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告(11)

告(11)







 思わず、口から出てしまった。
 本当はもっと洒落た言葉で、それなりの雰囲気も作って告白するつもりだった。
 それが第九の室長室で、報告書の束を両手に持って、捜査報告のように告げてしまった。これではまるで、ことのついでのようだ。

 薪は驚いてもくれなかった。ただ形の良い眉を、いくらか顰めただけである。本気にしていないのは明らかだった。
「わかった、報告書は月曜まで待ってやる。早く雪子さんにそのセリフを言ってやれ」
 ……何がわかったんですか?
 平気な顔で、再び書類に目を落とす。冷静な上司の貌はちらりとも崩れない。
「雪子さんはあれでもう、結構な年だからな。なるべく早くプロポーズしろよ。高齢出産は負担が大きい」
 誤解にもほどがある。
 薪に好かれたい一心でこんなに努力してきたのに、これでは自分があまりにも可哀想だ。

 青木は大股に室長の机に近寄ると、薪が見ている書類の束を取り上げ、デスクに叩きつけた。
 突然の無礼な振舞いに、薪がすぐさまキツイ目で睨み返してくる。ぞくりとするような冷たい美貌。いつもなら謝罪とともに引き下がる青木だが、今回ばかりはさすがにキレていた。

「あなたが好きなんですよ。薪さん、あなたです。三好先生じゃありません」
 またもや、なんのひねりもない。
 あれほどいくつもの甘い言葉を考えていたのに、今はそのすべてが吹き飛んでしまった。
「なに言ってるんだ? おまえ」
 しかし、どうやら気持ちを伝えることには成功したらしい。
 薪の貌が、あの不意を衝かれたときに見せるきょとんとした表情になっている。自分の心を惹き付けてやまない、その愛らしさ。青木の胸がとくりと高鳴る。
 が、次の瞬間、無防備な愛らしさは消えて、研ぎ澄まされた刃物のような凄惨な怒りがその相貌に現れた。

「僕はそういうジョークは嫌いだ」
 ……ヒドすぎる。

 書類に戻ろうとする薪の目を、青木は是が非でも自分のほうに向けたかった。このまま後には退けない。この真剣な気持ちをジョークにされてたまるか。言葉が駄目なら実力行使だ。
 普段おとなしい人間ほど、キレると何をやらかすかわからない。次に青木のとった行動は、その説を裏付けるものだった。

 亜麻色の小さな頭をつかんで、細いあごに手をかける。とっさのことに対応しきれない相手の隙をついて、くちびるを奪う。
 子供のままごとではない大人のキス。やわらかい口唇とぬめついた舌の感触に、我を失う。相手の舌を絡めとり、ねぶり、吸い上げ――――。

 バゴッ、と後頭部で星がはじけて、がしゃん! と瀬戸物の割れる音が響いた。
 冷たい液体が青木の頭から滴る。薪の机にあったコーヒーの匂いだ。
 すかさず頬に平手打ちの音。続けざまに右の頬にもう1発。とどめに腹に強烈な手刀。くらくらしたところを蹴り飛ばされて、室長室のドアにぶつかる。
 すばやくドアが開き、モニタールームに叩き出された。

「頭を冷やせ! バカ青木!」
 出来上がったばかりの報告書の束が、青木めがけて投げつけられる。
「全部、書き直せ! 今日中にだ!」
 壊れそうな勢いで室長室のドアが閉まる。激しい音の余韻に静まり返る研究室。
 あっけにとられた第九の面々が、心配そうな顔で青木のそばにやって来る。
「大丈夫か? 青木」
「何やらかしたんだ、おまえ」
 とても言えない。
 床に座り込んだまま、青木はしばらく立ち上がれなかった。
 唇に残る感触―――― コーヒー味の苦いキス。

 なんてことをしてしまったんだろう……。

「シャワー浴びて、着替えて来い。報告書は俺が手伝ってやるから」
 岡部が青木のそばに屈んで、「元気出せよ」と言った。先輩のやさしい気遣いが後ろめたい。悪いのは自分なのだ。
「あんな薪さん、初めて見たよ」
「こえ~」
 今井と曽我が、こっそり呟く。
 ちがいます。薪さんは悪くありません―――― そう言いたかったが、声にならなかった。
「でも」
 いつもは薪に対して少し辛辣な物言いをする小池が、ためらいつつ言った。
「薪さん、泣いてなかったか?」


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
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2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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