たとえ君が消えても(17)

 本日、2個目の記事です。
 (16)を先に読んでくださいね。(^^





たとえ君が消えても(17)






 同日同時刻。法医第九研究室では、もう一つの羞恥プレイが繰り広げられていた。

 それは、KYには定評のある曽我の言葉から始まった。
「青木のやつ、薪さんと話せるだけであんなに浮かれちゃって」
「薪さんだって、声が甘すぎだろ。あれってどう聞いても」
「見事にラブコールでしたねえ」
「まあ、無事で良かったじゃないか」
 薪と犯人の通話内容を、なぜ曽我たちが知っているのか。薪と青木を心配して誰も家に帰ろうとしない第九の職員たちを安心させようと、捜査本部から報告を受けた中園が教えてくれた、なんて心温まる舞台裏ではない。話はもっと単純だ、薪の電話を傍受しているのだ。ITの申し子、宇野にかかればこれくらい、朝飯前どころか二度寝しながらでもやってのける。その手段は法的にどうかと思うが、彼らの捜査姿勢は室長譲り。目的を達するためには少々の違反には目をつぶるのだ。

「ねえ、今井さん。なんで犯人は、薪さんを交渉役に指名したんですかね?」
「そりゃあおまえ……なあ」
 歯切れ悪く語尾を濁す今井に振られて、山本が弱気に眉を寄せながら「ですよねえ」と応じる。他の2人も何となく眼を逸らし、研究室は微妙な空気に包まれた。

「いや、俺たちにとっては、あの二人がデキてるのは常識ですけど」
 誰もが薄々勘付いて、でも誰も言い出せなくていたことを、曽我は遠慮なく口にした。さすが曽我。ある意味、勇者だ。
「でも、それが神戸までダダ漏れってことはないですよね? なのに、どうして薪さんなんですかね?」
「青木が喋ったんじゃないのか」
 曽我の疑問に小池が答えた。が、その言葉は直ぐに質問者の曽我によって否定された。
「青木だぞ? 薪さんの不利益になることは、殺されても喋らないよ」
 その意見には皆が頷いた。青木の行動基準は、薪の為になるかならないかだ。脅されたくらいで秘密をばらすとは思えなかった。ウーンと天井を見上げ、考え考え山本が、
「携帯を調べれば、ある程度のことは分かるんじゃないですかねえ。青木さん、しょっちゅう薪さんに電話してるじゃないですか。発信履歴一つ取ったって、薪さんの名前が10回連続で並んでいれば、それは」
「立派なストーカー行為だな」
「薪さん、よく我慢してるな」
 大きなお世話だ、と薪が聞いたら怒るだろうか。それとも、僕の苦労を分かってくれるのか、と感涙するだろうか。

「二人で撮った写真ですとか、携帯に保存してるかも」
「それはない。青木は発信履歴も受信履歴も、その場で消すようにしてる。写真も多分、俺が作ったプロテクトでガードしてるはず」
 青木はどうしても携帯に薪の写真を入れておきたくて、でも絶対に誰にも見られる訳にはいかなかったから、宇野の手を借りたのだ。宇野も内容については詮索しなかったが、プロテクトキーは作ってやった。必ず使っているはずだ。

「じゃあどうやって犯人は、青木と薪さんの関係を知ったんだ? 知ったから薪さんに電話してきたんだろ?」
「単純に、リダイヤル押したら薪さんに繋がったとか」
「誰が出るかも分からないのに、そんなヤマ張れるかよ。脅迫電話ってさ、普通は肉親に掛けるもんじゃん」
「過激派の場合は別だろ。金だけが目的じゃないし。それに、実家には電話したくてもできなかったさ。宇野のプロテクトのおかげで、青木の携帯からは何の情報も取れないようになってるから」
「それなら、第九に掛けてくるのが普通じゃないか? 青木は名刺を持ってるだろ」
 それもそうだな、と今井が受けて、軽く首を捻る。考えてみれば、犯人の行動は不自然だ。加えて、犯人が交渉役の交代を拒否したことから導き出されるもう一つの可能性、それは。

「犯人は、薪さん個人を脅す必要があった?」
 そういうことになる。

「赤羽事件の真相を公開するように言われたんだろ。あれって、何か裏があったのか? それを薪さんが知ってる、と犯人は思っていたとか」
「事件調書に薪さんの名前はないけど」
 小池の推理を受けて、宇野がキーボードを叩く。画面に映し出されたのは公安部の事件記録簿だった。もちろん、科警研の職員に閲覧権はない。
「宇野、おまえそのハッキングのクセ……まあいいや。となると、薪さんが知ってる訳ないな。だって薪さん、3年前はバリバリ第九の室長やってて、官房室には出入りしてなかったもんな」
「官房室の人間が事情を知っていると思えば、直接官房室に掛けるはず。何故そうしなかったんでしょうねえ?」
「薪さんが3年以上前から官房室の人間だったと勘違いしたか、それとも」
「第九の室長なら知っているはずだと犯人が思っていたか、だ」

 彼らは一瞬、申し合わせたように口を噤み、すると広い研究室を静寂が支配する。だがその静けさは、嵐の前触れ。
 それは天啓のように、殆ど同時に全員の中に湧き上がった疑惑であった。

「過去のMRI捜査の中に、『赤羽事件』に繋がる何かが?」
『赤羽事件の真実』は、MRI捜査の中にある。自分たちが観てきた、脳のどこかに。

「……持ってこい」
「今井さん」
 室長、副室長、ともに不在の折、常日頃の冷静さをかなぐり捨てて、副室長代理の今井が怒鳴った。
「2063年以降にMRIに掛けた脳を、全部ここに持って来い!」




テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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面白いです!!

こんばんは、たびたびお邪魔します。台風は大丈夫ですか?

たまっていた分をいっぺんに読むともったいないので何回かにわけて読みましたが、今日、おいつきました。
この話、心臓に悪い部分がほとんどかと思ってましたが、すっごくおもしろいです!!で、感想を言いたくなりまして。

竹内さん(お気に入り)&しづさん。
薪さんを逃がすために変装させる、それはいい。でも、女装、しかもミニスカって、かえってみんなの目を釘付けにしちゃうのでは!?薪さんの足なんか隠しといたほうが目立たないと思いますが?あれはあくまであなたたちのシュミなんじゃ?
…いえ、いいんですよ、グッジョブ!!私も好きですから!!男爵にはバンバン女装させるべし!!

いやー。なんか、カミングアウトとかいう以前に、小野田さん&中園さん、第九のみんなにも公認になってきましたね。ふたりが帰ってきたときが楽しみだなあ。

そして、コーヒーの配合からコーヒー店、場所の特定ですか?さすがですね。感心しました…が、それだけじゃない!!
羞恥プレイ!!楽し~。私、男爵が恥ずかしがる場面が好きなので、まるで私のために書いていただいたかのような楽しいお話です~!!オカベさん、しっかり読んじゃってますね(笑)。ふたりが帰ってきたときがますます楽しみです。

楽しいお話ありがとうございます。つづきも楽しみにしています。

Aさまへ

9/28に拍手コメントいただきました Aさま。
お返事遅くなってごめんなさいーー!
ちょっと色々重なってしまって。 誠にすみませんですー!


> 第九メンバーも動き出すなんて。今井さん、かっこいい!

はい、今回は総動員でございます。
今井さんは普段は冷静な人だと思うんですけど、いざとなると青木さんを叱ったり(薪さんがいなくなったとき)、バシッと決める人ですよね。 ルックスもいいし、モテるわけですね。(〃▽〃)


> 多分、薪さんは自分用の特製ブレンドコーヒーの豆が売っている店を探したいのでしょう。

そうです。
あの店はチェーン店なので、売り上げ記録を本部に問い合わせれば売った支店が判明します。 で、場所に当たりが付けられると。


> 薪さんが携帯での会話も聞かれていたことを知ったら・・(^^;)

犯人からの着電と、それに続く青木さんとのやり取りは、聞かれても平気だと思いますが。
ヤバいのは、岡部さんとの電話ですよね。 「あの薪さんがあんなに取り乱すなんて、どんなノートなんだろう?」 て思われちゃいますよね。(^^;


仕事のお祝い、ありがとうございます!
はい、がんばりますー! この話も次のメロディ発売前に終わらせたいので、こっちも頑張りますー!

Ⅰさまへ

9/28にコメントいただきました Ⅰさま。
お返事遅くなってすみません!

リクエスト、考えてくださったんですね。 
忙しい中すみません、ありがとうございますー!


> 今回のお話も岡部さんの薪さん思いのところとか、まさにツボです!

とおっしゃるⅠさん。 岡部さん好きと見ました。
わたしも岡部さん、大好きですー! 夫にするなら絶対に岡部さんです。 そして晩酌の肴に薪さんの話をするの、うっとり。


「岡部さんが可愛いもの好き。 薪さんのことも可愛く思っている」
うちの場合は雛子さん(岡部さんの義母です)の影響なんですけど、原作はそうかも? 
6巻で、病院で薪さんが目覚めたシーン。 岡部さん、瞬殺されてましたね。(笑)


「青木さんが岡部さんと薪さんの関係に嫉妬する」
うちの場合は、恋人同士になる前はガンガン嫉妬してましたけど、今はあんまりしないかな、と思ったんですけど、男の嫉妬って恋愛感情だけじゃないですからね。
仕事に於いて、薪さんが岡部さんに全幅の信頼を置いているのは前と変わらない訳で、そうなると嫉妬の条件はてんこ盛りですよね。 面白そう。


「薪さんのルーツ」
これはどうなんでしょうね?
薪さんて、純粋な日本人にはとても見えないんですけど。 未来の話だし、国際化も進んでいるでしょうから、ハーフなのかもしれませんね。
うちの場合は、両親ともに日本人なんですけど。 髪の色とか、あはは、あんまり考えてなかったです。(^^;


てな具合で、書けそうなのは2番目の「青木さんが岡部さんと薪さんの関係に嫉妬する」

これ、ちょっと練ってみますね。(^^
気長に待っててくださいね~。


Sさまへ

9/29に拍手コメントいただきました Sさま。

応援ありがとうございますっ(;▽;) 
はい、いっぱい仕事もして創作もいっぱい(笑) 

でも実際、忙しいときほど創作のネタが生まれたりします。 ……現実逃避?

頑張りますー(^^

Rさまへ

9/29に拍手コメントいただきました Rさま。

第九メンバーには、もう、二次創作でしか会えない。
本当、寂しいですね。(;;)

このメンバー、よかったですよね。 
それぞれに個性があって、でもみんな薪さんのことが好きなの。

薪さんが、家族とも思っていた人たち。 
強い信頼関係と愛情で結ばれていたんですね。 そう思うと、薪さんはわたしが思うほど孤独ではなかったのかもしれません。
よかった。(^^

 

しおんさんへ

しおんさん、こんにちは。
コメントありがとうございます。(^^


台風、うちの方は大したことなかったです。
夜のうちに来て、朝には去って行きました。 翌日は普通に仕事できたし。 
しおんさんの方は大丈夫でしたか? 大事ないことを祈ります。


> この話、心臓に悪い部分がほとんどかと思ってましたが

しおんさんが警戒してる。(笑)
楽しんでいただけたら嬉しいですー^^


> 竹内さん(お気に入り)&しづさん。

これ、他の方にも言われたんですけど、
そうですよね~! 薪さんが脚出したら、余計に人目惹きますよね。(>▽<)
ええ、竹内のシュミですね、きっと。(笑)


> …いえ、いいんですよ、グッジョブ!!私も好きですから!!男爵にはバンバン女装させるべし!!

好きなんですか!?
しおんさん、真面目な人だと思ってたのにー! げらげら☆
はいー、わたしも、
男爵はバンバン崩しますが、原作の薪さんは1ミリも崩れて欲しくないです。 


> いやー。なんか、カミングアウトとかいう以前に、小野田さん&中園さん、第九のみんなにも公認になってきましたね。ふたりが帰ってきたときが楽しみだなあ。

もうバレバレ。
薪さんだけがその事実を知らないと言う。 そういう状況になっております。
尤も、中園以外は薪さんに皮肉言ったりしないから、一生気付かないままかもしれませんね。


> そして、コーヒーの配合からコーヒー店、場所の特定ですか?

そうですー。
コーヒーは、この二人を繋ぐ大事なアイテムなのです。(^^


> 羞恥プレイ!!楽し~。

わたしも、男爵が恥ずかしがるシーンは書いてて楽しいです♪
こういうとき、原作の薪さんは、しれっとしてそうですよね。 崩れないポーカーフェイスがす・て・き。(〃▽〃)

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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