たとえ君が消えても(25)

たとえ君が消えても(25)








「このアホ木!! 撃ち返してどーするんだ!!」
 侵入者である自分たちの立場も忘れて、薪は叫んだ。青木の発砲は集中射撃の分散を狙っての威嚇だと、理屈は分かるが彼の神経は理解できない。
「だって撃たなきゃ死んじゃいます。テツさんは大事な証人なんでしょう? 守らないと」
「だからって、わっ!!」
 青木が割ったガラス窓から多量の弾丸が飛んできて、薪は慌てて床に伏せた。すっかり見通しの良くなった窓からは、アサルトスーツに身を包み、防弾ベストにヘルメット、防弾盾で装備を固めた50名ほどのSIT隊員たちがずらりと並んでいる様子が見えた。

「てかおまえ、その拳銃、どこから」
「さっきの男の人から形見分けに頂きました」
 このくらい根性が座っていないと、薪のボディガードなんか務まらない。この世で失いたくないものが一つしかないだけあって、青木は開き直ると強かった。そして、薪も。
「あー、くそ! もう自棄だ!!」
 ガンガンと勢いよく引き金を引く。精神的に追い込まれて、鈴木のことを思い出す余裕もなかった。

「青木!」
「なんですか!」
 飛来した銃弾が、鉄骨に当たって乱舞する。その度に鳴り響く、鉄同士がぶつかり合う耳障りな音。倉庫内に反響するその音量は凄まじく、二人は声を張り上げた。
「警察、クビになったら何する!」
「そうですね、喫茶店でもやりますか!」
「それ、小野田さんにも勧められたことある……」
 ぼそっと呟いた薪の言葉は青木の耳には届かず。飛んでくる弾丸を避けるために床に伏せた薪の耳元で、青木は未来の計画を楽しそうに語った。

「オレがコーヒー淹れて、薪さんは厨房をお願いします」
「可愛いウェイトレスを雇ってな」
 こんな状況でも笑みがこぼれることを、薪は不思議に思わなかった。平常心はとっくに振り切れていた。
「制服はミニスカだ!」
 銃撃の止み間に、素早く立ち上がって撃ち返す。こちらに注意を引き付けるのが目的だから、弾は明後日の方向に飛ぶよう角度を付ける。万が一にも的中など、してはならない。
「和服もそそりますよ! 肌の白さが映えるように、着物の色は紫とか良いですねっ」
 隣で青木が、薪に負けない大声で自分の要望を叫びながら引き金を引く。発砲音と跳弾の音で、耳がおかしくなりそうだった。
「メイド服もいいな!」
「猫耳、似合ってましたね!」
「……おまえ、僕をモデルにしてないか?」

 大声で不謹慎な会話を続けながら、銃弾を避けるために重機の影に身を潜める。会話はお気楽だが、状況は厳しい。
 だいたいSITを相手に銃撃戦なんて、バレたら懲戒免職間違いなしだ。とりあえず査問会に掛けられたら、撃ったのはさっきの死体の男だと言おう、と薪は決めた。幸い、青木の拳銃は元々あの男の物だし。

 果たしてそれは、濡れ衣を着せられた男の怨念か、狡猾な愚者に天罰が下ったのか。破れた窓から撃ち込まれた数限りない銃弾が金属製の柱に当たって跳弾する中、一発の流れ弾が薪を捕えた。
 弾は薪の右腕を傷つけ、薪は痛みで銃を取り落した。青木は顔色を変えて薪を屈ませ、心配そうに眉根を寄せた。
「大丈夫ですか?」
「ああ、大したことない。やっぱり悪いこと考えちゃダメだな」
「悪いコト? もう薪さんたら。ノーパン喫茶とか、そっちのことでも考えたんでしょ。イヤラシイんだから」
「……その手があったか。いや、おさわりパブってのも」
「いい加減にしてください。こっちへ」

 雨のように飛来する銃弾から薪を守ろうと、青木は彼をドラム缶の陰に引き摺って行き、彼の上に覆い被さった。青木の下になって、薪は歯を食いしばる。
 大石は証人である真鍋を殺す気で狙撃班に指示を出している。テロリストとは言え、目の前で人の命が失われようとしているのに、しかも彼は大事な証人なのに、銃撃が激しくて近付くこともできない。

「テツさん、逃げてください! 逃げて真実を!」
 苦し紛れの青木の叫びが、虚しく響いた。

 それからしばらくして、不意に銃声は止んだ。遠くから聞こえてくる銃声は何発か残っていたが、青木たちを狙っていた狙撃隊は撃つのを止めたらしい。白旗の先に警察手帳を括りつけて出て行けば助かるかもしれない、と青木は淡い希望を抱いた。
 立ち上がろうとした時、一発の銃声が轟いた。さては自分たちを油断させる作戦だったか、危ない所だった、と再び青木は床に伏せ、次の襲撃に備えた。が、それはいつまで待ってもやってこなかった。

 たっぷり5分間が経過したのを腕時計で確認し、二人はそろそろと窓に近寄って、そうっと様子を伺った。窓枠だけになった窓から薪が顔を覗かせると、ゴツンと拳骨で頭を叩かれた。
「いたっ」
「痛くない!」
 悪い事をした子供に折檻する親の態度で、薪を殴った男は言った。頭を押さえながら、薪が目を丸くする。
「小野田さん。どうしてここに」
「ぼくのセリフだよ。まったく、こんなところで何をやってるの、きみは」
「別に遊んでたわけじゃ」
 抗議しようと顔を上げると、また叩かれた。モグラたたきのモグラになった気分だ。仕方なく「すみません」と謝って外を見ると、30mほど後方の草むらにSITが整列していた。隊員たちの前に立っているのは中園と南雲、それと制服姿の恰幅の良い初老の男だった。彼の手には手錠が嵌められており、あれが大石署長か、と薪は初めて見る裏切り者の顔を睨み据えた。

「怪我をしたの?」
 薪の右腕に血が滲んでいることに気付き、小野田が心配そうに尋ねた。早く救急車に、と促す彼に、薪はにっこりと笑って首を振った。
「掠っただけです。大したことありません」
「生きた心地がしなかったよ。岡部くんに報告を受けた時点で、ヘリを飛ばして正解だった」
 岡部から官房長に何の報告が行ったのか、青木には見当もつかなかったが、薪は満足そうに微笑んだ。部下が期待以上の成果を上げてくれた、そんなときに見せる表情だった。

「青木くん、よく薪くんを守ってくれたね」
「あ、いえ、オレは」
 もともと青木が誘拐なんて間抜けなことをされなかったら、薪がこんな目に遭うこともなかった。そのことを謝罪しようと頭を下げると、小野田は長いこと青木に向けてくれなかった穏やかな笑顔で、
「薪くんは危険に鈍感だから。これからもよろしく頼むよ」
 青木はぽかんと口を開け、だって咄嗟には信じられない。小野田はずっと薪を自分の娘と結婚させたがっていて、この春、やっと婚約まで漕ぎ着けたのに青木のせいで破談になって、だから自分は今まで以上に彼に疎まれていると思っていた。
 はい、と返事をして、それがやっとだった。そっと横を見ると、薪も驚いた顔で小野田を見上げていた。

 小野田さん、と薪が呼びかけたが、小野田は中園に呼ばれてSIT集団の所へ行ってしまった。よく見れば、手錠を掛けられて草の上に座らされている人間も何人かいた。その中には、あの若いテロリスト、ツトムの姿もあった。
 死を栄光とせず、投降して生きることを選んだ彼らを、青木は立派だと思った。辛い現実が待っていることを十分承知の上で、彼らはそれを選んだのだから。

 青木は長い脚を使って、割れた窓から身軽に外に出た。膝上まで伸びた雑草がチクチクと青木の脚を刺し、夏の息吹を彼に吹きかける。青木は振り返り、窓の内側に佇んでいる薪に、茶目っ気たっぷりの笑顔で言った。
「『死ぬかと思ったランキング』、今年も更新ですね」
「おまえは本当に呑気だな」
 呆れ顔で左手を伸ばしてくる薪の身体を、青木は軽々と抱き上げた。




*****


 以上、法十版「明日に向かって撃て」でございました。
 名作を汚すような話ですみませんー。 (すでに原作を汚してる、て、きゃー、それは言っちゃダメー)


  



 

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Rさまへ

Rさま。

銃撃戦、迫力出すの、難しかったです。 妄想だけではどうにもならない部分て、ありますね。(^^;
Rさまには、兆弾の音とか想像していただいて、光栄です♪

新しいお話に挑戦されているとのこと、楽しみです~。
またブログに寄らせてもらいますので、その時はよろしくです。(^^

Sさまへ

Sさま。

こんにちはー。
お返事遅くなってすみませんです。


にに子さんとこのコマ漫画、読まれましたか。
可愛かったですよねっ!(〃▽〃)
軽い気持ちで言ってしまって、にに子さんに申し訳なく思ってたんですけど、たくさんの方が楽しまれたご様子なので、多少、罪悪感が減りました。(^^;


>  私、以前は、ネクタイというのはただの飾りみたいなもんかと思ってました。でも、ここに来て、外でするときに声を殺したり、傷口を縛ったり、いざというときいろいろ役にたつものなんだってことがわかりましたよ。

あはははは!!!!
Sさんがとんでもないこと学習してる!!
それ、絶対に人様に言っちゃダメですよっ! どこで習った、と旦那さまに訊かれても、出所は白状しないでくださいねっ!!(笑)


Sさんとこのネコ耳薪さんは、
拝見しました~。 可愛かったです。(^^
Sさん、ギャグ絵にしてないから妙にリアルなんですよね。 しかも裸だし。(〃_〃)
次はゴスロリですか?
楽しみにしてます~♪

しかしSさん、わたしの気のせいかもしれませんが、どんどんヘンな人になってく気がするんですけど……(超失礼) 
真面目な方だと思ってたので、少し意外ですー。 まあ、真面目な人だったらうちの話読めないか。(^^;

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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