きみのふるさと(7)

 公開作、過去作共に、毎日の拍手ありがとうございます。 励まされてます。

 トータル数も3万5千を超えまして。 
 お礼SSは、鈴薪さんの出会いのお話を予定しております。 よろしくお願いします。

 しっかし、書いてて思ったんですけどね。 年齢が若いからなのかな、この二人、
 ちょっと油断すると秒速で腐りやがる。 
 まだ会ったばっかりでしょ、あんたたち、って、こっちが引き戻さないと12月の誕生日までもたない感じ。 友情が。
 続きを書いたら完全に破綻する気がします。 

 青薪さんは、2年も掛かったのにね。
 8年経った今でも、あんまり甘くないのにねwww。




きみのふるさと(7)






 住職から、笹と真菰と実家離れのお小言をもらって、青木は帰途を辿った。母が使っている小型車は青木の身体には狭く、見かねた薪が、帰りは運転してくれた。道案内は必要なかった。どんな道でも一発で覚えてしまう、薪の記憶力のおかげだ。

「青木家の長男が実家に帰ってこないのは、寺でも有名なんだな」
「面目ないです」
 田舎は噂話が主な娯楽だ。遠くの親戚よりも町内会のおばちゃん連中の方が、家の中のことに詳しかったりする。あそこの息子がどこの娘と恋仲だとか、こちらの子供は九州大学を目指しているがどうも難しそうだとか、そちらの娘はせっかく就職したのに上司にセクハラされて辞めてしまったとか、そのツッコミの鋭さと言ったらワイドショー並みだ。こうして誰にも会わずとも、明日には薪のことが青木家の来客として噂になっているに違いない。

「でも、車で20分くらいの所に親戚もいますし。隣の家の人もああやって、様子を伺ってくれますから」
 機先を制して、青木は言葉を重ねた。実家に帰らなくて大丈夫なのか、という類のことを、薪が言い出しそうな気がしたのだ。
 予想に反して薪は何も言わず、黙ってハンドルを切った。真っ直ぐに前を見て、静かにアクセルを踏み込む。薪の運転は細やかで堅実、彼の性格がよく表れている。

 家に帰ると、青木は早速笹立ての作業に入った。冬の夕暮れは予想以上に早く、まだ4時だと言うのに陽は傾きかけていた。
 玄関横のスペースに、スコップで四つの小さい穴を掘り、そこに竹笹を立てる。形はできるだけ正方形にして、笹の幹同士を紐状の真菰でつなぎ、横に渡した真菰に仏花を括りつけて出来上がりだ。夜越ししたら花が凍ってしまうから、それだけは明日の朝の仕事になる。

「これって、結界の意味があるのかな」
 スコップの背で竹笹の根元の土を叩いて締め固めていた薪が、額にうっすらと浮いた汗をぬぐいながら尋ねた。外は寒いし、手が汚れるからいいと断ったのだが、「こういうのは男の仕事だ」と言って譲らなかったのだ。立ち上がれないほどの疲れはどこに飛んだのやら。
「さあ、詳しくは知りませんけど」
「なんで知らないんだ。おまえの生まれ故郷の風習じゃないか」
「そんなもんですよ。形は残ってても、意味なんか誰も知りません」
 ふうむ、と薪は納得とも否定とも取れる唸りでそれに応え、似合わない土仕事に戻った。細い腕や手首が土木作業用の大きなスコップを操る様は、見る者を失笑させる。この人は大抵のことは他人よりも上手にこなすが、力仕事だけは別だ。
 それでも何とかやり遂げて、薪は満足したらしい。天に向かって伸びた4本の竹笹を見上げて、
「よし、こんなもんだろ」
「ありがとうございました。用具を片付けておきますから、先に手を洗ってください」
 薪の姿が見えなくなってから、青木は急いで傾いでいた笹を立て直し、地面を踏み固めた。こんなに足元が甘くては、明日の朝までには自重で倒れてしまう。笹の葉は、夜露を吸うと重くなるのだ。

 片付けを終えた青木が客間に戻ると、薪が荷物の整理をしていた。帰るのは明後日なのに、ずい分気が早いと思って尋ねると、
「明日の法事が終わったら、僕は先に帰るから。おまえはもう一泊してこい」
 青木と離れた僅かな時間に、急な仕事の電話でも入ったのだろうか。
「それならオレも帰ります」
「いや、大丈夫だ。おまえはゆっくりして来い」
 仕事ではないと青木は思った。薪が微笑んだからだ。

「来るときにも言っただろ? たまにしか帰って来れないんだから、なるべく長く居てやれ」
「でも」
「これは命令だ」
 スーツケースをパチンと閉めて、薪は高圧的に言い放った。でも直ぐに悪戯っぽく笑って、
「住職さんにまでお小言もらうって、相当だぞ」
 言って薪はクスクス笑ったが、青木の不安は大きくなる一方だった。
 やっぱり、薪にはこの家は居心地がよくないのだろうか。家人も自分にとっては身内だが、薪には他人だ。生まれ育った土地も風習も青木には馴染み深いものだが、薪には初めてのことばかりだ。気疲れして当然だ。

「ごめんなさい、薪さん。疲れさせてしまいましたか」
「そんなんじゃない。ただ」
 つまらない用事を思い出したんだ、それだけだ、と薪は青木の眼を真っ直ぐに見て言った。嘘を吐くときでも、薪は決して眼を逸らさない。何百人もの嘘を見破ってきた彼は、人が嘘を吐くときに無意識にしてしまう動作を熟知していて、精神力でそれを抑えているのだ。厄介な特技だ。
 薪が嘘で自分を固めてしまったら、それを剥がすのは苦労する。よっぽど揺さぶらないと本音を言わないし、それはここでは無理だ。

 とにかく話し合いの機会を持とうと青木が腰を据えた時、客間の障子が姉の声と共に開いた。湯上りの彼女は、ほこほこと湯気を立てる赤ん坊を抱いて、濡れた長い髪をバスタオルに包んでいた。
「お客さんより先に貰っちゃってごめんなさいね。薪さん、夕食の前にお風呂どうぞ」
 赤ん坊は一番風呂に入れて当然だが、そこをきちんと謝るあたりが彼女の人の好さだ。それに対して、「僕は後で」と辞退する薪の態度も奥ゆかしくて、こういうまどろっこしさこそ日本人の美学だと青木は思う。姉も薪も、そんな日本人の特質を備えていて、それに拘るあまりズレた行動を取ってしまうのだ。先刻の姉の失言だって、あれはおそらく、薪に気を使わせまいと敢えて賑やかに……。
「あ、一行と一緒に入るのかしら?」

 だから余計なこと言わないで、姉さんっ!

 生きた心地もしない青木の耳に、薪の冷静な声が聞こえた。
「いえ、ひとりで入ります。いただいてきます」
 手早く着替えをまとめ、薪は立ち上がった。会釈で姉の横を通り過ぎ、教えられた方向に歩いて行く。すっきりと伸びた背中を見送って、姉が不思議そうに訊いた。

「ねえ。薪さん、どうかしたの?」
「もともと薪さんは物静かな人だよ。でもって、怒らせたら超コワイから。気を付けてね」
 被害は百パーセントこっちに来るのだ。これ以上、彼の怒りのボルテージが上がったら、青木は家から追い出されてしまうかもしれない。
 青木の心中も知らず、姉は呑気な様子で子供をあやしながら、
「お昼ご飯の時は、バキバキ割り箸折ってたじゃない」
「気付いてたの?」
「だって、音が聞こえるもの。もう、おっかしくって」
 分かっててやってたのか。我が姉ながら、いい性格をしている。

「真美ちゃん、来たんだって?」
「ああ、姉さんが草太と一緒に昼寝してるとき。寺から帰ったら、いなかったけど」
「ふうん」
 納得したようなそうでないような、先刻の薪と同じような声で、姉は何度か頷いた。それは解ったという意味ではなく、子供をあやす仕草だったかもしれない。

「一行。あんた、薪さんと一緒にお風呂入ってあげなさいよ」
 唐突に、とんでもない提案が姉の口から出て、青木は焦る。
 実家で薪と一緒に風呂って、薪さんが許すわけないし、オレも見たら我慢できなくなっちゃうし、そうなったら薪さんも声が抑えられないし、色んな意味合いでそれは無理だからっ!!

「姉さん、あのねえ」
「分かってないのねー、ダメな叔父さんですねー。草太はこんなダメ男になっちゃダメよー」
 甥っ子の前でダメ男の烙印を押されてしまった。もしも成長した甥が自分を馬鹿にするような態度を取ったら、この幼少期の刷り込みのせいだ。
「まあ、仕方ないかもね。お嫁さんの苦労は、お嫁さんにしか分からないものね」
「その『お嫁さん』て言うのも止めてくれ。薪さん、そういう冗談通じない人なんだから」
 はいはい、と姉は踵を返し、湯冷めしないうちにお布団に入ろうね、と子供に話しかけた。夜泣きが大変だと言っていた姉の言葉を思い出し、青木は、
「今夜くらい、草太を預かろうか」と申し出た。
「なに言ってんの。あんたには大事な薪さんがいるでしょ」
「姉さん、いい加減にして」
「別に、冷やかしてるわけじゃないわよ」

 薪さんがお風呂から上がったら夕飯にしましょ、と言い置いて、和歌子は部屋に帰って行った。母親と二人、お喋りに興じる心算なのだろう。
 あの賑やかなBGMを子守唄にした甥が女性に対する潜在的な恐怖心を抱えた大人になるのではないかと余計な心配をしつつ、青木は薪が片付けていたスーツケースを部屋の隅に退かし、彼のために床を延べた。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
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2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
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