たとえ君が消えても(6)

「サクサク行くんじゃなかったのか」
 だって、入札の公示があったから……見積りとか、大変だったんだもん。
「仕事が大変なのは当たり前だ。 みなさん忙しい中、時間をやりくりして訪問くださってるんだぞ」
 それは分かってるけど~、3件重なると設計書だけでも100P超えるんだよ。 明細に至っては軽く2000を超えて。 それに一つ一つ単価を当てはめていくにはそれなりの時間が。
「ええい、見苦しい! 男子警察官たるもの、言い訳は認めん!」
 
 てな具合に薪さんに叱られたい。
 わたしは男子でも警察官でもありませんけど、薪さんの仰ることなら心から平伏します。


 すんませんマジすんませんホントすんません。 コメントのお返事、今日から少しずつさせていただきます。
 入札は28日なのですけど、それまでヒマ見て更新します。 運よく仕事取れたらごめんなさい、書類作成の為4,5日お休みします。 よろしくお願いします。







たとえ君が消えても(6)






 警察庁8階の廊下を、薪は走っていた。行き先は同じフロアの首席参事官の居室だ。
 目的は二つ。直属の上司に事件の報告をすることと、もう一つは、過激派の情報を得ることだ。
 過激派の取り締まりは県警公安部の仕事だが、それらを統括・指導する立場にあるのが警察庁公安部だ。よって、公安部には全国の過激派情報が集まってくる。公安部は警備局の所属で、本来の手順で言えば警備局長に情報の開示を依頼する所だが、自分の上司に頼んだほうが早い。
 警察庁にある6つの内部部局(科警研等の附属機関を含めれば7つ)、それらを統括管理するのが官房長の小野田だ。その実質的な職務は首席参事官がこれを代行する。つまり、首席参事官の中園には警察庁全部の、否、警察庁の存在意義に則れば日本警察すべての情報を引き出す権限があると言うことだ。

 薪が血相を変えて開けたドアの向こうに、中園はいなかった。秘書に尋ねると、官房長の小野田の所に出向いていると言う。
 青木に関わる厄介ごとが小野田に知れることに薪は少しだけ怯んだが、いずれにせよ、隠し通せることではない。2年前の滝沢の時のようなわけにはいかない。青木が囚われの身になっているのだ。

 官房室のツートップは、いつもの配置で薪を迎えた。小野田は自分の机、中園はソファで足を組み、二人とも書類の束を両手に持っていた。
「要するに」
 薪が事件の概要を説明すると、中園は書類をローテーブルの上に放り捨てるように置いた。ぞんざいな動作で肘掛けに左肘をつき、投げやりな口調で、
「ドブ攫いをしていたら、たまたまそこに金の延べ棒が隠してあったってこと?」
 的を射た理解に、薪は頷く。二人の上司はしばらくの間言葉を失い、居室は緊迫した空気で満たされた。沈黙を破ったのは、やはり中園だ。
「まったく、余計なことしてくれたねえ」
 事情を解しても、二人に狼狽える様子はなかった。事態を深刻に捉えていることは表情で分かる、動揺を強い精神力でカバーしているのだ。電話を受けた直後、貧血まで起こしかけた自分を、薪は恥じた。

「『グリーンアース』にはね、公安二課がマークを付けてたんだよ。神戸支局から資金が流れていることも、内部調査で分かってた。ただ、証拠がねえ。オンライン上の金銭の授受だけじゃ、摘発してからの捜査に時間が掛かり過ぎる。その間に大物には逃げられちまう。だから、団員と支局員が接触するのを待ってたんだけど」
 ソファにそっくり返って、中園は両手を頭の後ろで組んだ。横目でジロリと薪を見て、痛烈な皮肉を投げつける。
「よく躾けておきなさいよ。君の飼い犬だろ」
「……申し訳ありません」
 飼い犬、という表現には大いに反発したが、謝るしかなかった。青木の今回の失態はおそらく、公安の内偵を潰してしまったのだ。
「公安への謝罪は改めてします。今は、一刻も早く捜査本部の設立と刑部の釈放の検討、それに身代金の用意を」
「なに言ってんの。検討なんかしないよ」
「えっ?」
 耳がおかしくなったのかと思った。聞き間違えか、或いは中園特有の場を弁えないブラックな冗談かと思った。が、どちらも違った。中園は本気だった。

「彼らの要求には応えられない。警察はテロには屈しない。長官と法務省に話は通してみるけどね、結果は同じだと思うよ」
「青木の命が係っていてもですか?」
「君だって殉職の覚悟くらいできてるだろ? 彼も同じだ。それが国家の安泰のためなら、喜んで犠牲になる。それが警官の使命だ」
「殉職の覚悟を決めるのと、部下を見捨てることはまるで違います!」
 命を懸けて奉職しても、有事の際には冷酷に切り捨てられる。組織の非情さに、薪は激しい憤りを感じた。

「青木が一般人だったら要求に応じると? それはおかしい、警察官でも一般人でも、人命は等しく貴重なものでしょう」
「もしも青木くんが一般人なら! 意味のない例えだが、説明させていただこう」
 中園は声を張り上げた。錚々たるメンバーが集う幹部会議で朗々と響き渡る官房室の代弁者の迫力に、思わず薪は一歩退がる。
「誘拐されたのが一般人なら、マスコミに事件を公開し、首相以下官房長官、特命担当大臣に事務次官、法務大臣、司法法制管理官、検察庁に公安調査庁までお出まし願って会議を開く。でも話し合いはしない。あくまでも世間に対するパフォーマンスだ。テロリストの要求に応じて死刑囚を解放するなんて愚かな事はしない。警察の威信にかけて、絶対にしない」
「そんな」
 臍を噛む思いで薪は拳を握りしめた。面子を守るためなら犠牲を厭わない警察組織と言う怪物の裏の顔を、薪は知っていた。命を奪われるまでは行かずとも、そうして葬られてきた警官たちが多数存在することも。

「中園、そんな言い方しなくたって。テロリーダーの釈放は無理でも、他に、捜査のやり方次第で青木くんを助ける方法を見つけることは可能だろ」
 薪の消沈振りを見かねたのか、小野田が出してくれた助け船に、中園はひょいと片方の眉を上げて、
「おまえは本当に薪くんの前では善い人振るね」
「何を言い出すんだい。職員の生命と安全を守るのは我々上層部の役目だろう」
「こないだ飲んだ時、青木くんなんか馬に蹴られて死んじゃえばいいって言ってたくせに」
「小野田さん……」
 思わず呟いたものの、薪はそれを中園の冗談だと思った。が、小野田は明後日の方向に視線を逸らし、
「記憶にないな」
 ……言ったんですね。

 この緊急時に、でも小野田の陰口は結構ショックで、薪は思わず膝が落ちそうになる。図らずも途切れた緊張の糸を繋ぎ合わせるように、中園の冷ややかな声が響いた。
「薪くん。分かってると思うけど、君は捜査から外れてね」
「何故ですか」
「邪魔だから」
 薪が亜麻色の瞳に反抗心を浮かべると、中園は意地悪そうに片頬を歪めて、
「敵のアジトを見つけていざ突入って時に、『僕の青木がまだ中にいます』なんて叫ばれると困るんだよ」
「……気を付けます」
 口を衝いて出そうになった罵詈を、薪は寸でのところで止めた。悔しさに唇を噛み締める。こんな時まで彼との関係を当てこすられて、何だか青木の命を軽く扱われているようで耐えられない。薪の神経を逆撫でするように、中園の嫌味は続いた。

「もし彼が死んでも、後を追うなんて馬鹿な真似はしないでね。後始末が大変だから」
 敢えて避けていた死と言う言葉を出されて、薪の白い頬が強張る。わななきそうになる唇を気力で引き結び、薪は強い瞳で上司を睨んだ。
「そんな下らないことはしません。僕と青木は」
 腹の底に力を入れて、ぐっと背筋を伸ばす。中園に負けない張りのある声で、薪は堂々と言い返した。
「一緒に死のうって約束したんじゃない。共に生きようと約束したんです」
 クールが売りの中園が、一瞬、呆気に取られたような顔をした。自分よりも高性能を誇る彼のポーカーフェイスを崩すのは、最高に気分が良かった。

「青木は絶対に助けます」
 薪はそれを捨て台詞を残す口調で言って、官房室を後にした。次に向かうは公安二課。グリーンアースについては以前から彼らが捜査を進めていた、ならば捜査本部が設置されれば指揮は自分たちが執ると言い出すだろう。『赤羽事件』の詳しい資料も欲しいし、話を通すが得策だ。

 若き警視長が去った居室では、二人の幹部が言葉もなく顔を見合わせていた。やがて中園は、彼らしくヘラヘラと笑い、
「『共に生きる』とさ。言うようになったねえ」
「おまえが挑発するからだろ。て言うか、後追い自殺よりもそっちの方が下らないよね? ぼくの感覚がおかしいの?」
「いや。僕もおまえと同意見だけど。24時間一緒にいられるわけじゃなし、片方が隕石に当たって死んじゃったらどうする気なんだろうね?」
「呑気なこと言ってないで、さっさと帳場を立てなさいよ。それと、薪くんは多分、公安の言うことなんか聞かないから。ちゃんと止めてね」
 公安の立てる捜査方針は、テログループの壊滅が最優先だ。人質の命を守りたい薪とは、真っ向から対立することになるだろう。
「やれやれ。彼に恨まれそうなことは、みんな僕に押し付けるんだからな」
 身勝手な上司と周りが見えない部下の間で板挟みになって、中園は深いため息を吐いた。



*****


 中園、めっちゃ書きやすい。
 性格悪いキャラほど書いてて楽しいのは何故かしら。 やっぱり自分の性格が悪いからか、そうか。


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

Rさまへ

Rさま。


> 「薪さんの成長」私もその解釈で拝読させて頂いてました。

ありがとうございます~、
キャラの成長を描くなんて、わー、なんか良書っぽい~、
開けてみたらただのギャグ小説なんですけどね☆

青木さんの影響、ありますよね。
青木さんの存在が、薪さんを元気にしてくれるんですよね。 でもって、薪さんの存在が青木さんを成長させる。 
うちの二人は恋愛小説の基準から言うと、かなりヌルイ恋人関係だと思うのですけど。 恋に命懸けてないし。 
それでも、共生関係にはあると思います。



> それにしても小野田&中園コンビ良いですw

ありがとうございます、うれしー♪
このおじさん二人、めっちゃ書きやすいんですよ。 特に中園。 薪さんをイジメることのできる人、他にいないので。 彼は貴重な存在です。



それから、ケーキ好きのおじさまのお話。
ぶふっ!!(>m<)
一人でケーキ屋は、そうですね、女の子が一人で牛丼屋よりもハードル高いでしょうね☆
でも、部下の方には「鬼の」という冠言葉を付けられちゃうんですね。
分かります分かります、ギャップ萌えってやつですよね。 心から同意します。 たまらんです。

楽しいコメントありがとうございました。(^^ 



プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
メロディ6月号、読みました。
一言感想 「どひゃー……」
文字サイズをお選びください
最新記事
最新コメント
拍手のお返事
いつもありがとうございます!

最新拍手コメのお返事はこちらです。

過去の拍手レスの確認は、該当記事の拍手欄を押してください。
鍵拍手コメのレスは、記事のコメント欄にお返しします。
月別アーカイブ
カテゴリ
詩 (1)
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
QRコード
QRコード
FC2カウンター
こんにちは(^^
現在の閲覧者数: