You my Daddy(12)



You my Daddy(12)






 週末の土曜日、青木は薪に、自分が仕事に出ている間、娘たちの様子を見に行って欲しいと頼まれた。
 青木はピザ屋に寄ってからマンションに行った。ヒロミもたまには手抜きをしたいだろうと、昼食用に買ったのだ。子供が好みそうなツナマヨネーズのハンドトス。薪の好みはイタリアンバジルのクリスピーピザだが、彼は今日は休日出勤で家にいないから問題ない。

「ヒロミさん。お昼ごはん買って」
 青木は途中で言葉を止めた。中はシンとして、人の気配がなかったからだ。
「公園にでも行ったかな」
 心配性の父親にいくら止められても、小さな子供が部屋に籠っていられるわけがない。青木もさんざん姪や甥の面倒を見てきたから分かるが、あの年頃の子供は延々と遊べる生き物なのだ。付き合う大人の方が疲れてしまう。きっとミハルを遊ばせるため、遊具のある公園にでも出掛けたのだろう。

 留守番をしながら待とうと考えて、青木は玄関先に座った。ここは自分の家だが、現在は若い女性が住んでいる。留守中、勝手に部屋に入るのはマナー違反だ。
 膝に載せた薄い箱からピザの旨そうな匂いが立ち昇ってくる。ピザは焼き立てが美味いのだ。温め直すとどうしても柔らかくなるし、具材にも熱が通り過ぎてしまってジューシーさが無くなる。1ピースだけ、今のうちに食べてしまおうか。Lサイズだし、半分残しておけば二人には充分、いっそのこと全部食べて新しいの買ってくるってのは……エスカレートしていく誘惑と戦っていると、薪から電話が掛かってきた。危ない危ない、もうちょっとでミハルたちの昼食が消えるところだった。

「はい。ええ、今、薪さんのマンションに。――え」
 ヒロミを電話に出せと叱るように言われて、青木は家に上がった。念のため、ヒロミの名前を大声で呼んでみる。ダイニングテーブルに買ってきたピザの箱を置き、続いてクローゼットやトイレ、浴室まで確認したが、やはり誰もいなかった。
「ヒロミさんならいませんけど。ミハルちゃんと一緒に出かけたんじゃないですか?」
 ヒロミと連絡を取りたいのなら直接電話をすればいいのに、どうして青木に言ってくるのだろう。不思議に思いながらも青木は答え、するといきなり薪の雷が落ちた。
『探せ! いますぐ見つけ出せ!!』
 いますぐ探せと言われても。千里眼でもあるまいし、そんなの無理に決まってる。ちょっと姿が見えないくらいで、過保護もいい加減にして欲しい。

「……あのお。どこを探したら」
『知るか! いいから早く探しに行けッ!』
 さすがに無茶苦茶だと自分でも思ったのか、薪は一つ大きな溜息を吐くと、声の調子を改めて青木に具体的な指示を出した。
『とりあえず、こないだのコンビニの周辺を探してみてくれ』
 2週間くらい前、ヒロミに絡んでいた男を警戒しているのか。しかしそこはヒロミの方で避けるだろう。公園にでも行ったんじゃないですか、と言おうとして青木は、被せられた薪の言葉に驚いた。
『見つけたら連絡をくれ。僕もすぐに帰る』
「えっ」
 薪が仕事を放り出して、娘たちを探しに帰ってくる? あの全日本ワーカホリック大賞ぶっちぎり優勝の薪が?

 ここに至って初めて、青木はその可能性に気付いた。
 薪が仕事より優先するもの、それは仕事しかない。つまり、より急を要する仕事だ。例えば事件に関係するもの、人の命に関わるもの。
 もしかして、ヒロミたちの身に危険が迫っていると、薪は考えている?

「まさか」と思わず口に出た。
 いや、あり得る。薪なら。
 何よりも人命を尊重し、目的のためなら手段を選ばない、あの人なら。
 危険に晒された母子を保護するために自宅を提供するくらい、当たり前にやってのける。もしかしたら最初から薪には、彼女たちに降りかかる災厄が見えていたのか。それ故の過保護だったのか。

「てことは……やばいぞ」
 事件に於いて、薪の推理が外れたことはない。
 青木は口中で呟き、急いで外に駆けだした。

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

You my Daddy(11)

 こんにちは!
 公開作・過去作ともに、毎日たくさんの拍手、ありがとうございます。励まされてます。
 ただいま構想中の、薪さんがお年を召して認知症を患う話、がんばります~。(←もうやめてあげて)


 続きです、どうぞ!




You my Daddy(11)





「お帰りなさい」
 家に帰ると、ヒロミとミハルが笑顔で薪を出迎えた。薪の後ろで彼女たちの笑顔をまぶしく感じながら、青木は薪に鞄を手渡す。

「ただいま」と薪が鞄を差し出せば、それをミハルが受け取って書斎のドアの前に置く。その間、ヒロミは薪の上着を彼から受け取り、ハンガーで形を整えてブラシを掛ける。
 それは今まで全部青木がしていたことで、彼女たちがいる限り此処に自分の仕事は無いのだと、見せつけられれば薪の家に上がり込む理由もなくなって、だから青木は今日もヒロミに誘われた4人の夕食を、ありもしない友人との飲み会を理由に断わる。
 ヒロミは残念そうな顔をするが、青木に遊んでもらえなくて膨れるミハルを嗜めるために母親の顔を作る。「お兄ちゃんは忙しいのよ」と娘を諭し、「パパ。お風呂とごはん、どっちにします?」と薪に笑顔を向ける。薪の血を引くだけあって、若いのにしっかりした娘だ。
 ヒロミたちが薪の家に来て、3週間が経過していた。青木のホテル暮らしはまだ続いている。

「じゃあ、オレはこれで」
「青木」
 玄関を出ようとして、ワイシャツ姿の薪に声を掛けられた。待つように言われて足を止める。
 薪がちらりとミハルを見ると、気を利かせたヒロミが「なっしーと遊んできなさい」と別室に子供を連れて行った。そこは青木の私物が入れてある部屋だったが、現在は母子の部屋に供されている。
 程なく戻ってきたヒロミにネクタイをほどいて渡しながら、薪は不服そうに眉を吊り上げてこちらを向き、
「自主訓練も友人も大事だけど、たまには僕に付き合え」
 新年度の開始月に、所長に就任したばかりの薪に暇があるはずもなく。ランチもアフターも、プライベートの時間を彼と共有することはできなかった。必然的に薪の送り迎えをするだけの日々が続いていたが、ホテルに帰ろうとして呼び止められたのはこれが初めてだ。

「もう半月くらい、おまえとメシ食ってないぞ」
「え。いや、だって」
「今日は先約の友人に譲るけど、明日は空けろ。1日くらい僕と」
「オレより、ヒロミさんたちを優先してください。何十年も離れていたんですから。それに比べたらオレなんか」
 薪は青木の腕を掴み、もう片方の手で青木の言葉を止めた。人差し指を唇に宛がう、いつものやり方。それはもちろん、ボディガードに対する所作ではない。

 青木は口を噤み、薪を見下ろした。下から真っ直ぐに見上げてくる亜麻色の瞳と視線を絡ませ、ああ、こんな風に薪と見つめ合ったのは何日振りだろう? 相も変わらず澄んだ水面のように涼やかな瞳。迷いなく穢れなく、青木の魂を惹き寄せる瞳――。

 ぐいとネクタイを引かれた。逆らわずに背中を丸めると、薪に軽くキスされた。びっくりして、物も言えずに薪を見れば、瞬きもせずに青木を見つめ返す亜麻色の瞳。
 そこに青木は、自分の間違いを見つけて息を飲む。
 薪が望むことをしていたつもりだった。だけど、薪は本当は。

 つい、と薪は青木から離れた。苦笑交じりに前髪を掻き上げる。
「見誤ってたのは僕の方か。僕としたことが、惚れた欲目ってやつかな」
 ヒロミの前で、薪は青木との関係を暴露した。その行動は青木に確信をもたらす。薪は青木という恋人の存在を娘に隠しておきたいわけではなかったのだ。父親として子供の手本になろうとか、これを機会に家庭を持つことを考えようとか、青木が心配していたようなことは何もなかったのだとはっきり分かった。

「岡部が言ってた。おまえがヒロミたちのせいで自分の立場に不安を感じてるって」
「いいえ! ヒロミさんには感謝してます」
 思わず青木は言い返した。
「感謝してます」
 繰り返す、それは青木の本心だった。
 ヒロミたちが現れて、青木は確かに疎外感を味わった。薪を取られたような気分になって、嫉妬もした。だけどそれ以上に、青木は彼女たちに感謝していたのだ。なぜなら。
「薪さんの子供をこの世に残せないこと、ずっと申し訳ないと思ってきました。でもそれを、あなた方が解決してくれた。
 ありがとうございます。おかげでオレはこれからも、薪さんだけを愛して行くことができます」
 青木がどうしても為せないこと、それを補ってくれたのは他でもないヒロミたちだ。感謝してもしきれない。

 青木の発言にヒロミは驚き、薪は誇らしげな顔をする。誰に対して向けたものか、「ほらな」と胸を張る薪に、青木はにこりと微笑んで宣告した。
「と言うことで薪さん。深田○子嬢の写真集は廃棄処分の方向で」
「なんで!?」
 父親の威厳はどこへやら、取り乱した声で薪が叫ぶ。
「科警研の所長として、この趣味はどうかと」
「男が水着のグラビア切り抜いて何が悪い」
「パパ、そんなことやってたの」
 娘の冷たい視線をものともせず、それどころか開き直る呈の薪に、青木は態度を強くする。リビングの飾り棚の隣に置いてあるパソコンデスクの引き出しから青木が問題の写真集を取り出すと、薪はサッと顔色を変え夢中になって抗議を、てか、オレとの別居より写真集の方が必死ってどういうことですか。

「僕の恭子ちゃんに何をする!」
「今までは薪さんが、ご自分の子供が欲しいと仰ればそれを邪魔することはできないと思ってきましたけど、ヒロミさんたちがいるわけですから。もう女の人は必要ないでしょ」
「そういう問題じゃ、こら、返せ! いいだろ、水着写真くらい!」
「だめです。表紙に『今夜の深キョン』て書いてある時点でアウトです。用途的に」
「パパ、サイテー」
 ヒロミが無表情に、壁に備え付けられた再生資源専用ダストシュートの扉を開ける。雑誌や新聞の類は此処に入れると、自動的にマンション全体の回収ボックスに到着するようになっている。個々の通路の先には大型のシュレッダーが搭載されており、住民のプライバシーは完全に守られる。

「待て、捨てるな! わー!」
 廃棄ボックスに投入された自作写真集の後を追い、投入口に頭を突っ込もうとする薪を青木が後ろから羽交い締める。遠くから響いてくるガーッと言う騒音と共に薪の女神は寸断された。ちなみにシュレッダーは防音材に囲まれているので、裁断音は薪の幻聴だ。

「ぼ、僕の恭子ちゃんが……わあああんっ」
「大の男が泣くこと?」
「これは男のロマンだ、女にはわからん!」
 女というより薪さん以外誰も分からないと思います。
「おまえら、とんでもないことをしてくれたな! あれだけ集めるのに何年かかったと思ってるんだっ」
 いっぱしのコレクターみたいなこと言ってますけど、やってたことは雑誌の切り抜きですよね?
「僕がこのライフワークにどんなに情熱を注いでいたか、青木は知ってたよな?」
 ご執心なのは知ってましたけど、ライフワークにしてたのは今知りました。
「それなのになんて残酷な……おまえがこんなに冷たい奴だとは思わなかった、絶交だっ。二度と僕の前に顔を見せるな!」
 こんなことで簡単に振られちゃうオレってどうなの。

「パパ、どうしたの?」
 騒ぎを聞きつけたミハルが奥の部屋から出てきてしまった。薪が目を潤ませているのを見て、子供ながらに同情したらしい。薪を慰めようと、彼女が部屋から懸命に引き摺ってきたのは、先日薪に買ってもらった自分より大きな梨の妖精。
「泣かないで。ミハルのなっしー、あげるから」
「ミハル……僕の味方はおまえだけだー!」
 ガシッとぬいぐるみごとミハルを抱きしめて泣き崩れるとか、見てる方が痛いんですけど。顔がいい分余計に痛いんですけど、いっそダストシュートに投げ込んで記憶ごとシュレッダーかけたくなっちゃうんですけどどうしたら。

「おかしいなあ。ママに聞いた話じゃ、こんなキャラじゃなかったはずなんだけど。東大のアドニスって呼ばれてたって」
「見た目はアドニスのままなんですけどね。中身はすっかりオヤジです」
「この外見と中身のギャップに付いていけるのは、青木さんくらいのものかもね。青木さん、これからもパパをよろしくお願いします」
「こちらこそ。末永くよろしくお願いします」
 娘と恋人が友好条約を締結している傍らで薪は、ミハルを抱いたままグズグズと泣き続け。やがてその涙がミハルに伝染していくのを見るに見かねて、青木は隠し持っていた薪曰く『男のロマン』を差し出した。

「はい、どうぞ」
「あっ、恭子ちゃん。どうして?」
「ダストシュートに入れたのはオレのカー雑誌です。捨てようと思ってたやつ」
「なんだ、驚かすなよ。ああよかった、無事だったんだね、恭子ちゃん。僕、心臓止まるかと思ったよ」
「ちっ。本当に捨ててやればよかった」
 黒い呟きがダダ漏れの青木に、しかし薪は写真集の無事を確かめることに夢中でそれに気付かない。本当にこの二人は上手くできている。恋は盲目とはよく言ったものだ。

「パパ、元気」
「あ、うん。ありがとう、ミハル。おまえのおかげだよ」
 にっこり笑って子供の頭を撫でる、その姿は子煩悩な父親そのもの。いや、祖父と孫だったか、いずれにせよ、そこにはほっこりと人を和ませる空気があって、見ているこちらまで癒されてしまう。これで薪の右手の自作写真集さえなければ文句はないのだが。
 青木の隣でその光景を眺めていたヒロミが、一歩前に進んだ。ふと青木が横を見れば、何かを決意したようなヒロミの真剣な横顔。
 果たして、彼女は言った。
「パパ。わたし、このままここに居ちゃだめ?」
 無邪気に甘えてくるミハルを自分の膝で遊ばせていた薪が、訝しげに娘を見る。
「パパの身の回りの世話はわたしがするわ。パパのお仕事の邪魔にならないように、ミハルの面倒もちゃんと見る。だからお願い」
 いずれ、そういう日が来るかもしれないと青木は予測していた。
 薪が彼女たちを深く愛していることは、先日の言動からも明らかだ。母子2人での外出を許さず、ほんのちょっと絡んだだけの行きずりの男を過剰防衛スレスレに撃退する。心配性を通り越して過保護、でもそれは愛情の表れなのだ。
 彼の気持ちを、その愛を、受け取っている当人は青木よりも身に染みて分かって、だったらこの申し出は我儘ではなく思いやり。薪もきっとそれを望んでいる。

 ところが薪は、迷う素振りも見せずに首を振った。まるで最初から質問も答えも決まっていたとでも言うように、それは自然な動作だった。
「だめだ」
 ネックになっているのは自分だと青木は思った。自分の存在が、薪の一つの幸福を壊そうとしている。そんなことをするくらいなら、青木は公園に住む方を選ぶ。
「薪さん、オレのことなら。ヒロミさんはオレたちのこと認めてくれてるんだし。オレが近くにアパートを借りて、そこで逢うようにすれば」
「パパだってミハルのことは可愛いでしょう? 青木さんもこう言ってくれてることだし」
 薪はしっかりとヒロミを見て、ゆっくりと首を振った。その様子は高く聳える霊山のように泰然として、どんな反論も許さなかった。

「例え君が僕の娘でも、この家に君の居場所はない。説明したはずだ。この家は、僕と青木の家だ」
 青木は知らなかったけれど、薪はヒロミに、青木との関係を包み隠さず話していた。相手の秘密だけを聞き出すやり方はフェアではないと思ったし、そうでなければ相手もまた、本当のことを話してくれないと思ったからだ。
「すまない」
 薪は、自分の膝に座って、巨大なぬいぐるみ相手に無心で遊んでいる子供の落ち着きなく動く様子に目をやりながら、申し訳なさそうに謝罪の言葉を述べた。
「君にそんな迷いを生じさせたのは、僕の態度が原因だ。正直、君たちとの生活は楽しかった。幼い子供がこんなにも心を癒してくれる存在だとは、今まで知らなかった。でも」
 言葉と一緒に、薪はミハルをやさしく抱きしめた後、ぬいぐるみに子供を預けるようにして床の上に下ろした。それからこちらに歩いて来て、青木の手を取った。

「僕のパートナーは彼だ。どちらかを選べと言うなら、僕の答えは最初から決まっている。そして」
 青木の指の間に薪の細い指が滑り込むように侵入し、五本の指が青木の指を挟むように曲げられる。きゅ、と込められた力は、薪の決意の強さ。
「それは未来永劫、変わることはない」
 永遠を誓う、薪の横顔に迷いはなく。だから青木も心に誓う。この手を、一生離さない。

「薪さ、イタッ」
「いつまで握ってんだ、バカ」
 握り返したら引っぱたかれた。薪はどこまでも勝手だ。

 薪はあっさりと青木の手を放し、沈み込む様子のヒロミに近付いた。彼女の肩に手を置き、穏やかに微笑みかける。
「心配しなくてもいい。君たちの恐怖は、じきに取り除かれる。昨日、裁判所の人間と話がついた」
 ヒロミがパッと顔を上げた。驚愕の表情で薪を見つめる。
「大丈夫。あのことは誰にも言ってない」
 薪は彼女を安心させるようにゆっくりと頷いて、静かに言った。
「これは一生、君と僕だけの秘密だ」
 そこまで断言されて尋ねることもできず、青木は黙って二人を見守った。静まり返った部屋の中で、ミハルがぬいぐるみの名前を呼ぶ声だけが愛らしく響いていた。




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ジャンル : 小説・文学

You my Daddy(10)

 新しいリンクのご紹介です♪

 『GARDEN CITY LIFE~annex~』    管理人  eriemamaさん。

 今ごろ? と首を傾げたあなた、はい、その通りです。こちらのブログさん、開設は2014年です。わたしが怠惰なばっかりに、今ごろになってしまいました。(^^;

 みなさん既にご存知の通り、えりさんとこ、記事が多いんですよ。しかもテキスト量すごいし。(おまえが言うかですみません)
 お願いする前に、まずは記事を全部読ませていただいて、自分なりにえりさんに対する理解を深めて、それから、なんて考えていたら、「リンクお願いします」の言葉を口にするまでに2年も掛かっちゃったんです。(あほだ) 
 実はまだ完全読破してないんですけど、このままだと去年と同じ轍を踏みそうだったので、その旨、正直にお話ししてお願いしちゃいました。
 

 えりさんのブログの何に惹かれたかって、それはもちろん、文章の上手さ。
 わたし、リアルの文章大の苦手で、レビューとか日常のこととか書けないんですけど、えりさんはそれがとっても上手です。
 言葉が的確で分かりやすく、ふんふんなるほど、と頷けるし、「巻物」と称されるレビューは長いけど(笑)、文章が軽妙だから読むのが苦にならない。センテンスも長めですけど、テンポが良くてタルさを感じさせない。突っ込みはけっこう鋭いけど、言葉が柔らかいからか関西特有の言い回しからか、はたまたえりさんの文章力の賜か、納得こそすれ反感は持たないはずです。
 薪さん愛も相当なもので、キャラクターに対するレビューもすごいんですけど、
 わたしが心惹かれたのはMRI捜査に対する考察、秘密と言う作品そのものに込められた主題に対する考察です。
 他人の秘密を暴き見ることの罪、それを背負わざるを得ない人の苦しみ、そんな作品の根底にあるテーマをきちんと捉えて考察されてて、読んですっごく感動しました。

 SSも書いてらして、そちらはシリアスとギャグの2本立て。
 薪にゃんと原作ベースのものと、特に薪にゃんは可愛いです。
 前述でも申し上げたとおり、軽妙な文章が作品のカラーによく合ってます。流れがよくてサクサク読めます。お勧めです。


 後はえっと、王子推し?(笑)
 SSで青薪さん書いてるわりに、えりさん、鈴木さん好きだよね。わたしも好きですけどね☆


 以上、ご報告でした。♪(/・ω・)/ ♪




 
 


You my Daddy(10)



 翌日、青木は薪の急襲を受けた。
「昨日はなんで急にいなくなったんだ」
 始業前、給湯室で朝のコーヒーを淹れていた青木の前に薪は突然現れて、前置きもなく怒りだした。
「あのぬいぐるみ、僕が抱いて帰ったんだぞ。でかいし重いし、すれ違う人みんなに笑われるし。さんざんだった」
「すみません。急用を思い出しまして」
 白々しい青木の言い訳を、薪は否定しなかった。嘘だと決めつけることはせず、しかし明らかに信じてはいなかった。

「今朝は。なぜSPを寄越した?」
「自主訓練がありましたので。お迎えの時間に行けませんでした」
「今まで通り、6時に迎えに来りゃよかったじゃないか」
「それはご迷惑でしょう」
 これまでは同じ家からの出勤だったから薪も早出に付き合ってくれたが、これからはそうもいかないだろう。朝の支度をするのは青木ではなくヒロミだ。5時起きは辛かろう。

 青木が自分の考えを説明すると、薪はひどく難しい顔をした。それから思慮深く腕を組む、しかしそれは本当は、自分を守る無意識のポーズ。
「やけにヒロミに気を遣うんだな。おまえ、やっぱり」
「薪さん」
 名前を呼ばれて薪の言葉が止まる。アコーディオンカーテンの隙間から、顔を出したのは宇野だった。
「直りましたよ、こないだのやつ――あ、青木。いたのか」
 宇野は青木の姿を認めると、出直します、と薪に敬礼して執務室に戻ろうとした。それを薪が引き留める。
「宇野、待て。気にしなくていい」
「や、でも」

 どうやら秘密の話らしいと察して、青木は急いでコーヒーをカップに注ぎ分ける。
「宇野さん、大丈夫ですよ。オレの用事は済みましたから」
「済ませた覚えはないぞ。まだ話が」
「すみません、薪さん。コーヒーが冷めちゃいますから、お小言は後で聞きます」
「はい、宇野さんの分」と宇野の手にコーヒーカップを持たせ、薪には来客用の紙コップを差し出し、残りのカップを盆に載せて青木は二人に微笑みかけた。
「みんなに配ってきます」

 足早に給湯室を出る青木に、二人の話し声の断片が聞こえてくる。しかし青木には、そこからストーリーを組み立てることができない。
 薪は青木に何も教えてくれない。だから青木は二人の間に入ることができない。
 薪の秘密主義は今に始まったことではないが、今回ばかりは折れそうだ。募る一方の疎外感に、心が崩れそうだ。

 昨日の薪の行動を、思い出すだけで胸がちぎれそうになる。
 父親としての薪の顔。大切なものを守ろうとする時の、毅然とした表情。何ものをも恐れない瞳、自信に満ちた声音としっかり踏ん張った足。その背後にあるものを青木は知っている。これまでに何度も、ヒロミたちと同じように自分が彼に守られてきたから。
 庇護すべき者への愛情。薪は、彼女たちを愛している。
 別に、裏切られたわけじゃない。青木への愛情も変わってはいないと思う、でも。
 薪は幼い頃に両親を亡くして、叔母夫婦に育てられた。そんな彼にとって、自分の血を分けた子供は何よりも尊い存在なのではないか。その子の為なら何でもできる、逆に、為にならないと思えば何でも切り捨てられる。

 ――父親の、男の恋人は、子供のためになるのか?

 親なら子供の手本になるべきだと、真面目な薪は考えるのではないか。ならばいっそ、これを機会に自分の人生を見直そうと、そう思うのではないだろうか。
 その可能性には最初から気付いていた。でも、怖くて正視できなかった。だけど、昨日のような薪を目の当りにしたら、自分をごまかすこともできなくなってしまった。

 知らず知らずのうちに足が止まっていた。 
 給湯室と執務室をつなぐパーティションの陰で、せっかく淹れたコーヒーが冷めきってしまうまでの間、青木はそこを動くことができなかった。



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ジャンル : 小説・文学

You my Daddy(9)

 先日お礼言い忘れちゃいました、過去記事に拍手くださった方、ありがとうございます。
 ご新規さんかな~? 
 どの辺でドン引かれるんだろうと今から戦々恐々です。←そんなものを書く方が悪い。

 ご新規さんと言えば、
 映画の影響でしょうか、先週はカウンターがびっくりするくらい回ってて、焦りました。100人越えなんて何年ぶりだろー。

 間違って来ちゃった方、ごめんなさい。
 うちにはレビューはございません。正確には、管理人にはレビューを書けるだけの頭がありません、残念っ。
「はじめまして」をよく読んで、体質に合わないと感じた方はソッコーブラウザバックしてご自身の記憶から消し去ってくださいね☆


 お話の続きです。
 今回は、リアルでわたしの大好きな人が特別出演してます。
 薪さんとは絶対に合わないなー、と思ってたんですけど、好きが高じてとうとう共演させちゃいました♡ 
 二次創作に現実に存在する人を出すのはタブーかもしれないけど、「世に最も美しいものは言論の自由である」てどっかの哲学者も言ってたし(D氏が化けて出そう。だとしても)、お盆月だからいいかなって。(意味わかんない)
 本日も広いお心でお願いしますっ!








You my Daddy(9)






「青木。そこの店に寄ってくれ」
 後部座席の薪が停車を命じた店舗を視認し、青木は思わず後ろを振り返った。途端「前を見ろ」と叱られて慌てて向き直る。青木の目の前にあったのはトイザ○ス。その名の示す通り、玩具専門店だ。

「ミハルちゃんへのプレゼントですか」
「ああ。あの年頃の子供がずっと家に籠っているのは辛いだろうと思ってな。気に入りの玩具でもあれば、おまえの子守の時間も減るだろうし」
「オレなら大丈夫ですよ。今は急ぎの事件もないし」
「……僕がいない時、いつもおまえに子供の相手をさせるのは悪いから」
「いいえ。ミハルちゃんは可愛いし、ヒロミさんの料理は美味しいですから」
 それは嘘ではないが、ほんの少しの社交辞令は含まれている。
 青木に懐いてくれるミハルは可愛いけれど、舞や草太のように思わず抱き締めたくなるほどの愛情は持てない。そして当然、薪の料理の方が美味しい。
 が、プライベートの薪は疑うことを知らない子供と同じ。青木の言葉を素直に捉え、深刻な表情になった。

「そうか。そうなるとますます危険だな……ここはひとつ、青木なんか目に入らなくなるような強烈なおもちゃでミハルのハートを釘付けに」
 独り言のつもりかもしれませんけど、丸聞こえです。
 ヒロミから何を聞かされたのか知らないが、ミハルの愛情を青木に横取りされるのではないかと危機感を覚えているらしい。たった2週間ほどでそこまで親バカ、いや、爺バカに進化するとは、今からミハルの将来が心配だ。雪子が結婚したときの比ではないかも。20年後が思いやられる。

 駐車場に車を停めると、薪は身軽に車から降り、手ぶらで店に向かった。小さくなっていく背中を見つめながら青木は、2週間前の朝、この車の中で薪と交わした会話を思い出す。
 岡部にも言われたが、実は青木も、DNA鑑定はすべきだと薪に意見したのだ。しかし薪は首を横に振ったばかりか、逆に青木に質問してきた。
『子供を愛せるか愛せないか、鑑定書の結果で決まるものなのか』
 ルームミラーの中から鋭く尋ねる薪に、青木は答えることができなかった。
 青木の家は良くも悪くも平凡で、青木はごく普通に親に愛されて育った。あまり厳しく叱られた覚えもなければ、逆にそれほど親を困らせた覚えもない。好きなことを好きなだけ、やらせてもらった。東京の大学に進学したいと言えば、学費も生活費も二つ返事で出してくれた。第九反対派の父と就職のことで小さな軋轢は生じたものの、やがては青木の頑張りを認めてくれて、最後には「仕事頑張れよ」と励ましてくれた。それが父の遺言になった。
 そんな風にして、親に可愛がられたり励まされたりすることは、青木にとって普通のことだった。親は子供を愛して当たり前だと思っていた。子供を愛せるかどうか、親が疑問を持つなんて考えたこともなかった。

『僕は小さい頃に両親を亡くして、叔母夫婦に育てられた。だから分からないのかもしれない』
 ミラーの中の薪が、睫毛を伏せる。真っ直ぐに前を見られないのは、薪が、それが理由で自分に欠落した部分があると自覚している証拠だ。
『教えてくれ。血のつながりってそんなに大事なのか』
 大事です、とそのとき青木は心の中で言い返した。
 薪の幼少時代を否定するようで申し訳ないが、他人の子供より姉の子供の方が青木には可愛い。姪や甥を前にすると、なんと言うか、身体の奥底から沸き上がってくる愛しさがある。それは他の子を見た時に感じる単純な可愛いと思う気持ちではなく、もっとずっと生々しい感情だ。守りたいとか幸せになって欲しいとか、より具体的なことを考えずにはいられない、保護欲を伴う愛情。そういうものが自然に湧いてくる。それが血のつながりと言うものなのではないか。
 しかし、血縁者のいない薪に、それを理解しろと言うのは無理な相談だ。言葉で説明できるものではないし、形があるものでもない。

 青木が運転席で考え込んでいると、突然、窓を叩かれた。驚いて顔を上げれば、眉を寄せた薪の姿。随分早い買い物だと思ったが、見れば彼はその手に何も持っていなかった。
「どこに何があるか教えてくれ」
「あ、はい」
 青木は、姉の子供たちへのクリスマスプレゼントをいつもこの店で選んでいる。そのことは当然薪も知っていて、だから青木に道案内を命じたのだろう。

「う」
 店内に足を踏み入れた途端、薪は呻いた。商品の多様さに圧倒されたらしい。子供なら歓声を上げて喜ぶ色鮮やかなディスプレイも、大人には探し物の邪魔になるだけだ。青木は背が高いから棚の奥を見通すことができるが、薪の身長ではそれも難しそうだ。
 どんなおもちゃにしますか、と青木が尋ねると、目当ては決まっているのだと薪は言う。
「ミハルはそのキャラクターがお気に入りらしくてな。テレビに出ると、キャッキャ言って喜ぶんだ」
 愛娘の様子を思い出してか、薪の顔がほころぶ。薪の幸せそうな微笑みは僅かに青木の胸を疼かせたが、青木はそれに気付かない振りをした。

 人形コーナーに案内したが、そこも結構広い。薪が困っているようだったので、青木は助け船を出すことにした。
「一緒に探しましょう。キャラクターの名前は?」
「知らん」
「……特徴は」
「よく覚えてないけど、全体的に黄色かったような。いや、青だったかな」
 いるいる、こういう店員泣かせのお父さん。これじゃ探しようがない。
「他になにか」
「BMIは30を超えてると思われるが動きは敏捷で、奇声を上げてノミみたいに跳ねる不気味な生き物だ」
 それ、本当に子供が喜ぶキャラなんですか?
「あ。あれだ」
「どれですか? ……ああ、なるほど」
 薪が指差したのは、3つ先の棚に飾ってあった有名なゆるキャラのぬいぐるみだった。先ほど薪が述べた特徴に合致しないこともないが、不気味な生き物という表現は適切ではない。青木の記憶に間違いがなければ、彼は梨の妖精だったはずだ。

 二人は通路を歩き、目的のものに近付いて行く。薪の身長で手前の商品棚に邪魔されずに見えたと言うことは、それなりの大きさがあると言うことで――、
「「でかっ!」」

『90センチなっしー』と銘打たれたそのぬいぐるみは、一番上の棚に置くのはバランス的に危険ではないかと思うほど大きかった。薪が取れと言うので棚から下ろしてみたが、ぬいぐるみはある程度小ぶりな方が可愛らしいものだ。この大きさだと薪の言う通り、「不気味な生き物」にしか見えない。しかもその価格たるや、あり得ない、山水亭のフルコースより高いではないか。
「もっと手頃な物もありますよ。値段も10分の1くらいだし」
「なにセコイこと言ってんだ。こういうのは大きい方が良いに決まってるだろ」
「でも90センチって言ったら、ミハルちゃんと同じくらいの大きさですよ。地味に重いし、子供の力じゃ持ち上がらないんじゃないですか」
「乗って遊べばいい」
「だけどこれ」
 狭い部屋では邪魔になります、と言うセリフを、青木は慌てて飲み込む。そんな心配は要らない、ミハルはずっと手元に置く。そう言われたらどうしようと思ったからだ。

 青木の不安な表情をどう取ったのか、薪はにこりと笑い、
「大丈夫だ。きっと気に入る」
 そう言ってレジに向かう、彼の後に青木は黙って付いていく。
 薪が決めたことならどんなことでも、自分はそれを受け入れる覚悟がある。それが薪にとって不利益なことでなければ、全力で支持する。薪の幸せが最優先だ。
 今、薪の背中はすっきりと伸びて、肩はなだらかに開いている。足取りは軽やかで歩みは闊達、家に帰ることを楽しみにしている証拠だ。つまり薪が家に帰りたくなる空気を、彼女たちが作り出していると言うことだ。
 また胸がちくりと痛んだけれど、青木は再びそれを黙殺した。薪さえ幸せならそれでいいのだと、自分に言い聞かせた。

「止めろ」
 そんなことを繰り返し考えていたせいで、青木は薪の命令を聞き損ねた。気が付いたのは2回目の停車命令で、場所はマンションに一番近いコンビニの前だった。

「車を止めろ、早く!」
 怒鳴りつけられて、慌ててハザードランプを点いた。車を左端に寄せて停めるが早いか、薪が後部座席から飛び出して行った。
 何事かと青木が目で追う先に、ミハルを抱いたヒロミの姿があった。どんな理由からか中年の男に絡まれている。相手に脅しめいたことでも言われたのかヒロミの顔色は蒼白で、母親の恐怖が伝染したようにミハルもまた小さく震えていた。
 通行人の隙間を走り抜け、薪は男とヒロミの間に割って入った。二人を素早く自分の背中に匿い、絡んでいた男を睨みつける。
「僕の娘に何か用か」
 きっぱりと言い切った薪は、父親の顔をしていた。何があっても彼女たちを守ろうとする、男の顔。

 青木は足を止めた。
 つきんつきんと胸が痛む。もう自分をごまかせなかった。
 薪の迫力に押されて男が逃げて行った後、「大丈夫か」と二人を気遣う薪の姿も、気が緩んだのか薪に取りすがって涙を流すヒロミも、薪に甘えるミハルの声も。何もかも見たくなかった、聞きたくなかった。

「外へ出るなとあれほど言っただろう」
「ごめんなさい。ミハルが退屈しちゃって」
「もう少しだから我慢させろ。君はミハルの母親だろう」
 たった今、恐ろしい思いをしたばかりの女性に向けるものとしてはかなり厳しい言い方だったが、ヒロミは素直にごめんなさいと謝った。

「おい、青木。ヒロミたちを車に――あれ?」
 ヒロミが落ち着きを取り戻すほんの数分の間に、青木の姿は消えていた。20メートルほど先に停車していたはずの車もない。代わりに置いてあったのは、薪が購入した巨大なぬいぐるみであった。
「これ、僕に担いで行けって言うのか」
「なっしー!!」
 透明なビニール袋に包まれ、てっぺんに赤いリボンの付いたプレゼントに、ミハルは大はしゃぎだ。娘の喜びようと薪の憮然とした表情のギャップにヒロミはププッと吹き出し、ひょうきんなぬいぐるみと薪の美しい貌の取り合わせにクスクス笑いが止まらなくなった。
「青木の言うことを聞いときゃよかった……」
 自宅までの300メートル、薪は90センチのぬいぐるみを抱いて歩いた。青木の言った通り、それは抱き上げるには巨大で、地味に重かった。




*****




 と言うことでしづの大好きな人、ふなっしーです(笑)
 最初はクレーンゲームの景品を鞄に付けてたくらいだったんですけど、なぜか周りのみんながグッスを買ってきてくれるようになり、気が付いたら部屋中ふなっしーだらけww ぬいぐるみはもちろん、カレンダー、団扇、手ぬぐい、お茶碗まで、ずっかり彼に埋め尽くされてしまいました☆☆☆

 極め付けがこれです。 ↓↓↓

90センチふなっしー  ←クリックすると大きくなります。

 仕事と介護、両方がんばってるからご褒美だよって、4月にオットが買ってくれたんですけどね。値段と大きさに眩暈がしました。男の人ってそういうの、ケチらない生き物なんですねえ。

 比較のため、普通サイズのぬいぐるみも一緒に写真に撮ってみましたが、とにかくデカい。
 大人サイズの座椅子が隠れてしまうデカさです。
 胴回りを計ったら114センチありましたよ? 青木さんの胸囲より大きい。そんな巨大なもの、置き場所にも困りますよね。

 てなわけで、以下、オットとの会話です。
「さて。何処に置こうか」
「しづのベッドに置くー。ふなっしーと一緒に寝るー」
「こいつ、人間一人分の体積あるよ。狭くない?」
「大丈夫。しづ、隣のベッドに寝るから」(隣はオットのベッド)
「え。オレはどこに寝れば」
「床」
「……」

 オット、かわいそう(。>ω<。)ノ

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

You my Daddy(8)

 こんにちは。
 11日からお盆休みに入ったはずなのに何故か今日も事務所で仕事してるしづです。

 こないだ、5件参加した入札のうち、2件もお仕事獲れちゃいまして♪
 目下、2工事分の施工計画を作成中でございます。抱えてる工事も2件あって、やってもやっても終わらない……そんなこんなで鈴木さんの命日過ぎちゃいましたー。今年は何にもできなかったなー。正直、10日はお義母さんの歯医者と契約2件重なっててんやわんやだったのよー、忘れちゃった☆



 さてさて、お話の続きです。
 説明するの忘れてたんですけど(またか!!)、
 笹原亜由美ちゃんとか麻子ちゃんとか、どこの誰だか分からないですよね?
 麻子ちゃんは薪さんの大学時代の彼女で、亜由美ちゃんは雪子さんのセリフの「理学部のアユミが薪くんと寝たって自慢してたけど」のアユミちゃんです。……この説明じゃ余計分からないですか?

 薪さんの昔の女性関係は「言えない理由sideB」に書いてありますので、気になる方はどうぞっ。←投げた。






You my Daddy(8)





 週半ばのある日の夕方、青木の携帯電話に薪からの着信があった。
 それは定時を10分ばかり過ぎた、しかし帰宅するにはいささか早い時間で、だから青木はちょっとだけ期待してしまう。今日は水曜日だし、もしかしたら。

『青木。今夜、何か予定あるか』
「何もありません。明日の朝までフリーです」
 青木が意気込んで答えると、電話の向こうでクスッと笑う声がした。どんなお誘いがあるのだろうと、ワクワクしながら相手の言葉を待つ。しかし、電話から聞こえてきた言葉は青木の予想とはまるで違っていた。
『じゃあ、うちの買い物を頼む。女子供とはいえ、ずっと家にいると食料品の減りが早くてな。買い物して帰るってヒロミと約束したんだけど、第5の室長と打ち合わせが入っちゃって』
 一瞬、声が出なかった。喉が詰まったみたいになって、経験したことのない種類の息苦しさが襲ってきた。
『リストをメールで送るから……青木? 聞いてるか』
「あ、はい。分かりました。リストの品を買ってヒロミさんに届ければいいんですね。任せてください」

 薪から送られてきた買い物リストを見て、青木は頭を抱えた。それは優に30品目を超えるリストの量ではなく、但し書きの『女性と子供が好みそうなもの』という文字のせいだった。
 肉に魚、野菜に果物、普段は買ったことのない子供用のお菓子やデザート類。薪の好みは熟知しているが、女性・子供向けとなると何を選んでよいものか。特に、『若い女性が好みそうな雑誌と子供向けの絵本』という項目は青木を悩ませた。
「そんなの、オレだって分かりませんよ」
 仕方なく姉に電話をして、手頃な雑誌を教えてもらった。絵本は舞が小さい頃お気に入りだった、ドレスを着たお姫さまが出てくる童話にした。
『なあに? 一行、子持ちの女と浮気でもしてるの』
 薪さんに言いつけるわよ、と姉に妙な勘ぐりをされて、「その薪さんに頼まれたんだよ」と笑って返しながら、青木の心の中はひどく乾いていた。

 週に一度の定時退庁励行日のアフターに、恋人にデートに誘われるどころか、同居中の娘たちの世話を頼まれた。もともと淡白な人だって分かってるけど、別居してもう1週間も経つのに。ちょっとくらい、恋人の時間を持ちたいと思ってくれないのだろうか。
 第5との打ち合わせの後、遅くなってもいいから、肌を合わせられなくてもいいから、せめてキスくらい。ヒロミたちが現れてから、青木は薪の手も握ってない。

 複雑な気持ちを抱きつつも、青木は買い物を済ませ、薪のマンションに赴いた。網膜認証で玄関のロックを外し、ドアを開ける。途端、中から子供の泣き声が聞こえてきた。
「いやいや、お外行くー!」
「ダメ! お部屋から出ちゃダメって、パパにも言われたでしょ!」
「いやー! 行くー!」
「ミハル、いい加減にしなさい!」
「ママ、いじわる。キライ!」
「このワガママ娘! 言うこと聞かないと、怖いおじさん来るわよ!」
「あのう」
「「きゃああっ!!」」
 ケンカ中の母子は、仲良く抱き合って飛びあがった。特にヒロミの驚愕は激しく、蒼白な顔でミハルを強く抱きしめていた。気が強い割に小心な娘だ。弱い犬ほど良く吠えると言うのは本当らしい。

「あ、お兄ちゃん」
「青木さん」
 青木の顔を認めると、二人は揃って身体の力を抜いた。いつもの癖で中に入ってしまったが、相手にしてみれば、自分たち以外誰もいないと思っていた家の中に突然他人が現れたようなものだ。怖がるのも当然だ。これからは気をつけないと。
「どうも。怖いおじさんです」
 青木がおどけると、二人はケラケラと笑いあって、それでケンカはおしまいになった。

「これ、薪さんに頼まれて」
 緩んだ空気の中、青木は両手の荷物を床に下ろした。5つの買い物袋が、どさりと重そうな音を立てる。
「ありがとう。大変だったでしょう。わたしが行くって言ったんだけど、パパが、危ないから表に出ちゃダメだって」
 普通なら過保護すぎる命令だが、薪の場合はそうとも言い切れない。長年第九の室長を務めてきた薪が、多くの秘密をその脳に匿っていることは世間の知るところだ。その秘密を永久に秘密にしておきたい者、反対に公開したい者、両方が薪の命を狙う可能性がある。その危険は当然、家族にも及ぶのだ。自分たちがそんな恐ろしい立場にいると彼女たちに告げるわけにもいかず、薪は過保護な父親を演じているのだろう。

 青木は買い物袋を広げ、食料品や日用品など、使う人が分かりやすいように収納して欲しいとヒロミに頼んだ。さっそく仕事に取り掛かる二人を手伝いながら、青木は先刻の非礼を詫びた。
「さっきはすみません、驚かせて」
「こっちこそごめんなさい。パパから連絡もらってたのに、うっかりしてて」
 ヒロミはエプロンのポケットからピンク色のスマートフォンを取り出し、薪からのメールを見せた。『急な会議で買い物に行けなくなったので、青木に代わりを頼んだ。6時から7時の間に部屋へ行くと思う』と、青木はその文面の親切さに驚く。
 青木に送られてくる薪のメールは、基本的に単語だけだ。この内容なら、『買い物代行 青木 18:00』がいいところだ。

 ふと気が付いた。騒動に紛れてすっかり忘れていたが、ヒロミの携帯は青木が壊してしまったのだった。あの時のものとは型が違うようだし、新しいものを買ったのだろうか。
 青木がそのことを尋ねると、ヒロミはにっこりと笑って、
「プリペイドよ。パパが買ってくれたの」
「ヒロミさんの携帯、オレが壊したんでした。すみません、弁償します」
「いいの。あれ、わたしのじゃなくてママの携帯だし」
 どうして娘の携帯に、親のあんな写真が入っているのだろうと不思議だったが、そういうことか。

「それじゃ、お母さんに好きなのを選んでもらって」
「3年前に死んだの」
 えっ、と青木は床下収納庫に並べていたお酢の瓶を持ったまま硬直する。死んだ母親の持ち物だったなら、それは形見ではないか。
「そんな大事なもの……す、すみませんでしたっ」
「気にしないで。わたしも悪かったから」
 土下座せんばかりの青木の謝罪をヒロミは快く受け入れると、塩の袋をお酢の隣に置いて、収納庫の蓋をそうっと閉めた。

「さて。青木さん、夕飯、なに食べたい?」
「あ、いえ。オレは薪さんをお迎えに」
「お兄ちゃん、遊んでー!」
 仕事が終わるのを待ちかねたように、ミハルが青木の脚に抱きついてくる。「お兄ちゃんはお仕事だって」とヒロミが嗜めるも、子供にそれを聞き分けろと言うのは無理な相談だ。
「ミハル。我儘言わないで、ママのお手伝いして」
「いやー! お兄ちゃんと遊ぶ!」
 もう、と眉を吊り上げるヒロミに、青木は同情する。朝から晩まで子供と二人きり、いくら母子とは言え疲れるだろう。おまけに過保護な父親からは外に出ることを禁じられ、これではミハルがストレスで泣き喚くのもヒロミが怒りっぽくなるのも無理はない。薪は女子供の生態をまるで理解していないのだ。

「ヒロミさん。オレ、ハンバーグが食べたいです」
「青木さん」
 ありがとう、と申し訳なさそうに頭を下げるヒロミに笑い返し、青木は買ってきた絵本をミハルの前にずらりと並べた。
「ミハルちゃん。これ見ながらお姫さまごっこしようか。どのお姫さまやりたい?」
「うまー!」
「ウマの役でいいの? じゃ、オレがお姫さまやるね。――え、ちがう? あ、乗りたいの? 馬に乗ってるのは王子さまだと思うんだけど、まあいいか。はい、どうぞ」
 青木は床に四つん這いになり、ミハルを背に乗せると、ヒヒン、と鳴いた。



*****



 青木への電話を切った後。薪は一人の第九職員を部屋に呼び出した。

「調べはついたか」
 はい、と答えた男は人差し指で鼻の上の眼鏡を押し上げ、表紙に何も書かれていない報告書を机の上に置いた。華奢な手が、臆する様子もなくそれを持ち上げる。
「なるほどな」
 一読して薪は低く呟き、亜麻色の瞳に憂いを滲ませる。机の前に立った部下が、控え目に尋ねた。
「予測してらしたんでしょう? だから彼女たちをご自分の家に」
 薪は黙って口元を右手で覆い、長い睫毛を伏せてもう一度報告書に目を落とした。応えは返らずとも、それは肯定の仕草。

「薪さん。ちゃんと青木に話してやってくださいよ。あいつ、家を追い出されたと思って、しぼんだ風船みたいになって」
「宇野。このことは誰にも言うな」
 遮られて宇野は眼を瞠る。薪に頼まれた調査はプライベートのものだったはず。しかしこの声は、仕事の采配を振るう際の薪の声だ。
「青木にもだ。絶対だぞ」
 長い間、薪と共に仕事をしてきた宇野は、その言い方で隠された事実を知る。この報告書に書かれたことの他にも、あの親子には何かある。そしてそれは、秘匿されるべきものなのだ。

「そうだ。宇野、これ直せるか」
 そう言って薪が差し出したのは、青木に壊されたパッションピンクの縁取りのスマートフォンだった。
「部品交換すれば大丈夫だと思いますけど。――や、ちょっと待ってください。これ、随分古い機種ですね。部品の在庫あるかな……メーカーに問い合わせてみます」
「悪い。何とか頼む」
「画像は消しておきますか?」
「いや、いい。画像を消したところで過去は消えん」
 薪は苦笑いで宇野の提案を却下し、行っていいぞ、と軽く手を振った。らしいな、と思いつつ、宇野は敬礼して所長室を後にする。

 ドアを閉める前、宇野がそっと振り返ると、薪は頬杖の右手に顔を伏せ、仄暗い水の底に沈められた人形のように物悲しい瞳をしていた。




テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

You my Daddy(7)

 いよいよ明日から、映画が公開されますね!
 わたしは日曜日に見に行く予定ですが、みなさんはいかがされますか?
 もしも感想書くときはネタバレ防止に追記にしますので、未見の方はご注意くださいね。





You my Daddy(7)





「一緒に住んでるぅ?!」
 清閑な早朝の空気を破るような大声に、青木は思わず耳を塞いだ。第九の室長室である。
 室長席に座った岡部は、何気なさを装うために構えた新聞を握りしめ、なんとも情けない顔をして、その演出を自ら台無しにしていた。

「なんだそれ」
「なんだと言われましても」
 岡部のデスクにコーヒーを置き、青木は、尋ねられるまま週末の出来事を話した。
 薪とヒロミ親子3人の話し合いの末、夕方、青木が彼らを薪の家まで送って行ったこと。テイクアウトの夕食を4人で摂った後に青木は家を出て、この週末はホテルで過ごしたこと。月曜の朝に薪を迎えに行き、所長室がある科警研の管理棟まで彼を送って別れた。その車の中で、しばらくはこの生活スタイルを続けようと薪に言われたこと。

「落ち着き先が見つかるまでは、ヒロミさんたちの生活の面倒を見ると薪さんが」
「自分の家に住ませるってことはつまり……親子鑑定が陽性だったってことか」
「いえ、鑑定はしてません。薪さんが、そんなものは必要ないって」
 青木が薪の意向を伝えると、岡部はコーヒーに異物でも入っていたかのように思い切り顔をしかめた。
「それじゃ実の娘だかどうだか分からんだろう。彼女の母親と昔そういう仲だったからって、必ずしも彼女が薪さんの子供だとは限らんぞ」
「はあ。でも薪さんが決めたことですから」
「だからって、身元もハッキリしない女を家に上げるなんて」
「身元はしっかりしてます。薪さんの大学時代の恋人の娘さんですから」
 それはかなり微妙な身元保証だと岡部は思った。
 大方、例の写真を盾に援助を強要されたのだろう。相手が女だと思って油断して、薪の危機管理が甘いのは昔からだが、問題は青木だ。おめおめと家を追い出されて、これでは何のための住み込みボディガードだか分からない。

「昔のこととは言えそういう事実があった以上、薪さんが弱気になるのは仕方ないとして、おまえが逃げ出してどうする。こういうときこそ傍にいて、薪さんを守るのがおまえの仕事だろう」
「岡部さん。薪さんの生い立ち、ご存じでしょう」
 そう言って青木は、静かに微笑んだ。
「きっと、嬉しかったんだと思うんですよ。ご自分の血を分けた子供が現れて」
 今までの空白を埋めたい、できる限り一緒いたいと、そう考えるのは自然なことだと青木は思った。その場合、青木がいない方がいいであろうことも。
 青木がそう言うと、岡部は渋い顔をますます渋くして、「大丈夫なのか」と訊いた。岡部は本当に心配性だ。それだけ薪のことが大切なのだ。ありがたいことだ。

「オレも最初は心配したんですけど、ヒロミさん、意外に善い人で。オレがミハルちゃんを泣かせたりしなかったら、彼女の第一印象はもっと良かったと思います。主婦だから家事全般任せて安心だし、薪さんのお世話もよくしてくれて。そうそう、今朝お迎えにあがったらヒロミさんが薪さんのネクタイを結んでて、まるで奥さんみたいに甲斐甲斐しく」
「ちがう、おまえのことだ」
 え、と青木は間の抜けた声を出した。予想外の質問だった。

「青木。おまえは大丈夫なのか」
 岡部の質問に対する答えは誠に簡単で、それ以外の解答があろうはずもないのに。何故だか青木は、それに答えることができなかった。
 不意に訪れた沈黙に、コーヒーの香り高い湯気が微かに揺らめいていた。




*****



 科警研の所長室は、官房室の薪の私室よりも広さで勝り質で劣る。前者は所長室には応接セットがあるからで、後者は、官房室に異動したら小野田が大層喜んで、豪華な備品を揃えさせたからだ。当時はあからさまな身贔屓に、非難の声も上がったと聞く。

「あの女を家に入れたそうですね」
 上半期の予算案を差し出しながら、岡部は単刀直入に訊いた。デスクの向こうでは薪が受け取った書類を開きつつ、うんざりした顔をする。
「青木が喋ったのか」
 仕方ないな、とぼやきながら頬杖を付く、その机は去年まで田城が使っていた年季が入ってくすんだスチール机ではない。真新しいマホガニーの机だ。当然小野田が新調させたものだが、これに至ってはもはや身贔屓ですらない。単なる親バカだ。ここまでくればいっそ清々しいと人は感じるらしく、誰も何も言わなくなった。

「薪さん。前にも訊きましたよね? 青木をちゃんと見てますかって」
 ダークブラウンの木目模様を岡部の毛深い手の甲が遮り、すると薪は不機嫌に眉を寄せたまま岡部を見上げた。その亜麻色の瞳が明確に発する、『うるさいな』。いささかムッとして岡部は声を張る。
「あいつにはあなたがすべてなんですよ。それを理解してやらないと」
「おまえこそ。青木の何を見てるんだ」
 青木を見損なうなと言う薪の言葉に、岡部は軽い眩暈を覚える。青木が寛容で物分かりの良い男でいるのは薪の前だけだ。薪の見えない所で青木が、薪に接近した人間に陰湿なやり方で報復していることを岡部は知っている。いつだったか、酔っ払った薪にキスされた今井に出涸らしから煎じたコーヒーを飲ませたこともある。あの時の今井は被害者で、しかも同じ研究室の先輩なのに。非道い話だ。
 そんな青木が子連れとはいえ若い女性と薪の同居を、例え本当の娘だとしても、心穏やかに見守れるものか。

「あのですね、薪さん」
「岡部」
 突然薪は姿勢を正し、厳しい上司の顔になった。岡部が作った予算案の中に、訂正すべき項目を見つけたらしい。
「この新システム導入関係費、3割ほど増やしておけ」
 IT技術の進化は日進月歩だ。予算案を作成した時点で購入予定だった機器が、実際に予算が下りたときには型遅れだった、などということはよくある。新型の機器を導入するとしてそれが当初の予算で賄えればよいが、世の中の道理で新製品は従来品より高くつく。そのための予備費を抑えておけ、と薪はアドバイスをくれるが、予算案にはメーカーの朱印を押した見積書を添付する必要がある。
「しかし、メーカーの見積もりはその金額で」
「業者に書かせればいい」
 要するに、金額を水増しした見積書を納入業者に作らせろ、ということか。
 第九の室長だった頃、薪はMRIシステムのハード面の強化に力を注いでいて、しょっちゅう宇野と相談しては新型の部品と交換していた。あの予算をどこから捻り出しているのだろうと実は不思議だったのだが、蓋を開けてみれば何のことはない。ただの不正だ。

「薪さん。あんたそんなことやってたんですか」
「きれいごとで必要な予算が確保できるか」
「だからってそんな危ない橋」
 横領ではないにせよ、これが上にバレたら確実に左遷だ。目的のためには手段を選ばない薪の性質は知っていたが、こんなことまで――。
 そうだ。薪はこういう人間だった。

「なにか目的があるんですね?」
 薪はそれには答えず、右手の引き出しを引いた。滑らかに開かれた長方形の薄い箱の中身は、薪の几帳面な性格を映す鏡のようにきっちりと整頓されていた。
 細い指が、そこに碁盤の目のごとく並べられたシャチハタ印の中から一つを選び取り、書類の中央に軽やかに運ぶ。押印位置を定めながら薪は言った。

「一緒に暮らし始める時、青木に言ったんだ。一生付きまとってやるから覚悟しろって」
 パン、と軽快に押印の音が響く。
「男に二言は無い」
 薪は不敵に笑い、大きく赤で不可と書かれた予算案を岡部に突き返した。




テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

You my Daddy(6)

 毎日暑いですね~。
 みなさん、お元気でいらっしゃいますか? 

 昨日のサイン会整理券電話争奪戦に参加された方、お疲れさまでした。
 獲得された方、おめでとうございます!☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆
 逃された方、残念でした ・゚・(つД`)・゚・
 電話するの忘れちゃった方……(ノ∇≦*)<ンンンンンww ←ごめんなさい、爆笑しました、ごめんなさい。

 20日後にはサイン会の詳細なレポートが読めるのかな?
 楽しみに待ってますのでよろしくお願いします。

 

 お話の続きです。
 本日も広いお心でお願いします。





You my Daddy(6)





 狭い浴槽に折り曲げた両脚を抱え込むようにして座り、青木は溜息を吐いた。
 身体の大きな青木には、ビジネスホテルのユニットバスは使い勝手が悪い。湯船はあっても長さが足りなくて、お湯を張っても腰までしか浸かることができない。ホテル暮らしは食事もクリーニングも不自由はないが、バスタイムだけは快適とは言い難い。
「明日は第九の風呂に入ろうかなあ」
 アパートで一人暮らしをしていた頃は、これとさほど変わらない風呂に入っていたはずだが、薪のマンションの湯船は大きくて、二人でゆっくり浸かれる広さ。それに慣れてしまったのだ。人間、贅沢に慣れるのは早い。

 はぁあ、と青木は何度も重い息を吐く。防水カーテンに仕切られた狭い空間に二酸化炭素が充満していく。自分の吐いた息で窒息しそうだ。
 温まるのは諦めて、立ち上がって髪を洗う。防水カーテンにシャワーの当たる音が響く。眼を開けてみたら肘でカーテンを押していたらしく、裾が浴槽の外に出ていた。そのせいでトイレの床が濡れてしまった。

 それを見て、青木はクスッと笑う。
 去年の12月、青木の実家の法事に薪と一緒に出席した、その帰り道。予約した飛行機に乗ろうとしたら、自宅に残してきた子供が事故に遭ったとかで、どうしても今日中に東京へ帰りたいと言う夫婦がキャンセル窓口で必死に頭を下げていた。薪と相談して、自分たちはもう一日余裕があるからと、彼らにチケットを譲ってやることにした。代わりに、その夫婦が泊まる予定だったホテルを譲ってもらい、青木たちはそこに宿泊した。
 空港近くのビジネスホテルのツインルームで、浴室は、ちょうどこれくらいの広さだった。二人で入れるようなスペースはどこにもないのに、戯れにと一緒に入った。
『あはは、狭っま! 青木、もっとあっち行け』
『無理ですよ。もう、薪さんたら、わざと肘鉄入れるの止めてくださいよ』
『わざとじゃない。わざとってのはこうだろ』
『実演しなくていいです、ととっ』
『な、うわっ! ――おまえ、転ぶの勝手だけど僕まで巻き込むなよ!』
 髪を洗えば肘がぶつかり、体を洗おうと身を屈めればお尻がぶつかって、げらげら笑いながら転んで泡だらけになって、気が付いたらトイレの床が水浸しだった。

 あのときは掃除が大変だったな、と青木は苦笑し、問題は広さではないのだと唐突に気付く。
 一人きり。その孤独感が青木を息苦しくさせる。

 人はこんなにも早く、孤独を忘れてしまう生き物なのだろうか。薪と二人で暮らし始めてから1年も経っていないのに。去年の春まで住んでいたアパートで、夜をどう過ごしていたのか、もう思い出せない。
 出張や研修など、今までにも薪と会えない期間はあった。そんな時は寂しさを紛らわすため、次に会えた時にはこんなことをしよう、あんなことをして過ごそうとデートプランを練った。それもまた、恋の楽しみのひとつと言えた。

 知らなかった。
 一緒に暮らすことで、別離の寂しさが苦痛に変わるなんて。

 結婚した友人に聞いた話と違う。友人の話では、恋愛中はずっと傍にいたいと願い、互いに望んで結婚して、一緒にいるのが当たり前になると徐々に刺激が無くなり退屈して、今度は相手から解放されたいと思うようになるそうだ。ところが青木の場合、相手の存在に慣れて退屈するどころか、中毒が酷くなっている。
 たった2日、薪の顔を見ていない。そんなわずかな時間が耐えきれない。

 風呂から上がり、髪を乾かすより早く冷蔵庫のビールを取り出す。黒髪から雫を垂らしながら一気に呷ると、少しだけ清涼感が生まれた。
 薪も今ごろ、風呂に入っただろうか。まさかと思うが、ミハルと一緒に入ってるんだろうか。
 やはりきっちり潰しておくべきだったか、と不穏な情動に駆られて青木は、知らず知らずのうちにビールの空き缶を握り潰していた。これが原因でホテルに追いやられたのに、悪い癖ほどなかなか直らない。

「しばらくの間、彼女たちを家に泊めてやってもいいか」
 薪にそう頼まれて、嫌だとは言えなかった。
 そもそもあの家は薪のもので、青木は居候だ。生活費は一切払っていない。だが誤解しないで欲しい。これは青木に甲斐性が無いのではなく、薪に渡したらあるだけ使われてしまうからだ。薪の給料から生活費を一切合財払わせて無駄金を残さず、青木の収入は全額貯金に充てる。そうでもしないと薪の預金残高はいつまでも254円のままだ。
 しかし、それはあくまでも舞台裏。青木に異を唱える権利はなかった。

 マンションのエントランスに母子を待たせ、薪と二人、大急ぎで「見られてはマズイもの」を薪の書斎に運んだ。薪の家で唯一、この部屋だけは鍵が掛かる。仕事関係の書類があるから絶対に入ってはいけないと、子供がいるなら尚更のこと、鍵を掛けることを疑問にも思わないだろう。
 薪がすべての部屋にチェックを入れ、青木が階下から二人を連れてきた。モデルルームのように整えられた部屋に、ヒロミは感嘆の溜息を洩らし、ミハルは無邪気に手を叩いた。
「すごい。きれいなお部屋」
「青木がよく掃除してるからな」
「ボディガードってそんなことまでするの?」
「……ミハルちゃん、お腹空いたよね。ごはんにしようか」

 他人の目がある時、食事の支度は青木の仕事だ。薪はちょっと考えが古くて、料理をしない方が男らしいと思っているのだ。
 青木が当たり前のようにエプロンを着けて台所に立つと、二人の客人はすぐにやってきて、手伝いを申し出た。
「青木さん、お手伝いします」
「ありがとうございます。じゃあサラダお願いします」
「ミハルも!」
「そう? じゃ、このトマト洗ってくれるかな」
「ミハル。台から落ちないように、気を付けるのよ」
 持参したライトグリーンのエプロンを着けて髪をまとめたヒロミは、母親らしく、先刻よりずっとやさしく見えた。

 総菜類を皿に装ったり、それに生野菜を添えたりと、多くの女性が得意とする細々とした仕事を、ヒロミがミハルに纏いつかれながらも手際よく為すのを、薪はダイニングの椅子に座ってやさしく見つめていた。ミハルが小さな手で懸命に野菜を洗う様子に微笑みを浮かべ、ヒロミがキャベツを刻むリズミカルな包丁の音を楽しげに聞く。その姿は何処から見ても、料理に勤しむ妻子を見守る父親。
 食事が始まってからも、それぞれの役割は変わらなかった。ヒロミは慣れた手つきで大皿から銘々皿に料理を取り分けたり、ドレッシングや調味料を皆に回したり、ごはんのお代わりを装ったりした。青木はまるで、母親と一緒に食事をしているような気になった。薪もそうだったのだろう。穏やかな顔つきで、終始機嫌が良かった。
 違っていたのは、薪が心からリラックスしていたこと。青木の家で青木の家族と食事をしていた時も薪は穏やかに微笑んでいたけれど、どこかしら気を張っていた。その緊張が伝わってこない。逆に青木の方が落ち着かない気分になって、「なにをソワソワしている」と薪に注意される始末だった。

 食事の後片付けを引き受けてくれたヒロミの横で、青木はいつものように、これから仕事をする薪のためにコーヒーを淹れた。彼の睡眠を妨げないよう濃度はやや薄目に、活力がみなぎるよう香りは高く。
 ヒロミが洗い物をしている間、薪はリビングで、ミハルと一緒に子供向けのアニメを見ていた。テレビの前のソファに二人、ミハルは当然のように薪の膝に座っていて、青木は思わずコーヒーを零すところだった。――ミハルの顔面に。

「なんか急に背中が寒くなったんだけど。風邪かな」
 青木の黒い思考を察したのか、薪はぶるっと身を震わせ、それで青木は正気に返ることができた。いけないいけない、そんなことをしたら薪さんに火傷させちゃう。――え? オレの考えどこかヘン?

 いま一つ正気に戻れない青木は、だって仕方ない。青木が初めて薪に膝枕をしてもらえたのは去年の誕生日。一緒に暮らし始めて最初の記念日だからと薪の出血大サービス、耳掃除のプレゼントをしてくれたのだ。それを子供だからって会ったその日に、こんな不平等が許されていいのか。
 ミハルを羨ましそうに見ていた青木を、不安そうに薪が見上げる。薪は鋭い。青木の害意を感じ取ったのだ。
 薪を安心させようと、青木は笑顔でコーヒーを差し出しながら、
「ヒロミさんたちがいる間、オレはホテルに泊まります」
「……そうしてくれると助かる」
 思わずホッとした様子の薪に、青木は僅かに心を痛ませたが、仕方のないことだと自分に言い聞かせた。

 なんとなくだが分かっていた。自分が薪に、邪魔だと思われていたこと。

 薪にしてみれば20年ぶりの親子対面かもしれないのだ。娘だと名乗る女性に訊きたいことは山ほどあるだろう。だけどここに青木がいたら、気兼ねして訊くに聞けない。どうしてもヒロミの母親、つまり薪の昔の恋人の話になるからだ。退場すべきは自分だ。青木がいなければ家族3人、水入らずで過ごせるのだし。

「月曜日の朝、8時にお迎えに上がります」
 わかった、と薪は答えた。

 とりあえず3日分の着替えを詰めて、青木は駅前のホテルまで歩いてきた。チェックインして、現在に至る。
 青木は小さな金属の塊になった空き缶を屑カゴに放り込み、洗面所に備え付けのドライヤーで髪を乾かした。ふと、風呂に入る時に外した腕時計が目に入る。0.2の青木の視力では文字盤の数字は霞んでしまうが、針の位置だけは見てとれた。
 時刻は11時を回っていた。ミハルはもう眠っただろう。薪は、ヒロミと大人の話をしているだろうか。
 過去のこと、これまでのこと、これからのこと。
 ヒロミの母親とどうやって知り合って、どんな風に愛し合ったか。なぜ彼女は子供ができたことを薪に告げず、薪の前から姿を消したのか。父親のいない家庭でヒロミがどれだけ寂しい思いをして育ったのか、そんな思いをしながらもヒロミがシングルマザーになったのはどういう経緯からか。
 他人の青木には尋ねることができないそれらのことを、薪は聞かされているに違いないのだ。
 薪は、彼女の父親だから。
 
 ずっしりと心が重くなって、青木は髪を乾かすのが面倒になる。まだ完全に乾いていない髪を手櫛でいい加減に整えて、ベッドに潜り込んだ。
 ビジネスホテルのシングルベッドは青木には狭くて、やっぱりあの時のことを思い出した。
 博多での夜、狭いベッドで薪と愛し合った。動きが制約されるけど、その分密着度は増して、床に落っこちそうになるたびに薪が自分から抱きついてくれると言う嬉しいおまけまで付いて、青木としてはかなり楽しかった。

 楽しかったことを思い出しながら、青木は眠ることにした。その方が、早く月曜日が来る。月曜になれば、薪に会える。ボディガードとしてだが、彼の顔が見られるだけで青木は幸せな気分になれる。
 月曜日が楽しみだなんて、薪に片思いをしていた頃に戻ったみたいだ。
 せめてランチやアフターにデートができるといいな、と淡い期待を抱きながら、青木は窮屈なベッドで寝返りを打った。



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
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2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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