たとえ君が消えても(12)

たとえ君が消えても(12)






 薪が屈辱的な思いで女子の制服に袖を通してから6時間後。夕方の6時を回った神戸西警察署では、早くも第一回目の捜査会議が開かれていた。

 捜査本部は本庁、兵庫県警、神戸西警察署、総勢120名の大所帯となったが、会議の内容は警察庁で開かれた事前会議と殆ど変わらず、捜査方針も本庁の主張が貫かれることになった。
 市警と言えど所詮は所轄、本庁の言い分は飲まざるを得ない。これまでに幾度となく味わってきた地方警察の本庁に対する不満を飲み込んだような幹部たちの視線を南雲は覚悟していたが、それは杞憂に終わった。県警本部長の田山管理官はもちろん、神戸西区警察署の大石署長も、終始南雲たち本庁の人間に協力的で、テログループの壊滅に積極的な姿勢を見せた。彼らは会議前の顔合わせの際、南雲にこう囁いたのだ。

「人質が警官一人と言うのは、ある意味幸運でした」
「さよう。人質の命を諦めざるを得ない場合も、世論を美談に導きやすい」
 例え人質が死んでも、それが一般人と警察官では世間の反応が違う。一般人の場合、どんなに繕っても警察の非難は避けられないが、警官となれば話は別だ。たとえ実情がどうあれ、彼は市民を救うため、テロ壊滅に命を懸けたことになる。美しき自己犠牲の精神。警官の鏡と言うわけだ。

「何よりも重要なのは、テログループの根絶です。奴らの一掃は、我々神戸西警察署の悲願です」
 グリーンアースと名乗るテログループが、3年前に神戸市西区に落とした禍。その深い傷跡が神戸市警を協力的にしている、と南雲は分析する。地方警察幹部が潜在的に持っている警察庁への反発心、それを中和するほどに彼らの受けた傷は凄まじいものだったと言うことか。
 おかげで、と言っては語弊があるが、捜査が進めやすい。反発分子が一人いれば、捜査スピードは半分になる。相手を納得させるために使う10分間は、1時間の遅延となって現れる。いつ爆ぜるか分からないテロリスト相手の捜査に於いて、この遅れは致命的だ。

 あの常識知らずの警視長が捜査から外れてくれて、本当に良かった。いくら切れ者でも、捜査は団体戦だ。スタンドプレーはそれがどんなにレベルの高いものでも、捜査の妨げにしかならない。
 実は南雲は、薪のことを前々から知っていた。南雲は公安に来る前、警視庁の捜査一課に居たのだ。そこでは、薪の立てた数々の功績が伝説のように語り継がれていた。捜査資料を一読しただけで事件を解決してしまう天才、当時捜査一課の資料室に埋もれていた迷宮入り事件を片っ端から解き明かしたなどと、彼には数えきれないほどの逸話が残されていた。それは、現場主義の南雲を少なからず不愉快にさせた。元々、頭脳派の薪とは反りが合わなかったのだ。

「協力、感謝します。それでは、グリーンアースの本拠地と目される西区平野町の地取り調査については、市警さん主体でお願いします。班編成もお任せしますので、うちの連中を一人ずつ混ぜてやってください」
「承知しました」
 地取りは地元に詳しい所轄にさせるに限る。彼らは自分なりの情報網を持っており、効率的な捜査が期待できるからだ。そこに本部の人間を混ぜ込むのは、情報隠匿の防止の為だ。誰だって手柄は自分の部署のものにしたい。だから他者に出し抜かれないよう、有益な情報は秘匿する。合同捜査本部が打ち立てられた場合、当然のようにまかり通るそのやり方は、捜査全体を著しく遅延させる。本部の人間を同行させるのはそれを防ぐための、いわば監視役だ。
 だから当たり前の話、所轄はそれを嫌がる。しかし今回は、この点についても易しと思われた。署長自ら厳しい口調で、現場の捜査員たちに訓令を下したからである。
「情報隠し等の事実が発覚した場合、例えテログループを一人で壊滅させたとしても其の者は厳罰に処する! 肝に命じておけ!」
 本部の人間が言いたくても言えないことを、所轄の代表が自分の部下たちに言って聞かせてくれた。本部の人間にとって、こんなにありがたいことはない。

「地取り用の地図は作ってあります。西区平野町をこのように6つに分け、1班佐藤班、2班北里班……中でも有力な場所は、3班担当の平野町向井地区です。よって此処には、本部の方も可能な限りの人員を割いていただきたい」
「わかりました。そこにはうちの一番手を遣りましょう」
「ありがとうございます。頼りにしています」
「こちらこそ。よろしくお願いします」
 ここまで協力的な所轄は初めてだ、と感動を覚える一方で、南雲の中に言い知れぬ不安が広がって行く。
 署長を始めとした所轄上層部たちのこの態度は、果たしてテログループに対する積年の恨みから来るものなのか? それだけで、手柄への執着心を捨てることができるのか?
 警察官は功名心にて職務に励むに非ず、それはもちろん正しい事なのだが、そんなに簡単なものだろうか。

「では、直ちに捜査を開始する! 全捜査員は22:30捜査本部に集合、結果を報告すること。それ以前に有力と思われる情報は、直接本部に電話連絡しろ!」
「どんな手がかりでもいい、必ず何か掴んで来い!」
「はい!」
 次々と飛ばされる指示と檄、それに応える捜査員たちの熱が、広い会議室全体を包んでいる。テロに対する義憤が、捜査員たちを一丸としている。南雲はその様子に、心地よい興奮を味わっていた。
 過ぎるほどに協力的な署長たちの態度に対する違和感は、瞬く間にその熱に埋もれ。南雲は白熱化する捜査活動の中でそれを忘れ去った。




テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Rさまへ

Rさま。

> ミニスカ薪さんの描写カモン(笑)

あはははっ!!
ええ、わたしも書きたかったんですよ。 でもね、
それを事細かに書いてしまうと「明日に向かって撃て」じゃなくなっちゃうから★


ところで、
えー、そんな駄文なんて、
すっごく上手な文章だと思いますけど!
本当にン十年ぶりなんですか? わたしはこんなに書けなかったなあ。(^^;) でもうちはギャグで勝負なんで。(・∀・) ←その姿勢はどうかと。

2作目も読みました。
思わず笑ってしまいました。(^▽^)
なるほど、その理由は確かに切実、でも他人から見るとえらく可笑しいです。 ゴメンねっ。

娘さんの事とかRさんご自身の事とか、ここではちょっと書けないので、後ほどRさまのブログにお邪魔して書き込みさせていただいていいですか?

ブックマークは登録しましたので、これから楽しみにしています。
また書いてくださいね。(^^


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しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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