たとえ君が消えても(20)

 本日、2個目の記事です。
(19)を先に読んでください。




たとえ君が消えても(20)






 囚われの身になって2回目の朝、青木は再び銃を突き付けられながら、犯人たちの為にコーヒーを淹れていた。
 何人かのメンバーはサトシに連れられて何処かへ出かけて行き、倉庫内に残っているのはテツとツトムの他2名、計4名のテロリストと2人の人質だけだった。青木一人なら、この人数なら逃げられたかもしれない。しかし桐谷がいては、それも諦めるより他なかった。

 自分が淹れたコーヒーを旨そうに飲む男を見上げて、青木は不思議な感覚を味わっていた。
 目の前の男は、凶悪犯だと聞いた。青木も、何もしていないのに腹を蹴られた。悪人だと分かっているのに、何故か恐怖はなかった。
「なんだ」
 青木の視線を訝しがって、テツが眉をしかめる。堅そうな髭に囲まれた唇がへの字に曲がり、彼をいっそう硬派に見せた。
「いえその、真鍋さんは本当にコーヒーがお好きなんだなと思って。コーヒー飲むときは、優しい眼になるから、痛っ!」
「余計なこと言うからだよ」
 脛を蹴られた青木を見て、ツトムが苦笑する。青木も彼に笑い返した。昨夜、薪と話せたのはツトムが真鍋に口添えしてくれたおかげなのだ。
 ただ、電話をした場所は此処ではなかった。電話は車の中で掛けたのだ。青木は目隠しをされ、車に乗せられて、何処か知らない場所へ連れて行かれた。携帯電話の場合は近くの基地局が割り出されるから、場所を変えて電話をすれば捜査の撹乱になるのだ。

「薪さんも普段は鬼のように怖いんですけど、コーヒー飲むときだけは優しい顔になるから。それを思い出しちゃって」
「おまえさ、その『薪さん』て人、好きなの?」
「はい」
「鬼のように怖いのに?」
 青木は困ったように笑って、するとツトムは青木の両手首をガムテープで戒めながら、
「分かるよ。おれもテツさんのこと好きだから」
 ツトムの言う好きと青木の好きは微妙に違うが、敢えて触れないことにした。
「やめろ、ツトム。気持ち悪い」
 真鍋はツトムの尊敬を切って捨て、黙ってコーヒーを啜る。ツトムは苦笑いして、自分も紙コップに口を付けた。

「おまえのコーヒーを飲むと、刑部さんを思い出す」
 最後の一滴を飲み終えて、真鍋はぼそりと言った。
「コーヒーを淹れるのが上手い人でな。よく飲ませてもらった。徹夜で話すことが多かったから」
 テロの殆どは思想犯から始まる。憂国の士と言うやつだ。最初はこの国を良くするため、豊かで平和な国にするにはどうしたらいいのか真剣に考えて、でもどこかで道を間違えてしまう。考えを行動に移すと壁に当たって、だけど自分の考えが間違っていることは認められず、国が悪い政治が悪い果ては国民が悪い、と危険思想に傾いて行く。結果、最初の思惑とは掛け離れた場所に着地してしまい、その時にはもう、後戻りできなくなっている。青木は彼らの身の上を、そんな風に考えていた。

「刑部さんを助けたい。おれの望みはそれだけだ」
 真鍋の切なる願いを聞いて、青木は複雑な気分になる。誰かを助けたいと思う気持ちは善であるはずなのに、それを為すためには悪に手を染めなければならないと言う矛盾。彼らの善行は悪行を内包し、それは警察官として決して認めてはいけないことなのに。
「その為なら何でもする」
 大切な人を守りたい。その単純な気持ちは青木には痛いほど分かってしまう。だってもしも薪がそんな目に遭ったら、青木も同じことをする。身体にダイナマイトを巻きつけて、薪を強奪に行くかもしれない。

「すごい人だったんすね、刑部さんて。テツさんが惚れるんだから」
 ツトムは2年前にグループに入ったそうで、刑部を直接は知らない。詳しいことは知らないが、真鍋が刑部を尊敬するように、ツトムは真鍋を尊敬しているらしかった。
「だからその言い方止せって」
 ツトムの言い草に真鍋が顔を歪めた時、真鍋の携帯が震えた。着信を確認した真鍋の顔に緊張が走る。

『テツ、大変だ。西署の特殊部隊に動きがある』
「ガサが割れたってことか」
『分からん。別件かもしれないし、ただの訓練かもしれない。念のため、そちらへ戻る。平野の陽動作戦は延期だ』
 青木は知らなかったが、これまでグリーンアースの活動は主に平野町で行われていた。地元警察の眼をそちらに引き付けておくのが目的で、実際の本拠地は此処、伊川谷町にあった。MRI科学研究所神戸支局からの裏金はその殆どが武器に化け、この倉庫にしまわれていた。平野町には団体の名義で事務所を置いていたが、登記のみのダミー事務所だった。

「みんな、行くぞ」
 応戦の準備を整える気なのだろう、真鍋は厳しい顔をして、ツトムと他の2人を呼び寄せた。それから青木の頭を銃先で軽く小突き、
「逃げようなんて思うなよ」
「誓って逃げませんよ。命が惜しいですから」
 4人は連れ立って、ユニットハウスを出て行った。彼らの足音が聞こえなくなると、青木はおもむろに手首のガムテープに噛み付き、強く引っ張って裂き始めた。

「さて。桐谷さん、逃げましょう」
 舌の根どころか先端も乾かないうちに、青木は誓いを撤回した。呆気に取られる桐谷を安心させようとにっこり笑い、彼の手枷を外してやる。
「オレたちが此処に居たら、薪さんの足手まといですから」
「……はあ」
 青木の行動基準に一般の警官とは根本的なズレを感じつつ、桐谷は戒めから解放された手首を何度も擦った。



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま。

> 原作の青木も薪さんを助ける為なら死んでもいい覚悟でしたものね(^^)

言ってましたねえ。
人のアタマ撃ち抜いた後に自分に向かって発砲してくる人に、銃を捨てて駆け寄れるの、すごいですよね。 でも、それはやっぱり相手が薪さんだったからですよね。(^^


> まだまだ、カッコよくはない青木ですが

これからカッコよく……なるのかなあ?
元がうちのズッコケ青木さんなので、いくらカッコよく書いてもたかが知れてるって言うか。(^^;
最後まで読んでもカッコよくなかったらすみませんですー。


プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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