たとえ君が消えても(24)

 こんにちはー。

 お礼言うの遅くなりましてすみません、
 3万3千拍手ありがとうございますー。
 
 3万のお礼SSは書き上げたので、この話が終わったら公開します。
 お礼SSらしく、穏やかで平和なお話です。 ええ、拍手のお礼はね、みなさんに喜んでもらえるよう楽しくて愛に溢れたお話をと心掛け……

 過去のお礼SS  1万5千『パンデミックパニック』←薪さん、正体不明のウィルスで死にかける。
                2万『水面の蝶』←青木さん、元カノに刺されて入院。
 

 こ、心掛けて書いてはいるんですけどね、

 2万5千公開中『明日に向かって撃て』←現在、銃撃戦の真っ只中。

 こっ、この次は大丈夫です!! ……信じて?







たとえ君が消えても(24)





 薪が神戸空港に着いたのは昨日の午後、3時35分だった。
 捜査のため、最初に彼が訪れたのは、MRI技術研究所神戸支局だ。青木の足跡を辿り、そこから何かヒントを掴むことができないかと考えたのだ。
 桐谷が青木の世話係に付いたことも、そこの職員に教えてもらった。誘拐される前夜、一緒に夕飯を摂ったという洋食店『神戸倶楽部』にも行ってみた。店員から興味深い話は聞けたものの、犯人に繋がるものは何も得られなかった。

 次に薪は、赤羽事件の際強盗の被害に遭った宝石店へ行った。ここでは更に興味深い話が聞けた。
 赤羽ニュータウンのテロ事件が有名になったおかげで、宝石強盗の件については世間の同情が少なかった、と店主は嘆いた。2億円も盗られたのにと、でも損金については保険が下りたわけだし、宝石店では誰も怪我をしなかった。100人以上の死傷者を出した団地に世間の耳目が集中するのは仕方のないことだった。
 所轄の捜査も、一通りの調べしかされなかったらしい。薪が聞いても単純な強盗事件で、昼食休憩で店員が減る時間に、留守番の店員を銃で脅して金庫の鍵を開けさせた。単純で特徴的なことは何も無く、スピーディな仕事だった。薪の興味を引いたのは、神戸市警の捜査員なら聞かない振りをしたであろう次の証言だ。
『警察には直ぐに連絡したのに、到着までに防犯訓練のときの倍も時間がかかった』

 驚くことではない。防犯訓練は、予め日付が決められているものだ。万端準備を整えて、連絡が入るのを待っている。素早くて当たり前だ。
 だがもしも。
 この遅れの裏に、何者かの作為があったとしたら? 例えば所轄の当該地区担当者、あるいはもっと上の誰か。

 考え過ぎかも知れないが、宝石店と赤羽団地に於ける被害者数の大き過ぎる差が、どうにも引っ掛かる。窃盗事件で死傷者が出るということは、やり方が拙いのだ。宝石店で鮮やかな手並みを見せた強盗犯が、団地に逃げ込んだ挙句に銃撃戦なんて。全然スマートじゃない。
 2億円の資金が何処へ流れたのか、捜査があっさりと打ち切られていることと併せると、ますます怪しい。資料を読んだときに感じた違和感とそれに対する仮説のひとつ、所轄に、それもこの事件の責任者に近い人物の中に犯人側の人間がいたのではないか、という薪の疑惑が、確信に変わったのはそのときだ。

「じゃあ、真鍋さんは大事な証人なんですね」
 青木が訊くと、薪はこくりと頷いた。
 薪の言っていることは、突拍子もなかった。でも、青木は無条件でそれを信じた。これまでにも薪は、捜査資料を読んだだけで幾つもの迷宮入り事件を解決してきた。彼が天才と呼ばれる所以である。その彼が言うのだから、それは事実なのだと青木は思った。

「まだ推測に過ぎない。証拠が出ないことには……ああ、くそ、僕が第九に帰れたらな」
「第九? MRI捜査と何か関係が?」
「真鍋がどうして僕に電話を掛けてきたのか、その理由を考えてみろ。第九で扱った脳の持ち主の中に赤羽事件の関係者がいて、その人物は大石署長と刑部が通じている場面を目撃していた。そういうことじゃないのか」
 薪に脅迫電話が行ったのは、直前に掛けた電話が薪宛だったから、そのせいだと思っていた。もちろん、薪もそれは考えた。しかし、彼は必ず常人の一歩先に思考を進める。
 幾多の未解決事件に光明を灯してきた薪だが、彼が見つける手がかりは決して捜査資料の中で異彩を放つものではなく、例え調書に記されていても普通の人間なら読み流してしまうことばかりだ。現場写真に於けるほんの僅かな違和感、供述の些細な綻び。しかしそこから導き出される推理は大胆で奔放だ。勿論、常識的な推理も彼の中には存在する。が、未解決事件の多くは常識では解決できなかったからお宮入りになったのだ。薪の豊かな想像力が解決に結びつくことは、必然とも言えた。

「あの事件には不明な点が2つあった。テロリストが赤羽ニュータウンを籠城場所に選んだ理由と、奪われた貴金属類の行方だ。籠城は成り行き、貴金属は逃走途中で仲間の手に渡ったものと結論付けられていたけど、どちらも確証はない。僕なら絶対にこんな報告書に判は押さない」
 薪が署長になったらその所轄は機能停止に陥るに違いない、と思ったことは億尾にも出さず、青木は返した。
「確証はなくても、それが普通の考えだと思いますけど」
「そうかな。テロリストが団地に逃げ込むなんて、不自然じゃないか? あれはきっと大石が上手いこと言ったんだろうな。『警察は住民の命を尊重するのが決まりだから、止む無きを装って君たちを逃がしてやれる』とか」
「なるほど。でも、現実にはあんなに大きな被害が出たわけで」
「だからそれは、現場の伝達がうまく行かなかったとか何とか、それらしい説明をしたのさ。もちろん真鍋も納得いかなかったろうけど、その時には大石に人質を取られてたから。逆らえなかったんだ」
「リーダーの刑部さんのことですか」
「うん。貴金属類を売りさばいた金も、大石の懐に入った可能性が高い。強奪した2億と、神戸支局からの2億、合わせて4億の金持ちテロ集団にしては、さっきの男の装備はお粗末過ぎる。刑部を刑務所から出すのに買収資金が必要だとか、多分そんな理由で」

 小声で話しながら、二人は物陰に隠れて前進を続ける。時間は掛かるが、迂闊に走ったりしたら外からも中からも銃弾が飛んでくる。もどかしくとも仕方なかった。
「大石に疑いを抱いていても、真鍋は刑部を救いたい一心で」
「そうかもしれません。テツさん、刑部さんのことすごく尊敬してたみたいで。今度のことも、『あの人を救いたいだけだ』って言ってました。やってることは間違いだけど、気持ちは分かると」
「テロリストをさん付けで呼ぶな。彼らには彼らのポリシーがあるのかもしれないが、そんなものは理解しなくていい。テロは犯罪だ。無差別に人の命を奪っていい理由なんか、この世の何処にもないんだ」
 薪はすっぱりと切って捨てるが、青木はどうしても潔くなれない。だって、もし薪が同じことになったら? どんな手段を用いても彼を救おうとする、そんな自分が簡単に想像できる。薪の命とそれ以外の人の命、どちらも同じだと答えるのが警察官の正答だが、青木にはそれを実践できる自信がない。

 ふと、薪は足を止めた。青木に屈むよう手で示して、低く囁く。
「あれ、真鍋じゃないか」
 二人のいる場所から20mほど先に、青木たちが囚われていたユニットハウスがあった。向かって右側、上半分に嵌められていた窓ガラスが綺麗に割れていて、そこからハウスの右半分と、真鍋の上半身が見えた。真鍋は狙撃を警戒して右奥の壁に寄り、窓に向かって銃を構えていた。他のメンバーは窓側にいたのかもしれないが、青木たちの位置からは確認できなかった。
「そうです、テツさんです」
「だからさん付けで呼ぶなって、あっ!」
 窓の方から飛んできた銃弾が、真鍋の肩を貫いた。真鍋はその場に崩れ落ち、窓下の壁に隠れて見えなくなった。

「テツさんが」
「大丈夫、肩を貫通した」
 真鍋が一矢報いようとしたのか、内側からの銃弾がユニットハウスと倉庫の窓ガラスを連続で破った。それを合図に、SITの弾丸が真鍋のいる部屋に降り注ぐ。
「まずい、集中攻撃されてる。このままでは時間の問題だ」
 窓越しとは言えあれだけの銃弾が撃ち込まれたら、真鍋の致死率は8割を超える。重罪人でも真鍋は大事な証人だ。失いたくなかった。一刻も早く救出に行きたかったが、青木たちとユニットハウスの間にはラフタークレーンの残骸が置いてあり、真鍋のいるところに直線的に向かうことは不可能だった。一番の近道は窓から外に出て建物伝いに回る事だが、それをしたら間違いなく、魂だけになって目的地に向かうことになる。

「何とか真鍋を安全な場所に、て、こらっ!」
 隣から聞こえたガーンという発砲音を、薪は何かの間違いだと思った。銃を弄っているうちに誤って発砲してしまったのだ、青木のやつ仕方ないな、緊張しすぎたんだろうな、とバカ息子を擁護する母親の態で薪が庇うのに、青木はしっかりと足を踏ん張り腕を真っ直ぐに伸ばし、それはそれは見事な射撃姿勢で手前の窓ガラスを撃ち抜いていた。





テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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