるんですよ。平たく言えば太ってる。逆に、スタッフさんたちはみんな細くてよく動くんです。せっせと餌を運び、掃除をし、手入れをする。動物の方がご主人様なんだな~、と実感しました。

 アルパカの子供、可愛かった~。真っ白できれいな顔立ちでした。
 カピバラは安定の愛らしさ。そうそう、カピバラ湯、入ってみましたが、カピバラが岩の向こうで眠ってて。途中起きたんですがまた寝ちゃって、お湯に入ってきませんでした。残念。オットがいなけりゃ閉園までねばったのに。
 レッサーパンダが部屋の中で見られるようになってました。アクリルボード越しではなく、直接。午後だったので、お昼寝中でしたが。今度は朝一に行こう。きっと動いてる。(余談ですが、動物園は朝一ですよ! 動物たち、意外なくらいよく動いてます!)
 あと、ビーバー! 初めて見た!
 ビーバーは夕方以降が活動時間だから、昼間はいっつも巣の中で寝てるんですが、ここのビーバーは巣穴がないんです。(ビーバーにしてみたら落ち着かないと思いますが) 二人でくっついて向き合って丸まって眠ってました。(青薪さんみたい♡)
 カワウソはどこでも目まぐるしく動きますね。見てると目が回りそう(笑)
 あと、ペンギンそっくりのニシツノメドリという鳥がいて、これがめっちゃ可愛かっ……キリがないのでこの辺で。
 動物好きには天国です。みなさんもぜひ。

 一つだけ注意事項。
 高原なんで寒くてねー。ビール飲んでハンモックで寝てたら風邪ひきました。気を付けてくださいね☆





You my Daddy(2)




 4月の人事異動で警視正に昇格した岡部靖文は、この春、第九の室長に就任した。

 官房室との兼任で忙しい薪に代わって、これまでも実質室長の仕事をこなしてきた岡部だが、副室長の立場で室長の仕事を代行するのと、自分が室長になって業務を遂行するのとではまったく違う、という事実を連日のように思い知らされていた。
 例えば、他部署との調整会議。室長の意向を相手に伝えて交渉を進める限り、どうしても合意が得られない場合は「持ち帰って室長と協議します」と言う逃げ道がある。だが、自分が全責任を負う立場になってしまうと、その手は使えない。他のこともそうだ。よくよく困った時は、薪に相談して指示を仰げばよかった。それが今は、全ての決断を自分で下さなければならなくなった。ただでさえ怖い岡部の顔つきが最近ますます怖くなったのは、その重責が彼に圧し掛かっているからだ。

 なにかあれば遠慮なく相談しろと、前任者には言われている。だが。
 長い間この重圧に耐えてきた薪は、4月から田城の後を継いで科警研の所長になった。9つある研究室を統括管理する立場になったのだ。いくら古巣とは言え、否、だからこそ、彼の手を煩わすことは避けたかった。

 そして今日もまた一つ、第九に厄介な問題が起きる。それはやわらかな春風と共に、無邪気な使者によってもたらされた。
「ダイク。パパ」
「えっ」
 思いがけない言葉に岡部はモニターから目を離した。頭を巡らすが、そこには誰もいない。空耳かと机に向き直ると、再び「ダイク。パパ」という声が聞こえてくる。
 どうやら子供の声だと気付いて下を見れば、椅子の肘掛け隙間から小さな女の子がひょっこりと顔を出していた。
「わあ!」
 驚いた岡部が髪を逆立てて飛び退くと、その様子がおかしかったのか、女の子はきゃらきゃらと笑った。
 見たところ3歳くらいの女の子で、少しクセのある黒髪をツインテールにしている。服装は、薄いピンク色のチュニックに濃紺のスキニージーンズ、赤い紐を蝶結びにした黒のスニーカー。今どきの子供らしく、なかなかにお洒落だ。

「なんで子供がここに」
「ダイク。パパ」
「え、え? 父親が第九にいるってことか? そんな訳があるか」
『ダイク』と言うからには少女の訪問先はここで間違いないのだろうが、『パパ』は何かの間違いだ。第九に妻帯者は山本だけ。その山本は、今日は親戚の法事に家族で出席するために休暇を取っている。第一、山本の娘は中学生だったはずだ。

「おーい。この子、誰かの親戚か?」
 岡部の呼びかけに、モニタールームに散らばっていた職員たちがわらわらと寄ってくる。今井、小池、曽我、宇野の4人は、研究室に迷い込んだ少女を見て首を傾げた。
「お嬢ちゃん。お名前は?」
「いくつ?」
「ママはどこ?」
 4人は少女から情報を引き出そうと、代わる代わる質問をした。その質問に、少女はかろうじて「ミハル」と言う自分の名前だけを答えた。
「ミハルちゃんね。苗字は?」
「ダイク。パパ」
「ママのお名前は?」
「ダイク。パパ」
「だれと一緒にここに来たの?」
「ダイク。パパ」
「だめだ、会話にならん。だれか心当たりはないのか」
 4人はそろって首を振る。少女の様子からも、この中に父親はいないらしい。この場にいない第九職員は青木と山本だけだが、はてさて。

「もしかして、山本の2番目の子供とか」
「だとしても中には入れないだろ。モニタールームは関係者以外立ち入り禁止だ」
 もう一人の不在職員の青木は、ある特殊な事情により父親候補から除外されている。彼のパートナーは皆がよく知る人物。その人物との間に子供が望めない以上、彼がパパになることはあり得ないのだ。
 何を隠そうその相手とは、今年の3月までこの研究室の室長だった人物で、名前を薪剛という。下の名前から分かるように、薪は男性だ。青木がパパになれないと言うのはそういう意味だ。
 ごく普通の男性である岡部たちには、正直、男に恋をする彼の気持ちは分からない。分からないが、青木がどれだけ薪に夢中かは知っている。事あるごとにその気持ちの強さを見せつけられている彼らには、薪に隠れて青木が女と深い仲になるとは考えられないのだ。

「そもそもこの子、どうやって中に入ったんだ」
「誰かと一緒に自動ドアを抜けてきたんだろ。ほら、こないだ猫が紛れ込んだみたいに」
「さっき庶務課から荷物が届いたけど、さてはあれか」
 やいのやいのと部下たちが騒ぐ間、岡部はじっと少女の様子を観察していた。その鋭い眼が、少女の衣服の不自然な膨らみを捉える。チュニックの胸ポケットだ。
「この子、ポケットに何か」
 手掛かりを求めて手に取った、一枚のポートレート写真を見て岡部の顔色が変わる。真夏の炎天下のようにだらだらと汗をかいて、ココココ、と鶏の鳴き真似でもあるまいに、まったく岡部は見かけによらず神経が細い。
「まさか、これが父親だってんじゃないだろうな!」
 激しい詰問口調は、写真の主を心配するが故。恫喝すれすれの岡部の声に、4人は彼の手元を覗き込む。彼らとて、これを見れば岡部と同じ気持ちになるはずだ。写真の主に対する彼らの気持ちは、岡部となんら変わらないのだから。

 擦り切れた古い写真。
 そこに写っているのは間違いなく、科学警察研究所現所長、薪剛その人だった。

「「「「隠せ! 青木に見られたらその子の命が危ない!」」」」
 心配、そこ?!
「青木は何処行った?」
「さっき給湯室に、あれっ。あの子もいないぞ」
「急いで探せ! 手遅れになる前に!」
「第九職員が幼児殺害とか、冗談じゃないぞ!」
 岡部が室長になった途端にこの騒ぎ。勘弁してくれと喚きたいのを堪えて、岡部室長は迷子の探索を部下に命じる。
「おーい、ミハルちゃーん!」
「出ておいでー! お菓子あるよー!」

「ミハルちゃんならここにいますけど」
 少女の居場所をみなに知らせたのは、幼児殺害の最重要容疑者の青木だった。
 ミハルはすっかり青木になついた様子で、彼の大きな手にぶら下がるように戯れていた。年端もいかない子供と一瞬で仲良くなれるのはさすがだ。第九で一番女性にモテるのは今井だが、子供に好かれるのは青木なのだ。ちなみに、老人に一番人気があるのは曽我だ。信心深い彼女たちには、曽我のえびす顔がありがたく感じられるらしい。
 満足に言葉が通じない相手と友好的な関係を築く最も簡単で効果的な方法は、食べ物をふるまうことだ。それを証明するように、青木は自分の非常食代わりのビスケットの箱をミハルに差し出し、彼女は嬉しそうに中から一枚取って、
「「「食べちゃダメだ! それには毒が!!」」」
「はあ?」
 どうやら青木は給湯室にいて、ミハルの身元を知らなかったらしい。命拾いした。

 曽我をミハルのお守に付けて青木から引き離し、安全な距離が確保されたところで、岡部が問題の写真を青木に見せる。青木はハッと息を飲み、ほんの少しだけ他の職員を焦らせたが、すぐにうっとりとした目つきになって愛おしそうに写真を撫でた。素直と言うかダダ漏れにも程があると言うか、とにかく嘘の吐けない男なのだ。
「若い頃の薪さんですね。20年、いや、25年くらい前かな」
「今とどこか違うのか?」
「ぜんぜん違うじゃないですか。薪さんは年を追うごとにきれいになって行きますからね。髪の毛も睫毛も首筋も肩のラインも、今の方が数段キレイ、痛い!」
「あ、室長。じゃなかった、所長」
 まるで写真から抜け出したように、薪がそこに立っていた。きりっと眉を吊り上げ、瞳だけを右に動かして自分が蹴り倒した部下を見下す。小さく開いたくちびるから転がり出たのは、いつも通りの厳しいお小言。

「仕事中に何を騒いでいる! おまえらも、さっさと席に戻って報告書を上げろ!」
「き、昨日の事件の報告書は室長に提出済みでして」
 小池が控え目に抗議する。自分の仕事はちゃんと終わらせて、その上でのコミュニケーションだと言いたいのだ。
 全体を見渡していた薪の視線が小池を捉え、すると薪はふんわりと、まるで春の陽光が冬の旅人を照らすような暖かい笑みを浮かべた。瞬間、彼をよく知る部下たちの背筋を冷たいものが駆け下りる。小池以外の全員が思った、キジも鳴かずば撃たれまい。

「さすがだな小池。おまえの手際の良さには感心する。だが」
 途中までは女神のように、しかし最後の言葉で薪は表情を魔物に変える。その落差が小池を恐怖に叩き込む。
 全員が思った。絶対に計算してるよね、このひと。
「仕事は自分で見つけるものだ。資料整理でも捜査データのバックアップでも、なんなら掃除だっていい。こんなところで油を売ってるよりは、ずっと給料に見合った仕事だと思うが?」
 正論。
 薪の矛先を書類を滞らせている岡部に向ける作戦だったらしいが、完全に逆効果だ。薪は岡部には少しだけ甘い、のではなく。室長業務の大変さを誰よりも知っているのだ。
「分かったら、散れ!!」
「「「「はいいい!」」」」
 春の暖かな空気は一転、執務室は真冬の冷気に逆戻り。聞けば気の毒なことに薪は、所長になってから大好きな現場には出してもらえず、嫌いな書類仕事は倍になったそうな。そのストレスが溜まっているに違いない。薪の暴走を戒めるための上層部の苦肉の策らしいが、部下にとっては迷惑な話だ。

「岡部、もうすぐ定例報告の時間だろう。――うん?」
 第九はその特殊性から官房室直轄の部署で、週に一度の定例報告が義務付けられている。これまでは薪が毎週金曜日、官房長の小野田に直接報告をしていた。警視正の特別承認から始まって、過去には娘婿の話も持ち上がったほど彼に気に入られている薪とは違い、岡部にとっての小野田は雲上人。緊張を隠せない岡部に、最初の定例報告には付き合ってやると、薪の方から声を掛けてくれていた。今日は金曜日。約束の日だ。

「そそそそうでした! さあ、参りましょう!」
「あの子供は」
 曽我の、ややふくよかなお腹の横からちょこんと顔を出した少女を見て、薪が尋ねる。
 曽我は身体を張って少女を匿おうとしていたが、モルモットのようにちょこまかと動く子供を押さえきれるはずもなく。また薪の昆虫並みの動体視力が、それを見逃しくれるはずもなかった。
「この写真は」
 青木が蹴られながらも隠した写真を薪は、難なく彼の懐から抜き取って、不思議そうに小首を傾げた。その仕草の愛らしさといい先ほどの微笑みといい、年々青木の病気が悪化していくのも無理はない、と第九メンズは病に侵された後輩を哀れに思う。残念ながら、恋の病に効く薬はない。

「岡部。説明しろ」
「なななな何でもありません!」
 声は大きいが、その口調は乱れに乱れ。年齢を重ねるほどに階級と凄味を増していく上司が、岡部のネクタイをぐいと引く。
「どういうことだ、岡部」
「い、いやあのその」
 身体の大きさは自分の半分ほどしかない上司から受けたパワハラに、岡部は滝のような汗をかく。だが次の瞬間、その汗はキーンと音を立てて凍りついた。
「パパ!」


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

You my Daddy(1)

 こんにちはー。

 映画の予告がテレビで始まり、併せてサイン会等のイベントも告知され、(詳しくはこちら
 新連載が始まり、コミックスの4巻とパーフェクトプロファイルの発売も決まり、
 まさに秘密祭ですねえ。うれしいですねえ。(((o(*゚▽゚*)o)))
 
 サイン会は大阪ってことでわたしは行けませんけど、(てか現況では関東でも無理ですが(´・_・`)、
 関西の方、ぜひ頑張ってくださいね! 
 こういうイベントって今までも関東圏が多くて、関西圏て滅多とないんですよ。だから今回はチャンスですよ!
 仕事も家庭もあって忙しくて大変なのはみんな一緒だと思うけど、正直、関東よりも関西はチャンス自体が少ないんです。
 だからがんばってください!! まずは電話! 応援してるよ!!

 て、
 自分のブログほったらかしのやつに「がんばれ」って言われてもねえ。
 人さまに言う以上は、自分もがんばらないとね☆

 
 さてさて。
 今日から公開しますこちらのお話、なみたろうさんの作品に惚れて書きました。
 お許しをいただいたので、URL貼らせていただきます。 
 「白木蓮と薪さん」
 どこへでも挟むプレイの許可もいただいたので、わたしの胸の谷間に……すみません、挟むほど胸ありませんでした(謝罪、そこ?)……文中の該当箇所に挟ませていただきました。
 なみたろうさん、ありがとうございました。 
 
 
 これを見た時、あまりにもきれいでね~。
 この絵が手元にあればそれだけで人間生きられるんじゃないかと思った。そういう話を書きました。
 なみたろうさんには感謝しています。
 なのに何故か話の内容がですね、
 あおまきすとさんには鬼門の「薪さんに子供ができる話」になっちゃっ……。
 なみたろうさん、ごめんねえ(^^;)(←恩を仇で返すの得意)

 えーとえーと、
 お話の時期は一番新しくて、2069年の4月です。
 話はがっつりあおまきさんですが、薪さんと女性の取り合わせがダメな方はご遠慮ください。(わたしを含めあおまきすとの8割がダメなんじゃないかと思う)
 シーン無しの設定のみですが、薪さんが女性とエッチするのがダメな方はご遠慮ください。(わたしを含めあおまきすとの9割がダメなんじゃないかと)
 薪さんが孫に甘い爺バカになるのがダメな方はご遠慮……(もうあおまきすと関係なしにダメ) 

 ……ねえこれ、7万拍手のお礼にしてもいい? 読めない人多すぎてダメ?

 銀河系くらい広いお心でお願いしますっ。





You my Daddy(1)




 パパの写真を見せられたのは、その日が初めてだった。

 もちろん、わたしは驚いた。パパだと思っていた人が実の父親じゃなくて、この写真の人が本当のパパなのよ、とママに言われたら、誰だって頭の中がこんがらがると思うの。子供ならともかく、高校生にもなってから血のつながりがどうのと言われても、迷惑なだけじゃないかしら?
 でもわたしは、ちっともそんなことは思わなかった。だってね、その写真の人は、これまでパパと呼んできた男よりずうっと素敵な人だったんだもの。

 小さい頃の楽しい思い出とか、今まで育ててもらった恩とか、その男に対する愛情が欠片も無かったわけじゃない。だからこそ、わたしはこの家に留まっていたのだし。
 だけどね。その写真の人は本当に、神話の世界から抜け出してきたように美しい人だったの。

 写真に写る時は右斜め45度なんて、誰が言ったのかしら。
 ポートレートは真正面。白木蓮の細い枝にたおやかな指を絡ませて、その優雅なことと言ったら、白い花が恥じらって赤くなりそうなくらい。少なくともわたしが木蓮だったら、この人を前にして「私は清廉な佇まいが特徴の美しい花です」なんて言えないわ。
 大ぶりの花に隠れてしまいそうな小さな顔。亜麻色の髪に亜麻色の大きな瞳。細くてきりっとした眉毛。正面からでも印象に残らない完璧な忘れ鼻。形の良い、ベビーピンクのくちびる。頬は花びらに負けないくらい白いけれど、目の縁や口元が薄紅色に染まっていて、見ているとドキドキする。

 木蓮が咲いてるから季節は春。彼の肩が切れていたから、或いは誰かと一緒に写っていた写真から彼だけをトリミングしたのかもしれない。
 春風に、亜麻色の髪がそよいでいた。長い睫毛に囲まれた亜麻色の瞳は隣にいる誰かを見ているのかやや右に寄せられて、小さく開いたくちびるは、その人に何かを話し掛けているようだった。


     白木蓮と薪さん

 この写真の人がわたしのパパ? わたしと全然似てないじゃない。て言うか、この人、一般人じゃないわよね。どう見ても芸能人かモデルでしょ。
 だからわたし、ママに言ったのよ。何処かの俳優の生写真を手に入れてきて、わたしを騙そうとしてるんじゃないのって。そうしたらママは、
「疑り深い子ねえ。誰に似たのかしら」
 そう言って顔をしかめた。
 それから古いスマートフォンを持ちだしてきて、写真フォルダの中から一枚の画像を選ぶと、「子供に見せるものじゃないけど」とわたしに差し出した。
 確かに、子供が見るものじゃない。自分の母親と男が裸でベッドにいる写真なんて。
 さすがに下半身は毛布に隠れていたけれど、二人とも上半身は裸で、周りに女物の下着が散らかってた。パパはぐっすり眠ってるみたいだったから、多分ママの自撮り。

「合成写真じゃないの?」
「本当に疑り深い子ね。麻子はこれで信じたのに」
 アサコって誰だろう。初めて聞く名前だけど、ママの友だちかしら。
 いったい誰に似たのかしらと、ママはわたしの猜疑心を嘆くようだったけれど、急に明るい顔つきになって、ひとつ大きく頷いた。
「そうか、パパに似たのね。パパ、刑事だものね」
「刑事?」
「そうよ。科学警察研究所、法医第九研究室の室長。偉いのよ」
 それならテレビで見たことがある。MRI捜査というのをやっている所だ。死者の脳を見るとか何とか、ぞっとしない仕事だとその時は思ったけど。この美しい人が室長を務めるなら、わたしが考えていたような陰気くさい職場ではないのかもしれない。

「だからね、もしもママが死んで、どうしても誰かの助けが必要になったら、パパのところへ行きなさい。きっと助けてくれるから」
「縁起でもないこと言わないでよ。ママがいなかったらわたし」
「そうね」
 困ったようにママは笑った。その顔はやつれて、髪には白髪が混じり。写真にあった若い頃の美貌は、見る影もなかった。
「ママが守ってあげる。今日みたいなことが二度とないように。ママが守ってあげるから」
 そう言って、痣だらけの腕で、ママは裸のわたしを抱きしめた。

 ママがパパの偽者に殺されたのは、それから2年後のことだった。


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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