たとえ君が消えても(27)

 休日の晴天、最高ですね♪
 しかーし、
 今日は町内の「大日様の引き継ぎ」とやらがあって、どこへも遊びに行けません……ホント、田舎って色々ありますよね。(^^;




たとえ君が消えても(27)





 署長であった大石の罪が発覚し、神戸西区警察署は上を下への大騒ぎになった。大石が刑部と通じていた当時、署長の指示に従ってテログループに情報を流していた巡査部長2名が懲戒免職になり、管理責任を問われた兵庫県警の上役たちにも降格等の処分が下った。
 中園の厳命を破って単独行動に走り、捜査班の秩序を乱したとして、薪は一週間の謹慎処分に処せられた。と言っても形だけのこと、要は、ゆっくり養生して怪我を治しなさい、という小野田の気遣いだ。「親バカだねえ」と部下に皮肉を言われる官房長の姿が目に浮かぶようだ。

 官房室への出勤を禁じられた薪は、久しぶりに時間をかけて料理を拵え、それを持って第九に顔を出した。部下に対する褒美の心算だった。
 薪はその事実を、岡部から聞いた。
 岡部が薪の指示を受けて、過去の事件から赤羽事件関係者を洗い出すべく第九へ戻ると、驚いたことに3時間も前から捜査が開始されていた。第九の職員たちは、薪がどうして誘拐事件の交渉役に指名されたのか、そのことに疑問を抱いて推理を重ねた結果、薪と同じ考えに辿り着いたのだ。

 彼らの成長を、薪は誇らしく思った。これは彼らの手柄だ。中園ではないが、警視総監に自慢してやりたいくらいだ。
 第九は、脳を漫然と見るだけの部署ではない。常に神経を張り巡らせ、小さな矛盾や些少の違和感、そんなものを大切に拾い上げる。疑問に思ったことは決してそのままにしない。自分の指導はしっかり彼らの中に根付いている。それが嬉しかった。

「みんな、よくやった。中園さんが褒めてたぞ」
 官房室の首席参事官は皮肉屋で、部下の人事評価の点が辛い事でも有名だ。その中園から賛辞の言葉が出たのだ、胸を張っていい。そのことよりも彼らをもっと喜ばせたのは、室長の元気な姿だった。
 彼らはそれを差し入れに対する喜びと巧みに摩り替えていたが、薪を見る眼が物語る、無事でいてくれて本当によかった。薪が銃撃戦に巻き込まれたと聞いたときには、全員が蒼白になったのだ。気の弱い山本などは卒倒してしまって、岡部に介抱されていたくらいだ。

「宇野。公安のコンピューターに何者かが侵入した形跡が残ってるって、南雲課長にイヤミ言われたぞ」
「え、ホントですか? やっぱり公安のセキュリティは厳しいですね」
「次からは気をつけろよ」
 薪と宇野は当たり前のような顔をしているが、この会話は明らかにおかしい。公安のコンピューターをハッキングしておいて悪びれない部下も部下だし、それを「次から気をつけろ」と諭す上司も上司だ。ありえない。他のメンバーは聞かなかった振りで、差し入れのスペアリブにかぶりついた。

「セキュリティって言えば、青木に聞いたんですけど。小坂って上司のパソコン、帳簿残高が動くとテロリスト達に連絡が行くようになってたそうですね。二重帳簿なんだから、普通はそんな痕跡を残さないもんだけど。やっぱり技術屋ってのは考えることがズレてますね。常識よりもシステムを優先しちゃうんですよね」
 宇野の自嘲を含んだ苦笑いに、薪は、ふふ、と微笑み返した。薪特有の皮肉が出るかと宇野は思ったが、薪は曖昧に微笑んだまま、山本の淹れた薄いコーヒーを黙って飲んだ。

「薪さん。怪我は大丈夫なんですか?」
「心配ない。ほんの掠り傷だ」
 料理するのにも痛まなかったぞ、と言い掛けて薪は口を噤む。男らしい上司は手料理を差し入れたりしないものだと、実はとっくに薪の特技は部下全員にバレているのだが、本人が隠そうとしていることをわざわざ口に出したりしないのが彼らの美点だ。

「青木の怪我は、けっこう酷かったみたいですね。7針も縫ったって」
「でも、脳に異常がなくてよかったよ。髪の毛に隠れれば、傷跡も目立たないだろうし」
「そうそう、青木のヤツ、いま部分ハゲなんですよ。縫うのに邪魔だから、傷口の周辺の髪の毛を剃られちゃって」
「後ろから見ると噴き出さずにいられない可笑しさですよ。薪さん、ぜひ見てやってくださいよ」
「そうか、それは見ておかないとな」
「残念ながら、今日は休みを取ってます。病院に行くって言ってましたよ」
 他人の不幸を笑う素振りの、だけどそれは彼らなりの愛情表現。第九で一番年若い捜査官を、彼らがどんなに可愛がっているか、薪は知っている。今回のことも青木を助けるために必死で、彼らは自分が持ち得る能力をすべて注いで、できる限りのことをした。その情熱が、薪と青木を救ったのだ。

 それからしばらくは四方山話に花を咲かせ、薪は頃合を見て席を立った。第九を出て、科警研の正門前からタクシーを拾い、羽田空港へ向かう。
 2階の出発ロビーで、青木が待っていた。青木は休日らしく、白い半袖のコットンシャツに色褪せたジーンズ、それから顔に合わない野球帽を被っていた。
「部分ハゲなんだって?」
 薪が野球帽のつばをひょいと弾くと、青木は慌てて帽子を押さえた。傷口を保護するために包帯を巻いているのだが、この帽子はそれを押さえる役割も果たしている。似合ってないぞ、とそれは薪に言われなくても承知の上だ。

「チケットです」
 青木が用意したeチケットの控えを持って、保安検査場に足を向ける。それは幸運にも一致した休日、二人で飛行機に乗って何処かへ出掛ける恋人同士の姿なのだが、何故か二人の足取りはひどく重かった。

 入り口のセンサーにチケットのバーコードを宛がいながら、薪はひっそりと呟いた。
「気付かなければよかったのに」
 後ろに続いた青木が、強い口調でそれを否定した。
「いいえ、気付けてよかったです。でなかったら、薪さんお一人でなさるつもりだったでしょう?」
 薪は思わず振り向いた。薪の亜麻色の瞳と青木の黒い瞳がぶつかって、それは誰も知り得ない二人だけの会話。
「気付けて良かったです」と青木はもう一度繰り返した。素っ気なく薪は前を向いて、そうだな、と呟いた。



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
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2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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