たとえ君が消えても(31)

 終章ですー。
 お付き合いいただいてありがとうございました。

 ちゃんと予定通りに終わって良かった。
 さあ、メロディ買いに行こう♪




たとえ君が消えても(31)






「あの誘拐事件の裏側にそんな事件があったとはね。青木くんもなかなかやるじゃない。ねえ、小野田」
 部下から提出された表には出ない報告書を読み終えた小野田に、中園は快活に話しかけた。途端に返ってくる不機嫌な視線を、彼は余裕で受け止める。青木の話題を出せば相手が不機嫌なるのは承知の上、分かっていて賛辞を重ねるのが中園の話術の基本だ。

「あの激戦の中で薪くんを守り、埋もれようとしてた殺人犯を捕まえた。どうだろうね、彼を警視正に昇任させては」
「中園。いつからおまえの人事考課はそんなに甘くなったんだい」
「甘いかい?」
「甘い甘い、おまえの苦手な虎屋の羊羹よりも甘いよ」
 確かに、今回の青木の働きは褒賞に値する。しかし、青木はまだ30歳になったばかりだ。薪ほどの天才ならともかく、彼のような凡才に警視正は早すぎる。それに、小野田は中園が言うほど、彼の功績を認めていない。

「彼は最低限の課題を果たしたに過ぎないよ。大したことはしていない」
 小野田は冷たく言い放った。報告書を机上に立てて紙片の角を揃えながら、
「薪くんの番いの相手なら、そのくらいできて当たり前なんだよ」
 無愛想に書類を突き返すと中園は、ひゅっと唇を窄めて息を吸い込み、「とうとう認めたな」と、小野田の逆鱗を金束子で擦り上げるようなことを言った。

「認めてない!」
「しぶといねえ、おまえも」
 当たり前だ、納得してたまるか。薪が同性の恋人と一生を共にするなんて。
 例え世界中の人間が彼らの仲を認めようとも、自分だけは絶対に認めない。自分はこの世界に残された最後の良識になってみせる、と小野田は心に誓った。

「それに、桐谷は自首扱いだから青木くんの手柄にはならない。手柄も立ててないのに昇格人事なんかできないよ」
「だけど、彼に功績があったことは事実だ。彼を警視正に昇格させないなら、別のことで褒美をやらないとな」
「別のこと?」
 瞬間、訊き返して失敗した、と小野田は思った。中園の眼が、仕掛けた落とし穴に落ちた大人を笑う悪戯っ子のように輝いていたからだ。

「例えば、この書類に判を押してやるとか。どうだ?」
 報告書と引き換えに差し出されたのは、賃貸マンションの変更契約書だった。変更項目の「住人の数」の欄に「2名」と表記があり、その他は空欄だった。
「なにこれ」
「薪くんがね、2ヶ月くらい前からこの書類袋を見ては溜息ついててさ。中身を確認したら、それが入ってた」
 薪に紹介してやったマンションはセキュリティ重視で、居住者数を増やす際には保証人を立てる必要がある。もちろん、小野田以外の人間でも相応の社会的信用がある人物なら保証人になることはできる。彼らの友人の岡部でも、三好雪子でもいい。が、そこは律儀な薪のこと、彼と一緒に住むのなら紹介者の小野田に話を通すべきだとそう思って、でも言い出せなくて、空白の書類を2ヶ月も眺めていたのだろう。

「あの二人、よくやったよね? テログループと悪徳警官、それに影の首謀者まで捕まえたんだから。功労には褒賞を。警察機構の鉄則だろ」
 中園の言うことは尤もだ。勲功を立てても褒賞を得られなければ、職員のモチベーションは低迷し、不満が蓄積されていずれは火を噴く。だがしかし。

 少しはこっちの気持ちも考えてくれ、と小野田は心の中で叫ぶ。中園の具申が正当だと言うことも薪の自分に対する心遣いも、解り過ぎるほど分かっていたけれど。
 これを認可すると言うことは、彼らが一緒に住むのを他ならぬ自分が後押しすることになる。要はそれって男女で言う結婚とか同棲とかになるわけで、言い換えれば彼らの婚姻届の保証人になるようなこと、それをどうしてこのぼくが!!

「しばらく、考えさせてくれないか」
「おまえも往生際が悪いね」
 薪が紛失したものと思っていたこの書類に小野田の判が押されて彼の元に返るのは、それから2ヵ月後のこと。そして書類が効力を発揮するのは、更にその半年後のことだった。



―了―


(2012.7)


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま。

小野田さんは~、認めたと言うよりは匙を投げたと言うか。(笑)


> 原作の青木はまだ、20代で室長になったのかな?

そう言うことになりますね。
室長は警視正以上の階級にないと就任できない規則がありますから、すごいですね、青木さん。 もしかすると、薪さんよりも出世早いかもしれませんね。


> しづさんは薪さんの過去は謎のままでもいいと仰ってましたが・・私は知りたかったことが全て描いてあったので狂喜しました(>▽<)

いえいえ、描いてくれたらくれたで嬉しかったですよ~。

それにしても、まさか子供時代が出るとは!
薪さんと言う秘密が作られた始まりの物語。 まさに創世記ですね。

薪さん、サラブレットだったんですねえ。 ご両親とも東大なんて。 
国の重要プロジェクトの中核になるような有能な人たちで、薪さんも明るく素直な子に育ってた。 
親の顔も知らない孤児かと思ってたから(家の中に両親の写真を飾っている描写がなかったので)、薪さんに親に愛された経験があると分かって、ホッとしました。

ただ、「自分の子供を持つ気はない」の一言がね~、こんなに若いうちから自分の将来に幸福を描けない人だったのかな、って思って。
でもこのままだと青木さんに「自分の家庭を持て」と言った薪さんに繋がらない気がするから、鈴木さんと一緒にこの事件を解決した時、彼の気持ちが変わるのかな、と期待してます。 て、単なるゲイ設定だったらどうしましょう。(笑)

鈴木さんとの出会いも良かったですね。
あの調子で切り込んで行って、鈴木さんに窘められて涙うるうるって、どこまで天然タラシなんだか。(笑) 薪さんのイノセントな感じがすごくよく出ているエピソードだと思いました。 


Rさまへ

Rさま。

薪さんと鈴木さんの絆、ここが始まりだったんですね~。
きっとこの真相を二人で解明するうちに、信頼関係が築かれていくんでしょうね。 楽しみですね~。

> しかし、薪さん、この時代から最終回まで、変わりのない若さで羨ましいです。

あははは! 確かに!
まあ、第九編の方が色気はあるかな? こちらの薪さんは周囲の雰囲気のせいか、まだ純情そうです。
て言うか、人間らしさに欠ける気もしますよね。 両親の死の謎を解明する為の努力に夢中で、友だちづきあいも男女交際もしてこなかったんだろうなあ。
薪さんの初恋は鈴木さんで確定ですね。(笑)

Rさまへ

Rさま。

ねぎらいのお言葉、ありがとうございます。(^^

始まりましたよ~、新連載。
過去編、なんと薪さんの子供時代まで遡りましたね。
副題が「創世記」ですからね~、薪さんの原点から描かれるんでしょうね。
普通に両親を亡くしたくらいじゃあそこまでエキセントリックな人は出来上がらないだろうと予測してはおりましたが、まさか陰謀に巻き込まれて両親共に焼き殺されてるとは。 薪さんの身上は、想像以上に壮絶でございました……。


そうですねえ、あおまきさんに拘っちゃうと、青木さんが出てこない過去編は寂しいですねえ。
でも、事件としては面白いですよ。
薪さんの不幸を面白いなんてごめんなさい。 でも、これから10年も前の事件の真相に薪さんと鈴木さんのコンビが迫っていくのかと思うと、本当にワクワクしますよ。
それと、18歳の薪さんは、両親の死に囚われてるせいで自分自身をないがしろにする傾向があるように見受けられるんですけど、その辺も、鈴木さんとの距離が近付くにつれ、また、事件の真相が解明されることによって変わっていくのかな、と予想しています。

いずれにせよ、薪さんの過去の経験は彼を形作る大事なピースです。 見逃す手はないと思います。
過去編の強みで、薪さんの命が危なくて目が離せないようなことはないので、焦って読むことはないと思いますが。 コミックスになってからでも、ぜひ楽しまれてください。(^^

No title

しづさまこんばんは!です
こたと申します。
連載お疲れ様でしたー!と、ありがとうございましたーー!!!!

毎回欠かさず読ませて頂いておりす。が、
今回のお話では、舞台が地元に近い!ということもあって、
個人的にドキドキプラスαさらにワクワクしながら楽しませて頂きました!!☆
(なぜ神戸舞台だったのでしょう?)

大泣き子泣き青木さん!好きですー!
薪さんもきっと
「泣き虫の大男は嫌い」というのは、ツンデレ薪さんの反語で、大好きということですょね!
青木さんが泣いたあとは必ず(?)微笑んでくださいますもの!w

死が二人をわかつまでじゃなく、たとえわかったとしても…!
でも、
青木さんが、どうしょうもない思いを伝えたり、大泣きしたりすることで、
薪さんはご自身のことも大事にしてくれるようになるのかなと思うと……
やっぱり、薪さんには青木さんじゃないと!と思いました!
あおまきバンザイ!

あ、本誌ジェネシスの方では、
「復讐を嫌悪し犯罪を憎むとは別に犯罪者に共感している自分がいる」と言ってた薪さんの原点(?)も語られるかんじなんでしょうか…

すみませんすみません長々と…!(@@)

こたさまへ

こたさま。
毎度のお運び、ありがとうございます~。(^^


あら、こたさま、神戸の方でしたか。
じゃあすみません、桐谷のセリフは脳内で神戸の言葉に変換してください。 神戸弁、難しくって、標準語で書いちゃったんで。


> 個人的にドキドキプラスαさらにワクワクしながら楽しませて頂きました!!☆

きゃー、申し訳ないわー!
だったらもっとちゃんと調べて、街並みとかも書くんだったー!
神戸、きれいな街ですものね~。 本当は、あおまきさんにデートさせたかったんですけど、それどころじゃなくなってしまって。(^^; 


> 大泣き子泣き青木さん!好きですー!

わたしもですー!
青木さんは泣いてナンボの男だと思いますー! (なんじゃそりゃ)


> 青木さんが泣いたあとは必ず(?)微笑んでくださいますもの!w

あ、本当だ。 最終回とエピローグ、どっちも青木さんが泣いた後には、上目遣いに微笑む薪さんが!
この薪さんのドヤ顔、彼氏が彼女に「泣くなよ、バカだな」って微笑みかける感じで、堪んないですー!


> 青木さんが、どうしょうもない思いを伝えたり、大泣きしたりすることで、
> 薪さんはご自身のことも大事にしてくれるようになるのかなと思うと……

ああ~、きっとそうなんですね。
青木がこんなに大事に思ってくれるなら、僕は僕を大事にしようと、そういう考え方をしてくれて始めて、互いを慈しみあう関係になれるんですね。
こたさん、素敵です~。


> やっぱり、薪さんには青木さんじゃないと!と思いました!
> あおまきバンザイ!

わたしも同じ気持ちです! あおまきバンザイ! 
 
コミックス発売されたので、9巻から通して読んでみたんですよ。
そしたらですね、結果が解っているからか、あおまき成立するのが当然の流れみたいに読めるんですよね。 血反吐吐くかと思いましたよ。 もうもうこの二人、どんだけお互いが大事なんだ! と叫びたくなるくらい思い合ってるんだもん。


> 「復讐を嫌悪し犯罪を憎むとは別に犯罪者に共感している自分がいる」と言ってた薪さんの原点(?)も語られるかんじなんでしょうか…

エンドゲームの中で言ってましたね~。 コミックス10巻の185Pあたりですね。
自分の両親を殺されたわけですから、復讐に走る彼らと同じ痛みを知っているんですね。 その経験が「共感」として現れてしまうのでしょうか。

薪さんて、肉親を殺されても犯人を憎まない青木さんとは違って、もともと境界線上にいる人だと思うんですよ。 こちら側(岡部さんとか青木さんとか)とあちら側(絹子とか淡路とか)の。 
それを薪さん自身も解ってて、だから鈴木さんとか青木さんみたいな人を強烈に求めてしまうのじゃないかなあ。

ジェネシスは、事件だけ見ても面白そうですよね。
まだまだメロディから離れられそうもないですね。(^^

Rさまへ

Rさま。

「あおまきすとであっても、薪さんを描くのに鈴木さんは不可欠」とのお言葉、その通りだと思います。 鈴木さんは薪さんを形作る重要なピースですよね。
わたしなどはむしろ、そもそも鈴木さんとの過去が無かったらあおまきさんは始まらないとまで考えているので、鈴木さんとの過去はとっても大事です。 


12巻の巻末イラスト、
良かったですよね!!
雪子さんと薪さんが笑い合える光景が、きっと未来には待っているのだと思えて。 すごく幸せな気分になりました。(^^


メロディとコミックス、早く読めるといいですね。
コミックスにも加筆があったので、また新たな感動があると思います。 楽しみですね♪

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
メロディ6月号、読みました。
一言感想 「どひゃー……」
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