たとえ君が消えても(15)

 あらやだ、何かしら、前回の記事の短さは。
 挨拶文も入ってないし、これは所謂アレですね、手抜きの予約投稿ですね。(すみません)
 
 今ね、書いてる話が山場で、こっちの世界に戻ってこれなくてですね。(またか)
 あっちの話の薪さんはもっとウジウジしてて、こっちの話を読むと勇ましくなり過ぎちゃって、青木さんのお姉さんにケンカふっかけちゃいそ……意味わかんないですよね、すみません。 
 でも、(恋愛関係で)悩み多き薪さんを書くのは久しぶりなので、ごめんなさい、楽しいです。(←鬼)






たとえ君が消えても(15)





 薪警視長の携帯電話に連絡が入ったのは、午後9時32分だった。入電を報せるブザーが鳴り、捜査本部に緊張が走る。集合予定の1時間前とあって、本部には南雲を入れて6名の捜査官しか残っていなかったが、内容の確認には充分な人数だった。

「今度は本物だといいですね」
「ああ」
 薪の携帯には昼間も何度か電話が掛かってきていたが、そのすべてを傍受していたわけではない。ついさっき掛かってきた第九の副室長からの電話も、事件には関係ないと判断したので南雲は聞いていない。プライバシーの保護ということもあるし、お互い機密が命の商売だ。気に入らない相手にも仁義は通す、それが南雲の信条だった。この南雲の律義さが災いして、捜査本部は薪が独断で神戸に来ていることを知らずにいた。

『薪警視長?』
 受信機から聞こえてきた男の声に、捜査本部は色めき立った。ボイスチェンジャーは使っていない、これはおそらく真鍋哲夫の声だ。
『刑部長陽の釈放はいつ頃になりそうだ?』
『上の者が法務大臣に掛け合っている。明日まで待って欲しい』
『身代金は』
『やっと半分の10億、用意ができたところだ。警察ではそれが精一杯でな、残りは内閣の方で何とか都合をつけてもらえるよう、算段の最中だ』
 堂々と嘘を並べる、薪の落ち着きぶりに南雲は舌を巻く。自分も面の皮は厚い方だと自負しているが、この男も相当なものだ。

『努力はしているようだな。もう一つの条件は?』
 もう一つの条件とは赤羽事件の真実の公表を指していたが、これは南雲たち公安の人間にも意味がよく分からなかった。あの事件は多数の被害者を出したものの、事件そのものは単純明快で、隠された真実など何もないはずだ。一応、別働隊に事件の洗い直しをさせているが、今のところ目立った報告は上がって来ていない。
 公安の南雲たちがその調子なのだ。部外者の薪にはもっと分からないだろう。

『そのことだが。僕は、3年前は官房室には勤務していなかった。あの事件に直接関わったわけではないから、詳しいことは何も』
『なんだ。第九の天才も噂ほどじゃないな』
 薪の噂を真鍋が聞き及んでいることは、不思議ではなかった。第九の室長時代、若き天才警視正として、薪は何度もマスコミに取り上げられていた。第九のイメージアップを狙って、テレビ出演したこともある。だからと言って彼が全国の凶悪事件のすべてを掌握していると考えるのは、えらく短絡的な思考と言わざるを得ない。が、薪は一言も反論せず、己の力不足を素直に詫びた。

『申し訳ない。それと、今後の交渉だが、南雲と言う職員が引き継ぐことになった。彼は僕よりも君たちの内情に通じているから、要求も通りやすかろう』
『それは駄目だ。交渉窓口は、おまえ以外認めない。交代すると言うなら交渉は決裂だ』
 ほんの少し沈黙した後、薪は「分かった」と返事をした。ここまで完全に拒絶されたのでは仕方ない、薪には次に犯人から連絡が入る前に神戸に来てもらうしかない。あの異分子を捜査本部に招くのは本意ではないが、同じ場所にいなければ指示を与えられない。

『そちらの要求が通るよう、最大の努力をする。だから、人質の声を聞かせてくれ』
 薪の演技力は大したものだ、と南雲は思った。彼の声からは誠実と憂慮が滲み出ている。その独特の容姿から囮捜査に駆り出されることも多いと聞いたが、この程度の芝居は序の口なのだろう。
 芝居が通用したと見えて、薪の要求は通った。僅かな空隙を挟んで、別の男の声が聞こえてくる。

『薪さん、オレです』
 若い男の声だった。これが青木警視の声か、と南雲は思ったが、薪はすぐには返事をしなかった。
『…………青木』
 長い間を置いて、薪が答えた。さすがに解っている。
 できるだけ会話を長引かせるのは、交渉術の基本中の基本だ。昔のように固定電話の番号が特定できるわけではないが、得られる情報は多いに越したことはない。人間の耳ではよく聞きとれないような音も、音声分析に掛ければ明確になる。特徴的な音が入っていれば、場所を特定することもできるのだ。頭脳派の薪らしいと本部の人間は考えたが、その空白の時間に彼の心の中でどれほどの葛藤があったのか、それは彼らには理解の及ばないことだった。

『無事か』
『はい、どこも怪我してません。あ、でも、この人たちのことについては何も話しちゃいけないんです。今も銃をこっちに向けられてて、痛っ!』
 犯人は複数、銃を持っている。人質に怪我はなく、場所は銃声が響いても通報されない、つまり周りに民家が少ない、倉庫街かビル街。携帯がつながっているから地下ではない。

『無理をするな、青木。無事ならそれでいい』
 何を甘えたことを、と南雲は薪の応答に不満を覚える。いやしくも警察官なら少々の脅しには屈せずに、状況を本部に伝えるくらいの根性を見せて欲しいものだ。
『大丈夫です。みなさん、意外と親切で。暑いのと、コンクリの床はお尻が痛くて眠れないって言ったら冷風機とお布団入れてくれました。あと、お昼はコンビニのお弁当だったんですけど、これがオレの好物のマーボー茄子弁当で』
 青木の言葉から得られる情報を、南雲のペンがサラサラとメモ用紙に書きつけていく。大量の荷物を運び入れたなら目撃証言が取れるかもしれない。近くにマーボー茄子弁当を販売しているコンビニ。だが、コンビニは至る所にある。もう少し、場所を絞り込める要素が欲しい。

『よく電話に出してもらえたな』
『コーヒーが美味しかったご褒美だそうです』
『コーヒー?』
『薪さん専用ブレンドの豆を買って来てもらいましてね、淹れてあげたら皆さん、とても喜んでくださって。オレも味見しましたけど、これが見事に同じ味に出来て』
 弁当だのコーヒーだのと、どうにも緊張感のない会話だ。何と答えたものか、薪も迷ったのだろう。しばらく考えたのちに、「よかったな」と当たり障りのない言葉を返した。

『こっちは大丈夫ですから。薪さん、あんまり心配しないで』
『明日、また連絡する』
 青木の言葉は途中で途切れ、真鍋の声に取って代わった。話していたのは2分少々、それでも得られた情報はある。基地局は神戸市西区の向井町で、地取り中の平野町はその圏内だ。録音データを解析すれば、他にも何か分かるかもしれない。データを音声解析室に送って、その結果待ちだ。

「テログループ相手にコーヒーですか? 呑気な人質ですね。肝が据わってるんだかバカなんだか」
 データ送信を終えた部下が、呆れた顔で第九の警視を嘲笑う。のほほんとした青木の話を聞いてそんな評価を下したのだろうが、南雲の考えは違っていた。
「バカはおまえだ。あれは符号だ」
「えっ。隠語なんか混ざってませんでしたけど?」
「本当にアホだな、おまえは。連中相手に隠語なんか使ったら逆に命取りだろ。あれはあの二人にしか分からない符号なんだろうよ」
 テロ集団に拉致されて銃で狙われて、あんな風に喋れるのは百戦錬磨の強者か頭が弱いかのどちらかだ。エリートしか入れない第九の職員が、後者のはずがない。南雲は青木と言う男を写真でしか知らなかったが、なかなかどうして、肝の据わったいい捜査官だと思った。引き換え、うちの若いのときたら。

 部下に説教をくれながら、南雲は薪に電話を掛けた。この後の打ち合わせをしようとしたのだ。
「薪警視長、電話の内容は確認しました。ええ、交渉役が変えられないなら、あなたに此処に来てもらうより他ありませんね。西警察署の場所は分かりますか? ―― はあ!?」
 電話口から返って来た言葉の意外さに、思わず大声が出た。隣の部下がびっくりして、コーヒーカップを取り落しそうになっている。
『すみません、そちらには行けません。電話は傍受していただいて結構ですから』

 交渉の際に盛り込んで欲しい内容があれば言ってください、と薪はそれでこの局面を乗り切る心算らしい。確かに通話は本部に筒抜けだし公安の意向は薪が犯人側に伝えてくれる、が、そんなものでもないだろう。なぜ来れないのか、と尋ねる南雲に薪が掲げた理由は、南雲には到底納得できないものだった。
『第九で調べたいことがあって』
「第九で調査を? 何についてですか?」
『調べてみないと分かりません』
 何を調べるかも、調べてみないと分からない。人を喰ったような答えに、堪忍袋の緒が切れた。

「ふざけなさんなよ! 私らの邪魔ばかりしたかと思えば必要なときには行けないって、あんたね! 天才警視長だか官房長の愛人だか知らんが、我が儘もいい加減にしなさいよ!」
『愛……!!』
 ぶつりと電話が切れた。本部に残ったのは、南雲の荒い鼻息と西区警察署職員の丸くなった目。
「愛人なんすか? 官房長の?」
「いや、単なる噂だ。ガセだってことは分かってるよ。けど、あんまり頭に来たもんだから」
 西区警察署の捜査員が疑わしそうに、部下と会話する南雲を見ている。おかしな噂が広まるのも時間の問題かもしれない。あの第九の引きこもり野郎が、いい気味だ。
 神戸市警で囁かれる薪の不名誉な噂を想像して、南雲は少しだけ溜飲を下げた。




テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Rさまへ

9/27に拍手コメントいただきました Rさま。

いつもコメントありがとうございます。(^^) お返事、がつんと遅くなってすみません。

昼の連ドラ。(笑)
楽しみにしていただいて光栄ですー。



で、新しいSS読ませていただきました。
きゃー、すごいハードでびっくりしましたー! 久々にこういうの、読んだ気がしますー。(何を今更とか言わないで)
Rさんとこの薪さんは、原作に忠実なので、すっごくリアルですね。 どきどきしましたー。(〃_〃)

またSS書いてくださいね。 楽しみにしてます。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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