桜(1)

桜(1)







 人事異動の季節になると、第九にも新人が入ってくる。
 新人の面倒を見るのは青木の役目だ。自分が先輩にしてもらったことを、後輩に伝える。そうして後輩と一緒に成長していくのだ。

「青木さん。おれ、夜、眠れないんです。気持ち悪い夢ばかり見て」

 後輩の悩みを聞いてやるのも、先輩の仕事のひとつだ。
 自分も新人の頃はそうだった。あまりに凄惨なMRIの画像を夢に見て、眠れない日々が続く中で、次第に余裕を無くして憔悴していった。自分のことで手一杯になって、周りが見えなくなって、素直な気持ちを失っていった。
 今となっては苦い思い出である。

 が、そのとき青木には、これからの人生を大きく変える出来事が訪れた。だから今も第九にいられる。この仕事を続けている。

「オレもそうだったよ。そのうち慣れるさ」
「先輩は悪夢を見ないんですか?」
「コツがあるんだ。寝る前にな」
 数年前に、青木を救ってくれたひとに教えてもらった技を伝授する。しかし、うまくいくとは限らない。何人かに伝えたが、個人差があるようで、まったく効果のなかった者もいた。

「わかりました。やってみます」
 後輩は、素直に礼を言った。
 こいつはオレよりまだマシだ。あの頃、オレは素直に礼を言う余裕もなかった。

 その頃のことを思い出して、青木は自嘲した。でも、そんな状態だったからこそ、あのひとがオレに手を差し延べてくれたのかもしれない。

「今井。世田谷の放火殺人の件だが」

 室長室から資料を抱えて、薪が出てくる。今井の机に資料を置き、モニターを覗き込む。きりりと吊り上った眉。真剣な瞳。今日も室長は捜査に夢中だ。
 春のやわらかな日差しが、ブラインド越しにその清廉な美貌を包み込む。淡い光に溶けていくような儚さに、つい目を奪われる。

 あのときの室長もとてもきれいだったな――。

 記憶の連鎖で、青木はその当時の出来事を思い出していた。




テーマ : 二次創作
ジャンル : 小説・文学

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Sさまへ

Sさま、いらっしゃいませ~。
コメントありがとうございます。


HN、変えられたのですね。
青薪派として、というSさまの意気込みが伝わってきます!
Sさまのそのお気持ちが、どうかどうか、エピローグで報われますように。


> Lets現実逃避!でこれから回遊魚のように最初から読み返します。

あはははー!
現実逃避って!(笑・笑)

でも、お気持ち分かります。
ちょっと現実から目を逸らしたくなる時ってありますよね。 この漫画は特に。(^^;

ここはもう一つの秘密世界、薪さんにやさしい世界なので(の割にはよく泣いてるケド)、
Sさんに一時の夢を見ていただければ光栄です。 

わたしも、第九で仲間たちに囲まれている薪さんが好きです。
青木さんと二人きりで甘々な薪さんもいいですけど、(の割にはケンカばっかりですケド)
信じあえる仲間とやりがいのある職務に邁進する薪さんは、とても生き生きしてますよね。 3巻の頃の薪さんのように、アイスごときでみんなを苛めちゃったりして、ああいうの、すごく好きです。

アメリカに行った薪さんが、第九の仲間たちのように彼を理解してくれる人々に囲まれて充実した仕事ができるよう、祈ってやみません。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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