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たとえ君が消えても(9)

「よしよし、真面目にやってるようだな」
「今のところ、連続更新続いてます。頑張ってます。褒めてください」
「あほ。秘密界のSS書きさんは、殆どの方が、続きものは連日公開してるだろうが。中には書きながら連日公開なんて偉大な人もいるんだぞ。これまでのおまえが怠慢過ぎたんだ、やっと最低ラインだ」
 てな具合に薪さんに説教されたい。

 とか言ってるそばからすみません、今日はこれから測量なので、明日はお休みします。
 一日現場に出ると疲れちゃって……年には勝てません☆
 




たとえ君が消えても(9)






「なんだ、このコーヒーは!」
 昨夜の寝不足のせいでうとうとしかけていた青木は、男の怒鳴り声で眼を覚ました。
「なんだって、テツさんが淹れろって言うから」
「粉が混じってるじゃねーか! インスタントコーヒーじゃねえんだぞ!」
 髭の男が、不機嫌にカップを机に置いた。中のコーヒーが大きく揺れて、白い紙コップの側面を伝い落ちる。

 ここに来て半日、青木たちは倉庫内のユニットハウスに移された。最初そこはがらんどうだったが、午前中のうちに色々なものが運び込まれ、只の箱だったハウス内は一応、人が一定の期間を過ごすのに耐え得る場所になった。発電機と照明器具、テーブルに数脚の長椅子。それらと共に人数も6人ほど増えて、どうやらここが彼らの本拠地になるらしい。
 殴られはしたものの青木の要求自体は通って、冷風機と布団が与えられた。暑さもいくらかは凌げるし、ベニヤ張りの床に布団があれば横にもなれる。昼食も弁当だったし、朝の菓子パンに比べたら改善されている。快適には程遠いが、人質の環境としてはまずまずと言えた。

「テツ、そんなに怒るなよ。ツトムが不器用なのは今に始まった話じゃねえ」
「サトシさん、フォローになってないっす」
 人質となった青木たちの傍にいるのはこの3人。薪に電話をした髭の男が首謀者だと思われるから、他の二人は彼の側近だろう。サトシと呼ばれた人物は髭の男を呼び捨てにしているところから、ツトムよりもテツに近しい人物、相棒である可能性が高いと青木は考えていた。年もテツと同じくらいだし、闘争慣れしているように見えた。2人に比べるとツトムはぐっと若く、他の6人の誰よりも武術的な未熟を感じさせた。彼は主犯格ではなく、リーダーの世話係なのかもしれない。
 犯人が集団である場合、グループ内の力関係の見極めが大事なのだと岡部に習った。交渉はできる限り首謀者に近い人物に、自分の意見だけを通すのではなく双方に利が生まれるよう交換条件を提示しつつ行う。犯人とネゴシエイターは敵ではなく協力者、そう思わせるところが交渉術の要だと、これは昔特捜にいた今井が教えてくれた。

「あのー、よかったらオレが淹れましょうか?」
 何を言い出すのかと驚いた顔をしたのは、犯人グループばかりではない。隣で横になっていた桐谷も、ぽかんと口を開けて青木を見上げていた。
「おまえ、自分の立場分かってんの?」
 ツトムが呆れた顔で前髪をかき上げた。明るい金髪の根元の部分は黒く、彼の生まれ持った髪の色を青木に教える。彼の日本人の特徴を備えた顔付きには黒髪の方が似合うだろうに、敢えてこの色を選ぶのは彼の若さの表れか。
「解ってますよ。オレが下手な真似したら、桐谷さんもオレも殺されちゃうんでしょう?」
「本当に、見かけに因らないやつだな」
 見かけに因らないのは上司譲りです、と返したくなったが、さすがに抑えた。親近感を表面に出すことは大事だが、砕け過ぎはよくない。
「オレ、仕事ではいっつも薪さんに怒られるんですけど、コーヒーだけは誰よりも美味いって褒められるんです」

 ツトムとテツはちらと視線を合わせ、するとテツが頷いた。サトシが青木の手枷を外してくれて、でもツトムの銃がしっかりと青木を狙っている。青木も武道を始めて5年になるから、相手の身のこなしで大体の強さは分かる。銃を持っていてもツトム一人なら倒せる、が、彼を殴った瞬間他の二人にハチの巣にされるだろう。自分が死んだら桐谷を守れなくなる。危険は冒せない。
 ツトムに銃で脅され、テロリストたちの冷酷な視線に囲まれ、青木は慣れない器具でコーヒーを淹れた。「手が震えちゃうから、あんまり近づけないでくださいね」などと気弱さをアピールすることも忘れなかった。せっかく、図体ばかり大きくて気の小さい男に見られているのだ。それを利用しない手はない。

「お」
「いい匂いだな」
 青木がドリッパーにお湯を注ぎ始めると、それまで武器の手入れをしていた他のメンバーが手を休め、こちらを見た。何人かは寄ってきて、物珍しそうに青木の手元を眺めた。コーヒーを淹れる人質なんてそりゃあ珍しいだろうし、それが警官なら尚更だ。見世物大いに結構、今は彼らの機嫌を取ることだ。それが桐谷の命を守ることにつながる。
 コーヒーを淹れ終わると、青木は再び手枷を嵌められた。ツトムが紙コップに注いで、周りの人間に配った。ドリッパーが5人用のものだったので皆には回らない計算だが、全員がそのコーヒーを飲んだ。一人分の量を減らして、仲間意識は高いらしい。

 薪警視長のお抱えバリスタが淹れたコーヒーは、メンバーたちを唸らせた。おお、という単純だけれども明快な称賛の声に、青木は人の好い笑みを浮かべた。
「美味いな」
 満足そうにコーヒーを啜るテツに、青木は苦笑し、
「失礼ですけど。テツさんは、本当に美味しいコーヒーを飲んだことないんですね」
「嗜好品に贅沢はせん」
「豆の値段の問題じゃありません。保管状況が悪いのと、あとはブレンドの問題です。ジャバロブスタが多過ぎますね。だから旨味より苦味が勝ってしまって」
「じゃばろぶすた? なんだ、それ」
 聞き慣れない単語に首を傾げるツトムに、青木は笑顔を向けた。誘拐犯と人質の間に会話が成り立つのはいいことだ。
「コーヒー豆の種類ですよ」
「何で分かるんだよ? 飲んでもいないくせに」
「馨で分かります」
「おまえ、なんでそんなに詳しいの」
「薪さんが、あ、薪さんてオレの上司なんですけど、これがものすごく怖い人で。でもってその人、無類のコーヒー好きで。ご機嫌取りの為に必死で覚えたんです」
 本当は薪の気を惹きたくて頑張ったのだが、さすがに本当のことは言えない。
「へえ、そうなんだ。じゃあおれと同じだ。テツさんもコーヒーマニアでさ、おれ、此処に入って初めてコーヒーの淹れ方覚えて」
「そうなんですか? じゃあ、今度オレが淹れ方のコツを」

「ツトム。人質と馴れ馴れしくするな」
 サトシに咎められて、若いツトムは唇を尖らせ、「いいでしょ、話くらい」と言い返した。部屋の中には彼のように若い団員はいないから、話し相手に不自由しているのかもしれない。
 ツトムの生意気な態度をテツが黙認している様子に光明を見出した青木は咄嗟に一計を案じ、それを為すべく何気なさを装って切り出した。

「朝、トイレに行ったときに見つけたんですけど。通りの向こう側に、珈琲問屋がありましたよね。オレの言う通りに豆を買ってきてもらえれば、薪さん専用のブレンド、淹れてあげられるのになあ。このブレンドね、なんと国務大臣にも好評だったんですよ。いったい何処のホテルから取り寄せたのかって聞かれて、オレが淹れたんですって言っても信じてもらえなくて」
 青木のお喋りはサトシの蹴りで止まった。朝、テツから受けたようなキツイものではなかったが、あまり調子に乗り過ぎるのも良くない。青木はしゅんと項垂れて、口を噤んだ。

「緊張感のない奴だな。人質のクセにべらべら喋りやがって」
「1分だ」
 サトシの言葉を、今度はテツが遮った。「テツ」と思わずサトシが呟くのに、テツは厳しい表情を崩さず、
「1分で銘柄を書け。余計な真似をしたらこいつの首が飛ぶぞ」と横になったままの桐谷の頭に銃口を向けた。脅かす対象を桐谷の命に代える辺りはさすがリーダーだ。青木の弱点を分かっている。
「はい」と素直に返事をして青木は、薪専用ブレンドの配合を頭の中でおさらいした。




テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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